2010年7月20日火曜日

特許,意匠:意匠権における容易創作の基準「基準」(最高裁判決引用)等:(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))





目 次


特許,意匠:意匠権における容易創作の基準「基準」(最高裁判決引用)等:(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))





知的財産高等裁判所第1部「塚原朋一コート」


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縮小版




出願日同一のばあいの公然知られた「解釈」



「しかし,乙73にかかる特許の出願日は,平成14年12月28日であり,これは,本件特許5の出願日(基準日)と同一日である。そして,乙73の特許出願人である有限会社杉浦商店や発明者であるBが,同日以前に,乙73にかかる発明の内容を熟知していたことは当然であるとしても,それによって,同発明とほぼ同一内容である本件各特許発明5について,公然知られた状態であったとは到底いえない。」(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))と知財高裁判決が判示するように,出願日同一の特許が対象特許の出願日(基準日)同一日にあるばあいでは,公然知られた状態であったとはいえない。



発明の完成の時期「事実認定」



「単に寸法の記載がないだけでなく,その記載全体が極めて大まかであることからして,抽象的なアイディアを記載したにすぎないといわざるを得ず,当業者がこれに基づいて最終的な製作図面を作成しその物を製造することが可能な状態には到底達しておらず,やはり,この段階で,発明が完成したということはできない。」(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))というべきである。






意匠の類否基準



「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)とされている。

そして,意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,目的,用途,使用態様,さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である。

なお,意匠の新規性(意匠法3条1項)及び創作非容易性(同条2項)という創作性の登録要件を充足して登録された意匠の範囲については,その意匠の美感をもたらす意匠的形態の創作の実質的価値に相応するものとして考えなければならず,公知意匠を参酌して,登録意匠が備える創作性の幅を検討する必要があるため,公知意匠を参酌することの必要性は,意匠法41条によって特許法104条の3が準用されるようになった後においても,完全に失われてはいないというべきである。

もっとも,意匠とは,様々な要素の組合せ全体から構成される全体としての視覚情報が最終的には意味を有するものであり,一部に公知意匠が含まれても,他の要素と併存することで異なる意匠を構成することも想定されるため,要部認定に際して,周知又は公知の意匠を参酌するものの,周知又は公知の意匠が包含されることをもって,直ちにその部分が,要部から排除されるべきものとまではいえない。

以上を前提として,以下,本件意匠と被告意匠の類否を検討することとする。」(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))

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改造と意匠の類似「解釈」



「全体としての美感に影響を与えるような改造ではないものと解される」ばあいには,「被告現製品にかかる意匠も,本件意匠と類似し,本件意匠に係る物品と同一の取鍋に本件意匠と類似する意匠を使用する被告の行為についても,本件意匠権を侵害する行為であると認められる。」べきである(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))

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意匠権における容易創作の基準「基準」(最高裁判決引用)



【主張:容易に創作できた意匠であり,意匠法3条2項に違反する】

「 意匠法3条1項3号は,意匠権の効力が,登録意匠に類似する意匠すなわち登録意匠にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美感を生ぜしめる意匠にも,及ぶものとされている(同法23条)ところから,上記のような物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とするのに対し,同法3条2項は,物品の同一又は類似という制限をはずし,社会的に広く知られたモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするものであって,両者は考え方の基礎を異にする規定であると解される(最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照)。

本件においても,以上に示された基準に沿って,本件意匠が公知意匠1及び2から容易に創作し得たか否かにつき検討する。」(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))


公知意匠1について



・基本的な構成態様



・各部の具体的な態様








訂正と過失の有無「解釈」



「確かに,特許法103条においては,特許権の侵害者の,侵害行為についての過失が推定されているが,これはあくまで推定規定であり,無過失責任を定めるものではない。

しかし,他方で,特許権者は,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とする場合に限り,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができ,その場合,同訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならないとされている(特許法126条1項,4項参照)。

そうであれば,訂正は,当初の特許請求の範囲を拡張するものではなく,第三者に不測の不利益を及ぼすことはない。


したがって,本件特許1,3,4につき複数回の訂正がされたこと自体によって,侵害者たる被告につき推定される過失が覆滅されるとはいえない。」(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))



使用のみのばあいの過失の有無「解釈」



「被告は,自らは被告製品を使用しているだけで生産をしていないとも主張するが,この点は,仮に違法性の程度に影響を与えるとしても,過失の有無に影響を与える事実とはいえない。」と解すべきである(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))




特許権侵害行為が継続しているばあいにおける消滅時効の進行時期


「本件のように,特許権侵害行為が継続して行われ,そのために損害も継続して発生する場合においては,損害の継続・発生する限り,日々新しい不法行為に基づく損害として,各損害を知った時から,別個に消滅時効が進行すると解される」(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))

【あてはめ例】

原告は,平成18年1月1日以降の損害につき,平成21年2月19日付け訴えの変更申立書を提出するまでの間,損害の発生を知りつつ,請求しなかったことになるから,平成18年1月1日から同年2月23日までの損害に対応する賠償請求権は,時効により消滅したことになる(当裁判所は,必ずしもこのような見解を是としているわけではなく,権利者が将来にわたって差止請求をしながら,既経過分の実施料相当額の請求のみにとどめるのは,将来分の請求権適格性に疑問があることによるものと思われるところ,このような場合には,未経過分についても,事情に変更がない限り,訴訟係属により時効管理がされているものと解する余地がある。しかしながら,本件では,原告が,被告による消滅時効の援用があれば,当然に時効消滅するものと解して予備的請求を設定している経緯にかんがみ,上記のように判断したものである。)。



不当利得の額と特許権侵害に基づく損害賠償の場合との違い



「特許権は民法703条にいう『財産』に該当するところ,無断実施者がこれによって『利益』を得て特許権者たる他人に損失を及ぼしている場合には,不当利得として同利益を返還すべき義務を負うといえる。もっとも,不当利得返還請求については,特許法102条の規定の適用はなく,専ら民法703条,704条の規定に基づくことになるが,その際の不当利得の額(実施料相当額)自体については,特許権侵害に基づく損害賠償の場合と特段の違いはない。」(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))




差止等の必要性(設計変更との関係)



「設計変更により,被告現製品では侵害していないとはいえ,」「元の構成に戻すことが容易であると解されることからすれば,侵害のおそれはあるといわざるを得ず,差止め,侵害品等の廃棄等の必要性はあるといえる。」(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))




損害額の算定については,下記知財高裁作成資料要旨参照


【事実認定】

「以上,2つの方法で計算した試算値を比較すると,原告の主張する溶融アルミニウムの売上額による算出方法は,特許法102条3項等が想定する実施料を算出する方法として普通に用いられるものではなく,このため実施料率自体は通常の場合の下限値を用いたものの,それでもなお,同方法によって算出された金額は真実の数値を相当程度上回っているものと考えられる。他方,被告の主張する取鍋の購入価格・修理価格による算出する方法も,同方法によって算出された金額は真実の数値とは大きく懸絶しているものと考えられる。

両者の試算値には誤差の範囲を超えた大きな相違がある。その原因は,算出の考え方,前提事実が全く異なっていることを考えると,当然の結果であり,両者を単純平均した数値を採用することは相当であるとはいえない。

しかも,当事者は,それぞれ,自己の主張する算出方法が正当であると主張しており,当裁判所が独自に第三の算出方法を案出することも,これを相当とする状況にはない。そこで, 当裁判所としては,民訴法248条の趣旨にかんがみ,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を参酌し, 原告が主張した,溶融アルミニウムの売上高を基準とする算出方法に基づいて得られた試算値を出発点として,公平の見地から,これに0 .5を乗じた金額をもって,実施料相当額であると認定するものである。」(知財高裁平成22年7月20日判決(平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件))



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知財高裁作成資料




判決年月日平成22年7月20日担知的財産高等裁判所第1部当事件番号平成19年(ネ)10032号部



控訴人(被告)の使用する溶融アル○ ミニウム合金搬送用加圧式取鍋が,被控訴人(原告)が有する特許権及び意匠権を侵害するとして提起された訴えにおいて,控訴人の製品は被控訴人の有する特許発明の技術的範囲に属し,被控訴人の特許に無効理由はなく,控訴人の製品は被控訴人の意匠と類似し,同意匠には無効理由はなく,控訴人には特許権等侵害につき過失があり,特許権等侵害による被控訴人の損害額については,上記取鍋を使用して納入された溶融アルミニウムの販売価格を基準としながら,同取鍋の購入・修理価格をも斟酌しつつ,原審が認定した被控訴人の損害額は過大であるとして,損害額を減額した事例

(関連条文)特許法29条1項,2項,79条,102条3項,103条,意匠法3条,24条,39条3項

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(要旨)



本件は,溶融金属供給用容器に関する特許及び意匠を有する被控訴人(1審原告。以下「原告」という。)が,控訴人(1審被告。以下「被告」という。)の使用する溶融アルミニウム合金搬送用加圧式取鍋が,原告の有する特許発明の技術的範囲に含まれ,また,原告が有する意匠権に係る意匠に類似するとして,特許権侵害及び意匠権侵害に基づき,前記加圧式取鍋の使用差止等及び特許法102条3項に基づく損害賠償を求めた事案である。

原審が,被告による特許権侵害行為の一部及び意匠権侵害行為を認定した上で,差止等の請求を全部認容し,損害賠償請求につき7293万7600円及びその遅延損害金部分を認容したところ,被告が控訴した。

なお,原告は,附帯控訴して,1審で請求していた期間以降の侵害に基づく損害賠償を請求するとともに,同損害賠償請求権の一部につき3年の消滅時効期間が経過した場合に備え,予備的に,不当利得の返還を請求した。

争点は非常に多岐にわたるが,主たる争点は,被告製品が原告が有する各特許の技術的範囲に含まれるか,原告が有する各特許が有効であるか,被告に先使用権が認められるか,被告製品が原告が有する意匠権に係る意匠に類似するか,同意匠が有効であるか,被告に特許権等侵害につき過失があったか,損害額の算定方法等である。

本判決は,基本的に,原審の判断枠組みに従って判断しながら,損害額の算定については,以下のとおり,原審の損害額の算定は過大であるとして,損害額につき,4968万8617円(不法行為に基づく損害額)及び96万5609円(不当利得に基づく損失額)並びに遅延損害金部分に変更した。

「以上,2つの方法で計算した試算値を比較すると,原告の主張する溶融アルミニウムの売上額による算出方法は,特許法102条3項等が想定する実施料を算出する方法として普通に用いられるものではなく,このため実施料率自体は通常の場合の下限値を用いたものの,それでもなお,同方法によって算出された金額は真実の数値を相当程度上回っているものと考えられる。他方,被告の主張する取鍋の購入価格・修理価格による算出する方法も,同方法によって算出された金額は真実の数値とは大きく懸絶しているものと考えられる。

両者の試算値には誤差の範囲を超えた大きな相違がある。その原因は,算出の考え方,前提事実が全く異なっていることを考えると,当然の結果であり,両者を単純平均した数値を採用することは相当であるとはいえない。

しかも,当事者は,それぞれ,自己の主張する算出方法が正当であると主張しており,当裁判所が独自に第三の算出方法を案出することも,これを相当とする状況にはない。そこで, 当裁判所としては,民訴法248条の趣旨にかんがみ,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を参酌し, 原告が主張した,溶融アルミニウムの売上高を基準とする算出方法に基づいて得られた試算値を出発点として,公平の見地から,これに0 .5を乗じた金額をもって,実施料相当額であると認定するものである。」


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判決原文(引用)





(6) 前記(3)サのとおり,乙73には,本件各特許発明5とほぼ同一内容の発明が記載されているといえる。


しかし,乙73にかかる特許の出願日は,平成14年12月28日であり,これは,本件特許5の出願日(基準日)と同一日である。そして,乙73の特許出願人である有限会社杉浦商店や発明者であるBが,同日以前に,乙73にかかる発明の内容を熟知していたことは当然であるとしても,それによって,同発明とほぼ同一内容である本件各特許発明5について,公然知られた状態であったとは到底いえない。

したがって,乙73に基づき,本件各特許発明5が新規性に欠けるとの被告の主張は理由がない。」

29 原判決170頁12行目の「11」を「12」とする。



30 原判決173頁15行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。


「なお,被告は,乙8の2対策書添付の見取図に寸法等の記載がないことや,焼結ベントのサンプルの取寄せや具体的に使用する焼結ベントの効果試験が後日されたという事実は,実施品の開発が後日行われたことを示すにすぎない旨主張する。しかし,乙8の2対策書添付の見取図は,単に寸法の記載がないだけでなく,その記載全体が極めて大まかであることからして,抽象的なアイディアを記載したにすぎないといわざるを得ず,当業者がこれに基づいて最終的な製作図面を作成しその物を製造することが可能な状態には到底達しておらず,やはり,この段階で,発明が完成したということはできない。」



31 原判決174頁23行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。



「ウ確かに,日本坩堝の常務取締役であったCの報告書(乙59)には,「『焼結ベント』を使用することについては,平成14年12月9日の火災事故直後の対策会議において提案された対応策の1つで,この会議に参加した中央窯業のD及び被告のEによれば,トヨタ自動車衣浦工場のAが最初に言い出した」旨の記載がある。

しかし,これは,あくまで伝聞にすぎない上,前記アのとおり,甲19,20の議事録には,原告の社員が,同月10日,12日の打合せ時に,トヨタ自動車側に対し,『取鍋転倒時等には,ポート先端に焼結金属や金網などで熱容量が大きいものを取り付け,気体を通し溶湯は固まって止まるようにする』と回答したことが記載されている。

以上からすれば,少なくとも,本件各特許発明5に相当する技術的手段につき,『被告及び同月9日の会議に参加した各社の従業員が共同で発案した』ことを認めるに足りる証拠はなく,同発明につき先使用権を主張する被告において,この点に関する立証に成功していない。」

32 原判決175頁3行目の「12」を「13」とする。

33 原判決179頁14行目の「13」を「14」とする。

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36 原判決185頁3行目の後に行を改めて,以下のとおり挿入する。



「(1) 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)とされている。

そして,意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,目的,用途,使用態様,さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である。

なお,意匠の新規性(意匠法3条1項)及び創作非容易性(同条2項)という創作性の登録要件を充足して登録された意匠の範囲については,その意匠の美感をもたらす意匠的形態の創作の実質的価値に相応するものとして考えなければならず,公知意匠を参酌して,登録意匠が備える創作性の幅を検討する必要があるため,公知意匠を参酌することの必要性は,意匠法41条によって特許法104条の3が準用されるようになった後においても,完全に失われてはいないというべきである。

もっとも,意匠とは,様々な要素の組合せ全体から構成される全体としての視覚情報が最終的には意味を有するものであり,一部に公知意匠が含まれても,他の要素と併存することで異なる意匠を構成することも想定されるため,要部認定に際して,周知又は公知の意匠を参酌するものの,周知又は公知の意匠が包含されることをもって,直ちにその部分が,要部から排除されるべきものとまではいえない。

以上を前提として,以下,本件意匠と被告意匠の類否を検討することとする。」

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43 原判決193頁14行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。



「そして,改造により,被告現製品は被告製品とは異なるものであるが,単にハッチ上の内圧調整用の貫通孔をプラグで塞いであるだけで,全体としての美感に影響を与えるような改造ではないものと解されるから,被告現製品にかかる意匠も,本件意匠と類似し,本件意匠に係る物品と同一の取鍋に本件意匠と類似する意匠を使用する被告の行為についても,本件意匠権を侵害する行為であると認められる。」

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「16 争点7-2(本件意匠は公知意匠から容易に創作し得るか)について



(1) 被告は,本件意匠につき,公知意匠1(乙1参照)及び公知意匠2(乙2の6参照)に基づき,容易に創作できた意匠であり,意匠法3条2項に違反して登録されたため,無効であると主張するため,以下,検討する。

(2) 意匠法3条1項3号は,意匠権の効力が,登録意匠に類似する意匠すなわち登録意匠にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美感を生ぜしめる意匠にも,及ぶものとされている(同法23条)ところから,上記のような物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とするのに対し,同法3条2項は,物品の同一又は類似という制限をはずし,社会的に広く知られたモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするものであって,両者は考え方の基礎を異にする規定であると解される(最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照)。

本件においても,以上に示された基準に沿って,本件意匠が公知意匠1及び2から容易に創作し得たか否かにつき検討する。




17 争点8(被告の過失の有無)について


確かに,特許法103条においては,特許権の侵害者の,侵害行為についての過失が推定されているが,これはあくまで推定規定であり,無過失責任を定めるものではない。

しかし,他方で,特許権者は,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とする場合に限り,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができ,その場合,同訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならないとされている(特許法126条1項,4項参照)。

そうであれば,訂正は,当初の特許請求の範囲を拡張するものではなく,第三者に不測の不利益を及ぼすことはない。


したがって,本件特許1,3,4につき複数回の訂正がされたこと自体によって,侵害者たる被告につき推定される過失が覆滅されるとはいえない。


このほか,被告は,自らは被告製品を使用しているだけで生産をしていないとも主張するが,この点は,仮に違法性の程度に影響を与えるとしても,過失の有無に影響を与える事実とはいえない。


以上のとおり,自らに過失がない旨の被告の主張は理由がない。


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18 争点9(損害)について



(1) 特許権者は,故意又は過失により特許権を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる(特許法102条3項)。

被告は,被告製品を使用して本件各特許発明1及び5を実施しているのであるから,原告は,本件各特許発明1及び5の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を被告に請求することができる。

なお,本件特許3,4についても,訂正の結果有効となっており,前記10(2)のとおり,被告製品は,これらの特許を侵害していたことになるが,これらは,いずれも『大小2枚の蓋を備え,小さい方の開閉可能な蓋に貫通孔を設ける』という,本件特許1と同様の構成を採用することで,初めて有効(進歩性あり)とされたものであって,有効とされた根拠において実質的に本件特許1と変わらないといえる。


したがって,原告の損害との関係では,本件特許1の侵害による損害額を算定することで,本件特許3,4についても折込み済みとみるべきであって,本件特許1の侵害とは別個独立に本件特許3及び4の侵害による原告の損害額を認定算出することは,判決の結論に影響がないと認められるので,これを行わないこととする。

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(2)ア被告は,平成18年1月1日以降の期間の原告の損害賠償請求につき,平成21年2月19日付け訴え変更申立書が送達された日(平成21年2月23日)までに,消滅時効が完成した部分がある旨主張し,消滅時効の抗弁を出している。

本件のように,特許権侵害行為が継続して行われ,そのために損害も継続して発生する場合においては,損害の継続・発生する限り,日々新しい不法行為に基づく損害として,各損害を知った時から,別個に消滅時効が進行すると解されるところ,原告は,平成18年1月1日以降の損害につき,平成21年2月19日付け訴えの変更申立書を提出するまでの間,損害の発生を知りつつ,請求しなかったことになるから,平成18年1月1日から同年2月23日までの損害に対応する賠償請求権は,時効により消滅したことになる(当裁判所は,必ずしもこのような見解を是としているわけではなく,権利者が将来にわたって差止請求をしながら,既経過分の実施料相当額の請求のみにとどめるのは,将来分の請求権適格性に疑問があることによるものと思われるところ,このような場合には,未経過分についても,事情に変更がない限り,訴訟係属により時効管理がされているものと解する余地がある。しかしながら,本件では,原告が,被告による消滅時効の援用があれば,当然に時効消滅するものと解して予備的請求を設定している経緯にかんがみ,上記のように判断したものである。)。

イ原告は,これに備えて,予備的に,同期間の損害(損失)につき,不当利得に基づく返還請求をしている。

特許権は民法703条にいう『財産』に該当するところ,無断実施者がこれによって『利益』を得て特許権者たる他人に損失を及ぼしている場合には,不当利得として同利益を返還すべき義務を負うといえる。もっとも,不当利得返還請求については,特許法102条の規定の適用はなく,専ら民法703条,704条の規定に基づくことになるが,その際の不当利得の額(実施料相当額)自体については,特許権侵害に基づく損害賠償の場合と特段の違いはない。


ウこれに対し,被告は,自らは善意の受益者であるから,少なくとも本判決確定までの間は,利息を支払う義務を負わない旨主張する。確かに,民法703条ないし704条に基づく不当利得返還請求において,利得者の悪意が推定されるものでもなく,その他,本件特許1,3,4,5に関して,特許庁でも,少なくとも一部につき無効と判断され,訂正が繰り返されたこと等の本件での諸事情を考慮すれば,被告が,本件での特許権侵害につき悪意であるとまでは認められない。

したがって,上記の損害賠償請求権が時効消滅した期間に対応する不当利得額については,利息は発生しない。

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(3) 本件では,原告は,被告に対し,特許法102条3項及び意匠法39条3項に基づき,実施料相当額の損害賠償を求めるものであるが,本件特許権の対象物である取鍋に関する取引事例がほとんどないこともあり,市場における実際の取引事例を比較分析することなどによっては,実施料相当額を算出することはできないため,本件における実施料相当額を求めるには,被告が本件特許権の使用によって実際に受けたと考えられる利益を基にして算出するほかに方法はない。

この点について,原告は,被告が取鍋の転売により利益を得ている事実はなく取鍋を用いて溶融アルミニウムを納入販売していることを考えると,溶融アルミニウムの売上額を基準として算出すべきであると主張するものであり,侵害製品そのものの売上げではないため,結果として,過大な金額になることが予想されるものの,原告主張の算出方法には,試算値を算出する方法としては,相応の合理性があるということができる。

他方,被告は,加圧式取鍋である被告製品ないし被告現製品を使用して,溶融アルミニウムを衣浦工場に納入販売することにより,利益を得ているものではあるが,本件各特許は,『方法』の発明ではなく『物』の発明に係る特許であって,被告製品ないし被告現製品の『使用』とは,溶融金属の『運搬及び溶融金属の供給』に用いることにすぎないとし,その使用に係る『利益』は,被告製品ないし被告現製品の購入額・修理額に基づいて計算することができると主張するものであり,結果として,侵害製品を用いた場合の溶融アルミニウムの売上額を基準にする場合と比較すると,過小な金額になることが否めないものの,被告主張の算出方法にも,実施料相当額を算出する場合に斟酌する試算値を算出するものとして,若干の合理性があるということができる。

(4)ア証拠(甲28,44,51)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成15年5月12日ころから平成18年8月ころまでは被告製品を用いて,同月ころから現在までは被告現製品を用いて,それぞれ溶融アルミニウムをトヨタ自動車の衣浦工場に納入しており,平成15年(5月から12月まで)は8000トン,平成16年は1万4610トン,平成17年は1万3960トン,平成18年は6300トン,平成19年は8500トン,平成20年は1万1700トン,平成21年は8910トンの納入をしたこと,溶融アルミニウムの納入価格は,1キログラム当たり,①平成15年5月から同年12月までが平均187円(1円未満の端数は切捨て。以下同じ。),②平成16年1月から同年12月までが平均200円,③平成17年1月から同年12月までが平均206円,④平成18年1月から同年12月までが平均296円,⑤平成19年1月から同年12月までが平均296円,⑥平成20年1月から12月までが平均312円,⑦平成21年1月から12月までが平均178円であることが認められる。

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イ以上認定判示したところ(一部弁論の全趣旨によって認められる事実を補充)によれば,次のとおりいうことができる。

正確な時期はやや不明確ではあるが,被告が,平成18年7月31日までは被告製品を使用し,同年8月1日以降は被告現製品を使用して,それぞれ溶融アルミニウムを衣浦工場に納入したものと解される。

以上を前提として,溶融アルミニウムの納入価格総額を計算すると,別紙『裁判所認定損害額①』のとおり,平成15年5月12日から平成18年7月31日までが83億7687万6712円,同年8月1日から平成21年12月31日までが85億3406万3288円となる。

被告が,衣浦工場に溶融アルミニウムを納入するに際し,納入先であるトヨタ自動車の承認が必要であるところ,平成14年12月の溶湯洩れ事故の影響もあり,本件各特許発明5の安全装置(焼結金属等を用いた気体のみを通過させる規制部材 に関する発明であって,容器内の過度の圧力の上昇を防止するもの)を備えた被告現製品又はこれと同等のものを使用する必要性が高いものと解される。

他方で,被告は,平成18年8月ころまでは,本件各特許発明1の構成(加圧式取鍋において大小2枚の蓋を設け,小さい方の開閉可能な蓋に内圧調整用の貫通孔を設けるもの)を備えた被告製品を使用していたものであるが,同月ころ以降,本件各特許発明1の構成を必ずしも備えていない被告現製品を使用しているにもかかわらず,これにつきトヨタ自動車から強い異議があったとは窺われない。そして,本件各特許発明1の目的が『内圧調整に用いるための配管や孔の詰まりを未然に防止する』というものであって,必ずしも事故の防止に直結するようなものでないことをも考慮すれば,被告が衣浦工場に溶融アルミニウムを納入するに際し,本件各特許発明1の構成を備えた取鍋を使用する必要性は,必ずしも高くはないというべきである。

このほか,本件各特許発明1及び5は,加圧運搬式取鍋の全体的な構成に関する発明ではなく,部分的な改良発明であること,さらに,原告と被告は衣浦工場において競業関係にあり,被告が溶融アルミニウムを納入することができないことになれば,原告が溶融アルミニウムを納入することが可能な状況であること(この点は特許法102条3項の本来想定する事情ではないためここでは参考として斟酌する にとどめる。)等の取引関係の実情及び本件各特許発明1及び5の内容に照らせば,溶融アルミニウムの売上額を基準にした場合,本件各特許発明1及び5の実施料率として普通に考えられるものとしては,本件各特許発明1及び同5を併せて,溶融アルミニウムの納入価格の0.6%という試算値になる(その内訳は,本件各特許発明1は0.2%,本件各特許発明5は0.4%となる。)。

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ウ本件意匠権侵害について,被告が,被告意匠を用いた被告製品ないし被告現製品を使用しなければ,トヨタ自動車の衣浦工場に溶融アルミニウムを納入することができなかったことを認めるに足りる証拠はないが,被告が,被告意匠を用いた被告製品ないし被告現製品を使用することにより,納入をスムーズに行えたことは,容易に推測可能である。

このほか,本件意匠が加圧式取鍋全体に係る意匠であること等を考慮すれば,本件意匠の実施料率として普通に考えられるものとしては,溶融アルミニウムの納入価格の0.1%という試算値になる。

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エ以上のとおり,溶融アルミニウムの売上高を基準として,試算値として,原告の損害額ないし損失額を計算してみると,被告製品についての実施料率が合計0.7%,被告現製品についての実施料率が合計0.5%であるので,別紙『裁判所認定損害額①』のとおり,平成15年5月12日から平成18年7月31日までが5863万8137円,同年8月1日から平成21年12月31日までが4267万0316円となり,合計は1億0130万8453円となる。

(5) 他方で,取鍋の購入・修理価格に基づく計算方法についてであるが,証拠(乙61の1ないし61の19,乙81の1ないし81の44)から認められる被告の取鍋の購入価格・修理価格を前提とすると,別紙『裁判所認定損害額②』のとおり,平成15年5月12日以降(原告が損害賠償の対象としている部分)から平成18年7月までの取鍋の購入価格,修理・改修費用は,合計1億7185万6523円となり,同年8月以降平成21年12月までの分は合計1億7929万3576円(なお,被告現製品においては実施していない本件特許1についての部分を除くために,7分の5を乗じると,1億2806万6840円)となる。

そして,被告は,本件特許1,5及び本件意匠の実施料率が合計2%であることを自認しているので,これを前提とした場合,この算出方法による原告の損害額ないし損失額の試算値は599万8467円となる。

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19 差止め等の必要性について



被告が,本件特許1,5及び本件意匠につき,侵害の事実を争っていることに加え,本件特許1に関しては,設計変更により,被告現製品では侵害していないとはいえ,ハッチ上の内圧調整用の貫通孔をプラグで塞いであるだけで,これを元の構成に戻すことが容易であると解されることからすれば,侵害のおそれはあるといわざるを得ず,差止め,侵害品等の廃棄等の必要性はあるといえる。」



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判決原文(全文)




平成22年7月20日判決言渡平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件



口頭弁論終結日平成22年1月28日

(原審東京地方裁判所平成16年(ワ)第24626号)



判決




主文



第1 控訴人の控訴及び附帯控訴人の附帯控訴(当審で追加された請求のうち主位的請求の拡張に係る部分を含む。)に基づき,原判決の主文1ないし4を以下のとおり変更する(主文1,2には変更部分はない。)。

1 控訴人・附帯被控訴人(被告)は,原判決添付の別紙被告製品目録記載の取鍋を使用し,譲渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

2 控訴人・附帯被控訴人(被告)は,原判決添付の別紙被告製品目録記載の取鍋を廃棄せよ。

3 控訴人・附帯被控訴人(被告)は,被控訴人・附帯控訴人(原告)に対し,4968万8617円及び内金523万6000円に対する平成16年12月1日から,内金2029万2160円に対する平成18年5月26日から,内金2019万5507円に対する平成21年2月24日から,内金396万4950円に対する平成22年1月16日から,各支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。

4 被控訴人・附帯控訴人(原告)のその余の主位的請求を棄却する。



第2 被控訴人・附帯控訴人(原告)の附帯控訴(当審で予備的請求を追加した部分に係る附帯控訴部分)に基づき,



1 控訴人・附帯被控訴人(被告)は,被控訴人・附帯控訴人(原告)に対し,96万5609円及びこれに対する平成21年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被控訴人・附帯控訴人(原告)のその余の予備的請求を棄却する。

第3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,訴訟費用のうち訴えの提起及び控訴の提起の手数料に係る部分は,これを5分し,その4を控訴人・附帯被控訴人(被告)の,その1を被控訴人・附帯控訴人(原告)の各負担とし,その余の訴訟費用は各自の負担とする。

第4 この判決は,金員の支払いを命じた部分につき,仮に執行することができる。



事実及び理由




第1 請求




(控訴)



1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2 同取消部分にかかる被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。



(附帯控訴)



1 主位的請求(特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求)

附帯被控訴人(1審被告)は,附帯控訴人(1審原告)に対し,2億5000万円並びに内金1000万円に対する平成16年12月1日から支払済みまで,内金9000万円に対する平成18年5月26日から支払済みまで,内金1億3000万円に対する平成21年2月24日から支払済みまで,内金2000万円に対する平成22年1月16日から支払済みまで,各年5分の割合による金員を支払え。

2 予備的請求(実施料相当額の支払いを免れたことによる不当利得返還請求)上記第1項と同旨。

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第2 事案の概要(以下,被控訴人・附帯控訴人(1審原告)を単に「原告」といい,控訴人・附帯被控訴人(1審被告)を単に「被告」という。)



1 本件は,原告が,被告に対し,被告の使用する溶融アルミニウム合金搬送用加圧式取鍋が,原告の有する特許発明の技術的範囲に含まれ,また,原告の有する意匠権に係る意匠と類似するとして,特許権侵害及び意匠権侵害に基づき,前記加圧式取鍋の使用差止等及び損害賠償を求めた事案である。被告は,原告の特許権には進歩性欠如の無効理由があり,また,被告には先使用権が認められるなどと主張して,これを争っている。

なお,被告が控訴して,原告の請求棄却を求めたことに伴い,原告も附帯控訴して,主位的に,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求をするとともに,同損害賠償請求権が消滅時効にかかった場合に備えて,予備的に,不当利得の返還請求をしている。

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2 原審における原告の請求(訴訟費用等に関する部分を除く。)



(1) 被告は,別紙被告製品目録記載の取鍋を使用し,譲渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

(2) 被告は,別紙被告製品目録記載の取鍋を廃棄せよ。

(3) 被告は,原告に対し,1億円及び内金1000万円に対する平成16年12月1日から,内金9000万円に対する平成18年5月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

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3 原判決の主文(訴訟費用等に関する部分を除く。)



(1) 原審における原告の請求(1)に同じ。

(2) 原審における原告の請求(2)に同じ。

(3) 被告は,原告に対し,7293万7600円及び内金1000万円に対する平成16年12月1日から,内金6293万7600円に対する平成18年5月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

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4 前提事実及び争点



以下のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」「1 前提となる事実」,「2 本件における争点」記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決12頁9行目から13頁4行目までを,以下のとおり改める。

「ア本件特許1に係る明細書(平成21年7月7日付け審決による訂正後のもの。以下『本件明細書1』という。甲1の2,甲30の1,2参照。)の特許請求の範囲の請求項1ないし3(以下『本件特許発明1-1』のようにいう。)の記載は次のとおりである。なお,下線部分は,それぞれ最後に訂正された部分で,以下同様である。

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a) 請求項1

『溶融金属を収容することができ,上部に第1の開口部を有する容器と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を加圧により流通することが可能な流路と,前記容器の第1の開口部を覆うように配置され,ほぼ中央に前記第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有する蓋と,前記蓋の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通し,容器内の前記加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられ,- 5 -前記容器内部の気密を確保するハッチとを具備し,公道を介してユースポイントまで搬送されることを特徴とする溶融金属供給用容器。』

b) 請求項2

『請求項1に記載の溶融金属供給用容器において,前記貫通孔に取り付けられ,前記容器の上面部から上方に向けて突出し,所定の高さの位置で水平方向に折り曲げられ,接続部が水平方向に導出された配管を更に具備することを特徴とする溶融金属供給用容器。』

c) 請求項3

『請求項2に記載の溶融金属供給用容器において,前記配管は,前記貫通孔に着脱可能に螺着されていることを特徴とする溶融金属供給用容器。』」

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(2) 原判決14頁11行目から15頁19行目までを,以下のとおり改める。

「ウ本件特許3に係る明細書(平成21年7月17日付け審決による訂正後のもの。以下『本件明細書3』という。甲3の2,甲45の1,2参照。)の特許請求の範囲の請求項1及び5(以下『本件特許発明3-1』,『本件特許発明3-7』という。)の記載は次のとおりである。なお,上記訂正により,当初の請求項7が請求項5に繰り上がった。

a) 請求項1

『溶融金属を収容することができ,内外の圧力差を調節することにより,内部へ溶融金属を導入し,または外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって,フレームと,前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと,前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され,前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと,配管とを有し,前記第1のライニングは,容器内底部に近い位置から容器上面側の露出部まで溶融金属の流路を内在し,当該流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで充填され,前記第2のライニングは,前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で,かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され,前記配管は,前記露出部の流路に接続され,先端の出入口が下向きであり,前記容器の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ,閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し,前記ハッチは,前記容器の上面部の中央に設けられ,かつ,前記貫通孔は,前記ハッチの中央,または中央から少しずれた位置に設けられていることを特徴とする容器。』


b) 請求項5(当初の請求項7)

『溶融金属を収容することができ,内外の圧力差を調節することにより,内部へ溶融金属を導入し,または外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって,溶融金属を貯留する貯留室と,前記貯留室と外部との間の溶融金属の流路となるインターフェース部と,前記貯留室下部と前記インターフェース部下部との間の連結口を有し,これらの間を仕切る壁と,前記インターフェース部上部に接続された配管とを具備し,前記容器の外周は金属製のフレームにより覆われており,前記貯留室及び前記インターフェース部と,前記フレームとの間には,第1の熱伝導率を有する第1のライニングと,前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングとが前記第1のライニングを内側にして積層され,前記壁は,前記連結口から前記インターフェース部の上部に向けて前記第1のライニングが充填されたゾーンを有し,前記インターフェース部が当該インターフェース部と前記フレームとの間に介挿された前記第2のライニングにより保温されるとともに,前記ゾーンを介して前記貯留室内に貯留された前記溶融金属から前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されており,前記容器の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ,閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し,前記ハッチは,前記容器の上面部の中央に設けられ,かつ,前記貫通孔は,前記ハッチの中央,または中央から少しずれた位置に設けられていることを特徴とする容器。』
(3) 原判決15頁20行目から16頁5行目までを,以下のとおり改める。

「エ本件特許4に係る明細書(平成21年7月7日付け審決による訂正後のもの。以下『本件明細書4』という。甲4の2,甲46の1,2参照。)の特許請求の範囲の請求項1(以下『本件特許発明4-1』という。)の記載は次のとおりである。

『溶融アルミニウムを収容することができ,内外の圧力差を調節することにより,外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される上部開口部に大蓋が配置された容器であって,フレームと,前記フレームの内側に設けられ,かつ,前記容器内の底部付近に開口を有し,当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと,前記配管取付部に取付けられ,前記流路に連通する第1の配管と,前記容器本体内を加圧するための第2の配管とを具備し,少なくとも前記流路の内径は,約65㎜~約85㎜であり,前記大蓋は,その略中央に開口部が設けられ,当該開口部には開閉可能であって,閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置されており,前記第2の配管は,前記ハッチの中央,または中央から少しずれた位置に設けられた内圧調整用の貫通孔に接続され,前記容器本体内への加圧は,前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記第2の配管を介して前記容器本体内に加圧気体が供給されることにより行われることを特徴とする容器。』」


(4) 原判決16頁6行目から21行目までを,以下のとおり改める。

「オ本件特許5に係る明細書(平成20年5月9日付け審決による訂正後のもの。以下『本件明細書5』という。甲5の2,甲47の1,2参照。)の特許請求の範囲の請求項1及び7(以下『本件特許発明5-1』,『本件特許発明5-8』という。)の記載は次のとおりである。なお,上記訂正により,当初の請求項8が請求項7に繰り上がった。

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a) 請求項1

『内外を連通し,容器内の加圧を行うための貫通孔を有し,溶融金属を収容することができ,加圧により圧力差を利用して内外で溶融金属を流通させることができる容器と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を流通することが可能な第1の流路と,前記貫通孔に通じる第2の流路に介在され,気体を通過させ,かつ,溶融金属の通過を規制する規制部材と,前記貫通孔に取り付けられ,前記容器の上面部から上方に向けて突出し,所定の高さの位置で水平方向にて折り曲げられ,接続部が水平方向に導出された配管と,前記配管の先端に取り付けられ,カプラを構成するプラグと,前記カプラを構成するソケットからなり,前記規制部材が介在され,前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には当該規制部材の介在により前記配管の接続部を塞ぐ着脱可能な栓とを具備することを特徴とする溶融金属供給用容器。』

b) 請求項7(当初の請求項8)

『溶融金属を収容することができる容器と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を流通することが可能な第1の流路と,前記容器の上部に設けられ,前記容器の内圧を逃がすことができ,容器内の加圧を行うための圧力開放管と,前記圧力開放管に,前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記圧力開放管を塞ぎ,気体を通過させ,かつ,前記溶融金属の流通を規制するように設けられた着脱可能な規制部材と,を具備したことを特徴とする溶融金属供給容器。』」

(5) 原判決18頁4行目の後に,「なお,当事者の主張欄においては,訂正前の構成要件の分説を用いている部分がある。」を付加する。

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(6) 原判決18頁7行目から19頁1行目までを以下のとおり訂正する。



「a) 本件特許発明1-1



1-1A 溶融金属を収容することができ,上部に第1の開口部を有する容器と,

1-1B 前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を加圧により流通することが可能な流路と,

1-1C 前記容器の第1の開口部を覆うように配置され,ほぼ中央に前記第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有する蓋と,

1-1D 前記蓋の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通し,容器内の前記加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられ,前記容器内部の気密を確保するハッチとを具備し,

1-1E 公道を介してユースポイントまで搬送されることを特徴とする溶融金属供給用容器。

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b) 本件特許発明1-2



1-2A 請求項1に記載の溶融金属供給用容器において,

1-2B 前記貫通孔に取り付けられ,前記容器の上面部から上方に向けて突出し,所定の高さの位置で水平方向に折り曲げられ,接続部が水平方向に導出された配管を更に具備する

1-2C ことを特徴とする溶融金属供給用容器。



c) 本件特許発明1-3



1-3A 請求項2に記載の溶融金属供給用容器において,

1-3B 前記配管は,前記貫通孔に着脱可能に螺着されている

1-3C ことを特徴とする溶融金属供給用容器。」

(7) 原判決20頁16行目から22頁8行目までを以下のとおり訂正する。

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「a) 本件特許発明3-1



3-1A 溶融金属を収容することができ,内外の圧力差を調節することにより,内部へ溶融金属を導入し,または外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって,

3-1B フレームと,

3-1C 前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと,

3-1D 前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され,前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと,

3-1E 配管とを有し,

3-1F 前記第1のライニングは,容器内底部に近い位置から容器上面側の露出部まで溶融金属の流路を内在し,当該流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで充填され,

3-1G 前記第2のライニングは,前記流路からみて前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で,かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に配され,

3-1H 前記配管は,前記露出部の流路に接続され,先端の出入口が下向きであり,

3-1I 前記容器の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ,閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し,

3-1J 前記ハッチは,前記容器の上面部の中央に設けられ,かつ,前記貫通孔は,前記ハッチの中央,または中央から少しずれた位置に設けられている

3-1K ことを特徴とする容器。

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b) 本件特許発明3-7(請求項5)



3-7A 溶融金属を収容することができ,内外の圧力差を調節することにより,内部へ溶融金属を導入し,または外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって,

3-7B 溶融金属を貯留する貯留室と,

3-7C 前記貯留室と外部との間の溶融金属の流路となるインターフェース部と,

3-7D 前記貯留室下部と前記インターフェース部下部との間の連結口を有し,

3-7E これらの間を仕切る壁と,

3-7F 前記インターフェース部上部に接続された配管とを具備し,

3-7G 前記容器の外周は金属製のフレームにより覆われており,

3-7H 前記貯留室及び前記インターフェース部と,前記フレームとの間には,第1の熱伝導率を有する第1のライニングと,前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングとが前記第1のライニングを内側にして積層され,

3-7I 前記壁は,前記連結口から前記インターフェース部の上部に向けて前記第1のライニングが充填されたゾーンを有し,前記インターフェース部が当該インターフェース部と前記フレームとの間に介挿された前記第2のライニングにより保温されるとともに,前記ゾーンを介して前記貯留室内に貯留された前記溶融金属から前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されており,

3-7J 前記容器の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ,閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内に溶融金属を供給するに先立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチを有し,

3-7K 前記ハッチは,前記容器の上面部の中央に設けられ,かつ,前記貫通孔は,前記ハッチの中央,または中央から少しずれた位置に設けられている

3-7J ことを特徴とする容器。」

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(8) 原判決22頁11行目から22行目までを以下のとおり訂正する。



「4-1A 溶融アルミニウムを収容することができ,内外の圧力差を調節することにより,外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される上部開口部に大蓋が配置された容器であって,

4-1B フレームと,

4-1C 前記フレームの内側に設けられ,かつ,前記容器内の底部付近に開口を有し,当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと,

4-1D 前記配管取付部に取付けられ,前記流路に連通する第1の配管と,

4-1E 前記容器本体内を加圧するための第2の配管とを具備し,

4-1F 少なくとも前記流路の内径は,約65㎜~約85㎜であり,

4-1G 前記大蓋は,その略中央に開口部が設けられ,当該開口部には開閉可能であって,閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内に溶融アルミニウムを供給するに先立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチが配置されており,

4-1H 前記第2の配管は,前記ハッチの中央,または中央から少しずれた位置に設けられた内圧調整用の貫通孔に接続され,

4-1I 前記容器本体内への加圧は,前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記第2の配管を介して前記容器本体内に加圧気体が供給されることにより行われる

4-1J ことを特徴とする容器。」

(9) 原判決22頁25行目から23頁16行目までを以下のとおり訂正する。



「a) 本件特許発明5-1



5-1A 内外を連通し,容器内の加圧を行うための貫通孔を有し,溶融金属を収容することができ,加圧により圧力差を利用して内外で溶融金属を流通させることができる容器と,

5-1B 前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を流通することが可能な第1の流路と,

5-1C 前記貫通孔に通じる第2の流路に介在され,気体を通過させ,かつ,溶融金属の通過を規制する規制部材と,

5-1D 前記貫通孔に取り付けられ,前記容器の上面部から上方に向けて突出し,所定の高さの位置で水平方向にて折り曲げられ,接続部が水平方向に導出された配管と,

5-1E 前記配管の先端に取り付けられ,カプラを構成するプラグと,

5-1F 前記カプラを構成するソケットからなり,前記規制部材が介在され,前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には当該規制部材の介在により前記配管の接続部を塞ぐ着脱可能な栓と

5-1G を具備することを特徴とする溶融金属供給用容器。



b) 本件特許発明5-8(請求項7)



5-8A 溶融金属を収容することができる容器と,

5-8B 前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を流通することが可能な第1の流路と,

5-8C 前記容器の上部に設けられ,前記容器の内圧を逃がすことができ,容器内の加圧を行うための圧力開放管と,

5-8D 前記圧力開放管に,前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記圧力開放管を塞ぎ,気体を通過させ,かつ,前記溶融金属の流通を規制するように設けられた着脱可能な規制部材と,

5-8E を具備したことを特徴とする溶融金属供給容器。」

(10) 原判決26頁16行目から27頁17行目を,以下のとおり改める。



「ア本件特許1について



被告は,平成17年11月9日,本件特許1について無効審判を申し立てた。

特許庁は,平成18年7月19日,本件特許1の請求項1ないし3を無効とする旨の審決(乙54)をした。

原告は,同年8月28日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成18年(行ケ)第10389号)を提起するとともに,同年10月19日,同特許につき訂正審判を請求した。

知財高裁は,同年11月15日,上記審決を取り消す旨の決定をした(甲34)。上記取消決定を受けて特許庁に差し戻された同特許に係る無効審判請求において,原告は,新たな訂正の請求を行わなかったため,訂正審判請求書に添付した訂正した明細書(甲30の2)のとおり訂正請求がされたものとみなされた。

特許庁は,平成19年6月5日,同特許につき,訂正を認めるとともに,請求項1ないし3に係る特許を無効とする旨の審決をした(乙63)。

原告は,同年7月13日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成19年(行ケ)第10258号)を提起した。

知財高裁は,平成21年1月28日,上記審決を取り消す旨の判決をした(乙74)。

特許庁は,その後,さらに審理した上で,同年7月7日,『訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。』旨の審決をした(甲48)。



イ本件特許3について



被告は,平成17年11月14日,本件特許3について無効審判を申し立てた(無効2005-80327号)。

特許庁は,平成18年7月19日,本件特許3の請求項1,2及び4ないし8をあ無効とし,請求項3に対する請求は成り立たない旨の審決(乙55)をした。

被告は,同年8月24日,上記審決のうち請求項3に係る部分について,審決取消訴訟(知財高裁平成18年(行ケ)第10384号)を提起するとともに,同月31日,新たに,無効審判請求をした(無効2006-80167号)。

他方で,原告は,同月28日,上記審決の請求項1,2及び4ないし8に係る部分につき,審決取消訴訟(知財高裁平成18年(行ケ)第10390号)を提起するとともに,同年10月19日,同特許につき訂正審判を請求した。

知財高裁は,同年11月15日,上記審決(請求項3に対する部分を含む。)を取り消す旨の決定をした(甲35)。

上記取消決定を受けて特許庁に差し戻された同特許に係る無効審判請求において,原告は,同年12月11日,訂正審判請求における訂正明細書(甲31の2)と同じ内容の訂正請求を行った(甲38の1,2)。

特許庁は,無効2005-80327号事件及び無効2006-80167号事件につき審理を併合した上で,平成19年6月13日,本件特許3につき無効とする旨の審決をした(乙70)。

原告は,同年7月23日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成19年(行ケ)第10268号)を提起するとともに,同年10月22日,訂正審判請求をした(訂正2007-390118号。甲45の1,2)。

知財高裁は,同年11月9日,上記審決を取り消す旨の決定をした。

特許庁は,その後,さらに審理した上で,平成20年3月18日,本件特許3の一部につき無効とする旨の審決をした。

原告は,同年4月25日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成20年(行ケ)第10154号)を提起した。

知財高裁は,平成21年2月4日,上記審決を取り消す旨の判決をした(乙75)。

特許庁は,その後,さらに審理した上で,同年7月17日,「訂正を認める。無効2005-80327号に係る審判の請求のうち,『特許第3489678号の請求項1,2,4~6に係る発明の特許を無効とする。』との請求は成り立たない。無効2006-80167号に係る審判の請求は成り立たない。」旨の審決をした(甲49)。

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ウ本件特許4について



被告は,平成17年11月8日,本件特許4について無効審判を申し立てた。

特許庁は,平成18年7月19日,本件特許4の請求項1,3,4及び6に対する請求は成り立たない旨の審決(乙56)をした。

被告は,同年8月24日,上記審決について,審決取消訴訟(知財高裁平成18年(行ケ)第10383号)を提起した。

知財高裁は,平成19年5月29日,上記審決を取り消す旨の判決をした。

特許庁は,その後,さらに審理した上で,同年9月28日付けで,請求項1,3,

4,6に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をした(乙72)。

原告は,同年11月9日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成19年(行ケ)第10381号)を提起するとともに,平成20年1月11日,訂正審判請求をした(訂正2008-390005号。甲46の1,2。)。

知財高裁は,同月30日,上記審決を取り消す旨の決定をした。

特許庁は,その後,さらに審理した上で,同年3月18日,請求項1,3,5に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をした。

原告は,同年4月25日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成20年(行ケ)第10155号)を提起した。

知財高裁は,平成21年2月4日,上記審決を取り消す旨の判決をした(乙76)。

特許庁は,その後,さらに審理した上で,同年7月7日,『訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。』との審決をした(甲50)。



エ本件特許5について



被告は,平成19年5月15日,本件特許5につき,無効審判請求をした。

特許庁は,上記審判請求を無効2007-800095号事件として審理し,平成20年3月6日,本件特許5の一部につき無効とする旨の審決をした。

原告は,同年4月2日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成20年(行ケ)第10123号)を提起するとともに,同月3日,訂正審判請求をした(訂正2008-390038号。甲47の1,2)。

また,被告は,同月9日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成20年(行ケ)第10132号)を提起した。

特許庁は,同年5月9日,訂正を認める旨の審決をした。

知財高裁は,同年6月26日,上記両事件につき,前記無効審決を取り消す旨の判決をした。

特許庁は,その後,さらに審理した上で,同年12月16日,『本件審判の請求は成り立たない。』との審決をした(甲43)。

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オ本件意匠について



被告は,平成19年5月18日,本件意匠につき無効審判請求をした。

特許庁は,平成20年3月5日,『本件審判の請求は成り立たない。』との審決(無効2007-880006号)をした。

被告は,その後,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成20年(行ケ)第10131号)を提起した。

知財高裁は,平成21年1月28日,被告の請求を棄却する旨の判決をした(乙77)。」

(11) 原判決27頁18行目から29頁4行目までを削除する。

(12) 原判決29頁5行目の「(9)」を「(8)」と改める。

(13) 原判決29頁6行目から9行目までを,以下のとおり改める。

「被告は,平成15年5月25日ころから平成18年8月ころまでは,溶融アルミニウム合金搬送用加圧式取鍋(製品名『ポットリーベ』。以下『被告製品』という。)を使用していたが,同月ころから現在に至るまで,貫通孔を小蓋(ハッチ)ではなく大蓋に設けた取鍋(以下『被告現製品』ともいう。)を使用している。被告製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりである。」

(14) 原判決29頁10行目の「(10)」を「(9)」と改め,「被告製品」の後に「及び被告現製品」を加える。

(15) 原判決29頁11行目及び12行目,21行目及び22行目を削除する。

(16) 原判決29頁13行目の「イ」を「ア」と,17行目の「ウ」を「イ」と,23行目の「オ」を「ウ」と,25行目の「カ」を「エ」と,26行目の「キ」を「オ」と,それぞれ訂正し,23行目の「5-1,同」を削除し,さらに,同頁26行目の後に,改行して,以下のとおり追加する。

「カ被告現製品は,本件各特許発明1,3,4-1の技術的範囲に属しない(争いがない。)。

キ被告現製品は,規制部材(本件特許発明5-1,5-8)に関しては,被告製品と変わりがない(争いがない。)。」

(17) 原判決30頁4行目を削除し,以下のとおり追加する。



「イ被告製品が,本件各特許発明1の技術的範囲に属するか否か(争点1-2)」



(18) 原判決30頁16行目を削除し,以下のとおり追加する。



「エ被告製品が,本件各特許発明3の技術的範囲に属するか否か(争点3-4)」



(19) 原判決30頁19行目の後に,改行して,以下のとおり追加する。



「ウ被告製品が,本件特許発明4-1の技術的範囲に属するか否か(争点4-3)」



(20) 原判決30頁22行目の後に,改行して,以下のとおり追加する。



「ウ被告製品及び被告現製品が,本件特許発明5-1の技術的範囲に属するか否か(争点5-3)」



(21) 原判決31頁3行目を削除し,以下のとおり追加する。



「ア被告製品及び被告現製品の意匠は,本件意匠に類似するか(争点7-1)。





イ本件意匠は公知意匠から容易に創作し得るか(争点7-2)





(8) 被告の過失の有無(争点8)」



(22) 原判決31頁4行目を「(9) 損害(争点9)」と訂正する。

(23) 原判決31頁5行目の「争点8-1」を「争点9-1」と訂正し,同頁6行目の「争点8-2」を「争点9-2」と訂正する。



第3 争点に関する当事者の主張



次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。

1 原判決の32頁24行目の「なお,」から33頁1行目までを削除し,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「なお,一般論として,明示の合意がなくても,取引担当者間において,信義則上当然に守秘義務が生じる場合があるといえる。

しかし,本件では,日本坩堝株式会社(以下『日本坩堝』という。)が平成12年9月13日に作成した乙3の3図面は,遅くとも同月末日までにトヨタ自動車に提出されたが,同社は,乙3の3図面に記載の技術情報につき,明示の守秘義務は負担していないし,信義則上の守秘義務も負担しているといえる状況にはない。

まず,乙3の3図面は,公知・公用の傾動式取鍋の小蓋に,注湯をスムーズにするための内圧調整用の貫通孔を設けるという,極めて簡単な改良に関する図面であり,このような図面を見たトヨタ自動車が,信義則上の守秘義務を負うべき情報と思うとは考えられない。

また,乙3の3図面と同様,日本坩堝が作成し,被告を介してトヨタ自動車に提出された取鍋の設計図である甲10及び11を,被告の競合先である原告が入手し,自己の証拠として提出しているのである。

したがって,乙3の3図面は,遅くとも平成12年9月末までに守秘義務を負わないトヨタ自動車に開示されたことにより,同図面に記載された技術事項は公知となったものである。」
2 原判決33頁5行目の後に,改行して,以下のとおり追加する。

「d)① なお,加圧式取鍋において,大小の『二枚蓋』を設け,小蓋に貫通孔を設置する構成も,公知ないし周知の構成である(乙64の1,64の2参照)。乙64の1,2は公道搬送用の取鍋ではないかもしれないが,公道搬送用の取鍋は乙1の発明が開示するもので,乙1には,開閉可能な受湯口小蓋19が開示されている。

また,乙64の1,2には,大蓋10A及び小蓋(密閉蓋10B)を備えた構成が開示されており,あえて二重蓋とされている以上,小蓋10Bが開閉を予定されたものであることは明らかである。

② そして,小蓋に取り付ける配管も,小蓋の開閉のじゃまにならないように短く構成されればよく,仮に配管が小蓋の開閉のじゃまになるなら,そのような配管は必要時(加圧時又は減圧時)には接続され,小蓋の開閉時には貫通孔から外されるという着脱自在に構成するのが技術常識である(本件特許1の明細書の段落【0055】,【0057】,乙2の9参照)。

したがって,『開閉が予定されていない大蓋の方に,配管の接続される貫通孔を設置するのが通常の設計であり,開閉が予定されている小蓋に,あえて配管の接続される貫通孔を設置することは通常は想定し難い』との原判決の判断は誤りであり,加圧式取鍋に係る4件の公知発明(乙2の3,乙2の4,乙2の9,乙49参照)には,開閉可能な蓋(ハッチ)に配管及び貫通孔に相当する構成を設けることが示されている。

確かに,乙2の3,2の4,2の9及び乙49の発明に開示されているのは,二重蓋ではなく一重の蓋であるが,これらの蓋は開閉可能であり,しかも配管及び貫通孔に相当する構成が開示されており,これによって,開閉可能な蓋に加圧用配管等が接続される技術が周知であることを明らかにするものである。

そして,乙1は二重蓋の構成であり,この二重蓋の構成である乙1の引用発明1を前提にして,その開閉可能な受湯口小蓋19に貫通孔を設けることが容易想到かが問題となっている。

もっとも,本件各特許発明1は,確かに二重蓋の構成ではあるが,大蓋が開閉可能であることは構成要件となっておらず,むしろ大蓋は本体に固定されるものであって,小蓋(ハッチ)は本体との関係で一重の蓋ともいえる。

③ このほか,引用発明1(乙1)の記載からすれば,公道搬送による揺れ等により,溶湯の飛沫が注湯口ノズル等に付着する問題が既に当業者に認識されていたといえるから,内圧調整に用いるための配管や孔に付着することが少ない位置である小蓋(ハッチ)に貫通孔を設けることは,当業者は容易に想到できるものである。

そして,『蓋のほぼ中央部にある小蓋に貫通孔を設置することにより,液の跳ね返りによる汚れが減少する』という本件特許発明1-1の作用効果も,当業者なら予測し得る範囲内の作用効果にすぎない。

なお,本件明細書にも,気密性を確保するための技術や,具体的構成の説明はないように,気密性確保の技術は,当業者には容易な周知技術であって(乙2の1~9参照),二重蓋の構成の採用を排斥する理由にはならない。また,逆に,加圧式取鍋においても,乙1の引用発明1(傾動式取鍋)と同様に,清掃,予熱のために二重蓋の構成を採用する必要があり,特に,訂正後の本件各特許発明1の加圧式取鍋は,加圧排出はするが減圧吸入をしない構成であるため,二重蓋の構成を採用する必要がある。」


3 原判決の33頁6行目の「d)」を「e)」とする。


4 原判決の38頁23行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。

「④ なお,訂正により,『公道を介してユースポイントまで搬送される容器』であることが相違点となる。しかし,公道を介して搬送可能な溶融金属の容器の構成については,引用文献1に記載されている。乙2の7公報に開示された構成は,加圧式注湯炉に関するものであり,公道を介して搬送することを予定するものではない。しかし,加圧式取鍋とは,溶融金属を供給する容器として技術分野を共通にするとともに,収容された溶湯を加圧供給するための基本構成においても共通する。したがって,乙2の7公報に開示された加圧式注湯炉を加圧式取鍋に転用することは,当業者が容易になし得ることである。」

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5 原判決の41頁12行目の後に,改行して,以下のとおり追加する。

「なお,公然実施をされていない開発段階にある図面につき,それを開示された側が信義則上守秘義務を負うのは当然である。また,甲10記載の被告製品は,平成14年12月9日に初めて使用され,火災事故を起こしたが,遅くとも火災事故後の平成15年5月の連休明けに使用が再開 された時点では公然実施されている。被告は,その後,同年7月ころから,被告製品をトヨタ自動車以外の中京地区の会社に売込みを開始している。甲10及び11は,これらの一連の売込みの際に使用されたものである。このような,被告製品が公然実施された後の売込みに使用された図面が,信義則上守秘義務を負う性格のものでないことは明らかである。」
6 原判決の42頁3行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。

「③ 乙64の1,乙64の2は,同じ特許出願人により同じ日に出願されたほぼ同一の内容のものであり,実質的には同一の公報である。

そして,これらの公報には,『上部の開口部を上蓋10Aおよび密閉蓋10Bで被覆する』との記載しかなく,上蓋10A及び密閉蓋10Bの具体的構成については,開口部を被覆するということ以外は全く書かれていない。その【図1】を考慮しても,『10B密閉蓋』は,溶融金属を供給するたびごとに開閉することが予定された構成にはみえず,むしろ,『10A上蓋』と合わせて一枚の蓋を構成するように見える。また,これらの公報の段落【0009】,【0010】,【図1】を考慮しても,『上蓋10A』において『密閉蓋10B』が開閉自在になっていることを示唆する記載はない。また,これらの公報に記載のものは,『10保持炉』の中にさらに,『20給湯容器』が設けられるという二重の容器の構造となっており,『20給湯容器』との関係でいえば,『10B密閉蓋』は一重の蓋とみることもできる。いずれにしても,これらの公報に記載のものは,工場内において使用するものであり,トラックなどの運搬車輌に搭載されて公道を介して搬送されるようなものではなく,溶融金属を搬送する度に『ハッチ』を開閉し,溶融金属の貫通孔の詰まりを確認するという技術的思想は開示されていない。

以上のとおり,これらの公報に記載されたものは,少なくとも本件特許発明1-1におけるような開閉自在な『ハッチ』とは構成が異なるというべきである。

④ 配管を,小蓋を開閉する度に付けたり外したりする必要のない構成を採用するのが通常である。確かに,本件特許発明1-3に係る配管は,貫通孔に対して着
脱可能に螺着されているが,これは,小蓋の開閉と同じく,配管の詰まり具合を確認するためのものにすぎない。

⑤ 乙2の3の『小蓋23』,乙2の4の『炉蓋30』,乙2の9の『蓋3』,乙49の『炉蓋30』のいずれも,そもそも『二重の蓋』ではなく『一重の蓋』の構成である。『一重の蓋』の構成において,加圧のための配管を設ける貫通孔が設けられる位置は,容器本体の溶融金属を満たした位置よりも上の部分か,一重の蓋のいずれかの部分である。容器本体に配管を設けることが困難な事情,例えば容器本体の強度に悪影響があるとか,容器の構造上貫通孔を設けにくいことが考えられるが,そのような事情があれば,開閉することを予定しているか否かにかかわらず,やむを得ず,一重の蓋の部分に設けることになる。

しかし,そこからさらに一重の蓋を二重の蓋の構成にすることが導かれるわけではない。特に加圧式においては,二重の蓋の構成にして,気体が洩れるおそれのある箇所を増やすことは,気密性確保の上で不利であり,何らかの必要性のない限り,二重の蓋の構成にすることはない。

さらに,二重の蓋の構成を設けた場合でも,二重の蓋を開閉自在にし,その開閉自在な蓋に配管を取り付けるようにすることは,作業性及び安全性からみて,通常想起することではない。容器が大きくなるほど,高温になるほど,周辺部に設けないと,作業性及び安全性において問題がある。

いずれにしても,被告の一重の蓋に基づく議論は,その前提が異なる。

⑥ 引用発明1の『注湯口ノズル30』は,『注湯口18』に設けられるもので,そこから溶融金属を外部へ注ぎ出す箇所であるから,溶融金属を注ぎ出す度に溶融金属が付着するのは当然である。

また,引用文献1では,鋳鉄製にすることにより湯切れがよくなることが記載されており,これは,溶融金属を注ぎ出す際に溶融金属が付着しても,容易に剥がすことができるとの趣旨である。

いずれにしても,搬送中は,『注湯口ノズル30』には『栓31』を挿入するので,乙1の取鍋につき,搬送中に『注湯口ノズル30』に溶融金属が付着することは想定されていない。」

7 原判決44頁4行目から45頁9行目までを削除し,以下のとおり挿入する。

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「2 争点1-2(被告製品が,本件各特許発明1の技術的範囲に属するか否か)




(1) 原告の主張



ア本件各特許発明1,3及び4の『ハッチ』は,開閉が可能であり,かつ容器の上面部の中央に設けられ,そのハッチに加圧用の配管用の貫通孔が設けられ,容器内を『加圧』して溶融金属の供給(又は流通)を可能にすることができるように容器内部の気密を確保することができるものである点に,その技術的特徴がある。そして,このような技術的特徴を備えた『ハッチ』を,被告製品が備えることは明らかである。

被告は,加圧により溶融金属を供給することにしか用いられない被告製品は,本件各特許発明1,3及び4の『ハッチ』の構成を備えない旨主張するが,このような被告の主張は,『加圧』による溶融金属の供給を特許請求の範囲としている本件各特許発明1,3及び4の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。


イなお,被告が減圧による取鍋内への溶融アルミニウムの導入を用いていないのは,原告と異なり,いわゆる『加圧吸引機構』(フォークリフト上の加圧式取鍋内の溶融アルミニウムの残存量に応じて圧力を調整しながら,溶融アルミニウムを加圧により供給し,減圧により導入をするための機構)を持ち合わせていないという被告固有の事情によるもので,このような事情は,被告の加圧式取鍋が本件各特許1,3及び4の技術的範囲に属さなくなる理由とはならない。ウこのように,被告製品は,本件各特許発明1,3及び4の技術的範囲に属するものである。

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(2) 被告の主張

ア本件特許1に係る審決取消判決(乙74)からすれば,本件特許1に開示された溶融金属供給用容器が,単に加圧により溶融金属を容器外に供給するのみならず,減圧により溶融金属を取鍋内に収納可能な構成をも発明の要旨として取り込んでいることが明らかである。


このように,本件特許1における溶融金属供給用容器は,特許請求の範囲に記載がないにもかかわらず,『減圧により容器内に溶融金属が導入可能』であることが,本件特許1の技術的範囲となっている。

イこれに対し,被告製品目録記載の取鍋は,取鍋内を加圧して溶融金属の導出はできるが,予熱及び溶湯供給のために受湯口及び開閉可能な受湯口小蓋を設けたものであり,取鍋内を減圧して溶融金属を導入できる構成にはなっていない。

すなわち,被告製品目録記載の取鍋においては,受湯口から取鍋内に溶融金属を収納せざるを得ず,減圧により溶融金属を取鍋内に収納することはできず,現実にもそのような方法にて使用されていない。

また,本件特許1における『第2の開口部』,『ハッチ』は溶融金属の導入に用いられないもの,すなわち,乙1発明の『受湯口』及び『受湯口小蓋』とは機能を異にするものであるとともに,必須のものでないことが要求されている。

しかし,被告製品目録記載の取鍋の『小開口部23』及び『小蓋3』は,溶融金属の導入に用いられるとともに,予熱及び溶融金属の導入のために必須のものである。


ウしたがって,被告製品目録記載の取鍋(被告製品)は,本件特許1における『第2の開口部』及び『ハッチ』の構成を充足せず,非侵害である。」


8 原判決の52頁3行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「オなお,『即時実施の意図』とは,現実の時間的間隔を意味するものではなく,採用に当たってトヨタ自動車の承認が必要なことと,被告が即時実施の意図を有しているか否かは無関係である。被告及び中央窯業としては,即時実施の意図を遅くとも平成13年12月17日及び18日の実湯テスト時には,客観的に認識できる態様,程度において表明した。

乙12の2,3上の記載は,即時実施の意図とは無関係である上,乙12の2の『湯漏れ』については,クランプの長さを調整することにより簡単に解決している。

乙10の1の記載からも,被告が,本件各特許発明2の出願日前に,配管折りたたみ構成を採用することを決定していたことが明らかである。

また,溶融金属搬送容器(取鍋)は大量生産されるものではなく,新たな設備の購入が必要であったり,材料を大量に購入する必要があるものではない。


カ特許法79条には,『発明の実施の事業』と規定されており,当該発明を実施する意図があれば足りる。ここでいう事業とは,先使用権の成立範囲を画する『事業の目的の範囲内において』を判断するための要件にすぎず,原告のように事業を広く解することは,先発明者と特許権者との間の公平をその趣旨とする特許法79条の趣旨に反するものである。」


9 原判決の53頁2行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「なお,乙12の3には,『トヨタ側でも鍋を製作中(真空吸引,加圧排出式?)で2/20頃できあがる。このため豊栄,陽紀,トヨタ3方式を2月以降にテストを行う。』との記載があり,平成14年2月20日ころより後にテストをさらに行うことが予定されている。

また,その他,乙12の2,3の記載からすれば,配管関係についてなお改良の必要性があることや,配管が回転する構造の加圧式取鍋の問題点が明らかである。以上のとおり,乙12の3の記載には,多くの不確定な点があり,実際に被告の加圧式取鍋が初めてトヨタ自動車の衣浦工場への溶融アルミニウムに使用されたのは,火災事故を起こした平成14年12月9日のことで,それまでの間に相当の紆余曲折があったことが想起され,『後は,細部の改良とトヨタ自動車の承認が降りるのを待つだけであった』との認定は誤りである。」

10 原判決の54頁6行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「d) そもそも,『即時実施の意図』が認められるかどうかは,発明の実施である『事業』を基準に考えるべきである。

本件において,単位となる『事業』は,『被告製品(加圧式取鍋)による溶融アルミニウム供給事業』である。たとえ,被告製品の一部の構成要素にすぎない『折り畳みパイプ』について平成13年12月ころに発明が完成していたとしても,被告製品による溶融アルミニウム供給の『事業の準備』に着手したといえるような状況に至らなければ,その先使用に係る発明について『即時実施の意図』を認めることはできないというべきである。

そして,被告製品(加圧式取鍋)による溶融アルミニウム供給事業について,『事業の準備』に着手したといえるような状況が現出するのは,早くとも,その発明が被告製品(加圧式取鍋)による溶融アルミニウム供給事業のために使用することが最終的に決定された『平成14年10月』のことであり,同決定により初めて,被告は『事業の準備』に着手できたというべきである。そして,最終的に加圧式取鍋が日本坩堝に発注された時点(平成14年10月28日)が,事業の準備への着手と評価されるべきである。」


11 原判決68頁5行目から21行目までを削除し,以下のとおり挿入する。

「9 争点3-4(被告製品が,本件各特許発明3の技術的範囲に属するか否か),争点4-3(被告製品が,本件特許発明4-1の技術的範囲に属するか否か)及び争点5-3(被告製品及び被告現製品が,本件特許発明5-1の技術的範囲に属す るか否か)について

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(1) 原告の主張



ア前記2(1)のとおり,被告製品は,本件特許発明3-1,3-7,4-1の各技術的範囲に属する。

イまた,被告製品及び被告現製品は,いずれも本件特許発明5-1の技術的範囲に属するものである。

ウ原告は,被告が,平成18年8月ころ,添付の別紙『改造前後の被告製品対照図』のとおり一審被告製品『ポットリーベ』に改造したこと,被告現製品が,本件特許発明1-1の構成要件1-1D,本件特許発明3-1の構成要件3-1J及び本件特許発明3-7の構成要件3-7K,本件特許発明4-1の構成要件4-1Hを充足しないこと,本件各特許発明1,3,4-1の技術的範囲に属さないことは争わない。

しかし,改造といっても,『ハッチ』上の『内圧調整用の貫通孔』をプラグで塞いであるだけであり,内圧調整用の貫通孔に加圧ポートを付け替えて,本件特許発明1-1の構成要件1-1D,本件特許発明3-1の構成要件3-1J及び本件特許発明3-7の構成要件3-7K,本件特許発明4-1の構成要件4-1Hを充足するようにして,改造前の被告製品の状態に復元することは,いつでも,極めて容易にできることである。


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(2) 被告の主張

ア本件特許3,4とも,本件特許1と同じく,特許請求の範囲に記載がないにもかかわらず,『減圧により容器内に溶融金属が導入可能』であることが,その技術的範囲となっており,そのことを前提として無効審決が取り消されたものである(乙75,76参照)。

よって,本件特許3及び4とも,本件特許1と同様『ハッチ』は溶融金属の受湯に用いられないもの,すなわち乙1発明の『受湯口小蓋』とは機能を異にするものであるとともに,必須のものでないことが要求されている。

しかし,被告製品目録記載の取鍋の『小蓋3』は溶融金属の導入に用いられるだけでなく,同導入のために必須のものである。

したがって,被告製品目録記載の取鍋(被告製品)は,本件特許3及び4における『ハッチ』の構成を充足せず,非侵害である。

イなお,被告は,平成18年9月1日以降,貫通孔を小蓋(ハッチ)ではなく大蓋に設けた取鍋(本件特許4との関係では,取鍋の流路の内径も80mmに設計変更した。)を使用しており,これは,本件特許1,3及び4の技術的範囲に属さない。

ウ被告製品の栓(焼結ベント)72とソケット71とは,人間の手で取り外しができるものではなく,上記焼結ベント72は,本件特許発明5-1の構成要件5-1Fの『着脱可能な栓』には相当しない。」

12 原判決の77頁2行目の後に,改行した上で,以下のとおり追加する。

「そして,請求項1には,容器の大きさや,出湯時間(出湯管内部流速)を特定するような記載は一切存在しない。実際にも,取鍋のサイズは搬送ルートや搬送先の工場設備により異なるので,取鍋のサイズが自ずと決まるということはない。また,供給速度と時間についても,同様に,取鍋のサイズや工場の条件により異なるものであって,自ずと決まるということはない。」

13 原判決の79頁8行目の後に,改行した上で,以下のとおり追加する。

「d) 公道を介して搬送される取鍋の大きさは,搬送のため使用する公道の幅が一定であり,それに合わせて公道を搬送する運搬車輌の大きさも一定であることから,自ずから決まるといえる。

また,このような構造及び仕様の公道を介して搬送される加圧式取鍋において,実用的な溶融アルミニウムの供給速度も,自ずから定まるというべきである。当業者であればわずか数秒で供給することはあり得ないと考えるであろうし,他方,5分もかけて供給すれば,流路が詰まることも当然に予測し得ることである。

流路の内径という一つの条件を特定するに当たり,当業者において溶融アルミニウムの供給速度をすべて実測し,その実測値まで発明の詳細な説明に記載し,かつ特許請求の範囲において特定しなければならないとすることは,特許出願人に無用の困難を強いるものである。」

14 原判決81頁10行目の「ものである」を,「ものであり,又は,少なくとも当業者が容易に想到できる発明であって,進歩性欠如の無効原因を有する。」と改める。

15 原判決の83頁13行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「(3) 被告の主張・無効理由3について

仮に,甲10についての原判決の判断が正しい場合には,被告は甲10に代えて乙65を主引例とする。乙65は,本件特許1の公開特許公報(公開日平成14年9月10日)であり,ここには,請求項1の発明の構成要件5-1C及び請求項8の発明の構成要件5-8Dの『規制部材』に係る構成以外のすべての構成が開示されている。また,乙65には,加圧式取鍋において,容器内が所定の圧力以上となるという問題点が開示されている(段落【0058】参照)。

以上からすれば,本件特許発明5-1及び5-8は,乙65記載の発明(以下『乙65発明』という。)を主引例として,乙8の3,乙28及び平成14年12月9日のトヨタ自動車衣浦工場における溶湯湯漏れ火災事故の原因(乙8-1 5.推定原因)から,当業者が容易に想到可能であり,進歩性欠如の無効理由を有する。

なお,乙65の段落【0058】の記載は,溶融金属を吐出する際に配管が詰まるため圧力が上昇する場合にも該当するとしても,主として,公道搬送中の圧力上昇の問題を説明したものといえる。

また,本件特許5の基準日前に公開された,原告出願の特開2001-340957号(乙80)には,公道搬送中に取鍋内の圧力が上昇するという問題点が説明されており,この問題点は公知の知見であったものである。

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(4) 被告の主張・無効理由4について



ア被告は,乙65公報を主引例とし.乙66等の公知の刊行物を副引例とする進歩性欠如を主張する。

イ請求項1に係る発明は,乙65発明と構成要件5-1A,B,Dで一致し,5-1C(前記貫通孔に通じる第2の流路に介在され,気体を通過させ,かつ,溶融金属の通過を規制する規制部材と)の部分で相違する。

しかし,乙66記載の考案(以下『乙66考案』という。)では,請求項1の発明の『前記貫通孔に通じる第2の流路』に相当する『減圧用パイプ(13)』に,本件特許5の『規制部材』に相当する『空気は流通するが,溶湯は通過させない焼結ベント(20)』を介在させる構成要件5-1Cと同じ構成が開示されている。そして,乙66考案の『焼結ベント』は,主として本件特許5の技術分野と同一又は極めて近接する技術分野であるところの,溶融金属を用いた鋳造装置に使用されている周知慣用技術であり(乙67ないし69参照),本件特許5の『規制部材』も,乙66考案の『焼結ベント(20)』も,その目的はいずれも溶融金属が外部に流出することの防止である上,加圧式取鍋において,容器内が所定の圧力以上となり,溶融金属が外部に流出する可能性があることは知られていた(乙65の段落【0058】参照)。

したがって,乙66考案の焼結ベントを適用する動機付けがあるといえ,乙65発明に乙66考案を組み合わせることに何ら阻害事由もない。

ウなお,本件特許5においても,容器内が所定の圧力以上となったときの対策としてリリーフバルブが掲げられており(段落【0132】参照),乙65発明においてリリーフバルブの対策があること(段落【0058】参照)が,乙65発明に乙66考案を組み合わせる阻害事由にはなり得ない。

したがって,請求項1に係る発明は,当業者が容易に想到できる,進歩性を欠如した発明である。

エまた,請求項8に係る発明は,乙65発明と構成要件5-8A,B,C,Eで一致し,D(前記圧力開放管に,前記溶融金属の流通を規制するように設けられた規制部材と)の部分で相違する。

しかし,乙66考案では,請求項8の発明の『圧力開放管』に相当する『減圧用パイプ(13)』及び『規制部材』に相当する『空気は流通するが,溶湯は通過させない焼結ベント(20)』を介在させる構成が開示されている。

したがって,請求項1と同様の理由により,請求項8に係る発明は当業者が容易に想到できる,進歩性を欠如した発明である。

オ以上のとおり,本件特許5の請求項1及び8に係る発明は,乙65発明を主引例として,これに乙66考案,乙8の3及び乙67ないし69の周知技術を組み合わせれば,当業者が容易に想到可能な発明であり,進歩性欠如の無効理由を有する。






(5) 被告の主張・無効理由5について



乙73(特開2004-209521号)は,有限会社杉浦商店の出願に係る特許公開公報であり,同特許は,本件特許5の基準日である平成14年12月28日に出願されたものであるが,同特許に係る発明は,本件特許発明5と実質同一である。

すなわち,本件各特許発明5の詳細な説明には,乙73の構成が実施例として記載されており,乙73記載の取鍋も,貫通孔に加減圧用の配管66が設けられるものであることは段落【0027】記載のとおりである。そして,規制部材を加減圧用の貫通孔に設けるか,配管に介在させるかは,作用効果に相違がない以上,当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。

このように,乙73発明と本件各特許発明5とは,その明細書の記載内容及び図面からして,起源を同一とする発明であることは明らかであり,また,出願すれば出願公開されることは自明であるから,原告が有限会社杉浦商店に対し守秘義務を課していたとは考えられず,以上からすれば,本件各特許発明5は,出願日以前に秘密状態を脱し,公然知られたものとなっていたといえる。

したがって,本件特許5-1及び5-8は,新規性欠如の無効理由を有するものである。」

16 原判決の83頁14行目の「(3)」を「(6)」とする。

17 原判決の85頁10行目の「(4)」を「(7)」とする。

18 原判決86頁7行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。

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「(8) 原告の主張・無効理由3及び4について



ア乙65の段落【0058】における『容器100内が所定の圧力以上となったときには安全性の観点から容器100内が大気圧に開放されるようになっている。』との記載は,異常な加圧をしたときの容器内の圧力の急激な上昇を防止するとの課題を記載したものである。すなわち,加圧により溶融金属を供給する際に,①異常な加圧が『第2の流路』を通じてされ,②その結果,容器の内圧が異常に高まり,③リリーフバルブが自動的に開放されることにより,その内圧を下げるというのが,上記段落【0058】の趣旨であり,これは,本件特許発明5-1及び5-8において,加圧式の容器を搬送する際に,『第2の流路』(加圧ポート)を密閉すると,容器の内圧が少しずつ上昇し,溶融金属が『流路57』及び『配管56』を介して外へ流出するおそれがあることを防ぐことを課題とする『規制部材』の技術的思想とは根本的に異なる。このような課題は,原告においても当初は認識がなく,加圧式の容器を開発している際に『第2の流路』(加圧ポート)を密閉して試験していた際に,『流路』の液面が異常に高まることを発見したものである。

そして,このような課題を想起しなければ,そもそも焼結ベントであれ,金属製のウールであれ,加圧用の気体の配管を密閉することを想起するのは困難である。イ乙66の『13減圧用パイプ』は,その溶融金属の供給原理(サイフォン)においても,その構成(サイフォン管の途中に設けられサイフォン現象を開始させるためのもの)においても,本件特許発明5-1の構成要件5-1Cの『第2の流路』や本件特許発明5-8の構成要件5-8Cの『圧力開放管』とは異なる。

このほか,乙67ないし69においては,あくまで溶融金属を『圧力』をかけて流す際に機能させるために『焼結ベント』が設けられているにすぎない。

なお,鋳造の技術に使用されることが『焼結ベント』の本来の技術分野であるのに対し,本件特許発明5-1及び5-8の『規制部材』は,溶融金属の安全な搬送に関する技術であり,鋳造とは直接関係がない。

また,『焼結ベント20』が,鋳造において,鋳型の空気抜きから溶融金属が流出するのを防ぐとしても,『焼結ベント20』自体が,本件特許発明5-1の構成要件5-1Cと同一の構成になるわけではなく,これを同一の構成にするためには,『規制部材』を『第2の流路』に設けることが必要である。そして,『規制部材』を設ける必然のない『第2の流路』に『規制部材』を設ける構成を想到するためには,そのような結び付きを想起するに至るだけの動機付けが必要である。

このほか,『第2の流路』は,搬送中は密閉した方が,溶融金属が冷えないことに加え,万一,容器が転倒した場合でも,密閉していた方が安全である。これらの事情は明らかに『規制部材』を設ける際の阻害事由となる。

また,『リリーフバルブ』は,加圧の際の異常な内圧を防止するためのものであるが,これが搬送中の異常な内圧を防止するためにも作用すると当時の当業者が想到するのであれば,『規制部材』を設ける際の阻害事由となり得る。しかし,当時の当業者は,そのような課題を知らなかったものである。

ウ乙80の課題は,溶湯(マグネシウム)の急激な酸化であり,それは,取鍋のライニングに残存する水分が気化して圧力が次第に上昇するとの本件特許発明5の課題とは大きく異なる。その解決方法も,溶湯の酸化を防止するために不活性ガスを充填するというもので,空気を通過させる規制部材を設けて圧力上昇を防止するとの本件特許発明5の課題解決手段とは大きく異なる。すなわち,不活性ガスを充填しても,取鍋のライニングに残存する水分が気化して圧力が上昇することを防止できず,他方で,空気を通過させる規制部材を設けたところで,溶湯の急激な酸化による爆発による急激な圧力上昇を防止できない。

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(9) 原告の主張・無効理由5について



開発関係者において,公然実施される前の開発中の製品の詳細につき信義則上守秘義務を負うべきことは当然である。本件各特許発明5については,トヨタ自動車及びその関係者は,その内容につき守秘義務を負うが,同守秘義務は,原告自身により,又はその承諾の下に出願され,それが出願公開された時点で解除される。有限会社杉浦商店も,原告の承諾の下に出願をしているのであるから,原告自ら出願をした場合と同様,何ら問題はない。」

19 原判決の86頁25行目の「と」の後に,「や,乙68及び69の記載」を挿入する。

20 原判決の86頁25行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。

「乙8の2対策書添付の見取図に寸法等の記載がないことや,焼結ベントのサンプルの取寄せや具体的に使用する焼結ベントの効果試験が後日されたという事実は,発明の完成ではなく,実施品の開発が後日行われたということである。

すなわち,焼結ベントといっても種々の種類,仕様があり,具体的な加圧式取鍋に取り付けた場合の確認の試験をしたものであって,発明自体の効果を検証するための試験ではない。原判決は,発明の完成と実施品の開発行為とを混同している。」


21 原判決の87頁6行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。

「原判決は,被告が提出した,焼結ベントを使用するとの着想は事故直後の平成14年12月9日に開催された対策会議において,トヨタ自動車従業員Aが提案したとの報告書(乙59)を無視しているが,仮に甲19及び20の記載が真実であったとしても,その記載からは,ポートの先端に焼結金属などを取り付けて,溶湯湯洩れの発生を防止するとの着想が,トヨタ自動車の従業員から発案があったのか,原告従業員から発案があったのかは明記されていない。また,甲20の記載を確認した甲29のトヨタ自動車の従業員の確認書においても,発案者が原告従業員であることは明記されていない。

前述のとおり,『焼結ベント』は,鋳造分野において周知慣用技術であるところ,エンジンやその部品の鋳造を行っているのはトヨタ自動車であるのに対し,原告は溶融金属の製造・販売を業としているのであって(取鍋の製造も他社に発注しているものと推測される。),鋳造技術についての知見に乏しいことからすれば,焼結ベントの着想は,トヨタ自動車の従業員の着想であると判断すべきである。」

22 原判決の89頁24行目の「後のことである。」の後に,以下のとおり挿入する。

「甲19及び20(原告の研究員作成の議事録),甲29(トヨタ自動車の本社の関係者の確認書)からすれば,本件特許発明5-1及び5-8に係る発明が原告の従業員によることは明らかであり,被告の『焼結ベント』を『加圧用配管部』に設けるとの発明は,原告従業員による発明に由来するものである。」

23 原判決の100頁10行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「なお,前述のとおり,即時実施の意図の有無と,実施品が現実にトヨタ自動車の承認を得て採用されるか否かとは無関係であり,『即時実施の意図』が現実の時間的間隔を意味するものでもない。

そして,結露テストが行われたのは取鍋本体についてであり,本件特許6,7(取鍋本体に結露が発生することを防いだり,カプラの形状を具体的に定める発明ではない。)に関する構成とは無関係である。平成15年2月21日に製作されたものは,現実に使用する製品であり,試作品でないことは,乙29の2の記載からも明らかである。」


24 原判決の103頁9行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「なお,本件特許発明6-2及び7-2の課題が,平成14年12月9日の火災事故にあり,その原因が何らかの理由により容器のいずれかの箇所に存在した水分にあることからすれば,『結露テスト』が本件特許発明6-2及び7-2と無関係であるはずがない。

そして,乙9図面に基づく試作品について結露テストが行われたのは,本件特許発明6-2,7-2の基準日である平成15年2月21日より後の同月22日であり,結露テストだけで安全性を確認することができるはずはなく,その後さらにその他のテストが行われたことが容易に推認される。

以上からすれば,被告製品による溶融アルミニウム供給事業について『事業の準備』といえるような状況が現出するのは,早くとも同月22日の結露テストの後である。」


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25 原判決の104頁3行目を,「16 争点7-1(被告製品及び被告現製品の意匠は,本件意匠に類似するか)」と改める。

26 原判決の114頁15行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「f) 原判決は,本件意匠の取鍋本体,大蓋,小蓋,突出し部及び配管の組合せからなる取鍋の全体的形状が要部であることを認定しているところ,突出し部及び配管の具体的態様の差異は,両意匠に共通する美感を左右するほどのものではない。

特に,両意匠は,パイプ部材及び配管が逆U字状に屈曲していることに変わりなく,取引者及び需要者は,この形状に注目し,これと取鍋の全体形状から両意匠に共通する美感を認識するものである。突出し部の直角三角形の形状の『長辺』が取鍋本体に接するか,『斜辺』に接するかは,看者が注意深く観察しなければ気がつかないような微差であり,その微差が,本件意匠及び被告意匠が生じさせる『横方向への広がりを持ち伸びやかな美感』に影響を与えることは考えられない。

なお,公知意匠2は,本体が有底円筒形状ではなく,突出し部に相当するものもなく,配管において本体から横方向への広がりもない。これに対し,被告意匠は,その本体は有底円筒形状であり,突出し部を備え,配管も取鍋本体から横方向への広がりがある。このように,被告意匠は,その全体的な構成において,本件意匠と同様に『横方向への広がりを持ち伸びやかな美感』を生じさせている。また,そもそも『公知意匠であることから,直ちに,登録意匠の要部となり得ないと考えるべきではない』ことについては,被告も認めている。」

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27 原判決の120頁9行目の「公知意匠」から11行目までを削除した上で,以下のとおり挿入する。

「なお,一般には,『公知意匠であることから,直ちに,登録意匠の要部となり得ないと考えるべきではない』かもしれないが,創作法である意匠法の類否判断としては,公知な部分と新規な部分は軽重をつけてしかるべきである。」

28 原判決の122頁26行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「(iii) このように,本件意匠の突出し部4は,その上面部が水平面であるのに対し,被告意匠の突出し部④は,その上面部が突出し部の斜線に垂直で外側にやや傾いており,かつ,円錐台状をしている。また,本件意匠には5Cで指示される特徴的な部材があるのに対して,被告意匠にはこれがない。

原判決は,本件意匠の要部は,被告意匠と共通する取鍋本体,大蓋及び小蓋であるとして,両者の類否判断をしたとしか考えられず,仮にそうでないとしても,新規部分である突出し部の位置並びに配管形状の相違を無視した判断であるといわざるを得ない。このような原判決の判断は,公知部分である取鍋本体,大蓋及び小蓋の形状が共通するすべての取鍋に意匠権の効力が及び得ることを意味するもので,創作法である意匠法の判断として不当であり,しかも,看者は取鍋の取引者及び需要者であって,一般消費者ではないことも考慮すれば,原判決の判断は誤りである。なお,公知意匠2は,パイプ部材に当たる部分がなく,配管の傾斜具合が概ね下向きであるのに対し,本件意匠は概ねやや上向きに横の方向に広がっている点において本件意匠と大きく異なる。

また,本件意匠のフランジ接合された3つの配管は,全体的な傾斜具合が概ねやや上向きに横の方向に広がっていることから,『横方向への広がりを持ち伸びやかな美感』を生じているとされている。

これに対し,被告意匠は,パイプ状の部材の存在において本件意匠と共通するものの,突出し部の形状は,本件意匠は直角三角形の長辺が取鍋本体に接しているのに対し,被告意匠は,直角三角形の斜辺が取鍋本体に接しているものであり,この点のみをもってしても,看者に与える美感が相違する。

さらに,被告意匠の配管は,その傾斜具合が公知意匠2と同じく概ね下向きであり,同じく概ねやや上向きに横の方向に広がっている本件意匠と大きく異なる。それ故,本件意匠のような『横方向への広がりを持ち伸びやかな美感』を生じず,美感において明らかに相違する。」



29 原判決の123頁7行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「17 争点7-2(本件意匠は公知意匠から容易に創作し得るか)について

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(1) 被告の主張



ア溶融金属を搬送するために使用する容器は,工場において溶融された高温の溶融金属を入れた状態でトラック等に積載されて別の工場に搬送され,工場内をフォークリフトに搭載されて移動し,他の容器に溶融金属を排出,供給するものであるが,その供給方法によって『傾動式』と『加圧式』の2種類に分類される。すなわち,傾けることによって,溶融金属を注湯する傾動式の取鍋と,取鍋内に加圧気体を送り込み,配管から溶融金属を排出する加圧式の取鍋が存在する。

両者は,溶融金属の供給方式の違いを除けば,高温の溶融金属(溶湯)を保持するための取鍋本体と,取鍋本体を密閉するための蓋と,取鍋本体の内部に貯留した溶融金属を外部に供給するための注湯口を備えていることが機能的な必然性から共通する。

供給方式の相違に起因する形状の第1の相違点は,配管の有無である。すなわち,傾動式は,容器(取鍋)を傾けることによって注湯するので,溶融金属を注湯する配管は必要がない。これに対し,加圧式は,溶湯が加圧力により勢いよく飛び出すので,収容溶湯の取出し部には下向きの配管が必要となる。

また,第2の相違点は,突出し部の位置であり,傾動式においては,容器(取鍋)を傾けて溶融金属を排出するのであるから,突出し部は取鍋本体の側面の高さの中ほどの位置に取り付けられることになる。これに対し,加圧式は,加圧して溶融金属を排出するにつれて,溶融金属の液面が低下していくので,溶融金属排出用の流路が傾動式のように取鍋本体の中段部にあると,これ以上加圧しても流路よりも下に残った溶融金属は供給できないことになる。

そこで,加圧式の場合は,溶融金属排出用の流路は取鍋本体のできるだけ『底部に近い位置』にあることが技術的に求められる。

イ本件意匠は,加圧式取鍋に係る意匠であり,公知意匠1は,傾動式取鍋に係る意匠である。

そして,本件意匠と公知意匠1及び公知意匠2を比較すると,本件意匠と公知意匠1は,取鍋本体,大蓋,小蓋及び突出し部の形状が共通する。他方で,両意匠は,突出し部の位置において相違する。

しかし,前述のとおり,加圧式取鍋では,溶融金属を別の容器に注ぐためには,取鍋内の下部に多くの溶融金属を残留させないようにするために,排出用の流路を容器内の貯留空間に容器の底部付近で接続させることが必要不可欠になる。したがって,突出し部の位置において本件意匠が取鍋本体の底部付近で接続してなる点は,傾動式取鍋の形状から本件意匠の出願前に当業者が容易にすることができる形状の変更である。

また,本件意匠と公知意匠2では,配管の形状において,全体が逆U字状に屈曲し,途中に2枚のフランジが設けられてなる点が共通する。先端が下向きの配管を設けることは,前述のとおり,傾動式取鍋の形状から本件意匠の出願前に当業者が容易にできる形状の変更である。その配管の形状を具現化したのが公知意匠2や乙2の8第1図に掲載の意匠であり,本件意匠の出願前に当業者が容易に創作し得る形状である。

したがって,傾動式取鍋の形状を加圧式取鍋の構成に置換することは,本件意匠の出願前より当業者にとって容易であり,その置換に伴って傾動式取鍋における各構成部分を加圧式取鍋に適した形状に適宜変更することができるものである。

ちなみに,意匠法の保護対象である意匠(デザイン)は,著作権法の保護対象の1つである純粋美術ではなく,いわゆる工業製品のデザインであり,これは,意匠の創作性や,技術的・機能的側面からの発想が渾然一体となって決定されていくものである。そうであれば,意匠法3条2項の創作性の判断においても,技術的・機能的観点からの考察を入れることは,何ら不当ではない。

ウよって,本件意匠は,その出願前,当業者が,公知意匠1及び2に基づき容易に創作できた意匠であり,意匠法3条2項に違反して登録された無効理由を有する。

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(2) 原告の主張



ア意匠法3条2項に規定する創作容易といえるためには,①出願に係る意匠が出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいていること,及び②それら公知の形状などに基づき容易に意匠の創作ができたことが要求される。

原審が認定した『公知意匠1』は,被告が提出した『公知意匠図面』に基づくものであるが,これがいつごろ公然知られたのかについては何ら立証がなく,当初『公知意匠図面』として添付されていた『写真』自体も,いつごろ撮影されたか立証されていない。『公知意匠図面』は,被告が本訴のための作成したものにすぎず,そもそも意匠法41条及び特許法104条の3に基づいて,本件意匠を意匠無効審判において無効とされるべきものと認めるための基礎となるべき公然知られた意匠としての適格性を欠く。したがって,原告としては,本来,これ以上の主張は不要である。

イ仮に,『公知意匠図面』に記載のものを『公知意匠1』として扱うとしても,公知意匠1と本件意匠とは,①突出し部の大きさとその位置が相違し,また,②当該突出し部の上端に取り付けられ,先端部が下方に屈曲した配管が公知意匠1にない点が相違する。

具体的にも,取鍋本体の上部外縁に設けられたフランジの厚さが,公知意匠1ではより薄く感じ,本件意匠のような重厚さが感じられない。また,本件意匠よりも公知意匠1の方が縦長であるため,大蓋の高さが高く感じる。さらに,本件意匠に比べ公知意匠1の突出し部は極めて小さく,配管に近い印象を受ける点で,正面から見た印象が大きい三角形状に見える本件意匠と著しく相違する。

原判決も,乙1の実施品であると被告が主張する公知意匠1は,本件意匠と大きく相違し,美感も異にするものと認めている。

以上のとおり,公知意匠1は,本件意匠と大きく異なる。

ウ『公知意匠2』については,その公報における【図1】は部分断面図であり,具体的な形態を特定できず,平面図である【図2】を参酌しても,意匠を特定する際に必要な6面図のうち2面についての図しかなく,【図1】の意匠の形態はなお不明確である。以上のとおり,公知意匠2の特定は容易ではないが,念のため,【図1】及び【図2】などの記載から公知意匠2の形態を把握できる範囲において,反論することとする。

公知意匠2においては,本件意匠の基本的構成態様の突出し部が存在しない点で相違する。また,本件意匠では取鍋本体が有底円筒形状であるのに対し,公知意匠2は,上から見て長方形をしており,その正面も前傾収容部を除けば正方形に近い形状であり,円筒形とは異なっている。

さらに,被告が突出し部と主張する部分も,上からみると,本件の横幅がそのまま迫り出して長方形を形成しており,本件意匠の突出し部とは明らかにその形状を異にする。

配管についても,本件意匠では外側に取鍋本体と突出し部を合わせた横幅に対し約1/2の長さで延びているが,公知意匠2では約1/11しか外側に出ておらず,しかも2枚のフランジの横方向間隔は,本件意匠ではその取鍋本体と突出し部を合わせた横幅に対し約1/3.5であるが,公知意匠2では当該溶湯運搬炉本体の最大横幅に対して1/16であるため,全体として公知意匠2の配管は,他の部分に埋没してしまうほどの大きさしかない。

このように,公知意匠2もまた,本件意匠と大きく異なり,このような公知意匠2に,やはり本件意匠とは大きく異なる公知意匠1を組み合わせたとしても,本件意匠と同様の美感を有することは極めて困難である。

エなお,容易に創作をすることができるといえるのは,意匠の構成要素を他の意匠に単純に置き換えるか,又は,複数の意匠をそのまま組み合わせることにより,当該意匠と実質的に同一の形状の意匠を容易に創作することができるような場合のみである。これに対し,公知意匠Aに公知意匠Bを組み合わせるに当たり,公知意匠Bの一部分のみを任意に取り出し,公知意匠Aの任意の部分と置き換えたり,組み合わせたりするようなことは,もはや『創作容易性』の範囲を超えるものである。

まして,公知意匠Aの任意の部分の配置を変更した上で,さらに,公知意匠Bの一部分のみを任意に取り出して,配置を変更した部分と置き換えたりするようなことは,およそ創作容易性の要件を満たすとはいえない。なぜなら,公知意匠の配置を変更した上で,他の公知意匠の一部分のみを取り出し,それと置き換えたりすることにまで,意匠法3条2項を適用するのでは,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とする同項の趣旨に反し,着想の新しさ,独創性が認められる意匠についてまで,複数の公知意匠を自由に変形し,かつ組み合わせることにより,その創作性を否定することが可能となり,不当だからである。

これを本件についてみるに,公知意匠1において,『突出し部の本体への取付け位置を,本体の外周底部付近に修正するとともに,公知意匠2の配管を組み合わせる』ことにより,本件意匠出願前に当業者が容易に創作することができた意匠であるという被告の主張は,①公知意匠1の構成要素の配置を変更した上,②公知意匠2の部分のみを任意に取り出し,③公知意匠1の構成要素と組み合わせるという創作容易性の範囲を明らかに超える創作をしており,主張自体失当である。

オ被告は,傾動式取鍋と加圧式取鍋について,その機能的な観点について説明しているが,物品の類似性を説明するためであればともかく,意匠法3条2項の創作容易性との関係においては,全く意味がない。なぜなら,意匠法3条2項の創作容易性は,物品の類似性を問題としていないからである。被告は,このほかにも,物品の機能に係る主張をするが,意匠法3条2項の創作容易性の趣旨に反するものであり,失当である。

また,被告が主張する『供給方式の相違に基づく機能的必然性から導かれる相違点』,例えば,傾動式取鍋の『突出し部』と加圧式取鍋の『突出し部』の位置の相違は,供給方式の相違に基づく機能的必然性から導かれるものですらない。機能的には,溶融金属を供給する『流路』の下端が容器の底部付近にあれば,突出し部をどこに設けても加圧式の容器として機能する。さらには,いわゆるストーク式のように,突出し部自体がなくても,加圧式の容器として機能する。

以上のとおり,機能的必然性からくる被告の主張は,そもそも意匠法の議論として失当である上,突出し部の位置は,供給方式の相違に基づく機能的必然性ですらない。

また,意匠の創作について技術的な制約がある場合においても,具体的な美的外観である意匠の創作は可能である。

カ以上からすれば,本件意匠は,その出願前,当業者が公知意匠1及び2に基づき容易に創作できた意匠とはいえない。

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18 争点8(被告の過失の有無)




(1) 原告の主張



訂正は,特許請求の範囲の減縮などを目的とするものに限られ,訂正において新規事項の追加は認められず,実質上特許請求の範囲を拡張したり変更したりしてはならない。このような要件を満たす訂正は,当初の特許請求の範囲を拡張,変更するものではなく,第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。適法な訂正がされた結果,第三者の実施行為が特許請求の範囲に属さなくなることはあれ,新たに特許請求の範囲に属することはない。以上のような訂正の趣旨を踏まえれば,適法な訂正が第三者に不測の不利益を与えることはあり得ず,訂正後の特許請求の範囲との関係では過失の推定の適用の基礎が失われるかのような被告の主張は全く理由がない。

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(2) 被告の主張



ア特許法103条の趣旨は,侵害者の故意・過失の立証の困難さを解決するとともに,過失推定の根拠として公示制度の存在が前提となっているが,同条はあくまでも推定規定であり,無過失責任を定めるものではなく,無過失の立証がされれば,原告の損害賠償請求が認容される余地はない。

そして,特許法104条の3により,侵害訴訟において権利の有効性につき争うことができる。これは,無効理由があると判断し当該判断に至ったことに過失がない場合,すなわち,特許権が無効であると判断したことに過失がない場合は,特許権侵害についての過失が否定されることにほかならない。

イ特許権者は,時期の面からいえば,ほぼ無制限に特許請求の範囲を訂正することができる。確かに,訂正についてはその要件が法定されており,特許請求の範囲の実質拡張変更は禁止されているが,明細書に記載された事項からどの部分を特許請求の範囲とするかは出願人の専権に属しているとともに,訂正要件を満たす限り,どのように特許請求の範囲を訂正するかも,出願人の専権にゆだねられており,しかも,訂正の効果は遡及する。

そして,権利者以外の者が,あらゆる訂正可能性を考えて行動しなければならないとすれば,特許請求の範囲のみならず,明細書の記載から特許請求の範囲の減縮に当たる部分すべてが事実上特許請求の範囲となってしまう上,特許請求の範囲の減縮に当たるか否かは微妙な判断がつきまとう。加えて,本件特許1,3及び4は,いずれも複数回にわたって(本件特許1及び4は2度,本件特許3は3度(ただし請求項3は2度))訂正請求ないし訂正審判請求がされたものである。


このほか,被告は,被告製品目録記載の取鍋を,平成18年8月まで使用していただけであり,生産を行ったことはない。そして,すべての使用者に特許権の調査義務を課すことは妥当ではない。

ウ以上に挙げた評価根拠事実を総合的に勘案すれば,被告が上記各特許権は無効であって,被告が上記各特許権を侵害していないと判断したことについての無過失が証明されたことは明らかであり,原告の,本件特許1,3及び4の侵害を理由とする損害賠償請求は理由がない。」


30 原判決の123頁8行目の「17 争点8」を「19 争点9」とする。

31 原判決の123頁10行目の「争点8-1」を「争点9-1」とする。

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32 原判決の123頁12行目から15行目までを,以下のとおり訂正する。

「① 被告は,平成15年5月12日ころから現在に至るまで,被告製品による溶融アルミニウムをトヨタ自動車の衣浦工場に納入しており,平成15年は8000トン,平成16年は1万4610トン,平成17年は1万3960トン,平成18年は6300トン,平成19年は8500トン,平成20年は1万1700トン,平成21年は8910トンの納入をしている。」

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33 原判決の124頁9行目から19行目までを,以下のとおり訂正する。

「③ 溶融アルミニウムの納入価格は,1キログラム当たり,①平成15年5月から12月までが,平成187円(1円未満の端数は切り捨てたもの。以下同じ。),②平成16年1月から12月までが,平均200円,③平成17年1月から12月までが,平均206円,④平成18年1月から12月までが,平均296円,⑤平成19年1月から12月までが,平均296円,⑥平成20年1月から12月までが,平均312円,⑦平成21年1月から12月までが,平均178円である。

以上の,被告の溶融アルミニウムの納入量,本件各特許発明の実施について認められるべき料率及び溶融アルミニウムの納入価格の各事実と,本件特許1から7までの特許権設定登録の時期とを考慮すれば,被告が被告製品を使用して溶融アルミニウムを納入したことによる原告の損害額は,①『別紙1-1』の平成15年5月12日から平成17年12月31日までの期間の7億0931万9894円,②『別紙1-2』の平成18年1月1日から平成20年12月31日までの期間の9億2358万8000円,③『別紙1-3』の平成21年1月1日から平成21年12月31日までの1億8238万7700円を合計した18億1529万5594円となる。」

34 原判決の125頁17行目から126頁3行目までを,以下のとおり訂正する。

「被告製品がすべて平成15年5月12日に製造されたものとみなし,平成16年5月12日,平成17年5月12日,平成18年5月12日,平成19年5月12日,平成20年5月12日,平成21年5月12日及び平成22年5月12日にそれぞれ修繕されるものとみなし,かつ,本件特許1から7までについての特許権設定登録の時期を考慮するならば,被告が被告製品を使用していることによる原告の損害額は,平成15年5月12日から平成21年12月31日までの期間においては,①『別紙2-1』の平成15年5月12日から平成17年12月31日までの期間の8389万3523円,②『別紙2-2』の平成18年1月1日から平成20年12月31日までの期間の1億1385万円,及び③『別紙2-3』の平成21年1月1日から平成21年12月31日までの期間の3795万円を合計した2億3569万3523円である。




c) よって,原告は,被告に対し,本件各特許に基づき,上記損害金18億1529万5594円又は2億3569万3523円のうち,2億0400万円並びに内金800万円につき平成16年12月1日から支払済みまで,内金7200万円につき平成18年5月26日から支払済みまで,内金1億1000万円につき平成21年2月24日から支払済みまで,内金1400万円につき平成22年1月16日から,各支払済みまでそれぞれ年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

35 原判決の126頁4行目の「争点8-2」を「争点9-2」とする。

36 原判決の126頁6行目から9行目までを,以下のとおり訂正する。

「① 被告は,平成15年5月12日ころから現在に至るまで,被告製品による溶融アルミニウムをトヨタ自動車の衣浦工場に納入しており,平成15年は8000トン,平成16年は1万4610トン,平成17年は1万3960トン,平成18年は6300トン,平成19年は8500トン,平成20年は1万1700トン,平成21年は8910トンの納入をしている。」


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37 原判決の126頁26行目から127頁8行目までを,以下のとおり訂正
する。

「③ 溶融アルミニウムの納入価格は,1キログラム当たり,①平成15年5月から12月までが,平成187円(1円未満の端数は切り捨てたもの。以下同じ。),②平成16年1月から12月までが,平均200円,③平成17年1月から12月までが,平均206円,④平成18年1月から12月までが,平均296円,⑤平成19年1月から12月までが,平均296円,⑥平成20年1月から12月までが,平均312円,⑦平成21年1月から12月までが,平均178円である。

以上の,被告の溶融アルミニウムの納入量,あるべき実施許諾料相当額及び溶融アルミニウムの納入価格を考慮すれば,被告が被告製品において本件意匠を使用して溶融アルミニウムを納入したことによる原告の損害額は,①『別紙3-1』の平成15年5月12日から平成17年12月31日までの期間の7293万7600円,②『別紙3-2』の平成18年1月1日から平成20年12月31日までの期間の8031万2000円,③『別紙3-3』の平成21年1月1日から平成21年12月31日までの期間の1585万9800円を合計した1億6910万9400円である。」

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38 原判決の128頁3行目から15行目までを,以下のとおり訂正する。

「被告製品がすべて平成15年5月12日に製造されたものとみなし,平成16年5月12日,平成17年5月12日,平成18年5月12日,平成19年5月12日,平成20年5月12日,平成21年5月12日及び平成22年5月12日にそれぞれ修繕されるものとみなし,かつ,本件意匠の登録の時期とを考慮するならば,被告が被告製品を使用していることによる原告の損害額は,平成15年5月12日から平成21年12月31日までの期間においては,①『別紙4-1』の平成15年5月12日から平成17年12月31日までの期間の2103万6438円,②『別紙4-2』の平成18年1月1日から平成20年12月31日までの期間の2310万円,及び③『別紙4-3』の平成21年1月1日から平成21年12月31日までの期間の770万円を合計した5183万6438円である。


c) よって,原告は,被告に対し,本件意匠に基づき,上記損害金1億6910万9400円又は5183万6548円のうち,4600万円並びに内金200万円につき平成16年12月1日から,内金1800万円につき平成18年5月26日から,内金2000万円につき平成21年2月24日から,内金600万円につき平成22年1月16日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

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39 原判決の128頁17行目から22行目までを,以下のとおり訂正する。

「よって,原告は,被告に対し,本件各特許権及び本件意匠権侵害による損害賠償として,合計2億5000万円並びに内金1000万円につき平成16年12月1日から,内金9000万円につき平成18年5月26日から支払済みまで,内金1億3000万円につき平成21年2月24日から支払済みまで及び内金2000万円につき平成22年1月16日から,各支払済みまで,それぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

なお,平成18年1月1日以降の損害賠償請求権については,不法行為を請求原因とする限りにおいては,平成21年2月23日(控訴審での1回目の訴えの変更申立書が送達される日)までに,3年の消滅時効期間が経過した分があることになる。そこで,仮に,被告がこの期間の損害賠償請求権について時効を援用することに備えて,原告は,予備的に不当利得に基づく請求原因として,

a) 同期間において,被告が,本件特許1から7まで及び本件意匠について法令又は契約に基づく実施権もないのに,本件特許発明1から7まで及び本件意匠を実施し,その実施について,同期間の損害賠償請求権(前述のとおり)と同額の金銭の支払を免れることにより利益を受けたこと,b) その結果,原告がその実施について金銭を受けられないことにより,被告が受けた利益と同額の損失を受けたことを追加する。」

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40 原判決の128頁26行目から129頁2行目までを削除し,以下のとおり挿入する。

「b) 加圧式取鍋を使用して衣浦工場に納入する際に,本件特許発明1-1から1-3までを使用しない構成,すなわち大蓋に貫通孔を設けた構成については,安全性が確保されることが確認されない限り,トヨタ自動車としては被告による溶融アルミニウムの供給を受け入れることはできず,少なくとも損害が発生した当時は,そのような安全性は確認されていない。そして,現在,トヨタ自動車は,大蓋に貫通孔を設けた構成について,被告の要望により,身長が高くない作業者にも取り扱いやすくなるなどの理由により,やむを得ず,そのような構成を受け入れている。

また,原告は,被告の火災事故までは,加圧ポートには規制部材を設けていなかった。しかし,現在,被告の火災事故を受けて,トヨタ自動車は,規制部材のない構成は受け入れない状況にある。したがって,原告も規制部材を設けて,本件特許発明5-1及び5-8の構成を実施しており,上記の火災事故後は,本件各特許発明5の規制部材は,衣浦工場への納入については必須の構成とされている。

さらに,ストーク式の取鍋の意匠も多数存在する。なお,被告は,突出し部のない加圧式取鍋(ストーク式)を用いれば,本件意匠を実施する必要がないとも主張するが,新たな加圧式取鍋を開発するためには,改めてトヨタ自動車から号口(合格品)との認定を受ける必要があり,被告にとって,本件意匠を使用し続けることの利点は大きい。

c) 原告は,被告が,原告から本件各特許権及び意匠権について実施権の許諾を受けることなく,当該取鍋を使用して溶融アルミニウムを譲渡することにより利益を得ていることを踏まえた,特許法102条3項による損害額の算定を求めている。

そして,被告が,取鍋を販売することによってではなく,当該取鍋を使用して溶融アルミニウムを譲渡することにより利益を得ていることに着目するならば,実施権許諾料算定の基礎となる数値は,溶融アルミニウムの譲渡による売上高しかあり得ない。

そのため,原告は,被告の溶融アルミニウムの売上高に実施権許諾料の料率を乗じることにより,原告の損害額を算定するよう求めており,原審の判断は正当である。

d) これに対し,被告は,取鍋の購入価格に基づいて損害額を算定するよう求めるが,『購入』する行為,すなわち『譲り受ける』行為は,特許法2条3項の『実施』行為とはされておらず,『譲り受ける』行為自体により被告の利益は生じ得ず,原告の損害も生じ得ない。そして,本件では,被告が再譲渡により利益を得ている事情はない。

また,本件における被告の利益は,取鍋の交換価値ではなく,使用価値において生じているにすぎない。したがって,購入価格というような取鍋の交換価値に着目した算定方法は実情に合わない。

このように,取鍋の購入価格に基づく被告の損害額の算定は不当である。

そもそも,溶融アルミニウムの譲渡により利益を上げるためには,溶融アルミニウムを販売する意思表示だけでは足りず,実際に溶融アルミニウムの占有を移転し,契約を履行することが不可欠である。その契約の履行において加圧式取鍋を用いているのであるから,被告は,加圧式取鍋の使用により,溶融アルミニウムの譲渡による利益を取得しているといえる。

e) 衣浦工場についていえば,原告と被告とが溶融アルミニウムを納入しており,全体の納入量が変わらなければ,一方が増加すれば他方が減少する関係にある。原告の損害は,まさしく被告が本件各特許発明の構成を模倣した加圧式取鍋を使用することで,原告よりも有利な競争条件で衣浦工場に溶融アルミニウムを供給する機会を得ることにより発生している。このようにして原告が得た不利益を補填するためには,被告による溶融アルミニウムの供給価格を基礎として,それに一定の実施権許諾料相当額を上乗せする必要がある。

オ被告製品は,すべて本件各特許発明の技術的範囲に属するというべきであり,損害賠償額の算定に当たっては,本件特許発明2-1,2-2及び2-5,同3-1及び3-7,同4-1,同6-2並びに同7-2の実施料を加算すべきである。」

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41 原判決の129頁18行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「なお,本件は,特許法102条3項及び意匠法39条3項における『実施に対し受けるべき金銭の額』を損害額として請求している事案であり,特許法102条2項や意匠法39条2項による請求をしていない以上,被告の『利益』に相当する『損害』を受けている旨の原告の主張は,前提において失当である。

そして,損害の発生自体は原告の立証事項であり,確かに特許法2条3項1号,意匠法2条3項において『使用』は『実施』に該当し,差止請求の対象となるが,それをもって損害が発生したことにはならない。

また,原告が加圧式取鍋の製造販売を業としておらず,溶融アルミニウムの供給により利益を得ているとしても,当該事情は,民法709条に基づく実損害額を主張する上では一事情となり得ても,特許法102条3項や意匠法39条3項に基づく損害算定規定の適用については関連性がない。『実施に対し受けるべき金銭の額』の請求である以上,当事者間の固有の関係に着目することとは相容れず,原告の業務という個別的事情を考慮することは明らかに失当である。」

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42 原判決の129頁20行目から130頁6行目までを,以下のとおり改める。

「a) 物の発明の侵害行為と相当因果関係のある損害と認められるのは,当然その『物』についての『実施』に当たる行為である。

そして,物の発明に係る特許権においては,当該物の販売額を前提に,相当な実施料率を掛けて実施料相当額を算定することは,裁判所に顕著な事実とでもいうべき事項である。

それにもかかわらず,実施にかかる物の販売額ではなく,その物の使用により,容器により運搬した物(溶融アルミニウム)の販売額を基礎として実施料相当額を算定するのであれば,そのような業界慣行を原告において主張立証すべきであり,このような事情がない限り,通常の業界慣行に従って,実施にかかる物の販売額に基づいて,『実施に対し受けるべき金銭の額』を定めるべきである。

b) 被告の使用した取鍋の購入価格は1台約250万円であり,被告は,該取鍋を約50台使用していた。また,約1年6月ごとに,その補修費として1台約200万円が必要であった。

以上を前提とすると,平成14年12月6日から平成18年7月末までの取鍋の購入価格,修理・改修費用は,別紙『一審被告取鍋費用明細』記載のとおり,総額2億2270万5383円である。

なお,被告は,平成18年8月以降,『被告製品』を使用していないので,当該時点以降について原告が被告製品の使用による損害を被ることはあり得ないが,念のため平成14年12月6日から平成21年12月10日までの総額を明らかにすると,別紙『一審被告取鍋費用明細』記載のとおり,総額4億0206万8959円となる。

さらに,原告が損害賠償の対象としているのは平成15年5月12日以降であるところ,その主張からすれば,上記金額からそれぞれ5520万円を控除することになる。そして,本件特許1,3ないし5及び本件意匠の合計した実施料率は,多くとも2%を超えないことからすれば,原告の損害額は,(2億2270万5383円-5520万円)×2%=335万0107円にすぎない。」

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43 原判決の130頁20行目から23行目までを削除し,以下のとおり挿入する。

「オ本件特許1,5及び本件意匠を実施しなければトヨタ自動車の衣浦工場に溶湯の納入が困難であるとの原判決の判断は誤りである。

まず,本件特許1の実施品でなくても溶湯の納入は可能である。現に,被告が現在使用している取鍋は,加圧式ではあるが,貫通孔を小蓋(ハッチ)ではなく大蓋に設けた取鍋である。また,安全に運搬する機構を設けることが,トヨタ自動車に溶融アルミニウムを供給するに当たり必要であることは事実であるが,必ずしも本件各特許発明5を実施する必要はなく,原告が,規制部材を使用していない取鍋を溶湯の納入に使用している可能性もある。そして,本件意匠についても,原告は,突出し部の存在しない加圧式取鍋(ストーク式)を使用している。

したがって,溶融アルミニウムの納入販売による利益と被告製品の使用との間には相当因果関係はない。

原判決のように,使用する対象物(搬送対象物)に係る利益を前提にするなら,該対象物によって損害額が変動することになる。このように,同じ特許権や意匠権とは直接関係しない該対象物の相違によって,損失填補である賠償が変動するものとなってしまう。

そして,溶融アルミニウムの納入価格ないし利益を前提として,取鍋の実施料相当額を定めるという業界慣行など存在しないのであるから,原判決の判断が不当であることは明らかである。

カ原告も,平成18年8月以降,被告が『被告製品』を使用していないことを争っておらず,同月以降の損害賠償を求める原告の主張は失当である。なお,原告は,被告が同月以降に使用している取鍋が,本件特許5及び本件意匠を侵害する旨主張するようであるが,具体的な該当製品の特定がされておらず,主張自体失当である。

また,平成18年1月1日から平成21年2月19日付け訴えの変更申立書が送達された日の3年前までの期間の損害賠償請求については,時効が成立しているので,被告は当該時効を援用する。なお,原告は,時効の抗弁に対して予備的に不当利得の返還を請求するが,被告は,少なくとも本判決が確定するまでは善意の受益者であり,付帯請求については失当である。」




第4 当裁判所の判断



当裁判所は,基本的に原判決の判断は相当であるが,原告の損害額については,被告による溶融アルミニウムの売上額だけでなく,被告製品ないし被告現製品の購入,修理価格をも考慮して総合的に算出すべきであり,その結果,原審の認定した損害額は過大であると解するため,同損害額を変更することとする。

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その理由は,次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。



1 原判決130頁25行目の「及び争点1-2」から26行目までを削除する。

2 原判決131頁2行目の後に改行して,次のとおり挿入する。

「a) 本件特許1に係る明細書(平成21年7月7日付け審決による訂正後のもの。甲30-2参照。)には,以下の記載がある。

『【0001】【発明の属する技術分野】

本発明は,例えば溶融したアルミニウムの運搬に用いられる溶融金属供給用容器に関する。

【0002】【従来の技術】

多数のダイキャストマシーンを使ってアルミニウムの成型が行われる工場では,工場内ばかりでなく,工場外からアルミニウム材料の供給を受けることが多い。この場合,溶融した状態のアルミニウムを収容した取鍋を材料供給側の工場から成型側の工場へと搬送し,溶融した状態のままの材料を各ダイキャストマシーンへ供給することが行われている。

【0003】

従来から用いられている取鍋は,溶融金属が貯留される容器本体の側壁に供給用の配管を取り付けたいわば急須のような構造で,かかる取鍋を傾けることにより配管から成型側の保持炉に溶融金属を供給することが行われている。

【0004】【発明が解決しようとする課題】

しかしながら,このような取鍋では,例えば取鍋の傾斜をフォークリフトを用いて行っており,そのような作業は必ずしも安全なものとはいえなかった。また,取鍋を傾斜させるためにフォークリフトに回動機構を設ける必要があるため,構成が特殊となり,更にそのような操作のためにフォークリフトの操作に熟練した作業者が必要とされる,という課題があった。

【0005】 そのため,本発明者等は,圧力差を利用した溶融金属の供給システムを提唱している。このシステムは,密閉された容器に外部に溶融金属を導出するための配管を設け,さらにこの容器に加圧気体を供給するための配管を接続し,容器内を加圧することで金属導出用の配管から外部の例えば成型側の保持炉に溶融金属を導出している。

【0006】

しかしながら,上記構成の容器では,加圧気体供給用の配管が詰り易い,という問題がある。特に,上記のシステムでは,例えば容器はトラックに搭載され公道を介して工場から他の工場に運搬されるために揺れことが多く,このため容器内の溶融金属の液面が傾いたり,液滴が容器内で飛び散り,これらが加圧気体供給用の配管に付着する。そして,例えばこのような付着が度重なることで配管詰りが発生している。

【0007】

以上の事情に鑑み,本発明の主たる目的は,内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを防止することができる溶融金属供給用容器を提供することにある。

【0008】【課題を解決するための手段】

かかる課題を解決するため,本発明の主たる観点に係る溶融金属供給システムは,溶融金属を収容することができる容器と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を流通することが可能な流路と,前記容器の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチとを具備するものである。

【0009】

通常,かかる容器内に溶融金属を供給するに先立ちガスバーナ等の加熱器により容器を予熱している。この予熱は,ハッチを開けて加熱器の一部を容器内に挿入することで行われる。従って,ハッチは容器内に溶融金属を供給する度に開けられるものである。本発明では,このようなハッチに内圧調整用の貫通孔を設けているので,容器内に溶融金属を供給する度に内圧調整用の貫通孔に対する金属の付着を確認することができる。そして,例えば貫通孔に金属が付着しているときにはその都度それを剥がせばよい。従って,本発明では,内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを未然に防止することができる。また本発明においては,このハッチは容器内部を気密を確保するためのパッキン等の封止部材を備えている。パッキンは例えばシリコン製のものなど耐熱性を有するものが好ましい。

【0010】

本発明の溶融金属供給用容器は,前記ハッチが,前記容器の上面部のほぼ中央に設けられていることを特徴とするものである。

【0011】

容器が揺れて液面が傾いたり,液滴が飛び散る場合,容器内の外周付近よりも中央部に近い方がより液面の変化や液滴が飛び散る度合いが小さい。本発明では,ハッチに内圧調整用の貫通孔が設けられ,しかもそのハッチが上記のように液面の変化や液滴が飛び散る度合いが小さい位置に対応する容器の上面部のほぼ中央に設けられているので,金属が内圧調整に用いるための配管や孔に付着することが少なくなる。従って,本発明では,内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを防止することができる。

【0012】

本発明の溶融金属供給用容器は,前記貫通孔に取り付けられ,前記容器の上面部から上方に向けて突出し,所定の高さの位置で水平方向に折り曲げられ,水平方向に導出された配管を更に具備するものである。

【0021】

本発明の更に別の観点に係る溶融金属供給用容器は,溶融金属を収容することができ,上部に第1の開口部を有する容器と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を連通することが可能な流路と,前記容器の第1の開口部を覆うように固定的に配置され,ほぼ中央に前記第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有する蓋と,前記蓋の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチとを具備するものである。

【0022】

本発明では,このようなハッチに内圧調整用の貫通孔を設けているので,容器内に溶融金属を供給する度に内圧調整用の貫通孔に対する金属の付着を確認することができる。従って,本発明では,内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを未然に防止することができる。本発明では,ハッチに内圧調整用の貫通孔が設けられ,しかもそのハッチが上記のように液面の変化や液滴が飛び散る度合いが小さい位置に対応する容器の上面部のほぼ中央に設けられているので,金属が内圧調整に用いるための配管や孔に付着することが少なくなる。従って,本発明では,内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを防止することができる。更に,本発明では,ハッチが蓋の上面部に設けられているので,ハッチの裏面と液面との距離が蓋の裏面と液面との距離に比べて蓋の厚み分だけ長くなる。従って,貫通孔が設けられたハッチの裏面に金属が付着する可能性が低くなる。よって,本発明では,内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを防止することができる。

【0055】

また,ハッチ62の中央,或いは中央から少しずれた位置には,容器100内の減圧及び加圧を行うための内圧調整用の貫通孔65が設けられている。この貫通孔65には加減圧用の配管66が接続されている。この配管66は,貫通孔65から上方に伸びて所定の高さで曲がりそこから水平方向に延在している。この配管66の貫通孔65への挿入部分の表面には螺子山がきられており,一方貫通孔65にも螺子山がきられており,これにより配管66が貫通孔65に対して螺子止めにより固定されるようになっている。

【0057】

本実施形態では,大蓋52のほぼ中央部に配置されたハッチ62に加減圧用の貫通孔65が設けられている一方で,上記の配管66が水平方向に延在しているので,加圧用又は減圧用の配管67を上記の配管66に接続する作業を安全にかつ簡単に行うことができる。また,このように配管66が延在することによって配管66を貫通孔65に対して小さな力で回転させることができるので,貫通孔65に対して螺子止めされた配管66の固定や取り外しを非常に小さな力で,例えば工具を用いることなく行うことができる。』」

3 原判決131頁3行目の「a)」を「b)」と訂正する。

4 原判決133頁16行目から134頁9行目までを削除し,以下のとおり挿入する。

「c) 引用発明1と本件特許発明1-1との対比

両発明は,『溶融金属を収容することができ,上部に第1の開口部を有する容器と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を流通することが可能な流路と,前記容器の第1の開口部を覆うように配置され,ほぼ中央に前記第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有する蓋と,前記蓋の上面部に開閉可能に設けられたハッチとを具備し,公道を介してユースポイントまで搬送される溶融金属供給用容器。』である点で一致する。

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他方で,両発明は,以下の点で相違する。



① 本件特許発明1-1は,溶融金属を加圧により流通することが可能な流路を具備しているのに対して,引用発明1には,この点が記載されていない点。

② 本件特許発明1-1におけるハッチは,容器の内外を連通し,容器内の前記加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられ,前記容器内の気密を確保するとしているのに対して,引用発明1における受湯口小蓋は密閉型であるものの,これらの点が記載されていない点。

③ 本件特許発明1-1は加圧式取鍋であるのに対し,引用発明1は傾動式取鍋である点。」

5 原判決134頁10行目の「②」を「④」とする。

6 原判決140頁19行目の後に改行して,次のとおり挿入する。

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「⑧ 特開平10-244352号公報(乙64の1)



『発明の詳細な説明【0001 【発明の属【】】する技術分野】本発明は,アルミニウム合金やマグネシウム合金などの溶融金属の給湯方法および装置に係り,特に,保持炉内に貯蔵された溶融金属の溶湯を,所望の一定量ずつダイカストマシン等の射出スリーブへ給湯することができる溶融金属の給湯方法および装置に関する。

【0003】【発明が解決しようとする課題】

しかしながら,上記のようなレードルを使用する給湯方法では,次のような欠点がある。

(1) 計量・搬送・注湯中に,溶湯が外気に曝され,酸化が進行するとともに,溶湯温度の低下を招く。

(2) 射出スリーブの上部開口部より溶湯を注湯するため,溶湯の落下距離により空気の巻き込みを生じるとともに,泡立ちが起こり溶湯の清浄度が低下する。また,ダイカストマシン近くに大容量の保持炉を上部が開口したまま設置し,給湯作業が間欠的に行われるため,周囲への熱放散が大きく作業環境の悪化を招くばかりでなく,熱効率の低下を招来していた。このため,密閉式で熱放散が少なく,かつ,一定の給湯量を能率良く射出スリーブへ供給できる溶融金属の給湯ほうほうや装置が待望されていた。

【0006】【発明の実施の形態】本発明の溶融金属の給湯方法は,保持炉内に設けられ保持炉との連通・遮断が自在で保持炉内の溶湯に浸漬された給湯容器内に満たされた溶湯の液面高さを検知するとともに,溶湯を満たした該給湯容器を密閉状態に保って,該給湯容器内に圧縮気体を注入して溶湯を加圧し,該給湯容器と射出スリーブとを接続する給湯配管を経由して該溶湯を該射出スリーブへ給湯し,該給湯容器内の液面高さが所定の給湯量に相当する液面高さに低下したとき圧縮気体の注入を停止することにより該射出スリーブへの給湯を停止し,所望の給湯量を該射出スリーブへ給湯するようにしたため,保持炉の溶湯を外気に触れることなく,給湯配管へ必要量を搬送することができる。

【0007】また,第2の発明の装置では,溶融金属の給湯装置を,溶湯を貯蔵し加熱・保温する保持炉と,該保持炉内に設けられ該保持炉内の溶湯に浸漬され底部に連通・遮断自在な開口部を有する給湯容器と,該給湯容器と射出スリーブとを接続する給湯配管と,該給湯容器内に設けられ該給湯容器内の溶湯の液面高さを検知する液面高さ検知装置と,該給湯容器内へ圧縮気体を注入する圧縮気体供給装置と,前記開口部の開閉制御ならびに該液面高さ検知装置の検知信号に基づいて圧縮気体の注入・停止を司る制御装置とからなる構成としたため,底部の開口部より給湯容器内に取り込んだ溶湯を圧縮気体の押圧力により加圧して給湯配管で射出スリーブへ移送し,所定の給湯を終えたことを液面高さ検知装置で給湯容器内液面高さの低下で読み取って制御装置を介して圧縮気体の注入を停止し溶湯の給湯を終え,遠隔操作で自動的に所望の一定量の溶湯を射出スリーブへ給湯できる。

【0009】図1に示すように,溶融金属給湯装置(以下,給湯装置という)100は,溶融金属Mを貯溜し保持する保持炉10と,保持炉10内に浸漬された給湯容器20と,給湯容器20内に配設された液面高さ検知装置30と,給湯容器20内に圧縮気体を供給する圧縮気体供給装置40と,給湯配管50と,制御装置60とで構成される。

【0010】保持炉10は,金属容器に溶融金属(溶湯)Mの溶湯を貯溜し,上部の開口部を上蓋10Aおよび密閉蓋10Bで被覆するようになっており,この保持炉10内に溶湯Mに浸漬される状態で,底部に開口部20aを備えた直立円筒状の給湯容器20が配設される。給湯容器20の開口部20aは,エアシリンダ24等によって昇降自在な溶湯補給弁22によって開閉され,保持炉10内の溶湯Mの給湯容器20内への連通・遮断が行なわれる。』

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⑨ 特開平10-244353号公報(乙64の2)



上記文献は,『溶融金属の給湯装置』との名称の発明に係る公報であり,乙64の1(『溶融金属の給湯方法および装置』との名称の発明に係る公報)とは特許出願人も同じで,以下に示すように,ほぼ同一の発明である。

『【0003】【発明が解決しようとする課題】

・・・このため,密閉式で熱放散が少なく,かつ,一定の給湯量を能率良く射出スリーブへ供給できる溶融金属の給湯装置が待望されていた。

【0009】図1に示すように,溶融金属給湯装置(以下,給湯装置という)100は,溶融金属Mを貯溜し保持する保持炉10と,保持炉10内に浸漬された給湯容器20と,給湯容器20内に配設された浮力検知センサ30と,給湯容器20内に圧縮気体を供給する圧縮気体供給装置40と,給湯配管50と,制御装置60とで構成される。

【0010】保持炉10は,金属容器に溶融金属(溶湯)Mの溶湯を貯溜し,上部の開口部を上蓋10Aおよび密閉蓋10Bで被覆するようになっており,この保持炉10内に溶湯Mに浸漬される状態で,底部に開口部20aを備えた直立円筒状の給湯容器20が配設される。給湯容器20の開口部20aは,エアシリンダ24によって昇降自在な溶湯補給弁22によって開閉され,保持炉10内の溶湯Mの給湯容器20内への連通・遮断が行なわれる。』」


7 原判決141頁3行目の「(なお,」から8行目までを削除し,「。」を加え,改行した上で,以下のとおり挿入する。

「② 前記a)からすれば,本件特許発明1-1における従来の技術の課題は,『圧力差を利用した溶融金属の供給システムにおいて,密閉された容器に,外部に溶融金属を導出するための配管を設け,さらに加圧気体を供給するための配管を接続するとの構成を採ったとき,容器内の溶融金属の液滴が容器内で飛び散り,加圧気体供給用の配管に付着し,これが度重なることで配管詰まりが発生する』点にある。

そして,本件特許発明1-1は,このような課題を解決するために,容器の上面部に開閉可能に設けられ,容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチを具備するという構成を採用し,この構成により,ハッチを開けて加熱器の一部を容器内に挿入して予熱をする際に,内圧調整用の貫通孔に対する金属の付着を確認することができ,内圧調整に用いるための配管や孔の詰まりを未然に防止できるという作用効果を有するものである。


これに対し,前記d)⑧,⑨からすれば,乙64の1,64の2は,いずれも『密閉式で熱放散が少なく,かつ,一定の給湯量を能率良く射出スリーブへ供給できる溶融金属の給湯方法や装置』を得ることを目的とした発明であって,その目的において,本件特許発明1-1とは全く異なる。また,各明細書には,『上部の開口部を上蓋10Aおよび密閉蓋10Bで被覆するようになっており』(いずれも段落【0010】)と記載されてはいるものの,その具体的構成についての記載はなく,【図1】からは,『密閉蓋10B』が溶融金属を供給するごとに開閉することが予定されているとはみられない。

さらに,上記各発明は,いずれも,トラック等の運搬車輌に搭載されて公道を介して搬送されるようなものとは認められず,本件特許発明1-1とは,その利用場面が異なるものである。

以上のとおり,乙64の1及び64の2に記載された各発明は,いずれも本件特許発明1-1とは,解決すべき課題,構成,利用場面において大きく異なる。

したがって,乙64の1及び64の2を参酌しても,本件特許発明1-1を想到するのが容易であるとはいえない。」

8 原判決141頁9行目の「②」を「③」と訂正する。

9 原判決142頁8行目の後に,以下のとおり挿入する。

「なお,被告は,同作用効果は,当業者であれば予測し得る範囲内である旨主張するが,そもそも,当業者が,加圧式取鍋において,液の跳ね返りによる汚れや内圧調整用配管の詰まりを減少させるべきとの課題を認識しているとは認められず,そうである以上,上記の作用効果が予測の範囲内であるとはいえない。

また,被告は,小蓋に取り付ける配管も,小蓋の開閉のじゃまにならないように短く構成されればよく,仮にじゃまになるなら,そのような配管は着脱自在に構成すればよいとも主張する。

しかし,配管につき,小蓋を開閉する度に着脱する必要がない構成を採るのが通常というべきであり,被告の上記主張は採用できない。」

10 原判決142頁12行目の「③」を「④」と訂正する。

11 原判決143頁1行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。


「なお,乙3の3図面が,公知・公用の傾動式取鍋の小蓋に,注湯をスムーズにするための内圧調整用の貫通孔を設けるという,簡単な改良に関する図面であるとしても,それによって,同図面に記載された事項につき,信義則上の守秘義務がおそよ生じ得ないものではない。

また,被告は,そもそも第三者であるトヨタ自動車は信義則上守秘義務を負わない旨主張するが,仮に第三者的な立場にあっても,公然実施されていない段階の秘密情報や図面の開示を受けた者が,信義則上守秘義務を負うのは当然のことであり,被告の上記主張は採用できない。

このほか,日本坩堝が作成し,被告を介してトヨタ自動車に提出された取鍋の設計図(甲10)や写真(甲11)は,乙3の3図面とは全く別の書面であり,甲10,11の取扱いが乙3の3図面と異なっても不合理ではない。


⑤ 被告は,乙2の3,2の4,2の9及び乙49においては,一重の蓋ではあるが,開閉可能な蓋に配管や貫通孔に相当するものが設けられていると主張する。


しかし,本件特許発明1-1の『ハッチ』は,通常使用時に取鍋本体50に固定された『大蓋52』の上に設けられたものであって,取鍋内に溶湯を導入する前の予熱や配管詰まりの監視のため,溶湯供給作業を行う度に開閉することを目的とし,その目的達成に必要な程度の開閉可能性が要求されるものである。これに対し,被告指摘の,乙2の3,2の4,2の9及び乙49を子細に検討してみても,貫通孔が設けられた蓋が開示されるにとどまり,当該蓋を開けて予熱や監視を行うような記載は見当たらず,そもそも予熱や配管詰まりの監視の目的達成に必要な程度の開閉可能性を満たす蓋が開示されていると認めることはできない。

以上によれば,被告の上記主張は採用できない。

⑥ 被告は,本件特許発明1-1では,大蓋が開閉可能であることは要件となっておらず,むしろ大蓋は本体に固定されるもので,小蓋(ハッチ)は,本体との関係で一重の蓋といえるとも主張する。

しかし,前述のとおり,本件特許発明1-1の『ハッチ』は,通常使用時に取鍋本体50に固定された『大蓋52』の上に設けられたものであるから,これを実質上は一重の蓋の構成にすぎないといえないことは明らかである。また,同『ハッチ』は,取鍋内に溶湯を導入する前の予熱や配管詰まりの監視という目的達成に必要な程度の開閉可能性が要求されるものであるから,これを実質上は一重の構成であるとして,一重の蓋に加圧用の貫通孔を設けた周知技術と同様のものとみることはできない。

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このように,被告の上記主張は理由がない。

⑦ 被告は,引用発明1の記載からすれば,公道搬送による揺れ等により,溶湯の飛沫が注湯口ノズル等に付着する問題は既に当業者に認識されていたものであり,配管や孔に付着することが少ない位置である小蓋(ハッチ)に貫通孔を設けることは当業者が容易に想到できた旨主張する。

しかし,引用発明1に開示されているのは傾動式取鍋であり,乙1に加圧式取鍋特有の内圧調整用配管の詰まりについての記載はないから,当業者が,上位の溶湯の揺れによって,溶湯がこぼれたり傾動式の注湯口に付着することを認識するにとどまり,乙1の記載から当業者が本件特許発明1-1の技術的課題(内圧調整用配管の詰まり)を認識するということはできない。」

12 原判決144頁1行目から15行目までを削除し,以下のとおり挿入する。

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「① 共通点



両発明は,『溶融金属を収容することができ,上部に第1の開口部を有する容器と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を加圧により流通することが可能な流路と,前記容器の第1の開口部を覆うように配置された蓋とを具備する溶融金属供給用容器。』である点において,一致する。

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② 相違点



容器の第1の開口部を覆うように配置された蓋が,本件特許発明1-1においては,ほぼ中央に第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有するのに対して,乙2の7公報に開示される構成では,この点が記載されていない(相違点1)。

また,本件特許発明1-1が,蓋の上面部に,開閉可能に設けられ,容器の内外を連通し,容器内の前記加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられ,前記容器内の気密を確保するハッチを具備しているのに対し,乙2の7公報に開示される構成では,蓋に注湯炉内の加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられている(相違点2)。

さらに,本件特許発明1-1では,容器が公道を介してユースポイントまで搬送されるとしているのに対し,乙2の7公報に開示される構成では,この点が記載されていない(相違点3)。」

13 原判決145頁7行目の『なお』から9行目までを削除する。

14 原判決152頁2行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。

「ウ前述のとおり,平成13年12月17日から18日にかけて,被告の西尾工場で,乙4の2・3図面に基づいて試作された加圧配湯ポットリーベの実湯テストが行われたものであるところ,中央窯業が作成した『加圧配湯ポットリーベ実湯テスト』と題する同月19日付け書面(乙12の2,12の3)には,『トヨタ側でも鍋を製作中(真空吸引,加圧排出式?)で2/20頃できあがる。このため豊栄,陽紀,トヨタ3方式を2月以降にテストを行う。』旨,実湯テストにおいて,配湯パイプ固定クランプ2個中1個のロックが解け,接合部に湯漏れが生じたが,付着地金を除去し,クランプの長さを調整した旨が記載されている。

以上からすれば,更なるテストが予定されていたとしても,これは,トヨタ自動車側で平成14年2月以降に取鍋を完成させるためにすぎず,平成13年12月17日から18日の時点で,湯洩れや配管の問題点は,解決済みであったといえる。」

15 原判決152頁3行目の「ウ」を「エ」に訂正する。

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16 原判決153頁11行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。



「ウなお,原告は,『即時実施の意図』の有無につき,発明の実施である『事業』を基準に考えるべき旨主張するが,特許法79条においては,『その発明の実施である事業』と規定されるのみであって,先願主義の下,特許権者と,その出願前に既に同一発明を実施し,若しくはその実施の準備をしていた者との利益の公平を図るために,先使用による通常実施権を規定する趣旨からすれば,原告主張のように解すべき理由はない。

前述のとおり,被告らが,本件特許2の特徴的事項である折り畳み式パイプ部分につき,発明として完成させ,その部分につき実施のための準備をしているにもかかわらず,取鍋全体を溶融アルミニウム供給事業のために使用できる状態になるまで『即時実施の意図』がないとするのでは,特許権者・使用者間の公平に反し,相当ではない。」

17 原判決154頁2行目の「甲3の2」の後に「,甲45の2」を挿入する。

18 原判決154頁4行目の「(本件公報」から5行目までを削除する。

19 原判決154頁9行目の「(同・」以降を削除する。

20 原判決154頁19行目の「(同・」以降を削除する。

21 原判決154頁23行目の「(同・」から24行目までを削除する。

22 原判決155頁26行目の「甲3の2」の後に「,甲45の2」を挿入する。

23 原判決156頁4行目の「(本件公報・」以降を削除する。

24 原判決156頁21行目から164頁15行目までを削除し,以下のとおり挿入する。

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「本件特許発明3-1は,前記第2.1(4)ウのとおり,平成21年7月17日付け審決により訂正が認められた結果,『大小2枚の蓋とともに,小さい方の開閉可能な蓋(ハッチ)に貫通孔を設ける』との構成が付加された。

他方で,前記1(1)のとおり,本件特許発明1-1は,『大小2枚の蓋とともに,小さい方の開閉可能な蓋(ハッチ)に貫通孔を設ける』との構成を有するが故に進歩性が認められているところ,これと同じ構成を備える本件特許発明3-1は,同じ引用例及び周知技術を前提とした場合には,その余について判断するまでもなく,本件特許発明1-1と同様に進歩性が認められることになる。

(2) 本件特許発明3-7

上記(1)同様,本件特許発明3-7についても,平成21年7月17日付け審決により訂正が認められた結果,『大小2枚の蓋とともに,小さい方の開閉可能な蓋(ハッチ)に貫通孔を設ける』との構成が付加されたため,同じ引用例及び周知技術を前提とした場合には,その余について判断するまでもなく,本件特許発明1-1と同様に進歩性が認められることになる。

(3) 以上のとおり,本件各特許発明3は,いずれも進歩性があり,無効ではない。」

25 原判決164頁16行目の「9」を「8」とする。

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26 原判決164頁17行目から169頁19行目までを削除し,以下のとおり挿入する。



「本件特許発明4-1は,前記第2.1(4)エのとおり,平成21年7月7日付け審決により訂正が認められた結果,『大小2枚の蓋とともに,小さい方の開閉可能な蓋(ハッチ)に貫通孔を設ける』との構成が付加された。

他方で,前記1(1)のとおり,本件特許発明1-1は,『大小2枚の蓋とともに,小さい方の開閉可能な蓋(ハッチ)に貫通孔を設ける』との構成を有するが故に進歩性が認められているところ,これと同じ構成を備える本件特許発明4-1は,同じ引用例及び周知技術を前提とした場合には,その余について判断するまでもなく,本件特許発明1-1と同様に進歩性が認められることになる。

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9 争点4-2(本件特許発明4-1の記載不備)について




(1) 本件特許4に係る明細書(平成21年7月7日付け審決による訂正後のもの。甲4の2,甲46の2参照。)には,以下の記載がある。



『【0085】

流路57及びこれに続く配管56の内径はほぼ等しく,65mm~85mm程度が好ましい。従来からこの種の配管の内径は50mm程度であった。これはそれ以上であると容器内を加圧して配管から溶融金属を導出する際に大きな圧力が必要であると考えられていたからである。

これに対して本発明者等は,流路57及びこれに続く配管56の内径としてはこの50mmを大きく超える65mm~85mm程度が好ましく,より好ましくは70mm~80mm程度,更には好ましくは70mmであることを見出した。すなわち,溶融金属が流路や配管を上方に向けて流れる際に,流路や配管に存在する溶融金属自体の重量及び流路や配管の内壁の粘性抵抗の2つパラメータが溶融金属の流れを阻害する抵抗に大きな影響を及ぼしているものと考えられる。ここで,内径が65mmより小さいときには流路を流れる溶融金属はどの位置においても溶融金属自体の重量と内壁の粘性抵抗の両方の影響を受けているが,内径が65mm以上となると流れのほぼ中心付近から内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない領域が生じ始め,その領域が次第に大きくなる。この領域の影響は非常に大きく,溶融金属の流れを阻害する抵抗が下がり始める。溶融金属を容器内から導出する際に容器内を非常に小さな圧力で加圧すればよくなる。つまり,従来はこのような領域の影響は全く考慮に入れず,溶融金属自体の重量だけが溶融金属の流れを阻害する抵抗の変動要因として考えられており,作業性や保守性等の理由から内径を50mm程度としていた。一方,内径が85mmを超えると,溶融金属自体の重量が溶融金属の流れを阻害する抵抗として非常に支配的となり,溶融金属の流れを阻害する抵抗が大きくなってしまう。本発明者等の試作による結果によれば,70mm~80mm程度の内径が容器内の圧力を非常に小さな圧力で加圧すればよく,特に70mmが標準化及び作業性の観点から最も好ましい。すなわち,配管径は50mm,60mm70mm,,,と10mm単位で標準化されており,配管径がより小さい方が取り扱いが容易で作業性が良好だからである。』


(2)ア本件特許4は,前述のとおり,平成21年7月7日付け審決により訂正が認められたことにより,『大小2枚の蓋とともに,小さい方の開閉可能な蓋(ハッチ)に貫通孔を設ける』との構成が付加され,それによって,進歩性が認められたものである。上記各構成が加えられる前の本件特許4に係る発明は,被告が本訴で問題としている,流路の有効内径の数値限定部分等を発明の本質的事項の一部としていたといえるが,上記訂正により,同部分は,それによって進歩性が認められるような事項ではなく,単に望ましい構成を開示しているにすぎないことが明らかになったといえる。

イ以上を前提として,まず,実施可能要件違反の有無を検討するに,本件特許発明4-1の目的の1つと解される『溶融金属を容器内から導出するために必要な圧力を小さくすること』を達成するためには,溶融金属の重量,流路の粘性抵抗等の条件を設定する必要があり,そのうち粘性抵抗については,溶融金属の性状,ライニングの性質,表面粗さ等のパラメータによって決定され,溶融金属の重量やそれによる影響は,金属の種類や流路の長さ,流速等のパラメータによって決定されるものである。

そうすると,単に『溶融金属を導出するために必要な圧力を小さくする』との目的のみを達成するためであれば,流路の有効内径以外のパラメータも設定する必要があることは自明であり,その限りにおいて,被告の主張は誤りではない。



ウしかしながら,『導出圧力の最小化』は,本件特許発明4-1においては付随的な目的にすぎない。この点を措くとしても,原告が主張するように,公道を介して搬送する取鍋の内径は,取鍋を搬送するトラックの車幅との関係で,一定の限度内に収まらざるを得ないのであり,また,そのトラックの車幅も,公道の幅員等により,自ずから相当の限度内になるものということができる。この点につき,被告は,公道搬送可能な取鍋の大きさは千差万別である旨主張するが,取鍋の標準的な大きさは一定の範囲で自ずから存在するものであり,逆に,単に『望ましい』事項を記載しているにすぎない部分においても,あらゆる大きさや種類のトラックに対して有効なすべてのパラメータを提供しなければならないとするのでは,特許権者や出願人に過大な要求をするものであって,相当ではない。


また,作業に慣れた当業者(本件においては,溶融金属を取鍋等を用いて運搬する者)が出湯を行う場合であれば,その出湯時間や速度に,大きな差があるとは考えられない。

そして,溶融アルミニウムを流路や配管を通じて排出する場合に粘性抵抗があること自体は,当業者にとって自明であり,望ましいとされる流路の有効内径が提供されれば,それを最大限に生かすべく,他の条件を設定するよう努めるのは当然であって,ここで必要とされる試行錯誤が過度なものであるとは認められない。また,導出圧力の最小化のみを目的とする場合の数値限定と,これが単に付随的な目的にすぎない場合の数値限定では,必然的に相違が生じ,後者の場合には,他の条件との兼ね合いにより,当該目的達成の程度が変化することは明らかである。


エ以上からすれば,本件特許発明4-1における,流路の有効内径に関する数値限定部分において,他のパラメータにつき記載がないことをもって,実施可能要件に違反するということはできない。



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(3) また,前述の訂正によって『溶融金属を導入する圧力を小さくする』ことは,既に本件特許発明4-1の主たる目的ではなくなっている上,特許請求の範囲や発明の詳細な説明に記載すべき事項については,特許出願人において適宜選択すべきものであって,本件特許発明4-1についても,その効果が実際に存在するかどうかはともかくとして,特許請求の範囲に記載された流路の有効内径の記載自体は明確であって,他のパラメータの記載がないからといって直ちに,同発明が不明確になるとはいえない。

(4) このように,被告の上記主張はいずれも理由がない。

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10 争点1-2,3-4,4-3,5-3(被告製品が,本件特許発明1,3,4-1,5-1の各技術的範囲に属するか否か)について



(1) 被告現製品が,本件特許1,3,4の構成要件の一部を充足しないことについては,当事者間に争いがない。

(2)ア他方で,被告は,被告製品が,本件特許1,3,4の各構成要件を文言上充足することは争わないものの,本件特許1,3,4に係る審決取消訴訟の判決(乙74ないし76参照)を根拠に,本件特許1,3,4においては,①単に加圧により溶融金属を容器外に供給するのみならず,減圧により溶融金属を取鍋内に導入可能であること,②『第2の開口部』及び『ハッチ』は溶融金属の導入に用いられず,必須ではない(必須であってはならない)こと(ただし,『第2の開口部』については本件特許1のみ)が,いずれも各特許発明の技術的範囲となっており,以上を前提とすると,被告製品はこれらの特許を侵害しない旨主張する。



イしかし,被告の上記主張は,いずれも本件特許1,3,4に係る特許請求の範囲の記載に基づくものではない。



また,被告が,自らの主張の根拠とする各審決取消訴訟の判決においても,乙74において,「『・・・加圧を行うための』という文言をもっても,本件発明1は減圧の場合を排除していないというべきであり,本件発明1が取鍋内を加圧して溶融金属の導出ができるが,取鍋内を減圧して溶融金属を導入できる構成にはなっていないということはできない」とされており(51頁2行~5行参照。なお,乙75の68頁19行~23行,乙76の63頁5行~9行にも,それぞれ同旨の記載が ある。),単に『取鍋内を減圧して溶融金属を導入する場合を排除していない』と認定されたにとどまる。また,乙74において,「本件発明1の加圧式の容器の場合は,一つの流路を通して溶湯の導入と導出とを行う注湯方式であり加減圧用の配管が容器に接続されていればよいのであるから,傾動式の容器で必要な受湯口及び受湯口小蓋は必須なものではない。」とされ,受湯口及び受湯口小蓋が必須ではないとされるにとどまり(47頁14~17行参照。なお,乙75の65頁16~19行,乙76の60頁14~17行にも,それぞれ同旨の記載がある。),これらが必須であるような構成が,各特許の特許請求の範囲外であるとするものではない。

このように,上記各判決は,本件特許1,3,4における特許発明の技術的範囲が,上記①及び②によって限定されるものとしているわけではなく,いずれにしても,被告の上記主張は理由がない。

ウそうすると,被告製品は,本件特許1,3,4の各技術的範囲に属することになる。


(3) 被告は,被告製品の栓(焼結ベント)72とソケット71とは,人間の手で取り外しができるものではなく,焼結ベント72は本件特許発明5-1の構成要件5-1Fの『着脱可能な栓』には相当しない旨主張する(なお,被告は,この点以外,被告製品ないし被告現製品が本件各特許発明5の構成要件を充足していることにつき,争っていない。)。


しかし,『着脱可能』という文言の意味につき,『人間の手で取り外しができること』と限定的に解釈すべき根拠はなく,被告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,採用できない。したがって,被告製品は,本件特許発明5-1の技術的範囲に属することになる。

そして,改造後の被告現製品は,規制部材に関しては,被告製品と変わりがない(当事者間に争いがない。)ので,被告製品が本件特許発明5-1の技術的範囲に属するのと同様に,被告現製品もまた,本件特許発明5-1の技術的範囲に属するものというべきである。


(4) なお,原告も認めるとおり,被告現製品は,本件特許1の技術的範囲には属しないものであるが,別紙『改造前後の被告製品対照図』のとおり,ハッチ上の内圧調整用の貫通孔をプラグで塞いであるだけで,これを改造前の被告製品の構成に戻すことは容易であるものと解される。」

27 原判決169頁20行目の「10」を「11」と訂正する。

28 原判決170頁11行目の後に改行して,次のとおり挿入する。



「(3)ア本件特許5に係る明細書(平成20年5月9日付け審決による訂正後のもの。甲47の2参照。)には,以下の記載がある。



『【0005】そこで,本発明者等は,容器内に圧力を加えることで保持炉に溶融金属を供給したり,容器内を減圧することで容器に溶融金属を吸引することが可能な差圧式の溶融金属供給システムを提唱している。このような差圧式の容器を採用することで,安全性や作業性が向上するばかりか,より細やかな供給サービスが可能となる(例えば,特許文献1参照)。

【0007】【発明が解決しようとする課題】例えば上記特許文献1に記載された容器を運搬するような場合,加給器が接続される孔から溶融金属が漏れ出ないようにこの孔を塞ぐ必要がある。

【0008】しかしながら,このよう孔を塞いで容器を密閉した場合には,容器内の気体が温度上昇により膨張し,溶融金属吐出用の配管から不意に溶融金属が吐出する,という問題が生じた。容器のライニングの乾燥が不十分な場合にはこのような問題はさらに顕著なものとなる。

【0009】本発明は,かかる事情に基づきなされてもので,溶融金属が漏れ出ないように貫通孔を塞ぐことができ,しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止することができる溶融金属供給用容器を提供することを目的としている。


【0013】本発明では,貫通孔に通じる第2の流路に介在され,気体を通過させ,かつ,溶融金属の通過を規制する規制部材を設けた安全装置を具備したので,溶融金属が漏れ出ないように貫通孔を塞ぐことができ,しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止することができる。つまり気体の膨張や,水分の蒸発等によって容器の内圧が上昇してしまった場合でも,溶融金属の流路配管,圧力開放管,規制部材,乃至は規制部材を備えた栓により,この圧力は外部へ逃がすことができる。したがって溶融金属が不用意に外部へ漏れでるのを防止することができる。一方,この規制部材を備えた開口部それ自体からも溶融金属が漏れ出るのを防止することはない。これは焼結金属やセラミクスファイバーの成型品等の規制部材が,気体に対しては通過するものの,溶融アルミニウム合金などの溶融金属に対しては十分大きな抵抗になるからである。また細孔やオリフィスの場合には,溶融金属がこの孔を通過しようとするときに熱を奪われて固化し,固化した金属自体が溶融金属のさらなる流通を規制する。このような規制部材乃至は安全装置は熱容量及び表面積が大きい方が好ましい。これはこの安全装置を溶融金属が流通しようとした場合に,熱容量が大きいほど溶融金属が冷えて固まりやすく,表面積が大きいほど規制部材が受熱した熱量を外部へ放散しやすいからである。

【0014】ここで,規制部材としては,例えば空気は通過させるが,溶融したアルミニウムを通過させない部材であり,例えばセラミックファイバーを成形したもの,焼結金属の成型品,スヤキ,メタルに細い貫通孔やオリフィスを設けた部材を挙げることができるが,本発明の目的を達成できるものであれば,これらに限定されるものではない。いずれにせよ本発明における規制部材は,空気や水蒸気などの気体については十分に抵抗が小さく,溶融したアルミニウム合金等の溶融金属に対しては十分に抵抗が大きくなるようなものである。


【0105】図5は,容器100内の圧力を調整するための圧力調整機構の構成図を示している。レシーバタンク71は加圧気体用配管49aに接続され,この加圧気体用配管49aは切替弁80に接続されている。また,真空ポンプ72も同様に真空用配管49bに接続され,この真空用配管49b切替弁80に接続されている。切替弁80には,フィルタ81を介してエアーホース57の一端に接続されており,エアーホース57の他端は,接続機構73により容器100側の配管66に接続されている。エアーホース57の容器100への着脱は,接続機構73を容器100に対して着脱することにより行われるようになっている。このエアーホース57をフレキシブルとすることにより,例えば容器100の加圧孔に設けられた配管66がどのような方向に向いていてもエアーホース57を配管66に容易に着脱することができるようになる。フレキシブルとするためのエアーホース57の材料としては,例えばゴム等の合成樹脂製のものを用いることができ,更に,高温である容器100に近いので耐熱性のものを用いることが好ましい。


【0106】加圧気体用配管49aには,レシーバタンク71側(上流側)から圧力コントローラ58,圧力計84,リリーフ弁82及びリーク弁86が接続されている。真空用配管49bには,真空ポンプ72側(下流側)から電子圧力コントローラ58,圧力計84,リリーフ弁等93が接続されている。各電子圧力コントローラ58は,上述したように,加圧気体用配管49a内及び真空用配管49b内の圧力をそれぞれ調整し,また,それぞれの配管49a及び49bの連通及び遮断(オン/オフ)をも行うようになっている。リリーフ弁82は,加圧気体用配管49a内の圧力を上記圧力コントローラ58により定められた所定の圧力に保持するようになっている。リーク弁86は,加圧気体用配管49a内の圧力が最高値に達したときに外部へ圧力を開放するようになっている。切替弁80は,エアーホース57と加圧気体用配管49aとの接続及びエアーホース57と真空用配管49bとの接続の切替を行うようになっている。フィルタ81は,加圧気体用配管49a内,真空用配管49b内及びエアーホース57内の不純物を除去するようになっている。


【0107】これらの圧力コントローラ58,リリーフ弁82及び93,切替弁80は電子的に上記した電気制御盤61で制御されるようになっており,上記した手元操作盤60の操作により容器100内の圧力差を調整できるようになっている。また,リーク弁86は例えば自動リーク弁を使用している。

【0108】図5において,40はフォークリフト側の装備を示している。また,77は加圧系,78は減圧系を示している。そして,加圧系77と減圧系78との切り替えは手元操作盤60に設けられたスイッチ(図示を省略)の操作によって行われるようになっている。

【0112】また,本実施形態では,接続機構73とレシーバタンク71との間に,すなわち,フォークリフト40側にリリーフ弁82やリーク弁86等の制御弁を設ける構成としたので,圧力調整のためのこれらの弁を当該容器100ごとに設ける必要がなく,高温の溶融金属を収容する容器100の熱等による弁の損壊及び老朽化を防止でき,溶融金属を取り扱う際の安全性を向上させることができる。

【0132】ハッチ162の中央から少しずれた位置で前記の加減圧用の貫通孔165とは対向する位置には,圧力開放用の貫通孔168が設けられ,圧力開放用の貫通孔168には,リリーフバルブ(図示を省略)が取り付けられるようになっている。これにより,例えば容器100内が所定の圧力以上となったときには安全性の観点から容器100内が大気圧に開放されるようになっている。

【0177 【発明の】効果】・・・本発明によれば,溶融金属が漏れ出ないように貫通孔を塞ぐことができ,しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止することができる。』

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イ乙65(特開2002-254158号公報)には,以下の記載がある。



『【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,例えば溶融したアルミニウムの運搬に用いられる溶融金属供給用容器に関する。


【0009】通常,かかる容器内に溶融金属を供給するに先立ちガスバーナ等の加熱器により容器を予熱している。この予熱は,ハッチを開けて加熱器の一部を容器内に挿入することで行われる。(以下略)


【0056】この配管66の一方には,加圧用又は減圧用の配管67が接続可能になっており,加圧用の配管には加圧気体に蓄積されたタンクや加圧用のポンプが接続されており,減圧用の配管には減圧用のポンプが接続されている。そして,減圧により圧力差を利用して配管56及び流路57を介して容器100内に溶融アルミニウムを導入することが可能であり,加圧により圧力差を利用して流路57及び配管56を介して容器100外への溶融アルミニウムの導出が可能である。なお,加圧気体として不活性気体,例えば窒素ガスを用いることで加圧時の溶融アルミニウムの酸化をより効果的に防止することができる。


【0058】ハッチ62の中央から少しずれた位置で前記の加減圧用の貫通孔65とは対向する位置には,圧力開放用の貫通孔68が設けられ,圧力開放用の貫通孔68には,リリーフバルブ(図示を省略)が取り付けられるようになっている。これにより,例えば容器100内が所定の圧力以上となったときには安全性の観点から容器100内が大気圧に開放されるようになっている。

【0084】更に,蓋2114には,容器本体2110の中心2111からずれた位置2112から容器本体2110外に配設された配管2130が取り付けられている。配管2130の下端2131は容器本体2110内の底部付近まで位置している。この下端2131を開閉自在とする機構を設けても構わない。これにより,容器が倒れたときに湯が流出することを防止することが可能となる。配管2130は,容器本体2110外において,例えば上方に向けて5°~10°程度傾斜する傾斜部2132と,下方に向けて開口する吐出部2133とを有する。』



ウ乙8の1(トヨタ自動車衣浦鋳鍛造部作成の『購入溶湯取鍋湯洩れ火災事故状況』と題する議事録)には,平成14年12月9日午前9時40分ころ,溶解トラックヤード内で,被告が溶湯を取鍋で衣浦工場に運搬する際に,火災事故が発生したこと,同日午後に,衣浦第1ハウス1F大会議室で,会議が行われたこと,事故発生原因につき,『耐火物に含まれた水が,アルミ溶湯の熱により気化』,『密閉容器であるため,気化した文の体積変化が内圧上昇を引き起こし,内部を加圧』,『※結果としては乾燥が不足であったと考えられる』と推定されたことが,それぞれ記載されている。

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エ株式会社ファインシンター作成の「焼結ベントP型」と題するパンフレット(乙8の3参照)には,以下の記載がある。



『◆焼結ベントとは・・・

P型焼結ベントとは,下の写真に見られるように,きわめて多数の平行な直線状の孔をもった焼結品で,粉末冶金独特の溶浸法により製作したユニークな製品です。』

『◆焼結ベントの用途

1.Al合金の重力・低圧鋳造のガス抜き

・焼結ベントは,スリットベントや溝付ベントに比べて空孔率が4~30倍と大きいため,外径が小さくても充分にガス抜きができます。

・Al合金の大型鋳物では,孔径0.5mmで有効径の大きいものが,また小物で鋳込圧の高い場合は,孔径0.3mmが適当です。

・ガス抜き効率がよいので,隅肉の欠落,凸部先端の鋳込み不良等を防止し,細部まで正確な型抜きができます。

・すでに,日本だけでなく世界各国の自動車会社でも,Alの金型鋳造に焼結ベントをご使用いただいております。

2.射出成形のガス抜き(略)

3.樹脂のブロー成形のガス抜き(略)』



オ乙28(特開平10-156513号公報)には,以下の記載がある。



『【0001】【発明の属する技術分野】

本発明は,繊維材を充填した鋳型内を減圧し,溶融金属を前記減圧された鋳型内に注入することにより繊維を含む金属部材を鋳造する装置に於いて,前記減圧用の排気口から繊維材及び溶融金属を流出することを防止するための鋳造用フィルタに関するものである。


【0006】本発明は上記したような従来技術の問題点に鑑みなされたものであり,その主な目的は,繊維(固体)及び溶融金属(液体)は通過させずに気体のみを通過させることができると共に溶融金属が凝固後に容易に離型可能であり,更に溶融金属に侵されない耐熱性を有する再使用可能な鋳造用フィルタを提供することにある。


【0007】【課題を解決するための手段】

上記した目的は本発明によれば,繊維材を充填した鋳型内を減圧し,溶融金属を前記減圧された鋳型内に注入することにより繊維を含む金属部材を鋳造する装置に於いて,前記減圧用の排気口から繊維材及び溶融金属が流出することを防止するための鋳造用フィルタであって,前記溶融金属よりも融点の高い耐熱性金属または合金からなる線径20μm乃至100μmの金属細線を絡ませて焼結させた多孔質材からなることを特徴とする鋳造用フィルタを提供することにより達成される。

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【0011】ここで,フィルタ5は金型内の空気は通過するが,繊維F及び溶融金属Mは通過しないようになっている。しかも,溶融金属に接触していても,溶融せず,酸化もしない耐熱性を有し,更に溶融金属が凝固した後に容易に離型可能となっている。具体的には,例えば,鉄-クロム(20wt%)-アルミニウム(5wt%)からなる線径が20μm~100μmの多数の耐熱性金属細線を絡ませ,焼結した多孔質材からなり,その空孔率を60%以上(~90%)としたものである。(後略)』


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カ乙66(実開昭62-159963号公報)には,以下の記載がある。



『3 考案の詳細な説明

(産業上の利用分野)

本考案は,アルミニウムまたはその合金の精錬を終えた熔湯をるつぼごと搬送用取鍋に移しクレーンにより搬送し低圧鋳造機の保持炉に移送する等の場合に有利に使用される溶融金属の移送装置に関する。その他,溶解炉から精錬用保持炉へ移湯する等の場合にも広般に使用可能である。』(2頁7行~15行)

『移湯を開始させるための減圧用パイプ(13)は頂上部(9a)の受湯側寄りに,第2図に示すように,頂上部(9a)の内径の下面(A)より低い取付位置に接続されて立上り,その上端にストツプバルブ(14),真空ポンプ接続用パイプ(15),真空ゲージ(16)を取付けて構成される。この取付位置で充分に溶湯のサイフオン作用を発起させることができる。移湯を停止させるための大気開放用パイプ(17)は頂上部(9a)に接続されて立上り,その上端にストツプバルブ(18)を取付けて構成される。大気開放用パイプ(17)のこの取付位置は移湯停止の際の湯切れを迅速にする。』(7頁9行~8頁1行)

『またこれらパイプ(13)(17)の上端には空気は流通するが,溶湯は通過させない焼結ベント(20)を接続し上部装備との間に介在させるのがよい。この焼結ベント(20)は減圧時および移湯初期に溶湯が外部に流出することを確実に防止する。』(8頁10行~14行)


『上記構成の本考案装置は次のように操作して使用される。

先づストツプバルブ(14)(18)とも閉として置く。真空ポンプ接続パイプ(15)に真空ポンプを接続して運転を開始する。ストツプバルブ(14)を徐々に開くとサイフオン管内の減圧が始まり,その圧力が80~100mmHgに達するとサイフオン作用による移湯が開始される。移湯側容器(2)内の湯面が低下し始め移湯開始が確認されると減圧用パイプのストツプバルブ(14)を閉とする。この状態で移湯は継続される。移湯を停止するには大気開放用パイプのストツプバルブ(18)を開く。』(8頁15行~9頁7行)

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キ乙67(特開昭61-38767号公報)には,以下の記載がある。



『[産業上の利用分野]

本発明は溶融金属を高速で金型内に射出し,製品に仕上げるダイカスト鋳造方法に関し,特に円形鋳物を鋳造するにあたっての最適ガス抜き取付け位置に関する。』

『[発明が解決しようとしている問題点及び目的]

しかし,上述の方法ではしばしばガスが残存し,鋳巣を発生させている。本発明は投影した形状が略円形状のダイカスト鋳型のガス抜孔の最適位置を明確にし,ガス巻込のない鋳造欠陥のない鋳物を得る鋳型を提供することを目的とする。』

『[作用](中略)8はガス抜で,気体は通過出来るが溶湯は通過出来ない程度の寸法に刻設されている。(中略)ガス抜孔部材としては焼結ベント,押出ピン(2重シェルタイプ及び/又は,外周に溝又は細隙を有するもの)等が有効に使用できる。』

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ク乙68(特開平6-47519号公報)には,以下の記載がある。



『【0001】【産業上の利用分野】本発明は,ゲートピストンの先端面を鋳型の下型表面に当接させて,前記先端面に形成された凹部を前記下型に形成された溶湯通路の一端に被せることにより,その溶湯通路を閉塞する構造を備える差圧鋳造装置に関する。

【0003】【発明が解決しようとする課題】(中略)本発明の技術的課題は,ゲートピストンの内部に所定の厚みで製作された断熱部材を装着し,この断熱部材をゲートピストンの上部でのみ固定することにより,断熱部材とゲートピストンとの熱膨張率の差に起因する力がその断熱部材に加わらないようにすること。また,断熱部材が鋳型の下型上面に当接しないようにすることにより,ゲートピストンが下型の上面に当接する際の衝撃が直接,断熱層に加わらないようにするものである。

【実施例】(中略)

【0007】(中略)さらに上板72uの中心には貫通孔72kが形成されており,この貫通孔72kの部分に溶湯62を通過させることなく気体のみを通過させることができる焼結ベント76が取り付けられている。前記ピン74の内部には軸心方向に排気通路74cが形成されており,この排気通路74cの一端が通気性の前記焼結ベント76を介して前記ゲートピストン72の内部空間に連通している。また前記排気通路74cの他端が図示されていない減圧装置に接続されている。この構造によって,前記減圧装置が作動するとゲートピストン72の内部空間が排気通路74c,焼結ベント76を介して減圧される。』

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ケ乙69(特開平9-103865号公報)には,以下の記載がある。



『【0001】【産業上の利用分野】本発明は,天井部を備える筒状のゲート部材を鋳型に形成された溶湯通路の開口部に被せ,その溶湯通路を塞ぐとともに,そのゲート部材の内側に溶湯を蓄える構造の鋳造装置に関する。

【0003】【発明が解決しようとする課題】(中略)請求項1に記載の発明は,ゲートピストンに対する断熱部材(断熱層)の取付け方法を改良することにより,両者の熱膨張率の差に起因した断熱部材の剥離を防止して,ゲートピストンの耐久性を向上させようとするものである。ここまで

【0007】(中略)さらに上板72uの中心には貫通孔72kが形成されており,この貫通孔72kの部分に溶湯62を通過させることなく気体のみを通過させることができる焼結ベント76が取り付けられている。

【0008】前記ピン74の内部には軸心方向に排気通路74cが形成されており,この排気通路74cの一端が通気性の前記焼結ベント76を介して前記ゲートピストン72の内部空間に連通している。また,前記排気通路74cの他端が図示されていない減圧装置に接続されている。この構造によって,前記減圧装置が作動するとゲートピストン72の内部空間が排気通路74c,焼結ベント76を介して減圧される。』





コ乙80(特開2001-340957号公報)には,以下の記載がある。



『請求項4】請求項1に記載の溶融金属運搬【容器であって,前記本体内の圧力が所定以上となったときに本体内を大気開放する弁を更に具備することを特徴とする溶融金属運搬容器。

【請求項5】請求項1に記載の溶融金属運搬容器であって,前記本体に対して脱着可能で,前記本体内を加圧する手段を更に具備することを特徴とする溶融金属運搬容器。

【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,アルミニウムやマグネシウム,亜鉛等の金属又はこれらの合金の溶融金属を保持及び搬送するための溶融金属の運搬容器,運搬方法及び固持装置に関する。

【0005】本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり,溶湯の運搬の際,溶湯の温度の低下を抑制し,省エネルギ化に寄与する溶融金属運搬容器を提供することを目的とする。

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【0006】また本発明の別の目的は,このような溶融金属運搬容器の運搬に安全かつ好適な溶融金属の運搬方法及び固持装置を提供することにある。


【0018】更に本体2には,図3に示すように容器内部の圧力を測定する圧力計P1,容器内部を大気開放する圧力制御弁V1及び溶湯13の温度を測定する温度計T1が設置され,また容器内を加圧するための脱着可能な窒素ガスボンベ16が設置されている。圧力制御弁V1としてはリリーフ弁や圧力安全装置弁等を使用する。更に本体2には空間8のガス(空気)の圧力及び温度をそれぞれ測定する圧力計P2及び温度計T2,また空間8を減圧するための圧力制御弁V2,容器内を減圧するための脱着可能な真空ポンプ42がそれぞれ設置されている。圧力制御弁V2は圧力制御弁V1と同様にリリーフ弁や圧力安全装置弁等を使用している。なお,空間8のガスを減圧するために真空ポンプ42を併用する。


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【0021】ところで本発明に係る溶融金属は,生成自由エネルギが小さいアルミニウムやマグネシウム等の軽金属を使用するため,酸化しやすく,燃焼や爆発の危険性が高い。従って運搬中の容器内の圧力及び酸素量を所定量に制限しなければならない。そこで本実施形態では,容器内の圧力が上限設定値,本実施形態では0.5気圧~2気圧を超えると圧力制御弁V1により自動的に容器外部へガスを放出することで,運搬容器1の爆発を防止して安全性を確保することができる。また真空ポンプ42により容器内を所定値まで減圧して酸素量を減少させ,その後,容器内を不活性ガスである窒素ガスを投入して加圧することにより,溶湯の酸化を防止して燃焼又は爆発を防止することができる。従って容器内の溶湯の品質を最適に維持して,かつ運搬中の安全性を確保することができる。なお,容器内の窒素ガスによる加圧を大気圧よりも大,例えば1.2気圧としておくことにより外部からの酸素の流入を防止することができる。この場合,圧力制御弁V1の設定値を例えば1.5気圧としておく。


【0030】図7に示す運搬容器50において,本体62の下方には溶湯13を外部から抽入あるいは外部へ抽出するための抽出入口69,及びこの抽出入口69の開閉を行うバルブV3が設けられている。本体62の壁は上壁62a,側壁62b,底壁62cが全て内壁64及び外壁65を有し,その内壁64と外壁65との間には断熱部となる減圧可能な空間8が形成されている。また本体62の内部においては,上壁62a,側壁62b,底壁62cの全てにおいて内壁64の内側に断熱材としての耐火レンガ7が設けられている。

【0031】また本体62には,図1~図4に示す運搬容器1と同様に,圧力計P1及びP2,温度計T1及びT2,圧力制御弁V1及びV2,窒素ガスボンベ16,真空ポンプ42,取っ手9,フォーク挿入部5がそれぞれ設けられている。

【0032】以上のように構成される溶融金属運搬容器50に,溶解炉等により溶解された溶湯を抽入する場合は,バルブV3を開とした後,真空ポンプ42を作動させて外部から抽出入口69を介して抽入し,抽入終了後バルブV3を閉とする。

【0033】また,溶湯を抽出する場合には,V3を開として真空ポンプ42により容器内を加圧して抽出入口69から外部へ抽出する。』

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サ乙73(特開2004-209521号公報)には,以下の記載がある。



『【0004】本発明の目的は,溶融金属が内部の気体の圧によって流れ出ることを防止できる取鍋を提供するものである。

【0005】【課題を解決するための手段】

本発明では,溶融した金属を貯留し,溶融した金属を供給する位置まで搬送され,加圧用の孔を介して外部から内部を加圧することで貯留している溶融金属を内部から外部に導出するように構成した取鍋において,上記の加圧用の孔には栓が設けられるようになっており,上記の栓は取鍋内の空気は外部に排出できるが,取鍋内の溶融金属は外部に導出されないようなフィルタを有していることを特徴とする取鍋を提供している。

【0006】このような栓は例えば孔に金属製配管を取り付け,この配管内にセラミクスファイバーの成型品からなるフィルター部材を詰めたものをあげることができる。この他にも焼結金属,素焼き,などからフィルター部材を構成するようにしてもよい。


【0027】また,ハッチ62の中央,或いは中央から少しずれた位置には,容器100内の減圧及び加圧を行うための内圧調整用の貫通孔65が設けられている。貫通孔65は,例えば溶融アルミニウムの排出時には逆L字状の配管66を介して加圧タンクのエアーホースが接続されるが,搬送時には栓318で塞がれている。栓318は栓は取鍋本体1内の空気は外部に排出できるが,取鍋本体1内の溶融金属は外部に導出されないようなフィルタを有している。このフィルタとしては,たとえばセラミックファイバーや焼結金属の成形品を用いたものが有効であった。』

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(4)ア前記(3)アのとおり,本件各特許発明5は,『孔を塞いで容器を密閉した場合に,容器内の気体が温度上昇により膨張し,溶融金属吐出用の配管から不意に溶融金属が吐出するという問題が生じ,この問題は,容器のライニングの乾燥が不十分な場合にはさらに顕著になるため,溶融金属が漏れ出ないように貫通孔を塞ぐことができ,しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止することができる溶融金属供給用容器を提供すること』を目的とした発明であって,このような新規の技術的課題を解決するために,貫通孔に通じる流路に規制部材を装着するという手段を採ったものである。


イこれに対し,前記(3)イのとおり,乙65の段落【0058】には,圧力開放用の貫通孔にリリーフバルブを取り付けること,これにより,容器内が所定の圧力以上となったときに安全性の観点から容器内が大気圧に開放されるようになることが記載されている。

しかし,上記記載は,『容器内が所定の圧力以上となったとき』,『安全性の観点』との文言から明らかなように,一般論を述べたものにすぎず,このほか,乙65には,圧力上昇に関し,『加圧により圧力差を利用して流路57及び配管56を介して容器100外への溶融アルミニウムの導出が可能』との記載しかなく(段落【0056】),本件各特許発明5のように『孔を塞いで容器を密閉した場合に,容器内の気体が温度上昇により膨張し,配管から不意に溶融金属が吐出する』という,容器内の圧力が上昇する具体的な理由やメカニズムについての記載はない。

また,乙65における『リリーフバルブの設置』(これは,本件特許5に係る明細書の段落【0132】にも記載されている。)と,本件各特許発明5における『貫通孔に通じる流路に規制部材を設けること』では,その課題解決方法も全く異なる。そもそも,本件各特許発明5において,『リリーフバルブ』とは別に『規制部材』が設けられていることからしても,両者の役割が異なることは明らかであって,このように,具体的課題(一般的な安全性確保)もその解決手段(リリーフバルブの設置)も異なる乙65発明から,本件各特許発明5における『貫通孔に接続した配管に規制部材を設けること』を想到するのが容易であるということはできない。


ウ前記(3)ウのとおり,乙8の1には,平成14年12月9日にトヨタ自動車衣浦工場で発生した火災事故の発生原因につき,『取鍋内の水分が,アルミ溶湯の熱により気化』,『密閉容器であるため,気化した文の体積変化が内圧上昇を引き起こし,内部を加圧』,『※結果としては乾燥が不足であったと考えられる』などと推定したことが記載されている。

また,前記(3)エのとおり,乙8の3に添付された焼結ベントのパンフレットには,焼結ベントが,ガス抜き用部材として使用されることが記載されている。

さらに,前記(3)オのとおり,乙28公報には,線径が20μm~100μmの多数の耐熱性金属細線を絡ませ,焼結した多孔質材からなり,繊維(固体)及び溶融金属(液体)は通過させずに気体のみを通過させることができるフィルタが開示されている。

しかし,乙8の1においては,複数の事故発生原因が推定されているものであって,取鍋内の圧力が上昇したことが唯一の原因とされているものではない上,同書面に記載された事項は,トヨタ自動車や被告など,火災事故に関する当事者等限りのものとして,信義則上,第三者にみだりに開示しないとの義務があったというべきであり,そもそも非公知の情報というべきである。

また,乙8の3に添付されているのは,焼結ベントのパンフレットにすぎず,ここに,本件各特許発明5が問題とするような課題は一切示唆されていない。元来,焼結ベントは,同パンフレットの記載からも明らかなように,鋳造,射出成形,樹脂のブロー成形等におけるガス抜き用部材として用いられることが予定されており,本件各特許発明5のように,取鍋の貫通孔に通じる流路に装着することは予定されていなかったというべきである。

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このほか,乙28で開示されているのは,金属部材の鋳造装置におけるフィルタに関する発明で,繊維(固体)及び溶融金属(液体)は通過させずに気体のみを通過させることができ,溶融金属が凝固後に容易に離型可能であり,更に溶融金属に侵されない耐熱性を有する再使用可能な鋳造用フィルタを提供することを課題とするものであって,本件各特許発明5とは,その課題が全く異なる。


本件においては,平成14年12月9日に火災事故が発生したことにより,初めて,加圧式の気体の配管を搬送中に密閉した場合には,容器の内圧が上昇し,溶融金属が供給側の配管から流出するおそれがあることが認識されたものと解されるところ,このような課題を認識しない限り,『貫通孔に通じる流路に規制部材を装着する』との課題解決手段を想起することは困難というべきである。

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エ以上のとおり,乙65を主引例として,乙8の1(ただし,同書面に記載された内容は,そもそも非公知の情報というべきである。),乙8の3添付のパンフレット,乙28公報等を参酌してもなお,解決すべき具体的課題やその解決手段において異なる本件各特許発明5を想到するのが容易であるとはいえない。


(5)ア前記(3)カのとおり,乙66考案は,溶融金属の移送装置に関する発明であって,取鍋をクレーンにより保持炉に移送すること,サイフォン作用を利用して移湯を行うこと,減圧時及び移湯初期に溶湯が外部に流出することを確実に防止するため,減圧用パイプと大気開放用パイプの上端に,空気は流通させ溶湯を通過させない焼結ベントを接続することが,それぞれ記載されている。このように,乙66考案と本件各特許発明5とは,焼結ベントないし規制部材の設置という,課題解決手段において類似する。


しかし,乙66考案における焼結ベントは,あくまで,減圧時や移湯初期において溶湯が外部に流出しないようにすることを目的として設置されており,本件各特許発明5のように,『孔を塞いで容器を密閉した場合に,容器内の気体が温度上昇により膨張し,溶融金属吐出用の配管から不意に溶融金属が吐出するという問題』を意図していない。

また,乙66考案では,サイフォン作用を利用して溶湯を供給しており,本件各特許発明5とは,その供給方法において異なる。

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このように,本件各特許発明5とは,課題や構成が全く異なる乙66考案における『焼結ベント』を,乙65発明に組み合わせる動機付けはないというべきである。イ前記(3)エ,キないしケのとおり,乙8の3,乙67ないし69には,焼結ベントがガス抜き用部材として使用できることが記載されており,被告は,これを乙65発明に適用する動機付けがある旨主張する。

しかし,前述のとおり,乙8の3に添付されているのは焼結ベントのパンフレットであって,ここに,本件各特許発明5が問題とするような課題は一切示唆されていない。また,乙67ないし69は,いずれも,鋳造の分野で焼結ベントを用いることを開示するにすぎず,『ガス巻込のない鋳造欠陥のない鋳物を得る鋳型を提供すること』(乙67),『断熱部材とゲートピストンとの熱膨張率の差に起因する力がその断熱部材に加わらないようにすること』,『断熱部材が鋳型の下型上面に当接しないようにすることにより,ゲートピストンが下型の上面に当接する際の衝撃が直接,断熱層に加わらないようにする』こと(乙68),『熱膨張率の差に起因した断熱部材の剥離を防止して,ゲートピストンの耐久性を向上させ』ること(乙69)を,それぞれ目的とするものであって,これらの発明を,乙65発明に適用すべき動機付けは全くないといわざるを得ない。

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ウ前記(3)コのとおり,乙80は,アルミニウムやマグネシウム等の軽金属が酸化しやすく,燃焼や爆発の危険性が高いことに着目し,容器の爆発を防止して安全性を確保することを課題とするものであって,同課題は,抽象的に安全性の確保という観点では本件各特許発明5の課題と類似するといえなくもないが,具体的なレベルでは異なる。

また,乙80では,上記課題を解決するために,容器内を所定値まで減圧して酸素量を減少させ,その後,不活性ガスである窒素ガスを投入するという手段を採っており,規制部材を設けて圧力上昇を防ぐという本件各特許発明5の解決手段とは大きく異なる。

以上からすれば,乙80を参酌しても,乙65発明から本件各特許発明5が容易想到であるとはいえない。

エこのように,乙65発明を主引例として,乙66考案,乙8の3,乙67ないし69,乙80をすべて参酌しても,なお,解決すべき具体的課題やその解決手段において異なる本件各特許発明5が容易想到であるとはいえない。

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(6) 前記(3)サのとおり,乙73には,本件各特許発明5とほぼ同一内容の発明が記載されているといえる。


しかし,乙73にかかる特許の出願日は,平成14年12月28日であり,これは,本件特許5の出願日(基準日)と同一日である。そして,乙73の特許出願人である有限会社杉浦商店や発明者であるBが,同日以前に,乙73にかかる発明の内容を熟知していたことは当然であるとしても,それによって,同発明とほぼ同一内容である本件各特許発明5について,公然知られた状態であったとは到底いえない。

したがって,乙73に基づき,本件各特許発明5が新規性に欠けるとの被告の主張は理由がない。」

29 原判決170頁12行目の「11」を「12」とする。



30 原判決173頁15行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。


「なお,被告は,乙8の2対策書添付の見取図に寸法等の記載がないことや,焼結ベントのサンプルの取寄せや具体的に使用する焼結ベントの効果試験が後日されたという事実は,実施品の開発が後日行われたことを示すにすぎない旨主張する。しかし,乙8の2対策書添付の見取図は,単に寸法の記載がないだけでなく,その記載全体が極めて大まかであることからして,抽象的なアイディアを記載したにすぎないといわざるを得ず,当業者がこれに基づいて最終的な製作図面を作成しその物を製造することが可能な状態には到底達しておらず,やはり,この段階で,発明が完成したということはできない。」



31 原判決174頁23行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。



「ウ確かに,日本坩堝の常務取締役であったCの報告書(乙59)には,「『焼結ベント』を使用することについては,平成14年12月9日の火災事故直後の対策会議において提案された対応策の1つで,この会議に参加した中央窯業のD及び被告のEによれば,トヨタ自動車衣浦工場のAが最初に言い出した」旨の記載がある。

しかし,これは,あくまで伝聞にすぎない上,前記アのとおり,甲19,20の議事録には,原告の社員が,同月10日,12日の打合せ時に,トヨタ自動車側に対し,『取鍋転倒時等には,ポート先端に焼結金属や金網などで熱容量が大きいものを取り付け,気体を通し溶湯は固まって止まるようにする』と回答したことが記載されている。

以上からすれば,少なくとも,本件各特許発明5に相当する技術的手段につき,『被告及び同月9日の会議に参加した各社の従業員が共同で発案した』ことを認めるに足りる証拠はなく,同発明につき先使用権を主張する被告において,この点に関する立証に成功していない。」

32 原判決175頁3行目の「12」を「13」とする。

33 原判決179頁14行目の「13」を「14」とする。

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34 原判決184頁19行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。



「ウ原告は,平成15年2月22日に,乙9図面に基づく試作品につき結露テストが行われており,その後もさらにテストが行われたことが推認されるので,『事業の準備』といえる状況が出現するのは,早くとも同日の結露テストの後である旨主張する。

しかし,必ずしも結露テストを経なければ『事業の準備』に至っていないとはいえない上,乙29の1,29の2上の写真からすれば,上記結露テストで用いられた取鍋は,単なる試作品ではないものと認められ,原告の上記主張は採用できない。」

35 原判決185頁3行目を,「15 争点7-1(被告製品及び被告現製品の意匠は本件意匠に類似するか)について」と改める。

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36 原判決185頁3行目の後に行を改めて,以下のとおり挿入する。



「(1) 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)とされている。

そして,意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,目的,用途,使用態様,さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である。

なお,意匠の新規性(意匠法3条1項)及び創作非容易性(同条2項)という創作性の登録要件を充足して登録された意匠の範囲については,その意匠の美感をもたらす意匠的形態の創作の実質的価値に相応するものとして考えなければならず,公知意匠を参酌して,登録意匠が備える創作性の幅を検討する必要があるため,公知意匠を参酌することの必要性は,意匠法41条によって特許法104条の3が準用されるようになった後においても,完全に失われてはいないというべきである。

もっとも,意匠とは,様々な要素の組合せ全体から構成される全体としての視覚情報が最終的には意味を有するものであり,一部に公知意匠が含まれても,他の要素と併存することで異なる意匠を構成することも想定されるため,要部認定に際して,周知又は公知の意匠を参酌するものの,周知又は公知の意匠が包含されることをもって,直ちにその部分が,要部から排除されるべきものとまではいえない。以上を前提として,以下,本件意匠と被告意匠の類否を検討することとする。」

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37 原判決185頁4行目の「(1)」を「(2)」と訂正する。


38 原判決186頁16行目の「(2)」を「(3)」と訂正する。

39 原判決186頁18行目の「(3)」を「(4)」と訂正する。

40 原判決188頁4行目の「ことは,」から,同頁10行目の「あり得るのであり,」を削除し,「。」を加える。

41 原判決189頁15行目の「(4)」を「(5)」と訂正する。

42 原判決193頁11行目の「(5)」を「(6)」と訂正する。



43 原判決193頁14行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。



「そして,改造により,被告現製品は被告製品とは異なるものであるが,単にハッチ上の内圧調整用の貫通孔をプラグで塞いであるだけで,全体としての美感に影響を与えるような改造ではないものと解されるから,被告現製品にかかる意匠も,本件意匠と類似し,本件意匠に係る物品と同一の取鍋に本件意匠と類似する意匠を使用する被告の行為についても,本件意匠権を侵害する行為であると認められる。」

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44 原判決193頁15行目から195頁26行目までを以下のとおり改める。




「16 争点7-2(本件意匠は公知意匠から容易に創作し得るか)について



(1) 被告は,本件意匠につき,公知意匠1(乙1参照)及び公知意匠2(乙2の6参照)に基づき,容易に創作できた意匠であり,意匠法3条2項に違反して登録されたため,無効であると主張するため,以下,検討する。

(2) 意匠法3条1項3号は,意匠権の効力が,登録意匠に類似する意匠すなわち登録意匠にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美感を生ぜしめる意匠にも,及ぶものとされている(同法23条)ところから,上記のような物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とするのに対し,同法3条2項は,物品の同一又は類似という制限をはずし,社会的に広く知られたモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするものであって,両者は考え方の基礎を異にする規定であると解される(最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照)。

本件においても,以上に示された基準に沿って,本件意匠が公知意匠1及び2から容易に創作し得たか否かにつき検討する。

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(3) 証拠(乙1,乙2の6)によれば,以下の事実が認められる。




ア公知意匠1について



公知意匠1は,乙1の第6図に掲載された『取鍋』の意匠であって,その形状は,以下のとおりである。なお,同図は断面図であるが,乙1の『発明の詳細な説明』の欄の『実施例』の項に,第1図に関して『2は開口部が密閉可能な円筒形の取鍋』との記載があり,同記載に照らせば,取鍋の一例を示す『縦断正面図』として,第1図と同じ符号を用いて説明された第6図も,取鍋本体が円筒形で,大蓋,小蓋も円形であると解するのが合理的である。



a) 基本的な構成態様



有底円筒形状の取鍋本体と,取鍋本体を覆う円形の大蓋と,大蓋の中心に設けられた円形の小蓋と,取鍋本体の側面に設けられ,その外周から上方に向けて徐々に外側に突き出した形状の突出し部からなる。

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b) 各部の具体的な態様



① 取鍋本体は,高さと径がおよそ等しく,上端にフランジを有し,下面に,断面ロ字状のチャネル材が2本,両端が取鍋本体からわずかにはみ出す程度の長さとして,やや間隔を空けて平行に配されている。

② 大蓋は,径が取鍋本体と同径の円盤状で,下端にフランジが設けられて,閉蓋時に取鍋本体のフランジと重なり合う。


③ 小蓋は,径が大蓋径の2分の1弱で,厚みが大蓋とほぼ等厚の円盤状で,上面に取っ手が設けられている。

④ 突出し部は,概略円筒形と認められる筒体が,その外側辺を取鍋本体の側面のほぼ中間の高さ位置として,約30度の斜め上向きで外方に突き出す態様で取り付けられているもので,正面視がおよそ縦長逆三角形状を呈し,その外側辺が,横断方向に,略半円状の曲面をなしていると認められ,上端が大蓋の高さとほぼ等しい高さにおいて,傾斜方向に対して垂直に横断されている。



イ公知意匠2について


公知意匠2は,乙2の6の第1図に掲載された『溶湯運搬炉』の意匠であって,乙2の6の第1図及びその他の記載からすれば,その形状は以下のとおりである。

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a) 基本的な構成態様


上面が塞がれた有底四角筒状の運搬炉本体と,上面中央に設けられた円形の小蓋と,本体の一方の側面に,側面全体が底部付近から上方に向けて徐々に外側に突き出す態様で形成された突出し部と,この突出し部の上面に取り付けられ,先端部が下方に屈曲した配管を備えている。

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b) 各部の具体的な態様



① 突出し部は,運搬炉本体の一方の側面の全幅において,正面視が縦長逆三角形状をなす態様で形成されたもので,外側に当たる辺(傾斜辺)が運搬炉本体のほぼ底部位置から,約30度の斜め上向きに外方に突き出たものであり,上端が運搬炉本体の上端よりやや低い位置において,傾斜方向に対して垂直の斜め上向きに閉じられて,頂面が矩形の傾斜面を形成するもので,配管が,この傾斜面に取り付けられている。

② 配管は,全体(運搬炉の内側部分は除く。)が略逆U字状をなす態様で取り付けられたもので,具体的には,突出し部の傾斜と同じ角度で短く伸ばされた後,外方に90度折曲されてフランジが設けられて中間管に連結され,中間管は水平方向に対してやや下向きに短く伸び,再度,フランジを介して曲管に連結され,曲管は下降部分がやや長く,先端が,運搬炉の側面から,運搬炉本体の横幅の1/2程度外方に突出した位置において,運搬炉の高さの中間当たりで下向きに開口している。
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(4) 以上を前提とすれば,本件意匠と公知意匠1とは,突出し部におけるパイプ部材の有無,配管の有無の点で異なっており,これらの相違は,取鍋全体からみても,取鍋における溶湯が導出される部分,すなわち,看者(当業者)からその部分により美感を異にすると認識され,注目される部分におけるものと認められる。しかるに,公知意匠2も,パイプ部材に当たる部分がなく,その配管の形状もその全体的な傾斜具合が概ね下向きである点において,概ねやや上向きに横の方向に広がっている本件意匠と大きく異なるものである。そうすると,このような公知意匠2を公知意匠1に適用したとしても,上記のような看者に注目される部分における形状差が存在し,着想の新しさないし独創性があるというべき本件意匠につき容易に創作できるとはいえない。

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(5) これに対し,被告は,公知意匠1の突出し部の位置を,取鍋本体の側面の高さの中ほどから,できるだけ底部に近い位置に変更した上,公知意匠2の一部分(配管)を取り出し,これを公知意匠1の突出し部の先端に組み合わせることによって,本件意匠を容易に創作し得る旨主張する。

しかし,意匠の構成要素を他の意匠に単に置き換えるか,複数の意匠をそのまま組み合わせることにより,当該意匠と同一又はほぼ同一の形状の意匠を容易に創作できる場合には,意匠の創作容易性が肯定されるとしても,被告の上記主張は,もはやそのような範囲を超えているから,本件意匠は,公知意匠1,2を組み合わせることにより容易に創作し得るとはいえない。

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(6) このほか,被告は,傾動式取鍋にかかる公知意匠1を加圧式取鍋において利用するために,機能的に必要な修正を加えると,必然的に本件意匠に類似する旨主張する。

しかし,そもそも意匠法3条2項の創作容易性においては,物品の類似性を問題としないことをも考慮すれば,機能的な観点に基づく被告の上記主張は妥当でない上,仮に,傾動式取鍋から加圧式取鍋に変更する上で,突出し部の位置を下げたり,配管を設ける必要があるなど,必然的な変更部分があるとしても,その変更において,デザイン面で創作性を発揮する余地は十分にあるというべきで,傾動式取鍋にかかる公知意匠1を加圧式取鍋において利用しようとした場合,必然的に本件意匠と類似の意匠となるものではない。

(7) 以上のとおり,本件意匠の創作容易性に関する被告の主張は採用できない。

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17 争点8(被告の過失の有無)について


確かに,特許法103条においては,特許権の侵害者の,侵害行為についての過失が推定されているが,これはあくまで推定規定であり,無過失責任を定めるものではない。

しかし,他方で,特許権者は,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とする場合に限り,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができ,その場合,同訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならないとされている(特許法126条1項,4項参照)。

そうであれば,訂正は,当初の特許請求の範囲を拡張するものではなく,第三者に不測の不利益を及ぼすことはない。

したがって,本件特許1,3,4につき複数回の訂正がされたこと自体によって,侵害者たる被告につき推定される過失が覆滅されるとはいえない。


このほか,被告は,自らは被告製品を使用しているだけで生産をしていないとも主張するが,この点は,仮に違法性の程度に影響を与えるとしても,過失の有無に影響を与える事実とはいえない。

以上のとおり,自らに過失がない旨の被告の主張は理由がない。


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18 争点9(損害)について



(1) 特許権者は,故意又は過失により特許権を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる(特許法102条3項)。

被告は,被告製品を使用して本件各特許発明1及び5を実施しているのであるから,原告は,本件各特許発明1及び5の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を被告に請求することができる。

なお,本件特許3,4についても,訂正の結果有効となっており,前記10(2)のとおり,被告製品は,これらの特許を侵害していたことになるが,これらは,いずれも『大小2枚の蓋を備え,小さい方の開閉可能な蓋に貫通孔を設ける』という,本件特許1と同様の構成を採用することで,初めて有効(進歩性あり)とされたものであって,有効とされた根拠において実質的に本件特許1と変わらないといえる。


したがって,原告の損害との関係では,本件特許1の侵害による損害額を算定することで,本件特許3,4についても折込み済みとみるべきであって,本件特許1の侵害とは別個独立に本件特許3及び4の侵害による原告の損害額を認定算出することは,判決の結論に影響がないと認められるので,これを行わないこととする。

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(2)ア被告は,平成18年1月1日以降の期間の原告の損害賠償請求につき,平成21年2月19日付け訴え変更申立書が送達された日(平成21年2月23日)までに,消滅時効が完成した部分がある旨主張し,消滅時効の抗弁を出している。

本件のように,特許権侵害行為が継続して行われ,そのために損害も継続して発生する場合においては,損害の継続・発生する限り,日々新しい不法行為に基づく損害として,各損害を知った時から,別個に消滅時効が進行すると解されるところ,原告は,平成18年1月1日以降の損害につき,平成21年2月19日付け訴えの変更申立書を提出するまでの間,損害の発生を知りつつ,請求しなかったことになるから,平成18年1月1日から同年2月23日までの損害に対応する賠償請求権は,時効により消滅したことになる(当裁判所は,必ずしもこのような見解を是としているわけではなく,権利者が将来にわたって差止請求をしながら,既経過分の実施料相当額の請求のみにとどめるのは,将来分の請求権適格性に疑問があることによるものと思われるところ,このような場合には,未経過分についても,事情に変更がない限り,訴訟係属により時効管理がされているものと解する余地がある。しかしながら,本件では,原告が,被告による消滅時効の援用があれば,当然に時効消滅するものと解して予備的請求を設定している経緯にかんがみ,上記のように判断したものである。)。

イ原告は,これに備えて,予備的に,同期間の損害(損失)につき,不当利得に基づく返還請求をしている。

特許権は民法703条にいう『財産』に該当するところ,無断実施者がこれによって『利益』を得て特許権者たる他人に損失を及ぼしている場合には,不当利得として同利益を返還すべき義務を負うといえる。もっとも,不当利得返還請求については,特許法102条の規定の適用はなく,専ら民法703条,704条の規定に基づくことになるが,その際の不当利得の額(実施料相当額)自体については,特許権侵害に基づく損害賠償の場合と特段の違いはない。


ウこれに対し,被告は,自らは善意の受益者であるから,少なくとも本判決確定までの間は,利息を支払う義務を負わない旨主張する。確かに,民法703条ないし704条に基づく不当利得返還請求において,利得者の悪意が推定されるものでもなく,その他,本件特許1,3,4,5に関して,特許庁でも,少なくとも一部につき無効と判断され,訂正が繰り返されたこと等の本件での諸事情を考慮すれば,被告が,本件での特許権侵害につき悪意であるとまでは認められない。

したがって,上記の損害賠償請求権が時効消滅した期間に対応する不当利得額については,利息は発生しない。

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(3) 本件では,原告は,被告に対し,特許法102条3項及び意匠法39条3項に基づき,実施料相当額の損害賠償を求めるものであるが,本件特許権の対象物である取鍋に関する取引事例がほとんどないこともあり,市場における実際の取引事例を比較分析することなどによっては,実施料相当額を算出することはできないため,本件における実施料相当額を求めるには,被告が本件特許権の使用によって実際に受けたと考えられる利益を基にして算出するほかに方法はない。

この点について,原告は,被告が取鍋の転売により利益を得ている事実はなく取鍋を用いて溶融アルミニウムを納入販売していることを考えると,溶融アルミニウムの売上額を基準として算出すべきであると主張するものであり,侵害製品そのものの売上げではないため,結果として,過大な金額になることが予想されるものの,原告主張の算出方法には,試算値を算出する方法としては,相応の合理性があるということができる。

他方,被告は,加圧式取鍋である被告製品ないし被告現製品を使用して,溶融アルミニウムを衣浦工場に納入販売することにより,利益を得ているものではあるが,本件各特許は,『方法』の発明ではなく『物』の発明に係る特許であって,被告製品ないし被告現製品の『使用』とは,溶融金属の『運搬及び溶融金属の供給』に用いることにすぎないとし,その使用に係る『利益』は,被告製品ないし被告現製品の購入額・修理額に基づいて計算することができると主張するものであり,結果として,侵害製品を用いた場合の溶融アルミニウムの売上額を基準にする場合と比較すると,過小な金額になることが否めないものの,被告主張の算出方法にも,実施料相当額を算出する場合に斟酌する試算値を算出するものとして,若干の合理性があるということができる。

(4)ア証拠(甲28,44,51)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成15年5月12日ころから平成18年8月ころまでは被告製品を用いて,同月ころから現在までは被告現製品を用いて,それぞれ溶融アルミニウムをトヨタ自動車の衣浦工場に納入しており,平成15年(5月から12月まで)は8000トン,平成16年は1万4610トン,平成17年は1万3960トン,平成18年は6300トン,平成19年は8500トン,平成20年は1万1700トン,平成21年は8910トンの納入をしたこと,溶融アルミニウムの納入価格は,1キログラム当たり,①平成15年5月から同年12月までが平均187円(1円未満の端数は切捨て。以下同じ。),②平成16年1月から同年12月までが平均200円,③平成17年1月から同年12月までが平均206円,④平成18年1月から同年12月までが平均296円,⑤平成19年1月から同年12月までが平均296円,⑥平成20年1月から12月までが平均312円,⑦平成21年1月から12月までが平均178円であることが認められる。

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イ以上認定判示したところ(一部弁論の全趣旨によって認められる事実を補充)によれば,次のとおりいうことができる。

正確な時期はやや不明確ではあるが,被告が,平成18年7月31日までは被告製品を使用し,同年8月1日以降は被告現製品を使用して,それぞれ溶融アルミニウムを衣浦工場に納入したものと解される。

以上を前提として,溶融アルミニウムの納入価格総額を計算すると,別紙『裁判所認定損害額①』のとおり,平成15年5月12日から平成18年7月31日までが83億7687万6712円,同年8月1日から平成21年12月31日までが85億3406万3288円となる。

被告が,衣浦工場に溶融アルミニウムを納入するに際し,納入先であるトヨタ自動車の承認が必要であるところ,平成14年12月の溶湯洩れ事故の影響もあり,本件各特許発明5の安全装置(焼結金属等を用いた気体のみを通過させる規制部材 に関する発明であって,容器内の過度の圧力の上昇を防止するもの)を備えた被告現製品又はこれと同等のものを使用する必要性が高いものと解される。

他方で,被告は,平成18年8月ころまでは,本件各特許発明1の構成(加圧式取鍋において大小2枚の蓋を設け,小さい方の開閉可能な蓋に内圧調整用の貫通孔を設けるもの)を備えた被告製品を使用していたものであるが,同月ころ以降,本件各特許発明1の構成を必ずしも備えていない被告現製品を使用しているにもかかわらず,これにつきトヨタ自動車から強い異議があったとは窺われない。そして,本件各特許発明1の目的が『内圧調整に用いるための配管や孔の詰まりを未然に防止する』というものであって,必ずしも事故の防止に直結するようなものでないことをも考慮すれば,被告が衣浦工場に溶融アルミニウムを納入するに際し,本件各特許発明1の構成を備えた取鍋を使用する必要性は,必ずしも高くはないというべきである。

このほか,本件各特許発明1及び5は,加圧運搬式取鍋の全体的な構成に関する発明ではなく,部分的な改良発明であること,さらに,原告と被告は衣浦工場において競業関係にあり,被告が溶融アルミニウムを納入することができないことになれば,原告が溶融アルミニウムを納入することが可能な状況であること(この点は特許法102条3項の本来想定する事情ではないためここでは参考として斟酌する にとどめる。)等の取引関係の実情及び本件各特許発明1及び5の内容に照らせば,溶融アルミニウムの売上額を基準にした場合,本件各特許発明1及び5の実施料率として普通に考えられるものとしては,本件各特許発明1及び同5を併せて,溶融アルミニウムの納入価格の0.6%という試算値になる(その内訳は,本件各特許発明1は0.2%,本件各特許発明5は0.4%となる。)。

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ウ本件意匠権侵害について,被告が,被告意匠を用いた被告製品ないし被告現製品を使用しなければ,トヨタ自動車の衣浦工場に溶融アルミニウムを納入することができなかったことを認めるに足りる証拠はないが,被告が,被告意匠を用いた被告製品ないし被告現製品を使用することにより,納入をスムーズに行えたことは,容易に推測可能である。

このほか,本件意匠が加圧式取鍋全体に係る意匠であること等を考慮すれば,本件意匠の実施料率として普通に考えられるものとしては,溶融アルミニウムの納入価格の0.1%という試算値になる。

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エ以上のとおり,溶融アルミニウムの売上高を基準として,試算値として,原告の損害額ないし損失額を計算してみると,被告製品についての実施料率が合計0.7%,被告現製品についての実施料率が合計0.5%であるので,別紙『裁判所認定損害額①』のとおり,平成15年5月12日から平成18年7月31日までが5863万8137円,同年8月1日から平成21年12月31日までが4267万0316円となり,合計は1億0130万8453円となる。

(5) 他方で,取鍋の購入・修理価格に基づく計算方法についてであるが,証拠(乙61の1ないし61の19,乙81の1ないし81の44)から認められる被告の取鍋の購入価格・修理価格を前提とすると,別紙『裁判所認定損害額②』のとおり,平成15年5月12日以降(原告が損害賠償の対象としている部分)から平成18年7月までの取鍋の購入価格,修理・改修費用は,合計1億7185万6523円となり,同年8月以降平成21年12月までの分は合計1億7929万3576円(なお,被告現製品においては実施していない本件特許1についての部分を除くために,7分の5を乗じると,1億2806万6840円)となる。

そして,被告は,本件特許1,5及び本件意匠の実施料率が合計2%であることを自認しているので,これを前提とした場合,この算出方法による原告の損害額ないし損失額の試算値は599万8467円となる。

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(6) 以上,2つの方法で計算した試算値を比較すると,


原告の主張する溶融アルミニウムの売上額による算出方法は,特許法102条3項等が想定する実施料を算出する方法として普通に用いられるものではなく,このため実施料率自体は通常の場合の下限値を用いたものの,それでもなお,同方法によって算出された金額は真実の数値を相当程度上回っているものと考えられる。他方,被告の主張する取鍋の購入価格・修理価格による算出する方法も,同方法によって算出された金額は真実の数値とは大きく懸絶しているものと考えられる。

両者の試算値には誤差の範囲を超えた大きな相違がある。その原因は,算出の考え方,前提事実が全く異なっていることを考えると,当然の結果であり,両者を単純平均した数値を採用することは相当であるとはいえない。

しかも,当事者は,それぞれ,自己の主張する算出方法が正当であると主張しており,当裁判所が独自に第三の算出方法を案出することも,これを相当とする状況にはない。


そこで,当裁判所としては,民訴法248条の趣旨にかんがみ,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を参酌し,原告が主張した,溶融アルミニウムの売上高を基準とする算出方法に基づいて得られた試算値を出発点として,公平の見地から,これに0.5を乗じた金額をもって,実施料相当額であると認定するものである。

そして,本件では,原告が,侵害期間を4つに分けて請求し,それぞれにつき遅延損害金を求めていることに加え,被告が取鍋を改造したことにより,平成18年8月1日を境として侵害の態様が変化していることから,平成15年5月12日から同年12月31日まで,平成16年1月1日から平成17年12月31日まで,平成18年1月1日から同年7月31日まで,同年8月1日から平成20年12月31日まで,平成21年1月1日から同年12月31日までの損害額をそれぞれ計算すると,別紙『裁判所認定損害額③』のとおり,それぞれ523万6000円,2029万2160円,379万0908円,1737万0208円,396万4950円となる。

ただし,平成18年1月1日から同年2月23日までの期間の損害額である96万5609円については,上述のように,消滅時効が完成しているとされるため,損害賠償請求としては認められないが,附帯控訴人の予備的請求である不当利得の返還請求としては理由がある。なお,悪意の受益者としての利息の請求は認められないが,催告された日の翌日(平成21年2月24日)から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める請求としては理由がある。

なお,原告は,損害賠償請求における予備的主張として,取鍋の購入価格及び修繕費用に基づく請求もしているが,その前提となる取鍋の価格や修繕費用,修繕の時期等について証拠上の根拠がなく,採用できない。

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19 差止め等の必要性について



被告が,本件特許1,5及び本件意匠につき,侵害の事実を争っていることに加え,本件特許1に関しては,設計変更により,被告現製品では侵害していないとはいえ,ハッチ上の内圧調整用の貫通孔をプラグで塞いであるだけで,これを元の構成に戻すことが容易であると解されることからすれば,侵害のおそれはあるといわざるを得ず,差止め,侵害品等の廃棄等の必要性はあるといえる。」



45 原判決196頁1行目から11行目までを削除する。




46 結論



以上のとおりであるから,原告の請求は,本件特許1及び5に係る特許権及び意匠権侵害に基づく差止め及び侵害品等の廃棄等を求める部分は理由があり,この点についての原判決は正当であるが,損害賠償額については,原判決が認容した額を下回る金額(附帯控訴に基づき,期間的には原判決の対象とした期間を超える部分を含む。)である4968万8617円及び内金523万6000万円に対する平成16年12月1日から,内金2029万2160円に対する平成18年5月26日から,内金2019万5507円に対する平成21年2月24日から,内金396万4950円に対する平成22年1月16日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり,その余の主位的請求は理由がなく,予備的請求(不当利得返還請求)については,96万5609円及びこれに対する訴えの変更申立書の送達日の翌日である平成21年2月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり,その余は理由がない。

よって,原判決を以上のとおり変更することとし,仮執行の宣言は金銭の支払いを命じた部分につき付することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部裁判長裁判官塚原朋一裁判官東海林保裁判官矢口俊哉

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Last Update: 2011-01-24 21:15:07 JST

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