2011年3月2日水曜日

意匠「審決」:意匠法第3条第2項該当性,特許庁平成23年3月2日審決(不服2010-25232)

特許庁平成23年3月2日審決(不服2010-25232)
http://isho.shinketsu.jp/originaltext/ds/1236433.html

【規範のまとめ】

「本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性」については,
「意匠が容易に創作することができたか否かについての判断は,当該意匠の構成態様について,(A)それらの基礎となる構成,具体的態様などが本願出願前に公知・周知であり,そして,(B)それらの構成要素を,ほとんどそのままか,あるいは,当該分野においてよく見られるところの多少の改変を加えた程度で,(C)当該物品分野において周知の創作手法であるところの,単なる組合せ,構成要素の全部又は一部の単なる置換えなどがされたにすぎないものであるか否かによって行うことが必要であるので,この観点を踏まえて検討する。」べきである(特許庁平成23年3月2日審決(不服2010-25232)参照)。



第4 当審の判断

請求人の主張を踏まえ,本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性,つまり,本願意匠が容易に創作することができたか否かについての判断について検討し,判断する。
意匠が容易に創作することができたか否かについての判断は,当該意匠の構成態様について,(A)それらの基礎となる構成,具体的態様などが本願出願前に公知・周知であり,そして,(B)それらの構成要素を,ほとんどそのままか,あるいは,当該分野においてよく見られるところの多少の改変を加えた程度で,(C)当該物品分野において周知の創作手法であるところの,単なる組合せ,構成要素の全部又は一部の単なる置換えなどがされたにすぎないものであるか否かによって行うことが必要であるので,この観点を踏まえて検討する。

1.まず,創作の基礎となる具体的態様として,本願意匠のナットの全体形状,すなわち,「全体がやや扁平な略円錐台形状で,その中心を縦方向に貫通するネジ孔を有し,頂面と外周側面の境界は,丸面状をなすナット」については,意匠3の「保護ナット」の他,本願出願前の先行公知意匠例は,少なからず存在し,日本国内において広く知られたものと認められる。

2.次に,基礎となる構成,すなわち,「規格に基づかず,該ナットを専用工具によってのみ,締め付け,緩めることができるように,凹陥部を,傾斜した外周側面の中腹上方の3箇所に,側面視同じ高さに,そして,平面視外周側面上に等間隔で,すべて同形同大に,配置・形成したもの」については,意匠1ないし意匠3,及び,当審が探知したところの盗難防止用ナットに係る先行公知意匠において,盗難防止のために,ナットに特殊な凹陥部等の形状を形成して,通常の工具では取り外しができないようにし,特殊な工具(専用工具)によってのみ着脱ができるというナットの意匠が数多く存在し,また,専用工具を装着する凹陥部等を,ナットの外周側面に,数としては1箇所から5箇所の奇数箇所,ほぼ等間隔にあるいは不規則な位置に配置・形成したもの,同形同大にあるいは異形に形成したもの等,種々の構成態様のものが,本願出願前,ある程度見られるところであって,この点が本願意匠のみに特徴的な着想ではないことは明らかである。

3.そして,基礎となる具体的態様である本願意匠の直角凹陥部,すなわち,「その垂直面と水平面が,それぞれ側面視・平面視において,略「弓形」状をなし,垂直面の最大高と水平面の最大奥行き(ナットの軸中心に対する放射方向の長さ)の比率は,略1:1である直角凹陥部」については,意匠4は,確かに,直角凹陥部が形成されている公知例であるが,そこに示された各直角凹陥部は,垂直面の最大高と水辺面の最大奥行きは,大きく異なっていて,所謂薬研彫り様の形状ではない。
また,意匠4における直角凹陥部の水平面の外側は,傾斜面ではなくて垂直な円筒面であって,本願意匠の態様である「傾斜した外周側面の中腹に直角凹陥部を設けた態様」とも異なっている。意匠4に示されるナットは,所謂「鍔付ナット」の類であって,鍔の上面の水平面が六角ナットの垂直面と交差して,いうところの直角凹陥部を形成しているにすぎず,これを本願意匠の直角凹陥部の例示とすることはできないし,また,意匠4の直角凹陥部の周辺の形状を含めて考えれば,意匠4の直角凹陥部の長い垂直面の長さをほぼ水平面の奥行きと同じにして,本願意匠の直角凹陥部とすることが,当該分野においてよく見られるところの多少の改変を加えた程度であるということもできない。
そして,他にナットの意匠において,本願意匠に示されるとおりの傾斜した外周側面の中腹に設けられた直角凹陥部が周知または公知の態様であることを示す例示もなく,ナットの分野において凹陥部を形成するに,所謂「薬研彫り」を行うことが周知の技法であるということもできない。


そうすると,この基礎となる具体的態様が存在せず,存在する公知の態様に多少の改変を加えた程度であるということもできない以上,盗難防止用ナット分野において,外周側面の凹陥部を種々の形状に置き換える手法等が,よく行われているとしても,本願意匠は,容易に創作することができたものであるということはできない。


第5.むすび

以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第3条第2項が規定する,意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において公然知られた形状の結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときに該当しないので,原査定の拒絶の理由によって本願の登録を拒絶すべきものとすることはできない。


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