2011年4月14日木曜日
特許:【実施可能要件】「判断基準」:(知財高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行ケ)第10247号 審決取消請求事件))
(知財高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行ケ)第10247号 審決取消請求事件))
平成22(行ケ)10247 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年04月14日 知的財産高等裁判所
第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記
2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,同請求は
成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のと
おり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
2 取消事由(本願発明1の実施可能要件違反の認定判断の誤り)について
実施可能要件の意義
法36条4項は,「発明の詳細な説明は,…その発明の属する技術の分野におけ
る通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記
載しなければならない」と規定している(以下「実施可能要件」ということがあ
る。)。
特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につ
き独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を
一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定
する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることが
できる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていない
ことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くこ
とになるからであると解される。
そして,本件のような物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等
をすることをいうから(特許法2条3項1号),物の発明については,その物を製
造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明
細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造するこ
とができるのであれば,実施可能要件を満たすということができる。
【縮小版】
「実施可能要件の意義」
「法36条4項は,「発明の詳細な説明は,…その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない」と規定している(以下「実施可能要件」ということがある。)。
特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。 そして,本件のような物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号),物の発明については,その物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,実施可能要件を満たすということができる。」(知財高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行ケ)第10247号 審決取消請求事件))
(知財高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行ケ)第10247号 審決取消請求事件))
http://chizaibengoshi.appspot.com/20110419132527.html
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特許:【相違点認定,容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行ケ)第10016号審決取消請求事件))
(知財高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行ケ)第10016号審決取消請求事件))
平成22(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年04月14日 知的財産高等裁判所
第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係
る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな
いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,
下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
しかしながら,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸は,あくまでもホイー
ルとガラス面とのスリップを防止する目的のために設けられたものである以上,微
細な山と谷とからなる凹凸にすぎないことについては,原告も争うものではない。
したがって,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸によっては,ガラス表面
にスリップを防止することができる程度の打点が加えられることはあっても,ガラ
ス板に板圧を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる程度の打点衝撃
を与えるものではないことは,引用例1の記載からも明らかである。原告の主張は,
引用発明1の突起の形状や大きさ,作用効果を無視したもので,相当ではない。
また,引用例1に示された図2は,引用発明1の刃先に形成された条痕によって
生じる,ホイールのスリップを防止するという効果は,ホイールにあたかも鋸の刃
先を形成した場合と同等の効果を有することを模式的に説明するために作成された
図にすぎず,引用発明1のホイールの刃先に,同図のような刃先が実際に形成され
ているわけでもない。
したがって,当業者は,図2をもって,「打点衝撃を与える所定形状の突起」に
係る示唆を与えられるものということはできない。原告の主張は,採用できない。
ウ 以上からすると,相違点1―1は,実質的な相違点であるというべきである。
(知財高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行ケ)第10016号審決取消請求事件))
http://chizaibengoshi.appspot.com/20110419105131.html
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2011年4月7日木曜日
特許:【実施可能要件】「事実認定」:(知財高裁平成23年4月7日判決(平成22年(行ケ)第10249号,第10250号審決取消請求事件))
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(知財高裁平成23年4月7日判決(平成22年(行ケ)第10249号,第10250号審決取消請求事件))
平成22(行ケ)10249等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年04月07日 知的財産高等裁判所
第2 事案の概要
本件は,被告からの無効審判請求に基づき請求項1ないし4に係る原告らの特許
を無効とする審決の取消訴訟である。争点は,訂正後の請求項1ないし4の発明に
つき,明細書の発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に記
載がされているか否か(実施可能要件の有無)である。なお,以下に「原告」とい
うときは,原告両名を総称するものとする。
「これらの温度,時間についての実験条件と,通常のセボフルラン含有麻
酔薬の製造,保存等の環境下での条件との関係については,訂正明細書には何ら説
明がない。また,原告は,訂正明細書の実験例において採用される条件が『最悪の
場合のシナリオ』と主張するにとどまり,両者の具体的な関係は明らかにしていな
い。」と説示する。しかし,訂正明細書の実施例3,4で採用されている実験条件が
通常想定される使用条件を超える過酷なもので,短時間で実験を終える加速試験の
条件として設定されたものであるとすれば,上記実験条件下でも安定している薬剤
は,上記実験条件未満の通常の使用条件の下でも安定しているものと考えるのが当
業者の当然の理解であって,さらに詳細に製造条件等を開示するか否かは,明細書
の作成者において発明の詳細な説明をどこまで具体的かつ詳細に記載し,当該発明
の実施形態を詳細に開示するかによるものにすぎず,かかる詳細な製造条件等の開
示が特許法36条4項1号の規定の適用上必須だとされるものではない。そうする
と,審決の上記説示は誤りである。
(知財高裁平成23年4月7日判決(平成22年(行ケ)第10249号,第10250号審決取消請求事件))
http://chizaibengoshi.appspot.com/20110411135336.html
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2011年3月24日木曜日
特許:【訂正の可否】【サポート要件】【実施可能要件】【進歩性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))
特許:【訂正の可否】【サポート要件】【実施可能要件】【進歩性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))
知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」
平成22(行ケ)10214 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月24日 知的財産高等裁判所
(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))
【訂正の可否】【サポート要件】【実施可能要件】【進歩性】「事実認定」
(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))
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第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)について
(1) 本件訂正事項の内容
本件訂正事項は,請求項2に係る本件訂正前の「前記ベールが,少なくとも約1
0N/15mmの裂破強度(DIN EN ISO 527-3に従って測定)を有
する,ことを特徴とする請求項1記載のベール」との記載を,本件訂正後の「前記
ベールが,少なくとも10N/15mmの引裂き強度(DIN EN ISO 52
-
20 -
7-3に従って測定)のフィルムを有する,ことを特徴とする請求項1記載のベー
ル」との記載に訂正するものである。
本件訂正事項は,訂正前には「裂破強度(DIN EN ISO 527-3に
従って測定)」と記載されていたものを,訂正後には「引裂き強度(DIN EN
ISO 527-3に従って測定)」との記載に訂正するものであって,その訂
正前後を通じて,いずれも,その測定方法は,「DIN EN ISO 527-
3に従って測定」されるものである。
(2) 本件明細書及び本件訂正明細書の記載
本件明細書【0031】には,「機械強度に関連して,DIN EN ISO
527-3に従って測定した場合に,パッケージ包装材またはフィルムが,少なく
とも約10N/15mm,好ましくは約100N/15mm以上,さらに好ましくは2
00N/15mm以上の裂破強度を有することが推奨される。引用した値の各々は,
フィルムの縦方向および横方向における最少裂破強度値に関係する。フィルムで包
装したベールが移動のために再度梱包されるか否かの関数として,裂破強度に関連
した特定の選択が行われる。これに関連して,使用可能な材料には,100μmの
厚さで,15から30N/15mmの裂破強度を有するPE,100μmの厚さで,
150~300N/15mmの裂破強度を有するPA6が含まれる。」とあって,
「DIN EN ISO 527-3」の定めるところに従って,パッケージ包装
材又はフィルムの強度を測定したものであることが説明されている。
そして,本件訂正明細書には,本件明細書の「裂破強度」が「引裂き強度」と変
更されて,以上と同旨の説明がされている。
(3) 「裂破強度」と「引裂き強度」との異同
以上によると,本件訂正前の請求項2には「裂破強度」と記載され,本件訂正後
の請求項2には「引裂き強度」と記載され,その表現は異なり,また,本件訂正後
の請求項2には,そのような強度を有する「フィルム」であることが構成として追
加されているが,いずれも,フィルム及びシートについての強度を試験する方法に
-
21 -
関する規格である「DIN EN ISO 527-3」(乙1,2)の定めると
ころに従って,強度を測定することにおいて変わりはない。
そして,「裂破」とは,「引き裂くこと」との意味であり(講談社新大字典・平
成5年3月発行),「裂破」から「引裂き」へと訂正することは,用語をより平易
で一般的なものに変更したものということができる。
(4) 原告の主張に対する判断
原告は,本件訂正明細書に記載された「DIN EN ISO 527」はいわ
ゆる「引張強度」に関する規定であり,「DIN EN ISO 527-3」は
フィルムとシートのための「引張強度」の測定条件を定めたものであって,引裂き
強度は測定できないとし,上記訂正では,「引張強度」の測定条件によって「引裂
強度」を測定することになり,実質的に特許請求の範囲を変更することになると主
張する。しかしながら,本件訂正事項については,本件訂正の前後を通じて,ベー
ルの強度を「DIN EN ISO 527-3」によって測定するものであるこ
との記載に変わりはなく,本件訂正事項に係る訂正は,上記のとおり,用語をより
平易で一般的なものに変更したものであって,明瞭でない記載の釈明を目的とする
ものにすぎないものということができ,原告の主張は,訂正の許否をいうものとし
ては失当であって,理由がない。
(6) 小括
したがって,本件訂正前の請求項2に規定する「裂破強度」を,本件訂正後の請
求項2の「引裂き強度」とする訂正について,明瞭でない記載の釈明を目的とする
ものであるとともに,本件明細書に記載した事項の範囲内でするものとした本件審
決に誤りはない。
2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
原告は,膨張による弾性復元力(膨張力)の減衰を考慮するとしても,気候の変
化による大気圧の変動にも満たない0.01bar程度の僅かな値の負圧によっ
て,大きなフィルタートウの弾性復元力をコントロールでき,かつ,ベールを平坦
-
22 -
にするという課題を解決できることは,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載
されたものでなく,当業者の常識からは全く理解できないものであるなどと主張す
るので,以下,検討する。
(1) 本件訂正明細書の記載
ア 本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
(ア) 「本発明の課題は,ベールの移動を妨害するような膨張部分,ならびにト
ウベールの頂部と底部におけるフィルタートウの繰り出しを妨害するくびれ部分の
無い,理想的なブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールを提供すること
であり,この場合,梱包したフィルタートウにかかる負荷が低減されることで,特
に,内圧の影響下におけるパッケージの破裂開封をほぼ完全に回避することができ
る。本発明のさらなる課題は,これに関連した梱包プロセスを提供することであ
る。」(【0006】)
(イ) 「梱包工程中に梱包を気密シールすることより,移動を妨害する妨害部分
も,目的としたフィルタートウの使用を妨害するくびれ部分も無いブロック形態の
ベールを製造できるという驚くべき発見が得られた。したがって,実用的な考慮に
基づき,請求項1によるベールは,機械的に自己支持する弾性梱包材料で完全に包
装され,この材料は,1つまたはそれ以上の対流に対して気密性を有する結合部を
備えている。」(【0010】)
(ウ) 「気密梱包の課題は,製造工程中にベールの頂部と底部に生じる圧力勾配
を吸収および等化することである。」(【0011】)
(エ) 「本発明にかかるフィルタートウベールを梱包するプロセスは,(a) フ
ィルタートウを圧縮形態にするステップと;(b) 圧縮されたフィルタートウをパ
ッケージ包装材で包装するステップと;(c) パッケージ包装材を気密にシールす
るステップと;(d) 包装されたベールにかかる負荷を解放するステップとを備え
ている。気密シールされたベールに対する負荷が解放されると,パッケージ包装材
内に負圧が発生する。この負圧は少なくとも0.01barであることが好まし
-
23 -
く,特に有利な方法では0.15~0.7barの範囲内である。」(【001
6】)
(オ) 「したがって,包装材で取り囲まれた領域内で発生した負圧は,パッケー
ジ包装材の気密シールによって維持することができる。この負圧により,可撓性材
料の弾性復元力によって内部から梱包へ加わる圧力が減衰される。この理由のため
に,最新技術によれば通常はフィルタートウベールに発生する膨張を防止すること
ができる。これにより,積層ベールの製造が遥かに容易になる。梱包内部から作用
する機械圧が(負圧によって)減衰されるために,梱包が失敗する危険性または梱
包が裂開する傾向が低減される。さらに,より高い梱包密度も得られ,これによ
り,より小型なパッケージの利点が得られ,保管容量および移動容量を縮小するこ
とが可能になる。」(【0017】)
イ 上記の記載によると,本件訂正発明1においては,包装材で取り囲まれた領
域内で発生した負圧が,パッケージ包装材の気密シールによって維持され,この負
圧によって,可撓性材料の弾性復元力により内部から梱包へ加わる圧力が減衰され
るとともに,製造工程中にベールの頂部と底部に生じる圧力勾配を吸収及び等化さ
れることにあり,これらによって,少なくともベールが梱包された後に外圧に対し
て負圧がベールに掛かるものであると理解することができる。また,「負圧は少な
くとも0.01barであることが好まし」いとも記載されており,その意味自体
も明瞭である。
(2) 本件訂正発明1の技術思想
以上によると,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の「外圧に対して少なくと
も0.01barの負圧がベールにかかっている」との規定は,ベールの形状を負
圧によって制御するとの技術思想を表現したものということができる。
しかるところ,気候による大気圧の変動が想定されること,高圧縮したベールの
復元膨張力はかなり大きなものであり,しかも,ベールの圧縮率は様々なものが想
定され,ベールの材料によっても変化するものであることから,ベールの形状を制
-
24 -
御するために利用する負圧について一義的に数値を決められないという状況の下
で,本件訂正発明1は,実質的に負圧として取り扱える有意な値を選択して発明の
技術思想を表現するために,「少なくとも0.01bar」という値の範囲を規定
したものとみることができるものである。そして,本件訂正発明1においては,ベ
ールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールに
掛かっているものであるところ,梱包した材料に付加されている外圧が解放される
ことによって,発生していた少なくとも0.01barとの負圧の値が更に大きく
なるものであること,他方,本件訂正発明1においては,トウが膨脹し続ける時間
はせいぜい数時間であるところ(甲23),天候にも左右されるが,通常の気圧の
日変化は0.01barには至らないものであることに照らすと,ベールには,フ
ィルタートウ材料が膨脹し,ベールに膨脹部分やくびれ部分が出現しないようにし
なければならない間,外圧に対しての負圧が掛かり続けるものであるということが
できる。
また,本件訂正明細書には,0.01bar又はその近辺ではないが,「少なく
とも0.01bar」との負圧の数値の範囲内の複数の実施例が開示されている。
(3) 原告の主張に対する判断
ア 原告は,本件訂正発明1は,負担と平坦度に係る数値限定により公知技術と
の差違を導いたいわゆるパラメータ発明であるところ,本件訂正明細書の発明の詳
細な説明によっては,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものでは
ないなどと主張する。しかしながら,上記のとおり,本件訂正発明1は,ベールの
形状を負圧によって制御するとの技術思想を表すものであり,また,その表現とし
て「少なくとも0.01bar」との数値の範囲を併せて記載したものであって,
本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によって,当業者が当該発明の課題を解
決できると認識することができる範囲のものであるということができ,これに反す
る原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,被告が本件訂正発明1における「0.01bar」との数値
-
25 -
について,その値自体に特段の意味がないと主張することは,本件審査段階におけ
る主張に照らして禁反言の原則から許されないと主張する。しかしながら,上記
(2)のとおり,本件訂正発明1は,実質的に負圧として取り扱える有意な値を選択
して発明の技術思想を表現するために,「少なくとも0.01bar」という値の
範囲を規定したものとみることができるものであり,本件訂正発明1における
「0.01bar」という数値そのものに意味がないものではなく,被告もその旨
を主張しているにすぎないものであって,原告の主張は理由がない。
(4) 小括
したがって,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件を満た
すとした本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(実施可能要件に係る判断の誤り)について
(1) 原告の主張
原告は,当業者の常識からすると,高圧縮したフィルタートウベールの弾性復元
力(膨張力)は相応に大きなものであるにもかかわらず,これを0.01barの
負圧によって制御し,これをバランスさせることなどは,膨張による弾性復元力の
減衰を考慮するとしても不可能であって,本件訂正発明1は,0.01bar付近
の負圧で実施するために必要な条件が本件訂正明細書の発明の詳細な説明には記載
されていないなどと主張する。
(2) 本件訂正発明1の技術思想との関係
しかしながら,前記2(2)のとおり,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の
「外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている」との規
定は,ベールの形状を負圧によって制御するとの技術思想を表現したものというこ
とができる。そして,気候による大気圧の変動が想定されること,ベールの圧縮率
は様々なものが想定され,ベールの材料によっても変化するものであることから,
ベールの形状を制御するために利用する負圧について一義的に数値を決められない
という状況の下で,本件訂正発明1は,実質的に負圧として取り扱える有意な値を
-
26 -
選択して発明の技術思想を表現するために,「少なくとも0.01bar」という
値の範囲を規定したものである。そして,本件訂正明細書には,0.01bar又
はその近辺ではないが,「少なくとも0.01bar」との負圧の数値の範囲内の
複数の実施例が開示されている。
(3) 実験結果
ドイツの第三者機関による実験結果(乙6)において,本件訂正発明1の条件の
下で,プレス時間を長くしてフィルタートウを圧縮したところ,圧縮を解放した直
後の負圧は,外圧に対して10mbar(0.01bar),30分経過後の負圧
は外圧に対して31mbar(0.031bar)であったことが認められる。
また,原告従業員が,本件訂正発明1と実質的に同じであるとして,引用発明2
の条件の下で,トウベールを圧縮し,気密性を確保した上で圧縮を解放した10分
後の負圧は,外圧に対して0.091barであり(甲23),また,引用発明2
の条件の下で,晒しメリヤスウエスを圧縮し,気密性を確保した上で圧縮を解放し
た5分後の負圧は,外圧に対して0.082barであった(甲24)。
(4) 本件訂正発明1と上記実験結果との関係
上記(3)の実験結果は,それぞれの実施条件の相違等もあって,その結果である
負圧の数値を直接比較できるものではないが,上記(2)のとおり,ベールの形状を
制御するために利用する負圧について一義的に数値を決められないという状況の下
で,実質的に負圧として取り扱える有意な値を選択して発明の技術思想を表現する
ために,「少なくとも0.01bar」という値の範囲を規定したものであるとの
本件訂正発明1との関係でみると,上記実験結果の0.01bar,0.082b
ar及び0.091barという数値は,いずれも,「少なくとも0.01ba
r」という負圧の下限値に近いものということができる。
(5) 小括
以上によると,当業者において,本件訂正発明1の「少なくとも0.01ba
r」との条件と同視し得る程度の負圧を実現することが可能ということができ,本
-
27 -
件訂正発明1の「0.01barの負圧」近辺の極めて低い負圧によっても,当業
者が上記のような大きな膨張力を制御できるとして,本件発明1の効果を奏するも
のであるとした本件審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4(引用例1を主引例とする関係で進歩性を有するとした判断の誤
り)について
原告は,相違点B及びEについて,引用例1には,本件訂正発明1の解決手段に
相当する構成の開示があり,その平坦度の作用効果も必然的に得られるので,これ
らの相違点について,容易に想到することができないとした本件審決には誤りがあ
ると主張するので,まず,引用例1について検討した上で,これらの相違点につい
て検討することとする。
(1) 引用発明1について
ア 引用例1(甲1)には,次の記載がある。
(ア) 本発明は,繊維状の材料からなるプレスベールを包装する方法及び装置等
に関する。
(イ) 繊維状の材料,特に切断された,又はストランド状の繊維からなる高圧縮
されたプレスベールは,ベールプレスにおいて単数又は複数の形弾性的な包装材切
片で包装され,次いで,金属又はプラスチックバンドからなるたがで装備され,こ
のたがが,包装材とプレスベールとを保持することになる。
ところが,たがは,プレスベールの後続加工を困難にするとの欠点を有してい
る。また,たがを切断する際,プレスベールが損傷を受けるおそれがあり,さら
に,作業員が,たがバンドを開く場合に負傷する危険がある。
(ウ) そこで,本発明は,プレスベールをたがで結合することを不要とし,その
代わりに,包装材切片が互いにオーバーラップしてベールの上に当てられ,接着及
び(又は)溶着で互いに結合される。種々異なる包装材切片を相互に接着及び(又
は)溶着で結合することで包装が固定される。
(エ) 包装材切片は,プラスチック,特にポリエチレンから製造することが好ま
-
28 -
しい。
(オ) 包装装置は,包装材切片を供給し,当て付け,かつ,折り畳むための装置
構成部分に関しては公知の形式のものであることができる。接着及び(又は)溶着
結合を行うためには,包装装置は接近可能なヒートシール装置を有している。この
ヒートシール装置は,種々異なって構成でき,加熱装置及び(又は)圧着装置を有
している。点状又はストライプ状の結合を行うためには,ヒートシール装置に適当
に成形された複数の点状又はストライプ状の単個ポンチを設け,これらの単個ポン
チによって,包装材切片を結合箇所において点状又はストライプ状に互いに圧着
し,場合によっては,この限られた接触面において加熱させることができる。
(カ) 本発明では,包装材切片は,溶着及び(又は)接着で互いに結合される。
これによって,プレスベールのために全面的に閉じた包体又は包装が形成される。
この包体又は包装は,プレスベールに掛けられていたプレス圧を除いた後でも,膨
らむベールの力に耐える。本発明は,包装をバンド,たが又はそれに類似した物で
付加的に補強することを不要にするが,別の実施例においては,このような補強は
同様にまだ存在していることもできる。
(キ) 第5図においては,包装材切片が多層に,有利には2層に構成されている
ことが示されている。包装材切片は,堅固な保持構造,有利には膨張したプレスベ
ールにより発生した力を受け止め,包装を安定化する織布の形をした保持構造を有
している。保持構造は補強バンドを有しているか,又は他の適当な形式で構成され
ていることもできる。
(ク) 有利な実施例においては,包装材切片はプラスチックからなっている。こ
の包装材切片は,大きな引っ張り強度を有しているが,折り畳み,かつ,曲げるこ
とを許す。この包装材切片は,プレスベールの周囲に所望の形式で当て付ける限り
においては十分な形弾性を有するが,プレスポンチによる負荷をプレスベールから
除いた後で,プレスベールの形を維持するためには,十分な内部引っ張り強度及び
伸張強度を有している。必要な強度はベール材料に合わせられ,かつ,変化させる
-
29 -
ことができる。
イ 以上の記載によると,引用発明1は,プラスチック,特にポリエチレンから
製造された包装材切片を,互いにオーバーラップさせて溶着及び(又は)接着して
結合することとし,これによって,プレスベールのために全面的に閉じた包体又は
包装を形成し,この包体又は包装は,プレスベールに掛けられていたプレス圧を除
いた後でも十分な内部引っ張り強度及び伸張強度を有し,膨らむベールの力に耐え
るものであること,しかしながら,包装をバンド,たが又はそれに類似した物で付
加的に補強することを不要にするものであるものの,別の実施例においては,この
ような補強は同様にまだ存在していることもできるというものである。
したがって,引用発明1においては,包装材切片を結合して形成されたベールの
包装は,プレスベールに掛けられていたプレス圧を除いた後でも,膨らむベールの
力に耐えるものであるが,その膨らむベールの力に耐える手段としては,包装がプ
レスベールの形を維持するために十分な引っ張り強度及び伸張強度を有するように
するというものであって,それゆえ,これらの強度が不足する場合には,別の実施
例においては,包装を,バンド,たが又はそれに類似した物で付加的に補強するこ
ともできるとするものである。しかしながら,引用例1においては,包装の引っ張
り強度や伸張強度によらず,負圧を制御する手段について何ら記載又は示唆すると
ころはない。
ウ なお,原告は,引用例1における「ベールプレスの構成,プレスベールの材
料の選択及び包装及び折り畳み技術についての記述したヴアリエーションに加え
て,ヒートシール装置13にも変更を加えることができる。押圧ビームは全面的に
オーバーラップ若しくは結合箇所10に作用し,ストライプ状又は点状の単個ポン
チを有していないこともできる。」との記載や図2等から,引用例1においては,
全面をシールしてパッケージ包装内を一定の負圧にするという技術が開示されてい
ると主張する。しかしながら,これは,結合箇所が全面的に結合されることを示す
ものということができるが,その結合箇所においてどの程度の密封性が確保される
-
30 -
のか否か,接合箇所以外の部分における包装材料が気密性を有するものであるか否
かについては,何ら記載も示唆もするものではなく,引用例1において,気密性を
確保して負圧を制御する手段も記載又は示唆されているということはできず,原告
の主張は理由がない。
(2) 相違点Bについて
ア 上記(1)のとおり,引用例1には,膨らむベールの力に耐える手段として,
包装がプレスベールの形を維持するために十分な引っ張り強度及び伸張強度を有す
る包装としたことの記載があるが,気密性を確保して負圧を制御する手段の記載も
示唆もないものである。
イ したがって,引用例1には,前記2(1)及び(2)のとおりの本件訂正発明1の
ように,ベールの移動を妨害するような膨張部分及びトウベールの頂部と底部にお
けるフィルタートウの繰り出しを妨害するくびれ部分のない,理想的なブロック形
態に高圧縮したフィルタートウのベールを提供することまでは想定されておらず,
かつ,具体的に平坦さに着目しているとする記載も示唆もないから,引用発明1か
ら,相違点Bに係る本件訂正発明1の構成について容易に想到し得るものではな
い。
ウ なお,原告は,引用例1には,本件訂正発明1の機能・特性等による解決手
段に相当する構成が全て開示されているから,本件訂正発明1の平坦度の作用効果
も必然的に得られると主張する。しかしながら,上記(1)のとおり,引用発明1
は,膨らむベールの力に耐える手段として,包装がプレスベールの形を維持するた
めに十分な引っ張り強度及び伸張強度を有する包装を採用することにとどまるので
あるから,原告の主張は採用することはできない。
(3) 相違点Eについて
ア 上記(1)のとおり,引用発明1は,膨らむベールの力に耐える手段として,
包装がプレスベールの形を維持するために十分な引っ張り強度及び伸張強度を有す
る包装としたものであって,引用例1には,気密性を確保して負圧を制御する手段
-
31 -
の記載も示唆もないものである。
イ したがって,引用例1には,本件訂正発明1のように負圧を制御する技術思
想を認めることができないから,引用発明1から,相違点Eに係る本件訂正発明1
の構成について容易に想到し得るものではない。
(4) 小括
したがって,引用発明1に基づいて,相違点B及びEに係る本件訂正発明1の構
成について容易に想到し得るものではないとした本件審決の判断に誤りはない。
5 取消事由5(引用例2を主引例とする関係で進歩性を有するとした判断の誤り)について
原告は,相違点B’及びE’について,引用例2及び3から容易に想到すること
ができないとした本件審決には誤りがあると主張するので,引用例2及び3につい
て検討した上で,これらの相違点について検討することとする。
(1) 引用発明2について
ア 引用例2(甲2,17)によると,引用発明2は,前記第2の3(3)アのと
おりのものと認めることができる。
他方,引用例2には,圧縮下で可撓性のプラスチックで密閉され,梱包圧の解放
時に,ベールの容積が増すことに対応した分の圧力が低下すること,すなわち負圧
になることについて記載又は示唆するところはなく,また,ベールの移動を妨害す
るような膨脹部分及び頂部と底部における繰り出しを妨害するくびれ部分のないベ
ールを提供することについての記載又は示唆もない。
イ もっとも,本件審決は,引用発明2は,梱包圧の解放時に,第2の袋部が外
側に押されて膨張し,ベールの容積が増すことに対応した分の圧力が低下するもの
であると説示する。また,引用例2には,発明のプロセスによって成形されるプラ
スチックで覆われたベースは,外皮が可撓性であり(【0008】),繊維材料が
圧縮されており(【0025】),梱包されている材料の性質に応じて,また,用
いる包装材料の強さに応じて,包装されたベールは必ずしも結束される必要はな
-
32 -
く,ある場合では,2つの袋部が単にそれらの縁で一緒に溶接されるだけのままで
十分であり,その場合には,溶接は全ての部分で連続的に行われるとされ(【00
09】【0027】),包装物は,雨又は湿気の影響を受けず,外皮は梱包材料の
膨張圧を十分に吸収するように対応するものであって(【0008】),本発明に
よるプロセスの好適な実施例は,最高品質の袋状べール(すなわち,ベール材料が
完全に包囲されている)を成形するためのものである(【0029】)と記載され
ている。
しかしながら,引用例2には,上記のとおり,「雨又は湿気に影響を受けず」に
梱包するとの記載はあるものの,これは,引用例2における従来技術の記載である
「包装物は衝撃に影響を受けやすい。車載中等の通常の取扱いの際によく起こるよ
うに,包装物が落下して隅が当たる場合,段ボールの壁は隅が破損し,内容物が膨
れ上がってはみ出す。最終的に,段ボールは雨によって分解するため,段ボール容
器に包装されたベールはカバーをして貯蔵及び搬送される必要がある」(【000
6】)との対比で記載されていると理解されるべきものであって,このような従来
技術との対比で,「包装物は,雨又は湿気に影響を受けず,外皮は梱包材料の膨張
圧を十分に吸収するように対応する」(【0008】)とされたにすぎないものと
いうことができ,同記載については,雨水や空気中の水分がベール内外の出入りを
妨げられることは読み取ることができるものの,それ以上に,気体までもが通り抜
け難いものとするとのガスの透過性に関することまで示されているものということ
はできない。
そして,このことは,本件訂正発明1においては,弾性梱包材料は「対流に対し
て気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備えており」,かつ,この材料
は「空気に関するガス透過率が10,000㎤/(㎡・d・bar)未満であるフ
ィルム」であるとされ,弾性梱包材料のガスの透過性についてまで規定されている
ことと対比すると,より明確ということができる。
(2) 引用発明3について
-
33 -
ア 引用例3(甲3,19)には,次の記載がある。
(ア) 本発明は,保管又は運送の後に,例えば紡績糸に更に加工するための,ト
ウを連続的に,かつ,均一に引き出せる方法による箱又は他の適切なコンテナ内へ
のフィラメント状トウの梱包に関する。
(イ) 本発明の実施形態を説明すると,図1は,ウイングナットとボルトによっ
て所定の位置へクランプされた延長部を有する空コンテナと,所定の位置へ折り畳
まれた空気不透過性のライナを示す。図2は,フィラメント状のトウの横向き並置
機構を示す。これは,コンテナの実質的な全平面において各層にトウを均一に並置
するため,コンテナのよりゆっくりした前後の動作機構と同期が取られる。ライナ
がトウで満たされると,供給が中断され,トウは切断され,真空プローブがライナ
へ挿入され,内容物の配置を妨害せずに,トウの頂部に置かれる。図5に示される
ように,ナットとボルトのクランプが外されると,延長部がコンテナ上に伸長され
る。次に,ライナは,プローブの周囲で気密にされ,ライナからの空気の排出が,
トウの上層面上にプローブを静止させながら,それを埋めることがないようにし
て,開始される。図4に示されるように,ライナは,プローブの周囲で単に集めら
れ,プローブの筒の周囲で締められる。内容物を有するライナが収縮し,ライナ袋
がしわになって縮むと,延長部が漸進的に下降する。380mmHgの圧力に排気が完
了すると,延長部は引き取られてもよい。図6に示されるように,ヒンジ状の側部
ドアが開かれ,図7に示されるように,フィラメント状のトウの内容物を有するラ
イナはローラテーブルコンテナの傾斜へ転がり落ちた後,開放したボール紙の包装
ケースへ挿入される。図8に示されるように,装置の一形式において,包装ケース
は上方に傾斜できるピボット状のプラットホームに対して安定している。前後のフ
ラップ(図示せず)と同じように,蓋側のフラップが閉じられ,包装ケースがひも
でくくられ,プローブが引き取られ,カートンがシールされ,搬送準備が行われ
る。
イ 以上の記載によると,引用例3には,真空プローブによって380mmHgの圧
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34 -
力によって排気され,これによって,材料を圧縮することが記載されているが,他
方,本件訂正発明1のように,ベールの頂側部と底側部とに妨害となるような膨脹
部分又はくびれ部分のないようにするために,負圧を制御して平坦にしようとする
ことは記載も示唆もされておらず,むしろ,排気によって材料を圧縮するものであ
るから,本件訂正発明1のように負圧を制御しようとの技術思想は存在しないもの
ということができる。
(3) 相違点B’について
上記(1)のとおり,引用例2には,ベールの移動を妨害するような膨脹部分及び
頂部と底部における繰り出しを妨害するくびれ部分のないベールを提供することに
ついての記載又は示唆はなく,また,上記(2)のとおり,引用例3には,ベールの
頂側部と底側部とに妨害となるような膨脹部分又はくびれ部分のないようにするた
めに,負圧を制御して平坦にしようとすることの記載又は示唆がないものであるか
ら,引用発明2及び3から,相違点B’に係る本件訂正発明1の構成について容易
に想到し得るものではない。
(4) 相違点E’について
上記(1)のとおり,引用例2には,気密性を利用して負圧になることについての
記載又は示唆はなく,また,上記(2)のとおり,引用例3には,負圧を制御しよう
とすることの記載又は示唆もないものであるから,引用発明2及び3から,相違点
E’に係る本件訂正発明1の構成について容易に想到し得るものではない。
(5) 小括
したがって,引用発明2及び3に基づいて,相違点B’及びE’に係る本件訂正発
明1の構成について容易に想到し得るものではないとした本件審決の判断に誤りは
ない。
6 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告が具体
的な取消事由を主張しない本件訂正発明のうち他の請求項に係る発明を含めて,本
-
35 -
件審決の取消しを求める原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣
裁判官 本 多 知 成
裁判官 荒 井 章 光
-
36 -
(別紙) 本件訂正前発明
【請求項1】ベールの頂側部と底側部に妨害となるような膨張部分またはくびれ部
分が無い,梱包され,ブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールであっ
て,
(a) 前記ベールが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度を有し;
(b) 前記ベールが,機械的に自己支持する弾性梱包材料内に完全に包装され,
かつこの材料は,対流に対して気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備
えており;
(c) 非開封状態のベールを水平面上に配置した状態で,平坦な板をベールの頂
部に圧接させ,ベールの中心に対して垂直方向に100Nの力を作用させたとき,
圧接板に対するベールの垂直投影に内接する最大の矩形の範囲内で,ベールの頂面
における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40mm
以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり;
(d) 前記ベールが,少なくとも約900mmの高さを有しており;
(e) 少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01b
arの負圧がベールにかかっている,
ことを特徴とするフィルタートウのベール
【請求項2】前記ベールが,少なくとも約10N/15mmの裂破強度(DIN E
N ISO 527-3に従って測定)を有する,ことを特徴とする請求項1記載
のベール
【請求項3】0.9㎥よりも高い梱包容量,および/または350kg/㎥,特に8
00kg/㎥未満の梱包密度を有することを特徴とする請求項1または2記載のベー
ル
【請求項4】少なくとも970mm,特に970~1200mmの高さを有することを
特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のベール
【請求項5】前記パッケージ包装材がフィルム,特にプラスチック・フィルムであ
-
37 -
ることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のベール
【請求項6】対流に対して気密性を有する接続部が,対流空気が透過不可能なシー
ムであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に請求項のいずれか1項に
記載のベール
【請求項7】空気が透過不可能なシームが,重ね合わせヒートシールシーム,また
はヒレ状シームであることを特徴とする請求項6に記載のベール
【請求項8】前記内接矩形内に位置する前記ベールの頂部側表面の90%が,25
mm以下,好ましくは,10mm以下の距離で前記平坦板から離間することを特徴とす
る,請求項1~7のいずれか1項に記載のベール
【請求項9】ポリエチレン,特にLDPE,または改良ポリエチレン(LLDP
E)から成ることを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記載のベール
【請求項10】前記パッケージ包装材が,ポリアミド層とポリエチレン層を積層し
た積層フィルムであることを特徴とする請求項5~8の少なくとも1項に記載のベ
ール
【請求項11】前記パッケージ包装材が,約100~400μmの厚さを有するこ
とを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のベール
【請求項12】前記ベールが厚紙または合成布地から成る追加の移動梱包を備え,
および/または,さらにストラップで包装されている,ことを特徴とする請求項1
~11のいずれか1項に記載のベール
【請求項13】梱包後に存在する,外圧に対して少なくとも約0.01barの負
圧が,解放されていることを特徴とする請求項1~12の少なくとも1項に記載の
ベール
【請求項14】(a) 前記フィルタートウを圧縮形態で準備するステップと;
(b) 前記圧縮されたフィルタートウをパッケージ包装材で包装するステップ
と;
(c) 前記パッケージ包装材を気密状態にシールするステップと;
-
38 -
(d) 前記包装されたベールにかかる負荷を解放するステップと;
(e) 外圧に対して少なくとも0.01barの負圧を,前記負荷が解放された
パッケージ包装材内に発生させるステップとを備えた,
特に請求項1~13のいずれか1項に記載のフィルタートウのベールを梱包する
プロセス
【請求項15】前記負圧が前記圧縮されたフィルタートウの自然の膨張によって発
生されることを特徴とする請求項14に記載のプロセス
【請求項16】前記負圧が空気の排出によって発生されることを特徴とする請求項
14または15記載のプロセス
【請求項17】前記空気が,真空ポンプの補助によって排出されることを特徴とす
る請求項16記載のプロセス
【請求項18】周囲圧力よりも約0.15~0.7bar低い負圧が生成されるこ
とを特徴とする請求項14~17のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項19】周囲圧力よりも約0.2~0.40bar低い負圧が生成されるこ
とを特徴とする請求項18に記載のプロセス
【請求項20】前記パッケージ包装材が,溶着またはヒートシールによって,特に
重ね合わせシームまたはヒレ状シームを形成するような方法でシールされることを
特徴とする請求項14~19のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項21】温度23℃,相対湿度85%で,DIN53,122に従って測定
される水蒸気透過率が,5g/(㎡・d)以下,好ましくは2g/(㎡・d)以下
であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14~
20のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項22】温度23℃,相対湿度75%で,DIN53,380-Vに従って
測定される空気に関するガス透過率が,10,000㎤/(㎡・d・bar)以下
であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14~
21のいずれか1項に記載のプロセス
-
39 -
【請求項23】200c㎥/(㎡・d・bar),好ましくは20㎤/(㎡・d・
bar)以下のガス透過率を有するフィルムをパッケージ包装材として使用するこ
とを特徴とする請求項22に記載のプロセス
【請求項24】少なくとも10N/15mm,特に少なくとも100N/15mmの裂
破強度(DIN EN ISO 527-3に従って測定される)を有するフィル
ムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14~23のいずれ
か1項に記載のプロセス
【請求項25】前記裂破強度が,少なくとも200N/15mm(DIN EN I
SO 527-3に従って測定される)であることを特徴とする請求項24に記載
のプロセス
【請求項26】前記プロセスが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度が得られるよ
うに制御されることを特徴とする請求項14~25のいずれか1項に記載のプロセ
ス
-
40 -
(別紙) 本件訂正後発明
下線部分が訂正箇所である。
【請求項1】ベールの頂側部と底側部に妨害となるような膨張部分またはくびれ部
分が無い,梱包され,ブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールであっ
て,
(a) 前記ベールが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度を有し;
(b) 前記ベールが,機械的に自己支持する弾性梱包材料内に完全に包装され,
かつこの材料は,対流に対して気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備
えており,かつこの材料は,温度23℃,相対湿度75%で,DIN53,380
-Vに従って測定される空気に関するガス透過率が10,000㎤/(㎡・d・b
ar)未満であるフィルムであって;
(c) 非開封状態のベールを水平面上に配置した状態で,平坦な板をベールの頂
部に圧接させ,ベールの中心に対して垂直方向に100Nの力を作用させたとき,
圧接板に対するベールの垂直投影に内接する最大の矩形の範囲内で,ベールの頂面
における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から40mm以
下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり;
(d) 前記ベールが,少なくとも900mmの高さを有しており;
(e) 少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01b
arの負圧がベールにかかっている,
ことを特徴とするフィルタートウのベール
【請求項2】前記ベールが,少なくとも10N/15mmの引裂き強度(DIN E
N ISO 527-3に従って測定)のフィルムを有する,ことを特徴とする請
求項1記載のベール
【請求項3】0.9㎥よりも高い梱包容量,および/または350kg/㎥よりも高
く,特に800kg/㎥未満の梱包密度を有することを特徴とする請求項1または2
記載のベール
-
41 -
【請求項4】少なくとも970mm,特に970~1200mmの高さを有することを
特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のベール
【請求項5】前記梱包材料がプラスチック・フィルムであることを特徴とする請求
項1~4のいずれか1項に記載のベール
【請求項6】対流に対して気密性を有する接続部が,対流空気が透過不可能なシー
ムであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に請求項のいずれか1項に
記載のベール
【請求項7】空気が透過不可能なシームが,重ね合わせヒートシールシーム,また
はヒレ状シームであることを特徴とする請求項6に記載のベール
【請求項8】前記内接矩形内に位置する前記ベールの頂部側表面の90%が,25
mm以下,好ましくは,10mm以下の距離で前記平坦板から離間することを特徴とす
る,請求項1~7のいずれか1項に記載のベール
【請求項9】ポリエチレン,特にLDPE,または改良ポリエチレン(LLDP
E)から成る梱包材料を有することを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記
載のベール
【請求項10】前記梱包材料が,ポリアミド層とポリエチレン層を積層した積層フ
ィルムであることを特徴とする請求項5~8の少なくとも1項に記載のベール
【請求項11】前記梱包材料が,100~400μmの厚さを有することを特徴と
する請求項1~10のいずれか1項に記載のベール
【請求項12】前記ベールが厚紙または合成布地から成る追加の移動用梱包を備
え,さらにストラップで包装されている,ことを特徴とする請求項1~11のいず
れか1項に記載のベール
(本件訂正前の【請求項13】を削除)
【請求項13】(a) 前記フィルタートウを圧縮形態で準備するステップと;
(b) 前記圧縮されたフィルタートウをパッケージ包装材で包装するステップ
と;
-
42 -
(c) 前記パッケージ包装材を気密状態にシールするステップと;
(d) 前記包装されたベールにかかる負荷を解放するステップと;
(e) 外圧に対して少なくとも0.01barの負圧を,前記負荷が解放された
パッケージ包装材内に発生させるステップとを備えた,
特に請求項1~12のいずれか1項に記載のフィルタートウのベールを梱包する
プロセス
【請求項14】前記負圧が前記圧縮されたフィルタートウの自然の膨張によって発
生されることを特徴とする請求項13に記載のプロセス
【請求項15】前記負圧が空気の排出によって発生されることを特徴とする請求項
13または14記載のプロセス
【請求項16】前記空気が,真空ポンプの補助によって排出されることを特徴とす
る請求項15記載のプロセス
【請求項17】周囲圧力よりも0.15~0.7bar低い負圧が生成されること
を特徴とする請求項13~16のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項18】周囲圧力よりも0.2~0.40bar低い負圧が生成されること
を特徴とする請求項17に記載のプロセス
【請求項19】前記パッケージ包装材が,溶着またはヒートシールによって,特に
重ね合わせシームまたはヒレ状シームを形成するような方法でシールされることを
特徴とする請求項13~18のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項20】温度23℃,相対湿度85%で,DIN53,122に従って測定
される水蒸気透過率が,5g/(㎡・d)未満,好ましくは2g/(㎡・d)未満
であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項13~
19のいずれか1項に記載のプロセス
(本件訂正前の【請求項22】を削除)
【請求項21】200㎤/(㎡・d・bar)未満,好ましくは20㎤/(㎡・
d・bar)未満のガス透過率を有するフィルムをパッケージ包装材として使用す
-
43 -
ることを特徴とする請求項13~20のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項22】少なくとも10N/15mm,特に少なくとも100N/15mmの引
裂き強度(DIN EN ISO 527-3に従って測定される)を有するフィ
ルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項13~21のいず
れか1項に記載のプロセス
【請求項23】前記引裂き強度が,少なくとも200N/15mm(DIN EN
ISO 527-3に従って測定される)であることを特徴とする請求項22に記
載のプロセス
【請求項24】前記プロセスが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度が得られるよ
うに制御されることを特徴とする請求項13~23のいずれか1項に記載のプロセ
ス
-
44 -
H230328現在のコメント
Last Update: 2011-03-28 21:50:52 JST
……………………………………………………判決末尾,top
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2011年2月10日木曜日
特許:【実施可能要件】【サポート要件]「事実認定」:(知財高裁平成23年2月10日判決(平成22年(行ケ)第10153号審決取消請求事件))
目 次
- 特許:【実施可能要件】【サポート要件]「事実認定」:(知財高裁平成23年2月10日判決(平成22年(行ケ)第10153号審決取消請求事件))
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- H230214現在のコメント
- 最縮小版
- 縮小版(「論理の流れ」)
- 判決原文(引用)
- 判決原文(全文)
- 平成22(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成23年02月10日 知的財産高等裁判所
- 平成23年2月10日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(行ケ)第10153号審決取消請求事件
- 判 決
- 主 文
- 事実及び理由
- 第1 請求
- 第2 事案の概要
- 1 特許庁における手続の経緯
- 2 本件発明の要旨
- 3 本件審決の理由の要旨
- 4 取消事由
- 第3 当事者の主張
- 1 取消事由1(実施可能要件に係る判断の誤り)について
- 〔原告の主張〕
- 〔被告の主張〕
- 2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
- 〔原告の主張〕
- 〔被告の主張〕
- 第4 当裁判所の判断
- 1 取消事由1(実施可能要件に係る判断の誤り)について
- (1) 実験成績証明書(甲5)を前提とした判断の誤りについて
- イ本件明細書におけるGPC測定に関する開示事項
- (2) GPCカラムの溶媒が記載されていないとした判断の誤りについて
- (3) 小括
- 2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
- (1) 本件明細書の記載について
- (2) 本件発明の課題及び効果について
- (3) 本件審決のサポート要件に係る判断について
- (4) 小括
- 3 結論
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特許:【実施可能要件】【サポート要件]「事実認定」:(知財高裁平成23年2月10日判決(平成22年(行ケ)第10153号審決取消請求事件))
知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」
H230214現在のコメント
(知財高裁平成23年2月10日判決(平成22年(行ケ)第10153号審決取消請求事件))
一部(下位請求項)のみ無効と判断された事例です。結構珍しいものとおもいます。
最縮小版
一般的な測定条件によって測定されたものと理解できない
以上からすると,本件明細書には,本件カラム及びTHFを使用したか否かを含め,シランカップリング剤のGPC測定に係る測定条件が開示されておらず,また,本件明細書の記載から,当業者が一般的な通常の測定条件によって測定されたものと理解することができるものということもできない。
そして,原告も,GPC測定において,一般的な通常の測定条件によって実験が行われない場合,測定結果が異なること,すなわち,GPC測定においては,測定条件が異なれば測定結果が異なること自体は争わないところ,シランカップリング剤のGPC測定において,溶媒を変更した場合(THF,トルエン,DMF),測定結果が有意に異なることは,甲5証明書から明らかである。
したがって,シランカップリング剤におけるA-1とA-2との面積比をGPC測定する場合の測定条件が明らかではない本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1ないし5及び9について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
よって,本件審決の実施可能要件に係る判断に誤りはない。
効果とサポート要件
ウ以上からすると,本件発明1の効果,すなわち,①高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤が提供されること及び②保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤が提供されたことについては,いずれも比較例と実施例との対照において具体的に開示されているということができる。
略
ア本件審決は,本件発明1の課題について,①高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤が提供されたこと及び②保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤が提供されたこと認定しており,本件発明1の課題に関する認定については,何らの誤りはない。
しかしながら,本件審決は,サポート要件の判断において,②接着剤の保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤の提供という課題についてのみ,当業者が認識することができるか否かについて判断を行い,①の「高接着力で信頼性が高い接着剤」の提供なる解決課題が解決できるか否かについての判断を行っていない。
また,先に指摘したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に係る接着剤の接着力について,その効果が実施例として具体的に開示されているのであるから,本件審決のサポート要件の判断には,本件明細書の発明の詳細な説明の記載内容に関する認定自体に誤りがあるものというほかない。
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イ本件審決は,本件発明1について説示した理由と実質的に同一の理由により,本件発明6ないし8及び10がサポート要件に違反すると判断しているところ,本件審決における本件発明1のサポート要件に係る判断が誤りである以上,本件発明6ないし8及び10についても,本件審決のサポート要件に係る判断が誤りであることは明らかである。
なお,原告の主張に鑑み付言すると,本件審決は,サポート要件の判断について,「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」の点について判断をするとした上で,本件発明は,サポート要件を欠くものと判断しているところ,本件発明6ないし8及び10は,いずれも「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」について何らかの特定を有する発明ではないから,「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」についてのみ検討した上で,本件発明1ないし5及び9と実質的に同一の理由により,本件発明6ないし8及び10についてもサポート要件を満たさないとした本件審決の判断は,それ自体誤りであるというべきである。
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(4) 小括
以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明に関するサポート要件に係る本件審決の判断は誤りであるところ,取消事由1において先に述べたとおり,本件発明1ないし5及び9にかかる特許は,実施可能要件を欠き無効にすべきであるとの本件審決の判断は,サポート要件に係る本件審決の判断の誤りとは関係がなく,相当であるから,サポート要件に違反するとした本件審決の判断は,本件発明6ないし8及び10に係る部分についてのみ,相当でなく,取消しを免れない
縮小版(「論理の流れ」)
1 取消事由1(実施可能要件に係る判断の誤り)について
(1) 実験成績証明書(甲5)を前提とした判断の誤りについて
原告は,本件明細書において,シランカップリング剤のGPC測定に用いられたGPCカラム及びその溶媒として,本件カラム及びTHFが使用されたことが開示されていると解されることを前提として,取消事由1を主張する。
そこで,まず,本件明細書におけるGPC測定に係る記載について検討する。
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ア本件明細書の記載について
本件明細書のGPC測定に関する記載を要約すると,以下のとおりである。
略
イ本件明細書におけるGPC測定に関する開示事項
(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明におけるGPC測定に関する記載は,前記アのとおりであるところ,GPC測定に用いられたカラムについては,合成実験例1において,フィルム形成材の合成について,フェノキシ樹脂の分子量をGPC測定した際,本件カラムが用いられたことが記載されている。
しかしながら,シランカップリング剤の作製については,調製例1及び2並びに比較調製例1において,シランカップリング剤の調製例が記載されているところ,かかる調製例では,いずれもシランカップリング剤をGPC測定したことが記載されているものの,その際に使用されたGPC及び当該GPC測定に用いられたカラムについては,いずれもその製造メーカーすら,特定されていない。
したがって,本件明細書には,シランカップリング剤のGPC測定が原告主張のように本件カラムにより行われたことを直接示す記載は存在しないといわなければならない。
(イ) 原告は,合成実験例1で本件カラムが用いられていることから,調整例1及び2並びに比較調整例1においても,本件カラムが用いられていると解するのが当然であるかのように主張するが,本件明細書の調製例1のシランカップリング剤(γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)に含まれる物質の分子量は,2分子が縮合した分子でも500以下であるところ,合成実験例1に記載されたフェノキシ樹脂の分子量は,ポリスチレン換算でMn=12,500,Mw=30,300であり,両者はその分子量において大きく異なるものであるし,分子構造自体も異なるものであって,原告の主張を採用するのは困難である。
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(ウ) しかも,本件明細書において,シランカップリング剤におけるGPC測定と,フェノキシ樹脂に関するGPC測定について,同一の条件で実施したことに関する明示の記載はない。
また,本件明細書の記載順についても,シランカップリング剤の調製例に関する記載(【0028】~【0030】)においては,GPC測定におけるカラムに関する記載がされず,しかも,GPCに関する記載も,測定の結果としてのA-1とA-2との面積比が記載されている(シランカップリング剤のオリゴマーを作成した比較調製例1を除く)のみであるが,その後に記載されたフェノキシ樹脂の合成実験例(【0031】)においては,測定条件(使用機器,流速,本件カラム)についても記載されているものである。
(エ) したがって,測定内容(面積比・分子量),測定対象(シランカップリング剤・フェノキシ樹脂)の分子量及び分子構造の相違を捨象し,本件明細書において,シランカップリング剤のGPC測定が,フェノキシ樹脂におけるGPC測定と同一の条件で実施されたものと開示されているとまで,いうことはできない。
(オ) この点について,原告は,前記主張のほか,本件カラムは,GPCにおいて周知のカラムである,一般的な通常の測定条件により測定が行われる限り,測定結果は異なるものではないから,本件発明において,GPCに関する個別事項の詳細について記載する必要はない,本件明細書において,GPCの測定条件を調製例等ごとに変更した旨の記載はないなどと主張する。
しかしながら,GPCは,高分子物質の各種平均分子量及び分子量分布が同時に測定でき,しかも測定可能な分子量範囲が,数百ないし数千万と広いという特徴を有するところ(甲18),GPCを含む高速液体クロマトグラフィーにおいては,近年,高い機能と効率を有する充 剤の開発により,金属イオンから生体高分子まで分離対象が広がっており,目的対象に適する分離モードと分離カラムの選択が重要であるとされている(乙1)から,本件明細書において,当業者が,シランカップリング剤をGPC測定した際に使用したカラムが,フェノキシ樹脂をGPC測定した際のカラムと同じであると直ちに理解するものということはできない。
また,本件カラムが,GPC測定における周知のカラムであったとしても,シランカップリング剤におけるA-1とA-2との面積比をGPC測定する場合におけるカラムとして,当業者において周知であったことを裏付けるに足りる的確な証拠はない。本件明細書においては,原告が強調する「一般的な通常の測定条件」により測定が行われたか否か自体が不明であり,仮にフェノキシ樹脂の分子量の測定と同様の条件が,シランカップリング剤におけるA-1とA-2との面積比をGPC測定する場合における「一般的な通常の測定条件」であるならば,むしろ本件明細書において,同一の測定条件を用いたことを明記すべきものというべきである。
原告の主張は採用できない。
(2) GPCカラムの溶媒が記載されていないとした判断の誤りについて
前記(1)のとおり,本件明細書において,シランカップリング剤のGPCにおける測定条件が開示されていない以上,本件明細書において,GPCカラムの溶媒についても開示されているものではないことは明らかである。
この点について,原告は,当業者にとって,カラムの出荷時の封入溶媒と同じものを溶離液として用いる場合は問題ないとされていること,本件明細書に記載された本件カラムの溶媒がTHFであることは周知であること,GPCの溶媒として最もよく用いられる溶媒はTHFとされていること,THFがシランカップリング剤を溶解させ,GPCの溶媒として用いられることが周知であることなどからすると,本件発明において,本件カラム出荷時の溶媒であるTHFについて,本件明細書に記載しなかったことが,記載不備であるということはできないなどと主張する。
しかしながら,仮にシランカップリング剤のGPC測定について,本件カラムを用いたとしても,同カラムの取扱説明書(甲15)には,交換可能な有機溶媒として,ベンゼン,トルエン,キシレン,CHCl3,ジクロロメタン,ジクロロエタンが記載されており,出荷時の溶媒であるTHF以外にも,一定範囲の溶媒について選択が可能である。また,各種文献(甲20,乙2)においても,THF以外の溶媒を用いることが可能であることが明記されている。
また,先に指摘したとおり,GPCを含む高速液体クロマトグラフィーでは,目的対象に適する分離モードと分離カラムの選択が重要であるとされている(乙1)ものであるから,当業者は,目的対象に適する測定条件(溶媒,流速,試料,測定機器等)を選択するものということができる。
したがって,原告が指摘する,THFがGPCにおける溶媒として用いられていること,カラム出荷時における溶媒を変更しないことが好ましいことをもってしても,なお,シランカップリング剤のGPC測定に係る測定条件が明示されていない本件明細書において,THFをカラムの溶媒として用いたものと開示されているとまではいうことができない。原告の主張は採用できない。
(3) 小括
以上からすると,本件明細書には,本件カラム及びTHFを使用したか否かを含め,シランカップリング剤のGPC測定に係る測定条件が開示されておらず,また,本件明細書の記載から,当業者が一般的な通常の測定条件によって測定されたものと理解することができるものということもできない。
そして,原告も,GPC測定において,一般的な通常の測定条件によって実験が行われない場合,測定結果が異なること,すなわち,GPC測定においては,測定条件が異なれば測定結果が異なること自体は争わないところ,シランカップリング剤のGPC測定において,溶媒を変更した場合(THF,トルエン,DMF),測定結果が有意に異なることは,甲5証明書から明らかである。
したがって,シランカップリング剤におけるA-1とA-2との面積比をGPC測定する場合の測定条件が明らかではない本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1ないし5及び9について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
よって,本件審決の実施可能要件に係る判断に誤りはない。
2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
(2) 本件発明の課題及び効果について
略
ウ以上からすると,本件発明1の効果,すなわち,①高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤が提供されること及び②保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤が提供されたことについては,いずれも比較例と実施例との対照において具体的に開示されているということができる。
エこの点について,被告は,本件発明における(A-1):(A-2)のGPCの面積比と実施例における面積比の上限はかけ離れていること,本件発明の構成が定める面積比とその効果との因果関係や技術的意義が全く記載されていないことなどから,本件明細書の記載によっては,当業者は,GPCの面積比「(A-1):(A-2)=100:1~100」の全ての範囲について,本件発明の課題を解決できるとは認識できないなどと主張する。
しかしながら,本件明細書には,数値範囲の下限及び上限について,数値範囲の意義((A-1):(A-2)=100:1未満である場合,実質的なオリゴマーの効果が発現しない傾向があり,100:100を超える場合,接着剤の接着強度の低下や,接着剤の保存安定性が低下する傾向がある。)が記載されており,その範囲内の効果についても,「A-1とA-2とが,GPCの面積比で,(A-1):(A-2)=100:1ないし100であることが好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.1ないし80であることがより好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.2ないし60であることがさらに好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.3ないし40であることが最も好ましい。」と指摘し,さらに,上記数値内における適宜の構成を選択した実施例において,接着強度等の効果についての試験結果が明示されているのであるから,被告が指摘する実施例による開示が少ない点は,上記結論を左右するものではない。被告の主張は採用できない。
(3) 本件審決のサポート要件に係る判断について
ア本件審決は,本件発明1の課題について,①高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤が提供されたこと及び②保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤が提供されたこと認定しており,本件発明1の課題に関する認定については,何らの誤りはない。
しかしながら,本件審決は,サポート要件の判断において,②接着剤の保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤の提供という課題についてのみ,当業者が認識することができるか否かについて判断を行い,①の「高接着力で信頼性が高い接着剤」の提供なる解決課題が解決できるか否かについての判断を行っていない。
また,先に指摘したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に係る接着剤の接着力について,その効果が実施例として具体的に開示されているのであるから,本件審決のサポート要件の判断には,本件明細書の発明の詳細な説明の記載内容に関する認定自体に誤りがあるものというほかない。
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イ本件審決は,本件発明1について説示した理由と実質的に同一の理由により,本件発明6ないし8及び10がサポート要件に違反すると判断しているところ,本件審決における本件発明1のサポート要件に係る判断が誤りである以上,本件発明6ないし8及び10についても,本件審決のサポート要件に係る判断が誤りであることは明らかである。
なお,原告の主張に鑑み付言すると,本件審決は,サポート要件の判断について,「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」の点について判断をするとした上で,本件発明は,サポート要件を欠くものと判断しているところ,本件発明6ないし8及び10は,いずれも「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」について何らかの特定を有する発明ではないから,「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」についてのみ検討した上で,本件発明1ないし5及び9と実質的に同一の理由により,本件発明6ないし8及び10についてもサポート要件を満たさないとした本件審決の判断は,それ自体誤りであるというべきである。
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(4) 小括
以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明に関するサポート要件に係る本件審決の判断は誤りであるところ,取消事由1において先に述べたとおり,本件発明1ないし5及び9にかかる特許は,実施可能要件を欠き無効にすべきであるとの本件審決の判断は,サポート要件に係る本件審決の判断の誤りとは関係がなく,相当であるから,サポート要件に違反するとした本件審決の判断は,本件発明6ないし8及び10に係る部分についてのみ,相当でなく,取消しを免れない。
3 結論
以上の次第であるから,原告の請求は,主文1項掲記の限度で,認容されるべきものである。
判決原文(引用)
(知財高裁平成23年2月10日判決(平成22年(行ケ)第10153号審決取消請求事件))
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1 取消事由1(実施可能要件に係る判断の誤り)について
(1) 実験成績証明書(甲5)を前提とした判断の誤りについて
原告は,本件明細書において,シランカップリング剤のGPC測定に用いられたGPCカラム及びその溶媒として,本件カラム及びTHFが使用されたことが開示されていると解されることを前提として,取消事由1を主張する。
そこで,まず,本件明細書におけるGPC測定に係る記載について検討する。
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ア本件明細書の記載について
本件明細書のGPC測定に関する記載を要約すると,以下のとおりである。
(ア) 本件発明1は,シランカップリング剤をGPC測定した際,A-1とA-2とが,GPCの面積比で,(A-1):(A-2)=100:1~100を満たすことをその構成に含む発明である。
本件発明のシランカップリング剤中の縮合物の量はGPC測定で確認できる。あらかじめ原液のシランカップリング剤(A)を測定し,続いてシランカップリング剤(SCO)を測定すると,シランカップリング剤(A)に帰属されるピークの短時間側にオリゴマーのピークが観察される。
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(イ) 本件発明の実施例として,以下の調製例を示す。
【調製例1】シランカップリング剤(A)と,シランカップリング剤(A)が縮合したオリゴマーとで構成されるシランカップリング剤(SCO-1)の作製蒸留水1gとメチルエチルケトン99gを計りとり,混合して均一溶液(B-1)を作製した。(B-1)25gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン75gを混合して,室温(25℃)で1日放置してシランカップリング剤(SCO-1)を作製した。カップリング剤100重量部に対して水は0.33重量部となる。シランカップリング剤(SCO-1)のGPC測定の結果,シランカップリング剤(A)の単分子(A-1)と,シランカップリング剤(A)の2分子が縮合した分子(A-2)は,GPCの面積比で(A-1):(A-2)=100:1.6であった。
【調製例2】シランカップリング剤(A)と,シランカップリング剤(A)が縮合したオリゴマーとで構成されるシランカップリング剤(SCO-2)の作製蒸留水5gとメチルエチルケトン95gを計りとり,混合して均一溶液(B-2)を作製した。(B-2)25gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン75gを混合して,室温(25℃)で1日放置してシランカップリング剤(SCO-2)を作製した。カップリング剤100重量部に対して水は1.66重量部となる。シランカップリング剤(SCO-2)のGPC測定の結果,シランカップリング剤(A)の単分子(A-1)と,シランカップリング剤(A)の2分子が縮合した分子(A-2)は,GPCの面積比で(A-1):(A-2)=100:29.4であった。
【比較調製例1】シランカップリング剤(A)のオリゴマー(1’)の作製蒸留水9gとアセトン16gを計りとり,混合して均一溶液(B-2’)を作製した。(B-2’)25gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン75gを混合して,50℃で1日加熱してシランカップリング剤(A)のオリゴマー(1’)を作製した。カップリング剤100重量部に対して水は12重量部となる。シランカップリング剤(A)のオリゴマー(1’)のGPC測定の結果,シランカップリング剤(A)の単分子のピークは検出されず,シランカップリング剤(A)の2分子が縮合した分子や,それ以上縮合したオリゴマーのピークが検出された。
【合成実験例1】フィルム形成材(C)の合成
フェノキシ樹脂(Ph-1)の合成
4,4-(9-フルオレニリデン)-ジフェノール45g,3,3',5,5'-テトラメチルビフェノールジグリシジルエーテル50gをN-メチルピロリジオン1000mlに溶解し,これに炭酸カリウム21gを加え,110℃で攪拌した。3時間攪拌後,多量のメタノールに滴下し,生成した沈殿物をろ取してフェノキシ樹脂(Ph-1)を75g得た。分子量を東ソー株式会社製GPC8020,本件カラム,流速1.0ml/minで測定した結果,ポリスチレン換算でMn=12,500,Mw=30,300,Mw/Mn=2.42であった。
イ本件明細書におけるGPC測定に関する開示事項
(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明におけるGPC測定に関する記載は,前記アのとおりであるところ,GPC測定に用いられたカラムについては,合成実験例1において,フィルム形成材の合成について,フェノキシ樹脂の分子量をGPC測定した際,本件カラムが用いられたことが記載されている。
しかしながら,シランカップリング剤の作製については,調製例1及び2並びに比較調製例1において,シランカップリング剤の調製例が記載されているところ,かかる調製例では,いずれもシランカップリング剤をGPC測定したことが記載されているものの,その際に使用されたGPC及び当該GPC測定に用いられたカラムについては,いずれもその製造メーカーすら,特定されていない。
したがって,本件明細書には,シランカップリング剤のGPC測定が原告主張のように本件カラムにより行われたことを直接示す記載は存在しないといわなければならない。
(イ) 原告は,合成実験例1で本件カラムが用いられていることから,調整例1及び2並びに比較調整例1においても,本件カラムが用いられていると解するのが当然であるかのように主張するが,本件明細書の調製例1のシランカップリング剤(γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)に含まれる物質の分子量は,2分子が縮合した分子でも500以下であるところ,合成実験例1に記載されたフェノキシ樹脂の分子量は,ポリスチレン換算でMn=12,500,Mw=30,300であり,両者はその分子量において大きく異なるものであるし,分子構造自体も異なるものであって,原告の主張を採用するのは困難である。
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(ウ) しかも,本件明細書において,シランカップリング剤におけるGPC測定と,フェノキシ樹脂に関するGPC測定について,同一の条件で実施したことに関する明示の記載はない。
また,本件明細書の記載順についても,シランカップリング剤の調製例に関する記載(【0028】~【0030】)においては,GPC測定におけるカラムに関する記載がされず,しかも,GPCに関する記載も,測定の結果としてのA-1とA-2との面積比が記載されている(シランカップリング剤のオリゴマーを作成した比較調製例1を除く)のみであるが,その後に記載されたフェノキシ樹脂の合成実験例(【0031】)においては,測定条件(使用機器,流速,本件カラム)についても記載されているものである。
(エ) したがって,測定内容(面積比・分子量),測定対象(シランカップリング剤・フェノキシ樹脂)の分子量及び分子構造の相違を捨象し,本件明細書において,シランカップリング剤のGPC測定が,フェノキシ樹脂におけるGPC測定と同一の条件で実施されたものと開示されているとまで,いうことはできない。
(オ) この点について,原告は,前記主張のほか,本件カラムは,GPCにおいて周知のカラムである,一般的な通常の測定条件により測定が行われる限り,測定結果は異なるものではないから,本件発明において,GPCに関する個別事項の詳細について記載する必要はない,本件明細書において,GPCの測定条件を調製例等ごとに変更した旨の記載はないなどと主張する。
しかしながら,GPCは,高分子物質の各種平均分子量及び分子量分布が同時に測定でき,しかも測定可能な分子量範囲が,数百ないし数千万と広いという特徴を有するところ(甲18),GPCを含む高速液体クロマトグラフィーにおいては,近年,高い機能と効率を有する充 剤の開発により,金属イオンから生体高分子まで分離対象が広がっており,目的対象に適する分離モードと分離カラムの選択が重要であるとされている(乙1)から,本件明細書において,当業者が,シランカップリング剤をGPC測定した際に使用したカラムが,フェノキシ樹脂をGPC測定した際のカラムと同じであると直ちに理解するものということはできない。
また,本件カラムが,GPC測定における周知のカラムであったとしても,シランカップリング剤におけるA-1とA-2との面積比をGPC測定する場合におけるカラムとして,当業者において周知であったことを裏付けるに足りる的確な証拠はない。本件明細書においては,原告が強調する「一般的な通常の測定条件」により測定が行われたか否か自体が不明であり,仮にフェノキシ樹脂の分子量の測定と同様の条件が,シランカップリング剤におけるA-1とA-2との面積比をGPC測定する場合における「一般的な通常の測定条件」であるならば,むしろ本件明細書において,同一の測定条件を用いたことを明記すべきものというべきである。
原告の主張は採用できない。
(2) GPCカラムの溶媒が記載されていないとした判断の誤りについて
前記(1)のとおり,本件明細書において,シランカップリング剤のGPCにおける測定条件が開示されていない以上,本件明細書において,GPCカラムの溶媒についても開示されているものではないことは明らかである。
この点について,原告は,当業者にとって,カラムの出荷時の封入溶媒と同じものを溶離液として用いる場合は問題ないとされていること,本件明細書に記載された本件カラムの溶媒がTHFであることは周知であること,GPCの溶媒として最もよく用いられる溶媒はTHFとされていること,THFがシランカップリング剤を溶解させ,GPCの溶媒として用いられることが周知であることなどからすると,本件発明において,本件カラム出荷時の溶媒であるTHFについて,本件明細書に記載しなかったことが,記載不備であるということはできないなどと主張する。
しかしながら,仮にシランカップリング剤のGPC測定について,本件カラムを用いたとしても,同カラムの取扱説明書(甲15)には,交換可能な有機溶媒として,ベンゼン,トルエン,キシレン,CHCl3,ジクロロメタン,ジクロロエタンが記載されており,出荷時の溶媒であるTHF以外にも,一定範囲の溶媒について選択が可能である。また,各種文献(甲20,乙2)においても,THF以外の溶媒を用いることが可能であることが明記されている。
また,先に指摘したとおり,GPCを含む高速液体クロマトグラフィーでは,目的対象に適する分離モードと分離カラムの選択が重要であるとされている(乙1)ものであるから,当業者は,目的対象に適する測定条件(溶媒,流速,試料,測定機器等)を選択するものということができる。
したがって,原告が指摘する,THFがGPCにおける溶媒として用いられていること,カラム出荷時における溶媒を変更しないことが好ましいことをもってしても,なお,シランカップリング剤のGPC測定に係る測定条件が明示されていない本件明細書において,THFをカラムの溶媒として用いたものと開示されているとまではいうことができない。原告の主張は採用できない。
(3) 小括
以上からすると,本件明細書には,本件カラム及びTHFを使用したか否かを含め,シランカップリング剤のGPC測定に係る測定条件が開示されておらず,また,本件明細書の記載から,当業者が一般的な通常の測定条件によって測定されたものと理解することができるものということもできない。
そして,原告も,GPC測定において,一般的な通常の測定条件によって実験が行われない場合,測定結果が異なること,すなわち,GPC測定においては,測定条件が異なれば測定結果が異なること自体は争わないところ,シランカップリング剤のGPC測定において,溶媒を変更した場合(THF,トルエン,DMF),測定結果が有意に異なることは,甲5証明書から明らかである。
したがって,シランカップリング剤におけるA-1とA-2との面積比をGPC測定する場合の測定条件が明らかではない本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1ないし5及び9について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
よって,本件審決の実施可能要件に係る判断に誤りはない。
2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
(1) 本件明細書の記載について
本件明細書(甲3)の記載を要約すると,以下のとおりである。
ア本件発明は,接着剤,それを用いた回路接続構造体及びその製造方法に関する。
近年,半導体や液晶ディスプレイなどの分野で電子部品を固定したり,回路接続を行うために各種の接着材料が使用されているが,かかる用途では,接着剤にも高い接着力や信頼性が求められている。
しかしながら,従来の接着剤及び回路接続用接着剤である異方導電性接着剤は,各種基板に対する接着力が不十分で,十分な接続信頼性が得られない,各種基板に対する接着力のロットばらつきが発生し,高い歩留まりで良品を量産することが極めて困難な場合があるなどの課題を有していた。
本件発明は,高接着力で信頼性が高い接着剤を提供し,さらにロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能とする接着剤を提供し,さらには回路接続用接着剤及びそれを用いた回路接続構造体を提供するのみならず,接着剤の保管時,使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与えるとともに,接着後においては長期間の接着強度の保持が可能となる接着剤,接着剤の製造方法,接続構造体を提供する。
イ本件発明1は,アルコキシシラン結合(Si-O-R)を有するシランカップリング剤(A)と,シランカップリング剤(A)が縮合したオリゴマーとで構成されるシランカップリング剤(SCO)を含む接着剤であって(ただし,Rは同一でも異なっていても良く,炭素数1~18の直鎖,または分岐鎖を有するアルキル基,シクロアルキル基,フェニル基,ベンジル基である。),前記シランカップリ ング剤(SCO)が,シロキサン(Si-O-Si)結合を含み,かつ,前記シランカップリング剤(SCO)をGPC測定した際に,シランカップリング剤(A)の単分子(A-1)と,シランカップリング剤(A)の2分子が縮合した分子(A-2)が,GPCの面積比で,(A-1):(A-2)=100:1~100を満たすことを特徴とする接着剤に関し,高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤を提供するものであるとともに,当該接着剤の保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤を提供するものである。
ウ前記シランカップリング剤(SCO)におけるA-1とA-2とが,GPCの面積比で,(A-1):(A-2)=100:1ないし100であることが好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.1ないし80であることがより好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.2ないし60であることがさらに好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.3ないし40であることが最も好ましい。(A-1):(A-2)=100:1未満である場合,実質的なオリゴマーの効果が発現しない傾向があり,(A-1):(A-2)=100:100を超える場合,接着剤の接着強度の低下や,接着剤の保存安定性が低下する傾向がある。
エ本件発明の接着剤において,実施例1ないし4では,全サンプルで良好な接続抵抗を示し,かつ接着強度も高く,さらに耐湿試験後でもその接着強度は低下せず,耐湿試験後の接着面の外観も良好であったが,比較例では,耐湿試験後の接続抵抗が悪化し,一部のサンプルで耐湿試験後の接着面の外観が悪化した。
このように,本件発明1は,高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤を提供することができるとともに,当該接着剤の保管時や,使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤を提供することができる。
(2) 本件発明の課題及び効果について
ア本件明細書によれば,本件発明が前提とする従来技術の問題点は,電子部品を固定したり,回路接続を行うための各種接着剤においては,高い接着力や信頼性が求められるところ,従来の接着剤は,各種基板に対する接着力が不十分であり,十分な接続信頼性が得られず,また,各種基板に対する接着力のロットばらつきが発生し,高い歩留まりで良品を量産することが極めて困難な場合があったという点にある。
そして,本件発明は,かかる従来技術の問題点に対し,①高接着力で信頼性が高い接着剤を提供し,さらにロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能とする接着剤を提供すること及び②接着剤の保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与えるとともに,接着後においては長期間の接着強度の保持が可能となる接着剤を提供することを,その目的として指摘している。
また,本件発明1の効果は,A-1とA-2との面積比が,(A-1):(A-2)=100:1ないし100であれば,オリゴマーの効果,すなわち,高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤,保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤の製造が可能となり,かつ,接着剤の接着強度低下,保存安定性の低下は生じないというものである,
イ本件明細書において,本件発明の接着剤を用いた実施例1ないし4に対する初期及び耐湿後の接続抵抗,接着強度並びに耐湿後外観検査の結果が比較例と対照しつつ具体的に示されており,また,本件発明1の効果として,高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤を提供することができるとともに,当該接着剤の保管時や,使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤の提供と記載されている。
ウ以上からすると,本件発明1の効果,すなわち,①高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤が提供されること及び②保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤が提供されたことについては,いずれも比較例と実施例との対照において具体的に開示されているということができる。
エこの点について,被告は,本件発明における(A-1):(A-2)のGPCの面積比と実施例における面積比の上限はかけ離れていること,本件発明の構成が定める面積比とその効果との因果関係や技術的意義が全く記載されていないことなどから,本件明細書の記載によっては,当業者は,GPCの面積比「(A-1):(A-2)=100:1~100」の全ての範囲について,本件発明の課題を解決できるとは認識できないなどと主張する。
しかしながら,本件明細書には,数値範囲の下限及び上限について,数値範囲の意義((A-1):(A-2)=100:1未満である場合,実質的なオリゴマーの効果が発現しない傾向があり,100:100を超える場合,接着剤の接着強度の低下や,接着剤の保存安定性が低下する傾向がある。)が記載されており,その範囲内の効果についても,「A-1とA-2とが,GPCの面積比で,(A-1):(A-2)=100:1ないし100であることが好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.1ないし80であることがより好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.2ないし60であることがさらに好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.3ないし40であることが最も好ましい。」と指摘し,さらに,上記数値内における適宜の構成を選択した実施例において,接着強度等の効果についての試験結果が明示されているのであるから,被告が指摘する実施例による開示が少ない点は,上記結論を左右するものではない。被告の主張は採用できない。
(3) 本件審決のサポート要件に係る判断について
ア本件審決は,本件発明1の課題について,①高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤が提供されたこと及び②保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤が提供されたこと認定しており,本件発明1の課題に関する認定については,何らの誤りはない。
しかしながら,本件審決は,サポート要件の判断において,②接着剤の保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤の提供という課題についてのみ,当業者が認識することができるか否かについて判断を行い,①の「高接着力で信頼性が高い接着剤」の提供なる解決課題が解決できるか否かについての判断を行っていない。
また,先に指摘したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に係る接着剤の接着力について,その効果が実施例として具体的に開示されているのであるから,本件審決のサポート要件の判断には,本件明細書の発明の詳細な説明の記載内容に関する認定自体に誤りがあるものというほかない。
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イ本件審決は,本件発明1について説示した理由と実質的に同一の理由により,本件発明6ないし8及び10がサポート要件に違反すると判断しているところ,本件審決における本件発明1のサポート要件に係る判断が誤りである以上,本件発明6ないし8及び10についても,本件審決のサポート要件に係る判断が誤りであることは明らかである。
なお,原告の主張に鑑み付言すると,本件審決は,サポート要件の判断について,「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」の点について判断をするとした上で,本件発明は,サポート要件を欠くものと判断しているところ,本件発明6ないし8及び10は,いずれも「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」について何らかの特定を有する発明ではないから,「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」についてのみ検討した上で,本件発明1ないし5及び9と実質的に同一の理由により,本件発明6ないし8及び10についてもサポート要件を満たさないとした本件審決の判断は,それ自体誤りであるというべきである。
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(4) 小括
以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明に関するサポート要件に係る本件審決の判断は誤りであるところ,取消事由1において先に述べたとおり,本件発明1ないし5及び9にかかる特許は,実施可能要件を欠き無効にすべきであるとの本件審決の判断は,サポート要件に係る本件審決の判断の誤りとは関係がなく,相当であるから,サポート要件に違反するとした本件審決の判断は,本件発明6ないし8及び10に係る部分についてのみ,相当でなく,取消しを免れない。
3 結論
以上の次第であるから,原告の請求は,主文1項掲記の限度で,認容されるべきものである。
判決原文(全文)
平成22(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成23年02月10日 知的財産高等裁判所
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平成23年2月10日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(行ケ)第10153号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年1月18日
判 決
主 文
1 特許庁が無効2009-800104号事件について平成22年4月6日にした審決中,特許第4165065号の請求項6ないし8及び10に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その3を原告の,その余を被告の各負担とする。
第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の有する下記2の本件発明に係る本件特許に対する被告の特許無効審判請求について,特許庁が,本件訂正を認めた上,本件特許を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件特許(甲1,3)
発明の名称:接着剤,接着剤の製造方法及びそれを用いた回路接続構造体の製造方法
出願日:平成13年12月27日
登録日:平成20年8月8日
特許番号:第4165065号
(2) 審判手続及び本件審決
審判請求日:平成21年5月20日(無効2009-800104号)
訂正請求日:平成21年8月17日(甲3。以下「本件訂正」という。なお,本件訂正に係る明細書を「本件明細書」という。)
審決日:平成22年4月6日
審決の結論:訂正を認める。特許第4165065号の請求項1ないし10に係る発明についての特許を無効とする。
審決謄本送達日:平成22年4月14日(原告に対する送達日)
2 本件発明の要旨
本件審決が対象とした発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された各発明(以下,順次,「本件発明1」ないし「本件発明10」といい,総称して,「本件発明」という。)であって,その要旨は,次のとおりである。
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【請求項1】アルコキシシラン結合(Si-O-R)を有するシランカップリング剤(A)と,シランカップリング剤(A)が縮合したオリゴマーと,で構成されるシランカップリング剤(SCO)を含む接着剤であって(但し,Rは同一でも異なっていても良く,炭素数1~18の直鎖,または分岐鎖を有するアルキル基,シクロアルキル基,フェニル基,ベンジル基である。),前記シランカップリング剤(SCO)が,シロキサン(Si-O-Si)結合を含み,かつ,前記シランカップリング剤(SCO)をGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)測定した際に,シランカップリング剤(A)の単分子(A-1)と,シランカップリング剤(A)の2分子が縮合した分子(A-2)が,GPCの面積比で,(A-1):(A-2)=100:1~100を満たすことを特徴とする接着剤
【請求項2】前記シランカップリング剤(SCO)が,メタクリロイル基またはアクリロイル基とアルコキシシラン構造を有するシランカップリング剤(A)が縮合したオリゴマーを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の接着剤
【請求項3】さらに,フィルム形成材(C),シランカップリング剤(SCO)以外のラジカル重合性化合物(D),ラジカル発生剤(E)を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項2のいずれか一項に記載の接着剤
【請求項4】さらに,フィルム形成材(C),エポキシ樹脂(G),潜在性硬化剤(H)を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項2のいずれか一項に記載の接着剤
【請求項5】さらに,導電性粒子(F)を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の接着剤
【請求項6】あらかじめ水(B)と溶媒(I)を混合して水溶液を調整し,これにアルコキシシラン結合(Si-O-R)を有するシランカップリング剤(A)を混合して(但し,Rは同一でも異なっていても良く,炭素数1~18の直鎖,または分岐鎖を有するアルキル基,シクロアルキル基,フェニル基,ベンジル基である。),シランカップリング剤(A)とシランカップリング剤(A)が縮合したオリゴマーとで構成されシロキサン(Si-O-Si)結合を含むシランカップリング剤(SCO)を調整し,このシランカップリング剤(SCO)と,フィルム形成材(C),シランカップリング剤(SCO)以外のラジカル重合性化合物(D),ラジカル発生剤(E)を混合することを特徴とする接着剤の製造方法
【請求項7】あらかじめ水(B)と溶媒(I)を混合して水溶液を調整し,これにアルコキシシラン結合(Si-O-R)を有するシランカップリング剤(A)を混合して(但し,Rは同一でも異なっていても良く,炭素数1~18の直鎖,または分岐鎖を有するアルキル基,シクロアルキル基,フェニル基,ベンジル基である。),シランカップリング剤(A)とシランカップリング剤(A)が縮合したオリゴマーとで構成されシロキサン(Si-O-Si)結合を含むシランカップリング剤(SCO)を調整し,このシランカップリング剤(SCO)とフィルム形成材(C),エポキシ樹脂(G),潜在性硬化剤(H)を混合することを特徴とする接着剤の製造方法
【請求項8】さらに,導電性粒子(F)を混合することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の接着剤の製造方法
【請求項9】接着剤を相対向する回路電極を有する基板間に介在させ,相対向する回路電極を有する基板を加圧して加圧方向の電極間を電気的に接続した接続構造体であって,接着剤が請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の接着剤である回路接続構造体の製造方法
【請求項10】請求項6ないし請求項8のいずれか一項に記載の方法で得られた接着剤を相対向する回路電極を有する基板間に介在させ,相対向する回路電極を有する基板を加圧して加圧方向の電極間を電気的に接続した回路接続構造体
3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,①本件発明1ないし5及び9については,本件明細書の発明の詳細な説明の記載はいわゆる実施可能要件に違反し,また,②本件特許の特許請求の範囲の記載がいわゆるサポート要件に違反するものであるから,本件発明に係る本件特許は無効とすべきものである,というものである。
なお,本件審決は,上記①については,実験成績証明書(甲5)における実験結果を参酌すると,単一のシランカップリング剤のオリゴマー組成物につきGPC測定する場合であっても,展開溶媒の種別なる1つの測定条件の変化により有意にモノマー:ダイマーの面積比が変化するものと解するのが自然であるとし,カラム,展開溶媒等のGPCに係る測定条件が具体的に記載されていない以上,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,本件発明1ないし5及び9を当業者が実施しようとする場合において,当該モノマー:ダイマーの面積比により「シランカップリング剤(SCO)を選択することが困難であるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載はいわゆる実施可能要件に違反するとしている。
また,上記②については,本件明細書の発明の詳細な説明には,「シランカップリング剤」と「オリゴマー」との割合につき,「(A-1):(A-2)=100:1~100」の範囲とすることを発明特定事項とする訂正後の請求項に係る技術事項を具備するものが全て本件発明が解決しようとする課題を解決できると当業者が認識することができるように記載されているものとはいえず,出願時の当業界の技術常識に照らして当業者が検討しても,本件発明が上記解決すべき課題を解決することができると認識することができるものということができないとして,本件特許の特許請求の範囲の記載はいわゆるサポート要件に違反するとしている。
〔原告の主張〕
(1) 実験成績証明書(甲5)を前提とした判断の誤りについて
ア本件審決は,被告作成に係る実験成績証明書(甲5。以下「甲5証明書」と
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いう。)について,その実験手法及び結果を相当なものであるとして採用し,同証
明書の記載に基づいて,本件発明1ないし5及び9に係る本件特許は,実施可能要
件を欠き,無効とすべきであるとした。
しかしながら,本件明細書【0031】において,シランカップリング剤のGP
C(Gel Permeation Chromatography。ゲル浸透クロマトグラフィー。甲18)測
定(以下,単に「GPC」ということがある。)の際に用いられたGPCカラムと
して,東ソー株式会社製の商品名「TSKgelG3000HXL及びTSKge
lG4000HXL」のカラム(以下「本件カラム」という。)が明記されている
ものである。そして,当該カラムは,GPCにおいて周知のカラムであり,出荷当
時の展開溶媒が,THF(テトラヒドロフラン)であることも,取扱説明書等(甲
15,16)において明示されているとおり,当業者に周知の事項である。
また,本件カラムの取扱説明書(甲15)には,溶媒を交換すると,カラムの性
能低下の原因となること等から,出荷時の溶媒(THF)を用いることが望ましい
との注意がされているところ,本件明細書には,本件カラムについて,その溶媒を,
出荷時の状態であるTHFから,他の溶媒に交換した旨の記載はない。
しかも,THFが,シランカップリング剤を溶解し,そのGPCにおける溶媒と
して通常使用されることは,本件特許出願前から当業者に周知である(甲17)。
したがって,本件カラムを用いてシランカップリング剤の分析を行う場合,出荷
時のTHFに代えて,他の溶媒に変更する必要はないものである。
イGPCにおいて,そのピーク面積は,通常,各成分のピークとベースライン
との間の面積に比例するから,当業者が通常行う条件で測定が行われる場合,サン
プルの調整方法や濃度などの測定条件の全てについて常に逐一記載する必要はない。
また,対象物質の分子量や測定目的に応じて,GPCの溶媒を常に変更しなけれ
ばならない必然性があるものでもない。GPCでは,試料を溶かす溶媒を選定する
ことが重要であり,試料を溶かすことができるならば,試料の分子量や測定目的が
変わる毎に,溶媒を変更する必要はない(甲20)。
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したがって,GPCの測定条件に関する個別事項の詳細まで,常に逐一明細書に
記載する必要はなく,実際,被告出願に係るものも含め,GPCについて,溶媒や
測定条件の詳細が格別記載されていない明細書も多い(甲10~13,19)。
通常の測定条件と異なる特殊な条件においてGPC測定がされた場合,測定結果
が異なることはあり得るものの,一般的な通常の測定条件により測定が行われる限
り,結果は異なるものではないから,当該技術分野における慣用のGPC面積比を
構成要件とする本件発明において,殊更,特許請求の範囲ないし発明の詳細な説明
に,GPCに関する個別事項の詳細について記載する必要はない。もちろん,本件
明細書において,特殊な条件においてGPCを行ったことを示唆する記載もない。
ウ本件明細書には,合成実験例1(【0031】)について,フェノキシ樹脂
を本件カラムによりGPC測定した旨が記載されているのみならず,そのほかにも
GPC測定を行った旨が記載されているから,シランカップリング剤のGPCにお
いても,本件カラム及びTHFが使用されたことは,当業者にとって明らかである。
GPCは,低分子から高分子に至る化合物を測定対象とし得る測定方法であるこ
と,本件カラムの標準的な出荷時溶媒がTHFであること,THFがシランカップ
リング剤及びその縮合物を溶解し,シランカップリング剤及びその縮合物のGPC
溶媒として周知であること等に照らすと,フェノキシ樹脂とシランカップリング剤
の分子量の差異に関わらず,本件発明に係るシランカップリング剤及びその縮合物
のGPCについても,フェノキシ樹脂と同様に,本件カラムを用いたことは,本件
明細書に接した当業者が容易かつ自然に理解できることである。
エ甲5証明書は,本件カラムの展開溶媒を,THFのみならずトルエン等を用
いて実験しており,その実験手法は明らかに誤りであるし,その測定結果も,当業
者が通常用いない溶媒であるトルエン及びDMFを用いた場合,THFを用いた場
合の高効率かつ精緻な測定結果と比較して,低質な測定結果しか得られていない。
特に,本件審決が引用するトルエンは,疎水性溶媒であって,THFのような油
水親和性ではないことから,たとえGPC測定前に一定の水除去処理をしたとして
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も,シランカップリング剤の加水分解反応の原料水及びシランカップリング剤の縮
合反応時の副生水が共雑する危険性があるため,シランカップリング剤及びその縮
合物のGPC溶媒として,トルエンは通常用いられないものである。
したがって,甲5証明書のように,THFに代えて,トルエンないしDMFを溶
媒とすることは技術常識に反するものであり,当業者が行なう通常の測定手法に依
拠したものということはできない。
以上からすると,甲5証明書を前提として,本件明細書について実施可能要件を
欠くものとした本件審決の判断は誤りである。
(2) GPCカラムの溶媒が記載されていないとした判断の誤りについて
本件審決は,本件明細書には,GPCの展開溶媒についての測定条件が具体的に
記載されていない点を,記載不備であるとする。
しかしながら,当業者にとって,本件明細書に記載された本件カラムの溶媒がT
HFであることは,先に指摘したとおり,自然かつ容易に理解できる自明の事項で
あり,同明細書に記載されているに等しい事項である。
また,GPCの溶媒として最もよく用いられる溶媒はTHFとされていること,
文献(甲20)において,カラムの出荷時の封入溶媒と同じものを溶離液として用
いる場合は問題ないとされていること,THFがシランカップリング剤を溶解させ,
GPCの溶媒として用いられることが周知であることを考慮すると,本件発明にお
いて,本件カラム出荷時の溶媒であるTHFについて,本件明細書に記載しなかっ
たことが,記載不備であるということはできない。
(3) 小括
以上からすると,本件明細書について実施可能要件を欠くものとして,本件発明
1ないし5及び9に係る特許を無効とすべきであるとした本件審決の判断は誤りで
あって,取消しを免れない。
〔被告の主張〕
(1) 実験成績証明書(甲5)を前提とした判断の誤りについて
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ア本件明細書【0031】には,フィルム形成材(フェノキシ樹脂)について,
本件カラムによりGPCを行った旨を記載しているにすぎず,シランカップリング
剤の面積比について,GPCを行った旨を記載しているものではない。
【0031】には,非常に高分子量(Mn=12,500,Mw=30,300)の
フェノキシ樹脂の分子量を測定した旨の記載があるものの,「シランカップリング
剤(A)の単分子(A-1。以下,単に「A-1」ということがある。)と,シラ
ンカップリング剤(A)の2分子が縮合した分子(A-2。以下,単に「A-2」
ということがある。)のGPCの面積比の測定方法」は,分子量ではなく,その面
積比を測定するものであるし,本件明細書の調製例1(【0028】)で開示され
ているシランカップリング剤(γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)
は,上記フェノキシ樹脂と比較すると,はるかに低分子量である。
また,フェノキシ樹脂とシランカップリング剤及びその2分子が縮合した縮合物
の分子構造は,全く異なるものである。
以上からすると,上記各測定は,目的(面積比・分子量),測定対象(シランカ
ップリング剤・フェノキシ樹脂),測定対象の分子量(低分子量・高分子量),分
子構造等が大きく異なるものであるから,測定に用いるカラムが同じであるという
ことはできず,本件明細書にフェノキシ樹脂の分子量測定におけるGPCについて
開示されていることをもって,シランカップリング剤の単分子と2分子が縮合した
分子との面積比測定におけるGPCについても,同様に行われたものとして開示さ
れているということはできない。
イ本件明細書には,シランカップリング剤の面積比に関するGPCを,本件カ
ラムを用いて行ったことは,一切記載されていない。
確かに,本件カラムはGPCに用いられるカラムではあるものの,GPCに用い
られるカラムは多種多様であり,本件明細書に何ら記載されていない本件発明のシ
ランカップリング剤のGPC面積比の測定を本件カラムで行ったとする原告の主張
は,明らかにその根拠に欠けるものである。
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また,原告は,取扱説明書等(甲15~17)の記載を断片的に取り上げて,本
件カラムによりGPC測定する際の溶媒がTHFであることは当業者の技術常識で
あるなどと主張するが,かかる主張は誤りである。
確かに,取扱説明書(甲15)には,出荷時の溶媒がTHFであることが記載さ
れているが,同説明書には,溶媒交換可能な有機溶媒として,甲5証明書で使用さ
れたトルエンのほか,ベンゼン,キシレン,CHCl3,ジクロロメタン,ジクロ
ロエタンが記載されているから,本件カラムは,試料,分離目的により,有機溶媒
を自由に選択できるものということができる。
また,GPCを含む高速液体クロマトグラフィーにおいては,目的対象に適する
分離モードと分離カラムの選択が重要であるとされており(乙1),当業者は,分
離カラム決定後も,目的対象に適する分離モード(溶媒,流速,試料の調製,検出
器等)を適宜選択するものであるから,必ずしも出荷時の溶媒を使用するものでは
ない。
実際,シリコーンのGPCにおいて,展開溶媒としてトルエン,クロロホルム,
THFを用いることを明記する文献もある(乙2)。シランカップリング剤がトル
エン等の有機溶剤に溶解し,かつシランカップリング剤との反応性がないのである
から,シランカップリング剤又はその加水分解縮合物のGPC面積比の測定に用い
る展開溶媒として,トルエン等の有機溶媒を用いることに,何ら矛盾はない(乙4
等)。だからこそ,本件カラムの取扱説明書(甲15)にも,展開溶媒としてトル
エンが明記されているのである。
ウ甲5証明書において明らかなとおり,本件発明のGPC面積比は,トルエン
で測定した場合と,THFで測定した場合とでは,全く異なるものである。
数値限定された特許請求の範囲について,複数の測定法が知られており,いずれ
の方法を用いるのかが当業者において明らかとはいえず,しかも測定方法によって
数値に有意の差が生じる場合,数値限定の意味が失われるから,当該明細書の記載
は不十分であるというべきである。
-
11 -
以上からすると,甲5証明書を前提として,本件明細書について実施可能要件を
欠くものとした本件審決の判断に誤りはない。
(2) GPCカラムの溶媒が記載されていないとした判断の誤りについて
先に指摘したとおり,本件明細書において,シランカップリング剤のGPC測定
を,本件カラムを用いて行ったことは一切記載されていないのであるから,原告の
主張は,その前提を欠くものである。
本件明細書が実施可能要件を充足しない以上,原告指摘の各種特許文献(甲10
等)において,GPCの測定条件が明示されていないことは,上記結論を左右する
ものではない。
したがって,本件審決が,本件明細書には,シランカップリング剤のGPCに係
る測定条件について具体的に記載されていないとした判断に誤りはない。
(3) 小括
以上からすると,本件明細書について実施可能要件を欠くものとして,本件発明
1ないし5及び9に係る特許を無効とすべきであるとした本件審決の判断に誤りは
ない。
2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 本件発明の効果についての認定及び判断の誤りについて
ア本件審決は,本件発明が「(A-1):(A-2)=100:1~100」
とした点について,シランカップリング剤とオリゴマーとの割合が特定されていな
いとして,サポート要件に欠けるとするが,その前提として,本件明細書には,接
着剤の保存安定性に係る技術的事項や,長期保存安定性を与える接着剤の提供とい
う課題を当業者が解決できると認識する程度の記載が認められないとする。しかし
ながら,本件審決が,本件発明の解決課題ないし効果を接着剤の保存安定性等に限
定して認定し,その認定に基づいて,サポート要件を判断したことは,誤りである。
イ本件明細書には,高接着力で信頼性が高い接着剤を提供する等の課題に対し,
-
12 -
GPC面積比を「(A-1):(A-2)=100:1~100」と特定すること
により,オリゴマーの効果が発現するという技術的意義が記載されるとともに,実
施例において,初期及び耐湿後の接続抵抗,初期及び耐湿後の接着強度並びに耐湿
後外観検査の結果が開示されている。
このように,本件発明の解決すべき課題は,接着剤の保存安定性等のみに限定さ
れるものではなく,本件審決は,本件発明のGPC面積比を特定したことに基づく
上記各効果を看過したことにより,判断を誤ったものである。
ウシランカップリング剤は,使用時における加水分解性を有効に機能させるた
め,従前から,使用前は,極力水分との接触を避けて保存するのが通常であった。
本件発明は,かかる知見とは反対に,使用前の接着剤中のシランカップリング剤
に水を混合し,一定量の2分子縮合分子(A-2)を存在させることにより,シラ
ンカップリング剤の接着力等(接着力,長期間の接着強度,保存安定性,ロット間
のばらつき)を向上させることをその技術的思想とするものである。
そして,接着剤中に含まれるA-2の好適量について検討した結果,A-2を含
有させたことによる接着力等の向上効果は,A-1とA-2との量比が,GPC面
積比で100:1から顕著となること,100:100に至るまで有効であること
を見いだし,本件明細書においては,その量比について,「(A-1):(A-
2)=100:1~100であることが好ましく,(A-1):(A-2)=10
0:1.1~80であることがより好ましく,(A-1):(A-2)=100:
1.2~60であることがさらに好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.
3~40であることが最も好ましい。」(【0005】)と明記して,A-2の量
的範囲を段階的に説明し,さらに,本件発明では,GPC面積比で「(A-1):
(A-2)=100:1~100」と特定した。
すなわち,本件発明は,接着剤に含まれるシランカップリング剤中に,一定量の
A-2を存在させることを課題解決手段の本質とした発明であり,GPC面積比の
上限値及び下限値の数値そのもののみを課題解決手段とした発明ではない。
-
13 -
GPC面積比の具体的な数値は,接着剤中のA-2の好適量を,基本的なシラン
カップリング剤成分であるA-1の量との関係で,特許請求の範囲において,客観
的に明確化して表現し,記載したものであって,本件明細書の実施例は,発明の詳
細な説明に記載した上記範囲のうち,出願人が最良と判断したものを具体的に示し
たにすぎず,当該実施例のみにより本件発明の技術範囲が限定されるものではない。
エ本件発明のとおり,シランカップリング剤中のモノマーが縮合して2量体を
形成し,接着剤中にシランカップリング剤のモノマーのみならず一定量の2量体が
共存するに伴い,シランカップリング剤全体の活性基濃度が減少し,接着剤中のシ
ランカップリング剤の加水分解等の反応性が抑制されることから,環境中の水によ
る加水分解等に起因するシランカップリング剤の劣化が抑制されるとともに,接着
剤の保存安定性が向上することは,当業者が容易に理解し得ることである。
また,本件明細書の記載(【0005】等,実施例1~4)並びにシランカップ
リング剤及び接着剤の技術常識に鑑みれば,本件発明のGPC面積比の「100:
1~100」の範囲の全域で,本件発明の課題解決の効果が発揮されることは,当
業者が容易に理解し得ることである。
他方,シランカップリング剤のオリゴマー化が進行するにつれて,シランカップ
リング剤のA-2の割合が増加し,A-1の割合が減少すると,シランカップリン
グ剤のシラノール基等の官能基が縮合反応で消費されて減少し,接着に寄与する官
能基が減少するから,上限範囲(100:100)を超えると,徐々に接着剤とし
ての機能が低下することも,同様に,当業者が技術常識に基づいて容易に理解し得
ることである。
さらに,上記GPC面積比(100:1~100)の全域における「シランカッ
プリング剤の劣化」の抑制及びシランカップリング剤を含有した「接着剤の保存安
定性」向上の点についても,同様に,シランカップリング剤の加水分解反応性等か
ら,本件明細書に接した当業者が容易に理解し得ることである。
したがって,本件特許の特許請求の範囲の記載がいわゆるサポート要件に違反す
-
14 -
るものではないことは明らかである。
(2) 本件審決の判断手法及び条文適用の誤りについて
ア本件審決は,本件明細書の発明の詳細な説明には,シランカップリング剤と
オリゴマーとの割合につき,「(A-1):(A-2)=100:1~100」の
範囲とすることについて,発明が解決しようとする課題を解決できると当業者が認
識することができるように記載されているものとはいえず,出願時の当業界の技術
常識に照らして当業者が検討しても,本件発明が上記解決すべき課題を解決するこ
とができると認識することができるものということができないとした。
イしかしながら,パラメータ等の特異な形式で記載された発明であれば,本件
審決のように,サポート要件を厳格に判断すべきであるが,本件発明は,GPC面
積比についての数値限定発明であり,特異な形式で記載された発明ではないから,
本件審決のような,いわば実施可能要件をサポート要件の判断に取り込んだ,厳格
な判断手法を用いるのは相当ではない。
パラメータ等の特異な形式で記載された発明ではない場合には,サポート要件に
関する判断と実施可能要件に関する判断とは同一視できず,峻別すべきものである
から,本件審決は,本件特許についての判断手法及び適用条文を誤り,サポート要
件違反であると判断した点で,重大な誤りがあり,取消しを免れない。
なお,本件明細書の記載について,実施可能要件を充足することは,取消事由1
について先に指摘したとおりである。
(3) 小括
以上からすると,オリゴマーの効果が発現する点にも本件発明の技術的意義があ
るから,シランカップリング剤とオリゴマーとの割合に係る本件特許の特許請求の
範囲の記載がサポート要件に違反するものではなく,本件審決は,その技術的意義
を誤り,その結果として,本件発明に係る本件特許がサポート要件を欠き無効とす
べきであるとしたものであって,取消しを免れない。
〔被告の主張〕
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15 -
(1) 本件発明の効果についての認定及び判断の誤りについて
ア本件審決は,本件発明の効果として,高い歩留まりで良品を量産可能となる
接着剤を提供するものであるとともに,長期の保存安定性を与える接着剤を提供す
ることを解決課題とするものとしており,本件発明の解決課題ないし効果を,接着
剤の保存安定性に限定して,認定,判断したものではない。
本件審決は,その上で,「(A-1):(A-2)=100:1~100」の範
囲まで,本件発明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載されている
か否かの判断において,本件発明の解決課題ないし効果の中から,本件明細書にお
いて,上記比率について唯一言及されている「接着剤の保存安定性」を選択したに
すぎない。
イ本件発明は,「A-1とA-2が,GPCの面積比で(A-1):(A-
2)=100:1~100」との構成を開示するところ,本件明細書において実施
例として記載されているのは,「(A-1):(A-2)のGPCの面積比が10
0:1.6~29.4」の範囲にすぎず,両者の上限はかけ離れている。
本件発明の上記構成の実施例が存在しない範囲について,本件明細書に,これに
代わる技術思想が記載されているものではなく,また,関連する技術常識が存在す
るわけでもないから,本件明細書の記載によっては,本件発明の上記範囲とするこ
とにより,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤を提供するとともに,長期
の保存安定性を与える接着剤を提供できるか否か,不明である。
したがって,本件明細書の記載によっては,当業者は,GPCの面積比「(A-
1):(A-2)=100:1~100」の全ての範囲について,本件発明の課題
を解決できるとは認識できないものである。
原告は,上限範囲(100:100)を超えると,徐々に接着剤としての機能が
低下することは,当業者が技術常識に基づき容易に理解できることであるなどと主
張するが,かかる主張は,単に,シランカップリング剤の単分子(A-1)に対す
る2分子縮合分子(A-2)の相対的な比率が増大するに伴って,接着剤としての
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16 -
機能が徐々に低下していくという一般的傾向を説明しているにすぎず,本件明細書
には,上記範囲に限定される理由及び上限範囲を超えると接着剤の接着強度の低下
や,接着剤の保存安定性が低下する理由,すなわち,上記比率とその効果との因果
関係や技術的意義が全く記載されていないことを正当化し得るものではない。
したがって,本件明細書の記載によっては,GPCの面積比(A-1):(A-
2)が100:29.4を超えて100に至るまでの範囲について,当業者は本件
発明の課題を解決できるとは認識できない。
さらに,原告は,本件発明のとおり,シランカップリング剤中のモノマーが縮合
して2量体を形成し,接着剤中にシランカップリング剤のモノマーのみならず一定
量の2量体が共存すると,シランカップリング剤の劣化が抑制され,接着剤の保存
安定性が向上することは,当業者が容易に理解できることであるとも主張する。
しかしながら,仮に原告主張のとおりであれば,接着剤として周知のシランカッ
プリング剤に,シランカップリング剤の2量体を形成させることにより,環境中の
水による加水分解等に起因するシランカップリング剤の劣化を抑制し,接着剤の保
存安定性を向上させるという本件発明自体が,当業者が容易に想到し得たものとい
うことになる。原告の主張は,相当ではない。
(2) 本件審決の判断手法及び条文適用の誤りについて
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求
の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された
発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当
業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,
その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解
決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであると
ころ,サポート要件の存在は,特許出願人が証明責任を負うものである。
したがって,本件発明が,パラメータ等の特異な形式で記載された発明ではなく,
数値限定発明であるからといって,サポート要件の判断手法自体は変わらない。
-
17 -
原告は,本件発明が特異な形式で記載された発明に該当しない点を強調するが,
数値限定発明であっても,特許請求の範囲が,発明の詳細な説明に示された発明の
課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超える場合には,サポート要件違反
となることは明らかである。
特異な形式で記載された発明ではない場合,サポート要件に関する判断と実施可
能要件に関する判断とは同一視できず,峻別すべきものであるとの原告主張も,同
様に誤りであるというほかない。
(3) 小括
以上からすると,サポート要件に関する本件審決の判断には,何らの誤りはない。
1 取消事由1(実施可能要件に係る判断の誤り)について
(1) 実験成績証明書(甲5)を前提とした判断の誤りについて
原告は,本件明細書において,シランカップリング剤のGPC測定に用いられたGPCカラム及びその溶媒として,本件カラム及びTHFが使用されたことが開示されていると解されることを前提として,取消事由1を主張する。
そこで,まず,本件明細書におけるGPC測定に係る記載について検討する。
top
ア本件明細書の記載について
本件明細書のGPC測定に関する記載を要約すると,以下のとおりである。
(ア) 本件発明1は,シランカップリング剤をGPC測定した際,A-1とA-2とが,GPCの面積比で,(A-1):(A-2)=100:1~100を満たすことをその構成に含む発明である。
本件発明のシランカップリング剤中の縮合物の量はGPC測定で確認できる。あらかじめ原液のシランカップリング剤(A)を測定し,続いてシランカップリング剤(SCO)を測定すると,シランカップリング剤(A)に帰属されるピークの短時間側にオリゴマーのピークが観察される。
top
(イ) 本件発明の実施例として,以下の調製例を示す。
【調製例1】シランカップリング剤(A)と,シランカップリング剤(A)が縮合したオリゴマーとで構成されるシランカップリング剤(SCO-1)の作製蒸留水1gとメチルエチルケトン99gを計りとり,混合して均一溶液(B-1)を作製した。(B-1)25gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン75gを混合して,室温(25℃)で1日放置してシランカップリング剤(SCO-1)を作製した。カップリング剤100重量部に対して水は0.33重量部となる。シランカップリング剤(SCO-1)のGPC測定の結果,シランカップリング剤(A)の単分子(A-1)と,シランカップリング剤(A)の2分子が縮合した分子(A-2)は,GPCの面積比で(A-1):(A-2)=100:1.6であった。
【調製例2】シランカップリング剤(A)と,シランカップリング剤(A)が縮合したオリゴマーとで構成されるシランカップリング剤(SCO-2)の作製蒸留水5gとメチルエチルケトン95gを計りとり,混合して均一溶液(B-2)を作製した。(B-2)25gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン75gを混合して,室温(25℃)で1日放置してシランカップリング剤(SCO-2)を作製した。カップリング剤100重量部に対して水は1.66重量部となる。シランカップリング剤(SCO-2)のGPC測定の結果,シランカップリング剤(A)の単分子(A-1)と,シランカップリング剤(A)の2分子が縮合した分子(A-2)は,GPCの面積比で(A-1):(A-2)=100:29.4であった。
【比較調製例1】シランカップリング剤(A)のオリゴマー(1’)の作製蒸留水9gとアセトン16gを計りとり,混合して均一溶液(B-2’)を作製した。(B-2’)25gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン75gを混合して,50℃で1日加熱してシランカップリング剤(A)のオリゴマー(1’)を作製した。カップリング剤100重量部に対して水は12重量部となる。シランカップリング剤(A)のオリゴマー(1’)のGPC測定の結果,シランカップリング剤(A)の単分子のピークは検出されず,シランカップリング剤(A)の2分子が縮合した分子や,それ以上縮合したオリゴマーのピークが検出された。
【合成実験例1】フィルム形成材(C)の合成
フェノキシ樹脂(Ph-1)の合成
4,4-(9-フルオレニリデン)-ジフェノール45g,3,3',5,5'-テトラメチルビフェノールジグリシジルエーテル50gをN-メチルピロリジオン1000mlに溶解し,これに炭酸カリウム21gを加え,110℃で攪拌した。3時間攪拌後,多量のメタノールに滴下し,生成した沈殿物をろ取してフェノキシ樹脂(Ph-1)を75g得た。分子量を東ソー株式会社製GPC8020,本件カラム,流速1.0ml/minで測定した結果,ポリスチレン換算でMn=12,500,Mw=30,300,Mw/Mn=2.42であった。
イ本件明細書におけるGPC測定に関する開示事項
(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明におけるGPC測定に関する記載は,前記アのとおりであるところ,GPC測定に用いられたカラムについては,合成実験例1において,フィルム形成材の合成について,フェノキシ樹脂の分子量をGPC測定した際,本件カラムが用いられたことが記載されている。
しかしながら,シランカップリング剤の作製については,調製例1及び2並びに比較調製例1において,シランカップリング剤の調製例が記載されているところ,かかる調製例では,いずれもシランカップリング剤をGPC測定したことが記載されているものの,その際に使用されたGPC及び当該GPC測定に用いられたカラムについては,いずれもその製造メーカーすら,特定されていない。
したがって,本件明細書には,シランカップリング剤のGPC測定が原告主張のように本件カラムにより行われたことを直接示す記載は存在しないといわなければならない。
(イ) 原告は,合成実験例1で本件カラムが用いられていることから,調整例1及び2並びに比較調整例1においても,本件カラムが用いられていると解するのが当然であるかのように主張するが,本件明細書の調製例1のシランカップリング剤(γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)に含まれる物質の分子量は,2分子が縮合した分子でも500以下であるところ,合成実験例1に記載されたフェノキシ樹脂の分子量は,ポリスチレン換算でMn=12,500,Mw=30,300であり,両者はその分子量において大きく異なるものであるし,分子構造自体も異なるものであって,原告の主張を採用するのは困難である。
top
(ウ) しかも,本件明細書において,シランカップリング剤におけるGPC測定と,フェノキシ樹脂に関するGPC測定について,同一の条件で実施したことに関する明示の記載はない。
また,本件明細書の記載順についても,シランカップリング剤の調製例に関する記載(【0028】~【0030】)においては,GPC測定におけるカラムに関する記載がされず,しかも,GPCに関する記載も,測定の結果としてのA-1とA-2との面積比が記載されている(シランカップリング剤のオリゴマーを作成した比較調製例1を除く)のみであるが,その後に記載されたフェノキシ樹脂の合成実験例(【0031】)においては,測定条件(使用機器,流速,本件カラム)についても記載されているものである。
(エ) したがって,測定内容(面積比・分子量),測定対象(シランカップリング剤・フェノキシ樹脂)の分子量及び分子構造の相違を捨象し,本件明細書において,シランカップリング剤のGPC測定が,フェノキシ樹脂におけるGPC測定と同一の条件で実施されたものと開示されているとまで,いうことはできない。
(オ) この点について,原告は,前記主張のほか,本件カラムは,GPCにおいて周知のカラムである,一般的な通常の測定条件により測定が行われる限り,測定結果は異なるものではないから,本件発明において,GPCに関する個別事項の詳細について記載する必要はない,本件明細書において,GPCの測定条件を調製例等ごとに変更した旨の記載はないなどと主張する。
しかしながら,GPCは,高分子物質の各種平均分子量及び分子量分布が同時に測定でき,しかも測定可能な分子量範囲が,数百ないし数千万と広いという特徴を有するところ(甲18),GPCを含む高速液体クロマトグラフィーにおいては,近年,高い機能と効率を有する充 剤の開発により,金属イオンから生体高分子まで分離対象が広がっており,目的対象に適する分離モードと分離カラムの選択が重要であるとされている(乙1)から,本件明細書において,当業者が,シランカップリング剤をGPC測定した際に使用したカラムが,フェノキシ樹脂をGPC測定した際のカラムと同じであると直ちに理解するものということはできない。
また,本件カラムが,GPC測定における周知のカラムであったとしても,シランカップリング剤におけるA-1とA-2との面積比をGPC測定する場合におけるカラムとして,当業者において周知であったことを裏付けるに足りる的確な証拠はない。本件明細書においては,原告が強調する「一般的な通常の測定条件」により測定が行われたか否か自体が不明であり,仮にフェノキシ樹脂の分子量の測定と同様の条件が,シランカップリング剤におけるA-1とA-2との面積比をGPC測定する場合における「一般的な通常の測定条件」であるならば,むしろ本件明細書において,同一の測定条件を用いたことを明記すべきものというべきである。
原告の主張は採用できない。
(2) GPCカラムの溶媒が記載されていないとした判断の誤りについて
前記(1)のとおり,本件明細書において,シランカップリング剤のGPCにおける測定条件が開示されていない以上,本件明細書において,GPCカラムの溶媒についても開示されているものではないことは明らかである。
この点について,原告は,当業者にとって,カラムの出荷時の封入溶媒と同じものを溶離液として用いる場合は問題ないとされていること,本件明細書に記載された本件カラムの溶媒がTHFであることは周知であること,GPCの溶媒として最もよく用いられる溶媒はTHFとされていること,THFがシランカップリング剤を溶解させ,GPCの溶媒として用いられることが周知であることなどからすると,本件発明において,本件カラム出荷時の溶媒であるTHFについて,本件明細書に記載しなかったことが,記載不備であるということはできないなどと主張する。
しかしながら,仮にシランカップリング剤のGPC測定について,本件カラムを用いたとしても,同カラムの取扱説明書(甲15)には,交換可能な有機溶媒として,ベンゼン,トルエン,キシレン,CHCl3,ジクロロメタン,ジクロロエタンが記載されており,出荷時の溶媒であるTHF以外にも,一定範囲の溶媒について選択が可能である。また,各種文献(甲20,乙2)においても,THF以外の溶媒を用いることが可能であることが明記されている。
また,先に指摘したとおり,GPCを含む高速液体クロマトグラフィーでは,目的対象に適する分離モードと分離カラムの選択が重要であるとされている(乙1)ものであるから,当業者は,目的対象に適する測定条件(溶媒,流速,試料,測定機器等)を選択するものということができる。
したがって,原告が指摘する,THFがGPCにおける溶媒として用いられていること,カラム出荷時における溶媒を変更しないことが好ましいことをもってしても,なお,シランカップリング剤のGPC測定に係る測定条件が明示されていない本件明細書において,THFをカラムの溶媒として用いたものと開示されているとまではいうことができない。原告の主張は採用できない。
(3) 小括
以上からすると,本件明細書には,本件カラム及びTHFを使用したか否かを含め,シランカップリング剤のGPC測定に係る測定条件が開示されておらず,また,本件明細書の記載から,当業者が一般的な通常の測定条件によって測定されたものと理解することができるものということもできない。
そして,原告も,GPC測定において,一般的な通常の測定条件によって実験が行われない場合,測定結果が異なること,すなわち,GPC測定においては,測定条件が異なれば測定結果が異なること自体は争わないところ,シランカップリング剤のGPC測定において,溶媒を変更した場合(THF,トルエン,DMF),測定結果が有意に異なることは,甲5証明書から明らかである。
したがって,シランカップリング剤におけるA-1とA-2との面積比をGPC測定する場合の測定条件が明らかではない本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1ないし5及び9について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
よって,本件審決の実施可能要件に係る判断に誤りはない。
2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
(1) 本件明細書の記載について
本件明細書(甲3)の記載を要約すると,以下のとおりである。
ア本件発明は,接着剤,それを用いた回路接続構造体及びその製造方法に関する。
近年,半導体や液晶ディスプレイなどの分野で電子部品を固定したり,回路接続を行うために各種の接着材料が使用されているが,かかる用途では,接着剤にも高い接着力や信頼性が求められている。
しかしながら,従来の接着剤及び回路接続用接着剤である異方導電性接着剤は,各種基板に対する接着力が不十分で,十分な接続信頼性が得られない,各種基板に対する接着力のロットばらつきが発生し,高い歩留まりで良品を量産することが極めて困難な場合があるなどの課題を有していた。
本件発明は,高接着力で信頼性が高い接着剤を提供し,さらにロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能とする接着剤を提供し,さらには回路接続用接着剤及びそれを用いた回路接続構造体を提供するのみならず,接着剤の保管時,使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与えるとともに,接着後においては長期間の接着強度の保持が可能となる接着剤,接着剤の製造方法,接続構造体を提供する。
イ本件発明1は,アルコキシシラン結合(Si-O-R)を有するシランカップリング剤(A)と,シランカップリング剤(A)が縮合したオリゴマーとで構成されるシランカップリング剤(SCO)を含む接着剤であって(ただし,Rは同一でも異なっていても良く,炭素数1~18の直鎖,または分岐鎖を有するアルキル基,シクロアルキル基,フェニル基,ベンジル基である。),前記シランカップリ ング剤(SCO)が,シロキサン(Si-O-Si)結合を含み,かつ,前記シランカップリング剤(SCO)をGPC測定した際に,シランカップリング剤(A)の単分子(A-1)と,シランカップリング剤(A)の2分子が縮合した分子(A-2)が,GPCの面積比で,(A-1):(A-2)=100:1~100を満たすことを特徴とする接着剤に関し,高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤を提供するものであるとともに,当該接着剤の保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤を提供するものである。
ウ前記シランカップリング剤(SCO)におけるA-1とA-2とが,GPCの面積比で,(A-1):(A-2)=100:1ないし100であることが好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.1ないし80であることがより好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.2ないし60であることがさらに好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.3ないし40であることが最も好ましい。(A-1):(A-2)=100:1未満である場合,実質的なオリゴマーの効果が発現しない傾向があり,(A-1):(A-2)=100:100を超える場合,接着剤の接着強度の低下や,接着剤の保存安定性が低下する傾向がある。
エ本件発明の接着剤において,実施例1ないし4では,全サンプルで良好な接続抵抗を示し,かつ接着強度も高く,さらに耐湿試験後でもその接着強度は低下せず,耐湿試験後の接着面の外観も良好であったが,比較例では,耐湿試験後の接続抵抗が悪化し,一部のサンプルで耐湿試験後の接着面の外観が悪化した。
このように,本件発明1は,高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤を提供することができるとともに,当該接着剤の保管時や,使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤を提供することができる。
(2) 本件発明の課題及び効果について
ア本件明細書によれば,本件発明が前提とする従来技術の問題点は,電子部品を固定したり,回路接続を行うための各種接着剤においては,高い接着力や信頼性が求められるところ,従来の接着剤は,各種基板に対する接着力が不十分であり,十分な接続信頼性が得られず,また,各種基板に対する接着力のロットばらつきが発生し,高い歩留まりで良品を量産することが極めて困難な場合があったという点にある。
そして,本件発明は,かかる従来技術の問題点に対し,①高接着力で信頼性が高い接着剤を提供し,さらにロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能とする接着剤を提供すること及び②接着剤の保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与えるとともに,接着後においては長期間の接着強度の保持が可能となる接着剤を提供することを,その目的として指摘している。
また,本件発明1の効果は,A-1とA-2との面積比が,(A-1):(A-2)=100:1ないし100であれば,オリゴマーの効果,すなわち,高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤,保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤の製造が可能となり,かつ,接着剤の接着強度低下,保存安定性の低下は生じないというものである,
イ本件明細書において,本件発明の接着剤を用いた実施例1ないし4に対する初期及び耐湿後の接続抵抗,接着強度並びに耐湿後外観検査の結果が比較例と対照しつつ具体的に示されており,また,本件発明1の効果として,高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤を提供することができるとともに,当該接着剤の保管時や,使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤の提供と記載されている。
ウ以上からすると,本件発明1の効果,すなわち,①高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤が提供されること及び②保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤が提供されたことについては,いずれも比較例と実施例との対照において具体的に開示されているということができる。
エこの点について,被告は,本件発明における(A-1):(A-2)のGPCの面積比と実施例における面積比の上限はかけ離れていること,本件発明の構成が定める面積比とその効果との因果関係や技術的意義が全く記載されていないことなどから,本件明細書の記載によっては,当業者は,GPCの面積比「(A-1):(A-2)=100:1~100」の全ての範囲について,本件発明の課題を解決できるとは認識できないなどと主張する。
しかしながら,本件明細書には,数値範囲の下限及び上限について,数値範囲の意義((A-1):(A-2)=100:1未満である場合,実質的なオリゴマーの効果が発現しない傾向があり,100:100を超える場合,接着剤の接着強度の低下や,接着剤の保存安定性が低下する傾向がある。)が記載されており,その範囲内の効果についても,「A-1とA-2とが,GPCの面積比で,(A-1):(A-2)=100:1ないし100であることが好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.1ないし80であることがより好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.2ないし60であることがさらに好ましく,(A-1):(A-2)=100:1.3ないし40であることが最も好ましい。」と指摘し,さらに,上記数値内における適宜の構成を選択した実施例において,接着強度等の効果についての試験結果が明示されているのであるから,被告が指摘する実施例による開示が少ない点は,上記結論を左右するものではない。被告の主張は採用できない。
(3) 本件審決のサポート要件に係る判断について
ア本件審決は,本件発明1の課題について,①高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤が提供されたこと及び②保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤が提供されたこと認定しており,本件発明1の課題に関する認定については,何らの誤りはない。
しかしながら,本件審決は,サポート要件の判断において,②接着剤の保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤の提供という課題についてのみ,当業者が認識することができるか否かについて判断を行い,①の「高接着力で信頼性が高い接着剤」の提供なる解決課題が解決できるか否かについての判断を行っていない。
また,先に指摘したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に係る接着剤の接着力について,その効果が実施例として具体的に開示されているのであるから,本件審決のサポート要件の判断には,本件明細書の発明の詳細な説明の記載内容に関する認定自体に誤りがあるものというほかない。
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イ本件審決は,本件発明1について説示した理由と実質的に同一の理由により,本件発明6ないし8及び10がサポート要件に違反すると判断しているところ,本件審決における本件発明1のサポート要件に係る判断が誤りである以上,本件発明6ないし8及び10についても,本件審決のサポート要件に係る判断が誤りであることは明らかである。
なお,原告の主張に鑑み付言すると,本件審決は,サポート要件の判断について,「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」の点について判断をするとした上で,本件発明は,サポート要件を欠くものと判断しているところ,本件発明6ないし8及び10は,いずれも「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」について何らかの特定を有する発明ではないから,「シランカップリング剤とオリゴマーとの割合」についてのみ検討した上で,本件発明1ないし5及び9と実質的に同一の理由により,本件発明6ないし8及び10についてもサポート要件を満たさないとした本件審決の判断は,それ自体誤りであるというべきである。
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(4) 小括
以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明に関するサポート要件に係る本件審決の判断は誤りであるところ,取消事由1において先に述べたとおり,本件発明1ないし5及び9にかかる特許は,実施可能要件を欠き無効にすべきであるとの本件審決の判断は,サポート要件に係る本件審決の判断の誤りとは関係がなく,相当であるから,サポート要件に違反するとした本件審決の判断は,本件発明6ないし8及び10に係る部分についてのみ,相当でなく,取消しを免れない。
3 結論
Last Update: 2011-02-14 20:05:55 JST
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