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2011年1月31日月曜日

特許:「容易想到性」,「数値限定的な記載についてのサポート要件」等「事実認定」:(知財高裁平成23年1月31日判決(平成22年(行ケ)第10015号審決取消請求事件))





目 次


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特許:「容易想到性」,「数値限定的な記載についてのサポート要件」等「事実認定」:(知財高裁平成23年1月31日判決(平成22年(行ケ)第10015号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第3部「飯村敏明コート」


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縮小版なし・判決原文(引用)


(知財高裁平成23年1月31日判決(平成22年(行ケ)第10015号審決取消請求事件))


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【容易想到性】「事実認定」(記載ないし示唆なし)


原告は,甲18記載の発明において,センサ全体の重心位置が左側に偏心しており,おもり5の重心も左側にあるといえる上,本件発明のようなセンサ全体の重心位置及び可動重り(平衡重り)の重心位置に係る構成については,甲19に開示されており,設計的事項又は周知技術にすぎないと主張する。


しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。すなわち,前記(4)エのとおり,甲18には,スイッチの確実な動作を実現するための構成として,可動重りの重心をセンサ全体の重心と同じ側方に配する構成が記載ないし示唆されているとは認められず,甲19にも可動重りの重心をセンサ全体の重心と同じ側方に配す43るとの構成が記載ないし示唆されているとは認められない。また,本件発明のようなセンサ全体の重心位置及び可動重り(平衡重り)の重心位置が設計的事項又は周知技術にすぎないともいえない。

したがって,原告の上記主張は採用することができず,相違点Iは,甲18記載の発明を基礎として,これに甲19記載の構成及び周知技術を適用することにより,容易に想到することができたとはいえない。



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【重量比に関するサポート要件違反の認定・判断】「事実認定」(解釈)




原告は,本件発明において,平衡重りとセンサの全重量の重量比が少なくとも30%であることは,本件発明の課題解決のための技術的意義を有しておらず,その数値限定に臨界的意義がないところ,上記重量比に係る数値限定を構成要素とする特許請求の範囲の記載は,旧特許法36条5項1号(いわゆるサポート要件)に違反すると主張する。


しかし,原告のこの点の主張は,以下のとおり,採用の限りでない。すなわち,前記2(4)ウのとおり,本件明細書の段落【0010】,【0011】,【0012】,【0014】,【0016】によれば,本件発明における「平衡重り」のセンサに対する30%以上との重量比は,センサ全体の重心が前記垂直線に対し平衡重りの重心と同じ側方にあることとあいまって,センサ本体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾かせるとともに,センサ本体が傾き始め,水平位置に到達した後,水位レベルがセンサ本体より上昇してもなお,センサ本体が水平位置を取るようにするため,安定性の程度を調節するという意味において,技術的意義があると理解することができるから,特許請求の範囲(請求項1)において,平衡重りのセンサ全体に対する重量比について,30%以上との限定を付した点に,旧特許法36条5項1号の規定の違反があると解することはできない。



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【記載要件】「事実認定」(主張立証)


原告は,本件特許に係る特許請求の範囲の記載について,「センサの中空本体の外形の中心」,「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」,「前記平衡重り(9)は,前記センサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方に重心(10)があり」,「前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり」と記載されているが,これらの記載は,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及び同条4項に違反すると主張する。


また,原告は,審決が,本件明細書の図1(別紙図面1)の一点鎖線のうち「センサの中空本体の外形部分にかかる線分」の部分だけに言及して,それが「鉛直方向を向いた状態」とするなどの解釈をしている上,被告の主張とも齟齬していると主張する。この点,本件明細書の図1(別紙図面1)の一点鎖線は,電気ケーブル2や水密入口3からセンサの中空本体の外形の中心にかけて一直線に伸びているように見えるものの,前記1(3)と同様に,本件明細書の記載及び本件発明の要旨に照らすと,空気に囲まれている時,中空本体は,ほぼ垂直な位置となっているが,完全に直立しているとまでは認められないから,被告の主張と齟齬しているか否かはさておき,審決の認定・判断に誤りはない。




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H230131現在のコメント


(知財高裁平成23年1月31日判決(平成22年(行ケ)第10015号審決取消請求事件))


「容易想到性」判断



「容易想到性」判断は,知財高裁,特に飯村コートの示した規範を前提にしています。

 参考URL:

  特許:進歩性の判断において,出願の後に補充した実験結果等を参酌することの可否「判断基準」


  特許:併用効果の場合の顕著な効果の記載はあるか?,特に知財高裁平成22年7月15日判決(平成21年(行ケ)第10238号審決取消請求事件)との関係について「解釈基準」


関係判例として,

知財高裁平成22年7月15日判決(平成21年(行ケ)第10238号審決取消請求事件)

(「飯村コート」)

知財高裁平成17年11月8日判決(平成17年(行ケ)第10389号審決取消請求事件)

(「塚原コート」)

知財高裁平成22年5月26日判決(平成21年(行ケ)第10319号審決取消請求事件)

(「滝澤コート」)

があります。これらは重要判決ですので,後日UPします。



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「重量比に関するサポート要件違反」


「安定性の程度を調節するという意味において,技術的意義があると理解することができる」

→ある意味これも数値限定ですが,数値(●●以上)という記載の意味を,このように解しています(当業者に解せると同義)。



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「記載要件」の主張立証



「被告の主張と齟齬しているか否かはさておき,審決の認定・判断に誤りはない。」

明細書の記載についての主張を,要件事実的にどのように位置づけるかは,明確ではありません。


明細書の記載は,全て包括的に主張している
→少しぐらい主張に齟齬があっても,善解して解釈すれば・・・

明細書の記載は,そもそも間接事実であり,当事者の主張は不要である。
→少しぐらい主張に齟齬があっても,問題ない・・・


従来の伝統的な理論からすれば,前者に解することができるでしょうか。


ただし,齟齬の程度が,ものすごくあった場合にも,前者のようにいえるかは,また今後問題となるともいえます。







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判決原文(全文)




平成22(行ケ)10015 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成23年01月31日 知的財産高等裁判所



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平成23年1月31日判決言渡
平成22年(行ケ)第10015号審決取消請求事件
平成22年11月30日口頭弁論終結



判 決





主 文


1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由



第1 請求


特許庁が無効2009-800054号事件について平成21年12月11日にした審決を取り消す。



第2 当事者間に争いのない事実




1 特許庁における手続の経緯



被告は,特許第3117169号(発明の名称を「レベル・センサ」。以下「本件特許」という。)の特許権者である。

本件特許は,平成5年4月27日,出願されたが(特願平5-101428号。パリ条約による優先権主張平成4年4月28日,スウェーデン国。以下,出願当初の明細書を図面とともに「当初明細書」という。甲6の1。なお,当初明細書の図1ないし3は,別紙図面1ないし3のとおりである。),平成10年6月25日付けで拒絶査定がされた。これに対し,被告は,平成10年10月5日付け(同月6日受付)で審判請求をし,平成12年8月3日付け手続補正書(甲6の14)によって,特許請求の範囲(請求項1),発明の詳細な説明の【0010】を補正した(以下「本件補正」といい,本件補正後の明細書を図面とともに「本件明細書」という。なお,本件明細書の図1ないし3は,当初明細書の図1ないし3(別紙図面1ないし3)と同一である。)。特許庁は,平成12年8月22日,「原査定を取り消す。本願の発明は,特許すべきものとする。」との審決をし,同年10月6日に本件特許の設定登録がされた(請求項の数5)。


原告は,平成21年3月5日付けで,特許庁に対し,本件特許の特許請求の範囲(請求項1)記載の発明(以下「本件発明」という。)についての特許を無効とすることを求めて無効審判を請求した(無効2009-800054号)。特許庁は,平成21年12月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,その審決の謄本は,同月23日,原告に送達された。



2 特許請求の範囲の記載



(1) 当初明細書(甲6の1)によれば,当初出願に係る特許請求の範囲(請求項1)の記載は,以下のとおりである。

【請求項1】

ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動ポンプ中のモータを始動/停止するような電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置した電気スイッチ,マイクロスイッチ(15)に接続した電気ケーブル(2)に取付け懸架している中空本体(1)を含み,前記スイッチは本体内に配置した可動重りの助けにより接続/切離し位置へ作動され,平衡重り(9)として設計された重りは中空本体内で支持され,2つの異なる終端位置の間で回転可能であり,平衡重りの表面の一方がマイクロスイッチ(15)を直接的に又は間接的に作動させるよう配置され,空気中に囲まれている時にセンサの全重量の少くとも30%の重量である平衡重り(9)はセンサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時にセンサを通る垂直線の横に重心(10)がある,電気機能の接続/切離し用のレベル・センサ。(2) 本件明細書(甲1)によれば,本件補正後の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,以下のとおりである。

【請求項1】

ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動ポンプ中のモータを始動/停止するような電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置したマイクロスイッチ(15)に接続された電気ケーブル(2)に自由懸垂状態に取付けられた中空本体を含み,前記スイッチは前期(判決注:「前記」の誤記。)中空本体内に配置した可動重りの助けにより接続/切離位置へ作動され,平衡重り(9)として設計された当該可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され,前記平衡重りの表面の一つがマイクロスイッチ(15)を直接的に又は間接的に作動するように配置され,前記平衡重りの重量は,前記中空本体(1),前記マイクロスイッチ(15),平衡重り(9),及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持する手段(5,6,7,8)から成るセンサが空気によって囲まれている時該センサの全重量の少なくとも30%であり,前記平衡重り(9)は,前記センサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方に重心(10)があり,かつ前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり,液体中に浸漬されているときセンサは垂直位置から傾きなお電気ケーブル(2)から自由懸垂状態にあることを特徴とするレベル・センサ。


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3 審決の理由




審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,①本件補正
には,補正要件違反はなく,出願日の繰り下げに基づく新規性及び進歩性の欠如はない,②本件発明は,甲16(実公昭52-42767号公報)記載の発明を基礎として,これに甲18(スウェーデン特願8405668-8号明細書),甲19(実公昭42-10534号公報)記載の発明及び周知技術を組み合わせることによって,当業者が容易に発明をすることができたとはいえず,また,甲18記載の発明を基礎として,これに甲16,17(フィンランド特許第42382号公報),19記載の発明及び周知技術を組み合わせることによって,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない,③本件発明には,平成6年改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)36条5項1号,同条同項2号,同条4項の規定に反しないから,

本件特許を無効とすることはできないとするものである。


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審決は,上記結論②を導くに当たり,甲16,甲18記載の発明及びこれらと本件発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(


  1. 甲16記載の発明


タンク内の液面に応じて水中ポンプを起動するようなポンプの自動制御用の液面
検出スイッチにおいて,フロートA内に配置したリミットスイッチ4に接続された
可撓性ケーブル8に垂れ下がっている状態に取付けられたフロートAを含み,前記
リミットスイッチ4は前記フロートA内に配置した重錘5の助けにより接続/切離
位置へ作動され,リミットスイッチ4の底部に重錘5を固定し,リミットスイッチ
4の作用片6側の作用片6と反対の端部附近を軸7によりフロートAに枢着して,
リミットスイッチ4の作用片6の作動はスイッチ自身の回動によるものであり,液
面下にあるとき液面検出スイッチは垂直位置から傾き本体1が上になり,キャップ
2が下になる状態にある液面検出スイッチ。
(2) 本件発明と甲16記載の発明の一致点
ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動ポンプ中のモータを始動/停止するよう
な電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置したス
イッチに接続された電気ケーブルに自由懸垂状態に取付けられた中空本体を含み,
前記スイッチは前記中空本体内に配置した重りの助けにより接続/切離位置へ作動
され,液体中に浸漬されているときセンサは垂直位置から傾くレベル・センサ。
(3) 本件発明と甲16記載の発明の相違点
A スイッチについて,本件発明は「マイクロスイッチ」であるのに対して,甲
16記載の発明は「リミットスイッチ」である点。
B 重りの動作について,本件発明は「平衡重りとして設計された当該可動重り
は中空本体内に2つの異なる終端位置の間で該平衡重りを通る軸線を中心として回
転可能に支持され,前記平衡重りの表面の1つがマイクロスイッチを直接的に又は
間接的に作動するように配置され」ているのに対して,甲16記載の発明は「リミ
ットスイッチ4の底部に重錘5を固定し,リミットスイッチ4の作用片6側の作用
片6と反対の端部附近を軸7によりフロートAに枢着して,リミットスイッチ4の
6
作用片6の作動はスイッチ自身の回動によるもの」としている点。
C 重りの重量について,本件発明は「前記平衡重りの重量は,前記中空本体,
前記マイクロスイッチ,平衡重り,及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持す
る手段から成るセンサが空気によって囲まれている時該センサの全重量の少なくと
も30%」であるのに対して,甲16記載の発明はその重量について不明である点。
D 重心について,本件発明は「前記平衡重りは,前記センサが空気に囲まれて
主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方
に重心があり,かつ前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心
と同じ側方にあり」としているのに対して,甲16記載の発明は重りの重心位置も
センサ全体の重心位置も不明である点。
E 液体中に浸漬されているときのセンサの状態について,本件発明は「液体中
に浸漬されているときセンサは垂直位置から傾きなお電気ケーブルから自由懸垂状
態にある」のに対して,甲16記載の発明は「液面下にあるとき液面検出スイッチ
は垂直位置から傾く」ものの,「なお電気ケーブルから自由懸垂状態」かどうか不明
である点。
(4) 甲18記載の発明
液体の液位に応じて電気ポンプを作動・停止するような電気回路を閉じる又は遮
断するための液位センサーにおいて,中空体1内に配置したスイッチ装置3に接続
された電気ケーブル2に垂れ下がった状態に取付けられた中空体1を含み,前記ス
イッチ装置3は前記中空体1内に配置したおもり5の助けにより閉じる又は遮断す
る位置へ作動され,おもり5は中空体1内に2つの異なる終端位置の間で移動可能
に配置され,前記おもり5の表面の1つがスイッチ装置3を直接的に作動するよう
に配置され,液体中に沈んでいるとき液位センサーは鉛直線に対して著しく傾いて
いる液位センサー。
(5) 本件発明と甲18記載の発明の一致点
ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動ポンプ中のモータを始動/停止するよう
7
な電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置したス
イッチに接続された電気ケーブルに自由懸垂状態に取付けられた中空本体を含み,
前記スイッチは前記中空本体内に配置した可動重りの助けにより接続/切離位置へ
作動され,可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で移動可能に配置さ
れ,前記可動重りの表面の1つがスイッチを直接的に作動するように配置され,液
体中に浸漬されているときセンサは垂直位置から傾きなお電気ケーブルから自由懸
垂状態にあるレベル・センサ。
(6) 本件発明と甲18記載の発明の相違点
F スイッチについて,本件発明は「マイクロスイッチ」であるのに対して,甲
18記載の発明はスイッチを具体的に特定していない点。
G 重りの動作について,本件発明は「平衡重りとして設計された当該可動重り
は中空本体内に2つの異なる終端位置の間で該平衡重りを通る軸線を中心として回
転可能に支持され,」としているのに対して,甲18記載の発明は「おもり5は中空
体1内に2つの異なる終端位置の間で移動可能に配置され」としている点。
H 重りの重量について,本件発明は「前記平衡重りの重量は,前記中空本体,
前記マイクロスイッチ,平衡重り,及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持す
る手段から成るセンサが空気によって囲まれている時該センサの全重量の少なくと
も30%」であるのに対して,甲18記載の発明はその重量について不明である点。
I 重心について,本件発明は「前記平衡重りは,前記センサが空気に囲まれて
主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方
に重心があり,かつ前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心
と同じ側方にあり」としているのに対して,甲18記載の発明は重りの重心位置も
センサ全体の重心位置も不明である点。

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第3 取消事由に関する原告の主張


審決には,補正要件違反による出願日繰下げに基づく新規性及び進歩性の認定・
判断の誤り(取消事由1),出願日繰下げがないとした場合,容易想到性の認定・判
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断の誤り(取消事由2),重量比に関するサポート要件違反の認定・判断の誤り(取
消事由3),その他の記載要件違反に係る認定・判断の誤り(取消事由4)があるか
ら,違法として取り消されるべきである。

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1 取消事由1(補正要件違反による出願日繰下げに基づく新規性及び進歩性の認定・判断の誤り)


審決は,本件補正が発明の要旨変更に当たらないとして,本件発明につき,出願
日の繰下げに基づく新規性及び進歩性の欠如は認められないとするが,かかる審決
の認定・判断は,以下のとおり,誤りである。すなわち
(1) 補正が明細書の要旨を変更した場合とは,当該補正がされたことにより,特
許請求の範囲に記載された技術的事項が,原明細書等に記載された事項,又は少な
くとも出願時において当業者が原明細書等に記載された技術内容に照らし現実に記
載があると認識し得る程度に自明な事項を超えるような場合を指すと解すべきであ
る。また,当初明細書に現実に記載があると認識し得る程度に自明な事項であると
いうためには,現実には記載がなくとも,現実に記載されたものに接した当業者で
あれば,だれもがその事項がそこに記載されているのと同然であると理解するよう
な事項でなければならず,その事項について説明を受ければ簡単に分かるという程
度のものでは,自明ということはできないというべきである。さらに,当業者が,
ある周知技術を前提として,当初明細書の記載から当該事項を容易に理解認識する
ことができるというだけでは足りず,周知技術であっても,明細書又は図面の記載
を,当該技術と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が必要であるとい
うべきである。
(2) この点,本件補正は,当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)の「センサ
を通る垂直線」を「該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」に変更し,同
垂直線を基準線とする構成要件を新たに追加したものである。
しかし,「センサを通る垂直線」は,具体的に特定されておらず,当初明細書の発
明の詳細な説明及び図面を参酌しても,せいぜい無数に存在する鉛直線のうちの一
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本としか理解することができず,「センサを通る垂直線」が本件補正に係る「該セン
サの中空本体の外形の中心を通る垂直線」と同一のものであると理解することはで
きない。当初明細書には,センサ全体の重心位置に関する記載はなく,「センサを通
る垂直線」は,平衡重りの重心位置を定める基準線として規定されたものであって,
センサ全体の重心位置の基準線として特定されていたものではない。また,当初明
細書の図1は,センサの中空本体が空気中で吊り下げられた状態を図示しており,
同図面において,センサは直立の状態で吊り下げられているところ,物体が吊り下
げられた場合,当該物体の重心は吊下線の延長線上に位置するのが物理学及び力学
の常識であるから,同図面に接した当業者は,センサ全体の重心は一点鎖線上にあ
ると理解するのが自然であり,同一点鎖線が,センサ全体の重心が「側方」に位置
することの基準線として記載されたものでないことは明らかである。さらに,当初
明細書には,鉛直線の位置を決める「外形の中心」について全く記載がなく,図1,
2記載の一点鎖線は,センサの傾斜の変化を示す線として記載されたものと解する
のが自然である。
なお,被告は,審判手続きにおいて,「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直
線」は,センサの中空本体の外形を回転体として捉えた場合の回転軸であると主張
していたのに対し,審決は,水平に対する鉛直方向の線であって,当初明細書の図
1の一点鎖線のうち,センサの中空本体の外形部分に係る線分が鉛直方向を向いた
状態のものをいうとしており,その解釈・特定が齟齬している。審決は,当初明細
書の図1の一点鎖線のうちセンサの中空本体の外形部分にかかる線分は,空気中に
おいて,傾いて位置することを前提としており,図1の一点鎖線において,鉛直方
向を向いている部分は存在しないこととなる。
(3) また,本件補正は,当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)に「かつ前記
センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり」との
構成を追加するものであるが,前記(2)のとおり,当初明細書の特許請求の範囲(請
求項1)の「センサを通る垂直線」は,平衡重りの重心位置の基準線として定めら
10
れていたところ,平衡重りの重心位置でセンサの傾斜方向が決まるものではないか
ら,平衡重りの重心位置を「浮心」や「浮心を通る線」を基準として特定する必然
性はなく,当初明細書の図1の一点鎖線が「センサを通る垂直線」であると解する
ことはできない。そうすると,「センサを通る垂直線」が平衡重りの重心位置の基準
線としてどのように特定されるか不明であるにもかかわらず,「中空本体全体の重心
が中空本体の中心(浮心)からずれている」とすることは,新たな技術的事項を導
入するものであり,当初明細書の記載から理解することはできない。
(4) したがって,本件補正は,当初明細書の要旨を変更したものに当たるから,
出願日の繰下げに基づく新規性及び進歩性の欠如は認められないとした審決の認
定・判断には誤りがある。
2 取消事由2(出願日繰下げを前提としない容易想到性の認定・判断の誤り)
仮に,本件補正が,当初明細書の要旨を変更したものに当たらないとしても,本
件発明は,以下のとおり,無効理由がある。

(1) 主位的主張
本件発明は,以下のとおり,甲16記載の発明に,甲18,19記載の発明及び
周知技術を組み合わせることにより容易に想到することができる。すなわち
ア本件発明と甲16の相違点Bの認定の誤り
甲16記載の発明は,リミットスイッチ4と重錘5が一体となって可動重りを構
成しており,リミットスイッチ4と重錘5が,その自重によって,フロートA内に
2つの異なる終端位置の間でリミットスイッチ4を通る軸7を中心として回転可能
に支持される可動重りであるとの構成を備えている。また,甲16記載の発明は,
リミットスイッチ4と重錘5の表面の一部(実際にはリミットスイッチ4の表面の
一部)がスイッチを作動するように配置されている。そうすると,本件発明と甲1
6記載の発明は,可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で可動重りを
通る軸線を中心として回転可能に支持され,可動重りの表面の一つがスイッチを間
接的に作動するように配置されるという点でも一致しており,相違点は,本件発明
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は「平衡重りとして設計された当該可動重りが該平衡重りを通る軸線を中心として
回転可能に支持されている」のに対し,甲16記載の発明は「可動重りであるリミ
ットスイッチ4及び重錘5が,当該可動重りを通る軸線を中心として回転可能に支
持されている」点にすぎない。仮に,リミットスイッチ4と重錘5が一体とはいえ
ないとしても,本件発明と甲16記載の発明は,可動重りは中空本体内に2つの異
なる終端位置の間で回転可能に支持され,可動重りの表面の一つがスイッチを間接
的に作動するように配置されるとの点でも一致しており,相違点は,本件発明は「平
衡重りとして設計された当該可動重りが該平衡重りを通る軸線を中心として回転可
能に支持されている」のに対し,甲16記載の発明は「可動重りである重錘5が,
リミットスイッチ4の底部に固定され,リミットスイッチ4を通る軸線を中心とし
て回転可能に支持されている」点にすぎない。
したがって,相違点Bを本件発明と甲16記載の発明との相違点とした審決の認
定は誤りである。
イ相違点Bに係る容易想到性判断の誤りについて
レベル・センサの技術分野においては,液中で自由懸垂状態とする構成自体は,
甲18,19等にも記載されているとおり,本件特許出願当時,周知であったとこ
ろ,その構成として,可動重りの重量を調整して,これを平衡重りとして設計する
ことは,当業者であれば容易になし得る設計的事項にすぎない。また,前記アのと
おり,甲16記載の発明は,リミットスイッチ4と重錘5が一体となって可動重り
を形成しており,該可動重りを通る軸線を中心として回転可能に支持される構成を
具備しているところ,甲16記載の発明に,相当な大きさを有する唯一のおもりで
ある,可動なおもり5の作用で,力のつりあいを保ち,水中において自由懸垂状態
とする甲18記載の技術事項を適用することにより,平衡重りとして設計された可
動重りの表面の1つがマイクロスイッチを直接的に又は間接的に作動するように配
置することは,容易に想到することができる。
なお,発泡合成樹脂は,5メートル程度の水深には耐えるものであることからす
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れば,甲16記載の発明は,液面浮遊タイプのセンサではなく,液中において,自
由懸垂状態となるタイプのセンサである。また,甲20及び22記載の発明のよう
に,液面浮遊タイプのセンサにおいても,センサ全体が液面で,どの程度傾いたと
きにスイッチを動作させる構成とするかは,その設計上,当然に考慮される事項で
あり,その傾き方向を規定する上で,センサ全体の重心を偏心させて,センサを所
定方向に傾けることは,スイッチの確実な動作を実現する上で,十分な技術的意義
がある。さらに,水中において自由懸垂状態となるタイプのセンサであっても,完
全に水中に没した後にセンサの傾斜角度が変わることはなく,液面においてスイッ
チが動作するという点では,液面浮遊タイプのセンサと異なるところはない。そし
て,本件発明において,平衡重り単体の重心位置と平衡重りを除くセンサ全体の重
心位置が中心からみて逆方向にある構成では,平衡重り単体の重心位置が中心から
ずれていることが,センサ全体の重心位置を中心から平衡重りの重心位置と同方向
にずらすように寄与するとは限らない。
以上によれば,相違点Bは,甲16記載の発明に甲18記載の発明及び周知技術
を適用することにより,容易に想到することができる。
ウ相違点Cに係る容易想到性判断の誤りについて
相違点Cのうち,重量比30%には,臨界的意義ないし技術的意義はなく,甲1
6及び甲18に照らしても,当業者が,レベル・センサの設計上,相応の重量を持
つ重りを用いることで,十分に達する数値にすぎず,かかる重量比は,液体密度と
センサの容積・形状によって決定される浮力とその作用点である浮心の位置,セン
サ全体の重心位置との相関関係の中で,当業者において当然に適宜選択される設計
事項にすぎない。
エ相違点Dに係る容易想到性判断の誤りについて
レベル・センサという技術分野において,センサ全体の重心を偏心させることの
技術的意義は,センサを所定方向に倒すことで,スイッチの確実な作動を実現する
点にあり,このことは液中において自由懸垂状態となるタイプか否かで変わらない。
13
この点に関して,甲18,19には,液中において自由懸垂状態となるタイプのレ
ベル・センサにおいて,センサ全体の重心を偏心させる構成ないしセンサが液中に
浸漬した時に傾く方向を一定化する構成が示唆されている。また,甲20(スペイ
ン特許第295330号公報),甲22(実開昭62-28339号公報)及び甲2
8(特公昭30-9491号公報)には,センサが液体に浸漬した際に,傾く方向
を一定化することで,スイッチをON/OFFする可動重りの動きを適正に規制し,
スイッチの確実な作動を実現するための構成が示唆されている。以上によれば,レ
ベル・センサにおいて,センサ全体の重心を偏心させる構成は,本件特許出願前か
ら,周知であったといえる。
なお,審決は,本件発明における平衡重りの重心位置は,可動重りとして機能す
る方向にセンサを傾かせるために特定されたものであると認定する。しかし,審決
の認定した上記事項に格別の技術的意義はない。すなわち,センサの傾きを規律す
る重心は,センサ全体の重心と同じ位置にあり,平衡重りは,その重心位置をベア
リングの直下に位置するように回転しようとするから,その重心がベアリングと同
じ位置にない限りどこに位置しようとも可動重りとして機能する。したがって,平
衡重りの重心が「中空本体の外形の中心を通る垂直線」を基準として側方にあり,
かつセンサ全体の重心が同垂直線を基準として同じ側方にあることに,何らかの技
術的意義はない。レベル・センサの可動重りが機能するように,その重心位置を決
めることは,設計的事項にすぎない。
したがって,相違点Dは,甲16記載の発明に甲19記載の発明又は周知技術を
適用することで,容易に想到することができる。
オ以上によれば,本件発明は,甲16記載の発明に,甲18,19記載の発明
及び周知技術を組み合わせることにより容易に想到することができる。
(2) 予備的主張
仮に,前記(1)の主位的主張が認められないとしても,本件発明は,以下のとおり,
甲18記載の発明に,甲16,17,19記載の発明及び周知技術を組み合わせる
14
ことにより容易に想到することができる。すなわち
ア本件発明と甲18の相違点Gの認定の誤り
甲18記載の発明は,本件発明と同じく,センサが液体に浸漬された際に自由懸
垂状態となるタイプのレベル・センサであって,かつ重りとしては可動重りである
おもり5のみが単体で存在する構成を備えている。また,重りは,重量調整を本来
の役割とするところ,甲18では,おもり5が中空体内の相当の部分を占める部材
として図示されており,おもり5による重量調整によって力のつりあいを保ち,セ
ンサが液体に浸漬された際に自由懸垂状態となる構成を実現しているものと理解す
ることができる。そうすると,甲18記載のおもり5は,平衡重り又は平衡重りと
して設計された可動重りに該当するから,本件発明と甲18記載の発明は,「平衡重
りとして設計された可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で移動可能
に配置され,前記平衡重りの表面の一つがスイッチを直接的に作動するように配置
され」る点でも一致しており,相違点は,本件発明は「平衡重りとして設計された
当該可動重りが該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されている」の
に対し,甲18記載の発明は「平衡重りとして設計された当該可動重りであるおも
り5が中空体1内に2つの異なる終端位置の間で移動可能に配置され」るとしてい
る点にすぎない。
したがって,相違点Gを本件発明と甲18記載の発明との相違点とした審決の認
定は誤りである。
イ相違点Gに係る容易想到性判断の誤りについて
前記アのとおり,甲18記載の発明は,「平衡重りとして設計された当該可動重り」
との構成を備えている。また,本件特許出願前の技術水準に照らせば,レベル・セ
ンサの技術分野において,水中において自由懸垂状態とするための構成として,可
動重りの重量を調整して,これを平衡重りとして設計することは,当業者であれば
容易になし得る設計的事項にすぎない。
これに対し,審決は,甲18記載の発明の重りは,あくまで可動重りであって平
15
衡重りとして設計されたものではないし,中空本体全体の重量をもって平衡機能を
発揮する甲18記載の発明において,可動重りを平衡重りとすることについてまで
設計的な事項であるとはいえないとした上で,甲16記載の重錘5は可動重りでは
なく,錘を通る軸線を中心として回転可能に支持されるものではない,甲17記載
の重り5は平衡重りとして設計されていないし,重りを通る軸線を中心として回転
可能に支持されていない,甲19の作動錘3は平衡重りとして設計されていないし,
重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されるものではないとし,甲18記載
の発明に,上記刊行物に記載された構成を適用することで,相違点Gに係る構成と
することはできないと判断している。
しかし,前記のとおり,甲18記載のおもり5は,センサを水中において自由懸
垂状態とするための平衡重りとして設計されたものであり,おおよその旋回中心で
あるおもり5の下面の左縁部で軸支し,回転可能に支持することは,当業者が適宜
なし得る設計的事項である。また,甲16のリミットスイッチ4と重錘5は一体と
なって可動重りを形成しており,リミットスイッチ4を通る軸7を中心に回動可能
に支持されている。さらに,甲17の重り5及び甲19の作動錘3が平衡重りであ
るか否かはさておき,これによって,重りが回転可能に軸支される構成が開示され
ている。
以上からすれば,相違点Gは,甲18記載の発明に,甲16,17及び19に記
載された構成を適用することで,容易に想到することができる。
ウ相違点Hに係る容易想到性判断の誤りについて
前記(1)ウのとおり,30%という重量比を表す数値には,臨界的意義も技術的意
義もない上,甲18記載の発明においても,おもり5は図面上相当の大きさを占め
ており,当業者であれば,おもり5の重量がセンサ全体の重量の30%以上に達し
ていることを容易に認識することができる。相違点Hの30%という数値は,液体
密度とセンサの容積・形状によって決定される浮力とその作用点である浮心の位置,
センサ全体の重心位置との相関関係を考慮して,当業者において当然に適宜選択さ
16
れる設計的事項にすぎない。
エ相違点Iに係る容易想到性判断の誤りについて
甲18の図面では,中間板7の左端に中空体1の内壁に接し,おもり5の左下側
部を受け止める部材が設けられ,また中空体1の頂部におもり5の上面右端部を停
止する部材が設けられ,更に電気ケーブル2が中空体1の右側を通ってスイッチ装
置3に連結されており,甲18記載の発明において,センサ全体の重心位置が左側
に偏心しており,おもり5が液面下において左方向に傾くことが予定されているこ
とが開示又は示唆されている。また,甲18の図面では,スイッチ装置3その他の
部材が右側に設けられているにもかかわらず,センサ全体の重心が左側に偏心して
いることからすれば,おもり5の重心も左側にあるといえる。さらに,本件発明の
センサ全体の重心位置及び可動重り(平衡重り)の重心位置は,いずれもレベル・
センサの技術分野においては設計的事項又は周知技術にすぎず,甲19にはそのい
ずれの構成も開示されている。
したがって,相違点Iは,甲18記載の発明に甲19記載の発明及び周知技術を
適用することで,容易に想到することができる。
オ以上によれば,本件発明は,甲18記載の発明に,甲16,17,19記載
の発明及び周知技術を組み合わせることにより容易に想到することができる。
3 取消事由3(重量比に関するサポート要件違反の認定・判断の誤り)
本件特許の特許請求の範囲(請求項1)のうち「前記平衡重りの重量は,・・・セ
ンサが空気によって囲まれている時該センサの全重量の少なくとも30%であ
り,・・・」との記載は,以下のとおり,サポート要件(旧特許法36条5項1号)
に違反する。すなわち,
(1) 本件発明は,平衡重りが,平衡重りとしても可動重りとしてもその機能を発
揮していない段階,すなわちセンサが空気に囲まれている状態において,センサの
全重量の30%以上と規定しているにすぎず,かかる記載の技術的意義が,平衡重
りとして機能し,かつ可動重りとしても機能するための重量を規定したものと一義
17
的に理解することはできない。また,本件明細書の段落【0016】には,マイク
ロスイッチを確実に停止させるために,平衡重りがレベル・センサの全重量のかな
りの部分を構成するとの記載があるものの,重量比の下限については「受入れ可能
な安全性を得る最小値は全重量の30%である」と記載しているにすぎず,30%
が平衡重りとして機能し,かつ可動重りとして機能するための最小値である旨は記
載されていない。さらに,本件明細書の発明の詳細な説明には,重量比の最小値を
30%と規定した旨が単に形式的に開示されているのみで,重量比を30%以上と
することにより実現される具体的な効果,30%という臨界を選択した科学的根拠,
かかる数値限定を設けるための前提条件の有無・内容,本件特許の具体的課題であ
るマイクロスイッチの確実な停止と重量比30%との関係についての記載がなく,
上記数値がどのような技術的な意味をもつか当業者であっても理解できない。
(2) 本件発明は,液位レベルの変化に伴い回転軸を中心として平衡重りが回転す
ることにより,マイクロスイッチが接続/切離位置へ移動する構成であるところ,
その作動を確実にするためには,中空本体の主水平位置における具体的な傾斜角度,
中空本体の移動時点,平衡重りの移動に伴うセンサの重心位置の移動等の具体的構
成の決定が不可欠であり,具体的構成と関わりなく,平衡重りとセンサ全体の重量
比を30パーセント以上と定めたところで,レベル・センサの動作を確実にすると
の効果との関係で,技術的な意味はない。
(3) センサの全体重量に相当する重力は,センサ全体の重心に作用するのである
から,センサに作用する力の大きさ及び作用点は,平衡重りのセンサ全体に対する
重量比の値によって決まるものではない。また,液中におけるセンサの傾きの姿勢
は,吊点,重力及び重心の位置・浮力及び浮心の位置によって決定される。そうす
ると,平衡重りの重量は,センサ全体の重力の一部を構成するものにすぎないので
あって,平衡重りのセンサ全体に対する重量比は,センサに働く力のつり合いにつ
いて,何ら技術的意義を有するものではない。また,平衡重りのセンサ全体に対す
る重量比は,モーメントのつり合いにおいても,何ら技術的意義を有するものでは
18
ない。
(4) これに対し,被告は,重量比30%の技術的意義について縷々主張している。
しかし,本件発明は,平衡重りとして設計された可動重りが,中空本体の傾斜に伴
い,平衡重りを通る軸線を中心に回動してスイッチングする構成を採用しているの
であって,可動重りの回動方向(スイッチングの方向)と直交する方向の回転は,
本件発明の課題とは関連性がない上,センサが水流によって回転することも想定で
きない(流体の流れが大きい場合には,センサは流れの方向に並進運動し,流れに
逆らって循環することはない。)。また,平衡重りのセンサ全体に対する重量比と,
回転軸を中心として回転運動した時に元へ戻る力との間に物理的関連性はない。
(5) 以上のとおり,本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)のうち平衡重り
のセンサ全体に対する重量比30%との記載は,本件発明の課題解決のための技術
的意義を有しておらず,サポート要件(旧特許法36条5項1号)に違反する。
4 取消事由4(その他の記載要件違反に係る審決の認定・判断の誤り)
(1) 審決は,本件特許の特許請求の範囲(請求項1)の「センサの中空本体の外
形の中心」につき,図面に記載された一点鎖線によって,「センサの中空本体の外形
の中心」が明示されていると認定する。
しかし,一点鎖「線」をもって,「センサの中空本体の外形の中心」(点)が明示
されているとはいえない。本件明細書の発明の詳細な説明には,「センサの中空本体
の外形の中心」についての記載はなく,図面における一点鎖線の記載のみでは,「セ
ンサの中空本体の外形の中心」の意義が明らかであるとはいえない。そうすると,
上記「センサの中空本体の外形の中心」の記載は,発明の詳細な説明に記載がなく,
その意議が不明確であり,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない
事項が記載されておらず,また,当業者が容易にその実施をするだけの記載を欠く
ものであるから,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及び同条4項の要件を充
足していない。
(2) 審決は,本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)の「センサの中空本体
19
の外形の中心を通る垂直線」について,図1の一点鎖線のうちセンサの中空本体の
外形部分にかかる線分が鉛直方向を向いた状態のように,水平に対する鉛直方向の
線が,センサの中空本体の外形の中心を通る状態の垂直線であることが明示されて
いると認定する。
しかし,審決の上記認定は,本件明細書の図1の一点鎖線のうち「センサの中空
本体の外形部分にかかる線分」の部分だけを取り上げて,それが「鉛直方向を向い
た状態」であるとするものであって,十分な根拠が示されているとはいえない。
したがって,本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)の「センサの中空本体
の外形の中心を通る垂直線」の記載は,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及
び同条4項の要件を充足しない。
(3) 審決は,本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)の「前記平衡重り(9)
は,前記センサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体
の外形の中心を通る垂直線の側方に重心(10)があり」及び「前記センサ全体の
重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり」との記載について,
平衡重りが下となる水平姿勢となるように傾かせるためには,センサ全体の重心を
平衡重りの重心のある側にずらさなければならず,どの程度同じ側にするかについ
ては,厳密な同一側を含むことはもちろん,マイクロスイッチが作動するように傾
く範囲内であればよいことは自明であると認定する。
しかし,立体において,「線」の「側方」,「線」に対して「同じ側方」がいかなる
意義を有するのか不明であるから,上記特許請求の範囲の記載は,旧特許法36条
5項1号,同条同項2号及び同条4項の要件を充足しない。



第4 被告の反論


1 取消事由1(補正要件違反による出願日繰下げに基づく新規性及び進歩性の
認定・判断の誤り)に対し
本件補正における「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」は,当初明細
書の図1において一点鎖線で示されたものであり,本件補正は,願書に最初に添付
20
した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであるから,要旨変更
に当たらない。また,審決は,「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」とは,
当初明細書の図1の一点鎖線のうちセンサの中空本体の外形部分にかかる線分が鉛
直方向を向いた状態のものであると認定しているところ,これは,上記一点鎖線の
うち,可撓性の電気ケーブル2を通るために鉛直方向を向いていない部分を除いた
ものである。さらに,被告と審決はともに,「センサの中空本体の外形の中心を通る
垂直線」を,当初明細書の図1に示される一点鎖線であると特定しており,その解
釈にも齟齬はない。
したがって,本件補正には補正要件違反はなく,原告の出願日繰り下げに基づく
新規性及び進歩性欠如の主張には理由がない。

2 取消事由2(出願日繰下げを前提としない容易想到性の認定・判断の誤り)
に対し
(1) 主位的主張に対し
本件発明は,以下のとおり,甲16記載の発明に,甲18,19記載の発明及び
周知技術を組み合わせることにより容易想到であるとはいえない。すなわち
ア相違点Bの認定の誤りに対し
甲16記載の発明は,フロートに発泡合成樹脂を用いているところ,発泡合成樹
脂を水中に完全に沈めると,水圧により発泡合成樹脂の気泡が不可逆的に潰れてハ
ウジングが変形しかねず,発泡性の合成樹脂を採用した意味がなくなるから,液中
において,自由懸垂状態となるセンサではない。
イ相違点Cに係る容易想到性判断の誤りに対し
本件明細書の段落【0016】には,マイクロスイッチを確実に機能させるため
に平衡重りの重量を相対的に重くすべきとして,具体的な数値を挙げており,重り
の重量比の技術的効果が明確に記載されている。また,中心からずれた位置に重心
がある平衡重りとセンサ全体の重量比は,センサ全体の重心位置に影響を与える要
素となり,センサの液中での安定的な平衡作用の実現,マイクロスイッチの確実な
21
作動に関して,技術的意義を有する。
これに対し,甲16記載の発明は,本件発明のように液中に完全に沈んだ状態に
おいて自由懸垂状態となるセンサではなく,液中には完全に浸漬せずに液面に浮遊
するフロート型のセンサであり,本件発明のように液中に浸漬した状態で安定的な
平衡作用を実現する必要性が全くなく,センサが液中に浸漬した状態で安定的な平
衡作用を実現するために重りの重量比を大きくしようという動機が当業者に生じる
ことはない。また,仮に,甲16記載の発明において,重錘5の重量比を大きくし
たとしても,重錘5の重心位置をセンサの中空本体の外形の中心を通る垂直線から
ずらすことが記載も示唆もされていないから,何ら効果が生じない。そうすると,
甲16記載の発明において,センサ全体の重量との関係で重錘5の重量比が設計的
事項であるとはいえない。
ウ相違点Dに係る容易想到性判断の誤りに対し
センサを構成する部品の相対的な重心位置及び重量比が,センサ全体の重心位置
に影響を与えることは技術常識であるから,センサを構成する部品の中で相当の重
量比を備える平衡重りの重心位置が,センサ全体の重心位置を調整するために重要
な意義を有する。また,平衡重り単体の重心位置が中心からずれていることが,セ
ンサ全体の重心位置についても,中心から平衡重りの重心位置と同方向にずらすよ
うに寄与することも技術常識である。
これに対し,甲16記載の発明は,液面に浮遊するタイプのセンサであり,セン
サの上下が180°回転したときにスイッチを動作させる構成であるため,センサ
全体の重心位置を中心からずらしてセンサが水面に着水したときに一定の方向に傾
く構成を採用する必要性,合理性がなく,明細書には,センサが着水したときに傾
く方向やセンサ全体の重心位置について,記載も示唆もない。
なお,甲28記載の発明は,水銀スイッチを使用しており,センサの安定性を確
保するため液中に浸漬する必要があったが,より安定度の高いマイクロスイッチを
採用した場合には,センサを液中に浸漬させる必要がない。また,甲28記載の発
22
明は,動作体を「吊下管」の下端に「可撓性接続手段」によって接続して吊り下げ
る位置固定型のセンサであり,ポンプからの強い流れによりセンサが大変荒く扱わ
れるという技術課題がない。したがって,甲28記載の発明は,回転軸を中心とし
た回転方向の力に対するスイッチングの誤作動を防止するといった本件発明の課題
について,何ら示唆を与えるものではない。
エ以上によれば,本件発明は,甲16記載の発明に,甲18,19記載の発明
及び周知技術を組み合わせることにより容易想到であるとはいえない。
(2) 予備的主張に対し
本件発明は,以下のとおり,甲18記載の発明に,甲16,17,19記載の発
明及び周知技術を組み合わせることにより容易想到であるとはいえない。すなわち
ア相違点Gに係る容易想到性判断等の誤りに対し
甲18記載の発明においては,中間板7により区切られた上部のスペースにおも
り5が配置され,中央に配置されるプランジャー4をおもり5により押込むことで,
スイッチ装置3を動作させているところ,センサが着水したときに,センサ本体が
どのような方向に傾いてもプランジャー4が押し上げられるよう構成されており,
おもり5が360°あらゆる方向に傾くことが予定されている(なお,甲18の「ふ
たつの異なる位置を取れるようにしてあり」とは,プランジャー4を押し下げた位
置と,プランジャー4が押し上げられた位置という,機能面からみた2つの異なる
位置のことであり,幾何学的にはおもり5は,センサ内部であらゆる方向に移動す
る。)。そうすると,甲18記載の発明において,おもり5を通る軸線を中心として
回転可能に支持した場合,おもり5が特定の一方向にしか移動できなくなってしま
い,発明の特徴に反することとなる。
イ相違点Hに係る容易想到性判断の誤りに対し
前記(1)イのとおり,本件発明において,平衡重りとセンサ全体の重量比は,技術
的意義を有しているのに対し,甲18記載の発明においては,センサ全体の重心位
置を調整して常に一定の方向に傾くようにする必要性が無く,むしろセンサ全体の
23
重心を中心に位置させることを志向するものである。そうすると,甲18記載の発
明においては,おもりの重量比という技術的思想を導入する必然性がない。さらに,
甲18記載の発明においては,本件発明とは異なり,おもり5単体の重心位置がお
おむねセンサの中心にあるので,おもり5の重量比を大きくしたとしても,本件発
明のように,センサ全体の重心位置を中心からずらす方向に作用させて,所定の方
向に傾けるという技術的意義を持つこともない。
ウ相違点Iに係る容易想到性判断の誤りに対し
甲18記載の発明におけるセンサ全体の重心位置は,センサの中心線上にあり,
また,そのような重心位置であることによりセンサとして正しく動作するから,仮
にセンサ全体の重心位置を中心からずらして所定の方向に傾くようにするという技
術が公知ないし周知であったとしても,これを甲18記載の発明に適用する合理性,
必然性はない。
エ以上によれば,本件発明は,甲18記載の発明に,甲16,17,19記載
の発明及び周知技術を組み合わせることにより容易に想到することができるとはい
えない。
3 取消事由3(重量比に関するサポート要件違反の認定・判断の誤り)に対し
本件明細書の段落【0016】には,重量比を最低でも30%と規定することに
関して明確な記載がある。
そして,レベル・センサにおいて,水中で安定的につり合うとは,①レベル・セ
ンサに働く力の合力がゼロであり,②各力の任意の点の周りのモーメントの和がゼ
ロであることとの条件を満たし,かつ,③水流等の外力を受けてレベル・センサが
傾いても容易に元の姿勢に戻ろうとすることであり,平衡重りとセンサ全体の重量
比は,上記③の安定性に影響する。この点に関し,原告は,レベル・センサが,水
流によって,その回転軸を中心に回転することやこれにより誤作動を生じることは,
通常は想定し得ないと主張する。しかし,水を含めた流体には,粘性があり,粘性
を有する流体に流れが生じている状態においては,一般に流体の回転作用の大きさ,
24
すなわち流体中の物体を回転させる力の大きさを表わす循環はゼロにならない。ま
た,レベル・センサは,下水溝などで利用され,汚水を排水するモータが作動して,
汚水に強い流れが生じたり,水流による外力が常に働く状況もあり,回転させられ
る危険性がある。そうすると,当業者であれば,レベル・センサである本件発明が,
液中における安定性の確保という解決課題を目的としていることは,明細書に記載
がなくても当然に理解することができる。
さらに,本件明細書に,平衡重りのレベル・センサ全体に対する重量比がレベル・
センサの外力に対する姿勢の安定に寄与することの理論的な説明が記載されていな
くても,重量比30%以上でセンサの安定性が得られるとの趣旨の記載があれば,
センサ全体に対する平衡重りの重量比を一定以上に大きくすることで,センサの回
転中心とセンサ全体の重心との間の距離も大きくなり,その結果,復原モーメント
も大きくなって,センサの安定性が大きくなるという関係があるということは,物
理上の常識として理解される。
なお,本件発明では,平衡重りのセンサ全体に対する重量比は,レベル・センサ
の安定性に寄与しているものの,それはセンサ全体の重心がセンサの中心からずれ
ているという構成,すなわち,センサが外力に対する安定性(復原モーメント)を
有することを前提として,その復原力の大きさ,すなわち安定性の程度を調整する
ための1つの要素として機能しているのであり,30%という具体的な数値そのも
のが技術課題を直接達成する関係にある必要はない。したがって,課題解決のため
に組み合わせた構成から,センサ全体に対する平衡重りの重量比を少なくとも3
0%とするとの要件のみを切り離して,これが課題解決のために不可欠な構成であ
るか否かを判断するのは誤りである。
以上によれば,当業者からすれば,平衡重りとセンサ全体の重量比を一定比率以
上とすることが,レベル・センサを液中においておおむね主水平位置に安定的に維
持するという効果に寄与することは,明細書の記載と技術常識に基づいて容易に理
解することができ,サポート要件に違反しない。
25
4 取消事由4(その他の記載要件違反に係る審決の認定・判断の誤り)に対し
本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)における「センサの中空本体の外形
の中心を通る垂直線」とは,本件明細書によれば,図1における一点鎖線を意味し
ていることは当業者であれば容易に理解することができる。そうすると,本件特許
に係る特許請求の範囲(請求項1)の「平衡重り(9)は,前記センサが・・・該
センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方に重心(10)があり」,「前記
センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり」との
記載は明確であり,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項に
ついて適切に記載されており,当業者は容易に理解し,実施することが可能である。
したがって,本件特許は,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及び同条4項に
違反しない。


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第5 当裁判所の判断






1 取消事由1(補正要件違反による出願日繰下げに基づく新規性及び進歩性の認定・判断の誤り)について




原告は,①当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)の「センサを通る垂直線」は,平衡重りの重心位置を定める基準線として規定されていたものであるが,具体的に特定されておらず,本件補正後の「中空本体の外形の中心を通る垂直線」と同一のものであると理解することはできない,②当初明細書の図1において,センサは直立の状態で吊り下げられているところ,センサ全体の重心は一点鎖線上にあると理解するのが自然であり,同一点鎖線が,センサ全体の重心が「側方」に位置することの基準線として記載されたものと理解することはできない,③本件補正後の「中空本体の外形の中心を通る垂直線」について,被告と審決とは,解釈・特定について相違している,④当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)の「センサを通る垂直線」は,平衡重りの重心位置の基準線として定められていたところ,平衡重りの重心位置でセンサの傾斜方向が決まるものではないから,平衡重りの重心位置を「浮心」や「浮心を通る線」を基準として特定する必然性はなく,当初明細書の図1の一点鎖線が「センサを通る垂直線」であると解することはできないとして,本件補正は,当初明細書に記載がなく,また,当初明細書から自明な事項でもないから,要旨の変更に当たると主張する。


しかし,原告の上記主張は,次のとおり,採用することができない。以下,理由を述べる。


(1) 当初明細書の記載


当初明細書の記載は,次のとおりである(甲6の1)。


「【特許請求の範囲】


【請求項1】ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動のポンプ中のモーターを始動/停止するような電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置した電気スイッチ,マイクロスイッチ(15)に接続した電気ケーブル

(2)に取付け懸架している中空本体(1)を含み,前記スイッチは本体内に配置した可動重りの助けにより接続/切離し位置へ作動され,平衡重り(9)として設計された重りは中空本体内で支持され,2つの異なる終端位置の間で回転可能であり,平衡重りの表面の一方がマイクロスイッチ(15)を直接的に又は間接的に作動させるよう配置され,空気中に囲まれている時にセンサの全重量の少なくとも30%の重量である平衡重り(9)はセンサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時にセンサを通る垂直線の横に重心(10)がある,電気機能の接続/切離し用のレベル・センサ。

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「【発明の詳細な説明】


【0001】【産業上の利用分野】本発明は液体タンク中のレベルを測定し,各種機能を制御する装置へ信号を発生する電気レベル・センサに関係する。本発明は特にポンプを始動/停止し,警報等を開始する下水ポンプ部に用いられる。」


「【0002】【従来技術】この目的のレベル・センサは従来から公知で,液体又は空気のどちらに囲まれているかに応じて垂直線に対して異なる角度を本体がとるような重量配置を有する自由懸垂型の中空水密体として設計されている。本体内の水銀スイッチが高さに応じて電気回路を接続/切断する。」

「【0008】【発明が解決しようとする課題】従って本発明は,環境に危険な材料を含まず,動作環境下で重大な歪みにさらされても誤りのない機能を果たすよう設計されたレベル・センサを得ることを目的とする。」

「【0010】【実施例】図面において,1は中空本体を,2は水密入口3と入口解放部4を有する電気ケーブルを表わす。5は接続円板を表わし,取っ手6,7は接続ネジを表わし,8は軸を,9は平衡重りを,10はその重心を表わす。11,12,13,14は平衡重り9の表面を表わし,15はマイクロスイッチを,弾性作動ヨーク16を表わし,最後に17は電気ケーブルの導体を表わす。」


「【0011】前述したように,中空本体の重量と容積は,液体に囲まれている時に垂直線に対して本体が強く傾た位置を取るように管理される液体の密度に適合されている。本体が反対に空気中に囲まれている時,これは主に垂直位置を取る。」

「【0012】第1図(判決注:別紙図面1)に示す位置で,本体は完全に又は殆んど完全に空気により囲まれている。従って平衡重り9の重心10はベアリング6,8の左側に位置して,平衡重りはそのベアリングのまわりに反時計回りに回転しようとする。回転運動は表面の一方が円板5の左側縁と接触すると停止する。平衡重りがこの位置に到達する直前に,その表面13は円板5に取付けたマイクロスイッチ15上の弾性ヨーク16を作動させ,マイクロスイッチの電子回路を接続又は切離す。」


「【0013】レベル・センサが主に空気に取囲まれている限り,下水部の水位レベルがセンサより下にある限り,センサは直立位置を保持し,マイクロスイッチはその接続又は切離し位置を保持する。」


「【0014】水位レベルが上昇し始めると,レベルセンサは次第に傾き始め,最後に第2回(判決注:第2図(別紙図面2)の誤り。)の主水平位置へ到達する。容積と重量の適切な選択により,水位レベルがセンサより上にいかに上昇するかとは独立にセンサはこの水平位置を取る。」

「【0015】センサがその水平位置に近い所から開始すると,平衡重り9はその重心10をベアリング6,8の下右側へ移し,そのまわりを時計回りに回転する。この回転は中空本体1の内面と接触する平衡重り9の一方の表面により制限される。この移動の間,平衡重りの表面13は円板15と弾性ヨーク16との接触を失う。次いでマイクロスイッチはその他方位置へ作動され,これはスイッチが接続される又は切離されることを意味する。」


「【0016】マイクロスイッチとの異なる止め部を固定するため,平衡重り9は相対的に重く,レベル・センサの全重量の相当部分を構成する。しなしながら同時に,センサは製造上の理由から重すぎてはならない。受入れ可能な安全性を得る最小値は全重量の30%であるが,適当な値は50から80%の間である。加えて,センサの全重量/容積比は管理すべき液体の密度と関連して選択すべきであり,液体に囲まれている時にレベル・センサが主水平位置を取るよう選択すべきである。」


(2) 前記当初明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】,【発明の詳細な説明】の段落【0010】ないし【0016】の記載及び図1,2(別紙図面1,2)によれば,当初明細書記載の発明においては,レベル・センサの中空本体が,空気中では,別紙図面1のように電気ケーブルに吊られて垂れ下がっている状態となるが,液体中に浸漬され,水位レベルが上昇し始めると,センサ本体は傾き始め,最後には別紙図面2のとおり水平位置に到達し,容積と重量の適切な選択により,水位レベルがセンサ本体より上にいかに上昇するかに関係なく,水平位置を取るように構成されていること,センサ本体内に2つの異なる終端位置の間で重りを通る軸線を中心として回転可能に支持された平衡重り(可動重り)は,レベル・センサが液体中に浸漬されて,センサ本体が水平位置をとると,水平位置で平衡させる作用を有するとともに,自身の回転によりスイッチング作用を行うこと,平衡重りの安全性を得る最小値は全重量の30%であり,より適当な値は50から80%である上,センサの全重量/容積比は管理すべき液体の密度と関連して,液体に囲まれている時にレベル・センサが主水平位置を取るように選択されることが認められる。これによれば,当初明細書記載の発明においては,レベル・センサを機能させるため,センサ本体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾かせるための重量配置がされていること,すなわち,平衡重りと中空本体全体の重心は,共に,センサの中空本体の外形の中心の同じ側方にあるものと理解することができる。そうすると,当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)の「センサを通る垂直線」について,明確な説明はされていないものの,平衡重り及び中空本体全体の重心の基準となる線であり,当初明細書の図1(別紙図面1)の一点鎖線のうちセンサの中空本体の外形部分にかかる線分が鉛直方向を向いた状態のもの(ただし,重心位置が偏ったレベル・センサを空気に囲まれた状態で吊り下げた場合,センサの中空本体が厳密には直立しないことは明らかであるから,センサの中空本体の外形部分にかかる線分は,厳密な意味での鉛直線ではない。)であると理解することができ,本件補正後の「該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」と同義であるといえる。


(3) これに対し,原告は,当初明細書の図1(別紙図面1)において,中空本体が完全に直立しているように図示されていることをもって,センサ全体の重心が一点鎖線上にあると主張する。



しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,当初明細書には,センサ全体の重心が一点鎖線上にあるとの記載はない上,センサ全体の重心が一点鎖線上にあるとすると,センサ全体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾けることができず,レベル・センサとして機能しなくなる。そうすると,当初明細書において,図1(別紙図面1)の中空本体は,図面上はほぼ垂直な位置となっているものの,完全に直立しているものではなく,センサ全体の重心が一点鎖線上にあるということはできない。


また,原告は,本件補正に係る「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」について,被告は,審判手続において,センサの中空本体の外形を回転体として捉えた場合の回転軸であると主張していたのであって,審決と異なる解釈,特定をしていると主張する。

しかし,この点における原告の主張も,採用できない。すなわち,本件補正に係る「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」は,前記(2)のとおり,水平に対する鉛直方向の線であって,当初明細書の図1の一点鎖線のうち,センサの中空本体の外形部分に係る線分が鉛直方向を向いた状態のものをいうと解され,審決の認定に誤りはないから,被告が審判手続において異なる主張をしていたからといって,審決に誤りがあるということはできない。なお,本件発明のレベル・センサは,水位レベルの上昇に伴い,センサ本体が速やかに一定方向に傾き,水平位置をとるように構成されており,その際,センサ全体の重心と平衡重りの両重心が下方となって安定する方向に働くところ,被告と審決は,平衡重りとセンサ全体の重心が「垂直線」に対して同じ側方にあることに関し,別の表現で表わしたものにすぎず,両者が異なる解釈,特定をしていたとまでは認め難い。



さらに,原告は,当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)の「センサを通る垂直線」は,平衡重りの重心位置の基準線として定められていたところ,平衡重りの重心位置でセンサの傾斜方向が決まるものではないから,平衡重りの重心位置を「浮心」や「浮心を通る線」を基準として特定する必然性はなく,当初明細書の図1の一点鎖線が「センサを通る垂直線」であるとすべき動機もないと主張する。




しかし,この点における原告の主張も,採用できない。すなわち,当初明細書記載の発明は,前記(2)のとおり,レベル・センサを機能させるため,センサ本体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾かせるための重量配置がなされており,平衡重りと中空本体全体の重心は,共に,センサの中空本体の外形の中心の同じ側方にあるものと理解することができるから,原告の上記主張は採用することができない。

(4) 以上によれば,本件補正は,要旨の変更に当たるものではなく,審決の判断に誤りはないから,原告の補正要件違反による出願日繰下げに基づく新規性及び進歩性の主張には理由がない。

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2 取消事由2(出願日繰下げを前提としない容易想到性の認定・判断の誤り)について




原告は,甲16又は甲18に,その他の公知発明ないし周知技術を適用することにより,本件発明は容易想到であると主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。その理由は,以下のとおりである。


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(1) 本件明細書の記載


本件明細書の記載は,次のとおりである(甲1)。


「【特許請求の範囲】



【請求項1】ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動ポンプ中のモータを始動/停止するような電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置したマイクロスイッチ(15)に接続された電気ケーブル(2)に自由懸垂状態に取付けられた中空本体を含み,前記スイッチは前期(判決注:「前記」の誤記。)中空本体内に配置した可動重りの助けにより接続/切離位置へ作動され,平衡重り(9)として設計された当該可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され,前記平衡重りの表面の一つがマイクロスイッチ(15)を直接的に又は間接的に作動するように配置され,前記平衡重りの重量は,前記中空本体(1),前記マイクロスイッチ(15),平衡重り(9),及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持する手段(5,6,7,8)から成るセンサが空気によって囲まれている時該センサの全重量の少なくとも30%であり,前記平衡重り(9)は,前記センサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方に重心(10)があり,かつ前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり,液体中に浸漬されているときセンサは垂直位置から傾きなお電気ケーブル(2)から自由懸垂状態にあることを特徴とするレベル・センサ。」


「【発明の詳細な説明】


【0010】


【実施例】図面において,1は中空本体を,2は水密入口3と入口解放部4を有32する電気ケーブルを,5は突出部6をもった接続円板を,7は接続ネジを,8は軸を,9は平衡重りを,10は重心を,11,12,13および14は平衡重り9の表面を,15は弾性作動ヨーク16をもったマイクロスイッチを,最後に17は電気ケーブルの導体を表わす。上記部品は中空本体1内に組立てられてレベル・センサを構成し,後述するように平衡重り9は,レベル・センサが液中に浸漬されると,センサをその浮力の中心の周りに回転させ,センサを水平位置で平衡させる作用を有すると共に,自身の回転によりスイッチング作用を行う。」


「【0011】前述したように,中空本体の重量と容積は,中空本体が液体に囲まれているとき垂直線に対して強く傾斜した位置をとるように,管理される液体の密度に適合される。他方,中空本体は空気に囲まれているとき主として垂直位置をとる。」


「【0012】図1(判決注:別紙図面1)に示す位置において,本体は完全に又は殆んど完全に空気により囲まれている。そのとき平衡重り9の重心10はベアリング6,8の左側に位置し,かくして平衡重り9はそのベアリングのまわりに反時計方向に回転しようとする。回転運動は表面の一つが接続円板5の左側縁と接触するとき停止する。平衡重りがこの位置に到達する直前に,その表面13は接続円板5に取付けたマイクロスイッチ15上の弾性ヨーク16を作動し,マイクロスイッチの電子回路を接続又は切離す。」


「【0013】レベル・センサが主に空気に取囲まれている限り,下水部の水位レベルがセンサより下にある限り,センサは直立位置を保持し,マイクロスイッチはその接続又は切離し位置を保持する。」


「【0014】水位レベルが上昇し始めると,レベルセンサは遂には傾き始め,最後に図2(判決注:別紙図面2)に示す主水平位置に到達する。容積と重量の適切な選択により,水位レベルがセンサより上に如何に上昇するかに関係なく,センサはこの水平位置を取る。」


「【0015】センサがその水平位置近くからスタートすると,そのとき重心10がベアリング6,8の下で且つ右にある平衡重り9はベアリング6,8のまわりを時計方向に回転する。この回転は平衡重り9の表面の一つが中空本体1の内面と接触することによって制限される。このように移動している間,平衡重りの表面13は接続円板5および弾性ヨーク16との接触を失っている。それからマイクロスイッチはスイッチが接続されるか又は切離されることを意味する他の位置をとるように作動される。」


「【0016】マイクロスイッチを確実に停止させるため,平衡重り9は相対的に重く,レベル・センサの全重量の可成りの部分を構成する。しなしながら同時に,センサは製造上の理由のために重過ぎてはならない。受入れ可能な安全性を得る最小値は全重量の30%であるが,適切な値は50から80%の間である。加えて,センサの全重量/容積関係は,レベル・センサが液体で囲まれているとき主水平位置を取ることを確保するように,管理される液体の密度と関連して選択されるであろう。」

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(2) 甲16の記載


甲16には,次のとおり記載されている(なお,甲16の第1図は,別紙図面4のとおりである。)。


「実用新案登録請求の範囲


可撓性ケーブルを取付けたフロート内の空間に作用片と重錘を有するスイッチを揺動自在に枢着し,該空間の内面一部にはフロートが浮上してフロート内の前記スイッチが一方に回動したとき該スイッチの作用片に接触してこれを押し込む受部を設けたことを特徴とする液面検出スイッチ。」(1頁1欄15~21行)


「考案の詳細な説明


本考案はポンプの自動制御及液面制御するための液面検出スイッチに関するものである。」(1頁1欄22行~23行)



「図において,Aはフロートで,発砲合成樹脂の如く軽量で気密性のある材料から成る本体1と,同材料から成るキャップ2とから成り,両者はねじ込み又は嵌め込み或は融着等にて結合し,且つ内部の空間3に水が侵入しないように完全な液密構造とする。



4は普通のリミットスイッチで,その底部に重錘5を固定し,該重錘5の取付側と反対の側の端部に作用片6を有している。このスイッチ4を該空間3内に遊嵌し,該スイッチ4の作用片6側の作用片6と反対の端部附近を軸7によりフロートAに枢着して,スイッチ4の作用片6を有する側がキャップ2の方へ向くようにする。


前記キャップ2には水中ポンプの制御回路等に接続される可撓性ケーブル8が挿通され,このケーブル8とキャップ2とを熱融着又は接着剤等に固定すると共にケーブル挿通部を液密とし,該ケーブル8の内端を前記リミットスイッチ4に接続して,水中ポンプの場合,該スイッチ4の作用片6が押し込まれるとポンプが起動し,作用片6の押圧が解けるとポンプが停止するように回路を構成する。

又,前記キャップ2の空間3に臨む部分には突出状の受部9を設け,フロートAの本体1側が上になってスイッチ4がキャップ側へ回動したとき該スイッチ4の作用片6が該受部9に押付けられて押し込まれるようにする。


本考案は上記の構成であり,水中ポンプの制御用として用いる場合,本考案スイッチを水中ポンプを装着した貯水タンク中に可撓性ケーブル8により浮上,沈下自在に取付ける。しかしてタンク内の液面が低くポンプの作動不可のときはフロートAが液面上にあって本体1を下に垂れ下がっているときはスイッチ4は自重により,第1図の鎖線のように本体1の底部の方へ回動して作用片6は受部9から離れているから,ポンプは回らない。


次に液面が次第に上昇してフロートAが液面下となり,その本体1が上になり,キャップ2が下になると,スイッチ4が自重でキャップ2側へ回動して作用片6が受部9に接触して押込まれるので,スイッチ4によりポンプが起動する。


本考案スイッチは上記のように液面がフロートAの下にあるか上にあるかによってスイッチ4を開閉し,水中ポンプ等を作用させるもので水銀スイッチを用いないので公害のおそれが全くないと共にスイッチ4は市販の普通のものを用いることができ,且つスイッチ4の作用片6の作動はスイッチ自身の回動によるもので,フロートA内にはスイッチ4以外に可動部がないので作動が確実で故障のおそれが少ない等の効果を有するものである。」(1頁1欄33行~2頁3欄9行)


(3) 甲18の記載


甲18(訳文)には,次のとおり記載されている(なお,甲18の図は,別紙図面5のとおりである。)。


「中空体1は,導入口が防液性の電気ケーブル2に吊り下がっており,同ケーブルは,中空体1内の中間板7に取り付けられたスイッチ装置3に連結している。この装置3には,装置の電気回路開閉切り替え作動を行うプランジャー4が設けられている。


中間板7より上部のスペースには,ある程度可動なおもり5を設けているが,鉛直線に対する中空体の傾き具合に応じて,ふたつの異なる位置を取れるようにしてあり,このおもりが両位置の一方を取った際に,プランジャー4を作動させる仕組みになっている。」(2頁19行~24行)


「前に述べたように,中空体の重量と体積は,監視される液体の濃度に合わせ,中空体が液体で囲まれたときに鉛直線に対して著しく傾くように調節する。逆に空気に囲まれると,中空体は鉛直に垂れ下がる。

図面に示した状態において,中空体は液体に沈んでいるが,これは言い換えると,鉛直線に対し,左に傾いているということである。この位置に置かれると,おもり5の上部が中空体の壁に接触し,それと同時に中間板7からわずかに離れる。この作動により,スイッチ装置に設置されているプランジャー4はその制御部分を離れて上がり,スイッチ3内の電気回路が閉じることになる。これによって,液位が液位センサーと同じ高さか,センサーより高い状態にあることを示す。


それに対し,中空体1が空気中にある場合,中空体は垂直位置を取り,おもり5の全重量が中間板7にかかることになる。これにより,おもりがプランジャー4を押し入れ,同プランジャー4はブレーカー3内の電気回路を遮断する。これによって,液位が液位センサーより下にあることを示される。」(2頁25行~36行)


「観察される液体の粘性に比例した液位センサーの重量と体積を適切に調節したり,おもり5ならびにその制御突部6を適切に形成することにより,センサーがふたつのはっきりと異なる位置を取ることが可能となり,液位を明確に示すことになる。こうして得られる信号は,例えば電動ポンプの作動・停止などに適用可能である。」(3頁1行~4行)


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(4) 主位的主張について




ア本件発明と甲16記載の発明の相違点Bの認定の誤りについて


原告は,甲16記載の発明において,リミットスイッチ4と重錘5が一体となって,回転可能に支持される可動重りとしての構成を備えるとともに,スイッチを作動するように配置されているから,本件発明と甲16記載の発明は,可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で可動重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され,可動重りの表面の1つがスイッチを間接的に作動するように配置されるという点において一致しており,審決の相違点Bの認定には誤りがあると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,本件発明において,平衡重りとして設計された可動重りは,単体として機能しているのに対し,甲16記載の発明においては,リミットスイッチ4と重錘5は,単体の平衡重りとして機能していない。そうすると,審決が,相違点Bとして,重りの動作について,本件発明は「平衡重りとして設計された当該可動重り」が,中空本体内において回転可能に支持され,その表面の1つがマイクロスイッチを直接的に又は間接的に作動するように配置されているのに対して,甲16記載の発明は「リミットスイッチ4の底部に重錘5を固定し」たものが,フロートAに枢着して,リミットスイッチ4の作用片6の作動はスイッチ自身の回動によるものとした点に誤りはない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。


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イ相違点Bに係る容易想到性判断の誤りについて



原告は,相違点Bについて,液中において自由懸垂状態とするための構成として,可動重りの重量を調整して,これを平衡重りとすることは,当業者であれば容易になし得る設計的事項にすぎない,甲16記載の発明は,リミットスイッチ4と重錘5が一体となって可動重りを形成しており,該可動重りを通る軸線を中心として回転可能に支持される構成を具備しているところ,これに,甲18記載の技術事項を適用することにより,平衡重りの表面の1つがマイクロスイッチを直接的に又は間接的に作動するように配置することは容易想到であると主張する。




しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。前記本件明細書の【発明の詳細な説明】の段落【0010】,【0014】,【0016】の記載によれば,本件発明の平衡重りは,水位レベルがセンサより上昇しても,センサは水平位置を維持できるようにした重りであり,液体中で水平位置を取るために,センサの全重量と容積の関係は,レベル・センサが液体で囲まれているとき主水平位置を取ることを確保するように,管理される液体の密度と関連して選択されるものである。


これに対し,甲16には,前記(2)のとおり,「次に液面が次第に上昇してフロートAが液面下となり,その本体1が上になり,キャップ2が下になると」と記載され,また,甲18には,前記(3)のとおり,「中空体の重量と体積は,監視される液体の濃度に合わせ,中空体が液体で囲まれたときに鉛直線に対して著しく傾くように調整する。逆に空気に囲まれると,中空体は鉛直に垂れ下がる。」と記載されているとおり,いずれも液体中においてセンサ本体を水平に保つ構成とすることについての示唆はない。すなわち,甲18,19によれば,本件特許出願時において,液中において自由懸垂状態となるレベル・センサが公知であることが認められるものの,自由懸垂状態となるレベル・センサにおいて,可動重りの重量を調整することによって,これを平衡重りとすることついての示唆がなく,相違点Bに係る構成を採用することが容易であるとすることはできない。


これに対し,原告は,液面浮遊タイプのセンサにおいても,センサ全体の重心を偏心させて,センサを所定方向に傾けることは,スイッチの確実な動作を実現する上で,十分な技術的意義があり,水中において自由懸垂状態となるタイプのセンサであっても,完全に水中に没した後にセンサの傾斜角度が変わることはなく,液面においてスイッチが動作するという点では,液面浮遊タイプのセンサと異なるところはないなどと主張する。しかし,原告の上記主張は,液体中において自由懸垂状態となるレベル・センサにおいて,可動重りの重量を調整して,これを平衡重りとして設計することについての示唆があることについて何ら具体的な論拠を挙げていない以上,採用することはできない。


なお,甲19(甲19の第1図,第2図は,別紙図面6,7のとおりである。)には,「漸次槽内液面が上昇し,浮揚体9が液中に没すると,該浮揚体は第2図に示すごとく横倒した状態にて浮遊する。」(甲19・1頁1欄27行~2欄2行)と記載されており,浮揚体9が液体中において横倒状態で浮遊することは認められるものの,同浮揚体9において,可動重りたる作動錘3が平衡重りとして機能するとの記載はなく,むしろ主として平衡重りとして機能しているのは釣合錘11であると認められる上,上記重りはいずれも重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されておらず,甲16記載の発明に甲19の構成を適用することにより本件発明に容易に着想するとはいえない。また,甲28には,「下方動作体4”は,液体中に全く浸漬されて傾斜した位置を採る。」(甲28・1頁2欄24行~26行)と記載されていることからして,本件発明のセンサのように,平衡重りによって,水位レベルがセンサより上にいかに上昇するかに関係なく,センサは常に液体中において水平位置を取るものであるとは認められないから,甲16記載の発明に甲28の構成を適用することにより本件発明に容易に着想するともいえない。さらに,力のつり合いとモーメントのつり合いを取ることは当業者が当然に行うことであるとしても,平衡重りにより,水位レベルがセンサより上にいかに上昇するかに関係なく,センサが常に液体中において水平位置を取ることまで,当業者が当然に行う設計事項であるということはできない。なお,本件発明においては,前記1(2),(3)のとおり,平衡重りと中空本体全体の重心は,共に,センサの中空本体の外形の中心の同じ側方にあるものと理解することができる。



したがって,原告の上記主張は採用することができず,相違点Bは,甲16記載の発明に甲18記載の構成ないし周知技術を適用することにより,容易に想到することができたとはいえない。

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ウ相違点Cに係る容易想到性判断の誤りについて



原告は,本件発明において,平衡重りの重量は,中空本体,マイクロスイッチ,平衡重り及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持する手段から成るセンサが,空気によって囲まれている時,該センサの全重量の少なくとも30%である点について,臨界的意義や技術的意義はなく,設計的事項であると主張する。


しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用の限りでない。すなわち,前記本件明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】,【発明の詳細な説明】の段落【0010】,【0011】,【0012】,【0014】,【0016】の記載及び図1,2(別紙図面1,2)によれば,本件発明において,空気に囲まれているとき主として垂直位置をとるレベル・センサが,液体中に浸漬され,水位レベルが上昇し始めると,センサ本体は遂に傾き始め,最後には別紙図面2のとおり水平位置に到達するが,容積と重量の適切な選択により,水位レベルがセンサ本体より上にいかに上昇するかに関係なく,水平位置を取るように構成されているところ,センサ本体内に2つの異なる終端位置の間で重りを通る軸線を中心として回転可能に支持された平衡重り(可動重り)は,レベル・センサが液体中に浸漬されると,センサをその浮力の中心の周りに回転させ,センサを水平位置で平衡させる作用を有するとともに,自身の回転によりスイッチング作用を行うことが記載されている。したがって,本件発明における「平衡重り」のセンサに対する30%以上との重量比は,センサ全体の重心が前記垂直線に対し平衡重りの重心と同じ側方にあることとあいまって,センサ本体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾かせるとともに,センサ本体が傾き始め,水平位置に到達した後,水位レベルがセンサ本体より上昇してもなお,センサ本体が水平位置を取るようにするため,安定性の程度を調節するという意味において,技術的意義を認めることができる。これに対して,甲16記載の発明は,本件発明のように液中に完全に沈んだ状態において自由懸垂状態となるセンサではなく,液中には完全に浸漬せずに液面に浮遊するフロート型のセンサであり,本件発明のように液中に浸漬した状態で安定的な平衡作用を実現する必要がないものであるから,甲16記載の発明から,「平衡重り」のセンサに対する重量比を特定することによって,センサ本体が水平位置を取るようにするため,安定性の程度を調節する必要性は生じない。したがって,甲16記載の発明を基礎として,相違点Cに係る構成に至ることが容易であるとはいえない。


エ相違点Dに係る容易想到性判断の誤りについて原告は,甲18,19には,液中において自由懸垂状態となるタイプのレベル・センサにおいて,センサ全体の重心を偏心させる構成ないしセンサが液体中に浸漬した時に傾く方向を一定化する構成が示唆されていると主張する。


しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本件発明において,平衡重りの重心位置を限定した相違点Dに係る構成は,可動重りとして機能する方向にセンサを傾かせ,これによりスイッチの確実な動作を実現する目的で,採用したものである。これに対して,甲18記載の発明は,中空体の重量と体積が,液体で囲まれたときに鉛直線に対して著しく傾くように調節され,空気に囲まれたときに鉛直に垂れ下がるものの,おもり5が可動する方向に規制がなく,スイッチの確実な動作を実現するための構成として,可動重りの重心をセンサ全体の重心と同じ側方に配する構成が記載ないし示唆されているとは認められない。また,甲19記載の発明においては,可動重りとして機能する作動錘3と,平衡重りとして機能する釣合錘11が別体であり,可動重りの重心をセンサ全体の重心と同じ側方に配するとの構成が記載ないし示唆されているとは認められない。さらに,甲20,22,28記載の発明は,いずれも液体中において水平状態を保つレベル・センサではなく,これをもって,液体中において水平状態を保つレベル・センサにおいて,センサ全体の重心を偏心させる構成が,本件特許出願前から周知のものであったということもできない。


したがって,相違点Dは,甲16記載の発明に甲18,19記載の構成及び周知技術を適用することにより,容易に着想することができたとはいえない。原告の上記主張は採用することができない。


オ以上によれば,本件発明の相違点に係る各構成は,甲16記載の発明を基礎として,これに甲18,19記載の構成及び周知技術を適用することによって,容易に想到し得たとはいえないから,本件発明が容易想到であるとはいえない。



(5) 予備的主張について




ア本件発明と甲18の相違点Gの認定の誤りについて


原告は,甲18記載の発明のおもり5は,平衡重り又は平衡重りとして設計された可動重りに該当するから,本件発明と甲18記載の発明の相違点は,本件発明は「平衡重りとして設計された当該可動重りが該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されている」のに対し,甲18記載の発明は「平衡重りとして設計された当該可動重りであるおもり5が中空本体1内に2つの異なる終端位置の間で移動可能に配置され」るとしている点にすぎないと主張する。

しかし,前記(3)の記載によれば,甲18記載の発明は,液体中において水平状態を保つレベル・センサではなく,おもり5は,本件発明におけるような平衡重りとして設計されているとは認められない。


したがって,原告の上記主張は採用することができず,審決の相違点Gの認定に誤りはない。




イ相違点Gに係る容易想到性判断の誤りについて




原告は,相違点Gに関し,甲18記載の発明の可動重りについて,傾く軌道に即した軸支を行い回動可能に支持することは,設計的事項にすぎないと主張する。


しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。すなわち,前記(3)の記載によれば,甲18記載の発明において,おもり5は,中空体の傾き具合に応じて,プランジャー4を押し込む位置と押し込まない位置という2つの異なる位置をとるほか,傾く方向に制限がないものである。甲18において,軸支して,傾く軌道を限定することについて,何らの示唆等がないから,甲18を基礎として,相違点Gに係る構成を想到することが容易であるとはいえない。また,甲16記載の重錘については,前記(4)イのとおり,「平衡重りとして設計された当該可動重り」及び「該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され」るとの構成を有していない。



そして,甲17記載のセンサは,水中において自由懸垂状態ではなく,その重り5も平衡重りとして設計されておらず,甲19記載の作動錘3も,「平衡重りとして設計された当該可動重り」及び「該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され」るとの構成を有していない。


したがって,原告の上記主張は採用することができず,相違点Gは,甲18記載の発明を基礎として,これに甲16,17,19記載の構成及び周知技術を適用することにより,容易に着想することができたとはいえない。



ウ相違点Hについて前記(4)ウと同様,本件発明において,平衡重りの重量が,センサの全重量の少なくとも30%である点について,技術的意義を認めることができる。そして,甲18記載の発明を基礎として,相違点Cに係る構成に至ることが容易であるとはいえない。

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エ相違点Iについて


原告は,甲18記載の発明において,センサ全体の重心位置が左側に偏心しており,おもり5の重心も左側にあるといえる上,本件発明のようなセンサ全体の重心位置及び可動重り(平衡重り)の重心位置に係る構成については,甲19に開示されており,設計的事項又は周知技術にすぎないと主張する。


しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。すなわち,前記(4)エのとおり,甲18には,スイッチの確実な動作を実現するための構成として,可動重りの重心をセンサ全体の重心と同じ側方に配する構成が記載ないし示唆されているとは認められず,甲19にも可動重りの重心をセンサ全体の重心と同じ側方に配す43るとの構成が記載ないし示唆されているとは認められない。また,本件発明のようなセンサ全体の重心位置及び可動重り(平衡重り)の重心位置が設計的事項又は周知技術にすぎないともいえない。

したがって,原告の上記主張は採用することができず,相違点Iは,甲18記載の発明を基礎として,これに甲19記載の構成及び周知技術を適用することにより,容易に想到することができたとはいえない。


(6) 小括

以上によれば,原告の主位的主張及び予備的主張はいずれも採用することができず,審決の出願日繰下げを前提としない容易想到性の認定・判断に誤りはない。

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3 取消事由3(重量比に関するサポート要件違反の認定・判断の誤り)について




原告は,本件発明において,平衡重りとセンサの全重量の重量比が少なくとも30%であることは,本件発明の課題解決のための技術的意義を有しておらず,その数値限定に臨界的意義がないところ,上記重量比に係る数値限定を構成要素とする特許請求の範囲の記載は,旧特許法36条5項1号(いわゆるサポート要件)に違反すると主張する。


しかし,原告のこの点の主張は,以下のとおり,採用の限りでない。すなわち,前記2(4)ウのとおり,本件明細書の段落【0010】,【0011】,【0012】,【0014】,【0016】によれば,本件発明における「平衡重り」のセンサに対する30%以上との重量比は,センサ全体の重心が前記垂直線に対し平衡重りの重心と同じ側方にあることとあいまって,センサ本体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾かせるとともに,センサ本体が傾き始め,水平位置に到達した後,水位レベルがセンサ本体より上昇してもなお,センサ本体が水平位置を取るようにするため,安定性の程度を調節するという意味において,技術的意義があると理解することができるから,特許請求の範囲(請求項1)において,平衡重りのセンサ全体に対する重量比について,30%以上との限定を付した点に,旧特許法36条5項1号の規定の違反があると解することはできない。


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4 取消事由4(その他の記載要件違反に係る審決の認定・判断の誤り)について



原告は,本件特許に係る特許請求の範囲の記載について,「センサの中空本体の外形の中心」,「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」,「前記平衡重り(9)は,前記センサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方に重心(10)があり」,「前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり」と記載されているが,これらの記載は,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及び同条4項に違反すると主張する。


しかし,原告の上記主張は,次のとおり,採用することができない。すなわち,


(1) 本件明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】,【発明の詳細な説明】の段落【0010】ないし【0016】の記載及び図1,2(別紙図面1,2)によれば,本件発明においては,レベル・センサを構成する中空本体は,空気中では,別紙図面1のように電気ケーブルに吊られて垂れ下がっている状態となるが,液体中に浸漬され,水位レベルが上昇し始めると,センサ本体は傾き始め,最後には別紙図面2のとおり水平位置に到達し,容積と重量の適切な選択により,水位レベルがセンサ本体より上にいかに上昇するかに関係なく,水平位置をとるように構成されていること,センサ本体内に2つの異なる終端位置の間で重りを通る軸線を中心として回転可能に支持された平衡重り(可動重り)は,レベル・センサが液体中に浸漬されて,センサ本体が水平位置をとると,これを水平位置で平衡させる作用を有するとともに,自身の回転によりスイッチング作用を行うこと,平衡重りの最小値は全重量の30%であり,より適当な値は50から80%であること,センサの全重量/容積比は管理すべき液体の密度と関連して,液体に囲まれている時にレベル・センサが主水平位置を取るように選択されることが認められる。これによれば,本件発明においては,レベル・センサを機能させるため,センサ本体を水位レベル45の上昇にともなって速やかに一定方向に傾かせるための重量配置がなされていること,すなわち,平衡重りと中空本体全体の重心は,共に,センサの中空本体の外形の中心の同じ側方にあるものと理解することができる。

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また,本件明細書には,特許請求の範囲(請求項1)の「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」について,明確な説明はされていないものの,平衡重り及び中空本体全体の重心の基準となる線であり,本件明細書の図1(別紙図面1)の一点鎖線のうちセンサの中空本体の外形部分にかかる線分が鉛直方向を向いた状態のもの(ただし,重心位置が偏ったレベル・センサを空気に囲まれた状態で吊り下げた場合,センサの中空本体が厳密には直立しないことは明らかであるから,センサの中空本体の外形部分にかかる線分は,厳密な意味での鉛直線ではない。)であると理解することができる。

(2) これに対し,原告は,本件明細書の記載のみでは,「センサの中空本体の外形の中心」の意義が明らかでないと主張する。しかし,前記(1)のとおり,本件明細書の記載に照らすと,「センサの中空本体の外形の中心」とは,平衡重り及び中空本体全体の重心の基準となる線であるものと理解することができる。


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また,原告は,審決が,本件明細書の図1(別紙図面1)の一点鎖線のうち「センサの中空本体の外形部分にかかる線分」の部分だけに言及して,それが「鉛直方向を向いた状態」とするなどの解釈をしている上,被告の主張とも齟齬していると主張する。この点,本件明細書の図1(別紙図面1)の一点鎖線は,電気ケーブル2や水密入口3からセンサの中空本体の外形の中心にかけて一直線に伸びているように見えるものの,前記1(3)と同様に,本件明細書の記載及び本件発明の要旨に照らすと,空気に囲まれている時,中空本体は,ほぼ垂直な位置となっているが,完全に直立しているとまでは認められないから,被告の主張と齟齬しているか否かはさておき,審決の認定・判断に誤りはない。

さらに,原告は,立体において,「線」の「側方」,「線」に対して「同じ側方」がいかなる意義を有するか明らかでなく,これらの要件が権利範囲の外延をいかに画するのかも不明であると主張する。しかし,前記(1)のとおり,本件発明においては,レベル・センサを機能させるため,センサ本体を水位レベルの上昇にともなって速やかに一定方向に傾かせるための重量配置がなされており,平衡重りと中空本体全体の重心は,共に,センサの中空本体の外形の中心の同じ側方にあるものと理解することができ,「同じ側方」とは,センサが,その重心を下にして傾く状態において,平衡重りが回動してマイクロスイッチを作動できる範囲となるように,平衡重りの重心も,センサの重心とほぼ同じ側になっている状態を表現しているものと理解することができる。

したがって,上記原告の主張は採用することができない。

(3) 以上によれば,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及び同条4項に違反しない。

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5 結論



以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がなく,他に本件審決にはこれを取り消すべき違法は認められない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも,理由がない。


よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官飯 村 敏 明裁判官中 平 健47裁判官知 野 明

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(別紙)図面1 〔当初明細書及び本件明細書の図1〕
図面2〔当初明細書及び本件明細書の図2〕
図面3〔当初明細書及び本件明細書の図3〕
49
図面4〔甲16の第1図〕
図面5〔甲18の図〕
図面6,7〔甲19の第1図,第2図〕

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Last Update: 2011-01-31 23:45:21 JST

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……………………………………………………判決末尾top
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2011年1月13日木曜日

特許:発明要旨認定,容易想到性,記載要件充足性判断: (知財高裁平成23年1月13日判決(平成22年(行ケ)第10063号審決取消請求事件))

** 特許:発明要旨認定,容易想到性,記載要件充足性判断:
(知財高裁平成23年1月13日判決(平成22年(行ケ)第10063号審決取消請求事件))


知的財産高等裁判所第2部「塩月秀平コート」


*** 縮小版「事実認定」

**** 「事実認定」
………………………………………………………………………………

しかしながら,審決引用文献の2頁5欄1ないし12行では,鋼材の炭素含有
率が高いとほうろう被膜の欠陥である「つま飛び」や発泡が生じる等の不都合
があることを指摘した上で,この不都合を回避するために例えば
「0.003%程度の炭素含有率の低い低炭素鋼」をフインの材料として用い
ることが記載されていることにかんがみると,審決引用文献が「ほうろう用極
低炭素鋼」や「0.003%程度の炭素含有率の低い低炭素鋼」をフインの材
料として用いるべき炭素鋼の例として挙げているとしても,炭素含有率が
0.003%よりも相当高い炭素鋼がフインの材料として用いられることが想
定されているとはいい難い。

そうすると,審決引用文献においては,フインの材料として,通常の炭素鋼に
比して炭素含有率が低い炭素鋼をすべて含むとの構成が開示されているもので
はなく,原告の上記主張を採用することはできない。なお,審決引用発明にい
うフインの材料に炭素含有率が0.003%よりも若干高い炭素鋼が含まれ得
るとしても,審決引用文献の記載に照らしたときにこれが許容される限度が明
らかでないから,一定値の炭素含有率をもって審決引用発明の要旨を認定した
審決の認定に誤りがあるものではない。

………………………………………………………………………………
(知財高裁平成23年1月13日判決(平成22年(行ケ)第10063号審決取消請求事件))

………………………………………………………………………………

**** 容易想到性「事実認定」

「確かに,原告が上記技術常識等の裏付けとして提出する甲第4号証中には,
母材に丸棒等を溶接するスタッド溶接においては,母材が急熱,急冷されるた
めに溶着部や熱影響部が硬化することがあるが,鋼の炭素含有率を0.2%以
下にすれば亀裂が生じない旨,スタッドの材料に低炭素鋼を用いるのが好まし
い旨がそれぞれ記載されているものの,スタッドの材料の低炭素鋼の炭素含有
率がさらに小さければ小さいほど溶接接合部(溶着部)等の亀裂(溶接割れ)
が生じにくくなる旨まで開示ないし示唆されているとは必ずしもいえない。」
(知財高裁平成23年1月13日判決(平成22年(行ケ)第10063号審
決取消請求事件))
のように,容易想到性は,「開示ないし示唆」されているかどうかで判断されるべきである。

**** 記載要件充足性の判断「事実認定」

………………………………………………………………………………

これらの記載からみて,発明の詳細な説明に,ピンを約0.05未満の炭素含
有量を有する炭素鋼とする点,その実施例として,ピンを約0.03%の炭素
含有量を有する特種鋼材とする点が記載されていることは明らかであっ
て,『0.03~0. 05%』の数値範囲も発明の詳細な説明に記載されてい
るといえることから,いわゆるサポート要件に違反するとはいえない。」

………………………………………………………………………………

なお,訂正明細書には前記のとおり,ピンの材料である炭素鋼の炭素含有率の
数値範囲の技術的意義ないし臨界的意義が示されているところ,これは本件発
明が属する技術分野における通常の知識を有する者,すなわち当業者が容易に
その実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載さ
れているといえる。したがって,本件発明は前記改正前の特許法36条4項に
も反しない。

………………………………………………………………………………
(知財高裁平成23年1月13日判決(平成22年(行ケ)第10063号審
決取消請求事件))


*** H230116現在のコメント

面白い判示の仕方です。塩月コートの特色といえるでしょうが,オーソドックスな理論を前提に,事実認定で推し進めるスタイルです。
特徴的な判示を挙げてみましたが,なかなか準備書面等には使いにくいスタイルともいえます。

*** 判決原文(引用)
第5 当裁判所の判断

**** 1 取消事由1(審決引用発明の要旨の認定の誤り)について

(1) 審決は審決引用発明の要旨につき前記のとおり認定し,原告はこのうち表面
積を拡大し,熱交換の効率を改善するためのフインを構成する鋼の組成,ことに炭
素含有率に係る部分の認定の点に誤りがある旨を主張するところ,熱交換器に用い
られるフインチューブの発明に係る審決引用文献中には,フインの炭素含有率につ
き次のとおりの記載がある(甲29)。

・「本発明によるフインチユーブの特徴は,・・・チユーブ(11)およびフイン
(12)の外表面にほうろう被膜(13)が施されていることであり,チユーブ(1
1)およびフイン(12)の材料としては安価な炭素鋼を用いることができる。さ
らに好ましくは,チユーブ(11)の材質は通常の炭素鋼であつても良いが,フイ
ン(12)の材料としては炭素含有率の低い低炭素鋼,例えばほうろう用極低炭素
鋼が用いられる。」(2頁4欄7~15行)

・「両面にほうろう被膜を施す場合には炭素鋼の炭素含有率が高いと,ほうろう被
膜に所謂『つま飛び』現像ママなる欠陥や,焼成中に発泡が生じ,ほうろう被膜の性能
を損うのみでなく,被膜の生成さえも難しくなる。母材たる炭素鋼の両面にほうろ
う被膜を施すには例えば0.003%程度の炭素含有率の低い低炭素鋼を用いると
両面に良好なほうろう被膜が形成される。・・・フインにはその両面にほうろう被膜
が施されるので,前記のように低炭素鋼が用いられるのが好ましい。」(2頁5欄1
~12行)

(2) 上記(1)のとおり,審決引用文献中にはフインの材料として炭素含有率が0.
003%である低炭素鋼を用いることが開示されているから,審決による審決引用
発明の要旨の認定に誤りがあるとはいえない。

(3) この点,原告は,審決引用発明においてフインの材料として開示されている
ものには通常の炭素鋼に比して炭素含有率が低い炭素鋼がすべて含まれる等と主張
する。

確かに,審決引用文献の2頁4欄7ないし15行,5欄1ないし12行の記載
においては,「ほうろう用極低炭素鋼」や「0.003%程度の炭素含有率の
低い低炭素鋼」は,フインの材料として用いるべき通常の炭素鋼に比して炭素
含有率が低い炭素鋼の例として挙げられている。

しかしながら,審決引用文献の2頁5欄1ないし12行では,鋼材の炭素含有
率が高いとほうろう被膜の欠陥である「つま飛び」や発泡が生じる等の不都合
があることを指摘した上で,この不都合を回避するために例えば
「0.003%程度の炭素含有率の低い低炭素鋼」をフインの材料として用い
ることが記載されていることにかんがみると,審決引用文献が「ほうろう用極
低炭素鋼」や「0.003%程度の炭素含有率の低い低炭素鋼」をフインの材
料として用いるべき炭素鋼の例として挙げているとしても,炭素含有率が
0.003%よりも相当高い炭素鋼がフインの材料として用いられることが想
定されているとはいい難い。

そうすると,審決引用文献においては,フインの材料として,通常の炭素鋼に
比して炭素含有率が低い炭素鋼をすべて含むとの構成が開示されているもので
はなく,原告の上記主張を採用することはできない。なお,審決引用発明にい
うフインの材料に炭素含有率が0.003%よりも若干高い炭素鋼が含まれ得
るとしても,審決引用文献の記載に照らしたときにこれが許容される限度が明
らかでないから,一定値の炭素含有率をもって審決引用発明の要旨を認定した
審決の認定に誤りがあるものではない。

(4) 結局,原告が主張する取消事由1は理由がない。

**** 2 取消事由2(審決引用発明と本件発明との相違点の認定の誤り)について

前記1のとおり,審決の審決引用発明の要旨認定に誤りがあるとはいえないから,
これを前提とした相違点3の認定に誤りがあるとはいえない。

したがって,原告が主張する取消事由2は理由がない。

**** 3 取消事由3(審決引用発明に基づく本件発明の容易想到性の判断の誤り)について

(1) 審決引用発明に基づく本件発明の容易想到性に関し,審決は,本件発明の優
先日において,相違点1及び2は,当業者において周知技術を適用することにより
容易に想到し得るが,相違点3は容易に想到し得ないと判断した。原告は相違点3
に係る部分を争うので,以下相違点3に関して判断する。

この点,原告は,本件発明の優先日当時,当業者においては,「母材の成分がいず
れであっても溶着金属部または熱影響部がある程度硬化するが,低炭素鋼は高炭素
鋼に比して溶接部または熱影響部の硬度が低く,亀裂発生を防止する観点から好ま
しい」ことが認識されており,また溶接割れの要因がマルテンサイト生成による硬
化及び拘束応力であること,炭素含有率が小さい低炭素鋼でも溶接割れが生じるこ
と,上記要因を緩和し,溶接割れを防止するためには炭素含有率が小さければ小さ
いほどよいこと,クリープ強度をも考慮し,溶接割れを防止するためには,一般的
な低炭素鋼の炭素含有率を下回る0.03ないし0.15%の炭素含有率にする必
要があることはいずれも当業者の技術常識であったところ,審決は本件発明の優先
日当時の技術水準,技術常識の理解を誤った結果,本件発明の容易想到性の判断を
誤ったものであるなどと主張する。

確かに,原告が上記技術常識等の裏付けとして提出する甲第4号証中には,母材
に丸棒等を溶接するスタッド溶接においては,母材が急熱,急冷されるために溶着
部や熱影響部が硬化することがあるが,鋼の炭素含有率を0.2%以下にすれば亀
裂が生じない旨,スタッドの材料に低炭素鋼を用いるのが好ましい旨がそれぞれ記
載されているものの,スタッドの材料の低炭素鋼の炭素含有率がさらに小さければ
小さいほど溶接接合部(溶着部)等の亀裂(溶接割れ)が生じにくくなる旨まで開
示ないし示唆されているとは必ずしもいえない。

また,原告が同様の趣旨で提出する甲第10号証中にも,ボイラに冷間加工性や
溶接性が良好で,繰り返し加熱冷却を受けた場合にも集中応力の発生が少ない炭素
含有率0.2%以下の低炭素鋼を使用する旨(B4-32頁。なお,表21では,
炭素含有率0.16%の低炭素鋼の構成が開示されている。)や,溶接金属割れの多
くは金属の凝固時に発生する高温割れであるが,母材の溶接熱影響部割れのうち低
温割れは溶接時に侵入した水素,拘束応力,溶接熱影響部(Heat Affect
ed Zone)の硬化組織が主たる原因である旨(B4-23頁)が記載されてい
るものの,母材に低炭素鋼を採用し,さらにその炭素含有率が小さければ小さいほ
ど集中応力の発生等の不都合が生じにくくなる旨まで開示ないし示唆されていると
は必ずしもいえない。

そして,甲第4号証のスタッドや甲第10号証のボイラ用鋼の炭素含有率の上限
が0.2%であって,本件発明のピンの炭素含有率の上限0.05%の4倍,下限
0.03%の約7倍にもそれぞれ当たる点にかんがみれば,溶接接合部等の溶接割
れを防止する観点から,スタッド等の材料の炭素含有率を0.03ないし0.15%
の範囲とすることや0.03ないし0.05%の範囲とすることが示唆されている
ともいえない。

原告が同様の趣旨で提出する甲第11号証中にも,炭素鋼の溶接性は炭素含有量
によって決定され,低炭素鋼は溶接性が良好である旨,溶接部近くの母材は溶接時
の急熱,急冷作用によって溶接熱影響部を生成し,溶接金属直下部分は結晶粒が粗
大化したマルテンサイト組織になって最も硬化し,溶接割れが発生しやすくなる旨,
溶接に伴う母材の熱影響部の変態終了後に発生する低温割れは,マルテンサイトの
生成に伴う熱影響部の硬化,拘束応力及び水素が原因となっており,母材の炭素含
有率の増大は,前2者の要因を増大させ,低温割れを助長する旨,母材に低炭素鋼
を用いる場合でも,拘束が大きく溶接割れの発生の危険性がある場合には,溶接割
れの防止のために母材を予熱する必要がある旨が記載されているものの(852,
854,858頁。なお,図2・12からは,炭素含有率が0%に近い範囲ではグ
ラフの曲線が切れており,完全マルテンサイト地質の硬さとの関係についてみても,
炭素含有率0.05%程度の範囲では,上記の硬さと炭素含有率との間の相関関係
を判読することができない。),低炭素鋼のうちでも鋼の炭素含有率が小さければ小
さいほど,例えば鋼の炭素含有率を0.03ないし0.05%としたときに溶接割
れの発生等の不都合が生じにくくなる旨まで開示ないし示唆されているとは必ずし
もいえない。

また,原告が同様の趣旨で提出する特開平5-320753号公報(甲26)は,
本件発明の優先日より11日前に公開された(公開日は平成5年12月3日。なお
出願日は平成4年5月21日。)ものであるところ,発電用ボイラなどの鉄皮の材料
として使用される高温強度に優れ,溶接性が劣らない炭素鋼として,炭素含有率を
0.03ないし0.15%とする構成が開示されており(特許請求の範囲),また溶
接割れを生じないためには0.15%以下の炭素含有率とすることが必要であり,
一定の強さの力を継続してかけて破断したときの強度であるクリープ強度を大きく
するためには炭素含有率が上記数値範囲内にあることが必要であるので,溶接割れ
を防止し,クリープ強度の向上を図るために炭素含有率の数値範囲を上記のとおり
に設定した旨の記載(段落【0005】)がある。

しかしながら,これらの記載は発明特定事項に係るものであって,発明者が従
来技術にない新規性を有する事項として記載した事項であるから,上記公報の
公開日と本件発明の優先日との近接性にもかんがみれば,本件発明の優先日当
時に,溶接割れ防止とクリープ強度の向上を両立する見地から,炭素含有率を
0.03ないし0.15%とする炭素鋼をボイラの材料とすることが当業者の
技術常識であったとまでは到底いうことができない。結局,本件全証拠に照ら
しても,審決引用発明等に組み合わせるべき本件発明の優先日当時の当業者の
技術常識として,熱交換チューブの表面拡大要素(表面積拡大要素)の材料
に,炭素含有率を0.03ないし0.15%とする低炭素鋼や炭素含有率を
0.03ないし0.05%とする低炭素鋼を採用する構成が存在したとは認め
ることができない。

審決も上記結論を前提にして,審決引用発明との対比における本件発明の容易想
到性の判断を行ったものと解されるから,審決が本件発明の優先日当時の技術水準,
技術常識の理解を誤ったとはいえないというべきである。


(2)アところで,審決引用文献の発明の詳細な説明中には,従来技術による課題
と審決引用発明による解決手段に関し,次のとおりの記載(1頁2欄3行~2頁3
欄15行)がある。

「ボイラーの燃焼排ガスなどのように硫黄分の多い排ガスから熱回収する多管式
熱交換器の場合,酸露点腐食,すなわち排ガス中に含まれる硫黄酸化物がフインチ
ユーブに接触し,酸露点温度以下になるとフインチユーブの表面に硫酸となつて付
着し,その硫酸がフインチユーブを腐食する現象が生じ,そのため多管式熱交換器
の耐用年数を著しく短縮する問題があつた。

このような酸露点腐食の問題に対処するため従来はフインチユーブにチタン等の
高級材料を使用して熱交換器の寿命を延長するような努力がなされてきたが,これ
らの材料は高価でしかも加工性が悪く,その上熱交換性能が悪いためこの種の用途
に用いられる熱交換器としては好適なものとは言えなかつた。また,酸露点腐食の
防止のため安価な材料,例えば炭素鋼からなるフインチユーブの表面に耐食性およ
び耐熱性のある塗料をコーテイングすることも行われてきたが,冷却と加熱の繰り
返しによつて被膜の剥離が生じ,コーテイングの不完全な部分が酸露点腐食によつ
て著しく浸食され,熱交換器の品質安定化が計れず,充分な耐用年数が得られない
等の欠点があつた。

それ故,本発明の目的は比較的安価に製作し得ると共に耐熱性にすぐれ,酸露点
腐食に対し充分に耐え得るフインチユーブを提供することである。

本発明によるフインチユーブの特徴は酸露点腐食に耐え得るようにするため金属
製のチユーブ及びフインの外表面にほうろう被膜が施されていることであつ
て,・・・」

イそうすると,審決引用発明において解決すべき課題は,硫黄分の多い排ガス
から熱を回収する多管式熱交換器に使用される,外側に表面拡大要素たるフインを
設けた熱交換チューブにおいて,排ガス中の硫黄酸化物が冷却され,酸露点以下に
なった結果,生じた硫酸が熱交換器に付着してこれを腐食する事態を防止し得る耐
久性を有するとともに,安価で熱交換性能に優れた熱交換チューブを提供する点に
あるものであり,上記課題を解決するための手段として,熱交換チューブ及びフイ
ンの双方の外表面にほうろう被膜を施す等の構成(特許請求の範囲,1頁1欄5~
14行)が採用されたものである。

そして,2頁5欄1ないし12行の記載も合わせ考慮すると,審決引用発明が炭
素含有率の小さい炭素鋼を熱交換チューブ外側(外周)に設けられたフインの材料
に選択した趣旨は,熱交換性能(熱伝導率)を損なわないことを前提に,ほうろう
被膜の欠陥等の発生を防止し,上記の耐久性を発揮することができるようにする点
にあるということができる。

ウ他方,訂正明細書(甲22)の発明の詳細な説明には,従来技術による課題
と本件発明による解決手段に関し,次のとおりの記載がある。

・「従来は,ピンとチューブ本体間の溶接接合部或いはピンの隣接部分において亀
裂形成の傾向を免れなかった。この傾向は,通常,ピンがチューブ本体に溶接され
た後で冷間屈曲加工される場合に殊に著しい。しかしながら,この傾向は別のピン
と関連しても発生される。・・・このため,最初は極めて小さくても,この小さな最
初の亀裂が熱交換チューブの構成の間に次第に大きな亀裂に成長してピンを脆弱化
し,ついにはこのピンが,例えば熱交換チューブが装着されている排気ガスチュー
ブの煤除去に際して実質的な機械荷重にさらされると,チューブ本体から破断され
るに至っていた。(段落【0003】)

・「そこで,本発明の目的は,前記種類の亀裂形成のリスクを全て実質的に減少す
ることができる前記形式の改良された熱交換チューブを提供することにある。」(段
落【0004】)

・「本発明によれば,前記目的のために,ピンが,チューブ本体を構成する材料よ
りは実質的に低い炭素含有量を有する材料から構成されていることを主要特徴とす
る,前記形式の熱交換チューブが提供される。」(段落【0005】)

エそうすると,本件発明において解決すべき課題は,ボイラ等に用いられる,
外表面に表面拡大要素たるピンを設けた熱交換チューブにおいて(段落【0002】),
ピンとチューブとの間の溶接接合部やピンの溶接接合部に隣接する部分等に亀裂が
生じる結果(溶接割れ),ピンがチューブから破断,脱落する事態を防止するという
点にあるものであり,上記課題を解決するための手段として,ピンの材料である炭
素鋼の炭素含有率を,チューブ本体の材料である炭素鋼の炭素含有率よりも小さく
する等の構成が採用されたものである。

したがって,本件発明と審決引用発明とは,当該発明によって解決すべき技術的
課題が,前者では溶接接合部等の亀裂防止にあり,後者では酸腐食に対する耐久性
の向上等にあって,両者は耐久性の向上というごく抽象的な観点で共通するにすぎ
ず,技術的には相違するものというべきである。

また,審決引用発明では表面拡大要素にほうろう被膜を施すことが大きな要点と
なっているが,本件発明では表面拡大要素にほうろう被膜を施すことは予定されて
いない。

そして,審決引用発明においてフィンの材料に炭素含有率が小さい炭素鋼が採用
された趣旨も,前記のとおり熱交換性能を損なわないことを前提に,ほうろう被膜
の欠陥等の発生を防止し,熱交換チューブの耐久性を発揮することができるように
する点にあるものであって,本件発明でピンの材料の炭素鋼の炭素含有率がチュー
ブ本体の材料の炭素鋼の炭素含有率よりも小さくされた趣旨である溶接接合部等の
亀裂防止の点は,審決引用文献においては開示も示唆もされていない。

なお,訂正明細書の段落【0006】では,熱交換チューブの溶接接合部等の亀
裂発生の原因が,炭素鋼から成るピンをチューブ本体に溶接する際に不可避的に生
じる,ピンの溶接接合部分の加熱及び冷却によって,当該部分を意図せずに硬化し
てしまう点にあるとされているから,本件発明と審決引用発明とでは,熱交換チュ
ーブの耐久性の低下をもたらす原因として着目されている事由(審決引用発明では
酸腐食)が異なるし,上記のとおり表面拡大要素の材料に炭素含有率が小さい炭素
鋼を採用した趣旨も,本件発明(溶接割れの防止)と審決引用発明(ほうろう被膜
の欠陥等の発生)とで異なるものである。

そして,相違点3のとおり,本件発明のピンの炭素含有率は審決引用発明のフイ
ンの炭素含有率の10倍程度にもなるのであって,審決が説示するとおり,両者の
炭素鋼(低炭素鋼)としての性格は本質的に異なるとも評し得るものである。

そうすると,本件発明と審決引用発明とでは,解決すべき技術的課題も異なる
し,表面拡大要素の材料に炭素含有率が小さい炭素鋼を採用した趣旨も両者で
異なるから,本件発明の優先日当時,当業者にとって,ピンの材料に炭素含有
率0.03ないし0.05%の低炭素鋼を採用することが通常の創作能力の発
揮にすぎないということはできず,また当業者において審決引用発明に基づき
相違点3に係る構成に容易に想到できたということもできない。

なお,原告は,本件発明の特許請求の範囲にいう「0.03乃至0.05%」の
炭素含有率の数値範囲は臨界的意義を有しない等として,本件発明には進歩性がな
い旨を主張するが,その主張内容は上記数値範囲を採用することは当業者の通常の
創作能力の範囲にすぎないというに帰し,上記に判断したところからして理由がな
い。

(3) 以上のとおり,本件発明の優先日当時,当業者において,審決引用発明に周
知技術ないし技術常識を組み合わせることにより,相違点3に係る構成に容易に想
到できたとはいえないところ,審決はこの旨の判断をするものであって,審決の判
断に誤りがあるとはいえない。

したがって,原告が主張する取消事由3は理由がない。

**** 4 取消事由4(甲第1号証発明に基づく本件発明の容易想到性の判断の誤り,無効理由2”に対する判断の誤り)について

(1) 甲第1号証発明に基づく本件発明の容易想到性に関し,審決は,本件発明の
優先日において,相違点4は実質的な相違点とはいえないが,相違点5は当業者に
おいて容易に想到し得ないと判断した。原告は相違点5に係る部分を争うところ,
審決は相違点5に係る容易想到性に関して,次のとおり説示する(26,27頁)。

「甲第4-5,10-11号証の記載事項からみて,『低炭素鋼は,溶接性に優れ
ている』点,及び,『熱伝導度は炭素量の増加に伴って減少する』点は,炭素鋼の炭
素含有量により決定される一般的な性質として,溶接技術,機械材料技術の周知技
術であるといえる。

また,甲第4-5号証(甲第10-11号証)は,炭素鋼の一般的な性質として,
中炭素鋼または高炭素鋼との比較において,低炭素鋼の有利な点が記載されたもの
であって,言い換えれば,『溶接性に優れ,熱伝導度をよくする』ためには,低炭素
鋼であれば足りるとこと
ママ
を示しているといえる。

しかしながら,一般に,低炭素鋼と種別される炭素鋼の炭素含有量は,0.08
~0.30%(『溶接・接合便覧』,社団法人溶接学会,1990年9月30日,8
49ページ表2・2参照)であるのに対し,本件発明は,約0.1%の(低)炭素
鋼を用いたとしても発生する亀裂形成のリスクを減少させるとともに,熱効率を改
善するために,表面拡大要素であるピンを『0.03乃至0.05%の炭素含有量
を有する材料』から構成するものである。

さらに,甲第4-5号証(甲第10-11号証)には,炭素鋼を熱交換チューブ
の表面拡大要素とする場合の炭素含有量についての記載はなく,熱交換チューブの
表面拡大要素における炭素鋼の炭素含有量について,好適な数値範囲を示唆するも
のでもない。

そして,A36炭素鋼について,甲第13号証(参考資料)に炭素含有量が『最
大0.25~0.29%』の炭素鋼が示されているとしても,甲第1号証には,A
36炭素鋼の炭素含有量についての具体的な記載も示唆もなく,さらに,ピンの亀
裂形成のリスクを減少させ,熱効率を改善させるといった課題を解決するために,
A36炭素鋼の炭素含有量を限定することの記載も示唆もされていない。」

(2) 甲第11号証によれば,炭素鋼,とりわけ炭素含有率が0.4%以下の炭素
鋼においては,鋼の熱伝導率が炭素含有率が大きくなるに従って急速に減少するこ
とが認められるが(852頁,図2・6。なお,甲第5号証にも同趣旨の記載があ
る。),これは審決が説示するように,本件発明の優先日当時における当業者の技術
常識ないし周知技術であるということができる。

また,甲第4,10,11号証中には,低炭素鋼は溶接性が良好である旨の記載
があり,これも審決が説示するように,本件発明の優先日当時における当業者の技
術常識ないし周知技術であるということができる。

しかしながら,前記3のとおり,甲第4,10,11号証のいずれにおいても,
表面拡大要素あるいは溶接母材一般の炭素含有率が例えば0.2%よりさらに小さ
ければ小さいほど溶接接合部(溶着部)等の亀裂(溶接割れ)が生じにくくなる旨
まで開示ないし示唆されているとは必ずしもいえないし,溶接接合部等の溶接割れ
を防止する観点から,表面拡大要素あるいは溶接母材一般の炭素含有率を0.03
ないし0.15%の範囲とすることや0.03ないし0.05%の範囲とすること
が示唆されているともいえない。

また,前記3のとおり,特開平5-320753号公報(甲26)も,本件発明
の優先日当時に,溶接割れ防止とクリープ強度の向上を両立する見地から,炭素含
有率を0.03ないし0.15%とする炭素鋼をボイラの材料とすることが当業者
の技術常識であったことまで示すものではない。

そして,これらのほかに,本件発明の優先日当時に,溶接接合部等の溶接割れを
防止する観点から,表面拡大要素の炭素含有率を0.03ないし0.15%の範囲
とすることや0.03ないし0.05%の範囲とすることが,既に当業者の技術常
識ないし周知技術であったことを裏付けるに足りる証拠は存しない。

(3) 他方,甲第6号証中には,熱交換チューブの表面拡大要素の材料に低炭素鋼
を使用することが記載されているのみで,それ以上に,上記材料の炭素含有率の具
体的数値を限定する構成は開示も示唆もされていない。

また,甲第7号証中にも,熱交換チューブの表面拡大要素たるスタッド状のフィ
ンのうちチューブ本体近傍部の材料に低炭素鋼を採用することが記載されているの
みで,それ以上に,上記材料の炭素含有率の具体的数値を限定する構成は開示も示
唆もされていない。

したがって,甲第6,7号証においては,表面拡大要素の材料の炭素含有率をさ
らに小さくし,例えば0.03ないし0.05%の炭素含有率の炭素鋼のものとす
ることは,開示も示唆もされていないというべきである。

また,甲第2,3号証は鋼材の規格を示したものにすぎないし,甲第4,5号証
も,単に低炭素鋼が溶接性が良好である旨を開示するのみで,表面拡大要素の材料
の炭素含有率を0.03ないし0.05%とすることは,開示も示唆もされていな
いというべきである(甲第10,11号証も同様)。

また,甲第8号証中には,炭素含有率が0.08%以下の鋼線材が記載されてい
るところ(表2,SWRCH6R,SWRCH6A),審決が説示するとおり,上記
鋼線材を熱交換チューブの表面拡大要素であるピンの材料として使用する構成を開
示ないし示唆する証拠は存せず,仮に上記鋼線材を甲第1号証発明のスタッドの材
料として使用するとしても,前記のとおり,さらに炭素含有率を小さくして,例え
ば0.03ないし0.05%の範囲とすることが,本件発明の優先日当時の当業者
の技術常識ないし周知技術であったかは疑問である。

(4) そして,前記3のとおり,審決が本件発明の優先日当時の技術水準,技術常
識の理解を誤ったとはいうことができないし,前記3と同様に,本件発明の特許請
求の範囲にいう「0.03乃至0.05%」の炭素含有率の数値範囲の限定は,本
件発明と甲第1号証発明等との技術的課題の相違や作用効果の異質性等にかんがみ
れば,本件発明の進歩性の結論に影響を及ぼすものではないものである。

(5) ところで,甲第1号証によれば,従来の流動床燃焼ボイラーに使用される熱
交換管(熱交換チューブ)では,流動床粒子による腐食に対する耐久性が不十分で
あったので,この耐久性を向上させることが,甲第1号証発明において解決すべき
技術的課題であることが認められる(2頁右下欄下から1行~4頁左下欄下から3
行)。

また,甲第1号証発明が上記課題を解決するために採用した手段は,熱交換管の
内表面積を変えずに,外表面にフィンを設けて,外表面積を大きくし,熱交換管の
流動床粒子からの保護面積を大きくすることであった(4頁左下欄下から1行~5
頁左上欄上から3行)。なお,甲第1号証の「発明の好適な実施態様の説明」欄では,
熱交換管本体及びフィンに炭素鋼を用いるが,フィンの材料には,熱交換管本体に
用いる材料(SA178炭素鋼管,炭素含有率は最も小さいもので0.06~0.
18%)よりも炭素含有率が小さいA36炭素鋼(炭素含有率は板材で0.25~
0.29%,棒材で0.26~0.29%)を用いる旨が記載されている(5頁右
下欄上から4行~7行等,甲1ないし3)。

そうすると,本件発明と甲第1号証発明とは,当該発明によって解決すべき技術
的課題が,前者では溶接接合部等の亀裂防止にあり,後者では流動床粒子による腐
食の防止にあって,両者は耐久性の向上というごく抽象的な観点で共通するにすぎ
ず,技術的には相違するというべきである。のみならず,熱交換チューブ(熱交換
管)の損傷をもたらす原因の点でも,両者は大きく異なるものである。

したがって,本件発明の優先日当時,当業者にとって,熱交換チューブの表面拡
大要素の材料として,炭素含有率が0.25%強であるA36炭素鋼に代えて,炭
素含有率が0.03ないし0.05%の低炭素鋼を採用することが通常の創作能力
の発揮にすぎないということはできず,また当業者において甲第1号証発明に基づ
き相違点5に係る構成に容易に想到できたということもできない。

(6) 結局,甲第11号証中の記載等を勘案しても,本件発明の優先日当時,甲第
1号証発明自体に基づくことはもちろん,甲第1号証発明に周知技術(技術常識)
を適用することや,甲第1号証発明に甲第6号証発明及び周知技術を適用すること
や,甲第1号証発明に甲第7号証発明及び周知技術を適用することや,あるいはさ
らに甲第8号証に記載された事項等を勘案することによって,当業者において相違
点5に係る構成に容易に想到できたとはいうことができず,この旨判断する審決の
判断に誤りがあるとはいえない。

したがって,原告が主張する取消事由4は理由がない。

**** 5 取消事由5(記載要件の充足判断の誤り,無効理由3’に関する判断の誤り)について

(1) 本件発明におけるピンの炭素含有率を「0.03乃至0.05%」とするこ
との技術的意義ないし臨界的意義が訂正明細書に記載されているか否かにつき,審
決は次のとおり判断する(23,24頁)。

「『ピン(18)は0.03~0.05%の炭素含有量を有する材料から構成され
ている』について,その範囲を特定する数値限定の臨界的意義について訂正明細書
に何ら開示されていないとはいえず,発明が不明瞭であるとはいえない。

また,訂正明細書には,次の記載事項がある。

ア.『極めて低い炭素含有量を有する鋼材をピンに使用することは,亀裂形成の前
記リスクを減少するばかりでなく,更に別の好結果をももたらすことが判明した。
すなわち,更に詳細には,低減された炭素含有量はピンの熱電
ママ
導率を増大し,これ
によりピンの熱効率が改善され,ひいては熱交換チューブの全体的熱効率が全般的
に増大される。円筒ボイラに実際に適用した実施例に係わる熱交換チューブの熱伝
達係数の計算によれば,0.11%の炭素含有量を有する一般工業用ベースの炭素
鋼からなるピンに代えて,僅かに約0.03%だけの炭素含有量を有する特種鋼材
からなるピンを使用することにより,前記係数を約4%増大できることが判明し
た。』(段落【0009】)

イ.『ピン18を構成する材料は,好適には約0.05%未満の炭素含有量を有し
なければならない。しかしながら,若しピンが,図2におけるピン18’に関して説
明したようにチューブ本体に溶接された後で冷間屈曲される場合には,これらのピ
ンは,好適には僅かに約0.03%だけの炭素含有量を有する材料から構成されな
ければならない。』(段落【0016】)

これらの記載からみて,発明の詳細な説明に,ピンを約0.05未満の炭素含有
量を有する炭素鋼とする点,その実施例として,ピンを約0.03%の炭素含有量
を有する特種鋼材とする点が記載されていることは明らかであって,『0.03~0.
05%』の数値範囲も発明の詳細な説明に記載されているといえることから,いわ
ゆるサポート要件に違反するとはいえない。」

(2) 審決が説示するとおり,訂正明細書の段落【0009】には炭素含有率0.
03%の炭素鋼をピンの材料に用いると熱交換チューブの熱伝達係数(熱伝導係数)
が約4%大きくなる旨が,段落【0016】には本件発明の作用効果を奏する上で
炭素含有率0.05%未満の炭素鋼をピンの材料に用いるのが好適である旨がそれ
ぞれ記載されている。

また,訂正明細書の段落【0015】には,ピンの材料を熱交換チューブ本体の
材料よりも実質的に低い炭素含有率の炭素鋼で構成することによって,溶接接合部
等に亀裂が生じるリスクが相当程度小さくなり,ピンの熱伝達効率,ひいては熱交
換チューブ全体の熱伝達効率が増大する旨が記載されているから,ピンの炭素含有
率を「0.03乃至0.05%」の数値範囲とすることによる作用効果が訂正明細
書に記載されていることは明らかである。

したがって,特許を受けようとする発明が訂正明細書の発明の詳細な説明欄に記
載されているものであって,平成6年改正法(同年法律第116号)附則6条2項
によりなお従前の例によるとされる同改正法による改正前の特許法36条5項1号
に反しない。

そして,本件発明の特許請求の範囲にいう「ピン(18)は0.03乃至0.0
5%の炭素含有量を有する材料から構成されている」との記載がそれ自体明瞭であ
ることは明らかである。

(3) したがって,本件発明はその特許請求の範囲中に前記(2)のとおりの記載を含
むとしても,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」以外の
事項が記載されていることになるものではなく,本件発明は前記改正前の特許法3
6条5項2号に反しない。

なお,訂正明細書には前記のとおり,ピンの材料である炭素鋼の炭素含有率の数
値範囲の技術的意義ないし臨界的意義が示されているところ,これは本件発明が属
する技術分野における通常の知識を有する者,すなわち当業者が容易にその実施を
することができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているといえ
る。したがって,本件発明は前記改正前の特許法36条4項にも反しない。

(4) よって,原告が主張する取消事由5は理由がない。

**** 第6 結論

以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから,主文のとお
り判決する。


*** 判決原文(全文)
平成22(行ケ)10063 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年01月13日 知的財産高等裁判所 

- 1 -
平成23年1月13日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10063号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年12月15日
判決
原告 江林重工業株式曾社
訴訟代理人弁理士 高橋昌久
松本廣
石橋克之
被告 アールボルグインダストリーズ
アクティーゼルスカブ
訴訟代理人弁理士 浜田治雄
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と
定める。
事実及び理由
第1 原告が求めた判決
特許庁が無効2008-800192号事件について平成21年10月14日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告による無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟であり,被告が
特許権者である。
- 2 -
争点は,本件発明が,当業者において本件出願前に頒布された刊行物に基づいて
容易に発明することができたか否かである。
1 特許庁における手続の経緯
被告は,特許第3567000号の特許権者である。本件特許は,平成6年12
月13日,優先日を1993年(平成5年)12月14日とし,優先権主張国をス
ウェーデンとして,名称を「熱交換チューブ」とする発明について特許出願された
ものであり(請求項の数3),平成16年6月18日に特許権の設定登録がされた。
原告は,平成20年10月1日,本件特許権につき無効審判請求をしたところ,
特許庁はこれを無効2008-800192号事件として審理した。
被告は,平成21年6月5日,上記無効審判請求事件において,請求項1の特許
請求の範囲の記載を一部改めた上で請求項2及び3を削除する訂正を行った(本件
訂正)。
特許庁は,平成21年10月14日,上記訂正を認めると共に,「本件審判の請求
は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成21年10月27日に原告に送
達された。
2 本件発明の要旨(本件訂正後の請求項1の記載であり,下線部分が訂正によ
るもの)
「チューブ本体(17)とこのチューブ本体上に設けられた表面拡大要素からな
る熱交換チューブ(16)であって,この表面拡大要素は,チューブ本体の外側に
溶着されてチューブ本体から外向きに延在する多数のピン(18)から構成されて
おり,前記チューブ本体と前記ピンとが共に炭素鋼から構成されている熱交換チュ
ーブ(16)において,
チューブ本体(17)は少なくとも0.1%の炭素含有量を有する炭素鋼から構
成され,
ピン(18)は,0.03乃至0.05%の炭素含有量を有する材料から構成さ
れていることを特徴とする熱交換チューブ。」
- 3 -
3 原告が審判で提出した証拠方法及び主張した無効理由
【証拠方法】
[甲第1号証]特開昭63-187002号公報
[甲第2号証]「Standard Specification for Electric-Resistance-Welded Carbon Steel
and Carbon-Manganese Steel Boiler Tubes(ASTM A178/A178M-90
aの写し)」
[甲第3号証]「Standard Specification for Structural Steel(ASTM A36/A
36M-92の写し)」
[甲第4号証]「理論實技溶接工學」(韓国,源和出版社発行,1980年(昭
和55年)2月20日)241,242頁
[甲第5号証]「機械材料」(韓国,普成文化社発行,1986年(昭和61年)
3月20日)179,180頁
[甲第6号証]特表平4-500717号公報
[甲第7号証]米国特許第3731738号公報
[甲第10号証]「機械工学便覧」(社団法人日本機械学会編,1987年(昭和
62年)4月15日)B4-32頁
[甲第11号証]「溶接・接合便覧」(社団法人溶接学会編,1990年(平成2
年)9月30日)852頁
(甲第8,9,12,13号証は省略)
【無効理由】
無効理由1ないし3は審判請求書記載のものであり,無効理由2’は口頭審理陳述
要領書記載のものである。原告は,平成21年6月5日付け訂正請求に対する弁駁
書で本件訂正は訂正要件に反すると主張し,合わせて無効理由2”及び3’を主張し
た。
・無効理由1
訂正前の請求項1の発明は,その出願前に日本国内において頒布された甲第1号
- 4 -
証に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の規定により特許を受ける
ことができない。
・無効理由2
訂正前の請求項1の発明は,その出願日当時,①甲第1号証に記載された発明に
基づいて,又は,②甲第1号証に記載された発明に甲第4,5号証に記載された周
知技術を適用することにより,又は,③甲第1号証に記載された発明に甲第6号証
に記載された発明を適用することにより,又は,④甲第1号証に記載された発明に
甲第7号証に記載された発明を適用することにより,当業者において容易に想到す
ることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けること
ができない。
また,訂正前の請求項2の発明の「ピン(18)は,約0.05%以下の炭素含
有量を有する材料から構成されている」点及び訂正前の請求項3の発明の「ピン(1
8)は,約0.03%の炭素含有量を有する材料から構成されている」点はいずれ
も設計的事項であって,上記請求項2,3の発明は,いずれも,その出願日当時,
訂正前の請求項1の発明と同様に当業者において容易に想到することができたもの
であるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
・無効理由2’
訂正前の請求項1の発明は,その出願日当時,甲第1号証に記載された発明に甲
第2ないし5,10,11号証に記載された発明を適用することにより,当業者に
おいて容易に想到することができたものであるから,特許法29条2項の規定によ
り特許を受けることができない。
・無効理由2”
訂正後の請求項1の発明(本件発明)は,その出願日当時,甲第1号証等に基づ
いて当業者において容易に想到できたものであるから,特許法29条2項の規定に
より独立して特許を受けることができない。
・無効理由3
- 5 -
訂正前の請求項1の「ピン(18)が,チューブ本体(17)を構成する材料よ
り実質的に低い炭素含有量」との記載は明瞭でなく,請求項2の「約0.05%以
下」との記載,請求項3の「約0.03%」との記載も,数値限定の臨界的意義に
ついて発明の詳細な説明欄に記載がないから,技術的に明瞭でない。したがって,
訂正前の請求項1ないし3は,いずれも当業者において容易に実施することが可能
な程度に当該発明の目的,効果が明細書の発明の詳細な説明欄に記載されていない
ものであるか,特許請求の範囲に特許を受けようとする発明の構成に欠くことがで
きない事項以外の事項を含むもので,改正前の特許法36条4項,5項2号により
特許を受けることができない。
・無効理由3’
訂正後の請求項1の発明(本件発明)は,特許を受けようとする発明が明細書の
発明の詳細な説明欄に記載されていないものであるか,特許請求の範囲に特許を受
けようとする発明の構成に欠くことができない事項以外の事項を含むもので,改正
前の特許法36条5項1,2号により独立して特許を受けることができない。
4 審決の理由の要点等
(1) 平成21年6月5日付け訂正請求に先立って通知した審判手続における無
効理由通知で引用した【特開昭57-60194号公報(審決引用文献)】(甲29)
との対比についてみると,訂正された本件発明は,審決引用文献に記載された発明
(審決引用発明)に周知技術を組み合わせることにより当業者が容易に想到できた
ものではない。
(2) 本件訂正は特許法の関連法規に適合するので,当該訂正を認める。
(3) 本件発明は,甲第1号証に記載された発明(甲第1号証発明)ではなく,新
規性を欠くものではない。したがって,無効理由1の主張は採用することができな
い(26頁21~23行)。
(4) 本件発明は,その出願当時,①甲第1号証発明に基づいて,又は,②甲第1
号証発明に甲第4,5号証に記載された周知技術を適用することにより,又は,③
- 6 -
甲第1号証発明に甲第6号証に記載された発明(甲第6号証発明)を適用すること
により,又は,④甲第1号証発明に甲第7号証に記載された発明(甲第7号証発明)
を適用することにより,当業者において容易に想到することができたものではない。
また,本件発明は,その出願当時,甲第1号証発明に甲第2,3号証に記載され
た規格を基に甲第4,5,10,11号証に記載された周知技術を適用しても,当
業者において容易に想到することができたものではない。
また,「ピン(18)は,0.03乃至0.05%の炭素含有量を有する材料から
構成されている」点は設計的事項であるとはいえない。
したがって,無効理由2及び2’の主張は採用することができない(30頁の末尾
2行)。
(5) 訂正明細書の発明の詳細な説明欄には,当該発明が属する技術分野における
通常の知識を有する者(当業者)が容易にその実施をすることができる程度に,当
該発明の目的,構成及び効果が記載されているから,改正前の特許法36条4項に
反するものではない。
また,本件発明の特許請求の範囲にいう「ピンは0.03乃至0.05%の炭素
含有量を有する材料から構成される」点の数値限定の技術的意義は明瞭であって,
特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されている
から,改正前の特許法36条5項2号に反するものではない。
したがって,無効理由3の主張は採用することができない(31頁の下から3行)。
(6) 本件訴訟において,原告は本件訂正の適法性及び本件発明の新規性に係る判
断(上記(2),(3))につき争っていない。
上記(3)ないし(5)のとおり,審決は無効理由1,2,2’及び3についての原告の
主張を採用できないものとしたが,その判断の実質は,本件発明(訂正後のもの)
についてのものである。無効理由1は訂正前の発明についての新規性欠如の主張な
ので,その判断は本件訂正を認めることにより判断の必要がないことに帰したのに
判断したものである。無効理由2,2’及び3の主張については,訂正後の本件発明
- 7 -
に対する無効理由である2”及び3’に置き換わったものとして判断しなければなら
ないのに,その整理がないまま判断を進めているが,当裁判所としては,判断の内
容からみて,その実質を上記のように理解するものである。
(7) 審決が認定した審決引用発明及び甲第1号証発明の要旨,本件発明と審決引
用発明の一致点及び相違点,本件発明と甲第1号証発明の一致点及び相違点はそれ
ぞれ下記のとおりである。相違点に関して審決がした容易想到性の有無の判断内容
は,後記原告主張の審決取消事由の項及び当裁判所の判断の項で引用する。
【審決引用発明の要旨】
「チューブとこのチューブに設けられたの
ママ
表面拡大要素からなるフインチューブ
であって,この表面拡大要素は,チューブの外側に溶接されてチューブから外向き
に延在する多数のフインから構成されており,前記チューブおよび前記フインの外
表面にほうろう被膜が施され,前記チューブと前記フインとが共に炭素鋼から構成
されているフインチューブにおいて,
チューブは通常の炭素鋼から構成され,フインは,0.003%程度の低炭素鋼
から構成されていることを特徴とするフインチューブ。」
【審決引用発明と本件発明の一致点】
「チューブ本体とこのチューブ本体上に設けられた表面拡大要素からなる熱交換
チューブであって,この表面拡大要素は,チューブ本体の外側に溶着されてチュー
ブ本体から外向きに延在する多数の表面拡大部材から構成されており,前記チュー
ブ本体と前記表面拡大部材とが共に炭素鋼から構成されている熱交換チューブ」で
ある点
【審決引用発明と本件発明の相違点】
・相違点1
「表面拡大部材について,本件発明では『ピン』であるのに対して,審決引用発
明では『フイン』である点。」
・相違点2
- 8 -
「チューブ本体について,本件発明では『少なくとも0.1%の炭素含有量を有
する炭素鋼』から構成されているのに対して,審決引用発明では,『通常の炭素鋼』
ではあるものの,炭素含有量についての数値限定がなされていない点。」
・相違点3
「表面拡大部材について,本件発明では『0.03%乃至0.05%の炭素含有
量を有する材料』から構成されているのに対して,審決引用発明では『0.003%
程度の低炭素鋼』から構成されている点。」
【甲第1号証発明の要旨】
「熱交換管とこの熱交換管に設けられた表面拡大要素からなる熱交換器であって,
この表面拡大要素は,熱交換管の外側に浸透溶接されて熱交換管から外向きに延在
する多数のスタッドから構成されており,前記熱交換管と前記スタッドとが共に炭
素鋼から構成されている熱交換管(に)おいて,
熱交換管はSA178炭素鋼管から構成され,スタッドは,A36炭素鋼から構
成されていることを特徴とする熱交換器。」
【甲第1号証発明と本件発明との一致点】
「チューブ本体とこのチューブ本体に設けられてた
ママ
表面拡大要素からなる熱交換
チューブであって,この表面拡大要素は,チューブ本体の外側に溶着されてチュー
ブ本体から外向きに延在する多数のピンから構成されており,前記チューブ本体と
前記ピンとが共に炭素鋼から構成されている熱交換チューブ」である点
【甲第1号証発明と本件発明との相違点】
・相違点4
「チューブ本体の炭素含有量について,本件発明では『少なくとも0.1%』で
あるのに対して,甲第1号証発明では,SA178炭素鋼管ではあるものの,炭素
含有量について数値限定がなされていない点。」
・相違点5
「表面拡大要素について,本件発明では『0.03乃至0.05%の炭素含有量
- 9 -
を有する材料』から構成されているのに対して,甲第1号証発明では,A36炭素
鋼ではあるものの,炭素含有量についての数値限定がなされていない点。」
第3 原告主張の審決取消事由
1 審決引用発明の要旨の認定の誤り(取消事由1)
審決は,前記のとおり審決引用発明の要旨を認定したものであるが,審決引用文
献には「さらに好ましくは,チューブ(11)の材質は通常の炭素鋼であつても良
いが,フイン(12)の材料としては炭素含有率の低い低炭素鋼,例えばほうろう
用極低炭素鋼が用いられる。」との記載(2頁4欄11~15行)があるし,審決引
用文献の請求項2には「前記フインチユーブの材質は通常の炭素鋼でありかつ各前
記フインの材質は炭素含有率の低い低炭素鋼である」との記載があるから,審決引
用発明においてフインの材料として開示されているものには通常の炭素鋼(甲2,
9)に比して炭素含有率が低い炭素鋼がすべて含まれるというべきであり,ほうろ
う用極低炭素鋼や0.003%程度の炭素含有率の低い低炭素鋼はその具体例の一
つにすぎない。
したがって,審決が審決引用発明の要旨の認定につき,フインを「0.003%
程度の低炭素鋼から構成されている」ものに限定したのは誤りである。
2 審決引用発明と本件発明との相違点の認定の誤り(取消事由2)
前記1のとおり,審決引用発明においてフインの材料として開示されているもの
には通常の炭素鋼に比して炭素含有率が低い炭素鋼がすべて含まれるから,審決引
用発明と本件発明の相違点3に関して,審決引用発明の構成を「『通常の炭素鋼より
も低い炭素含有率の低炭素鋼』から構成されている」と認定すべきものであった。
しかし,審決は前記のとおりの内容で相違点3に関して審決引用発明を認定して
おり,誤りである。
3 審決引用発明に基づく本件発明の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)
(1) 審決は,相違点3に関する審決引用発明に基づく容易想到性につき,次のと
- 10 -
おり判断する(20,21頁)。
「本件発明は,『極めて低い炭素含有量を有する鋼材をピンすなわち表面拡大要素
に使用することにより,亀裂形成のリスクを減少するばかりでなく,軽減された炭
素含有量がピンの熱電
ママ
導率を増大し,これによりピンの熱効率が改善され,ひいて
は熱交換チューブの全体的熱伝達効率を全般的に増大する。』という課題を解決する
ためのものであり,極めて低い炭素含有量を有する鋼材からなるピンとして,従来
の0.11%の炭素含有量を有する炭素鋼に代えて,0.03乃至0.05%の炭
素含有量を有する材料(特殊鋼材)からなる炭素鋼を用いるものである。
これに対し,審決引用発明は,『酸露点腐食の防止のため安価な材料,例えば炭素
鋼からなるフインチユーブの表面に耐食性および耐熱性のある塗料をコーテイング
することも行われてきたが,冷却と加熱の繰り返しによつて被膜の剥離が生じ,コ
ーテイング不完全な部分が酸露点腐食によって著しく浸食され,熱交換器の品質安
定化が計れず,充分な耐用年数が得られない等の欠点があつた。』という課題を解決
するためのものであり,フインチューブの表面にコーティングとしてほうろう被膜
を施すにあたり,所謂『つま飛び』現象なる欠陥や焼成中に発泡が生じ,ほうろう
被膜の性能を損なうのみでなく,被膜の生成さえも難しくなることを防止し,良好
なほうろう被膜を形成するために,フインの材料として,『0.003%程度』の低
炭素鋼を用いるものである。
つまり,審決引用発明は,フインの両面にほうろう被膜を施すことは,必須の構
成であり,フインの炭素含有量は,良好なほうろう被膜を形成することができる範
囲である『0.003%程度』に限定されるといえ,さらに,一般に炭素鋼とは,
炭素含有量が通常0.02%~約2%の範囲の鋼のことをいうことからみて,審決
引用発明における『0.003%程度』の低炭素鋼と,本件発明の『炭素鋼』とは
本質的に異なるものと認められる。
そして,審決引用文献には『両面にほうろう被膜を施す場合には炭素鋼の炭素含
有量が高いと,所謂『つま飛び』現象なる欠陥や焼成中に発泡が生じ,ほうろう被
- 11 -
膜の性能を損なうのみでなく,被膜の生成さえも難しくなる』と記載されており,
フインに用いる炭素鋼の炭素含有量を『0.003%』よりも増加させて,本件発
明の『0.03乃至0.05%』の数値範囲とすることは,記載も示唆もされてお
らず,また,表面拡大要素に用いる炭素鋼の炭素含有量を『0.03乃至0.05%』
とすることは,本件の優先日前周知の技術事項でもない。
したがって,本件発明は,審決引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものとは認められない。」
(2) しかしながら,本件発明の優先日当時,当業者においては,「母材の成分が
いずれであっても溶着金属部または熱影響部がある程度硬化するが,低炭素鋼は高
炭素鋼に比して溶接部または熱影響部の硬度が低く,亀裂発生を防止する観点から
好ましい」ことが認識されており,また溶接割れの要因がマルテンサイト生成によ
る硬化及び拘束応力であること,炭素含有率が小さい低炭素鋼でも溶接割れが生じ
ること,上記要因を緩和し,溶接割れを防止するためには炭素含有率が小さければ
小さいほどよいこと,クリープ強度をも考慮し,溶接割れを防止するためには,一
般的な低炭素鋼の炭素含有率を下回る0.03ないし0.15%の炭素含有率にす
る必要があることはいずれも当業者の技術常識であった。
なお,訂正明細書の記載及び技術常識に照らしても,ピンの炭素含有率を従来の
炭素鋼の炭素含有率よりも小さいものとしたことによって溶接割れ(亀裂形成)の
リスクが低減されたと解するのが自然であって,チューブ本体とピンとの間で炭素
含有率に差を設けることによるものか否かは不明である。
加えて,本件発明の特許請求の範囲にいう「0.03乃至0.05%」の炭素含
有率の数値範囲は臨界的意義を有せず,通常の炭素鋼よりも小さい炭素含有率の低
炭素鋼の中から「0.03乃至0.05%」の炭素含有率のものを選択することは,
当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
したがって,本件発明は,審決引用発明に周知技術を組み合わせることで,当業
者において容易に想到できたものにすぎず,審決は本件発明の優先日当時の技術水
- 12 -
準,技術常識の理解を誤った結果,上記容易想到性の判断を誤ったものである。
なお,前記のとおり,溶接割れ防止のためには炭素含有率が小さければ小さいほ
どよいところ,審決引用発明のフイン(12)の炭素含有率は本件発明のピンの炭
素含有率よりも小さいから,審決引用発明のフイン(12)の炭素含有率「0.0
03%」に代えて本件発明のピンの炭素含有率「0.03乃至0.05%」を採用
することは,ピンとチューブ間の溶接接合部及びピンの隣接部分における亀裂防止
の観点からは,何ら有利な効果を奏するものではなく,むしろ退歩である。
4 甲第1号証発明に基づく本件発明の容易想到性の判断の誤り(無効理由2”
に対する判断の誤り,取消事由4)
(1) 本件発明の優先日当時,溶接割れを防止するためには炭素鋼の炭素含有率が
小さければ小さいほどよいことは当業者の技術常識であり,0.03ないし0.1
5%の炭素含有量の炭素鋼を用いてボイラを製作することも実際に行われていた。
また,鋼中の炭素含有率が小さくなれば小さくなるほど熱伝導度は高くなるから,
熱交換効率を向上するために,炭素含有率のより小さい低炭素鋼を採用することは
当業者において容易であった。
そうすると,より確実に溶接割れを防止する見地等から,甲第1号証発明におい
て,A36炭素鋼に代えて「0.03乃至0.05%」の炭素含有率の炭素鋼を用
いてスタッドを構成することは,本件発明の優先日当時,当業者の通常の創作能力
の発揮にすぎない。
前記3のとおり,審決は本件発明の優先日当時の技術水準,技術常識の理解を誤
った結果,上記容易想到性の判断を誤ったものである。
なお,本件発明の優先日当時,溶接性及び熱伝導性を良好なものとするためには,
低炭素鋼を採用すれば足りることが当業者の技術常識ではなかった。上記当時,低
炭素鋼であっても,溶接割れが生じ得ること,溶接性が不十分であることが当業者
の間で認識されていた。
(2) 訂正明細書には,ピンの炭素含有率につき単に「0.03%」という数値が
- 13 -
記載されているのみで,ピンの炭素含有率を「0.03乃至0.05%」とした場
合に,上記含有率が0.03%未満の場合に比してどのような作用効果があるのか
について全然記載がない。
また,炭素鋼においては炭素含有率を小さくするにつれて溶接性が改善していく
ものであって,一定の炭素含有率を境に劇的に溶接性が改善するものではないから,
「0.03乃至0.05%」との炭素含有率の数値範囲(特に下限値の0.03%)
には臨界的意義はない。
(3) したがって,本件発明の優先日当時,甲第1号証発明に基づいて,相違点5
に係る構成に想到することは当業者にとって容易であったというべきである。
5 記載要件の充足判断の誤り(無効理由3’に関する判断の誤り,取消事由5)
(1) ピンの炭素含有率を「0.03乃至0.05%」とすることの技術的意義は
訂正明細書に記載されていない。
したがって,本件発明はその特許請求の範囲中に不明瞭な記載を含むものであっ
て,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」以外の事項が記
載されているものであるから,平成6年改正法による改正前の特許法36条5項2
号に違反する。
(2) 前記のとおり,ピンの炭素含有率を「0.03乃至0.05%」とすること
の技術的意義は訂正明細書に記載されておらず,ピンの炭素含有率が上記の範囲内
のいずれかの数値である場合に,その作用効果が得られることが裏付けられていな
いから,いわゆるサポート要件を欠くもので,本件発明は平成6年改正法による改
正前の特許法36条5項1号に違反する。
第4 取消事由に関する被告の反論
1 取消事由1に対し
審決引用文献においては,フインに用いるべき「低炭素鋼」として「ほうろう用
極低炭素鋼」や「0.003%程度の炭素含有率の低い低炭素鋼」しか開示されて
- 14 -
おらず,その十倍以上の割合である炭素含有率が「0.03乃至0.05%」の炭
素鋼は開示されていない。
したがって,審決引用発明においてフインの材料として開示されているものには
通常の炭素鋼に比して炭素含有率が低い炭素鋼がすべて含まれるということはでき
ず,審決の審決引用発明の要旨認定に誤りはない。
2 取消事由2に対し
前記のとおり,審決の審決引用発明の要旨認定に誤りはなく,同認定に基づく相
違点3の認定判断に誤りはない。
3 取消事由3に対し
(1) 熱交換チューブの表面拡大要素に用いる炭素鋼の炭素含有率を0.03ない
し0.05%とすることは,本件発明の優先日当時における当業者の技術常識ない
し周知事項ではなかった。
原告が提出する甲第4号証,第10号証の2,第11号証の2のいずれにも,ピ
ンの炭素含有率が「0.03乃至0.05%」であればよいことや,その技術的効
果及び臨界的意義は開示も示唆もされていない。
したがって,本件発明の優先日当時の当業者の技術常識(技術水準)について,
審決が誤った理解の下に本件発明の容易想到性を判断したとはいえない。
なお,本件発明では,炭素含有率を小さくしても起こり得る溶接割れのリスクを
少しでも減少させようとして,チューブ本体の炭素含有率を0.1%とし,ピンの
炭素含有率を0.03ないし0.05%としたのであって,単にピンの炭素含有率
を小さくしたというものではない。
(2) 審決引用発明においては,フインに用いるべき「低炭素鋼」として,「ほう
ろう用極低炭素鋼」及び「0.003%程度の炭素含有率の低い低炭素鋼」のみを
開示しているにすぎず,フインに「0.03乃至0.05%」の炭素含有率の「低
炭素鋼」を用いることは開示も示唆もされていない。
また,訂正明細書の段落【0009】,【0016】,【0018】では,ピンの材
- 15 -
料を「0.03乃至0.05%」の炭素含有率の炭素鋼とすること(数値限定)の
臨界的意義が示されている。
そして,本件発明は,亀裂形成のリスクを低減するとともに,ピンの熱効率,熱
交換チューブの全般的な熱伝達効率の改善という課題を解決するためのものである
一方,審決引用発明は,フインチューブの表面にほうろう被膜を施す際の欠陥等の
発生を防止し,熱交換器の耐用年数を延ばすという課題を解決するためのものであ
って,両発明は解決すべき課題が異なる。審決引用発明のフインの炭素含有率の設
定は,フインの両面に良好なほうろう被膜を施すことが前提になっており,ほうろ
う被膜を施さない本件発明のピンとはその前提が異なる上,審決引用発明のフイン
に用いる低炭素鋼は一つの範疇に分類されるものではない。
そうすると,本件発明は,優先日当時,審決引用発明に周知技術を組み合わせる
ことで,当業者において容易に想到できたものであるとはいえず,審決の容易想到
性の判断に誤りはない。
4 取消事由4に対し
前記3のとおり,本件発明の優先日当時の当業者の技術常識(技術水準)につい
て,審決が誤った理解の下に本件発明の容易想到性を判断したとはいえない。
また,ピンの炭素含有率を「0.03乃至0.05%」とすることには臨界的意
義がある。
そうすると,本件発明は,優先日当時,甲第1号証発明に周知技術を組み合わせ
ることで,当業者において容易に想到できたものであるとはいえず,審決の容易想
到性の判断に誤りはない。
5 取消事由5に対し
ピンの炭素含有率を「0.03乃至0.05%」とすることの臨界的意義は訂正
明細書の段落【0006】ないし【0009】,【0016】,【0018】で示され
ているし,本件発明の特許請求の範囲の記載に不明瞭な点は存しない。
したがって,訂正明細書には記載要件違反は存せず,審決の判断に誤りはない。
- 16 -
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(審決引用発明の要旨の認定の誤り)について
(1) 審決は審決引用発明の要旨につき前記のとおり認定し,原告はこのうち表面
積を拡大し,熱交換の効率を改善するためのフインを構成する鋼の組成,ことに炭
素含有率に係る部分の認定の点に誤りがある旨を主張するところ,熱交換器に用い
られるフインチューブの発明に係る審決引用文献中には,フインの炭素含有率につ
き次のとおりの記載がある(甲29)。
・「本発明によるフインチユーブの特徴は,・・・チユーブ(11)およびフイン
(12)の外表面にほうろう被膜(13)が施されていることであり,チユーブ(1
1)およびフイン(12)の材料としては安価な炭素鋼を用いることができる。さ
らに好ましくは,チユーブ(11)の材質は通常の炭素鋼であつても良いが,フイ
ン(12)の材料としては炭素含有率の低い低炭素鋼,例えばほうろう用極低炭素
鋼が用いられる。」(2頁4欄7~15行)
・「両面にほうろう被膜を施す場合には炭素鋼の炭素含有率が高いと,ほうろう被
膜に所謂『つま飛び』現像
ママ
なる欠陥や,焼成中に発泡が生じ,ほうろう被膜の性能
を損うのみでなく,被膜の生成さえも難しくなる。母材たる炭素鋼の両面にほうろ
う被膜を施すには例えば0.003%程度の炭素含有率の低い低炭素鋼を用いると
両面に良好なほうろう被膜が形成される。・・・フインにはその両面にほうろう被膜
が施されるので,前記のように低炭素鋼が用いられるのが好ましい。」(2頁5欄1
~12行)
(2) 上記(1)のとおり,審決引用文献中にはフインの材料として炭素含有率が0.
003%である低炭素鋼を用いることが開示されているから,審決による審決引用
発明の要旨の認定に誤りがあるとはいえない。
(3) この点,原告は,審決引用発明においてフインの材料として開示されている
ものには通常の炭素鋼に比して炭素含有率が低い炭素鋼がすべて含まれる等と主張
- 17 -
する。
確かに,審決引用文献の2頁4欄7ないし15行,5欄1ないし12行の記載に
おいては,「ほうろう用極低炭素鋼」や「0.003%程度の炭素含有率の低い低炭
素鋼」は,フインの材料として用いるべき通常の炭素鋼に比して炭素含有率が低い
炭素鋼の例として挙げられている。
しかしながら,審決引用文献の2頁5欄1ないし12行では,鋼材の炭素含有率
が高いとほうろう被膜の欠陥である「つま飛び」や発泡が生じる等の不都合がある
ことを指摘した上で,この不都合を回避するために例えば「0.003%程度の炭
素含有率の低い低炭素鋼」をフインの材料として用いることが記載されていること
にかんがみると,審決引用文献が「ほうろう用極低炭素鋼」や「0.003%程度
の炭素含有率の低い低炭素鋼」をフインの材料として用いるべき炭素鋼の例として
挙げているとしても,炭素含有率が0.003%よりも相当高い炭素鋼がフインの
材料として用いられることが想定されているとはいい難い。
そうすると,審決引用文献においては,フインの材料として,通常の炭素鋼に比
して炭素含有率が低い炭素鋼をすべて含むとの構成が開示されているものではなく,
原告の上記主張を採用することはできない。なお,審決引用発明にいうフインの材
料に炭素含有率が0.003%よりも若干高い炭素鋼が含まれ得るとしても,審決
引用文献の記載に照らしたときにこれが許容される限度が明らかでないから,一定
値の炭素含有率をもって審決引用発明の要旨を認定した審決の認定に誤りがあるも
のではない。
(4) 結局,原告が主張する取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(審決引用発明と本件発明との相違点の認定の誤り)について
前記1のとおり,審決の審決引用発明の要旨認定に誤りがあるとはいえないから,
これを前提とした相違点3の認定に誤りがあるとはいえない。
したがって,原告が主張する取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(審決引用発明に基づく本件発明の容易想到性の判断の誤り)に
- 18 -
ついて
(1) 審決引用発明に基づく本件発明の容易想到性に関し,審決は,本件発明の優
先日において,相違点1及び2は,当業者において周知技術を適用することにより
容易に想到し得るが,相違点3は容易に想到し得ないと判断した。原告は相違点3
に係る部分を争うので,以下相違点3に関して判断する。
この点,原告は,本件発明の優先日当時,当業者においては,「母材の成分がいず
れであっても溶着金属部または熱影響部がある程度硬化するが,低炭素鋼は高炭素
鋼に比して溶接部または熱影響部の硬度が低く,亀裂発生を防止する観点から好ま
しい」ことが認識されており,また溶接割れの要因がマルテンサイト生成による硬
化及び拘束応力であること,炭素含有率が小さい低炭素鋼でも溶接割れが生じるこ
と,上記要因を緩和し,溶接割れを防止するためには炭素含有率が小さければ小さ
いほどよいこと,クリープ強度をも考慮し,溶接割れを防止するためには,一般的
な低炭素鋼の炭素含有率を下回る0.03ないし0.15%の炭素含有率にする必
要があることはいずれも当業者の技術常識であったところ,審決は本件発明の優先
日当時の技術水準,技術常識の理解を誤った結果,本件発明の容易想到性の判断を
誤ったものであるなどと主張する。
確かに,原告が上記技術常識等の裏付けとして提出する甲第4号証中には,母材
に丸棒等を溶接するスタッド溶接においては,母材が急熱,急冷されるために溶着
部や熱影響部が硬化することがあるが,鋼の炭素含有率を0.2%以下にすれば亀
裂が生じない旨,スタッドの材料に低炭素鋼を用いるのが好ましい旨がそれぞれ記
載されているものの,スタッドの材料の低炭素鋼の炭素含有率がさらに小さければ
小さいほど溶接接合部(溶着部)等の亀裂(溶接割れ)が生じにくくなる旨まで開
示ないし示唆されているとは必ずしもいえない。
また,原告が同様の趣旨で提出する甲第10号証中にも,ボイラに冷間加工性や
溶接性が良好で,繰り返し加熱冷却を受けた場合にも集中応力の発生が少ない炭素
含有率0.2%以下の低炭素鋼を使用する旨(B4-32頁。なお,表21では,
- 19 -
炭素含有率0.16%の低炭素鋼の構成が開示されている。)や,溶接金属割れの多
くは金属の凝固時に発生する高温割れであるが,母材の溶接熱影響部割れのうち低
温割れは溶接時に侵入した水素,拘束応力,溶接熱影響部(Heat Affect
ed Zone)の硬化組織が主たる原因である旨(B4-23頁)が記載されてい
るものの,母材に低炭素鋼を採用し,さらにその炭素含有率が小さければ小さいほ
ど集中応力の発生等の不都合が生じにくくなる旨まで開示ないし示唆されていると
は必ずしもいえない。
そして,甲第4号証のスタッドや甲第10号証のボイラ用鋼の炭素含有率の上限
が0.2%であって,本件発明のピンの炭素含有率の上限0.05%の4倍,下限
0.03%の約7倍にもそれぞれ当たる点にかんがみれば,溶接接合部等の溶接割
れを防止する観点から,スタッド等の材料の炭素含有率を0.03ないし0.15%
の範囲とすることや0.03ないし0.05%の範囲とすることが示唆されている
ともいえない。
原告が同様の趣旨で提出する甲第11号証中にも,炭素鋼の溶接性は炭素含有量
によって決定され,低炭素鋼は溶接性が良好である旨,溶接部近くの母材は溶接時
の急熱,急冷作用によって溶接熱影響部を生成し,溶接金属直下部分は結晶粒が粗
大化したマルテンサイト組織になって最も硬化し,溶接割れが発生しやすくなる旨,
溶接に伴う母材の熱影響部の変態終了後に発生する低温割れは,マルテンサイトの
生成に伴う熱影響部の硬化,拘束応力及び水素が原因となっており,母材の炭素含
有率の増大は,前2者の要因を増大させ,低温割れを助長する旨,母材に低炭素鋼
を用いる場合でも,拘束が大きく溶接割れの発生の危険性がある場合には,溶接割
れの防止のために母材を予熱する必要がある旨が記載されているものの(852,
854,858頁。なお,図2・12からは,炭素含有率が0%に近い範囲ではグ
ラフの曲線が切れており,完全マルテンサイト地質の硬さとの関係についてみても,
炭素含有率0.05%程度の範囲では,上記の硬さと炭素含有率との間の相関関係
を判読することができない。),低炭素鋼のうちでも鋼の炭素含有率が小さければ小
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さいほど,例えば鋼の炭素含有率を0.03ないし0.05%としたときに溶接割
れの発生等の不都合が生じにくくなる旨まで開示ないし示唆されているとは必ずし
もいえない。
また,原告が同様の趣旨で提出する特開平5-320753号公報(甲26)は,
本件発明の優先日より11日前に公開された(公開日は平成5年12月3日。なお
出願日は平成4年5月21日。)ものであるところ,発電用ボイラなどの鉄皮の材料
として使用される高温強度に優れ,溶接性が劣らない炭素鋼として,炭素含有率を
0.03ないし0.15%とする構成が開示されており(特許請求の範囲),また溶
接割れを生じないためには0.15%以下の炭素含有率とすることが必要であり,
一定の強さの力を継続してかけて破断したときの強度であるクリープ強度を大きく
するためには炭素含有率が上記数値範囲内にあることが必要であるので,溶接割れ
を防止し,クリープ強度の向上を図るために炭素含有率の数値範囲を上記のとおり
に設定した旨の記載(段落【0005】)がある。しかしながら,これらの記載は発
明特定事項に係るものであって,発明者が従来技術にない新規性を有する事項とし
て記載した事項であるから,上記公報の公開日と本件発明の優先日との近接性にも
かんがみれば,本件発明の優先日当時に,溶接割れ防止とクリープ強度の向上を両
立する見地から,炭素含有率を0.03ないし0.15%とする炭素鋼をボイラの
材料とすることが当業者の技術常識であったとまでは到底いうことができない。
結局,本件全証拠に照らしても,審決引用発明等に組み合わせるべき本件発明の
優先日当時の当業者の技術常識として,熱交換チューブの表面拡大要素(表面積拡
大要素)の材料に,炭素含有率を0.03ないし0.15%とする低炭素鋼や炭素
含有率を0.03ないし0.05%とする低炭素鋼を採用する構成が存在したとは
認めることができない。
審決も上記結論を前提にして,審決引用発明との対比における本件発明の容易想
到性の判断を行ったものと解されるから,審決が本件発明の優先日当時の技術水準,
技術常識の理解を誤ったとはいえないというべきである。
- 21 -
(2)アところで,審決引用文献の発明の詳細な説明中には,従来技術による課題
と審決引用発明による解決手段に関し,次のとおりの記載(1頁2欄3行~2頁3
欄15行)がある。
「ボイラーの燃焼排ガスなどのように硫黄分の多い排ガスから熱回収する多管式
熱交換器の場合,酸露点腐食,すなわち排ガス中に含まれる硫黄酸化物がフインチ
ユーブに接触し,酸露点温度以下になるとフインチユーブの表面に硫酸となつて付
着し,その硫酸がフインチユーブを腐食する現象が生じ,そのため多管式熱交換器
の耐用年数を著しく短縮する問題があつた。
このような酸露点腐食の問題に対処するため従来はフインチユーブにチタン等の
高級材料を使用して熱交換器の寿命を延長するような努力がなされてきたが,これ
らの材料は高価でしかも加工性が悪く,その上熱交換性能が悪いためこの種の用途
に用いられる熱交換器としては好適なものとは言えなかつた。また,酸露点腐食の
防止のため安価な材料,例えば炭素鋼からなるフインチユーブの表面に耐食性およ
び耐熱性のある塗料をコーテイングすることも行われてきたが,冷却と加熱の繰り
返しによつて被膜の剥離が生じ,コーテイングの不完全な部分が酸露点腐食によつ
て著しく浸食され,熱交換器の品質安定化が計れず,充分な耐用年数が得られない
等の欠点があつた。
それ故,本発明の目的は比較的安価に製作し得ると共に耐熱性にすぐれ,酸露点
腐食に対し充分に耐え得るフインチユーブを提供することである。
本発明によるフインチユーブの特徴は酸露点腐食に耐え得るようにするため金属
製のチユーブ及びフインの外表面にほうろう被膜が施されていることであつ
て,・・・」
イそうすると,審決引用発明において解決すべき課題は,硫黄分の多い排ガス
から熱を回収する多管式熱交換器に使用される,外側に表面拡大要素たるフインを
設けた熱交換チューブにおいて,排ガス中の硫黄酸化物が冷却され,酸露点以下に
なった結果,生じた硫酸が熱交換器に付着してこれを腐食する事態を防止し得る耐
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久性を有するとともに,安価で熱交換性能に優れた熱交換チューブを提供する点に
あるものであり,上記課題を解決するための手段として,熱交換チューブ及びフイ
ンの双方の外表面にほうろう被膜を施す等の構成(特許請求の範囲,1頁1欄5~
14行)が採用されたものである。
そして,2頁5欄1ないし12行の記載も合わせ考慮すると,審決引用発明が炭
素含有率の小さい炭素鋼を熱交換チューブ外側(外周)に設けられたフインの材料
に選択した趣旨は,熱交換性能(熱伝導率)を損なわないことを前提に,ほうろう
被膜の欠陥等の発生を防止し,上記の耐久性を発揮することができるようにする点
にあるということができる。
ウ他方,訂正明細書(甲22)の発明の詳細な説明には,従来技術による課題
と本件発明による解決手段に関し,次のとおりの記載がある。
・「従来は,ピンとチューブ本体間の溶接接合部或いはピンの隣接部分において亀
裂形成の傾向を免れなかった。この傾向は,通常,ピンがチューブ本体に溶接され
た後で冷間屈曲加工される場合に殊に著しい。しかしながら,この傾向は別のピン
と関連しても発生される。・・・このため,最初は極めて小さくても,この小さな最
初の亀裂が熱交換チューブの構成の間に次第に大きな亀裂に成長してピンを脆弱化
し,ついにはこのピンが,例えば熱交換チューブが装着されている排気ガスチュー
ブの煤除去に際して実質的な機械荷重にさらされると,チューブ本体から破断され
るに至っていた。(段落【0003】)
・「そこで,本発明の目的は,前記種類の亀裂形成のリスクを全て実質的に減少す
ることができる前記形式の改良された熱交換チューブを提供することにある。」(段
落【0004】)
・「本発明によれば,前記目的のために,ピンが,チューブ本体を構成する材料よ
りは実質的に低い炭素含有量を有する材料から構成されていることを主要特徴とす
る,前記形式の熱交換チューブが提供される。」(段落【0005】)
エそうすると,本件発明において解決すべき課題は,ボイラ等に用いられる,
- 23 -
外表面に表面拡大要素たるピンを設けた熱交換チューブにおいて(段落【0002】),
ピンとチューブとの間の溶接接合部やピンの溶接接合部に隣接する部分等に亀裂が
生じる結果(溶接割れ),ピンがチューブから破断,脱落する事態を防止するという
点にあるものであり,上記課題を解決するための手段として,ピンの材料である炭
素鋼の炭素含有率を,チューブ本体の材料である炭素鋼の炭素含有率よりも小さく
する等の構成が採用されたものである。
したがって,本件発明と審決引用発明とは,当該発明によって解決すべき技術的
課題が,前者では溶接接合部等の亀裂防止にあり,後者では酸腐食に対する耐久性
の向上等にあって,両者は耐久性の向上というごく抽象的な観点で共通するにすぎ
ず,技術的には相違するものというべきである。
また,審決引用発明では表面拡大要素にほうろう被膜を施すことが大きな要点と
なっているが,本件発明では表面拡大要素にほうろう被膜を施すことは予定されて
いない。
そして,審決引用発明においてフィンの材料に炭素含有率が小さい炭素鋼が採用
された趣旨も,前記のとおり熱交換性能を損なわないことを前提に,ほうろう被膜
の欠陥等の発生を防止し,熱交換チューブの耐久性を発揮することができるように
する点にあるものであって,本件発明でピンの材料の炭素鋼の炭素含有率がチュー
ブ本体の材料の炭素鋼の炭素含有率よりも小さくされた趣旨である溶接接合部等の
亀裂防止の点は,審決引用文献においては開示も示唆もされていない。
なお,訂正明細書の段落【0006】では,熱交換チューブの溶接接合部等の亀
裂発生の原因が,炭素鋼から成るピンをチューブ本体に溶接する際に不可避的に生
じる,ピンの溶接接合部分の加熱及び冷却によって,当該部分を意図せずに硬化し
てしまう点にあるとされているから,本件発明と審決引用発明とでは,熱交換チュ
ーブの耐久性の低下をもたらす原因として着目されている事由(審決引用発明では
酸腐食)が異なるし,上記のとおり表面拡大要素の材料に炭素含有率が小さい炭素
鋼を採用した趣旨も,本件発明(溶接割れの防止)と審決引用発明(ほうろう被膜
- 24 -
の欠陥等の発生)とで異なるものである。
そして,相違点3のとおり,本件発明のピンの炭素含有率は審決引用発明のフイ
ンの炭素含有率の10倍程度にもなるのであって,審決が説示するとおり,両者の
炭素鋼(低炭素鋼)としての性格は本質的に異なるとも評し得るものである。
そうすると,本件発明と審決引用発明とでは,解決すべき技術的課題も異なるし,
表面拡大要素の材料に炭素含有率が小さい炭素鋼を採用した趣旨も両者で異なるか
ら,本件発明の優先日当時,当業者にとって,ピンの材料に炭素含有率0.03な
いし0.05%の低炭素鋼を採用することが通常の創作能力の発揮にすぎないとい
うことはできず,また当業者において審決引用発明に基づき相違点3に係る構成に
容易に想到できたということもできない。
なお,原告は,本件発明の特許請求の範囲にいう「0.03乃至0.05%」の
炭素含有率の数値範囲は臨界的意義を有しない等として,本件発明には進歩性がな
い旨を主張するが,その主張内容は上記数値範囲を採用することは当業者の通常の
創作能力の範囲にすぎないというに帰し,上記に判断したところからして理由がな
い。
(3) 以上のとおり,本件発明の優先日当時,当業者において,審決引用発明に周
知技術ないし技術常識を組み合わせることにより,相違点3に係る構成に容易に想
到できたとはいえないところ,審決はこの旨の判断をするものであって,審決の判
断に誤りがあるとはいえない。
したがって,原告が主張する取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(甲第1号証発明に基づく本件発明の容易想到性の判断の誤り,
無効理由2”に対する判断の誤り)について
(1) 甲第1号証発明に基づく本件発明の容易想到性に関し,審決は,本件発明の
優先日において,相違点4は実質的な相違点とはいえないが,相違点5は当業者に
おいて容易に想到し得ないと判断した。原告は相違点5に係る部分を争うところ,
審決は相違点5に係る容易想到性に関して,次のとおり説示する(26,27頁)。
- 25 -
「甲第4-5,10-11号証の記載事項からみて,『低炭素鋼は,溶接性に優れ
ている』点,及び,『熱伝導度は炭素量の増加に伴って減少する』点は,炭素鋼の炭
素含有量により決定される一般的な性質として,溶接技術,機械材料技術の周知技
術であるといえる。
また,甲第4-5号証(甲第10-11号証)は,炭素鋼の一般的な性質として,
中炭素鋼または高炭素鋼との比較において,低炭素鋼の有利な点が記載されたもの
であって,言い換えれば,『溶接性に優れ,熱伝導度をよくする』ためには,低炭素
鋼であれば足りるとこと
ママ
を示しているといえる。
しかしながら,一般に,低炭素鋼と種別される炭素鋼の炭素含有量は,0.08
~0.30%(『溶接・接合便覧』,社団法人溶接学会,1990年9月30日,8
49ページ表2・2参照)であるのに対し,本件発明は,約0.1%の(低)炭素
鋼を用いたとしても発生する亀裂形成のリスクを減少させるとともに,熱効率を改
善するために,表面拡大要素であるピンを『0.03乃至0.05%の炭素含有量
を有する材料』から構成するものである。
さらに,甲第4-5号証(甲第10-11号証)には,炭素鋼を熱交換チューブ
の表面拡大要素とする場合の炭素含有量についての記載はなく,熱交換チューブの
表面拡大要素における炭素鋼の炭素含有量について,好適な数値範囲を示唆するも
のでもない。
そして,A36炭素鋼について,甲第13号証(参考資料)に炭素含有量が『最
大0.25~0.29%』の炭素鋼が示されているとしても,甲第1号証には,A
36炭素鋼の炭素含有量についての具体的な記載も示唆もなく,さらに,ピンの亀
裂形成のリスクを減少させ,熱効率を改善させるといった課題を解決するために,
A36炭素鋼の炭素含有量を限定することの記載も示唆もされていない。」
(2) 甲第11号証によれば,炭素鋼,とりわけ炭素含有率が0.4%以下の炭素
鋼においては,鋼の熱伝導率が炭素含有率が大きくなるに従って急速に減少するこ
とが認められるが(852頁,図2・6。なお,甲第5号証にも同趣旨の記載があ
- 26 -
る。),これは審決が説示するように,本件発明の優先日当時における当業者の技術
常識ないし周知技術であるということができる。
また,甲第4,10,11号証中には,低炭素鋼は溶接性が良好である旨の記載
があり,これも審決が説示するように,本件発明の優先日当時における当業者の技
術常識ないし周知技術であるということができる。
しかしながら,前記3のとおり,甲第4,10,11号証のいずれにおいても,
表面拡大要素あるいは溶接母材一般の炭素含有率が例えば0.2%よりさらに小さ
ければ小さいほど溶接接合部(溶着部)等の亀裂(溶接割れ)が生じにくくなる旨
まで開示ないし示唆されているとは必ずしもいえないし,溶接接合部等の溶接割れ
を防止する観点から,表面拡大要素あるいは溶接母材一般の炭素含有率を0.03
ないし0.15%の範囲とすることや0.03ないし0.05%の範囲とすること
が示唆されているともいえない。
また,前記3のとおり,特開平5-320753号公報(甲26)も,本件発明
の優先日当時に,溶接割れ防止とクリープ強度の向上を両立する見地から,炭素含
有率を0.03ないし0.15%とする炭素鋼をボイラの材料とすることが当業者
の技術常識であったことまで示すものではない。
そして,これらのほかに,本件発明の優先日当時に,溶接接合部等の溶接割れを
防止する観点から,表面拡大要素の炭素含有率を0.03ないし0.15%の範囲
とすることや0.03ないし0.05%の範囲とすることが,既に当業者の技術常
識ないし周知技術であったことを裏付けるに足りる証拠は存しない。
(3) 他方,甲第6号証中には,熱交換チューブの表面拡大要素の材料に低炭素鋼
を使用することが記載されているのみで,それ以上に,上記材料の炭素含有率の具
体的数値を限定する構成は開示も示唆もされていない。
また,甲第7号証中にも,熱交換チューブの表面拡大要素たるスタッド状のフィ
ンのうちチューブ本体近傍部の材料に低炭素鋼を採用することが記載されているの
みで,それ以上に,上記材料の炭素含有率の具体的数値を限定する構成は開示も示
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唆もされていない。
したがって,甲第6,7号証においては,表面拡大要素の材料の炭素含有率をさ
らに小さくし,例えば0.03ないし0.05%の炭素含有率の炭素鋼のものとす
ることは,開示も示唆もされていないというべきである。
また,甲第2,3号証は鋼材の規格を示したものにすぎないし,甲第4,5号証
も,単に低炭素鋼が溶接性が良好である旨を開示するのみで,表面拡大要素の材料
の炭素含有率を0.03ないし0.05%とすることは,開示も示唆もされていな
いというべきである(甲第10,11号証も同様)。
また,甲第8号証中には,炭素含有率が0.08%以下の鋼線材が記載されてい
るところ(表2,SWRCH6R,SWRCH6A),審決が説示するとおり,上記
鋼線材を熱交換チューブの表面拡大要素であるピンの材料として使用する構成を開
示ないし示唆する証拠は存せず,仮に上記鋼線材を甲第1号証発明のスタッドの材
料として使用するとしても,前記のとおり,さらに炭素含有率を小さくして,例え
ば0.03ないし0.05%の範囲とすることが,本件発明の優先日当時の当業者
の技術常識ないし周知技術であったかは疑問である。
(4) そして,前記3のとおり,審決が本件発明の優先日当時の技術水準,技術常
識の理解を誤ったとはいうことができないし,前記3と同様に,本件発明の特許請
求の範囲にいう「0.03乃至0.05%」の炭素含有率の数値範囲の限定は,本
件発明と甲第1号証発明等との技術的課題の相違や作用効果の異質性等にかんがみ
れば,本件発明の進歩性の結論に影響を及ぼすものではないものである。
(5) ところで,甲第1号証によれば,従来の流動床燃焼ボイラーに使用される熱
交換管(熱交換チューブ)では,流動床粒子による腐食に対する耐久性が不十分で
あったので,この耐久性を向上させることが,甲第1号証発明において解決すべき
技術的課題であることが認められる(2頁右下欄下から1行~4頁左下欄下から3
行)。
また,甲第1号証発明が上記課題を解決するために採用した手段は,熱交換管の
- 28 -
内表面積を変えずに,外表面にフィンを設けて,外表面積を大きくし,熱交換管の
流動床粒子からの保護面積を大きくすることであった(4頁左下欄下から1行~5
頁左上欄上から3行)。なお,甲第1号証の「発明の好適な実施態様の説明」欄では,
熱交換管本体及びフィンに炭素鋼を用いるが,フィンの材料には,熱交換管本体に
用いる材料(SA178炭素鋼管,炭素含有率は最も小さいもので0.06~0.
18%)よりも炭素含有率が小さいA36炭素鋼(炭素含有率は板材で0.25~
0.29%,棒材で0.26~0.29%)を用いる旨が記載されている(5頁右
下欄上から4行~7行等,甲1ないし3)。
そうすると,本件発明と甲第1号証発明とは,当該発明によって解決すべき技術
的課題が,前者では溶接接合部等の亀裂防止にあり,後者では流動床粒子による腐
食の防止にあって,両者は耐久性の向上というごく抽象的な観点で共通するにすぎ
ず,技術的には相違するというべきである。のみならず,熱交換チューブ(熱交換
管)の損傷をもたらす原因の点でも,両者は大きく異なるものである。
したがって,本件発明の優先日当時,当業者にとって,熱交換チューブの表面拡
大要素の材料として,炭素含有率が0.25%強であるA36炭素鋼に代えて,炭
素含有率が0.03ないし0.05%の低炭素鋼を採用することが通常の創作能力
の発揮にすぎないということはできず,また当業者において甲第1号証発明に基づ
き相違点5に係る構成に容易に想到できたということもできない。
(6) 結局,甲第11号証中の記載等を勘案しても,本件発明の優先日当時,甲第
1号証発明自体に基づくことはもちろん,甲第1号証発明に周知技術(技術常識)
を適用することや,甲第1号証発明に甲第6号証発明及び周知技術を適用すること
や,甲第1号証発明に甲第7号証発明及び周知技術を適用することや,あるいはさ
らに甲第8号証に記載された事項等を勘案することによって,当業者において相違
点5に係る構成に容易に想到できたとはいうことができず,この旨判断する審決の
判断に誤りがあるとはいえない。
したがって,原告が主張する取消事由4は理由がない。
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5 取消事由5(記載要件の充足判断の誤り,無効理由3’に関する判断の誤り)
について
(1) 本件発明におけるピンの炭素含有率を「0.03乃至0.05%」とするこ
との技術的意義ないし臨界的意義が訂正明細書に記載されているか否かにつき,審
決は次のとおり判断する(23,24頁)。
「『ピン(18)は0.03~0.05%の炭素含有量を有する材料から構成され
ている』について,その範囲を特定する数値限定の臨界的意義について訂正明細書
に何ら開示されていないとはいえず,発明が不明瞭であるとはいえない。
また,訂正明細書には,次の記載事項がある。
ア.『極めて低い炭素含有量を有する鋼材をピンに使用することは,亀裂形成の前
記リスクを減少するばかりでなく,更に別の好結果をももたらすことが判明した。
すなわち,更に詳細には,低減された炭素含有量はピンの熱電
ママ
導率を増大し,これ
によりピンの熱効率が改善され,ひいては熱交換チューブの全体的熱効率が全般的
に増大される。円筒ボイラに実際に適用した実施例に係わる熱交換チューブの熱伝
達係数の計算によれば,0.11%の炭素含有量を有する一般工業用ベースの炭素
鋼からなるピンに代えて,僅かに約0.03%だけの炭素含有量を有する特種鋼材
からなるピンを使用することにより,前記係数を約4%増大できることが判明し
た。』(段落【0009】)
イ.『ピン18を構成する材料は,好適には約0.05%未満の炭素含有量を有し
なければならない。しかしながら,若しピンが,図2におけるピン18’に関して説
明したようにチューブ本体に溶接された後で冷間屈曲される場合には,これらのピ
ンは,好適には僅かに約0.03%だけの炭素含有量を有する材料から構成されな
ければならない。』(段落【0016】)
これらの記載からみて,発明の詳細な説明に,ピンを約0.05未満の炭素含有
量を有する炭素鋼とする点,その実施例として,ピンを約0.03%の炭素含有量
を有する特種鋼材とする点が記載されていることは明らかであって,『0.03~0.
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05%』の数値範囲も発明の詳細な説明に記載されているといえることから,いわ
ゆるサポート要件に違反するとはいえない。」
(2) 審決が説示するとおり,訂正明細書の段落【0009】には炭素含有率0.
03%の炭素鋼をピンの材料に用いると熱交換チューブの熱伝達係数(熱伝導係数)
が約4%大きくなる旨が,段落【0016】には本件発明の作用効果を奏する上で
炭素含有率0.05%未満の炭素鋼をピンの材料に用いるのが好適である旨がそれ
ぞれ記載されている。
また,訂正明細書の段落【0015】には,ピンの材料を熱交換チューブ本体の
材料よりも実質的に低い炭素含有率の炭素鋼で構成することによって,溶接接合部
等に亀裂が生じるリスクが相当程度小さくなり,ピンの熱伝達効率,ひいては熱交
換チューブ全体の熱伝達効率が増大する旨が記載されているから,ピンの炭素含有
率を「0.03乃至0.05%」の数値範囲とすることによる作用効果が訂正明細
書に記載されていることは明らかである。
したがって,特許を受けようとする発明が訂正明細書の発明の詳細な説明欄に記
載されているものであって,平成6年改正法(同年法律第116号)附則6条2項
によりなお従前の例によるとされる同改正法による改正前の特許法36条5項1号
に反しない。
そして,本件発明の特許請求の範囲にいう「ピン(18)は0.03乃至0.0
5%の炭素含有量を有する材料から構成されている」との記載がそれ自体明瞭であ
ることは明らかである。
(3) したがって,本件発明はその特許請求の範囲中に前記(2)のとおりの記載を含
むとしても,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」以外の
事項が記載されていることになるものではなく,本件発明は前記改正前の特許法3
6条5項2号に反しない。
なお,訂正明細書には前記のとおり,ピンの材料である炭素鋼の炭素含有率の数
値範囲の技術的意義ないし臨界的意義が示されているところ,これは本件発明が属
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する技術分野における通常の知識を有する者,すなわち当業者が容易にその実施を
することができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているといえ
る。したがって,本件発明は前記改正前の特許法36条4項にも反しない。
(4) よって,原告が主張する取消事由5は理由がない。
第6 結論
以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから,主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩 月 秀 平
裁判官
真 辺 朋 子
裁判官
田 邉 実

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