2011年3月3日木曜日

特許:【補正の機会を与える義務…否定】「解釈」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10307号審決取消請求事件))






特許:【補正の機会を与える義務…否定】「解釈」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10307号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10307 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月03日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10307号審決取消請求事件))

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【補正の機会を与える義務…否定】「解釈」




判示・縮小版なし


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10307号審決取消請求事件))

第2
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事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,本件補正を却下し,発明の要旨を下記2の特許請求の範囲の記載のとおり認定した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。





検討


(1)
本件出願に適用される法17条の2第1項は,特許出願人が同法50条に
よる拒絶理由通知を受けた後は,最初の拒絶理由通知を受けた場合の指定期間内,
最後の拒絶理由通知を受けた場合の指定期間内及び拒絶査定を受けた場合の査定不
服審判請求の日から30日以内にするときに限り,願書に添付した明細書(特許請
求の範囲を含む)及び図面の補正をすることができると規定している。これは,無
制限に補正を認めたのでは,手続を複雑にし,特許庁の負担もいたずらに増すこと
になり,ひいては迅速な権利付与手続の妨げにもなること,出願人同士の公平性の
確保という見地などから,願書に添付した明細書及び図面の補正につき,補正ので
きる時期について一定の制限を加えたものである。
これを本件についてみると,本件出願については,原告が本件審尋書を受領した
時点において,上記1のとおり,平成19年8月20日付けで拒絶理由通知がされ
て補正をすることができる指定された期間が経過し,また,平成20年7月1日の
審判請求の日から30日の期間も経過していたのであるから,拒絶査定の理由と異
なる拒絶理由があるとして改めて拒絶理由が通知される場合は格別,審判官におい
て,法律上,特許出願人である原告に対して補正の機会を与える義務はない。
しかるところ,本件審決は,平成19年8月20日付け拒絶理由通知書,原告か
らの同20年2月22日付け意見書及び手続補正書,同年3月27日付け拒絶査定
で一貫して対象とされていた事項について,同拒絶査定と同じ理由で本願発明を査


  • 7 -


定することができないと判断したものであるが,原告としては,査定不服審判請求
の日から30日以内にする補正において,この点について適切に補正する機会が与
えられていたものである。それにもかかわらず,原告は,この時点に至っても,な
お,審判官とのせめぎ合いの中でできるだけ補正可能性のある広い特許請求の範囲
を模索するとして,拒絶理由通知に対応した最終的な補正方針に基づく,より限定
された特許請求の範囲の補正をせずにいたというのであって,このような対応をし
た原告が,改めて拒絶理由が通知される場合でないのに,その場合と同様に補正の
機会を与えられなかったことを不当であるなどと主張することは失当というほかな
い。
(2)
この点について,原告は,本件審尋書において,「回答がない場合であっ
ても,審理において不利に扱うことはありません」との記載がされたことをもっ
て,回答書の提出後に,少なくとも1回は,意見書及び手続補正書を提出する機会
が与えられるべきであるなどと主張する。
しかしながら,本件審尋書は,「前置報告を利用した審尋」を行うために原告に
対して送付されたものであるところ(乙1),これは,審判請求人に対して,前置
審査の結果である前置報告の内容を審尋により送付し,審査官の見解に対する反論
の機会を与えることにより,審判における審理・判断を充実させるために行われて
いるものであって,「前置報告を利用した審尋」が行われたことをもって,審判請
求人に更なる補正の機会が与えられるものではない。
そして,このことは,本件審尋書においても,備考欄において「この審尋は,拒
絶理由の通知(同法第159条において準用する同法第50条)ではありませ
ん。」と記載されて明らかにされているものである。また,同備考欄における「回
答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありません」との記載
も,仮に回答がない場合であっても,回答がある場合と比べて審理において不利に
は扱わないという意味以上のものとは解されないものであって,同記載をもって,
審判請求人に必ず補正の機会が与えられるべきものであるとの原告の主張は,同記


  • 8 -


載を正解しないというにすぎず,これを採用する余地はない。
(3)
なお,原告は,以上るる主張するところをもって,本件審判手続には,特
許法153条2項の違反があると結論付けているが,その適条はともかく,原告の
主張を採用し得ないことは以上説示したとおりである。


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結論

以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣


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Last Update: 2011-03-07 11:28:58 JST

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特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10216号審決取消請求事件))






特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10216号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第2部「塩月秀平コート」


平成22(行ケ)10216 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月03日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10216号審決取消請求事件))

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【容易想到性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10216号審決取消請求事件))


判示・縮小版なし



第2
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事案の概要

本件は,特許出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について,特許庁がした請求不成立の審決の取消訴訟である。争点は,本願発明の進歩性の有無である。



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取消事由3(相違点の判断の誤り)について

取消事由3は,本願発明と引用発明との対比において,取消事由2に示した新たな相違点が認められるのであるから,引用発明から本願発明を容易に発明することはできず,本願発明の進歩性を否定した審決の判断が誤りであると主張するものである。

しかし,本願発明と引用発明との対比において新たに相違点が認められるものでないことは,取消事由1及び2で判示したとおりであるから,本願発明の進歩性を否定した審決の判断の前提に誤りはなく,取消事由3には理由がない。

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H230307現在のコメント


容易想到性に関する事実認定判決です。

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Last Update: 2011-03-07 10:59:32 JST

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特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10069号審決取消請求事件))






特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10069号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10069 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月03日 知的財産高等裁判所


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10069号審決取消請求事件))

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【容易想到性】「事実認定」・縮小版なし




判示


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10069号審決取消請求事件))

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第2



事案の概要


本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告が有する下記2の本件発明に係る本件特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が,本件訂正を認めた上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

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本件審決の理由の要旨

(1)

本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記ア及びイの引用例1及び2に記載された発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)に下記ウないしオの周知例1ないし3に記載された周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから,本件発明に係る本件特許を無効にすることができない,というものである。

第4
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当裁判所の判断



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取消事由1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)について


(1)
相違点1についての判断の誤りについて


甲18文献について

(ア)

甲18文献の記載内容

甲18文献(甲18)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。なお,CGIというのは,CV黒鉛鋳鉄のことである。


本発明は,圧縮黒鉛鋳鉄(CGI)として凝固する鋳造品のための予備処理された溶融鋳鉄を供給する方法に関する。

CGIの機械的性質は,ねずみ鋳鉄とダクタイル鉄の最良の性質を結合したものである。CGIの生産高が少ない理由としては,製造中に黒鉛化ポテンシャルと鋳鉄の黒鉛形状改良元素を非常に狭い範囲内で同時に制御しなければならないことから,信頼性の高い製造を行なうことが困難であること,従来,いかなる連続的あるいは半連続的な方法によってもCGIの製造が信頼性をもってコントロールできず,バッチ式方法によってのみ行なわれてきたこと等が挙げられる。


本発明の目的は,工程管理を行う改良手段により,CGIの連続的製造を行なうことである。

CGIの鋳造の場合,接種剤のみが,鋳造の直前に正確な量だけ添加される必要があるところ,従来技術においては不可能であったため,処理の初期段階で,過剰な量の接種剤が添加されていた。

本発明の場合,接種剤の量を最適化するために,処理工程のできるだけ遅い段階で添加される。最適基本処理工程が完了すると,溶湯からスラグが除去され,コンディショニング炉内へ移送される。例えば,Mgのような黒鉛形状改良剤が,必要に応じて,鋼の鞘で防護されたMgを芯体とするワイヤ又はロッド形により,同炉内の溶湯に添加することができる。溶融鋳鉄が同炉から鋳型に注入される前に,小さな取鍋に移送し,黒鉛形状改良剤の全量を取鍋中に添加する方法でもよい。

(イ)

甲18文献の技術内容

以上の甲18文献の記載によると,同文献には,CV黒鉛鋳鉄の製造工程において,Mg芯体のワイヤを用いて,鋳型に鋳造する直前の注湯用取鍋内の溶融鉄を黒鉛球状化処理する技術が開示されているものということができる。


甲22文献について

(ア)

甲22文献の記載内容

甲22文献(甲22)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。


甲22文献の図2には,プロセスコントローラーにより鋳造プロセスを制御し,溶解炉から取鍋に溶湯を移し,排滓し,ワイヤーフィーダー法で取鍋内の溶湯を処理(トリミング)し,取鍋から鋳型に注湯する構成が図示されている。


トリミングが行われる調整ステーションは,2つのワイヤーフィーダーヘッドを有し,Mg及び接種材料の被覆ワイヤーが安全かつ正確に添加される位置に取鍋が移動される。熱分析の結果がワイヤーフィーダーに伝えられると,所定量のMg及び接種材料が次々と溶湯に注入される。取鍋はその後,調整ステーションから取り外され,すぐに注湯するため,鋳造ラインに移動される。

(イ)

甲22文献の記載内容

以上の甲22文献の記載によると,同文献には,CV黒鉛鋳鉄の製造工程において,ワイヤーフィーダー法により,黒鉛球状化処理剤であるMgを,鋳造の前段階において,取鍋に注湯された溶湯に投入する構成が開示されているということができる。


甲21文献について
(ア)

甲21文献の記載内容

甲21文献(甲21,乙3)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。

a本文献は,マグネシウム合金によるノジュラー鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)の製造に関する共同研究である。ダクタイル鋳鉄は,主に圧力容器又は取鍋内の溶湯をワイヤーインジェクション法により処理することにより製造される。ワイヤー法は,ランニングコスト,自動化の可能性,溶湯,取鍋サイズ等の条件の違いによる適用性等の全ての要求に対応可能である。脱硫効果を最大限に発揮するためには,取鍋の深さをできるだけ深くしなければならない。また,Mgワイヤー法の効果的な使用法は,取鍋の底にワイヤーが届いたときにワイヤーの中のMgが反応を始める方法である。マグネシウム黒鉛球状化は,主として取鍋に注がれた鉄にMgを含有する試薬を提供する粉体充填ワイヤ(PFW)を注入することにより行われる。


150Kgの誘導炉で,ワイヤー径と合金の組成,鞘(フープ)の厚さを各種設定し,Mgの拡散に関する調査を約80回行った。ワイヤーの溶解時間として,投入(添加)から反応開始までの時間を測定したところ,ワイヤーの溶解速度は,溶湯温度,鞘の厚さ,ワイヤー径によることが判明した。もっとも,ワイヤー径が大きくなると,溶解までの時間が増加する点については注意が必要である。

製造試験においては, 原料は,銑鉄,戻り材(社内発生スクラップ),少量のスチールスクラップを使用した。溶湯は,45トン保持炉に移され,取鍋処理のために1.5トンに配湯された。鉄は1460ないし1480℃で処理され,その後,クレイボンド砂型に注湯された。Mgとカルシウムカーバイトの混合材で充されたMgワイヤー(PFW)は,設定された速度と量で,単一線のフィーダーから,耐火物をライニングした蓋の送線管を通して取鍋内に送られた。

(イ)

甲21文献の技術内容

以上の甲21文献の記載によると,同文献には,ワイヤー径と合金の組成,鞘の厚さを各種設定し,Mgの拡散に関する調査を行った際,溶湯が配湯された取鍋に対し,ワイヤーフィーダー法によりMgを投入する方法により,黒鉛球状化処理を行ったことが開示されているということができる。


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甲18文献,甲22文献及び甲21文献において開示される技術知見

(ア)

甲18文献及び甲22文献によると,CV黒鉛鋳鉄に関し,鋳型に鋳造する直前の段階において,取鍋内の溶融鉄に対し,Mg芯体のワイヤーを用いて黒鉛球状化処理をすること,すなわち,ワイヤーフィーダー法により,黒鉛球状化処理剤であるMgを投入する方法が開示されている。

また,甲21文献には,ダクタイル鋳鉄において,ワイヤー径と合金の組成,鞘の厚さを各種設定し,Mgの拡散について調査した際,取鍋内の溶融鉄に対し,ワイヤーフィーダー法によりMgを投入する方法が採用されたことが開示されている。

(イ)
もっとも,鋳鉄の組織は,黒鉛組織と基地組織とに大別され,鋳鉄の物理a
的・化学的性質は,両組織の組合せによるところ(乙1),CV黒鉛鋳鉄は,黒鉛球状化処理剤の添加量を減らして黒鉛球状化を不完全にする方法により製造されるものであり,適正Mg量の幅は極めて狭く,厳密な添加量の調整と管理が必要である(乙2)とされているものである。

また,球状化処理方法には,世界的にも最も有名な方法である置注法のほか,タンディッシュ法,ポーラスプラグ法,プランジャ法,インモールド法,ストリューム法,圧力添加法,Tノック法,ボルテックス法,Mgワイヤー法,特殊取鍋法,オンザモールド法等,多種多様な方法がある(甲6)。

そして,原告は,本件訴訟において,周知技術を立証するために甲18文献及び甲22文献を提出しているにすぎない。

したがって,上記各文献によって,CV黒鉛鋳鉄に関し,ワイヤーフィーダー法により,黒鉛球状化処理剤であるMgを投入する方法が周知技術であるということができたとしても,鋳鉄の物理的・化学的性質,製造方法がダクタイル鋳鉄とは異なるCV黒鉛鋳鉄に関するかかる技術知見を,上記各文献が引用例として提出された場合はともかく,ダクタイル鋳鉄について,直ちに適用し得るということはできない。

(ウ)

甲21文献は,ダクタイル鋳鉄に関する文献ではあるものの,ダクタイル鋳鉄が主に圧力容器又は取鍋内の溶湯をワイヤーフィーダー法によって処理することにより製造される旨の記載は,論文の冒頭において,ダクタイル鋳鉄に関する概略的な説明として記載されたにすぎず,実際の製造工程を前提として,取鍋に注湯された元湯に対し,ワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化処理を行う構成が具体的に開示されているわけではない。

また,製造試験において,取鍋内の溶融鉄に対し,ワイヤーフィーダー法によりMgを投入する方法が採用された点についても,ダクタイル鋳鉄の製造におけるMgワイヤーの材質等が及ぼす影響を調査するために,ワイヤー径と合金の組成,鞘の厚さを各種設定し,多数回(約80回)にわたる試験を実施したものであって,最適なMgワイヤーを発見するという製造試験の目的に照らし,多数回にわたる実験を効率的に実施する観点から,当該方法が採用された可能性が高いものというべきであるから,具体的な製造工程を前提とした構成が開示されているものということはできない。

そして,甲21文献も,甲18文献及び甲22文献と同様,本件訴訟において,周知技術を立証するために提出されたものであるから,甲21文献により開示される製造試験に係る技術知見を,ダクタイル鋳鉄の溶融設備における製造工程についても,直ちに適用することはできない。

(エ)

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以上からすると,甲18文献及び甲22文献において開示される技術知見は,CV黒鉛鋳鉄に関する技術知見であり,甲21文献において開示される技術知見は,ダクタイル鋳鉄の製造試験に関する技術知見にすぎないから,上記各技術知見によって,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置を備える構成が周知技術であったということはできない。

この点について,原告は,CV黒鉛鋳鉄とダクタイル鋳鉄との差は,溶湯の冷却・固化過程の違いだけであるとされており,限定された条件下ではあるが,同一の方法でダクタイル鋳鉄とCV黒鉛鋳鉄とを製造する技術が開示されていること(甲19,20),CV黒鉛鋳鉄とダクタイル鋳鉄とが同一の製造方法で製造され,溶製設備は同一であること(甲29∼34)からすると,当業者にとって,CV黒鉛鋳鉄に関する技術思想の開示は,ダクタイル鋳鉄に関する技術思想の開示と等しいものということができる,当業者は,製造試験に係る文献から得た知見から,製品製造における工程を減らすこと,すなわちMg処理をした取鍋をそのまま用いて注湯することを試みることは当然であるなどと主張する。

しかしながら,甲20には,CV黒鉛鋳鉄が形成される場合,黒鉛晶出初期は,ダクタイル鋳鉄の生成機構と全く同じであるが,その黒鉛がγ鉄に遮られて共晶融液に接することができない場合,球状のまま成長する,すなわちダクタイル鋳鉄となるところ,「共晶融液中にAl,Ti及びS等の共晶融液に濃化し易く,しかもその際に融点を下げるような元素が含まれる場合」においては,黒鉛の成長は,球状黒鉛の成長と同じ機構を保ちながら溝部へと伸びることから,黒鉛の球状が黒鉛の成長とともに崩れ,CV黒鉛鋳鉄となると記載されているのであって,かかる限定的な条件下において生じる事象を前提とすれば,CV黒鉛鋳鉄に関する技術をダクタイル鋳鉄に関する技術としても周知であると解するだけの根拠はない。

また,甲29は,傾斜的機能を有する鋳鉄鋳物に関する発明において,遠心鋳造により,多段階(2回以上)に分けて注湯することなく,1回の注湯で必要な部分のみが強度,硬度,耐摩耗性に優れた傾斜材料を製造する技術に関する文献であり,甲30は,ノジュラー又はCV黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法及び装置に関する発明において,実施例1では100%のノジュラー(ダクタイル鋳鉄)が製造されたが,同発明によらない実施例2では,一部においてCV黒鉛鋳鉄が見られたこと,すなわち,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,黒鉛球状化が不完全なCV黒鉛鋳鉄が混在して製造されたことを開示しているにすぎず,ダクタイル鋳鉄及びCV黒鉛鋳鉄の各単体が,同一の装置にて製造されることを開示しているわけではない。

そして,甲31は,CV黒鉛鋳鉄の材質判定方法及び装置に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄が,ダクタイル鋳鉄と同様に「溶液処理により製造される鋳鉄」であると記載しているにすぎず,具体的にどのような溶液処理が行われているのかについては全く言及されていないこと,甲32は,CV黒鉛鋳鉄製造用添加合金の処理方法に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄の製造は,Mgの添加量を調整する方法によると,工程管理が困難であることを指摘しているにすぎないこと,甲33は,遠心力鋳造法によるCV黒鉛鋳鉄管の製造方法に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄は,Mgを含有しない普通鋳鉄溶湯の元湯に対する黒鉛球状化剤の添加量を調整したり,元湯に黒鉛球状化阻害元湯を含む処理剤を取鍋添加したり,所定の比率でダクタイル鋳鉄湯と普通鋳鉄溶湯とを混合したりすることによって得られたCV黒鉛鋳鉄溶湯を置注鋳造して製造されている旨を記載しているにすぎないこと,甲34は,鋳鉄処理剤に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄及びダクタイル鋳鉄のいずれの黒鉛球状化処理においても,同発明に係る鋳鉄処理剤が利用できることを記載しているにすぎない。

したがって,原告が指摘する各文献(甲19,20,29∼34)によっては,ダクタイル鋳鉄及びCV黒鉛鋳鉄を,いずれも同一装置,同一工程で製造できることが技術常識であって,CV黒鉛鋳鉄に関する技術知見が,ダクタイル鋳鉄についても周知技術であるということはできない。

さらに,先に指摘したとおり,甲21文献が開示する方法は,実際の製造工程においてダクタイル鋳鉄に用いることを前提としておらず,ダクタイル鋳鉄用溶融鋳鉄の溶製設備を用いた製造過程において実施されることを示唆する記載も認められないから,少なくとも同文献によっては,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加することが周知技術であるものということもできない。原告の主張は採用できない。

(2)

小括

以上からすると,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置を備える構成は,周知技術であるということはできず,本件審決の相違点1についての判断に,誤りはない。

したがって,本件審決における相違点2についての判断の是非はともかくとして,本件発明1は,引用発明1及び2に周知技術を組み合わせることによって,当業者が容易に想到し得るものということはできない。


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取消事由2(本件発明2ないし5の進歩性に係る判断の誤り)について


本件発明2は,本件発明1の構成に,さらに排滓処理装置を備える発明であるところ,本件発明1が,引用発明1及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではない以上,本件発明2も,同様に,当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。

また,本件発明3ないし5は,本件発明1又は2に従属する発明であるから,同様に,当業者が容易に想到し得たものではないことは明らかである。

したがって,本件発明2ないし5について,引用発明1及び2に周知技術を適用aすることにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとした本件審決の判断に,誤りはない。



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結論

以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。





H230307現在のコメント


容易想到性に関する事実認定判決です。

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Last Update: 2011-03-07 10:31:27 JST

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商標:【商標法4条1項15号】「基準」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))






商標:【商標法4条1項15号】「基準」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10338 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
平成23年03月03日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))

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【商標法4条1項15号】「基準」(最高裁判決引用)




判示


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))

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第2



事案の概要


本件は,原告が,原告の下記1のとおりの本件商標に係る商標登録を無効にすることを求める被告の下記2の本件審判請求について,特許庁が同請求を認めた別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。


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取消事由


商標法4条1項15号該当性の判断の誤り

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当裁判所の判断


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商標法4条1項15号について


(1)

商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定役務に使用したときに,当該指定役務が他人の役務に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該指定役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信される,広義の混同を生ずるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定役務と他人の業務に係る役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。

(2)

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本件商標と引用商標との類似性の程度


引用商標1は,「MIZUHO」の欧文字を標準文字により横書きしたものであるところ,同商標からは,「ミズホ」の称呼,「瑞々しい稲の穂」の観念を生じるとともに,後記(3)のとおり,被告グループに属する企業が統一して使用する商標として周知著名なものとなっていることから,「みずほフィナンシャルグループ」の観念も生じる。

引用商標2は,「MIZUHO」の欧文字を図案化したものであり,引用商標1と同様に,「ミズホ」の称呼,「瑞々しい稲の穂」の観念を生じるとともに,著名な「みずほフィナンシャルグループ」の観念も生じる。

引用商標3は,「みずほ」の平仮名文字からなるところ,「ミズホ」の称呼,「瑞々しい稲の穂」の観念を生じるとともに,著名な「みずほフィナンシャルグループ」の観念も生じる。

本件商標は,「みずほ」の平仮名文字からなる商標であり,引用商標1及び2に極めて類似する商標であって,引用商標3とは,称呼,外観及び観念ともに同一の商標である。

(3)

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引用商標の周知著名性及び独創性の程度



引用商標に係る「みずほ」は,もともと「瑞々しい稲の穂」の意味を有する普通名詞である。


平成12年9月29日,第一勧業銀行,富士銀行及び日本興業銀行の3行が株式移転により経営統合し,株式会社みずほホールディングスが設立された(甲6の4,甲7,甲9の2∼13)。

平成14年4月に上記3行が会社分割及び合併により,みずほ銀行及びみずほコーポレート銀行に統合,再編され,みずほ証券及びみずほ信託銀行がみずほホールディングスの100%子会社となり,さらに,持株会社となったみずほホールディングスの資産を引き継いで,平成15年1月8日に被告が設立された(甲10の2,甲11,弁論の全趣旨)。


被告グループには,本件商標登録出願前の平成17年3月末時点で,国内78社,海外70社が属し,それらの企業が提供する役務には,銀行業務,信託業務,証券業務,保険業務,シンクタンク,コンサルティング業務,ベンチャーキャピタル業務,貸金業務,不動産仲介業務,事務受託業務,事務代行,人材派遣業務,システム管理業務,企業財務アドバイザリー業務,信用保証業務,年金及び資産運用の研究等が含まれる(甲6の2)。

そして,平成16年の時点において,被告グループに属するみずほ銀行及びみずほコーポレート銀行の総資産合計は,世界第2位の137兆円に上り,日本国内においては,上場企業の4割が主要取引銀行として,7割が取引銀行として被告グループに属する銀行を利用しており,被告グループは,貸出金平均残高,居住用住宅ローン残高,預金平均残高及び遺言信託受託件数のいずれにおいても邦銀中1位であった(甲6の1,甲12の1・14)。


被告及び被告グループは,引用商標1ないし3を,全国各地の本支店の店頭,新聞・雑誌・テレビコマーシャル等各種の媒体を通じた広告やホームページにおいて大々的に使用してきた(甲13の2∼23)。

なお,平成11年12月22日の3行統合のプレスリリース以降,新聞,雑誌等やテレビ,ラジオ,インターネット等のニュースにおいて被告グループに関するニュースが頻繁に登場し,引用商標が使用された(甲8の1∼10,甲9の1∼16,甲10の1∼20,甲12の1∼50)。


以上によれば,「みずほ」,「MIZUHO」は,いずれも原告の本件商標の出願前には著名となっていて,今日に至るまで,被告及び被告グループに属する企業を表示するものとして著名なものである。

(4)

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本件指定役務と引用商標に係る役務との間の関連性の程度



本件指定役務は,①工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務及びこれに関する情報の提供,工業所有権に関する情報の提供,②訴訟事件その他に関する法律事務及びこれに関する情報の提供,訴訟に関する情報の提供,③登記又は供託に関する手続きの代理及びこれに関する情報の提供,登記又は供託に関する情報の提供,④社会保険に関する手続の代理及びこれに関する情報の提供,社会保険に関する情報の提供である。


他方,被告グループには,銀行や証券会社を含む金融機関が属しているところ,みずほ信託銀行は,テレビアニメの著作権信託を行い(甲14の19),著作権投資スキームを紹介し(甲6の2),音楽著作権キャッシュフローをベースにした事業資金の融資を行ったりして(甲15の1),知的財産権を活用した資金調達への取組を強化している(甲15の2)。


また,メガバンクグループが,特許権など知的財産分野で新たなビジネスを展開し,金融機関が,大学等と連携して「技術相談,知的財産相談」を提供しているほか,信託業法改正により知的財産信託には大きな注目と期待の目が向けられている(甲14の11・12・17・18・20・21)。


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さらに,金融機関においては,弁護士紹介サービス・法律相談・法律に関する情報の提供等が行われている(甲14の3・16・17・21・22・25,甲16)。みずほ信託銀行では,遅くとも前身の安田信託銀行時代の昭和54年以来,遺言執行引受予諾業務を行っており,遺言書作成の相談,遺言書作成の援助,遺言書の保管,遺言の執行に関わる法律業務を提供しており,遺言信託の受託件数においては各金融機関中第1位である。他の大手金融機関においても,同様に遺言の管理及び執行に関わる法律業務を提供することが一般的に行われている(甲12の5,甲17の1・2)。


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また,金融機関は,年金推進班や社会保険労務士や年金アドバイザーを配属した「お客様営業部」を設置したり,年金無料相談会を開催したり,年金受給手続の代行をしている(甲14の1・2・5∼8・13∼15・23・24・27∼42,甲18の1∼12)。


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以上のとおり,金融機関においては,法人顧客を対象として特許権や著作権等の知的財産権を対象とする信託業務を行ったり,大学の持つ特許などの知的財産に関する情報を取引先に提供したり,事業の開始に必要な資金を調達・融資するなどの事業を行い,知的財産信託において,特許料の納付,実施権の付与,侵害などへの対応の役務を提供している。

また,金融機関は,様々な経営リスクを抱える法人や個人の顧客を対象として法律相談・コンサルティング,法律に関する情報の提供や弁護士紹介サービスを行っている。信託銀行においては,遺言執行引受予諾業務の一環として遺言に関わる一連の法律業務を提供することが一般的に行われており,現に被告グループは,遺言信託受託件数において金融機関中第1位の実績を誇っている。

さらに,金融機関においては,顧客や潜在的顧客を対象とした年金相談等,社会保険に関する相談会を行うことが広く一般的に行われている。

金融機関の行うこれらの役務は,本件指定役務と関連性を有し,同一の者によって提供されることの多い役務であって,取引者,需要者も共通するものであり,密接な関連性を有するものということができる。

(5)

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出所の混同のおそれ


以上のとおり,①本件商標が引用商標と同一ないし極めて類似する商標であること,②引用商標は,もとは普通名詞であるが,被告及び被告グループにより使用された結果,全国的に極めて高い著名性を有する商標であること,③本件指定役務と被告又は被告グループが使用する役務とが密接な関連性を有するものであることを総合勘案すれば,原告が,被告及び被告グループを表示するものとして著名な引用商標と同一ないし極めて類似する本件商標を,被告又は被告グループが使用する役務と密接な関連性を有する本件指定役務について使用した場合,その需要者及び取引者において,本件商標の下で提供される原告の役務が,例えば,被告グループに属する者,被告から引用商標の使用許諾を受けた者によるなど,被告又は被告と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であると誤認し,役務の出所につきいわゆる広義の混同を生ずるおそれは極めて高いといわなければならない。

したがって,本件商標は,被告及び被告グループの業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標であるから,商標法4条1項15号に該当する。





縮小版【商標法4条1項15号】「基準」(最高裁判決引用)


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))



基準

「商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定役務に使用したときに,当該指定役務が他人の役務に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該指定役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信される,広義の混同を生ずるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定役務と他人の業務に係る役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。」(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))



本件商標と引用商標との類似性の程度



引用商標の周知著名性及び独創性の程度



本件指定役務と引用商標に係る役務との間の関連性の程度



出所の混同のおそれ




H230307現在のコメント


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))

最高裁判決の引用をした重要判決です。

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Last Update: 2011-03-07 09:47:50 JST

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特許:【補正の機会を与える義務…否定】「解釈」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10308号審決取消請求事件))






特許:【補正の機会を与える義務…否定】「解釈」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10308号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10308 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月03日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10308号審決取消請求事件))

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【補正の機会を与える義務…否定】「解釈」




判示・縮小版なし



本件出願に適用される法17条の2第1項は,特許出願人が同法50条による拒絶理由通知を受けた後は,最初の拒絶理由通知を受けた場合の指定期間内,最後の拒絶理由通知を受けた場合の指定期間内及び拒絶査定を受けた場合の査定不服審判請求の日から30日以内にするときに限り,願書に添付した明細書(特許請求の範囲を含む)及び図面の補正をすることができると規定している。これは,無制限に補正を認めたのでは,手続を複雑にし,特許庁の負担もいたずらに増すことになり,ひいては迅速な権利付与手続の妨げにもなること,出願人同士の公平性の確保という見地などから,願書に添付した明細書及び図面の補正につき,補正のできる時期について一定の制限を加えたものである。


これを本件についてみると,本件出願については,原告が本件審尋書を受領した時点において,上記1のとおり,平成19年8月20日付けで拒絶理由通知がされて補正をすることができる指定された期間が経過し,また,平成20年7月15日の審判請求の日から30日の期間も経過していたのであるから,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由があるとして改めて拒絶理由が通知される場合は格別,審判官において,法律上,特許出願人である原告に対して補正の機会を与える義務はない。

しかるところ,本件審決は,平成19年8月20日付け拒絶理由通知書,原告からの同20年2月22日付け意見書及び手続補正書,同年4月9日付け拒絶査定で一貫して対象とされていた事項について,同拒絶査定と同じ理由で本願発明を査定することができないと判断したものであるが,原告として,査定不服審判請求の日 から30日以内にする補正において,この点について適切に補正する機会が与えられていたものである。それにもかかわらず,原告は,この時点に至っても,なお,審判官とのせめぎ合いの中でできるだけ補正可能性のある広い特許請求の範囲を模索するとして,拒絶理由通知に対応した最終的な補正方針に基づく,より限定された特許請求の範囲の補正をせずにいたというのであって,このような対応をした原告が,改めて拒絶理由が通知された場合でないのに,その場合同様に補正の機会を与えられなかったことを不当であるなどと主張することは失当というほかない。



H230307現在のコメント


条文どおりです。

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Last Update: 2011-03-07 09:19:10 JST

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特許:【容易想到性,特に「阻害要因」】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))






特許:【容易想到性,特に「阻害要因」】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10146 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月03日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月3日判決言(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))


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【容易想到性,特に「阻害要因」】「事実認定」




判示


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))

第4
当裁判所の判断


取消事由1(相違点2についての判断の誤り)について

原告は,相違点2については,引用発明に周知技術を適用すれば,当業者が容易に想到することができるとした本件審決の判断の誤りをいうので,まず,引用発明及び周知技術について検討した上で,本件審決に,原告の主張する阻害要因,引用発明の皮膜の形成方法と本願発明のインサート成形技術との相違及び本願発明の作用効果について,これを看過した誤りがあるか否かについて検討することとする。

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(1)
引用発明について



以上によると,引用発明は,本件審決が認定した前記第2の3(2)アのとおりのものであるとともに,引用発明に係るピックは,歯間に挿入し得る細長くかつ小さな商品であって,本体の先端の一部を除いて皮膜の外周面に付着された柔軟性を有する細片については,接着剤を塗布して皮膜の表面に付着させるほかに,接着剤を使用せず,皮膜をゴムや合成樹脂を塗布して形成するときに,それが硬化する前に付着させ,又は,フィルムやシート,不織布,織布などの表面を起毛上にかき起こして細片を形成し,これを本体の表面に巻いて固着した製造方法を含むものである。

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(2)
周知技術について


  • 19 -




イ)

以上によると,周知技術1として,歯間クリーナを射出成形によって製造する技術が示されている。


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(3)
阻害要因について

以上のうち,周知技術1,3,7及び8によると,歯間クリーナを射出成形によって製造することが周知の事項であることが認められ,また,周知技術3,5及び6によると,射出成形により2つの樹脂を融着させることが周知の事項であること,周知技術4ないし6によると,硬・軟両樹脂からなる物品をインサートにより製造することが周知の事項であることもそれぞれ認められるから,引用発明において,その軟質の合成樹脂材料(第2のプラスチック材料)を硬質の合成樹脂材料(第1のプラスチック材料)の上に「塗布」して「被覆して設けられる」ことに換えて,「射出成形」によって「融着される」こととすることは,当業者において容易に想到し得るものということができる。


なお,上記のとおりの周知技術8の内容に鑑みると,周知例8が審査・審判段階において示されていないものであったとしても,周知技術を示すものとして,審決においてこれを斟酌することができるものである。


原告は,本件審決が,周知技術4ないし6を挙げて,硬・軟両樹脂からなる物品をインサートにより製造することは,従来から普通に行われていることであるとしたことについて,いずれも射出成形が容易な比較的大きな製品に関する周知技術4ないし6を,引用発明の歯間ブラシのように細長く小さな商品に適用することは,当業者にとって困難であり,また,産業上の利用分野も全く異なるから,引用発明と周知技術4ないし6との組合せには阻害要因があると主張する。

確かに,ある技術を適用しようとする場合,一般的に,製品が大きなものであるときよりも,小さなものであるときには,その適用において技術的に注意を要することになろうが,そうであるからといって,大きな製品に適用することが周知な事項であるものについて,単に小さな製品に適用することをもって,直ちに阻害要因があるといえるものではないところ,本件において,硬・軟両樹脂からなる物品をインサートにより製造する技術それ自体を周知技術が対象とする大きな製品から本願発明が対象とする小さな製品に適用することについて,当業者の技術的な注意を要することを超えた阻害要因があるとする事情は認められない。

確かに,周知技術4は自動車用のアシストグリップ,周知技術5は制御機器などへの入出力用の押しボタンの製造方法,周知技術6は自動車等のエアバッグ用収納パッドに関するものであって,歯間クリーナとは産業上の分野が異なるものであるが,本件においては,周知技術4ないし6の材料における硬・軟両樹脂からなる物品をインサート製造する技術それ自体が取り上げられるべきものであって,この点においては,その材料の製造技術の分野は同一といわなければならない。

したがって,原告の主張は採用することができない。

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また,原告は,一般的に,第1のプラスチック材料の上に,第2のプラスチック材料をインサート成形し,さらに,両材料を融着させるという技術を,細長くかつ小さな製品に適用することは,射出成形の際の射出圧,第2のプラスチック材料を溶融する際の熱で第1のプラスチック材料である支持体が軟らかくなってしまうことによって,支持体の反りやずれが生じてしまうために困難であることが当業者の技術常識であったのに対し,本願発明は,小さな製品である歯間ブラシをインサート成形によって製造する方法であって,本願明細書の実施例には,軸芯(支持体)を保持部材で固定することが開示されており,このような手法によって,上記の問題は解決されていると主張する。

しかしながら,原告が本願発明について主張する軸芯(支持体)を保持部材で固定することについては,本願発明に係る請求項に規定されているものではなく,仮に,原告が主張する支持体の反りやずれとの問題が引用発明にインサート成形の技術を組み合わせたものに生ずるものであるとすると,それらは,原告の主張する軸芯(支持体)を保持部材で固定することが請求項に記載されていない本願発明においても同じく発生するものといわなければならないのであって,上記の反りやずれが生ずる可能性があることをもって,原告が,引用発明の歯間ブラシにインサート成形の周知技術を適用しても本願発明を想到することができないなどと主張することは,本願発明に係る請求項の記載を無視した主張であって,失当といわざるを得ない。

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(4)引用発明の皮膜の形成方法と本願発明のインサート技術との相違について

原告は,引用発明における皮膜の形成方法は,「塗布」及び「巻き付けて接着」のみであって,インサート成形技術とは全く異なる手法であると主張する。

しかしながら,前記(1)イによると,歯間クリーナである引用発明は,軟質の合成樹脂材料が硬質の合成樹脂材料に一体化される技術を示すものであって,その「一体化」の方法として,「塗布」することによって「被覆して設けられる」ことが示されている。

そして,前記(3)アのとおり,歯間クリーナを射出成形によって製造すること,射出成形により2つの樹脂を融着させること及び硬・軟両樹脂からなる物品をインサートにより製造することは,いずれも周知の事項であるのであるから,上記の引用発明における「一体化」の技術に換えて,インサート技術を採用することは,当業者において容易に想到することができるものということができ,引用発明の皮膜の形成方法が本願発明のインサート成形技術と異なるものであることをもって,何らその容易想到性を否定する理由となるものではない。


原告は,本願発明が,第1のプラスチック材料の上に第2のプラスチック材料を射出成形し,両材料を融着させるという構成を採用した理由は,クリーニング端を形成する第2のプラスチック材料が「こすっても剥がれないように支持体に固定」するためであるのに対し,引用発明は,歯肉の損傷を防止しつつ,歯垢を確実に除去することを企図したものであって,両技術の課題は全く異なると主張する。しかしながら,歯間クリーナ自体が,そもそも歯肉の損傷を防止しつつ,歯垢を確実に除去する目的を有するものであることに加え,本願明細書にも「クリーニングを確実にするためには,インサートまたはコーティングの第2のプラスチック材料はクリーニングされるべき歯間領域と係合し,これは代替的には支持体から突出して備えられてもよく,これがたとえば,インサートまたはコーティングが少なくとも1方側に膨らみを有することを引き起こす。

これに代えてまたはこれに加えて,インサートまたはコーティングの表面には,クリーニング動作を促進しかつそれに加えてマッサージ効果を発揮する構造が形成され得る。鋭利な端部およびその結果生じ得る歯間クリーナを引っかけたりまたは突き刺したりする問題を回避するために,この発明のさらなる進展に従うと,インサートまたはコーティングの表面が支持体の近接する表面領域へとなめらかに移行する。」との記載があるように,本願発明は,「歯肉の損傷を防止しつつ,歯垢を確実に除去すること」を課題としているものということができる。

そして,前記(1)アのとおり,引用発明も,従来の木製のつま楊枝が,全表面が平滑であるため歯垢などが付着し難く効果が低かったこと,また,先端が針状にとがっていることから歯肉に傷を付けやすいという問題があったことに照らし,本体ピックの表面に皮膜を塗布又は接着し,更に細片を付着させることによって,「歯肉の損傷を防止しつつ,歯垢を確実に除去すること」を目的としたものであり,本願発明と引用発明とは課題を共通とするものであって,両者の課題が全く異なるとの原告の主張は理由がない。

また,原告は,引用発明では,皮膜と細片とで本体を被覆していることから,たとい細片が取れても,硬い本体が歯肉に直接当たって傷を付けることがなく安心して使用し得るとされていることから,本願発明のように,クリーニング端が剥がれないという課題に対する対処は,十分に考慮されていないと主張する。

しかしながら,引用例における「皮膜(2)と細片(3)とで本体(1)を被覆しているから,たとえ,細片(3)が取れても,硬い本体(1)が歯肉に直接当たってそれにきずを付けることがなく安心して使用しうる」との記載は,万が一細片が取れるくらい擦っても皮膜は本体から剥がれないように本体に固着されていることを意味するものであり,これに加え,通常の使用で細片が取れることを想定した記載でないことは明らかであって,その反面,本願発明のように,クリーニング端が剥がれないという課題に対する対処に相当するということができるものであって,その記載を正解
しない原告の主張を採用することはできない。

さらに,原告は,引用発明では,歯間ブラシのクリーニング端を形成するため,ピック本体の周りに皮膜を塗布又は接着した上で,更に細片を付着させるという2つの工程を経るなどしなければならないのに対し,本願発明は,第2のプラスチック材料を射出成形して融着させるという1つのプロセスで,クリーニング端を形成することができるものであって,本願発明では,製造プロセスの省力化による製造コストの削減という点をも課題としており,この点でも両技術の課題は異なると主張する。


しかしながら,同一の課題を達成するために,周知技術を適用し,製造工程の省力化によるコストの削減を図ろうとすることは,当業者であれば当然に検討し得ることであって,歯の清掃用ピックに係る引用発明に接した当業者が,樹脂の接着において,周知技術であるインサート成形技術を適用することは容易に導き出せるものということができる。


なお,原告は,合成樹脂同士であればどのような組合せでも合成樹脂相互間の融着が生じるものではなく,組み合わせる合成樹脂の種類によって,融着が生じる場合と生じない場合があるところ,


本願発明の発明者は,試行錯誤の結果として,正しく融着可能で,なおかつ,歯間クリーナとして適切な材料の組合せに想到したものであって,そのことは本願明細書にも明記されているにもかかわらず,本件審決が,射出成形により複数の樹脂を融着させることも格別なことではないとしたことには理由の不備があると主張する。

しかしながら,原告が主張する融着が生じる合成樹脂相互間の組合せについては,本願発明に係る請求項に何ら規定されているものではなく,原告の主張に照らすと,本願発明における「融着」には,射出成形によって融着が生じる場合のほか,射出成形によって融着が生じない場合をも含むものであって,原告の主張は,当該請求項の記載を前提に本願発明の進歩性を主張するものではなく,主張自体失当といわなければならない。
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(5)
本願発明の作用効果について

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原告は,本願発明によって,接着剤の安全性に配慮する義務からの解放,接着剤の耐水性の問題からの解放,接合強度の向上,外径を小さくできたこと,製造プロセスの短縮及び製造コストの削減及びクリーニング端の形状の自由度の向上を図ることができたものであると主張する。


しかしながら,前記のとおり,引用発明における「一体化」の技術に換えて,インサート技術を採用し,合成樹脂相互の組合せについて特段配慮せずに,本願発明が規定すると同様の意味において,硬・軟両樹脂を「融着」させるという点においては,当業者において容易に想到することができるものであるところ,上記効果は,射出成形の技術の採用や硬・軟両樹脂の融着によって当然に生ずるものであるから,上記の各効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであるということができ,本願発明の格別な作用効果ということはできない。加えて,前記(1)イのとおり,引用発明においては,皮膜の外周面に付着された柔軟性を有する細片については,接着剤を使用せずに付着させたり,フィルム等の表面を起毛状にかき起こして形成する技術が示されており,接着剤を使用しないことによる効果については,当業者において,引用発明からも予測し得る範囲内のものということができる。

(6)
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小括

以上によると,相違点2に係る本願発明の構成については,引用発明に周知技術を適用して当業者が容易に想到することができたものということができる。

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縮小版【容易想到性,阻害要因】


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))

「ある技術を適用しようとする場合,一般的に,製品が大きなものであるときよりも,小さなものであるときには,その適用において技術的に注意を要することになろうが,そうであるからといって,大きな製品に適用することが周知な事項であるものについて,単に小さな製品に適用することをもって,直ちに阻害要因があるといえるものではない」(知財高裁平成23年3月3日判決言(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))

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H230306現在のコメント


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))
容易想到性に関する事実認定判決です。

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Last Update: 2011-03-06 22:23:38 JST

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