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2011年4月18日月曜日

特許:【容易想到性】(進歩性)「事実認定」:(知財高裁平成23年4月18日判決(平成22年(行ケ)第10262号審決取消請求事件(特許)))

* 特許:【容易想到性】(進歩性)「事実認定」:(知財高裁平成23年4月18日判決(平成22年(行ケ)第10262号審決取消請求事件(特許)))

(知財高裁平成23年4月18日判決(平成22年(行ケ)第10262号審決取消請求事件(特許)))

平成22(行ケ)10262 審決取消 特許権 行政訴訟
平成23年04月18日 知的財産高等裁判所 

第2 事案の概要
1 本件は,被告が権利者であり発明の名称を「袋による包装方法」とする特許
第3908897号(ただし,平成20年3月27日訂正審決後のもの。請求
項の数7。本件特許)につき,原告がその請求項1ないし6につき無効審判請
求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,これに不服の原
告がその取消しを求めた事案である。
2 争点は,上記訂正後の請求項1ないし6に係る発明(以下「本件発明1」等
といい,全体を「本件各発明」という。)が下記引用例との関係で進歩性を有
するか(特許法29条2項),である。

(3) 本件発明1と甲3の1発明とを対比
前記(1) 及び(2) によれば,本件発明1と甲3の1発明とを対比すると,
両者は「包装品を充填した袋の開口端部を搬送ベルト上に横置きにして行う
包装方法であって,袋の開口を開かせる工程と,袋の開口端部を挟んでシー
ルする工程を含む,袋による包装方法。」という点で一致し,「本件発明1
は,袋の開口を開かせる工程の後であって,かつ,袋の開口端部を挟んでシ
ールする工程の前に,開口した袋内に2本の拡開口バーを挿入しそれを横に
広げて袋の開口を横に広げる工程を含むのに対して,甲3の1発明は,その
ような工程を含まない点」(相違点1)及び「本件発明1は,袋の開口を開
かせる工程の前に,袋の開口端部に上方からエアを吹き付けて袋の開口部を
搬送ベルトに対して偏平状態にさせる工程を含むのに対して,甲3の1発明
は,そのような工程を含まない点」(相違点2)で相違するとした審決の認
定に誤りはない。
原告は,上記相違点2に関する審決の判断に関し,甲3の1発明と甲2発
明との組合せ等について言及するので,以下これについて検討する。

(知財高裁平成23年4月18日判決(平成22年(行ケ)第10262号審決取消請求事件(特許)))
http://chizaibengoshi.appspot.com/20110420104909.html

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2011年3月24日木曜日

特許:【訂正の可否】【サポート要件】【実施可能要件】【進歩性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))






特許:【訂正の可否】【サポート要件】【実施可能要件】【進歩性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))






知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10214 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月24日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))


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【訂正の可否】【サポート要件】【実施可能要件】【進歩性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))
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第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。



第4 当裁判所の判断




1 取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)について

(1) 本件訂正事項の内容
本件訂正事項は,請求項2に係る本件訂正前の「前記ベールが,少なくとも約1
0N/15mmの裂破強度(DIN EN ISO 527-3に従って測定)を有
する,ことを特徴とする請求項1記載のベール」との記載を,本件訂正後の「前記
ベールが,少なくとも10N/15mmの引裂き強度(DIN EN ISO 52


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7-3に従って測定)のフィルムを有する,ことを特徴とする請求項1記載のベー
ル」との記載に訂正するものである。
本件訂正事項は,訂正前には「裂破強度(DIN EN ISO 527-3に
従って測定)」と記載されていたものを,訂正後には「引裂き強度(DIN EN
ISO 527-3に従って測定)」との記載に訂正するものであって,その訂
正前後を通じて,いずれも,その測定方法は,「DIN EN ISO 527-
3に従って測定」されるものである。
(2) 本件明細書及び本件訂正明細書の記載
本件明細書【0031】には,「機械強度に関連して,DIN EN ISO
527-3に従って測定した場合に,パッケージ包装材またはフィルムが,少なく
とも約10N/15mm,好ましくは約100N/15mm以上,さらに好ましくは2
00N/15mm以上の裂破強度を有することが推奨される。引用した値の各々は,
フィルムの縦方向および横方向における最少裂破強度値に関係する。フィルムで包
装したベールが移動のために再度梱包されるか否かの関数として,裂破強度に関連
した特定の選択が行われる。これに関連して,使用可能な材料には,100μmの
厚さで,15から30N/15mmの裂破強度を有するPE,100μmの厚さで,
150~300N/15mmの裂破強度を有するPA6が含まれる。」とあって,
「DIN EN ISO 527-3」の定めるところに従って,パッケージ包装
材又はフィルムの強度を測定したものであることが説明されている。
そして,本件訂正明細書には,本件明細書の「裂破強度」が「引裂き強度」と変
更されて,以上と同旨の説明がされている。
(3) 「裂破強度」と「引裂き強度」との異同
以上によると,本件訂正前の請求項2には「裂破強度」と記載され,本件訂正後
の請求項2には「引裂き強度」と記載され,その表現は異なり,また,本件訂正後
の請求項2には,そのような強度を有する「フィルム」であることが構成として追
加されているが,いずれも,フィルム及びシートについての強度を試験する方法に


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関する規格である「DIN EN ISO 527-3」(乙1,2)の定めると
ころに従って,強度を測定することにおいて変わりはない。
そして,「裂破」とは,「引き裂くこと」との意味であり(講談社新大字典・平
成5年3月発行),「裂破」から「引裂き」へと訂正することは,用語をより平易
で一般的なものに変更したものということができる。
(4) 原告の主張に対する判断
原告は,本件訂正明細書に記載された「DIN EN ISO 527」はいわ
ゆる「引張強度」に関する規定であり,「DIN EN ISO 527-3」は
フィルムとシートのための「引張強度」の測定条件を定めたものであって,引裂き
強度は測定できないとし,上記訂正では,「引張強度」の測定条件によって「引裂
強度」を測定することになり,実質的に特許請求の範囲を変更することになると主
張する。しかしながら,本件訂正事項については,本件訂正の前後を通じて,ベー
ルの強度を「DIN EN ISO 527-3」によって測定するものであるこ
との記載に変わりはなく,本件訂正事項に係る訂正は,上記のとおり,用語をより
平易で一般的なものに変更したものであって,明瞭でない記載の釈明を目的とする
ものにすぎないものということができ,原告の主張は,訂正の許否をいうものとし
ては失当であって,理由がない。
(6) 小括
したがって,本件訂正前の請求項2に規定する「裂破強度」を,本件訂正後の請
求項2の「引裂き強度」とする訂正について,明瞭でない記載の釈明を目的とする
ものであるとともに,本件明細書に記載した事項の範囲内でするものとした本件審
決に誤りはない。

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2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について

原告は,膨張による弾性復元力(膨張力)の減衰を考慮するとしても,気候の変
化による大気圧の変動にも満たない0.01bar程度の僅かな値の負圧によっ
て,大きなフィルタートウの弾性復元力をコントロールでき,かつ,ベールを平坦


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にするという課題を解決できることは,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載
されたものでなく,当業者の常識からは全く理解できないものであるなどと主張す
るので,以下,検討する。

(1) 本件訂正明細書の記載
ア 本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
(ア) 「本発明の課題は,ベールの移動を妨害するような膨張部分,ならびにト
ウベールの頂部と底部におけるフィルタートウの繰り出しを妨害するくびれ部分の
無い,理想的なブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールを提供すること
であり,この場合,梱包したフィルタートウにかかる負荷が低減されることで,特
に,内圧の影響下におけるパッケージの破裂開封をほぼ完全に回避することができ
る。本発明のさらなる課題は,これに関連した梱包プロセスを提供することであ
る。」(【0006】)
(イ) 「梱包工程中に梱包を気密シールすることより,移動を妨害する妨害部分
も,目的としたフィルタートウの使用を妨害するくびれ部分も無いブロック形態の
ベールを製造できるという驚くべき発見が得られた。したがって,実用的な考慮に
基づき,請求項1によるベールは,機械的に自己支持する弾性梱包材料で完全に包
装され,この材料は,1つまたはそれ以上の対流に対して気密性を有する結合部を
備えている。」(【0010】)
(ウ) 「気密梱包の課題は,製造工程中にベールの頂部と底部に生じる圧力勾配
を吸収および等化することである。」(【0011】)
(エ) 「本発明にかかるフィルタートウベールを梱包するプロセスは,(a) フ
ィルタートウを圧縮形態にするステップと;(b) 圧縮されたフィルタートウをパ
ッケージ包装材で包装するステップと;(c) パッケージ包装材を気密にシールす
るステップと;(d) 包装されたベールにかかる負荷を解放するステップとを備え
ている。気密シールされたベールに対する負荷が解放されると,パッケージ包装材
内に負圧が発生する。この負圧は少なくとも0.01barであることが好まし


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く,特に有利な方法では0.15~0.7barの範囲内である。」(【001
6】)
(オ) 「したがって,包装材で取り囲まれた領域内で発生した負圧は,パッケー
ジ包装材の気密シールによって維持することができる。この負圧により,可撓性材
料の弾性復元力によって内部から梱包へ加わる圧力が減衰される。この理由のため
に,最新技術によれば通常はフィルタートウベールに発生する膨張を防止すること
ができる。これにより,積層ベールの製造が遥かに容易になる。梱包内部から作用
する機械圧が(負圧によって)減衰されるために,梱包が失敗する危険性または梱
包が裂開する傾向が低減される。さらに,より高い梱包密度も得られ,これによ
り,より小型なパッケージの利点が得られ,保管容量および移動容量を縮小するこ
とが可能になる。」(【0017】)
イ 上記の記載によると,本件訂正発明1においては,包装材で取り囲まれた領
域内で発生した負圧が,パッケージ包装材の気密シールによって維持され,この負
圧によって,可撓性材料の弾性復元力により内部から梱包へ加わる圧力が減衰され
るとともに,製造工程中にベールの頂部と底部に生じる圧力勾配を吸収及び等化さ
れることにあり,これらによって,少なくともベールが梱包された後に外圧に対し
て負圧がベールに掛かるものであると理解することができる。また,「負圧は少な
くとも0.01barであることが好まし」いとも記載されており,その意味自体
も明瞭である。
(2) 本件訂正発明1の技術思想
以上によると,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の「外圧に対して少なくと
も0.01barの負圧がベールにかかっている」との規定は,ベールの形状を負
圧によって制御するとの技術思想を表現したものということができる。
しかるところ,気候による大気圧の変動が想定されること,高圧縮したベールの
復元膨張力はかなり大きなものであり,しかも,ベールの圧縮率は様々なものが想
定され,ベールの材料によっても変化するものであることから,ベールの形状を制


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御するために利用する負圧について一義的に数値を決められないという状況の下
で,本件訂正発明1は,実質的に負圧として取り扱える有意な値を選択して発明の
技術思想を表現するために,「少なくとも0.01bar」という値の範囲を規定
したものとみることができるものである。そして,本件訂正発明1においては,ベ
ールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールに
掛かっているものであるところ,梱包した材料に付加されている外圧が解放される
ことによって,発生していた少なくとも0.01barとの負圧の値が更に大きく
なるものであること,他方,本件訂正発明1においては,トウが膨脹し続ける時間
はせいぜい数時間であるところ(甲23),天候にも左右されるが,通常の気圧の
日変化は0.01barには至らないものであることに照らすと,ベールには,フ
ィルタートウ材料が膨脹し,ベールに膨脹部分やくびれ部分が出現しないようにし
なければならない間,外圧に対しての負圧が掛かり続けるものであるということが
できる。
また,本件訂正明細書には,0.01bar又はその近辺ではないが,「少なく
とも0.01bar」との負圧の数値の範囲内の複数の実施例が開示されている。

(3) 原告の主張に対する判断
ア 原告は,本件訂正発明1は,負担と平坦度に係る数値限定により公知技術と
の差違を導いたいわゆるパラメータ発明であるところ,本件訂正明細書の発明の詳
細な説明によっては,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものでは
ないなどと主張する。しかしながら,上記のとおり,本件訂正発明1は,ベールの
形状を負圧によって制御するとの技術思想を表すものであり,また,その表現とし
て「少なくとも0.01bar」との数値の範囲を併せて記載したものであって,
本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によって,当業者が当該発明の課題を解
決できると認識することができる範囲のものであるということができ,これに反す
る原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,被告が本件訂正発明1における「0.01bar」との数値


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について,その値自体に特段の意味がないと主張することは,本件審査段階におけ
る主張に照らして禁反言の原則から許されないと主張する。しかしながら,上記
(2)のとおり,本件訂正発明1は,実質的に負圧として取り扱える有意な値を選択
して発明の技術思想を表現するために,「少なくとも0.01bar」という値の
範囲を規定したものとみることができるものであり,本件訂正発明1における
「0.01bar」という数値そのものに意味がないものではなく,被告もその旨
を主張しているにすぎないものであって,原告の主張は理由がない。
(4) 小括
したがって,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件を満た
すとした本件審決の判断に誤りはない。

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3 取消事由3(実施可能要件に係る判断の誤り)について

(1) 原告の主張
原告は,当業者の常識からすると,高圧縮したフィルタートウベールの弾性復元
力(膨張力)は相応に大きなものであるにもかかわらず,これを0.01barの
負圧によって制御し,これをバランスさせることなどは,膨張による弾性復元力の
減衰を考慮するとしても不可能であって,本件訂正発明1は,0.01bar付近
の負圧で実施するために必要な条件が本件訂正明細書の発明の詳細な説明には記載
されていないなどと主張する。
(2) 本件訂正発明1の技術思想との関係
しかしながら,前記2(2)のとおり,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の
「外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている」との規
定は,ベールの形状を負圧によって制御するとの技術思想を表現したものというこ
とができる。そして,気候による大気圧の変動が想定されること,ベールの圧縮率
は様々なものが想定され,ベールの材料によっても変化するものであることから,
ベールの形状を制御するために利用する負圧について一義的に数値を決められない
という状況の下で,本件訂正発明1は,実質的に負圧として取り扱える有意な値を


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選択して発明の技術思想を表現するために,「少なくとも0.01bar」という
値の範囲を規定したものである。そして,本件訂正明細書には,0.01bar又
はその近辺ではないが,「少なくとも0.01bar」との負圧の数値の範囲内の
複数の実施例が開示されている。
(3) 実験結果
ドイツの第三者機関による実験結果(乙6)において,本件訂正発明1の条件の
下で,プレス時間を長くしてフィルタートウを圧縮したところ,圧縮を解放した直
後の負圧は,外圧に対して10mbar(0.01bar),30分経過後の負圧
は外圧に対して31mbar(0.031bar)であったことが認められる。
また,原告従業員が,本件訂正発明1と実質的に同じであるとして,引用発明2
の条件の下で,トウベールを圧縮し,気密性を確保した上で圧縮を解放した10分
後の負圧は,外圧に対して0.091barであり(甲23),また,引用発明2
の条件の下で,晒しメリヤスウエスを圧縮し,気密性を確保した上で圧縮を解放し
た5分後の負圧は,外圧に対して0.082barであった(甲24)。
(4) 本件訂正発明1と上記実験結果との関係
上記(3)の実験結果は,それぞれの実施条件の相違等もあって,その結果である
負圧の数値を直接比較できるものではないが,上記(2)のとおり,ベールの形状を
制御するために利用する負圧について一義的に数値を決められないという状況の下
で,実質的に負圧として取り扱える有意な値を選択して発明の技術思想を表現する
ために,「少なくとも0.01bar」という値の範囲を規定したものであるとの
本件訂正発明1との関係でみると,上記実験結果の0.01bar,0.082b
ar及び0.091barという数値は,いずれも,「少なくとも0.01ba
r」という負圧の下限値に近いものということができる。
(5) 小括
以上によると,当業者において,本件訂正発明1の「少なくとも0.01ba
r」との条件と同視し得る程度の負圧を実現することが可能ということができ,本


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件訂正発明1の「0.01barの負圧」近辺の極めて低い負圧によっても,当業
者が上記のような大きな膨張力を制御できるとして,本件発明1の効果を奏するも
のであるとした本件審決の判断に誤りはない。

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4 取消事由4(引用例1を主引例とする関係で進歩性を有するとした判断の誤

り)について
原告は,相違点B及びEについて,引用例1には,本件訂正発明1の解決手段に
相当する構成の開示があり,その平坦度の作用効果も必然的に得られるので,これ
らの相違点について,容易に想到することができないとした本件審決には誤りがあ
ると主張するので,まず,引用例1について検討した上で,これらの相違点につい
て検討することとする。
(1) 引用発明1について
ア 引用例1(甲1)には,次の記載がある。
(ア) 本発明は,繊維状の材料からなるプレスベールを包装する方法及び装置等
に関する。
(イ) 繊維状の材料,特に切断された,又はストランド状の繊維からなる高圧縮
されたプレスベールは,ベールプレスにおいて単数又は複数の形弾性的な包装材切
片で包装され,次いで,金属又はプラスチックバンドからなるたがで装備され,こ
のたがが,包装材とプレスベールとを保持することになる。
ところが,たがは,プレスベールの後続加工を困難にするとの欠点を有してい
る。また,たがを切断する際,プレスベールが損傷を受けるおそれがあり,さら
に,作業員が,たがバンドを開く場合に負傷する危険がある。
(ウ) そこで,本発明は,プレスベールをたがで結合することを不要とし,その
代わりに,包装材切片が互いにオーバーラップしてベールの上に当てられ,接着及
び(又は)溶着で互いに結合される。種々異なる包装材切片を相互に接着及び(又
は)溶着で結合することで包装が固定される。
(エ) 包装材切片は,プラスチック,特にポリエチレンから製造することが好ま


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しい。
(オ) 包装装置は,包装材切片を供給し,当て付け,かつ,折り畳むための装置
構成部分に関しては公知の形式のものであることができる。接着及び(又は)溶着
結合を行うためには,包装装置は接近可能なヒートシール装置を有している。この
ヒートシール装置は,種々異なって構成でき,加熱装置及び(又は)圧着装置を有
している。点状又はストライプ状の結合を行うためには,ヒートシール装置に適当
に成形された複数の点状又はストライプ状の単個ポンチを設け,これらの単個ポン
チによって,包装材切片を結合箇所において点状又はストライプ状に互いに圧着
し,場合によっては,この限られた接触面において加熱させることができる。
(カ) 本発明では,包装材切片は,溶着及び(又は)接着で互いに結合される。
これによって,プレスベールのために全面的に閉じた包体又は包装が形成される。
この包体又は包装は,プレスベールに掛けられていたプレス圧を除いた後でも,膨
らむベールの力に耐える。本発明は,包装をバンド,たが又はそれに類似した物で
付加的に補強することを不要にするが,別の実施例においては,このような補強は
同様にまだ存在していることもできる。
(キ) 第5図においては,包装材切片が多層に,有利には2層に構成されている
ことが示されている。包装材切片は,堅固な保持構造,有利には膨張したプレスベ
ールにより発生した力を受け止め,包装を安定化する織布の形をした保持構造を有
している。保持構造は補強バンドを有しているか,又は他の適当な形式で構成され
ていることもできる。
(ク) 有利な実施例においては,包装材切片はプラスチックからなっている。こ
の包装材切片は,大きな引っ張り強度を有しているが,折り畳み,かつ,曲げるこ
とを許す。この包装材切片は,プレスベールの周囲に所望の形式で当て付ける限り
においては十分な形弾性を有するが,プレスポンチによる負荷をプレスベールから
除いた後で,プレスベールの形を維持するためには,十分な内部引っ張り強度及び
伸張強度を有している。必要な強度はベール材料に合わせられ,かつ,変化させる


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ことができる。
イ 以上の記載によると,引用発明1は,プラスチック,特にポリエチレンから
製造された包装材切片を,互いにオーバーラップさせて溶着及び(又は)接着して
結合することとし,これによって,プレスベールのために全面的に閉じた包体又は
包装を形成し,この包体又は包装は,プレスベールに掛けられていたプレス圧を除
いた後でも十分な内部引っ張り強度及び伸張強度を有し,膨らむベールの力に耐え
るものであること,しかしながら,包装をバンド,たが又はそれに類似した物で付
加的に補強することを不要にするものであるものの,別の実施例においては,この
ような補強は同様にまだ存在していることもできるというものである。
したがって,引用発明1においては,包装材切片を結合して形成されたベールの
包装は,プレスベールに掛けられていたプレス圧を除いた後でも,膨らむベールの
力に耐えるものであるが,その膨らむベールの力に耐える手段としては,包装がプ
レスベールの形を維持するために十分な引っ張り強度及び伸張強度を有するように
するというものであって,それゆえ,これらの強度が不足する場合には,別の実施
例においては,包装を,バンド,たが又はそれに類似した物で付加的に補強するこ
ともできるとするものである。しかしながら,引用例1においては,包装の引っ張
り強度や伸張強度によらず,負圧を制御する手段について何ら記載又は示唆すると
ころはない。
ウ なお,原告は,引用例1における「ベールプレスの構成,プレスベールの材
料の選択及び包装及び折り畳み技術についての記述したヴアリエーションに加え
て,ヒートシール装置13にも変更を加えることができる。押圧ビームは全面的に
オーバーラップ若しくは結合箇所10に作用し,ストライプ状又は点状の単個ポン
チを有していないこともできる。」との記載や図2等から,引用例1においては,
全面をシールしてパッケージ包装内を一定の負圧にするという技術が開示されてい
ると主張する。しかしながら,これは,結合箇所が全面的に結合されることを示す
ものということができるが,その結合箇所においてどの程度の密封性が確保される


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のか否か,接合箇所以外の部分における包装材料が気密性を有するものであるか否
かについては,何ら記載も示唆もするものではなく,引用例1において,気密性を
確保して負圧を制御する手段も記載又は示唆されているということはできず,原告
の主張は理由がない。
(2) 相違点Bについて
ア 上記(1)のとおり,引用例1には,膨らむベールの力に耐える手段として,
包装がプレスベールの形を維持するために十分な引っ張り強度及び伸張強度を有す
る包装としたことの記載があるが,気密性を確保して負圧を制御する手段の記載も
示唆もないものである。
イ したがって,引用例1には,前記2(1)及び(2)のとおりの本件訂正発明1の
ように,ベールの移動を妨害するような膨張部分及びトウベールの頂部と底部にお
けるフィルタートウの繰り出しを妨害するくびれ部分のない,理想的なブロック形
態に高圧縮したフィルタートウのベールを提供することまでは想定されておらず,
かつ,具体的に平坦さに着目しているとする記載も示唆もないから,引用発明1か
ら,相違点Bに係る本件訂正発明1の構成について容易に想到し得るものではな
い。
ウ なお,原告は,引用例1には,本件訂正発明1の機能・特性等による解決手
段に相当する構成が全て開示されているから,本件訂正発明1の平坦度の作用効果
も必然的に得られると主張する。しかしながら,上記(1)のとおり,引用発明1
は,膨らむベールの力に耐える手段として,包装がプレスベールの形を維持するた
めに十分な引っ張り強度及び伸張強度を有する包装を採用することにとどまるので
あるから,原告の主張は採用することはできない。
(3) 相違点Eについて
ア 上記(1)のとおり,引用発明1は,膨らむベールの力に耐える手段として,
包装がプレスベールの形を維持するために十分な引っ張り強度及び伸張強度を有す
る包装としたものであって,引用例1には,気密性を確保して負圧を制御する手段


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の記載も示唆もないものである。
イ したがって,引用例1には,本件訂正発明1のように負圧を制御する技術思
想を認めることができないから,引用発明1から,相違点Eに係る本件訂正発明1
の構成について容易に想到し得るものではない。
(4) 小括
したがって,引用発明1に基づいて,相違点B及びEに係る本件訂正発明1の構
成について容易に想到し得るものではないとした本件審決の判断に誤りはない。

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5 取消事由5(引用例2を主引例とする関係で進歩性を有するとした判断の誤り)について

原告は,相違点B’及びE’について,引用例2及び3から容易に想到すること
ができないとした本件審決には誤りがあると主張するので,引用例2及び3につい
て検討した上で,これらの相違点について検討することとする。
(1) 引用発明2について
ア 引用例2(甲2,17)によると,引用発明2は,前記第2の3(3)アのと
おりのものと認めることができる。
他方,引用例2には,圧縮下で可撓性のプラスチックで密閉され,梱包圧の解放
時に,ベールの容積が増すことに対応した分の圧力が低下すること,すなわち負圧
になることについて記載又は示唆するところはなく,また,ベールの移動を妨害す
るような膨脹部分及び頂部と底部における繰り出しを妨害するくびれ部分のないベ
ールを提供することについての記載又は示唆もない。
イ もっとも,本件審決は,引用発明2は,梱包圧の解放時に,第2の袋部が外
側に押されて膨張し,ベールの容積が増すことに対応した分の圧力が低下するもの
であると説示する。また,引用例2には,発明のプロセスによって成形されるプラ
スチックで覆われたベースは,外皮が可撓性であり(【0008】),繊維材料が
圧縮されており(【0025】),梱包されている材料の性質に応じて,また,用
いる包装材料の強さに応じて,包装されたベールは必ずしも結束される必要はな


  • 32 -



く,ある場合では,2つの袋部が単にそれらの縁で一緒に溶接されるだけのままで
十分であり,その場合には,溶接は全ての部分で連続的に行われるとされ(【00
09】【0027】),包装物は,雨又は湿気の影響を受けず,外皮は梱包材料の
膨張圧を十分に吸収するように対応するものであって(【0008】),本発明に
よるプロセスの好適な実施例は,最高品質の袋状べール(すなわち,ベール材料が
完全に包囲されている)を成形するためのものである(【0029】)と記載され
ている。
しかしながら,引用例2には,上記のとおり,「雨又は湿気に影響を受けず」に
梱包するとの記載はあるものの,これは,引用例2における従来技術の記載である
「包装物は衝撃に影響を受けやすい。車載中等の通常の取扱いの際によく起こるよ
うに,包装物が落下して隅が当たる場合,段ボールの壁は隅が破損し,内容物が膨
れ上がってはみ出す。最終的に,段ボールは雨によって分解するため,段ボール容
器に包装されたベールはカバーをして貯蔵及び搬送される必要がある」(【000
6】)との対比で記載されていると理解されるべきものであって,このような従来
技術との対比で,「包装物は,雨又は湿気に影響を受けず,外皮は梱包材料の膨張
圧を十分に吸収するように対応する」(【0008】)とされたにすぎないものと
いうことができ,同記載については,雨水や空気中の水分がベール内外の出入りを
妨げられることは読み取ることができるものの,それ以上に,気体までもが通り抜
け難いものとするとのガスの透過性に関することまで示されているものということ
はできない。
そして,このことは,本件訂正発明1においては,弾性梱包材料は「対流に対し
て気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備えており」,かつ,この材料
は「空気に関するガス透過率が10,000㎤/(㎡・d・bar)未満であるフ
ィルム」であるとされ,弾性梱包材料のガスの透過性についてまで規定されている
ことと対比すると,より明確ということができる。
(2) 引用発明3について


  • 33 -

    ア 引用例3(甲3,19)には,次の記載がある。
    (ア) 本発明は,保管又は運送の後に,例えば紡績糸に更に加工するための,ト



ウを連続的に,かつ,均一に引き出せる方法による箱又は他の適切なコンテナ内へ
のフィラメント状トウの梱包に関する。
(イ) 本発明の実施形態を説明すると,図1は,ウイングナットとボルトによっ
て所定の位置へクランプされた延長部を有する空コンテナと,所定の位置へ折り畳
まれた空気不透過性のライナを示す。図2は,フィラメント状のトウの横向き並置
機構を示す。これは,コンテナの実質的な全平面において各層にトウを均一に並置
するため,コンテナのよりゆっくりした前後の動作機構と同期が取られる。ライナ
がトウで満たされると,供給が中断され,トウは切断され,真空プローブがライナ
へ挿入され,内容物の配置を妨害せずに,トウの頂部に置かれる。図5に示される
ように,ナットとボルトのクランプが外されると,延長部がコンテナ上に伸長され
る。次に,ライナは,プローブの周囲で気密にされ,ライナからの空気の排出が,
トウの上層面上にプローブを静止させながら,それを埋めることがないようにし
て,開始される。図4に示されるように,ライナは,プローブの周囲で単に集めら
れ,プローブの筒の周囲で締められる。内容物を有するライナが収縮し,ライナ袋
がしわになって縮むと,延長部が漸進的に下降する。380mmHgの圧力に排気が完
了すると,延長部は引き取られてもよい。図6に示されるように,ヒンジ状の側部
ドアが開かれ,図7に示されるように,フィラメント状のトウの内容物を有するラ
イナはローラテーブルコンテナの傾斜へ転がり落ちた後,開放したボール紙の包装
ケースへ挿入される。図8に示されるように,装置の一形式において,包装ケース
は上方に傾斜できるピボット状のプラットホームに対して安定している。前後のフ
ラップ(図示せず)と同じように,蓋側のフラップが閉じられ,包装ケースがひも
でくくられ,プローブが引き取られ,カートンがシールされ,搬送準備が行われ
る。
イ 以上の記載によると,引用例3には,真空プローブによって380mmHgの圧


  • 34 -



力によって排気され,これによって,材料を圧縮することが記載されているが,他
方,本件訂正発明1のように,ベールの頂側部と底側部とに妨害となるような膨脹
部分又はくびれ部分のないようにするために,負圧を制御して平坦にしようとする
ことは記載も示唆もされておらず,むしろ,排気によって材料を圧縮するものであ
るから,本件訂正発明1のように負圧を制御しようとの技術思想は存在しないもの
ということができる。
(3) 相違点B’について
上記(1)のとおり,引用例2には,ベールの移動を妨害するような膨脹部分及び
頂部と底部における繰り出しを妨害するくびれ部分のないベールを提供することに
ついての記載又は示唆はなく,また,上記(2)のとおり,引用例3には,ベールの
頂側部と底側部とに妨害となるような膨脹部分又はくびれ部分のないようにするた
めに,負圧を制御して平坦にしようとすることの記載又は示唆がないものであるか
ら,引用発明2及び3から,相違点B’に係る本件訂正発明1の構成について容易
に想到し得るものではない。
(4) 相違点E’について
上記(1)のとおり,引用例2には,気密性を利用して負圧になることについての
記載又は示唆はなく,また,上記(2)のとおり,引用例3には,負圧を制御しよう
とすることの記載又は示唆もないものであるから,引用発明2及び3から,相違点
E’に係る本件訂正発明1の構成について容易に想到し得るものではない。
(5) 小括
したがって,引用発明2及び3に基づいて,相違点B’及びE’に係る本件訂正発
明1の構成について容易に想到し得るものではないとした本件審決の判断に誤りは
ない。
6 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告が具体
的な取消事由を主張しない本件訂正発明のうち他の請求項に係る発明を含めて,本


  • 35 -



件審決の取消しを求める原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣


裁判官 本 多 知 成


裁判官 荒 井 章 光


  • 36 -





(別紙) 本件訂正前発明

【請求項1】ベールの頂側部と底側部に妨害となるような膨張部分またはくびれ部
分が無い,梱包され,ブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールであっ
て,
(a) 前記ベールが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度を有し;
(b) 前記ベールが,機械的に自己支持する弾性梱包材料内に完全に包装され,
かつこの材料は,対流に対して気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備
えており;
(c) 非開封状態のベールを水平面上に配置した状態で,平坦な板をベールの頂
部に圧接させ,ベールの中心に対して垂直方向に100Nの力を作用させたとき,
圧接板に対するベールの垂直投影に内接する最大の矩形の範囲内で,ベールの頂面
における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40mm
以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり;
(d) 前記ベールが,少なくとも約900mmの高さを有しており;
(e) 少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01b
arの負圧がベールにかかっている,
ことを特徴とするフィルタートウのベール
【請求項2】前記ベールが,少なくとも約10N/15mmの裂破強度(DIN E
N ISO 527-3に従って測定)を有する,ことを特徴とする請求項1記載
のベール
【請求項3】0.9㎥よりも高い梱包容量,および/または350kg/㎥,特に8
00kg/㎥未満の梱包密度を有することを特徴とする請求項1または2記載のベー

【請求項4】少なくとも970mm,特に970~1200mmの高さを有することを
特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のベール
【請求項5】前記パッケージ包装材がフィルム,特にプラスチック・フィルムであ


  • 37 -



ることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のベール
【請求項6】対流に対して気密性を有する接続部が,対流空気が透過不可能なシー
ムであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に請求項のいずれか1項に
記載のベール
【請求項7】空気が透過不可能なシームが,重ね合わせヒートシールシーム,また
はヒレ状シームであることを特徴とする請求項6に記載のベール
【請求項8】前記内接矩形内に位置する前記ベールの頂部側表面の90%が,25
mm以下,好ましくは,10mm以下の距離で前記平坦板から離間することを特徴とす
る,請求項1~7のいずれか1項に記載のベール
【請求項9】ポリエチレン,特にLDPE,または改良ポリエチレン(LLDP
E)から成ることを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記載のベール
【請求項10】前記パッケージ包装材が,ポリアミド層とポリエチレン層を積層し
た積層フィルムであることを特徴とする請求項5~8の少なくとも1項に記載のベ
ール
【請求項11】前記パッケージ包装材が,約100~400μmの厚さを有するこ
とを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のベール
【請求項12】前記ベールが厚紙または合成布地から成る追加の移動梱包を備え,
および/または,さらにストラップで包装されている,ことを特徴とする請求項1
~11のいずれか1項に記載のベール
【請求項13】梱包後に存在する,外圧に対して少なくとも約0.01barの負
圧が,解放されていることを特徴とする請求項1~12の少なくとも1項に記載の
ベール
【請求項14】(a) 前記フィルタートウを圧縮形態で準備するステップと;
(b) 前記圧縮されたフィルタートウをパッケージ包装材で包装するステップ
と;
(c) 前記パッケージ包装材を気密状態にシールするステップと;


  • 38 -

    (d) 前記包装されたベールにかかる負荷を解放するステップと;
    (e) 外圧に対して少なくとも0.01barの負圧を,前記負荷が解放された



パッケージ包装材内に発生させるステップとを備えた,
特に請求項1~13のいずれか1項に記載のフィルタートウのベールを梱包する
プロセス
【請求項15】前記負圧が前記圧縮されたフィルタートウの自然の膨張によって発
生されることを特徴とする請求項14に記載のプロセス
【請求項16】前記負圧が空気の排出によって発生されることを特徴とする請求項
14または15記載のプロセス
【請求項17】前記空気が,真空ポンプの補助によって排出されることを特徴とす
る請求項16記載のプロセス
【請求項18】周囲圧力よりも約0.15~0.7bar低い負圧が生成されるこ
とを特徴とする請求項14~17のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項19】周囲圧力よりも約0.2~0.40bar低い負圧が生成されるこ
とを特徴とする請求項18に記載のプロセス
【請求項20】前記パッケージ包装材が,溶着またはヒートシールによって,特に
重ね合わせシームまたはヒレ状シームを形成するような方法でシールされることを
特徴とする請求項14~19のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項21】温度23℃,相対湿度85%で,DIN53,122に従って測定
される水蒸気透過率が,5g/(㎡・d)以下,好ましくは2g/(㎡・d)以下
であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14~
20のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項22】温度23℃,相対湿度75%で,DIN53,380-Vに従って
測定される空気に関するガス透過率が,10,000㎤/(㎡・d・bar)以下
であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14~
21のいずれか1項に記載のプロセス


  • 39 -



【請求項23】200c㎥/(㎡・d・bar),好ましくは20㎤/(㎡・d・
bar)以下のガス透過率を有するフィルムをパッケージ包装材として使用するこ
とを特徴とする請求項22に記載のプロセス
【請求項24】少なくとも10N/15mm,特に少なくとも100N/15mmの裂
破強度(DIN EN ISO 527-3に従って測定される)を有するフィル
ムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14~23のいずれ
か1項に記載のプロセス
【請求項25】前記裂破強度が,少なくとも200N/15mm(DIN EN I
SO 527-3に従って測定される)であることを特徴とする請求項24に記載
のプロセス
【請求項26】前記プロセスが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度が得られるよ
うに制御されることを特徴とする請求項14~25のいずれか1項に記載のプロセ


  • 40 -



(別紙) 本件訂正後発明
下線部分が訂正箇所である。
【請求項1】ベールの頂側部と底側部に妨害となるような膨張部分またはくびれ部
分が無い,梱包され,ブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールであっ
て,
(a) 前記ベールが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度を有し;
(b) 前記ベールが,機械的に自己支持する弾性梱包材料内に完全に包装され,
かつこの材料は,対流に対して気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備
えており,かつこの材料は,温度23℃,相対湿度75%で,DIN53,380
-Vに従って測定される空気に関するガス透過率が10,000㎤/(㎡・d・b
ar)未満であるフィルムであって;
(c) 非開封状態のベールを水平面上に配置した状態で,平坦な板をベールの頂
部に圧接させ,ベールの中心に対して垂直方向に100Nの力を作用させたとき,
圧接板に対するベールの垂直投影に内接する最大の矩形の範囲内で,ベールの頂面
における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から40mm以
下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり;
(d) 前記ベールが,少なくとも900mmの高さを有しており;
(e) 少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01b
arの負圧がベールにかかっている,
ことを特徴とするフィルタートウのベール
【請求項2】前記ベールが,少なくとも10N/15mmの引裂き強度(DIN E
N ISO 527-3に従って測定)のフィルムを有する,ことを特徴とする請
求項1記載のベール
【請求項3】0.9㎥よりも高い梱包容量,および/または350kg/㎥よりも高
く,特に800kg/㎥未満の梱包密度を有することを特徴とする請求項1または2
記載のベール


  • 41 -



【請求項4】少なくとも970mm,特に970~1200mmの高さを有することを
特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のベール
【請求項5】前記梱包材料がプラスチック・フィルムであることを特徴とする請求
項1~4のいずれか1項に記載のベール
【請求項6】対流に対して気密性を有する接続部が,対流空気が透過不可能なシー
ムであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に請求項のいずれか1項に
記載のベール
【請求項7】空気が透過不可能なシームが,重ね合わせヒートシールシーム,また
はヒレ状シームであることを特徴とする請求項6に記載のベール
【請求項8】前記内接矩形内に位置する前記ベールの頂部側表面の90%が,25
mm以下,好ましくは,10mm以下の距離で前記平坦板から離間することを特徴とす
る,請求項1~7のいずれか1項に記載のベール
【請求項9】ポリエチレン,特にLDPE,または改良ポリエチレン(LLDP
E)から成る梱包材料を有することを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記
載のベール
【請求項10】前記梱包材料が,ポリアミド層とポリエチレン層を積層した積層フ
ィルムであることを特徴とする請求項5~8の少なくとも1項に記載のベール
【請求項11】前記梱包材料が,100~400μmの厚さを有することを特徴と
する請求項1~10のいずれか1項に記載のベール
【請求項12】前記ベールが厚紙または合成布地から成る追加の移動用梱包を備
え,さらにストラップで包装されている,ことを特徴とする請求項1~11のいず
れか1項に記載のベール
(本件訂正前の【請求項13】を削除)
【請求項13】(a) 前記フィルタートウを圧縮形態で準備するステップと;
(b) 前記圧縮されたフィルタートウをパッケージ包装材で包装するステップ
と;


  • 42 -

    (c) 前記パッケージ包装材を気密状態にシールするステップと;
    (d) 前記包装されたベールにかかる負荷を解放するステップと;
    (e) 外圧に対して少なくとも0.01barの負圧を,前記負荷が解放された



パッケージ包装材内に発生させるステップとを備えた,
特に請求項1~12のいずれか1項に記載のフィルタートウのベールを梱包する
プロセス
【請求項14】前記負圧が前記圧縮されたフィルタートウの自然の膨張によって発
生されることを特徴とする請求項13に記載のプロセス
【請求項15】前記負圧が空気の排出によって発生されることを特徴とする請求項
13または14記載のプロセス
【請求項16】前記空気が,真空ポンプの補助によって排出されることを特徴とす
る請求項15記載のプロセス
【請求項17】周囲圧力よりも0.15~0.7bar低い負圧が生成されること
を特徴とする請求項13~16のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項18】周囲圧力よりも0.2~0.40bar低い負圧が生成されること
を特徴とする請求項17に記載のプロセス
【請求項19】前記パッケージ包装材が,溶着またはヒートシールによって,特に
重ね合わせシームまたはヒレ状シームを形成するような方法でシールされることを
特徴とする請求項13~18のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項20】温度23℃,相対湿度85%で,DIN53,122に従って測定
される水蒸気透過率が,5g/(㎡・d)未満,好ましくは2g/(㎡・d)未満
であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項13~
19のいずれか1項に記載のプロセス
(本件訂正前の【請求項22】を削除)
【請求項21】200㎤/(㎡・d・bar)未満,好ましくは20㎤/(㎡・
d・bar)未満のガス透過率を有するフィルムをパッケージ包装材として使用す


  • 43 -



ることを特徴とする請求項13~20のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項22】少なくとも10N/15mm,特に少なくとも100N/15mmの引
裂き強度(DIN EN ISO 527-3に従って測定される)を有するフィ
ルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項13~21のいず
れか1項に記載のプロセス
【請求項23】前記引裂き強度が,少なくとも200N/15mm(DIN EN
ISO 527-3に従って測定される)であることを特徴とする請求項22に記
載のプロセス
【請求項24】前記プロセスが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度が得られるよ
うに制御されることを特徴とする請求項13~23のいずれか1項に記載のプロセ


  • 44 -





H230328現在のコメント


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))

【訂正の可否】【サポート要件】【実施可能要件】【進歩性】「事実認定」の判決です。

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Last Update: 2011-03-28 21:50:52 JST

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……………………………………………………判決末尾top
メインサイト(Sphinx利用)知財高裁のまとめMY facebook弁護士・弁理士 岩原義則知的財産法研究会ITと法律研究会弁護士・弁理士サービスのフェイスブック活用研究会

2011年3月10日木曜日

特許:【一致点・相違点】【容易想到性】【複数請求ある場合の審理】「解釈」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))





目 次


特許:【一致点・相違点】【容易想到性】【複数請求ある場合の審理】「解釈」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10121 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月10日 知的財産高等裁判所 

(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))


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【一致点・相違点】【容易想到性】【複数請求ある場合の審理】「解釈」(最高裁判決引用)


(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))





判示


(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))
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第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,本願発明の要旨を下記2とする原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

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3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,要するに,本願発明1は,下記の引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許を受けることができない,というものである。

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4 取消事由

(1) 本願発明の認定の誤り(取消事由1)

(2) 引用発明の認定の誤り(取消事由2)

(3) 本願発明の進歩性に係る判断の誤り(取消事由3)

(4) 審判における審理不尽(取消事由4)

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第4 当裁判所の判断

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1 取消事由1(本願発明の認定の誤り)について



(1) 本願発明を一体的に認定しなかった誤りについて


ア 特許法36条は,特許出願をする者が提出すべき書類の記載事項等について定めるものであるところ,同条2項は,「願書には,明細書,特許請求の範囲,必要な図面及び要約書を添付しなければならない。」と規定し,さらに,同5項は,特許請求の範囲について,「各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」と規定している。


したがって,各請求項には,特許出願人自身が自らの決定に基づいて選択した事項が当該出願により保護を求める発明を特定するための事項として記載されているものであって,各請求項に記載された発明は,それぞれ個別に特定された発明として,審査の対象となることが予定されているのである。

そうすると,特許要件の審査において,そのように各請求項ごとに個別に特定された発明を複数の請求項を一体とした発明として把握し,これを審査の対象とすることは,上記特許法36条の文理に反するものであって,もとより特許法にそのような審査を義務付ける規定もない。しかも,出願人において,そもそも複数の請求項を一体とした発明として審査の対象としたいのであれば,同条5項の規定に従い,複数の請求項に記載していた各構成を一体として,1つの請求項にまとめて記載すれば足りたものである。

以上からすると,本願発明1ないし4は,いずれも納豆製品に係る発明を特定したものであるが,原告が保護を求めようとする発明を「各請求項ごとに」特定したものであるから,技術的にみて相互に関係するものであったとしても,審査に当たり,これらを一体不可分のものとして取り扱うことは許されず,本願発明1について審査を行った手続に誤りはない。

イ なお,本件審決は,別紙審決書において,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の発明について「本願発明1」と,また,同請求項1ないし4の発明を総称して「本願発明」とそれぞれ略称しているが,かかる方法は,その判断内容を正確に伝達する方法として慣用されているところであって,「本願発明1」という用語自体が原告提出の出願書類に記載されていなかったからといって,そのような慣用が否定されるべき理由はない。

top



(2) 補正指導を行わなかった点について

ア 特許出願においては,出願人が自らの決定に基づいて,特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを,各請求項ごとに記載しなければならないのであるから,自ら定めた請求項の記載が本来の意図と異なったとしても,それは,出願人の責任によるものというほかはない。

特許法50条は,審査官に対し,特許出願について拒絶理由があれば,出願人に通知し,意見を述べる機会を与えるように求めているから,特許出願について,特許性に係る不備,すなわち拒絶理由がある場合には,これを指摘する義務を負うものというべきであるが,出願人の本来の意図と,請求項の記載との間に齟齬がないことは予定されているものであって,仮に,その間に齟齬があったとしても,それは,前記のとおり,本来,出願人の自己責任において処置されるべき問題であるから,審査官がその間に齟齬があるか否かを調査し,齟齬がある場合に,そのような出願の不備・欠陥を指摘する義務まで負うものではない。

イ 本件出願について,審査官は,拒絶理由通知を発し,本願発明の特許性に係る不備については,これを指摘しているから,特許法により定められた義務を果たしているところ,原告は,その通知に対して意見を述べ,通知された拒絶理由や拒絶査定を解消するため,自らの自由意思及び責任により,補正を行う機会を有していたのである。しかも,本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし4の各記載それ自体は,いずれも特許法及び同法施行規則の定める形式的要件を充足するものであった。

以上からすると,本件出願について,審査官が適切な補正指導を行わなかったとして,その対応を非難する原告の主張は失当というほかない。

なお,原告は,本願明細書の各記載(【0002】【0006】【0010】【0011】【0017】)から,審査官は,発明者の意図と各請求項の記載が合致していないことが理解できたはずであると主張するが,【0002】は,現在の納豆の販売形態について,【0006】は,本願発明の課題解決手段について,【0010】は,本願発明の納豆は,包装形態や原料等に制約がないことについて,【0011】は,納豆と生麹の混ぜ方について,【0017】は,干し昆布の包装について,それぞれ記載したものにすぎず,上記各記載をもって,審査官が「発明者の意図」に気付いたはずであるという原告の主張それ自体が採用し得ないところであって,これをもって,審査官が補正指導を行うべきであったという余地はない。

(3) 小括

以上からすると,本件審決の本願発明の認定には誤りはなく,原告主張の取消事由1は,理由がない。

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2 取消事由2(引用発明の認定の誤り)について

(1) 新聞記事の一部を恣意的に引用している点について
特許法29条2項における進歩性に係る判断において,同条1項3号に定める特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」というためには,特許出願当時の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それをもって足りる。

引用例には,4通りの新ショウガの食べ方が紹介されているところ,その中に,本件審決が認定した「栄養納豆」それ自体が記載されており,また,引用例には,納豆,塩昆布,甘酒コウジとその他の食材を混ぜ合わせることによって「栄養納豆」が完成することが開示されているのであるから,引用例の記載から,引用発明を認定した本件審決の判断に誤りはない。

この点について,原告は,引用例の新聞記事を執筆した記者の意図や,その他の記載を無視して恣意的な引用をすることは,読者に誤解を与えるおそれがあるなどと主張する。

しかしながら,引用発明の認定は,進歩性の有無という特許要件の審査を目的と して,特許発明等の内容との対比に必要な限度においてされるものであるから,原告指摘の執筆記者の意図(ショウガ料理の新しい作り方の紹介,新ショウガの消費拡大という願い)が,引用例により開示されている技術思想とは関係を有さない以上,これを考慮する必要はないし,本願発明とは無関係のショウガ料理に関する記載が存することをもって,引用発明を認定する障害とはならないことも明らかである。また,本件審決においては,進歩性の有無に関する判断に係る本願発明との対比において,引用例の記載から引用発明を認定しているのであるから,記事の一部を引用したことをもって「読者」に誤解を与える余地もない。

原告の主張は採用できない。

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(2) 引用発明は未完成であることについて


先に述べたとおり,進歩性の判断に係る引用発明については,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りるのである。


原告が指摘する最高裁判決は,旧特許法1条の定める工業的発明というためには,当業者が反覆実施してその目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体化され,客観化されたものでなければ,発明としては未完成であると判示するものであり,進歩性の判断に係る引用発明について,判示したものではない。また,「塩昆布」に各種商品が存在し,また,料理の味付けが作り手によって異なることは,引用例の記載から,「昆布」の一種である「塩昆布」をその構成に有する引用発明を認定する障害となるものでもない。

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(3) 発明に係る二重の基準を用いる誤りについて


進歩性の判断に係る引用発明における「発明」の認定が,特許出願当時の技術水準を基礎として,特許出願に係る発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りるというのに対し,特許性の判断における当該出願に係る「発明」の認定が,当業者が反復継続して目的とする技術効果を上げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要するというべきところ,両者における「発明」の認定について,同一の判断基準に拠っていないとしても,認定の目的及び対象が異なる以上,当然というべきであって,これを不合理であるということはできない。

したがって,被告が,同種事案について,特定の出願人に対して異なる基準を適用した場合に平等原則違反となることは格別,原告の主張をもって,被告が二重の基準に基づく不平等な取扱いをしているとはいえないことは明らかである。



(4) 小括


以上からすると,引用例から引用発明を認定した本件審決に,誤りはなく,原告主張の取消事由2は,理由がない。

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3 取消事由3(本願発明の進歩性に係る判断の誤り)について

(1) 一致点の認定の誤りについて

ア 引用例について

引用例(甲4)は,ショウガ料理を紹介する新聞記事であるところ,「栄養納豆」に関する記載を要約すると,以下のとおりである。

(ア) 栄養納豆は,ごはんが進む一品。千切りにした新ショウガとニンジンを甘酒コウジ,納豆,塩昆布と混ぜ合わせる。焼酎,薄口しょうゆ,みりん,白ゴマ,はちみつを加え,さらに混ぜる。一晩置いて,コウジが水分を吸って軟らかくなったら出来上がりである。


(イ) 栄養納豆の材料は,ショウガ60g,甘酒コウジ150g,納豆3パック, ニンジン(中)1本,焼酎1/2カップ,薄口しょうゆ1/2カップ,みりん1/2カップ,塩昆布1袋(120ないし150g),白ゴマ15g,はちみつ少々である。

(ウ) 以上の引用例の記載からすると,引用例には,ショウガ,甘酒コウジ,納豆,ニンジン,焼酎,薄口しょうゆ,みりん,塩昆布,白ゴマ,はちみつを混ぜ合わせることによって得られる栄養納豆に係る技術的知見(引用発明)が開示されているということができる。

イ 「生麹」と「甘酒コウジ」について

本願発明1は,「生麹」をその構成に含んでいるところ,引用発明においては,「甘酒コウジ」が用いられている。

もっとも,本願明細書【0004】において,麹は,米,麦,大豆等にコウジカビ等のカビを生やしたもので,そのカビの作り出す酵素がデンプン,タンパク質をそれぞれ糠やアミノ酸に分解するという特性を利用して,酒類,みそ,しょうゆ等の醸造や漬物,菓子等の製造に用いられるとされており,「生麹」と「甘酒コウジ」は,いずれも「麹」であることは明らか(甲19,乙2)であるから,「麹」を本願発明1と引用発明との一致点とした本件審決の認定に,誤りはない。

この点について,原告は,「生麹」と違い,「甘酒コウジ」は,製造工程の相違により表面が一面のカビ状態となるものであり,しかも,「袋詰めにされた生麹」と「袋詰めにされた甘酒コウジ」とでは,開封時における麹菌の周辺への飛散性という観点から大きく異なるものであるから,本件審決が,「生麹」と「甘酒コウジ」がともに麹の一種であることを一致点と認定したことは誤りであると主張する。しかしながら,本願発明1は,袋詰めにされた状態を構成に含むものではないから,袋詰め状態を前提とする飛散性に係る原告主張は,本願発明1の構成に基づかない主張であるし,本件審決は,本願発明1が「生麹」を,引用発明が「甘酒コウジ」を用いている点について,相違点2として認定しているのであるから,仮に,「生麹」と「甘酒コウジ」に,原告指摘の相違が存するとしても,上記結論を左右するものではない。原告の主張は採用できない。

ウ 「干し昆布」と「塩昆布」について

本願発明1は,「干し昆布」をその構成に含んでいるところ,引用発明においては,「塩昆布」が用いられている。

もっとも,昆布の原藻を素干しした製品を「干し昆布」と,マコンブの肉厚の部分を正方形又は短冊形に切り,しょうゆ,たまり,砂糖,みりんなどを合わせた調味液の中で長時間煮詰め,汁を切って乾燥機にかけ,グルタミン酸ナトリウム,リンゴ酸ナトリウム,食塩などを調合した粉末調味料をまぶしたものを「塩昆布」というところ(乙5),「干し昆布」と「塩昆布」とは,いずれも「昆布」からなるものであることは明らかであるから,「昆布」を本願発明1と引用発明との一致点とした本件審決の認定に,誤りはない。

この点について,原告は,塩昆布は「佃煮」商品であり,原材料状態の「干し昆布」と字面だけを取り上げて同一視することは許されない,塩昆布においては,加工により昆布に染み込ませた味や風味,外観,手触りなどが多種多様に存在することこそ,重視されなければならないなどと主張する。

しかしながら,塩昆布に多種多様な商品が存在し,塩昆布にとって,味や風味が 大切であるからといって,塩昆布が昆布を原料としている事実それ自体はこれに左右されるものではない。原告の主張は,昆布には,干して原材料状態とされた「干し昆布」や,佃煮としての「塩昆布」という複数の状態が存在することを強調するものにすぎず,そのことをもって一致点の認定が誤りということはできない。原告の主張は採用できない。

エ 納豆をベースとする納豆食品である点について

引用例は,ショウガに関する4通りの料理を紹介する新聞記事であるところ,同記事は,引用発明について,「栄養納豆」として紹介しており,本件審決が,「納豆をベースとする納豆食品」を一致点として認定したことに,誤りはない。


この点について,原告は,引用例は,新ショウガを紹介する記事であり,「栄養」とは,「塩昆布」を意味するものである,引用発明は,甘粕コウジ150g,納豆3パック132ないし168g,塩昆布120ないし150g の主材料に,ショウガ,ニンジンのほか,多量の調味料が加えられるのであるから,納豆ベースの料理と解することはできない,引用発明は,納豆に麹と塩昆布を混合させた一体不可分状態の「納豆に麹と昆布を混合させてある納豆食品」というべきであるところ,本願発明は,「袋詰めされた生麹」と「袋詰めされた干し昆布」を,「一つの包装容器である納豆パックに詰め合わせた状態」で,製造・販売する商品であるから,「混合」と「混在」とでは,その意味が全く異なるなどと主張する。

しかしながら,一致点の認定においては,引用例に開示された技術思想として,いかなる発明を認定できるかが重要であって,引用例が「ショウガ」を紹介する意図を有していることや,紹介されている料理の各材料の重量比を過度に重視することは相当ではないし,「栄養」が塩昆布を意味するとの主張の当否はともかくとして,かかる文言によって,一致点の認定が左右されるものではない。納豆の用量が,他の材料と比較して,極端に少ないなどの事情があるのであれば格別,引用発明においては,相当量の納豆が使用されているのであるから,「栄養納豆」との標題どおり,一致点を認定した本件審決の判断に誤りはない。

また,本願発明を,「一つの包装容器である納豆パックに詰め合わせた状態」の製品をいうとする原告の主張は,取消事由1において指摘したとおり,その前提自体が誤りである。原告の主張は採用できない。



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(2) 相違点2に係る判断の誤りについて


ア 本願発明1の「生麹」について

本願明細書(甲2)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。

(ア) 本願発明は,納豆が従来から有する健康維持あるいは促進の効能を一層増強,向上させることができる納豆食品に係る発明である。納豆は,血流をさらさらとさせることが認証されており,優良なタンパク源としても知られている。


他方,麹は,米,麦,大豆等にコウジカビ等のカビを生やしたもので,そのカビの作り出す酵素がデンプン,タンパク質をそれぞれ糠やアミノ酸に分解する特性を利用して,酒類,みそ,しょうゆ等の醸造や漬物,菓子等の製造に用いられている。


本願発明は,納豆の有する健康維持あるいは促進の効能を一層増強,向上させ,納豆をさらに食べやすく,従来にない食感を出す付随効果を得ることができる。

(イ) 本願発明に係る納豆食品は,納豆をベースとし,その納豆に生麹と刻んだ干し昆布を混合させてあることを特徴とする。干し昆布は塩をまぶしたものとし,ほぼ5mm四方に刻んであり,混合の割合は,納豆1に対して生麹をほぼ重量%で3分の1,干し昆布は10枚前後とする。生麹と干し昆布は各々袋詰めされ,納豆パックに添付されており,使用時に開封し,納豆に混合させることを特徴としている。

(ウ) 本願発明に係る納豆食品は,納豆に混合される生麹が作用して,納豆に含有されるデンプン,タンパク質を分解して糖やアミノ酸も生成することになり,単なる納豆よりも吸収力が高められ,血行を増進するうえ,血圧降下にも良好な効果を得ることができる。また,単に生麹を混合するのみでは,生麹特有の臭いが強く,食に適さないが,干し昆布も同時に混合することで,臭いを消すことができるのみならず,独特の昆布の香りが得られ,しょうゆの吸収効果を有するほか,今までにない食感をも得ることができる。塩をまぶした干し昆布を使用すると,食感として非常に好ましい。

(エ) 本願発明に係る納豆食品は,従来の単体の納豆と比較して,一層血行を良好なものとし,その血行の良好性が肌の老化を抑え,美肌を得ることができ,加えて,高血圧の人に対して血圧降下の効果も発揮し,発明者自らは数値として10ないし15の血圧降下を得ることができた。生麹や刻んだ干し昆布は,現在市販されている納豆の包装に対して,ビニール等の袋に適量を詰め,添付した状態で販売されることが望ましく,使用に際しての至便性が向上することとなり,商品としての納豆に大きな付加価値がつけられることともなる。生麹や干し昆布の混合割合は記載した数値に限定されるものではなく,各自の好みに応じて採択でき,また,その他の一般的な刻みネギやシラス干し等の混合を同時に行なうことも可能である。

以上の(ア)ないし(エ)の本願明細書の記載からすると,本願発明1において,生麹は,納豆に含有されるデンプン,タンパク質を分解して糖やアミノ酸を生成することにより,単なる納豆よりも吸収力が高められ,血行を増進し,血圧降下にも良好な効果を及ぼす目的で添加されるものということができる。

イ 麹に関する知見について

また,麹に関する知見として,以下のようなものがある。

(ア) 昭和51年3月発行の総合食品事典第三版(乙2)には,麹の使用目的として,デンプン糖化や大豆のタンパク質分解があること,我が国で一般に用いられているのは黄麹であることが指摘されている。

(イ) 平成10年2月発行の雑誌「食品と開発」に掲載された紅麹の食品素材としての機能と利用と題する論文(乙3)には,紅麹ほどではないが,黄麹に血圧降下作用があることが指摘されている。

(ウ) 平成12年6月発行の雑誌「ニューフードインダストリー」に掲載された紅麹とその効用についてと題する論文(乙4)には,中国から伝来した紅麹には,我が国において,みそ,しょうゆ,清酒等の麹として使用されている黄麹と比較して,強い血圧降下作用が存することが指摘されている。

以上の(ア)ないし(ウ)の各文献の記載からすると,本件出願当時,麹が血圧降下作用を有することは,周知事項であったものということができる。

ウ 「甘酒コウジ」に代えて「生麹」を用いることについて

生麹と,甘酒コウジとは,原告の主張を前提とすると,乾燥状態であるか否かについて相違するにすぎず,原告は,生麹と甘酒コウジが,麹として有する血圧降下作用について,両者に差が存すると主張するものではない。

本件出願当時,麹が血圧降下作用を有することが周知事項であったことからすると,生麹を使用するか,甘酒コウジを使用するかについては,麹を使用する者の要望に応じて適宜選択できる事項にすぎず,引用発明の甘酒コウジを生麹に代えて適用することは,当業者にとって容易に想到し得るものというべきである。

この点について,原告は,カビが表面に目立たず,ぬめりけのない生麹に代えて,表面にカビが覆われている甘酒コウジを使用することはできない,当業者ではない一般消費者である発明者だからこそ,「納豆と麹は決して,一緒に取り扱ってはならない。」というタブーを破り,本願発明を想到することができたものである,本願発明と同様,納豆を主材料とする塩納豆が山形県に存在し,社会的にも認められており,本願発明のように,「1つの包装容器である発泡スチロールなどの納豆パック」に「袋詰めされた生麹」と「袋詰めされた干し昆布」を一緒に入れた商品は, 当業者が容易に想到し得るものではない,机上の空論によって,「誰でも容易に発明できる」などと批判することは容易であるが,本願発明まで,同様の商品は存在していなかったという事実は否定できないなどと主張する。しかしながら,本願明細書には,生麹が「初めからカビが表面に目立たない」状態であることについて記載されておらず,甘酒コウジの表面にカビが目立ち,生麹と比較して食用に適さないことを認めるに足りる証拠もない。また,麹に関する知見(乙2)によると,生麹の形態として「初めからカビが表面に目立たない」ものであることは,本願明細書の記載から自明の事項ということもできず,原告の主張は,本願明細書の記載に基づくものではない。

また,原告が提出したタブーに関する書証は,麹菌及び酵母菌を使用する日本酒の製造において,雑菌である納豆菌の混入を防止することが求められていること(甲30),納豆の製造において,納豆菌以外の菌は,麹菌を含めて雑菌として排除されるべきであること(甲31,32)が開示されているにすぎず,特定の発酵 食品の製造工程において,有用菌のみを取り入れ,他の菌は可能な限り雑菌として製造工程から除外するという,食品製造における当然の管理手法を示したものにすぎない。したがって,食品業界一般において,原告指摘のタブーが存在するわけではなく,実際,引用発明のほか,五斗納豆(粒納豆又はひきわり納豆を麹と食塩を加えて漬け込んだもの。乙11),塩納豆(納豆に米麹,塩,昆布などを加えて製造したもの。甲24∼26)など,納豆と麹とが一緒に取り扱われる例が他に存在するものである。

さらに,進歩性に係る判断においては,当業者が容易に発明をすることができたか否かが検討されるものであって,本願発明の発明者が当業者であるか否かは,進歩性の判断において考慮されるべき事項ではないから,発明者が一般消費者であることを強調し,本件審決の判断の当否を非難することは相当ではない。

なお,本願発明のような一体化した製品は存在しなかった旨の原告主張は,本願発明1の構成を前提としない主張であるし,塩納豆が社会的に認められていたからといって,本願発明1の進歩性を肯定する事情とすることはできない(塩納豆は,納豆に米麹,昆布などを加えて製造するものであるから,むしろ,引用発明と同様,本願発明1の進歩性を否定する事情として指摘されるべきものである。)。原告の主張は採用できない。

エ したがって,乾燥麹である甘酒コウジに代えて,生麹を適用することは,当業者が容易に想到し得ることであるとした本件審決の判断に誤りはない。

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(3) 相違点3に係る判断の誤りについて


ア 本願発明1の「干し昆布」について

前記(2)アの本願明細書の各記載によると,本願発明1において,干し昆布は,生麹特有の臭いを消し,さらに,独特の昆布の香りと今までにない食感を得るために加えられるものということができる。

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イ 昆布に関する知見について

また,昆布に関する知見として,以下のようなものがある。

(ア) 平成4年1月発行の新・食品事典5 野菜・藻類(乙5)には,昆布には血圧降下物質であるラミニンが含まれるほか,アルギン酸,カリウム,ヨウ素,食物繊維などの様々な作用によって,血圧降下作用が発揮されることが記載されている。

(イ) 特開平11−276109号公報(乙6)は,昆布納豆の製造方法及び装置に係る発明に関する文献であるところ,同文献には,昆布片を混合させた納豆は,いわゆる納豆臭が格段に減少すること,健康に良いことなどが指摘されている。

(ウ) 特開昭61−43977号公報(乙7)は,野菜ジュースの消臭方法に係る発明に関する文献であるところ,同文献には,昆布を野菜ジュース中に浸漬させることにより,野菜ジュース特有の臭気を顕著に低下させるのみならず,昆布中に含まれる種々の成分が付加されることにより,栄養学的にも大きな効果が得られることができることなどが記載されている。


(エ) 特開昭61−43963号公報(乙8)は,酵素含有複合製剤の消臭方法に係る発明に関する文献であるところ,同文献には,各種酵素及び水を含む液状の複合酵素製剤中に昆布を浸漬することにより,酵素含有複合製剤の臭気を顕著に低下させるのみならず,昆布中に含まれる種々の成分が付加されることにより,栄養学的にも大きな効果が得られることなどが記載されている。

(オ) 特開平10−165114号公報(乙9)は,フコイダンを添加した食品に係る発明に関する文献であるところ,同文献には,褐藻類(昆布等)の藻体中に存在する特有の成分であるフコイダンには,芳香を損なうことなくいやな臭いを除去する特性や,食味向上活性を有することなどが記載されている。


以上の(ア)ないし(オ)の各文献の記載からすると,本件出願当時,昆布が消臭作用を有することは周知事項であったものということができる。

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ウ 「塩昆布」に代えて「干し昆布」を用いることについて

塩昆布と,干し昆布とは,原告の主張を前提とすると,原材料の状態であるか,佃煮等として加工された状態であるかについて相違する(乙5)にすぎず,原告は,塩昆布と干し昆布が昆布として有する消臭作用について,両者に差が存すると主張するものではない。

本件出願当時,昆布が消臭作用を有することが周知事項であったことからすると,干し昆布を使用するか,塩昆布を使用するかについては,昆布を使用する者の要望に応じて適宜選択できる事項にすぎず,引用発明の塩昆布を干し昆布に代えて適用することは,当業者にとって容易に想到し得るものというべきである。

この点について,原告は,「塩昆布」は,多種多様な商品が存在するものであるし,塩昆布は加工昆布であり,干し昆布は未加工の原材料であるから,干し昆布も塩昆布もともに昆布を主成分とするものであることを理由に,同列に扱う本件審決の判断は不当である,引用発明においては,塩昆布自体を食べることを目的として塩昆布が加えられているが,本願発明においては,干し昆布の有する消臭作用に期待して干し昆布が加えられたものであり,両者には価格差もあるから,かかる使用目的や価格の相違を考慮することなく,塩昆布を干し昆布に換えることが容易であるとすることはできないなどと主張する。

しかしながら,昆布それ自体の有する消臭効果を前提として,昆布の各種形態である塩昆布か干し昆布のいずれかを選択することが,当業者にとって容易である以上,塩昆布について多種多様な商品が存在することは,塩昆布を選択した場合の選択肢が多数存在することを意味するにすぎず,相違点3の構成が容易に想到し得るものであるとの判断を左右するものではない。

また,引用発明において,塩昆布自体を食べることを目的として加えられたものであるか否かは不明であるが,仮に原告主張のとおりであったとしても,引用発明の塩昆布に代えて,干し昆布を選択すること自体が阻害されるものということもできない。価格差についても同様である。原告の主張は採用できない。

エ したがって,塩昆布に代えて,干し昆布を適用することは,当業者が容易に想到し得ることであるとした本件審決の判断に誤りはない。


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(4) 格別顕著な効果を要求した誤りについて

ア 本件審決は,相違点1は実質的な相違点とはならず,相違点2及び3についても,当業者が容易に想到し得るものということができるから,本願発明1の構成自体は,当業者が容易に想到し得るものであるとした上で,引き続き,本願発明1に,格別顕著な効果を認めることができるかについて検討しているものである。


したがって,本件審決は,本願発明1について,進歩性を肯定する要件として,その構成が容易に想到し得るものであるか否かに関わらず,格別顕著な効果を奏することを求めているものではない。

イ 本願明細書には,本願発明1の効果として,従来の単体の納豆と比較して,一層血行を良好なものとし,その血行の良好性が肌の老化を抑え,美肌を得ることができ,加えて,高血圧の人に対して血圧降下の効果も発揮し,発明者自らは数値として10ないし15の血圧降下を得ることができたなどと記載している。

もっとも,本願明細書には,血圧降下作用について,いかなる条件で測定し,効果を特定したかについて全く開示されておらず,その他の作用についても,抽象的な記載がされるのみで,それを裏付けるに足りる記載はない。発明者の陳述書(甲27)には,自宅において食事の内容を同一に設定し,さらに,生活リズム,生活荷重を極力近い環境にして,納豆を全く食べない場合,市販の納豆のみを食事に加えた場合,本願発明に係る納豆を加えた場合の血圧値測定を1年間実施した旨の記載があるが,かかる測定方法により,血圧降下作用が客観的に裏付けられるものではないことは明らかである。

しかも,本願明細書に記載されたその他の各作用については,納豆,麹,昆布自体,血圧降下作用,健康増進作用,血栓溶解作用や,血行促進作用に伴う美肌作用(甲24,26,乙2ないし13)を有するものであって,本願発明1が,それ以上の格別な相乗効果を奏していること等については,これを認めるに足りる証拠はない。したがって,本願明細書記載の本願発明1の効果をもって,本願発明1に格別顕著な効果が存在するものとして,進歩性を認めることもできない。

ウ なお,原告は,市販の商品(甲29)の血圧降下作用と比較して,本願発明の血圧降下作用はさらに優れたものであるなどとも主張するが,本願発明の血圧降下作用が実際に発現したことについて,本願明細書にこれを裏付ける記載がない以上,原告の主張は採用することができない。

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(5) 小括

以上からすると,本願発明1は,当業者が引用発明に基づいて容易に想到し得るものとした本件審決の判断に,誤りはなく,原告主張の取消事由3は,理由がない。

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4 取消事由4(審判における審理不尽)について


(1) 取消事由1において先に述べたとおり,本件出願の特許請求の範囲には4個の請求項が記載されており,これらの請求項1ないし4は,個別に記載されたものであるから,本件出願については,請求項1に係る発明の特許性の存否についてまず検討したことについて,本件審決に誤りはない。

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(2) 特許法は,1つの特許出願に対し,1つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて1つの特許が付与され,1つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。そして,このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成19年(行ヒ)第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)ということができる。

本件においては,前記3のとおり,請求項1に係る本願発明1が特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである以上,特許庁がその余の請求項に係る発明について検討しなかったとしても,本件出願全体として拒絶を免れないものであったといわざるを得ないから,本件審決が,審判請求不成立の判断をした点に,結論に影響を及ぼすべき違法はない。

この点について,原告は,本願発明を一体的に把握せず,本願発明1のみを審理した本件審決は,少なくとも本願発明2ないし4について全く審理をしていない,特許出願する対象が大掛かりなものである場合,請求項の数字が大きくなるに従い,全体の実態が明確になる説明がされることが通常であるから,特許にすることができない請求項が1個でも存在するときは,その特許出願について拒絶査定をするという取扱いによると,あたかも新聞記事に掲載された土蔵の発明に基づいて姫路城を造る工法全体が拒絶されるという不当な結果となるなどと主張する。

しかしながら,取消事由1において先に述べたとおり,本願発明の請求項1ないし3は,請求項4と一体であるとする原告主張は,その前提自体が誤りである。

また,特許出願においては,出願人自らの責任と選択に基づいて,特許請求の範囲の請求項について記載することができ,また,特許出願の分割や補正等によって,出願全体を拒絶されることによる不利益を免れる手段を有しているのであるから,上記取扱いが,格別不当であるということもできない。

(3) 小括

以上からすると,本件審決が,本願発明2ないし4について審理をすることなく,審判請求不成立の判断をした点に,結論に影響を及ぼすべき違法はなく,原告主張の取消事由4も,理由がない。

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5 結論

以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣



縮小版



(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

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【「複数の請求項を一体とした発明として把握し,これを審査の対象とすること」の可否】「解釈」


「特許法36条は,特許出願をする者が提出すべき書類の記載事項等について定めるものであるところ,同条2項は,「願書には,明細書,特許請求の範囲,必要な図面及び要約書を添付しなければならない。」と規定し,さらに,同5項は,特許請求の範囲について,「各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」と規定している。

 したがって,各請求項には,特許出願人自身が自らの決定に基づいて選択した事項が当該出願により保護を求める発明を特定するための事項として記載されているものであって,各請求項に記載された発明は,それぞれ個別に特定された発明として,審査の対象となることが予定されているのである。

 そうすると,特許要件の審査において,そのように各請求項ごとに個別に特定された発明を複数の請求項を一体とした発明として把握し,これを審査の対象とすることは,上記特許法36条の文理に反するものであって,もとより特許法にそのような審査を義務付ける規定もない。しかも,出願人において,そもそも複数の請求項を一体とした発明として審査の対象としたいのであれば,同条5項の規定に従い,複数の請求項に記載していた各構成を一体として,1つの請求項にまとめて記載すれば足りたものである。」 (知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

【あてはめ】

以上からすると,本願発明1ないし4は,いずれも納豆製品に係る発明を特定したものであるが,原告が保護を求めようとする発明を「各請求項ごとに」特定したものであるから,技術的にみて相互に関係するものであったとしても,審査に当たり,これらを一体不可分のものとして取り扱うことは許されず,本願発明1について審査を行った手続に誤りはない。


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【審査官の補正指導の義務】「解釈」

「特許出願においては,出願人が自らの決定に基づいて,特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを,各請求項ごとに記載しなければならないのであるから,自ら定めた請求項の記載が本来の意図と異なったとしても,それは,出願人の責任によるものというほかはない。

 特許法50条は,審査官に対し,特許出願について拒絶理由があれば,出願人に通知し,意見を述べる機会を与えるように求めているから,特許出願について,特許性に係る不備,すなわち拒絶理由がある場合には,これを指摘する義務を負うものというべきであるが,出願人の本来の意図と,請求項の記載との間に齟齬がないことは予定されているものであって,仮に,その間に齟齬があったとしても,それは,前記のとおり,本来,出願人の自己責任において処置されるべき問題であるから,審査官がその間に齟齬があるか否かを調査し,齟齬がある場合に,そのような出願の不備・欠陥を指摘する義務まで負うものではない。」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

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【「特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」」】「解釈」

「特許法29条2項における進歩性に係る判断において,同条1項3号に定める特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」というためには,特許出願当時の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それをもって足りる。」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

【あてはめ】

引用例には,4通りの新ショウガの食べ方が紹介されているところ,その中に,本件審決が認定した「栄養納豆」それ自体が記載されており,また,引用例には,納豆,塩昆布,甘酒コウジとその他の食材を混ぜ合わせることによって「栄養納豆」が完成することが開示されているのであるから,引用例の記載から,引用発明を認定した本件審決の判断に誤りはない。

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【進歩性判断にかかる引用発明の記載の程度】「解釈」

「進歩性の判断に係る引用発明については,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りるのである。」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

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【「発明に係る二重の基準を用いる」ことの可否「解釈」

「進歩性の判断に係る引用発明における「発明」の認定が,特許出願当時の技術水準を基礎として,特許出願に係る発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りるというのに対し,特許性の判断における当該出願に係る「発明」の認定が,当業者が反復継続して目的とする技術効果を上げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要するというべきところ,両者における「発明」の認定について,同一の判断基準に拠っていないとしても,認定の目的及び対象が異なる以上,当然というべきであって,これを不合理であるということはできない。 」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

【あてはめ】

したがって,被告が,同種事案について,特定の出願人に対して異なる基準を適用した場合に平等原則違反となることは格別,原告の主張をもって,被告が二重の基準に基づく不平等な取扱いをしているとはいえないことは明らかである。

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【一致点の認定】「解釈」


「一致点の認定においては,引用例に開示された技術思想として,いかなる発明を認定できるかが重要」である(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))。


【あてはめ】
引用例が「ショウガ」を紹介する意図を有していることや,紹介されている料理の各材料の重量比を過度に重視することは相当ではない

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【「発明者が当業者であるか否か」の進歩性判断の影響「解釈」

「さらに,進歩性に係る判断においては,当業者が容易に発明をすることができたか否かが検討されるものであって,本願発明の発明者が当業者であるか否かは,進歩性の判断において考慮されるべき事項ではないから,発明者が一般消費者であることを強調し,本件審決の判断の当否を非難することは相当ではない。」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

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【複数請求項あるばあいの審理】「解釈」(最高裁判決引用)


「特許法は,1つの特許出願に対し,1つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて1つの特許が付与され,1つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。そして,このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成19年(行ヒ)第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)ということができる。」 (知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

「本件においては,前記3のとおり,請求項1に係る本願発明1が特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである以上,特許庁がその余の請求項に係る発明について検討しなかったとしても,本件出願全体として拒絶を免れないものであったといわざるを得ないから,本件審決が,審判請求不成立の判断をした点に,結論に影響を及ぼすべき違法はない。 」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

【あてはめ】

したがって,「本件出願の特許請求の範囲には4個の請求項が記載されており,これらの請求項1ないし4は,個別に記載されたものであるから,本件出願については,請求項1に係る発明の特許性の存否についてまず検討したことについて,本件審決に誤りはない。」とした前記知財高裁と同じく,その判断に何ら誤りはない。
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H230315現在のコメント


「容易想到性」に関して,かなり細かく基本の要件論,解釈を述べています。

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Last Update: 2011-03-15 10:04:55 JST

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2011年3月3日木曜日

特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10216号審決取消請求事件))






特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10216号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第2部「塩月秀平コート」


平成22(行ケ)10216 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月03日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10216号審決取消請求事件))

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【容易想到性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10216号審決取消請求事件))


判示・縮小版なし



第2
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事案の概要

本件は,特許出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について,特許庁がした請求不成立の審決の取消訴訟である。争点は,本願発明の進歩性の有無である。



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取消事由3(相違点の判断の誤り)について

取消事由3は,本願発明と引用発明との対比において,取消事由2に示した新たな相違点が認められるのであるから,引用発明から本願発明を容易に発明することはできず,本願発明の進歩性を否定した審決の判断が誤りであると主張するものである。

しかし,本願発明と引用発明との対比において新たに相違点が認められるものでないことは,取消事由1及び2で判示したとおりであるから,本願発明の進歩性を否定した審決の判断の前提に誤りはなく,取消事由3には理由がない。

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H230307現在のコメント


容易想到性に関する事実認定判決です。

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Last Update: 2011-03-07 10:59:32 JST

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2011年2月24日木曜日

特許: 【容易想到性(進歩性)】「事実認定」:(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10135号審決取消請求事件))





目 次


特許: 【容易想到性(進歩性)】「事実認定」:(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10135号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」



H230301の現在のコメント


(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10135号審決取消請求事件))

「容易想到性」に関する事実認定判決です。判示の中に,「進歩性」の言葉を使用しています。



縮小版なし・判決原文(引用)


(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10135号審決取消請求事件))



第2 事案の概要



本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の本件特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が,本件発明の要旨を下記2のとおり認定した上で,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

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第4 当裁判所の判断





1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)について



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(1) 本件発明の認定について


12

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ア本件明細書(甲1)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。

(ア) 本発明は,土壌中の微生物を選択的に除菌してその活性化を図るようにした植栽用土壌の活性化方法に関するものである。

土壌中には,植物病原性微生物である糸状菌や,糸状菌を抑制して植物の病気感染を防ぐ放線菌及び窒素を固定して肥料とする細菌等の微生物が生息しているが,土壌処理に用いる除菌剤の殺菌力が弱いと,有害な菌を十分に除くことができず,また,強力な除菌剤では植栽に有効な菌までも除去してしまう欠点があった。その上,従来の各種除菌剤は刺激臭が強く,人畜にも有害なものがあり,ビニールシートで土壌を覆ってその間に使用しなければならない等,農作業上の面からも問題があった。

(イ) 本発明の目的は,植栽上有効な菌を十分に土壌中に残存せしめ,有害な菌を選択的に除去して土壌を活性化するとともに,臭気が少なく,人畜に無害な植栽用土壌の活性化方法を提供することである。これらの目的は,特定濃度範囲の二酸化塩素水溶液を有効成分とする土壌活性化除菌剤を撒布することにより達成できる。

(ウ) 二酸化塩素は,非常に水に溶けやすく,強力な酸化作用があるが,低濃度で使用すれば安全であるから,二酸化塩素水溶液を適当な濃度で土壌中に撒布することにより,細菌,放線菌等の菌は有効量残存させ,糸状菌等の植栽に有害な菌は著しく減少させることができる。


(エ) 本発明の実施例として,濃度6万ppmの二酸化塩素水溶液20ℓ を約2000ℓ の水により希釈し,作成した濃度約600ppmの二酸化塩素水溶液を土壌1反当り約2000ないし2500ℓ の割合で撒布した。撒布後,二酸化塩素がほぼ消失するまで約2週間放置し,土壌を乾燥させた後,施肥し,植物を栽培した。その結果,植栽に有効な細菌は,処理前が土壌1g当り,2200万個であったものが3万9000個に減少し,放線菌は430万個から2万4000個に減少しているが,この程度の残存数では植栽上有効であって大きな悪影響はないのに対し,有害な菌である糸状菌は処理前の10万個から60個に著しく減少し,十分に土壌の活性化が行われた。残存率は,細菌が約17.7%,放線菌が約55.8%,糸状菌が約6%であった。この土壌を1例として苗床に使用して野菜の栽培を行ったところ,極めて良好な結果が得られた。

これに対し,約500ppmの二酸化塩素水溶液で除菌処理した場合,土壌中の糸状菌の残存率が上記600ppmの場合の約2倍となり,十分な除菌効果が得られなかった。また,約700ppmの二酸化塩素水溶液の場合,植栽に有効な上記細菌や放線菌まで除菌されてしまい,活性化の目的を達成することができなかった。

(オ) 本発明は,濃度500ないし700ppmの二酸化塩素水溶液を土壌に撒布することにより,植栽に有効な細菌及び放線菌を比較的多量に土壌中に残存せしめるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少せしめて土壌の活性化を行い,作物の成育に極めて良好な結果を得ることができ,また二酸化塩素は水に非常に溶けやすく,本発明においてはその水溶液を使用したので,従来,土壌の殺菌に使用されているクロルピクリンのように,人体に悪影響を及ぼすガスの放散を防ぐために土壌の表面を覆うような手数が不要となり,手軽に撒布するだけで土壌中に容易に浸透して除菌することができる上,有害なガスの発生もなく安全に作業することができ,更に,選択的除菌のため,容易かつ正確にその濃度を調整できる等の優れた利点を有している。

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イ本件発明の技術内容

以上の本件明細書の記載によると,本件発明は,人体に悪影響を及ぼすガスに代わり,人畜無害な特定濃度の二酸化塩素水溶液を一定範囲の土壌に撒布するという簡易な方法によって,植栽に有効な細菌及び放線菌については,有効量,土壌中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させて,土壌を活性化することをその技術内容とするものである。

ウ「選択的に除菌」の意義について

上記イの本件発明の技術内容によると,特許請求の範囲における「土壌中の微生物を選択的に除菌」の技術的意義は,植栽に有効な細菌及び放線菌を有効量,土壌中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させることを意味するものと理解することができる。

この点について,原告は,本件発明の特許請求の範囲には,「細菌,放線菌等の菌は有効量残存させ,糸状菌等の植栽に有害な菌は著しく減少させる」旨の記載がない以上,特許請求の範囲に記載されている「選択的に除菌」について,本件明細書全体の記載を参酌して,本件審決のように限定的に解釈することはできず,むしろ,菌を死滅させる場合を含む広い意味において理解すべきであるなどと主張する。しかしながら,本件発明の特許請求の範囲には「選択的に除菌」と記載されてい るところ,本件審決は,本件発明について,その記載のとおり認定しているにすぎないのであって,本件発明と引用発明との対比の際,特許請求の範囲の文言の技術 的意義を明らかにするために,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された技術的事項を参照してそのように認定することに問題はない。とりわけ,本件発明が植栽用土壌の活性化方法であることに照らせば,「選択的に除菌」という構成の技術的意義を検討するに当たり,「選択」という用語自体から,植栽用の土壌を活性化させるため,有益な菌は残存させ,有害な菌については,これを選んで除菌する技術思想が示唆されているということができるから,本件審決は,その意義を明らかにするため,本件明細書の記載を参照しているにすぎないことが明らかである。


原告の主張は,本件発明の特許請求の範囲に記載されている「選択的に除菌」について,これを「菌を死滅させる場合を含む広い意味で」理解し得ることが一義的に明確であることを前提とするが,「選択的に除菌」の意味を全ての菌を死滅させる場合を含む概念と理解することは相当ではなく,原告の主張は,その前提において誤りがあるから,これを採用することができない。

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(2) 一致点及び相違点の認定について



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ア引用例2の認定について

引用例2(甲4)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。

(ア) 引用発明2の特許請求の範囲は,以下のとおりである。

【請求項1】土壌表面を非通気性シートで覆い,シートと土壌との間に二酸化塩素ガス含有空気を吹き込むことを特徴とする土壌殺菌法

【請求項2】二酸化塩素ガス含有空気の二酸化塩素ガス濃度が10ppbないし100ppmであり,吹込量が㎡当たり20ないし300ℓ であることを特徴とする特許請求1項記載の土壌殺菌法

(イ) 本発明は,細菌に汚染された土壌,特に,ハウス内で使用した土壌の殺菌消毒法に関するものである。

ハウス内土壌は細菌が繁殖しやすく,減収の予防と作業者の健康対策のため,次の作付けに先立ち,土壌の殺菌を行う必要がある。

臭化メチルやクロルピクリン等の殺菌性薬剤による殺菌方法は,強い毒性を有する薬剤を用いるため,作業時における作業者及び付近住民並びに河川や地下水に対する薬害を防止する必要があるのみならず,残留薬品のガスを消散させる必要性や,繰り返し使用による耐性菌の出現などの課題がある。

(ウ) 本発明は,二酸化塩素ガスで土壌を処理することにより,短時間の作業で確実に殺菌を行うことができるものである。

二酸化塩素は,水溶液やこれを担持させた粉体を用いて,収穫農作物やハウス内作物の殺菌を行うことが知られているが,土壌を処理することについてはいまだ報告されていない。

二酸化塩素ガスを用いた場合,非常に速効性があり,殺菌後,分解して無害の塩化ナトリウムに変化するという特徴がある。

(エ) 土壌表面を覆うための非通気性シートは,通常,農業に使用するマルチングシートの孔のないものがよく,例えば,ポリエチレンシート,ポリ塩化ビニルシートなどを使用することができる。

二酸化塩素ガス含有空気の二酸化塩素ガス濃度は,10ppbないし100ppmが適当であるが,10ppbより低濃度では効果が低く,100ppmより濃いと無駄に消費される率が高くなり,不経済である。全吹込量としては,㎡当たり20ないし300ℓ 程度が適当である。

(オ) 本発明の土壌処理法は,処理に要する薬剤費用が低廉であるとともに,処理時間が短く,処理後のガス抜き作業が不要で,薬剤の悪影響もなく,極めて合理的である。また,同時に土壌中の有害虫類等も駆除できる。

(カ) 本発明の実施例として,二酸化塩素ガス含有空気において土壌殺菌した培地において4日間静地培養したが,菌コロニーの生成は認められなかった。同じ土質の畑地で,二酸化塩素ガス含有空気による土壌殺菌をしない培地において,同様の検定を行ったところ,4日間で107個/g(±)の菌が認められた。

参考実験例においても,二酸化塩素ガス含有空気を導入通過させたデシケーターにおいては,4日後,菌糸は実験前の10㎜から成長が認められなかったが,導入通過させなかったデシケーターにおいては,4日後,菌糸は43㎜まで成長した。

イ引用発明2の技術内容

以上の引用例2の記載によると,引用発明2は,細菌に汚染された土壌の殺菌について,臭化メチルやクロルピクリン等の強い毒性を有する薬剤を用いることによる薬害,残留薬品のガスを消散させる必要性,繰り返し使用による耐性菌の出現などの課題を解決するために,速効性があり,人畜無害な二酸化塩素ガス含有空気を,土壌を覆った非通気性シートと土壌との間に吹き込むことにより,土壌中の菌を殺菌することをその技術内容とするものである。

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ウ一致点の認定について

前記イのとおり,引用発明2も,植栽用の土壌中の細菌を除菌して活性化するという本件発明と同一の技術分野に属し,本件発明が二酸化塩素水溶液を用いるのに対し,引用発明2は,気体の状態の二酸化塩素を用いる点で異なるものの,二酸化塩素を含有する剤を土壌に撒布する点については共通するものである。

以上からすると,本件発明と引用発明2との一致点について,「二酸化塩素を含有する剤を土壌に撒布することにより土壌中の微生物を除菌し,当該土壌を植栽に使用することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法」とした本件審決の判断には,何らの誤りはない。

この点について,原告は,本件発明の「選択的に除菌」の技術的意義は,菌の死滅をも含んだ広い概念であり,引用例2においても開示されていることを前提に,「選択的に除菌」についても,一致点として認定しなかった本件審決の判断は誤りであるなどと主張するが,その前提自体が誤りであることは,先に指摘したとおりである。

また,引用発明2は,土壌中の菌を殺菌することを技術内容とするものの,植栽に有効な細菌及び放線菌を有効量,土壌中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させることを実現する発明ではないから,引用例2において,「選択的に除菌」についての技術思想が開示されているものではない。いずれにしても,原告の主張は採用することができない。

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エ相違点の認定について

原告は,本件審決が,「選択的に除菌」を一致点として認定しなかったことが誤りであることを前提に,相違点3において,「選択的に除菌」についても相違点として認定したことを,誤りであると主張する。

しかしながら,その前提自体が誤りであることは,一致点の認定について先に指摘したとおりであって,本件審決には,相違点を看過した誤りはない。

したがって,原告の主張を採用することはできない。

(3) 小括

以上からすると,本件審決における本件発明の認定,本件発明と引用発明2との一致点及び相違点の認定については,何らの誤りは認められない。

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2 取消事由2(本件発明の進歩性に係る判断の誤り)について



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(1) 相違点1について

ア引用例における二酸化塩素に関する記載は,以下のとおりである。

(ア) 周知例1(甲5)は,赤腐れ菌又は青海苔の防除剤に関する発明についての文献であるところ,同文献には,海苔養殖において,赤腐れ菌又は青海苔を防除するために,二酸化塩素水溶液に海苔網を浸漬したり,液を網に撒布することが有効であること,同発明の防除剤を海苔葉体に使用すると,二酸化塩素が赤腐れ菌だけではなく,海苔葉体表面に付着する糸状菌などを防除することが開示されている。

(イ) 周知例2-1(甲6の1)は,二酸化塩素発生組成物及びその包装体に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は,消毒剤,殺菌剤等として広く使用されているが,取扱困難で不安定かつ危険物であることから,二酸化塩素含有組成物を製造する方法の研究がされていたこと,同組成物は,輸送又は貯蔵中の農産物,水産物及び畜産物の保護剤として有効で,効果的にバクテリアを殺滅し,かつ,菌類の成長を抑制することができること,現在使用されている二酸化塩素水溶液の濃度は5万ppmであるが,使用目的に応じて濃度を変化させる必要があることなどが開示されている。

(ウ) 周知例2-2(甲6の2)は,二酸化塩素のゲル化物及びその製造方法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は常温において気体で,水に溶解しやすい性質を有しており,一般に漂白剤あるいは殺菌剤として広い用途を有していること,二酸化塩素を水溶液にして,安定化物質を混合したものはよく知られていることが開示されている。

(エ) 周知例2-3(甲6の3)は,安定化二酸化塩素の製造法及びこれによる消臭,殺菌剤に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は,パルプ等の漂白,殺菌剤,脱臭脱味剤としての用途があることが開示されている。

(オ) 周知例2-4(甲6の4)は,粉末状態の二酸化塩素組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化剤であり,消毒剤,殺藻剤,殺菌剤などとして使用されていることは周知であること,二酸化塩素は取扱困難で不安定かつ危険物であることから,必要に応じて容易かつ安全に使用できる二酸化塩素含有組成物として,二酸化塩素を含む安定な水溶液が開発されたが,植物又はその一部を菌類の侵食から保護する目的においては使用困難であり,高濃度の二酸化塩素が植物等に付着する危険性があることから,不適当であること,二酸化塩素ガスは,果実又は野菜に残留することなく効果的にバクテリアを殺滅し,かつ菌類の成長を抑制すること,実質的に乾燥状態の粉末個体組成物は,安定な二酸化塩素溶液等に塩基性吸着剤を十分に混合することにより製造できるところ,この混合操作は,溶解状態の二酸化塩素が例えば約100ないし6万ppm,好ましくは約5000ないし5万ppm吸着されるように実施されるべきであることが開示されている。

(カ) 周知例2-5(甲6の5)は,二酸化塩素ガスを緩慢に発生する組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,微量の二酸化塩素が脱臭剤,防腐剤,殺菌剤等として有効であることは周知であること,二酸化塩素ガスを使用する場合,目的に応じて適切な濃度に保つことが重要であること,二酸化塩素を含む水溶液がアルカリ領域で安定であること,酸性領域において活性化して二酸化塩素ガスを発生することが開示されている。

(キ) 周知例2-6(甲6の6)は,安定化二酸化塩素水溶液の製造法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化能力により,殺菌作用,消臭作用,漂白作用などを有すること,発生させた二酸化塩素をアルカリ水溶液に吸収させて安定化することが行われており,かかる安定化二酸化塩素水溶液は,殺菌剤等として有用であること,実施例において,亜塩素酸ナトリウムを,その濃度が約2万ppmになるよう水溶液を調製し,次亜塩素酸ナトリウムを加える等して作成した製剤について,一般細菌及び大腸菌に対する殺菌効果を試験したところ,いずれも99.99%の除菌率であったことなどが開示されている。

(ク) 周知例2-7(甲6の7)は,二酸化塩素ガスの緩慢な発生方法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化力を有しており,殺菌剤等として使用されていること,これらの用途のために,安定化二酸化塩素水溶液や二酸化塩素ガスを発生する粉末状若しくは粒状の組成物が業務用又は一般家庭用として市販されていることなどが開示されている。
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(ケ) 周知例2-8(甲6の8)は,二酸化塩素ガス発生組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化力を有しており,殺菌剤等として使用され,工業用には大規模装置が種々開発されていることが開示されている。

(コ) 周知例2-9(甲6の9)は,二酸化塩素ガス発生器及びそのガス発生速度調節方法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化剤であり,優れた漂白力と殺菌力とを備え,パルプの漂白剤,工業用排水中のフェノール分の除去や排煙脱硝等の環境保全,公害防止の分野にも広く使用されるほか,上水道の殺菌剤としても使用されていること,水溶液である安定化二酸化塩素は,二酸化塩素ガスと同様の利点を有するものの,危険性を有さないので,消毒剤,殺菌剤等として広く利用されていることなどが開示されている。

(サ) 周知例2-10(甲6の10)は,二酸化塩素ガスの発生方法及びその装置に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は,その有する非常に強い酸化力を利用して,家庭用及び工業用の殺菌剤等として利用されていること,近年,家庭用の脱臭・消臭剤としての用途が着目され,二酸化塩素を安定して少量ずつ継続的に発生させるために,安定化二酸化塩素水溶液や二酸化塩素ガスを発生する粉末状や粒状の組成物が一般家庭用として開発されていることが開示されている。

(シ) 周知例2-11(甲6の11)は,消臭組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,近年,安定化二酸化塩素液等が消臭剤として使用され始めたこと,消臭効果の持続性の観点からは,1000ないし5万ppmの範囲内で用いることが好ましいことなどが開示されている。

(ス) 周知例2-12(甲6の12)は,二酸化塩素揮散性組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,近年,安定化二酸化塩素液が二酸化塩素の発生剤として,各種用途に用いられていることなどが開示されている。

(セ) 以上からすると,本件特許の出願当時,海苔養殖における赤腐れ菌又は青海苔の防除剤,消毒剤,殺菌剤,農産物・水産物・畜産物の保護剤,漂白剤として,二酸化塩素水溶液や二酸化塩素ガス含有空気を用いることができることは,周知技術であったということができる。

イ本件発明は,二酸化塩素水溶液を土壌に用いることにより,植栽に有効な細菌及び放線菌については,有効量,土壌中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させて,土壌を活性化することをその技術内容とするところ,上記周知例1及び2においては,二酸化塩素水溶液が防除剤,殺菌剤等として利用できることが開示されているものの,これを土壌の活性化という技術分野において利用することについて開示するものではない。

しかも,いずれも本件発明のように,植栽に有効な細菌等については有効量残存させ,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に減少させるという「選択的に除菌」するという技術思想を前提とするものではない。

したがって,当業者が,植栽用土壌の活性化のために「選択的に除菌」するという技術思想を前提としない引用発明2における「二酸化塩素ガス含有空気」を,同じく「選択的に除菌」という技術思想を前提としない周知技術1及び2に基づき,「二酸化塩素水溶液」に代えることは,容易に行い得ることであると認めることはできない。

この点について,原告は,引用例2及び周知例1には,「土壌中の微生物の除菌」について「二酸化塩素水溶液」が有効であることを示唆する記載がある,本件明細書記載の本件発明の効果は,いずれも引用発明2の「二酸化塩素ガス」を「二酸化塩素水溶液」に代えたことによる作用効果にすぎないことなどから,「二酸化塩素ガス」を「二酸化塩素水溶液」に代えることは,設計事項にすぎないなどと主張する。

しかしながら,引用例2は,二酸化塩素水溶液による土壌処理はいまだに報告されていないと指摘した上で,二酸化塩素ガス含有空気による土壌処理に関する発明を開示しているものであるから,むしろ二酸化塩素水溶液を土壌処理に利用することについては否定的であって,そのような利用は示唆されていないというべきである。

また,周知例1は,海苔養殖における赤腐れ菌又は青海苔の防除剤として,二酸化塩素水溶液に海苔網を浸漬したり,液を網に撒布したり,あるいは海苔葉体に使用することを前提としており,土壌の活性化という本件発明とは技術分野が大きく異なるものであるのみならず,有害な菌を防除することのみをその目的としているものであって,有益な菌を有効量残存させるという「選択的に除菌」という概念を前提としているものではない。

さらに,原告は,本件発明の効果が,二酸化塩素ガス含有空気を二酸化塩素水溶液に代えた作用効果にすぎないという理由については,拒絶査定(甲7)にその旨の記載がある点を指摘するほか,具体的に主張立証しないところ,本件明細書によると,本件発明の「選択的に除菌」という効果は,二酸化塩素水溶液を使用したことのみならず,本件発明で特定された濃度及び撒布割合に従って撒布することによって奏するものということができる。

原告の主張は,いずれも,これを採用することができない。

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(2) 相違点3について
ア引用例1について
引用例1(甲3)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。

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(ア) 引用発明1の特許請求の範囲は,以下のとおりである。

土壌に,撒布直後のpHが9ないし13となるようアルカリ化剤を撒布して放置

期間を設けることを特徴とする土壌改良方法

(イ) 本発明は,土壌改良方法に関するもので,土壌中の生態系を整えることによって,土壌改良を行う方法に関するものである。従来,農地の土壌は,一般に中性から弱酸性であることが好ましいとされており,かかる観点から土壌の状態を適正に保つことが行われている。

また,土壌の良否は,土壌中の生態系によって大きな影響を受けると言われており,特に土壌中に生存する放線菌と糸状菌との割合が,ほぼ7:3であることがよい状態であるとされている。

しかしながら,土壌のpH値は適正であるにもかかわらず,生育不良や収穫量の減少を招くこともあり,また,土壌中の放線菌と糸状菌の生存割合は,具体的な調製手段がないため,ほとんど行われていないのが現状である。

土壌のpH値は適正であるにもかかわらず,よい結果とはならない原因は,放線菌と比較して糸状菌が異常に多くなっていることにあるようである

(ウ) 本発明は,土壌に,撒布直後のpHが9ないし13となるようアルカリ化剤を撒布して放置期間を設けることにより,放線菌と糸状菌との割合を適切に調整し,土壌を改良するものである。

アルカリ化剤(水酸化カルシウム,酸化カルシウム等)は,粉粒状のものでも,水溶液状のものでもよい。アルカリ化剤による土壌のアルカリ化は,糸状菌の繁殖抑制により放線菌の繁殖を助長するもので,この撒布直後の土壌のpH値が低すぎると,糸状菌の繁殖が十分抑制できず,放線菌の繁殖を効果的に促すことができない。逆に高くしすぎると,放線菌の繁殖をも抑制してしまいやすくなる。

アルカリ化剤を撒布後の放置期間は,5ないし10日,好ましくは7ないし10日である。この放置期間中に,土壌中で放線菌が繁殖して増大し,放線菌と糸状菌のバランスが適正に調整されるほか,高いpH値も,土中の二酸化炭素によって自然と中和されて徐々に低下し,作物の作付けに支障がない値になる。

(エ) 土壌を一時的に高いpH値とすることにより,放線菌と糸状菌とのバランスが回復される理由は必ずしも明らかではないが,放線菌は比較的アルカリに強い菌が多いのに対し,糸状菌は比較的アルカリに弱い菌が多いためであると推測される。

したがって,土壌がある程度高いpH値になると,糸状菌の一部は死滅し,一部は活動が抑制されることになり,それまで活発な糸状菌の繁殖により押さえられていた放線菌の繁殖が活発化され,両者のバランスが回復されるものと考えられる。

(オ) したがって,本発明によると,土壌中の放線菌と糸状菌との割合を適正な
バランスに調整することができ,生態系の乱れによる作物への悪影響を防止できる
ので,作物の収穫量の増大を図ることができるものである。

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イ引用発明1の技術内容

以上の引用例1の記載によると,引用発明1は,土壌中に生存する放線菌と糸状菌との割合を,作物の生育に適切な状態にするために,土壌に,撒布直後のpHが9ないし13となるようにアルカリ化剤を撒布して放置期間を設け,糸状菌の繁殖を押さえることにより,放線菌の繁殖が活発化され,放線菌と糸状菌との割合を適正なバランスに調整することを,その技術内容とするものである。

したがって,引用例1には,土壌を特定範囲のpH値となるようにアルカリ化剤を撒布することにより,植栽に有益な放線菌については土壌中に有効量残存させ,有害な糸状菌については除菌するという「選択的に除菌」する技術思想が開示されているものということができる。

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ウ組合せの容易性について

本件発明は,二酸化塩素水溶液を,特定の範囲の濃度で,特定の撒布割合において土壌に撒布することにより,「選択的に除菌」することを技術思想とするところ,引用例2には,二酸化塩素ガス含有空気がいかなる機序において殺菌作用を奏するかについて具体的な記載がないが,周知例2によると,二酸化塩素水溶液がアルカリ領域で安定であること,酸性領域において活性化して二酸化塩素ガスを発生すること,二酸化塩素は,強い酸化力を有することから,殺菌剤として利用されていることが周知であることからすると,引用発明2は,二酸化塩素の酸化力を利用して,土壌中の全ての菌を対象として殺菌を行うことをその技術思想とするものといえる。本件明細書にも,二酸化塩素が「強力な酸化力」を有する旨の記載があることからすると,本件発明も,二酸化塩素の酸化力により,除菌を行うものということができる。

これに対し,引用発明1は,通常であれば中性から弱酸性であることが好ましいとされる植栽用の土壌に対し,撒布後に特定範囲のpH値(アルカリ性)となるようにアルカリ化剤を撒布することにより,糸状菌を選択的に除菌することを技術思想とするものであって,本件発明及び引用発明2とは,植栽用の土壌の改良という技術分野は同一であるものの,その手法が異質であるのみならず,各発明が規定する要件も相当程度異なるものであって,その作用機序は著しく相違するといわなければならない。

したがって,当業者が,引用例1により,アルカリ化剤を用いて実現する「選択的に除菌」という技術思想に関する知見を得たとしても,これを二酸化塩素を含有する剤(二酸化塩素ガス含有空気,二酸化塩素水溶液)を用いる場合,いかなる具体的手段において「選択的に除菌」という技術思想を実現するかについては,不明であるというほかない。

以上からすると,二酸化塩素ガス含有空気の有する酸化力を用いて植栽用の土壌を殺菌する引用発明2において,引用例1により開示されたアルカリ化剤を用いることによる「選択的に除菌」という技術思想を組み合わせることにより,相違点3の構成に到ることは,当業者が容易に行い得ることであるものと認めることはできない。

この点について,原告は,「選択的に除菌」については,引用例1において開示されている,本件発明における二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する特定は,当業者が適宜決定する事項にすぎないなどと主張する。

しかしながら,引用例1及び2並びに本件発明の有する技術思想の相違を前提とすると,引用例1において,土壌のアルカリ化による「選択的に除菌」なる技術思想が開示されていたとしても,引用例2に当該技術思想を組み合わせる動機付けが認め難いことは,先に指摘したとおりである。

また,本件発明における二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する特定については,その前提として,相違点1の判断において先に指摘したとおり,引用発明2における二酸化塩素ガス含有空気に代えて,二酸化塩素水溶液を用いること自体,当業者が容易に行い得ることであるものとは認められず,また,選択的に除菌するという技術思想を組み合わせることも,当業者が容易に行い得ることであるものともいえない以上,二酸化塩素水溶液を用いて選択的に除菌を行うために,二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する本件発明で特定された濃度及び撒布割合を設定することが,単なる設計事項であるとはいえないことも明らかである。実際,二酸化塩素水溶液又は二酸化塩素ガス含有空気等に関する発明である周知技術2においては,消臭効果の持続性の観点などから,一定の濃度などについて開示(周知例2-11等)がされているものの,「選択的に除菌」の観点から,一定の濃度範囲などについて開示されているものではない。引用例1において開示されている数値も,アルカリ化剤撒布直後の土壌のpH値にすぎず,本件発明における二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する特定については,何らの示唆を与えるものではない。

したがって,原告の主張は採用できない。

(3) 小括

以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,引用発明2を主たる引用発明として引用発明1,周知技術1及び2を組み合わせても,本件発明は,当業者が容易に想到することができるものではなく,本件審決の判断は相当といわなければならない。

なお,原告は,本件特許の出願経過において,二酸化塩素水溶液を用いること及び二酸化塩素の最適濃度が設計事項にすぎないことについては,拒絶理由通知(甲16の2)及び拒絶査定(甲7)にて,それぞれ同様の指摘がされており,本件審決においても,同様の判断をすべきであったとも主張する。

しかしながら,審査段階における拒絶理由通知や拒絶査定における認定に,本件審決の判断が拘束される理由はなく,原告の主張は失当である。

しかも,原告が指摘する平成8年4月16日付け拒絶理由通知(甲16の2)は,本件発明の出願当初の特許請求の範囲(【請求項1】二酸化塩素水溶液を有効成分とする土壌活性化除菌剤,【請求項2】上記二酸化塩素水溶液の濃度は約500ないし700ppmである請求項1に記載の土壌活性化除菌剤)を前提として,二酸化塩素の濃度の最適範囲は,設計事項にすぎないと指摘したものであり,同年8月26日付け拒絶査定(甲7)は,同年6月17日付け補正(甲16の4)後の特許請求の範囲(【請求項1】二酸化塩素の濃度を500ないし700ppmとした二酸化塩素水溶液を土壌に撒布することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法)を前提として,二酸化塩素の最適濃度の範囲は,その適用の方法などにより,当事者が適宜決定する事項にすぎないとするものであって,上記拒絶理由通知及び拒絶査定は,いずれも,「選択的に除菌」という技術思想を含む本件発明とは異なる特許請求の範囲を前提とするものである。

したがって,異なる特許請求の範囲を対象としてされた拒絶理由通知や拒絶査定を前提とする原告の主張は,この点において,失当というほかない。

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判決原文(全文)




平成22(行ケ)10135 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成23年02月24日 知的財産高等裁判所


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平成23年2月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(行ケ)第10135号審決取消請求事件


口頭弁論終結日平成23年2月3日

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判 決





主 文



原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

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第1 請求



特許庁が無効2009-800154号事件について平成22年3月19日にした審決を取り消す。

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第2 事案の概要



本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の本件特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が,本件発明の要旨を下記2のとおり認定した上で,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

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1 特許庁における手続の経緯



(1) 本件特許(甲1,2)

発明の名称:植栽用土壌の活性化方法

出願日:平成5年12月21日

登録日:平成9年8月22日

特許番号:第2686591号

(2) 審判手続及び本件審決

審判請求日:平成21年7月14日(無効2009-800154号)

審決日:平成22年3月19日

審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。

審決謄本送達日:平成22年3月30日(原告に対する送達日)

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2 本件発明の要旨



本件審決が判断の対象とした本件発明は,特許請求の範囲(請求項1)に記載された発明(以下「本件発明」という。)であって,その要旨は,次のとおりである。濃度500ないし700ppmの二酸化塩素水溶液を1反当たり2000ないし2500ℓ の割合で土壌に撒布することにより土壌中の微生物を選択的に除菌し,該土壌を植栽に使用することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法

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3 本件審決の理由の要旨



(1) 本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記ア及びイの引用例1及び2に記載された発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)並びに下記ウの周知例1に記載された周知技術(以下「周知技術1」という。)及びエないしソの周知例2-1ないし2-12(以下,総称して,「周知例2」という。)に記載された周知技術(以下,その順に従って,「周知技術2-1」ないし「周知技術2-12」といい,総称して,「周知技術2」という。)に基づいて,容易に発明をすることができたものということはできないから,本件発明に係る本件特許を無効にすることができない,というものである。

ア引用例1:特開昭63-146723号公報(甲3)

イ引用例2:特開平1-171425号公報(甲4)

ウ周知例1:特開昭60-184002号公報(甲5)

エ周知例2-1:特開昭57-22102号公報(甲6の1)

オ周知例2-2:特開昭59-223201号公報(甲6の2)

カ周知例2-3:特開昭60-180902号公報(甲6の3)

キ周知例2-4:特公昭48-32079号公報(甲6の4)

ク周知例2-5:特開昭58-161904号公報(甲6の5)

ケ周知例2-6:特開平1-319408号公報(甲6の6)

コ周知例2-7:特開昭61-48404号公報(甲6の7)

サ周知例2-8:特開昭64-34904号公報(甲6の8)

シ周知例2-9:特開平2-55201号公報(甲6の9)

ス周知例2-10:特開平2-164702号公報(甲6の10)

セ周知例2-11:特開昭57-59634号公報(甲6の11)

ソ周知例2-12:特開昭57-168977号公報(甲6の12)

(2) 原告は,本件審決の前記判断のうち,引用発明2を主たる引用発明として本件発明を容易に想到することができないとした判断についてのみ,その取消しを求めるものであるが,この点について,本件審決が認定した引用発明2並びに本件発明と引用発明2との一致点及び相違点は,次のとおりである。

ア引用発明2:土壌表面を非通気性シートで覆い,シートと土壌との間に二酸化塩素ガス濃度が10ppbないし100ppmの二酸化塩素ガス含有空気を,吹込量が㎡当たり20ないし300ℓ で吹き込むことにより殺菌し,当該土壌を作付けに使用する作付け用の土壌殺菌法

イ一致点:二酸化塩素を含有する剤を土壌に撒布することにより土壌中の微生物を除菌し,当該土壌を植栽に使用することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法

ウ相違点1:二酸化塩素を含有する剤が,本件発明においては,「二酸化塩素水溶液」であるのに対し,引用発明2においては,「二酸化塩素ガス含有空気」である点

エ相違点2:引用発明2が,「土壌表面を非通気性シートで覆う」のに対し,本件発明はそのような特定はない点

オ相違点3:濃度及び撒布量について,本件発明においては,「濃度500ないし700ppmの二酸化塩素水溶液を1反当り2000ないし2500ℓ の割合とする」ことにより,土壌中の微生物を「選択的に除菌」するのに対し,引用発明2においては,「シートと土壌との間に二酸化塩素ガス濃度が10ppbないし100ppmの二酸化塩素ガス含有空気を,吹込量が㎡当たり20ないし300ℓ 」とし,選択的に除菌することについては特定がない点



4 取消事由



(1) 一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由1)

(2) 本件発明の進歩性に係る判断の誤り(取消事由2)

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第3 当事者の主張




1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)について




〔原告の主張〕


(1) 本件発明の認定について
本件審決は,本件発明の特許請求の範囲における濃度500ないし700ppm
の二酸化塩素水溶液を1反当たり2000ないし2500ℓ の割合にするという濃
度及び撒布割合とは,本件明細書の記載を参酌すると,細菌,放線菌等の菌は有効
量残存させ,糸状菌等の植栽に有害な菌は著しく減少させることであるといえると
する。
しかしながら,本件発明の特許請求の範囲には,細菌,放線菌等の菌は有効量残
存させ,糸状菌等の植栽に有害な菌は著しく減少させる旨の記載はないから,本件
発明の「選択的に除菌」との記載について,本件明細書全体の記載を参酌して判断
し,本件審決のように限定的に認定することは許されない。
確かに,本件明細書【0005】には,「二酸化塩素水溶液を適当な濃度で土壌
中に撒布することにより,細菌,放線菌等の菌は有効量残存させ,糸状菌等の植栽
に有害な菌は著しく減少させることができる」との記載があるが,これは,本件発
明の作用に関する記載にすぎず,特許請求の範囲において具体的に明記されていな
い以上,本件明細書の記載を根拠に一致点及び相違点を認定することは許されない。
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本件発明における「選択的に除菌」の技術的意義について,本件審決が認定した
ように限定的に特定するのであれば,当然,特許請求の範囲においてそのように特
定された意味で「選択的に除菌」する旨が明記されるべきであるし,少なくとも,
本件明細書の発明の詳細な説明において,「選択的に除菌」について定義されるべ
きである。本件明細書においては,かかる記載自体,一切存在しない。
以上からすると,本件発明における「選択的に除菌」とは,本件審決のように限
定的に解釈することはできず,むしろ,菌を死滅させる場合を含む広い意味で理解
すべきであって,当業者の一般的理解である「土壌中の微生物を選択的に除菌す
る」全ての場合を広く意味するものであるというべきである。
(2) 一致点及び相違点の認定について
ア引用例2の認定について
引用例2にも,実施例1における「菌コロニーの生成は認められなかった。」
「107個/g(±)の菌が認められた。」との記載や,参考実験例における「菌
糸は依然10㎜で成長が認められなかった。」「菌糸は43㎜まで成長した。」と
の記載からすると,土壌の活性化方法の技術分野における「選択的に除菌」に該当
する技術思想が開示されているものということができる。
イ一致点の認定について
以上からすると,「選択的に除菌」についても,本件発明と引用発明2との一致
点として認定しなかった本件審決の判断は,誤りである。
ウ相違点の認定について
本件審決は,相違点3において,引用発明2には,「選択的に除菌」することに
ついては特定がないとするが,当該構成は,引用例2においても開示されている以
上,本件審決の相違点3の認定は誤りである。
したがって,相違点3については,「選択的に除菌することについては特定がな
い」という点を除くべきである(以下,当該部分を除いた相違点3について,「原
告主張相違点3」という。)。
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(3) 小括
以上からすると,本件審決は,本件発明の認定を誤った上,引用発明2との対比
において,一致点及び相違点3についての認定を誤ったのであるから,本件審決は
それ自体で取消しを免れない。

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〔被告の主張〕


(1) 本件発明の認定について
本件審決は,本件発明の特許請求の範囲における「土壌中の微生物を選択的に除
菌」の技術的意義を明らかにするに当たり,本件明細書の記載を参酌したものにす
ぎない。
また,本件審決は,本件発明の「選択的に除菌」とは,「土壌中の微生物を選択
的に除菌する」ことを広く意味するものであると判断しているものであるから,本
件審決の本件発明の認定については,何らの誤りはない。
(2) 一致点及び相違点の認定について
ア引用例2の認定について
引用発明2は,土壌殺菌法に関する発明であるところ,引用例2の実施例1は,
二酸化塩素ガス含有空気により処理した場合,土壌中の菌が全て死滅し,処理をし
ない場合,菌が死滅していないという相違が見られるものであって,選択的に除菌
を行っているものではない。本件審決も,同様の認定をしているものである。
また,原告が指摘する引用例2の参考実験例については,本件審決は直接言及し
ていないが,同実験例も,二酸化塩素ガス含有空気を導入した場合,菌糸の全てが
死滅しているが,通気処理をしない場合,菌糸が死滅していないという相違が見ら
れるものであって,何ら選択的に除菌が行われているものではない。
以上のとおり,引用例2には,二酸化塩素ガスによる処理を行ったか否かにより,
菌糸が死滅したか,残存したかについて開示するものであって,選択的な菌糸の除
菌(殺菌)について開示しているものではなく,また,これを示唆する記載もない。
したがって,引用例2においても,「選択的に除菌」に該当する技術思想が開示
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されているものということができるという原告の主張は誤りである。
イ一致点及び相違点の認定について
以上からすると,本件発明と引用発明2との一致点において,「選択的に除菌」
することを一致点として認定しなかった本件審決には,何らの誤りはない。
本件審決の相違点3の認定も,同様に何らの誤りはない。
(3) 小括
以上からすると,本件審決における本件発明の認定,一致点及び相違点3につい
ての認定は,いずれも相当であって,原告主張の取消事由1は誤りである。

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2 取消事由2(本件発明の進歩性に係る判断の誤り)について




〔原告の主張〕


(1) 相違点1について
ア二酸化塩素を含有する剤について,引用発明2の「二酸化塩素ガス」に代え
て,「二酸化塩素水溶液」を用いることは,二酸化塩素が水溶液として安定してお
り,殺菌剤等として種々の用途に用いられることが周知(周知例2)であることか
ら,当業者が容易に想到することである。しかも,気体状態で用いるか,水溶液の
状態で用いるかは,当業者が適宜選択する事項にすぎない。
周知例1には,微生物の除菌について,二酸化塩素を有効成分とする赤腐れ菌又
は青海苔の防除剤が開示されているのみならず,「本発明の防除剤の有効成分であ
る二酸化塩素は,水溶液として安定で,値段も安く,アメリカでは食品添加物とし
て認可され,安全性が認められている。」「二酸化塩素が赤腐れ菌だけでなく海苔
葉体表面に付着する糸状菌などを防除し」との記載は,「土壌中の微生物の除菌」
について,引用発明2の「二酸化塩素ガス」に代えて,「二酸化塩素水溶液」が有
効である点を示唆するものというべきである。
引用例2にも,二酸化塩素が水溶液の状態等において収穫農作物やハウス内作物
の除去,殺菌に用いられているが,土壌を処理することについてはいまだ報告され
ていないこと,二酸化塩素ガスを用いた場合,非常に速効性があり,殺菌後,ガス
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は分解して無害の塩化ナトリウムに変化する等の記載があることからすると,二酸
化塩素水溶液の適用について示唆的な記載があるものと認められる。
イ本件明細書によると,本件発明の効果は,従来のように,人体に悪影響を及
ぼすガスの放散を防ぐために土壌の表面を覆うような手数が不要となり,手軽に撒
布するだけで土壌中に容易に浸透して除菌することができる上,水溶液であるため
に有害なガスの発生もなく安全に作業することができ,更に,選択的除菌のため,
容易かつ正確にその濃度を調整できることなどとされているが,これらはいずれも
引用発明2の「二酸化塩素ガス」を「二酸化塩素水溶液」に代えたことによる作
用・効果にすぎない。
ウ以上からすると,相違点1の構成は,引用発明2に周知技術1及び2を組み
合わせることにより,当業者が容易に想到することができるものというべきである。
(2) 相違点2について
前記のとおり,引用例2並びに周知例1及び2により,二酸化塩素水溶液を土壌
における除菌に用いる技術思想が開示されていたものということができる以上,相
違点2についても,当事者が容易に想到することができるものというべきである。
(3) 相違点3について
ア「選択的に除菌」については,引用例2においても開示されており,本件発
明と引用発明2との一致点に含まれることは,取消事由1において先に主張したと
おりである。
また,引用例1には,殺菌剤(アルカリ化剤)を撒布することにより,土壌中の
糸状菌の繁殖を抑制し,放線菌の繁殖を助長すること,すなわち,糸状菌の一部は
死減し,一部は活動が抑制され,それまで活発な糸状菌の繁殖によって押さえられ
ていた放線菌の繁殖が活発化される旨が記載されているから,引用例1においては,
土壌中の微生物の一種である糸状菌が選択的に除菌されることが開示されている。
したがって,仮に,「選択的に除菌」について,本件審決と同様に限定的に理解
するとしても,いずれにせよ,かかる技術思想は引用例1において開示されている
9
ものということができる。
イ「土壌中の微生物を選択的に除菌」することは,当業者にとって,常識的な
目的にすぎないところ,本件発明における二酸化水素水溶液の濃度と撒布割合は,
土壌中の微生物を選択的に除菌するための必須の要件ということができる。
また,本件明細書における「土壌中の微生物を選択的に除菌」とは,糸状菌の残
存率を意味するものである。
そして,当業者が,引用発明2における「二酸化塩素ガス」の使用による欠点を,
「二酸化水溶液による糸状菌の防除」に関する周知例1や2によって周知の「二酸
化塩素水溶液」を用いることにより得られる作用・効果の有用性に関する知見に接
し,これを適用するに当たり,二酸化塩素濃度の最適範囲を設定することは,当業
者が適宜決定する事項にすぎない。
また,二酸化塩素の水溶液の撒布割合は,その濃度と相関関係を有することは明
らかであり,撒布割合の最適範囲を設定することもまた,当業者が適宜決定する事
項にすぎない。
ウ以上からすると,原告主張相違点3の構成は,引用発明2に周知技術1及び
2を組み合わせることにより,当事者が容易に想到することができるものというべ
きである。
(4) 小括
以上からすると,引用発明2に,引用例1,周知例1及び2において開示された
知見を組み合わせて本件発明に到ることは,当業者にとって容易であり,本件発明
は,無効とされるべきである。
なお,本件特許の出願経過において,二酸化塩素の水溶液を用いること及び二酸
化塩素の最適濃度が設計事項にすぎないことについては,拒絶理由通知(甲16の
2)及び拒絶査定(甲7)にて,それぞれ同様の指摘がされていた。
したがって,本件審決においても,上記の出願経過を斟酌し,同様の判断をすべ
きであったというべきである。
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〔被告の主張〕


(1) 相違点1について
ア二酸化塩素は,二酸化塩素ガスとして用いられたり,二酸化塩素水溶液とし
て用いられたりすることがあるが,仮に,引用発明2の「二酸化塩素ガス」を「二
酸化塩素水溶液」に代えて用いたとしても,引用例2には「土壌中の微生物を選択
的に除菌する」という技術思想が,何ら開示も示唆もされていない。
イ本件明細書には,原告が主張するとおり,本件発明においては,土壌の表面
を覆うような手数が不要で,手軽に撒布するだけで有害なガスの発生もなく安全に
作業することができ,選択的除菌のため,容易かつ正確にその濃度を調整できる等
の優れた利点を有する等の記載がある。
これに対し,引用発明2は,ガス状の二酸化塩素を使用するものであるから,二
酸化塩素ガス処理を行う前に,土壌表面を非通気性シートで覆い,このシートと土
壌との間に二酸化塩素ガス含有空気を吹き込み,ガスが漏れないようにして土壌を
殺菌するものであり,かかる方法による場合,引用発明2の実施例のように,1.
5㎡程度の狭い畑地では容易に実施可能かもしれないが,本件発明が想定する何反
歩もの畑地などの広い土壌において実施することは,極めて煩雑で,膨大な作業量
を要し,吹込み量が全体として多くなることから,人体に対する危険性の増大をも
伴うものである。
以上のとおり,本件発明と引用発明2とにおいては,除菌に使用する二酸化塩素
について,単に,概念上,ガス状であるか,水溶液状であるかとの相違があるだけ
ではなく,植栽土壌の殺菌,活性化方法の分野において,格段の作用効果の相違が
存在するものというべきである。
したがって,相違点1の構成は,引用発明2に周知技術1及び2を組み合わせる
ことにより,当業者が容易に想到することができるということはできない。
(2) 相違点3について
ア二酸化塩素ガス又は二酸化塩素水溶液によって土壌中の微生物を選択的に除
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菌するという技術思想は,引用例1,周知例1及び2にも何ら開示されていない。
二酸化塩素により,土壌中の微生物を選択的に除菌するという概念が開示されて
いない技術水準において,「選択的に除菌」することを前提とした上で,「二酸化
塩素水溶液による土壌中の微生物を選択的に除菌」することを可能とする「二酸化
塩素水溶液の濃度」及び「撒布割合」について,当業者が容易に想到することがで
きるものということはできないし,まして,二酸化塩素水溶液の500ないし70
0ppmという具体的濃度及び1反当り2000ないし2500ℓ の割合で土壌に
撒布するという具体的撒布割合について,当業者が容易に想到することができるも
のということはできないことも明らかである。
イ引用例1には,土壌中の微生物である糸状菌が選択的に除菌される点が記載
されているが,引用発明1は,「水酸化カルシウム」「酸化カルシウム」などのア
ルカリ化剤を撒布する方法を用いるものであり,本件発明とは除菌の手段が全く異
なるものである。
そして,アルカリ化剤についての撒布濃度,撒布量などは,撒布直後の土壌のp
Hを規制することによって行うものであるところ,引用発明1は,当該規制により
選択的に除菌を行うものであるから,二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合を特定
範囲とすることにより選択的に除菌を行う本件発明とは,その課題解決手段が全く
異なるものである。
以上からすると,引用例1が,本件発明における二酸化塩素水溶液の濃度及び撒
布割合に関する特定を何ら示唆するものではないことも明らかである。
(3) 小括
したがって,本件発明について,引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明を
することができたものということはできないとした本件審決の判断に誤りはない。

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第4 当裁判所の判断





1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)について



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(1) 本件発明の認定について


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ア本件明細書(甲1)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。

(ア) 本発明は,土壌中の微生物を選択的に除菌してその活性化を図るようにした植栽用土壌の活性化方法に関するものである。

土壌中には,植物病原性微生物である糸状菌や,糸状菌を抑制して植物の病気感染を防ぐ放線菌及び窒素を固定して肥料とする細菌等の微生物が生息しているが,土壌処理に用いる除菌剤の殺菌力が弱いと,有害な菌を十分に除くことができず,また,強力な除菌剤では植栽に有効な菌までも除去してしまう欠点があった。その上,従来の各種除菌剤は刺激臭が強く,人畜にも有害なものがあり,ビニールシートで土壌を覆ってその間に使用しなければならない等,農作業上の面からも問題があった。

(イ) 本発明の目的は,植栽上有効な菌を十分に土壌中に残存せしめ,有害な菌を選択的に除去して土壌を活性化するとともに,臭気が少なく,人畜に無害な植栽用土壌の活性化方法を提供することである。これらの目的は,特定濃度範囲の二酸化塩素水溶液を有効成分とする土壌活性化除菌剤を撒布することにより達成できる。

(ウ) 二酸化塩素は,非常に水に溶けやすく,強力な酸化作用があるが,低濃度で使用すれば安全であるから,二酸化塩素水溶液を適当な濃度で土壌中に撒布することにより,細菌,放線菌等の菌は有効量残存させ,糸状菌等の植栽に有害な菌は著しく減少させることができる。


(エ) 本発明の実施例として,濃度6万ppmの二酸化塩素水溶液20ℓ を約2000ℓ の水により希釈し,作成した濃度約600ppmの二酸化塩素水溶液を土壌1反当り約2000ないし2500ℓ の割合で撒布した。撒布後,二酸化塩素がほぼ消失するまで約2週間放置し,土壌を乾燥させた後,施肥し,植物を栽培した。その結果,植栽に有効な細菌は,処理前が土壌1g当り,2200万個であったものが3万9000個に減少し,放線菌は430万個から2万4000個に減少しているが,この程度の残存数では植栽上有効であって大きな悪影響はないのに対し,有害な菌である糸状菌は処理前の10万個から60個に著しく減少し,十分に土壌の活性化が行われた。残存率は,細菌が約17.7%,放線菌が約55.8%,糸状菌が約6%であった。この土壌を1例として苗床に使用して野菜の栽培を行ったところ,極めて良好な結果が得られた。

これに対し,約500ppmの二酸化塩素水溶液で除菌処理した場合,土壌中の糸状菌の残存率が上記600ppmの場合の約2倍となり,十分な除菌効果が得られなかった。また,約700ppmの二酸化塩素水溶液の場合,植栽に有効な上記細菌や放線菌まで除菌されてしまい,活性化の目的を達成することができなかった。

(オ) 本発明は,濃度500ないし700ppmの二酸化塩素水溶液を土壌に撒布することにより,植栽に有効な細菌及び放線菌を比較的多量に土壌中に残存せしめるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少せしめて土壌の活性化を行い,作物の成育に極めて良好な結果を得ることができ,また二酸化塩素は水に非常に溶けやすく,本発明においてはその水溶液を使用したので,従来,土壌の殺菌に使用されているクロルピクリンのように,人体に悪影響を及ぼすガスの放散を防ぐために土壌の表面を覆うような手数が不要となり,手軽に撒布するだけで土壌中に容易に浸透して除菌することができる上,有害なガスの発生もなく安全に作業することができ,更に,選択的除菌のため,容易かつ正確にその濃度を調整できる等の優れた利点を有している。

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イ本件発明の技術内容

以上の本件明細書の記載によると,本件発明は,人体に悪影響を及ぼすガスに代わり,人畜無害な特定濃度の二酸化塩素水溶液を一定範囲の土壌に撒布するという簡易な方法によって,植栽に有効な細菌及び放線菌については,有効量,土壌中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させて,土壌を活性化することをその技術内容とするものである。

ウ「選択的に除菌」の意義について

上記イの本件発明の技術内容によると,特許請求の範囲における「土壌中の微生物を選択的に除菌」の技術的意義は,植栽に有効な細菌及び放線菌を有効量,土壌中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させることを意味するものと理解することができる。

この点について,原告は,本件発明の特許請求の範囲には,「細菌,放線菌等の菌は有効量残存させ,糸状菌等の植栽に有害な菌は著しく減少させる」旨の記載がない以上,特許請求の範囲に記載されている「選択的に除菌」について,本件明細書全体の記載を参酌して,本件審決のように限定的に解釈することはできず,むしろ,菌を死滅させる場合を含む広い意味において理解すべきであるなどと主張する。しかしながら,本件発明の特許請求の範囲には「選択的に除菌」と記載されてい るところ,本件審決は,本件発明について,その記載のとおり認定しているにすぎないのであって,本件発明と引用発明との対比の際,特許請求の範囲の文言の技術 的意義を明らかにするために,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された技術的事項を参照してそのように認定することに問題はない。とりわけ,本件発明が植栽用土壌の活性化方法であることに照らせば,「選択的に除菌」という構成の技術的意義を検討するに当たり,「選択」という用語自体から,植栽用の土壌を活性化させるため,有益な菌は残存させ,有害な菌については,これを選んで除菌する技術思想が示唆されているということができるから,本件審決は,その意義を明らかにするため,本件明細書の記載を参照しているにすぎないことが明らかである。


原告の主張は,本件発明の特許請求の範囲に記載されている「選択的に除菌」について,これを「菌を死滅させる場合を含む広い意味で」理解し得ることが一義的に明確であることを前提とするが,「選択的に除菌」の意味を全ての菌を死滅させる場合を含む概念と理解することは相当ではなく,原告の主張は,その前提において誤りがあるから,これを採用することができない。

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(2) 一致点及び相違点の認定について



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ア引用例2の認定について

引用例2(甲4)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。

(ア) 引用発明2の特許請求の範囲は,以下のとおりである。

【請求項1】土壌表面を非通気性シートで覆い,シートと土壌との間に二酸化塩素ガス含有空気を吹き込むことを特徴とする土壌殺菌法

【請求項2】二酸化塩素ガス含有空気の二酸化塩素ガス濃度が10ppbないし100ppmであり,吹込量が㎡当たり20ないし300ℓ であることを特徴とする特許請求1項記載の土壌殺菌法

(イ) 本発明は,細菌に汚染された土壌,特に,ハウス内で使用した土壌の殺菌消毒法に関するものである。

ハウス内土壌は細菌が繁殖しやすく,減収の予防と作業者の健康対策のため,次の作付けに先立ち,土壌の殺菌を行う必要がある。

臭化メチルやクロルピクリン等の殺菌性薬剤による殺菌方法は,強い毒性を有する薬剤を用いるため,作業時における作業者及び付近住民並びに河川や地下水に対する薬害を防止する必要があるのみならず,残留薬品のガスを消散させる必要性や,繰り返し使用による耐性菌の出現などの課題がある。

(ウ) 本発明は,二酸化塩素ガスで土壌を処理することにより,短時間の作業で確実に殺菌を行うことができるものである。

二酸化塩素は,水溶液やこれを担持させた粉体を用いて,収穫農作物やハウス内作物の殺菌を行うことが知られているが,土壌を処理することについてはいまだ報告されていない。

二酸化塩素ガスを用いた場合,非常に速効性があり,殺菌後,分解して無害の塩化ナトリウムに変化するという特徴がある。

(エ) 土壌表面を覆うための非通気性シートは,通常,農業に使用するマルチングシートの孔のないものがよく,例えば,ポリエチレンシート,ポリ塩化ビニルシートなどを使用することができる。

二酸化塩素ガス含有空気の二酸化塩素ガス濃度は,10ppbないし100ppmが適当であるが,10ppbより低濃度では効果が低く,100ppmより濃いと無駄に消費される率が高くなり,不経済である。全吹込量としては,㎡当たり20ないし300ℓ 程度が適当である。

(オ) 本発明の土壌処理法は,処理に要する薬剤費用が低廉であるとともに,処理時間が短く,処理後のガス抜き作業が不要で,薬剤の悪影響もなく,極めて合理的である。また,同時に土壌中の有害虫類等も駆除できる。

(カ) 本発明の実施例として,二酸化塩素ガス含有空気において土壌殺菌した培地において4日間静地培養したが,菌コロニーの生成は認められなかった。同じ土質の畑地で,二酸化塩素ガス含有空気による土壌殺菌をしない培地において,同様の検定を行ったところ,4日間で107個/g(±)の菌が認められた。

参考実験例においても,二酸化塩素ガス含有空気を導入通過させたデシケーターにおいては,4日後,菌糸は実験前の10㎜から成長が認められなかったが,導入通過させなかったデシケーターにおいては,4日後,菌糸は43㎜まで成長した。

イ引用発明2の技術内容

以上の引用例2の記載によると,引用発明2は,細菌に汚染された土壌の殺菌について,臭化メチルやクロルピクリン等の強い毒性を有する薬剤を用いることによる薬害,残留薬品のガスを消散させる必要性,繰り返し使用による耐性菌の出現などの課題を解決するために,速効性があり,人畜無害な二酸化塩素ガス含有空気を,土壌を覆った非通気性シートと土壌との間に吹き込むことにより,土壌中の菌を殺菌することをその技術内容とするものである。

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ウ一致点の認定について

前記イのとおり,引用発明2も,植栽用の土壌中の細菌を除菌して活性化するという本件発明と同一の技術分野に属し,本件発明が二酸化塩素水溶液を用いるのに対し,引用発明2は,気体の状態の二酸化塩素を用いる点で異なるものの,二酸化塩素を含有する剤を土壌に撒布する点については共通するものである。

以上からすると,本件発明と引用発明2との一致点について,「二酸化塩素を含有する剤を土壌に撒布することにより土壌中の微生物を除菌し,当該土壌を植栽に使用することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法」とした本件審決の判断には,何らの誤りはない。

この点について,原告は,本件発明の「選択的に除菌」の技術的意義は,菌の死滅をも含んだ広い概念であり,引用例2においても開示されていることを前提に,「選択的に除菌」についても,一致点として認定しなかった本件審決の判断は誤りであるなどと主張するが,その前提自体が誤りであることは,先に指摘したとおりである。

また,引用発明2は,土壌中の菌を殺菌することを技術内容とするものの,植栽に有効な細菌及び放線菌を有効量,土壌中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させることを実現する発明ではないから,引用例2において,「選択的に除菌」についての技術思想が開示されているものではない。いずれにしても,原告の主張は採用することができない。

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エ相違点の認定について

原告は,本件審決が,「選択的に除菌」を一致点として認定しなかったことが誤りであることを前提に,相違点3において,「選択的に除菌」についても相違点として認定したことを,誤りであると主張する。

しかしながら,その前提自体が誤りであることは,一致点の認定について先に指摘したとおりであって,本件審決には,相違点を看過した誤りはない。

したがって,原告の主張を採用することはできない。

(3) 小括

以上からすると,本件審決における本件発明の認定,本件発明と引用発明2との一致点及び相違点の認定については,何らの誤りは認められない。

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2 取消事由2(本件発明の進歩性に係る判断の誤り)について



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(1) 相違点1について

ア引用例における二酸化塩素に関する記載は,以下のとおりである。

(ア) 周知例1(甲5)は,赤腐れ菌又は青海苔の防除剤に関する発明についての文献であるところ,同文献には,海苔養殖において,赤腐れ菌又は青海苔を防除するために,二酸化塩素水溶液に海苔網を浸漬したり,液を網に撒布することが有効であること,同発明の防除剤を海苔葉体に使用すると,二酸化塩素が赤腐れ菌だけではなく,海苔葉体表面に付着する糸状菌などを防除することが開示されている。

(イ) 周知例2-1(甲6の1)は,二酸化塩素発生組成物及びその包装体に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は,消毒剤,殺菌剤等として広く使用されているが,取扱困難で不安定かつ危険物であることから,二酸化塩素含有組成物を製造する方法の研究がされていたこと,同組成物は,輸送又は貯蔵中の農産物,水産物及び畜産物の保護剤として有効で,効果的にバクテリアを殺滅し,かつ,菌類の成長を抑制することができること,現在使用されている二酸化塩素水溶液の濃度は5万ppmであるが,使用目的に応じて濃度を変化させる必要があることなどが開示されている。

(ウ) 周知例2-2(甲6の2)は,二酸化塩素のゲル化物及びその製造方法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は常温において気体で,水に溶解しやすい性質を有しており,一般に漂白剤あるいは殺菌剤として広い用途を有していること,二酸化塩素を水溶液にして,安定化物質を混合したものはよく知られていることが開示されている。

(エ) 周知例2-3(甲6の3)は,安定化二酸化塩素の製造法及びこれによる消臭,殺菌剤に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は,パルプ等の漂白,殺菌剤,脱臭脱味剤としての用途があることが開示されている。

(オ) 周知例2-4(甲6の4)は,粉末状態の二酸化塩素組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化剤であり,消毒剤,殺藻剤,殺菌剤などとして使用されていることは周知であること,二酸化塩素は取扱困難で不安定かつ危険物であることから,必要に応じて容易かつ安全に使用できる二酸化塩素含有組成物として,二酸化塩素を含む安定な水溶液が開発されたが,植物又はその一部を菌類の侵食から保護する目的においては使用困難であり,高濃度の二酸化塩素が植物等に付着する危険性があることから,不適当であること,二酸化塩素ガスは,果実又は野菜に残留することなく効果的にバクテリアを殺滅し,かつ菌類の成長を抑制すること,実質的に乾燥状態の粉末個体組成物は,安定な二酸化塩素溶液等に塩基性吸着剤を十分に混合することにより製造できるところ,この混合操作は,溶解状態の二酸化塩素が例えば約100ないし6万ppm,好ましくは約5000ないし5万ppm吸着されるように実施されるべきであることが開示されている。

(カ) 周知例2-5(甲6の5)は,二酸化塩素ガスを緩慢に発生する組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,微量の二酸化塩素が脱臭剤,防腐剤,殺菌剤等として有効であることは周知であること,二酸化塩素ガスを使用する場合,目的に応じて適切な濃度に保つことが重要であること,二酸化塩素を含む水溶液がアルカリ領域で安定であること,酸性領域において活性化して二酸化塩素ガスを発生することが開示されている。

(キ) 周知例2-6(甲6の6)は,安定化二酸化塩素水溶液の製造法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化能力により,殺菌作用,消臭作用,漂白作用などを有すること,発生させた二酸化塩素をアルカリ水溶液に吸収させて安定化することが行われており,かかる安定化二酸化塩素水溶液は,殺菌剤等として有用であること,実施例において,亜塩素酸ナトリウムを,その濃度が約2万ppmになるよう水溶液を調製し,次亜塩素酸ナトリウムを加える等して作成した製剤について,一般細菌及び大腸菌に対する殺菌効果を試験したところ,いずれも99.99%の除菌率であったことなどが開示されている。

(ク) 周知例2-7(甲6の7)は,二酸化塩素ガスの緩慢な発生方法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化力を有しており,殺菌剤等として使用されていること,これらの用途のために,安定化二酸化塩素水溶液や二酸化塩素ガスを発生する粉末状若しくは粒状の組成物が業務用又は一般家庭用として市販されていることなどが開示されている。
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(ケ) 周知例2-8(甲6の8)は,二酸化塩素ガス発生組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化力を有しており,殺菌剤等として使用され,工業用には大規模装置が種々開発されていることが開示されている。

(コ) 周知例2-9(甲6の9)は,二酸化塩素ガス発生器及びそのガス発生速度調節方法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化剤であり,優れた漂白力と殺菌力とを備え,パルプの漂白剤,工業用排水中のフェノール分の除去や排煙脱硝等の環境保全,公害防止の分野にも広く使用されるほか,上水道の殺菌剤としても使用されていること,水溶液である安定化二酸化塩素は,二酸化塩素ガスと同様の利点を有するものの,危険性を有さないので,消毒剤,殺菌剤等として広く利用されていることなどが開示されている。

(サ) 周知例2-10(甲6の10)は,二酸化塩素ガスの発生方法及びその装置に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は,その有する非常に強い酸化力を利用して,家庭用及び工業用の殺菌剤等として利用されていること,近年,家庭用の脱臭・消臭剤としての用途が着目され,二酸化塩素を安定して少量ずつ継続的に発生させるために,安定化二酸化塩素水溶液や二酸化塩素ガスを発生する粉末状や粒状の組成物が一般家庭用として開発されていることが開示されている。

(シ) 周知例2-11(甲6の11)は,消臭組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,近年,安定化二酸化塩素液等が消臭剤として使用され始めたこと,消臭効果の持続性の観点からは,1000ないし5万ppmの範囲内で用いることが好ましいことなどが開示されている。

(ス) 周知例2-12(甲6の12)は,二酸化塩素揮散性組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,近年,安定化二酸化塩素液が二酸化塩素の発生剤として,各種用途に用いられていることなどが開示されている。

(セ) 以上からすると,本件特許の出願当時,海苔養殖における赤腐れ菌又は青海苔の防除剤,消毒剤,殺菌剤,農産物・水産物・畜産物の保護剤,漂白剤として,二酸化塩素水溶液や二酸化塩素ガス含有空気を用いることができることは,周知技術であったということができる。

イ本件発明は,二酸化塩素水溶液を土壌に用いることにより,植栽に有効な細菌及び放線菌については,有効量,土壌中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させて,土壌を活性化することをその技術内容とするところ,上記周知例1及び2においては,二酸化塩素水溶液が防除剤,殺菌剤等として利用できることが開示されているものの,これを土壌の活性化という技術分野において利用することについて開示するものではない。

しかも,いずれも本件発明のように,植栽に有効な細菌等については有効量残存させ,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に減少させるという「選択的に除菌」するという技術思想を前提とするものではない。

したがって,当業者が,植栽用土壌の活性化のために「選択的に除菌」するという技術思想を前提としない引用発明2における「二酸化塩素ガス含有空気」を,同じく「選択的に除菌」という技術思想を前提としない周知技術1及び2に基づき,「二酸化塩素水溶液」に代えることは,容易に行い得ることであると認めることはできない。

この点について,原告は,引用例2及び周知例1には,「土壌中の微生物の除菌」について「二酸化塩素水溶液」が有効であることを示唆する記載がある,本件明細書記載の本件発明の効果は,いずれも引用発明2の「二酸化塩素ガス」を「二酸化塩素水溶液」に代えたことによる作用効果にすぎないことなどから,「二酸化塩素ガス」を「二酸化塩素水溶液」に代えることは,設計事項にすぎないなどと主張する。

しかしながら,引用例2は,二酸化塩素水溶液による土壌処理はいまだに報告されていないと指摘した上で,二酸化塩素ガス含有空気による土壌処理に関する発明を開示しているものであるから,むしろ二酸化塩素水溶液を土壌処理に利用することについては否定的であって,そのような利用は示唆されていないというべきである。

また,周知例1は,海苔養殖における赤腐れ菌又は青海苔の防除剤として,二酸化塩素水溶液に海苔網を浸漬したり,液を網に撒布したり,あるいは海苔葉体に使用することを前提としており,土壌の活性化という本件発明とは技術分野が大きく異なるものであるのみならず,有害な菌を防除することのみをその目的としているものであって,有益な菌を有効量残存させるという「選択的に除菌」という概念を前提としているものではない。

さらに,原告は,本件発明の効果が,二酸化塩素ガス含有空気を二酸化塩素水溶液に代えた作用効果にすぎないという理由については,拒絶査定(甲7)にその旨の記載がある点を指摘するほか,具体的に主張立証しないところ,本件明細書によると,本件発明の「選択的に除菌」という効果は,二酸化塩素水溶液を使用したことのみならず,本件発明で特定された濃度及び撒布割合に従って撒布することによって奏するものということができる。

原告の主張は,いずれも,これを採用することができない。

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(2) 相違点3について
ア引用例1について
引用例1(甲3)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。

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(ア) 引用発明1の特許請求の範囲は,以下のとおりである。

土壌に,撒布直後のpHが9ないし13となるようアルカリ化剤を撒布して放置

期間を設けることを特徴とする土壌改良方法

(イ) 本発明は,土壌改良方法に関するもので,土壌中の生態系を整えることによって,土壌改良を行う方法に関するものである。従来,農地の土壌は,一般に中性から弱酸性であることが好ましいとされており,かかる観点から土壌の状態を適正に保つことが行われている。

また,土壌の良否は,土壌中の生態系によって大きな影響を受けると言われており,特に土壌中に生存する放線菌と糸状菌との割合が,ほぼ7:3であることがよい状態であるとされている。

しかしながら,土壌のpH値は適正であるにもかかわらず,生育不良や収穫量の減少を招くこともあり,また,土壌中の放線菌と糸状菌の生存割合は,具体的な調製手段がないため,ほとんど行われていないのが現状である。

土壌のpH値は適正であるにもかかわらず,よい結果とはならない原因は,放線菌と比較して糸状菌が異常に多くなっていることにあるようである

(ウ) 本発明は,土壌に,撒布直後のpHが9ないし13となるようアルカリ化剤を撒布して放置期間を設けることにより,放線菌と糸状菌との割合を適切に調整し,土壌を改良するものである。

アルカリ化剤(水酸化カルシウム,酸化カルシウム等)は,粉粒状のものでも,水溶液状のものでもよい。アルカリ化剤による土壌のアルカリ化は,糸状菌の繁殖抑制により放線菌の繁殖を助長するもので,この撒布直後の土壌のpH値が低すぎると,糸状菌の繁殖が十分抑制できず,放線菌の繁殖を効果的に促すことができない。逆に高くしすぎると,放線菌の繁殖をも抑制してしまいやすくなる。

アルカリ化剤を撒布後の放置期間は,5ないし10日,好ましくは7ないし10日である。この放置期間中に,土壌中で放線菌が繁殖して増大し,放線菌と糸状菌のバランスが適正に調整されるほか,高いpH値も,土中の二酸化炭素によって自然と中和されて徐々に低下し,作物の作付けに支障がない値になる。

(エ) 土壌を一時的に高いpH値とすることにより,放線菌と糸状菌とのバランスが回復される理由は必ずしも明らかではないが,放線菌は比較的アルカリに強い菌が多いのに対し,糸状菌は比較的アルカリに弱い菌が多いためであると推測される。

したがって,土壌がある程度高いpH値になると,糸状菌の一部は死滅し,一部は活動が抑制されることになり,それまで活発な糸状菌の繁殖により押さえられていた放線菌の繁殖が活発化され,両者のバランスが回復されるものと考えられる。

(オ) したがって,本発明によると,土壌中の放線菌と糸状菌との割合を適正な
バランスに調整することができ,生態系の乱れによる作物への悪影響を防止できる
ので,作物の収穫量の増大を図ることができるものである。

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イ引用発明1の技術内容

以上の引用例1の記載によると,引用発明1は,土壌中に生存する放線菌と糸状菌との割合を,作物の生育に適切な状態にするために,土壌に,撒布直後のpHが9ないし13となるようにアルカリ化剤を撒布して放置期間を設け,糸状菌の繁殖を押さえることにより,放線菌の繁殖が活発化され,放線菌と糸状菌との割合を適正なバランスに調整することを,その技術内容とするものである。

したがって,引用例1には,土壌を特定範囲のpH値となるようにアルカリ化剤を撒布することにより,植栽に有益な放線菌については土壌中に有効量残存させ,有害な糸状菌については除菌するという「選択的に除菌」する技術思想が開示されているものということができる。

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ウ組合せの容易性について

本件発明は,二酸化塩素水溶液を,特定の範囲の濃度で,特定の撒布割合において土壌に撒布することにより,「選択的に除菌」することを技術思想とするところ,引用例2には,二酸化塩素ガス含有空気がいかなる機序において殺菌作用を奏するかについて具体的な記載がないが,周知例2によると,二酸化塩素水溶液がアルカリ領域で安定であること,酸性領域において活性化して二酸化塩素ガスを発生すること,二酸化塩素は,強い酸化力を有することから,殺菌剤として利用されていることが周知であることからすると,引用発明2は,二酸化塩素の酸化力を利用して,土壌中の全ての菌を対象として殺菌を行うことをその技術思想とするものといえる。本件明細書にも,二酸化塩素が「強力な酸化力」を有する旨の記載があることからすると,本件発明も,二酸化塩素の酸化力により,除菌を行うものということができる。

これに対し,引用発明1は,通常であれば中性から弱酸性であることが好ましいとされる植栽用の土壌に対し,撒布後に特定範囲のpH値(アルカリ性)となるようにアルカリ化剤を撒布することにより,糸状菌を選択的に除菌することを技術思想とするものであって,本件発明及び引用発明2とは,植栽用の土壌の改良という技術分野は同一であるものの,その手法が異質であるのみならず,各発明が規定する要件も相当程度異なるものであって,その作用機序は著しく相違するといわなければならない。

したがって,当業者が,引用例1により,アルカリ化剤を用いて実現する「選択的に除菌」という技術思想に関する知見を得たとしても,これを二酸化塩素を含有する剤(二酸化塩素ガス含有空気,二酸化塩素水溶液)を用いる場合,いかなる具体的手段において「選択的に除菌」という技術思想を実現するかについては,不明であるというほかない。

以上からすると,二酸化塩素ガス含有空気の有する酸化力を用いて植栽用の土壌を殺菌する引用発明2において,引用例1により開示されたアルカリ化剤を用いることによる「選択的に除菌」という技術思想を組み合わせることにより,相違点3の構成に到ることは,当業者が容易に行い得ることであるものと認めることはできない。

この点について,原告は,「選択的に除菌」については,引用例1において開示されている,本件発明における二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する特定は,当業者が適宜決定する事項にすぎないなどと主張する。

しかしながら,引用例1及び2並びに本件発明の有する技術思想の相違を前提とすると,引用例1において,土壌のアルカリ化による「選択的に除菌」なる技術思想が開示されていたとしても,引用例2に当該技術思想を組み合わせる動機付けが認め難いことは,先に指摘したとおりである。

また,本件発明における二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する特定については,その前提として,相違点1の判断において先に指摘したとおり,引用発明2における二酸化塩素ガス含有空気に代えて,二酸化塩素水溶液を用いること自体,当業者が容易に行い得ることであるものとは認められず,また,選択的に除菌するという技術思想を組み合わせることも,当業者が容易に行い得ることであるものともいえない以上,二酸化塩素水溶液を用いて選択的に除菌を行うために,二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する本件発明で特定された濃度及び撒布割合を設定することが,単なる設計事項であるとはいえないことも明らかである。実際,二酸化塩素水溶液又は二酸化塩素ガス含有空気等に関する発明である周知技術2においては,消臭効果の持続性の観点などから,一定の濃度などについて開示(周知例2-11等)がされているものの,「選択的に除菌」の観点から,一定の濃度範囲などについて開示されているものではない。引用例1において開示されている数値も,アルカリ化剤撒布直後の土壌のpH値にすぎず,本件発明における二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する特定については,何らの示唆を与えるものではない。

したがって,原告の主張は採用できない。

(3) 小括

以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,引用発明2を主たる引用発明として引用発明1,周知技術1及び2を組み合わせても,本件発明は,当業者が容易に想到することができるものではなく,本件審決の判断は相当といわなければならない。

なお,原告は,本件特許の出願経過において,二酸化塩素水溶液を用いること及び二酸化塩素の最適濃度が設計事項にすぎないことについては,拒絶理由通知(甲16の2)及び拒絶査定(甲7)にて,それぞれ同様の指摘がされており,本件審決においても,同様の判断をすべきであったとも主張する。

しかしながら,審査段階における拒絶理由通知や拒絶査定における認定に,本件審決の判断が拘束される理由はなく,原告の主張は失当である。

しかも,原告が指摘する平成8年4月16日付け拒絶理由通知(甲16の2)は,本件発明の出願当初の特許請求の範囲(【請求項1】二酸化塩素水溶液を有効成分とする土壌活性化除菌剤,【請求項2】上記二酸化塩素水溶液の濃度は約500ないし700ppmである請求項1に記載の土壌活性化除菌剤)を前提として,二酸化塩素の濃度の最適範囲は,設計事項にすぎないと指摘したものであり,同年8月26日付け拒絶査定(甲7)は,同年6月17日付け補正(甲16の4)後の特許請求の範囲(【請求項1】二酸化塩素の濃度を500ないし700ppmとした二酸化塩素水溶液を土壌に撒布することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法)を前提として,二酸化塩素の最適濃度の範囲は,その適用の方法などにより,当事者が適宜決定する事項にすぎないとするものであって,上記拒絶理由通知及び拒絶査定は,いずれも,「選択的に除菌」という技術思想を含む本件発明とは異なる特許請求の範囲を前提とするものである。

したがって,異なる特許請求の範囲を対象としてされた拒絶理由通知や拒絶査定を前提とする原告の主張は,この点において,失当というほかない。

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3 結論



以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣裁判官 本 多 知 成裁判官 荒 井 章 光
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Last Update: 2011-03-01 00:53:13 JST

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