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2011年4月14日木曜日

特許:【相違点認定,容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行ケ)第10016号審決取消請求事件))

特許:【相違点認定,容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行ケ)第10016号審決取消請求事件))


(知財高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行ケ)第10016号審決取消請求事件))

平成22(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年04月14日 知的財産高等裁判所


第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係
る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな
いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,
下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

しかしながら,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸は,あくまでもホイー
ルとガラス面とのスリップを防止する目的のために設けられたものである以上,微
細な山と谷とからなる凹凸にすぎないことについては,原告も争うものではない。
したがって,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸によっては,ガラス表面
にスリップを防止することができる程度の打点が加えられることはあっても,ガラ
ス板に板圧を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる程度の打点衝撃
を与えるものではないことは,引用例1の記載からも明らかである。原告の主張は,
引用発明1の突起の形状や大きさ,作用効果を無視したもので,相当ではない。
また,引用例1に示された図2は,引用発明1の刃先に形成された条痕によって
生じる,ホイールのスリップを防止するという効果は,ホイールにあたかも鋸の刃
先を形成した場合と同等の効果を有することを模式的に説明するために作成された
図にすぎず,引用発明1のホイールの刃先に,同図のような刃先が実際に形成され
ているわけでもない。
したがって,当業者は,図2をもって,「打点衝撃を与える所定形状の突起」に
係る示唆を与えられるものということはできない。原告の主張は,採用できない。
ウ 以上からすると,相違点1―1は,実質的な相違点であるというべきである。


(知財高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行ケ)第10016号審決取消請求事件))
http://chizaibengoshi.appspot.com/20110419105131.html
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2011年3月28日月曜日

特許:【特許法67条の3第1項1号の基準】「基準」,【特許発明の存続期間の延長登録制度の趣旨】「解釈態度」(最高裁判決引用) 等:(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10178号審決取消請求事件))






特許:【特許法67条の3第1項1号の基準】「基準」,【特許発明の存続期間の延長登録制度の趣旨】「解釈態度」(最高裁判決引用) 等:(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10178号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第3部「飯村敏明コート」


平成22(行ケ)10178 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月28日 知的財産高等裁判所


(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10178号審決取消請求事件))


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Last Update: 2011-03-31 13:54:36 JST

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特許:【特許法67条の3第1項1号の基準】「基準」,【特許発明の存続期間の延長登録制度の趣旨】「解釈態度」(最高裁判決引用) 等:(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10177号審決取消請求事件))






特許:【特許法67条の3第1項1号の基準】「基準」,【特許発明の存続期間の延長登録制度の趣旨】「解釈態度」(最高裁判決引用) 等:(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10177号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第3部「飯村敏明コート」


平成22(行ケ)10177 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月28日 知的財産高等裁判所


(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10177号審決取消請求事件))


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【特許法67条の3第1項1号の基準】「基準」,【特許発明の存続期間の延長登録制度の趣旨】「解釈態度」(最高裁判決引用) 等



(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10177号審決取消請求事件))


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判示




第2 争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯


原告は,発明の名称を「抗ウィルス性置換1,3-オキサチオラン」とする特許第2644357号の特許(平成2年2月8日出願〔優先権主張:平成元年2月8日,米国〕,平成9年5月2日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は12である。)の特許権者である。

原告は,平成17年3月24日,本件特許につき,3年6月10日の特許権の存続期間の延長登録の出願(特許権存続期間延長登録願2005-700029号。以下「本件出願」という。)をし,延長の理由として,平成16年12月24日に次の処分(以下「本件処分」という。)がされたことを主張した。

(1) 延長登録の理由となる処分

平成14年法律第96号(平成17年4月1日施行)による改正前の薬事法14条1項(以下「薬事法」という。)に規定する医薬品に係る同項の承認

(2) 処分を特定する番号

承認番号21600AMZ00653000号

(3) 処分の対象となった物

ラミブジンおよび硫酸アバカビル

(4) 処分の対象となった物について特定された用途

HIV感染症

原告は,本件出願について,平成19年12月26日付けで拒絶査定を受けたので,平成20年4月14日,これに対する不服の審判(不服2008-9247号事件)を請求した。

特許庁は,平成22年1月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,同年2月5日,その謄本を原告代理人に送達した。

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2 特許請求の範囲
本件特許の願書に添付された明細書(設定登録時のもの。甲1)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して,「本件発明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という。)。

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3 審決の理由


別紙審決書写しのとおりであり,理由の概要は次のとおりである。

本件処分の対象となった物はラミブジン及び硫酸アバカビルであり,本件処分の対象となった物について特定された用途はHIV感染症であるところ,平成12年3月29日,ラミブジンが有効成分として記載されるエピビル錠について,[効能又は効用]を,「下記疾患患者におけるジドブジンとの併用療法 HIV感染症」から「下記疾患患者における他の抗HIV薬との併用療法 HIV感染症」と変更する医薬品製造承認事項一部変更承認(以下「本件先行処分」という。判決注 審決にいう「先の処分」と同じである。)がなされた。本件先行処分は,HIV感染症の治療におけるジドブジンとの併用療法を,有効成分をラミブジンと他の抗HIV薬とする併用療法に変更するものであるから,実質的に,本件先行処分の対象となった物は「ラミブジンおよび他のHIV薬」であり,本件先行処分の対象となった物について特定された用途は「HIV感染症」である。

そして,硫酸アバカビル(ザイアジェン錠)は,本件先行処分時に既に販売されていた医薬品であり,その効能・効果はHIV感染症であって,用法・用量として,通常,成人には他の抗HIV薬と併用されるものであるところ,本件処分は,ラミブジン(エピビル錠)と抗HIV薬である硫酸アバカビル(ザイアジェン錠)との併用療法が行われていたが,この2種類の抗HIV薬を合剤とすることに関して審査がなされ,合剤であるカイベクサ錠に対して承認がなされたものである。そうすると,本件先行処分でいうラミブジン(エピビル錠)と併用する「他のHIV薬」には,当時既に販売されていた抗HIV薬であって,他の抗HIV医薬と併用されていた硫酸アバカビル(ザイアジェン錠)が含まれる。

したがって,本件処分と本件先行処分とは,処分の対象となった物及び処分の対象となった物について特定された用途のいずれにおいても重複し,本件発明の実施に本件処分が必要であったとは認められないから,本件出願は特許法67条の3第1項1号に該当し,特許権存続期間の延長登録を受けることができない。

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第4 当裁判所の判断


当裁判所は,本件出願に対し,本件先行処分があったことを理由として,本件発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとした審決の判断には,特許法67条の3第1項1号の解釈・適用の誤り(取消事由1)があり,その誤りは,審決の結論に影響するから,審決を取り消すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

従来,先行処分がされた後に,さらに処分(後行処分)がされ,後行処分があったことを理由とする延長登録の出願の可否が争われた事案においては,仮に先行処分を理由として存続期間が延長された場合(なお,本件においては,先行処分に基づく存続期間の延長はされていない。甲13参照)には,その特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという観点(特許法68条の2)を踏まえて検討されてきた。本件においても,例外ではなく,審決は,特許法67条の3第1項1号の解釈に当たっては,同法68条の2の規定と整合させるべきであるなどとして,結論を導いている。

しかし,仮に先行処分を理由として存続期間が延長された場合に,特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという論点は,特許法67条の3第1項1号の要件の充足性(特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったか否か)と,常に直接的に関係する事項であるとはいえない。むしろ,本件を含む,特許権の存続期間の延長登録の出願を拒絶すべきとした審決の判断の当否を検討するに当たっては,拒絶すべきとの査定(審決)の根拠法規である特許法67条の3第1項1号の要件適合性を検討することが必須である。そこで,この観点から検討する。

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1 取消事由1(特許法67条の3第1項1号の解釈・適用の誤り)について

審決は,前記第2,3のとおり,本件先行処分が本件処分の前にされていたから,本件発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとして,本件出願は特許法67条の3第1項1号に該当し,特許権存続期間の延長登録を受けることができないと判断した。

しかし,審決の上記判断には,以下のとおり誤りがある。

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(1) 特許法67条の3第1項1号の趣旨等

ア 特許法67条の3第1項1号の要件

特許法67条の3第1項は,柱書きにおいて,「審査官は,特許権の存続期間の延長登録の出願が次の各号の一に該当するときは,その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と,1号において,「その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,それぞれ規定している。

上記規定によれば,特許法の存続期間の延長登録の出願に関し,同条1項1号所定の拒絶査定をするための処分要件は,「その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき」のみであり,また,その主張,立証責任は,拒絶査定をする被告において負担すると解すべきである。

この点,被告は,特許権の存続期間に関する特許法67条2項において,「特許権の存続期間は,その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的,手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために,その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは,5年を限度として,延長登録の出願により延長することができる。」と規定されていることから,延長登録をすべき旨の査定をするためには,特許法67条の3第1項1号所定の「その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき」との要件が充足されるのみならず,さらに「当該処分の目的,手続等からみて,当該処分を的確に行うには,相当の期間を要する処分である(こと)」との,明文には存在しない付加的な要件も充足されるべきであると主張する。さらに,被告は,「当該処分の目的,手続等からみて,当該処分を的確に行うには,相当の期間を要する処分である(こと)」との要件を充足するためには,「薬事法上の承認の場合には,『相当の期間を要する』ものとしての実質を有する新薬に対する承認処分,すなわち,当該医薬品の『有効成分』及び『効能・効果』についての審査をした新薬に対する承認」に該当する場合に限定されるべきであると主張する。


しかし,被告の同主張は,以下のとおり,失当である。すなわち,特許法67条2項の「当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定める」との部分は,どのような処分を特許権の存続期間の延長の理由とすべきかに関して,特許法が政令に委任するに当たり,処分の目的・手続等の観点から一定の制約を設けた規定にすぎないのであって(なお,特許法施行令3条において,薬事法の承認と農薬取締法の登録が規定されている。),上記の事項が,個別的具体的な事案において,延長登録をすべき旨の査定をするための処分要件になるものではない。

のみならず,特許権の存続期間の延長登録の制度が制定された当初(昭和62年改正法が施行された昭和63年1月1日当時)は,特許発明の実施をすることができなかった期間が2年を超えることを延長登録の要件としていたが,その後,同要件が廃止された(平成11年法律第41号)ことに照らしても,「当該処分を的確に行うには相当の期間を要すること」が,延長登録の要件に含まれるというような解釈が採用できないことは明らかである。また,「薬事法上の承認の場合には,『相当の期間を要する』ものとしての実質を有する新薬に対する承認処分,すなわち,当該医薬品の『有効成分』及び『効能・効果』についての審査をした新薬に対する承認」に限定されるべきであるとの被告の主張も,採用の限りでない。

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イ 特許発明の存続期間の延長登録制度の趣旨

特許権の存続期間の延長登録の制度が設けられた趣旨は,以下のとおりである。

すなわち,「その特許発明の実施」について,特許法67条2項所定の「政令で定める処分」を受けることが必要な場合には,特許権者は,たとえ,特許権を有していても,特許発明を実施することができず,実質的に特許期間が侵食される結果を招く(もっとも,このような期間においても,特許権者が「業として特許発明の実施をする権利」を専有していることに変わりはなく,特許権者の許諾を受けずに特許発明を実施する第三者の行為について,当該第三者に対して,差止めや損害賠償を請求することが妨げられるものではない。したがって,特許権者の被る不利益の内容として,特許権のすべての効力のうち,特許発明を実施できなかったという点にのみ着目したものである。)。そして,このような結果は,特許権者に対して,研究開発に要した費用を回収することができなくなる等の不利益をもたらし,また,一般の開発者,研究者に対しても,研究開発のためのインセンティブを失わせるため,そのような不都合を解消させて,研究開発のためのインセンティブを高める目的で,特許発明を実施することができなかった期間,5年を限度として,特許権の存続期間を延長することができるようにしたものである。

なお,政令で定められた薬事法の承認や農薬取締法の登録は,いわゆる講学上の許可に該当し,製造販売等の行為が,一般的抽象的に禁止され,各行政法規に基づく個別的具体的な処分を受けることによってはじめて,当該行為を行うことが許されるものであるから,特許権者が,許可を得ようとしない限り,当該製造販売等の行為を禁止された法的状態が継続することになる。しかし,特許法は,特許権者が,許可を得ようとしなかった期間も含めて,特許発明を実施することができなかったすべての期間(5年の限度はさておいて)について,存続期間延長の算定の基礎とするのではなく,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった期間,すなわち,当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間に限って,存続期間延長の対象とするものである。この点については,「その特許発明の実施をすることができない期間」とは,「政令で定める処分」を受けるのに必要な試験を開始した日又は特許権の設定登録の日のうちの28いずれか遅い方の日から,当該「政令で定める処分」が申請者に到達することにより処分の効力が発生した日の前日までの期間を意味するとした判例(最高裁判所平成10年(行ヒ)第43号平成11年10月22日・民集53巻7号1270頁参照)からも明らかである。(なお,政令で定められた薬事法の承認行為に,安全性等を確認するという公認的な性格があったとしても,承認行為が,一般的抽象的に禁止された法的状態を解消させるという法律効果を有することに対し,何らかの影響を与えるものではない。)。

このように,特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった特許権者に対して,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について,当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間,特許権の存続期間を延長するという方法を講じることによって,特許発明を実施することができなかった不利益の解消を図った制度であるということができる。そうとすると,「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには,①「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと,及び②「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為(例えば,物の発明にあっては,その物を生産等する行為)に含まれることが前提となり,その両者が成立することが必要であるといえる。

以上の点を前提として整理する。特許法67条の3第1項1号は,「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,審査官(審判官)が,延長登録出願を拒絶するための要件として規定されているから,審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,①「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと,又は,

②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないことのいずれかを論証する必要があるということになる(なお,特許法67条の2第1項4号及び同条2項の規定に照らし,「政令で定める処分」の存在及びその内容については,出願人が主張,立証すべきものと解される。)。換言すれば,審決において,そのような要件に該当する事実がある旨を論証しない限り,同号所定の延長登録の出願を拒絶すべきとの判断をすることはできないというべきである。

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ウ 被告の主張について

被告は,特許権の存続期間延長登録制度が創設された昭和62年法律第27号による法改正の経緯に関する資料等(乙2ないし7)を論拠として,法改正は,「新薬」に対する薬事法所定の承認があった場合に,特許権の存続期間の延長が許されることを予定していた旨主張する。

しかし,被告の主張は失当である。

すなわち,乙2ないし5を検討しても,被告の主張に沿った解釈を根拠づけるような記載は見当たらない。また,乙7は,上記改正法を審議・成立させた当時の国会議事録であるが,これによっても,国会において,被告の解釈を前提とするような審議がされた事実は認められず,むしろ,特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分は,薬事法所定の承認に限らないものであり,後に特許法施行令に追加された農薬取締法などに拡大することについて審議されたことが認められる(10ないし11頁)。

また,通商産業省(当時)及び特許庁の内部資料である「法令審査原案および関係資料」(乙6)には,被告の主張に沿う部分があるが,上記資料に記載された見解は,法案が作成された当時の通商産業省及び特許庁担当職員の認識を示すものにすぎず,上記のとおり,国会の審議が,そのような認識を前提としてされた事実はない以上,上記担当職員の当時の認識に即して,法解釈をしなければならない理由は見いだせない。

したがって,被告の上記主張は採用の限りではない。

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(2) 本件事案について

上記(1) の観点に基づき,本件出願について,特許法67条の3第1項1号の要件に該当する事実,すなわち,①「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと,又は,②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないことのいずれかの立証が尽くされているか否かを検討する。

まず,甲2,5,13,上記第2,1記載の事実及び弁論の全趣旨によれば,本件処分の対象である本件医薬品は,本件特許の設定登録日(平成9年5月2日)よりも後である平成13年6月13日に臨床試験が開始され,平成16年12月24日に本件処分を受けたことが認められる。これに対して,被告は,本件処分によっては本件医薬品の製造等に係る禁止が解除されていないことを立証しない。したがって,前記①の要件,すなわち「『政令で定める処分』を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえない」との要件を充足していない。

次に,甲1,2,13,上記第2,1記載の事実及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の登録された通常実施権者であるグラクソ・スミスクライン株式会社が本件処分を受けたが,本件処分の対象となった物は「ラミブジンおよび硫酸アバカビル」,処分の対象となった物について特定された用途は「HIV感染症」であり,本件医薬品はラミブジンと硫酸アバカビルの合剤であること,本件発明12は,「請求項1から9のいずれかに記載の式(Ⅰ)で表される化合物を付加的な活性成分と組み合わせて含む,抗ウイルス用医薬組成物。」であることが認められる。そうすると,文言上,ラミブジンと硫酸アバカビルの合剤は「抗ウイルス用医薬組成物」に該当し,ラミブジンは,本件特許の明細書の請求項5ないし7に記載されるシス-2-ヒドロキシメチル-5-(シトシン-1´-イル)-1,3-オキサチオランであって,「請求項1から9のいずれかに記載の式(Ⅰ)で表される化合物」に該当し,硫酸アバカビルは活性物質であるから,「付加的な活性成分と組み合わせて含む」という要件も充足することとなり,本件医薬品の製造は,本件発明の実施に該当する行為に含まれると解される(この点につき,被告は明らかに争わない。)。一方,被告は,本件処分によって禁止が解除された行為(本件医薬品の製造)が本件発明の実施に該当する行為に含まれないことを立証しない。したがって,前記②の要件,すなわち「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれない」との要件も充足しないといえる。

なお,本件処分の前である平成12年3月29日に,本件先行処分が存在し,本件先行処分を受けたのは,本件特許の登録された通常実施権者であるグラクソ・ウェルカム株式会社(平成18年3月14日にグラクソ・スミスクライン株式会社に表示の変更をした。)である(甲13)。しかし,本件医薬品の製造には,本件先行処分の存在によってもなお,薬事法上,本件処分を受けることが必要であったものであるから,上記の点は結論を左右しない。

したがって,本件出願について,特許法67条の3第1項1号の要件に該当する事実があるといえず,本件出願が同号に該当するとしてこれを拒絶した審決には誤りがあり,結論に影響を及ぼすことは明らかである。

2 小括

以上のとおり,原告主張の取消事由1には理由があるから,その余の争点について判断するまでもなく,審決は違法として取り消されるべきである。これに対し,被告は,上記以外にも縷々反論するが,いずれも採用の限りでない。

第5 結論

よって,原告の請求は理由があるから,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官飯 村 敏 明



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[特許法67条の3第1項1号の解釈に当たっての同法68条の2の規定との関係]「解釈態度」


「仮に先行処分を理由として存続期間が延長された場合に,特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという論点は,特許法67条の3第1項1号の要件の充足性(特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったか否か)と,常に直接的に関係する事項であるとはいえない。むしろ,本件を含む,特許権の存続期間の延長登録の出願を拒絶すべきとした審決の判断の当否を検討するに当たっては,拒絶すべきとの査定(審決)の根拠法規である特許法67条の3第1項1号の要件適合性を検討することが必須である。」(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10177号審決取消請求事件))


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[特許法67条の3第1項1号の要件]「解釈」


「特許法67条の3第1項は,柱書きにおいて,「審査官は,特許権の存続期間の延長登録の出願が次の各号の一に該当するときは,その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と,1号において,「その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,それぞれ規定している。
 上記規定によれば,特許法の存続期間の延長登録の出願に関し,同条1項1号所定の拒絶査定をするための処分要件は,「その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき」のみであり,また,その主張,立証責任は,拒絶査定をする被告において負担すると解すべきである。」(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10177号審決取消請求事件))

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【特許発明の存続期間の延長登録制度の趣旨】「解釈態度」(最高裁判決引用)


「特許権の存続期間の延長登録の制度が設けられた趣旨は,以下のとおりである。

すなわち,「その特許発明の実施」について,特許法67条2項所定の「政令で定める処分」を受けることが必要な場合には,特許権者は,たとえ,特許権を有していても,特許発明を実施することができず,実質的に特許期間が侵食される結果を招く(もっとも,このような期間においても,特許権者が「業として特許発明の実施をする権利」を専有していることに変わりはなく,特許権者の許諾を受けずに特許発明を実施する第三者の行為について,当該第三者に対して,差止めや損害賠償を請求することが妨げられるものではない。したがって,特許権者の被る不利益の内容として,特許権のすべての効力のうち,特許発明を実施できなかったという点にのみ着目したものである。)。そして,このような結果は,特許権者に対して,研究開発に要した費用を回収することができなくなる等の不利益をもたらし,また,一般の開発者,研究者に対しても,研究開発のためのインセンティブを失わせるため,そのような不都合を解消させて,研究開発のためのインセンティブを高める目的で,特許発明を実施することができなかった期間,5年を限度として,特許権の存続期間を延長することができるようにしたものである。

なお,政令で定められた薬事法の承認や農薬取締法の登録は,いわゆる講学上の許可に該当し,製造販売等の行為が,一般的抽象的に禁止され,各行政法規に基づく個別的具体的な処分を受けることによってはじめて,当該行為を行うことが許されるものであるから,特許権者が,許可を得ようとしない限り,当該製造販売等の行為を禁止された法的状態が継続することになる。しかし,特許法は,特許権者が,許可を得ようとしなかった期間も含めて,特許発明を実施することができなかったすべての期間(5年の限度はさておいて)について,存続期間延長の算定の基礎とするのではなく,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった期間,すなわち,当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間に限って,存続期間延長の対象とするものである。この点については,「その特許発明の実施をすることができない期間」とは,「政令で定める処分」を受けるのに必要な試験を開始した日又は特許権の設定登録の日のうちの28いずれか遅い方の日から,当該「政令で定める処分」が申請者に到達することにより処分の効力が発生した日の前日までの期間を意味するとした判例(最高裁判所平成10年(行ヒ)第43号平成11年10月22日・民集53巻7号1270頁参照)からも明らかである。(なお,政令で定められた薬事法の承認行為に,安全性等を確認するという公認的な性格があったとしても,承認行為が,一般的抽象的に禁止された法的状態を解消させるという法律効果を有することに対し,何らかの影響を与えるものではない。)。

このように,特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった特許権者に対して,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について,当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間,特許権の存続期間を延長するという方法を講じることによって,特許発明を実施することができなかった不利益の解消を図った制度であるということができる。そうとすると,「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには,①「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと,及び②「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為(例えば,物の発明にあっては,その物を生産等する行為)に含まれることが前提となり,その両者が成立することが必要であるといえる。」(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10177号審決取消請求事件))

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【特許法67条の3第1項1号の基準】


「特許法67条の3第1項1号は,「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,審査官(審判官)が,延長登録出願を拒絶するための要件として規定されているから,審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,

①「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと,又は,

②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないことのいずれかを論証する必要があるということになる(なお,特許法67条の2第1項4号及び同条2項の規定に照らし,「政令で定める処分」の存在及びその内容については,出願人が主張,立証すべきものと解される。)。換言すれば,審決において,そのような要件に該当する事実がある旨を論証しない限り,同号所定の延長登録の出願を拒絶すべきとの判断をすることはできないというべきである。 」(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10177号審決取消請求事件))

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ウ 被告の主張について

被告は,特許権の存続期間延長登録制度が創設された昭和62年法律第27号による法改正の経緯に関する資料等(乙2ないし7)を論拠として,法改正は,「新薬」に対する薬事法所定の承認があった場合に,特許権の存続期間の延長が許されることを予定していた旨主張する。

しかし,被告の主張は失当である。

すなわち,乙2ないし5を検討しても,被告の主張に沿った解釈を根拠づけるような記載は見当たらない。また,乙7は,上記改正法を審議・成立させた当時の国会議事録であるが,これによっても,国会において,被告の解釈を前提とするような審議がされた事実は認められず,むしろ,特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分は,薬事法所定の承認に限らないものであり,後に特許法施行令に追加された農薬取締法などに拡大することについて審議されたことが認められる(10ないし11頁)。

また,通商産業省(当時)及び特許庁の内部資料である「法令審査原案および関係資料」(乙6)には,被告の主張に沿う部分があるが,上記資料に記載された見解は,法案が作成された当時の通商産業省及び特許庁担当職員の認識を示すものにすぎず,上記のとおり,国会の審議が,そのような認識を前提としてされた事実はない以上,上記担当職員の当時の認識に即して,法解釈をしなければならない理由は見いだせない。

したがって,被告の上記主張は採用の限りではない。

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【あてはめ部分】


(2) 本件事案について

上記(1) の観点に基づき,本件出願について,特許法67条の3第1項1号の要件に該当する事実,すなわち,①「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと,又は,②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないことのいずれかの立証が尽くされているか否かを検討する。

まず,甲2,5,13,上記第2,1記載の事実及び弁論の全趣旨によれば,本件処分の対象である本件医薬品は,本件特許の設定登録日(平成9年5月2日)よりも後である平成13年6月13日に臨床試験が開始され,平成16年12月24日に本件処分を受けたことが認められる。これに対して,被告は,本件処分によっては本件医薬品の製造等に係る禁止が解除されていないことを立証しない。したがって,前記①の要件,すなわち「『政令で定める処分』を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえない」との要件を充足していない。

次に,甲1,2,13,上記第2,1記載の事実及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の登録された通常実施権者であるグラクソ・スミスクライン株式会社が本件処分を受けたが,本件処分の対象となった物は「ラミブジンおよび硫酸アバカビル」,処分の対象となった物について特定された用途は「HIV感染症」であり,本件医薬品はラミブジンと硫酸アバカビルの合剤であること,本件発明12は,「請求項1から9のいずれかに記載の式(Ⅰ)で表される化合物を付加的な活性成分と組み合わせて含む,抗ウイルス用医薬組成物。」であることが認められる。そうすると,文言上,ラミブジンと硫酸アバカビルの合剤は「抗ウイルス用医薬組成物」に該当し,ラミブジンは,本件特許の明細書の請求項5ないし7に記載されるシス-2-ヒドロキシメチル-5-(シトシン-1´-イル)-1,3-オキサチオランであって,「請求項1から9のいずれかに記載の式(Ⅰ)で表される化合物」に該当し,硫酸アバカビルは活性物質であるから,「付加的な活性成分と組み合わせて含む」という要件も充足することとなり,本件医薬品の製造は,本件発明の実施に該当する行為に含まれると解される(この点につき,被告は明らかに争わない。)。一方,被告は,本件処分によって禁止が解除された行為(本件医薬品の製造)が本件発明の実施に該当する行為に含まれないことを立証しない。したがって,前記②の要件,すなわち「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれない」との要件も充足しないといえる。

なお,本件処分の前である平成12年3月29日に,本件先行処分が存在し,本件先行処分を受けたのは,本件特許の登録された通常実施権者であるグラクソ・ウェルカム株式会社(平成18年3月14日にグラクソ・スミスクライン株式会社に表示の変更をした。)である(甲13)。しかし,本件医薬品の製造には,本件先行処分の存在によってもなお,薬事法上,本件処分を受けることが必要であったものであるから,上記の点は結論を左右しない。

したがって,本件出願について,特許法67条の3第1項1号の要件に該当する事実があるといえず,本件出願が同号に該当するとしてこれを拒絶した審決には誤りがあり,結論に影響を及ぼすことは明らかである。

2 小括

以上のとおり,原告主張の取消事由1には理由があるから,その余の争点について判断するまでもなく,審決は違法として取り消されるべきである。これに対し,被告は,上記以外にも縷々反論するが,いずれも採用の限りでない。

第5 結論

よって,原告の請求は理由があるから,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官飯 村 敏 明


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最縮小版:【特許法67条の3第1項1号の基準】「基準」



「特許法67条の3第1項1号は,「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,審査官(審判官)が,延長登録出願を拒絶するための要件として規定されているから,審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,

①「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと,又は,

②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないことのいずれかを論証する必要があるということになる(なお,特許法67条の2第1項4号及び同条2項の規定に照らし,「政令で定める処分」の存在及びその内容については,出願人が主張,立証すべきものと解される。)。換言すれば,審決において,そのような要件に該当する事実がある旨を論証しない限り,同号所定の延長登録の出願を拒絶すべきとの判断をすることはできないというべきである。 」(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10177号審決取消請求事件))




H230331現在のコメント


(知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(行ケ)第10177号審決取消請求事件))

【特許法67条の3第1項1号の基準】が判断されています。

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Last Update: 2011-03-31 12:50:13 JST

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2011年3月24日木曜日

特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10268号審決取消請求事件))






特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10268号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10268 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月24日 知的財産高等裁判所


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10268号審決取消請求事件))


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【容易想到性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10268号審決取消請求事件))

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判示・縮小版なし【容易想到性】「事実認定」





第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。



第4 当裁判所の判断

1 本願発明について
(1) 本願発明の構成
本願発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりであり,本願明細書
(甲5)の発明の詳細な説明の記載によれば,従来,水酸化金属セルやリチウムイ
オン・セル等を用いたセル(電池)である「エネルギー貯蔵装置」における過少充
電や過大充電による破損や破裂を防止するための,残実行時間や充電時間の決定の
ためのチャージ・レベルのゲージング,充放電処理の管理及びホスト・デバイス等


  • 14 -


との通信等を行う電気的アプライアンスに関して,セルを直列に接続した場合の個
々のセル電圧がセル間において平衡のままでない場合があることから,セルを監視
して電流を停止したり,最初にフル・チャージに達したセルからフル・チャージ以
下の電圧にあるセルにエネルギーを転送するための平衡回路を設ける例が存在した
(【0002】~【0005】)。本願発明は,このような従来技術を改良するた
めに,「セル間でエネルギーを転送するための電流ポンプ回路」が「直列電気イン
ターフェイス」によって直列に接続された「エネルギー貯蔵装置コントローラ」に
より制御され,この「エネルギー貯蔵装置コントローラ」がさらに「直列電気イン
ターフェイス」により接続された「中央コントローラ」により制御されるようにす
るとともに,この「中央コントローラ」を「測定機能」と「測定機能から分離され
たチャージ移動機能」とを有することによって「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事
前に予測可能な」ものとして構成したものであることが認められる(【0022】
【0035】~【0044】【0052】~【0058】)。
(2) 「測定機能」と「前記測定機能から分離されたチャージ移動機能」の技術
的意義について
ア 本願発明の特許請求の範囲の記載においては,「測定機能」と「前記測定機
能から分離されたチャージ移動機能」は,「中央コントローラ」が有するものであ
り,これにより「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測可能な」ものであるこ
とが示されているものの,これらの機能の具体的な技術内容は記載されていない。
イ 本願明細書の発明の詳細な説明の記載には,エネルギー貯蔵装置コントロー
ラによって2つのエネルギー貯蔵装置間の平衡回路においてエネルギー貯蔵装置電
圧を等しくするために用いられるアルゴリズムである負荷適応ポンピング平衡アル
ゴリズムにおいて「測定フェーズ」と「平衡フェーズ」が反復され,測定フェーズ
の間は平衡電流が許されず,平衡フェーズの間は測定が許されないこと,この測定
フェーズの間,エネルギー貯蔵装置コントローラは,先の平衡期間中のチャージ移
動の方向を示す転送の方向ビットを貯蔵しつつ,二つのエネルギー貯蔵装置のそれ


  • 15 -


ぞれの瞬時エネルギー貯蔵装置電圧(Vn,meas)を測定すること,他方,平衡フェ
ーズの間,測定期間の結果,すなわち,貯蔵された転送の方向ビットに応じてエネ
ルギー貯蔵装置1からエネルギー貯蔵装置2に,あるいはエネルギー貯蔵装置2か
らエネルギー貯蔵装置1に電荷を転送することが記載されている(【0035】~
【0044】)。また,平衡アルゴリズムがエネルギー貯蔵装置コントローラ間に
分配された例のみならず,平衡アルゴリズムを集中化するに当たって,例えば,エ
ネルギー貯蔵装置の電圧をエネルギー貯蔵装置コントローラと連通する中央コント
ローラのようなマスター・コントローラにおいて利用可能にすることができること
が記載されている(【0052】~【0054】)。
ウ そうすると,特許請求の範囲の記載における「測定機能」及び「チャージ移
動機能」を「中央コントローラ」が有することは,エネルギー貯蔵装置コントロー
ラのみならずエネルギー貯蔵装置の電圧を利用可能な中央コントローラが制御を行
う集中化された負荷適応ポンピング平衡アルゴリズムを実施するに当たって,この
「中央コントローラ」が「測定フェーズ」における電圧の測定及び「平衡フェー
ズ」における電荷の転送に係る機能を担うことを意味しているものであり,また,
「チャージ移動機能」が「測定機能から分離された」ものであることは,測定フェ
ーズの期間中は平衡電流すなわち電荷の転送を行わず,逆に平衡フェーズの期間中
は測定を行わないという関係にあることを表現したものと解される。
なお,原告は,本願明細書に「測定機能」についての記載がある旨を主張する。
しかしながら,本願明細書(【0033】)は,本願発明の「エネルギー貯蔵装置
コントローラ」に対応する「貯蔵装置コントローラ604」の構成に関する記載で
あるから,この記載が「中央コントローラ」が有する機能である「測定機能」を裏
付けるとすることはできない。むしろ,上記のとおり,本願発明にいう「測定機
能」とは,中央コントローラを用いて集中化された負荷適応ポンピング平衡アルゴ
リズムにおいて中央コントローラが「測定フェーズ」において行う測定の機能に対
応するものである。


  • 16 -


(3) 「エネルギー貯蔵装置の不均衡」の技術的意義について
ア 本願発明の特許請求の範囲の記載においては,「エネルギー貯蔵装置の不均
衡を事前に予測可能な」との文言の「不均衡」の具体的な内容が記載されていない。
とりわけ,この文言がエネルギー貯蔵装置のキャパシティの不均衡のみを意味する
ことの記載はなく,文言の上では,キャパシティ以外の不均衡を含んでいる。
イ そして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載においても,この文言がエネ
ルギー貯蔵装置のキャパシティの不均衡のみを意味することは示されていない。
すなわち,「均衡」と「平衡」とは同義であってこれらを区別する理由がなく,
このことから,発明の詳細な説明における「不均衡」には,上記(2)の「負荷適応
ポンピング平衡アルゴリズム」における平衡フェーズにおいて転送される電荷によ
って是正されるエネルギー貯蔵装置間の不均衡が含まれており,具体的には,各エ
ネルギー貯蔵装置間の「電圧値」や「負荷電流変化による電圧エクスカーション」
(【0036】)の不均衡が含まれていると解すべきである。
2 取消事由1(引用発明の認定の誤り及び対比の誤り)について
(1) 制御回路について
ア 本願発明
本願発明の「電流ポンプ回路」は,特許請求の範囲に記載のとおり,「エネルギ
ー貯蔵装置コントローラの少なくとも1つによって制御され」るものであり,か
つ,1つの「エネルギー貯蔵装置」と他の「エネルギー貯蔵装置」との間でエネル
ギーを転送するためのものである。
イ 引用発明
引用例1(甲1)の課題を解決するための手段の記載には,引用発明の電池管理
装置は,「電子モジュール」が含む「電池要素」の「端子」における「電圧を調節
する」ように「意図されている」「電子回路」を含むことが記載されている(【0
007】【0013】【0020】)。
そして,電池要素は直列に接続されており(【0007】【図1】),このこと


  • 17 -


から,両端の電池要素を除けば,電池要素の端子はその電池要素の一方の極とこれ
と直列に接続された他の電池要素の他方の極との間の等電位の導体上,すなわち電
池要素の間に位置している。
また,制御ユニットから伝送されたコマンドを受けた管理モジュールは,そのコ
マンドを制御信号に変換して,電圧を調節するように意図された回路に出力するこ
とによって,この回路を制御している。
以上によると,本件審決が,引用発明について,「電池要素の間でその端子にお
ける電圧を調節するように意図された電子回路」が管理モジュールにより制御され
るものと認定したことに誤りはない。
ウ 対比
本願発明の「前記エネルギー貯蔵装置コントローラの少なくとも1つによって制
御され,前記エネルギー貯蔵装置の各個々の1つと前記エネルギー貯蔵装置の他の
個々の1つとの間でエネルギーを転送するための電流ポンプ回路」と,引用発明の
「複数の電池要素の管理モジュール4の少なくとも1つによって制御されて,電池
要素2の間でその端子における電圧を調節するように意図されている電子回路」と
を対比すると,「エネルギー貯蔵装置コントローラの少なくとも1つによって制御
された回路」である点において,両者は一致する。
そして,この回路が,本願発明では「エネルギー貯蔵装置の各個々の1つと前記
エネルギー貯蔵装置の他の個々の1つとの間でエネルギーを転送するための電流ポ
ンプ回路」であるのに対し,引用発明では「その端子における電圧を調節するよう
に意図されている電子回路」である点において,相違する。
エ 小括
以上によれば,本件審決の制御回路に係る引用発明の認定と対比及び相違点1の
認定に,誤りはない。
オ 原告の主張に対する判断
(ア) 原告は,引用例1では,引用発明の1つの管理モジュールは,1つの電池


  • 18 -


要素の出力電圧を調節するものであり,「複数の電池要素の間でその端子における
電圧を調節するように意図されている」とした本件審決は誤りであると主張する。
しかしながら,本件審決は,相違点1において,引用発明が複数の電池要素間で
エネルギーを転送するものでないことを前提とした判断をしている。よって,本件
審決は,電池の全体の動作を調節するために(【0013】)複数の電池要素の間
に位置する端子における電圧を調節することを「各電池要素2の間でその端子にお
ける電圧を調節する」と表現したものであり,引用発明が複数の電池要素間でエネ
ルギーを転送すると認定したわけではない。
(イ) 原告は,「制御ユニット」が「電池要素の電圧を調節する手段」を有する
のであれば,「電子回路」が管理モジュールによって制御されるとは意味不明であ
り,管理モジュールのどの部分が「電子回路」を制御するのか不明であり,また,
引用例1の同じ構成を根拠として「電子回路」と制御ユニットが有する「電池要素
2の電圧を調節する手段」という2つの別個の構成を認定した本件審決では,認定
に矛盾が生じると主張する。
しかしながら,引用例1の記載(【0020】)によると,引用発明において
は,制御ユニット5から管理モジュール4へという方向に,電池要素の動作を調節
するために用いられるアナログ信号に変換されるコマンドが伝送され,そうして伝
送されたコマンドを受けた管理モジュールがコマンドをアナログ制御信号に変換し
これを出力して電圧を調節している。このことから,本件審決は,このうちの制御
ユニットが担う,電池要素の動作を調節するためにコマンドを伝送する機能を「電
池要素2の電圧を調節する手段」と認定し,他方,制御ユニットからのコマンドを
受けた管理モジュールの機能を踏まえて,「電池要素」の「端子における電圧を調
節するように意図されている電子回路」が管理モジュールによって制御されること
を認定したものである。
また,引用発明は,本願発明と対比できるように認定されるべきであるから,本
願発明の「電流ポンプ回路」が「エネルギー貯蔵装置コントローラの少なくとも1


  • 19 -


つ」により制御されることと対比するに当たっては,引用発明の「電圧を調節する
ように意図された電子回路」が「電子モジュール」により制御されることが認定さ
れれば十分であり,電子モジュールのどの部分により制御されるかが特定される必
要はない。
(2) 中央コントローラについて
ア 本願発明
原告は,本件審決の引用発明の「管理モジュール」が本願発明の「エネルギー貯
蔵装置コントローラ」に相当するとした本件審決の認定を争っておらず,また,取
消事由1は,「電池要素の状態とその時間的な進展に関する多くのパラメータを監
視する手段及び電池要素の電圧を調節する手段」を「制御ユニット」ではなく「管
理モジュール」が有することを根拠としているから,原告の主張は,本願発明の
「測定機能」及び「チャージ移動機能」を「中央コントローラ」が有すること,そ
して,この「中央コントローラ」は,引用発明の「管理モジュール」ではなく「制
御ユニット」に対応することを前提とするものである。
そして,本願発明の「測定機能」と「チャージ移動機能」が,エネルギー貯蔵装
置コントローラと中央コントローラとを用いた平衡アルゴリズムを実施するに当た
って「測定フェーズ」における電圧の測定及び「平衡フェーズ」における電荷の転
送に係る「中央コントローラ」が担う機能を意味することは,前記1(2)のとおり
である。
イ 引用発明
引用例1(甲1)には,管理モジュールから制御ユニットへという方向に,各電
池要素に接続された管理モジュールが電圧測定回路を用いて電池要素の電圧を測定
してこれをデジタル化した電池要素の物理的な動作パラメータが伝送されているこ
と,これとは逆方向となる,制御ユニットから管理モジュールへという方向に,電
池要素の動作を調節するために用いられるアナログ信号に変換されるコマンドが伝
送されていること,制御ユニットが電池の全体の動作を最適にするように全ての管


  • 20 -


理モジュールの動作を調整し電池の端子における電圧を調節することが記載されて
いる(【0013】【0015】【0016】【0020】【0021】)。
そうすると,引用例1の制御ユニットは,管理モジュールからパラメータとして
伝送され測定された電圧を受け取ってこれに基づき電池の全体の動作を最適にすべ
く電池要素の端子の電圧を調節するようにコマンドを伝送するのであるから,伝送
された電圧を受け取る機能と,電池の全体の動作を最適にすべく電池要素の端子の
電圧を調節する機能とを担うものである。
なお,物理的な動作パラメータの伝送方向とコマンドの伝送方向とが逆方向であ
るから,引用例1のコマンドは,パラメータが伝送されている間は伝送されず,ま
た,パラメータは,コマンドが伝送されている間は伝送されない。
ウ 対比
以上によると,引用発明の「パラメータとして伝送された電圧を受け取る機能」
は,測定された電圧が中央コントローラに伝送される間,すなわち,上記アの「測
定フェーズ」において,中央コントローラが担う機能であり,本願発明の「測定機
能」に相当するものである。
そして,引用発明の「コマンドを伝送して電池の全体の動作を最適にすべく電池
要素の端子の電圧を調節する機能」は,この測定フェーズでない期間に「中央コン
トローラ」が担う機能,すなわち,測定機能から分離された機能であり,かつ,電
池の動作をより望ましく調節する機能である点で,本願発明の「測定機能から分離
されたチャージ移動機能」に対応する。
よって,中央コントローラが測定機能と測定機能から分離された電池の動作をよ
り望ましく調節する機能を有する点では,両者は一致している。
そして,この測定機能から分離された機能が本願発明では「チャージ移動機能」
であるのに対し,引用発明では「コマンドを伝送して電池の全体の動作を最適にす
べく電池要素の端子の電圧を調節する機能」である点において相違する。また,本
願発明の「中央コントローラ」が「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測可


  • 21 -


能」であるのに対し,引用発明の「中央コントローラ」が「エネルギー貯蔵装置の
不均衡を事前に予測可能」であるか否かは不明である点において,相違するもので
ある。
エ 小括
以上によれば,本件審決の中央コントローラに係る引用発明の認定と対比及び相
違点2の認定に,誤りはない。
オ 原告の主張に対する判断
原告は,引用発明における電池要素の状態とその時間的な進展に関する多くのパ
ラメータを監視する手段及び電池要素の電圧を調節する手段は,制御ユニットが有
するのではなく,管理モジュールが有すると主張する。
しかし,本願発明の「中央コントローラ」は,引用発明の「管理モジュール」で
はなく「制御ユニット」に対応する構成であるから,「測定機能」及び「チャージ
移動機能」に相当する構成を引用発明の「制御ユニット」が有するか否かが問題で
あって,「管理モジュール」が有する機能は,この点の対比と無関係である。
そして,本願発明の「測定機能」と「チャージ移動機能」とが,エネルギー貯蔵
装置コントローラと中央コントローラとを用いた平衡アルゴリズムにおける「測定
フェーズ」における電圧の測定及び「平衡フェーズ」における電荷の転送に係る
「中央コントローラ」が担う機能を意味するところ,引用発明の制御ユニットは,
測定された電圧を示すパラメータが伝送されることによって測定されて伝送された
電圧を参照する機能とコマンドを伝送することによって電池要素の端子間の電圧を
調節する機能を担っていることは,上記アのとおりである。
(3) エネルギー均衡手段について
ア 本願発明
本願発明の「電圧絶縁双方向の通信を提供するエネルギー貯蔵装置コントローラ
間の直列電気インターフェイス」は,さらに,一のエネルギー貯蔵装置コントロー
ラを「中央コントローラ」を接続するとともに,「エネルギー貯蔵装置間でエネル


  • 22 -


ギーを転送するためにエネルギー貯蔵装置コントローラを制御する」ためのもので
ある。
イ 引用発明
引用例1(甲1)には,キャパシタによって直流電気の絶縁が得られた上での情
報の交換のために管理モジュールを直列に接続するデジタル連絡装置であって,さ
らに,最後の管理モジュールを制御ユニットに接続するものが記載されている
(【0015】【0016】【図1】)。また,このデジタル接続装置は,「両方
向」ラインであり,ここの「情報の交換」には,「制御ユニット」からの「コマン
ド」の伝送が含まれており,このコマンドは,これを受けた管理モジュールが電圧
を調節するように意図された回路を制御するためのものである(【0013】【0
020】)。
ウ 対比
以上によると,引用発明の「キャパシタによって直流電気の絶縁が得られた」,
「両方向」及び「コマンドの伝送を含む情報の交換」は,本願発明の「電圧絶
縁」,「双方向」及び「通信を提供」に相当し,引用発明の管理モジュールを直列
に接続する「デジタル連絡装置」は,「エネルギー貯蔵装置コントローラ間の「電
圧絶縁双方向の通信を提供」し,さらに,一のエネルギー貯蔵装置コントローラを
「中央コントローラ」に接続する点において,本願発明の「直列電気インターフェ
イス」に対応するということができる。
そして,この「直列電気インターフェイス」による通信の提供が,本願発明では
「エネルギー貯蔵装置間でエネルギーを転送するためにエネルギー貯蔵装置コント
ローラを制御する」ためであるのに対し,引用発明では管理モジュールが電圧を調
節するように意図された回路を制御するためである点において相違する。
エ 小括
以上によれば,本件審決のエネルギー均衡手段に係る引用発明の認定と対比及び
相違点3の認定に,誤りはない。


  • 23 -


オ 原告の主張に対する判断
(ア) 原告は,引用発明の管理モジュールは,電池要素から他の電池要素へ電荷
を転送し得る構成を有するものでないとして,引用例1は,管理モジュールがデジ
タル連絡装置で直列に接続されて2進情報の交換が可能であるものの,電池要素の
端子における電圧を調節するために異なる管理モジュールの間で情報を交換するた
めにデジタル連絡装置を直列に接続することを記載していないと主張する。
しかしながら,本件審決が,引用発明として「前記電池要素2の端子における電
圧を調節するために異なる管理モジュール4の間で情報を交換するために…デジタ
ル連絡装置で直列に接続され」と認定したのは,引用発明の管理モジュールを直列
に接続する「デジタル接続装置」におけるコマンドの伝送を含む情報の交換が,管
理モジュールが電池の全体の動作を調節するために(【0013】)電圧を調節す
るように意図された回路を制御するためであることをいう趣旨と解される。そし
て,相違点1として,「エネルギー貯蔵装置コントローラの少なくとも1つによっ
て制御された回路」が,本願発明のような「エネルギー貯蔵装置の各個々の1つと
前記エネルギー貯蔵装置の他の個々の1つとの間でエネルギーを転送するための電
流ポンプ回路」でないことを認定していることからすれば,本件審決は,引用発明
が電池要素から他の電池要素へ電荷を転送し得る構成を有しないことを前提として
おり,上記認定が電池要素間の電荷の転送を行わせるためという趣旨でないことは
明らかである。
(イ) 原告は,引用例1(【0015】)が,管理モジュールが制御ユニットに
対して他の管理モジュールを介して情報を送受信することを記載したのであり,管
理モジュールの間で情報を交換することを意味するわけではないと主張する。
しかしながら,そもそも本願発明における直列電気インターフェースも「エネル
ギー貯蔵装置コントローラ」間を接続することを特定するものの,これらの間で情
報が交換されることまでは特定されていない。本願発明が「エネルギー貯蔵装置」
間での「エネルギーを転送」することは情報の交換の態様と関係がないから,エネ


  • 24 -


ルギー貯蔵装置コントローラ」間で情報を交換することまでを意味するものではな
い。
(4) 小括
以上のとおり,取消事由1は,理由がない。
3 取消事由2(相違点に対する判断の誤り)について
(1) 相違点1及び3について
ア 米国特許第5631534号明細書(乙1)には,配列(直列接続)された
バッテリ(電池)間の充電をバランスさせるために全てのバッテリの相対的な充電
状態を認識すべく個別のバッテリの電圧を監視する旨の記載がある。また,特開平
11-103534号公報(乙2)には,満充電でない場合においても電圧の均衡
化を行う旨の記載がある(【0003】)。
このように,「直列接続された二次電池を充電する回路」において「各二次電池
の電圧を同じにするように制御する」ことは周知の課題である。そうすると,直列
接続された二次電池の充電に当たって各二次電池の電圧が同じである方がより望ま
しいことは,そのような充電のための回路を設計する当業者が当然に考慮すべき事
項である。
したがって,直列接続された二次電池の充電に関する引用発明において各二次電
池の電圧が同じである方がより望ましいことは自明な課題であるとの本件審決の認
定に誤りはない。
イ また,引用発明に引用例2に記載された技術の適用を阻害する要因の記載
は,見当たらない。
上記アのとおり,引用発明においても,各二次電池の電圧が同じである方がより
望ましいのであり,各二次電池の電圧を同じにすべきでないという理由で同じにす
る制御を行っていないわけではない。
よって,引用発明がこのような制御を行っていないからといって,引用例2に記
載された技術の適用が阻害されるとはいえない。


  • 25 -


ウ 以上のとおり,各二次電池の電圧が同じである方がより望ましい引用発明に
おける「その端子における電圧を調節するように意図されている電子回路」に換え
て,引用例2に記載された複数の電池要素間でエネルギーを転送する平衡回路を採
用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
エ よって,本件審決の相違点1及び3の判断に誤りはない。
(2) 相違点2について
ア 相違点2のうち,まず,「(中央コントローラが有する)測定機能から分離
された電池の動作をより望ましく調節する機能」が,本願発明では「チャージ移動
機能」であるのに対し,引用発明では「コマンドを伝送して電池の全体の動作を最
適にすべく電池要素の端子の電圧を調節する機能」である点は,相違点1に付随す
るものである。すなわち,相違点1の判断において,各二次電池の電圧が同じであ
る方がより望ましい引用発明における引用例2に記載された複数の電池要素間でエ
ネルギーを転送する平衡回路に伴って,引用発明の「電池の動作をより望ましく調
節する機能」も「エネルギーを転送する機能」,すなわち,「チャージ移動機能」
となるものである。
イ 次に,相違点2のうち,本願発明の「中央コントローラ」が「エネルギー貯
蔵装置の不均衡を事前に予測可能」であるのに対し,引用発明の「中央コントロー
ラ」が「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測可能」であるか否かは不明であ
る点について検討する。
(ア) まず,制御工学の技術分野において,被制御要素の状態の観測を通してそ
の状態を事前に予測することは一般的に行われている制御手法であり,当業者にお
いて自明なことである(甲3,4)。
(イ) 本願明細書には,電荷の状態が異なる理由として,キャパシティが同じで
あるが初期電荷が異なる場合とキャパシティに差がある場合とがあり得ることが記
載され(【0052】),「平衡アルゴリズム」がエネルギー貯蔵装置コントロー
ラ間に分配された例のみならず,平衡アルゴリズムを集中化するに当たって,例え


  • 26 -


ば「エネルギー貯蔵装置の電圧」を「エネルギー貯蔵装置コントローラと連通する
中央コントローラ」のようなマスター・コントローラにおいて利用可能にすること
ができること等が記載されている(【0053】)。これらの記載を受けて,【0
053】記載の構成による作用として,「特有の事態」,すなわち,直列接続され
た複数のエネルギー貯蔵装置の1つが充電限界に達し,他のエネルギー貯蔵装置と
の間で充電状態が異なってしまうという事態が発生する可能性があることが記載さ
れている(【0054】)。そして,この記載が,特許請求の範囲の「不均衡が事
前に予測可能である」との抽象的かつ作用的な文言に対応しているものである。こ
のことから,このように対応させた場合の「不均衡」には,【0052】において
明示されているように,キャパシティ自体に差がある場合すなわち不均衡がある場
合のみならず,キャパシティ自体は同じであるが不均衡が生じている場合が含まれ
ていることになる。
このように,本願発明における「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測可能
な」とは,直列接続された複数のエネルギー貯蔵装置の1つが充電限界に達し,他
のエネルギー貯蔵装置との間で充電状態が異なってしまうという事態が発生する可
能性があることを抽象的かつ作用的に記載したものである。そもそも,どのような
制御も,その目的に向けてその対象の状態を把握しつつ行われるものであるから,
反映するか否かを含め予測結果を制御に反映する態様を問わないのであれば,制御
の目的に向けた何らかの予測を伴っているといえるのであり,その意味において
も,被制御要素の状態を事前に予測することは,常套手段といって差し支えない。
(ウ) そして,上記(1)のとおり,引用発明においても,各二次電池の電圧が同じ
である方がより望ましいものである。

(エ) そうすると,引用発明の各二次電池の電圧が同じである方がより望ましい
という課題に対し,上記のような常套手段を用いて,各二次電池の電圧の不均衡を
事前に予測可能なものとすることは,当業者が適宜想到し得たことというべきであ
る。


  • 27 -


(オ) よって,本件審決の相違点2の判断に誤りはない。
ウ 原告の主張に対する判断
(ア) 原告は,常套手段との概念が不明であり,また,常套手段として示された
甲3,4は本願発明と全く異なる技術分野に属するものであり,これを本願発明に
適用する理由がないし,また,エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測するとい
う思想は今までに考えられなかった斬新なことであり,分野に特有の課題が解決さ
れ,分野に特有の効果がもたらされると主張する。

しかしながら,引用発明において各二次電池の電圧が同じでない場合があり得た
ことは前記のとおりであり,このことから,引用発明において状態を予測しつつよ
り望ましいものへと制御することは十分に動機付けられていたものであるし,これ
を採用した効果も予測の範囲内のものである。

そもそも本願発明は,予測に関して「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測
可能」である旨を抽象的かつ作用的な文言により特定するのみであってエネルギー
貯蔵装置の分野に特有な予測結果を制御に反映する態様を特定していないのである
から,分野の違いにより被制御要素の状態を事前に予測することができなくなると
いうような事情はないし,分野に特有の効果もない。

(イ) 原告は,本願発明におけるエネルギー貯蔵装置の「不均衡」については,
エネルギー貯蔵装置の端子電圧のみならず,エネルギー貯蔵装置のキャパシティの
差を包含すること,また,全体のエネルギー貯蔵装置の充電が終了するときに各エ
ネルギー貯蔵装置がフル充電となるように,エネルギー貯蔵装置のキャパシティの
不均衡又は差を予測することができるという顕著な作用効果を奏する旨主張する。
しかしながら,直列接続された複数のエネルギー貯蔵装置の1つが充電限界に達
し,他のエネルギー貯蔵装置との間で充電状態が異なってしまうという事態が発生
する可能性がある旨の記載が,特許請求の範囲の「不均衡が事前に予測可能であ
る」との抽象的かつ作用的な文言に対応しており,このように対応させた場合の
「不均衡」には,キャパシティ自体に差がある場合すなわち不均衡がある場合のみ


  • 28 -


ならず,キャパシティ自体は同じであるが不均衡が生じている場合が含まれている
ことになることは,前記のとおりである。
さらに,本願明細書の「電荷移動の制御は,それが実際に発生するより前に不均
衡を予測することができる頑強(ロバスト)スキームに対するセル電圧から分離さ
れる。この例示的実施形態の簡略化した説明は,以下の通りである」との記載
(【0055】)は,全体としてみると,「電荷移動の制御」が「セル電圧」から
分離されること及びそれ以降に「電荷移動の制御」が「セル電圧」から分離された
技術の「例示的実施形態の簡略化した記載」が説明されていることを示したものと
解される。そして,「例示的な実施形態」である「負荷適応ポンピング平衡アルゴ
リズム」を変形した例が記載されている(【0056】~【0062】,図7)。
ここでは,「予測」の文言を「キャパシティを適応的に学習」する意味であると定
義して(【0058】),「エネルギー貯蔵装置キャパシティにおける少しの差」
が「共通デバイス電流の関数として個々のエネルギー貯蔵装置平衡電流を決定する
ために用いられる」(【0056】)等と記載されているから,上記変形した例に
おいては,予測つまり学習されたキャパシティの差によって平衡電流が決定される
ことが記載されている。
これに対して,特許請求の範囲の「測定機能と前記測定機能から分離されたチャ
ージ移動機能とを有することにより,エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測可
能な」との記載は,チャージ移動機能を有する結果として「不均衡を事前に予測可
能」であるという関係を特定している。
原告の主張する解釈によれば,特許請求の範囲の「チャージ移動機能」がエネル
ギー貯蔵装置のキャパシティの差に基づき平衡電流を決定する機能を意味するもの
で,平衡電流が決定されたことによってキャパシティの差が予測可能であるという
関係を特定していることになり,これに対して,発明の詳細な説明の該当箇所の上
記記載は,これとは逆の予測されたキャパシティの差によって平衡電流が決定され
るという関係を記載していることになる。よって,原告の主張は,特許請求の範囲


  • 29 -


及び発明の詳細な説明の記載内容と整合しないものである。
以上を総合すれば,発明の詳細な説明は,「測定フェーズ」と「平衡フェーズ」
を有する「負荷適応ポンピング平衡アルゴリズム」を記載した上で,【0055】
以降の【0056】~【0062】及び図7においては,「例示的実施形態」とし
て,学習されて予測されたキャパシティの差をも考慮して平衡電流を決定するよう
に「負荷適応ポンピング平衡アルゴリズム」を変形した変形例を記載したものであ
るところ,特許請求の範囲は,「測定フェーズ」と「平衡フェーズ」を有する「負
荷適応ポンピング平衡アルゴリズム」を特定して記載したものであって,キャパシ
ティの差による平衡電流を決定する上述の変形例のみが特定されるように記載した
ものではない。
原告の主張は,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載内容と整合しておら
ず,これを正解していないものである。

(3) 小括
よって,取消事由2は,理由がない。

4 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却さ
れるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣




H230328現在のコメント


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10268号審決取消請求事件))
【容易想到性】「事実認定」判決です。

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Last Update: 2011-03-28 21:16:18 JST

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……………………………………………………判決末尾top
メインサイト(Sphinx利用)知財高裁のまとめMY facebook弁護士・弁理士 岩原義則知的財産法研究会ITと法律研究会弁護士・弁理士サービスのフェイスブック活用研究会

特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10244号審決取消請求事件))






特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10244号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10244 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月24日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10244号審決取消請求事件))


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【容易想到性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10244号審決取消請求事件))

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判示・縮小版なし




第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の下記2の本件発明に係る特許に対する被告の無効審判請求について,特許庁が,同請求を認め,本件特許を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。



第4 当裁判所の判断

1 取消事由について
(1) 引用発明1について
ア 引用例1には,以下の記載が認められる。
(ア) この発明は,道路沿いの法面における土砂の崩壊を防止するためのモルタ
ル吹き付け等による傾斜した地山補強面につき,長年月のうちの劣化に応じて改修
工事をする際,新しい補強面の施工に先立ち,既存の補強面を破砕して除去する必
要があることについて,そのために使用する装置の発明である。
(イ) 従来の地山補強面の破砕は,作業者が傾斜する補強面上に立ち,破砕機を
直接その手で支持して操作する方法によっていたことから,作業上危険が伴うとと
もに,多くの人手を要し,人件費や工事期間が増大するなどという問題点があった。
(ウ) この発明は,上記のような問題点を解消するためのもので,安全でかつ大
幅な省力化と工期の短縮とが可能となる地山補強面破砕装置を得ることを目的とす
る。
(エ) この発明に係る補強面破砕装置は,補強面上を走行可能な台車と,この台
車に姿勢調整装置を介して取り付けられた破砕機と,上記補強面の上方に設置され
た基台と上記台車とをワイヤーで連結し,このワイヤーの巻取機を駆動することに
より,上記台車を補強面上で移動させる台車移動装置とを備えたものである。
(オ) 実施例についてみると,第5図及び第6図は,破砕装置を現場で動作させ
ている場合の状況を説明する側面図及び正面図である。これらの図において,台車


  • 9 -




を補強面上で移動させるためのワイヤー12a,12b,12cは,補強面の上方
にそれぞれアンカーにより地面に固着された基台13a,13b,13cに取り付
けられたウインチに巻回されている。
第7図は,ワイヤー12a,12b,12cにより台車を牽引する場合の各ワイ
ヤーと台車との連結構造を示す説明図である。図において,主ワイヤー12aは,
台車のベースに設けられた固定連結具9aに係止されており,主として台車の重量
を支え,台車の昇降移動を受け持つ。左ワイヤー12b及び右ワイヤー12cは,
台車のベースに軸を介して回動自在に取り付けられた可動連結具9bの先端に係止
されており,台車の左右方向への移動を受け持つとともに,事故等により主ワイヤ
ー12aが緩んだり,切れたりしたような場合に,台車の落下を防止する。また,
可動連結具9bの回動に応じて車輪の軸を水平面内で回動させる舵取り機構が存在
する。
(カ) 実施例における動作について説明すると,準備作業が終了すると,操作盤
の操作ボタンを操作して,まず台車を補強面の所定位置まで移動させる。
この場合,傾斜面の登坂は主ワイヤー12aの牽引力により行い,左右方向への
方向転換は左右両ワイヤー12b,12cの張力バランスで行う。すなわち,例え
ば右ワイヤー12cに比較して左ワイヤー12bの張力が大きくなるようにウイン
チモータ18bによる巻取量をより大きくすると,第7図に示すように,可動連結
具9bが反時計方向に回動し,舵取り機構がこれに従動して車輪を左へ傾動させる。
(キ) 最初の位置における破砕作業が終了すると,再びウインチモータ18a等
の操作スイッチを操作することにより,台車を隣接位置にまで移動させ,その停止
位置で破砕動作を再開する。以上の操作を繰り返すことにより,広大な補強面の破
砕を,わずかの操作員により高能率に短期間に行うことが可能となる。
(ク) 上記実施例では,台車を3本のワイヤーで牽引して昇降,左右移動するよ
うにしたが,1本のワイヤーで昇降させ,左右への移動は,台車に設けられた舵取
り機構を別個の駆動源で操作して行うようにしてもよい。


  • 10 -




(ケ) この発明の効果として,補強面上を走行可能な台車と,この台車に姿勢調
整装置を介して取り付けられた破砕機と,上記補強面の上方に設置された基台と上
記台車とをワイヤーで連結し,このワイヤーの巻取機を駆動して上記台車を移動さ
せる台車移動装置とを備えたので,作業の安定が確保されるとともに,大容量の粉
砕機を使用することができ,大幅な省力化と工事期間の短縮が可能となる。
(コ) 第6図には,台車から上方の3つの基台に向けてつながれたワイヤー12
a,12b,12cが描かれており,このうち左右のワイヤー12b,12cは,
台車からみて,広範囲に広がった形で左右の基台につながれている。
イ 以上によると,引用発明1の地山補強面破砕装置については,台車に連結さ
れた各ワイヤーのうち,主ワイヤーは,台車の重量を支えるだけであって,台車の
昇降移動を受け持つものであるのに対し,左右のワイヤーは,台車の左右方向への
移動を受け持つものであって,左右巻取機の回動及びこれに基づく左右ワイヤーの
操作によって,台車は,広大な補強面の移動が可能となるものということができる。
ウ なお,原告は,主ワイヤーが,台車のベースに設けられた固定連結具に係止
されており主として台車の重量を支え,台車の昇降移動を受け持つものであって,
主ワイヤーが1本であることなどからすると,台車は,主ワイヤーによって上下方
向のみに牽引され,左右のワイヤーは台車の左右方向への牽引という機能を有する
ものではなく,左右のワイヤー12b,12cはステアリングの機能を果たすにす
ぎず,左右巻取機及びワイヤーの操作によって台車の左右方向への移動が行われる
ことはあり得ないと主張する。
しかしながら,①引用例1の記載によると,引用発明1は,最初の位置における
破砕作業が終了すると,ウインチモータ等の操作スイッチを操作することによって
左右のワイヤーの張力を調整し,台車を隣接位置にまで移動させ,その停止位置で
破砕動作を再開するとの操作を繰り返すことにより,広大な補強面の破砕を行うこ
とが可能となるものであって,左右のワイヤーの張力バランスによって広大な補強
面の左右を移動できるようにするものであり,これは,主ワイヤー1本の牽引力の


  • 11 -




みでは不可能であること,②引用例1の記載によると,「主ワイヤー12aは,台
車のベースに設けられた固定連結具9aに係止されており,主として台車の重量を
支え,台車の昇降移動を受け持つ」とされ,主ワイヤーによる台車の重量支持は
「主として」というものであって,左右のワイヤーが台車の重量の支持を全くしな
いとはされていないことから,主ワイヤーによる牽引力が台車に働くと,舵取り機
構の従動によって車輪が傾いた方向に動こうとし,例えば,第7図のように左に車
輪が傾動している場合には,主ワイヤーの牽引力によって,基台13cを中心に右
ワイヤー12cにも牽引力が掛かりつつ,この右ワイヤー12cを半径にして,台
車は登坂しつつ,左方向へ移動できること,③仮に左右のワイヤーが純粋にステア
リングに係る機能しか果たさず,左右巻取機及び左右のワイヤーの操作によって台
車の左右方向への移動が行われるということがあり得ないとすると,牽引の機能を
有するものは上下方向へ牽引する主ワイヤー1本だけということになるが,この場
合,台車に掛かる牽引力は,鉛直方向のみであるから,たとい舵取り機構の従動に
よって車輪が斜め方向を向いていたとしても,車台は,斜めに進行することはなく,
車軸の傾きの坑力に関わらずに車輪を回転させずに鉛直方向に移動するか,又は車
軸の傾きが坑力となって進行しないかのいずれかの結果となるもので,引用例1記
載の左ワイヤー12b及び右ワイヤー12cは,「台車の左右方向への移動を受け
持つ」ことが実現されないこととなること,以上のとおりいうことができることか
らすると,原告の主張は採用することができない。
(2) 引用発明2について
ア 引用例2には,以下の記載が認められる。
(ア) 本発明は,例えばダム,水路,道路,護岸等の工事での法面を舗装する場
合において,舗装に使用するアスファルトフィニッシャのような作業車を法面に沿
って巻上げ・巻下げするウインチでなる巻上装置に関するものである。
(イ) 例えば法面舗装によってダムを建設する場合,法面にこれを横切るように
設けた通路に自走式巻上機を置き,巻上機に搭載したウインチによりアスファルト


  • 12 -




フィニッシャ等の作業車を巻き上げつつ法面を舗装し,1列の舗装が終わったら,
巻上機を移動させて舗装すべき法面の最低位置まで作業車を巻き下げ,再び巻き上
げつつ舗装するという作業を繰り返すことによって舗装を行う必要がある。しかる
ところ,既舗装面と未舗装面との間の境界線は,直線とは限らず,曲線の場合もあ
るが,従来の技術では,単にウインチによって巻上げ・巻下げをするだけであった
ことから,曲線の場合の境界線に沿って作業車を巻き上げることが困難で,舗装面
が重なったり,舗装材を舗装できない部分が生じたりするとの問題があった。
(ウ) 本発明は,作業車を巻上機上のウインチによって巻上げ・巻下げする場合,
既処理面と未処理面の境界線に沿って作業車を巻き上げ,巻き下げることが可能と
なり,かつ,作業車を処理開始点にまで巻き下げる際に,真直に目的値にまで巻き
下げることのできる構成の法面処理用作業車の巻上装置を提供しようとするもので
ある。
(エ) 本発明の巻上装置は,法面処理用作業車を法面に沿って巻上げ・巻下げす
る2台の同型のウインチを巻上機上の左右に搭載し,各ウインチに巻かれるワイヤ
ロープを作業車の前部の牽引フレームの左右の端部にそれぞれ接続し,上記ウイン
チの駆動用油圧モータの油圧回路には,両油圧モータに供給する作動油の流量を等
流量とする分流装置を設けるとともに,この分流装置と油圧モータとの間の各油圧
モータ対応の回路間に,両回路間を連通,遮断する2位置切換弁を設けることを特
徴とする。
そして,本発明の巻上装置においては,左右のウインチを巻上げ方向に作動させ
る場合には,上記2位置切換弁を左右のウインチモータへの回路が連通する位置と
し,作業車上のオペレータのハンドル操作によって,作業車の向きが変えられるよ
うにすることにより,境界線に沿って作業車が移動できるようにする。
(オ) 実施例についてみると,第2図及び第3図は,本発明の巻上装置を搭載し
た巻上機を使用して法面舗装を行っている状態を示している。アスファルトフィニ
ッシャの巻上装置である巻上機本体上の左右に搭載されるウインチ9A,9Bは,


  • 13 -




同型の油圧モータとドラムをそれぞれ有するもので,各ウインチ9A,9Bにそれ
ぞれ巻き取り・繰り出しされるワイヤロープ19a,19bは,アスファルトフィ
ニッシャの前部に設けた牽引フレームの左右の端部にそれぞれ接続される。
(カ) 実施例における動作については,この装置において法面の舗装を行う場合,
巻上機本体の運転室内のオペレータが,ウインチ9A,9B等を運転することによ
って,アスファルトフィニッシャをゆっくりと巻き上げて舗装する。この場合,運
転室のオペレータは,ウインチ9A,9Bを作動させる油圧モータの流量を変える
ことによって,上記2台のウインチのワイヤロープの巻上げ量を変え,アスファル
トフィニッシャの向きを変えることができ,アスファルトの舗装済みの領域と未舗
装領域との間の境界線に沿って,上昇方向にアスファルトフィニッシャを移動させ
ることができる。
イ 以上によると,引用発明2は,アスファルトフィニッシャである処理用作業
車を法面に沿って巻上げ・巻下げする2台の同型のウインチを巻上機上の左右に搭
載し,各ウインチに巻かれるワイヤロープが処理用作業車の前部に設けた牽引フレ
ームの左右の端部にそれぞれ接続され,巻上機本体上のオペレータの操作によって,
左右のウインチの巻上げ量を変え,処理用作業車を境界線に沿って移動させながら
上昇することができるようにした法面処理用作業車の巻上装置の発明であると認め
ることができる。
ウ なお,原告は,引用発明2について,作業車の幅と左右のウインチの幅は同
じなので,左右のワイヤロープは平行であって,このような作業車を左右のウイン
チの幅,すなわち作業車の幅を超えて左右方向に移動させることは不可能であるか
ら,左右のウインチを作動させ,ワイヤロープの長さを調整することによって,左
右方向に作業車を移動させることはあり得ないと主張する。
確かに,上記アのとおり,引用例2によると,巻取機本体にウインチが搭載され
るものであるから,作業車の左右への移動について,おのずから2台のウインチ同
士の間隔による制約が存在するものと考えられるが,他方,引用例2の記載におい


  • 14 -




て,巻上機本体に搭載されるウインチ同士の間隔に特段の規定はなく,巻上機本体
からはみ出してウインチを設置することも可能であることを考えると,巻上機本体
や作業車の幅までしか,作業車が左右に移動できないとまでいうことはできない。
そして,上記イのとおり,引用発明2は,巻上機本体上のオペレータの操作によ
って,左右のウインチの巻上げ量を変え,処理用作業車を境界線に沿って移動させ
ながら上昇することができるようにした法面処理用作業車の巻上装置の発明であっ
て,左右2台のウインチの巻上げ量を変えることで,この2台のウインチからの作
業車を牽引する2本のワイヤロープの長さを調整することにより,作業車を左右に
移動させるものであるとの発明であること自体が否定されるものではなく,特に,
引用発明2においては,引用例2の記載において特段規定されていないウインチ同
士の間隔を広げることによって,作業車を左右に大きく移動させることもできると
ころのものであって,引用発明2につき,左右のウインチを作動させ,ワイヤロー
プの長さを調整することによって,左右方向に作業車を移動させるものではないと
する原告の主張は,ウインチ同士の間隔を引用例2の図面のものに限定する失当な
ものである上に,引用発明2においては,作業車が左右に移動するものであること
自体を看過するものであって,採用することができない。

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(3) 本件発明1と引用発明との対比判断について
ア 原告は,本件発明は,法面の左右方向の広い範囲にわたって加工機械を移動
させることができる点に特徴があるのであって,このような広範囲の移動を実現す
るための必須要件は,引用例1及び2のいずれにも記載されておらず,引用発明1
及び2から本件発明を想到することはできないと主張する。
イ しかしながら,前記(1)のとおり,引用発明1は,主ワイヤー及び左右の2
本のワイヤーの3本によって台車がつながれており,左右のワイヤーは台車の左右
方向への移動を受け持つことによって,台車の左右方向を含めた広大な補強面の移
動が行われるものであるところ,この引用発明1に,前記(2)のとおりの2台のウ
インチを作動させてワイヤロープの巻上げ量を変えながら作業車を境界線に沿って


  • 15 -




左右に移動させることができるようにするとの引用発明2を適用することにより,
当業者において,引用発明1の「左,中,右」の3つのアンカー及びウインチを,
「左右」の2つのアンカー及びウインチとすることに困難はなく,本件発明1の相
違点2に係る構成に至ることは容易に想到し得たものということができる。
引用発明1及び2に係る原告の主張は上記(1)及び(2)のとおり採用することがで
きず,相違点2に係る原告の主張も採用することができない。
(4) 小括
したがって,相違点2に係る本件発明1の構成は,引用発明1及び2に基づいて
当業者が容易に想到することができたものということができ,取消事由は理由がな
い。

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2 本件発明4,5について
原告は,本件発明4,5が無効とされるべきであるとした本件審決の判断に係る
取消事由を主張しない。
3 結論
以上の次第であるから,本件請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣




H230328現在のコメント


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10244号審決取消請求事件))

容易想到性の事実認定判決です。

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Last Update: 2011-03-28 17:29:15 JST

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2011年3月23日水曜日

特許:【訂正の可否,新たな技術事項の導入】(基準)(判断),【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月23日判決(平成22年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件(特許)))






特許:【訂正の可否,新たな技術事項の導入】(基準)(判断),【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月23日判決(平成22年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件(特許)))





知的財産高等裁判所第1部「中野哲弘コート」


平成22(行ケ)10234 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月23日 知的財産高等裁判所 

(知財高裁平成23年3月23日判決(平成22年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件(特許)))


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【訂正の可否,新たな技術事項の導入】(基準)(判断),【容易想到性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月23日判決(平成22年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件(特許)))

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判示




第2 事案の概要

1 本件は,被告両名が権利者であり名称を「無水石膏の製造方法及び無水石膏焼成システム」とする発明についての特許第4202838号(出願日 平成15年6月25日,登録日 平成20年10月17日,請求項の数5。以下「本件特許」という。)の請求項1ないし5(以下「本件発明1」などといい,全体を「本件各発明」という。)に対し,原告が特許無効審判請求をし,被告らが平成22年1月22日付けで訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をして対抗したところ,特許庁が,上記訂正請求を認めた上,請求不成立の審決をしたことから,これに不服の原告が取消しを求めた事案である。

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2 争点は,

①特許請求の範囲の減縮を理由とする本件訂正請求を認めたことが適法か,
②本件訂正後の請求項1ないし5記載の発明(以下「訂正後発明1」などという。)が下記引用例との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),
である。

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第4 当裁判所の判断

1 請求原因(1) (特許庁における手続の経緯),(2) (訂正前発明の内容),
(3) (本件訂正の内容),(4) (審決の内容)の各事実は,当事者間に争いが
ない。


  • 38 -




2 取消事由1(本件訂正の適否に関する判断の誤り)に対する判断

審決は,本件訂正は願書等に記載されている事項の範囲内の訂正であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないから適法であるとし,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。

(1) 本件各発明の意義
ア 当初明細書(本件特許公報,甲10)には,次の記載がある。
・ 特許請求の範囲としての【請求項1】ないし【請求項5】は前記第3,
1(2) のとおり。
・【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
「本発明は,石膏廃材を焼成して無水石膏,特にⅡ型無水石膏を焼成す
る焼成システム及び無水石膏の製造方法に関する。」(段落【0001】)

・【従来の技術】
「近年の石膏製品の需要の増加とともに,建築物の解体等に伴う石膏廃
材の発生量が増加している。特に,建築現場等で発生する廃石膏ボード
については,解体時の分別が困難であったり,リサイクル市場が不足し
ているため,そのほとんどが埋立処分されている。」(段落【0002】)

・「廃石膏ボードを埋め立てる場合には,管理型の産業廃棄物最終処分場
で処分することとされている。そのため,処理コストの増大を招くとと
もに,最終処分場の涸渇化の問題があり,石膏廃材の有効利用が期待さ
れている。」(段落【0003】)
・「そこで,本出願人は,ロータリーキルンを用い,炉内温度を焼点温度
500~1200℃及び窯尻温度300~950℃に制御して石膏廃
材を焼成することにより,Ⅱ型無水石膏の含有量が80重量%以上,半
水石膏とⅢ型無水石膏の合計含有量が10重量%以下,CaOの含有量
が10重量%以下,及び全有機炭素量0.3重量%以下の無水石膏類を


  • 39 -


製造する技術を提案した(特許文献1参照)。」(段落【0004】)
・「また,石膏廃材の有効利用に関する技術ではないが,特許文献2は,
無孔の底,材料のための入口及び出口,並びに逆円錐形の容器の底に隣
接して開いた熱ガス用の少なくとも1個の下方に向かって延設された
管を有する容器を含む粒状材料熱処理装置において,底を管の近くの底
で材料を制限するように形成し,ここで管から出る熱ガスが材料を加熱
し,循環させるようにした装置,いわゆるコニカルケトル炉を用いて無
水石膏を生成することの可能性に言及している。」(段落【0005】)

・【発明が解決しようとする課題】
「しかし,原料に石膏廃材を用いて無水石膏を製造する場合には,従来
のロータリーキルン等を用いて焼成すると,局所的に過剰に加熱される
部分が生じ,石膏廃材に高性能減水剤として混和されているナフタレン
スルホン酸基が分解されて硫黄酸化物が発生するおそれがあるという
問題があった。また,石膏自体も,1000℃以上に加熱すると,石膏
が熱分解して大量に硫黄酸化物が発生するおそれがあるという問題が
あった。」(段落【0007】)
・「さらに,ロータリーキルン,コニカルケトル炉等,使用する炉の種類
に関わらず,製品として得られるⅡ型無水石膏の純度を高く維持すると
ともに,燃費を低減することも要請されていた。」(段落【0008】)

・「そこで,本発明は,上記従来の技術における問題点に鑑みてなされた
ものであって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制することができるととも
に,高純度のⅡ型無水石膏を得ることができ,燃費も低い無水石膏の製
造方法及び無水石膏焼成システムを提供することを目的とする。」(段
落【0009】)
・【課題を解決するための手段】
「上記目的を達成するため,本発明は,無水石膏の製造方法であって,


  • 40 -


内筒の内部で燃料を燃焼させて該内筒の下部の開口部から燃焼ガスを
噴出させ,前記内筒を囲繞し,下部が逆円錐状に形成された本体に石膏
廃材を供給し,該本体の内部で該石膏廃材を330℃以上840℃以下
に加熱しながら,前記燃焼ガスによって流動化させ,生じた無水石膏を
前記本体の内部から外部に排出することを特徴とする。」(段落【00
10】)
・「本発明にかかる無水石膏の製造方法は,粉粒体を流動化状態として,
高温の燃焼ガスを接触させて加熱する間接加熱方式を採用し,粉粒体層
は完全混合状態となり,全体として略々均一な温度となり,局所的に過
剰に加熱されることはないため,原料としての石膏廃材粉末が,石膏自
体の分解温度(1000℃以上)や,混和剤として含有されるナフタレ
ンスルホン酸基の分解温度(850℃以上)に加熱されることを避ける
ことができる。これによって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制すること
ができる。ここで,石膏廃材粉末による粉粒体層温度を330℃~84
0℃に制御し,20分以上の滞留時間を与えることで,硫黄酸化物をほ
とんど発生させずに,石膏廃材中の2水石膏を完全にⅡ型無水石膏化す
ることができる。」(段落【0011】)
・「前記内筒及び本体を備える無水石膏焼成炉から排出される燃焼ガスを
集塵して捕集されるダストの70質量%以上を,該無水石膏焼成炉に戻
すことが好ましい。これによって,Ⅱ型無水石膏純度の低い飛散ダスト
を製品に混入することがなくなり,製品Ⅱ型無水石膏の高純度(95質
量%以上)が確保される。」(段落【0012】)
・「前記集塵を2段階で行い,前段の集塵を集塵効率90%以上のサイク
ロンで行うことが好適である。サイクロンで可能な限り高温でダストを
回収することにより,Ⅱ型無水石膏製造の熱量原単位を低減することが
できる。」(段落【0013】)


  • 41 -


・「また,前記前段の集塵を行うサイクロンを,前記無水石膏焼成炉の直
上に配置し,該サイクロンにて集塵したダストを輸送機を介さずに直接
該無水石膏焼成炉に戻すこともできる。これによって,集塵したダスト
を無水石膏焼成炉に戻す経路を最短とすることができ,熱量原単位をさ
らに低減することができる。」(段落【0014】)
・「さらに,本発明は,無水石膏焼成システムであって,下部に開口部を
備えた内筒と,該内筒を囲繞し,下部が逆円錐状に形成された本体とを
備え,前記内筒の内部で燃料が燃焼するとともに,前記開口部より燃焼
ガスが噴出し,前記本体の内部に供給された石膏廃材が該本体の内部で
加熱されながら,前記燃焼ガスによって流動化し,前記本体の内部から
外部に無水石膏として排出される無水石膏焼成炉と,該無水石膏焼成炉
から排出される燃焼ガスが導入され,該燃焼ガスに含まれるダストを第
一段階で集塵する,該無水石膏焼成炉直上に配置されたサイクロンと,
該サイクロンの排気を第二段階で集塵する集塵機とを備え,該サイクロ
ン及び該集塵機で捕集したダストを該無水石膏焼成炉に戻す経路を有
することを特徴とする。これによって,上述のように,硫黄酸化物の発
生を大幅に抑制しながら,石膏廃材から高純度のⅡ型無水石膏を低燃費
で製造することができる。」(段落【0015】)
・【発明の実施の形態】
・「次に,上記構成を有する無水石膏焼成システムの運転要領について,
図1乃至図3を参照しながら説明する。」(段落【0028】)
*【図1】(本件発明の無水石膏焼成システムの一実施の形態を示すフ
ローチャート)


  • 42 -



*【図3】(図1の無水石膏焼成システムの無水石膏焼成炉の断面図)


・「内筒12の内部に燃焼用空気管19を介して,ルーツブロワ7から燃
焼用空気Aを,燃料供給管11を介して燃料としての都市ガスGを供給
する。都市ガスGが内筒12の内部で燃焼し,内筒12の内部は,約1
200℃に維持される。一方,ホッパ8,スクリューフィーダ9,スク


  • 43 -


リューコンベア10から,原料供給管16を介して本体13の内部に石
膏廃材Mが供給される。本体13の内部は,通常,460℃程度に制御
されるが,石膏廃材または製品の種類に応じて330℃乃至840℃の
範囲で変化させることができる。」(段落【0029】)
・「内筒12の内部で都市ガスGが燃焼して発生した燃焼ガスは,スリッ
ト15から本体13の最下部に噴出する。この噴出した燃焼ガスにより
石膏廃材Mが本体13の下部3aにおいて流動化し,燃焼ガスと熱交換
する。熱交換が完了すると,石膏廃材Mは,製品としての無水石膏Pに
変化し,エアーランス14を介して導入されたコンプレッサ6からの圧
縮空気Cにより流動化され,開口部13dから製品排出管23を介して
系外に排出される。」(段落【0030】)
・「まず,実施例1~3及び比較例1で用いる試験装置について,図5を
参照しながら説明する。この試験装置は,無水石膏焼成炉31の本体3
3に燃焼用空気Aを供給するためのルーツブロワ41と,本体33に石
膏廃材Mを供給するための原料ホッパ42,スクリューフィーダ43,
及びスクリューコンベア44と,本体33に圧縮空気Cを供給するコン
プレッサ40と,本体33からの燃焼ガス中のダストを集塵して集塵し
たダストDを本体33または製品ホッパ45に戻すためのサイクロン
35,バグフィルタ36,及びスクリューコンベア38,39と,集塵
後の燃焼ガスを大気に放出するファン37とを備える。」(段落【00
33】)
*【図5】(本件発明の無水石膏焼成システムの試験装置を示すフロー
チャート)


  • 44 -



・「無水石膏焼成炉31は,下部のコーン部分の有効容積が1.5m3 で,
上部円筒部分の内径が1,850mmの試験用焼成炉である。また,無
水石膏焼成炉31からの排気経路に設けられたサイクロン35は,集塵
効率が93%であって,これによって排気ガスの第一段集塵を行い,さ
らにバグフィルタ36にて第二段集塵を行った後,ファン37を介して
排気ガスを大気に放出した。サイクロン35及びバグフィルタ36の捕
集ダストDは,合流した後,所定の割合をスクリューコンベア39を介
して無水石膏焼成炉31に戻し,残部を製品に混入した。無水石膏焼成
炉31の運転条件は,炉出口粉粒体温度が460℃,炉出口ガス温度が
410℃であり,時産0.70t-無水石膏/hを目標とした。」(段
落【0034】)
・「次に,実施例4で用いる試験装置について説明する。この試験装置の
全体構成は,図1に示したシステムと同様であって,無水石膏焼成炉1
は,上述の図5に示した無水石膏焼成炉31と同じものを用いた。無水
石膏焼成炉1の直上に集塵効率が93%のサイクロン2を設け,炉排気


  • 45 -



ガスの第一段集塵を行い,さらにバグフィルタ3にて第二段集塵を行っ
た後,ファン4を介して排気ガスを大気に放出した。サイクロン2の捕
集ダストDは,輸送機を介さず直接無水石膏焼成炉31に全量戻した。
また,バグフィルタ3の捕集ダストDも,スクリューコンベア5を介し
て全量無水石膏焼成炉31に戻した。無水石膏焼成炉1の運転条件は,
炉出口粉粒体温度が460℃,炉出口ガス温度が410℃であり,時産
0.70t-無水石膏/hを目標とした。」(段落【0035】)
・【表2】(段落【0041】)







・【発明の効果】
「以上説明したように,本発明にかかる無水石膏の製造方法及び無水石
膏焼成システムによれば,石膏廃材を焼成して無水石膏,特にⅡ型無水
石膏を焼成するにあたって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制することが
でき,高純度のⅡ型無水石膏を低燃費で焼成することができる。」(段
落【0043】)
イ 上記記載によると,本件各発明は,石膏廃材を焼成して製造されるⅡ型
無水石膏の製造方法に関し,従来のロータリーキルン等を用いて焼成する
と局所的に過剰に加熱される部分が生じ,石膏廃材に高性能減水剤として
混和されているナフタレンスルホン酸基が分解されて硫黄酸化物が発生
したり,また,1000℃以上に加熱すると,石膏自体も熱分解して大量


  • 46 -


に硫黄酸化物が発生するおそれがあるという問題があったことに対し,硫
黄酸化物の発生を大幅に抑制することができるとともに,高純度のⅡ型無
水石膏を得ることができ,燃費も低い無水石膏の製造方法及び無水石膏焼
成システムを提供するために,内筒の内部で燃料を燃焼させて該内筒の下
部の開口部から燃焼ガスを噴出させ,前記内筒を囲繞し,下部が逆円錐状
に形成された本体に石膏廃材を供給し,該本体の内部で該石膏廃材を33
0℃以上840℃以下に加熱しながら,前記燃焼ガスによって流動化さ
せ,生じた無水石膏を前記本体の内部から外部に排出するという間接加熱
方式を採用することによって,原料としての石膏廃材粉末が,石膏自体の
分解温度(1000℃以上)やナフタレンスルホン酸基の分解温度(85
0℃以上)に加熱されることを避けることができ,それによって,硫黄酸
化物の発生を大幅に抑制しながら,石膏廃材中の二水石膏を完全にⅡ型無
水石膏化することができる無水石膏の製造方法及び無水石膏焼成システ
ム,という発明であることが認められる。

top
(2) 本件訂正の内容
平成22年1月22日付けでなされた本件訂正は,訂正事項aないしdを
内容とするものであり,その内容は前記第3,1(3) のとおりである。
(3) 訂正事項aの適否について
ア 訂正事項aは,審決が認定するとおり,訂正事項(ⅰ)ないし(ⅵ)(審決
4頁17~32行)を含むものであるが,(ⅰ),(ⅲ),(ⅳ)及び(ⅵ)の訂
正については当事者間に争いがないので,訂正事項a(ii)の適否について
検討する。
イ(ア) 訂正事項a(ii)は,「『該本体の内部で該石膏廃材を330℃以上8
40℃以下に加熱しながら』とあるのを,『該本体の内部で該石膏廃材
を,該本体出口における粉粒体温度が330℃以上500℃以下になる
ように加熱しながら』に訂正する。」というものである。


  • 47 -



top
当該訂正事項は,本体の内部での石膏廃材の加熱に関し,「該本体の
内部で該石膏廃材を330℃以上840℃以下に加熱」とあるのを「該
本体出口における粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるよう
に加熱」というように温度の測定位置と設定温度の範囲を限定するもの
であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

(イ) ところで,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,
願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲
内においてしなければならず(特許法134条の2第5項,126条3
項),また,上記規定中,「願書に添附した明細書又は図面に記載した
事項の範囲内」とは,明細書又は図面のすべての記載を総合することに
より導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術
的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであると
きは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」におい
てするものということができるというべきである(なお,平成6年改正
前の特許法17条2項にいう「明細書又は図面に記載した事項」に関す
る知財高裁平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日特
別部判決参照)。そして,上記明細書又は図面のすべての記載を総合す
ることにより導かれる技術的事項は,必ずしも明細書又は図面に直接表
現されていなくとも,明細書又は図面の記載から自明であれば,特段の
事情がない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認めるの
が相当である。

(ウ) そこで,訂正事項a(ii)が「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」
でなされたか否かについて検討する。

a まず,訂正前の「該本体の内部で該石膏廃材を330℃以上840
℃以下に加熱しながら」との事項は,本体内部における石膏廃材の加
熱温度を330℃以上840℃以下という範囲に数値を限定するも


  • 48 -


のであるところ,上記当初明細書の記載(本件特許公報,甲10)に
よれば,上記数値限定の意味は,原料としての石膏廃材粉末からⅡ型
無水石膏を生成するために必要とされる温度(330℃以上)を下限
とし,石膏自体の分解温度(1000℃以上)や石膏廃材に混和剤と
して含有されるナフタレンスルホン酸基の分解温度(850℃以上)
に加熱されることを避けるための温度(840℃以下)を上限とする
ことによって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制するための数値限定で
あると認められる(段落【0011】参照)。したがって,上記数値
限定事項は,本件各発明において,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制す
るという効果を奏するために「明細書又は図面によって開示された技
術的事項」であると認められる。

そこで,このような技術的事項を,訂正事項a(ii)の「該本体の内
部で該石膏廃材を,該本体出口における粉粒体温度が330℃以上5
00℃以下になるように加熱しながら」と訂正することが,上記技術
的事項との関係において,「新たな技術的事項を導入しないものであ
る」と認められるか否かが問題となる。

b ところで,本体内部の温度限定を「出口における粉粒体温度」と限
定することは,本体内部の温度限定を上位概念と捉えれば,当初明細
書等の実施例で記載されるとおり,本体内部に属する出口における粉
粒体温度に限定するものにすぎず,もともと当初明細書等の実施例に
おいては,【表2】において炉出口粉粒体温度で結果が表示されてい
るように,本体内部の温度の特定は炉出口における粉粒体温度でなさ
れていることを考慮すると,「出口における粉粒体温度」で限定する
ことは,当初明細書等の記載から自明である技術的事項と認められる
から,上記訂正をもって,「新たな技術的事項を導入しないもの」と
認めるのが相当である。


  • 49 -


c この点に関し,原告は,前記第3,1(5) ア(ア) aのとおり,当初
明細書等には,炉の本体内部の温度が本体出口部の温度と実質的に同
じとする記載は一切ないことや当初明細書等の段落【0030】の記
載を根拠に,石膏廃材の加熱温度を本体内部で規定することと,炉本
体出口の温度で規定することとは技術的な意味が異なると主張する。
しかし,当初明細書等に記載された実施例においては,炉出口粉粒
体温度が460℃になることを目標とした旨記載され(段落【003
4】,【0035】),当初明細書等の【表2】には,実施例におけ
る「炉出口粉粒体温度(℃)」が,「460℃」(実施例1),「4
70℃」(実施例2),「450℃」(実施例3),「470℃」(実
施例4)であったことが記載されていることから,本件各発明を具体
的に実施する際には,炉出口(本体出口)での粉粒体温度によって設
定温度を特定して運転条件を調整しているものと認められ,訂正前の
「本体内部で・・・以下に加熱しながら」との記載も必ずしも炉出口
以外の本体内部における最高温度領域の温度を測定することに限定
していると解することはできないこと,当初明細書等に記載された実
施例の加熱炉の炉出口とは,例えば,図3の記載によれば,「33 本
体」から「23 製品排出管」に通じる「13d 開口部」として図
示された箇所に相当すると認められるところ,本件各発明において
は,その構造上当該箇所が「23 製品排出管」の中にあって外気に
直接さらされる所ではないこと,石膏廃材Mは,噴出した燃焼ガスに
より本体13の下部3aにおいて流動化し,燃焼ガスと熱交換し,熱
交換が完了すると製品としての無水石膏Pに変化し,エアーランス1
4を介して導入されたコンプレッサ6からの圧縮空気Cにより流動
化されて,開口部13dから製品排出管23を介して排出されること
(段落【0030】)も考慮すれば,エアーランス14を介して導入


  • 50 -


されたコンプレッサ6からの圧縮空気Cによって,炉出口付近の石膏
廃材の温度が多少低くなることを考慮しても,本体出口において測定
される温度は,本体内部での加熱温度と実質的には変わらないとみる
ことが可能であるから,新たな技術的事項を導入したものとはいえ
ず,この点に関する原告の主張は採用することができない。

(エ) 次に「330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」と訂正
する点について検討する。
a 訂正事項a(ii)の「・・・該石膏廃材を,・・・粉粒体温度が33
0℃以上500℃以下になるように加熱しながら」という事項は,本
体内部での石膏廃材の加熱に関し,粉粒体温度を330℃以上500
℃以下になるように数値範囲を限定するものであるから,訂正前の数
値限定の範囲の上限値を「840℃以下」から「500℃以下」に変
更するものである。
ところで,上記「500℃」という値は当初明細書等に明示的に表
現されているものではない。そこで,上記「500℃」という値が,
当初明細書等に記載された事項から自明であるといえるかどうかが
問題となる。

しかし,「500℃」という特定温度は,もともと訂正前の「33
0℃以上840℃以下」の温度の範囲内にある温度であるから,上記
「500℃」という温度が当初明細書等に明示的に表現されていない
としても,硫黄酸化物の発生抑制のための温度として分解温度以下で
ある以上他の温度と異なることはなく,実質的には記載されているに
等しいと認められること,当初明細書等に記載された実施例において
は,炉出口粉粒体温度が460℃になることを目標とした旨が記載さ
れ(段落【0034】,【0035】),当初明細書等の【表2】に
は,実施例における「炉出口粉粒体温度(℃)」が,「460℃」(実


  • 51 -


施例1),「470℃」(実施例2),「450℃」(実施例3),
「470℃」(実施例4)であったことが記載されていることからす
れば,具体例の温度自体にも開示に幅があるといえること,したがっ
て,具体的に開示された数値に対して30℃ないし50℃高い数値で
ある近接した500℃という温度を上限値として設定することも十
分に考えられること,また,訂正後の上限値である「500℃」に臨
界的意義が存しないことは当事者間に争いがないのであるから,訂正
前の上限値である「840℃」よりも低い「500℃」に訂正するこ
とは,それによって,新たな臨界的意義を持たせるものでないことは
もちろん,500℃付近に設定することで新たな技術的意義を持たせ
るものでもないといえるから,「500℃」という上限値は当初明細
書等に記載された事項から自明な事項であって,新たな技術的事項を
導入するものではないというべきである。

b この点に関し,原告は,前記第3,1(5) ア(ア) bのとおり,当初
明細書等の記載によると,実施例1ないし4の炉出口粉粒体温度は目
標値である460℃を中心に,上下に10℃の変動があることを示し
ているにすぎないにもかかわらず,審決の判断に基づくならば,炉出
口粉粒体温度を460℃を目標として本体炉内で加熱する場合,「5
00℃」という測定値は,目標温度に対し少なくとも上方に40℃程
度変動することもあり得る解釈となること,本件各発明の無水石膏の
製造方法における石膏廃材を加熱焼成してⅡ型無水石膏が得られる
反応は発熱反応ではなく吸熱反応であり,外部から熱を加えて石膏廃
材を処理する場合,通常,運転目標値に対して実測温度が目標値を中
心に平均的に上下にばらつくか低くなる傾向を示すのであって,実測
温度が若干高くなることが多くなるという技術的根拠はないから,運
転目標値に対して実測温度が若干高くなることが多くなることを根


  • 52 -


拠とした「500℃」の訂正は,特許明細書等の記載事項に新たな技
術的事項を導入するものである旨主張する。

しかし,新たな技術的事項を導入しないものか否かを判断するに際
しては,「500℃」という特定の温度が当初明細書等を総合した場
合に自明といえるか否かが問題となるのであって,本件各発明におい
ては,もともと「500℃」という特定の温度には何ら技術的意義は
ないのであるから,「500℃」という特定の温度が当初明細書等に
記載された実施例の目標温度や実測値と比較して多少高めの温度で
あったとしても,臨界的意義はもちろん技術的意義の面でも実質的な
差はない当初明細書等の「330℃以上840℃以下」という数値の
範囲内である限り,「500℃」の訂正は,特許明細書等の記載事項
に新たな技術的事項を導入するものとはいえないというべきであり,
この点に関する原告の主張は採用することができない。

(オ) 小括
以上のとおり,訂正事項a(ii)は,当初明細書等に記載した事項の範
囲内であって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するもの
と認めることはできない。

ウ 訂正事項a(ⅴ)は,請求項5において上記訂正事項a(ii)と同様の訂
正をするものである。
したがって,訂正事項a(ii)と同様の理由により,訂正事項a(ⅴ)は,
請求の範囲を減縮するものであり,当初明細書等に記載した事項の範囲内
の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するもの
とは認められない。
(4) 訂正事項bの適否について
訂正事項bは,当初明細書等の段落【0010】において本件訂正事項a
と同様の訂正をするものである。


  • 53 -
    したがって,訂正事項bは,訂正事項aと同様の理由により,当初明細書


等に記載した事項の範囲内の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を
拡張し又は変更するものと認めることはできない。

(5) 訂正事項cの適否について
訂正事項cは,当初明細書等の段落【0011】において訂正事項aと同
様の訂正をするものである。
したがって,訂正事項cは,訂正事項aと同様の理由により,当初明細書
等に記載した事項の範囲内の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を
拡張し又は変更するものと認めることはできない。
(6) 訂正事項dの適否について
訂正事項dは,当初明細書等の段落【0015】において訂正事項aと同
様の訂正をするものである。
したがって,訂正事項dは,訂正事項aと同様の理由により,当初明細書
等に記載した事項の範囲内の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を
拡張し又は変更するものと認めることはできない。
(7) まとめ
以上のとおり,訂正事項aないしdの訂正はいずれも適法であって,同旨
の審決の判断に誤りはない。

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3 取消事由2(訂正後発明についての進歩性に関する判断の誤り)に対する判


(1) 訂正後発明1について
ア(ア) 甲1発明の意義
a 甲1(特公昭60-9852号公報)には,次の記載がある。
・「特許請求の範囲
1 粉末化されたあるいは粒状の石膏,または他の粒状材料を熱処
理するための装置であって,使用に際しての前記材料により接触さ


  • 54 -


れる無孔底を有する容器,熱処理されるべき前記材料のための入
口,熱処理された材料のための出口,および少なくとも一本の下方
に延びて熱ガスを通すようになされて前記底に隣接して容器の内
側に開口した加熱管を具備し,前記容器は前記出口によって決まる
材料の高さでの容器の横断面積よりも小さな面積の底を提供すべ
く少なくとも使用中の材料で占められる区域の側壁が傾斜せしめ
られており,前記容器の前記底は前記底における粒状材料を前記開
口の近傍に制限すべく前記加熱管の前記開口に関して形状づけら
れ,寸法づけられかつ配置されておりそして前記容器の前記底は前
記加熱管の前記開口の底端より下に設けられた少なくとも一個の
内部突起を有し,しかして,操作中前記加熱管の下方部分から出る
熱ガスが熱処理された材料の堆積を阻止すべく前記底を横切って
連続的に前記材料を掃引するようになしたことを特徴とする粉末
化されたあるいは粒状の石膏,または他の粒状材料を熱処理するた
めの装置。
2 <略>
3 使用中の材料によって占められる容器の前記区域は逆円錐形
であり,かかる容器の垂直軸線に実質的に沿って前記加熱管が配置
されている特許請求の範囲第1項または第2項に記載の粉末化さ
れたあるいは粒状の石膏,または他の粒状材料を熱処理するための
装置。4 前記加熱管はその下方部分の側壁に付加的に複数のガス
分配孔を有する特許請求の範囲第1項から第3項のいずれか一項
に記載の粉末化されたあるいは粒状の石膏,または他の粒状材料を
熱処理するための装置。
5 前記加熱管は上方部分で燃料供給源および酸素含有ガス源に
接続されうるものであり,かつ前記加熱管は燃料バーナーを含む特


  • 55 -


許請求の範囲第1項から第4項のいずれか一項に記載の粉末化さ
れたあるいは粒状の石膏,または他の粒状材料を熱処理するための
装置。」
・【発明の詳細な説明】
・「本発明は粒状材料特に鉱物を熱処理するための,特に石膏(水和
硫酸カルシウム)を煆焼するための装置に関する。」(第3欄22
~24行)
・「本発明によれば,使用中容器含有物によって接触せしめられる無
孔底および熱処理される材料の入口,熱処理された材料の出口,お
よび底に隣接して容器の内面に向いて開いた,熱ガスの通路のため
に設けられた少なくとも一つの下方に向って延びた加熱管を有す
る容器からなる粒状材料を熱処理するための装置を提供し,この容
器の底は管開口近くで底で材料を制限させるように形作り,これに
よって使用中加熱管の下方部分から出る熱ガスは,底で材料を加熱
と同時に循環させ,これによって容器の内容物全部を実質的に攪拌
し加熱するようにする。」(第4欄18~29行)
・「容器を連続式で運転するとき,材料例えば硫酸カルシウム二水和
物のためのバルブ付入口を設け,熱処理された材料のためのバルブ
付出口または溢流装置を設けるのが好ましい。容器への材料の供給
または容器からの材料の放出を制御するため,適切な任意の方法を
使用できる。」(第7欄4~9行)
・「本発明の装置中での処理材料の流動化は,それが主として流入ガ
スによるにしろあるいは放出された蒸気による自己流動化による
にしろ,内容物の急速かつ効率的な混合に寄与し,熱伝達に寄与す
る,そしてまた連続運転中生成物の放出さえも容易にする。この使
用のために容器には機械的攪拌機を備える必要はない。」(第7欄


  • 56 -



34~40行)
・「主として有効煆焼温度を制御することによってこの装置で半水プ
ラスターおよび無水プラスターまたはその混合物の製造を行うこ
とができる。例えば処理すべき硫酸カルシウムの温度を約140~
170℃に保つならば,硫酸カルシウム二水和物からの主たる煆焼
生成物は半水石膏である,十方(判決注:「一方」の誤記と認めら
れる。)更に高い温度,約350℃以上の温度では主生成物は無水
硫酸カルシウムである。」(第8欄14~21行)
・「燃料ガス例えば天然ガスはパイプ16を介して,容器中の材料の
高さ10に近い所で管6内に配置したノズル混合形のガスバーナ
ー17に供給する。空気はファン19から空気パイプ18を通って
このバーナーに別々に供給する。ノズル混合バーナー17を通る燃
料/空気混合物はスパーク針20で点火され,燃焼による熱いガス
状生成物は管中を下方に向って通過し,その開放端13および孔1
4を通って出る。」(第9欄27~35行)
・ 第1図(本発明による円錐煆焼容器の略図)


  • 57 -


b 上記記載によると,甲1発明は,石膏を煆焼するための装置に関し,
主として有効煆焼温度を制御することによってこの装置で半水プラ
スター及び無水プラスター又はその混合物の製造を行うために,加熱
管内に配置した燃料バーナーを通る燃料/空気混合物に点火し,該加
熱管の下方部分の開口及びガス分配孔から燃焼による熱ガスを出し,
該加熱管は容器の垂直軸線に実質的に沿って配置された少なくとも
一本の下方に延びて熱ガスを通すようになされて容器の底に隣接し
て容器の内側に開口したものであり,該容器は熱処理された材料のた
めの出口によって決まる材料の高さでの容器の横断面積よりも小さ
な面積の底を提供すべく,少なくとも使用中の材料で占められる区域
が逆円錐形であり,該容器へ熱処理されるべき材料としての石膏を供
給し,前記石膏を約350℃以上の温度に保つように,加熱管の下方
部分から出る熱ガスで容器の底で加熱と同時に循環させて前記石膏
の流動化を起こさせ,前記熱処理された材料として生じた無水石膏を
容器の内部から外部に排出する無水石膏の製造方法という発明であ
ると認められる。
(イ) 甲2発明の意義
a 甲2(特開2002-86126号公開公報)には,次の記載があ
る。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 セメントクリンカ焼成用のサスペンションプレヒー
タに石膏ボード廃材を給養し,下部から400~850℃の熱風を
吹き込むことにより,石膏ボード廃材の石膏と石膏に付着している
紙とを同時に焼成する方法。」
・【発明の詳細な説明】
・【発明の属する技術分野】


  • 58 -
    「本発明は,石膏ボード廃材の焼成方法に関するものである。」(段


落【0001】)
・【従来の技術】
「石膏ボード廃材は,石膏ボードおよびセメント原料への再利用が
期待されているが,ボード表面をおおう質量比7~10%の紙の混
入が問題となる。この紙の混入を防ぐ手段として,石膏ボード廃材
の紙と石膏を機械的に分離し,石膏を回収する方法および石膏ボー
ド廃材を焼成して石膏を回収する方法がある。」(段落【0003】)

・「前者の方法で回収した二水石膏は,セメント用の二水石膏として
使用した場合,セメントの強度低下および凝結時間が遅延し,分離
した紙の処分が問題となる。後者は,通常の手段で焼成すると,石
膏の分解によるSOxの発生と,紙の燃焼によるSOxの発生が問
題となる。」(段落【0004】)
・【発明が解決しようとする課題】
「石膏ボード廃材から石膏を回収するために,石膏ボード廃材に含
まれる紙を除去する手段として,焼成による方法が考えられるが,
ロータリーキルンとグレードクーラの組合せでは,石膏微粉の存在
のため温度コントロールが難しく,石膏の分解が起こらない温度ま
で加熱し,紙を完全燃焼させることは困難である。したがって,本
発明の目的は,石膏ボード廃材からリサイクル石膏を得る方法を提
供することである。」(段落【0005】)
・【課題を解決するための手段】
「上述した本発明の目的は,セメントクリンカ焼成用のサスペンシ
ョンプレヒータに石膏ボード廃材を給養し,下部から400~85
0℃の熱風を吹き込むことにより,石膏ボード廃材の石膏と石膏に
付着している紙とを同時に焼成し,焼成された石膏をロータリーキ


  • 59 -


ルンで冷却することにより達成される。」(段落【0006】)
・【発明実施の形態】
「石膏ボード廃材に含まれる紙を完全燃焼させるために必要な温度
は,紙の形態,粒度および燃焼時間によって異なるが,400~7
00℃の範囲であり,紙の耐火度が低い程,粒度の細かい程,燃焼
時間が長い程,低温で完全燃焼させることができる。」(段落【0
008】)
・「一方,加熱による石膏の分解は,約950℃から起こることが知
られており,石膏ボード廃材を石膏の分解が起こらない温度まで加
熱し,紙を完全に焼成するためには,石膏ボード廃材焼成時の温度
を400~850℃の範囲に維持する必要がある。」(段落【00
09】)
・「本発明における石膏ボード廃材の焼成方法は,ロータリーキルン
以外の熱風源において発生させた400~850℃の熱風をサス
ペンションプレヒータ下部に導入し,石膏ボード廃材をサスペンシ
ョンプレヒータに給養することにより,紙を完全に燃焼させると共
に,石膏の分解によるSOxの発生を抑制し,かつロータリーキル
ンにおいて回収物の冷却を行うものである。」(段落【0010】)
・「実施例および比較例の焼成品を粉末X線回折で確認したところ,
実施例1~3および比較例1,3の石膏の形態は,全て無水石膏で
あり,比較例2については,その殆どが無水石膏であったが,極微
量の半水石膏も含まれていた。焼成品の粉末X線回折の結果より,
上記表1における焼成品の強熱減量は,未燃焼の紙分の炭化に伴う
ものであると考えられ,強熱減量の値は,焼成品に含まれる不完全
燃焼の紙の割合を知る目安になるものと考えられる。」(段落【0
018】)


  • 60 -


b 上記記載によると,甲2発明は,石膏ボード廃材からリサイクル石
膏を得る方法として,石膏を通常の手段で焼成すると石膏の分解によ
るSOxが発生するため,石膏ボード廃材を石膏の分解が起こらない
温度まで加熱し,紙を完全に焼成するためには,石膏ボード廃材焼成
時の温度を400ないし850℃の範囲に維持する必要があるとの
認識の下,その解決手段として,セメントクリンカ焼成用のサスペン
ションプレヒータに石膏ボード廃材を給養し,下部から400ないし
850℃の熱風を吹き込むことにより,石膏ボード廃材の石膏と石膏
に付着している紙とを同時に焼成し,その結果,無水石膏を得ること
ができるという発明であることが認められる。
(ウ) 甲5発明の意義
a 甲5(特開平10-230242号公開公報)には,次の記載があ
る。
・【特許請求の範囲】
「【請求項1】 石膏ボード用原紙が付着している石膏ボード廃材
を間接加熱処理して,SOxを発生させることなく石膏ボード用原
紙を灰化させるとともに,該廃材から発生する排煙を燃焼用空気と
して用い臭気を除去することを特徴とする石膏ボード廃材の処理
方法。
【請求項2】 間接加熱処理温度が300~800℃である請求項
1に記載の石膏ボード廃材の処理方法。」
・【発明の詳細な説明】
・「以上の燃焼処理における温度及び時間について説明する。廃材の
加熱温度としては原紙部分を灰化させ得て,且つ石膏が熱分解して
亜硫酸ガス(SOx)を発生しない温度であればよい。その温度は
加熱処理する廃材量や滞留時間によっても異なるが,焼成品の出口


  • 61 -


温度として通常は300~800℃,好ましくは500~600℃
である。300℃に達しない温度では回収される石膏はⅢ型無水石
膏であるために再利用には好都合であるが,原紙部分を灰化させる
のに長時間を要するために全体としての処理効率が悪い。」(段落
【0015】)
・「これに比べて500~600℃の温度では,回収される石膏は,
Ⅲ型無水石膏とⅡ型無水石膏との混合物となるが,比較的短時間で
原紙部分を灰化することができるので好ましい。一方,熱処理温度
が800℃を超える温度では,石膏が熱分解して亜硫酸ガスが発生
し始め,回収される石膏はⅡ型無水石膏と生石灰の混合物となるの
で好ましくない。尚,加熱時間は上記の加熱温度や装置の処理容量
等との関係によって変化するが,例えば,加熱時間が500~60
0℃である場合には,約5~10分間程度で十分である。」(段落
【0016】)
・【実施例】
「次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
石膏ボード廃材・・・を,図1のAの粗粉砕機及び圧縮機にかけ・
・・。次にそれらをBの振動篩にかけて・・・比較例試料1を得た。
・・・又,上記比較例試料1を高速衝撃粉砕機Bにかけて原紙部分
を解繊し,・・・比較例試料2を得た。
これらの比較例試料1及び比較例試料2を,図2に示したような
傾斜(度)のあるステンレス製2重管の内筒側に仕込み(内筒径3
00mmφ,内筒回転速度2~3rpm,仕込量300kg/H),
排煙を燃焼用空気として回収しながら,内筒外面をLNGバーナー
を用い,回収石膏出口の石膏温度が550±50℃となるように加
熱して,実施例試料1を得た。この時の各試料の内筒内滞留時間は


  • 62 -


それぞれ約3分間であった。・・・
・・・同様に仕込量600kg/Hで,回収石膏出口の石膏温度
が750±50℃となるように加熱し,内筒内滞留時間約1分30
秒で,Ⅲ型無水石膏が約20重量%,Ⅱ型無水石膏が約80重量%
の実施例試料3を得た。・・・実施例試料2~3を得る際,いずれ
も排気にはいわゆる煙は見られず,亜硫酸ガス臭もなかった。又,
回収石膏にも生石灰は確認されなかった。」(段落【0025】~
【0027】)
b 上記記載によると,甲5発明は,石膏ボード用原紙が付着している
石膏ボード廃材を間接加熱処理して石膏ボード用原紙を灰化させる
ことを特徴とする石膏ボード廃材の処理方法に関し,SOxを発生さ
せることなく処理するために,間接加熱処理温度を300ないし80
0℃,好ましくは500ないし600℃に設定して焼成した結果,Ⅱ
型無水石膏が約80重量%の無水石膏を得ることができる,という発
明であるこが認められる。
(エ) 周知例につき
a 甲14発明
(a) 甲14(特開平6-142633号公報)には,次の記載がある。

・【特許請求の範囲】
「【請求項1】 石膏ボード芯の少なくとも一部に石膏ボード用
原紙が付着してなる石膏ボードの廃材を加熱して石膏ボード用
原紙を炭化させることを特徴とする石膏ボード廃材から石膏を
回収する方法。」
・【発明の詳細な説明】
・「また,得られる石膏を単に増量材として,或はアルカリ剤の存
在下で水和させて再利用する場合には,石膏ボードの廃材を36


  • 63 -


0℃以上で,好ましくは360~600℃で加熱して原紙を炭化
させ脱水した石膏の殆どがⅡ型無水石膏とすることもできるし,
原紙を燃焼させて石膏をⅡ型無水石膏とすることもできる。」
(段落【0006】)
・「実施例1
石膏ボードの廃材(厚さ12mm の石膏ボードの端材,原紙は全
体の約7%)を破砕機により破砕し,9mm 目篩をパスした石膏ボ
ードの破砕品を得た。この破砕品10kg(原紙の量約700g )
を撹拌機付き間接伝熱竪釜石膏加熱装置により加熱し原紙を炭
化させた。このときの加熱時間は180分で焼き上げ温度は30
0℃であった。この加熱品の石膏部分をX線回析で確認したとこ
ろ,二水石膏及びⅡ型無水石膏はなく全てⅢ型無水石膏であっ
た。」(段落【0008】)
(b) 上記記載によると,甲14発明は,石膏ボード廃材から石膏を回
収する方法に関し,石膏ボードの廃材を,間接伝熱竪釜石膏加熱装
置により,好ましくは360ないし600℃で加熱して原紙を炭化
させ脱水した石膏のほとんどをⅡ型無水石膏とする,という発明で
あることが認められる。
b 甲11ないし甲13
(a) 甲11(特開平5-293350号公報)には,次の記載がある。

・「従来,石膏-水スラリー用分散剤として高度な分散性を示すナ
フタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(以下ナフタレン系
と称す)が知られている。」(段落【0002】)
(b) 甲12(特開平6-127994号公報)には,次の記載がある。

・「従来,石膏-水スラリー用分散剤として高度な分散性を示すナ
フタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(以下ナフタレン系


  • 64 -


と称す)が知られている。」(段落【0002】)
(c) 甲13(特開2002-68820号公報)には,次の記載があ
る。
・「従来,石膏ボード等に用いられる石膏スラリーの製造には,分
散剤としてリグニンスルホン酸塩やナフタレンスルホン酸塩ホ
ルムアルデヒド縮合物,・・・等が使用されている・・・。」(段
落【0002】)

top
イ 相違点aに関する判断について
(ア) 審決は,訂正後発明1と甲1発明とは,「内筒の内部で燃料を燃焼さ
せて該内筒の下部の開口部から燃焼ガスを噴出させ,前記内筒を囲繞
し,下部が逆円錐状に形成された本体に石膏を供給し,該本体の内部で
該石膏を,加熱しながら,前記燃焼ガスによって流動化させ,生じた無
水石膏を前記本体の内部から外部に排出する無水石膏の製造方法」の点
で一致し,下記の点で相違しているとした上,相違点aについては甲1
ないし甲9,甲11ないし甲17のいずれによっても当業者が容易に想
到し得たということはできない,としている。

相違点a:訂正後発明1では,本体に供給する石膏が「ナフタレンス
ルホン酸基を含む石膏廃材」であるのに対し,甲1発明で
は,石膏(硫酸カルシウム二水和物)であるものの,ナフ
タレンスルホン酸基を含む石膏廃材であるとの特定がさ
れていない点。
相違点b:訂正後発明1では,本体の内部で材料を「本体出口におけ
る粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるように」
加熱するのに対し,甲1発明では,「約350℃以上の温
度に保つように」加熱している点。


  • 65 -
    相違点c:訂正後発明1では,加熱により生じた無水石膏を「Ⅱ型無


水石膏」と特定するのに対して,甲1発明では,単に「無
水石膏」であって型を特定していない点。
(イ) まず,前記甲2,甲5及び甲14の記載からすれば,石膏廃材のよう
な石膏製品の二水石膏を加熱脱水することで半水石膏や無水石膏を再
製できることは当該技術分野における周知技術であると認められる。
したがって,石膏を加熱して無水石膏を得る技術が開示されている甲
1発明において,加熱する石膏として「石膏廃材」を用いることは容易
に想到し得ることである。
次に,前記甲11ないし甲13の記載によれば,ナフタレンスルホン
酸基を含むナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は石膏ボー
ドに含有させる成分として周知であること,甲2,甲5及び甲14発明
においては,石膏廃材を加熱すると硫黄酸化物が発生するため,その加
熱温度の上限をそれぞれ850℃及び800℃と設定していることが
認められる。
そうすると,ナフタレンスルホン酸基の分解温度である850℃以下
において石膏廃材を加熱して無水石膏を焼成することは出願当時周知
技術であったと認められるから,甲1発明において,このような周知技
術を前提として,「ナフタレンスルホン酸基を含む石膏廃材」を供給す
る石膏として用いることは容易に想到し得ると認めるのが相当である。
(ウ) この点に関して被告らは,前記第3,3(2) ア(ア) cないしfのとお
り,石膏の分解温度より低い850℃でナフタレンスルホン酸基が分解
して硫黄酸化物が発生してしまうという訂正後発明1に示された課題
認識は相違点aを判断する上で重要な要素であるところ,上記課題を指
摘した文献はなく,甲2ないし甲5にも上記課題認識について記載もな
ければ示唆もないから,そのような課題認識のない状況で「ナフタレン


  • 66 -


スルホン酸基を含むものと含まないものもある多様な石膏廃材」から
「ナフタレンスルホン酸基を含むもの」を特定することはできない旨主
張する。
確かに,本件訂正明細書(甲20)の段落【0011】には「本発明
にかかる無水石膏の製造方法は,粉粒体を流動化状態として,高温の燃
焼ガスを接触させて加熱する間接加熱方式を採用し,粉粒体層は完全混
合状態となり,全体として略々均一な温度となり,局所的に過剰に加熱
されることはないため,原料としての石膏廃材粉末が,石膏自体の分解
温度(1000℃以上)や,混和剤として含有されるナフタレンスルホ
ン酸基の分解温度(850℃以上)に加熱されることを避けることがで
きる。これによって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制することができる。
ここで,本体出口の粉粒体温度を330℃以上500℃以下に制御する
ことで,硫黄酸化物をほとんど発生させずに,石膏廃材中の2水石膏を
完全にⅡ型無水石膏化することができる。」(下線は訂正部分)との記
載があり,上記記載によれば,訂正後発明1においては,石膏の分解温
度(1000℃)より低い850℃でナフタレンスルホン酸基が分解し
て硫黄酸化物が発生してしまうという課題認識のもとに,ナフタレンス
ルホン酸基の分解温度(850℃以上)に加熱されることを避けるため
に,本体出口の粉粒体温度を330℃以上500℃以下に制御すること
で,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制する技術的事項が記載されていると
認められる。
しかし,上記(イ) のとおり,甲2及び甲5発明においては,石膏廃材
のような石膏製品の二水石膏を加熱すると硫黄酸化物が発生するため,
その加熱温度の上限をそれぞれ850℃及び800℃と設定しており,
その上限温度は訂正後発明1の課題認識に基づく上限温度850℃以
下であるから,上記課題認識の有無にかかわらず,甲1発明に適用され


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る周知技術において既に上記課題解決のための手段が達成されている
ばかりか,甲2及び甲5発明で示されている技術を用いる限り,「石膏
の分解温度より低い850℃でナフタレンスルホン酸基が分解して硫
黄酸化物が発生してしまう」という課題自体が発生しないのであって,
それでも訂正後発明1と同じ作用効果を達成しているのであるから,甲
1,甲2,甲5,甲11ないし甲14に上記課題認識について記載や示
唆がないことは当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知
識を有する者)が訂正後発明1を想到することの妨げとなるものではな
いというべきである。
また,被告らは,上記課題認識のない状況で「ナフタレンスルホン酸
基を含むものと含まないものもある多様な石膏廃材」から「ナフタレン
スルホン酸基を含むもの」を特定することはできない旨主張するが,上
記課題自体がそもそも発生しない状況で訂正後発明1と同じ課題解決
手段を有する周知技術を適用するに当たり,「ナフタレンスルホン酸基
を含むものと含まないものもある多様な石膏廃材」から「ナフタレンス
ルホン酸基を含むもの」を特定することは,単なる材料の選択の問題に
すぎないというべきである。
したがって,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(エ) 以上のとおり,相違点aについて容易想到ではないとした審決の判断
は誤りである。

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ウ 相違点bに関する判断について
(ア) 相違点bは,前記のとおり,訂正後発明1では,本体の内部で材料を
「本体出口における粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるよ
うに」加熱するのに対し,甲1発明では,「約350℃以上の温度に保
つように」加熱している点,というものである。
ここで,本体の内部で材料を「本体出口における粉粒体温度が330


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℃以上500℃以下になるように」加熱すると特定することは,前記2
(3) イ(ウ) のとおり,本体内部での材料の加熱温度を特定することと実
質的に変わらないとみることができる。そうすると,訂正後発明1と甲
1発明とは,相違点bに関し,本体内部で石膏を加熱する温度範囲を特
定する点では共通するものであるが,加熱温度範囲の下限値が,前者で
は「330℃」であるのに対し後者では「350℃」と異なる点,及び
上限値が前者では「500℃以下」であるのに対し,後者では上限値を
特定していない点で相違しているとみることができる。

(イ) そこで検討するに,まず下限値が異なる点であるが,訂正後発明1及
び甲1発明のいずれにおいても,下限値はもともと石膏廃材等の二水石
膏からⅡ型無水石膏を焼成するために必要な温度が少なくとも330
℃以上であることによって設定される数値であるから,下限値を「33
0℃」に設定することと「350℃」に設定することには実質的な差違
はないと認められる。
次に,訂正後発明1では上限値を「500℃以下」と定めているのに
対し,甲1発明では上限値を設定していない点であるが,前記イ(ウ) の
とおり,本件訂正明細書(甲20)の段落【0011】の記載によれば,
訂正後発明1においては,石膏の分解温度(1000℃)より低い85
0℃でナフタレンスルホン酸基が分解して硫黄酸化物が発生してしま
うという課題認識のもとに,ナフタレンスルホン酸基の分解温度(85
0℃以上)に加熱されることを避けるために,本体出口の粉粒体温度を
330℃以上500℃以下に制御することで,硫黄酸化物の発生を大幅
に抑制するという技術的事項が記載されていると認められるものの,訂
正後発明1において上限値として臨界的意義を有しているのはナフタ
レンスルホン酸基の分解温度(850℃以上)以下で加熱することであ
って,前記2(3) イ(エ) で認定したとおり,もともと上限値を「500


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℃以下」と設定した点については臨界的意義はもちろんのこと何らの技
術的意義も存しないのであるから,「500℃」という特定の温度を設
定することについては格別の創意工夫を要しないこと,さらに,甲2,
甲5及び甲14の各記載によれば,石膏廃材を加熱すると硫黄酸化物が
発生するという課題認識の下にそれを抑制するために,加熱温度の範囲
をそれぞれ,甲2では「400~850℃」,甲5では「300~80
0℃,好ましくは500~600℃」,甲14では「360~600℃」
と設定していることからすれば,甲1発明において,硫黄酸化物の発生
を極力抑制することを念頭に置いて甲2,甲5及び甲14に記載された
周知技術を用いて,上限を「500℃以下」と設定することは,当業者
が容易に想到し得ることであると認めるのが相当である。
(ウ) この点に関して,被告らは,前記第3,3(2) ア(イ) のとおり,訂正
後発明1において「本体出口における粉粒体温度が330℃以上500
℃以下になるように加熱」することで,本体の内部で石膏廃材を330
℃以上840℃以下に加熱することができるのであるから,「500
℃」という上限温度は「ナフタレンスルホン酸基の分解温度(850℃
以上)」以上に加熱しないという技術的意義を有しているとし,「50
0℃」という温度設定に技術的意義があることを前提として縷々主張す
るが,上記(イ)のとおり,「500℃」という温度設定には何らの技術
的意義もないのであって,仮に被告らの主張を前提としても,「500
℃」という温度と「850℃」というナフタレンスルホン酸基の分解温
度を結びつける記載もないのであるから,「500℃」という温度設定
に被告らの主張するような技術的意義を認めることはできない。したが
って,「500℃」という温度設定に技術的意義があることを前提とす
る被告らの主張はいずれも採用することができない。
(エ) よって,相違点bについて容易想到ではないとした審決の判断も誤り


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である。
エ なお,審決は,訂正明細書等の段落【0011】の記載や【表2】の実
施例を指摘して,訂正後発明1では,上限値を「500℃」と特定するこ
とによって,95質量%を超える高純度のⅡ型無水石膏が得られるという
効果があるとし,これは,甲1,甲2,甲5及び甲14にはみられない顕
著な効果である旨と判断しているが(審決24頁23行~26頁23行),
このような純度の向上に関する効果は,訂正明細書等の段落【0011】,
【0012】,【0042】によれば,集塵手段を用いて捕集ダストを循
環させることによって生じているものであって,決して,本体出口におけ
る粉粒体温度の上限値を「500℃」と設定したことによって生じる効果
ではないから,この点に関する審決の判断も誤りである。
オ 以上のとおり,訂正後発明1は,甲1発明及び甲2,甲5,甲11ない
し14に記載された周知技術によって,当業者が容易に想到しうるものと
いうべきであるから,審決には訂正後発明1に関する進歩性の判断を誤っ
た違法がある。
(2) 訂正後発明2ないし4について
訂正後発明2ないし4は訂正後発明1についてさらに特定事項を加えた
ものと認められるから,訂正後発明1が容易想到である以上,これらの発明
についても当業者が容易に発明することができたものというほかない。した
がって,審決には訂正後発明2ないし4に関する進歩性の判断を誤った違法
がある。
(3) 訂正後発明5について
訂正後発明5は訂正後発明1ないし4を実施するためのシステムに関す
る発明であって,訂正後発明1の特定事項と実質的に同じ特定事項を有する
ものであって,訂正後発明1について述べた相違点aないしcと実質的に同
じ相違点が含まれると認められるから,訂正後発明1が容易想到である以


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上,訂正後発明5についても当業者が容易に発明することができたものとい
うほかない。したがって,審決には訂正後発明5に関する進歩性の判断を誤
った違法がある。
4 結論
以上のとおりであるから,原告の取消事由1の主張は理由がないが,取消事
由2は理由があるので,審決は違法として取り消しを免れない。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第1部

裁判長裁判官 中 野 哲 弘

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縮小版




【訂正の可否,新たな技術事項の導入】(基準)(判断)


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「基準」

「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は, 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず(特許法134条の2第5項,126条3項),また,上記規定中,「願書に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」とは,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるというべきである(なお,平成6年改正前の特許法17条2項にいう「明細書又は図面に記載した事項」に関する知財高裁平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日特別部判決参照)。そして,上記明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項は,必ずしも明細書又は図面に直接表現されていなくとも,明細書又は図面の記載から自明であれば,特段の事情がない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認めるのが相当である。」(知財高裁平成23年3月23日判決(平成22年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件(特許)))

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「判断」「あてはめ」例

(ウ) そこで,訂正事項a(ii)が「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」でなされたか否かについて検討する。

a まず,訂正前の「該本体の内部で該石膏廃材を330℃以上840 ℃以下に加熱しながら」との事項は,本体内部における石膏廃材の加熱温度を330℃以上840℃以下という範囲に数値を限定するものであるところ,上記当初明細書の記載(本件特許公報,甲10)によれば,上記数値限定の意味は,原料としての石膏廃材粉末からⅡ型無水石膏を生成するために必要とされる温度(330℃以上)を下限とし,石膏自体の分解温度(1000℃以上)や石膏廃材に混和剤として含有されるナフタレンスルホン酸基の分解温度(850℃以上)に加熱されることを避けるための温度(840℃以下)を上限とすることによって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制するための数値限定であると認められる(段落【0011】参照)。したがって,上記数値限定事項は,本件各発明において,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制するという効果を奏するために「明細書又は図面によって開示された技術的事項」であると認められる。

そこで,このような技術的事項を,訂正事項a(ii)の「該本体の内部で該石膏廃材を,該本体出口における粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」と訂正することが,上記技術的事項との関係において,「新たな技術的事項を導入しないものである」と認められるか否かが問題となる。

b ところで,本体内部の温度限定を「出口における粉粒体温度」と限定することは,本体内部の温度限定を上位概念と捉えれば,当初明細書等の実施例で記載されるとおり,本体内部に属する出口における粉粒体温度に限定するものにすぎず,もともと当初明細書等の実施例においては,【表2】において炉出口粉粒体温度で結果が表示されているように,本体内部の温度の特定は炉出口における粉粒体温度でなされていることを考慮すると,「出口における粉粒体温度」で限定することは,当初明細書等の記載から自明である技術的事項と認められるから,上記訂正をもって,「新たな技術的事項を導入しないもの」と認めるのが相当である。


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c この点に関し,原告は,前記第3,1(5) ア(ア) aのとおり,当初明細書等には,炉の本体内部の温度が本体出口部の温度と実質的に同じとする記載は一切ないことや当初明細書等の段落【0030】の記載を根拠に,石膏廃材の加熱温度を本体内部で規定することと,炉本体出口の温度で規定することとは技術的な意味が異なると主張する。

しかし,当初明細書等に記載された実施例においては,炉出口粉粒体温度が460℃になることを目標とした旨記載され(段落【0034】,【0035】),当初明細書等の【表2】には,実施例における「炉出口粉粒体温度(℃)」が,「460℃」(実施例1),「470℃」(実施例2),「450℃」(実施例3),「470℃」(実施例4)であったことが記載されていることから,本件各発明を具体的に実施する際には,炉出口(本体出口)での粉粒体温度によって設定温度を特定して運転条件を調整しているものと認められ,訂正前の「本体内部で・・・以下に加熱しながら」との記載も必ずしも炉出口以外の本体内部における最高温度領域の温度を測定することに限定していると解することはできないこと,当初明細書等に記載された実施例の加熱炉の炉出口とは,例えば,図3の記載によれば,「33 本体」から「23 製品排出管」に通じる「13d 開口部」として図示された箇所に相当すると認められるところ,本件各発明においては,その構造上当該箇所が「23 製品排出管」の中にあって外気に直接さらされる所ではないこと,石膏廃材Mは,噴出した燃焼ガスにより本体13の下部3aにおいて流動化し,燃焼ガスと熱交換し,熱交換が完了すると製品としての無水石膏Pに変化し,エアーランス14を介して導入されたコンプレッサ6からの圧縮空気Cにより流動化されて,開口部13dから製品排出管23を介して排出されること(段落【0030】)も考慮すれば,エアーランス14を介して導入されたコンプレッサ6からの圧縮空気Cによって,炉出口付近の石膏廃材の温度が多少低くなることを考慮しても,本体出口において測定される温度は,本体内部での加熱温度と実質的には変わらないとみることが可能であるから,新たな技術的事項を導入したものとはいえず,この点に関する原告の主張は採用することができない。

(エ) 次に「330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」と訂正する点について検討する。

a 訂正事項a(ii)の「・・・該石膏廃材を,・・・粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」という事項は,本体内部での石膏廃材の加熱に関し,粉粒体温度を330℃以上500℃以下になるように数値範囲を限定するものであるから,訂正前の数値限定の範囲の上限値を「840℃以下」から「500℃以下」に変更するものである。

ところで,上記「500℃」という値は当初明細書等に明示的に表現されているものではない。そこで,上記「500℃」という値が,当初明細書等に記載された事項から自明であるといえるかどうかが問題となる。

しかし,「500℃」という特定温度は,もともと訂正前の「330℃以上840℃以下」の温度の範囲内にある温度であるから,上記「500℃」という温度が当初明細書等に明示的に表現されていないとしても,硫黄酸化物の発生抑制のための温度として分解温度以下である以上他の温度と異なることはなく,実質的には記載されているに等しいと認められること,当初明細書等に記載された実施例においては,炉出口粉粒体温度が460℃になることを目標とした旨が記載され(段落【0034】,【0035】),当初明細書等の【表2】には,実施例における「炉出口粉粒体温度(℃)」が,「460℃」(実施例1),「470℃」(実施例2),「450℃」(実施例3),「470℃」(実施例4)であったことが記載されていることからすれば,具体例の温度自体にも開示に幅があるといえること,したがって,具体的に開示された数値に対して30℃ないし50℃高い数値である近接した500℃という温度を上限値として設定することも十分に考えられること,また,訂正後の上限値である「500℃」に臨界的意義が存しないことは当事者間に争いがないのであるから,訂正前の上限値である「840℃」よりも低い「500℃」に訂正することは,それによって,新たな臨界的意義を持たせるものでないことはもちろん,500℃付近に設定することで新たな技術的意義を持たせるものでもないといえるから,「500℃」という上限値は当初明細書等に記載された事項から自明な事項であって,新たな技術的事項を導入するものではないというべきである。

b この点に関し,原告は,前記第3,1(5) ア(ア) bのとおり,当初明細書等の記載によると,実施例1ないし4の炉出口粉粒体温度は目標値である460℃を中心に,上下に10℃の変動があることを示しているにすぎないにもかかわらず,審決の判断に基づくならば,炉出口粉粒体温度を460℃を目標として本体炉内で加熱する場合,「500℃」という測定値は,目標温度に対し少なくとも上方に40℃程度変動することもあり得る解釈となること,本件各発明の無水石膏の製造方法における石膏廃材を加熱焼成してⅡ型無水石膏が得られる反応は発熱反応ではなく吸熱反応であり,外部から熱を加えて石膏廃材を処理する場合,通常,運転目標値に対して実測温度が目標値を中心に平均的に上下にばらつくか低くなる傾向を示すのであって,実測温度が若干高くなることが多くなるという技術的根拠はないから,運転目標値に対して実測温度が若干高くなることが多くなることを根拠とした「500℃」の訂正は,特許明細書等の記載事項に新たな技術的事項を導入するものである旨主張する。

しかし,新たな技術的事項を導入しないものか否かを判断するに際しては,「500℃」という特定の温度が当初明細書等を総合した場合に自明といえるか否かが問題となるのであって,本件各発明においては,もともと「500℃」という特定の温度には何ら技術的意義はないのであるから,「500℃」という特定の温度が当初明細書等に記載された実施例の目標温度や実測値と比較して多少高めの温度であったとしても,臨界的意義はもちろん技術的意義の面でも実質的な差はない当初明細書等の「330℃以上840℃以下」という数値の範囲内である限り,「500℃」の訂正は,特許明細書等の記載事項に新たな技術的事項を導入するものとはいえないというべきであり,この点に関する原告の主張は採用することができない。

(オ) 小括
以上のとおり,訂正事項a(ii)は,当初明細書等に記載した事項の範囲内であって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものと認めることはできない。


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H230328現在のコメント


訂正を認め,容易想到性を否定して,審決取消を認めた判決です。

容易想到性の事実認定判決でもあります。

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Last Update: 2011-03-28 17:06:11 JST

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……………………………………………………判決末尾top
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