2011年3月24日木曜日

特許:【訂正の可否】【サポート要件】【実施可能要件】【進歩性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))






特許:【訂正の可否】【サポート要件】【実施可能要件】【進歩性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))






知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10214 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月24日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))


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【訂正の可否】【サポート要件】【実施可能要件】【進歩性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))
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第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。



第4 当裁判所の判断




1 取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)について

(1) 本件訂正事項の内容
本件訂正事項は,請求項2に係る本件訂正前の「前記ベールが,少なくとも約1
0N/15mmの裂破強度(DIN EN ISO 527-3に従って測定)を有
する,ことを特徴とする請求項1記載のベール」との記載を,本件訂正後の「前記
ベールが,少なくとも10N/15mmの引裂き強度(DIN EN ISO 52


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7-3に従って測定)のフィルムを有する,ことを特徴とする請求項1記載のベー
ル」との記載に訂正するものである。
本件訂正事項は,訂正前には「裂破強度(DIN EN ISO 527-3に
従って測定)」と記載されていたものを,訂正後には「引裂き強度(DIN EN
ISO 527-3に従って測定)」との記載に訂正するものであって,その訂
正前後を通じて,いずれも,その測定方法は,「DIN EN ISO 527-
3に従って測定」されるものである。
(2) 本件明細書及び本件訂正明細書の記載
本件明細書【0031】には,「機械強度に関連して,DIN EN ISO
527-3に従って測定した場合に,パッケージ包装材またはフィルムが,少なく
とも約10N/15mm,好ましくは約100N/15mm以上,さらに好ましくは2
00N/15mm以上の裂破強度を有することが推奨される。引用した値の各々は,
フィルムの縦方向および横方向における最少裂破強度値に関係する。フィルムで包
装したベールが移動のために再度梱包されるか否かの関数として,裂破強度に関連
した特定の選択が行われる。これに関連して,使用可能な材料には,100μmの
厚さで,15から30N/15mmの裂破強度を有するPE,100μmの厚さで,
150~300N/15mmの裂破強度を有するPA6が含まれる。」とあって,
「DIN EN ISO 527-3」の定めるところに従って,パッケージ包装
材又はフィルムの強度を測定したものであることが説明されている。
そして,本件訂正明細書には,本件明細書の「裂破強度」が「引裂き強度」と変
更されて,以上と同旨の説明がされている。
(3) 「裂破強度」と「引裂き強度」との異同
以上によると,本件訂正前の請求項2には「裂破強度」と記載され,本件訂正後
の請求項2には「引裂き強度」と記載され,その表現は異なり,また,本件訂正後
の請求項2には,そのような強度を有する「フィルム」であることが構成として追
加されているが,いずれも,フィルム及びシートについての強度を試験する方法に


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関する規格である「DIN EN ISO 527-3」(乙1,2)の定めると
ころに従って,強度を測定することにおいて変わりはない。
そして,「裂破」とは,「引き裂くこと」との意味であり(講談社新大字典・平
成5年3月発行),「裂破」から「引裂き」へと訂正することは,用語をより平易
で一般的なものに変更したものということができる。
(4) 原告の主張に対する判断
原告は,本件訂正明細書に記載された「DIN EN ISO 527」はいわ
ゆる「引張強度」に関する規定であり,「DIN EN ISO 527-3」は
フィルムとシートのための「引張強度」の測定条件を定めたものであって,引裂き
強度は測定できないとし,上記訂正では,「引張強度」の測定条件によって「引裂
強度」を測定することになり,実質的に特許請求の範囲を変更することになると主
張する。しかしながら,本件訂正事項については,本件訂正の前後を通じて,ベー
ルの強度を「DIN EN ISO 527-3」によって測定するものであるこ
との記載に変わりはなく,本件訂正事項に係る訂正は,上記のとおり,用語をより
平易で一般的なものに変更したものであって,明瞭でない記載の釈明を目的とする
ものにすぎないものということができ,原告の主張は,訂正の許否をいうものとし
ては失当であって,理由がない。
(6) 小括
したがって,本件訂正前の請求項2に規定する「裂破強度」を,本件訂正後の請
求項2の「引裂き強度」とする訂正について,明瞭でない記載の釈明を目的とする
ものであるとともに,本件明細書に記載した事項の範囲内でするものとした本件審
決に誤りはない。

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2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について

原告は,膨張による弾性復元力(膨張力)の減衰を考慮するとしても,気候の変
化による大気圧の変動にも満たない0.01bar程度の僅かな値の負圧によっ
て,大きなフィルタートウの弾性復元力をコントロールでき,かつ,ベールを平坦


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にするという課題を解決できることは,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載
されたものでなく,当業者の常識からは全く理解できないものであるなどと主張す
るので,以下,検討する。

(1) 本件訂正明細書の記載
ア 本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
(ア) 「本発明の課題は,ベールの移動を妨害するような膨張部分,ならびにト
ウベールの頂部と底部におけるフィルタートウの繰り出しを妨害するくびれ部分の
無い,理想的なブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールを提供すること
であり,この場合,梱包したフィルタートウにかかる負荷が低減されることで,特
に,内圧の影響下におけるパッケージの破裂開封をほぼ完全に回避することができ
る。本発明のさらなる課題は,これに関連した梱包プロセスを提供することであ
る。」(【0006】)
(イ) 「梱包工程中に梱包を気密シールすることより,移動を妨害する妨害部分
も,目的としたフィルタートウの使用を妨害するくびれ部分も無いブロック形態の
ベールを製造できるという驚くべき発見が得られた。したがって,実用的な考慮に
基づき,請求項1によるベールは,機械的に自己支持する弾性梱包材料で完全に包
装され,この材料は,1つまたはそれ以上の対流に対して気密性を有する結合部を
備えている。」(【0010】)
(ウ) 「気密梱包の課題は,製造工程中にベールの頂部と底部に生じる圧力勾配
を吸収および等化することである。」(【0011】)
(エ) 「本発明にかかるフィルタートウベールを梱包するプロセスは,(a) フ
ィルタートウを圧縮形態にするステップと;(b) 圧縮されたフィルタートウをパ
ッケージ包装材で包装するステップと;(c) パッケージ包装材を気密にシールす
るステップと;(d) 包装されたベールにかかる負荷を解放するステップとを備え
ている。気密シールされたベールに対する負荷が解放されると,パッケージ包装材
内に負圧が発生する。この負圧は少なくとも0.01barであることが好まし


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く,特に有利な方法では0.15~0.7barの範囲内である。」(【001
6】)
(オ) 「したがって,包装材で取り囲まれた領域内で発生した負圧は,パッケー
ジ包装材の気密シールによって維持することができる。この負圧により,可撓性材
料の弾性復元力によって内部から梱包へ加わる圧力が減衰される。この理由のため
に,最新技術によれば通常はフィルタートウベールに発生する膨張を防止すること
ができる。これにより,積層ベールの製造が遥かに容易になる。梱包内部から作用
する機械圧が(負圧によって)減衰されるために,梱包が失敗する危険性または梱
包が裂開する傾向が低減される。さらに,より高い梱包密度も得られ,これによ
り,より小型なパッケージの利点が得られ,保管容量および移動容量を縮小するこ
とが可能になる。」(【0017】)
イ 上記の記載によると,本件訂正発明1においては,包装材で取り囲まれた領
域内で発生した負圧が,パッケージ包装材の気密シールによって維持され,この負
圧によって,可撓性材料の弾性復元力により内部から梱包へ加わる圧力が減衰され
るとともに,製造工程中にベールの頂部と底部に生じる圧力勾配を吸収及び等化さ
れることにあり,これらによって,少なくともベールが梱包された後に外圧に対し
て負圧がベールに掛かるものであると理解することができる。また,「負圧は少な
くとも0.01barであることが好まし」いとも記載されており,その意味自体
も明瞭である。
(2) 本件訂正発明1の技術思想
以上によると,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の「外圧に対して少なくと
も0.01barの負圧がベールにかかっている」との規定は,ベールの形状を負
圧によって制御するとの技術思想を表現したものということができる。
しかるところ,気候による大気圧の変動が想定されること,高圧縮したベールの
復元膨張力はかなり大きなものであり,しかも,ベールの圧縮率は様々なものが想
定され,ベールの材料によっても変化するものであることから,ベールの形状を制


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御するために利用する負圧について一義的に数値を決められないという状況の下
で,本件訂正発明1は,実質的に負圧として取り扱える有意な値を選択して発明の
技術思想を表現するために,「少なくとも0.01bar」という値の範囲を規定
したものとみることができるものである。そして,本件訂正発明1においては,ベ
ールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールに
掛かっているものであるところ,梱包した材料に付加されている外圧が解放される
ことによって,発生していた少なくとも0.01barとの負圧の値が更に大きく
なるものであること,他方,本件訂正発明1においては,トウが膨脹し続ける時間
はせいぜい数時間であるところ(甲23),天候にも左右されるが,通常の気圧の
日変化は0.01barには至らないものであることに照らすと,ベールには,フ
ィルタートウ材料が膨脹し,ベールに膨脹部分やくびれ部分が出現しないようにし
なければならない間,外圧に対しての負圧が掛かり続けるものであるということが
できる。
また,本件訂正明細書には,0.01bar又はその近辺ではないが,「少なく
とも0.01bar」との負圧の数値の範囲内の複数の実施例が開示されている。

(3) 原告の主張に対する判断
ア 原告は,本件訂正発明1は,負担と平坦度に係る数値限定により公知技術と
の差違を導いたいわゆるパラメータ発明であるところ,本件訂正明細書の発明の詳
細な説明によっては,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものでは
ないなどと主張する。しかしながら,上記のとおり,本件訂正発明1は,ベールの
形状を負圧によって制御するとの技術思想を表すものであり,また,その表現とし
て「少なくとも0.01bar」との数値の範囲を併せて記載したものであって,
本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によって,当業者が当該発明の課題を解
決できると認識することができる範囲のものであるということができ,これに反す
る原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,被告が本件訂正発明1における「0.01bar」との数値


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について,その値自体に特段の意味がないと主張することは,本件審査段階におけ
る主張に照らして禁反言の原則から許されないと主張する。しかしながら,上記
(2)のとおり,本件訂正発明1は,実質的に負圧として取り扱える有意な値を選択
して発明の技術思想を表現するために,「少なくとも0.01bar」という値の
範囲を規定したものとみることができるものであり,本件訂正発明1における
「0.01bar」という数値そのものに意味がないものではなく,被告もその旨
を主張しているにすぎないものであって,原告の主張は理由がない。
(4) 小括
したがって,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件を満た
すとした本件審決の判断に誤りはない。

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3 取消事由3(実施可能要件に係る判断の誤り)について

(1) 原告の主張
原告は,当業者の常識からすると,高圧縮したフィルタートウベールの弾性復元
力(膨張力)は相応に大きなものであるにもかかわらず,これを0.01barの
負圧によって制御し,これをバランスさせることなどは,膨張による弾性復元力の
減衰を考慮するとしても不可能であって,本件訂正発明1は,0.01bar付近
の負圧で実施するために必要な条件が本件訂正明細書の発明の詳細な説明には記載
されていないなどと主張する。
(2) 本件訂正発明1の技術思想との関係
しかしながら,前記2(2)のとおり,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の
「外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている」との規
定は,ベールの形状を負圧によって制御するとの技術思想を表現したものというこ
とができる。そして,気候による大気圧の変動が想定されること,ベールの圧縮率
は様々なものが想定され,ベールの材料によっても変化するものであることから,
ベールの形状を制御するために利用する負圧について一義的に数値を決められない
という状況の下で,本件訂正発明1は,実質的に負圧として取り扱える有意な値を


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選択して発明の技術思想を表現するために,「少なくとも0.01bar」という
値の範囲を規定したものである。そして,本件訂正明細書には,0.01bar又
はその近辺ではないが,「少なくとも0.01bar」との負圧の数値の範囲内の
複数の実施例が開示されている。
(3) 実験結果
ドイツの第三者機関による実験結果(乙6)において,本件訂正発明1の条件の
下で,プレス時間を長くしてフィルタートウを圧縮したところ,圧縮を解放した直
後の負圧は,外圧に対して10mbar(0.01bar),30分経過後の負圧
は外圧に対して31mbar(0.031bar)であったことが認められる。
また,原告従業員が,本件訂正発明1と実質的に同じであるとして,引用発明2
の条件の下で,トウベールを圧縮し,気密性を確保した上で圧縮を解放した10分
後の負圧は,外圧に対して0.091barであり(甲23),また,引用発明2
の条件の下で,晒しメリヤスウエスを圧縮し,気密性を確保した上で圧縮を解放し
た5分後の負圧は,外圧に対して0.082barであった(甲24)。
(4) 本件訂正発明1と上記実験結果との関係
上記(3)の実験結果は,それぞれの実施条件の相違等もあって,その結果である
負圧の数値を直接比較できるものではないが,上記(2)のとおり,ベールの形状を
制御するために利用する負圧について一義的に数値を決められないという状況の下
で,実質的に負圧として取り扱える有意な値を選択して発明の技術思想を表現する
ために,「少なくとも0.01bar」という値の範囲を規定したものであるとの
本件訂正発明1との関係でみると,上記実験結果の0.01bar,0.082b
ar及び0.091barという数値は,いずれも,「少なくとも0.01ba
r」という負圧の下限値に近いものということができる。
(5) 小括
以上によると,当業者において,本件訂正発明1の「少なくとも0.01ba
r」との条件と同視し得る程度の負圧を実現することが可能ということができ,本


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件訂正発明1の「0.01barの負圧」近辺の極めて低い負圧によっても,当業
者が上記のような大きな膨張力を制御できるとして,本件発明1の効果を奏するも
のであるとした本件審決の判断に誤りはない。

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4 取消事由4(引用例1を主引例とする関係で進歩性を有するとした判断の誤

り)について
原告は,相違点B及びEについて,引用例1には,本件訂正発明1の解決手段に
相当する構成の開示があり,その平坦度の作用効果も必然的に得られるので,これ
らの相違点について,容易に想到することができないとした本件審決には誤りがあ
ると主張するので,まず,引用例1について検討した上で,これらの相違点につい
て検討することとする。
(1) 引用発明1について
ア 引用例1(甲1)には,次の記載がある。
(ア) 本発明は,繊維状の材料からなるプレスベールを包装する方法及び装置等
に関する。
(イ) 繊維状の材料,特に切断された,又はストランド状の繊維からなる高圧縮
されたプレスベールは,ベールプレスにおいて単数又は複数の形弾性的な包装材切
片で包装され,次いで,金属又はプラスチックバンドからなるたがで装備され,こ
のたがが,包装材とプレスベールとを保持することになる。
ところが,たがは,プレスベールの後続加工を困難にするとの欠点を有してい
る。また,たがを切断する際,プレスベールが損傷を受けるおそれがあり,さら
に,作業員が,たがバンドを開く場合に負傷する危険がある。
(ウ) そこで,本発明は,プレスベールをたがで結合することを不要とし,その
代わりに,包装材切片が互いにオーバーラップしてベールの上に当てられ,接着及
び(又は)溶着で互いに結合される。種々異なる包装材切片を相互に接着及び(又
は)溶着で結合することで包装が固定される。
(エ) 包装材切片は,プラスチック,特にポリエチレンから製造することが好ま


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しい。
(オ) 包装装置は,包装材切片を供給し,当て付け,かつ,折り畳むための装置
構成部分に関しては公知の形式のものであることができる。接着及び(又は)溶着
結合を行うためには,包装装置は接近可能なヒートシール装置を有している。この
ヒートシール装置は,種々異なって構成でき,加熱装置及び(又は)圧着装置を有
している。点状又はストライプ状の結合を行うためには,ヒートシール装置に適当
に成形された複数の点状又はストライプ状の単個ポンチを設け,これらの単個ポン
チによって,包装材切片を結合箇所において点状又はストライプ状に互いに圧着
し,場合によっては,この限られた接触面において加熱させることができる。
(カ) 本発明では,包装材切片は,溶着及び(又は)接着で互いに結合される。
これによって,プレスベールのために全面的に閉じた包体又は包装が形成される。
この包体又は包装は,プレスベールに掛けられていたプレス圧を除いた後でも,膨
らむベールの力に耐える。本発明は,包装をバンド,たが又はそれに類似した物で
付加的に補強することを不要にするが,別の実施例においては,このような補強は
同様にまだ存在していることもできる。
(キ) 第5図においては,包装材切片が多層に,有利には2層に構成されている
ことが示されている。包装材切片は,堅固な保持構造,有利には膨張したプレスベ
ールにより発生した力を受け止め,包装を安定化する織布の形をした保持構造を有
している。保持構造は補強バンドを有しているか,又は他の適当な形式で構成され
ていることもできる。
(ク) 有利な実施例においては,包装材切片はプラスチックからなっている。こ
の包装材切片は,大きな引っ張り強度を有しているが,折り畳み,かつ,曲げるこ
とを許す。この包装材切片は,プレスベールの周囲に所望の形式で当て付ける限り
においては十分な形弾性を有するが,プレスポンチによる負荷をプレスベールから
除いた後で,プレスベールの形を維持するためには,十分な内部引っ張り強度及び
伸張強度を有している。必要な強度はベール材料に合わせられ,かつ,変化させる


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ことができる。
イ 以上の記載によると,引用発明1は,プラスチック,特にポリエチレンから
製造された包装材切片を,互いにオーバーラップさせて溶着及び(又は)接着して
結合することとし,これによって,プレスベールのために全面的に閉じた包体又は
包装を形成し,この包体又は包装は,プレスベールに掛けられていたプレス圧を除
いた後でも十分な内部引っ張り強度及び伸張強度を有し,膨らむベールの力に耐え
るものであること,しかしながら,包装をバンド,たが又はそれに類似した物で付
加的に補強することを不要にするものであるものの,別の実施例においては,この
ような補強は同様にまだ存在していることもできるというものである。
したがって,引用発明1においては,包装材切片を結合して形成されたベールの
包装は,プレスベールに掛けられていたプレス圧を除いた後でも,膨らむベールの
力に耐えるものであるが,その膨らむベールの力に耐える手段としては,包装がプ
レスベールの形を維持するために十分な引っ張り強度及び伸張強度を有するように
するというものであって,それゆえ,これらの強度が不足する場合には,別の実施
例においては,包装を,バンド,たが又はそれに類似した物で付加的に補強するこ
ともできるとするものである。しかしながら,引用例1においては,包装の引っ張
り強度や伸張強度によらず,負圧を制御する手段について何ら記載又は示唆すると
ころはない。
ウ なお,原告は,引用例1における「ベールプレスの構成,プレスベールの材
料の選択及び包装及び折り畳み技術についての記述したヴアリエーションに加え
て,ヒートシール装置13にも変更を加えることができる。押圧ビームは全面的に
オーバーラップ若しくは結合箇所10に作用し,ストライプ状又は点状の単個ポン
チを有していないこともできる。」との記載や図2等から,引用例1においては,
全面をシールしてパッケージ包装内を一定の負圧にするという技術が開示されてい
ると主張する。しかしながら,これは,結合箇所が全面的に結合されることを示す
ものということができるが,その結合箇所においてどの程度の密封性が確保される


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のか否か,接合箇所以外の部分における包装材料が気密性を有するものであるか否
かについては,何ら記載も示唆もするものではなく,引用例1において,気密性を
確保して負圧を制御する手段も記載又は示唆されているということはできず,原告
の主張は理由がない。
(2) 相違点Bについて
ア 上記(1)のとおり,引用例1には,膨らむベールの力に耐える手段として,
包装がプレスベールの形を維持するために十分な引っ張り強度及び伸張強度を有す
る包装としたことの記載があるが,気密性を確保して負圧を制御する手段の記載も
示唆もないものである。
イ したがって,引用例1には,前記2(1)及び(2)のとおりの本件訂正発明1の
ように,ベールの移動を妨害するような膨張部分及びトウベールの頂部と底部にお
けるフィルタートウの繰り出しを妨害するくびれ部分のない,理想的なブロック形
態に高圧縮したフィルタートウのベールを提供することまでは想定されておらず,
かつ,具体的に平坦さに着目しているとする記載も示唆もないから,引用発明1か
ら,相違点Bに係る本件訂正発明1の構成について容易に想到し得るものではな
い。
ウ なお,原告は,引用例1には,本件訂正発明1の機能・特性等による解決手
段に相当する構成が全て開示されているから,本件訂正発明1の平坦度の作用効果
も必然的に得られると主張する。しかしながら,上記(1)のとおり,引用発明1
は,膨らむベールの力に耐える手段として,包装がプレスベールの形を維持するた
めに十分な引っ張り強度及び伸張強度を有する包装を採用することにとどまるので
あるから,原告の主張は採用することはできない。
(3) 相違点Eについて
ア 上記(1)のとおり,引用発明1は,膨らむベールの力に耐える手段として,
包装がプレスベールの形を維持するために十分な引っ張り強度及び伸張強度を有す
る包装としたものであって,引用例1には,気密性を確保して負圧を制御する手段


  • 31 -



の記載も示唆もないものである。
イ したがって,引用例1には,本件訂正発明1のように負圧を制御する技術思
想を認めることができないから,引用発明1から,相違点Eに係る本件訂正発明1
の構成について容易に想到し得るものではない。
(4) 小括
したがって,引用発明1に基づいて,相違点B及びEに係る本件訂正発明1の構
成について容易に想到し得るものではないとした本件審決の判断に誤りはない。

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5 取消事由5(引用例2を主引例とする関係で進歩性を有するとした判断の誤り)について

原告は,相違点B’及びE’について,引用例2及び3から容易に想到すること
ができないとした本件審決には誤りがあると主張するので,引用例2及び3につい
て検討した上で,これらの相違点について検討することとする。
(1) 引用発明2について
ア 引用例2(甲2,17)によると,引用発明2は,前記第2の3(3)アのと
おりのものと認めることができる。
他方,引用例2には,圧縮下で可撓性のプラスチックで密閉され,梱包圧の解放
時に,ベールの容積が増すことに対応した分の圧力が低下すること,すなわち負圧
になることについて記載又は示唆するところはなく,また,ベールの移動を妨害す
るような膨脹部分及び頂部と底部における繰り出しを妨害するくびれ部分のないベ
ールを提供することについての記載又は示唆もない。
イ もっとも,本件審決は,引用発明2は,梱包圧の解放時に,第2の袋部が外
側に押されて膨張し,ベールの容積が増すことに対応した分の圧力が低下するもの
であると説示する。また,引用例2には,発明のプロセスによって成形されるプラ
スチックで覆われたベースは,外皮が可撓性であり(【0008】),繊維材料が
圧縮されており(【0025】),梱包されている材料の性質に応じて,また,用
いる包装材料の強さに応じて,包装されたベールは必ずしも結束される必要はな


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く,ある場合では,2つの袋部が単にそれらの縁で一緒に溶接されるだけのままで
十分であり,その場合には,溶接は全ての部分で連続的に行われるとされ(【00
09】【0027】),包装物は,雨又は湿気の影響を受けず,外皮は梱包材料の
膨張圧を十分に吸収するように対応するものであって(【0008】),本発明に
よるプロセスの好適な実施例は,最高品質の袋状べール(すなわち,ベール材料が
完全に包囲されている)を成形するためのものである(【0029】)と記載され
ている。
しかしながら,引用例2には,上記のとおり,「雨又は湿気に影響を受けず」に
梱包するとの記載はあるものの,これは,引用例2における従来技術の記載である
「包装物は衝撃に影響を受けやすい。車載中等の通常の取扱いの際によく起こるよ
うに,包装物が落下して隅が当たる場合,段ボールの壁は隅が破損し,内容物が膨
れ上がってはみ出す。最終的に,段ボールは雨によって分解するため,段ボール容
器に包装されたベールはカバーをして貯蔵及び搬送される必要がある」(【000
6】)との対比で記載されていると理解されるべきものであって,このような従来
技術との対比で,「包装物は,雨又は湿気に影響を受けず,外皮は梱包材料の膨張
圧を十分に吸収するように対応する」(【0008】)とされたにすぎないものと
いうことができ,同記載については,雨水や空気中の水分がベール内外の出入りを
妨げられることは読み取ることができるものの,それ以上に,気体までもが通り抜
け難いものとするとのガスの透過性に関することまで示されているものということ
はできない。
そして,このことは,本件訂正発明1においては,弾性梱包材料は「対流に対し
て気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備えており」,かつ,この材料
は「空気に関するガス透過率が10,000㎤/(㎡・d・bar)未満であるフ
ィルム」であるとされ,弾性梱包材料のガスの透過性についてまで規定されている
ことと対比すると,より明確ということができる。
(2) 引用発明3について


  • 33 -

    ア 引用例3(甲3,19)には,次の記載がある。
    (ア) 本発明は,保管又は運送の後に,例えば紡績糸に更に加工するための,ト



ウを連続的に,かつ,均一に引き出せる方法による箱又は他の適切なコンテナ内へ
のフィラメント状トウの梱包に関する。
(イ) 本発明の実施形態を説明すると,図1は,ウイングナットとボルトによっ
て所定の位置へクランプされた延長部を有する空コンテナと,所定の位置へ折り畳
まれた空気不透過性のライナを示す。図2は,フィラメント状のトウの横向き並置
機構を示す。これは,コンテナの実質的な全平面において各層にトウを均一に並置
するため,コンテナのよりゆっくりした前後の動作機構と同期が取られる。ライナ
がトウで満たされると,供給が中断され,トウは切断され,真空プローブがライナ
へ挿入され,内容物の配置を妨害せずに,トウの頂部に置かれる。図5に示される
ように,ナットとボルトのクランプが外されると,延長部がコンテナ上に伸長され
る。次に,ライナは,プローブの周囲で気密にされ,ライナからの空気の排出が,
トウの上層面上にプローブを静止させながら,それを埋めることがないようにし
て,開始される。図4に示されるように,ライナは,プローブの周囲で単に集めら
れ,プローブの筒の周囲で締められる。内容物を有するライナが収縮し,ライナ袋
がしわになって縮むと,延長部が漸進的に下降する。380mmHgの圧力に排気が完
了すると,延長部は引き取られてもよい。図6に示されるように,ヒンジ状の側部
ドアが開かれ,図7に示されるように,フィラメント状のトウの内容物を有するラ
イナはローラテーブルコンテナの傾斜へ転がり落ちた後,開放したボール紙の包装
ケースへ挿入される。図8に示されるように,装置の一形式において,包装ケース
は上方に傾斜できるピボット状のプラットホームに対して安定している。前後のフ
ラップ(図示せず)と同じように,蓋側のフラップが閉じられ,包装ケースがひも
でくくられ,プローブが引き取られ,カートンがシールされ,搬送準備が行われ
る。
イ 以上の記載によると,引用例3には,真空プローブによって380mmHgの圧


  • 34 -



力によって排気され,これによって,材料を圧縮することが記載されているが,他
方,本件訂正発明1のように,ベールの頂側部と底側部とに妨害となるような膨脹
部分又はくびれ部分のないようにするために,負圧を制御して平坦にしようとする
ことは記載も示唆もされておらず,むしろ,排気によって材料を圧縮するものであ
るから,本件訂正発明1のように負圧を制御しようとの技術思想は存在しないもの
ということができる。
(3) 相違点B’について
上記(1)のとおり,引用例2には,ベールの移動を妨害するような膨脹部分及び
頂部と底部における繰り出しを妨害するくびれ部分のないベールを提供することに
ついての記載又は示唆はなく,また,上記(2)のとおり,引用例3には,ベールの
頂側部と底側部とに妨害となるような膨脹部分又はくびれ部分のないようにするた
めに,負圧を制御して平坦にしようとすることの記載又は示唆がないものであるか
ら,引用発明2及び3から,相違点B’に係る本件訂正発明1の構成について容易
に想到し得るものではない。
(4) 相違点E’について
上記(1)のとおり,引用例2には,気密性を利用して負圧になることについての
記載又は示唆はなく,また,上記(2)のとおり,引用例3には,負圧を制御しよう
とすることの記載又は示唆もないものであるから,引用発明2及び3から,相違点
E’に係る本件訂正発明1の構成について容易に想到し得るものではない。
(5) 小括
したがって,引用発明2及び3に基づいて,相違点B’及びE’に係る本件訂正発
明1の構成について容易に想到し得るものではないとした本件審決の判断に誤りは
ない。
6 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告が具体
的な取消事由を主張しない本件訂正発明のうち他の請求項に係る発明を含めて,本


  • 35 -



件審決の取消しを求める原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣


裁判官 本 多 知 成


裁判官 荒 井 章 光


  • 36 -





(別紙) 本件訂正前発明

【請求項1】ベールの頂側部と底側部に妨害となるような膨張部分またはくびれ部
分が無い,梱包され,ブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールであっ
て,
(a) 前記ベールが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度を有し;
(b) 前記ベールが,機械的に自己支持する弾性梱包材料内に完全に包装され,
かつこの材料は,対流に対して気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備
えており;
(c) 非開封状態のベールを水平面上に配置した状態で,平坦な板をベールの頂
部に圧接させ,ベールの中心に対して垂直方向に100Nの力を作用させたとき,
圧接板に対するベールの垂直投影に内接する最大の矩形の範囲内で,ベールの頂面
における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40mm
以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり;
(d) 前記ベールが,少なくとも約900mmの高さを有しており;
(e) 少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01b
arの負圧がベールにかかっている,
ことを特徴とするフィルタートウのベール
【請求項2】前記ベールが,少なくとも約10N/15mmの裂破強度(DIN E
N ISO 527-3に従って測定)を有する,ことを特徴とする請求項1記載
のベール
【請求項3】0.9㎥よりも高い梱包容量,および/または350kg/㎥,特に8
00kg/㎥未満の梱包密度を有することを特徴とする請求項1または2記載のベー

【請求項4】少なくとも970mm,特に970~1200mmの高さを有することを
特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のベール
【請求項5】前記パッケージ包装材がフィルム,特にプラスチック・フィルムであ


  • 37 -



ることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のベール
【請求項6】対流に対して気密性を有する接続部が,対流空気が透過不可能なシー
ムであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に請求項のいずれか1項に
記載のベール
【請求項7】空気が透過不可能なシームが,重ね合わせヒートシールシーム,また
はヒレ状シームであることを特徴とする請求項6に記載のベール
【請求項8】前記内接矩形内に位置する前記ベールの頂部側表面の90%が,25
mm以下,好ましくは,10mm以下の距離で前記平坦板から離間することを特徴とす
る,請求項1~7のいずれか1項に記載のベール
【請求項9】ポリエチレン,特にLDPE,または改良ポリエチレン(LLDP
E)から成ることを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記載のベール
【請求項10】前記パッケージ包装材が,ポリアミド層とポリエチレン層を積層し
た積層フィルムであることを特徴とする請求項5~8の少なくとも1項に記載のベ
ール
【請求項11】前記パッケージ包装材が,約100~400μmの厚さを有するこ
とを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のベール
【請求項12】前記ベールが厚紙または合成布地から成る追加の移動梱包を備え,
および/または,さらにストラップで包装されている,ことを特徴とする請求項1
~11のいずれか1項に記載のベール
【請求項13】梱包後に存在する,外圧に対して少なくとも約0.01barの負
圧が,解放されていることを特徴とする請求項1~12の少なくとも1項に記載の
ベール
【請求項14】(a) 前記フィルタートウを圧縮形態で準備するステップと;
(b) 前記圧縮されたフィルタートウをパッケージ包装材で包装するステップ
と;
(c) 前記パッケージ包装材を気密状態にシールするステップと;


  • 38 -

    (d) 前記包装されたベールにかかる負荷を解放するステップと;
    (e) 外圧に対して少なくとも0.01barの負圧を,前記負荷が解放された



パッケージ包装材内に発生させるステップとを備えた,
特に請求項1~13のいずれか1項に記載のフィルタートウのベールを梱包する
プロセス
【請求項15】前記負圧が前記圧縮されたフィルタートウの自然の膨張によって発
生されることを特徴とする請求項14に記載のプロセス
【請求項16】前記負圧が空気の排出によって発生されることを特徴とする請求項
14または15記載のプロセス
【請求項17】前記空気が,真空ポンプの補助によって排出されることを特徴とす
る請求項16記載のプロセス
【請求項18】周囲圧力よりも約0.15~0.7bar低い負圧が生成されるこ
とを特徴とする請求項14~17のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項19】周囲圧力よりも約0.2~0.40bar低い負圧が生成されるこ
とを特徴とする請求項18に記載のプロセス
【請求項20】前記パッケージ包装材が,溶着またはヒートシールによって,特に
重ね合わせシームまたはヒレ状シームを形成するような方法でシールされることを
特徴とする請求項14~19のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項21】温度23℃,相対湿度85%で,DIN53,122に従って測定
される水蒸気透過率が,5g/(㎡・d)以下,好ましくは2g/(㎡・d)以下
であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14~
20のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項22】温度23℃,相対湿度75%で,DIN53,380-Vに従って
測定される空気に関するガス透過率が,10,000㎤/(㎡・d・bar)以下
であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14~
21のいずれか1項に記載のプロセス


  • 39 -



【請求項23】200c㎥/(㎡・d・bar),好ましくは20㎤/(㎡・d・
bar)以下のガス透過率を有するフィルムをパッケージ包装材として使用するこ
とを特徴とする請求項22に記載のプロセス
【請求項24】少なくとも10N/15mm,特に少なくとも100N/15mmの裂
破強度(DIN EN ISO 527-3に従って測定される)を有するフィル
ムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14~23のいずれ
か1項に記載のプロセス
【請求項25】前記裂破強度が,少なくとも200N/15mm(DIN EN I
SO 527-3に従って測定される)であることを特徴とする請求項24に記載
のプロセス
【請求項26】前記プロセスが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度が得られるよ
うに制御されることを特徴とする請求項14~25のいずれか1項に記載のプロセ


  • 40 -



(別紙) 本件訂正後発明
下線部分が訂正箇所である。
【請求項1】ベールの頂側部と底側部に妨害となるような膨張部分またはくびれ部
分が無い,梱包され,ブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールであっ
て,
(a) 前記ベールが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度を有し;
(b) 前記ベールが,機械的に自己支持する弾性梱包材料内に完全に包装され,
かつこの材料は,対流に対して気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備
えており,かつこの材料は,温度23℃,相対湿度75%で,DIN53,380
-Vに従って測定される空気に関するガス透過率が10,000㎤/(㎡・d・b
ar)未満であるフィルムであって;
(c) 非開封状態のベールを水平面上に配置した状態で,平坦な板をベールの頂
部に圧接させ,ベールの中心に対して垂直方向に100Nの力を作用させたとき,
圧接板に対するベールの垂直投影に内接する最大の矩形の範囲内で,ベールの頂面
における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から40mm以
下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり;
(d) 前記ベールが,少なくとも900mmの高さを有しており;
(e) 少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01b
arの負圧がベールにかかっている,
ことを特徴とするフィルタートウのベール
【請求項2】前記ベールが,少なくとも10N/15mmの引裂き強度(DIN E
N ISO 527-3に従って測定)のフィルムを有する,ことを特徴とする請
求項1記載のベール
【請求項3】0.9㎥よりも高い梱包容量,および/または350kg/㎥よりも高
く,特に800kg/㎥未満の梱包密度を有することを特徴とする請求項1または2
記載のベール


  • 41 -



【請求項4】少なくとも970mm,特に970~1200mmの高さを有することを
特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のベール
【請求項5】前記梱包材料がプラスチック・フィルムであることを特徴とする請求
項1~4のいずれか1項に記載のベール
【請求項6】対流に対して気密性を有する接続部が,対流空気が透過不可能なシー
ムであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に請求項のいずれか1項に
記載のベール
【請求項7】空気が透過不可能なシームが,重ね合わせヒートシールシーム,また
はヒレ状シームであることを特徴とする請求項6に記載のベール
【請求項8】前記内接矩形内に位置する前記ベールの頂部側表面の90%が,25
mm以下,好ましくは,10mm以下の距離で前記平坦板から離間することを特徴とす
る,請求項1~7のいずれか1項に記載のベール
【請求項9】ポリエチレン,特にLDPE,または改良ポリエチレン(LLDP
E)から成る梱包材料を有することを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記
載のベール
【請求項10】前記梱包材料が,ポリアミド層とポリエチレン層を積層した積層フ
ィルムであることを特徴とする請求項5~8の少なくとも1項に記載のベール
【請求項11】前記梱包材料が,100~400μmの厚さを有することを特徴と
する請求項1~10のいずれか1項に記載のベール
【請求項12】前記ベールが厚紙または合成布地から成る追加の移動用梱包を備
え,さらにストラップで包装されている,ことを特徴とする請求項1~11のいず
れか1項に記載のベール
(本件訂正前の【請求項13】を削除)
【請求項13】(a) 前記フィルタートウを圧縮形態で準備するステップと;
(b) 前記圧縮されたフィルタートウをパッケージ包装材で包装するステップ
と;


  • 42 -

    (c) 前記パッケージ包装材を気密状態にシールするステップと;
    (d) 前記包装されたベールにかかる負荷を解放するステップと;
    (e) 外圧に対して少なくとも0.01barの負圧を,前記負荷が解放された



パッケージ包装材内に発生させるステップとを備えた,
特に請求項1~12のいずれか1項に記載のフィルタートウのベールを梱包する
プロセス
【請求項14】前記負圧が前記圧縮されたフィルタートウの自然の膨張によって発
生されることを特徴とする請求項13に記載のプロセス
【請求項15】前記負圧が空気の排出によって発生されることを特徴とする請求項
13または14記載のプロセス
【請求項16】前記空気が,真空ポンプの補助によって排出されることを特徴とす
る請求項15記載のプロセス
【請求項17】周囲圧力よりも0.15~0.7bar低い負圧が生成されること
を特徴とする請求項13~16のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項18】周囲圧力よりも0.2~0.40bar低い負圧が生成されること
を特徴とする請求項17に記載のプロセス
【請求項19】前記パッケージ包装材が,溶着またはヒートシールによって,特に
重ね合わせシームまたはヒレ状シームを形成するような方法でシールされることを
特徴とする請求項13~18のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項20】温度23℃,相対湿度85%で,DIN53,122に従って測定
される水蒸気透過率が,5g/(㎡・d)未満,好ましくは2g/(㎡・d)未満
であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項13~
19のいずれか1項に記載のプロセス
(本件訂正前の【請求項22】を削除)
【請求項21】200㎤/(㎡・d・bar)未満,好ましくは20㎤/(㎡・
d・bar)未満のガス透過率を有するフィルムをパッケージ包装材として使用す


  • 43 -



ることを特徴とする請求項13~20のいずれか1項に記載のプロセス
【請求項22】少なくとも10N/15mm,特に少なくとも100N/15mmの引
裂き強度(DIN EN ISO 527-3に従って測定される)を有するフィ
ルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項13~21のいず
れか1項に記載のプロセス
【請求項23】前記引裂き強度が,少なくとも200N/15mm(DIN EN
ISO 527-3に従って測定される)であることを特徴とする請求項22に記
載のプロセス
【請求項24】前記プロセスが,少なくとも300kg/㎥の梱包密度が得られるよ
うに制御されることを特徴とする請求項13~23のいずれか1項に記載のプロセ


  • 44 -





H230328現在のコメント


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10214号審決取消請求事件))

【訂正の可否】【サポート要件】【実施可能要件】【進歩性】「事実認定」の判決です。

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Last Update: 2011-03-28 21:50:52 JST

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不正競争防止法:【不正競争防止法2条1項1号の該当性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(ネ)第10077号不正競争行為差止等請求控訴事件))






不正競争防止法:【不正競争防止法2条1項1号の該当性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(ネ)第10077号不正競争行為差止等請求控訴事件))






知的財産高等裁判所第2部「塩月秀平コート」


平成22(ネ)10077 不正競争行為差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟
平成23年03月24日 知的財産高等裁判所


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(ネ)第10077号不正競争行為差止等請求控訴事件))


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【不正競争防止法2条1項1号の該当性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(ネ)第10077号不正競争行為差止等請求控訴事件))

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判示・縮小版なし




第2 事案の概要

1 被控訴人は,控訴人商品の形態は被控訴人商品との混同を生じさせるものであり,また,控訴人商品は被控訴人商品の形態を模倣した商品であるから,控訴人による控訴人商品の販売は,不競法2条1項1号又は3号の不正競争行為に当たると主張して,控訴人に対し,不競法3条1項に基づき,控訴人商品の譲渡等の差止めを求めるとともに,同法4条に基づき,損害賠償として3996万円及び遅延損害金の支払を求めた。
原審は,控訴人商品を販売する控訴人の行為は不競法2条1項1号の不正競争行為に当たるとして,控訴人商品の譲渡等の差止請求を認めるとともに,被控訴人は控訴人の上記不正競争行為により183万円6180円の損害を被ったとして,183万円6180円及びこれに対する遅延損害金の支払の限度で,被控訴人の損害賠償請求を認めた。



第4 当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人商品を販売する控訴人の行為は,不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するものと認め,被控訴人は控訴人の上記不正競争行為によって被控訴人商品に係る営業上の利益を侵害されているものであるから,不競法3条1項に基づき,控訴人に対し,控訴人商品の譲渡,引渡し,又は譲渡若しくは引渡しのための展示の差止めを請求することができるとともに,不競法4条に基づき,控訴人が控訴人商品の販売によって受けた損害の額(控訴人が控訴人商品の販売によって受けた利益の額である183万6180円)及びこれに対する遅延損害金につき損害賠償請求ができると判断する。この点に関する当事者双方の主張に対する当裁判所の判断は,控訴人の当審補充主張についての判断を次のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」記載のとおりである。

1 商品等表示について(争点1-1)
(1) 控訴人は,被控訴人商品の形態の独自性につき,販売開始時期は不明で
あっても,現段階においては被控訴人商品と同種商品が多数流通しているし,被控
訴人商品の商品形態は長さ数センチ程度の小さな円筒形状の金属製パイプであり,
商品それ自体の形態では何らの独自性を有するものではないと主張する。

しかし,被控訴人商品の形態が,被控訴人が被控訴人商品の販売を開始した平成
18年9月26日当時,他の商品(角質除去具)には見られない独自の特徴を有す
る形態であったものであることは,原判決23頁以下のイの項で認定されていると
おりである上,平成19年11月の時点においても,控訴人が指摘する同種商品
(乙23~25)の商品の販売が開始されていたことを認めるに足りる証拠はない
のであるから,現段階で控訴人が指摘する同種商品が流通しているとしても,それ
をもって被控訴人商品の形態の独自性を否定する事情にはならないというべきであ
る。
(2) 控訴人は,被控訴人商品の形態の周知性につき,被控訴人商品の販売開始
時期から被告製品の販売開始時期まではわずか1年2か月であり,このような短期
間で周知性を取得したとするためには,表示の識別力が特に顕著であるとか,広告
宣伝に莫大な費用を投じた等の特殊な事情が認められる例外的な場合に限られると
解すべきであるところ,被控訴人商品につき広くテレビコマーシャルが流されたこ
ともなく新聞広告も行われておらず,雑誌等での紹介も他の美容品と合わせてもの
にすぎないのであり,被控訴人商品は出所識別機能を有するほどの周知性を獲得し
たとはいえないなどと主張する。

しかし,被控訴人商品につきテレビコマーシャルが流されたり,新聞広告が行わ
れたことがなかったからといって,1年2か月間で周知性が獲得できないというも
のではなく,被控訴人商品が,多くの全国的な雑誌,新聞,テレビ番組等で繰り返


  • 6 -


し取り上げられて効果的な宣伝広告がなされるなどした結果,周知性を獲得したと
認められることは,原判決34頁以下のエ(ア)の項で小括して認定したとおりである。
控訴人の上記主張は採用することができない。

(3) 控訴人は,被控訴人商品の形態の持つ意味につき,被控訴人商品の形態は
角質除去用具としての機能と密接に関連しており,需要者はその機能性に着目して
被控訴人商品を購入しているのであって,不競法2条1項1号が保護する周知商品
等表示の営業上の信用に由来するものではないなどと主張するが,需要者の中に被
控訴人商品の機能性に着目して購入している者があったとしても,そのことが被控
訴人商品の形態が周知の商品等表示(不競法2条1項1号)に該当するか否かの認
定を左右するものではない。

2 類似性(争点1-2)及び混同のおそれの有無(争点1-3)について
控訴人は,被控訴人商品と控訴人商品のパッケージ形状・色彩の違いといった販
売形態の差異からすれば,被控訴人商品と控訴人商品との混同が生じるおそれは全
くないと主張する。

しかし,被控訴人商品と控訴人商品の形態が類似することは,原判決36頁以下
の(2)の項で認定したとおりであるところ,需要者である一般消費者において,商
品選別の主たる要素は商品本体であるから,被控訴人商品本体の形態と類似した控
訴人商品本体を見て被控訴人商品と混同するおそれはあると容易に認めることがで
きるというべきである。

第5 結論
以上より,被控訴人の控訴人に対する請求を認容した原判決部分は相当であって,
本件控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官塩月秀平

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H230328現在のコメント


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(ネ)第10077号不正競争行為差止等請求控訴事件))

不正競争防止法2条1項1号の「事実認定」判決です。

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Last Update: 2011-03-28 21:31:34 JST

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特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10268号審決取消請求事件))






特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10268号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10268 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月24日 知的財産高等裁判所


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10268号審決取消請求事件))


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【容易想到性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10268号審決取消請求事件))

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判示・縮小版なし【容易想到性】「事実認定」





第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。



第4 当裁判所の判断

1 本願発明について
(1) 本願発明の構成
本願発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりであり,本願明細書
(甲5)の発明の詳細な説明の記載によれば,従来,水酸化金属セルやリチウムイ
オン・セル等を用いたセル(電池)である「エネルギー貯蔵装置」における過少充
電や過大充電による破損や破裂を防止するための,残実行時間や充電時間の決定の
ためのチャージ・レベルのゲージング,充放電処理の管理及びホスト・デバイス等


  • 14 -


との通信等を行う電気的アプライアンスに関して,セルを直列に接続した場合の個
々のセル電圧がセル間において平衡のままでない場合があることから,セルを監視
して電流を停止したり,最初にフル・チャージに達したセルからフル・チャージ以
下の電圧にあるセルにエネルギーを転送するための平衡回路を設ける例が存在した
(【0002】~【0005】)。本願発明は,このような従来技術を改良するた
めに,「セル間でエネルギーを転送するための電流ポンプ回路」が「直列電気イン
ターフェイス」によって直列に接続された「エネルギー貯蔵装置コントローラ」に
より制御され,この「エネルギー貯蔵装置コントローラ」がさらに「直列電気イン
ターフェイス」により接続された「中央コントローラ」により制御されるようにす
るとともに,この「中央コントローラ」を「測定機能」と「測定機能から分離され
たチャージ移動機能」とを有することによって「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事
前に予測可能な」ものとして構成したものであることが認められる(【0022】
【0035】~【0044】【0052】~【0058】)。
(2) 「測定機能」と「前記測定機能から分離されたチャージ移動機能」の技術
的意義について
ア 本願発明の特許請求の範囲の記載においては,「測定機能」と「前記測定機
能から分離されたチャージ移動機能」は,「中央コントローラ」が有するものであ
り,これにより「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測可能な」ものであるこ
とが示されているものの,これらの機能の具体的な技術内容は記載されていない。
イ 本願明細書の発明の詳細な説明の記載には,エネルギー貯蔵装置コントロー
ラによって2つのエネルギー貯蔵装置間の平衡回路においてエネルギー貯蔵装置電
圧を等しくするために用いられるアルゴリズムである負荷適応ポンピング平衡アル
ゴリズムにおいて「測定フェーズ」と「平衡フェーズ」が反復され,測定フェーズ
の間は平衡電流が許されず,平衡フェーズの間は測定が許されないこと,この測定
フェーズの間,エネルギー貯蔵装置コントローラは,先の平衡期間中のチャージ移
動の方向を示す転送の方向ビットを貯蔵しつつ,二つのエネルギー貯蔵装置のそれ


  • 15 -


ぞれの瞬時エネルギー貯蔵装置電圧(Vn,meas)を測定すること,他方,平衡フェ
ーズの間,測定期間の結果,すなわち,貯蔵された転送の方向ビットに応じてエネ
ルギー貯蔵装置1からエネルギー貯蔵装置2に,あるいはエネルギー貯蔵装置2か
らエネルギー貯蔵装置1に電荷を転送することが記載されている(【0035】~
【0044】)。また,平衡アルゴリズムがエネルギー貯蔵装置コントローラ間に
分配された例のみならず,平衡アルゴリズムを集中化するに当たって,例えば,エ
ネルギー貯蔵装置の電圧をエネルギー貯蔵装置コントローラと連通する中央コント
ローラのようなマスター・コントローラにおいて利用可能にすることができること
が記載されている(【0052】~【0054】)。
ウ そうすると,特許請求の範囲の記載における「測定機能」及び「チャージ移
動機能」を「中央コントローラ」が有することは,エネルギー貯蔵装置コントロー
ラのみならずエネルギー貯蔵装置の電圧を利用可能な中央コントローラが制御を行
う集中化された負荷適応ポンピング平衡アルゴリズムを実施するに当たって,この
「中央コントローラ」が「測定フェーズ」における電圧の測定及び「平衡フェー
ズ」における電荷の転送に係る機能を担うことを意味しているものであり,また,
「チャージ移動機能」が「測定機能から分離された」ものであることは,測定フェ
ーズの期間中は平衡電流すなわち電荷の転送を行わず,逆に平衡フェーズの期間中
は測定を行わないという関係にあることを表現したものと解される。
なお,原告は,本願明細書に「測定機能」についての記載がある旨を主張する。
しかしながら,本願明細書(【0033】)は,本願発明の「エネルギー貯蔵装置
コントローラ」に対応する「貯蔵装置コントローラ604」の構成に関する記載で
あるから,この記載が「中央コントローラ」が有する機能である「測定機能」を裏
付けるとすることはできない。むしろ,上記のとおり,本願発明にいう「測定機
能」とは,中央コントローラを用いて集中化された負荷適応ポンピング平衡アルゴ
リズムにおいて中央コントローラが「測定フェーズ」において行う測定の機能に対
応するものである。


  • 16 -


(3) 「エネルギー貯蔵装置の不均衡」の技術的意義について
ア 本願発明の特許請求の範囲の記載においては,「エネルギー貯蔵装置の不均
衡を事前に予測可能な」との文言の「不均衡」の具体的な内容が記載されていない。
とりわけ,この文言がエネルギー貯蔵装置のキャパシティの不均衡のみを意味する
ことの記載はなく,文言の上では,キャパシティ以外の不均衡を含んでいる。
イ そして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載においても,この文言がエネ
ルギー貯蔵装置のキャパシティの不均衡のみを意味することは示されていない。
すなわち,「均衡」と「平衡」とは同義であってこれらを区別する理由がなく,
このことから,発明の詳細な説明における「不均衡」には,上記(2)の「負荷適応
ポンピング平衡アルゴリズム」における平衡フェーズにおいて転送される電荷によ
って是正されるエネルギー貯蔵装置間の不均衡が含まれており,具体的には,各エ
ネルギー貯蔵装置間の「電圧値」や「負荷電流変化による電圧エクスカーション」
(【0036】)の不均衡が含まれていると解すべきである。
2 取消事由1(引用発明の認定の誤り及び対比の誤り)について
(1) 制御回路について
ア 本願発明
本願発明の「電流ポンプ回路」は,特許請求の範囲に記載のとおり,「エネルギ
ー貯蔵装置コントローラの少なくとも1つによって制御され」るものであり,か
つ,1つの「エネルギー貯蔵装置」と他の「エネルギー貯蔵装置」との間でエネル
ギーを転送するためのものである。
イ 引用発明
引用例1(甲1)の課題を解決するための手段の記載には,引用発明の電池管理
装置は,「電子モジュール」が含む「電池要素」の「端子」における「電圧を調節
する」ように「意図されている」「電子回路」を含むことが記載されている(【0
007】【0013】【0020】)。
そして,電池要素は直列に接続されており(【0007】【図1】),このこと


  • 17 -


から,両端の電池要素を除けば,電池要素の端子はその電池要素の一方の極とこれ
と直列に接続された他の電池要素の他方の極との間の等電位の導体上,すなわち電
池要素の間に位置している。
また,制御ユニットから伝送されたコマンドを受けた管理モジュールは,そのコ
マンドを制御信号に変換して,電圧を調節するように意図された回路に出力するこ
とによって,この回路を制御している。
以上によると,本件審決が,引用発明について,「電池要素の間でその端子にお
ける電圧を調節するように意図された電子回路」が管理モジュールにより制御され
るものと認定したことに誤りはない。
ウ 対比
本願発明の「前記エネルギー貯蔵装置コントローラの少なくとも1つによって制
御され,前記エネルギー貯蔵装置の各個々の1つと前記エネルギー貯蔵装置の他の
個々の1つとの間でエネルギーを転送するための電流ポンプ回路」と,引用発明の
「複数の電池要素の管理モジュール4の少なくとも1つによって制御されて,電池
要素2の間でその端子における電圧を調節するように意図されている電子回路」と
を対比すると,「エネルギー貯蔵装置コントローラの少なくとも1つによって制御
された回路」である点において,両者は一致する。
そして,この回路が,本願発明では「エネルギー貯蔵装置の各個々の1つと前記
エネルギー貯蔵装置の他の個々の1つとの間でエネルギーを転送するための電流ポ
ンプ回路」であるのに対し,引用発明では「その端子における電圧を調節するよう
に意図されている電子回路」である点において,相違する。
エ 小括
以上によれば,本件審決の制御回路に係る引用発明の認定と対比及び相違点1の
認定に,誤りはない。
オ 原告の主張に対する判断
(ア) 原告は,引用例1では,引用発明の1つの管理モジュールは,1つの電池


  • 18 -


要素の出力電圧を調節するものであり,「複数の電池要素の間でその端子における
電圧を調節するように意図されている」とした本件審決は誤りであると主張する。
しかしながら,本件審決は,相違点1において,引用発明が複数の電池要素間で
エネルギーを転送するものでないことを前提とした判断をしている。よって,本件
審決は,電池の全体の動作を調節するために(【0013】)複数の電池要素の間
に位置する端子における電圧を調節することを「各電池要素2の間でその端子にお
ける電圧を調節する」と表現したものであり,引用発明が複数の電池要素間でエネ
ルギーを転送すると認定したわけではない。
(イ) 原告は,「制御ユニット」が「電池要素の電圧を調節する手段」を有する
のであれば,「電子回路」が管理モジュールによって制御されるとは意味不明であ
り,管理モジュールのどの部分が「電子回路」を制御するのか不明であり,また,
引用例1の同じ構成を根拠として「電子回路」と制御ユニットが有する「電池要素
2の電圧を調節する手段」という2つの別個の構成を認定した本件審決では,認定
に矛盾が生じると主張する。
しかしながら,引用例1の記載(【0020】)によると,引用発明において
は,制御ユニット5から管理モジュール4へという方向に,電池要素の動作を調節
するために用いられるアナログ信号に変換されるコマンドが伝送され,そうして伝
送されたコマンドを受けた管理モジュールがコマンドをアナログ制御信号に変換し
これを出力して電圧を調節している。このことから,本件審決は,このうちの制御
ユニットが担う,電池要素の動作を調節するためにコマンドを伝送する機能を「電
池要素2の電圧を調節する手段」と認定し,他方,制御ユニットからのコマンドを
受けた管理モジュールの機能を踏まえて,「電池要素」の「端子における電圧を調
節するように意図されている電子回路」が管理モジュールによって制御されること
を認定したものである。
また,引用発明は,本願発明と対比できるように認定されるべきであるから,本
願発明の「電流ポンプ回路」が「エネルギー貯蔵装置コントローラの少なくとも1


  • 19 -


つ」により制御されることと対比するに当たっては,引用発明の「電圧を調節する
ように意図された電子回路」が「電子モジュール」により制御されることが認定さ
れれば十分であり,電子モジュールのどの部分により制御されるかが特定される必
要はない。
(2) 中央コントローラについて
ア 本願発明
原告は,本件審決の引用発明の「管理モジュール」が本願発明の「エネルギー貯
蔵装置コントローラ」に相当するとした本件審決の認定を争っておらず,また,取
消事由1は,「電池要素の状態とその時間的な進展に関する多くのパラメータを監
視する手段及び電池要素の電圧を調節する手段」を「制御ユニット」ではなく「管
理モジュール」が有することを根拠としているから,原告の主張は,本願発明の
「測定機能」及び「チャージ移動機能」を「中央コントローラ」が有すること,そ
して,この「中央コントローラ」は,引用発明の「管理モジュール」ではなく「制
御ユニット」に対応することを前提とするものである。
そして,本願発明の「測定機能」と「チャージ移動機能」が,エネルギー貯蔵装
置コントローラと中央コントローラとを用いた平衡アルゴリズムを実施するに当た
って「測定フェーズ」における電圧の測定及び「平衡フェーズ」における電荷の転
送に係る「中央コントローラ」が担う機能を意味することは,前記1(2)のとおり
である。
イ 引用発明
引用例1(甲1)には,管理モジュールから制御ユニットへという方向に,各電
池要素に接続された管理モジュールが電圧測定回路を用いて電池要素の電圧を測定
してこれをデジタル化した電池要素の物理的な動作パラメータが伝送されているこ
と,これとは逆方向となる,制御ユニットから管理モジュールへという方向に,電
池要素の動作を調節するために用いられるアナログ信号に変換されるコマンドが伝
送されていること,制御ユニットが電池の全体の動作を最適にするように全ての管


  • 20 -


理モジュールの動作を調整し電池の端子における電圧を調節することが記載されて
いる(【0013】【0015】【0016】【0020】【0021】)。
そうすると,引用例1の制御ユニットは,管理モジュールからパラメータとして
伝送され測定された電圧を受け取ってこれに基づき電池の全体の動作を最適にすべ
く電池要素の端子の電圧を調節するようにコマンドを伝送するのであるから,伝送
された電圧を受け取る機能と,電池の全体の動作を最適にすべく電池要素の端子の
電圧を調節する機能とを担うものである。
なお,物理的な動作パラメータの伝送方向とコマンドの伝送方向とが逆方向であ
るから,引用例1のコマンドは,パラメータが伝送されている間は伝送されず,ま
た,パラメータは,コマンドが伝送されている間は伝送されない。
ウ 対比
以上によると,引用発明の「パラメータとして伝送された電圧を受け取る機能」
は,測定された電圧が中央コントローラに伝送される間,すなわち,上記アの「測
定フェーズ」において,中央コントローラが担う機能であり,本願発明の「測定機
能」に相当するものである。
そして,引用発明の「コマンドを伝送して電池の全体の動作を最適にすべく電池
要素の端子の電圧を調節する機能」は,この測定フェーズでない期間に「中央コン
トローラ」が担う機能,すなわち,測定機能から分離された機能であり,かつ,電
池の動作をより望ましく調節する機能である点で,本願発明の「測定機能から分離
されたチャージ移動機能」に対応する。
よって,中央コントローラが測定機能と測定機能から分離された電池の動作をよ
り望ましく調節する機能を有する点では,両者は一致している。
そして,この測定機能から分離された機能が本願発明では「チャージ移動機能」
であるのに対し,引用発明では「コマンドを伝送して電池の全体の動作を最適にす
べく電池要素の端子の電圧を調節する機能」である点において相違する。また,本
願発明の「中央コントローラ」が「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測可


  • 21 -


能」であるのに対し,引用発明の「中央コントローラ」が「エネルギー貯蔵装置の
不均衡を事前に予測可能」であるか否かは不明である点において,相違するもので
ある。
エ 小括
以上によれば,本件審決の中央コントローラに係る引用発明の認定と対比及び相
違点2の認定に,誤りはない。
オ 原告の主張に対する判断
原告は,引用発明における電池要素の状態とその時間的な進展に関する多くのパ
ラメータを監視する手段及び電池要素の電圧を調節する手段は,制御ユニットが有
するのではなく,管理モジュールが有すると主張する。
しかし,本願発明の「中央コントローラ」は,引用発明の「管理モジュール」で
はなく「制御ユニット」に対応する構成であるから,「測定機能」及び「チャージ
移動機能」に相当する構成を引用発明の「制御ユニット」が有するか否かが問題で
あって,「管理モジュール」が有する機能は,この点の対比と無関係である。
そして,本願発明の「測定機能」と「チャージ移動機能」とが,エネルギー貯蔵
装置コントローラと中央コントローラとを用いた平衡アルゴリズムにおける「測定
フェーズ」における電圧の測定及び「平衡フェーズ」における電荷の転送に係る
「中央コントローラ」が担う機能を意味するところ,引用発明の制御ユニットは,
測定された電圧を示すパラメータが伝送されることによって測定されて伝送された
電圧を参照する機能とコマンドを伝送することによって電池要素の端子間の電圧を
調節する機能を担っていることは,上記アのとおりである。
(3) エネルギー均衡手段について
ア 本願発明
本願発明の「電圧絶縁双方向の通信を提供するエネルギー貯蔵装置コントローラ
間の直列電気インターフェイス」は,さらに,一のエネルギー貯蔵装置コントロー
ラを「中央コントローラ」を接続するとともに,「エネルギー貯蔵装置間でエネル


  • 22 -


ギーを転送するためにエネルギー貯蔵装置コントローラを制御する」ためのもので
ある。
イ 引用発明
引用例1(甲1)には,キャパシタによって直流電気の絶縁が得られた上での情
報の交換のために管理モジュールを直列に接続するデジタル連絡装置であって,さ
らに,最後の管理モジュールを制御ユニットに接続するものが記載されている
(【0015】【0016】【図1】)。また,このデジタル接続装置は,「両方
向」ラインであり,ここの「情報の交換」には,「制御ユニット」からの「コマン
ド」の伝送が含まれており,このコマンドは,これを受けた管理モジュールが電圧
を調節するように意図された回路を制御するためのものである(【0013】【0
020】)。
ウ 対比
以上によると,引用発明の「キャパシタによって直流電気の絶縁が得られた」,
「両方向」及び「コマンドの伝送を含む情報の交換」は,本願発明の「電圧絶
縁」,「双方向」及び「通信を提供」に相当し,引用発明の管理モジュールを直列
に接続する「デジタル連絡装置」は,「エネルギー貯蔵装置コントローラ間の「電
圧絶縁双方向の通信を提供」し,さらに,一のエネルギー貯蔵装置コントローラを
「中央コントローラ」に接続する点において,本願発明の「直列電気インターフェ
イス」に対応するということができる。
そして,この「直列電気インターフェイス」による通信の提供が,本願発明では
「エネルギー貯蔵装置間でエネルギーを転送するためにエネルギー貯蔵装置コント
ローラを制御する」ためであるのに対し,引用発明では管理モジュールが電圧を調
節するように意図された回路を制御するためである点において相違する。
エ 小括
以上によれば,本件審決のエネルギー均衡手段に係る引用発明の認定と対比及び
相違点3の認定に,誤りはない。


  • 23 -


オ 原告の主張に対する判断
(ア) 原告は,引用発明の管理モジュールは,電池要素から他の電池要素へ電荷
を転送し得る構成を有するものでないとして,引用例1は,管理モジュールがデジ
タル連絡装置で直列に接続されて2進情報の交換が可能であるものの,電池要素の
端子における電圧を調節するために異なる管理モジュールの間で情報を交換するた
めにデジタル連絡装置を直列に接続することを記載していないと主張する。
しかしながら,本件審決が,引用発明として「前記電池要素2の端子における電
圧を調節するために異なる管理モジュール4の間で情報を交換するために…デジタ
ル連絡装置で直列に接続され」と認定したのは,引用発明の管理モジュールを直列
に接続する「デジタル接続装置」におけるコマンドの伝送を含む情報の交換が,管
理モジュールが電池の全体の動作を調節するために(【0013】)電圧を調節す
るように意図された回路を制御するためであることをいう趣旨と解される。そし
て,相違点1として,「エネルギー貯蔵装置コントローラの少なくとも1つによっ
て制御された回路」が,本願発明のような「エネルギー貯蔵装置の各個々の1つと
前記エネルギー貯蔵装置の他の個々の1つとの間でエネルギーを転送するための電
流ポンプ回路」でないことを認定していることからすれば,本件審決は,引用発明
が電池要素から他の電池要素へ電荷を転送し得る構成を有しないことを前提として
おり,上記認定が電池要素間の電荷の転送を行わせるためという趣旨でないことは
明らかである。
(イ) 原告は,引用例1(【0015】)が,管理モジュールが制御ユニットに
対して他の管理モジュールを介して情報を送受信することを記載したのであり,管
理モジュールの間で情報を交換することを意味するわけではないと主張する。
しかしながら,そもそも本願発明における直列電気インターフェースも「エネル
ギー貯蔵装置コントローラ」間を接続することを特定するものの,これらの間で情
報が交換されることまでは特定されていない。本願発明が「エネルギー貯蔵装置」
間での「エネルギーを転送」することは情報の交換の態様と関係がないから,エネ


  • 24 -


ルギー貯蔵装置コントローラ」間で情報を交換することまでを意味するものではな
い。
(4) 小括
以上のとおり,取消事由1は,理由がない。
3 取消事由2(相違点に対する判断の誤り)について
(1) 相違点1及び3について
ア 米国特許第5631534号明細書(乙1)には,配列(直列接続)された
バッテリ(電池)間の充電をバランスさせるために全てのバッテリの相対的な充電
状態を認識すべく個別のバッテリの電圧を監視する旨の記載がある。また,特開平
11-103534号公報(乙2)には,満充電でない場合においても電圧の均衡
化を行う旨の記載がある(【0003】)。
このように,「直列接続された二次電池を充電する回路」において「各二次電池
の電圧を同じにするように制御する」ことは周知の課題である。そうすると,直列
接続された二次電池の充電に当たって各二次電池の電圧が同じである方がより望ま
しいことは,そのような充電のための回路を設計する当業者が当然に考慮すべき事
項である。
したがって,直列接続された二次電池の充電に関する引用発明において各二次電
池の電圧が同じである方がより望ましいことは自明な課題であるとの本件審決の認
定に誤りはない。
イ また,引用発明に引用例2に記載された技術の適用を阻害する要因の記載
は,見当たらない。
上記アのとおり,引用発明においても,各二次電池の電圧が同じである方がより
望ましいのであり,各二次電池の電圧を同じにすべきでないという理由で同じにす
る制御を行っていないわけではない。
よって,引用発明がこのような制御を行っていないからといって,引用例2に記
載された技術の適用が阻害されるとはいえない。


  • 25 -


ウ 以上のとおり,各二次電池の電圧が同じである方がより望ましい引用発明に
おける「その端子における電圧を調節するように意図されている電子回路」に換え
て,引用例2に記載された複数の電池要素間でエネルギーを転送する平衡回路を採
用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
エ よって,本件審決の相違点1及び3の判断に誤りはない。
(2) 相違点2について
ア 相違点2のうち,まず,「(中央コントローラが有する)測定機能から分離
された電池の動作をより望ましく調節する機能」が,本願発明では「チャージ移動
機能」であるのに対し,引用発明では「コマンドを伝送して電池の全体の動作を最
適にすべく電池要素の端子の電圧を調節する機能」である点は,相違点1に付随す
るものである。すなわち,相違点1の判断において,各二次電池の電圧が同じであ
る方がより望ましい引用発明における引用例2に記載された複数の電池要素間でエ
ネルギーを転送する平衡回路に伴って,引用発明の「電池の動作をより望ましく調
節する機能」も「エネルギーを転送する機能」,すなわち,「チャージ移動機能」
となるものである。
イ 次に,相違点2のうち,本願発明の「中央コントローラ」が「エネルギー貯
蔵装置の不均衡を事前に予測可能」であるのに対し,引用発明の「中央コントロー
ラ」が「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測可能」であるか否かは不明であ
る点について検討する。
(ア) まず,制御工学の技術分野において,被制御要素の状態の観測を通してそ
の状態を事前に予測することは一般的に行われている制御手法であり,当業者にお
いて自明なことである(甲3,4)。
(イ) 本願明細書には,電荷の状態が異なる理由として,キャパシティが同じで
あるが初期電荷が異なる場合とキャパシティに差がある場合とがあり得ることが記
載され(【0052】),「平衡アルゴリズム」がエネルギー貯蔵装置コントロー
ラ間に分配された例のみならず,平衡アルゴリズムを集中化するに当たって,例え


  • 26 -


ば「エネルギー貯蔵装置の電圧」を「エネルギー貯蔵装置コントローラと連通する
中央コントローラ」のようなマスター・コントローラにおいて利用可能にすること
ができること等が記載されている(【0053】)。これらの記載を受けて,【0
053】記載の構成による作用として,「特有の事態」,すなわち,直列接続され
た複数のエネルギー貯蔵装置の1つが充電限界に達し,他のエネルギー貯蔵装置と
の間で充電状態が異なってしまうという事態が発生する可能性があることが記載さ
れている(【0054】)。そして,この記載が,特許請求の範囲の「不均衡が事
前に予測可能である」との抽象的かつ作用的な文言に対応しているものである。こ
のことから,このように対応させた場合の「不均衡」には,【0052】において
明示されているように,キャパシティ自体に差がある場合すなわち不均衡がある場
合のみならず,キャパシティ自体は同じであるが不均衡が生じている場合が含まれ
ていることになる。
このように,本願発明における「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測可能
な」とは,直列接続された複数のエネルギー貯蔵装置の1つが充電限界に達し,他
のエネルギー貯蔵装置との間で充電状態が異なってしまうという事態が発生する可
能性があることを抽象的かつ作用的に記載したものである。そもそも,どのような
制御も,その目的に向けてその対象の状態を把握しつつ行われるものであるから,
反映するか否かを含め予測結果を制御に反映する態様を問わないのであれば,制御
の目的に向けた何らかの予測を伴っているといえるのであり,その意味において
も,被制御要素の状態を事前に予測することは,常套手段といって差し支えない。
(ウ) そして,上記(1)のとおり,引用発明においても,各二次電池の電圧が同じ
である方がより望ましいものである。

(エ) そうすると,引用発明の各二次電池の電圧が同じである方がより望ましい
という課題に対し,上記のような常套手段を用いて,各二次電池の電圧の不均衡を
事前に予測可能なものとすることは,当業者が適宜想到し得たことというべきであ
る。


  • 27 -


(オ) よって,本件審決の相違点2の判断に誤りはない。
ウ 原告の主張に対する判断
(ア) 原告は,常套手段との概念が不明であり,また,常套手段として示された
甲3,4は本願発明と全く異なる技術分野に属するものであり,これを本願発明に
適用する理由がないし,また,エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測するとい
う思想は今までに考えられなかった斬新なことであり,分野に特有の課題が解決さ
れ,分野に特有の効果がもたらされると主張する。

しかしながら,引用発明において各二次電池の電圧が同じでない場合があり得た
ことは前記のとおりであり,このことから,引用発明において状態を予測しつつよ
り望ましいものへと制御することは十分に動機付けられていたものであるし,これ
を採用した効果も予測の範囲内のものである。

そもそも本願発明は,予測に関して「エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測
可能」である旨を抽象的かつ作用的な文言により特定するのみであってエネルギー
貯蔵装置の分野に特有な予測結果を制御に反映する態様を特定していないのである
から,分野の違いにより被制御要素の状態を事前に予測することができなくなると
いうような事情はないし,分野に特有の効果もない。

(イ) 原告は,本願発明におけるエネルギー貯蔵装置の「不均衡」については,
エネルギー貯蔵装置の端子電圧のみならず,エネルギー貯蔵装置のキャパシティの
差を包含すること,また,全体のエネルギー貯蔵装置の充電が終了するときに各エ
ネルギー貯蔵装置がフル充電となるように,エネルギー貯蔵装置のキャパシティの
不均衡又は差を予測することができるという顕著な作用効果を奏する旨主張する。
しかしながら,直列接続された複数のエネルギー貯蔵装置の1つが充電限界に達
し,他のエネルギー貯蔵装置との間で充電状態が異なってしまうという事態が発生
する可能性がある旨の記載が,特許請求の範囲の「不均衡が事前に予測可能であ
る」との抽象的かつ作用的な文言に対応しており,このように対応させた場合の
「不均衡」には,キャパシティ自体に差がある場合すなわち不均衡がある場合のみ


  • 28 -


ならず,キャパシティ自体は同じであるが不均衡が生じている場合が含まれている
ことになることは,前記のとおりである。
さらに,本願明細書の「電荷移動の制御は,それが実際に発生するより前に不均
衡を予測することができる頑強(ロバスト)スキームに対するセル電圧から分離さ
れる。この例示的実施形態の簡略化した説明は,以下の通りである」との記載
(【0055】)は,全体としてみると,「電荷移動の制御」が「セル電圧」から
分離されること及びそれ以降に「電荷移動の制御」が「セル電圧」から分離された
技術の「例示的実施形態の簡略化した記載」が説明されていることを示したものと
解される。そして,「例示的な実施形態」である「負荷適応ポンピング平衡アルゴ
リズム」を変形した例が記載されている(【0056】~【0062】,図7)。
ここでは,「予測」の文言を「キャパシティを適応的に学習」する意味であると定
義して(【0058】),「エネルギー貯蔵装置キャパシティにおける少しの差」
が「共通デバイス電流の関数として個々のエネルギー貯蔵装置平衡電流を決定する
ために用いられる」(【0056】)等と記載されているから,上記変形した例に
おいては,予測つまり学習されたキャパシティの差によって平衡電流が決定される
ことが記載されている。
これに対して,特許請求の範囲の「測定機能と前記測定機能から分離されたチャ
ージ移動機能とを有することにより,エネルギー貯蔵装置の不均衡を事前に予測可
能な」との記載は,チャージ移動機能を有する結果として「不均衡を事前に予測可
能」であるという関係を特定している。
原告の主張する解釈によれば,特許請求の範囲の「チャージ移動機能」がエネル
ギー貯蔵装置のキャパシティの差に基づき平衡電流を決定する機能を意味するもの
で,平衡電流が決定されたことによってキャパシティの差が予測可能であるという
関係を特定していることになり,これに対して,発明の詳細な説明の該当箇所の上
記記載は,これとは逆の予測されたキャパシティの差によって平衡電流が決定され
るという関係を記載していることになる。よって,原告の主張は,特許請求の範囲


  • 29 -


及び発明の詳細な説明の記載内容と整合しないものである。
以上を総合すれば,発明の詳細な説明は,「測定フェーズ」と「平衡フェーズ」
を有する「負荷適応ポンピング平衡アルゴリズム」を記載した上で,【0055】
以降の【0056】~【0062】及び図7においては,「例示的実施形態」とし
て,学習されて予測されたキャパシティの差をも考慮して平衡電流を決定するよう
に「負荷適応ポンピング平衡アルゴリズム」を変形した変形例を記載したものであ
るところ,特許請求の範囲は,「測定フェーズ」と「平衡フェーズ」を有する「負
荷適応ポンピング平衡アルゴリズム」を特定して記載したものであって,キャパシ
ティの差による平衡電流を決定する上述の変形例のみが特定されるように記載した
ものではない。
原告の主張は,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載内容と整合しておら
ず,これを正解していないものである。

(3) 小括
よって,取消事由2は,理由がない。

4 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却さ
れるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣




H230328現在のコメント


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10268号審決取消請求事件))
【容易想到性】「事実認定」判決です。

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Last Update: 2011-03-28 21:16:18 JST

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商標:【商標法3条1項3号の該当性】「事実認定」,【商標法3条2項の該当性】「基準」「判断」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10356号 審決取消請求事件))






商標:【商標法3条1項3号の該当性】「事実認定」,【商標法3条2項の該当性】「基準」「判断」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10356号 審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10356 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
平成23年03月24日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10356号 審決取消請求事件))


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【商標法3条1項3号の該当性】「事実認定」,【商標法3条2項の該当性】「基準」「判断」


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10356号 審決取消請求事件))

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判示【商標法3条1項3号の該当性】「事実認定」,【商標法3条2項の該当性】「基準」「判断」




第2 事案の概要

本件は,原告が,被告の下記1の本件商標に係る商標登録を無効とすることを求める原告の下記2の本件審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,原告が本件審決の取消しを求める事案である。
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第4 当裁判所の判断



1 本件商標の商標法3条1項3号の該当性について

(1) 本件商標の構成は,前記第2の1に記載のとおり,右側やや上に「黒糖」,
左側に「ドーナツ棒」の各文字を2列に縦書きしてなるものであって,右側の「黒
糖」の文字はやや細く,左側の「ドーナツ棒」の文字はやや太く,かつ,片仮名を
やや崩したように表し,いずれの文字も手書き風に標記されているものである。ま
た,本件商品の指定商品は,前記第2の1に記載のとおり,第30類「黒糖を使用
した棒状形のドーナツ菓子」である。

(2) 「黒糖」とは,黒砂糖と同義であり,「まだ精製していない茶褐色の砂糖。
甘蔗汁をしぼって鍋で煮詰めたままのもの。」(広辞苑第5版・平成10年11月
11日発行)とされており,「ドーナツ」とは,「小麦粉に砂糖・バター・卵・ベ
ーキング-パウダーまたはイーストなどをまぜてこね,輪形・円形などに作って油
で揚げた洋菓子。」(同上)とされているから,本件商標のうち「黒糖」と「ドー
ナツ」との部分は,洋菓子であるドーナツの品質及び原材料を普通に用いられる方
法で表示している。そして,「棒」は,「ドーナツ」の文字の直後に置かれること
によって,ドーナツの形状を普通に用いられる方法で表示しているといえる。した
がって,本件商標は,その指定商品に用いられた場合,まさに「黒糖を使用した棒
状形のドーナツ菓子」の品質,原材料及び形状を普通に用いられる方法で表示する
標章であるといえる(商標法3条1項3号)。

(3) なお,原告は,本件商標が指定商品の普通名称を普通に用いられる方法で
表示している(商標法3条1項1号参照)にすぎないから,そもそも商標法3条2
項が適用される場合ではない旨を主張する。

6
しかしながら,本件で提出された全証拠及び弁論の全趣旨によっても,「黒糖を
使用した棒状形のドーナツ菓子」について,「黒糖ドーナツ棒」との普通名称が存
在し,あるいは普通に用いられる方法として表示されているとは認められない。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして採用できない。

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2 本件商標の商標法3条2項の該当性について

(1) 認定事実
証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。

ア 本件商標の使用開始時期等
被告は,主たる営業所を熊本市に置き,菓子類を製造・販売する会社であるが,
かねてより原材料に黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子(以下「本件商品」とい
う。)を製造・販売していたところ(甲60,78,乙2の1),平成6年秋ころ,
日本生活協同組合連合会・学校生活協同組合の通信販売を通じた本件商品の販売を
開始した。被告は,その際,上記通信販売カタログに本件商品の包装箱の写真を掲
載したが,当該包装箱は,縦長直方体であり,黒色である包装箱表面には本件商標
と形状において同一と見られ,「黒糖」部分が赤色で「ドーナツ棒」部分が金色の
標章が掲示されており,併せて,当該包装箱側面の黒色部分には,当該標章の各文
字を「黒糖」と「ドーナツ棒」とで2段に横書きした標章が掲示されていた(甲2
9,59,67)。

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イ 本件商標の使用期間,使用地域,使用態様等
(ア) 被告は,平成7年ころ,自社の通信販売カタログ(3000部)の刊行を
開始して以来,平成19年6月までにこれを合計29回刊行し,遅くとも平成13
年10月以降は,そこに前記包装箱や,本件商標と形状において同一と見られる前
記標章を「黒糖」と「ドーナツ棒」とで2段に横書きした紙片をその側面に貼付し
た金属製の包装箱又は本件商品の個別の透明ビニール製包装袋であって,当該標章
を1段に横書きしたものが白色で印刷されたもの(以下,これらの包装箱及び包装
袋を併せて「本件包装」という。)の写真を毎号掲載した。そして,上記カタログ

7
の発行部数は,例えば平成18年6月刊行のものが6万5000部になるなど,お
おむね増加傾向にある(甲30~42,60,78,乙2の1,11)。
また,被告は,遅くとも平成13年ころには,自社のホームページを開設して,
本件商品を含む自社商品の広告等を開始した(甲30)ほか,自社の店舗に加えて,
平成18年4月,那覇市に那覇本店を,同年5月,東京都赤坂に東京赤坂店を,そ
れぞれ出店して本件商品の販売を開始し,更に本件登録審決時点までに,熊本市内
の鶴屋百貨店,熊本空港,九州自動車道宮原サービスエリア,宮崎空港,大分空港,
福岡空港等で本件商品の販売を開始していた(甲60,78,乙2の1)。
(イ) 被告は,平成16年,神奈川県の情報誌である「ぱど」の同年5月14日
号(配布場所及び部数は,横須賀・三浦版2エリア11万1100部,首都圏版1
11エリア659万8200部,全国210エリア1196万9200部。甲1
8)並びに東京及び横浜周辺で配付された無料情報誌である「ラーラぱど」の同月
18日号(配布場所及び部数は,東京都内19万5000部,横浜・川崎市内6万
8000部。甲19)に,自社名及び本件包装の写真とともに本件商品の広告を掲
載したほか,熊本日日新聞刊行の情報誌「まいらいふ」同年6月号(甲12),熊
本日日新聞の同年9月16日号(甲10),「くまにちすぱいす」同年11月20
日号(甲17)その他の印刷媒体にその広告を掲載し,同年9月,そのテレビ広告
を鹿児島読売テレビ及び熊本県民テレビにて複数回放映した(乙10)。さらに,
被告は,岡山県所在の山陽新聞社が刊行する情報誌である「レディア」152号
(平成17年1月27日刊行。甲24,乙4の2),琉球新報社刊行の情報誌「う
ない」平成17年5月・6月合併号(甲26)及び熊本日日新聞刊行の情報誌「デ
リすぱ」同年7月1日号(甲25)その他の印刷媒体に,いずれも自社名及び本件
包装の写真とともに本件商品の広告を掲載した(甲60,78,乙2の1)。
なお,被告及び本件商品を含む被告製造商品に関する広告宣伝費は,平成17年
8月ないし平成18年7月が4405万4024円,同年8月ないし平成19年7
月が8923万6193円であった(乙2の1)。

8
(ウ) 被告は,平成7年ころ,郵便局のふるさと小包全国版に本件商品の広告を
掲載し(甲14,60,78,乙2の1),同年4月,日本生活協同組合連合会を
通じて全国150の単位生活協同組合に本件商品の供給を開始し(甲7~9,13,
27,60,78,乙2の1),大丸百貨店(甲16,61,62,68),三越
百貨店(甲2)及び高島屋百貨店(甲15,23)といった大手百貨店による通信
販売にも本件商品の供給を開始したほか,遅くとも平成16年夏ころまでには,京
都府所在の株式会社千趣会(甲22)による通信販売にも本件商品の供給を開始し
たが(甲60,78,乙2の1),これらの通信販売カタログには,本件包装の写
真が掲載されており,自社名が掲載されているものもあった。
なお,学校生活協同組合による本件商品の売上高は,平成12年4月ないし平成
18年5月に9602万4000円(甲1),キッスビー健全食株式会社(三越百
貨店)による本件商品の売上高は,平成13年3月ないし平成18年5月に707
万6000円(甲2),そして株式会社大丸ホームショッピングによる本件商品の
売上高は,平成10年2月ないし平成18年5月に7223万0000円(甲6
1)であった。
(エ) 被告は,平成8年ころ,日本直販による全国テレビショッピングを通じて
本件商品の販売を開始し(平成11年ころまで),平成13年,QVCテレビショ
ッピング及びTBSテレビショッピング(関東エリア)にて本件商品の販売を開始
した(甲60,78,乙の2の1)。
(オ) インターネット上のショッピングモールであるQVC(甲47,50)は,
平成16年8月10日までには,楽天市場(甲50)及びYAHOOショッピング
(甲49,甲51)は,平成17年12月18日までには,シャディ Online(甲
48)は,平成18年6月26日までには,いずれも,本件包装の写真を掲示して
本件商品をインターネット上で販売していた。
(カ) テレビ局であるTKU熊本は,平成15年9月4日,被告及び本件商品に
ついて紹介する番組を放映し,その要旨は,その後,本件包装の写真とともに,そ

9
のホームページに掲載され(甲46),平成16年12月にも,本件商品等を紹介
する番組を放映したほか,同じくテレビ局であるRKK熊本放送も,同年9月,本
件商品等を紹介する番組を放映した(甲60,78,乙2の1)。
スカイネットアジア航空は,平成15年12月,その機内誌である「スカイネッ
ト」に,本件包装の写真とともに,被告及び本件商品を紹介する記事を掲載し(甲
6),熊本県内を対象とする情報誌である月刊くまもと「家族時間」も,同月刊行
の第5号で,本件包装の写真とともに被告及び本件商品を紹介する記事を掲載した
(甲11)。また,日本経済新聞は,平成16年4月3日付け(甲43)及び平成
18年9月9日付け(甲65,乙5)の九州版において,朝日新聞は,平成16年
4月9日付けの熊本版において(甲44),主として東京圏及び大阪圏で販売され
ている夕刊フジも,同年8月8日付けのもので(甲21,乙4の1),それぞれ本
件包装の写真とともに,被告及び本件商品を紹介する記事を掲載し,朝日新聞は,
その後,当該記事を同紙のインターネット版にも掲載した(甲45)。
さらに,熊本市で刊行されている情報誌「モコス」は,同年12月16日刊行の
平成17年1月号で(甲20),コープ出版株式会社による「CO-OP NAV
I」は,平成18年8月号で(甲63,64),いずれも本件包装の写真とともに
被告及び本件商品を紹介する記事を掲載した。
(キ) 被告は,平成14年11月,熊本市で開催された第24回全国菓子大博覧
会において,本件商品に関して「リッチモントクラブ賞」と称するものを受賞した
(甲5,60,69~72,74,78,81,乙2の1)。

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ウ 本件商品の販売数量又は売上高
(ア) 被告は,平成6年ころ,生活協同組合による通信販売で本件商品2万50
00箱を売り上げ,2325万円の売上げを得た(甲60)。
被告のその後の売上総額は,平成16年8月ないし平成17年7月が5億667
2万7717円,同年8月ないし平成18年7月が7億5122万0682円,同
年8月ないし平成19年7月(本件商品のこの期間の生産数は,合計3414万1

10
976本である。)が10億8919万9297円であるが(以上合計24億07
14万7696円),本件商品がその売上総額の約7割を占めているから,本件商
品の売上高は,平成18年8月ないし平成19年7月の1年間で約7億6244万
円となる(乙2の1・4)。
なお,本件商品1本の販売単価は,概ね約23円ないし50円程度である(甲6
~9,13~16,20,22,23,25~27,29~42,47~50,6
2,67,68)。

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エ 本件商標に類似した他の標章の存否
原材料に黒糖を使用したと思われる棒状のドーナツ菓子は,我が国に少なからず
存在するが,これらに用いられてる標章には,「黒棒」(トリオ食品株式会社製造。
甲104の1),「黒棒名門」(クロボー製菓株式会社製造。甲104の9),
「黒糖ケーキドーナツ」,「ミニ黒糖ドーナツ」(いずれもエーケーエム株式会社
製造。甲104の10・12),「豆乳ドーナツ(黒糖)」,「黒糖豆乳ドーナ
ツ」(いずれも山田製菓株式会社製造。甲104の15・16),「黒糖豆乳ドー
ナツ」(株式会社木村製造。甲104の18),「可愛いくろぼう」(株式会社橋
本製菓製造。甲104の25),「黒糖みつ手づくりスティックドーナツ」(有限
会社優華堂製造。甲104の26)及び「かりんとうドーナツ黒糖味」(株式会社
アンデル製造。甲106の1)などがある。しかし,上記の菓子について,平成6
年秋ころから本件登録審決時点(平成19年7月11日)までの間に「黒糖ドーナ
ツ棒(コクトウドーナツボウ)」との外観又は称呼を有する標章を使用して販売し
ていることが確認できるのは,被告のみである。

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(2) 本件商標の商標法3条2項の該当性について
ア ある標章が商標法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務
に係る商品であることを認識することができるもの」に該当するか否かは,出願に
係る商標と外観において同一と見られる標章が指定商品とされる商品に使用された
ことを前提として,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品
の数量又は売上高等及び当該商品又はこれに類似した商品に関する当該標章に類似
した他の標章の存否などの事情を総合考慮して判断されるべきである。

イ これを本件についてみると,前記認定のとおり,被告は,平成6年秋ころ以
来,本件登録審決時点(平成19年7月11日)に至るまでの約13年弱の間,本
件商標と形状において同一と見られ,「黒糖」部分が赤色で「ドーナツ棒」部分が
金色の標章や,本件商標と形状において同一と見られる各文字を1段又は「黒糖」
と「ドーナツ棒」とで2段に横書きした標章を,一貫して指定商品である黒糖を使
用した棒状形のドーナツ菓子(本件商品)の包装(本件包装)に付して使用してい
る。
そして,被告は,上記の期間中,本件包装が付された本件商品を,九州地方を中
心としつつもそれ以外の地の店舗や,テレビショッピング番組並びに自社及び複数
のインターネット上のショッピングモールを通じて販売していたほか,本件商品を
自社及び複数の大手百貨店等による通信販売により全国的に販売するに当たり,本
件包装の写真を通信販売カタログ,テレビ広告,複数地域の各種情報誌又は新聞に,
しばしば自社名とともに本件商品の広告として掲載しており,その宣伝広告費も,
本件登録審決当時に先立つ1年間で8923万6193円に及んでいる。また,地
方テレビ局の番組,各種情報誌及び新聞も,本件包装の写真とともに被告及び本件
商品を紹介しており,その結果がインターネット上のホームページに掲載されたも
のもあった。
さらに,被告による本件商品の生産数は,本件登録審決当時に先立つ1年間で3
414万1976本と相当大量であり,同時期の売上高である約7億6244万円
という金額も,1本概ね約23円ないし50円程度という本件商品の販売単価に比
較するとき,相当高額なものに及んでいるといえる。
他方で,本件商品と同種の商品は,我が国に少なからず存在し,これらに関する
標章には各種のものがあるが,当該商品について,平成6年秋ころから本件登録審
決時点(平成19年7月11日)までの間に「黒糖ドーナツ棒(コクトウドーナツ

12
ボウ)」との外観又は称呼を有する標章を使用して販売していることが確認できる
のは,被告のみである一方,他の商品に付された標章には「黒糖」,「ドーナツ」
及び「棒」を組み合わせたものは存在せず,むしろ,本件商標とは外観及び称呼を
異にするものしか証拠上は確認できない。
ウ 以上のとおり,本件商標と外観において同一と見られる標章を付した包装
(本件包装)が指定商品とされる本件商品に使用されており,その使用開始時期,
使用期間,使用地域,使用態様,当該商品の数量又は売上高等及び本件商品又はこ
れに類似した商品に関する本件商標に類似した他の標章の存否などの事情を総合考
慮するとき,本件商標は,使用をされた結果,本件登録審決時点(平成19年7月
11日)において,需要者が被告の業務に係る商品であることを認識することがで
きるものになっていたものと認めることができる。

エ これに対して,原告は,本件商標が熊本を中心として九州地方だけで使用さ
れていた事実が立証されたとしても,それ以上の立証はないなどとして,本件商標
が商標法3条2項の要件を満たさないと主張する。しかしながら,被告による本件
商標の使用態様等は,前記認定のとおりであって,原告の上記主張は,この点にお
いても,その前提を欠くものとして採用することができない。
オ したがって,本件商標の商標法3条2項の該当性を認めた本件審決の判断に
誤りはないといわなければならない。
3 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却さ
れるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣


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縮小版【商標法3条2項の該当性】「基準」「判断」



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「基準」

「ある標章が商標法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当するか否かは,出願に係る商標と外観において同一と見られる標章が指定商品とされる商品に使用されたことを前提として,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品の数量又は売上高等及び当該商品又はこれに類似した商品に関する当該標章に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮して判断されるべきである。 」(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10356号 審決取消請求事件))

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「判断」「あてはめ例」

イ これを本件についてみると,前記認定のとおり,被告は,平成6年秋ころ以来,本件登録審決時点(平成19年7月11日)に至るまでの約13年弱の間,本件商標と形状において同一と見られ,「黒糖」部分が赤色で「ドーナツ棒」部分が金色の標章や,本件商標と形状において同一と見られる各文字を1段又は「黒糖」と「ドーナツ棒」とで2段に横書きした標章を,一貫して指定商品である黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子(本件商品)の包装(本件包装)に付して使用している。

そして,被告は,上記の期間中,本件包装が付された本件商品を,九州地方を中心としつつもそれ以外の地の店舗や,テレビショッピング番組並びに自社及び複数のインターネット上のショッピングモールを通じて販売していたほか,本件商品を自社及び複数の大手百貨店等による通信販売により全国的に販売するに当たり,本件包装の写真を通信販売カタログ,テレビ広告,複数地域の各種情報誌又は新聞に,しばしば自社名とともに本件商品の広告として掲載しており,その宣伝広告費も,本件登録審決当時に先立つ1年間で8923万6193円に及んでいる。また,地方テレビ局の番組,各種情報誌及び新聞も,本件包装の写真とともに被告及び本件商品を紹介しており,その結果がインターネット上のホームページに掲載されたものもあった。

さらに,被告による本件商品の生産数は,本件登録審決当時に先立つ1年間で3414万1976本と相当大量であり,同時期の売上高である約7億6244万円という金額も,1本概ね約23円ないし50円程度という本件商品の販売単価に比較するとき,相当高額なものに及んでいるといえる。

他方で,本件商品と同種の商品は,我が国に少なからず存在し,これらに関する標章には各種のものがあるが,当該商品について,平成6年秋ころから本件登録審決時点(平成19年7月11日)までの間に「黒糖ドーナツ棒(コクトウドーナツボウ)」との外観又は称呼を有する標章を使用して販売していることが確認できるのは,被告のみである一方,他の商品に付された標章には「黒糖」,「ドーナツ」及び「棒」を組み合わせたものは存在せず,むしろ,本件商標とは外観及び称呼を異にするものしか証拠上は確認できない。

ウ 以上のとおり,本件商標と外観において同一と見られる標章を付した包装(本件包装)が指定商品とされる本件商品に使用されており,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品の数量又は売上高等及び本件商品又はこれに類似した商品に関する本件商標に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮するとき,本件商標は,使用をされた結果,本件登録審決時点(平成19年7月11日)において,需要者が被告の業務に係る商品であることを認識することができるものになっていたものと認めることができる。

エ これに対して,原告は,本件商標が熊本を中心として九州地方だけで使用されていた事実が立証されたとしても,それ以上の立証はないなどとして,本件商標が商標法3条2項の要件を満たさないと主張する。しかしながら,被告による本件商標の使用態様等は,前記認定のとおりであって,原告の上記主張は,この点においても,その前提を欠くものとして採用することができない。

オ したがって,本件商標の商標法3条2項の該当性を認めた本件審決の判断に誤りはないといわなければならない。



H230328現在のコメント


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10356号 審決取消請求事件))

【商標法3条1項3号の該当性】「事実認定」,【商標法3条2項の該当性】「基準」「判断」について判断しました。


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Last Update: 2011-03-28 20:59:30 JST

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……………………………………………………判決末尾top
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特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10244号審決取消請求事件))






特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10244号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10244 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月24日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10244号審決取消請求事件))


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【容易想到性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10244号審決取消請求事件))

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判示・縮小版なし




第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の下記2の本件発明に係る特許に対する被告の無効審判請求について,特許庁が,同請求を認め,本件特許を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。



第4 当裁判所の判断

1 取消事由について
(1) 引用発明1について
ア 引用例1には,以下の記載が認められる。
(ア) この発明は,道路沿いの法面における土砂の崩壊を防止するためのモルタ
ル吹き付け等による傾斜した地山補強面につき,長年月のうちの劣化に応じて改修
工事をする際,新しい補強面の施工に先立ち,既存の補強面を破砕して除去する必
要があることについて,そのために使用する装置の発明である。
(イ) 従来の地山補強面の破砕は,作業者が傾斜する補強面上に立ち,破砕機を
直接その手で支持して操作する方法によっていたことから,作業上危険が伴うとと
もに,多くの人手を要し,人件費や工事期間が増大するなどという問題点があった。
(ウ) この発明は,上記のような問題点を解消するためのもので,安全でかつ大
幅な省力化と工期の短縮とが可能となる地山補強面破砕装置を得ることを目的とす
る。
(エ) この発明に係る補強面破砕装置は,補強面上を走行可能な台車と,この台
車に姿勢調整装置を介して取り付けられた破砕機と,上記補強面の上方に設置され
た基台と上記台車とをワイヤーで連結し,このワイヤーの巻取機を駆動することに
より,上記台車を補強面上で移動させる台車移動装置とを備えたものである。
(オ) 実施例についてみると,第5図及び第6図は,破砕装置を現場で動作させ
ている場合の状況を説明する側面図及び正面図である。これらの図において,台車


  • 9 -




を補強面上で移動させるためのワイヤー12a,12b,12cは,補強面の上方
にそれぞれアンカーにより地面に固着された基台13a,13b,13cに取り付
けられたウインチに巻回されている。
第7図は,ワイヤー12a,12b,12cにより台車を牽引する場合の各ワイ
ヤーと台車との連結構造を示す説明図である。図において,主ワイヤー12aは,
台車のベースに設けられた固定連結具9aに係止されており,主として台車の重量
を支え,台車の昇降移動を受け持つ。左ワイヤー12b及び右ワイヤー12cは,
台車のベースに軸を介して回動自在に取り付けられた可動連結具9bの先端に係止
されており,台車の左右方向への移動を受け持つとともに,事故等により主ワイヤ
ー12aが緩んだり,切れたりしたような場合に,台車の落下を防止する。また,
可動連結具9bの回動に応じて車輪の軸を水平面内で回動させる舵取り機構が存在
する。
(カ) 実施例における動作について説明すると,準備作業が終了すると,操作盤
の操作ボタンを操作して,まず台車を補強面の所定位置まで移動させる。
この場合,傾斜面の登坂は主ワイヤー12aの牽引力により行い,左右方向への
方向転換は左右両ワイヤー12b,12cの張力バランスで行う。すなわち,例え
ば右ワイヤー12cに比較して左ワイヤー12bの張力が大きくなるようにウイン
チモータ18bによる巻取量をより大きくすると,第7図に示すように,可動連結
具9bが反時計方向に回動し,舵取り機構がこれに従動して車輪を左へ傾動させる。
(キ) 最初の位置における破砕作業が終了すると,再びウインチモータ18a等
の操作スイッチを操作することにより,台車を隣接位置にまで移動させ,その停止
位置で破砕動作を再開する。以上の操作を繰り返すことにより,広大な補強面の破
砕を,わずかの操作員により高能率に短期間に行うことが可能となる。
(ク) 上記実施例では,台車を3本のワイヤーで牽引して昇降,左右移動するよ
うにしたが,1本のワイヤーで昇降させ,左右への移動は,台車に設けられた舵取
り機構を別個の駆動源で操作して行うようにしてもよい。


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(ケ) この発明の効果として,補強面上を走行可能な台車と,この台車に姿勢調
整装置を介して取り付けられた破砕機と,上記補強面の上方に設置された基台と上
記台車とをワイヤーで連結し,このワイヤーの巻取機を駆動して上記台車を移動さ
せる台車移動装置とを備えたので,作業の安定が確保されるとともに,大容量の粉
砕機を使用することができ,大幅な省力化と工事期間の短縮が可能となる。
(コ) 第6図には,台車から上方の3つの基台に向けてつながれたワイヤー12
a,12b,12cが描かれており,このうち左右のワイヤー12b,12cは,
台車からみて,広範囲に広がった形で左右の基台につながれている。
イ 以上によると,引用発明1の地山補強面破砕装置については,台車に連結さ
れた各ワイヤーのうち,主ワイヤーは,台車の重量を支えるだけであって,台車の
昇降移動を受け持つものであるのに対し,左右のワイヤーは,台車の左右方向への
移動を受け持つものであって,左右巻取機の回動及びこれに基づく左右ワイヤーの
操作によって,台車は,広大な補強面の移動が可能となるものということができる。
ウ なお,原告は,主ワイヤーが,台車のベースに設けられた固定連結具に係止
されており主として台車の重量を支え,台車の昇降移動を受け持つものであって,
主ワイヤーが1本であることなどからすると,台車は,主ワイヤーによって上下方
向のみに牽引され,左右のワイヤーは台車の左右方向への牽引という機能を有する
ものではなく,左右のワイヤー12b,12cはステアリングの機能を果たすにす
ぎず,左右巻取機及びワイヤーの操作によって台車の左右方向への移動が行われる
ことはあり得ないと主張する。
しかしながら,①引用例1の記載によると,引用発明1は,最初の位置における
破砕作業が終了すると,ウインチモータ等の操作スイッチを操作することによって
左右のワイヤーの張力を調整し,台車を隣接位置にまで移動させ,その停止位置で
破砕動作を再開するとの操作を繰り返すことにより,広大な補強面の破砕を行うこ
とが可能となるものであって,左右のワイヤーの張力バランスによって広大な補強
面の左右を移動できるようにするものであり,これは,主ワイヤー1本の牽引力の


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みでは不可能であること,②引用例1の記載によると,「主ワイヤー12aは,台
車のベースに設けられた固定連結具9aに係止されており,主として台車の重量を
支え,台車の昇降移動を受け持つ」とされ,主ワイヤーによる台車の重量支持は
「主として」というものであって,左右のワイヤーが台車の重量の支持を全くしな
いとはされていないことから,主ワイヤーによる牽引力が台車に働くと,舵取り機
構の従動によって車輪が傾いた方向に動こうとし,例えば,第7図のように左に車
輪が傾動している場合には,主ワイヤーの牽引力によって,基台13cを中心に右
ワイヤー12cにも牽引力が掛かりつつ,この右ワイヤー12cを半径にして,台
車は登坂しつつ,左方向へ移動できること,③仮に左右のワイヤーが純粋にステア
リングに係る機能しか果たさず,左右巻取機及び左右のワイヤーの操作によって台
車の左右方向への移動が行われるということがあり得ないとすると,牽引の機能を
有するものは上下方向へ牽引する主ワイヤー1本だけということになるが,この場
合,台車に掛かる牽引力は,鉛直方向のみであるから,たとい舵取り機構の従動に
よって車輪が斜め方向を向いていたとしても,車台は,斜めに進行することはなく,
車軸の傾きの坑力に関わらずに車輪を回転させずに鉛直方向に移動するか,又は車
軸の傾きが坑力となって進行しないかのいずれかの結果となるもので,引用例1記
載の左ワイヤー12b及び右ワイヤー12cは,「台車の左右方向への移動を受け
持つ」ことが実現されないこととなること,以上のとおりいうことができることか
らすると,原告の主張は採用することができない。
(2) 引用発明2について
ア 引用例2には,以下の記載が認められる。
(ア) 本発明は,例えばダム,水路,道路,護岸等の工事での法面を舗装する場
合において,舗装に使用するアスファルトフィニッシャのような作業車を法面に沿
って巻上げ・巻下げするウインチでなる巻上装置に関するものである。
(イ) 例えば法面舗装によってダムを建設する場合,法面にこれを横切るように
設けた通路に自走式巻上機を置き,巻上機に搭載したウインチによりアスファルト


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フィニッシャ等の作業車を巻き上げつつ法面を舗装し,1列の舗装が終わったら,
巻上機を移動させて舗装すべき法面の最低位置まで作業車を巻き下げ,再び巻き上
げつつ舗装するという作業を繰り返すことによって舗装を行う必要がある。しかる
ところ,既舗装面と未舗装面との間の境界線は,直線とは限らず,曲線の場合もあ
るが,従来の技術では,単にウインチによって巻上げ・巻下げをするだけであった
ことから,曲線の場合の境界線に沿って作業車を巻き上げることが困難で,舗装面
が重なったり,舗装材を舗装できない部分が生じたりするとの問題があった。
(ウ) 本発明は,作業車を巻上機上のウインチによって巻上げ・巻下げする場合,
既処理面と未処理面の境界線に沿って作業車を巻き上げ,巻き下げることが可能と
なり,かつ,作業車を処理開始点にまで巻き下げる際に,真直に目的値にまで巻き
下げることのできる構成の法面処理用作業車の巻上装置を提供しようとするもので
ある。
(エ) 本発明の巻上装置は,法面処理用作業車を法面に沿って巻上げ・巻下げす
る2台の同型のウインチを巻上機上の左右に搭載し,各ウインチに巻かれるワイヤ
ロープを作業車の前部の牽引フレームの左右の端部にそれぞれ接続し,上記ウイン
チの駆動用油圧モータの油圧回路には,両油圧モータに供給する作動油の流量を等
流量とする分流装置を設けるとともに,この分流装置と油圧モータとの間の各油圧
モータ対応の回路間に,両回路間を連通,遮断する2位置切換弁を設けることを特
徴とする。
そして,本発明の巻上装置においては,左右のウインチを巻上げ方向に作動させ
る場合には,上記2位置切換弁を左右のウインチモータへの回路が連通する位置と
し,作業車上のオペレータのハンドル操作によって,作業車の向きが変えられるよ
うにすることにより,境界線に沿って作業車が移動できるようにする。
(オ) 実施例についてみると,第2図及び第3図は,本発明の巻上装置を搭載し
た巻上機を使用して法面舗装を行っている状態を示している。アスファルトフィニ
ッシャの巻上装置である巻上機本体上の左右に搭載されるウインチ9A,9Bは,


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同型の油圧モータとドラムをそれぞれ有するもので,各ウインチ9A,9Bにそれ
ぞれ巻き取り・繰り出しされるワイヤロープ19a,19bは,アスファルトフィ
ニッシャの前部に設けた牽引フレームの左右の端部にそれぞれ接続される。
(カ) 実施例における動作については,この装置において法面の舗装を行う場合,
巻上機本体の運転室内のオペレータが,ウインチ9A,9B等を運転することによ
って,アスファルトフィニッシャをゆっくりと巻き上げて舗装する。この場合,運
転室のオペレータは,ウインチ9A,9Bを作動させる油圧モータの流量を変える
ことによって,上記2台のウインチのワイヤロープの巻上げ量を変え,アスファル
トフィニッシャの向きを変えることができ,アスファルトの舗装済みの領域と未舗
装領域との間の境界線に沿って,上昇方向にアスファルトフィニッシャを移動させ
ることができる。
イ 以上によると,引用発明2は,アスファルトフィニッシャである処理用作業
車を法面に沿って巻上げ・巻下げする2台の同型のウインチを巻上機上の左右に搭
載し,各ウインチに巻かれるワイヤロープが処理用作業車の前部に設けた牽引フレ
ームの左右の端部にそれぞれ接続され,巻上機本体上のオペレータの操作によって,
左右のウインチの巻上げ量を変え,処理用作業車を境界線に沿って移動させながら
上昇することができるようにした法面処理用作業車の巻上装置の発明であると認め
ることができる。
ウ なお,原告は,引用発明2について,作業車の幅と左右のウインチの幅は同
じなので,左右のワイヤロープは平行であって,このような作業車を左右のウイン
チの幅,すなわち作業車の幅を超えて左右方向に移動させることは不可能であるか
ら,左右のウインチを作動させ,ワイヤロープの長さを調整することによって,左
右方向に作業車を移動させることはあり得ないと主張する。
確かに,上記アのとおり,引用例2によると,巻取機本体にウインチが搭載され
るものであるから,作業車の左右への移動について,おのずから2台のウインチ同
士の間隔による制約が存在するものと考えられるが,他方,引用例2の記載におい


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て,巻上機本体に搭載されるウインチ同士の間隔に特段の規定はなく,巻上機本体
からはみ出してウインチを設置することも可能であることを考えると,巻上機本体
や作業車の幅までしか,作業車が左右に移動できないとまでいうことはできない。
そして,上記イのとおり,引用発明2は,巻上機本体上のオペレータの操作によ
って,左右のウインチの巻上げ量を変え,処理用作業車を境界線に沿って移動させ
ながら上昇することができるようにした法面処理用作業車の巻上装置の発明であっ
て,左右2台のウインチの巻上げ量を変えることで,この2台のウインチからの作
業車を牽引する2本のワイヤロープの長さを調整することにより,作業車を左右に
移動させるものであるとの発明であること自体が否定されるものではなく,特に,
引用発明2においては,引用例2の記載において特段規定されていないウインチ同
士の間隔を広げることによって,作業車を左右に大きく移動させることもできると
ころのものであって,引用発明2につき,左右のウインチを作動させ,ワイヤロー
プの長さを調整することによって,左右方向に作業車を移動させるものではないと
する原告の主張は,ウインチ同士の間隔を引用例2の図面のものに限定する失当な
ものである上に,引用発明2においては,作業車が左右に移動するものであること
自体を看過するものであって,採用することができない。

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(3) 本件発明1と引用発明との対比判断について
ア 原告は,本件発明は,法面の左右方向の広い範囲にわたって加工機械を移動
させることができる点に特徴があるのであって,このような広範囲の移動を実現す
るための必須要件は,引用例1及び2のいずれにも記載されておらず,引用発明1
及び2から本件発明を想到することはできないと主張する。
イ しかしながら,前記(1)のとおり,引用発明1は,主ワイヤー及び左右の2
本のワイヤーの3本によって台車がつながれており,左右のワイヤーは台車の左右
方向への移動を受け持つことによって,台車の左右方向を含めた広大な補強面の移
動が行われるものであるところ,この引用発明1に,前記(2)のとおりの2台のウ
インチを作動させてワイヤロープの巻上げ量を変えながら作業車を境界線に沿って


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左右に移動させることができるようにするとの引用発明2を適用することにより,
当業者において,引用発明1の「左,中,右」の3つのアンカー及びウインチを,
「左右」の2つのアンカー及びウインチとすることに困難はなく,本件発明1の相
違点2に係る構成に至ることは容易に想到し得たものということができる。
引用発明1及び2に係る原告の主張は上記(1)及び(2)のとおり採用することがで
きず,相違点2に係る原告の主張も採用することができない。
(4) 小括
したがって,相違点2に係る本件発明1の構成は,引用発明1及び2に基づいて
当業者が容易に想到することができたものということができ,取消事由は理由がな
い。

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2 本件発明4,5について
原告は,本件発明4,5が無効とされるべきであるとした本件審決の判断に係る
取消事由を主張しない。
3 結論
以上の次第であるから,本件請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣




H230328現在のコメント


(知財高裁平成23年3月24日判決(平成22年(行ケ)第10244号審決取消請求事件))

容易想到性の事実認定判決です。

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Last Update: 2011-03-28 17:29:15 JST

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