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2011年3月23日水曜日

特許:【訂正の可否,新たな技術事項の導入】(基準)(判断),【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月23日判決(平成22年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件(特許)))






特許:【訂正の可否,新たな技術事項の導入】(基準)(判断),【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月23日判決(平成22年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件(特許)))





知的財産高等裁判所第1部「中野哲弘コート」


平成22(行ケ)10234 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月23日 知的財産高等裁判所 

(知財高裁平成23年3月23日判決(平成22年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件(特許)))


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【訂正の可否,新たな技術事項の導入】(基準)(判断),【容易想到性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月23日判決(平成22年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件(特許)))

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判示




第2 事案の概要

1 本件は,被告両名が権利者であり名称を「無水石膏の製造方法及び無水石膏焼成システム」とする発明についての特許第4202838号(出願日 平成15年6月25日,登録日 平成20年10月17日,請求項の数5。以下「本件特許」という。)の請求項1ないし5(以下「本件発明1」などといい,全体を「本件各発明」という。)に対し,原告が特許無効審判請求をし,被告らが平成22年1月22日付けで訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をして対抗したところ,特許庁が,上記訂正請求を認めた上,請求不成立の審決をしたことから,これに不服の原告が取消しを求めた事案である。

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2 争点は,

①特許請求の範囲の減縮を理由とする本件訂正請求を認めたことが適法か,
②本件訂正後の請求項1ないし5記載の発明(以下「訂正後発明1」などという。)が下記引用例との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),
である。

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第4 当裁判所の判断

1 請求原因(1) (特許庁における手続の経緯),(2) (訂正前発明の内容),
(3) (本件訂正の内容),(4) (審決の内容)の各事実は,当事者間に争いが
ない。


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2 取消事由1(本件訂正の適否に関する判断の誤り)に対する判断

審決は,本件訂正は願書等に記載されている事項の範囲内の訂正であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないから適法であるとし,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。

(1) 本件各発明の意義
ア 当初明細書(本件特許公報,甲10)には,次の記載がある。
・ 特許請求の範囲としての【請求項1】ないし【請求項5】は前記第3,
1(2) のとおり。
・【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
「本発明は,石膏廃材を焼成して無水石膏,特にⅡ型無水石膏を焼成す
る焼成システム及び無水石膏の製造方法に関する。」(段落【0001】)

・【従来の技術】
「近年の石膏製品の需要の増加とともに,建築物の解体等に伴う石膏廃
材の発生量が増加している。特に,建築現場等で発生する廃石膏ボード
については,解体時の分別が困難であったり,リサイクル市場が不足し
ているため,そのほとんどが埋立処分されている。」(段落【0002】)

・「廃石膏ボードを埋め立てる場合には,管理型の産業廃棄物最終処分場
で処分することとされている。そのため,処理コストの増大を招くとと
もに,最終処分場の涸渇化の問題があり,石膏廃材の有効利用が期待さ
れている。」(段落【0003】)
・「そこで,本出願人は,ロータリーキルンを用い,炉内温度を焼点温度
500~1200℃及び窯尻温度300~950℃に制御して石膏廃
材を焼成することにより,Ⅱ型無水石膏の含有量が80重量%以上,半
水石膏とⅢ型無水石膏の合計含有量が10重量%以下,CaOの含有量
が10重量%以下,及び全有機炭素量0.3重量%以下の無水石膏類を


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製造する技術を提案した(特許文献1参照)。」(段落【0004】)
・「また,石膏廃材の有効利用に関する技術ではないが,特許文献2は,
無孔の底,材料のための入口及び出口,並びに逆円錐形の容器の底に隣
接して開いた熱ガス用の少なくとも1個の下方に向かって延設された
管を有する容器を含む粒状材料熱処理装置において,底を管の近くの底
で材料を制限するように形成し,ここで管から出る熱ガスが材料を加熱
し,循環させるようにした装置,いわゆるコニカルケトル炉を用いて無
水石膏を生成することの可能性に言及している。」(段落【0005】)

・【発明が解決しようとする課題】
「しかし,原料に石膏廃材を用いて無水石膏を製造する場合には,従来
のロータリーキルン等を用いて焼成すると,局所的に過剰に加熱される
部分が生じ,石膏廃材に高性能減水剤として混和されているナフタレン
スルホン酸基が分解されて硫黄酸化物が発生するおそれがあるという
問題があった。また,石膏自体も,1000℃以上に加熱すると,石膏
が熱分解して大量に硫黄酸化物が発生するおそれがあるという問題が
あった。」(段落【0007】)
・「さらに,ロータリーキルン,コニカルケトル炉等,使用する炉の種類
に関わらず,製品として得られるⅡ型無水石膏の純度を高く維持すると
ともに,燃費を低減することも要請されていた。」(段落【0008】)

・「そこで,本発明は,上記従来の技術における問題点に鑑みてなされた
ものであって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制することができるととも
に,高純度のⅡ型無水石膏を得ることができ,燃費も低い無水石膏の製
造方法及び無水石膏焼成システムを提供することを目的とする。」(段
落【0009】)
・【課題を解決するための手段】
「上記目的を達成するため,本発明は,無水石膏の製造方法であって,


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内筒の内部で燃料を燃焼させて該内筒の下部の開口部から燃焼ガスを
噴出させ,前記内筒を囲繞し,下部が逆円錐状に形成された本体に石膏
廃材を供給し,該本体の内部で該石膏廃材を330℃以上840℃以下
に加熱しながら,前記燃焼ガスによって流動化させ,生じた無水石膏を
前記本体の内部から外部に排出することを特徴とする。」(段落【00
10】)
・「本発明にかかる無水石膏の製造方法は,粉粒体を流動化状態として,
高温の燃焼ガスを接触させて加熱する間接加熱方式を採用し,粉粒体層
は完全混合状態となり,全体として略々均一な温度となり,局所的に過
剰に加熱されることはないため,原料としての石膏廃材粉末が,石膏自
体の分解温度(1000℃以上)や,混和剤として含有されるナフタレ
ンスルホン酸基の分解温度(850℃以上)に加熱されることを避ける
ことができる。これによって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制すること
ができる。ここで,石膏廃材粉末による粉粒体層温度を330℃~84
0℃に制御し,20分以上の滞留時間を与えることで,硫黄酸化物をほ
とんど発生させずに,石膏廃材中の2水石膏を完全にⅡ型無水石膏化す
ることができる。」(段落【0011】)
・「前記内筒及び本体を備える無水石膏焼成炉から排出される燃焼ガスを
集塵して捕集されるダストの70質量%以上を,該無水石膏焼成炉に戻
すことが好ましい。これによって,Ⅱ型無水石膏純度の低い飛散ダスト
を製品に混入することがなくなり,製品Ⅱ型無水石膏の高純度(95質
量%以上)が確保される。」(段落【0012】)
・「前記集塵を2段階で行い,前段の集塵を集塵効率90%以上のサイク
ロンで行うことが好適である。サイクロンで可能な限り高温でダストを
回収することにより,Ⅱ型無水石膏製造の熱量原単位を低減することが
できる。」(段落【0013】)


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・「また,前記前段の集塵を行うサイクロンを,前記無水石膏焼成炉の直
上に配置し,該サイクロンにて集塵したダストを輸送機を介さずに直接
該無水石膏焼成炉に戻すこともできる。これによって,集塵したダスト
を無水石膏焼成炉に戻す経路を最短とすることができ,熱量原単位をさ
らに低減することができる。」(段落【0014】)
・「さらに,本発明は,無水石膏焼成システムであって,下部に開口部を
備えた内筒と,該内筒を囲繞し,下部が逆円錐状に形成された本体とを
備え,前記内筒の内部で燃料が燃焼するとともに,前記開口部より燃焼
ガスが噴出し,前記本体の内部に供給された石膏廃材が該本体の内部で
加熱されながら,前記燃焼ガスによって流動化し,前記本体の内部から
外部に無水石膏として排出される無水石膏焼成炉と,該無水石膏焼成炉
から排出される燃焼ガスが導入され,該燃焼ガスに含まれるダストを第
一段階で集塵する,該無水石膏焼成炉直上に配置されたサイクロンと,
該サイクロンの排気を第二段階で集塵する集塵機とを備え,該サイクロ
ン及び該集塵機で捕集したダストを該無水石膏焼成炉に戻す経路を有
することを特徴とする。これによって,上述のように,硫黄酸化物の発
生を大幅に抑制しながら,石膏廃材から高純度のⅡ型無水石膏を低燃費
で製造することができる。」(段落【0015】)
・【発明の実施の形態】
・「次に,上記構成を有する無水石膏焼成システムの運転要領について,
図1乃至図3を参照しながら説明する。」(段落【0028】)
*【図1】(本件発明の無水石膏焼成システムの一実施の形態を示すフ
ローチャート)


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*【図3】(図1の無水石膏焼成システムの無水石膏焼成炉の断面図)


・「内筒12の内部に燃焼用空気管19を介して,ルーツブロワ7から燃
焼用空気Aを,燃料供給管11を介して燃料としての都市ガスGを供給
する。都市ガスGが内筒12の内部で燃焼し,内筒12の内部は,約1
200℃に維持される。一方,ホッパ8,スクリューフィーダ9,スク


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リューコンベア10から,原料供給管16を介して本体13の内部に石
膏廃材Mが供給される。本体13の内部は,通常,460℃程度に制御
されるが,石膏廃材または製品の種類に応じて330℃乃至840℃の
範囲で変化させることができる。」(段落【0029】)
・「内筒12の内部で都市ガスGが燃焼して発生した燃焼ガスは,スリッ
ト15から本体13の最下部に噴出する。この噴出した燃焼ガスにより
石膏廃材Mが本体13の下部3aにおいて流動化し,燃焼ガスと熱交換
する。熱交換が完了すると,石膏廃材Mは,製品としての無水石膏Pに
変化し,エアーランス14を介して導入されたコンプレッサ6からの圧
縮空気Cにより流動化され,開口部13dから製品排出管23を介して
系外に排出される。」(段落【0030】)
・「まず,実施例1~3及び比較例1で用いる試験装置について,図5を
参照しながら説明する。この試験装置は,無水石膏焼成炉31の本体3
3に燃焼用空気Aを供給するためのルーツブロワ41と,本体33に石
膏廃材Mを供給するための原料ホッパ42,スクリューフィーダ43,
及びスクリューコンベア44と,本体33に圧縮空気Cを供給するコン
プレッサ40と,本体33からの燃焼ガス中のダストを集塵して集塵し
たダストDを本体33または製品ホッパ45に戻すためのサイクロン
35,バグフィルタ36,及びスクリューコンベア38,39と,集塵
後の燃焼ガスを大気に放出するファン37とを備える。」(段落【00
33】)
*【図5】(本件発明の無水石膏焼成システムの試験装置を示すフロー
チャート)


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・「無水石膏焼成炉31は,下部のコーン部分の有効容積が1.5m3 で,
上部円筒部分の内径が1,850mmの試験用焼成炉である。また,無
水石膏焼成炉31からの排気経路に設けられたサイクロン35は,集塵
効率が93%であって,これによって排気ガスの第一段集塵を行い,さ
らにバグフィルタ36にて第二段集塵を行った後,ファン37を介して
排気ガスを大気に放出した。サイクロン35及びバグフィルタ36の捕
集ダストDは,合流した後,所定の割合をスクリューコンベア39を介
して無水石膏焼成炉31に戻し,残部を製品に混入した。無水石膏焼成
炉31の運転条件は,炉出口粉粒体温度が460℃,炉出口ガス温度が
410℃であり,時産0.70t-無水石膏/hを目標とした。」(段
落【0034】)
・「次に,実施例4で用いる試験装置について説明する。この試験装置の
全体構成は,図1に示したシステムと同様であって,無水石膏焼成炉1
は,上述の図5に示した無水石膏焼成炉31と同じものを用いた。無水
石膏焼成炉1の直上に集塵効率が93%のサイクロン2を設け,炉排気


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ガスの第一段集塵を行い,さらにバグフィルタ3にて第二段集塵を行っ
た後,ファン4を介して排気ガスを大気に放出した。サイクロン2の捕
集ダストDは,輸送機を介さず直接無水石膏焼成炉31に全量戻した。
また,バグフィルタ3の捕集ダストDも,スクリューコンベア5を介し
て全量無水石膏焼成炉31に戻した。無水石膏焼成炉1の運転条件は,
炉出口粉粒体温度が460℃,炉出口ガス温度が410℃であり,時産
0.70t-無水石膏/hを目標とした。」(段落【0035】)
・【表2】(段落【0041】)







・【発明の効果】
「以上説明したように,本発明にかかる無水石膏の製造方法及び無水石
膏焼成システムによれば,石膏廃材を焼成して無水石膏,特にⅡ型無水
石膏を焼成するにあたって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制することが
でき,高純度のⅡ型無水石膏を低燃費で焼成することができる。」(段
落【0043】)
イ 上記記載によると,本件各発明は,石膏廃材を焼成して製造されるⅡ型
無水石膏の製造方法に関し,従来のロータリーキルン等を用いて焼成する
と局所的に過剰に加熱される部分が生じ,石膏廃材に高性能減水剤として
混和されているナフタレンスルホン酸基が分解されて硫黄酸化物が発生
したり,また,1000℃以上に加熱すると,石膏自体も熱分解して大量


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に硫黄酸化物が発生するおそれがあるという問題があったことに対し,硫
黄酸化物の発生を大幅に抑制することができるとともに,高純度のⅡ型無
水石膏を得ることができ,燃費も低い無水石膏の製造方法及び無水石膏焼
成システムを提供するために,内筒の内部で燃料を燃焼させて該内筒の下
部の開口部から燃焼ガスを噴出させ,前記内筒を囲繞し,下部が逆円錐状
に形成された本体に石膏廃材を供給し,該本体の内部で該石膏廃材を33
0℃以上840℃以下に加熱しながら,前記燃焼ガスによって流動化さ
せ,生じた無水石膏を前記本体の内部から外部に排出するという間接加熱
方式を採用することによって,原料としての石膏廃材粉末が,石膏自体の
分解温度(1000℃以上)やナフタレンスルホン酸基の分解温度(85
0℃以上)に加熱されることを避けることができ,それによって,硫黄酸
化物の発生を大幅に抑制しながら,石膏廃材中の二水石膏を完全にⅡ型無
水石膏化することができる無水石膏の製造方法及び無水石膏焼成システ
ム,という発明であることが認められる。

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(2) 本件訂正の内容
平成22年1月22日付けでなされた本件訂正は,訂正事項aないしdを
内容とするものであり,その内容は前記第3,1(3) のとおりである。
(3) 訂正事項aの適否について
ア 訂正事項aは,審決が認定するとおり,訂正事項(ⅰ)ないし(ⅵ)(審決
4頁17~32行)を含むものであるが,(ⅰ),(ⅲ),(ⅳ)及び(ⅵ)の訂
正については当事者間に争いがないので,訂正事項a(ii)の適否について
検討する。
イ(ア) 訂正事項a(ii)は,「『該本体の内部で該石膏廃材を330℃以上8
40℃以下に加熱しながら』とあるのを,『該本体の内部で該石膏廃材
を,該本体出口における粉粒体温度が330℃以上500℃以下になる
ように加熱しながら』に訂正する。」というものである。


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当該訂正事項は,本体の内部での石膏廃材の加熱に関し,「該本体の
内部で該石膏廃材を330℃以上840℃以下に加熱」とあるのを「該
本体出口における粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるよう
に加熱」というように温度の測定位置と設定温度の範囲を限定するもの
であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

(イ) ところで,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,
願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲
内においてしなければならず(特許法134条の2第5項,126条3
項),また,上記規定中,「願書に添附した明細書又は図面に記載した
事項の範囲内」とは,明細書又は図面のすべての記載を総合することに
より導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術
的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであると
きは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」におい
てするものということができるというべきである(なお,平成6年改正
前の特許法17条2項にいう「明細書又は図面に記載した事項」に関す
る知財高裁平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日特
別部判決参照)。そして,上記明細書又は図面のすべての記載を総合す
ることにより導かれる技術的事項は,必ずしも明細書又は図面に直接表
現されていなくとも,明細書又は図面の記載から自明であれば,特段の
事情がない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認めるの
が相当である。

(ウ) そこで,訂正事項a(ii)が「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」
でなされたか否かについて検討する。

a まず,訂正前の「該本体の内部で該石膏廃材を330℃以上840
℃以下に加熱しながら」との事項は,本体内部における石膏廃材の加
熱温度を330℃以上840℃以下という範囲に数値を限定するも


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のであるところ,上記当初明細書の記載(本件特許公報,甲10)に
よれば,上記数値限定の意味は,原料としての石膏廃材粉末からⅡ型
無水石膏を生成するために必要とされる温度(330℃以上)を下限
とし,石膏自体の分解温度(1000℃以上)や石膏廃材に混和剤と
して含有されるナフタレンスルホン酸基の分解温度(850℃以上)
に加熱されることを避けるための温度(840℃以下)を上限とする
ことによって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制するための数値限定で
あると認められる(段落【0011】参照)。したがって,上記数値
限定事項は,本件各発明において,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制す
るという効果を奏するために「明細書又は図面によって開示された技
術的事項」であると認められる。

そこで,このような技術的事項を,訂正事項a(ii)の「該本体の内
部で該石膏廃材を,該本体出口における粉粒体温度が330℃以上5
00℃以下になるように加熱しながら」と訂正することが,上記技術
的事項との関係において,「新たな技術的事項を導入しないものであ
る」と認められるか否かが問題となる。

b ところで,本体内部の温度限定を「出口における粉粒体温度」と限
定することは,本体内部の温度限定を上位概念と捉えれば,当初明細
書等の実施例で記載されるとおり,本体内部に属する出口における粉
粒体温度に限定するものにすぎず,もともと当初明細書等の実施例に
おいては,【表2】において炉出口粉粒体温度で結果が表示されてい
るように,本体内部の温度の特定は炉出口における粉粒体温度でなさ
れていることを考慮すると,「出口における粉粒体温度」で限定する
ことは,当初明細書等の記載から自明である技術的事項と認められる
から,上記訂正をもって,「新たな技術的事項を導入しないもの」と
認めるのが相当である。


  • 49 -


c この点に関し,原告は,前記第3,1(5) ア(ア) aのとおり,当初
明細書等には,炉の本体内部の温度が本体出口部の温度と実質的に同
じとする記載は一切ないことや当初明細書等の段落【0030】の記
載を根拠に,石膏廃材の加熱温度を本体内部で規定することと,炉本
体出口の温度で規定することとは技術的な意味が異なると主張する。
しかし,当初明細書等に記載された実施例においては,炉出口粉粒
体温度が460℃になることを目標とした旨記載され(段落【003
4】,【0035】),当初明細書等の【表2】には,実施例におけ
る「炉出口粉粒体温度(℃)」が,「460℃」(実施例1),「4
70℃」(実施例2),「450℃」(実施例3),「470℃」(実
施例4)であったことが記載されていることから,本件各発明を具体
的に実施する際には,炉出口(本体出口)での粉粒体温度によって設
定温度を特定して運転条件を調整しているものと認められ,訂正前の
「本体内部で・・・以下に加熱しながら」との記載も必ずしも炉出口
以外の本体内部における最高温度領域の温度を測定することに限定
していると解することはできないこと,当初明細書等に記載された実
施例の加熱炉の炉出口とは,例えば,図3の記載によれば,「33 本
体」から「23 製品排出管」に通じる「13d 開口部」として図
示された箇所に相当すると認められるところ,本件各発明において
は,その構造上当該箇所が「23 製品排出管」の中にあって外気に
直接さらされる所ではないこと,石膏廃材Mは,噴出した燃焼ガスに
より本体13の下部3aにおいて流動化し,燃焼ガスと熱交換し,熱
交換が完了すると製品としての無水石膏Pに変化し,エアーランス1
4を介して導入されたコンプレッサ6からの圧縮空気Cにより流動
化されて,開口部13dから製品排出管23を介して排出されること
(段落【0030】)も考慮すれば,エアーランス14を介して導入


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されたコンプレッサ6からの圧縮空気Cによって,炉出口付近の石膏
廃材の温度が多少低くなることを考慮しても,本体出口において測定
される温度は,本体内部での加熱温度と実質的には変わらないとみる
ことが可能であるから,新たな技術的事項を導入したものとはいえ
ず,この点に関する原告の主張は採用することができない。

(エ) 次に「330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」と訂正
する点について検討する。
a 訂正事項a(ii)の「・・・該石膏廃材を,・・・粉粒体温度が33
0℃以上500℃以下になるように加熱しながら」という事項は,本
体内部での石膏廃材の加熱に関し,粉粒体温度を330℃以上500
℃以下になるように数値範囲を限定するものであるから,訂正前の数
値限定の範囲の上限値を「840℃以下」から「500℃以下」に変
更するものである。
ところで,上記「500℃」という値は当初明細書等に明示的に表
現されているものではない。そこで,上記「500℃」という値が,
当初明細書等に記載された事項から自明であるといえるかどうかが
問題となる。

しかし,「500℃」という特定温度は,もともと訂正前の「33
0℃以上840℃以下」の温度の範囲内にある温度であるから,上記
「500℃」という温度が当初明細書等に明示的に表現されていない
としても,硫黄酸化物の発生抑制のための温度として分解温度以下で
ある以上他の温度と異なることはなく,実質的には記載されているに
等しいと認められること,当初明細書等に記載された実施例において
は,炉出口粉粒体温度が460℃になることを目標とした旨が記載さ
れ(段落【0034】,【0035】),当初明細書等の【表2】に
は,実施例における「炉出口粉粒体温度(℃)」が,「460℃」(実


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施例1),「470℃」(実施例2),「450℃」(実施例3),
「470℃」(実施例4)であったことが記載されていることからす
れば,具体例の温度自体にも開示に幅があるといえること,したがっ
て,具体的に開示された数値に対して30℃ないし50℃高い数値で
ある近接した500℃という温度を上限値として設定することも十
分に考えられること,また,訂正後の上限値である「500℃」に臨
界的意義が存しないことは当事者間に争いがないのであるから,訂正
前の上限値である「840℃」よりも低い「500℃」に訂正するこ
とは,それによって,新たな臨界的意義を持たせるものでないことは
もちろん,500℃付近に設定することで新たな技術的意義を持たせ
るものでもないといえるから,「500℃」という上限値は当初明細
書等に記載された事項から自明な事項であって,新たな技術的事項を
導入するものではないというべきである。

b この点に関し,原告は,前記第3,1(5) ア(ア) bのとおり,当初
明細書等の記載によると,実施例1ないし4の炉出口粉粒体温度は目
標値である460℃を中心に,上下に10℃の変動があることを示し
ているにすぎないにもかかわらず,審決の判断に基づくならば,炉出
口粉粒体温度を460℃を目標として本体炉内で加熱する場合,「5
00℃」という測定値は,目標温度に対し少なくとも上方に40℃程
度変動することもあり得る解釈となること,本件各発明の無水石膏の
製造方法における石膏廃材を加熱焼成してⅡ型無水石膏が得られる
反応は発熱反応ではなく吸熱反応であり,外部から熱を加えて石膏廃
材を処理する場合,通常,運転目標値に対して実測温度が目標値を中
心に平均的に上下にばらつくか低くなる傾向を示すのであって,実測
温度が若干高くなることが多くなるという技術的根拠はないから,運
転目標値に対して実測温度が若干高くなることが多くなることを根


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拠とした「500℃」の訂正は,特許明細書等の記載事項に新たな技
術的事項を導入するものである旨主張する。

しかし,新たな技術的事項を導入しないものか否かを判断するに際
しては,「500℃」という特定の温度が当初明細書等を総合した場
合に自明といえるか否かが問題となるのであって,本件各発明におい
ては,もともと「500℃」という特定の温度には何ら技術的意義は
ないのであるから,「500℃」という特定の温度が当初明細書等に
記載された実施例の目標温度や実測値と比較して多少高めの温度で
あったとしても,臨界的意義はもちろん技術的意義の面でも実質的な
差はない当初明細書等の「330℃以上840℃以下」という数値の
範囲内である限り,「500℃」の訂正は,特許明細書等の記載事項
に新たな技術的事項を導入するものとはいえないというべきであり,
この点に関する原告の主張は採用することができない。

(オ) 小括
以上のとおり,訂正事項a(ii)は,当初明細書等に記載した事項の範
囲内であって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するもの
と認めることはできない。

ウ 訂正事項a(ⅴ)は,請求項5において上記訂正事項a(ii)と同様の訂
正をするものである。
したがって,訂正事項a(ii)と同様の理由により,訂正事項a(ⅴ)は,
請求の範囲を減縮するものであり,当初明細書等に記載した事項の範囲内
の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するもの
とは認められない。
(4) 訂正事項bの適否について
訂正事項bは,当初明細書等の段落【0010】において本件訂正事項a
と同様の訂正をするものである。


  • 53 -
    したがって,訂正事項bは,訂正事項aと同様の理由により,当初明細書


等に記載した事項の範囲内の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を
拡張し又は変更するものと認めることはできない。

(5) 訂正事項cの適否について
訂正事項cは,当初明細書等の段落【0011】において訂正事項aと同
様の訂正をするものである。
したがって,訂正事項cは,訂正事項aと同様の理由により,当初明細書
等に記載した事項の範囲内の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を
拡張し又は変更するものと認めることはできない。
(6) 訂正事項dの適否について
訂正事項dは,当初明細書等の段落【0015】において訂正事項aと同
様の訂正をするものである。
したがって,訂正事項dは,訂正事項aと同様の理由により,当初明細書
等に記載した事項の範囲内の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を
拡張し又は変更するものと認めることはできない。
(7) まとめ
以上のとおり,訂正事項aないしdの訂正はいずれも適法であって,同旨
の審決の判断に誤りはない。

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3 取消事由2(訂正後発明についての進歩性に関する判断の誤り)に対する判


(1) 訂正後発明1について
ア(ア) 甲1発明の意義
a 甲1(特公昭60-9852号公報)には,次の記載がある。
・「特許請求の範囲
1 粉末化されたあるいは粒状の石膏,または他の粒状材料を熱処
理するための装置であって,使用に際しての前記材料により接触さ


  • 54 -


れる無孔底を有する容器,熱処理されるべき前記材料のための入
口,熱処理された材料のための出口,および少なくとも一本の下方
に延びて熱ガスを通すようになされて前記底に隣接して容器の内
側に開口した加熱管を具備し,前記容器は前記出口によって決まる
材料の高さでの容器の横断面積よりも小さな面積の底を提供すべ
く少なくとも使用中の材料で占められる区域の側壁が傾斜せしめ
られており,前記容器の前記底は前記底における粒状材料を前記開
口の近傍に制限すべく前記加熱管の前記開口に関して形状づけら
れ,寸法づけられかつ配置されておりそして前記容器の前記底は前
記加熱管の前記開口の底端より下に設けられた少なくとも一個の
内部突起を有し,しかして,操作中前記加熱管の下方部分から出る
熱ガスが熱処理された材料の堆積を阻止すべく前記底を横切って
連続的に前記材料を掃引するようになしたことを特徴とする粉末
化されたあるいは粒状の石膏,または他の粒状材料を熱処理するた
めの装置。
2 <略>
3 使用中の材料によって占められる容器の前記区域は逆円錐形
であり,かかる容器の垂直軸線に実質的に沿って前記加熱管が配置
されている特許請求の範囲第1項または第2項に記載の粉末化さ
れたあるいは粒状の石膏,または他の粒状材料を熱処理するための
装置。4 前記加熱管はその下方部分の側壁に付加的に複数のガス
分配孔を有する特許請求の範囲第1項から第3項のいずれか一項
に記載の粉末化されたあるいは粒状の石膏,または他の粒状材料を
熱処理するための装置。
5 前記加熱管は上方部分で燃料供給源および酸素含有ガス源に
接続されうるものであり,かつ前記加熱管は燃料バーナーを含む特


  • 55 -


許請求の範囲第1項から第4項のいずれか一項に記載の粉末化さ
れたあるいは粒状の石膏,または他の粒状材料を熱処理するための
装置。」
・【発明の詳細な説明】
・「本発明は粒状材料特に鉱物を熱処理するための,特に石膏(水和
硫酸カルシウム)を煆焼するための装置に関する。」(第3欄22
~24行)
・「本発明によれば,使用中容器含有物によって接触せしめられる無
孔底および熱処理される材料の入口,熱処理された材料の出口,お
よび底に隣接して容器の内面に向いて開いた,熱ガスの通路のため
に設けられた少なくとも一つの下方に向って延びた加熱管を有す
る容器からなる粒状材料を熱処理するための装置を提供し,この容
器の底は管開口近くで底で材料を制限させるように形作り,これに
よって使用中加熱管の下方部分から出る熱ガスは,底で材料を加熱
と同時に循環させ,これによって容器の内容物全部を実質的に攪拌
し加熱するようにする。」(第4欄18~29行)
・「容器を連続式で運転するとき,材料例えば硫酸カルシウム二水和
物のためのバルブ付入口を設け,熱処理された材料のためのバルブ
付出口または溢流装置を設けるのが好ましい。容器への材料の供給
または容器からの材料の放出を制御するため,適切な任意の方法を
使用できる。」(第7欄4~9行)
・「本発明の装置中での処理材料の流動化は,それが主として流入ガ
スによるにしろあるいは放出された蒸気による自己流動化による
にしろ,内容物の急速かつ効率的な混合に寄与し,熱伝達に寄与す
る,そしてまた連続運転中生成物の放出さえも容易にする。この使
用のために容器には機械的攪拌機を備える必要はない。」(第7欄


  • 56 -



34~40行)
・「主として有効煆焼温度を制御することによってこの装置で半水プ
ラスターおよび無水プラスターまたはその混合物の製造を行うこ
とができる。例えば処理すべき硫酸カルシウムの温度を約140~
170℃に保つならば,硫酸カルシウム二水和物からの主たる煆焼
生成物は半水石膏である,十方(判決注:「一方」の誤記と認めら
れる。)更に高い温度,約350℃以上の温度では主生成物は無水
硫酸カルシウムである。」(第8欄14~21行)
・「燃料ガス例えば天然ガスはパイプ16を介して,容器中の材料の
高さ10に近い所で管6内に配置したノズル混合形のガスバーナ
ー17に供給する。空気はファン19から空気パイプ18を通って
このバーナーに別々に供給する。ノズル混合バーナー17を通る燃
料/空気混合物はスパーク針20で点火され,燃焼による熱いガス
状生成物は管中を下方に向って通過し,その開放端13および孔1
4を通って出る。」(第9欄27~35行)
・ 第1図(本発明による円錐煆焼容器の略図)


  • 57 -


b 上記記載によると,甲1発明は,石膏を煆焼するための装置に関し,
主として有効煆焼温度を制御することによってこの装置で半水プラ
スター及び無水プラスター又はその混合物の製造を行うために,加熱
管内に配置した燃料バーナーを通る燃料/空気混合物に点火し,該加
熱管の下方部分の開口及びガス分配孔から燃焼による熱ガスを出し,
該加熱管は容器の垂直軸線に実質的に沿って配置された少なくとも
一本の下方に延びて熱ガスを通すようになされて容器の底に隣接し
て容器の内側に開口したものであり,該容器は熱処理された材料のた
めの出口によって決まる材料の高さでの容器の横断面積よりも小さ
な面積の底を提供すべく,少なくとも使用中の材料で占められる区域
が逆円錐形であり,該容器へ熱処理されるべき材料としての石膏を供
給し,前記石膏を約350℃以上の温度に保つように,加熱管の下方
部分から出る熱ガスで容器の底で加熱と同時に循環させて前記石膏
の流動化を起こさせ,前記熱処理された材料として生じた無水石膏を
容器の内部から外部に排出する無水石膏の製造方法という発明であ
ると認められる。
(イ) 甲2発明の意義
a 甲2(特開2002-86126号公開公報)には,次の記載があ
る。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 セメントクリンカ焼成用のサスペンションプレヒー
タに石膏ボード廃材を給養し,下部から400~850℃の熱風を
吹き込むことにより,石膏ボード廃材の石膏と石膏に付着している
紙とを同時に焼成する方法。」
・【発明の詳細な説明】
・【発明の属する技術分野】


  • 58 -
    「本発明は,石膏ボード廃材の焼成方法に関するものである。」(段


落【0001】)
・【従来の技術】
「石膏ボード廃材は,石膏ボードおよびセメント原料への再利用が
期待されているが,ボード表面をおおう質量比7~10%の紙の混
入が問題となる。この紙の混入を防ぐ手段として,石膏ボード廃材
の紙と石膏を機械的に分離し,石膏を回収する方法および石膏ボー
ド廃材を焼成して石膏を回収する方法がある。」(段落【0003】)

・「前者の方法で回収した二水石膏は,セメント用の二水石膏として
使用した場合,セメントの強度低下および凝結時間が遅延し,分離
した紙の処分が問題となる。後者は,通常の手段で焼成すると,石
膏の分解によるSOxの発生と,紙の燃焼によるSOxの発生が問
題となる。」(段落【0004】)
・【発明が解決しようとする課題】
「石膏ボード廃材から石膏を回収するために,石膏ボード廃材に含
まれる紙を除去する手段として,焼成による方法が考えられるが,
ロータリーキルンとグレードクーラの組合せでは,石膏微粉の存在
のため温度コントロールが難しく,石膏の分解が起こらない温度ま
で加熱し,紙を完全燃焼させることは困難である。したがって,本
発明の目的は,石膏ボード廃材からリサイクル石膏を得る方法を提
供することである。」(段落【0005】)
・【課題を解決するための手段】
「上述した本発明の目的は,セメントクリンカ焼成用のサスペンシ
ョンプレヒータに石膏ボード廃材を給養し,下部から400~85
0℃の熱風を吹き込むことにより,石膏ボード廃材の石膏と石膏に
付着している紙とを同時に焼成し,焼成された石膏をロータリーキ


  • 59 -


ルンで冷却することにより達成される。」(段落【0006】)
・【発明実施の形態】
「石膏ボード廃材に含まれる紙を完全燃焼させるために必要な温度
は,紙の形態,粒度および燃焼時間によって異なるが,400~7
00℃の範囲であり,紙の耐火度が低い程,粒度の細かい程,燃焼
時間が長い程,低温で完全燃焼させることができる。」(段落【0
008】)
・「一方,加熱による石膏の分解は,約950℃から起こることが知
られており,石膏ボード廃材を石膏の分解が起こらない温度まで加
熱し,紙を完全に焼成するためには,石膏ボード廃材焼成時の温度
を400~850℃の範囲に維持する必要がある。」(段落【00
09】)
・「本発明における石膏ボード廃材の焼成方法は,ロータリーキルン
以外の熱風源において発生させた400~850℃の熱風をサス
ペンションプレヒータ下部に導入し,石膏ボード廃材をサスペンシ
ョンプレヒータに給養することにより,紙を完全に燃焼させると共
に,石膏の分解によるSOxの発生を抑制し,かつロータリーキル
ンにおいて回収物の冷却を行うものである。」(段落【0010】)
・「実施例および比較例の焼成品を粉末X線回折で確認したところ,
実施例1~3および比較例1,3の石膏の形態は,全て無水石膏で
あり,比較例2については,その殆どが無水石膏であったが,極微
量の半水石膏も含まれていた。焼成品の粉末X線回折の結果より,
上記表1における焼成品の強熱減量は,未燃焼の紙分の炭化に伴う
ものであると考えられ,強熱減量の値は,焼成品に含まれる不完全
燃焼の紙の割合を知る目安になるものと考えられる。」(段落【0
018】)


  • 60 -


b 上記記載によると,甲2発明は,石膏ボード廃材からリサイクル石
膏を得る方法として,石膏を通常の手段で焼成すると石膏の分解によ
るSOxが発生するため,石膏ボード廃材を石膏の分解が起こらない
温度まで加熱し,紙を完全に焼成するためには,石膏ボード廃材焼成
時の温度を400ないし850℃の範囲に維持する必要があるとの
認識の下,その解決手段として,セメントクリンカ焼成用のサスペン
ションプレヒータに石膏ボード廃材を給養し,下部から400ないし
850℃の熱風を吹き込むことにより,石膏ボード廃材の石膏と石膏
に付着している紙とを同時に焼成し,その結果,無水石膏を得ること
ができるという発明であることが認められる。
(ウ) 甲5発明の意義
a 甲5(特開平10-230242号公開公報)には,次の記載があ
る。
・【特許請求の範囲】
「【請求項1】 石膏ボード用原紙が付着している石膏ボード廃材
を間接加熱処理して,SOxを発生させることなく石膏ボード用原
紙を灰化させるとともに,該廃材から発生する排煙を燃焼用空気と
して用い臭気を除去することを特徴とする石膏ボード廃材の処理
方法。
【請求項2】 間接加熱処理温度が300~800℃である請求項
1に記載の石膏ボード廃材の処理方法。」
・【発明の詳細な説明】
・「以上の燃焼処理における温度及び時間について説明する。廃材の
加熱温度としては原紙部分を灰化させ得て,且つ石膏が熱分解して
亜硫酸ガス(SOx)を発生しない温度であればよい。その温度は
加熱処理する廃材量や滞留時間によっても異なるが,焼成品の出口


  • 61 -


温度として通常は300~800℃,好ましくは500~600℃
である。300℃に達しない温度では回収される石膏はⅢ型無水石
膏であるために再利用には好都合であるが,原紙部分を灰化させる
のに長時間を要するために全体としての処理効率が悪い。」(段落
【0015】)
・「これに比べて500~600℃の温度では,回収される石膏は,
Ⅲ型無水石膏とⅡ型無水石膏との混合物となるが,比較的短時間で
原紙部分を灰化することができるので好ましい。一方,熱処理温度
が800℃を超える温度では,石膏が熱分解して亜硫酸ガスが発生
し始め,回収される石膏はⅡ型無水石膏と生石灰の混合物となるの
で好ましくない。尚,加熱時間は上記の加熱温度や装置の処理容量
等との関係によって変化するが,例えば,加熱時間が500~60
0℃である場合には,約5~10分間程度で十分である。」(段落
【0016】)
・【実施例】
「次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
石膏ボード廃材・・・を,図1のAの粗粉砕機及び圧縮機にかけ・
・・。次にそれらをBの振動篩にかけて・・・比較例試料1を得た。
・・・又,上記比較例試料1を高速衝撃粉砕機Bにかけて原紙部分
を解繊し,・・・比較例試料2を得た。
これらの比較例試料1及び比較例試料2を,図2に示したような
傾斜(度)のあるステンレス製2重管の内筒側に仕込み(内筒径3
00mmφ,内筒回転速度2~3rpm,仕込量300kg/H),
排煙を燃焼用空気として回収しながら,内筒外面をLNGバーナー
を用い,回収石膏出口の石膏温度が550±50℃となるように加
熱して,実施例試料1を得た。この時の各試料の内筒内滞留時間は


  • 62 -


それぞれ約3分間であった。・・・
・・・同様に仕込量600kg/Hで,回収石膏出口の石膏温度
が750±50℃となるように加熱し,内筒内滞留時間約1分30
秒で,Ⅲ型無水石膏が約20重量%,Ⅱ型無水石膏が約80重量%
の実施例試料3を得た。・・・実施例試料2~3を得る際,いずれ
も排気にはいわゆる煙は見られず,亜硫酸ガス臭もなかった。又,
回収石膏にも生石灰は確認されなかった。」(段落【0025】~
【0027】)
b 上記記載によると,甲5発明は,石膏ボード用原紙が付着している
石膏ボード廃材を間接加熱処理して石膏ボード用原紙を灰化させる
ことを特徴とする石膏ボード廃材の処理方法に関し,SOxを発生さ
せることなく処理するために,間接加熱処理温度を300ないし80
0℃,好ましくは500ないし600℃に設定して焼成した結果,Ⅱ
型無水石膏が約80重量%の無水石膏を得ることができる,という発
明であるこが認められる。
(エ) 周知例につき
a 甲14発明
(a) 甲14(特開平6-142633号公報)には,次の記載がある。

・【特許請求の範囲】
「【請求項1】 石膏ボード芯の少なくとも一部に石膏ボード用
原紙が付着してなる石膏ボードの廃材を加熱して石膏ボード用
原紙を炭化させることを特徴とする石膏ボード廃材から石膏を
回収する方法。」
・【発明の詳細な説明】
・「また,得られる石膏を単に増量材として,或はアルカリ剤の存
在下で水和させて再利用する場合には,石膏ボードの廃材を36


  • 63 -


0℃以上で,好ましくは360~600℃で加熱して原紙を炭化
させ脱水した石膏の殆どがⅡ型無水石膏とすることもできるし,
原紙を燃焼させて石膏をⅡ型無水石膏とすることもできる。」
(段落【0006】)
・「実施例1
石膏ボードの廃材(厚さ12mm の石膏ボードの端材,原紙は全
体の約7%)を破砕機により破砕し,9mm 目篩をパスした石膏ボ
ードの破砕品を得た。この破砕品10kg(原紙の量約700g )
を撹拌機付き間接伝熱竪釜石膏加熱装置により加熱し原紙を炭
化させた。このときの加熱時間は180分で焼き上げ温度は30
0℃であった。この加熱品の石膏部分をX線回析で確認したとこ
ろ,二水石膏及びⅡ型無水石膏はなく全てⅢ型無水石膏であっ
た。」(段落【0008】)
(b) 上記記載によると,甲14発明は,石膏ボード廃材から石膏を回
収する方法に関し,石膏ボードの廃材を,間接伝熱竪釜石膏加熱装
置により,好ましくは360ないし600℃で加熱して原紙を炭化
させ脱水した石膏のほとんどをⅡ型無水石膏とする,という発明で
あることが認められる。
b 甲11ないし甲13
(a) 甲11(特開平5-293350号公報)には,次の記載がある。

・「従来,石膏-水スラリー用分散剤として高度な分散性を示すナ
フタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(以下ナフタレン系
と称す)が知られている。」(段落【0002】)
(b) 甲12(特開平6-127994号公報)には,次の記載がある。

・「従来,石膏-水スラリー用分散剤として高度な分散性を示すナ
フタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(以下ナフタレン系


  • 64 -


と称す)が知られている。」(段落【0002】)
(c) 甲13(特開2002-68820号公報)には,次の記載があ
る。
・「従来,石膏ボード等に用いられる石膏スラリーの製造には,分
散剤としてリグニンスルホン酸塩やナフタレンスルホン酸塩ホ
ルムアルデヒド縮合物,・・・等が使用されている・・・。」(段
落【0002】)

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イ 相違点aに関する判断について
(ア) 審決は,訂正後発明1と甲1発明とは,「内筒の内部で燃料を燃焼さ
せて該内筒の下部の開口部から燃焼ガスを噴出させ,前記内筒を囲繞
し,下部が逆円錐状に形成された本体に石膏を供給し,該本体の内部で
該石膏を,加熱しながら,前記燃焼ガスによって流動化させ,生じた無
水石膏を前記本体の内部から外部に排出する無水石膏の製造方法」の点
で一致し,下記の点で相違しているとした上,相違点aについては甲1
ないし甲9,甲11ないし甲17のいずれによっても当業者が容易に想
到し得たということはできない,としている。

相違点a:訂正後発明1では,本体に供給する石膏が「ナフタレンス
ルホン酸基を含む石膏廃材」であるのに対し,甲1発明で
は,石膏(硫酸カルシウム二水和物)であるものの,ナフ
タレンスルホン酸基を含む石膏廃材であるとの特定がさ
れていない点。
相違点b:訂正後発明1では,本体の内部で材料を「本体出口におけ
る粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるように」
加熱するのに対し,甲1発明では,「約350℃以上の温
度に保つように」加熱している点。


  • 65 -
    相違点c:訂正後発明1では,加熱により生じた無水石膏を「Ⅱ型無


水石膏」と特定するのに対して,甲1発明では,単に「無
水石膏」であって型を特定していない点。
(イ) まず,前記甲2,甲5及び甲14の記載からすれば,石膏廃材のよう
な石膏製品の二水石膏を加熱脱水することで半水石膏や無水石膏を再
製できることは当該技術分野における周知技術であると認められる。
したがって,石膏を加熱して無水石膏を得る技術が開示されている甲
1発明において,加熱する石膏として「石膏廃材」を用いることは容易
に想到し得ることである。
次に,前記甲11ないし甲13の記載によれば,ナフタレンスルホン
酸基を含むナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は石膏ボー
ドに含有させる成分として周知であること,甲2,甲5及び甲14発明
においては,石膏廃材を加熱すると硫黄酸化物が発生するため,その加
熱温度の上限をそれぞれ850℃及び800℃と設定していることが
認められる。
そうすると,ナフタレンスルホン酸基の分解温度である850℃以下
において石膏廃材を加熱して無水石膏を焼成することは出願当時周知
技術であったと認められるから,甲1発明において,このような周知技
術を前提として,「ナフタレンスルホン酸基を含む石膏廃材」を供給す
る石膏として用いることは容易に想到し得ると認めるのが相当である。
(ウ) この点に関して被告らは,前記第3,3(2) ア(ア) cないしfのとお
り,石膏の分解温度より低い850℃でナフタレンスルホン酸基が分解
して硫黄酸化物が発生してしまうという訂正後発明1に示された課題
認識は相違点aを判断する上で重要な要素であるところ,上記課題を指
摘した文献はなく,甲2ないし甲5にも上記課題認識について記載もな
ければ示唆もないから,そのような課題認識のない状況で「ナフタレン


  • 66 -


スルホン酸基を含むものと含まないものもある多様な石膏廃材」から
「ナフタレンスルホン酸基を含むもの」を特定することはできない旨主
張する。
確かに,本件訂正明細書(甲20)の段落【0011】には「本発明
にかかる無水石膏の製造方法は,粉粒体を流動化状態として,高温の燃
焼ガスを接触させて加熱する間接加熱方式を採用し,粉粒体層は完全混
合状態となり,全体として略々均一な温度となり,局所的に過剰に加熱
されることはないため,原料としての石膏廃材粉末が,石膏自体の分解
温度(1000℃以上)や,混和剤として含有されるナフタレンスルホ
ン酸基の分解温度(850℃以上)に加熱されることを避けることがで
きる。これによって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制することができる。
ここで,本体出口の粉粒体温度を330℃以上500℃以下に制御する
ことで,硫黄酸化物をほとんど発生させずに,石膏廃材中の2水石膏を
完全にⅡ型無水石膏化することができる。」(下線は訂正部分)との記
載があり,上記記載によれば,訂正後発明1においては,石膏の分解温
度(1000℃)より低い850℃でナフタレンスルホン酸基が分解し
て硫黄酸化物が発生してしまうという課題認識のもとに,ナフタレンス
ルホン酸基の分解温度(850℃以上)に加熱されることを避けるため
に,本体出口の粉粒体温度を330℃以上500℃以下に制御すること
で,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制する技術的事項が記載されていると
認められる。
しかし,上記(イ) のとおり,甲2及び甲5発明においては,石膏廃材
のような石膏製品の二水石膏を加熱すると硫黄酸化物が発生するため,
その加熱温度の上限をそれぞれ850℃及び800℃と設定しており,
その上限温度は訂正後発明1の課題認識に基づく上限温度850℃以
下であるから,上記課題認識の有無にかかわらず,甲1発明に適用され


  • 67 -


る周知技術において既に上記課題解決のための手段が達成されている
ばかりか,甲2及び甲5発明で示されている技術を用いる限り,「石膏
の分解温度より低い850℃でナフタレンスルホン酸基が分解して硫
黄酸化物が発生してしまう」という課題自体が発生しないのであって,
それでも訂正後発明1と同じ作用効果を達成しているのであるから,甲
1,甲2,甲5,甲11ないし甲14に上記課題認識について記載や示
唆がないことは当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知
識を有する者)が訂正後発明1を想到することの妨げとなるものではな
いというべきである。
また,被告らは,上記課題認識のない状況で「ナフタレンスルホン酸
基を含むものと含まないものもある多様な石膏廃材」から「ナフタレン
スルホン酸基を含むもの」を特定することはできない旨主張するが,上
記課題自体がそもそも発生しない状況で訂正後発明1と同じ課題解決
手段を有する周知技術を適用するに当たり,「ナフタレンスルホン酸基
を含むものと含まないものもある多様な石膏廃材」から「ナフタレンス
ルホン酸基を含むもの」を特定することは,単なる材料の選択の問題に
すぎないというべきである。
したがって,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(エ) 以上のとおり,相違点aについて容易想到ではないとした審決の判断
は誤りである。

top
ウ 相違点bに関する判断について
(ア) 相違点bは,前記のとおり,訂正後発明1では,本体の内部で材料を
「本体出口における粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるよ
うに」加熱するのに対し,甲1発明では,「約350℃以上の温度に保
つように」加熱している点,というものである。
ここで,本体の内部で材料を「本体出口における粉粒体温度が330


  • 68 -


℃以上500℃以下になるように」加熱すると特定することは,前記2
(3) イ(ウ) のとおり,本体内部での材料の加熱温度を特定することと実
質的に変わらないとみることができる。そうすると,訂正後発明1と甲
1発明とは,相違点bに関し,本体内部で石膏を加熱する温度範囲を特
定する点では共通するものであるが,加熱温度範囲の下限値が,前者で
は「330℃」であるのに対し後者では「350℃」と異なる点,及び
上限値が前者では「500℃以下」であるのに対し,後者では上限値を
特定していない点で相違しているとみることができる。

(イ) そこで検討するに,まず下限値が異なる点であるが,訂正後発明1及
び甲1発明のいずれにおいても,下限値はもともと石膏廃材等の二水石
膏からⅡ型無水石膏を焼成するために必要な温度が少なくとも330
℃以上であることによって設定される数値であるから,下限値を「33
0℃」に設定することと「350℃」に設定することには実質的な差違
はないと認められる。
次に,訂正後発明1では上限値を「500℃以下」と定めているのに
対し,甲1発明では上限値を設定していない点であるが,前記イ(ウ) の
とおり,本件訂正明細書(甲20)の段落【0011】の記載によれば,
訂正後発明1においては,石膏の分解温度(1000℃)より低い85
0℃でナフタレンスルホン酸基が分解して硫黄酸化物が発生してしま
うという課題認識のもとに,ナフタレンスルホン酸基の分解温度(85
0℃以上)に加熱されることを避けるために,本体出口の粉粒体温度を
330℃以上500℃以下に制御することで,硫黄酸化物の発生を大幅
に抑制するという技術的事項が記載されていると認められるものの,訂
正後発明1において上限値として臨界的意義を有しているのはナフタ
レンスルホン酸基の分解温度(850℃以上)以下で加熱することであ
って,前記2(3) イ(エ) で認定したとおり,もともと上限値を「500


  • 69 -


℃以下」と設定した点については臨界的意義はもちろんのこと何らの技
術的意義も存しないのであるから,「500℃」という特定の温度を設
定することについては格別の創意工夫を要しないこと,さらに,甲2,
甲5及び甲14の各記載によれば,石膏廃材を加熱すると硫黄酸化物が
発生するという課題認識の下にそれを抑制するために,加熱温度の範囲
をそれぞれ,甲2では「400~850℃」,甲5では「300~80
0℃,好ましくは500~600℃」,甲14では「360~600℃」
と設定していることからすれば,甲1発明において,硫黄酸化物の発生
を極力抑制することを念頭に置いて甲2,甲5及び甲14に記載された
周知技術を用いて,上限を「500℃以下」と設定することは,当業者
が容易に想到し得ることであると認めるのが相当である。
(ウ) この点に関して,被告らは,前記第3,3(2) ア(イ) のとおり,訂正
後発明1において「本体出口における粉粒体温度が330℃以上500
℃以下になるように加熱」することで,本体の内部で石膏廃材を330
℃以上840℃以下に加熱することができるのであるから,「500
℃」という上限温度は「ナフタレンスルホン酸基の分解温度(850℃
以上)」以上に加熱しないという技術的意義を有しているとし,「50
0℃」という温度設定に技術的意義があることを前提として縷々主張す
るが,上記(イ)のとおり,「500℃」という温度設定には何らの技術
的意義もないのであって,仮に被告らの主張を前提としても,「500
℃」という温度と「850℃」というナフタレンスルホン酸基の分解温
度を結びつける記載もないのであるから,「500℃」という温度設定
に被告らの主張するような技術的意義を認めることはできない。したが
って,「500℃」という温度設定に技術的意義があることを前提とす
る被告らの主張はいずれも採用することができない。
(エ) よって,相違点bについて容易想到ではないとした審決の判断も誤り


  • 70 -


である。
エ なお,審決は,訂正明細書等の段落【0011】の記載や【表2】の実
施例を指摘して,訂正後発明1では,上限値を「500℃」と特定するこ
とによって,95質量%を超える高純度のⅡ型無水石膏が得られるという
効果があるとし,これは,甲1,甲2,甲5及び甲14にはみられない顕
著な効果である旨と判断しているが(審決24頁23行~26頁23行),
このような純度の向上に関する効果は,訂正明細書等の段落【0011】,
【0012】,【0042】によれば,集塵手段を用いて捕集ダストを循
環させることによって生じているものであって,決して,本体出口におけ
る粉粒体温度の上限値を「500℃」と設定したことによって生じる効果
ではないから,この点に関する審決の判断も誤りである。
オ 以上のとおり,訂正後発明1は,甲1発明及び甲2,甲5,甲11ない
し14に記載された周知技術によって,当業者が容易に想到しうるものと
いうべきであるから,審決には訂正後発明1に関する進歩性の判断を誤っ
た違法がある。
(2) 訂正後発明2ないし4について
訂正後発明2ないし4は訂正後発明1についてさらに特定事項を加えた
ものと認められるから,訂正後発明1が容易想到である以上,これらの発明
についても当業者が容易に発明することができたものというほかない。した
がって,審決には訂正後発明2ないし4に関する進歩性の判断を誤った違法
がある。
(3) 訂正後発明5について
訂正後発明5は訂正後発明1ないし4を実施するためのシステムに関す
る発明であって,訂正後発明1の特定事項と実質的に同じ特定事項を有する
ものであって,訂正後発明1について述べた相違点aないしcと実質的に同
じ相違点が含まれると認められるから,訂正後発明1が容易想到である以


  • 71 -


上,訂正後発明5についても当業者が容易に発明することができたものとい
うほかない。したがって,審決には訂正後発明5に関する進歩性の判断を誤
った違法がある。
4 結論
以上のとおりであるから,原告の取消事由1の主張は理由がないが,取消事
由2は理由があるので,審決は違法として取り消しを免れない。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第1部

裁判長裁判官 中 野 哲 弘

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【訂正の可否,新たな技術事項の導入】(基準)(判断)


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「基準」

「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は, 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず(特許法134条の2第5項,126条3項),また,上記規定中,「願書に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」とは,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるというべきである(なお,平成6年改正前の特許法17条2項にいう「明細書又は図面に記載した事項」に関する知財高裁平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日特別部判決参照)。そして,上記明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項は,必ずしも明細書又は図面に直接表現されていなくとも,明細書又は図面の記載から自明であれば,特段の事情がない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認めるのが相当である。」(知財高裁平成23年3月23日判決(平成22年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件(特許)))

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「判断」「あてはめ」例

(ウ) そこで,訂正事項a(ii)が「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」でなされたか否かについて検討する。

a まず,訂正前の「該本体の内部で該石膏廃材を330℃以上840 ℃以下に加熱しながら」との事項は,本体内部における石膏廃材の加熱温度を330℃以上840℃以下という範囲に数値を限定するものであるところ,上記当初明細書の記載(本件特許公報,甲10)によれば,上記数値限定の意味は,原料としての石膏廃材粉末からⅡ型無水石膏を生成するために必要とされる温度(330℃以上)を下限とし,石膏自体の分解温度(1000℃以上)や石膏廃材に混和剤として含有されるナフタレンスルホン酸基の分解温度(850℃以上)に加熱されることを避けるための温度(840℃以下)を上限とすることによって,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制するための数値限定であると認められる(段落【0011】参照)。したがって,上記数値限定事項は,本件各発明において,硫黄酸化物の発生を大幅に抑制するという効果を奏するために「明細書又は図面によって開示された技術的事項」であると認められる。

そこで,このような技術的事項を,訂正事項a(ii)の「該本体の内部で該石膏廃材を,該本体出口における粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」と訂正することが,上記技術的事項との関係において,「新たな技術的事項を導入しないものである」と認められるか否かが問題となる。

b ところで,本体内部の温度限定を「出口における粉粒体温度」と限定することは,本体内部の温度限定を上位概念と捉えれば,当初明細書等の実施例で記載されるとおり,本体内部に属する出口における粉粒体温度に限定するものにすぎず,もともと当初明細書等の実施例においては,【表2】において炉出口粉粒体温度で結果が表示されているように,本体内部の温度の特定は炉出口における粉粒体温度でなされていることを考慮すると,「出口における粉粒体温度」で限定することは,当初明細書等の記載から自明である技術的事項と認められるから,上記訂正をもって,「新たな技術的事項を導入しないもの」と認めるのが相当である。


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c この点に関し,原告は,前記第3,1(5) ア(ア) aのとおり,当初明細書等には,炉の本体内部の温度が本体出口部の温度と実質的に同じとする記載は一切ないことや当初明細書等の段落【0030】の記載を根拠に,石膏廃材の加熱温度を本体内部で規定することと,炉本体出口の温度で規定することとは技術的な意味が異なると主張する。

しかし,当初明細書等に記載された実施例においては,炉出口粉粒体温度が460℃になることを目標とした旨記載され(段落【0034】,【0035】),当初明細書等の【表2】には,実施例における「炉出口粉粒体温度(℃)」が,「460℃」(実施例1),「470℃」(実施例2),「450℃」(実施例3),「470℃」(実施例4)であったことが記載されていることから,本件各発明を具体的に実施する際には,炉出口(本体出口)での粉粒体温度によって設定温度を特定して運転条件を調整しているものと認められ,訂正前の「本体内部で・・・以下に加熱しながら」との記載も必ずしも炉出口以外の本体内部における最高温度領域の温度を測定することに限定していると解することはできないこと,当初明細書等に記載された実施例の加熱炉の炉出口とは,例えば,図3の記載によれば,「33 本体」から「23 製品排出管」に通じる「13d 開口部」として図示された箇所に相当すると認められるところ,本件各発明においては,その構造上当該箇所が「23 製品排出管」の中にあって外気に直接さらされる所ではないこと,石膏廃材Mは,噴出した燃焼ガスにより本体13の下部3aにおいて流動化し,燃焼ガスと熱交換し,熱交換が完了すると製品としての無水石膏Pに変化し,エアーランス14を介して導入されたコンプレッサ6からの圧縮空気Cにより流動化されて,開口部13dから製品排出管23を介して排出されること(段落【0030】)も考慮すれば,エアーランス14を介して導入されたコンプレッサ6からの圧縮空気Cによって,炉出口付近の石膏廃材の温度が多少低くなることを考慮しても,本体出口において測定される温度は,本体内部での加熱温度と実質的には変わらないとみることが可能であるから,新たな技術的事項を導入したものとはいえず,この点に関する原告の主張は採用することができない。

(エ) 次に「330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」と訂正する点について検討する。

a 訂正事項a(ii)の「・・・該石膏廃材を,・・・粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」という事項は,本体内部での石膏廃材の加熱に関し,粉粒体温度を330℃以上500℃以下になるように数値範囲を限定するものであるから,訂正前の数値限定の範囲の上限値を「840℃以下」から「500℃以下」に変更するものである。

ところで,上記「500℃」という値は当初明細書等に明示的に表現されているものではない。そこで,上記「500℃」という値が,当初明細書等に記載された事項から自明であるといえるかどうかが問題となる。

しかし,「500℃」という特定温度は,もともと訂正前の「330℃以上840℃以下」の温度の範囲内にある温度であるから,上記「500℃」という温度が当初明細書等に明示的に表現されていないとしても,硫黄酸化物の発生抑制のための温度として分解温度以下である以上他の温度と異なることはなく,実質的には記載されているに等しいと認められること,当初明細書等に記載された実施例においては,炉出口粉粒体温度が460℃になることを目標とした旨が記載され(段落【0034】,【0035】),当初明細書等の【表2】には,実施例における「炉出口粉粒体温度(℃)」が,「460℃」(実施例1),「470℃」(実施例2),「450℃」(実施例3),「470℃」(実施例4)であったことが記載されていることからすれば,具体例の温度自体にも開示に幅があるといえること,したがって,具体的に開示された数値に対して30℃ないし50℃高い数値である近接した500℃という温度を上限値として設定することも十分に考えられること,また,訂正後の上限値である「500℃」に臨界的意義が存しないことは当事者間に争いがないのであるから,訂正前の上限値である「840℃」よりも低い「500℃」に訂正することは,それによって,新たな臨界的意義を持たせるものでないことはもちろん,500℃付近に設定することで新たな技術的意義を持たせるものでもないといえるから,「500℃」という上限値は当初明細書等に記載された事項から自明な事項であって,新たな技術的事項を導入するものではないというべきである。

b この点に関し,原告は,前記第3,1(5) ア(ア) bのとおり,当初明細書等の記載によると,実施例1ないし4の炉出口粉粒体温度は目標値である460℃を中心に,上下に10℃の変動があることを示しているにすぎないにもかかわらず,審決の判断に基づくならば,炉出口粉粒体温度を460℃を目標として本体炉内で加熱する場合,「500℃」という測定値は,目標温度に対し少なくとも上方に40℃程度変動することもあり得る解釈となること,本件各発明の無水石膏の製造方法における石膏廃材を加熱焼成してⅡ型無水石膏が得られる反応は発熱反応ではなく吸熱反応であり,外部から熱を加えて石膏廃材を処理する場合,通常,運転目標値に対して実測温度が目標値を中心に平均的に上下にばらつくか低くなる傾向を示すのであって,実測温度が若干高くなることが多くなるという技術的根拠はないから,運転目標値に対して実測温度が若干高くなることが多くなることを根拠とした「500℃」の訂正は,特許明細書等の記載事項に新たな技術的事項を導入するものである旨主張する。

しかし,新たな技術的事項を導入しないものか否かを判断するに際しては,「500℃」という特定の温度が当初明細書等を総合した場合に自明といえるか否かが問題となるのであって,本件各発明においては,もともと「500℃」という特定の温度には何ら技術的意義はないのであるから,「500℃」という特定の温度が当初明細書等に記載された実施例の目標温度や実測値と比較して多少高めの温度であったとしても,臨界的意義はもちろん技術的意義の面でも実質的な差はない当初明細書等の「330℃以上840℃以下」という数値の範囲内である限り,「500℃」の訂正は,特許明細書等の記載事項に新たな技術的事項を導入するものとはいえないというべきであり,この点に関する原告の主張は採用することができない。

(オ) 小括
以上のとおり,訂正事項a(ii)は,当初明細書等に記載した事項の範囲内であって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものと認めることはできない。


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H230328現在のコメント


訂正を認め,容易想到性を否定して,審決取消を認めた判決です。

容易想到性の事実認定判決でもあります。

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Last Update: 2011-03-28 17:06:11 JST

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……………………………………………………判決末尾top
メインサイト(Sphinx利用)知財高裁のまとめMY facebook弁護士・弁理士 岩原義則知的財産法研究会ITと法律研究会弁護士・弁理士サービスのフェイスブック活用研究会

2011年2月24日木曜日

特許:【補正適否】【一致点・相違点】【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10193号審決取消請求事件))





目 次


特許:【補正適否】【一致点・相違点】【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10193号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第2部「塩月秀平コート」



H230228現在のコメント


(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10193号審決取消請求事件))

事実認定に関する判決です。結論的には短くて読みやすいのですが,主張書面としては使いにくいでしょうか。

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縮小版なし・判決原文(引用)


(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10193号審決取消請求事件))

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1 取消事由1(補正の適否の判断の誤り)について



(1) 審決は,本件補正によって請求項1に加えられた「それにより,」の「そ
れ」を,「前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアッ
プ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコー
ド手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させ,」を指すと解した
ものである。指示語である「それ」は,通常,当該指示語より先行して現れる
語句を指すものであるところ,審決は「それにより」の直前に位置する「前記
簡素化された第2のブートコード手順は,・・・実行させ,」を指すと解した
ものであり,補正された請求項1の特許請求の範囲の記載の体裁上,不合理又
は不自然な解釈をしたものでもない。そして,本件補正後の明細書の記載及び
図面からも,「前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及び
アップグレードされる」ことの原因となるべき事項を見出すことは困難である
から,上記「それにより,」が指す事項につき上記と異なる解釈をすべきもの
であるともいえない。したがって,審決の前記文理解釈に誤りがあるというこ
とはできない。

top (2) この点,原告は,本件補正により請求項1に加えられた事項のうち
「それにより,」は,「補正後の請求項1の構成全体により,」,特に「修正
ブートコードは,ハードドライブに格納されるという構成により,」という意
味に解すべきであり,新規に原因・結果の関係又は構成・効果の関係を追加す
るものではない等と主張する。

しかしながら,本件補正後の明細書の発明の詳細な説明欄や図面には,コン
ピュータのハードドライブの特定の記憶領域であるマスターブートレコード
(master boot record,MBR)に修正されたブートコード
(コンピュータを起動するために実行されるプログラムの一種)である「修正
ブートコード」を格納し,これがコンピュータの起動時にロードされて実行さ
れること(段落【0020】,【0021】,図4~6等)や,コンピュータ
のROM(読み出し専用メモリ)等に格納され,特別の目的に沿うように修正
又は特化されたBIOS(Basic Input Output System。
コンピュータシステム内の各種ハードウェアにアクセスするための実行手続の
プログラムを体系化した特別のソフトウェアの一種。乙1の4頁参照)を実行
(執行)すること(段落【0038】,【0039】,図12,13)は記載
されているものの,補正発明(本件補正後の請求項1の発明)の構成全体や
「修正ブートコード」自体ないし「第2のブートコード」自体の作用によっ
て,「修正ブートコード」ないし「第2のブートコード」が修正ないしアップ
グレードされることは記載されていない。また,「修正ブートコード」や「第
2のブートコード」が修正ないしアップグレードされるかどうかは,「修正ブー
トコード」等のプログラムの作用如何に係るもの,すなわち,「修正ブートコー
ド」等のプログラムが実行されるときに,「修正ブートコード」等自体を修正
ないしアップグレードするようプログラムされているかどうかに係るものであっ
て,「修正ブートコード」自体をコンピュータのハードドライブに格納したこ
とに基づくものでないことは明らかである。したがって,原告の上記主張は採
用することができない。

また,原告は,「前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスター
トアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブー
トコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させること」と,
「前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレー
ドされる」こととの間には原因・結果の関係にはなく,審決のとおりに解する
と補正発明を正確に理解することができない等と主張する。

確かに,本件補正後の明細書及び図面には,「第2のブートコード手順」によっ
て,「前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグ
レードされる」ことを明示する記載は存しないが,だからといって「それによ
り,」が指示する語句が原告主張のとおりであると解しなければならないこと
になるものではない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。

(3) 前記(1)のように解すると,本件補正により,請求項1には,「前記簡素化
された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブー
ト手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコー
ドセグメントをロードまたは実行させ,それにより,前記修正ブートコード及
び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」という構成(審
決にいう事項(ア))が加えられたことになるが,「前記修正ブートコード及
び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」という構成は当
初明細書及び図面中に記載されていない事項である。また,当初明細書の記載
及び図面をすべて参照しても,上記の構成が開示されているとも示唆されてい
るともいえず,補正発明(本願発明)の優先日当時の当業者にとって,当初明
細書の記載及び図面から自明な事項であるともいい難い。したがって,本件補
正は請求項1につき当初明細書及び図面中に記載された範囲内で補正するもの
ではないから,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例
によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第3項の規定に違反する
ものというべきである。

なお,原告自身が,平成21年11月16日付け回答書(甲12)で,「出願
人もまた,補正後の請求項1における『それにより,前記修正ブートコード及
び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる』という補正は,
出願当初の明細書にも図面にも記載されていないことを認めます。そして,そ
の記載を撤回するため,特許法第17条の2に規定する補正の機会を付与して
くださいますよう希望いたします。」(1頁)としていることは,上記結論を
裏付けるものである一方,本件補正の内容にかんがみれば,上記「それによ
り,・・・」が単なる誤記であるともいい難い。

(4) 結局,本件補正が当初明細書及び図面中に記載された範囲内で補正するも
のではなく許されないとした審決の判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張
する取消事由1は理由がない。

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2 取消事由2(本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定の誤り)について



審決がした本願発明(本件補正前の請求項1の発明)と引用発明の一致点及び
相違点の認定の内容は前記第2の3のとおりであるところ,原告は,引用発明
の「オペレーティングシステムブートルーチン」はROMに格納されており,
その修正は不可能で,本願発明の従来技術に相当し,引用発明では,コンピュー
タシステムへ新たに加えられたコンポーネントに適用するという技術的課題を
有していないから,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」
は,本願発明の「修正ブートコード」と相違する等と主張する。

しかしながら,審決は,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチ
ン」が「BIOS-ROM内に格納され」ていることを相違点として正しく認
定しているから,原告の上記主張は失当である。

加えて,確かに,引用発明の「オペーレティングシステムブートルーチン」は
コンピュータのBIOS-ROMに格納されるものであるが(引用文献の段落
【0018】等),コンピュータの特定のプログラムであるBIOSを格納す
る「BIOS-ROM」は,一般に,書込みが一回だけ可能で,書込み後は読
み出すことしかできない,いわゆる文字どおりのROM(読み出し専用メモ
リ)ではなく,書換えが可能なフラッシュメモリによって構成され(乙
1~3),「オペレーティングシステムブートルーチン」を
「BIOS-ROM」に格納したことの一事をもって直ちに「オペレーティン
グシステムブートルーチン」が修正不可能なものになるわけではない。また,
引用発明は,複数のオペレーティングシステムを起動させ得るコンピュータに
おいて,第1のオペレーティングシステムを起動させることなく,第2のオペー
レティングシステムを起動することを可能にし,第2のオペレーティングシス
テムの構成次第で,DVDドライブ等の装置のうち必要な装置のみを選択的に
動作可能にできるようにする構成を有しているから(引用文献の段落
【0004】~【0008】,【0021】,【0022】,【0038】
),引用発明が本願明細書(本件補正前の明細書)にいう従来技術に相当する
ものではないし,引用発明が,コンピュータシステムへ新たに加えられたコン
ポーネントに適用するという技術的課題を有していないものでもない。また,
前記1のとおり,本願発明の特許請求の範囲には,「修正ブートコード」が
「修正ブートコード」自体を修正する構成は開示されていないから,本願発明
がかかる構成を有することを前提とする原告の主張は失当である(なお,本願
明細書(本件補正前の明細書)の発明の詳細な説明欄にも,かかる構成は開示
されていない。)。

そして,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」が果たす機
能にかんがみると,これは本願発明の「修正ブートコード」に相当するという
ことができる。

結局,本願発明と引用発明の一致点及び相違点に係る審決の認定に誤りがある
とはいえず,原告が主張する取消事由2は理由がない。


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3 取消事由3(本願発明の容易想到性の判断の誤り)について



林周志著「改訂版プロフェッショナルBSDフォローアップ 第1回 ブートマ
ネージャ」(BSD Magazine 2002,No.11,2002年3
月14日株式会社アスキー発行)168,169頁(甲2)に照らせば,複数
のオペレーティングシステムの中から一つのオペレーティングシステム又はそ
のローダを起動させる機能(引用文献の段落【0025】等)を有する引用発
明の「オペレーティングシステムブートルーチン」をハードドライブ(磁気ディ
スク装置)の特定の記憶領域である先頭セクタに,また各オペレーティングシ
ステムのローダ(本願発明にいう「第1のブートコード」及び「第2のブート
コード」)を,それぞれハードドライブ上の異なるパーティション(区画され
た記憶領域)に格納するように構成することは,当業者であれば,適宜なし得
たことであって,そのように構成したことによる作用効果も,引用発明及び甲
第2号証に記載された周知技術に照らして当業者が予測できる範囲のものであ
るということができる。他方,本件全証拠を考慮しても,引用発明の「オペレー
ティングシステムブートルーチン」をハードドライブに格納することを阻害す
るような事情は存せず,引用発明に甲第2号証に記載された周知技術を適用し
て,「オペレーティングシステムブートルーチン」をハードドライブに格納す
る構成を採用する動機付けに欠けるところはないというべきである。したがっ
て,本願発明と引用発明の相違点に係る構成は,引用発明及び本願発明の優先
日当時の周知技術に基づいて,上記優先日当時,当業者において容易に想到し
得たものであるということができる。

なお,前記2と同様に,本願発明の「修正ブートコード」が「修正ブートコー
ド」自体を修正する構成を有することを前提とする原告の主張は失当である。

結局,審決の本願発明の容易想到性に係る判断に誤りがあるとはいえず,原告
が主張する取消事由3は理由がない。

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判決原文(全文)




平成22(行ケ)10193 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成23年02月24日 知的財産高等裁判所




平成23年2月24日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官平成22年(行ケ)第10193号 審決取消請求事件


口頭弁論終結日 平成23年2月15日

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判決





主文



原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
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事実及び理由



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第1 原告が求めた判決



特許庁が不服2007-26737号事件について平成22年2月2日にした審決を取り消す。


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第2 事案の概要



本件訴訟は,特許出願拒絶査定を不服とする審判請求を成り立たないとした審決の取消訴訟である。争点は,補正の適否及び本願発明の進歩性(容易想到性)の有無である。

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1 特許庁における手続の経緯



原告は,平成17年3月31日,優先日を平成16年9月22日,優先権主張国を米国として,名称を「コンピュータの簡素化スタートアップシステム,その簡素化操作システム,その簡素化操作方法およびその効率的スタートアップシステム」とする発明の特許出願をしたが(特願2005-103899号),平成19年6月25日,特許庁から本件出願につき拒絶査定を受けたので,平成19年10月1日,不服審判請求をするとともに,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載の一部を改める旨の本件補正をした。

上記不服審判請求は,不服2007-26737号事件として係属したが,特許庁は,平成22年2月2日,「平成19年10月1日付けの手続補正を却下する。」との決定とともに「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,この謄本は平成22年2月16日に原告にオンライン送達された。

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2 本願発明の要旨



本願の発明は,コンピュータの起動時間を短縮するための簡素化スタートアップシステムに関する発明で,本件補正後の請求項の数は9であるが,そのうち本件補正の前及び後の請求項1の特許請求の範囲は以下のとおりである。

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【本件補正前の請求項1(平成19年5月28日付け手続補正書に記載のもの,本願発明)】

「コンピュータと,第1のボタンと,第2のボタンと,ロジック手段と,修正ブートコードと,第1のブートコードと,第2のブートコードとを備える,コンピュータの簡素化されたスタートアップ手順を行うシステムであって,

前記ロジック手段は,前記第1のボタンまたは前記第2のボタンのどちらかに反応して起動して,BIOSルーチンの実行を開始し,

前記修正ブートコードは,前記ロジック手段が前記第1のボタンまたは前記第2のボタンのどちらに反応して起動されたのかを前記コンピュータに判断させて,前記コンピュータに前記第1のブートコードまたは前記第2のブートコードを実行させ,ここにおいて,それらブートコードは,それぞれハードドライブ上の異なるパーティションに格納され,オペレーティングシステム用のスタートアップ手順又はブート手順の実行内容を定義し,

前記第1のブートコードは,前記第1のボタンに反応した前記ロジック手段の起動に反応して,第1のブートコード手順を前記コンピュータに実行させ,ここにおいて,第1のブートコード手順は,第1のスタートアップ手順又は第1のブート手順であり,

前記第2のブートコードは,前記第2のボタンに反応した前記ロジック手段の起動に反応して前記第1のブートコード手順より簡素化された第2のブートコード手順を前記コンピュータに実行させ,

前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させる

ことを特徴とするコンピュータの簡素化スタートアップシステム。」

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【本件補正後の請求項1(平成19年10月1日手続補正書に記載のもので,下線を付した部分が補正された部分である。補正発明)】

「コンピュータと,第1のボタンと,第2のボタンと,ロジックと,修正ブートコードと,第1のブートコードと,第2のブートコードとを備える,コンピュータの簡素化されたスタートアップ手順を行うシステムであって,

前記ロジックは,前記第1のボタンまたは前記第2のボタンのどちらかに反応して起動して,BIOSルーチンの実行を開始し,ここにおいて,前記BIOSは,少なくとも1つのカスタム化された実行されるブートコードを備え,ROMに格納され,

前記修正ブートコードは,ハードドライブに格納され,前記ロジック手段が前記第1のボタンまたは前記第2のボタンのどちらに反応して起動されたのかを前記コンピュータに判断させて,前記コンピュータに前記第1のブートコードまたは前記第2のブートコードを実行させ,ここにおいて,それらブートコードは,それぞれハードドライブ上の異なるパーティションに格納され,オペレーティングシステム用のスタートアップ手順又はブート手順の実行内容を定義し,

前記第1のブートコードは,ハードドライブに格納され,前記第1のボタンに反応した前記ロジック手段の起動に反応して,第1のブートコード手順を前記コンピュータに実行させ,ここにおいて,第1のブートコード手順は,第1のスタートアップ手順又は第1のブート手順であり,

前記第2のブートコードは,ハードドライブに格納され,前記第2のボタンに反応した前記ロジック手段の起動に反応して前記第1のブートコード手順より簡素化された第2のブートコード手順を前記コンピュータに実行させ,

前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させ,それにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされることを特徴とするコンピュータの簡素化スタートアップシステム。」

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3 審決の理由の要点



補正後の請求項1は,少なくとも,(ア)「前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させ,それにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」との事項を含んでいるところ,願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)の記載からすると,「簡素化された第2のブートコード手順は,・・・前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させ,それにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」ものではない。よって,(ア)に記載された事項は,当初明細書又は図面に記載されておらず,かつ,その記載から自明なものでもない。

したがって,本件補正は,当初明細書又は図面に記載された範囲内でされたものではないから,平成18年法律第55号附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第3項に反し,改正前の特許法159条1項において読み替えて準用される同法53条1項により却下すべきである。

また,本願発明(本件補正前の請求項1の発明)は,特開2000-20285号公報(甲1)に記載された引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたもので進歩性を欠く。

なお,審決が認定した引用発明,本願発明と引用発明の一致点及び相違点はそれぞれ下記のとおりであり,審決は,相違点に関する本願発明の構成は,当業者であれば適宜なし得たことであり,相違点は格別なものではないと判断した。

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【引用発明】

「CPUと,『PC1』の選択スイッチと,『CD』の選択スイッチと,電源コントローラと,オペレーティングシステムブートルーチンと,パーソナルコンピュータとして動作させるためのオペレーティングシステムをロードして起動するためのローダ(以下,簡単のため,『第1のローダ』と言う)と,CDプレーヤとして動作させるのに必要な最小限の機能をもつオペレーティングシステムをロードして起動するためのローダ(以下,簡単のため,『第2のローダ』と言う)とを備える,コンピュータの簡素化されたオペレーティングシステムの立ち上げを行うシステムであって,

前記電源コントローラは,前記『PC1』の選択スイッチ又は前記『CD』の選択スイッチのどちらかに反応して電源投入動作して,BIOS初期化ルーチンの実行を開始し,

前記オペレーティングシステムブートルーチンは,前記電源コントローラが前記『PC1』の選択スイッチまたは前記『CD』の選択スイッチのどちらに反応して電源投入動作されたのかを前記CPUに判断させて,前記CPUに前記第1のローダまたは前記第2のローダを実行させるカスタム化されたブートコードであって,ここにおいて,オペレーティングシステムブートルーチン,並びに第1のローダ及び第2のローダは,それぞれBIOS-ROMの記憶領域,並びに磁気ディスク装置上の異なる記憶領域に格納され,オペレーティングシステム用のスタートアップ手順又はブート手順の実行内容を定義し,

前記第1のローダは,前記『PC1』の選択スイッチに反応した前記電源コントローラの電源投入動作に反応して,第1のローダに基づくロード処理を前記CPUに実行させ,ここにおいて,第1のローダに基づくロード処理は,パーソナルコンピュータとして動作させるためのオペレーティングシステム用のスタートアップ手順又はブート手順であり,

前記第2のローダは,前記『CD』の選択スイッチに反応した前記電源コントローラの電源投入動作に反応して前記第1のローダに基づくロード処理より簡素化された第2のローダに基づくロード処理を前記CPUに実行させ,

前記簡素化された第2のローダに基づくロード処理は,CDプレーヤとして動作させるのに必要な最小限の機能をもつオペレーティングシステム用のスタートアップ手順又はブート手順であり,前記CPUに前記第1のローダに基づくロード処理と異なるコードをロードまたは実行させる

ことを特徴とするコンピュータの簡素化スタートアップシステム。」

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【本願発明と引用発明の一致点】

「コンピュータと,第1のボタンと,第2のボタンと,ロジック手段と,修正ブートコードと,第1のブートコードと,第2のブートコードとを備える,コンピュータの簡素化されたスタートアップ手順を行うシステムであって, - 6 -

前記ロジック手段は,前記第1のボタンまたは前記第2のボタンのどちらかに反応して起動して,BIOSルーチンの実行を開始し,

前記修正ブートコードは,前記ロジック手段が前記第1のボタンまたは前記第2のボタンのどちらに反応して起動されたのかを前記コンピュータに判断させて,前記コンピュータに前記第1のブートコードまたは前記第2のブートコードを実行させ,ここにおいて,それらブートコードは,それぞれ異なる記憶領域に格納され,オペレーティングシステム用のスタートアップ手順又はブート手順の実行内容を定義し,

前記第1のブートコードは,前記第1のボタンに反応した前記ロジック手段の起動に反応して,第1のブートコード手順を前記コンピュータに実行させ,ここにおいて,第1のブートコード手順は,第1のスタートアップ手順又は第1のブート手順であり,

前記第2のブートコードは,前記第2のボタンに反応した前記ロジック手段の起動に反応して前記第1のブートコード手順より簡素化された第2のブートコード手順を前記コンピュータに実行させ,

前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させる

ことを特徴とするコンピュータの簡素化スタートアップシステム。」

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【本願発明と引用発明の相違点】

「本願発明の修正ブートコード,第1のブートコード,及び第2のブートコードは,それぞれハードドライブ上の異なるパーティションに格納されているのに対し,引用発明のオペレーティングシステムブートルーチンは,BIOS-ROM内に格納され,第1のローダ及び第2のローダは,それぞれ磁気ディスク装置の異なる記憶領域に格納されている点」


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第3 原告主張の審決取消事由


1 補正の適否の判断の誤り(取消事由1)
(1) 補正発明は,従来技術とは異なって,「BIOSはROMに格納され」ているが,「修正ブートコードは,ハードドライブに格納され」ており,「それにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」点に特徴があるところ,補正発明によって解決すべき技術的課題及び補正発明の上記特徴(構成及び効果)は,当初明細書(段落【0020】,【0023】,【0038】,【0039】等)及び図5に記載されているか,又は当初明細書及び図面に記載されている事項から当業者にとって自明である。
(2) 本件補正により追加された事項は,「前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させ,それにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」ことの一部である「それにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」という事項のみである。
このうち「前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」点については,前記(1)のとおり当初明細書及び図面に記載されているか,当業者に自明な事項にすぎない。
他方,上記の「それにより,」は,「補正後の請求項1の構成全体により,」,特に「修正ブートコードは,ハードドライブに格納されるという構成により,」という意味に解すべきであり,上記の「それにより,」を加えることによって,新規に原因・結果の関係又は構成・効果の関係を追加するものではない。
しかるに,審決は,上記補正事項を正しく理解せず,上記の「それにより,」が,原因・結果の関係又は構成・効果の関係を示すもの,すなわち,「前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であ


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り,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させ」ることと,「前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」こととが原因・結果の関係又は構成・効果の関係にあるものと誤認し,上記の「それにより,」が新規に原因・結果の関係又は構成・効果の関係を追加するものと誤って評価した。
その結果,審決は本件補正を却下したものであって,審決の補正却下の判断には誤りがある。
なお,平成21年11月16日付け回答書(甲12)における「出願当初の明細書にも図面にも記載されていないことを認めます。」との原告の表明は,補正の機会を得たいと切望するあまり,発明の構成要件と効果との対応関係について判断を誤った結果にすぎず,原告において自己に不利益な「事実」を自白したものではない。
(3) なお,指示語である「それ」が直前の句ではなく,直前の句よりも前方にある句を指すこともあるし,請求項全体を指す場合もある。特に,請求項の末尾において「それにより,○○である,」というように発明の効果を記述する場合には,その効果は請求項に係る発明の構成全体により得られるものと理解されることが多く,それが通常の実務的慣行である。「それ」が請求項のうちのどこの箇所を指すかということは請求項の技術的内容に照らして決定すべきものであって,機械的に直前の句を指すものと決めつけて解釈することは誤りである。
また,「前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させること」の結果として,「前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」ことになるものではない。前者は第2のブートコード手順のコードセグメントを実行させることを意味し,後者はハードドライブ中の修正ブートコード及び第2のブートコードを修正することを意味するにすぎず,両者は,原因・結果の関係にない。前記(2)のとおりに解することは,技術的に合理性を欠くもので,このように解すると


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補正発明を正確に理解することができない。
2 引用発明と本願発明との一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由2)
引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」はROMに格納されており(段落【0018】,図3),その修正は不可能で,本願発明の従来技術に相当する。また,引用発明には,コンピュータシステムへ新たに加えられたコンポーネントに適用するという技術的課題を有しておらず,「オペレーティングシステムブートルーチン」を修正する必要性がない。
一方,本願発明の「修正ブートコード」は,上記技術的課題を解決するために,ハードドライブに格納されており,文字どおりスタートアップ手順ないしブート手順を修正するものである。
したがって,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」は,本願発明の「修正ブートコード」と相違する。
しかるに,審決は,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」が本願発明の「修正ブートコード」に相当するとして,本願発明と引用発明の一致点及び相違点を認定しているが,上記相違点を看過したものであり,この認定は誤りである。
3 本願発明の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)
引用発明は「オペレーティングシステムブートルーチン」を修正することを予定しておらず,「オペレーティングシステムブートルーチン」をハードドライブへ格納する必要がない。したがって,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」をハードドライブへ格納する構成については,引用文献においても甲第2号証においても,開示も示唆もされておらず,かかる構成を採用する動機付けを欠く。むしろ「オペレーティングシステムブートルーチン」は固定的にそのままROM内に格納しておくべきものである。
また,甲第2号証の「ブートマネージャ」が「オペレーティングシステムブートルーチン」に相当する理由も不明である。 - 10 -
しかるに,審決は,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」をハードドライブに格納するように構成することは,当業者であれば適宜なし得たことであると判断するが,この判断は誤りである。

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第4 取消事由に関する被告の反論


1 取消事由1に対し
(1) 本件補正で請求項1の特許請求の範囲に「,それにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」との記載を加える点における「それ」は,直前の句を指すものと解するのが日本語として最も自然な解釈である。原告が主張するように,上記「それ」が隔たった句である「修正ブートコードは,ハードドライブに格納され」を指すと解することは,日本語として通常なされ得る解釈ではない。また,「修正ブートコード」が「ハードドライブに格納され」ることによって直ちに「前記修正ブートコード及び前記第2の修正ブートコードが修正及びアップグレードされる」という効果を奏するものではないから,かかる効果を奏することを根拠に,上記「それ」が「修正ブートコードは,ハードドライブに格納され」を指すと解することも相当でない。
(2) したがって,前記(1)の「それ」は,「前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させることにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」ことを指すというべきである。
ここで,当初明細書の段落【0023】の記載は,一般にハードディスクのマスターブートレコードに提供されるものとして周知の「マスタブートコード」を修正したものが本願発明(及び補正発明)にいう「修正ブートコード」であることを示すものであり,上記「修正ブートコード」自体が修正又はアップグレードされることは上記段落中に記載されていない。同様に,当初明細書の段落【0038】,【0


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039】,図5やその他の部分でも,上記「修正ブートコード」自体が修正又はアップグレードされることは記載されていない。
そうすると,「前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させることにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」ことは,当初明細書又は図面の記載を総合し,当業者の優先日当時の技術常識を参酌しても,当初明細書又は図面に記載された事項であるということはできないし,当初明細書又は図面に記載された事項から当業者において自明な事項であるということもできない。したがって,上記の「前記・・・により,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」ことは,本件補正において導入された新たな技術的事項であることが明らかである。
(3) 原告も,平成21年11月16日付け回答書(甲12)で,「出願人もまた,補正後の請求項1における『それにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる』という補正は,出願当初の明細書にも図面にも記載されていないことを認めます。」(1頁下から8行~下から6行)としており,前記(2)の事項が新たな技術的事項に当たる点に異を唱えていない。
(4) だとすると,本件補正が当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものではないとした審決の判断に誤りはない。したがって,審決が平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第3項の規定に違反するので,上記改正前の特許法159条1項において読み替えて準用する53条1項の規定により却下した点に何ら誤りはない。
2 取消事由2に対し
前記1と同様に,本件補正前の明細書(本願明細書)にも図面にも,本願発明にいう「修正ブートコード」が修正及びアップグレードされることは記載されていな


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いから,本願発明にいう「修正ブートコード」が修正されることを前提とする原告の主張は失当である。
また,「BIOS-ROM」は,一般に書換えが可能なフラッシュメモリによって構成されるものであって(乙1~3),「オペレーティングシステムブートルーチン」が「BIOS-ROM」に格納されたからといって,「オペレーティングシステムブートルーチン」が修正不可能なものになるわけではない。
したがって,本願発明にいう「修正ブートコード」が引用発明にいう「オペレーティングシステムブートルーチン」に相当するとした審決の評価に誤りはなく,本願発明と引用発明の一致点及び相違点に係る審決の認定に誤りはない。
3 取消事由3に対し
前記2と同様に,本願発明において「修正ブートコード」が修正及びアップグレードされることは記載されていないから,本願発明にいう「修正ブートコード」が修正されることを前提とする原告の主張は失当である。
引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」も,甲第2号証の「ブートマネージャ」も,1台の情報処理装置の磁気ディスク装置(ハードドライブ)に格納された複数のオペレーティングシステムを,起動時に必要に応じて切り替えることを実現するためのプログラムであるから,引用発明にいう「オペレーティングシステムブートルーチン」は甲第2号証にいう「ブートマネージャ」に相当する。
そして,甲第2号証の「ブートマネージャ」の例のように,1台の情報処理装置のハードディスク装置に格納された複数のオペレーティングシステムを,必要に応じて起動時に切り替えることを実現するプログラムを,磁気ディスク装置の先頭セクタすなわちマスターブートレコード(MBR)に格納することは,当業者にとって常識的・基礎的事項といえる事柄である。他方,引用発明において,「オペレーティングシステムブートルーチン」を磁気ディスク装置に格納することを阻害するような事情は存しない。
そうすると,引用発明における「オペレーティングシステムブートルーチン」を,


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BIOS-ROM内に格納することに替え,磁気ディスク装置の先頭セクタに格納するように構成することは,本願発明の優先日当時,当業者において容易に想到し得たものである。
したがって,この旨判断する審決の容易想到性の判断に誤りはない。

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第5 当裁判所の判断





1 取消事由1(補正の適否の判断の誤り)について



(1) 審決は,本件補正によって請求項1に加えられた「それにより,」の「それ」を,「前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させ,」を指すと解したものである。指示語である「それ」は,通常,当該指示語より先行して現れる語句を指すものであるところ,審決は「それにより」の直前に位置する「前記簡素化された第2のブートコード手順は,・・・実行させ,」を指すと解したものであり,補正された請求項1の特許請求の範囲の記載の体裁上,不合理又は不自然な解釈をしたものでもない。そして,本件補正後の明細書の記載及び図面からも,「前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」ことの原因となるべき事項を見出すことは困難であるから,上記「それにより,」が指す事項につき上記と異なる解釈をすべきものであるともいえない。したがって,審決の前記文理解釈に誤りがあるということはできない。

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(2) この点,原告は,本件補正により請求項1に加えられた事項のうち「それにより,」は,「補正後の請求項1の構成全体により,」,特に「修正ブートコードは,ハードドライブに格納されるという構成により,」という意味に解すべきであり,新規に原因・結果の関係又は構成・効果の関係を追加するものではない等と主張する。

しかしながら,本件補正後の明細書の発明の詳細な説明欄や図面には,コンピュータのハードドライブの特定の記憶領域であるマスターブートレコード(master boot record,MBR)に修正されたブートコード(コンピュータを起動するために実行されるプログラムの一種)である「修正ブートコード」を格納し,これがコンピュータの起動時にロードされて実行されること(段落【0020】,【0021】,図4~6等)や,コンピュータのROM(読み出し専用メモリ)等に格納され,特別の目的に沿うように修正又は特化されたBIOS(Basic Input Output System。コンピュータシステム内の各種ハードウェアにアクセスするための実行手続のプログラムを体系化した特別のソフトウェアの一種。乙1の4頁参照)を実行(執行)すること(段落【0038】,【0039】,図12,13)は記載されているものの,補正発明(本件補正後の請求項1の発明)の構成全体や「修正ブートコード」自体ないし「第2のブートコード」自体の作用によって,「修正ブートコード」ないし「第2のブートコード」が修正ないしアップグレードされることは記載されていない。また,「修正ブートコード」や「第2のブートコード」が修正ないしアップグレードされるかどうかは,「修正ブートコード」等のプログラムの作用如何に係るもの,すなわち,「修正ブートコード」等のプログラムが実行されるときに,「修正ブートコード」等自体を修正ないしアップグレードするようプログラムされているかどうかに係るものであって,「修正ブートコード」自体をコンピュータのハードドライブに格納したことに基づくものでないことは明らかである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

また,原告は,「前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させること」と,「前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」こととの間には原因・結果の関係にはなく,審決のとおりに解すると補正発明を正確に理解することができない等と主張する。

確かに,本件補正後の明細書及び図面には,「第2のブートコード手順」によって,「前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」ことを明示する記載は存しないが,だからといって「それにより,」が指示する語句が原告主張のとおりであると解しなければならないことになるものではない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。

(3) 前記(1)のように解すると,本件補正により,請求項1には,「前記簡素化された第2のブートコード手順は,第2のスタートアップ手順又は第2のブート手順であり,前記コンピュータに前記第1のブートコード手順と異なるコードセグメントをロードまたは実行させ,それにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」という構成(審決にいう事項(ア))が加えられたことになるが,「前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる」という構成は当初明細書及び図面中に記載されていない事項である。また,当初明細書の記載及び図面をすべて参照しても,上記の構成が開示されているとも示唆されているともいえず,補正発明(本願発明)の優先日当時の当業者にとって,当初明細書の記載及び図面から自明な事項であるともいい難い。したがって,本件補正は請求項1につき当初明細書及び図面中に記載された範囲内で補正するものではないから,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第3項の規定に違反するものというべきである。

なお,原告自身が,平成21年11月16日付け回答書(甲12)で,「出願 人もまた,補正後の請求項1における『それにより,前記修正ブートコード及び前記第2のブートコードが修正及びアップグレードされる』という補正は,出願当初の明細書にも図面にも記載されていないことを認めます。そして,その記載を撤回するため,特許法第17条の2に規定する補正の機会を付与してくださいますよう希望いたします。」(1頁)としていることは,上記結論を裏付けるものである一方,本件補正の内容にかんがみれば,上記「それにより,・・・」が単なる誤記であるともいい難い。

(4) 結局,本件補正が当初明細書及び図面中に記載された範囲内で補正するものではなく許されないとした審決の判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由1は理由がない。

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2 取消事由2(本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定の誤り)について



審決がした本願発明(本件補正前の請求項1の発明)と引用発明の一致点及び相違点の認定の内容は前記第2の3のとおりであるところ,原告は,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」はROMに格納されており,その修正は不可能で,本願発明の従来技術に相当し,引用発明では,コンピュータシステムへ新たに加えられたコンポーネントに適用するという技術的課題を有していないから,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」
は,本願発明の「修正ブートコード」と相違する等と主張する。

しかしながら,審決は,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」が「BIOS-ROM内に格納され」ていることを相違点として正しく認定しているから,原告の上記主張は失当である。

加えて,確かに,引用発明の「オペーレティングシステムブートルーチン」はコンピュータのBIOS-ROMに格納されるものであるが(引用文献の段落【0018】等),コンピュータの特定のプログラムであるBIOSを格納する「BIOS-ROM」は,一般に,書込みが一回だけ可能で,書込み後は読み出すことしかできない,いわゆる文字どおりのROM(読み出し専用メモリ)ではなく,書換えが可能なフラッシュメモリによって構成され(乙1~3),「オペレーティングシステムブートルーチン」を「BIOS-ROM」に格納したことの一事をもって直ちに「オペレーティングシステムブートルーチン」が修正不可能なものになるわけではない。また,引用発明は,複数のオペレーティングシステムを起動させ得るコンピュータにおいて,第1のオペレーティングシステムを起動させることなく,第2のオペーレティングシステムを起動することを可能にし,第2のオペレーティングシステムの構成次第で,DVDドライブ等の装置のうち必要な装置のみを選択的に動作可能にできるようにする構成を有しているから(引用文献の段落【0004】~【0008】,【0021】,【0022】,【0038】),引用発明が本願明細書(本件補正前の明細書)にいう従来技術に相当するものではないし,引用発明が,コンピュータシステムへ新たに加えられたコンポーネントに適用するという技術的課題を有していないものでもない。また,前記1のとおり,本願発明の特許請求の範囲には,「修正ブートコード」が「修正ブートコード」自体を修正する構成は開示されていないから,本願発明がかかる構成を有することを前提とする原告の主張は失当である(なお,本願 明細書(本件補正前の明細書)の発明の詳細な説明欄にも,かかる構成は開示
されていない。)。

そして,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」が果たす機能にかんがみると,これは本願発明の「修正ブートコード」に相当するということができる。結局,本願発明と引用発明の一致点及び相違点に係る審決の認定に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由2は理由がない。


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3 取消事由3(本願発明の容易想到性の判断の誤り)について



林周志著「改訂版プロフェッショナルBSDフォローアップ 第1回 ブートマネージャ」(BSD Magazine 2002,No.11,2002年3月14日株式会社アスキー発行)168,169頁(甲2)に照らせば,複数のオペレーティングシステムの中から一つのオペレーティングシステム又はそのローダを起動させる機能(引用文献の段落【0025】等)を有する引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」をハードドライブ(磁気ディスク装置)の特定の記憶領域である先頭セクタに,また各オペレーティングシステムのローダ(本願発明にいう「第1のブートコード」及び「第2のブートコード」)を,それぞれハードドライブ上の異なるパーティション(区画された記憶領域)に格納するように構成することは,当業者であれば,適宜なし得たことであって,そのように構成したことによる作用効果も,引用発明及び甲第2号証に記載された周知技術に照らして当業者が予測できる範囲のものであるということができる。他方,本件全証拠を考慮しても,引用発明の「オペレーティングシステムブートルーチン」をハードドライブに格納することを阻害するような事情は存せず,引用発明に甲第2号証に記載された周知技術を適用して,「オペレーティングシステムブートルーチン」をハードドライブに格納する構成を採用する動機付けに欠けるところはないというべきである。したがって,本願発明と引用発明の相違点に係る構成は,引用発明及び本願発明の優先日当時の周知技術に基づいて,上記優先日当時,当業者において容易に想到し得たものであるということができる。

なお,前記2と同様に,本願発明の「修正ブートコード」が「修正ブートコード」自体を修正する構成を有することを前提とする原告の主張は失当である。

結局,審決の本願発明の容易想到性に係る判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由3は理由がない。

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第6 結論



以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官塩 月 秀 平裁判官真 辺 朋 子 - 19 -- 20 -裁判官田 邉 実
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Last Update: 2011-02-28 17:59:25 JST

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……………………………………………………判決末尾top
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特許:【補正要件充足性】「解釈」(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10251号審決取消請求事件))






特許:【補正要件充足性】「解釈」(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10251号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」



H20228現在のコメント


(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10251号審決取消請求事件))

補正要件充足性について判断した判決です。



縮小版【引用文献と補正要件充足性】「解釈」


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(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10251号審決取消請求事件))

「審査の過程において,引用文献と対比して判断することがあったとしても,補正により追加された事項が,当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術事項と認められるか否かに関する判断に際しては,補正事項との関係において別途判断されるべきものであることはむしろ当然である。」「したがって,本件補正事項が,補正要件を充足しているか否かの判断に当たり,当初明細書において開示されている技術事項について判断した本件審決の手法に,誤りはない」(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10251号審決取消請求事件))

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判決原文(引用)


(知財高裁平成23年2月24日判決(平成22年(行ケ)第10251号審決取消請求事件))
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第2 事案の概要



本件は, 原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,平成20年3月14日付け補正を却下した上,願書の特許請求の範囲を下記2の(1)から(2)へと補正する本件補正は,いわゆる新規事項を追加するものであるから,本件出願を拒絶すべき旨の査定は相当であって,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

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1 取消事由1(本件審決の手続違反)について



(1) 本件補正について

本件拒絶査定は,本件補正について,本件補正事項は当初明細書に記載されたものではなく,また,自明に導かれるものということもできないと指摘した本件拒絶理由通知(甲3)を前提とするものである。

そこで,本件補正が補正要件を充足するものであったか否かについて,まず検討することとする。

ア本件補正発明においては,「脳波誘導の休止周期は,ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促すためのタイムラグとして呼吸周期以下を含み」との構成を有するところ,かかる構成によると,脳波誘導の休止周期は,呼吸周期以下を含むものであり,それは,「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」ためのタイムラグとされているものである。

また,同発明は,「脳波誘導の周波数の推移終点に対してレム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段,を備えた」との構成も有するところ,かかる構成によると,脳波誘導の周波数の推移終点に対して,「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」を有するものと解される。
9

以上からすると,上記各構成は,いずれもレム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関する特定をその内容とするから,本件補正が補正要件を充足するか否かについては,当初明細書における,レム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関する記載を検討する必要がある。

イ当初明細書(乙1)には,レム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関し,以下の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲

【請求項21】脳波誘導方式は,脳波刺激のためのγ波からα波に推移する周波数に対して, 休止間隔のための0.4Hzから0.1Hzの範囲内で推移する周波数を複合するとともに,前記周波数の推移は,50±20秒の時間経過を要したのちに反復するとともに,さらに,反復毎に周波数帯域は推移変化したことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項22】脳波誘導方式は,脳波刺激のためのγ波からα波の周波数帯域に対して, 休止間隔のための0.9Hz-0.04Hzの範囲内の周波数帯域を複合するとともに,前記脳波刺激と前記休止間隔は,60±40秒の所要時間において推移変化し,さらに,反復するとともに,さらに,反復毎において,周波数帯域,又は,時間経過,は,推移変化したことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項23】脳波を賦活するための複合波を用いた方式であって, 前記複合波は,脳波誘導のためのγ波高域からα波低域に推移する周波数Aと,休止間隔のための0.4Hzから0.1Hzに推移する周波数Bを用いるとともに,前記周波数ABの推移は,45秒±15秒の時間を要するとともに,反復し,さらに,反復毎においても変化を加味するための減算を用いたことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項24】睡眠時の脳波誘導を長時間実施するための複合波を用いた脳波誘導方式であって,前記複合波は,脳波誘導のためのα波からδ波(0.5Hz)に推移する周波数Aと,休止間隔のための0.5Hzから0.01Hzに推移する周波数Bを用いるとともに,前記周波数A-Bの推移は,1ステージで80±10分の所要時間を要するとともに,最大6回まで反復し,さらに,反復毎においてもステージに推移変化を加味したことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項25】脳波を賦活するための複合波を用いた脳波誘導方式であって,前記複合波は,脳波誘導のためのβ波前後の周波数帯域Aと,休止間隔のための0.85±0.75Hzの周波数帯域Bを用いるとともに,前記複合波は,60±40秒の時間を要して推移変化するとともに,反復し,さらに,反復毎においても相違する変化を加味するための6±4%づつ推移変化したことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項26】睡眠時に脳波誘導を長時間実施するための複合波を用いた脳波誘導方式であって,前記複合波は,脳波誘導のためのα波からδ波低域(0.5Hz)に推移する周波数Aと,休止間隔のための0.5Hzから0.01Hzに推移する周波数Bを用いるとともに, 前記周波数A-Bの推移は,1ステージで80±20分の所要時間で到達するとともに,最大6回まで反復し,さらに,反復毎においてもステージに推移変化を加味したことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項27】睡眠時のための脳波誘導手段を備えた脳波治療装置であって,脳波誘導のためのα波からδ波低域(0.5Hz)に推移する周波数Aを,脳波誘導手段を用いて脳波誘導出力するとともに,前記脳波誘導出力は,0.5Hzから0.01Hzに推移する周波数Bを複合したことによる休止間隔を有するとともに,前記周波数A-Bの推移は,1回で80±20分の時間を要して最高6回まで反復し,前記周波数A-Bはさらに6±2%づつ反復毎に加算されることを特徴とした脳波治療装置

【請求項28】脳波治療装置は,脳波誘導手段,CPU本体とその内部プログラム,を備え,前記内部プログラムは,前記脳波誘導手段に対してγ-α波の脳波誘導のための周波数を脳波誘導出力するとともに,前記脳波誘導出力は,0.4Hz-0.1Hzの周波数を用いたことによる休止時間を有するとともに,前記休止時間と脳波誘導のための周波数は,50±30秒の時間経過と比例して推移するとともに,特定の範囲で反復し,さらに,前記特定の範囲は反復毎において,相違変化するため11の推移を加味したことを特徴とした脳波治療装置

【請求項30】脳波治療装置は,脳波誘導手段,CPU本体とその内部プログラム,を備え,前記内部プログラムは,前記脳波誘導手段に対してβ-δ波のパルス波を出力するとともに,前記パルス波は,前記脳波誘導のための周波数に対して,呼吸数以下の休止時間を用いるための0.5-0.011Hzの周波数帯域を複合したことによる複合波形であるとともに,前記休止時間と脳波誘導のための周波数は,80±20分のステージの所要時間において推移変化するとともに,前記推移変化は,最大で6回のステージのための反復を行うとともに,さらに,反復毎においても前記周波数帯域が推移変化したことを特徴とした脳波治療装置

【請求項31】脳波治療装置は,脳波誘導手段,CPU本体とその内部プログラム,を備え,前記内部プログラムは,前記脳波誘導手段に対してβ-δ波のパルス波を出力するとともに,前記パルス波は,前記脳波誘導のための周波数に対して,呼吸数以下の休止時間を用いるための0.5-0.01Hzの周波数帯域を複合したことによる複合波形であるとともに,前記休止時間と脳波誘導のための周波数は,80±20分のステージの所要時間において推移変化するとともに,前記推移変化は,最大で6回のステージのための反復を行うとともに,さらに,反復毎においても前記周波数帯域が推移変化するとともに,前記脳波誘導手段は,光刺激装置,ならびに音波刺激装置,ならびに電気刺激装置,とを複数接続できる出力端末を備え,前記パルス波を受けて,それぞれの刺激装置に適した波形に加工出力するための電圧電流の増幅回路を備えることを特徴とした脳波治療装置

【請求項37】請求項32-35のいずれかに記載のサブリミナル学習システムにおいて,前記第1段階と前記第2段階は,それぞれ2回行うとともに,前記脳波誘導のための周波数は,第1段階の1回目はθ波前後,その2回目はδ波前後,第2段階の1回目はβ波前後,その2回目はα波前後であることを特徴としたサブリミナル学習システム

(イ) 発明の詳細な説明
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a 脳波誘導のための周波数を決定する際においては,θ波を用いると眠くなることがある。そのため,δ波,又はα波低域を代わりに用いることも可能であるが,利用者が十分に睡眠を取っておけば,この問題を回避することもできる。また,表示端末の仕様によってはチラツキが生じる問題があるが,具体的には実施例6で解説する(【0022】)。

b 以下は睡眠時において脳波誘導を行う際の問題点と,脳波誘導方式について説明したものである。

入眠時から起床時までの睡眠中の脳波の状態は,深い眠りと浅い眠りを5回前後反復するステージがあり,さらに1回のステージは90分前後を要し,浅い眠りのためのレム睡眠と深い眠りのためのノンレム睡眠を約1:4の割合で構成されており,ステージ反復時に現れるレム睡眠の段階では,体内活動が急激に上昇し,脳波とともに呼吸数も高くなることが一般的に知られている。

そこで,脳波周波数に対して関係性を有する呼吸数の近似値以下の周波数を複合することで,脳波誘導の休止間隔を決定する。脳波誘導の実施時間は,脳波のための周波数が高くなるほど疲労しやすくなるため,実施間隔は前述の呼吸数以下という条件に加えて,連続的な刺激にならないように決定すべきである。また,睡眠中の呼吸数は,ノンレム睡眠時には約0.2Hz,レム睡眠時には約0.4Hzであるが,脳波誘導の実施時間と休止時間のそれぞれに適用することを考慮すれば,さらに1/2でも良い(実施例7参照)。

次に,ノンレム睡眠時の問題点を示す。

一般的に,レム睡眠とノンレム睡眠の平均的な割合は約1:4であるが,レム睡眠においてはノンレム睡眠の最も深い眠りの状態から突然始まるため,シミュレートされた脳波誘導においては,レム睡眠の誘発時間が実際には前後しなければならない。むしろ,ノンレム睡眠においては脳波誘導の効果量を最低値にして長めに取り,レム睡眠を自然誘発させることが望ましい。

また,レム睡眠の脳波誘導開始時においては,無造作なタイミングによる睡眠妨害になる可能性があるため,直前の脳波周波数の推移を,休止間隔,又は複合波にそのまま継承することによって,人間工学的に軽減することが可能である。つまり,レム睡眠直前の脳波が約0.5Hz(δ波低域)であるので,レム睡眠直後の複合波のための周波数は約0.5Hz,ないし,約0.25Hzから始まるのが好ましい。

よって,実質レム睡眠時の脳波誘導は前半のラグを想定して,1:7±2でも良いと考えることができる。

また,睡眠時間の経過に伴い,覚醒レベルは徐々に高くなるので,脳波周波数,呼吸周波数の推移は,全体的に上昇しなければならない。

図3は,実際に睡眠中の脳波を誘導するための優勢脳波と,休止間隔の推移であり,休止間隔の帯域は約0.01-0.3Hzが用いられている(【0024】,【0025】,【0030】~【0035】)。

c 次の表1と表2は,7日間で反復する場合において,1日目と7日目の各ステージにおける脳波始点周波数,脳波到達周波数,休止間隔始点周波数,休止間隔終点周波数,ステージ時間(レム睡眠時間)を示す(【0038】)。

d 光刺激の効果は,それに対する生体の反応が遅いため,β波のような高域の周波数になると実効率は著しく低下するものと思われる。

光刺激は,β波以上の高周波数は,点滅しているのが解らないため,効果が低い場合がある。また,低周波においては,光点灯時間が一定の場合には効果が殆ど消14えてしまうため,点灯時間は休止時間との比率から決定しなければならない。LEDを使用する場合は,有効電圧が4±2ボルト程度であるため,2ボルト程度のバイアス電圧を付加するか,あるいは波形の高さに最大出力時の1/3を付加する。脳波誘導の実効率は,β波以下であれば2番目に高い(【0042】,【0048】)。

e 起床直後の脳波は,まだ眠っている状態であり,適切な覚醒状態を促すために,α波より高い波長レベルによる最終的な誘導段階を設けるべきである。最終的な誘導段階では,γ波,β波,α波が満遍に刺激されるのが望ましい。

また,脳波誘導装置による脳波への連続的な刺激は,神経的な負担となり不快感を与えるため,あまりストレスにならないように呼吸動作の間隔と同調して休止時間を設けることにより,この問題を回避する必要がある。さらに厳密には,呼吸動作が予測できない状況であれば呼吸数以下の間隔を用いる。図6は,起床時において脳波誘導を万遍に行うことにより,脳波を賦活させるための実施間隔である。睡眠時においては,レム睡眠時とノンレム睡眠時には呼吸,心拍数ともに大きく変化することも考慮しなければならない。図7は実際にこの方法を用いて導いた脳波と休止間隔の推移である(【0055】,【0056】)。

f なお,【図1】ないし【図11】には,レム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関する直接的な記載はない。

ウ前記イのとおり,当初明細書には,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」及び「α波」,「β波」,「δ波」について,それぞれ記載されているが,いずれの記載も,脳波誘導,脳波刺激と「α波」,「β波」,「δ波」の関係に関する記載や,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」に関する説明に係る記載にすぎない。

「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」と,「α波」,「β波」,「δ波」とを関連付けた記載としては,発明の詳細な説明【0033】に「レム睡眠直前の脳波が約0.5Hz(δ波低域)であるので,レム睡眠直後の複合波のための周波数は約0.5Hz,ないし,約0.25Hzから始まるのが好ましい。」との記載があるが,これは,レム睡眠直後の複合波のための周波数について,好ましい範囲を開示するものにすぎない。

したがって,本件明細書において,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」及び「α波」,「β波」,「δ波」に関する個別の記載は存在するが,本件補正事項,すなわち,「脳波誘導の休止周期は,呼吸周期以下を含むものであり,それは「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」ためのタイムラグとしてのものであること」及び「脳波誘導の周波数の推移終点に対する「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」を備えるものであること」についても開示し,あるいはこれらを示唆する記載は見当たらない。

エ以上からすると,当初明細書には,本件補正事項に関する記載はなく,また,これを示唆する記載もないから,本件補正は,当初明細書に記載した範囲内においてしたものではないといわざるを得ない。

したがって,本件補正が,法17条の2第3項の要件を満たしていないとした本件審決の判断には,誤りはない。

この点について,原告は,本件審決は,「「レム睡眠」あるいは「ノンレム睡眠」を「α波」,「β波」あるいは「δ波」と関連付けた記載」について検討しており,これは,本件拒絶査定の漠然とした判断とは異なり,具体的な事項を付加して判断しているから,新たな拒絶理由について判断したものであるなどと主張する。

しかしながら,本件拒絶査定も,本件補正事項は,当初明細書に記載されておらず,自明に導かれることでもないことを理由とする(甲3,乙3)のであるから,

本件審決と本件拒絶査定の判断とは,同一の理由に基づくものである。

本件審決は,本件補正事項が,いずれも「ノンレム睡眠」,「レム睡眠」と,「α波」,「β波」,「δ波」とを関連付けた技術思想を有することから,当初明細書において,上記各事項が開示されているかを検討する際,「ノンレム睡眠」,「レム睡眠」と,「α波」,「β波」,「δ波」とを関連付けた技術思想の有無を確認したものにすぎない。
16

以上からすると,原告の主張は,その前提自体が誤りであって,採用できない。

(2) 小括

したがって,原告主張の取消事由1は,理由がない。

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2 取消事由2(本件補正に係る判断の誤り)について



(1) 「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」を新規事項とした誤りについて

本件補正事項は,本件補正発明の特許請求の範囲の記載について,追加された構成であるから,同発明の内容を特定する技術事項である。

そして,取消事由1において先に述べたとおり,本件補正事項は,当初明細書により開示されていた事項ということはできないから,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」について,同発明の作用効果にすぎず,周知技術であるとする原告主張は,その前提自体が誤りである。

この点について,原告は,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」は,当業者にとって周知事項(甲2)であるし,当初明細書の発明の詳細な説明【0025】の記載あるいは【0033】の「レム睡眠の直前の脳波が約0.5Hz(δ波低域)」などからすると,当業者がレム睡眠,ノンレム睡眠と,α波,β波,δ波とを関連付けて,本件補正事項について理解することは自明であるなどと主張する。

しかしながら,原告指摘の医学事典(甲2)には,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」及び「脳波」についての解説が記載されているところ,同文献によると,睡眠時の脳波においてはδ波(0.5ないし3.5Hz)が支配的になるが,覚醒時はα波(8ないし13Hz),β波(14ないし25Hz)が現われるものであり,また, ノンレム睡眠時はθ波(4ないし7Hz),δ波が見られ,レム睡眠時は海馬にθ波が認められるということができるものの,本件補正事項,すなわち,「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」こと及び「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」であることについての記載はないのであるから,同文献をもってしても,本件補正事項が,当初明細書に接した当業者にとって,自明な事項であるということはできない。
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また,上記【0025】には,睡眠中の脳波の状態は,浅い眠りのためのレム睡眠と深い眠りのためのノンレム睡眠を反復するステージがあり,ステージ反復時に現れるレム睡眠の段階では,脳波とともに呼吸数も高くなることが開示されているにすぎず,本件補正事項に関する記載とは認められない。

さらに,上記【0033】の記載は,取消事由1において先に指摘したとおり,レム睡眠直後の複合波のための周波数について好ましい範囲を開示するものにすぎず,本件補正事項に関する記載とは認められない。

原告の主張は採用できない。

(2) α波,β波,δ波について換算を行わなかった判断の誤りについて

本件補正発明において,本件補正事項に係る「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」こと及び「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」であることについて,α波,β波,δ波の脳波の周波数を換算することにより,ノンレム睡眠,レム睡眠と何らかの関連を認めることができるとする原告主張を前提としても,既に述べたとおり,本件補正事項については,当初明細書に関連する記載が存在しないのであるから,同事項が新規事項に該当するとの判断を左右するものではない。

また,原告指摘の文献(甲2)においても, 本件補正事項が技術常識であるということができないことは,先に指摘したとおりである。

以上からすると,α波,β波,δ波について換算を行わなかった本件審決の判断に,誤りはない。

この点について,原告は,技術常識に基づいて,当初明細書の表1及び2の脳波始点周波数と脳波到達周波数とを換算して解釈すると,本件補正事項については,脳波到達周波数の0.50Hzないし0.74Hzはδ波(ノンレム睡眠),脳波始点周波数の9Hz,19Hzないし38Hzはα・β波(レム睡眠)との技術事項と合致しており,自明であるなどと主張する。

しかしながら,原告が睡眠治療装置に係るものと主張する同表1及び2の記載からすると,「脳波始点周波数」が,1日目に9ないし38Hz,7日目に9ないし34Hz,「脳波到達周波数」が,1日目に0.50ないし0.74Hz,7日目に0.49ないし0.73Hzであることが記載されているにすぎず,脳波始点周波数,脳波到達周波数がそれぞれどのような意味を有するのか自体,当初明細書からは不明である。

しかも,上記各表には,δ波(0.5ないし3.5Hz)未満の周波数や,β波(14ないし25Hz)以上の数値も記載されており,これらはいずれもα波,β波,δ波に属さないものである。

以上からすると,上記各表により,本件補正事項が開示されているものということはできない。

また,原告は,本願発明の審査過程において引用文献と対比して審理をしておきながら,事後的に,脳波の周波数と,α波,β波,δ波を適宜換算するという技術常識を否定することはできないとも主張する。

しかしながら,審査の過程において,引用文献と対比して判断することがあったとしても,補正により追加された事項が,当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術事項と認められるか否かに関する判断に際しては,補正事項との関係において別途判断されるべきものであることはむしろ当然である。

したがって,本件補正事項が,補正要件を充足しているか否かの判断に当たり,当初明細書において開示されている技術事項について判断した本件審決の手法に,誤りはない。

原告の主張は採用できない。

(3) 小括

したがって,原告主張の取消事由2も,理由がない。

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判決原文(全文)




平成22(行ケ)10251 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成23年02月24日 知的財産高等裁判所


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平成23年2月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官コート平成22年(行ケ)第10251号審決取消請求事件


口頭弁論終結日平成23年1月31日

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判 決


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主 文



原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

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事実及び理由



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第1 請求



特許庁が不服2008-6398号事件について平成22年6月14日にした審決を取り消す。

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第2 事案の概要



本件は, 原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,平成20年3月14日付け補正を却下した上,願書の特許請求の範囲を下記2の(1)から(2)へと補正する本件補正は,いわゆる新規事項を追加するものであるから,本件出願を拒絶すべき旨の査定は相当であって,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

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1 特許庁における手続の経緯



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(1) 出願手続(甲3,乙1,2,4)及び拒絶査定(乙3)

本件出願当初の発明の名称:睡眠治療装置と,その脳波誘導方法を用いた脳波賦活方式,及び,サブリミナル学習システム

平成19年6月14日付け補正後の発明の名称:脳波誘導睡眠治療装置

平成20年3月14日付け補正後の発明の名称:サブリミナル学習システム

出願番号:特願2006-113054号

出願日:平成18年4月17日

優先権主張日:平成17年11月7日

手続補正日:平成19年6月14日(乙2。以下,同日付け手続補正書を「本件補正書」,これによる補正を「本件補正」というほか,本件出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(乙1)を「当初明細書」という。)拒絶査定:平成20年2月6日付け(以下「本件拒絶査定」という。)

(2) 審判手続及び本件審決

審判請求日:平成20年3月14日(不服2008-6398号)

審決日:平成22年6月14日

審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。

審決謄本送達日:平成22年7月16日

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2 本願発明の要旨


当初明細書及び本件補正書の各特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は,
それぞれ以下の(1)及び(2)のとおりである。以下,(1)の発明を「本願発明」,(2)
の発明を「本件補正発明」という。
(1) 当初明細書(乙1)
【請求項1】脳波誘導装置の実効率を高めるための脳波誘導方式であって,脳波誘
導のための周波数に対して,休止間隔を加味するための1秒から60秒の波長を有
する周波数帯域を複合したとともに,前記休止間隔と脳波誘導のための周波数は,
さらに,特定の周波数帯域において,経過時間に応じて比較的大きく推移するとと
3
もに,反復し,前記特定の周波数帯域は,さらに,反復毎においても比較的小さく
推移したことを特徴とした脳波誘導方式
(2) 本件補正書(乙2)
【請求項1】全睡眠ステージの脳波を矯正する脳波誘導睡眠治療装置であって,脳
波誘導の周波数は,δ-γ波帯域のいずれかにおいて推移して反復し,且つ,推移
経路を反復毎に相違すべくした前記脳波帯域の推移変化手段,脳波誘導の休止周期
は,ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促すためのタイム
ラグとして呼吸周期以下を含み,且つ,脳波誘導の周波数の推移終点に対してレム
睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段,を備え
たことを特徴とした脳波誘導睡眠治療装置

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3 本件審決の理由の要旨



本件審決の理由は,平成20年3月14日付け補正は,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明のいずれをも目的とするものではないから,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2(以下「法17条の2」という。)第4項各号のいずれの事項にも該当しないとして,これを却下した上で,本件補正は,いわゆる「新規事項」を追加するものであって,法17条の2第3項の要件を満たさないから,本件出願を拒絶すべき旨の査定は相当であり,原告の拒絶査定不服審判請求は成り立たない,としたものである。

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4 取消事由



(1) 本件審決の手続違反(取消事由1)

(2) 本件補正に係る判断の誤り(取消事由2)



第3 当事者の主張





1 取消事由1(本件審決の手続違反)について



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〔原告の主張〕


(1) 本件審決が新たな拒絶理由を前提としていることについて
本件拒絶査定は,本件補正について,「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用
4
者のレム睡眠誘発を促す」との補正箇所及び「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期
の推移始点は,近似して成された反復手段」との補正箇所(以下,総称して「本件
補正事項」という。)は,当初明細書に記載した事項の範囲のものではないと漠然
と認定している。
これに対し,本件審決は,本件補正が新規事項の追加に該当するか否かについて
判断する際,「「レム睡眠」あるいは「ノンレム睡眠」を「α波」,「β波」ある
いは「δ波」と関連付けた記載」」について検討しており,これは,本件拒絶査定
の漠然とした判断とは異なり,具体的な事項を付加して判断しているものである。
したがって,本件審決は,新たに取捨選択した具体的事項に基づいて本件補正の
要件を判断しているものというべきであるから,本件拒絶査定において指摘してい
なかった新たな拒絶理由について判断したものというべきである。
(2) 小括
以上からすると,本件審決には,新たな拒絶理由について原告に通知し,反論の
機会を与えるべきであったにもかかわらず,これを怠った手続上の重大な瑕疵が認
められるから,取消しを免れない。

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〔被告の主張〕


(1) 本件審決が新たな拒絶理由を前提としていることについて
本件補正事項は,レム睡眠とα波及びβ波とを関連付けた記載であることは明ら
かであって,本件審決は,当初明細書の記載に,ノンレム睡眠とδ波とを関連付け
た記載も,レム睡眠とα波及びβ波とを関連付けた記載もないことから,レム睡眠
及びノンレム睡眠と,α波,β波,δ波とを関連付けた記載である本件補正事項に
ついて,当初明細書に記載されておらず,また自明に導かれることでもないと判断
したものである。
したがって,平成19年8月31日付け拒絶理由通知(甲3。以下「本件拒絶理
由通知」という。)を前提とする本件拒絶査定及び本件審決は,いずれも,本件補
正事項について,当初明細書には記載されておらず,また自明に導かれることでも
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ないことを指摘した上で,本件補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内におい
てしたものでないとするものであって,本件拒絶査定の指摘は明白であり,漠然と
しているということはできないのみならず,本件審決が新たな拒絶理由を前提とす
るものでもないことは明らかである。
(2) 小括
以上からすると,本件審決には手続違反はない。

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2 取消事由2(本件補正に係る判断の誤り)について




〔原告の主張〕


(1) 「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」を新規事項とした誤りについて
ア本願発明において,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」については,睡眠時
の脳波誘導が有する作用効果であり,本願発明を明確にする目的で記載したもので
あるから,かかる概念は,技術上,主要な意義を有するものではない。
仮に,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」が,発明特定事項であったとしても,
上記各事項は,当業者にとって周知事項(甲2。枝番を含む。以下同じ。)である
し,当初明細書の発明の詳細な説明【0025】の記載から当該事項を把握し,さ
らに,δ波誘導の作用を「ノンレム睡眠」,α・β波誘導の作用を「レム睡眠」と,
一義的に構成と作用とを関連付けて理解することは当業者にとって自明である。
また,脳波の覚醒レベルに応じてノンレム睡眠かレム睡眠かを関連付けることも
技術常識にすぎず,当業者は,当初明細書の発明の詳細な説明【0033】の「レ
ム睡眠の直前の脳波が約0.5Hz(δ波低域)」との記載から,ノンレム睡眠とδ
波の関係を把握すれば,反復時の直後にレム睡眠の効果が得られると理解できる。
したがって,本件審決は,技術常識を考慮せず,本願発明の主要部ではない周知
事項について,新規事項であると誤った認定をしているものである。
イ以上からすると,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」について,新規事項に
該当するとした本件審決の判断は誤りである。
(2) α波,β波,δ波について換算を行わなかった判断の誤りについて
6
ア本件審決は,本件補正についての判断に当たり,当初明細書における「ノン
レム睡眠」と「レム睡眠」に,下線を付加した上で引用している。
しかしながら,脳波の周波数を分かりやすく解釈するため,脳波の覚醒レベルに
応じてノンレム睡眠かレム睡眠かを関連付けること,すなわち,α波,β波,δ波
についてそれぞれ適宜換算することは技術常識(甲2)であるから,当初明細書の
α波,β波,δ波に関する記載についても,かかる技術常識に基づいて適宜換算し,
それぞれ「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」に関する記載として判断すべきである。
イ前記技術常識に基づいて,当初明細書図3を参考に,同表1及び2について,
脳波始点周波数及び脳波到達周波数を換算すると,脳波到達周波数の0.50Hzな
いし0.74Hzについてはδ波(ノンレム睡眠),脳波始点周波数の9Hz,19Hz
ないし38Hzについてはα・β波(レム睡眠)であることは明らかである。
なお,被告は,図3と表1及び2の記載は整合しないなどと主張するが,図3は,
「睡眠治療装置における脳波」と「複合波による休止間隔の推移図」であり,表1
及び2の記載とは,睡眠治療装置において整合する。被告の主張は誤りである。
ウ以上からすると,本件審決は,本願発明を特定するに当たり,当初明細書の
内容及び技術常識を考慮すべきであったにもかかわらず,α波,β波,δ波の換算
を怠り,本件補正について,新規事項の追加に該当するとしたものであって,誤り
である。
なお,本願発明の審査過程において,引用文献と対比して審査した後に,本件審
決において,事後的に脳波の周波数とα波,β波,δ波とを適宜換算するという技
術常識を否定することは,手続違反にも該当するものというべきである。
(3) 小括
したがって,本件審決の本件補正に係る判断は誤りであるから,本件審決は取消
しを免れない。

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〔被告の主張〕


(1) 「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」を新規事項とした誤りについて
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ア原告が指摘する当初明細書の発明の詳細な説明【0025】及び証拠(甲
2)には,ノンレム睡眠とδ波誘導との関係,レム睡眠とα・β波誘導との関係は
何ら記載されていない。
しかも,本件補正において,同補正発明の発明特定事項として,本件補正事項が
加えられているのであるから,同発明は,ノンレム睡眠とδ波誘導及びレム睡眠と
α・β波誘導とが,それぞれ何らかの関連を有するものとして記載されていると解
すべきであるところ,当初明細書には,「レム睡眠」あるいは「ノンレム睡眠」を
「α波」,「β波」あるいは「δ波」と関連付けた記載としては,レム睡眠直後の
複合波のための周波数はδ波低域である約0.5Hzないし約0.25Hzから始まる
のが好ましいことが記載されているにすぎない。
イしたがって,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」は,本願発明の主要部では
ないとはいえないし,δ波誘導の作用を「ノンレム睡眠」と,α・β波誘導の作用
を「レム睡眠」と,一義的に構成と作用とを関連付けることが自明であるというこ
ともできない。
(2) α波,β波,δ波について換算を行わなかった判断の誤りについて
ア当初明細書の表1及び2には,左から2列目に脳波始点周波数としてのα・
β波(レム睡眠)の数値,3列目に脳波到達周波数としてのδ波(ノンレム睡眠)
の数値がそれぞれ記載されているにすぎず,原告主張の換算を裏付けることはでき
ない。
また,当初明細書に添付された図面のうち,図3については,当初明細書の発明
の詳細な説明【0035】において,「図3は,実際に睡眠中の脳波を誘導するた
めの優勢脳波と,休止間隔の推移であり,休止間隔の帯域は約0.01-0.3Hz
が用いられている」と説明されているところ,同図には,タイトルを脳波,縦軸を
0ないし50Hz及び0ないし1Hzの周波数,横軸を時間とするグラフと,タイトル
を複合波,縦軸及び横軸を時間とするグラフとが記載されているにすぎず,しかも,
当該グラフは,上記表1及び2の記載と整合するものでもない。
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したがって,図3の記載を参考にしつつ,技術常識に基づいて,当初明細書の表
1及び2の脳波始点周波数と脳波到達周波数とを換算しても,本件補正事項が明ら
かになるものではない。
イ以上からすると,仮に,α波,β波,δ波についてレム睡眠及びノンレム睡
眠に適宜換算することが技術常識であったとしても,原告の主張は誤りであること
は明らかである。
(3) 小括

したがって,本件審決の本件補正に係る判断に誤りはない。

top



第4 当裁判所の判断




1 取消事由1(本件審決の手続違反)について



(1) 本件補正について

本件拒絶査定は,本件補正について,本件補正事項は当初明細書に記載されたものではなく,また,自明に導かれるものということもできないと指摘した本件拒絶理由通知(甲3)を前提とするものである。

そこで,本件補正が補正要件を充足するものであったか否かについて,まず検討することとする。

ア本件補正発明においては,「脳波誘導の休止周期は,ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促すためのタイムラグとして呼吸周期以下を含み」との構成を有するところ,かかる構成によると,脳波誘導の休止周期は,呼吸周期以下を含むものであり,それは,「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」ためのタイムラグとされているものである。

また,同発明は,「脳波誘導の周波数の推移終点に対してレム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段,を備えた」との構成も有するところ,かかる構成によると,脳波誘導の周波数の推移終点に対して,「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」を有するものと解される。
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以上からすると,上記各構成は,いずれもレム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関する特定をその内容とするから,本件補正が補正要件を充足するか否かについては,当初明細書における,レム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関する記載を検討する必要がある。

イ当初明細書(乙1)には,レム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関し,以下の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲

【請求項21】脳波誘導方式は,脳波刺激のためのγ波からα波に推移する周波数に対して, 休止間隔のための0.4Hzから0.1Hzの範囲内で推移する周波数を複合するとともに,前記周波数の推移は,50±20秒の時間経過を要したのちに反復するとともに,さらに,反復毎に周波数帯域は推移変化したことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項22】脳波誘導方式は,脳波刺激のためのγ波からα波の周波数帯域に対して, 休止間隔のための0.9Hz-0.04Hzの範囲内の周波数帯域を複合するとともに,前記脳波刺激と前記休止間隔は,60±40秒の所要時間において推移変化し,さらに,反復するとともに,さらに,反復毎において,周波数帯域,又は,時間経過,は,推移変化したことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項23】脳波を賦活するための複合波を用いた方式であって, 前記複合波は,脳波誘導のためのγ波高域からα波低域に推移する周波数Aと,休止間隔のための0.4Hzから0.1Hzに推移する周波数Bを用いるとともに,前記周波数ABの推移は,45秒±15秒の時間を要するとともに,反復し,さらに,反復毎においても変化を加味するための減算を用いたことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項24】睡眠時の脳波誘導を長時間実施するための複合波を用いた脳波誘導方式であって,前記複合波は,脳波誘導のためのα波からδ波(0.5Hz)に推移する周波数Aと,休止間隔のための0.5Hzから0.01Hzに推移する周波数Bを用いるとともに,前記周波数A-Bの推移は,1ステージで80±10分の所要時間を要するとともに,最大6回まで反復し,さらに,反復毎においてもステージに推移変化を加味したことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項25】脳波を賦活するための複合波を用いた脳波誘導方式であって,前記複合波は,脳波誘導のためのβ波前後の周波数帯域Aと,休止間隔のための0.85±0.75Hzの周波数帯域Bを用いるとともに,前記複合波は,60±40秒の時間を要して推移変化するとともに,反復し,さらに,反復毎においても相違する変化を加味するための6±4%づつ推移変化したことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項26】睡眠時に脳波誘導を長時間実施するための複合波を用いた脳波誘導方式であって,前記複合波は,脳波誘導のためのα波からδ波低域(0.5Hz)に推移する周波数Aと,休止間隔のための0.5Hzから0.01Hzに推移する周波数Bを用いるとともに, 前記周波数A-Bの推移は,1ステージで80±20分の所要時間で到達するとともに,最大6回まで反復し,さらに,反復毎においてもステージに推移変化を加味したことを特徴とした脳波誘導方式

【請求項27】睡眠時のための脳波誘導手段を備えた脳波治療装置であって,脳波誘導のためのα波からδ波低域(0.5Hz)に推移する周波数Aを,脳波誘導手段を用いて脳波誘導出力するとともに,前記脳波誘導出力は,0.5Hzから0.01Hzに推移する周波数Bを複合したことによる休止間隔を有するとともに,前記周波数A-Bの推移は,1回で80±20分の時間を要して最高6回まで反復し,前記周波数A-Bはさらに6±2%づつ反復毎に加算されることを特徴とした脳波治療装置

【請求項28】脳波治療装置は,脳波誘導手段,CPU本体とその内部プログラム,を備え,前記内部プログラムは,前記脳波誘導手段に対してγ-α波の脳波誘導のための周波数を脳波誘導出力するとともに,前記脳波誘導出力は,0.4Hz-0.1Hzの周波数を用いたことによる休止時間を有するとともに,前記休止時間と脳波誘導のための周波数は,50±30秒の時間経過と比例して推移するとともに,特定の範囲で反復し,さらに,前記特定の範囲は反復毎において,相違変化するため11の推移を加味したことを特徴とした脳波治療装置

【請求項30】脳波治療装置は,脳波誘導手段,CPU本体とその内部プログラム,を備え,前記内部プログラムは,前記脳波誘導手段に対してβ-δ波のパルス波を出力するとともに,前記パルス波は,前記脳波誘導のための周波数に対して,呼吸数以下の休止時間を用いるための0.5-0.011Hzの周波数帯域を複合したことによる複合波形であるとともに,前記休止時間と脳波誘導のための周波数は,80±20分のステージの所要時間において推移変化するとともに,前記推移変化は,最大で6回のステージのための反復を行うとともに,さらに,反復毎においても前記周波数帯域が推移変化したことを特徴とした脳波治療装置

【請求項31】脳波治療装置は,脳波誘導手段,CPU本体とその内部プログラム,を備え,前記内部プログラムは,前記脳波誘導手段に対してβ-δ波のパルス波を出力するとともに,前記パルス波は,前記脳波誘導のための周波数に対して,呼吸数以下の休止時間を用いるための0.5-0.01Hzの周波数帯域を複合したことによる複合波形であるとともに,前記休止時間と脳波誘導のための周波数は,80±20分のステージの所要時間において推移変化するとともに,前記推移変化は,最大で6回のステージのための反復を行うとともに,さらに,反復毎においても前記周波数帯域が推移変化するとともに,前記脳波誘導手段は,光刺激装置,ならびに音波刺激装置,ならびに電気刺激装置,とを複数接続できる出力端末を備え,前記パルス波を受けて,それぞれの刺激装置に適した波形に加工出力するための電圧電流の増幅回路を備えることを特徴とした脳波治療装置

【請求項37】請求項32-35のいずれかに記載のサブリミナル学習システムにおいて,前記第1段階と前記第2段階は,それぞれ2回行うとともに,前記脳波誘導のための周波数は,第1段階の1回目はθ波前後,その2回目はδ波前後,第2段階の1回目はβ波前後,その2回目はα波前後であることを特徴としたサブリミナル学習システム

(イ) 発明の詳細な説明
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a 脳波誘導のための周波数を決定する際においては,θ波を用いると眠くなることがある。そのため,δ波,又はα波低域を代わりに用いることも可能であるが,利用者が十分に睡眠を取っておけば,この問題を回避することもできる。また,表示端末の仕様によってはチラツキが生じる問題があるが,具体的には実施例6で解説する(【0022】)。

b 以下は睡眠時において脳波誘導を行う際の問題点と,脳波誘導方式について説明したものである。

入眠時から起床時までの睡眠中の脳波の状態は,深い眠りと浅い眠りを5回前後反復するステージがあり,さらに1回のステージは90分前後を要し,浅い眠りのためのレム睡眠と深い眠りのためのノンレム睡眠を約1:4の割合で構成されており,ステージ反復時に現れるレム睡眠の段階では,体内活動が急激に上昇し,脳波とともに呼吸数も高くなることが一般的に知られている。

そこで,脳波周波数に対して関係性を有する呼吸数の近似値以下の周波数を複合することで,脳波誘導の休止間隔を決定する。脳波誘導の実施時間は,脳波のための周波数が高くなるほど疲労しやすくなるため,実施間隔は前述の呼吸数以下という条件に加えて,連続的な刺激にならないように決定すべきである。また,睡眠中の呼吸数は,ノンレム睡眠時には約0.2Hz,レム睡眠時には約0.4Hzであるが,脳波誘導の実施時間と休止時間のそれぞれに適用することを考慮すれば,さらに1/2でも良い(実施例7参照)。

次に,ノンレム睡眠時の問題点を示す。

一般的に,レム睡眠とノンレム睡眠の平均的な割合は約1:4であるが,レム睡眠においてはノンレム睡眠の最も深い眠りの状態から突然始まるため,シミュレートされた脳波誘導においては,レム睡眠の誘発時間が実際には前後しなければならない。むしろ,ノンレム睡眠においては脳波誘導の効果量を最低値にして長めに取り,レム睡眠を自然誘発させることが望ましい。

また,レム睡眠の脳波誘導開始時においては,無造作なタイミングによる睡眠妨害になる可能性があるため,直前の脳波周波数の推移を,休止間隔,又は複合波にそのまま継承することによって,人間工学的に軽減することが可能である。つまり,レム睡眠直前の脳波が約0.5Hz(δ波低域)であるので,レム睡眠直後の複合波のための周波数は約0.5Hz,ないし,約0.25Hzから始まるのが好ましい。

よって,実質レム睡眠時の脳波誘導は前半のラグを想定して,1:7±2でも良いと考えることができる。

また,睡眠時間の経過に伴い,覚醒レベルは徐々に高くなるので,脳波周波数,呼吸周波数の推移は,全体的に上昇しなければならない。

図3は,実際に睡眠中の脳波を誘導するための優勢脳波と,休止間隔の推移であり,休止間隔の帯域は約0.01-0.3Hzが用いられている(【0024】,【0025】,【0030】~【0035】)。

c 次の表1と表2は,7日間で反復する場合において,1日目と7日目の各ステージにおける脳波始点周波数,脳波到達周波数,休止間隔始点周波数,休止間隔終点周波数,ステージ時間(レム睡眠時間)を示す(【0038】)。

d 光刺激の効果は,それに対する生体の反応が遅いため,β波のような高域の周波数になると実効率は著しく低下するものと思われる。

光刺激は,β波以上の高周波数は,点滅しているのが解らないため,効果が低い場合がある。また,低周波においては,光点灯時間が一定の場合には効果が殆ど消14えてしまうため,点灯時間は休止時間との比率から決定しなければならない。LEDを使用する場合は,有効電圧が4±2ボルト程度であるため,2ボルト程度のバイアス電圧を付加するか,あるいは波形の高さに最大出力時の1/3を付加する。脳波誘導の実効率は,β波以下であれば2番目に高い(【0042】,【0048】)。

e 起床直後の脳波は,まだ眠っている状態であり,適切な覚醒状態を促すために,α波より高い波長レベルによる最終的な誘導段階を設けるべきである。最終的な誘導段階では,γ波,β波,α波が満遍に刺激されるのが望ましい。

また,脳波誘導装置による脳波への連続的な刺激は,神経的な負担となり不快感を与えるため,あまりストレスにならないように呼吸動作の間隔と同調して休止時間を設けることにより,この問題を回避する必要がある。さらに厳密には,呼吸動作が予測できない状況であれば呼吸数以下の間隔を用いる。図6は,起床時において脳波誘導を万遍に行うことにより,脳波を賦活させるための実施間隔である。睡眠時においては,レム睡眠時とノンレム睡眠時には呼吸,心拍数ともに大きく変化することも考慮しなければならない。図7は実際にこの方法を用いて導いた脳波と休止間隔の推移である(【0055】,【0056】)。

f なお,【図1】ないし【図11】には,レム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関する直接的な記載はない。

ウ前記イのとおり,当初明細書には,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」及び「α波」,「β波」,「δ波」について,それぞれ記載されているが,いずれの記載も,脳波誘導,脳波刺激と「α波」,「β波」,「δ波」の関係に関する記載や,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」に関する説明に係る記載にすぎない。

「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」と,「α波」,「β波」,「δ波」とを関連付けた記載としては,発明の詳細な説明【0033】に「レム睡眠直前の脳波が約0.5Hz(δ波低域)であるので,レム睡眠直後の複合波のための周波数は約0.5Hz,ないし,約0.25Hzから始まるのが好ましい。」との記載があるが,これは,レム睡眠直後の複合波のための周波数について,好ましい範囲を開示するものにすぎない。

したがって,本件明細書において,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」及び「α波」,「β波」,「δ波」に関する個別の記載は存在するが,本件補正事項,すなわち,「脳波誘導の休止周期は,呼吸周期以下を含むものであり,それは「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」ためのタイムラグとしてのものであること」及び「脳波誘導の周波数の推移終点に対する「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」を備えるものであること」についても開示し,あるいはこれらを示唆する記載は見当たらない。

エ以上からすると,当初明細書には,本件補正事項に関する記載はなく,また,これを示唆する記載もないから,本件補正は,当初明細書に記載した範囲内においてしたものではないといわざるを得ない。

したがって,本件補正が,法17条の2第3項の要件を満たしていないとした本件審決の判断には,誤りはない。

この点について,原告は,本件審決は,「「レム睡眠」あるいは「ノンレム睡眠」を「α波」,「β波」あるいは「δ波」と関連付けた記載」について検討しており,これは,本件拒絶査定の漠然とした判断とは異なり,具体的な事項を付加して判断しているから,新たな拒絶理由について判断したものであるなどと主張する。

しかしながら,本件拒絶査定も,本件補正事項は,当初明細書に記載されておらず,自明に導かれることでもないことを理由とする(甲3,乙3)のであるから,

本件審決と本件拒絶査定の判断とは,同一の理由に基づくものである。

本件審決は,本件補正事項が,いずれも「ノンレム睡眠」,「レム睡眠」と,「α波」,「β波」,「δ波」とを関連付けた技術思想を有することから,当初明細書において,上記各事項が開示されているかを検討する際,「ノンレム睡眠」,「レム睡眠」と,「α波」,「β波」,「δ波」とを関連付けた技術思想の有無を確認したものにすぎない。
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以上からすると,原告の主張は,その前提自体が誤りであって,採用できない。

(2) 小括

したがって,原告主張の取消事由1は,理由がない。

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2 取消事由2(本件補正に係る判断の誤り)について



(1) 「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」を新規事項とした誤りについて

本件補正事項は,本件補正発明の特許請求の範囲の記載について,追加された構成であるから,同発明の内容を特定する技術事項である。

そして,取消事由1において先に述べたとおり,本件補正事項は,当初明細書により開示されていた事項ということはできないから,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」について,同発明の作用効果にすぎず,周知技術であるとする原告主張は,その前提自体が誤りである。

この点について,原告は,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」は,当業者にとって周知事項(甲2)であるし,当初明細書の発明の詳細な説明【0025】の記載あるいは【0033】の「レム睡眠の直前の脳波が約0.5Hz(δ波低域)」などからすると,当業者がレム睡眠,ノンレム睡眠と,α波,β波,δ波とを関連付けて,本件補正事項について理解することは自明であるなどと主張する。

しかしながら,原告指摘の医学事典(甲2)には,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」及び「脳波」についての解説が記載されているところ,同文献によると,睡眠時の脳波においてはδ波(0.5ないし3.5Hz)が支配的になるが,覚醒時はα波(8ないし13Hz),β波(14ないし25Hz)が現われるものであり,また, ノンレム睡眠時はθ波(4ないし7Hz),δ波が見られ,レム睡眠時は海馬にθ波が認められるということができるものの,本件補正事項,すなわち,「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」こと及び「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」であることについての記載はないのであるから,同文献をもってしても,本件補正事項が,当初明細書に接した当業者にとって,自明な事項であるということはできない。
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また,上記【0025】には,睡眠中の脳波の状態は,浅い眠りのためのレム睡眠と深い眠りのためのノンレム睡眠を反復するステージがあり,ステージ反復時に現れるレム睡眠の段階では,脳波とともに呼吸数も高くなることが開示されているにすぎず,本件補正事項に関する記載とは認められない。

さらに,上記【0033】の記載は,取消事由1において先に指摘したとおり,レム睡眠直後の複合波のための周波数について好ましい範囲を開示するものにすぎず,本件補正事項に関する記載とは認められない。

原告の主張は採用できない。

(2) α波,β波,δ波について換算を行わなかった判断の誤りについて

本件補正発明において,本件補正事項に係る「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」こと及び「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」であることについて,α波,β波,δ波の脳波の周波数を換算することにより,ノンレム睡眠,レム睡眠と何らかの関連を認めることができるとする原告主張を前提としても,既に述べたとおり,本件補正事項については,当初明細書に関連する記載が存在しないのであるから,同事項が新規事項に該当するとの判断を左右するものではない。

また,原告指摘の文献(甲2)においても, 本件補正事項が技術常識であるということができないことは,先に指摘したとおりである。

以上からすると,α波,β波,δ波について換算を行わなかった本件審決の判断に,誤りはない。

この点について,原告は,技術常識に基づいて,当初明細書の表1及び2の脳波始点周波数と脳波到達周波数とを換算して解釈すると,本件補正事項については,脳波到達周波数の0.50Hzないし0.74Hzはδ波(ノンレム睡眠),脳波始点周波数の9Hz,19Hzないし38Hzはα・β波(レム睡眠)との技術事項と合致しており,自明であるなどと主張する。

しかしながら,原告が睡眠治療装置に係るものと主張する同表1及び2の記載からすると,「脳波始点周波数」が,1日目に9ないし38Hz,7日目に9ないし34Hz,「脳波到達周波数」が,1日目に0.50ないし0.74Hz,7日目に0.49ないし0.73Hzであることが記載されているにすぎず,脳波始点周波数,脳波到達周波数がそれぞれどのような意味を有するのか自体,当初明細書からは不明である。

しかも,上記各表には,δ波(0.5ないし3.5Hz)未満の周波数や,β波(14ないし25Hz)以上の数値も記載されており,これらはいずれもα波,β波,δ波に属さないものである。

以上からすると,上記各表により,本件補正事項が開示されているものということはできない。

また,原告は,本願発明の審査過程において引用文献と対比して審理をしておきながら,事後的に,脳波の周波数と,α波,β波,δ波を適宜換算するという技術常識を否定することはできないとも主張する。

しかしながら,審査の過程において,引用文献と対比して判断することがあったとしても,補正により追加された事項が,当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術事項と認められるか否かに関する判断に際しては,補正事項との関係において別途判断されるべきものであることはむしろ当然である。

したがって,本件補正事項が,補正要件を充足しているか否かの判断に当たり,当初明細書において開示されている技術事項について判断した本件審決の手法に,誤りはない。

原告の主張は採用できない。

(3) 小括

したがって,原告主張の取消事由2も,理由がない。

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3 結論



以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
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知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣裁判官 本 多 知 成裁判官 荒 井 章 光
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Last Update: 2011-02-28 16:36:25 JST

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