2011年3月3日木曜日

特許:【容易想到性,特に「阻害要因」】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))






特許:【容易想到性,特に「阻害要因」】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10146 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月03日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月3日判決言(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))


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【容易想到性,特に「阻害要因」】「事実認定」




判示


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))

第4
当裁判所の判断


取消事由1(相違点2についての判断の誤り)について

原告は,相違点2については,引用発明に周知技術を適用すれば,当業者が容易に想到することができるとした本件審決の判断の誤りをいうので,まず,引用発明及び周知技術について検討した上で,本件審決に,原告の主張する阻害要因,引用発明の皮膜の形成方法と本願発明のインサート成形技術との相違及び本願発明の作用効果について,これを看過した誤りがあるか否かについて検討することとする。

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(1)
引用発明について



以上によると,引用発明は,本件審決が認定した前記第2の3(2)アのとおりのものであるとともに,引用発明に係るピックは,歯間に挿入し得る細長くかつ小さな商品であって,本体の先端の一部を除いて皮膜の外周面に付着された柔軟性を有する細片については,接着剤を塗布して皮膜の表面に付着させるほかに,接着剤を使用せず,皮膜をゴムや合成樹脂を塗布して形成するときに,それが硬化する前に付着させ,又は,フィルムやシート,不織布,織布などの表面を起毛上にかき起こして細片を形成し,これを本体の表面に巻いて固着した製造方法を含むものである。

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(2)
周知技術について


  • 19 -




イ)

以上によると,周知技術1として,歯間クリーナを射出成形によって製造する技術が示されている。


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(3)
阻害要因について

以上のうち,周知技術1,3,7及び8によると,歯間クリーナを射出成形によって製造することが周知の事項であることが認められ,また,周知技術3,5及び6によると,射出成形により2つの樹脂を融着させることが周知の事項であること,周知技術4ないし6によると,硬・軟両樹脂からなる物品をインサートにより製造することが周知の事項であることもそれぞれ認められるから,引用発明において,その軟質の合成樹脂材料(第2のプラスチック材料)を硬質の合成樹脂材料(第1のプラスチック材料)の上に「塗布」して「被覆して設けられる」ことに換えて,「射出成形」によって「融着される」こととすることは,当業者において容易に想到し得るものということができる。


なお,上記のとおりの周知技術8の内容に鑑みると,周知例8が審査・審判段階において示されていないものであったとしても,周知技術を示すものとして,審決においてこれを斟酌することができるものである。


原告は,本件審決が,周知技術4ないし6を挙げて,硬・軟両樹脂からなる物品をインサートにより製造することは,従来から普通に行われていることであるとしたことについて,いずれも射出成形が容易な比較的大きな製品に関する周知技術4ないし6を,引用発明の歯間ブラシのように細長く小さな商品に適用することは,当業者にとって困難であり,また,産業上の利用分野も全く異なるから,引用発明と周知技術4ないし6との組合せには阻害要因があると主張する。

確かに,ある技術を適用しようとする場合,一般的に,製品が大きなものであるときよりも,小さなものであるときには,その適用において技術的に注意を要することになろうが,そうであるからといって,大きな製品に適用することが周知な事項であるものについて,単に小さな製品に適用することをもって,直ちに阻害要因があるといえるものではないところ,本件において,硬・軟両樹脂からなる物品をインサートにより製造する技術それ自体を周知技術が対象とする大きな製品から本願発明が対象とする小さな製品に適用することについて,当業者の技術的な注意を要することを超えた阻害要因があるとする事情は認められない。

確かに,周知技術4は自動車用のアシストグリップ,周知技術5は制御機器などへの入出力用の押しボタンの製造方法,周知技術6は自動車等のエアバッグ用収納パッドに関するものであって,歯間クリーナとは産業上の分野が異なるものであるが,本件においては,周知技術4ないし6の材料における硬・軟両樹脂からなる物品をインサート製造する技術それ自体が取り上げられるべきものであって,この点においては,その材料の製造技術の分野は同一といわなければならない。

したがって,原告の主張は採用することができない。

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また,原告は,一般的に,第1のプラスチック材料の上に,第2のプラスチック材料をインサート成形し,さらに,両材料を融着させるという技術を,細長くかつ小さな製品に適用することは,射出成形の際の射出圧,第2のプラスチック材料を溶融する際の熱で第1のプラスチック材料である支持体が軟らかくなってしまうことによって,支持体の反りやずれが生じてしまうために困難であることが当業者の技術常識であったのに対し,本願発明は,小さな製品である歯間ブラシをインサート成形によって製造する方法であって,本願明細書の実施例には,軸芯(支持体)を保持部材で固定することが開示されており,このような手法によって,上記の問題は解決されていると主張する。

しかしながら,原告が本願発明について主張する軸芯(支持体)を保持部材で固定することについては,本願発明に係る請求項に規定されているものではなく,仮に,原告が主張する支持体の反りやずれとの問題が引用発明にインサート成形の技術を組み合わせたものに生ずるものであるとすると,それらは,原告の主張する軸芯(支持体)を保持部材で固定することが請求項に記載されていない本願発明においても同じく発生するものといわなければならないのであって,上記の反りやずれが生ずる可能性があることをもって,原告が,引用発明の歯間ブラシにインサート成形の周知技術を適用しても本願発明を想到することができないなどと主張することは,本願発明に係る請求項の記載を無視した主張であって,失当といわざるを得ない。

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(4)引用発明の皮膜の形成方法と本願発明のインサート技術との相違について

原告は,引用発明における皮膜の形成方法は,「塗布」及び「巻き付けて接着」のみであって,インサート成形技術とは全く異なる手法であると主張する。

しかしながら,前記(1)イによると,歯間クリーナである引用発明は,軟質の合成樹脂材料が硬質の合成樹脂材料に一体化される技術を示すものであって,その「一体化」の方法として,「塗布」することによって「被覆して設けられる」ことが示されている。

そして,前記(3)アのとおり,歯間クリーナを射出成形によって製造すること,射出成形により2つの樹脂を融着させること及び硬・軟両樹脂からなる物品をインサートにより製造することは,いずれも周知の事項であるのであるから,上記の引用発明における「一体化」の技術に換えて,インサート技術を採用することは,当業者において容易に想到することができるものということができ,引用発明の皮膜の形成方法が本願発明のインサート成形技術と異なるものであることをもって,何らその容易想到性を否定する理由となるものではない。


原告は,本願発明が,第1のプラスチック材料の上に第2のプラスチック材料を射出成形し,両材料を融着させるという構成を採用した理由は,クリーニング端を形成する第2のプラスチック材料が「こすっても剥がれないように支持体に固定」するためであるのに対し,引用発明は,歯肉の損傷を防止しつつ,歯垢を確実に除去することを企図したものであって,両技術の課題は全く異なると主張する。しかしながら,歯間クリーナ自体が,そもそも歯肉の損傷を防止しつつ,歯垢を確実に除去する目的を有するものであることに加え,本願明細書にも「クリーニングを確実にするためには,インサートまたはコーティングの第2のプラスチック材料はクリーニングされるべき歯間領域と係合し,これは代替的には支持体から突出して備えられてもよく,これがたとえば,インサートまたはコーティングが少なくとも1方側に膨らみを有することを引き起こす。

これに代えてまたはこれに加えて,インサートまたはコーティングの表面には,クリーニング動作を促進しかつそれに加えてマッサージ効果を発揮する構造が形成され得る。鋭利な端部およびその結果生じ得る歯間クリーナを引っかけたりまたは突き刺したりする問題を回避するために,この発明のさらなる進展に従うと,インサートまたはコーティングの表面が支持体の近接する表面領域へとなめらかに移行する。」との記載があるように,本願発明は,「歯肉の損傷を防止しつつ,歯垢を確実に除去すること」を課題としているものということができる。

そして,前記(1)アのとおり,引用発明も,従来の木製のつま楊枝が,全表面が平滑であるため歯垢などが付着し難く効果が低かったこと,また,先端が針状にとがっていることから歯肉に傷を付けやすいという問題があったことに照らし,本体ピックの表面に皮膜を塗布又は接着し,更に細片を付着させることによって,「歯肉の損傷を防止しつつ,歯垢を確実に除去すること」を目的としたものであり,本願発明と引用発明とは課題を共通とするものであって,両者の課題が全く異なるとの原告の主張は理由がない。

また,原告は,引用発明では,皮膜と細片とで本体を被覆していることから,たとい細片が取れても,硬い本体が歯肉に直接当たって傷を付けることがなく安心して使用し得るとされていることから,本願発明のように,クリーニング端が剥がれないという課題に対する対処は,十分に考慮されていないと主張する。

しかしながら,引用例における「皮膜(2)と細片(3)とで本体(1)を被覆しているから,たとえ,細片(3)が取れても,硬い本体(1)が歯肉に直接当たってそれにきずを付けることがなく安心して使用しうる」との記載は,万が一細片が取れるくらい擦っても皮膜は本体から剥がれないように本体に固着されていることを意味するものであり,これに加え,通常の使用で細片が取れることを想定した記載でないことは明らかであって,その反面,本願発明のように,クリーニング端が剥がれないという課題に対する対処に相当するということができるものであって,その記載を正解
しない原告の主張を採用することはできない。

さらに,原告は,引用発明では,歯間ブラシのクリーニング端を形成するため,ピック本体の周りに皮膜を塗布又は接着した上で,更に細片を付着させるという2つの工程を経るなどしなければならないのに対し,本願発明は,第2のプラスチック材料を射出成形して融着させるという1つのプロセスで,クリーニング端を形成することができるものであって,本願発明では,製造プロセスの省力化による製造コストの削減という点をも課題としており,この点でも両技術の課題は異なると主張する。


しかしながら,同一の課題を達成するために,周知技術を適用し,製造工程の省力化によるコストの削減を図ろうとすることは,当業者であれば当然に検討し得ることであって,歯の清掃用ピックに係る引用発明に接した当業者が,樹脂の接着において,周知技術であるインサート成形技術を適用することは容易に導き出せるものということができる。


なお,原告は,合成樹脂同士であればどのような組合せでも合成樹脂相互間の融着が生じるものではなく,組み合わせる合成樹脂の種類によって,融着が生じる場合と生じない場合があるところ,


本願発明の発明者は,試行錯誤の結果として,正しく融着可能で,なおかつ,歯間クリーナとして適切な材料の組合せに想到したものであって,そのことは本願明細書にも明記されているにもかかわらず,本件審決が,射出成形により複数の樹脂を融着させることも格別なことではないとしたことには理由の不備があると主張する。

しかしながら,原告が主張する融着が生じる合成樹脂相互間の組合せについては,本願発明に係る請求項に何ら規定されているものではなく,原告の主張に照らすと,本願発明における「融着」には,射出成形によって融着が生じる場合のほか,射出成形によって融着が生じない場合をも含むものであって,原告の主張は,当該請求項の記載を前提に本願発明の進歩性を主張するものではなく,主張自体失当といわなければならない。
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(5)
本願発明の作用効果について

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原告は,本願発明によって,接着剤の安全性に配慮する義務からの解放,接着剤の耐水性の問題からの解放,接合強度の向上,外径を小さくできたこと,製造プロセスの短縮及び製造コストの削減及びクリーニング端の形状の自由度の向上を図ることができたものであると主張する。


しかしながら,前記のとおり,引用発明における「一体化」の技術に換えて,インサート技術を採用し,合成樹脂相互の組合せについて特段配慮せずに,本願発明が規定すると同様の意味において,硬・軟両樹脂を「融着」させるという点においては,当業者において容易に想到することができるものであるところ,上記効果は,射出成形の技術の採用や硬・軟両樹脂の融着によって当然に生ずるものであるから,上記の各効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであるということができ,本願発明の格別な作用効果ということはできない。加えて,前記(1)イのとおり,引用発明においては,皮膜の外周面に付着された柔軟性を有する細片については,接着剤を使用せずに付着させたり,フィルム等の表面を起毛状にかき起こして形成する技術が示されており,接着剤を使用しないことによる効果については,当業者において,引用発明からも予測し得る範囲内のものということができる。

(6)
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小括

以上によると,相違点2に係る本願発明の構成については,引用発明に周知技術を適用して当業者が容易に想到することができたものということができる。

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縮小版【容易想到性,阻害要因】


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))

「ある技術を適用しようとする場合,一般的に,製品が大きなものであるときよりも,小さなものであるときには,その適用において技術的に注意を要することになろうが,そうであるからといって,大きな製品に適用することが周知な事項であるものについて,単に小さな製品に適用することをもって,直ちに阻害要因があるといえるものではない」(知財高裁平成23年3月3日判決言(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))

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H230306現在のコメント


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10146号審決取消請求事件))
容易想到性に関する事実認定判決です。

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Last Update: 2011-03-06 22:23:38 JST

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