2011年3月3日木曜日

特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10069号審決取消請求事件))






特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10069号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10069 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月03日 知的財産高等裁判所


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10069号審決取消請求事件))

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【容易想到性】「事実認定」・縮小版なし




判示


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10069号審決取消請求事件))

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第2



事案の概要


本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告が有する下記2の本件発明に係る本件特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が,本件訂正を認めた上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

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本件審決の理由の要旨

(1)

本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記ア及びイの引用例1及び2に記載された発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)に下記ウないしオの周知例1ないし3に記載された周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから,本件発明に係る本件特許を無効にすることができない,というものである。

第4
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当裁判所の判断



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取消事由1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)について


(1)
相違点1についての判断の誤りについて


甲18文献について

(ア)

甲18文献の記載内容

甲18文献(甲18)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。なお,CGIというのは,CV黒鉛鋳鉄のことである。


本発明は,圧縮黒鉛鋳鉄(CGI)として凝固する鋳造品のための予備処理された溶融鋳鉄を供給する方法に関する。

CGIの機械的性質は,ねずみ鋳鉄とダクタイル鉄の最良の性質を結合したものである。CGIの生産高が少ない理由としては,製造中に黒鉛化ポテンシャルと鋳鉄の黒鉛形状改良元素を非常に狭い範囲内で同時に制御しなければならないことから,信頼性の高い製造を行なうことが困難であること,従来,いかなる連続的あるいは半連続的な方法によってもCGIの製造が信頼性をもってコントロールできず,バッチ式方法によってのみ行なわれてきたこと等が挙げられる。


本発明の目的は,工程管理を行う改良手段により,CGIの連続的製造を行なうことである。

CGIの鋳造の場合,接種剤のみが,鋳造の直前に正確な量だけ添加される必要があるところ,従来技術においては不可能であったため,処理の初期段階で,過剰な量の接種剤が添加されていた。

本発明の場合,接種剤の量を最適化するために,処理工程のできるだけ遅い段階で添加される。最適基本処理工程が完了すると,溶湯からスラグが除去され,コンディショニング炉内へ移送される。例えば,Mgのような黒鉛形状改良剤が,必要に応じて,鋼の鞘で防護されたMgを芯体とするワイヤ又はロッド形により,同炉内の溶湯に添加することができる。溶融鋳鉄が同炉から鋳型に注入される前に,小さな取鍋に移送し,黒鉛形状改良剤の全量を取鍋中に添加する方法でもよい。

(イ)

甲18文献の技術内容

以上の甲18文献の記載によると,同文献には,CV黒鉛鋳鉄の製造工程において,Mg芯体のワイヤを用いて,鋳型に鋳造する直前の注湯用取鍋内の溶融鉄を黒鉛球状化処理する技術が開示されているものということができる。


甲22文献について

(ア)

甲22文献の記載内容

甲22文献(甲22)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。


甲22文献の図2には,プロセスコントローラーにより鋳造プロセスを制御し,溶解炉から取鍋に溶湯を移し,排滓し,ワイヤーフィーダー法で取鍋内の溶湯を処理(トリミング)し,取鍋から鋳型に注湯する構成が図示されている。


トリミングが行われる調整ステーションは,2つのワイヤーフィーダーヘッドを有し,Mg及び接種材料の被覆ワイヤーが安全かつ正確に添加される位置に取鍋が移動される。熱分析の結果がワイヤーフィーダーに伝えられると,所定量のMg及び接種材料が次々と溶湯に注入される。取鍋はその後,調整ステーションから取り外され,すぐに注湯するため,鋳造ラインに移動される。

(イ)

甲22文献の記載内容

以上の甲22文献の記載によると,同文献には,CV黒鉛鋳鉄の製造工程において,ワイヤーフィーダー法により,黒鉛球状化処理剤であるMgを,鋳造の前段階において,取鍋に注湯された溶湯に投入する構成が開示されているということができる。


甲21文献について
(ア)

甲21文献の記載内容

甲21文献(甲21,乙3)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。

a本文献は,マグネシウム合金によるノジュラー鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)の製造に関する共同研究である。ダクタイル鋳鉄は,主に圧力容器又は取鍋内の溶湯をワイヤーインジェクション法により処理することにより製造される。ワイヤー法は,ランニングコスト,自動化の可能性,溶湯,取鍋サイズ等の条件の違いによる適用性等の全ての要求に対応可能である。脱硫効果を最大限に発揮するためには,取鍋の深さをできるだけ深くしなければならない。また,Mgワイヤー法の効果的な使用法は,取鍋の底にワイヤーが届いたときにワイヤーの中のMgが反応を始める方法である。マグネシウム黒鉛球状化は,主として取鍋に注がれた鉄にMgを含有する試薬を提供する粉体充填ワイヤ(PFW)を注入することにより行われる。


150Kgの誘導炉で,ワイヤー径と合金の組成,鞘(フープ)の厚さを各種設定し,Mgの拡散に関する調査を約80回行った。ワイヤーの溶解時間として,投入(添加)から反応開始までの時間を測定したところ,ワイヤーの溶解速度は,溶湯温度,鞘の厚さ,ワイヤー径によることが判明した。もっとも,ワイヤー径が大きくなると,溶解までの時間が増加する点については注意が必要である。

製造試験においては, 原料は,銑鉄,戻り材(社内発生スクラップ),少量のスチールスクラップを使用した。溶湯は,45トン保持炉に移され,取鍋処理のために1.5トンに配湯された。鉄は1460ないし1480℃で処理され,その後,クレイボンド砂型に注湯された。Mgとカルシウムカーバイトの混合材で充されたMgワイヤー(PFW)は,設定された速度と量で,単一線のフィーダーから,耐火物をライニングした蓋の送線管を通して取鍋内に送られた。

(イ)

甲21文献の技術内容

以上の甲21文献の記載によると,同文献には,ワイヤー径と合金の組成,鞘の厚さを各種設定し,Mgの拡散に関する調査を行った際,溶湯が配湯された取鍋に対し,ワイヤーフィーダー法によりMgを投入する方法により,黒鉛球状化処理を行ったことが開示されているということができる。


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甲18文献,甲22文献及び甲21文献において開示される技術知見

(ア)

甲18文献及び甲22文献によると,CV黒鉛鋳鉄に関し,鋳型に鋳造する直前の段階において,取鍋内の溶融鉄に対し,Mg芯体のワイヤーを用いて黒鉛球状化処理をすること,すなわち,ワイヤーフィーダー法により,黒鉛球状化処理剤であるMgを投入する方法が開示されている。

また,甲21文献には,ダクタイル鋳鉄において,ワイヤー径と合金の組成,鞘の厚さを各種設定し,Mgの拡散について調査した際,取鍋内の溶融鉄に対し,ワイヤーフィーダー法によりMgを投入する方法が採用されたことが開示されている。

(イ)
もっとも,鋳鉄の組織は,黒鉛組織と基地組織とに大別され,鋳鉄の物理a
的・化学的性質は,両組織の組合せによるところ(乙1),CV黒鉛鋳鉄は,黒鉛球状化処理剤の添加量を減らして黒鉛球状化を不完全にする方法により製造されるものであり,適正Mg量の幅は極めて狭く,厳密な添加量の調整と管理が必要である(乙2)とされているものである。

また,球状化処理方法には,世界的にも最も有名な方法である置注法のほか,タンディッシュ法,ポーラスプラグ法,プランジャ法,インモールド法,ストリューム法,圧力添加法,Tノック法,ボルテックス法,Mgワイヤー法,特殊取鍋法,オンザモールド法等,多種多様な方法がある(甲6)。

そして,原告は,本件訴訟において,周知技術を立証するために甲18文献及び甲22文献を提出しているにすぎない。

したがって,上記各文献によって,CV黒鉛鋳鉄に関し,ワイヤーフィーダー法により,黒鉛球状化処理剤であるMgを投入する方法が周知技術であるということができたとしても,鋳鉄の物理的・化学的性質,製造方法がダクタイル鋳鉄とは異なるCV黒鉛鋳鉄に関するかかる技術知見を,上記各文献が引用例として提出された場合はともかく,ダクタイル鋳鉄について,直ちに適用し得るということはできない。

(ウ)

甲21文献は,ダクタイル鋳鉄に関する文献ではあるものの,ダクタイル鋳鉄が主に圧力容器又は取鍋内の溶湯をワイヤーフィーダー法によって処理することにより製造される旨の記載は,論文の冒頭において,ダクタイル鋳鉄に関する概略的な説明として記載されたにすぎず,実際の製造工程を前提として,取鍋に注湯された元湯に対し,ワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化処理を行う構成が具体的に開示されているわけではない。

また,製造試験において,取鍋内の溶融鉄に対し,ワイヤーフィーダー法によりMgを投入する方法が採用された点についても,ダクタイル鋳鉄の製造におけるMgワイヤーの材質等が及ぼす影響を調査するために,ワイヤー径と合金の組成,鞘の厚さを各種設定し,多数回(約80回)にわたる試験を実施したものであって,最適なMgワイヤーを発見するという製造試験の目的に照らし,多数回にわたる実験を効率的に実施する観点から,当該方法が採用された可能性が高いものというべきであるから,具体的な製造工程を前提とした構成が開示されているものということはできない。

そして,甲21文献も,甲18文献及び甲22文献と同様,本件訴訟において,周知技術を立証するために提出されたものであるから,甲21文献により開示される製造試験に係る技術知見を,ダクタイル鋳鉄の溶融設備における製造工程についても,直ちに適用することはできない。

(エ)

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以上からすると,甲18文献及び甲22文献において開示される技術知見は,CV黒鉛鋳鉄に関する技術知見であり,甲21文献において開示される技術知見は,ダクタイル鋳鉄の製造試験に関する技術知見にすぎないから,上記各技術知見によって,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置を備える構成が周知技術であったということはできない。

この点について,原告は,CV黒鉛鋳鉄とダクタイル鋳鉄との差は,溶湯の冷却・固化過程の違いだけであるとされており,限定された条件下ではあるが,同一の方法でダクタイル鋳鉄とCV黒鉛鋳鉄とを製造する技術が開示されていること(甲19,20),CV黒鉛鋳鉄とダクタイル鋳鉄とが同一の製造方法で製造され,溶製設備は同一であること(甲29∼34)からすると,当業者にとって,CV黒鉛鋳鉄に関する技術思想の開示は,ダクタイル鋳鉄に関する技術思想の開示と等しいものということができる,当業者は,製造試験に係る文献から得た知見から,製品製造における工程を減らすこと,すなわちMg処理をした取鍋をそのまま用いて注湯することを試みることは当然であるなどと主張する。

しかしながら,甲20には,CV黒鉛鋳鉄が形成される場合,黒鉛晶出初期は,ダクタイル鋳鉄の生成機構と全く同じであるが,その黒鉛がγ鉄に遮られて共晶融液に接することができない場合,球状のまま成長する,すなわちダクタイル鋳鉄となるところ,「共晶融液中にAl,Ti及びS等の共晶融液に濃化し易く,しかもその際に融点を下げるような元素が含まれる場合」においては,黒鉛の成長は,球状黒鉛の成長と同じ機構を保ちながら溝部へと伸びることから,黒鉛の球状が黒鉛の成長とともに崩れ,CV黒鉛鋳鉄となると記載されているのであって,かかる限定的な条件下において生じる事象を前提とすれば,CV黒鉛鋳鉄に関する技術をダクタイル鋳鉄に関する技術としても周知であると解するだけの根拠はない。

また,甲29は,傾斜的機能を有する鋳鉄鋳物に関する発明において,遠心鋳造により,多段階(2回以上)に分けて注湯することなく,1回の注湯で必要な部分のみが強度,硬度,耐摩耗性に優れた傾斜材料を製造する技術に関する文献であり,甲30は,ノジュラー又はCV黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法及び装置に関する発明において,実施例1では100%のノジュラー(ダクタイル鋳鉄)が製造されたが,同発明によらない実施例2では,一部においてCV黒鉛鋳鉄が見られたこと,すなわち,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,黒鉛球状化が不完全なCV黒鉛鋳鉄が混在して製造されたことを開示しているにすぎず,ダクタイル鋳鉄及びCV黒鉛鋳鉄の各単体が,同一の装置にて製造されることを開示しているわけではない。

そして,甲31は,CV黒鉛鋳鉄の材質判定方法及び装置に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄が,ダクタイル鋳鉄と同様に「溶液処理により製造される鋳鉄」であると記載しているにすぎず,具体的にどのような溶液処理が行われているのかについては全く言及されていないこと,甲32は,CV黒鉛鋳鉄製造用添加合金の処理方法に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄の製造は,Mgの添加量を調整する方法によると,工程管理が困難であることを指摘しているにすぎないこと,甲33は,遠心力鋳造法によるCV黒鉛鋳鉄管の製造方法に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄は,Mgを含有しない普通鋳鉄溶湯の元湯に対する黒鉛球状化剤の添加量を調整したり,元湯に黒鉛球状化阻害元湯を含む処理剤を取鍋添加したり,所定の比率でダクタイル鋳鉄湯と普通鋳鉄溶湯とを混合したりすることによって得られたCV黒鉛鋳鉄溶湯を置注鋳造して製造されている旨を記載しているにすぎないこと,甲34は,鋳鉄処理剤に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄及びダクタイル鋳鉄のいずれの黒鉛球状化処理においても,同発明に係る鋳鉄処理剤が利用できることを記載しているにすぎない。

したがって,原告が指摘する各文献(甲19,20,29∼34)によっては,ダクタイル鋳鉄及びCV黒鉛鋳鉄を,いずれも同一装置,同一工程で製造できることが技術常識であって,CV黒鉛鋳鉄に関する技術知見が,ダクタイル鋳鉄についても周知技術であるということはできない。

さらに,先に指摘したとおり,甲21文献が開示する方法は,実際の製造工程においてダクタイル鋳鉄に用いることを前提としておらず,ダクタイル鋳鉄用溶融鋳鉄の溶製設備を用いた製造過程において実施されることを示唆する記載も認められないから,少なくとも同文献によっては,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加することが周知技術であるものということもできない。原告の主張は採用できない。

(2)

小括

以上からすると,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置を備える構成は,周知技術であるということはできず,本件審決の相違点1についての判断に,誤りはない。

したがって,本件審決における相違点2についての判断の是非はともかくとして,本件発明1は,引用発明1及び2に周知技術を組み合わせることによって,当業者が容易に想到し得るものということはできない。


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取消事由2(本件発明2ないし5の進歩性に係る判断の誤り)について


本件発明2は,本件発明1の構成に,さらに排滓処理装置を備える発明であるところ,本件発明1が,引用発明1及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではない以上,本件発明2も,同様に,当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。

また,本件発明3ないし5は,本件発明1又は2に従属する発明であるから,同様に,当業者が容易に想到し得たものではないことは明らかである。

したがって,本件発明2ないし5について,引用発明1及び2に周知技術を適用aすることにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとした本件審決の判断に,誤りはない。



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結論

以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。





H230307現在のコメント


容易想到性に関する事実認定判決です。

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Last Update: 2011-03-07 10:31:27 JST

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