2010年12月28日火曜日

特許:特許法36条6項2号の趣旨と記載要件等「解釈」 :(知財高裁平成22年12月28日判決(平成21年(行ケ)第10370号審決取消請求事件))





目 次


特許:特許法36条6項2号の趣旨と記載要件等「解釈」:(知財高裁平成22年12月28日判決(平成21年(行ケ)第10370号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第3部「飯村敏明コート」

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縮小版「解釈」


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特許法36条6項2号の趣旨と記載要件「解釈」



「①特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。そして,特許法36条6項2号の趣旨は,「特許を受けようとする発明が明確であること。」に尽きるのであって,その他,発明に係る機能,特性,解決課題又は作用効果等の記載等を要件としているわけ ではない(<a href="http://chizaikousai.blogspot.com/2010/08/blog-post.html">知的財産高等裁判所平成21年(行ケ)第10434号平成22年8月31日判決</a>参照)。」(知財高裁平成22年12月28日判決(平成21年(行ケ)第10370号審決取消請求事件))

したがって,たとえば,「基板を研磨することと,各特徴がどう対応」するかなどという原告主張は,
「発明に係る機能,特性,解決課題又は作用効果等に係る記載を求めるものであって,特許請求の範囲の明確性の要件とは関係のない主張であるといえるから,採用の限りでない。」(知財高裁平成22年12月28日判決(平成21年(行ケ)第10370号審決取消請求事件))




特許要件は独立して判断される「解釈」



主張:

「原告は,請求項1記載の発明は審決において無効と判断されているが,無効とされた「発明特定事項」を他の請求項に残存させた場合には,本来ならば,付加された技術手段のみでは独立して発明を構成し得ないことになるから,その従属形式請求項に記載された発明も必然的に無効原因を有することになると主張する。」

判断:

「しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,特許法36条5項(平成14年法律第24号による改正前のもの)には「第三項第四号の特許請求の範囲には,請求項を区分して,各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において,一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。」と規定されており,特許法施行規則24条の3には,「請求項の記載における他の請求項の引用は,その請求項に付した番号によりしなければならない。」と引用形式の記載について規定されているものの,引用形式により記載された請求項に係る発明も,独立形式で記載された請求項に係る発明も,請求項に区分して記載された発明として,差異はない。また,特許法123条は,特許無効審判の請求について,「二以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」と規定している。これらの規定からすると,特許要件はそれぞれ独立して判断されるべきものであると解されるから,原告の上記主張は,採用の限りでない。」(知財高裁平成22年12月28日判決(平成21年(行ケ)第10370号審決取消請求事件))




過去の審査審判における判断との相反について「解釈」




「審査審判における拒絶理由通知等については,法的な拘束力を認めることができないのであって,審決が審査審判における拒絶理由通知等と異なる判断を最終的に示したとしても,その審決を違法であるということはできず,原告の上記主張は,採用の限りでない。」(知財高裁平成22年12月28日判決(平成21年(行ケ)第10370号審決取消請求事件))



容易想到性判断「解釈」



「上記相違点5に係る本件特許発明2の構成は,前記のとおり甲1ないし甲5にはその記載も示唆等もないから,甲1ないし甲5記載の発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。」(知財高裁平成22年12月28日判決(平成21年(行ケ)第10370号審決取消請求事件))



H230115現在のコメント



かなり大部(105頁)の判決ですが,基準・解釈自体はオーソドックスなものです。




判決原文(引用)





第4 当裁判所の判断



1 取消事由1(特許法36条4項,6項1号,2号に係る判断の誤り)について
(1) 請求項を特定しない特許法36条4項,6項1号,2号に係る判断の
誤りについて

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ア無効理由B(「光」の不明確さ等)の判断の誤りについて



(ア) 原告は,本件各特許発明は,その審査過程において公知例との差別化を図るため,「光」に関する内容を意識的に除外して,「レーザー光」に係るものに限定しているようにみなされるところ,レーザー光に係る終点検出の固有の原理を発明の詳細な説明に記載することなく,また,レーザー光の反射を利用した終点検出の原理が通常の可視光の場合と同一視されることを前提にして,特許請求の範囲の請求項に「光」の記載をすることは,本件特許明細書に記載されていない内容を請求項に記載することにもなりかねないから,特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号(いわゆる明確性要件)に違反し,又は同項1号(いわゆるサポート要件)に違反する,また,終点検出の原理が不明であるから,レーザー光の反射を利用した終点検出に係る発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項(いわゆる実施可能要件)に違反する,旨主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。

すなわち,本件特許明細書の【課題を解決するための手段】(乙99,段落【0006】~【0025】)には,「光ビーム」によって発生する干渉信号を利用した発明についての記載がある。例えば,「また,データ取得装置により出力されるデータ信号を,進行中のCMPプロセスの終点の決定以外の事項に用いても有利である。従って,別の特徴においては,本発明は,前記の層を研磨している最中に基板上の層の均一性を測定するインシチュウの方法である。この方法は,以下のステップを備えている:研磨中に光ビームを層へ向けるステップと;光ビームの基板からの反射される(判決注「基板から反射される」の誤記と認める。)ことにより発生する干渉信号をモニタするステップと;この干渉信号から均一性の尺度(measure )を計算するステップと。」(乙99,段落【0017】),「概説的には,別の特徴として,本発明は,表面上に形成された層を有する基板を研磨するためのプロセスの特徴をインシチュウに決定するための方法である。この方法は,以下のステップを備える:研磨中に光ビームを層へ向けるステップと;基板から反射される光ビームによって発生される干渉信号をモニタするステップと;干渉信号からシグネチャ(signature )を抽出するステップと;抽出されたシグネチャを,研磨プロセスの所望の操作ポイントを代表する保存情報と比較するステップと;抽出されたシグネチャが保存情報から所定の量よりも大きく広がったときに警告信号を発するステップと。」(乙99,段落【0019】)等の記載があり,「光ビーム」によって発生する干渉信号を利用した発明が記載されている。

また,本件特許明細書には,本件各特許発明のビームによる測定原理(終点検出の原理)に関して,「前述の第1の反射ビーム及び第2の反射ビームは,図4及び図5に示されるように結合ビーム60を形成し,検出器48で検知される干渉を生じさせる。第1の反射ビーム及び第2の反射ビームが相互に位相が合っている場合は,これらは検出器48において最大値となる。これらのビームの位相が180゜ずれている場合は,検出器において最小値となる。これらの反射ビームの間のその他の位相関係により,干渉信号が,検出器により検知される最大値と最小値の間のいずれかの値となるだろう。この結果により,検出器48からの信号出力は,酸化物層52の厚さがCMPプロセスの最中に減少されるにつれて,この厚さに対して周期的に変化する。実際,図9(a)及び(b)のグラフに示されているように,検出器48からの信号出力は,正弦曲線状の様式で変化するだろうことが観察された。・・・」(乙99,段落【0039】)と記載されている。そうすると,第1及び第2の反射ビームの相互の位相関係により干渉光(結合ビーム)が変化する現象が検出器により検知可能な光ビームであれば,本件各特許発明が実施可能であることは当業者にとって自明な事項であるといえる。

そして,レーザービーム以外の光であっても,終点検出が可能であることは,本件無効審判請求事件の第1回口頭審理において,「請求項1の光について,レーザービーム,コリメートされた光以外の光であっても,精度は別にして,終点検出は可能である。」ことは,両当事者間に争いがない(乙53)。

以上によれば,審決が「レーザー光の反射を利用した終点検出の原理が,レーザー光に限らず通常の可視光,すなわち光にも適用できるものであることは明らかである。」(審決書37頁下から5行,4行)と認定判断したことに誤りはなく,無効理由Bにより,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項に違反し,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号又は同項2号に違反するということはできない。

(イ) なお,原告は,レーザー光と可視光を同一視する審決の説示は,本件特許成立過程における本件特許権者(被告)の意見書の見解に反しており,誤りであると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,原告が指摘する平成14年4月10日付け意見書(甲19(2))には,引用文献1(甲6)の装置の光学測定手段に関して,「反射率の変化を測定する反射率測定手段であり,本願発明のようなレーザー干渉計ではありません。」(3頁1行,2行)との記載がある。しかし,これは,甲6の「反射率測定手段」が本件各特許発明のレーザー干渉計に当たらないことを述べたものである。甲6の「反射率」は,「両位置の初期反射率は約90%で,これは全面被膜A1面に対応する。研磨エンドポイントの反射率は,位置1で約35%(未加工シリコンの反射率)であり,位置2で約65%(AlとSiの反射率の面積加重平均に近い)である。」(甲6,段落【0035】)との記載にあるとおり,ウエハ表面の部材(AlとSi)の面積比に依存する反射率であって,甲6は,光ビームの干渉に基づく反射率の変化を測定するものではないことを述べているにすぎない。

また,上記意見書には,引用文献2(甲1)との対比において,「『干渉』に関する記述が〔0032〕にありますが,これは,実験結果の確認のために,『白色灯』や『蛍光灯』による干渉縞を『目視』で測定したことを示しているのであり,本願発明のレーザー光を用いて監視する技術と同じ次元ではありません。」(3頁下から3行~4頁1行)との記載がある。しかし,これも,甲1の研磨状態の監視方法が目視によるものであって,本件特許発明1のレーザー干渉計による干渉信号のモニタとは異なる手法であることを述べているにすぎない。

したがって,審決の認定と,本件特許成立過程における被告の主張とは矛盾するものではないから,原告の上記主張は採用の限りでない。


(ウ) また,原告は,干渉を使用しない全く異なる別の原理によって実施可能となる場合にも権利を付与するという不合理な結果を生むと主張する。

しかし,原告の上記主張も採用の限りでない。すなわち,本件各特許発明には,「干渉計」又は「干渉信号」がその発明特定事項に含まれているから,干渉を使用しない別の原理に基づく発明に対して本件各特許発明の権利が付与されるとの原告の上記主張は採用の限りでない。

(エ) さらに,原告は,本件各特許発明において,終点検出の際に光の何を(どのような物理量を)検出して,それがどのようになったことで終点を決定しているのか,依然不明であり,請求項における語句の定義が曖昧で明確性を欠いているから特許法36条6項2 号違反があり,その作用原理が不明であるから同条4 項違反があると主張する。

しかし,原告の上記主張も採用の限りでない。すなわち,本件特許明細書(乙99,段落【0039】)の記載を参照すれば,第1の反射ビーム及び第2の反射ビームが相互に位相が合っている場合に,これら(すなわち,結合ビーム)が検出器48において最大値となり,これらのビームの位相が180゜ずれている場合には,検出器において最小値となるのであるから,技術常識からみて,本件各特許発明における「レーザー干渉計」が2つの反射ビームの位相関係による強度変化を読み取ることができる検出器を含むものであるものと認められ,少なくとも,反射光の位相関係による強度変化を測定することにより,本件各特許発明における層厚(又は除去された層厚)の測定が可能であることは,当業者にとって,本件特許明細書の記載に基づいて自明のことであると認められる。したがって,作用原理が明示的に記載されていないことを理由にして,本件各特許発明について特許法36条4項又は同条6項2号違反があるとする原告の主張は採用の限りでない。

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イCの無効理由(「レーザー干渉計」の不明確さ)の判断の誤りについて



(ア) 原告は,「レーザー干渉計」に関して,本件特許明細書の発明の詳細な説明においては,反射する光(レーザー光)の何を測定するのか(光の強度か,反射率か,波長か,干渉縞の間隔か,可干渉距離なのか)などの測定の具体的手段や作用原理が明確にされていないから,特許法36条4項,同条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の主張は,採用の限りでない。すなわち,「レーザー干渉計」は,CMPの終点検出装置として一般的に知られており,本件の優先権主張日(平成7年3月28日)当時に周知の技術であったということができる。例えば,①本件出願前に公開された特開平4-255218号公報(甲5,段落【0009】)には,「半導体ウェーハに形成された酸化物のような平面化すべき材料の厚さを検出するレーザ干渉測定装置の形態による終点検出手段とを備えている。」との記載がある。また,②本件出願の後に公開されたものではあるが,原告出願に係る特開2003-163191号公報(平成13年11月28日出願。乙55,段落【0031】)においても,「・・・CMP処理中での(in-situ)終点の検出がなされる。レーザー干渉計32等による終点の検出は,公知の手段(たとえば,特開平10-83977号)によればよい。」との記載がある。そして,同明細書においても,その「レーザー干渉計」の作用原理についての説明を省略していること(乙55)に照らすならば,それらの事項は当業者であれば周知の技術的事項であって実施可能なものとして理解され得るものと推認される。さらに,特開2005-340679号公報(乙56)にも「CMP装置29は,動作中に,レーザー干渉計40からのレーザービーム41を用いてウエハの表面から除去された堆積膜材料の量を決定する。」(乙56,段落【0006】)と記載されているように,レーザー干渉計は,CMPの終点検出装置として一般的に用いられている。

そうすると,本件各特許発明におけるレーザー干渉計は,本件の優先権主張日当時においても周知の技術であって,光の何を計測するのかなどの作用原理に係る詳細な記載が本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載中になくとも,当業者において,本件各特許発明の実施をすることができ,特許請求の範囲の記載としても明確であるといえるから,特許法36条4項,6項2号の要件を満たすものであるといえる。

(イ) また,原告は,本件特許の「レーザー干渉計」は,サンプルに依存してその光路数が変わるものであって,装置として,参照光路とサンプル光路の2つの光路を形成し,その2つの光路での光路差から干渉させて測定するという,装置としての干渉計を構成していないから,レーザー干渉計は,「干渉計」ではないと主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,原告の上記主張は,参照光路とサンプル光路の2つの光路を形成し,その2つの光路での光路差から干渉させて測定するという装置としての干渉計を念頭においたものと解されるが,本件特許明細書によれば,本件各特許発明の「レーザー干渉計」は,ウエハからの2つの反射ビームの干渉(位相関係)に基づく反射光の変化を測定するものであると解釈することができるから,原告の上記主張は採用の限りでない。

(ウ) さらに,原告は,甲16,甲17においては,膜の除去過程ではなく,膜の堆積過程をモニタする機構ではあるが,セレン光電池(光強度を測定する装置)で膜厚の堆積に伴う干渉波形を描き,膜厚測定を行っているから,本件特許のレーザー干渉計は実質的な機能として光強度(反射率を含む。)を測定しているだけであり,レーザー干渉計ではないと主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,前記のとおりレーザー干渉計は,CMPの終点検出装置として周知の技術として用いられているから,これを光強度の測定にすぎないとする原告の上記主張は採用の限りでない。

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ウDの無効理由(ブランク酸化物ウエハのデータ開示に意味がないこと)の判断の誤りについて



原告は,①パターンウエハは,ブランク酸化物ウエハに示されるような安定した干渉波形を得ることが原理的にできず,ブランク酸化物の検出データを参照データとして利用することはできないから,ブランク酸化物の検出データは,CMPで使用されるパターンウエハの終点検出の課題を解決するものでもない,②ウエハとプラテンは共に回転運動しているため,絶えずウエハ面内の全く同じ箇所を,再現性よく測定しない限り酸化膜厚の変化量(除去量)をモニタできないのであるが,0.35μm も変化しない同一箇所を測定することは原理的に困難であり,実質毎回光路の長さが異なる箇所を測定することになる結果,パターンウエハでは,ブランク酸化物ウエハに示されるような安定した干渉波形を得ることが原理的にできず,ブランク酸化物の検出データを参照データとして利用することはできない,③よって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反し,本件各特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,同条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,CMPで対象とするパターンウエハにおいても,平坦化により「干渉信号が周期的な正弦波の形態として認識できるようになる」(乙99,段落【0044】)と認められる上,一般に,製品ウエハを研磨する前にブランク酸化膜ウエハを使用して研磨プロセスを検定し,研磨システムの動作確認をすることもあり得ると認められるから,ブランク酸化膜ウエハの研磨に関して検証されたデータをパターンウエハのCMP研磨において参照データとして利用することが可能であるといえる(乙58[本件各特許発明の発明者Aの宣誓書]3頁(訳文3頁)の「16」「18」)。

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エEの無効理由(「信号」の不明確さ)の判断の誤りについて



原告は,本件特許明細書内における「・・信号」とする用語については,検出信号,感知信号,データ信号,干渉信号,干渉計信号,低周波信号,高周波信号,出力信号,特性信号,特徴信号など様々であり,これらの全ての信号に関する技術的意味やその物理量が不明確であるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,本件特許発明4の「検出信号」が,レーザー干渉計において「ウエハから反射される光が検出される毎に発生」する信号であることは,請求項4の記載及び本件特許明細書の「ウエハ14にレーザービーム34が入射する時だけ,レーザー干渉計32からの検出信号をサンプリングすることが可能である。」(乙99,段落【0035】)との記載から認められる。また,本件特許発明4の「感知信号」とは,位置センサが,「ウィンドウがウエハに近接する毎に出力」する信号であることは,請求項4の記載から認められる。さらに,「データ信号」については,請求項4において「サンプリングされた検出信号を代表する」ものであると特定されているので,データ信号と検出信号との関係も,明らかである。

本件特許発明18の「干渉信号」(干渉計信号)については,同請求項の「基板から反射されてくる前記光ビームによって生じる」との記載,及び本件特許明細書の「前述の第1の反射ビーム及び第2の反射ビームは,図4及び図5に示されるように結合ビーム60を形成し,検出器48で検知される干渉を生じさせる。・・・これらの反射ビームの間のその他の位相関係により,干渉信号が,検出器により検知される最大値と最小値の間のいずれかの値となるだろう。」(乙99,段落【0039】)との記載から,「干渉信号」が,レーザー干渉計に相当する光ビームの際の干渉計で検出される信号に相当するものであることが認められる。

同様に,他の各信号も,本件特許明細書の記載と技術常識に基づいて,当業者がその意味内容を把握できるものと認められるから,各請求項に係る発明が不明であり,実施できないものであるとはいえない。

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オFの無効理由(フィルタに係る記載不備)の判断の誤りについて



(ア) 原告は,【図9】(a)のグラフをどのようにフィルタ処理することにより,【図9】(b)のグラフのようになるのかは結果的に明確にされていないから,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反し,本件各特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,同条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,【図9】(別紙「本件特許明細書【図9】」)に関して,本件特許明細書には,「実際,図9(a)及び(b)のグラフに示されているように,検出器48からの信号出力は,正弦曲線状の様式で変化するだろうことが観察された。


図9(a)のグラフは,時間(x-軸)に対する各サンプリング時間にわたる検出信号の振幅(y-軸)の積分を示している。このデータは,シリコン基板の上に形成されている酸化物層(即ち,ブランク酸化物ウエハ)を有するウエハにCMPの手順を実施しながら,図4の装置のレーザー干渉計出力をモニタすることにより,得られたものである。図9(b)のグラフは,図9(a)のグラフからのデータにフィルタをかけた態様を表している。このフィルタをかけた態様は,干渉計の出力信号における周期的な変化を更にはっきりと示している。CMPプロセスの最中に酸化物層から材料が除去されるときの速度によって,干渉信号の周期が制御されることは,注目すべきである。従って,プラーテンパッドに対してウエハ上にかかる下向きの力やプラーテンとウエハとの間の相対速度が,この周期を決定する。図9(a)及び(b)でプローブとされている出力信号の各周期中に,酸化物層はある厚さだけ除去される。」(乙99,段落【0039】)と記載されている。また,【図14】の膜厚を制御する方法に関して,「ステップ502では,検出器信号をフィルタにかけ,着目する構造に関する所定の周波数を有する信号の成分だけを通過させる。このステップは,周知のバンドパスフィルタの技術を用いて実行される。」(乙99,段落【0049】)と記載されている。上記によれば,【図9】の処理は,所定の周波数を有する信号の成分のみを通過させるフィルタにより行われる。

そして,【図9】のx軸(時間軸)の変更は,【図9】(a)はウィンドウとレーザビームとが整合していない間の測定値(強度ゼロ)を含んでいるのに対し,【図9】(b)はこのような「ゼロ」の測定値を削除したためであると認められる(乙58・本件各特許発明の発明者であるAの宣誓書4頁~6頁〔訳文4頁,5頁〕の「22~26」)。また,当業者であれば,何らかの手段による時間軸方向のデータの圧縮があったものと合理的に認識することができるから,【図9】(a)から(b)へのフィルタ処理の内容についての記載がなかったからといって,各請求項に係る発明を当業者が直ちに実施することができないとはいえない。

(イ) また,原告は,あらかじめ所定の周波数を通過させるフィルタを使用するのであれば,その周波数に対応する膜の除去速度のみを通過させることになるため,どのようにしてその膜の除去速度を見積もり,終点を検出するのか不明であるから,本件各特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,同法36条6項2号に違反する上,除去膜厚や膜の除去速度を,周期(周波数)で見積もることは,原理的に成り立たないから,実施可能要件を欠き,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,同条4項に違反すると主張する。しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,フィルタ処理には周知のバンドパスフィルタの技術を用いるのであり(乙99,段落【0049】),バンドパスフィルタは単一の周波数ではなく,ある帯域の周波数を通過させるものであるから,除去速度が時々により多少変化するとしても信号がフィルタを通過することができ,本件各特許発明の実施に何ら支障はないと解されるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項に違反し,又は特許請求の範囲の記載が同条6項2号に違反するということはできない。

(ウ) また,原告は,本件特許明細書の【図13】は,検出器信号の振幅を時間に対してプロットしたグラフとしているが,検出器信号の振幅としているので,信号の振幅が負ということはあり得ないと主張する。しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,【図13】に示す強度に対する測定値の一部が負の値であるのは,同図の作成に使用したソフトウェアが,最初の値を相対的ゼロ点として使用して強度値を再計算したためであり,このことは,【図9】(b)のグラフにおいても同様と認められる(乙58・Aの宣誓書,7頁〔訳文6頁〕の「28」)。したがって,【図13】においてプロットされた値は,ソフトウェア処理の結果として,単に初期の測定値との相対的な値を示したものであって,必ず正の値となるものではないから,審決の判断が誤りであるということはできない。


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カGの無効理由(CMP研磨の終点検出)の判断の誤りについて



(ア) 原告は,①リアルタイムに波形を取得しながら研磨終点を検出しなければならないが,それをどのように検出するのかは不明である,②本件特許明細書の段落【0045】の記載において,終点を一意に検出する方法が示されていない,そうすると,CMP研磨の終点検出に係る本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反し,特許請求の範囲の記載は,同条6項2号に違反する,と主張する。


しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,審決が認定するように,本件特許明細書(乙99,段落【0045】)には,検出された信号から認識可能な正弦波状のサイクルが取り出されることをCMP研磨の終点とすることが記載されている。すなわち,「認識可能な正弦 波状のサイクルは,約250秒のところで現れていることが示される。ここは,パターニングされたウエハが最初に平坦化された点と一致する。無論,干渉計の出力信号のリアルタイムのモニタにおいて,周期がいつ始まるかを正確に知ることは不可能である。むしろ,周期が始まったと確信できる前には,サイクルの少なくともどこか一部が起こっているはずである。CMPの手順が終了する前に,1サイクルだけが終わることが好ましい。・・・信号が特別に微弱であった場合,必要な確信を得るためには1サイクル以上必要なこともあるだろう。」(乙99,段落【0045】)と記載されており,本件各特許発明のリアルタイムのモニタにおいては,終了前に正弦波状の1サイクル程度を検出することを容認しているということができる。そうすると,システムの特性に基づいて,平坦化が達成されたCMP研磨の終点を決定することは,当業者において適宜に実施することができるといえるから,CMP研磨の終点検出に係る本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項に違反し,特許請求の範囲の記載が同条6項2号に違反するということはできない。

(イ) また,原告は,波形に周期性があることを確認するには,少なくとも2周期を経なければならないが,リアルタイムに波形をモニタする中で正弦波状のサイクルが始まる点を,仮に終点と定義するのであれば,原理的にその終点(=正弦波のサイクルが始まる点)を,その同タイミングで検出することは不可能であると主張する。

しかし,原告の上記主張も採用の限りでない。すなわち,正弦波信号は,カーブフィッティングアルゴリズムなどで検出することが可能であり,周期性は単一の周期よりかなり短い時間で検知することも可能であると認められるから(乙58,7頁,8頁〔訳文6頁〕の「31」),信号から周期的変化(正弦波状のサイクル)を検出することに関する請求項(請求項8,15等)に記載された発明について,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項に違反し,特許請求の範囲の記載が同条6項2号に違反するということはできない。



キHの無効理由(ウエハ表面の均一性測定)の判断の誤りについて


(ア) 原告は,「研磨パッドはウエハに対して半径位置を変更しながら研磨するもの」とする審決の認定は,本件特許明細書に記載がなく,根拠がないと主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,本件特許明細書には,「通常は研磨ヘッドが自身の中心軸26の回りに回転し,平行移動アーム28を介してプラーテンの表面の端から端まで平行移動する。」(乙99,段落【0003】)と記載されており,また,【図17】には,研磨ヘッドの中心軸26が左右に移動することを示唆する矢印が記載されているから,審決が認定するとおり,研磨パッドはウエハに対して半径位置を変更しながら研磨するものであるといえる。そして,研磨パッドの一部に設けられたウィンドウを通してレーザー反射光等を検出することにより,ウエハ表面の様々な領域を測定することができ,ウエハ表面の均一性を検出することができるものと認められる。よって,審決の上記認定が根拠を欠くとの原告の上記主張は,採用の限りでない。

(イ) また,原告は,均一性を実現するためには,ウエハ面内において相対的な研磨量をモニタする必要が生じるが,研磨中に測定できるのはウエハ面内で1点であり,その1点を測定して,次の別の点を測定する間にプラテンは1回転して研磨は進行しており,その際の除去膜厚も未知であるから,同一時点における別々の測定点の間の膜厚を相対的に比較することはできない,よって,ウエハ表面の均一性検出に係る本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反し,特許請求の範囲の記載は,同条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,本件特許明細書には,「研磨中は,研磨されるべき層を干渉計が見るためのプラーテン内のホールの上を,ウエハ表面の様々な領域が通過する。研磨された層が完全に均一である場合は,その結果の干渉波形は,ウエハ表面全体にわたっていろいろな場所をサンプリングすることによる影響を受けない。即ち,それは実質的に同じ振幅を有することになるだろう。換言すれば,研磨された層が不均一ならば,様々な場所をサンプリングすることによって,正弦波を基礎とする信号に更に変動を持込むことになる。」(乙99,段落【0057】)と記載されており,信号の変動は層の不均一を意味するから,複数の点が完全に同一のタイミングで測定されなかったとしても,ウエハ表面の均一性を検出することはできると解して差し支えない。よって,原告の上記主張は採用の限りでない。


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(2) 請求項を特定した特許法36条6項1号,2号に係る判断の誤りについて



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ア請求項1に従属する請求項2ないし8について



原告は,審決の第6,1(1)Aでは,「レーザー光の透過を許容する透明体から成る合成樹脂製の研磨パッド」について記載されているのであり,「レーザー干渉計を用い,反射光を測定することにより研磨の終点を検出できることが明らか」であることは述べられていないから,レーザー干渉計による終点検出機構に係る請求項1に従属する請求項2ないし8の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。


しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,前記(1)アの無効理由Bに係る判断において説示したとおり,レーザー干渉計による終点検出機構に係る請求項1に従属する請求項2ないし8の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでない。


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イ請求項3及びこれに従属する請求項4ないし8について



原告は,「ウィンドウがウエハに近接しているとき」とは,依然レーザービームがウィンドウを通過できる位置に行くために,そこへ近づきつつある状態とも解釈することができ,一意に「レーザービームがウィンドウを通過できる位置にあるとき」と解釈することはできないから,レーザー干渉計による終点検出機構に係る請求項3及びこれに従属する請求項4ないし8の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,本件特許発明3の「近接しているときを感知」の意味については,「どの程度」近接しているときを感知するのかについての限定がされていないから,ウエハがウィンドウ上にあるときを感知する場合のみならず,ウエハがウィンドウから所定の距離よりも近接しているときを感知する場合をも含むものと解される。そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明においては,ノイズの発生防止を目的とする位置センサとしては,「ホール効果,渦電流,光遮断器,又は音響センサ等の,あらゆる既知の近接センサを用いることが可能である」(乙99,段落【0035】)と記載されており,それらの既知の近接センサを用いて,ウエハがウィンドウから所定の距離よりも近接していることを感知することができるものと理解されるから,本件特許発明3及びこれに従属する請求項4ないし8が特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでな
い。

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ウ請求項4及びこれに従属する請求項5ないし8について




原告は,請求項4には,「サンプリングされた検出信号を代表するデータ信号」と記載されているが,「代表する」との語句で何かを特定するものでもなく,「データ信号」と「検出信号」の関係が不明であるから,請求項4及びこれに従属する請求項5ないし8の記載は,特許法36条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の主張は採用の限りでない。すなわち,まず,本件特許発明4の「検出信号」とは,前記説示のとおり,レーザー干渉計が「ウエハから反射される光が検出される毎に発生」する信号であるから(本件特許明細書,【請求項4】,段落【0035】),その技術的意味は明らかである。そして,請求項4における「サンプリングされた検出信号を代表するデータ信号」との記載が格別不明確であるともいえない。よって,請求項4及びこれに従属する請求項5ないし8の記載が特許法36条6項2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は,採用の限りでない。

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エ請求項5について



原告は,「データ信号」が,「検出信号の積分されたサンプルを代表する」との技術的意味が明らかではなく,「代表する」との意味も曖昧であり,「データ信号」の技術的意味や物理量も,依然不明である,また,請求項4では「データ信号は,サンプリングされた検出信号を代表する」とされていたにもかかわらず,請求項5では,「データ信号は検出信号の積分されたサンプルを代表するもの」とされており,同じ「データ信号」でありながら整合性を欠き,不明確であるから,請求項5の記載は,特許法36条6項2号に違反すると主張する。


しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,請求項5にいう「データ信号」は,請求項5の記載のとおり,「検出信号の積分されたサンプルを代表する」ものである。また,本件特許明細書の発明の詳細な説明においても,「【0011】更に,レーザー干渉計は,ウエハから反射してくる光が検出されるときは常に検出信号を発するための装置を有し,また,位置センサは,ウィンドウがウエハに近接しているときは常に感知信号を出力するための要素を有している。このことにより,データ取得装置が,位置センサからの感知信号の継続時間のための,レーザー干渉計からの検出信号をサンプリングする事が可能となる。そして,このデータ取得装置は,サンプリングされた検出信号を代表するデータ信号を出力するための要素を利用する。また,このデータ取得装置は,レーザー干渉計から所定の時間にわたってサンプリングされた検出信号を積分し,この検出信号をサンプリングして積分したものを代表するデータ信号を出力する要素を有している。」と記載されており,「該検出信号の積分されたサンプルを代表するデータ信号」の技術的意味は,発明の詳細な説明の記載に照らしても,明らかである。よって,請求項5の記載が特許法36条6項2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでない。

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オ請求項10及びこれに従属する請求項11ないし17について



原告は,請求項10の「終点を決定するステップ」において,「レーザービームがウィンドウを通過してウエハに入射するときを感知するステップ」は,終点を決定するためのアルゴリズムとは全く関係せず,また,この関係性を裏付ける記載も本件特許明細書中にはなく,不明確であるから,請求項10及びこれに従属する請求項11ないし17の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,請求項10の記載において,決定するステップは,「レーザービームが妨害されずにウィンドウを通過してウエハに入射するときを感知するステップを備える」と特定されているから,「感知するステップ」と「決定するステップ」との関係は明確である。「感知するステップ」が,終点を決定するためのアルゴリズムとは全く関係がないとする原告の上記主張は,採用の限りでない。また,本件特許明細書の発明の詳細な説明においても,「【0010】また,CMP装置は,ウィンドウがウエハに近接したときを感知する位置センサを有していてもよい。これにより,レーザー干渉計によって発せられたレーザー光が障害なくウィンドウを通過しウエハに入射する事が可能となる。」,「【0011】更に,レーザー干渉計は,ウエハから反射してくる光が検出されるときは常に検出信号を発するための装置を有し,また,位置センサは,ウィンドウがウエハに近接しているときは常に感知信号を出力するための要素を有している。このことにより,データ取得装置が,位置センサからの感知信号の継続時間のための,レーザー干渉計からの検出信号をサンプリングする事が可能となる。」,「【0012】データ取得装置によるデータ信号の出力は,CMPプロセスの最中に酸化物層が薄くなるにつれて,ウエハの酸化物層の表面から反射されるレーザービームの部分とこの下のウエハ基板の表面から反射される部分との間で干渉が生じる事により,周期的なものである。従って,ブランク酸化物(blankoxide)ウエハの酸化物層を薄くするCMPプロセスの終点は,データ信号によって現れるサイクルの数を計数し,レーザービームの波長とウエハの酸化物層の反射係数とから出力信号の1サイクルの間に除去される材料の厚さを計算し,酸化物から除去されるべき材料の所望の厚さを,データ信号により現れるサイクルの数と1サイクルの間に除去される材料の厚さとの積を備えた除去厚さと比較し,この除去厚さが除去されるべき材料の所望の厚さ以上になったときにCMPを終了させるための,付加的な装置要素を用いて,決定することが可能である。あるいは,全サイクルを計数する代りに,サイクルの一部を計数してもよい。この手順は,サイクル全体に対してではなくサイクルの一部に対して除去されるべき厚さを決定すること以外は,ほぼ同じである。」などと記載されており,「感知するステップ」が,CMPの終点を「決定するステップ」に寄与していることに係る技術的意義は,明らかである。よって,請求項10及びこれに従属する請求項11ないし17の記載が特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでない。



カ請求項19に従属する請求項21ないし23について



原告は,①特徴信号,シグネチャ,シグネチャ波形,望ましく操作されていることがわかっているシステムなど,依然曖昧であり,技術的意味や物理量の説明になっていない,②抽出された特徴情報から均一性の前記尺度を計算するステップも依然開示されておらず,審決でも,それがどこに記載されており,何であるのか示していない,よって,請求項19に従属する請求項21ないし23の記載は,特許法36条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,①請求項19の「特徴情報」は,望ましく操作されていることがわかっているシステムに対して干渉計によって得られたシグネチャ波形を意味するといえる(乙99,段落【0068】~【0070】)。また,②干渉信号から特徴情報を抽出することや均一性の尺度を計算することは,バンドパスフィルタなどの周知の技術を用いて実行可能であり,その内容を具体的に説明するまでもなく当業者において理解することができるといえる(乙99,段落【0058】~【0062】,【0065】,【0066】)。そうすると,請求項19に従属する請求項21ないし23の記載が特許法36条6項2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでない。

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キ請求項21について




原告は,①第1 の特性について,審決では,干渉信号の低周波数成分であるとしているが,本件特許明細書のどこの記述を基にしているのか全く示してない,②無効審判事件の審理において,誤記を理由として,「抽出された情報」を「抽出された特徴情報」とする訂正請求がされなかった以上,誤記であると解すべきではなく,その意味は,明らかとはいえない,③審決は「第1 の特性を用いて特徴信号を誘導することであることは明らか」とするが,本件特許明細書の記載に基づいた判断とはいえないから,請求項21及びこれに従属する請求項22,23の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,①第1 の特性とは,干渉信号の低周波数成分(振幅を含む信号特性)であるといえる(乙99,請求項21~23の記載,段落【0018】),また,②本件特許発明21の「抽出された情報」とは「抽出された特徴情報」の誤記であると認められる(請求項19~21の記載)から,③本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて,「第1の特性から前記抽出された特徴情報を誘導するステップ」とは,第1の特性を用いて特徴情報を誘導するステップを指すと合理的に理解することができる(乙99,段落【0018】,【0060】,【0061】)。よって,請求項21及びこれに従属する請求項22,23の記載が特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでない。



ク請求項23について



原告は,第1の特性が低周波数信号の振幅であり,第2の特性が高周波信号の振幅であったとしても,一例として,何が低周波信号で何が高周波数信号であるか,その振幅とはどれを示すのか,例示されておらず,第1の特性,第2の特性の技術的意味が不明であるから,請求項23の記載は,特許法第36条6項2号に違反すると主張する。


しかし,原告の主張は採用の限りでない。すなわち,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「【0056】・・・研磨中に干渉計によって作り出された干渉波形が,研磨されるべき層の均一性に関する情報を与えることを,我々は見出した。上述の如く,表面層(即ち酸化物層)が研磨されるときには,干渉計の出力が正弦波状の信号になって現れる。このピークとピークの間の距離は,材料がどのくらい除去されたかを指示している。この正弦波信号の頂点では,更に高い周波数の別の正弦波信号も存在するだろう。この更に高い周波数の方の信号の振幅は,ウエハの表面全体で研磨後の層の厚さがどの程度まで変化したかを指示している。【0057】高い周波数の信号が現れる理由は,以下の通りである。研磨が進むと同時に,典型的には干渉計はウエハ表面全体の様々な場所をサンプリング(又は注目)する。なぜなら,研磨中は,プラーテンとウエハは共に回転しており,更にウエハはプラーテンに対して軸方向に運動しているからである。従って,研磨中は,研磨されるべき層を干渉計が見るためのプラーテン内のホールの上を,ウエハ表面の様々な領域が通過する。研磨された層が完全に均一である場合は,その結果の干渉波形は,ウエハ表面全体にわたっていろいろな場所をサンプリングすることによる影響を受けない。即ち,それは実質的に同じ振幅を有することになるだろう。換言すれば,研磨された層が不均一ならば,様々な場所をサンプリングすることによって,正弦波を基礎とする信号に更に変動を持込むことになる。この持込まれる変動は,用いられている回転速度と掃引速度に依存する周波数を有し,研磨された層の非均一性の程度に比例した振幅を有している。このような波形の一例が,図16に示されている。この特定の例では,周波数の高い信号を明確に例示できるように,非均一性が相対的に大きくなっている。【0058】周波数の高い信号のピークとピークの間の振幅Ahf と周波数の低い信号のピークとピークの間の振幅Alf との比が,均一性の尺度になる。この比が小さくなれば,研磨された層の均一性が高いことになり;その逆の場合は,非均一性が大きくなる。」,「【0062】コンピュータ150は,フィルタ152及び154の出力信号それぞれのピークとピークの間の振幅を測定する2つの振幅測定機能156及び158を備える。2つのフィルタされた信号が決定されれば,コンピュータ150は,高周波信号のピークとピークの間の振幅と低周波信号のピークとピークの間の振幅との比(即ち,Ahf/Alf)を計算する(機能ブロック162を参照)。この比が計算された後は,コンピュータ150が計算値を,予めローカルメモリに保存した閾値又は参照値164と比較し(ブロック166参照)する。計算値が保存していた閾値を越えれば,コンピュータ150はオペレータに対し,研磨された層の非均一性が許容量を越えたことを警告する。これに対し,オペレータはプロセス変数を調整して,プロセスをスペック内に戻す。」と記載されている。これらの記載によれば,請求項23の「低周波数信号の振幅」(第1の特性)及び「高周波数信号の振幅」(第2の特性)の技術的意味が明確であるといえるから,これらの技術的意味が不明確であって請求項23の記載が特許法第36条6項2号に違反するとする原告の上記主張は採用の限りでない。


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ケ請求項24に従属する請求項26について



原告は,①本件特許明細書には,研磨プロセスが期待通りに進行しているか否かを示す具体的な指標についての記載がなく,明確性を欠いている,また,②シグネチャ,干渉計波形の技術的意味,物理量が不明である,また,③審決摘示の「研磨プロセスに対して望ましい操作」,「操作のポイントを代表している」,「保存されている情報」との記載は,それらの技術的意味が不明であり,保存されている情報がいかなる物理量を持つか,説明がされていない,よって,請求項24及びこれに従属する請求項26の記載は特許法36条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,請求項24の記載のほか,本件特許明細書の発明の詳細な説明においては,「【0068】プロセスシグネチャまた,干渉計波形は,システムのシグネチャ(即ち,その特性)を表している。このため,これは,製造のオペレーションに対してシステムの特性を与えるために有用な情報を与える。望ましく操作されていることがわかっているシステムに対してシグネチャが得られた場合は,参照値としてシグネチャ波形(又は波形から抽出された特徴)を用いることが可能であり,この参照値に対して,次に発生するシグネチャを比較して,これらシグネチャが続いて得られたシステムが,スペックの中で実行されているかどうかが決定される。例えば,研磨パッドが取り替えられたり,新しいバッチのスラリがCMPシステムに用いられた場合に,オペレータは,この変化が,システムが実行する研磨の質に有害な影響を与えるかどうかを知る必要がある。CMPシステムの性能における変化によってシグネチャが変化することを,我々は見出した。即ち,以前は存在していなかったような,あるいは以前に存在していた特徴が変化するような,ある決まった変化が波形に現れる。これらの変化を検出することにより, システムが望み通りに実行されていない時を検出することが可能である。

【0069】ここに説明される具体例では,干渉計波形から抽出された特徴は,研磨速度であり,均一性の尺度である。これらの特性は,前述の方法を用いて,研磨の最中に発生する干渉計の波形から容易に得ることができる。システムが正確に操作されていれば,特定の研磨速度と特定の均一性の尺度を与えるだろう。これらの参考値からはずれることは,システムが望ましい操作のポイントから離れる方向に移動していることを示し,オペレータに,製品の損害を防止するために適正化する行動をとる必要があることを警告する。CMPシステムシグネチャを用いる方法は,図20(a)に例示され,以下に説明される。最初に,最適に操作されるべきとである(判決注「べきである」の誤記と認める。)とわかっているCMP装置に対して,干渉計波形(即ち,シグネチャ)が発せられる(ステップ250)。システムが最適に動作しているか否かの決定は,試験ウエハのセットを処理してその結果を解析することにより,実験的に決定可能である。得られた結果がスペックの中に入っていた場合,この構成及び操作条件の組に対してシグネチャを発生できる。干渉計波形の一部を捉える前に,この波形が本当に,準備された研磨のシグネチャであるように,ウエハの研磨が酸化物の中を50~100%の間で行われることが望ましい。【0070】波形が得られた後は,特定の着目する特徴が,発せられた波形から抽出され(ステップ252),これは,後にシステムの性能の評価に用いる参考値として利用するために,保存される(ステップ254)。あるいは,波形自体を保存して,参考値として用いてもよい。ここに説明した具体例では,抽出された特徴は,研磨速度であり,均一性の尺度であり,これらの双方とも,上述のように,波形から決定することが可能である。」と記載されている。これらの記載によれば,原告が問題とするシグネチャ,干渉計波形といった語句等の技術的意味は明らかであり,また,干渉計波形自体,又は波形から抽出された特定の着目する特徴が保存され,後にシステムの性能の評価に用いる参考値として利用されることが明らかである。よって,請求項24及びこれに従属する請求項26の記載が特許法36条6項2号に違反するとはいえず,これを違反するとする原告の上記主張は採用の限りでない。

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コ請求項31ないし33について




請求項33ないし35の記載については,既に請求項21ないし23に関して説示したのと同様の理由により,特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえない。
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サ請求項36及びこれに従属する請求項37について



原告は,①基板を研磨する装置に関する請求項に対し,個々の特徴が,研磨する装置の作用効果としてどう関与するのか何らかの意味を有することが必要である,また,②光ビームに関する記載は,本件特許明細書にその記載がなく,何のためにどのように光を使うのか,また「光」の何を測定(検出)するのかも不明である,よって,請求項36及びこれに従属する請求項37の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。


しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,①特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。そして,特許法36条6項2号の趣旨は,「特許を受けようとする発明が明確であること。」に尽きるのであって,その他,発明に係る機能,特性,解決課題又は作用効果等の記載等を要件としているわけではない(知的財産高等裁判所平成21年(行ケ)第10434号平成22年8月31日判決参照)。そうすると,本件において,「基板を研磨することと,各特徴がどう対応」するかなどという原告主張は,発明に係る機能,特性,解決課題又は作用効果等に係る記載を求めるものであって,特許請求の範囲の明確性の要件とは関係のない主張であるといえるから,採用の限りでない。また,②「光」の意義に関しては,前記1(1)アの無効理由Bに関して説示したとおりであって,請求項36の記載が特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえない。以上のとおり,請求項36及びこれに従属する請求項37の記載は特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえないから,これを違反するとする原告の上記主張は採用の限りでない。


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シ請求項38について



原告は,請求項38には,「散乱底面を有する」とあるが,通常の「面」であれば,100%散乱せずに反射することはなく,多かれ少なかれ多少の光は散乱するから,「散乱底面」との限定は,どの程度散乱するものかを記載しなければ意味をなさず,「散乱面」との語句は,物を特定できず曖昧で意味が不明であるから,請求項38の記載は特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,本件特許明細書の発明の詳細な説明においても,「散乱底面」に関しては,「【0077】性能を高めるための変形 別の具体例では,干渉計とウエハとの間のパッド内のウィンドウを変形している。パッドは干渉計レーザービームの実質的な部分を透過させるが,パッドの底面から著しく反射してくる成分が存在することが見出されている。この状況は,図21(a)に例示され,ここでは,レーザー干渉計32から発せられるレーザービーム34は,パッド22を通過して伝送され,伝送ビーム702を形成し,また,レーザービーム34の一部は,パッド22の裏側面704から反射されて,反射ビーム706を形成する。反射ビーム706は,データ信号に著しい直流(DC)シフトを生じさせる。図21(b)は,このシフトを例示する(わかりやすくするために誇張して描いている)。この例では,反射レーザー光によってもたらされるDCシフトは信号全体に対して約8.0ボルトを加える。このDCシフトは,データ信号の有用な部分の解析に対して問題を生じさせる。例えば,データ解析装置が0~10ボルトの範囲で動作していれば,DCシフトを受けた信号を増幅して着目する部分を強化することは,信号のDC成分を低減又は排除しなければ不可能である。DC成分が除去されなければ,装置は増幅信号によって飽和してしまうだろう。DC成分を低減又は排除することは,信号処理のための電子技術を新たに必要とし,また,信号の有用な部分を損ねてしまう結果を与えるだろう。DCシフトがここに記載されるほど大きくない場合でも,これを排除するために何等かの信号処理が必要となると思われる。従って,この不要なDC成分を低減又は排除するための非電子技術的方法が望ましい。【0078】図21(c)に描かれるように,パッド22の裏側のウィンドウを構成する領域に散乱面704’を形成することにより,この面から反射する光が弱化する。従って,データ信号の不要なDC成分が低減される。実際上は,散乱面704’は,伝達されない光708を散乱し,そのほとんどを干渉計32へ反射し返すということはない。ウエハから反射された光も,散乱面704’を通過し,その間,一部が散乱されるであろう。しかし,これが干渉計の性能を著しく損ねることはないことが見出されている。【0079】図21(d)には,散乱面704’を用いたときに得られるデータ信号が例示される。示されるように,DC成分の排除と共に,信号は直ちに増幅され,DC部分を電子的に排除する必要なく処理される。【0080】どのように散乱面が作られるかは,重要な問題ではない。研磨パッドの裏面のウィンドウの近辺をサンディングすることにより,又は,散乱させるコーティング材料(例えば,スコッチテープ等)を貼ることにより,あるいは所望の結果をもたらすその他の方法により,散乱面を作ることができる。」と記載されている。これらの発明の詳細な説明の記載によれば,当業者においては,散乱の程度に係る記載がないとしても,データ信号の不要なDC成分の低減又は排除の目的から,「散乱底面」の技術的意味を理解することができ,特許請求の範囲の記載も第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。よって,請求項38の記載が特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,これを違反するとする原告の上記主張は採用の限りでない。

その他,原告が,請求項を特定した特許法36条6項1号,2号に係る判断の誤りとして縷々主張する点は,いずれも無効理由のBないしHで検討した前記説示内容のほか,本件特許明細書の記載を参酌すれば,特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,採用の限りでない。

以上によれば,原告主張の取消事由1(特許法36条4項,6項1号,2号に係る判断の誤り)は,理由がない。

2 取消事由2(容易想到性判断の誤り)について



(1) 無効とされた独立形式請求項の従属形式請求項に係る発明の当然無効について



原告は,請求項1記載の発明は審決において無効と判断されているが,無効とされた「発明特定事項」を他の請求項に残存させた場合には,本来ならば,付加された技術手段のみでは独立して発明を構成し得ないことになるから,その従属形式請求項に記載された発明も必然的に無効原因を有することになると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,特許法36条5項(平成14年法律第24号による改正前のもの)には「第三項第四号の特許請求の範囲には,請求項を区分して,各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において,一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。」と規定されており,特許法施行規則24条の3には,「請求項の記載における他の請求項の引用は,その請求項に付した番号によりしなければならない。」と引用形式の記載について規定されているものの,引用形式により記載された請求項に係る発明も,独立形式で記載された請求項に係る発明も,請求項に区分して記載された発明として,差異はない。また,特許法123条は,特許無効審判の請求について,「二以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」と規定している。これらの規定からすると,特許要件はそれぞれ独立して判断されるべきものであると解されるから,原告の上記主張は,採用の限りでない。





(2) 過去の審査審判における判断との相反について



原告は,過去の審査審判の手続において,各相違点について,実質的な相違点には当たらないか又はその相違点の構成に至ることが容易であると判断して決着済みとされていたにもかかわらず,それらの事項について,審決が,その判断を覆し,容易想到ではないと相反する判断をしたものであるから,違法であると主張する。


しかし,原告の主張は,採用の限りでない。すなわち,審査審判における拒絶理由通知等については,法的な拘束力を認めることができないのであって,審決が審査審判における拒絶理由通知等と異なる判断を最終的に示したとしても,その審決を違法であるということはできず,原告の上記主張は,採用の限りでない。

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(3) 本件各特許発明の容易想到性判断の誤りについて



ア各引用例(甲1~5)の開示内容

審決において特許法29条2項該当性の基礎とされた刊行物,すなわち,特開平7-52032号公報(甲1),特開平5-309558号公報(甲2),特開昭63-134162号公報(甲3),特開昭61-76260号公報(甲4)及び特開平4-255218号公報(甲5)の開示内容は,次のとおりである。

(ア) 特開平7-52032号公報(甲1,平成7年2月28日公開)

甲1(別紙「甲1【図1】,【図2】」参照)には,発明の名称を「ウエハ研磨方法及びその装置」とし,研磨途中でウエハを定盤から離すことなく研磨中の膜の厚さを知ることができ,研磨の高精度な制御を効率よく行うことのできるウエハの研磨方法及び装置を提供することを課題とする発明が記載されており(段落【0006】),回転する定盤1の研磨布5の張り付けられた面に,研磨液を滴下しつつ,ウエハ支持板8に固定したウエハ7をウエハ支持板8により回転させつつ押し付け研磨する方法において,定盤1及び研磨布5の回転中心と周縁との間に設けた透明窓4からウエハ7の研磨面の光の反射状態を電荷結合素子を用いた撮像装置とその撮像表示装置や分光反射率測定装置で見て研磨状態を判定しつつ研磨することが記載されている(甲1,1頁【要約】)。


そして,その実施例(段落【0022】~【0027】)によれば,

「ウエハに対してケミカルメカニカルポリシング(CMP)を行うための装置であって,

(a)回転自在に設置され,中心から放射状に伸びる近接した2本の直線で囲まれ,中心付近から周縁近くまで伸びた溝2と,溝2の長手方向中央に設けられた貫通孔3を自身に有する回転可能な定盤1と,

(b)定盤1に設置され,研磨液によりウェットで,定盤1の溝2と同形に切り抜かれた研磨布窓6を有する,研磨布5であり,前記貫通孔3の溝2側には,透明ガラス製の透明窓材4が嵌め込まれ,

(c)研磨布5に対してウエハ7を保持するための,回転可能なウエハ支持板8であって,このウエハ7が,表面に熱酸化膜を形成した2枚のシリコンウエハを,熱酸化膜を接せしめて接着したSOIウエハ7を備える,ウエハ支持板8と,


(d)ウエハ7へ向けて光を照射させることが可能であり且つウエハ7及び貫通孔3からの反射光を受光するプローブ9を有し,これにより研磨状態の終点を知ることができるものであり,前記貫通孔3,透明窓材4,溝2は,ウエハ7の中心が透明窓材4の上にある時の一部の間,光をウエハ7へ入射させるための通路を与えるウエハ研磨装置。」(審決の認定した「甲1発明1」)と当該装置を利用した研磨方法が開示されている。


(イ) 特開平5-309558号公報(甲2,平成5年11月22日公開)

甲2(別紙「甲2【図1】」参照)には,発明の名称を「貼り合わせウェーハの研磨方法」とし,SOI半導体基板の製造工程において,素子形成層であるSi層を高精度に,かつ能率よく所望の厚さに研磨するための貼り合わせウェーハの研磨方法を提供することを目的とする発明について記載されており(段落【0003】),貼り合わせウェーハ11を透明なマウントプレート3上に透明ワックスを用いて貼着し,ポリシングパッド1は透明体とし,レーザ発振器4が発振するレーザ光を,波長変換装置5により前記貼り合わせウェーハ11の素子形成層に要求される厚さに等しい波長の光とし,前記ポリシングパッド1と,貼り合わせウェーハ11の屈折率より高い屈折率のスラリー10とを介して,全反射角θで貼り合わせウェーハ11に入射し,貼り合わせウェーハ11のSOIウェーハが所望の厚さになると光が透過するので,光検出器6が透過光を検出するまで研磨を行うこと(甲2,1頁【要約】)が記載されている。


(ウ) 特開昭63-134162号公報(甲3,昭和63年6月6日公開)

甲3(別紙「甲3第1図」参照)には,発明の名称を「研磨加工法」とし,加工能率及び加工精度をさらに向上させることができるようにした研磨加工法を提供することを課題とした発明(甲3,2頁右上欄15行~17行)について記載されており,ポリッシャに光学的に透明な材料を用い,ポリッシャに対峙する被加工物の被加工面を,ポリッシャを透過した光源からの光線により照射し,砥粒と被加工面に対する加工液の光化学的ないし熱的反応を促進させて研磨加工を行うことが記載されている(甲3,特許請求の範囲の(1),(2))。

(エ) 特開昭61-76260号公報(甲4,昭和61年4月18日公開)

甲4(別紙「甲4第1 図」参照)には,発明の名称を「研磨方法」とし,液中研磨における研磨速度を向上させ,かつ比較的容易に被加工面形状の部分的修正が可能な研磨方法を提供することを目的とする発明(甲4,2頁左上欄1行~4行)について記載されており,「液中研磨において,研磨加工位置にレーザ光を照射しながら研磨を行うこと」(甲4,特許請求の範囲の(1)),「ライトガイド10からは研磨液8中にレーザ光が連続的又は断続的に照射され,これにより研磨液8が部分的に急激に加熱され高温高圧となり研磨作用が促進せしめられる」こと(甲4,2頁右上欄15行~19行),及び,ポリッシャ4が透明なものである場合には,ポリッシャ4の貫通孔は設けなくともレーザ光の照射は良好に行われること(甲4,2頁左下欄15行~18行)が記載されている。

(オ) 特開平4-255218号公報(甲5,平成4年9月10日公開)甲5(別紙「甲5【図2】」参照)には,発明の名称を「平坦なウエーハを研磨する方法及びその装置」とし,半導体ウェーハを物理的に平面化する工程において,平面化工程の実行中,平面にしたウェーハの終点を検出し又は監視することを課題とする発明(段落【0008】)について記載されており,制御された圧力状態下,回転する研磨プラテン(22)に対してウェーハ(10)を回転させる研磨ヘッド(26)を備えている装置において,研磨ヘッドはウェーハが研磨プラテンを横断して動き研磨プラテンの外周端縁をオーバーハングさせると共に,ウェーハ表面を露出させ得るように取り付けられ,レーザ干渉測定装置(28)の形態の終点検出装置がウェーハの露出面上のパターン無し金型(16)にて方向決めされ,該終点における酸化物(14)の厚さを検出することが記載されている(甲5,1頁【要約】)。

(カ) 他方,甲1ないし甲5には,①ウィンドウを円弧形状とすること,②ウエハがウィンドウに近接しているときを感知すること,③干渉信号から低周波成分の特性を測定すること,④干渉信号から研磨速度や均一性の尺度を決定することや,研磨プロセスの監視に研磨速度と均一性の尺度を用いること,⑤ウィンドウとして機能する光透過部材に散乱面を設けること,⑥研磨パッドにおいて,透過性部分とほぼ調心されたアパーチャを底面に有すること,などの構成に係る記載や示唆等はない。

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イ容易想到性判断




(ア)本件特許発明2について



本件特許発明2と甲1発明1との相違点5は,プラーテンの中のホールとウィンドウの形状に関して,本件特許発明2では,「プラーテンの回転中心と一致する中心と一致する原点からある半径を有する円弧形状である」としているのに対して,甲1発明1では,そのような形状ではない点である。

原告は,上記相違点5に係る本件特許発明2の構成について,ホール及びウィンドウの形状をどのようなものとするかは,当業者が適宜決定,変更し得る程度の設計事項であり,その作用効果も当業者が予測可能な範囲のものであるから,甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたと主張する。

しかし,原告の主張は,理由がない。すなわち,上記相違点5に係る本件特許発明2の構成は,前記のとおり甲1ないし甲5にはその記載も示唆等もないから,甲1ないし甲5記載の発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

・・・・


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(チ) 小括



以上のとおり,本訴の対象とされた各請求項に係る発明(本件特許発明2ないし8,10ないし17,21ないし23,26,33ないし38,41,47,50)につき,甲1ないし甲5には,①ウィンドウを円弧形状とすること,②ウエハがウィンドウに近接しているときを感知すること,③干渉信号から低周波成分の特性を測定すること,④干渉信号から研磨速度や均一性の尺度を決定することや,研磨プロセスの監視に研磨速度と均一性の尺度を用いること,⑤ウィンドウとして機能する光透過部材に散乱面を設けること,⑥研磨パッドにおいて,透過性部分とほぼ調心されたアパーチャを底面に有すること,などの構成に係る記載も示唆等も存在せず,また,前記各相違点は,単なる設計的事項であるとも認められないから,甲1ないし甲5に記載された発明に基づき,当業者において前記各相違点に係る本件各特許発明の構成に想到することが容易であったとはいえない。これと同旨の審決の判断に誤りはない。また,甲1ないし甲5以外に原告が指摘する刊行物に基づく特許法29条2項に係る主張は,本件の無効審判の請求理由とはされておらず,審決において審理判断がされたものでもないから,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係る主張として,失当である。


よって,原告主張の取消事由2(容易想到性判断の誤り)は,理由がない。

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3 結論



以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。




判決原文(全文)




平成21(行ケ)10370 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成22年12月28日 知的財産高等裁判所



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平成22年12月28日判決言渡平成21年(行ケ)第10370号審決取消請求事件


口頭弁論終結日平成22年10月19日



判 決





主 文



1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は,原告の負担とする。



事実及び理由





第1 請求



特許庁が無効2007-800172号事件について,平成21年10月14日にした審決のうち,「特許第3431115号の請求項2ないし8,10ないし17,21ないし23,26,33ないし38,41,47,50に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。
2

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第2 当事者間に争いのない事実





1 特許庁における手続の経緯



被告は,発明の名称を「ケミカルメカニカルポリシングの操作をインシチュウでモニタするための装置及び方法」とする特許第3431115号(平成8年3月28日出願〔パリ条約による優先権主張:米国優先日:平成7年3月28日〕,特願平8-74976号。平成15年5月23日設定登録。以下「本件特許」という。甲14)の特許権者である。

原告は,平成19年8月24日,特許庁に対し,本件特許(特許請求の範囲の請求項の数52)の無効を求める審判(無効2007-800172号事件)を請求した。


特許庁は,平成21年10月14日,「特許第3431115号の請求項1,9,18ないし20,24ないし25,27ないし32,39ないし40,42ないし46,48ないし49,51ないし52に係る発明についての特許を無効とする。特許第3431115号の請求項2ないし8,10ないし17,21ないし23,26,33ないし38,41,47,50に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年10月24日,原告に送達された

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2 特許請求の範囲


平成16年10月29日付け訂正請求書による訂正後の本件特許の明細書
(以下,願書に添付した図面も併せて「本件特許明細書」という。甲14,乙
99)の特許請求の範囲の請求項2ないし8,10ないし17,21ないし2
3,26,33ないし38,41,47,50の記載は,次のとおりである(以
下,請求項2に係る発明を「本件特許発明2」のようにいい,上記各請求項に
係る発明を総称して「本件各特許発明」という。なお,請求項1,9,18,
19,24,27ないし29,31,32,40,48は,無効審判請求が不
成立とされた前記各請求項において直接的に又は間接的に引用されていること
3
から,併せて記載する。別紙「本件特許明細書,【図3】,【図6】,【図7】,【図
9】,【図17】【図19】」参照)。
「【請求項1】ウエハに対してケミカルメカニカルポリシング(CMP)を行
うための装置であって,
(a)シャシに回転自在に設置され,ホール(孔)を自身に有する回転可能な
研磨プラーテンと,
(b)プラーテンに設置され,研磨スラリによりウェットで,プラーテンのホ
ールと調心されたウィンドウを有する,研磨パッドであり,
(i)前記ウィンドウは,該研磨パッドの一部であって,レーザービームに対
して少なくとも部分的に透過性を有する該研磨パッドの前記一部を備え,又は
(ii)前記ウィンドウは,該パッドに形成されたプラグであって,レーザー
ビームに対して透過性を有する前記プラグを備える,
前記研磨パッドと,
(c)研磨パッドに対してウエハを保持するための,回転可能な研磨ヘッドで
あって,このウエハが酸化物層の下の半導体基板を備える,前記研磨ヘッドと,
(d)ウエハへ向けてレーザービームを発生させることが可能であり且つウエ
ハ及びホール(孔)から反射されてくる光を検出することが可能なレーザー干
渉計を有する終点検出器とを備え,前記ウィンドウは,ウエハが前記ウィンド
ウの上にある時は,周期時間の少なくとも一部の間にレーザービームをウエハ
へ入射させるための通路を与える装置。
【請求項2】該プラーテンの中の該ホールと該ウィンドウとが,該プラーテ
ンの回転中心と一致する中心と一致する原点からある半径を有する円弧形状で
ある請求項1に記載の装置。
【請求項3】該終点検出器が更に,レーザー干渉計によって発生するレーザ
ービームが妨害されずに該ウィンドウを通過して該ウエハに入射するように,
ウィンドウがウエハに近接しているときを感知するための位置センサを備える
4
請求項1に記載の装置。
【請求項4】(a)該レーザー干渉計が,ウエハから反射される光が検出さ
れる毎に検出信号を発生させるための手段を備え,
(b)該位置センサが,該レーザー干渉計によって発生するレーザービームが
妨害されずに該ウィンドウを通過して該ウエハに入射できるように,ウィンド
ウがウエハに近接する毎に感知信号を出力するための手段を備え,
(c)該終点検出器が更に,該位置センサから信号を検知する期間のために該
レーザー干渉計からの検出信号をサンプリングするための,該レーザー干渉計
と該位置センサとに接続されたデータ取得手段を備え,該データ取得手段はサ
ンプリングされた検出信号を代表するデータ信号を出力するための手段を備え
る請求項3に記載の装置。
【請求項5】該データ取得手段が(a)該レーザー干渉計からサンプリング
された検出信号を所定の時間にわたって積分するための手段を備え,(b)該出
力するための該手段は該検出信号の積分されたサンプルを代表するデータ信号
を出力する請求項4に記載の装置。
【請求項6】該出力するための該手段によって出力されるデータ信号が,周
期的であり,且つ,該終点検出器が更に,
(a)データ信号によって現れるサイクルの数を計数するための手段と,
(b)レーザービームの波長とウエハの酸化物層の屈折率とを用いて,データ
信号の1サイクル中に除去される材料の厚さを計算するための手段と,
(c)酸化物層から除去されるべき材料の所望の厚さを,該計数するための該
手段によりデータ信号により現れたサイクルの数と,該計算するための該手段
から1サイクル中に除去される材料の厚さとの積である,除去厚さと比較する
ための手段と,
(d)該除去厚さが,除去されるべき材料の所望の厚さ以上になったときにC
MPを終了させるための手段とを備える請求項4に記載の装置。
5
【請求項7】該出力するための該手段によって出力されるデータ信号が周期
的であり,且つ,該終点検出器が更に,
(a)(i)所定のサイクルの数又は(ii)1サイクルの所定の部分の一方の
それぞれが生じた後に,これらの一方を完結するためにデータ信号により要求
される時間を測定するための手段と,
(b)レーザービームの波長とウエハの酸化物層の屈折率とを用いて,該測定
するための該手段によって測定される時間の間に除去される材料の厚さを計算
するための手段と,
(c)除去の速度を算出するための手段であって,該算出するための該手段は,
除去される材料の厚さを該測定するための該手段から得られる測定された時間
で除する,該算出するための手段と,
(d)残りの除去厚さを確定するための手段であって,該確定するための該手
段は,酸化物層から除去されるべき所望の材料の厚さから除去された材料の厚
さの累積を減じ,前記除去された材料の厚さの累積は,(i)所定のサイクルの
数又は(ii)1サイクルの所定の部分の一方のそれぞれが生じた後に,該計
算するための該手段によって計算され,除去された材料の厚さを総和するため
の手段によって与えられる,前記確定するための手段と,
(e)残りのCMP時間を確立するための手段であって,前記確立するための
前記手段は,残りの除去厚さを除去の速度で除する,前記確立するための手段

(f)残りのCMPの時間がなくなった後CMPを終了させるための手段とを
備える請求項4に記載の装置。
【請求項8】ウエハが最初は不均一な局所構造を有し,CMPの間に平坦化
され,該出力するための手段によって出力されるデータ信号がウエハの表面が
平坦化された後だけ周期的であり,終点検出器が更に,
(a)データ信号の周期的変化を検出するための手段と,
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(b)該検出するための手段がデータ信号の周期的変化を検出したときにCM
Pを終了させるための手段とを備える請求項4に記載の装置。
【請求項9】酸化物層の下に半導体基板を備えるウエハのケミカルメカニカ
ルポリシング(CMP)のための方法であって,該方法は,
(a)ウエハを,回転可能な研磨ヘッド内に,該回転可能な研磨ヘッドの下の
研磨パッドに対して保持するステップであって,該パッドは研磨スラリによっ
てウェットとなっている,該保持するステップと,
(b)CMPが終了した終点を決定するステップであって,該終点を決定する
ステップは,
(b1)レーザービームをウエハに向けて発するステップであって,該レーザ
ービームは,プラーテン内に形成されたホール(孔)に近接するように配置さ
れた該研磨パッドに含まれるウィンドウを通過し,
(i)前記ウィンドウは,該研磨パッドの一部であって,該レーザービームに
対して少なくとも部分的に透過性を有する該研磨パッドの前記一部を備え,又
は(ii)前記ウィンドウは,該パッドに形成されたプラグであって,該レー
ザービームに対して透過性を有する前記プラグを備え,
該ウィンドウは,ウエハが該ウィンドウの上にあるときの時間の一部の間レー
ザービームのための通路を与える,該発するステップと,
(b2)ウエハから反射する光を検出するステップとを備える前記決定するス
テップとを備える方法。
【請求項10】該決定するステップが,ウィンドウがウエハに近接してレー
ザービームが妨害されずにウィンドウを通過してウエハに入射するときを感知
するステップを備える請求項9に記載の方法。
【請求項11】(a)該検出するステップが,ウエハから反射される光が検
出される毎に検出信号を発生するステップを備え,
(b)該感知するステップが,該レーザー干渉計によって発生するレーザービ
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ームが妨害されずに該ウィンドウを通過して該ウエハに入射できるように,ウ
ィンドウがウエハに近接する毎に感知信号を出力するステップを備え,
(c)該決定するステップが,データ取得のステップを備え,該データ取得の
ステップが,
(c1)感知信号の期間のためにレーザー干渉計から検出信号をサンプリング
するステップと,
(c2)サンプリングされた検出信号を代表するデータ信号を出力するステッ
プとを備える請求項10に記載の方法。
【請求項12】該データ取得のステップが更に,
(a)所定の期間の間の時間にわたって,サンプリングされた検出信号を積分
するステップを備え,
(b)該出力するステップが,検出信号の積分サンプルを代表するデータ信号
を出力するステップを備える請求項11に記載の方法。
【請求項13】データ信号が周期的であり,且つ,該決定のステップが更に,
(a)データ信号によって現れるサイクルの数を計数するステップと,
(b)レーザービームの波長とウエハの酸化物層の屈折率とを用いて,データ
信号の1サイクル中に除去される材料の厚さを計算するステップと,
(c)酸化物層から除去されるべき材料の所望の厚さを,該計数するための該
手段によりデータ信号により現れたサイクルの数と,該計算するための該手段
から1サイクル中に除去される材料の厚さとの積である,除去厚さと比較する
ステップと,
(d)該除去厚さが,除去されるべき材料の所望の厚さ以上になったときにC
MPを終了させるためのステップとを備える請求項11に記載の方法。
【請求項14】データ信号が周期的であり,且つ,該決定のステップが更に,
(a)(i)所定のサイクルの数又は(ii)1サイクルの所定の部分の一方を
完結するためにデータ信号により要求される時間を測定するステップと,
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(b)レーザービームの波長とウエハの酸化物層の屈折率とを用いて,該測定
するための該手段によって測定される時間の間に除去される材料の厚さを計算
するステップと,
(c)除去される材料の厚さを測定された時間で除して除去の速度を算出する
ステップと,
(d)酸化物層から除去されるべき所望の材料の厚さから,除去された材料の
厚さを減じて,残りの除去厚さを確定するステップと,
(e)残りの除去厚さを除去の速度で除して,残りのCMP時間を確立するス
テップと,
(f)残りのCMPの時間がなくなった後CMPを終了させるステップとを備
える請求項11に記載の方法。
【請求項15】ウエハが最初は不均一な局所構造を有し,CMPの間に平坦
化され,該出力するための手段によって出力されるデータ信号がウエハの表面
が平坦化された後だけ周期的であり,該決定するステップが更に,
(a)データ信号の周期的変化をサーチするステップと,
(b)データ信号に周期的変化が見つけられたときにCMPを終了させるステ
ップとを備える請求項11に記載の方法。
【請求項16】ウエハが最初は不均一な局所構造を有し,CMPの間に平坦
化され,該出力するための手段によって出力されるデータ信号がウエハの表面
が平坦化された後だけ周期的であり,該決定するステップが更に,
(a)データ信号をフィルタにかけて,所定の周波数を有している成分だけを
通過させるステップと,
(b)フィルタがかけられたデータ信号によって現れるサイクルの数を計数す
るステップと,
(c)レーザービームの波長とウエハの酸化物層の屈折率とを用いて,データ
信号の1サイクル中に除去される材料の厚さを計算するステップと,
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(d)酸化物層から除去されるべき材料の所望の厚さを,フィルタがかけられ
たデータ信号により現れたサイクルの数と,1サイクルの間に除去される材料
の厚さとの積である,除去厚さと比較するステップと,
(e)該除去厚さが,除去されるべき材料の所望の厚さ以上になったときにC
MPを終了させるためのステップとを備える請求項11に記載の方法。
【請求項17】ウエハが最初は不均一な局所構造を有し,CMPの間に平坦
化され,該出力するための手段によって出力されるデータ信号がウエハの表面
が平坦化された後だけ周期的であり,該決定するステップが更に,
(a)データ信号をフィルタにかけて,所定の周波数を有している成分だけを
通過させるステップと,
(b)フィルタがかけられたデータ信号によって現れるサイクルの一部が生じ
る数を計数するステップと,
(c)レーザービームの波長とウエハの酸化物層の屈折率とを用いて,データ
信号のサイクルの一部の間に除去される材料の厚さを計算するステップと,
(d)酸化物層から除去されるべき材料の所望の厚さを,フィルタがかけられ
たデータ信号により現れたサイクルの一部が生じる数と,サイクルの一部の間
に除去される材料の厚さとの積である,除去厚さと比較するステップと,
(e)該除去厚さが,除去されるべき材料の所望の厚さ以上になったときにC
MPを終了させるためのステップとを備える請求項11に記載の方法。
【請求項18】基板上の表面層の状態の均一性を,前記層の研磨の最中に測
定するインシチュウの方法であって,
(a)研磨の最中に,研磨パッドに含まれるウィンドウを通して前記層の方へ
光ビームを向けるステップであり,
(i)前記ウィンドウは,該研磨パッドの一部であって,該光ビームに対して
少なくとも部分的に透過性を有する該研磨パッドの前記一部を備え,又は
(ii)前記ウィンドウは,該パッドに形成されたプラグであって,該光ビー
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ムに対して透過性を有する前記プラグを備える,
前記向けるステップと,
(b)前記基板から反射されてくる前記光ビームによって生じる干渉信号をモ
ニタするステップと,
(c)前記干渉信号から表面層の状態の均一性の尺度を計算するステップとを
備える方法。
【請求項19】前記計算するステップが,前記干渉信号から特徴情報を抽出
するステップと,前記抽出された特徴情報から表面層の状態の均一性の前記尺
度を計算するステップとを備える請求項18に記載の方法。」
「【請求項21】前記干渉信号が低周波数成分を含み,前記抽出するステップ
が,前記低周波数成分の第1の特性を測定するステップと,前記第1の特性か
ら前記抽出された情報を誘導するステップとを備える請求項19に記載の方
法。
【請求項22】前記干渉計信号が高周波成分を含み,前記抽出するステップ
が,前記高周波数成分の第2の特性を測定するステップと,前記第1の特性及
び前記第2の特性から前記抽出された情報を誘導するステップと,を備える請
求項21に記載の方法。
【請求項23】前記第1の特性が前記低周波数信号の振幅であり,前記第2
の特性が前記高周波数信号の振幅であり,前記誘導するステップが,前記高周
波信号の振幅と前記低周波信号の振幅との比を計算するステップを備える請求
項22に記載の方法。
【請求項24】層を自身の上に有する基板を研磨するための研磨プロセスの
特性を評価するインシチュウの方法であって,
(a)研磨の最中に,研磨パッドに含まれるウィンドウを通して前記層の方へ
光ビームを向けるステップであり,
(i)前記ウィンドウは,該研磨パッドの一部であって,該光ビームに対して
11
少なくとも部分的に透過性を有する該研磨パッドの前記一部を備え,又は
(ii)前記ウィンドウは,該パッドに形成されたプラグであって,該光ビー
ムに対して透過性を有する前記プラグを備える,
前記向けるステップと,
(b)前記基板から反射されてくる前記光ビームによって発生する干渉信号を
モニタするステップと,
(c)前記干渉信号から干渉計波形を抽出するステップと,
(d)前記抽出された干渉計波形を保存されている情報と比較するステップで
あって,前記保存されている情報は,該研磨プロセスに対して望ましい操作の
ポイントを代表している,前記比較するステップと,
(e)前記抽出された干渉計波形が前記保存されている情報から所定の量以上
広がったとき,警告を発するステップとを備える方法。」
「【請求項26】前記抽出するステップが,前記干渉信号から研磨速度を決定
するステップと,前記干渉信号から均一性の尺度を決定するステップと,を備
え,前記比較するステップが,前記研磨速度及び均一性の前記尺度を前記保存
されている情報と比較するステップを備える請求項24に記載の方法。
【請求項27】基板研磨システムであって,
(a)処理中に,中実な透明ウィンドウを有する研磨パッドを保持するプラー
テンであり,
(i)前記ウィンドウは,該研磨パッドの一部であって,光ビームに対して少
なくとも部分的に透過性を有する該研磨パッドの前記一部を備え,又は
(ii)前記ウィンドウは,該パッドに形成されたプラグであって,光ビーム
に対して透過性を有する前記プラグを備える,
前記プラーテンと,
(b)処理中に基板をプラーテン上の研磨パッドに対して保持する研磨ヘッド
と,
12
(c)処理中に,前記研磨パッドの前記ウィンドウを通して,研磨されるべき
基板の側部に向けられ且つ入射するコリメートされた光ビームを発生させるこ
とが可能な干渉計であって,前記干渉計は干渉信号を発生する,前記干渉計と,
(d)前記干渉信号から表面層の状態の均一性の尺度を計算するようにプログ
ラミングされたデータプロセッサとを備える研磨システム。
【請求項28】前記研磨ヘッドが,処理中に回転できるように,回転可能と
なっている請求項27に記載の研磨システム。
【請求項29】前記プラーテンが,処理中に回転できるように,回転可能と
なっている請求項28に記載の研磨システム。」
「【請求項31】前記データプロセッサが更に,前記干渉信号から特徴情報を
抽出することと,前記抽出された特徴情報から均一性の前記尺度を計算するこ
とと,をプログラミングされている請求項29に記載の研磨システム。
【請求項32】前記データプロセッサが更に,均一性の前記尺度を参考値と
比較することと,均一性の前記尺度が該参考値から所定の量以上広がったとき
に警告を発することと,をプログラミングされている請求項31に記載の研磨
システム。
【請求項33】前記干渉信号が低周波数成分を含み,前記データプロセッサ
が,前記低周波数成分の第1の特性を測定することと,前記第1の特性から前
記抽出された情報を誘導することと,により特徴情報を抽出するようにプログ
ラミングされている請求項32に記載の研磨システム。
【請求項34】前記干渉信号が高周波数成分を含み,前記データプロセッサ
が,前記高周波数成分の第2の特性を測定することと,前記第2の特性から前
記抽出された情報を誘導することと,により特徴情報を抽出するようにプログ
ラミングされている請求項33に記載の研磨システム。
【請求項35】前記第1の特性が前記低周波数信号の振幅であり,前記第2
の特性が前記高周波数信号の振幅であり,前記データプロセッサが,前記高周
13
波信号の振幅と前記低周波信号の振幅との比を計算することにより特徴情報を
抽出するようにプログラミングされている請求項34に記載の研磨システム。
【請求項36】基板を研磨するための装置であって,前記装置は,
(a)処理中に研磨パッドを保持するプラーテンであって,前記プラーテンは
内部に通路を有する,前記プラーテンと,
(b)処理中に基板をプラーテン上の研磨パッドに対して保持する研磨ヘッド
と,
(c)コリメートされた光ビームを発生させることが可能な干渉計であって,
前記干渉計は,少なくとも研磨操作の一部の間に前記光ビームを前記通路に向
け前記基板上に入射するように,配置される,前記干渉計と,
(d)前記研磨パッドに含まれ,前記ホールないし通路と調心され且つ基板へ
と通過する光ビームが通るウィンドウであって,
(i)前記ウィンドウは,該研磨パッドの一部であって,該光ビームに対して
少なくとも部分的に透過性を有する該研磨パッドの前記一部を備え,又は
(ii)前記ウィンドウは,該パッドに形成されたプラグであって,該光ビー
ムに対して透過性を有する前記プラグを備え,
干渉計から到達する光ビームを受容する散乱面を有する,前記ウィンドウとを
備える装置。
【請求項37】前記プラーテン上に載置される研磨パッドを更に備え,前記
ウィンドウは,前記研磨パッド内に形成され前記通路と調心される請求項36
に記載の装置。
【請求項38】ケミカルメカニカルポリシングシステムにおいて用いるため
の研磨パッドであって,前記研磨パッドは,
(a)研磨面と,
(b)底面と,
を備え,前記研磨パッドの前記底面及び前記研磨面の中にはウィンドウが形成
14
され,前記ウィンドウは,干渉計からの光に対して透過性を有し,散乱底面を
有すると共に,
(i)前記ウィンドウは,該研磨パッドの一部であって,前記光に対して少な
くとも部分的に透過性を有する該研磨パッドの前記一部を備え,又は
(ii)前記ウィンドウは,該パッドに形成されたプラグであって,前記光に
対して透過性を有する前記プラグを備える,
研磨パッド。」
「【請求項40】ケミカルメカニカルポリシングシステムにおいて用いるため
の研磨パッドであって,前記研磨パッドは,
(a)研磨面と,
(b)底面と,
を備え,前記研磨パッドの前記底面及び前記研磨面の中にはウィンドウが形成
され,前記ウィンドウは,光に対して透過性を有すると共に,
(i)前記ウィンドウは,該研磨パッドの一部であって,前記光に対して少な
くとも部分的に透過性を有する該研磨パッドの前記一部を備え,又は
(ii)前記ウィンドウは,該パッドに形成されたプラグであって,前記光に
対して透過性を有する前記プラグを備え,
前記研磨パッドは,第1の透過性部分と,前記研磨面を与える第2の非透過性
部分とを備える,研磨パッド。
【請求項41】該第1の透過性部分が,中実なポリウレタンである請求項4
0に記載の研磨パッド。」
「【請求項47】ケミカルメカニカルポリシングシステムにおいて用いるため
の研磨パッドであって,前記研磨パッドは,
(a)研磨面と,
(b)底面と,
を備え,前記研磨パッドの前記底面及び前記研磨面の中にはウィンドウが形成
15
され,前記ウィンドウは,光に対して透過性を有すると共に,
(i)前記ウィンドウは,該研磨パッドの一部であって,前記光に対して少な
くとも部分的に透過性を有する該研磨パッドの前記一部を備え,又は
(ii)前記ウィンドウは,該パッドに形成されたプラグであって,前記光に
対して透過性を有する前記プラグを備え,
前記研磨パッドは,第1の透過性部分と,研磨面を与える第2の非透過性部分
とを備え,該第1の透過性部分とほぼ調心されたアパーチャが底面に形成され
る,研磨パッド。
【請求項48】研磨パッドが,研磨面を有する第1の層と,研磨面と反対側
の第2の層とを有する請求項40に記載の研磨パッド。」
「【請求項50】第1の層の該透過性部分とほぼ調心されたアパーチャが第2
の層に形成される請求項48に記載の研磨パッド」

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3 審決の理由


審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。審決の判断の概要は,以下
のとおりである。
(1) 本件各特許発明が平成14年法律第24号による改正前の特許法(以
下,単に「特許法」という。)36条4項,6項1号,又は2号に違反して登
録されたから無効であるとの原告の主張は,いずれも理由がない。
(2) 以下のとおり,本件各特許発明は,甲1ないし甲5記載の発明に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから,特許法29
条2項に違反するものとして無効であるとはいえない。なお,甲1ないし甲
5記載の発明事項については,「甲1発明1」のように,審決と同一の略語を
用いる。
ア本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明1との一致点及び相違点は,次のとおりであ
って,相違点5に係る本件特許発明2の構成は,甲1記載の発明に基づい
16
て当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(ア) 一致点
「<一致点1>
『ウエハに対してケミカルメカニカルポリシング(CMP)を行うた
めの装置であって,
(a)シャシに回転自在に設置され,開口を自身に有する回転可能な
研磨プラーテンと,
(b)プラーテンに設置され,研磨スラリによりウェットで,プラー
テンの開口と調心されたウィンドウを有する,研磨パッドであり,
研磨プラーテンの開口及び研磨パッドのウインドウからなる通路に光
透過部材を配設し,
(c)研磨パッドに対してウエハを保持するための,回転可能な研磨
ヘッドと,
(d)ウエハへ向けて光を発生させることが可能であり且つウエハ及
び開口から反射されてくる光を検出することが可能な終点検出器とを備
え,前記ウィンドウは,ウエハが前記ウィンドウの上にある時は,周期
時間の少なくとも一部の間に光をウエハへ入射させるための通路を与え
る装置。』」(審決書51頁1行~15行)
(イ) 相違点
相違点1ないし4(省略)のほか,次の相違点5において相違する。
「<相違点5>
プラーテンの中のホールとウィンドウの形状に関して,本件特許発明
2では,『プラーテンの回転中心と一致する中心と一致する原点からある
半径を有する円弧形状である』としているのに対して,甲1発明1では,
そのような形状ではない点。」(審決書55頁10行~14行)
(ウ) 容易想到性判断
17
甲1発明1において,ホールとウィンドウに相当する溝2,貫通孔3
及び研磨布窓6は,溝2が中心から放射状に伸びる近接した2本の直線
で囲まれ,中心付近から周縁近くまで伸びた形状であり,研磨布窓6も
溝2と同形のものであって,相違点5で特定されたような円弧形状のも
のではない。そして,甲2ないし甲5にも,ホールとウィンドウに関す
る記載はない。そして,本件特許発明2は,上記相違点5に係る発明特
定事項を備えることにより,「プラーテンの各回転に対するデータ取得時
間を長くするもの」という,本件特許明細書の段落【0036】に記載
されたとおりの効果を奏するものである。よって,本件特許発明2の相
違点5に係る構成は,甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業
者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
イ本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1発明1との一致点及び相違点は,次のとおりであ
って,相違点6に係る本件特許発明3の構成は甲1ないし甲5記載の発明
に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ア) 一致点
前記ア(ア)と同じ
(イ) 相違点
前記ア(イ)の相違点1ないし4(省略)のほか,次の相違点6にお
いて相違する。
「<相違点6>
終点検出器に関して,本件特許発明3では,『レーザー干渉計によって
発生するレーザービームが妨害されずにウィンドウを通過してウエハに
入射するように,ウィンドウがウエハに近接しているときを感知するた
めの位置センサを備える』としているのに対して,甲1発明1では,そ
のような位置センサを備えていない点。」(審決書55頁下から4行~5
18
6頁2行)
(ウ) 容易想到性判断
甲1発明1においては,透明窓材4上にウエハ7が近接しているとき
を感知する位置センサは存在しない。その他,甲2ないし甲5にも,近
接を感知する位置センサに関する記載はない。そして,本件特許発明3
は,上記相違点6に係る発明特定事項を備えることにより,「干渉計32
からの検出信号をサンプリングすべき時を決定する」という,本件特許
明細書の段落【0035】に記載されたとおりの効果を奏するものであ
る。よって,本件特許発明3の相違点6に係る構成は,甲1ないし甲5
に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたもの
であるとはいえない。
ウ本件特許発明4ないし8について
本件特許発明3の発明特定事項を全て含み,更に別の発明特定事項を含
む本件特許発明4ないし8の相違点6に係る構成は,本件特許発明3と同
様に,甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到す
ることができたものであるとはいえない。
エ本件特許発明10について
本件特許発明10と甲1発明2との一致点及び相違点は,次のとおりで
あって,本件特許発明10の相違点11に係る構成は,甲1ないし甲5に
記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであ
るとはいえない。
(ア) 一致点
「<一致点2>
『ウエハのケミカルメカニカルポリシング(CMP)のための方法で
あって,該方法は,
(a)ウエハを,回転可能な研磨ヘッド内に,該回転可能な研磨ヘッド
19
の下の研磨パッドに対して保持するステップであって,該パッドは研磨
スラリによってウェットとなっている,該保持するステップと,
(b)CMPが終了した終点を決定するステップであって,該終点を決
定するステップは,
(b1)光をウエハに向けて発するステップであって,該光は,プラー
テン内に形成された開口に近接するように配置された該研磨パッドに含
まれるウィンドウを通過し,
研磨プラーテンの開口及び研磨パッドのウインドウからなる通路に光
透過部材を配設し,
該ウィンドウは,ウエハが該ウィンドウの上にあるときの時間の一部
の間光のための通路を与える,該発するステップと,
(b2)ウエハから反射する光を検出するステップとを備える前記決定
するステップとを備える方法。』」(審決書57頁27行~58頁4行)
(イ) 相違点
相違点7ないし10(省略)のほか,次の相違点11において相違す
る。
「<相違点11>
決定するステップに関して,本件特許発明10では,『ウィンドウが
ウエハに近接してレーザービームが妨害されずにウィンドウを通過して
ウエハに入射するときを感知するステップを備える』としているのに対
して,甲1発明2では,そのようなステップを備えていない点。」(審決
書59頁下から3行~60頁2行)
(ウ) 容易想到性判断
甲1発明2においては,研磨布窓6がウエハ7に近接しているときを
感知するステップは存在しない。その他,甲2ないし甲5には,近接を
感知するステップに関する記載はない。そして,本件特許発明10は,
20
上記相違点11に係る発明特定事項を備えることにより,「干渉計32か
らの検出信号をサンプリングすべき時を決定する」という,本件特許明
細書の段落【0035】に記載されたとおりの効果を奏するものである。
よって,本件特許発明10の相違点11に係る構成は,甲1ないし甲5
に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたもの
であるとはいえない。
オ本件特許発明11ないし17について
本件特許発明10の発明特定事項を全て含み,更に別の発明特定事項を
含む本件特許発明11ないし17の相違点11に係る構成は,本件特許発
明10と同様に,甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者が容
易に想到することができたものであるとはいえない。
カ本件特許発明21について
本件特許発明21と甲1発明3との一致点及び相違点は,次のとおりで
あって,本件特許発明21の相違点17に係る構成は,甲1ないし甲5に
記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであ
るとはいえない。
(ア) 一致点
「<一致点3>
『基板上の表面層の研磨状態を,前記層の研磨の最中に測定するインシ
チュウの方法であって,
(a)研磨の最中に,研磨パッドに含まれるウィンドウを通して前記層
の方へ光ビームを向けるステップであり,
研磨プラーテンの開口及び研磨パッドのウインドウからなる通路に光
透過部材を配設する,
前記向けるステップと,
(b)前記基板から反射されてくる前記光ビームを受光して検出するス
21
テップとを備える方法。』」(審決書61頁16行~25行)
(イ) 相違点
相違点12ないし15(省略)のほか,次の相違点17において相違
する。
「<相違点17>
本件特許発明21では,『干渉信号が低周波成分を含み,抽出するステ
ップが,前記低周波成分の第1の特性を測定するステップと,前記第1
の特性から前記抽出された情報を誘導するステップとを備える』として
いるのに対して,甲1発明3では,そのようなステップを備えていない
点。」(審決書65頁8行~12行)
(ウ) 容易想到性判断
甲1発明3においては,干渉信号が低周波成分を含み,低周波成分の
特性を測定し,該特性から抽出された情報を誘導していない。また,干
渉信号から低周波成分の特性を測定する点は,甲2ないし甲5にも記載
が存在せず,これが従来周知であるという証拠も見当たらない。そして,
本件特許発明21は,上記相違点17に係る発明特定事項を備えること
により,本件特許明細書の段落【0060】に記載されたように,「研磨
速度の情報を含んでいる低周波信号の周波数」を利用することにより,
研磨速度を検出するという効果を奏するものである。
よって,本件特許発明21の相違点17に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえない。
キ本件特許発明22及び23について
本件特許発明21の発明特定事項を全て含み,更に別の発明特定事項を
含む本件特許発明22及び23の相違点17に係る構成は,本件特許発明
21と同様に,甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易
22
に想到することができたものであるとはいえない。
ク本件特許発明26について
本件特許発明26と甲1発明4との一致点及び相違点は,次のとおりで
あって,本件特許発明26の相違点24に係る構成は,甲1ないし甲5に
記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえ
ない。
(ア) 一致点
「<一致点4>
『基板を研磨するための研磨プロセスの特性を評価するインシチュウの
方法であって,
(a)研磨の最中に,研磨パッドに含まれるウィンドウを通して前記層
の方へ光ビームを向けるステップであり,
研磨プラーテンの開口及び研磨パッドのウインドウからなる通路に光
透過部材を配設する,
前記向けるステップと,
(b)前記基板から反射されてくる前記光ビームを受光して検出するス
テップとを備える方法。』」(審決書66頁26行~35行)
(イ) 相違点
相違点18ないし22(省略)のほか,次の相違点24において相違
する。
「<相違点24>
本件特許発明26では,『抽出するステップが,干渉信号から研磨速度
を決定するステップと,前記干渉信号から均一性の尺度を決定するステ
ップと,を備え,比較するステップが,前記研磨速度及び均一性の前記
尺度を保存されている情報と比較するステップを備える』としているの
に対して,甲1発明4では,そのようなステップを備えていない点。」(審
23
決書69頁下から2行~70頁4行)。
(ウ) 容易想到性判断
干渉信号から研磨速度を決定することは,甲1発明4には存在せず,
また,甲1ないし甲5のいずれにも記載されておらず,周知の事項であ
るという証拠もない。そして,本件特許発明26は,上記相違点24に
係る発明特定事項を備えることにより,研磨速度を検出するという効果
を奏するものである。
よって,本件特許発明26の相違点24に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえない。
ケ本件特許発明33について
本件特許発明33と甲1発明5との一致点及び相違点は,次のとおりで
あって,本件特許発明33の相違点31に係る構成は,甲1ないし甲5に
記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであ
るとはいえない。
(ア)一致点
「<一致点7>
『基板研磨システムであって,
(a)処理中に,ウィンドウを有する研磨パッドを保持するプラーテ
ンであり,
プラーテンの開口及び研磨パッドのウインドウからなる通路に光透過
部材を配設した
前記プラーテンと,
(b)処理中に基板をプラーテン上の研磨パッドに対して保持する研磨
ヘッドと,
(c)処理中に,前記研磨パッドの前記ウィンドウを通して,研磨され
24
るべき基板の側部に向けられ且つ入射する光ビームを発生させることが
可能な光ビーム測定装置を備える研磨システムであって,
前記研磨ヘッド,及び前記プラーテンが,処理中に回転できるように,
回転可能となっている研磨システム。」(審決書74頁14行~27行)
(イ)相違点
相違点25ないし27,29,30(省略)のほか,次の相違点31
において相違する。
「<相違点31>
本件特許発明33では,『干渉信号が低周波成分を含み,データプロセ
ッサが,前記低周波数成分の第1の特性を測定することと,前記第1の
特性から抽出された情報を誘導することと,により特徴情報を抽出する
ようにプログラミングされている』と特定しているのに対して,甲1発
明5では,そのようなことについて不明である点。」(審決書77頁21
行~26行)
(ウ) 容易想到性判断
甲1発明5においては,干渉信号が低周波成分を含み,データプロセ
ッサが,前記低周波成分の特性を測定し,該特性から抽出された情報を
誘導していない。また,干渉信号から低周波成分の特性を測定する点は,
甲2ないし甲5にも記載が存在しない。さらに,干渉信号から低周波成
分の特性を測定する点が,従来周知であるという証拠も見当たらない。
そして,本件特許発明33は,上記相違点31に係る発明特定事項を備
えることにより,本件特許明細書の段落【0060】に記載されたよう
に,「研磨速度の情報を含んでいる低周波信号の周波数」を利用すること
により,研磨速度を検出するという効果を奏するものである。
よって,本件特許発明33の相違点31に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
25
のであるとはいえない。
コ本件特許発明34及び35について
本件特許発明33の発明特定事項を全て含み,更に別の発明特定事項を
含む本件特許発明34及び35の相違点31に係る構成は,本件特許発明
33と同様に,甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易
に想到することができたものであるとはいえない。
サ本件特許発明36について
本件特許発明36と甲1発明6との一致点及び相違点は,次のとおりで
あって,本件特許発明36の相違点35に係る構成は,甲1ないし甲5に
記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであ
るとはいえない。
(ア) 一致点
「<一致点8>
『基板を研磨するための装置であって,前記装置は,
(a)処理中に研磨パッドを保持するプラーテンであって,前記プラー
テンは内部に通路を有する,前記プラーテンと,
(b)処理中に基板をプラーテン上の研磨パッドに対して保持する研磨
ヘッドと,
(c)光ビームを発生させることが可能な光測定装置であって,前記光
測定装置は,少なくとも研磨操作の一部の間に前記光ビームを前記通路
に向け前記基板上に入射するように,配置される,前記光測定装置と,
(d)前記研磨パッドに含まれ,前記通路と調心され且つ基板へと通過
する光ビームが通るウィンドウを備え,
プラーテン及び研磨パッドのウインドウからなる通路に光透過部材を
配設するものである装置。』」(審決書79頁16行~28行)
(イ) 相違点
26
相違点32ないし34(省略)のほか,次の相違点35において,相
違する。
「<相違点35>
ウィンドウに関して,本件特許発明36では,『干渉計から到達する光
ビームを受容する散乱面を有する』と特定しているのに対して,甲1発
明6では,研磨布窓6のみならず透明窓材4も,そのような散乱面を有
していない点。」(審決書80頁5行~9行)
(ウ) 容易想到性判断
甲1発明6においては,ウィンドウに相当する研磨布窓6には当然散
乱面が設けられておらず,透明窓材4についても,散乱面は設けられて
いない。そして,光の通過部に散乱面を設けることは,甲1ないし甲5
には記載されておらず,それが周知の事項であるという証拠も見当たら
ない。そして,本件特許発明38は,当該発明特定事項を備えることに
より,「データ信号の不要なDC成分が低減される。」という,本件特許
明細書の段落【0078】に記載されたとおりの効果を奏するものであ
る。
よって,本件特許発明36の相違点35に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえない。
シ本件特許発明37について
本件特許発明36の発明特定事項を全て含み,更に別の発明特定事項を
含む本件特許発明37の相違点35に係る構成は,本件特許発明36と同
様に,甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到す
ることができたものであるとはいえない。
ス本件特許発明38について
本件特許発明38と甲1発明7との一致点及び相違点は,次のとおりで
27
あって,本件特許発明38の相違点36に係る構成は,甲1ないし甲5に
記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであ
るとはいえない。
(ア) 一致点
「<一致点9>
『ケミカルメカニカルポリシングシステムにおいて用いるための研磨パ
ッドであって,前記研磨パッドは,
(a)研磨面と,
(b)底面と,
を備え,前記研磨パッドの前記底面及び前記研磨面の中にはウィンドウ
が形成される,
研磨パッド。』」(審決書81頁19行~26行)
(イ) 相違点
「<相違点36>
ウィンドウに関して,本件特許発明38では,『干渉計からの光に対し
て透過性を有し,散乱底面を有すると共に,(i)前記ウィンドウは,該
研磨パッドの一部であって,前記光に対して少なくとも部分的に透過性
を有する該研磨パッドの前記一部を備え,又は(ii)前記ウィンドウ
は,該パッドに形成されたプラグであって,前記光に対して透過性を有
する前記プラグを備える』としているのに対して,甲1発明7では,研
磨布窓6は,定盤1の溝2と同形に切り抜かれたものである点。」(審決
書81頁27行~34行)
(ウ)容易想到性判断
甲1発明7においては,ウィンドウに相当する研磨布窓6には当然散
乱面は設けられていない。また,透明窓材4についても,散乱面は設け
られていない。そして,光の通過部に散乱面を設けることは,甲1ない
28
し甲5のいずれにも記載されておらず,それが周知の事項であるという
証拠も見当たらない。
よって,本件特許発明38の相違点36に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえない。
セ本件特許発明41について
本件特許発明41と甲1発明7との一致点及び相違点は,次のとおりで
あって,本件特許発明41の相違点43に係る構成は,甲1ないし甲5に
記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであ
るとはいえない。
(ア) 一致点
前記一致点9と同じである。
(イ) 相違点
相違点41,42(省略)のほか,次の相違点43において,相違す
る。
「<相違点43>
研磨パッドの第1の透過性部分に関して,本件特許発明41では,『中
実なポリウレタン』としているのに対して,甲1発明7では,研磨布5
の材料に関して不明な点。」(審決書87頁15行~18行)
(ウ) 容易想到性判断
甲1には,研磨布5を中実なポリウレタンで構成することは記載され
ていない。また,甲2ないし甲5のいずれにも,研磨パッドを中実なポ
リウレタンで構成することは記載されていない。さらに,研磨パッドを
中実なポリウレタンで構成することが従来周知であったとする証拠は存
在しない。そして,本件特許発明41は,研磨パッドにおける透過性部
分を,中実なポリウレタンであると特定しているものであって,当該発
29
明特定事項を備えることにより,「プラグ42を通ることによるレーザー
ビームの弱化は最小になる。」という,本件特許明細書の段落【0029】
に記載されたとおりの効果を奏するものである。
よって,本件特許発明41の相違点43に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえない。
ソ本件特許発明47について
本件特許発明47と甲1発明7との一致点及び相違点は,次のとおりで
あって,本件特許発明47の相違点50に係る構成は,甲1ないし甲5に
記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであ
るとはいえない。
(ア) 一致点
前記一致点9と同じ
(イ) 相違点
相違点49(省略)のほか,次の相違点50において,相違する。
「<相違点50>
研磨パッドに関して,本件特許発明47では,『第1の透過性部分と,
研磨面を与える第2の非透過性部分とを備え,該第1の透過性部分とほ
ぼ調心されたアパーチャが底面に形成される』としているのに対して,
甲1発明7では,研磨パッドに相当する研磨布5は,定盤1の溝2と同
形に切り抜かれた研磨布窓6が形成されるものである点。」(審決書92
頁13行~18行)
(ウ) 容易想到性判断
甲1発明7においては,ウィンドウに相当する研磨布窓6は切り抜か
れたものであるので,透過性部分とほぼ調心されたアパーチャを底面に
有するものではない。研磨パッドにおいて,透過性部分とほぼ調心され
30
たアパーチャを底面に有する構成は,甲1ないし甲5のいずれにも記載
されておらず,それが周知の事項であるという証拠も見当たらない。そ
して,本件特許発明47は,当該発明特定事項を備えることにより,「カ
バー層22に用いられるポリウレタン材料が,レーザー干渉計32から
のレーザービームを実質的に透過させるだろうことが,見出されてい
る。」という,本件特許明細書の段落【0028】に記載されたとおりの
効果を奏するものである。
よって,本件特許発明47の相違点50に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえない。
タ本件特許発明50について
本件特許発明50と甲1発明7との一致点及び相違点は,次のとおりで
あって,本件特許発明50の相違点53に係る構成は,甲1ないし甲5に
記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであ
るとはいえない。
(ア) 一致点
前記一致点9と同じ
(イ) 相違点
相違点41,42,51(省略)のほか,次の相違点53において,
相違する。
「<相違点53>
研磨パッドに関して,本件特許発明50では,更に,『第1の層の該透
過性部分とほぼ調心されたアパーチャが第2の層に形成される』と特定
しているのに対して,甲1発明7では,そのようなものではない点。」(審
決書94頁17行~20行)
(ウ)容易想到性判断
31
甲1発明7においては,ウィンドウに相当する研磨布窓6は切り抜か
れたものであるので,第1の層の透過性部分とほぼ調心されたアパーチ
ャを第2の層に有するものではない。研磨パッドにおいて,第1の層の
透過性部分とほぼ調心されたアパーチャを第2の層に有する構成は,甲
1ないし甲5のいずれにも記載されておらず,それが周知の事項である
という証拠も見当たらない。そして,本件特許発明50は,当該発明特
定事項を備えることにより,「カバー層22に用いられるポリウレタン材
料が,レーザー干渉計32からのレーザービームを実質的に透過させる
だろうことが,見出されている。」という,本件特許明細書の段落【00
28】に記載されたとおりの効果を奏するものである。
よって,本件特許発明50の相違点53に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえない。

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第3 当事者の主張




1 取消事由に係る原告の主張


審決には,以下のとおり,(1)特許法36条4項,6項1号,2号に係る判
断の誤り(取消事由1),(2)容易想到性判断の誤り(取消事由2),がある。
(1) 取消事由1(特許法36条4項,6項1号,2号に係る判断の誤り)
ア請求項を特定しない特許法36条4項,6項1号,2号に係る判断の誤

(ア) Bの無効理由(「光」の不明確さ等)の判断の誤り
審決は,「レーザー光の反射を利用した終点検出の原理が,レーザー光
に限らず通常の可視光,すなわち光にも適用できるものであることは明
らかである。」(審決書37頁下から5行,4行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,①本件特許明細
書には「光」の意義について一切記載されていない。それにもかかわら
32
ず,通常の「可視光」と「レーザー光」とを同視し,「レーザー光」に係
る原理が「可視光」にも適用されることを前提として,特許請求の範囲
に「光」に係る記載をすることは,本件特許明細書に記載されていない
内容を特許請求の範囲に記載することになるから,本件各特許発明に係
る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号(いわゆるサポート
要件)に違反する。また,②審決の上記判断は,本件特許の成立過程に
おける,本件特許権者(被告)の意見書の見解,すなわち「実験結果の確
認のために,『白色灯』や『蛍光灯』による干渉縞を『目視』で測定する
ことを示しているのであり,本願発明のレーザー光を用いて監視する技
術とは同じ次元ではありません。」(甲19(2),3頁下から3行~4頁
1行)との見解に反しており,特許請求の範囲の記載が不明確であるから,
誤りである。よって,本件各特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,
特許法36条6項2号(いわゆる明確性要件)に違反する。さらに,③
終点検出の原理が不明であるから,レーザー光の反射を利用した終点検
出に係る発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項(いわゆる実施
可能要件)に違反する。
(イ) Cの無効理由(「レーザー干渉計」の不明確さ)の判断の誤り
審決は,「『レーザー干渉計』という用語は,甲第5号証に『レーザ干
渉測定装置』と記載され,また,乙44号証,乙45号証においても記
載されているように,CMPの終点検出装置として一般的に用いられて
いるものである。」(審決書38頁5行~7行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,
a 本件特許成立過程における意見書(甲19(2))において,被告は,
次のとおり,本件各特許発明のレーザー干渉計は,公知の光学測定手
段とは本質的に異なると述べていた。
(a) 「引用文献1の装置の光学測定手段は,・・・反射率の変化を
33
測定する反射測定手段であり,本願発明のようなレーザー干渉計で
はありません。この違いは微差ではなく,技術思想上の本質的な相
違です。」(甲19(2),2頁下から2行~3頁3行)
(b) 「『反射率測定装置』をもって『レーザー干渉計』と同じであ
るとすることはできません」(甲19(2),3頁8行,9行)
(c) 「干渉刑(判決注干渉計の誤記と認める。)を用いるべき強
い動機がない場面では,そのまま反射率による方法を用いることが
必然であり,わざわざ大変な干渉計による方法を着想しないでしょ
う。わずかに,『干渉』に関する記述が・・・ありますが,・・・本
願発明のレーザー光を用いて監視する技術と同じ次元ではありませ
ん」(甲19(2),3頁下から5行~4頁1行)
上記(a)ないし(c)の被告の意見書を加味して本件各特許発明の
「レーザー干渉計」を理解すると,公知の光学測定手段と対比して,
どのような原理のレーザー干渉計を用いるものであるか明瞭に区別し
て本件各特許発明を理解しなければならない。しかし,本件特許明細
書の発明の詳細な説明においては,反射する光(レーザー光)の何を
測定するのか(光の強度か,反射率か,波長か,干渉縞の間隔か,可
干渉距離なのか)などの測定の具体的手段や作用原理が明確にされて
いないから,特許法36条4項に違反し,本件各特許発明に係る特許
請求の範囲の記載は,同条6項2号に違反する。
b なお,本件特許の「レーザー干渉計」は,選択した評価対象のウエ
ハ特性(酸化膜付ウエハ)によって,たまたま酸化膜表面での反射と,
酸化膜とシリコン界面での反射により,2つの光路が形成されてそれ
らが干渉しただけである。サンプルとして,酸化膜をもたないシリコ
ンを使用すれば,光路は1つだけとなる。また,積層膜を有するサン
プルを使用すれば,いくつもの光路ができ,単純な干渉波形ではなく
34
なる。すなわち,サンプルに依存して,光路数は変わることになる。
装置として,参照光路とサンプル光路の2つの光路を形成し,その2
つの光路での光路差から干渉させて測定するという,装置としての干
渉計を構成していない。よって,本件特許のレーザー干渉計は,干渉
計と呼べるものではない。
c 甲16,甲17においては,膜の除去過程ではなく,膜の堆積過程
をモニタする機構ではあるが,レーザー干渉計を使用せずとも,セレ
ン光電池(光強度を測定する装置)により,膜厚の堆積に伴う干渉波
形を描き,膜厚測定を行い,本件特許明細書の【図9】(a)及び(b)に
対応する光強度波形を得ている。そうすると,本件特許のレーザー干
渉計は,実質的な機能としては光強度(反射率を含む。)を測定してい
るにすぎないものであり,レーザー干渉計ではないことが明らかであ
る。
(ウ) Dの無効理由(ブランク酸化物ウエハのデータ開示に意味がない
こと)の判断の誤り
審決は,「ブランク酸化物ウエハの研磨中に干渉の測定を行うことによ
り,周期的な信号が発生することを検証することは可能で,その様にし
て検出されたデータをパターンウエハのCMP研磨において参照データ
として利用することが可能であることは明らかである。」(審決書38頁
13行~16行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,パターンウエハ
は,ブランク酸化物ウエハに示されるような安定した干渉波形を得るこ
とが原理的にできず,ブランク酸化物の検出データを参照データとして
利用することはできないから,ブランク酸化物の検出データは,CMP
で使用されるパターンウエハの終点検出の課題を解決するものではない。
具体的にいうと,まず,①パターンウエハは,ブランク酸化物ウエハと
35
は異なり,パターン内に電子回路の構造に応じた微小な凹凸が存在する。
本件特許の出願当時である1995年では,配線ルールが0.35μm
程度であるため,凸部の0.35μm 隣は,凹部となっている場合も想
定され,ウエハ内で極微小な0.35μm 隣の位置(凹凸の位置)でも,
光路長さが異なる場合が存在する。さらに,②本件特許明細書の【図1
1】に示されるように凹凸内のパターンの大小によっても研磨速度は変
わり,そのため膜厚もパターンの大小によってもまちまちである(当然光
路長さも異なる。)。また,③ウエハとプラテンも共に回転運動している
ため,いつも同じパターン内の全く同一の箇所を再現性よく測定するこ
とは原理的にできないから,絶えずウエハ面内の全く同じ箇所を,再現
性よく測定しない限り酸化膜厚の変化量(除去量)をモニタできないので
あるが,0.35μm も変化しない同一箇所を測定することは原理的に
困難であり,実質毎回光路の長さが異なる箇所を測定することになる。
以上①ないし③の結果,パターンウエハでは,ブランク酸化物ウエハ
に示されるような安定した干渉波形を得ることが原理的にできず,ブラ
ンク酸化物の検出データを参照データとして利用することはできない。
また,ブランク酸化物の検出データは,CMPで使用されるパターンウ
エハの終点検出の課題を解決するものでもない。
よって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条
4項に違反し,本件各特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,同条6
項2号に違反する。
(エ) Eの無効理由(「信号」の不明確さ)の判断の誤り
審決は,「各請求項に数多く現れるそれぞれの信号の技術的意味および
物理量が不明確であるという漠然とした理由では,それが特許法第36
条第6項第1号及び第2号に

違反するのかどうか,また各請求項に係る
発明を実施することができるかどうか,すなわち,特許法第36条第6
36
項第4号(判決注「特許法36条4項」〔平成14年法律第24号によ
る改正前のもの〕の誤記と認める。)に違反するかどうか判断することは
できない。」(審決書38頁21行~25行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,本件特許は,C
MPプロセス中のウエハにレーザー光を照射し,ウエハから反射される
光学情報に基づいて研磨の終点を検出するという内容において,ウエハ
から反射される光学情報において,全てに「・・信号」という用語を多
用している。それぞれの「信号」の物理量,技術的意味が不明であり,
物理量が不明であるとすれば,それは反射される光の何(どのような物理
量)を検出し,それがどのようになったことに基づいて研磨の終点を検出
するのかという,終点の検出原理そのものが不明であることになる。特
に,本件特許明細書内における「・・信号」とする用語については,検
出信号,感知信号,データ信号,干渉信号,干渉計信号,低周波信号,
高周波信号,出力信号,特性信号,特徴信号など様々であり,これらの
全ての信号に関する技術的意味やその物理量について,一切示されてい
ない。よって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法3
6条4項に違反し,特許請求の範囲の記載は,同条6項1号に違反する。
(オ) Fの無効理由(フィルタに係る記載不備)の判断の誤り
a 審決は,「(i)の点に関して,本件出願の発明の詳細な説明の記載
では,図9(a)のグラフをどのようにフィルタ処理することにより,
図9(b)のグラフのようになるのかは,必ずしも明確ではないが,
後述するように各請求項中にいくつか存在する『フィルタ』の特定の
ある請求項については,明確である。したがって,このことにより,
発明を実施することができないとすることも,また,特許請求の範囲
の各請求項に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されたもので
ないとすることも,特許請求の範囲の各請求項に記載された発明が明
37
確でないとすることもできない。」(審決書38頁31行~39行)と
判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,【図9】(a)の
グラフをどのようにフィルタ処理することにより,【図9】(b)のグラ
フのようになるのかは結果的に明確にされていない。よって,フィル
タそのものがどのような物理量に対して,どのような処理を行うこと
で,どのような成分を抽出するものであるのか,不明であるから,本
件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反
し,本件各特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,同条6項2号に
違反する。
b また,審決は,「(ii)の点に関して,CMPで対象とするパター
ンウエハにおいても,程度の差こそあれ,平坦化により検出される信
号に周期的なサイクルが現れることは明らかであって,これをフィル
タ処理することにより,ある程度の研磨に関する情報を得られること
は明らかである。」(審決書39頁1行~4行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,①審決にいう
「ある程度の研磨に関する情報」とは何なのか,何を根拠に明らかで
あるといえるのかについて,結果的には明らかにされていない。また,
②本件特許明細書の記載(乙99,段落【0016】,【0047】,
【0048】,【0049】等)において,検出器信号をフィルタに
かけ,着目する構造に関する所定の周波数を有する信号の成分だけを
通過させるとあるが,あらかじめ所定の周波数を通過させるフィルタ
を使用するのであれば,その周波数に対応する膜の除去速度のみを通
過させることになるため,どのようにして膜の除去速度を見積もり,
終点を検出するのか依然として判然としない。
仮に,除去膜厚や膜の除去速度を,周期(周波数)で見積もるとする
38
と,「周波数」という一つのパラメータで,①着目する構造に関する所
定の周波数と,②除去膜厚や膜の除去速度の2つの諸量を見積もるこ
とになり,これも原理的に成り立たないから,実施可能要件を欠く。
以上のとおり,なぜ周期的なサイクルが現れるのか,フィルタ処理
をすることでどのような原理により何が得られるのかが明確ではなく,
当業者が実施し得る程度に十分かつ明確に開示されているとはいえな
いから,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条
4項に違反し,本件各特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,同条
6項2号に違反する。
c 審決は,「(iii)の点に関して,積分した結果が必ず正の値とな
るものではない。」(審決書39頁5行,6行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,本件特許明細
書の【図13】は,検出器信号の振幅を時間に対してプロットしたグ
ラフとしているが,検出器信号の振幅としているので,信号の振幅が
負ということはありえない。
d 審決は,「(iv)の点に関して,段落【0065】に,フィルタと
はバンドパスフィルタであり,干渉計から検出された信号をバンドパ
スフィルタにかけて分析することにより研磨終点を検出できることは
本件特許の優先権主張日前においても周知の事項であったことは明ら
かである。」(審決書39頁7行~10行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,仮に,周期成
分(周波数)で除去速度を求めるとした場合,その周波数は所定の周波
数しか通過させないバンドパスフィルタを使っていることから,あら
かじめ除去速度が決められてしまうことになり,終点検出の意味すら
なくなるから,終点検出におけるバンドパスフィルタが果たす役割の
意味が全く不明である。
39
よって,フィルタに係る本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
は,特許法36条4項に違反し,特許請求の範囲の記載は,同条6項
2号に違反する。
(カ) Gの無効理由(CMP研磨の終点検出)の判断の誤り
審決は,「本件特許の段落【0045】の記載から,検出された信号か
ら認識可能な正弦波状のサイクルが取り出されることが,CMP研磨の
終点であるとすることは明らかである。」(審決書39頁15行~17行)
と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,①全ての波形を
得た段階で正弦波状のサイクルを取り出すのでは研磨の終点検出として
意味をなさない。リアルタイムに波形を取得しながら研磨終点を検出し
なければならないが,それをどのように検出するのかは不明である。ま
た,②本件特許の段落【0045】の記載において,終点を一意に検出
する方法が示されていない。段落【0045】に細密な検討とあるが,
細密な検討の内容も不明である。250秒のところで正弦波状のサイク
ルが現れているのかどうかが不明である。その前からもサイクルがある
ように見られる。さらに,③波形に周期性があることを確認するには,
少なくとも2周期を経なければならないが,リアルタイムに波形をモニ
タする中で正弦波状のサイクルが始まる点を,仮に終点と定義するので
あれば,原理的にその終点(=正弦波のサイクルが始まる点)を,同じ
タイミングで検出することは不可能である。終点を経て2周期後に終点
であったことが初めて判別できるからである。よって,CMP研磨の終
点検出に係る本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36
条4項に違反し,特許請求の範囲の記載は,同条6項2号に違反する。
(キ) Hの無効理由(ウエハ表面の均一性測定)の判断の誤り
審決では,「研磨パッドはウエハに対して半径位置を変更しながら研磨
40
するものであるので,研磨パッドの一部に設けられたウィンドウを通し
てレーザー反射光等を検出することにより,ある程度,ウエハ表面の均
一性を検出できるものであることは明らかであり,それはパターンウエ
ハにも該当するものであることも明らかである。」(審決書39頁22行
~26行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,①「研磨パッド
はウエハに対して半径位置を変更しながら研磨するもの」としているが,
そのような記述は本件特許明細書になく,根拠がない。また,②均一性
というからには,ウエハ面内において相対的な研磨量をモニタする必要
があるが,研磨中に測定できるのはウエハ面内で1点であり,その1点
を測定して,次の別の点を測定する間にプラテンは1回転して研磨は進
行しており,その際の除去膜厚も未知であるから,同一時点における別々
の測定点の間の膜厚を相対的に比較することはできない。さらに,③C
MPは,平坦化を目的としてパターンウエハが使用されるが,ウエハと
パッドは研磨中,双方とも回転運動する。そのとき,ウエハ上である1
点を測定したとしても,その測定した部分が,パターンのどの部分であ
ったのか(凹凸の凹部か凸部か,パターンが大きいエリアか小さいエリア
かなど)不明である。パターンの位置によっても光路長が大きく変わるこ
とから,結果的に測定点の間の膜厚を相対的に対比することはできず,
均一性を測定することは不可能である。よって,ウエハ表面の均一性検
出に係る本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4
項に違反し,特許請求の範囲の記載は,同条6項2号に違反する。
イ請求項を特定した特許法36条6項1号,2号に係る判断の誤り
(ア) 請求項1に従属する請求項2ないし8
審決では,「(1)Aで言及したとおり,レーザー干渉計を用い,反射
光を測定することにより研磨の終点を検出できることは明らかである。」
41
(審決書39頁31行,32行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,審決の(1)A
では,「レーザー光の透過を許容する透明体から成る合成樹脂製の研磨パ
ッド」について記載されているのであり,「レーザー干渉計を用い,反射
光を測定することにより研磨の終点を検出できることが明らか」である
ことは述べられていない。よって,レーザー干渉計による終点検出機構
に係る請求項1に従属する請求項2ないし8の記載は,特許法36条6
項1号,2号に違反する。
(イ) 請求項3及びこれに従属する請求項4ないし8
審決は,「また,『ウィンドウがウエハに近接しているときを感知』と
は,図面の図2,図6,図7を参照することにより,レーザービームが
プラーテンや研磨パッドに妨害されずにウィンドウを通過できる位置に
ある時であることは明らかである。」(審決書40頁5行~8行)と判断
した。
しかし,審決の上記判断は誤りである。すなわち,「ウィンドウがウエ
ハに近接しているとき」とは,依然レーザービームがウィンドウを通過
できる位置に行くために,そこへ近づきつつある状態とも解釈すること
ができ,一意に「レーザービームがウィンドウを通過できる位置にある
とき」と解釈することはできない。
よって,レーザー干渉計による終点検出機構に係る請求項3及びこれ
に従属する請求項4ないし8の記載は,特許法36条6項1号,2号に
違反する。
(ウ) 請求項4及びこれに従属する請求項5ないし8
審決は,「『データ信号』については,請求項4において『サンプリン
グされた検出信号を代表する』ものであると特定しているので,データ
信号と検出信号の関係は明らかである。」(審決書40頁19行~21行)
42
と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,請求項4には,
「サンプリングされた検出信号を代表するデータ信号」と記載されてい
るが,「代表する」との語句で何かを特定するものでもなく,「データ信
号」と「検出信号」の関係が不明である。
よって,請求項4及びこれに従属する請求項5ないし8の記載は,特
許法36条6項2号に違反する。
(エ) 請求項5
審決は,「『データ信号』は,『検出信号の積分されたサンプルを代表す
る』ものであるとしているので,その技術的意味は明らかである。」(審
決書40頁35行,36行)と判断した。
しかし,「代表するもの」という意味は曖昧であり,「データ信号」の
技術的意味や物理量も,依然不明である。また,前記請求項4では「デ
ータ信号は,サンプリングされた検出信号を代表する」としていたにも
かかわらず,請求項5では「データ信号は検出信号の積分されたサンプ
ルを代表するもの」とされており,同じ「データ信号」でありながら整
合性を欠き,不明確である。
よって,請求項5の記載は,特許法36条6項2号に違反する。
(オ) 請求項10及びこれに従属する請求項11ないし17
審決は,「また,1)については,決定するステップは,『レーザービ
ームがウィンドウを通過してウエハに入射するときを感知するステップ
を備える』と特定している。したがって,・・・請求項10を特許法第3
6条第6項第1号,第2号違反であるとする無効理由は成り立たない。」
(審決書42頁9行~16行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,請求項10の「終
点を決定するステップ」において,「レーザービームがウィンドウを通過
43
してウエハに入射するときを感知するステップ」は,終点を決定するた
めのアルゴリズムとは全く関係せず,また,この関係性を裏付ける記載
も本件特許明細書中にはなく,不明確である。よって,請求項10及び
これに従属する請求項11ないし17の記載は,特許法36条6項1号,
2号に違反する。
(カ) 請求項19に従属する請求項21ないし23
審決は,「『特徴情報』が,望ましく操作されていることがわかってい
るシステムに対して干渉計によって得られたシグネチャ波形を意味する
ものであることは,発明の詳細な説明の段落【0068】~【0070】
を参照することにより明らかである。そして,研磨の目標が均一性,す
なわち基板上の表面の平坦化であるから,特徴情報は,基板上の表面が
均一化された時の干渉計によって得られたシグネチャ波形である。段落
【0018】に示されている『特性信号』は,請求項19中には存在し
ない。したがって,・・・請求項19を特許法第36条第6項第1号,第
2号違反であるという無効理由は,成り立たない。」(審決書44頁22
行~36行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,①特徴信号,シ
グネチャ,シグネチャ波形,望ましく操作されていることがわかってい
るシステムなど,依然曖昧であり,技術的意味や物理量の説明になって
いない。②抽出された特徴情報から均一性の前記尺度を計算するステッ
プも依然開示されておらず,審決でも,それがどこに記載されており,
何であるのか示していない。
よって,請求項19に従属する請求項21ないし23の記載は,特許
法36条6項2号に違反する。
(キ) 請求項21及びこれに従属する請求項22,23
審決は,「1)の『干渉信号違反』については,請求項21中に存在し
44
ない。なお,『干渉信号』については,上記(xvi)のとおりである。
2)の『前記抽出するステップ』については,請求項21が引用してい
る請求項19で特定されている『抽出するステップ』であることは明ら
かである。3),4)については,『第1の特性』とは,干渉信号の低周
波数成分である。5)の『第1の特性から前記抽出された情報を誘導す
るステップ』とある点に関して,『抽出された情報』自体は,請求項21
が引用する請求項19中にも,また,請求項19がさらに引用する請求
項18中にも存在しないが,請求項19中には,『抽出された情報』の代
わりに『抽出された特徴情報』は存在する。したがって,『抽出された情
報』とは『抽出された特徴情報』の誤記であることは明らかである。そ
して,『第1の特性から前記抽出された特徴情報を誘導するステップ』と
は,第1の特性を用いて特徴情報を誘導することであることは明らかで
ある。したがって,・・・請求項21を特許法第36条第6項第1号,第
2号違反であるとする無効理由は,成り立たない。」(審決書45頁4行
~24行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,①第1 の特性に
ついて,審決では,干渉信号の低周波数成分であるとしているが,特許
明細書のどこの記述を基にしているのか全く示してない。また,②抽出
された情報は,抽出された特徴情報の誤記であることは明らかとするが,
無効審判中に訂正請求されなかったのであるから誤記であるとはみなさ
れず,依然不明である。③「第1 の特性から前記抽出された情報を誘導
するステップ」について,審決は「第1 の特性を用いて特徴信号を誘導
することであることは明らか」とするが,特許明細書のどこを根拠にそ
のように述べているのか不明である。よって,請求項21及びこれに従
属する請求項22,23の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反
する。
45
(ク) 請求項23
審決は,「低周波数信号と高周波数信号とは,干渉信号から抽出される
ものであって,図16からは直接,低周波数信号の振幅と高周波数信号
の振幅とを見分けられるものではない。したがって,・・・請求項23を
特許法第36条第6項第1号,第2号違反であるとする無効理由は,成
り立たない。」(審決書45頁下から2行~46頁4行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,第1の特性が低
周波数信号の振幅であり,第2の特性が高周波信号の振幅であったとし
ても,一例として,何が低周波信号で何が高周波数信号であるか,その
振幅とはどれを示すのか,例示されていない。
よって,第1の特性,第2の特性の技術的意味が不明であるから,請
求項23の記載は,特許法36条6項2号に違反する。
(ケ) 請求項24に従属する請求項26
審決は,「1)については,『研磨プロセスの特性』とは,研磨プロセ
スが期待通りに進行しているか否かを示す指標であることは明らかであ
って,請求項24は,その特性を評価する方法に関する発明である。2),
4)の『シグネチャ』については,訂正後の請求項24には存在しない。
3)については,光ビームの点は,上記(xvi)のとおりである。5)
については,『研磨プロセスに対して望ましい操作のポイントを代表して
いる,保存されている情報』とは,研磨プロセスにおいて,なんらかの
操作を行なう際の,干渉計波形と比較される情報であることは明らかで
ある。したがって,・・・請求項24を特許法第36条第6項第1号,第
2号違反であるとする無効理由は,成り立たない。」(審決書46頁6行
~21行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,①具体的に,研
磨プロセスが期待通りに進行しているか否かを示すのは,具体的にいか
46
なる指標によって示されるのか,その指標はどのような方法によって表
すことができるのか,本件特許明細書に該当する記述がなく,また明確
性を欠いている。また,②シグネチャは,段落【0069】から,訂正
後の請求項では干渉計波形を示すのかもしれないが,干渉計波形の技術
的意味,物理量は不明である。また,③審決摘示の「研磨プロセスに対
して望ましい操作」,「操作のポイントを代表している」,「保存されてい
る情報」との記載は,その技術的意味が不明であり,保存されている情
報とはいかなる物理量をもつものかも,依然不明である。
よって,請求項24及びこれに従属する請求項26の記載は,特許法
36条6項2号に違反する。
(コ) 請求項33ないし35
請求項33ないし35の記載は,請求項21ないし23に関して主張
したのと同様の理由により,特許法36条6項1号,2号に違反する。
(サ)請求項36及びこれに従属する請求項37
審決は,「1)については,『基板を研磨することと,各特徴がどう対
応』するかという点は,明確に無効理由を示していない。『それが必要機
能なのか』,及び『何を行うか』は,特許請求の範囲の明確性と関係のな
い事項である。2)の光ビームについては,上記(xvi)のとおりで
ある。したがって,・・・請求項36を特許法第36条第6項第1号,第
2号違反であるとする無効理由は,成り立たない。」(審決書48頁22
行~29行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,①基板を研磨す
る装置に関する請求項に対し,個々の特徴が,研磨する装置の作用効果
としてどう関与するのか何らかの意味をもつ必要がある。審決では,作
用効果を伴う事情は,明確性とは関係ないとしているが,個々の特徴が
作用効果を伴うことなく全く意味を持たないものであれば,その特徴自
47
体の意味がないことになり,発明を形成する技術的特徴を構成するもの
ではないことになる。また,②光ビームに関する記載は,本件特許明細
書にその記載がなく,何のために光を使うのか,また「光」の何を測定(検
出)するのかも不明である。また,「光」は,基板を研磨する装置におい
て,この場合どのように関与するのかといったところも不明である。
よって,請求項36及びこれに従属する請求項37の記載は,特許法
36条6項1号,2号に違反する。
(シ) 請求項38
審決は,「自明である事項を発明特定事項として特定することにより,
特許を受けようとする発明が明確でないとすることはできない。したが
って,研磨パッドが研磨面と底面を備えることは,当然であり自明であ
り,ウィンドウがパッド内に形成されるとすれば,それは,研磨パッド
の底面と研磨面の中に形成されることは当然であり,自明であるので,
請求項38を特許法第36条第6項第2号違反であるとする無効理由は,
成り立たない。」(審決書48頁31行~37行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,「散乱底面を有す
る」とあるが,通常の「面」であれば,100%散乱せずに反射するこ
とはなく,多かれ少なかれ多少の光は散乱する。そうとすれば,「散乱底
面」との限定は,どの程度散乱するものかを記載せねば意味をなさず,
「散乱底面」という語句は,物を特定できず曖昧で意味が不明である。
よって,請求項38の記載は特許法36条6項1号,2号に違反する。
(2) 取消事由2(容易想到性判断の誤り)
ア無効とされた独立形式請求項の従属形式請求項に係る発明の当然無効
請求項1記載の発明は審決において無効と認定されているが,無効とさ
れた「発明特定事項」を他の請求項に残存させた場合は,本来ならば,付
加された技術手段のみでは独立して発明を構成し得ないことになるから,
48
その従属形式請求項記載の発明も必然的に無効原因を有することになる。
イ過去の審査審判における判断との相反
審決は,次の表記載のとおり,過去の審査審判の手続において,「相違点」
欄記載の各相違点について,実質的な相違点には当たらないか又はその相
違点の構成に至ることが容易であると判断して決着済みとしていたにもか
かわらず,それらの事項について,その判断を覆し,容易想到ではないと
相反する判断をしたものであるから,違法である。
本件特
許発明
相違点相違点には当たらないか又は容易想到であるなどと
した過去の審査審判等における書面
書証番

2 5 平成16 年4 月22 日付け取消理由通知書で容易想到甲20(1)
3~8 6 平成13 年10 月18 日付け拒絶理由通知書で容易想到甲19(1)
10~17 11 平成13 年10 月18 日付け拒絶理由通知書で容易想到甲19(1)
21~23 17 平成13 年10 月18 日付け拒絶理由通知書で容易想到甲19(1)
26 24 過去の拒絶理由通知,拒絶査定のいずれにおいても,
相違点の指摘がされていなかった。
甲19(1)

33~35 31 過去の拒絶理由通知,拒絶査定のいずれにおいても,
相違点の指摘がされていなかった。
甲19(1)

36,37 35 平成16 年4 月22 日付け取消理由通知書で容易想到甲20(1)
38 36 平成16 年4 月22 日付け取消理由通知書で容易想到甲20(1)
41 43 平成16 年4 月22 日付け取消理由通知書で容易想到甲20(1)
47 50 過去の拒絶理由通知,拒絶査定のいずれにおいても,
相違点の指摘がされていなかった。
甲19(1)

50 53 過去の拒絶理由通知,拒絶査定のいずれにおいても,
相違点の指摘がされていなかった。
甲19(1)

ウ本件各特許発明の容易想到性判断の誤り
49
(ア)本件特許発明2
審決は,相違点5(ホール及びウィンドウの形状が円弧形状であるこ
と)に係る本件特許発明2の構成は,甲1記載の発明に基づいて当業者
が容易に想到できたものであるとはいえないと判断した。
しかし,上記審決の判断は,誤りである。すなわち,ホール及びウィ
ンドウの形状をどのようなものとするかは,当業者が適宜決定,変更し
得る程度の設計事項であり,その作用効果も当業者が予測可能な範囲の
ものであるから,本件特許発明2の相違点5に係る構成は,甲1ないし
甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができた。
(イ) 本件特許発明3
審決は,本件特許発明3の相違点6に係る構成は,甲1ないし甲5に
記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたもので
あるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,相違点6に係る
構成(ウィンドウとウエハの近接を感知する位置センサ等を備えること)
は,拒絶理由通知で示された特開平7-235520号公報(甲6)記
載の事項と合致し,実質的に相違点が解消しているといえるし,国際公
開94/07110号パンフレット(甲26・特表平8-501635
号公報に対応するもの。甲19(1)の引用文献3)の記載に基づき当業
者が容易に想到し得たものである。
(ウ) 本件特許発明4ないし8
審決は,本件特許発明3の発明特定事項を全て含み,更に別の発明特
定事項を含む本件特許発明4ないし8の相違点6に係る構成は,本件特
許発明3と同様に,甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者
が容易に想到することができたものであるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,前記のとおり本
50
件特許発明3の相違点6に係る構成が容易想到である以上,これを容易
想到でないとする誤った前提に基づいて本件特許発明4ないし8が特許
法29条2項の要件を満たさないとした審決の判断は,誤りである。
(エ) 本件特許発明10
審決は,本件特許発明10の相違点11に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,本件特許発明1
0の相違点11に係る構成(レーザービームが妨害されずにウィンドウ
を通過してウエハに入射するときを感知するステップを備えること)は,
国際公開94/07110号パンフレット(甲26・特表平8-501
635号公報に対応するもの)の記載に基づき当業者が容易に想到し得
た。
(オ) 本件特許発明11ないし17
審決は,本件特許発明10の発明特定事項を全て含み,更に別の発明
特定事項を含む本件特許発明11ないし17の相違点11に係る構成は,
本件特許発明10と同様に,甲1ないし甲5に記載された発明に基づい
て当業者が容易に想到することができたとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,前記のとおり本
件特許発明10の相違点11に係る構成が容易想到である以上,これを
容易想到でないとする誤った前提に基づいて本件特許発明11ないし1
7が特許法29条2項の要件を満たさないとした審決の判断は,誤りで
ある。
(カ) 本件特許発明21
審決は,本件特許発明21の相違点17に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
51
のであるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,本件特許発明2
1の相違点17に係る構成(低周波成分の特性測定ステップと,その抽
出情報の誘導ステップを備えること)は,所望の相対的厚さに研磨され
たことを判断する技術を記載した特開平4-255218号公報(甲5),
干渉信号から研磨速度を検出する技術を記載した特開平2-19690
6号公報(甲7)の記載に基づき,当業者が容易に想到し得た。
(キ) 本件特許発明22及び23
審決は,本件特許発明21の発明特定事項を全て含み,更に別の発明
特定事項を含む本件特許発明22及び23の相違点17に係る構成は,
本件特許発明21と同様に,甲1ないし甲5に記載された発明に基づい
て当業者が容易に想到することができたものであるとはいえないと判断
した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,前記のとおり本
件特許発明21の相違点17に係る構成が容易想到である以上,これを
容易想到でないとする誤った前提に基づいて本件特許発明22及び23
が特許法29条2項の要件を満たさないとした審決の判断は,誤りであ
る。
(ク) 本件特許発明26
審決は,本件特許発明26の相違点24に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,本件特許発明2
6の相違点24に係る構成(研磨速度決定ステップと,均一性の尺度決
定ステップと,それらの保存情報との比較ステップを備えること)は,
甲5及び甲7の記載に基づき当業者が容易に想到し得た。
52
(ケ) 本件特許発明33
審決は,本件特許発明33の相違点31に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,本件特許発明3
3の相違点31に係る構成(データプロセッサのプログラミング)は,
甲7の記載に基づき当業者が容易に想到し得た。
(コ) 本件特許発明34及び35
審決は,本件特許発明33の発明特定事項を全て含み,更に別の発明
特定事項を含む本件特許発明34及び35の相違点31に係る構成は,
本件特許発明33と同様に,甲1ないし甲5に記載された発明に基づい
て当業者が容易に想到することができたものであるとはいえないと判断
した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,前記のとおり本
件特許発明33の相違点31に係る構成が容易想到である以上,これを
容易想到でないとする誤った前提に基づいて本件特許発明34及び35
が特許法29条2項の要件を満たさないとした審決の判断は,誤りであ
る。
(サ) 本件特許発明36
審決は,本件特許発明36の相違点35に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,本件特許発明3
6の相違点35に係る構成(光ビームを受容する散乱面を有すること)
は,反射光の光路に散乱面を介在させる技術を記載した特開平3-26
8241号公報(甲12)の記載に基づき当業者が容易に想到し得た。
53
(シ) 本件特許発明37
審決は,本件特許発明36の発明特定事項を全て含み,更に別の発明
特定事項を含む本件特許発明37の相違点35に係る構成は,本件特許
発明36と同様に,甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者
が容易に想到することができたものであるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,前記のとおり本
件特許発明36の相違点35に係る構成が容易想到である以上,これを
容易想到でないとする誤った前提に基づいて本件特許発明37が特許法
29条2項の要件を満たさないとした審決の判断は,誤りである。
(ス) 本件特許発明38
審決は,本件特許発明38の相違点36に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,本件特許発明3
8の相違点36に係る構成(ウィンドウが光透過性,散乱底面を有し,
部分的に透過性を有する研磨パッドの一部を備え,又は光透過性を有す
る,パッドに形成されたプラグを備えること)は,特開平7-2355
20号公報(甲6),又は特開平3-268241号公報(甲12)の記
載に基づき当業者が容易に想到し得た。
(セ) 本件特許発明41
審決は,本件特許発明41の相違点43に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,本件特許発明4
1の相違点43に係る構成(研磨パッドの透過性部分を中実なポリウレ
タンとすること)は,甲5,特開平5-193991号公報(甲9)及
54
び特開平5-80201号公報(甲10)の記載に基づき,当業者が容
易に想到し得た。
(ソ) 本件特許発明47
審決は,本件特許発明47の相違点50に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,本件特許発明4
7の相違点50に係る構成(研磨パッドが第1 の透過性部分と,研磨面
を与える第2の非透過性部分とを備え,該第1の透過性部分とほぼ調心
されたアパーチャ〔空間〕が底面に形成されること)は,甲1及び甲8
の記載に基づき当業者が容易に想到し得た。
(タ) 本件特許発明50
審決は,本件特許発明50の相違点53に係る構成は,甲1ないし甲
5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるとはいえないと判断した。
しかし,審決の上記判断は,誤りである。すなわち,本件特許発明5
0の相違点53に係る構成(研磨パッドは,第1 の層の透過性部分とほ
ぼ調心されたアパーチャが第2の層に形成されること)は,甲8の記載
に基づき当業者が容易に想到し得た。

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2 被告の反論


(1) 取消事由1(特許法36条4項,6項1号,2号に係る判断の誤り)
に対し
ア請求項を特定しない特許法36条6項1号,2号に係る判断の誤りに対

(ア) Bの無効理由(「光」の不明確さ等)の判断の誤りに対し
レーザー光の反射を利用した終点検出の原理が,レーザー光に限らず
55
通常の可視光,すなわち光にも適用できるものであることは,技術常識
であり,原告自身もこのことを認めている(無効2006-80075
号事件における第1回口頭審理調書・乙53)。なお,一般光から一部の
波長帯のものを取り出すことができることは,周知の事項である(乙2
4参照)。よって,原告の主張,すなわち,「レーザー光」と「光」を同
一視することはできず,本件各特許発明は,その審査過程において公知
例との差別化を図るため,「光」に関する内容を意識的に除外して,「レ
ーザー光」に係るものに限定しているとみなされるのに,その限定され
た内容が不明確であるから,本件各特許発明は,特許法36条6項2号
に違反するとの主張は,理由がなく,審決の判断に誤りはない。
なお,原告指摘の被告の意見書(甲19(2))の記載は,甲6の「反射
測定手段」が本件各特許発明のレーザー干渉計に当たらないことを述べ
たものであり,明確性の要件の充足性とは,直接関連しないことである。
(イ) Cの無効理由(レーザー干渉計の不明確さ)の判断の誤りに対し
「レーザー干渉計」の語は,甲5に「レーザ干渉測定装置」と記載さ
れ,また,原告出願に係る特開2003-163191号公報(乙55,
段落【0031】),特開2005-340679号公報(乙56)にお
いても記載されているように,CMPの終点検出装置として一般的に用
いられているから,「レーザー干渉計」の技術的手段を具現する装置が
何であるか不明であるとはいえない。また,そうである以上,仮に,光
の物理量や,作用原理についての具体的な記載がなくても,実施可能要
件を満たす。なお,請求項2等の「レーザー干渉計」が2つの反射ビー
ムの位相関係による強度変化を読み取ることができる検出器を含むもの
であることは,請求項2の記載及び本件特許明細書の段落【0039】
の説明からも明らかである。
原告は,甲16,甲17においてはレーザー干渉計を使用せずに,光
56
強度波形を得ているから,本件特許のレーザー干渉計は実質的な機能と
しては光強度(反射率を含む。)を測定しているだけであり,レーザー干
渉計ではないと主張する。しかし,上記のとおり,「レーザー干渉計」と
いう用語は,CMPの終点検出装置として一般的に用いられている以上,
原告の主張は独自の主張であって理由がない。
(ウ) Dの無効理由(ブランク酸化物ウエハのデータ開示に意味がない
こと)の判断の誤りに対し
CMPで対象とするパターンウエハにおいても,平坦化により「干渉
信号が周期的な正弦波の形態として認識できるようになる」(本件特許明
細書,段落【0044】)から,審決認定のとおり,ブランク酸化膜ウエ
ハの研磨に関して検証されたデータをパターンウエハのCMP研磨にお
いて参照データとして利用することが可能である(乙58[本件各特許
発明の発明者Aの宣誓書]3頁(訳文3頁)の「18」以下)。
(エ) Eの無効理由(「信号」の不明確さ)の判断の誤りに対し
各請求項において用いられている各種「信号」の技術的意義は明確で
あるから,技術的意味が不明確であるとする原告の主張は理由がない。
また,本件各特許発明の性質上,各種「信号」の物理量を特定する必要
がないから,「物理量が不明確である」ことを理由とする原告の主張も理
由がない。
(オ) Fの無効理由(フィルタに係る記載不備)の判断の誤りに対し
a 「フィルタ」とは,「所定の周波数を有する信号の成分だけを通過さ
せる」フィルタであることは明確であり(本件特許明細書,段落【0
049】),周知の技術である。
なお,【図9】(a)の周波数が【図9】(b)とは異なっているのは,
【図9】(a)が,レーザビームのための通路をウィンドウが与えない
間の測定値(強度ゼロ)を含んでいるのに対し,【図9】(b)はこの
57
ような「ゼロ」の測定値を削除した(時間尺度を更新していないため,
表示上は時間軸方向の圧縮を生じる。)からであり(乙58[本件各特
許発明の発明者Aの宣誓書]4頁~6頁(訳文4,5頁)),何ら不自
然なことではない。
b CMPで対象とするパターンウエハにおいても,平坦化により「干
渉信号が周期的な正弦波の形態として認識できるようになる」(本件特
許明細書,段落【0044】)から,これをフィルタ処理することによ
り,研磨に関する情報を得ることができる。正弦波信号は,カーブフ
ィッティングアルゴリズムなどで検出することが可能である(乙58
[本件発明の発明者Aの宣誓書]7頁(訳文6頁)の「31」)。よっ
て,信号から正弦波状のサイクルを検出することに関する請求項(請
求項8,15等)は実施可能要件を満たす。
除去速度が時々により多少変化するとしても,本件各特許発明の実
施に何ら支障はない。
平坦化されたことを測定するために,原告主張のようにウエハ内の
同一点を測定し続ける必要はない。複数の点が完全に同一のタイミン
グで測定されなかったとしても,ウエハ表面の均一性を検出できる。
c 【図13】に示すデータが一部で負の値であるのは,同図の作成に
使用したソフトウェアが,最初の値を相対的「ゼロ」点として使用し
て強度値を再計算したためであり,何らのエラーを表すものではない
(乙58[本件発明の発明者Aの宣誓書]7頁(訳文6頁)の「28」)。
したがって,【図13】においては,審決認定のとおり,積分した結果
が必ず正の値となるものではない。
d 「フィルタ」の技術的意義は明確であり,CMPプロセス中に除去
速度が時々により多少変化するとしても,本件各特許発明の実施に何
ら支障はなく,また,パターンウエハにおいても,検出される信号を
58
フィルタ処理することにより,研磨に関する情報を得ることができる。
(カ) Gの無効理由(CMP研磨の終点検出)の判断の誤りに対し
本件各特許発明の「終点(の)検出(決定)」とは,CMPプロセスを
終了する時を決定することを意味し,用語として何ら明確性に欠けると
ころはない。また,正弦波信号は,カーブフィッティングアルゴリズム
などで検出することが可能であり(乙58[本件発明の発明者Aの宣誓
書]7頁(訳文6頁)の「31」)から,信号から正弦波状のサイクルを
検出することに関する請求項(請求項8,15等)に実施可能要件違反
はない。
(キ) Hの無効理由(ウエハ表面の均一性測定)の判断の誤りに対し
研磨パッドはウエハに対して半径位置を変更しながら研磨するもので
ある(【図17】には,研磨ヘッドの中心軸26が左右に移動することを
示唆する矢印が記載されているし,段落【0003】には,「通常は研磨
ヘッドが自身の中心軸26の回りに回転し,平行移動アーム28を介し
てプラーテンの表面の端から端まで平行移動する。」と記載されている。)
ので,研磨パッドの一部に設けられたウィンドウを通してレーザー反射
光等を検出することにより,ウエハ表面の均一性を検出できるし,それ
はパターンウエハにも該当する。
原告は,「均一性を求めるためには,ウエハ面内で複数の点の膜厚を測
定する必要がある」ところ,複数の点を「同一のタイミングで測定」す
ることはできないから,【図17】に示す構成では,均一性の尺度を原理
的にモニタすることはできないと主張する。しかし,複数の点が完全に
同一のタイミングで測定されなかったとしても,ウエハ表面の均一性を
検出できるので,原告の主張は誤りである。
イ請求項を特定した特許法36条6項1号,2号に係る判断の誤りに対し
(ア) 請求項1に従属する請求項2ないし8に対し
59
審決の「B 請求人の主張するBの無効理由についての判断」(審決書
37頁下から6行~38頁3行)記載のとおりである。
(イ) 請求項3及びこれに従属する請求項4ないし8に対し
本件特許発明3の「近接しているときを感知」については,「どの程度」
近接しているときを感知するのかについての限定はされていないから,
ウエハがウィンドウ上にあるときを感知する場合だけでなく,ウエハが
ウィンドウから所定の距離よりも近接していることを感知する場合も含
むと解される。「ホール効果,渦電流,光遮断器,又は音響センサ等の,
あらゆる既知の近接センサ」(乙99,段落【0035】)を用いて,ウ
エハがウィンドウから所定の距離よりも近接していることを感知するこ
とに何ら支障はないから,本件特許発明3は特許法36条6項1号,2
号に違反しない。
(ウ) 請求項4及びこれに従属する請求項5ないし8に対し
本件特許発明4の「検出信号」とは,レーザー干渉計が「ウエハから
反射される光が検出される毎に発生」する信号であることは,請求項の
記載から明らかである(本件特許明細書,段落【0035】参照)。
請求項4において「サンプリングされた検出信号を代表する」もので
あると特定しているので,データ信号と検出信号の関係は明らかである。
「データ取得手段」は,「サンプリングされた検出信号を代表するデータ
信号を出力する」ものであり,技術的意味は明らかである。「該レーザー
干渉計と該位置センサとに接続されたデータ取得手段」については,【図
6】を参照することにより,位置センサである光遮断器タイプのセンサ
62とレーザー干渉計32とを関連させたデータ取得手段であることが
明らかである。
(エ) 請求項5に対し
「データ信号」は,「検出信号の積分されたサンプルを代表する」もの
60
であり,その技術的意味は明らかである。
(オ) 請求項10及びこれに従属する請求項11ないし17に対し
決定するステップは,「レーザービームが妨害されずにウィンドウを通
過してウエハに入射するときを感知するステップを備える」と特定され
ており,両者の関係は明確である。
なお,原告は,「レーザービームが・・・ウィンドウを通過してウエハ
に入射するときを感知するステップ」は,終点を決定するためのアルゴ
リズムとは全く関係がないと主張する。しかし,レーザービームが妨害
されずにウィンドウを通過してウエハに入射するときを感知することが,
ウィンドウを通過する反射光を検出しCMPの終点を決定する上で寄与
することが明らかであるから,原告の上記主張は誤りである。
(カ) 請求項19に従属する請求項21ないし23に対し
「特徴情報」は,望ましく操作されていることがわかっているシステ
ムに対して干渉計によって得られたシグネチャ波形を意味する(本件特
許明細書,段落【0068】~【0070】)。干渉信号から特徴情報を
抽出することや均一性の尺度を計算することは,バンドパスフィルタや
カーブフィッティングなど種々の方法があり,それぞれ,例示するまで
もなく,周知のものである。
(キ) 請求項21及びこれに従属する請求項22,23に対し
本件特許発明21の「抽出された情報」とは「抽出された特徴情報」
の誤記である。そして,「第1の特性から前記抽出された特徴情報を誘導
するステップ」とは,第1の特性を用いて特徴情報を誘導することであ
ることは明らかである(請求項21の記載,段落【0018】,【006
0】,【0061】)。
(ク) 請求項23に対し
低周波数信号と高周波数信号とは,干渉信号から抽出されるものであ
61
って,【図16】からは直接,低周波数信号の振幅と高周波数信号の振幅
とを見分けられるものではない。この点に関し,原告は,何が低周波数
信号で何が高周波数信号か,その振幅とはどれを示すのか例示されてい
ないと主張する。しかし,低周波数信号及び高周波数信号の振幅につい
ては,本件特許明細書の段落【0062】等に記載(段落【0056】
~【0058】も参照)があり,請求項23の「低周波数信号の振幅」
及び「高周波数信号の振幅」の技術的意味も明確であるから,原告の主
張は理由がない。
(ケ) 請求項24に従属する請求項26に対し
「研磨プロセスの特性」とは,研磨プロセスが期待通りに進行してい
るか否かを示す指標であることは明らかであって,請求項24は,その
特性を評価する方法に関する発明である。「研磨プロセスの特性を評価す
るインシチュウの方法」は,請求項24の(a)ないし(e)の記載で
明らかにされている。
干渉計波形は,例えば,段落【0068】に,「干渉計波形は,システ
ムのシグネチャ(即ち,その特性)を表している。」とあるように,シス
テムの特性を表すものであり,特定の物理量が問題になるわけではない。
「干渉計波形を抽出するステップ」についても,クレームの文言自体及
び本件特許明細書の段落【0068】からその技術的意味が明らかであ
る。
「研磨プロセスに対して望ましい操作のポイントを代表している,保
存されている情報」とは,研磨プロセスにおいて,何らかの操作を行な
う際の,干渉計波形と比較される情報であることは明らかである。
(コ) 請求項33ないし35に対し
請求項33ないし35の記載は,請求項21ないし23に関して既に
反論したのと同様の理由により,特許法36条6項1号,2号に違反す
62
るとはいえない。
(サ) 請求項36に対し
「基板を研磨することと,各特徴がどう対応」するかという点は,明
確に無効理由を示していない。「それが必要機能なのか」,及び「何を行
うか」は,特許請求の範囲の明確性と関係のない事項である。
(シ) 請求項38に対し
原告は,審判において,「散乱底面」という語が不明確であるとの主張
をしておらず,審判の判断の対象になっていないから,本件訴訟の審理
範囲外である。なお,散乱の程度に係る記載がないとしても,「散乱底面」
という語が不明確であるとはいえない。
(2) 取消事由2(容易想到性判断の誤り)に対し
ア過去の審査審判における判断との相反に対し
原告主張の甲1ないし甲5の記載に基づく特許法29条2項の要件該当
性(無効原因)を判断するのに必要である限り,過去の審査審判手続にお
いて実質的な相違点に当たらないと指摘し,又は相違点の容易想到性判断
において過去の審査審判手続の見解と相反する判断をしたとしても,違法
であるとはいえない。
イ本件各特許発明の容易想到性判断の誤りに対し
本件各特許発明は,次の(ア)ないし(キ)のうち少なくとも1つの発
明特定事項が甲1ないし甲5に記載されていないから,特許法29条2項
の要件を満たさないとした審決の容易想到性判断に誤りはない。
(ア) ウィンドウを円弧形状とすること(本件発明2)
(イ) ウエハがウィンドウに近接しているときを感知すること(本件特
許発明3~8,10~17)
(ウ) 干渉信号から低周波成分の特性を測定すること(本件特許発明2
1~23,33~35)
63
(エ) 干渉信号から研磨速度や均一性の尺度を決定することや,研磨プ
ロセスの監視に研磨速度と均一性の尺度を用いること(本件特許発明2
6)
(オ) ウィンドウとして機能する光透過部材に散乱面を設けること(本
件特許発明36~38)
(カ) 研磨パッドにおいて,透過性部分とほぼ調心されたアパーチャを
底面に有すること(本件特許発明47,50)
(キ) 研磨パッドを中実なポリウレタンで構成すること(本件特許発明
41)


tpp



第4 当裁判所の判断




1 取消事由1(特許法36条4項,6項1号,2号に係る判断の誤り)について






(1) 請求項を特定しない特許法36条4項,6項1号,2号に係る判断の誤りについて



ア無効理由B(「光」の不明確さ等)の判断の誤りについて

(ア) 原告は,本件各特許発明は,その審査過程において公知例との差別化を図るため,「光」に関する内容を意識的に除外して,「レーザー光」に係るものに限定しているようにみなされるところ,レーザー光に係る終点検出の固有の原理を発明の詳細な説明に記載することなく,また,レーザー光の反射を利用した終点検出の原理が通常の可視光の場合と同一視されることを前提にして,特許請求の範囲の請求項に「光」の記載をすることは,本件特許明細書に記載されていない内容を請求項に記載することにもなりかねないから,特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号(いわゆる明確性要件)に違反し,又は同項1号(いわゆるサポート要件)に違反する,また,終点検出の原理が不明であるから,レーザー光の反射を利用した終点検出に係る発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項(いわゆる実施可能要件)に違反する,旨主張する。

64

top
しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。

すなわち,本件特許明細書の【課題を解決するための手段】(乙99,段落【0006】~【0025】)には,「光ビーム」によって発生する干渉信号を利用した発明についての記載がある。例えば,「また,データ取得装置により出力されるデータ信号を,進行中のCMPプロセスの終点の決定以外の事項に用いても有利である。従って,別の特徴においては,本発明は,前記の層を研磨している最中に基板上の層の均一性を測定するインシチュウの方法である。この方法は,以下のステップを備えている:研磨中に光ビームを層へ向けるステップと;光ビームの基板からの反射される(判決注「基板から反射される」の誤記と認める。)ことにより発生する干渉信号をモニタするステップと;この干渉信号から均一性の尺度(measure )を計算するステップと。」(乙99,段落【0017】),「概説的には,別の特徴として,本発明は,表面上に形成された層を有する基板を研磨するためのプロセスの特徴をインシチュウに決定するための方法である。この方法は,以下のステップを備える:研磨中に光ビームを層へ向けるステップと;基板から反射される光ビームによって発生される干渉信号をモニタするステップと;干渉信号からシグネチャ(signature )を抽出するステップと;抽出されたシグネチャを,研磨プロセスの所望の操作ポイントを代表する保存情報と比較するステップと;抽出されたシグネチャが保存情報から所定の量よりも大きく広がったときに警告信号を発するステップと。」(乙99,段落【0019】)等の記載があり,「光ビーム」によって発生する干渉信号を利用した発明が記載されている。


また,本件特許明細書には,本件各特許発明のビームによる測定原理(終点検出の原理)に関して,「前述の第1の反射ビーム及び第2の反射ビームは,図4及び図5に示されるように結合ビーム60を形成し,検出器48で検知される干渉を生じさせる。第1の反射ビーム及び第2の反射ビームが相互に位相が合っている場合は,これらは検出器48において最大値となる。これらのビームの位相が180゜ずれている場合は,検出器において最小値となる。これらの反射ビームの間のその他の位相関係により,干渉信号が,検出器により検知される最大値と最小値の間のいずれかの値となるだろう。この結果により,検出器48からの信号出力は,酸化物層52の厚さがCMPプロセスの最中に減少されるにつれて,この厚さに対して周期的に変化する。実際,図9(a)及び(b)のグラフに示されているように,検出器48からの信号出力は,正弦曲線状の様式で変化するだろうことが観察された。・・・」(乙99,段落【0039】)と記載されている。そうすると,第1及び第2の反射ビームの相互の位相関係により干渉光(結合ビーム)が変化する現象が検出器により検知可能な光ビームであれば,本件各特許発明が実施可能であることは当業者にとって自明な事項であるといえる。

そして,レーザービーム以外の光であっても,終点検出が可能であることは,本件無効審判請求事件の第1回口頭審理において,「請求項1の光について,レーザービーム,コリメートされた光以外の光であっても,精度は別にして,終点検出は可能である。」ことは,両当事者間に争いがない(乙53)。

以上によれば,審決が「レーザー光の反射を利用した終点検出の原理が,レーザー光に限らず通常の可視光,すなわち光にも適用できるものであることは明らかである。」(審決書37頁下から5行,4行)と認定判断したことに誤りはなく,無効理由Bにより,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項に違反し,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号又は同項2号に違反するということはできない。
66


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(イ) なお,原告は,レーザー光と可視光を同一視する審決の説示は,本件特許成立過程における本件特許権者(被告)の意見書の見解に反しており,誤りであると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,原告が指摘する平成14年4月10日付け意見書(甲19(2))には,引用文献1(甲6)の装置の光学測定手段に関して,「反射率の変化を測定する反射率測定手段であり,本願発明のようなレーザー干渉計ではありません。」(3頁1行,2行)との記載がある。しかし,これは,甲6の「反射率測定手段」が本件各特許発明のレーザー干渉計に当たらないことを述べたものである。甲6の「反射率」は,「両位置の初期反射率は約90%で,これは全面被膜A1面に対応する。研磨エンドポイントの反射率は,位置1で約35%(未加工シリコンの反射率)であり,位置2で約65%(AlとSiの反射率の面積加重平均に近い)である。」(甲6,段落【0035】)との記載にあるとおり,ウエハ表面の部材(AlとSi)の面積比に依存する反射率であって,甲6は,光ビームの干渉に基づく反射率の変化を測定するものではないことを述べているにすぎない。

また,上記意見書には,引用文献2(甲1)との対比において,「『干渉』に関する記述が〔0032〕にありますが,これは,実験結果の確認のために,『白色灯』や『蛍光灯』による干渉縞を『目視』で測定したことを示しているのであり,本願発明のレーザー光を用いて監視する技術と同じ次元ではありません。」(3頁下から3行~4頁1行)との記載がある。しかし,これも,甲1の研磨状態の監視方法が目視によるものであって,本件特許発明1のレーザー干渉計による干渉信号のモニタとは異なる手法であることを述べているにすぎない。

したがって,審決の認定と,本件特許成立過程における被告の主張とは矛盾するものではないから,原告の上記主張は採用の限りでない。
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(ウ) また,原告は,干渉を使用しない全く異なる別の原理によって実施可能となる場合にも権利を付与するという不合理な結果を生むと主張する。

しかし,原告の上記主張も採用の限りでない。すなわち,本件各特許発明には,「干渉計」又は「干渉信号」がその発明特定事項に含まれているから,干渉を使用しない別の原理に基づく発明に対して本件各特許発明の権利が付与されるとの原告の上記主張は採用の限りでない。



(エ) さらに,原告は,本件各特許発明において,終点検出の際に光の何を(どのような物理量を)検出して,それがどのようになったことで終点を決定しているのか,依然不明であり,請求項における語句の定義が曖昧で明確性を欠いているから特許法36条6項2 号違反があり,その作用原理が不明であるから同条4 項違反があると主張する。

しかし,原告の上記主張も採用の限りでない。すなわち,本件特許明細書(乙99,段落【0039】)の記載を参照すれば,第1の反射ビーム及び第2の反射ビームが相互に位相が合っている場合に,これら(すなわち,結合ビーム)が検出器48において最大値となり,これらのビームの位相が180゜ずれている場合には,検出器において最小値となるのであるから,技術常識からみて,本件各特許発明における「レーザー干渉計」が2つの反射ビームの位相関係による強度変化を読み取ることができる検出器を含むものであるものと認められ,少なくとも,反射光の位相関係による強度変化を測定することにより,本件各特許発明における層厚(又は除去された層厚)の測定が可能であることは,当業者にとって,本件特許明細書の記載に基づいて自明のことであると認められる。したがって,作用原理が明示的に記載されていないことを理由にして,本件各特許発明について特許法36条4項又は同条6項2号違反があるとする原告の主張は採用の限りでない。

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イCの無効理由(「レーザー干渉計」の不明確さ)の判断の誤りについて



(ア) 原告は,「レーザー干渉計」に関して,本件特許明細書の発明の詳細な説明においては,反射する光(レーザー光)の何を測定するのか(光の強度か,反射率か,波長か,干渉縞の間隔か,可干渉距離なのか)などの測定の具体的手段や作用原理が明確にされていないから,特許法36条4項,同条6項2号に違反すると主張する。


しかし,原告の主張は,採用の限りでない。すなわち,「レーザー干渉計」は,CMPの終点検出装置として一般的に知られており,本件の優先権主張日(平成7年3月28日)当時に周知の技術であったということができる。例えば,①本件出願前に公開された特開平4-255218号公報(甲5,段落【0009】)には,「半導体ウェーハに形成された酸化物のような平面化すべき材料の厚さを検出するレーザ干渉測定装置の形態による終点検出手段とを備えている。」との記載がある。また,②本件出願の後に公開されたものではあるが,原告出願に係る特開2003-163191号公報(平成13年11月28日出願。乙55,段落【0031】)においても,「・・・CMP処理中での(in-situ)終点の検出がなされる。レーザー干渉計32等による終点の検出は,公知の手段(たとえば,特開平10-83977号)によればよい。」との記載がある。そして,同明細書においても,その「レーザー干渉計」の作用原理についての説明を省略していること(乙55)に照らすならば,それらの事項は当業者であれば周知の技術的事項であって実施可能なものとして理解され得るものと推認される。さらに,特開2005-340679号公報(乙56)にも「CMP装置29は,動作中に,レーザー干渉計40からのレーザービーム41を用いてウエハの表面から除去された堆積膜材料の量を決定する。」(乙56,段落【0006】)と記載されているように,レーザー干渉計は,CMPの終点検出装置として一般的に用いられている。

そうすると,本件各特許発明におけるレーザー干渉計は,本件の優先権主張日当時においても周知の技術であって,光の何を計測するのかなどの作用原理に係る詳細な記載が本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載中になくとも,当業者において,本件各特許発明の実施をすることができ,特許請求の範囲の記載としても明確であるといえるから,特許法36条4項,6項2号の要件を満たすものであるといえる。

(イ) また,原告は,本件特許の「レーザー干渉計」は,サンプルに依存してその光路数が変わるものであって,装置として,参照光路とサンプル光路の2つの光路を形成し,その2つの光路での光路差から干渉させて測定するという,装置としての干渉計を構成していないから,レーザー干渉計は,「干渉計」ではないと主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,原告の上記主張は,参照光路とサンプル光路の2つの光路を形成し,その2つの光路での光路差から干渉させて測定するという装置としての干渉計を念頭においたものと解されるが,本件特許明細書によれば,本件各特許発明の「レーザー干渉計」は,ウエハからの2つの反射ビームの干渉(位相関係)に基づく反射光の変化を測定するものであると解釈することができるから,原告の上記主張は採用の限りでない。

(ウ) さらに,原告は,甲16,甲17においては,膜の除去過程ではなく,膜の堆積過程をモニタする機構ではあるが,セレン光電池(光強度を測定する装置)で膜厚の堆積に伴う干渉波形を描き,膜厚測定を行っているから,本件特許のレーザー干渉計は実質的な機能として光強度(反射率を含む。)を測定しているだけであり,レーザー干渉計ではないと主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,前記のとおりレーザー干渉計は,CMPの終点検出装置として周知の技術として用いられているから,これを光強度の測定にすぎないとする原告の上記主張は採用の限りでない。

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ウDの無効理由(ブランク酸化物ウエハのデータ開示に意味がないこと)の判断の誤りについて




原告は,①パターンウエハは,ブランク酸化物ウエハに示されるような安定した干渉波形を得ることが原理的にできず,ブランク酸化物の検出データを参照データとして利用することはできないから,ブランク酸化物の検出データは,CMPで使用されるパターンウエハの終点検出の課題を解決するものでもない,②ウエハとプラテンは共に回転運動しているため,絶えずウエハ面内の全く同じ箇所を,再現性よく測定しない限り酸化膜厚の変化量(除去量)をモニタできないのであるが,0.35μm も変化しない同一箇所を測定することは原理的に困難であり,実質毎回光路の長さが異なる箇所を測定することになる結果,パターンウエハでは,ブランク酸化物ウエハに示されるような安定した干渉波形を得ることが原理的にできず,ブランク酸化物の検出データを参照データとして利用することはできない,③よって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反し,本件各特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,同条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,CMPで対象とするパターンウエハにおいても,平坦化により「干渉信号が周期的な正弦波の形態として認識できるようになる」(乙99,段落【0044】)と認められる上,一般に,製品ウエハを研磨する前にブランク酸化膜ウエハを使用して研磨プロセスを検定し,研磨システムの動作確認をすることもあり得ると認められるから,ブランク酸化膜ウエハの研磨に関して検証されたデータをパターンウエハのCMP研磨において参照データとして利用することが可能であるといえる(乙58[本件各特許発明の発明者Aの宣誓書]3頁(訳文3頁)の「16」「18」)。
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エEの無効理由(「信号」の不明確さ)の判断の誤りについて



原告は,本件特許明細書内における「・・信号」とする用語については,検出信号,感知信号,データ信号,干渉信号,干渉計信号,低周波信号,高周波信号,出力信号,特性信号,特徴信号など様々であり,これらの全ての信号に関する技術的意味やその物理量が不明確であるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,本件特許発明4の「検出信号」が,レーザー干渉計において「ウエハから反射される光が検出される毎に発生」する信号であることは,請求項4の記載及び本件特許明細書の「ウエハ14にレーザービーム34が入射する時だけ,レーザー干渉計32からの検出信号をサンプリングすることが可能である。」(乙99,段落【0035】)との記載から認められる。また,本件特許発明4の「感知信号」とは,位置センサが,「ウィンドウがウエハに近接する毎に出力」する信号であることは,請求項4の記載から認められる。さらに,「データ信号」については,請求項4において「サンプリングされた検出信号を代表する」ものであると特定されているので,データ信号と検出信号との関係も,明らかである。

本件特許発明18の「干渉信号」(干渉計信号)については,同請求項の「基板から反射されてくる前記光ビームによって生じる」との記載,及び本件特許明細書の「前述の第1の反射ビーム及び第2の反射ビームは,図4及び図5に示されるように結合ビーム60を形成し,検出器48で検知される干渉を生じさせる。・・・これらの反射ビームの間のその他の位相関係により,干渉信号が,検出器により検知される最大値と最小値の間のいずれかの値となるだろう。」(乙99,段落【0039】)との記載から,「干渉信号」が,レーザー干渉計に相当する光ビームの際の干渉計で検出される信号に相当するものであることが認められる。

同様に,他の各信号も,本件特許明細書の記載と技術常識に基づいて,当業者がその意味内容を把握できるものと認められるから,各請求項に係る発明が不明であり,実施できないものであるとはいえない。

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オFの無効理由(フィルタに係る記載不備)の判断の誤りについて



(ア) 原告は,【図9】(a)のグラフをどのようにフィルタ処理することにより,【図9】(b)のグラフのようになるのかは結果的に明確にされていないから,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反し,本件各特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,同条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,【図9】(別紙「本件特許明細書【図9】」)に関して,本件特許明細書には,「実際,図9(a)及び(b)のグラフに示されているように,検出器48からの信号出力は,正弦曲線状の様式で変化するだろうことが観察された。図9(a)のグラフは,時間(x-軸)に対する各サンプリング時間にわたる検出信号の振幅(y-軸)の積分を示している。このデータは,シリコン基板の上に形成されている酸化物層(即ち,ブランク酸化物ウエハ)を有するウエハにCMPの手順を実施しながら,図4の装置のレーザー干渉計出力をモニタすることにより,得られたものである。図9(b)のグラフは,図9(a)のグラフからのデータにフィルタをかけた態様を表している。このフィルタをかけた態様は,干渉計の出力信号における周期的な変化を更にはっきりと示している。CMPプロセスの最中に酸化物層から材料が除去されるときの速度によって,干渉信号の周期が制御されることは,注目すべきである。従って,プラーテンパッドに対してウエハ上にかかる下向きの力やプラーテンとウエハとの間の相対速度が,この周期を決定する。図9(a)及び(b)でプローブとされている出力信号の各周期中に,酸化物層はある厚さだけ除去される。」(乙99,段落【0039】)と記載されている。また,【図14】の膜厚を制御する方法に関して,「ステップ502では,検出器信号をフィルタにかけ,着目する構造に関する所定の周波数を有する信号の成分だけを通過させる。このステップは,周知のバンドパスフィルタの技術を用いて実行される。」(乙99,段落【0049】)と記載されている。上記によれば,【図9】の処理は,所定の周波数を有する信号の成分のみを通過させるフィルタにより行われる。そして,【図9】のx軸(時間軸)の変更は,【図9】(a)はウィンドウとレーザビームとが整合していない間の測定値(強度ゼロ)を含んでいるのに対し,【図9】(b)はこのような「ゼロ」の測定値を削除したためであると認められる(乙58・本件各特許発明の発明者であるAの宣誓書4頁~6頁〔訳文4頁,5頁〕の「22~26」)。また,当業者であれば,何らかの手段による時間軸方向のデータの圧縮があったものと合理的に認識することができるから,【図9】(a)から(b)へのフィルタ処理の内容についての記載がなかったからといって,各請求項に係る発明を当業者が直ちに実施することができないとはいえない。

(イ) また,原告は,あらかじめ所定の周波数を通過させるフィルタを使用するのであれば,その周波数に対応する膜の除去速度のみを通過させることになるため,どのようにしてその膜の除去速度を見積もり,終点を検出するのか不明であるから,本件各特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,同法36条6項2号に違反する上,除去膜厚や膜の除去速度を,周期(周波数)で見積もることは,原理的に成り立たないから,実施可能要件を欠き,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,同条4項に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,フィルタ処理には周知のバンドパスフィルタの技術を用いるのであり(乙99,段落【0049】),バンドパスフィルタは単一の周波数ではなく,ある帯域の周波数を通過させるものであるから,除去速度が時々により多少変化するとしても信号がフィルタを通過することができ,本件各特許発明の実施に何ら支障はないと解されるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項に違反し,又は特許請求の範囲の記載が同条6項2号に違反するということはできない。

(ウ) また,原告は,本件特許明細書の【図13】は,検出器信号の振幅を時間に対してプロットしたグラフとしているが,検出器信号の振幅としているので,信号の振幅が負ということはあり得ないと主張する。しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,【図13】に示す強度に対する測定値の一部が負の値であるのは,同図の作成に使用したソフトウェアが,最初の値を相対的ゼロ点として使用して強度値を再計算したためであり,このことは,【図9】(b)のグラフにおいても同様と認められる(乙58・Aの宣誓書,7頁〔訳文6頁〕の「28」)。したがって,【図13】においてプロットされた値は,ソフトウェア処理の結果として,単に初期の測定値との相対的な値を示したものであって,必ず正の値となるものではないから,審決の判断が誤りであるということはできない。

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カGの無効理由(CMP研磨の終点検出)の判断の誤りについて



(ア) 原告は,①リアルタイムに波形を取得しながら研磨終点を検出しなければならないが,それをどのように検出するのかは不明である,②本件特許明細書の段落【0045】の記載において,終点を一意に検出する方法が示されていない,そうすると,CMP研磨の終点検出に係る本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反し,特許請求の範囲の記載は,同条6項2号に違反する,と主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,審決が認定するように,本件特許明細書(乙99,段落【0045】)には,検出された信号から認識可能な正弦波状のサイクルが取り出されることをCMP研磨の終点とすることが記載されている。すなわち,「認識可能な正弦波状のサイクルは,約250秒のところで現れていることが示される。ここは,パターニングされたウエハが最初に平坦化された点と一致する。


無論,干渉計の出力信号のリアルタイムのモニタにおいて,周期がいつ始まるかを正確に知ることは不可能である。むしろ,周期が始まったと確信できる前には,サイクルの少なくともどこか一部が起こっているはずである。CMPの手順が終了する前に,1サイクルだけが終わることが好ましい。・・・信号が特別に微弱であった場合,必要な確信を得るためには1サイクル以上必要なこともあるだろう。」(乙99,段落【0045】)と記載されており,本件各特許発明のリアルタイムのモニタにおいては,終了前に正弦波状の1サイクル程度を検出することを容認しているということができる。そうすると,システムの特性に基づいて,平坦化が達成されたCMP研磨の終点を決定することは,当業者において適宜に実施することができるといえるから,CMP研磨の終点検出に係 る本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項に違反し,特許請求の範囲の記載が同条6項2号に違反するということはできない。

(イ) また,原告は,波形に周期性があることを確認するには,少なくとも2周期を経なければならないが,リアルタイムに波形をモニタする中で正弦波状のサイクルが始まる点を,仮に終点と定義するのであれば,原理的にその終点(=正弦波のサイクルが始まる点)を,その同タイミ ングで検出することは不可能であると主張する。

しかし,原告の上記主張も採用の限りでない。すなわち,正弦波信号は,カーブフィッティングアルゴリズムなどで検出することが可能であり,周期性は単一の周期よりかなり短い時間で検知することも可能であると認められるから(乙58,7頁,8頁〔訳文6頁〕の「31」),信号から周期的変化(正弦波状のサイクル)を検出することに関する請求項(請求項8,15等)に記載された発明について,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項に違反し,特許請求の範囲の記載が同条6項2号に違反するということはできない。



キHの無効理由(ウエハ表面の均一性測定)の判断の誤りについて




(ア) 原告は,「研磨パッドはウエハに対して半径位置を変更しながら研磨するもの」とする審決の認定は,本件特許明細書に記載がなく,根拠がないと主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,本件特許明細書には,「通常は研磨ヘッドが自身の中心軸26の回りに回転し,平行移動アーム28を介してプラーテンの表面の端から端まで平行移動する。」(乙99,段落【0003】)と記載されており,また,【図17】には,研磨ヘッドの中心軸26が左右に移動することを示唆する矢印が記載されているから,審決が認定するとおり,研磨パッドはウエハに対して半径位置を変更しながら研磨するものであるといえる。そして,研磨パッドの一部に設けられたウィンドウを通してレーザー反射光等を検出することにより,ウエハ表面の様々な領域を測定することができ,ウエハ表面の均一性を検出することができるものと認められる。よって,審決の上記認定が根拠を欠くとの原告の上記主張は,採用の限りでない。



(イ) また,原告は,均一性を実現するためには,ウエハ面内において相対的な研磨量をモニタする必要が生じるが,研磨中に測定できるのはウエハ面内で1点であり,その1点を測定して,次の別の点を測定する間にプラテンは1回転して研磨は進行しており,その際の除去膜厚も未知であるから,同一時点における別々の測定点の間の膜厚を相対的に比較することはできない,よって,ウエハ表面の均一性検出に係る本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反し,特許請求の範囲の記載は,同条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,本件特許明細書には,「研磨中は,研磨されるべき層を干渉計が見るためのプラーテン内のホールの上を,ウエハ表面の様々な領域が通過する。研磨された層が完全に均一である場合は,その結果の干渉波形は,ウエハ表面全体にわたっていろいろな場所をサンプリングすることによる影響を受けない。即ち,それは実質的に同じ振幅を有することになるだろう。換言すれば,研磨された層が不均一ならば,様々な場所をサンプリングすることによって,正弦波を基礎とする信号に更に変動を持込むことになる。」(乙99,段落【0057】)と記載されており,信号の変動は層の不均一を意味するから,複数の点が完全に同一のタイミングで測定されなかったとしても,ウエハ表面の均一性を検出することはできると解して差し支えない。よって,原告の上記主張は採用の限りでない。


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(2) 請求項を特定した特許法36条6項1号,2号に係る判断の誤りについて




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ア請求項1に従属する請求項2ないし8について



原告は,審決の第6,1(1)Aでは,「レーザー光の透過を許容する透明体から成る合成樹脂製の研磨パッド」について記載されているのであり,「レーザー干渉計を用い,反射光を測定することにより研磨の終点を検出できることが明らか」であることは述べられていないから,レーザー干渉計による終点検出機構に係る請求項1に従属する請求項2ないし8の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,前記(1)アの無効理由Bに係る判断において説示したとおり,レーザー干渉計による終点検出機構に係る請求項1に従属する請求項2ないし8の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでない。


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イ請求項3及びこれに従属する請求項4ないし8について



原告は,「ウィンドウがウエハに近接しているとき」とは,依然レーザービームがウィンドウを通過できる位置に行くために,そこへ近づきつつある状態とも解釈することができ,一意に「レーザービームがウィンドウを通過できる位置にあるとき」と解釈することはできないから,レーザー干渉計による終点検出機構に係る請求項3及びこれに従属する請求項4ないし8の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,本件特許発明3の「近接しているときを感知」の意味については,「どの程度」近接しているときを感知するのかについての限定がされていないから,ウエハがウィンドウ上にあるときを感知する場合のみならず,ウエハがウィンドウから所定の距離よりも近接しているときを感知する場合をも含むものと解される。そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明においては,ノイズの発生防止を目的とする位置センサとしては,「ホール効果,渦電流,光遮断器,又は音響センサ等の,あらゆる既知の近接センサを用いることが可能である」(乙99,段落【0035】)と記載されており,それらの既知の近接センサを用いて,ウエハがウィンドウから所定の距離よりも近接していることを感知することができるものと理解されるから,本件特許発明3及びこれに従属する請求項4ないし8が特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでない。



ウ請求項4及びこれに従属する請求項5ないし8について



原告は,請求項4には,「サンプリングされた検出信号を代表するデータ信号」と記載されているが,「代表する」との語句で何かを特定するものでもなく,「データ信号」と「検出信号」の関係が不明であるから,請求項4及びこれに従属する請求項5ないし8の記載は,特許法36条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の主張は採用の限りでない。すなわち,まず,本件特許発明4の「検出信号」とは,前記説示のとおり,レーザー干渉計が「ウエハから反射される光が検出される毎に発生」する信号であるから(本件特許明細書,【請求項4】,段落【0035】),その技術的意味は明らかである。そして,請求項4における「サンプリングされた検出信号を代表するデータ信号」との記載が格別不明確であるともいえない。よって,請求項4及びこれに従属する請求項5ないし8の記載が特許法36条6項2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は,採用の限りでない。


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エ請求項5について



原告は,「データ信号」が,「検出信号の積分されたサンプルを代表する」との技術的意味が明らかではなく,「代表する」との意味も曖昧であり,「データ信号」の技術的意味や物理量も,依然不明である,また,請求項4では「データ信号は,サンプリングされた検出信号を代表する」とされていたにもかかわらず,請求項5では,「データ信号は検出信号の積分されたサンプルを代表するもの」とされており,同じ「データ信号」でありながら整合性を欠き,不明確であるから,請求項5の記載は,特許法36条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,請求項5にいう「データ信号」は,請求項5の記載のとおり,「検出信号の積分されたサンプルを代表する」ものである。また,本件特許明細書の発明の詳細な説明においても,「【0011】更に,レーザー干渉計は,ウエハから反射してくる光が検出されるときは常に検出信号を発するための装置を有し,また,位置センサは,ウィンドウがウエハに近接しているときは常に感知信号を出力するための要素を有している。このことにより,データ取得装置が,位置センサからの感知信号の継続時間のための,レーザー干渉計からの検出信号をサンプリングする事が可能となる。そして,このデータ取得装置は,サンプリングされた検出信号を代表するデータ信号を出力するための要素を利用する。また,このデータ取得装置は,レーザー干渉計から所定の時間にわたってサンプリングされた検出信号を積分し,この検出信号をサンプリングして積分したものを代表するデータ信号を出力する要素を有している。」と記載されており,「該検出信号の積分されたサンプルを代表するデータ信号」の技術的意味は,発明の詳細な説明の記載に照らしても,明らかである。よって,請求項5の記載が特許法36条6項2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでない。


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オ請求項10及びこれに従属する請求項11ないし17について



原告は,請求項10の「終点を決定するステップ」において,「レーザービームがウィンドウを通過してウエハに入射するときを感知するステップ」は,終点を決定するためのアルゴリズムとは全く関係せず,また,この関係性を裏付ける記載も本件特許明細書中にはなく,不明確であるから,請求項10及びこれに従属する請求項11ないし17の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,請求項10の記載において,決定するステップは,「レーザービームが妨害されずにウィンドウを通過してウエハに入射するときを感知するステップを備える」81と特定されているから,「感知するステップ」と「決定するステップ」との関係は明確である。「感知するステップ」が,終点を決定するためのアルゴリズムとは全く関係がないとする原告の上記主張は,採用の限りでない。また,本件特許明細書の発明の詳細な説明においても,「【0010】また,CMP装置は,ウィンドウがウエハに近接したときを感知する位置センサを有していてもよい。これにより,レーザー干渉計によって発せられたレーザー光が障害なくウィンドウを通過しウエハに入射する事が可能となる。」,「【0011】更に,レーザー干渉計は,ウエハから反射してくる光が検出されるときは常に検出信号を発するための装置を有し,また,位置センサは,ウィンドウがウエハに近接しているときは常に感知信号を出力するための要素を有している。このことにより,データ取得装置が,位置センサからの感知信号の継続時間のための,レーザー干渉計からの検出信号をサンプリングする事が可能となる。」,「【0012】データ取得装置によるデータ信号の出力は,CMPプロセスの最中に酸化物層が薄くなるにつれて,ウエハの酸化物層の表面から反射されるレーザービームの部分とこの下のウエハ基板の表面から反射される部分との間で干渉が生じる事により,周期的なものである。従って,ブランク酸化物(blankoxide)ウエハの酸化物層を薄くするCMPプロセスの終点は,データ信号によって現れるサイクルの数を計数し,レーザービームの波長とウエハの酸化物層の反射係数とから出力信号の1サイクルの間に除去される材料の厚さを計算し,酸化物から除去されるべき材料の所望の厚さを,データ信号により現れるサイクルの数と1サイクルの間に除去される材料の厚さとの積を備えた除去厚さと比較し,この除去厚さが除去されるべき材料の所望の厚さ以上になったときにCMPを終了させるための,付加的な装置要素を用いて,決定することが可能である。あるいは,全サイクルを計数する代りに,サイクルの一部を計数してもよい。この手順は,サイクル全体に対してではなくサイクルの一部に対して除去されるべき厚さを決定すること以外は,ほぼ同じである。」などと記載されており,「感知するステップ」が,CMPの終点を「決定するステップ」に寄与していることに係る技術的意義は,明らかである。よって,請求項10及びこれに従属する請求項11ないし17の記載が特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでない。



カ請求項19に従属する請求項21ないし23について



原告は,①特徴信号,シグネチャ,シグネチャ波形,望ましく操作されていることがわかっているシステムなど,依然曖昧であり,技術的意味や物理量の説明になっていない,②抽出された特徴情報から均一性の前記尺度を計算するステップも依然開示されておらず,審決でも,それがどこに記載されており,何であるのか示していない,よって,請求項19に従属する請求項21ないし23の記載は,特許法36条6項2号に違反すると主張する。


しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,①請求項19の「特徴情報」は,望ましく操作されていることがわかっているシステムに対して干渉計によって得られたシグネチャ波形を意味するといえる(乙99,段落【0068】~【0070】)。また,②干渉信号から特徴情報を抽出することや均一性の尺度を計算することは,バンドパスフィルタなどの周知の技術を用いて実行可能であり,その内容を具体的に説明するまでもなく当業者において理解することができるといえる(乙99,段落【0058】~【0062】,【0065】,【0066】)。そうすると,請求項19に従属する請求項21ないし23の記載が特許法36条6項2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでない。


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キ請求項21について



原告は,①第1 の特性について,審決では,干渉信号の低周波数成分であるとしているが,本件特許明細書のどこの記述を基にしているのか全く示してない,②無効審判事件の審理において,誤記を理由として,「抽出された情報」を「抽出された特徴情報」とする訂正請求がされなかった以上,誤記であると解すべきではなく,その意味は,明らかとはいえない,③審決は「第1 の特性を用いて特徴信号を誘導することであることは明らか」とするが,本件特許明細書の記載に基づいた判断とはいえないから,請求項21及びこれに従属する請求項22,23の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,①第1 の特性とは,干渉信号の低周波数成分(振幅を含む信号特性)であるといえる(乙99,請求項21~23の記載,段落【0018】),また,②本件特許発明21の「抽出された情報」とは「抽出された特徴情報」の誤記であると認められる(請求項19~21の記載)から,③本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて,「第1の特性から前記抽出された特徴情報を誘導するステップ」とは,第1の特性を用いて特徴情報を誘導するステップを指すと合理的に理解することができる(乙99,段落【0018】,【0060】,【0061】)。よって,請求項21及びこれに従属する請求項22,23の記載が特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,これを違反とする原告の上記主張は採用の限りでない。



ク請求項23について



原告は,第1の特性が低周波数信号の振幅であり,第2の特性が高周波信号の振幅であったとしても,一例として,何が低周波信号で何が高周波数信号であるか,その振幅とはどれを示すのか,例示されておらず,第1の特性,第2の特性の技術的意味が不明であるから,請求項23の記載は,特許法第36条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の主張は採用の限りでない。すなわち,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「【0056】・・・研磨中に干渉計によって作り出された干渉波形が,研磨されるべき層の均一性に関する情報を与えることを,我々は見出した。上述の如く,表面層(即ち酸化物層)が研磨されるときには,干渉計の出力が正弦波状の信号になって現れる。このピークとピークの間の距離は,材料がどのくらい除去されたかを指示している。この正弦波信号の頂点では,更に高い周波数の別の正弦波信号も存在するだろう。この更に高い周波数の方の信号の振幅は,ウエハの表面全体で研磨後の層の厚さがどの程度まで変化したかを指示している。【0057】高い周波数の信号が現れる理由は,以下の通りである。研磨が進むと同時に,典型的には干渉計はウエハ表面全体の様々な場所をサンプリング(又は注目)する。なぜなら,研磨中は,プラーテンとウエハは共に回転しており,更にウエハはプラーテンに対して軸方向に運動しているからである。従って,研磨中は,研磨されるべき層を干渉計が見るためのプラーテン内のホールの上を,ウエハ表面の様々な領域が通過する。研磨された層が完全に均一である場合は,その結果の干渉波形は,ウエハ表面全体にわたっていろいろな場所をサンプリングすることによる影響を受けない。即ち,それは実質的に同じ振幅を有することになるだろう。換言すれば,研磨された層が不均一ならば,様々な場所をサンプリングすることによって,正弦波を基礎とする信号に更に変動を持込むことになる。この持込まれる変動は,用いられている回転速度と掃引速度に依存する周波数を有し,研磨された層の非均一性の程度に比例した振幅を有している。このような波形の一例が,図16に示されている。この特定の例では,周波数の高い信号を明確に例示できるように,非均一性が相対的に大きくなっている。【0058】周波数の高い信号のピークとピークの間の振幅Ahf と周波数の低い信号のピークとピークの間の振幅Alf との比が,均一性の尺度になる。この比が小さくなれば,研磨された層の均一性が高いことになり;その逆の場合は,非均一性が大きくなる。」,「【0062】コンピュータ150は,フィルタ152及び154の出力信号それぞれのピークとピークの間の振幅を測定する2つの振幅測定機能156及び158を備える。2つのフィルタされた信号が決定されれば,コンピュータ150は,高周波信号のピークとピークの間の振幅と低周波信号のピークとピークの間の振幅との比(即ち,Ahf/Alf)を計算する(機能ブロック162を参照)。この比が計算された後は,コンピュータ150が計算値を,予めローカルメモリに保存した閾値又は参照値164と比較し(ブロック166参照)する。計算値が保存していた閾値を越えれば,コンピュータ150はオペレータに対し,研磨された層の非均一性が許容量を越えたことを警告する。これに対し,オペレータはプロセス変数を調整して,プロセスをスペック内に戻す。」と記載されている。これらの記載によれば,請求項23の「低周波数信号の振幅」(第1の特性)及び「高周波数信号の振幅」(第2の特性)の技術的意味が明確であるといえるから,これらの技術的意味が不明確であって請求項23の記載が特許法第36条6項2号に違反するとする原告の上記主張は採用の限りでない。


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ケ請求項24に従属する請求項26について



原告は,①本件特許明細書には,研磨プロセスが期待通りに進行しているか否かを示す具体的な指標についての記載がなく,明確性を欠いている,また,②シグネチャ,干渉計波形の技術的意味,物理量が不明である,また,③審決摘示の「研磨プロセスに対して望ましい操作」,「操作のポイントを代表している」,「保存されている情報」との記載は,それらの技術的意味が不明であり,保存されている情報がいかなる物理量を持つか,説明がされていない,よって,請求項24及びこれに従属する請求項26の記載は特許法36条6項2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,請求項24の記載のほか,本件特許明細書の発明の詳細な説明においては,「【0068】プロセスシグネチャまた,干渉計波形は,システムのシグネチャ(即ち,その特性)を表している。このため,これは,製造のオペレーションに対してシステムの特性を与えるために有用な情報を与える。望ましく操作されていることがわかっているシステムに対してシグネチャが得られた場合は,参照値としてシグネチャ波形(又は波形から抽出された特徴)を用いることが可能であり,この参照値に対して,次に発生するシグネチャを比較して,これらシグネチャが続いて得られたシステムが,スペックの中で実行されているかどうかが決定される。例えば,研磨パッドが取り替えられたり,新しいバッチのスラリがCMPシステムに用いられた場合に,オペレータは,この変化が,システムが実行する研磨の質に有害な影響を与えるかどうかを知る必要がある。CMPシステムの性能における変化によってシグネチャが変化することを,我々は見出した。即ち,以前は存在していなかったような,あるいは以前に存在していた特徴が変化するような,ある決まった変化が波形に現れる。これらの変化を検出することにより,システムが望み通りに実行されていない時を検出することが可能である。【0069】ここに説明される具体例では,干渉計波形から抽出された特徴は,研磨速度であり,均一性の尺度である。これらの特性は,前述の方法を用いて,研磨の最中に発生する干渉計の波形から容易に得ることができる。システムが正確に操作されていれば,特定の研磨速度と特定の均一性の尺度を与えるだろう。これらの参考値からはずれることは,システムが望ましい操作のポイントから離れる方向に移動していることを示し,オペレータに,製品の損害を防止するために適正化する行動をとる必要があることを警告する。CMPシステムシグネチャを用いる方法は,図20(a)に例示され,以下に説明される。最初に,最適に操作されるべきとである(判決注「べきである」の誤記と認める。)とわかっているCMP装置に対して,干渉計波形(即ち,シグネチャ)が発せられる(ステップ250)。

システムが最適に動作しているか否かの決定は,試験ウエハのセットを処理してその結果を解析することにより,実験的に決定可能である。得られた結果がスペックの中に入っていた場合,この構成及び操作条件の組に対してシグネチャを発生できる。干渉計波形の一部を捉える前に,この波形が本当に,準備された研磨のシグネチャであるように,ウエハの研磨が酸化物の中を50~100%の間で行われることが望ましい。【0070】波形が得られた後は,特定の着目する特徴が,発せられた波形から抽出され(ステップ252),これは,後にシステムの性能の評価に用いる参考値として利用するために,保存される(ステップ254)。あるいは,波形自体を保存して,参考値として用いてもよい。ここに説明した具体例では,抽出された特徴は,研磨速度であり,均一性の尺度であり,これらの双方とも,上述のように,波形から決定することが可能である。」と記載されている。これらの記載によれば,原告が問題とするシグネチャ,干渉計波形といった語句等の技術的意味は明らかであり,また,干渉計波形自体,又は波形から抽出された特定の着目する特徴が保存され,後にシステムの性能の評価に用いる参考値として利用されることが明らかである。よって,請求項24及びこれに従属する請求項26の記載が特許法36条6項2号に違反するとはいえず,これを違反するとする原告の上記主張は採用の限りでない。

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コ請求項31ないし33について


請求項33ないし35の記載については,既に請求項21ないし23に関して説示したのと同様の理由により,特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえない。



サ請求項36及びこれに従属する請求項37について



原告は,①基板を研磨する装置に関する請求項に対し,個々の特徴が,研磨する装置の作用効果としてどう関与するのか何らかの意味を有することが必要である,また,②光ビームに関する記載は,本件特許明細書にその記載がなく,何のためにどのように光を使うのか,また「光」の何を測定(検出)するのかも不明である,よって,請求項36及びこれに従属する請求項37の記載は,特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,①特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。そして,特許法36条6項2号の趣旨は,「特許を受けようとする発明が明確であること。」に尽きるのであって,その他,発明に係る機能,特性,解決課題又は作用効果等の記載等を要件としているわけではない(知的財産高等裁判所平成21年(行ケ)第10434号平成22年8月31日判決参照)。そうすると,本件において,「基板を研磨することと,各特徴がどう対応」するかなどという原告主張は,発明に係る機能,特性,解決課題又は作用効果等に係る記載を求めるものであって,特許請求の範囲の明確性の要件とは関係のない主張であるといえるから,採用の限りでない。また,②「光」の意義に関しては,前記1(1)アの無効理由Bに関して説示したとおりであって,請求項36の記載が特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえない。

以上のとおり,請求項36及びこれに従属する請求項37の記載は特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえないから,これを違反するとする原告の上記主張は採用の限りでない。


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シ請求項38について



原告は,請求項38には,「散乱底面を有する」とあるが,通常の「面」であれば,100%散乱せずに反射することはなく,多かれ少なかれ多少の光は散乱するから,「散乱底面」との限定は,どの程度散乱するものかを記載しなければ意味をなさず,「散乱面」との語句は,物を特定できず曖昧で意味が不明であるから,請求項38の記載は特許法36条6項1号,2号に違反すると主張する。


しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,本件特許明細書の発明の詳細な説明においても,「散乱底面」に関しては,「【0077】性能を高めるための変形 別の具体例では,干渉計とウエハとの間のパッド内のウィンドウを変形している。パッドは干渉計レーザービームの実質的な部分を透過させるが,パッドの底面から著しく反射してくる成分が存在することが見出されている。この状況は,図21(a)に例示され,ここでは,レーザー干渉計32から発せられるレーザービーム34は,パッド22を通過して伝送され,伝送ビーム702を形成し,また,レーザービーム34の一部は,パッド22の裏側面704から反射されて,反射ビーム706を形成する。反射ビーム706は,データ信号に著しい直流(DC)シフトを生じさせる。図21(b)は,このシフトを例示する(わかりやすくするために誇張して描いている)。この例では,反射レーザー光によってもたらされるDCシフトは信号全体に対して約8.0ボルトを加える。このDCシフトは,データ信号の有用な部分の解析に対して問題を生じさせる。例えば,データ解析装置が0~10ボルトの範囲で動作していれば,DCシフトを受けた信号を増幅して着目する部分を強化することは,信号のDC成分を低減又は排除しなければ不可能である。DC成分が除去されなければ,装置は増幅信号によって飽和してしまうだろう。DC成分を低減又は排除することは,信号処理のための電子技術を新たに必要とし,また,信号の有用な部分を損ねてしまう結果を与えるだろう。DCシフトがここに記載されるほど大きくない場合でも,これを排除するために何等かの信号処理が必要となると思われる。従って,この不要なDC成分を低減又は排除するための非電子技術的方法が望ましい。【0078】図21(c)に描かれるように,パッド22の裏側のウィンドウを構成する領域に散乱面704’を形成することにより,この面から反射する光が弱化する。従って,データ信号の不要なDC成分が低減される。実際上は,散乱面704’は,伝達されない光708を散乱し,そのほとんどを干渉計32へ反射し返すということはない。ウエハから反射された光も,散乱面704’を通過し,その間,一部が散乱されるであろう。しかし,これが干渉計の性能を著しく損ねることはないことが見出されている。【0079】図21(d)には,散乱面704’を用いたときに得られるデータ信号が例示される。示されるように,DC成分の排除と共に,信号は直ちに増幅され,DC部分を電子的に排除する必要なく処理される。【0080】どのように散乱面が作られるかは,重要な問題ではない。研磨パッドの裏面のウィンドウの近辺をサンディングすることにより,又は,散乱させるコーティング材料(例えば,スコッチテープ等)を貼ることにより,あるいは所望の結果をもたらすその他の方法により,散乱面を作ることができる。」と記載されている。これらの発明の詳細な説明の記載によれば,当業者においては,散乱の程度に係る記載がないとしても,データ信号の不要なDC成分の低減又は排除の目的から,「散乱底面」の技術的意味を理解することができ,特許請求の範囲の記載も第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。よって,請求項38の記載が特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,これを違反するとする原告の上記主張は採用の限りでない。

その他,原告が,請求項を特定した特許法36条6項1号,2号に係る判断の誤りとして縷々主張する点は,いずれも無効理由のBないしHで検討した前記説示内容のほか,本件特許明細書の記載を参酌すれば,特許法36条6項1号,2号に違反するとはいえず,採用の限りでない。

以上によれば,原告主張の取消事由1(特許法36条4項,6項1号,2号に係る判断の誤り)は,理由がない。
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2 取消事由2(容易想到性判断の誤り)について


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(1) 無効とされた独立形式請求項の従属形式請求項に係る発明の当然無効について原告は,請求項1記載の発明は審決において無効と判断されているが,無効とされた「発明特定事項」を他の請求項に残存させた場合には,本来ならば,付加された技術手段のみでは独立して発明を構成し得ないことになるから,その従属形式請求項に記載された発明も必然的に無効原因を有することになると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,特許法36条5項(平成14年法律第24号による改正前のもの)には「第三項第四号の特許請求の範囲には,請求項を区分して,各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において,一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。」と規定されており,特許法施行規則24条の3には,「請求項の記載における他の請求項の引用は,その請求項に付した番号によりしなければならない。」と引用形式の記載について規定されているものの,引用形式により記載された請求項に係る発明も,独立形式で記載された請求項に係る発明も,請求項に区分して記載された発明として,差異はない。また,特許法123条は,特許無効審判の請求について,「二以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」と規定している。これらの規定からすると,特許要件はそれぞれ独立して判断されるべきものであると解されるから,原告の上記主張は,採用の限りでない。

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(2) 過去の審査審判における判断との相反について

原告は,過去の審査審判の手続において,各相違点について,実質的な相違点には当たらないか又はその相違点の構成に至ることが容易であると判断して決着済みとされていたにもかかわらず,それらの事項について,審決が,その判断を覆し,容易想到ではないと相反する判断をしたものであるから,違法であると主張する。

しかし,原告の主張は,採用の限りでない。すなわち,審査審判における拒絶理由通知等については,法的な拘束力を認めることができないのであって,審決が審査審判における拒絶理由通知等と異なる判断を最終的に示したとしても,その審決を違法であるということはできず,原告の上記主張は,採用の限りでない。

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(3) 本件各特許発明の容易想到性判断の誤りについて




ア各引用例(甲1~5)の開示内容
審決において特許法29条2項該当性の基礎とされた刊行物,すなわち,特開平7-52032号公報(甲1),特開平5-309558号公報(甲2),特開昭63-134162号公報(甲3),特開昭61-76260号公報(甲4)及び特開平4-255218号公報(甲5)の開示内容は,次のとおりである。
(ア) 特開平7-52032号公報(甲1,平成7年2月28日公開)
甲1(別紙「甲1【図1】,【図2】」参照)には,発明の名称を「ウエ
ハ研磨方法及びその装置」とし,研磨途中でウエハを定盤から離すこと
なく研磨中の膜の厚さを知ることができ,研磨の高精度な制御を効率よ
く行うことのできるウエハの研磨方法及び装置を提供することを課題と
する発明が記載されており(段落【0006】),回転する定盤1の研磨
布5の張り付けられた面に,研磨液を滴下しつつ,ウエハ支持板8に固
定したウエハ7をウエハ支持板8により回転させつつ押し付け研磨する
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方法において,定盤1及び研磨布5の回転中心と周縁との間に設けた透
明窓4からウエハ7の研磨面の光の反射状態を電荷結合素子を用いた撮
像装置とその撮像表示装置や分光反射率測定装置で見て研磨状態を判定
しつつ研磨することが記載されている(甲1,1頁【要約】)。
そして,その実施例(段落【0022】~【0027】)によれば,
「ウエハに対してケミカルメカニカルポリシング(CMP)を行うため
の装置であって,
(a)回転自在に設置され,中心から放射状に伸びる近接した2本の直
線で囲まれ,中心付近から周縁近くまで伸びた溝2と,溝2の長手方向
中央に設けられた貫通孔3を自身に有する回転可能な定盤1と,
(b)定盤1に設置され,研磨液によりウェットで,定盤1の溝2と同
形に切り抜かれた研磨布窓6を有する,研磨布5であり,前記貫通孔3
の溝2側には,透明ガラス製の透明窓材4が嵌め込まれ,
(c)研磨布5に対してウエハ7を保持するための,回転可能なウエハ
支持板8であって,このウエハ7が,表面に熱酸化膜を形成した2枚の
シリコンウエハを,熱酸化膜を接せしめて接着したSOIウエハ7を備
える,ウエハ支持板8と,
(d)ウエハ7へ向けて光を照射させることが可能であり且つウエハ7
及び貫通孔3からの反射光を受光するプローブ9を有し,これにより研
磨状態の終点を知ることができるものであり,前記貫通孔3,透明窓材
4,溝2は,ウエハ7の中心が透明窓材4の上にある時の一部の間,光
をウエハ7へ入射させるための通路を与えるウエハ研磨装置。」(審決の
認定した「甲1発明1」)と当該装置を利用した研磨方法が開示されてい
る。

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(イ) 特開平5-309558号公報(甲2,平成5年11月22日公開)
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甲2(別紙「甲2【図1】」参照)には,発明の名称を「貼り合わせウ
ェーハの研磨方法」とし,SOI半導体基板の製造工程において,素子
形成層であるSi層を高精度に,かつ能率よく所望の厚さに研磨するた
めの貼り合わせウェーハの研磨方法を提供することを目的とする発明に
ついて記載されており(段落【0003】),貼り合わせウェーハ11を
透明なマウントプレート3上に透明ワックスを用いて貼着し,ポリシン
グパッド1は透明体とし,レーザ発振器4が発振するレーザ光を,波長
変換装置5により前記貼り合わせウェーハ11の素子形成層に要求され
る厚さに等しい波長の光とし,前記ポリシングパッド1と,貼り合わせ
ウェーハ11の屈折率より高い屈折率のスラリー10とを介して,全反
射角θで貼り合わせウェーハ11に入射し,貼り合わせウェーハ11の
SOIウェーハが所望の厚さになると光が透過するので,光検出器6が
透過光を検出するまで研磨を行うこと(甲2,1頁【要約】)が記載され
ている。

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(ウ) 特開昭63-134162号公報(甲3,昭和63年6月6日公開)
甲3(別紙「甲3第1図」参照)には,発明の名称を「研磨加工法」
とし,加工能率及び加工精度をさらに向上させることができるようにし
た研磨加工法を提供することを課題とした発明(甲3,2頁右上欄15
行~17行)について記載されており,ポリッシャに光学的に透明な材
料を用い,ポリッシャに対峙する被加工物の被加工面を,ポリッシャを
透過した光源からの光線により照射し,砥粒と被加工面に対する加工液
の光化学的ないし熱的反応を促進させて研磨加工を行うことが記載され
ている(甲3,特許請求の範囲の(1),(2))。

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(エ) 特開昭61-76260号公報(甲4,昭和61年4月18日公開)
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甲4(別紙「甲4第1 図」参照)には,発明の名称を「研磨方法」と
し,液中研磨における研磨速度を向上させ,かつ比較的容易に被加工面
形状の部分的修正が可能な研磨方法を提供することを目的とする発明
(甲4,2頁左上欄1行~4行)について記載されており,「液中研磨に
おいて,研磨加工位置にレーザ光を照射しながら研磨を行うこと」(甲4,
特許請求の範囲の(1)),「ライトガイド10からは研磨液8中にレーザ
光が連続的又は断続的に照射され,これにより研磨液8が部分的に急激
に加熱され高温高圧となり研磨作用が促進せしめられる」こと(甲4,
2頁右上欄15行~19行),及び,ポリッシャ4が透明なものである場
合には,ポリッシャ4の貫通孔は設けなくともレーザ光の照射は良好に
行われること(甲4,2頁左下欄15行~18行)が記載されている。
(オ) 特開平4-255218号公報(甲5,平成4年9月10日公開)
甲5(別紙「甲5【図2】」参照)には,発明の名称を「平坦なウエーハを研磨する方法及びその装置」とし,半導体ウェーハを物理的に平面化する工程において,平面化工程の実行中,平面にしたウェーハの終点を検出し又は監視することを課題とする発明(段落【0008】)について記載されており,制御された圧力状態下,回転する研磨プラテン(22)に対してウェーハ(10)を回転させる研磨ヘッド(26)を備えている装置において,研磨ヘッドはウェーハが研磨プラテンを横断して動き研磨プラテンの外周端縁をオーバーハングさせると共に,ウェーハ表面を露出させ得るように取り付けられ,レーザ干渉測定装置(28)の形態の終点検出装置がウェーハの露出面上のパターン無し金型(16)にて方向決めされ,該終点における酸化物(14)の厚さを検出することが記載されている(甲5,1頁【要約】)。
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(カ) 他方,甲1ないし甲5には,①ウィンドウを円弧形状とすること,②ウエハがウィンドウに近接しているときを感知すること,③干渉信号から低周波成分の特性を測定すること,④干渉信号から研磨速度や均一性の尺度を決定することや,研磨プロセスの監視に研磨速度と均一性の尺度を用いること,⑤ウィンドウとして機能する光透過部材に散乱面を設けること,⑥研磨パッドにおいて,透過性部分とほぼ調心されたアパーチャを底面に有すること,などの構成に係る記載や示唆等はない。



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イ容易想到性判断



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(ア)本件特許発明2について



本件特許発明2と甲1発明1との相違点5は,プラーテンの中のホールとウィンドウの形状に関して,本件特許発明2では,「プラーテンの回転中心と一致する中心と一致する原点からある半径を有する円弧形状である」としているのに対して,甲1発明1では,そのような形状ではない点である。

原告は,上記相違点5に係る本件特許発明2の構成について,ホール及びウィンドウの形状をどのようなものとするかは,当業者が適宜決定,変更し得る程度の設計事項であり,その作用効果も当業者が予測可能な範囲のものであるから,甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたと主張する。

しかし,原告の主張は,理由がない。すなわち,上記相違点5に係る本件特許発明2の構成は,前記のとおり甲1ないし甲5にはその記載も示唆等もないから,甲1ないし甲5記載の発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。



(イ) 本件特許発明3について



本件特許発明3と甲1発明1との相違点6は,終点検出器に関して,本件特許発明3では,「レーザー干渉計によって発生するレーザービームが妨害されずにウィンドウを通過してウエハに入射するように,ウィンドウがウエハに近接しているときを感知するための位置センサを備える」としているのに対して,甲1発明1では,そのような位置センサをa備えていない点である。原告は,上記相違点6に係る本件特許発明3の構成は,拒絶理由通知で示された特開平7-235520号公報(甲6)記載の事項と合致し,実質的に相違点が解消しているといえるし,国際公開94/07110号パンフレット(甲26・特表平8-501635号公報に対応するもの。甲19(1)の引用文献3) の記載に基づき当業者が容易に想到し得たものであると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,特開平7-235520号公報(甲6)は平成7年9月5日に公開されたものであって,本件特許の優先権主張日(平成7年3月28日)においては公知ではないから,特許法29条2項の要件判断の根拠となる刊行物とはなり得ない。また,特表平8-501635号公報(甲26)も,平成8年2月20日に公表された文献であって,本件特許の優先権主張日(平成7年3月28日)においては公知の文献ではないから,特許法29条2項の要件判断の根拠となる刊行物とはなり得ない。

なお,原告は,特表平8-501635号公報(甲26)と内容が対応する国際公開94/07110号パンフレット(国際公開日平成6 年3月31日)が公知であるとも主張する。

しかし,原告の上記主張は,本件の無効審判の請求理由とはされておらず,審決において審理判断がされたものでもないから,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係る主張として,採用の限りでない。



(ウ) 本件特許発明4ないし8について



原告は,本件特許発明3の相違点6に係る構成が容易想到である以上,これを容易想到でないとする誤った前提に基づいて本件特許発明4ないし8が特許法29条2項の要件を満たさないとした審決の判断は,誤りであると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,前記のとおり,相違点6に係る本件特許発明3の構成は,甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえない以上,その本件特許発明3の発明特定事項を全て含み,更に別の発明特定事項を含む本件特許発明4ないし8についても,甲1ないし甲5に基づいて容易想到であったとはいえない。よって,これと同旨の審決に誤りはなく,審決の誤りを前提とする原告の上記主張は採用の限りでない。



(エ) 本件特許発明10について



本件特許発明10と甲1発明2との相違点11は,決定するステップに関して,本件特許発明10では,「ウィンドウがウエハに近接してレーザービームが妨害されずにウィンドウを通過してウエハに入射するときを感知するステップを備える」としているのに対して,甲1発明2では,そのようなステップを備えていない点である。

原告は,上記相違点11に係る本件特許発明10の構成は,国際公開94/07110号パンフレット(甲26参照)の記載に基づき当業者が容易に想到し得たと主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,前記のとおり,特表平8-501635号公報(甲26)は,特許法29条2項の要件判断の根拠になり得る文献ではない。また,これと内容的に対応する国際公開94/07110号パンフレット(甲26参照)に基づく主張についても,同パンフレットは審判段階で提示されたものではなく,審決もそれについて審理判断をしたものではなく,同パンフレットに基づく原告の主張は,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係るものであるから,採用の限りでない。

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(オ) 本件特許発明11ないし17について



原告は,本件特許発明10の相違点11に係る構成が容易想到である以上,これを容易想到でないとする誤った前提に基づいて本件特許発明11ないし17が特許法29条2項の要件を満たさないとした審決の判断は,誤りであると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,前記のとおり,相違点11に係る本件特許発明10の構成は,原告指摘の刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえない以上,その本件特許発明10の発明特定事項を全て含み,更に別の発明特定事項を含む本件特許発明11ないし17についても,容易想到であったとはいえない。よって,これと同旨の審決に誤りがあるとはいえず,審決に誤りのあることを前提とする原告の上記主張は採用の限りでない。

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(カ) 本件特許発明21について



本件特許発明21と甲1発明3との相違点17は,本件特許発明21では,「干渉信号が低周波成分を含み,抽出するステップが,前記低周波成分の第1の特性を測定するステップと,前記第1の特性から前記抽出された情報を誘導するステップとを備える」としているのに対して,甲1発明3では,そのようなステップを備えていない点である。原告は,上記相違点17に係る本願発明21の構成は,所望の相対的厚さに研磨されたことを判断する技術を記載した特開平4-255218号公報(甲5),干渉信号から研磨速度を検出する技術を記載した特開平2-196906号公報(甲7)の記載に基づき,当業者が容易に想到し得たと主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,前記のとおり,甲5には,前記相違点17に係る本件特許発明21の構成についての記載や示唆等がないから,甲5に記載された発明に基づいて当業者が相違点17に係る本件特許発明21の構成に容易に想到することができたとはいえない。また,甲7は本件の無効審判の請求理由とはされておらず,審決において審理判断がされたものでもないから,甲7に基づく原告の上記主張は,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係る主張として,採用の限りでない。



(キ) 本件特許発明22及び23について



原告は,本件特許発明21の相違点17に係る構成が容易想到である以上,これを容易想到でないとする誤った前提に基づいて本件特許発明22及び23が特許法29条2項の要件を満たさないとした審決の判断は,誤りであると主張する。

しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,前記のとおり,相違点17に係る本件特許発明21の構成は,原告指摘の刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえない以上,その本件特許発明21の発明特定事項を全て含み,更に別の発明特定事項を含む本件特許発明22及び23についても,容易想到であったとはいえない。よって,これと同旨の審決に誤りがあるとはいえず,審決に誤りのあることを前提とする原告の上記主張は採用の限りでない。

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(ク) 本件特許発明26について



本件特許発明26と甲1発明4との相違点24は,本件特許発明26では,「抽出するステップが,干渉信号から研磨速度を決定するステップと,前記干渉信号から均一性の尺度を決定するステップと,を備え,比較するステップが,前記研磨速度及び均一性の前記尺度を保存されている情報と比較するステップを備える」としているのに対して,甲1発明4では,そのようなステップを備えていない点である。

原告は,上記相違点24に係る本件特許発明26の構成は,甲5及び甲7に基づき当業者が容易に想到し得たと主張する。

しかし,原告の主張は採用の限りでない。すなわち,甲5には,本件特許発明26の相違点24に係る構成についての記載や示唆等は,存在しない。また,前記のとおり甲7に基づく原告の上記主張は,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係る主張として,採用の限りでない。



(ケ) 本件特許発明33について



本件特許発明33と甲1発明5との相違点31は,本件特許発明33では,「干渉信号が低周波成分を含み,データプロセッサが,前記低周波数成分の第1の特性を測定することと,前記第1の特性から抽出された情報を誘導することと,により特徴情報を抽出するようにプログラミングされている」と特定しているのに対して,甲1発明5では,そのようなことについて不明である点である。

原告は,上記相違点31に係る本件特許発明33の構成は,甲7に基づき当業者が容易に想到し得たと主張する。

しかし,前記のとおり甲7に基づく原告の上記主張は,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係る主張として,採用の限りでない。

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(コ) 本件特許発明34及び35について



原告は,本件特許発明33の相違点31に係る構成が容易想到である以上,これを容易想到でないとする誤った前提に基づいて本件特許発明34及び35が特許法29条2項の要件を満たさないとした審決の判断は,誤りであると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,前記のとおり,本件特許発明33の相違点31に係る構成が容易想到であるとはいえない以上,本件特許発明33の発明特定事項を全て含み,更に別の発明特定事項を含む本件特許発明34及び35の相違点31に係る構成は,本件特許発明33と同様に,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。

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(サ) 本件特許発明36について



本件特許発明36と甲1 発明6との相違点35は,ウィンドウに関して,本件特許発明36では,「干渉計から到達する光ビームを受容する散乱面を有する」と特定しているのに対して,甲1発明6では,研磨布窓6のみならず透明窓材4も,そのような散乱面を有していない点である。原告は,上記相違点35に係る本件特許発明36の構成は,反射光の光路に散乱面を介在させる技術を記載した特開平3-268241号公報(甲12)に基づき当業者が容易に想到し得たと主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,原告の上記主張は,本件の無効審判の請求理由とはされておらず,審決において審理判断がされたものでもないから,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係る主張として,採用の限りでない。

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(シ) 本件特許発明37について



原告は,本件特許発明36の相違点35に係る構成が容易想到である以上,これを容易想到でないとする誤った前提に基づいて本件特許発明37が特許法29条2項の要件を満たさないとした審決の判断は,誤りであると主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,前記のとおり,本件特許発明36の相違点35に係る構成が容易想到であるとはいえない以上,本件特許発明36の発明特定事項を全て含み,更に別の発明特定事項を含む本件特許発明37の相違点35に係る構成は,本件特許発明36と同様に,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。

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(ス) 本件特許発明38について



本件特許発明38と甲1発明7との相違点36は,ウィンドウに関して,本件特許発明38では,「干渉計からの光に対して透過性を有し,散乱底面を有すると共に,(i)前記ウィンドウは,該研磨パッドの一部であって,前記光に対して少なくとも部分的に透過性を有する該研磨パッドの前記一部を備え,又は(ii)前記ウィンドウは,該パッドに形成されたプラグであって,前記光に対して透過性を有する前記プラグを備える」としているのに対して,甲1発明7では,研磨布窓6は,定盤1の溝2と同形に切り抜かれたものである点である。

原告は,上記相違点36に係る本件特許発明38の構成は,甲6又は甲12の記載に基づき当業者が容易に想到し得たと主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,原告の上記主張は,本件の無効審判の請求理由とはされておらず,審決において審理判断がされたものでもないから,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係る主張として,採用の限りでない。

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(セ) 本件特許発明41について



本件特許発明41と甲1発明7との相違点43は,研磨パッドの第1の透過性部分に関して,本件特許発明41では,「中実なポリウレタン」としているのに対して,甲1発明7では,研磨布5の材料に関して不明な点である。原告は,上記相違点43に係る本件特許発明41の構成は,甲5,特開平5-193991号公報(甲9)及び特開平5-80201号公報(甲10)の記載によれば,当業者が容易に想到し得たと主張する。しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,甲5には,

本件特許発明41の相違点43に係る構成についての記載や示唆等が存在しないから,甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。また,甲9及び甲10に係る原告の上記主張は,本件の無効審判の請求理由とはされておらず,審決において審理判断がされたものでもないから,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係る主張として,採用の限りでない。

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(ソ) 本件特許発明47について



本件特許発明47と甲1発明7との相違点50は,研磨パッドに関して,本件特許発明47では,「第1の透過性部分と,研磨面を与える第2の非透過性部分とを備え,該第1の透過性部分とほぼ調心されたアパーチャが底面に形成される」としているのに対して,甲1発明7では,研磨パッドに相当する研磨布5は,定盤1の溝2と同形に切り抜かれた研磨布窓6が形成されるものである点である。

原告は,上記相違点50に係る本件特許発明47に係る構成は,甲1及び甲8記載の発明に基づき当業者が容易に想到することができたと主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,甲1には,本件特許発明41の相違点43に係る構成についての記載や示唆等が存在しないから,甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。また,甲8に係る原告の上記主張は,本件の無効審判の請求理由とはされておらず,審決において審理判断がされたものでもないから,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係る主張として,採用の限りでない。



(タ) 本件特許発明50について



本件特許発明50と甲1発明7との相違点53は,研磨パッドに関して,本件特許発明50では,「第1の層の該透過性部分とほぼ調心されたアパーチャが第2の層に形成される」と更に特定しているのに対して,甲1発明7では,そのようなものではない点である。

原告は,上記相違点53に係る本件特許発明50の構成は,甲8の記載に基づき当業者が容易に想到することができたと主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,前記のとおり,甲8に係る原告の上記主張は,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係る主張として,採用の限りでない。

(チ) 小括

以上のとおり,本訴の対象とされた各請求項に係る発明(本件特許発明2ないし8,10ないし17,21ないし23,26,33ないし38,41,47,50)につき,甲1ないし甲5には,①ウィンドウを円弧形状とすること,②ウエハがウィンドウに近接しているときを感知すること,③干渉信号から低周波成分の特性を測定すること,④干渉信号から研磨速度や均一性の尺度を決定することや,研磨プロセスの監視に研磨速度と均一性の尺度を用いること,⑤ウィンドウとして機能する光透過部材に散乱面を設けること,⑥研磨パッドにおいて,透過性部分とほぼ調心されたアパーチャを底面に有すること,などの構成に係る記載も示唆等も存在せず,また,前記各相違点は,単なる設計的事項であるとも認められないから,甲1ないし甲5に記載された発明に基づき,当業者において前記各相違点に係る本件各特許発明の構成に想到することが容易であったとはいえない。これと同旨の審決の判断に誤りはない。また,甲1ないし甲5以外に原告が指摘する刊行物に基づく特許法29条2項に係る主張は,本件の無効審判の請求理由とはされておらず,審決において審理判断がされたものでもないから,本件の審決取消訴訟の審理対象外の事由に係る主張として,失当である。

よって,原告主張の取消事由2(容易想到性判断の誤り)は,理由がない。

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3 結論


以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
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知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官飯 村 敏 明裁判官齊 木 教 朗裁判官武 宮 英 子
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(別紙) 「本件特許明細書【図17】」 「本件特許明細書【図3】参考図」
「本件特許明細書【図6】」 「本件特許明細書【図7】」
「本件特許明細書【図9】」 「本件特許明細書【図19】」
108
(別紙)
「甲1【図1】」
「甲1【図2】」
「甲2【図1】」
「甲3第1図」
「甲4第1図」
「甲5【図2】」
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Last Update: 2011-02-02 02:11:39 JST

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