2011年2月28日月曜日

特許:【特許法171条2項により準用される民訴法338条2項の要件】「解釈」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10387号審決取消請求事件))






特許:【特許法171条2項により準用される民訴法338条2項の要件】「解釈」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10387号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第3部「飯村敏明コート」


平成22(行ケ)10387 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年02月28日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10387号審決取消請求事件))

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【特許法171条2項により準用される民訴法338条2項の要件】「解釈」(最高裁判決引用)




判示



当裁判所の判断

原告は,「原審決には虚偽の記述がある。刑法156条所定の虚偽公文書作成罪(有印)に該当する疑いがある。よって,原審決には,民訴法338条1項4号及び同条2項所定の再審の事由がある。そうであるのに,本件再審審決は,特許法173条1項の再審の請求期間に係る判断を誤り(取消事由1),民訴法338条2項に係る判断を誤り(取消事由2),その結果,本件再審請求を却下したから,取り消されるべきである。」旨主張する。

しかし,原告の主張は,採用の限りでない。その理由は,次のとおりである。

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(1)

事案に鑑み,民訴法338条2項に係る判断の誤り(取消事由2)から判断する。

民訴法上の再審の訴えにおいては,民訴法338条1項4号に掲げる事由がある場合においては,「罰すべき行為について,有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき,又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り,再審の訴えを提起することができる。」(民訴法338条2項)と定められており,この要件は,再審の訴えを,再審事由の存在する蓋然性が顕著な場合に限定して濫訴の弊害を防止しようとする趣旨によるものであると解されるから,この要件を欠くときには,再審の訴え自体が不適法となり,同条1項4号の再審事由自体の有無の判断に立ち入るまでもなく,再審の訴えは却下を免れないものであると解される(最高裁判所昭和44年(オ)第793号昭和45年10月9日第二小法廷判決参照)。

そうすると,拒絶査定不服審判の確定審決に対する再審についても,これと同様に,特許法171条2項により準用される民訴法338条2項の要件を欠くときには,再審の請求自体が不適法となり,同条1項4号の再審事由自体の有無の判断に立ち入るまでもなく,再審の請求は,却下を免れないものである。

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(2)

これを本件についてみると,原告が主張する原審決に係る民訴法338条1項4号にいう「職務に関する罪」に関しては,「有罪の判決若しくは過料の裁判が確定した」ものではないことについて,当事者間に争いがない。また,「証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないとき」に当たると認めるに足りる証拠もない。そうすると,本件再審請求は,特許法171条2項が準用する民訴法338条2項の適法性要件を欠くものであるといわざるを得ない。

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(3)

よって,本件再審請求は,「不適法な審判の請求であって,その補正をすることができないもの」として,これを却下するのが相当である(特許法174条1項,135条)。よって,これと同じ本件再審審決の結論に誤りはない。

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縮小版(最高裁判決引用)



「民訴法上の再審の訴えにおいては,民訴法338条1項4号に掲げる事由がある場合においては,「罰すべき行為について,有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき,又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り,再審の訴えを提起することができる。」(民訴法338条2項)と定められており,この要件は,再審の訴えを,再審事由の存在する蓋然性が顕著な場合に限定して濫訴の弊害を防止しようとする趣旨によるものであると解されるから,この要件を欠くときには,再審の訴え自体が不適法となり,同条1項4号の再審事由自体の有無の判断に立ち入るまでもなく,再審の訴えは却下を免れないものであると解される(最高裁判所昭和44年(オ)第793号昭和45年10月9日第二小法廷判決参照)。」(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10387号審決取消請求事件))

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Last Update: 2011-03-03 14:52:54 JST

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商標:【商標法53条1項の「登録商標・・・に類似する商標の使用であつて・・・役務の質の誤認・・・を生ずるもの」】「解釈」「事実認定」,【類否判断】「事実認定」:(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10157号審決取消請求事件))






商標:【商標法53条1項の「登録商標・・・に類似する商標の使用であつて・・・役務の質の誤認・・・を生ずるもの」】「解釈」「事実認定」,【類否判断】「事実認定」:(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10157号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第3部「飯村敏明コート」


平成22(行ケ)10157 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
平成23年02月28日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10157号審決取消請求事件))

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【商標法53条1項の「登録商標・・・に類似する商標の使用であつて・・・役務の質の誤認・・・を生ずるもの」】「解釈」




判示



審決の理由

別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりである。

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(1)

補助参加人らは,本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるとはいえない。

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(2)

補助参加人Bの使用標章は,本件商標と同一又はこれと類似する商標であるとはいえない。

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(3)

使用標章,結合標章について,補助参加人Bによる商標としての使用があったとは認められない。

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(4)

補助参加人Bが,本件商標の役務の質の誤認を生じさせたとは認められない。

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(5)

そうすると,補助参加人Bによる使用標章,結合標章の使用は,商標法53条1項の要件を欠くので,本件商標の登録は取り消すことはできない。



商標法53条1項本文は,

「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定する。同規定には,その要件として,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされること,及び役務の質の誤認を生ずるものをしたことが挙げられている。したがって,同項の要件に該当するというためには,一般的抽象的に,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされた事実が存在するのみでは足りず,質の誤認を生じさせると主張されている具体的な役務との関連において,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされた事実が存在することが必要といえる。

この観点から,本件における結合標章2の使用態様について検討すると,甲14の1,2,甲53の1ないし4によれば,補助参加人Bのウェブページには,パッケージソフトやインターネットを通じたソフトウェアの提供に 関する説明,紹介等が記載されていたこと,結合標章2は,同ウェブページの上端に表示されたことが認められるが,同ウェブページは,補助参加人B の製品,サービス等を公衆に向けて一般的に紹介したものであり,原告が補助参加人Bに委託した具体的なコンピュータシステムの開発,作成業務に関連するものではない。そうすると,補助参加人Bのウェブページにおいて結 合標章2が表示された態様は,補助参加人Bが原告に提供した具体的な役務(原告が質が低いと主張する役務)との関連において結合標章2が使用されたものということはできないから,商標法53条1項本文の要件に該当しない。その他,補助参加人Bが,原告に対して提供した役務と具体的な関連性を有する態様で結合標章2を商標として使用していたことを認めるに足りる証拠はない。

以上のとおりであり,結合標章2の使用は,仮に商標的使用に当たるといaう余地があるとしても,役務の質の誤認を生ずるものとはいえず,商標法53条1項の「登録商標・・・に類似する商標の使用であつて・・・役務の質の誤認・・・を生ずるもの」との要件を充たさないから,結合標章2に係る取消事由3は,審決の結論に影響を及ぼす取消事由とはいえない。

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審決の結論の当否について

前記1のとおり,補助参加人Bの使用標章は,本件商標と同一又はこれと類似する商標とはいえないとした審決の判断に誤りはないから,使用標章については,商標法53条1項の「登録商標又はこれに類似する商標の使用」との要件を欠く。

また,前記2(1)のとおり,結合標章1について,補助参加人Bによる商標としての使用があったとは認められないから,商標法53条1項の「登録商標又はこれに類似する商標の使用」との要件を欠く。

さらに,前記2(2)のとおり,仮に,結合標章2について,ウェブページでの使用が商標としての使用に当たるとしても,その使用は,役務の質に誤認を生ずるようなものではないから,商標法53条1項の「登録商標・・・に類似する商標の使用であつて・・・役務の質の誤認・・・を生ずるもの」との要件を欠く。

したがって,

「補助参加人Bによる使用標章,結合標章の使用は,商標法53条1項の要件を欠くので,本件商標の登録は取り消すことはできない」との審決の判断に誤りはないというべきである。

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結論

以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。

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縮小版



「商標法53条1項本文は,「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定する。同規定には,その要件として,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされること,及び役務の質の誤認を生ずるものをしたことが挙げられている。したがって,同項の要件に該当するというためには,一般的抽象的に,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされた事実が存在するのみでは足りず,質の誤認を生じさせると主張されている具体的な役務との関連において,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされた事実が存在することが必要といえる。」(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10157号審決取消請求事件))

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最縮小版



商標法53条1項の「要件に該当するというためには,一般的抽象的に,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされた事実が存在するのみでは足りず,質の誤認を生じさせると主張されている具体的な役務との関連において,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされた事実が存在することが必要といえる。」(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10157号審決取消請求事件))



Last Update: 2011-03-03 15:20:52 JST

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特許:【特許法36条4項1号該当性判断】「事実認定」:(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10320号審決取消請求事件))






特許:【特許法36条4項1号該当性判断】「事実認定」:(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10320号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第3部「飯村敏明コート」


平成22(行ケ)10320 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年02月28日 知的財産高等裁判所 

(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10320号審決取消請求事件))

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【特許法36条4項1号該当性判断】「事実認定」




判示・縮小版なし


取消事由3(本願発明ないし本願補正発明に関し,特許法36条4項1号の要件を満たさないとした判断の誤り)について

本願発明及び本願補正発明について特許法36条4項1号の要件を満たさないと判断する。その理由は,以下のとおりである。


まず,原告は,「審決は,図3と図4を適切に区別せず,又は,仮に区別したとしても,図3,図4と本願発明ないし本願補正発明との技術的対応関係を考慮せず,特許法36条4項1号の要件を満たさないと判断した誤りがある。」と主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

すなわち,審決は,本願発明ないし本願補正発明の技術事項が本願の明細書の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているかを判断するに当たり,「図3は『映像画面における変換範囲の各色情報の位置を示した図』(【図面の簡単な説明】の記載を参照。)とされるものであって,当該図面の記載から,符号10が付された略正方形の図形,当該図形の内側であって符号11が付された直線,当該直線上に符号12が付された略正方形の図形,符号12が付された略正方形の図形,当該図形の内側であって,『CBAabc』との記載と直線状に並んだ複数の略正方形の図形が窺える。さらに,図4は『色情報を高域周波数を用いた波形要素に変換した波形図』(【図面の簡単な説明】の記載を参照。)とされるものであって,横軸を0∼0.1mS(判決注:前記1のとおり,『0∼1mS』の誤記と認める。)とする『ミリ秒』及び『色調(明度,彩度)』とし,縦軸を『色相』とする棒グラフが記載されており,当該グラフの記載から,棒の高さは左から右に向かって,はじめの5本は次第に長くなり,5本目以降は同一の長さであることが窺える。」(審決2頁35行∼3頁11行,5頁10∼21行)と認定した。その上で,審決は,これらの記載をどのように組み合わせると「映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として色波形変換した高域周波数の波形」(本願補正発明)ないし「変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形」(本願発明)が得られるのか具体的に記載されておらず,技術常識を併せみても上記事項が明らかであるとはいえないと判断した。

そうすると,審決は,図3と図4を区別し,図3,図4と本願発明ないし本願補正発明との技術的対応関係を考慮しているというべきであり,その判断過程及び判断内容に誤りはない。また,本願の明細書(乙6)の【図面の簡単な説明】【0016】の記載を勘案して図3と図4を組み合わせたとしても,「色情報」を「高域周波数の波形」に「変換」することの具体的内容を特定する記載がないことに変わりはなく,本願発明ないし本願補正発明に関する明細書が特許法36条4項1号の要件を満たすとはいえない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。


次に,原告は,「音の大きさを変化させて所定の音色の波形に変換するシンセサイザー等は慣用技術であり,シンセサイザーの技術分野における波形変換方法から図4の内容を把握して,本願発明ないし本願補正発明の具体的構成を特定することができる。一方,図4の波形は,色相,明度,彩度のそれぞれの色情報に応じて波形(振幅,長さ,傾き)も変わることを意味しており,色情報に応じた波形に変換するという技術的意義を有する。すなわち,図4の内容から,波形のもととなる要素として,色情報の色相,明度,彩度を用いるという技術的意義を把握すれば,波形変換方法について具体的に記載するまでもなく当業者にとって技術的設計事項であるから,本願発明ないし本願補正発明は当業者にとって理解可能である。したがって,図4,技術常識を併せみても,本願発明ないし本願補正発明が特許法36条4項1号の要件を満たさないとした審決の判断は誤りである。」と主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

すなわち,シンセサイザーのような音の大きさを変化させて所定の音色の波形に変換する波形変換方法が慣用技術であるとしても,それは所定の音色の波形を合成するものであり,色情報を音波に変換する技術とは異なるから,シンセサイザーにおける波形変換方法から,図4の内容を把握して,本願発明ないし本願補正発明の具体的構成を理解することはできないというべきである。

また,本願の明細書(乙6)には,「映像色聴方法」について,「画像空間を効率的に色聴し,高速に認識することができる画像認識方法」(段落【0003】),「聴覚から映像画面を色聴できる映像色聴方法」(段落【0004】)との記載があるが,図4の内容から,波形のもととなる要素として,色情報の色相,明度,彩度を用いるという技術的意義を把握できたとしても,そのことによって,当業者において,聴覚から映像画面を認識(色聴)できる「映像色聴方法」を得られるとはいえない。その他,明細書の記載及び図面(乙5,6,8,10)を総合しても,聴覚から映像画面を認識(色聴)できるような色情報の音波への変換方法の具体的内容が特定されているとは認められない。

したがって,図4,技術常識を併せみても,本願発明ないし本願補正発明が特許法36条4項1号の要件を満たさないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張
は理由がない。

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Last Update: 2011-03-03 14:31:03 JST

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特許:【職権審理結果通知の適法性】「解釈」,【特許法36条1項1号の意義】「解釈」,【無効審判請求の審理範囲と容易想到性】「解釈」:(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10221号審決取消請求事件))






特許:【職権審理結果通知の適法性】「解釈」,【特許法36条1項1号の意義】「解釈」,【無効審判請求の審理範囲と容易想到性】「解釈」:(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10221号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第3部「飯村敏明コート」



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【職権審理結果通知の適法性】「解釈」




判示・縮小版なし


職権審理結果通知は,当事者又は参加人が申し立てない理由について審理したときに,その審理の結果を当事者等に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えるものであり(特許法134条の2第3項),意見書の提出を前提としていることからすると,意見書を参酌した上で,その後の審判官の見解が,職権審理結果通知書の記載と変わる場合のあることを予定しているものと認められ,職権審理結果通知書の記載が,審決の結論又は理由を拘束するとの法的根拠はない。

そうすると,本件訂正を拒絶する旨の職権審理結果通知書(甲47)の記載とは結論及び理由を異にして,本件訂正を認める旨の審決が行われたとしても,その点をもって違法ということはできない。

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【特許法36条1項1号の意義】「解釈」




判示



特許法36条1項1号の意義

特許法36条1項1号は,技術を公開した範囲で,公開の代償として独占権を付与するという特許制度の目的に照らし,発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除する趣旨で設けられたものであるから,同号の解釈に当たっては,特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明に記載された技術的事項を超えるか否かを必要かつ合目的的な解釈によって判断すれば足りると解される。



縮小版


「特許法36条1項1号は,技術を公開した範囲で,公開の代償として独占権を付与するという特許制度の目的に照らし,発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除する趣旨で設けられたものであるから,同号の解釈に当たっては,特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明に記載された技術的事項を超えるか否かを必要かつ合目的的な解釈によって判断すれば足りると解される。」(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10221号審決取消請求事件))

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【無効審判請求の審理範囲と容易想到性】「解釈」




判示・縮小版なし



すなわち,本件無効審判においては,甲1ないし8に記載された公知技術に基づく容易想到性が無効審判請求の理由とされており,甲51ないし62の特許公報等は,審判において証拠として提出されておらず,甲51ないし62に記載された公知技術との対比における進歩性欠如等の無効原因は,本件無効審判で審理判断されていないから,その無効原因を本訴において新たに主張することは許されない。また,仮に甲51ないし62の特許公報等に記載された技術が周知技術といえるものであったとしても,それらの特許公報等は,その内容に照らすと,容易想到性を判断するに当たり,本件無効審判で提出されていた甲1ないし8等に記載された公知技術を単に補うにとどまるものではなく,別途,容易想到性を基礎付ける公知技術を示すものと解されるから,その点からしても,甲51ないし62の特許公報等に記載された技術に基づく進歩性欠如等の無効原因を本訴において新たに主張することは許されない。したがって,原告の上記主張は,その前提において,採用することができず,それを前提とするその余の原告の主張も,採用することができない。

なお,甲51ないし62の特許公報等に記載された技術との対比における進歩性欠如等の無効原因は,本件無効審判とは別に,それらの無効原因に基づいて無効審判請求をした場合には,その無効審判において主張することができる。

5 訂正発明2,3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由5)について

原告は,訂正発明2と甲1発明の相違点4,訂正発明3と甲1発明の相違点5に係る技術は,本件特許出願前に頒布された多数の特許公報等(甲13ないし15,18ないし30)に記載された技術常識であるとの主張を前提として,相違点4に係る訂正発明2の構成,相違点5に係る訂正発明3の構成は,このような技術常識に基づいて容易に想到し得たものであると主張し,審決がこれらの構成の容易想到性を否定した判断は誤りであると主張する。また,原告は,審決が,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等を証拠として採用しなかったことは誤りであると主張する。しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することはできない。

すなわち,本件無効審判においては,甲1ないし8に記載された公知技術に基づく容易想到性が無効審判の請求の理由とされていた。他方,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等は,仮にそれらに記載された技術が周知技術といえるものであったとしても,それらの内容に照らすと,相違点4に係る訂正発明2の構成,相違点5に係る訂正発明3の構成の容易想到性を判断するに当たり,甲1ないし8に記載された公知技術を単に補うにとどまるものではなく,それとは別に,容易想到性を基礎付ける公知技術を示すものと解される。

そのため,本件無効審判においては,請求の理由の補正が許されない限り,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等に記載された技術に基づく進歩性欠如等の無効理由を主張することは許されなかった。しかし,相違点4に係る訂正発明2の構成,相違点5に係る訂正発明3の構成は,本件訂正により追加,変更されたものではなかったから,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等に記載された技術に基づく進歩性欠如等の無効理由を追加するとの無効審判請求の理由の補正は,訂正請求によって補正の必要が生じたものではなく,請求の理由の補正として許容される余地はなかった(特許法131条の2第2項1号参照)。したがって,本件無効審判においては,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等に記載された技術に基づく進歩性欠如等の無効理由の判断をすることができなかったものであり,同旨の審決の判断に誤りはない。そして,本件無効審判において,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等に記載された技術に基づく進歩性欠如等の無効理由は審理判断されていないから,その無効理由を本訴において新たに主張することは許されない。なお,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等に記載された技術との対比における進歩性欠如等の無効原因は,本件無効審判とは別に,それらの無効原因に基づいて無効審判請求をした場合には,その無効審判において主張することができる。

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Last Update: 2011-03-03 12:31:21 JST

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……………………………………………………判決末尾top
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特許:【容易想到性】「事実認定」,【本訴に至る経緯】「記載方法」:(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10155号審決取消請求事件))





目 次


特許:【容易想到性】「事実認定」,【本訴に至る経緯】「記載方法」:(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10155号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第3部「飯村敏明コート」



H230303の現在のコメント


(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10155号審決取消請求事件))

(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10154号審決取消請求事件))
とほぼ同じ判示です。
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縮小版なし・判決原文(引用)


(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10155号審決取消請求事件))



第2 争いのない事実等



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1 事案の概要


本訴は,特許第3413191号(発明の名称:半導体パッケージの製造方
法及び半導体パッケージ。以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許の
無効審判(無効2006-80141号)において特許庁が平成22年4月5
日にした「請求項1,3,4及び5についての訂正を認める。特許第3413
191号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決
の取消しを求めるものである。

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2 本訴に至る経緯




(1) 特許庁における手続の経緯等



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ア出願等の経緯



(ア) 親出願等

a 原告は,平成7年3月17日,特許出願をした(特願平7-524537号)。この特許出願については,特許査定及び設定登録がされた(特許第3247384号)。原告は,上記特許出願について,次の優先権主張を行っている。

(a) 優先権主張番号 特願平6-48760号

優 先 日 平成6年3月18日

優先権主張国 日本

(b) 優先権主張番号 特願平6-273469号

優 先 日 平成6年11月8日

優先権主張国 日本

(c) 優先権主張番号 特願平7-7683号

優 先 日 平成7年1月20日

優先権主張国 日本

(d) 優先権主張番号 特願平7-56202号

優 先 日 平成7年3月15日

優先権主張国 日本

b 原告は,前記aの特許出願(特願平7-524537号)の分割出願として,平成13年8月6日,新たな特許出願をした(特願2001-237791号。後記(イ)のとおり,この出願の再度の分割出願として,本件特許の出願が行われた。)。この特許出願については,特許査定がされ,平成14年8月9日,設定登録がされた(特許第3337467号)。

(イ) 本件特許出願と手続補正

a 原告は,前記(ア)bの特許出願(特願2001-237791号)の分割出願として,平成14年5月13日,四つの新たな特許出願をした(特願2002-137359号,特願2002-137360号,特願2002-137361号,特願2002-137362号)。これらの特許出願については,次のとおり,特許査定及び設定登録がされた。

(a) 特願2002-137359号

特許第3413413号

平成15年3月28日設定登録

(b) 特願2002-137360号

特許第3352083号

平成14年9月20日設定登録

(c) 特願2002-137361号

特許第3413191号(本件特許)

平成15年3月28日設定登録

(d) 特願2002-137362号

特許第3352084号

平成14年9月20日設定登録

b 本件特許については,平成14年10月28日付け手続補正書による手続補正が行われた(同補正後の請求項の数は8であった。)。

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イ新規性,進歩性の判断の基準日



本件特許に係る発明の構成要件の記載事項及び後記の訂正請求により訂正が行われたと仮定した場合の訂正後の発明の構成要件の記載事項は,前記ア(ア)a(d)の特願平7-56202号の願書に添付した明細書及び図面において初めて開示された事項であるから,本件特許に係る発明,及び訂正請求により訂正が行われたと仮定した場合の訂正後の発明の新規性,進歩性の判断の基準日は,前記ア(ア)a(d)の特願平7-56202号の出願日である平成7年3月15日(以下「優先権基準日」という。)となる。

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(2) 訂正請求に至る経緯





ア第1次審決と取消訴訟



住友金属鉱山パッケージマテリアルズ株式会社(平成20年11月1日,被告に吸収合併され,同月14日,その旨の登記がされた。)は,平成18年7月31日,本件特許の請求項1に係る発明についての特許の無効審判(無効2006-80141号)を請求した。

特許庁は,平成19年1月22日,上記無効審判請求に係る特許を無効とする旨の審決をした。

原告は,平成19年2月28日,上記審決につき知的財産高等裁判所(以下「知財高裁」という。)に審決取消訴訟を提起した(知財高裁平成19年(行ケ)第10086号)。

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イ訂正審判請求と差戻決定



(ア) 原告は,平成19年4月2日,本件明細書につき訂正審判請求を行ったが,同年6月12日,この訂正審判請求を取り下げた。

(イ) 原告は,平成19年5月28日,本件明細書につき再度の訂正審判請求(訂正2007-390067号)を行った。

(ウ) 知財高裁は,平成19年7月20日,事件を審判官に差し戻すため,前記アの審決を取り消す旨の決定(特許法181条2項)をした。

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ウ訂正請求と訂正審判のみなし取下げ



原告は,差戻し後の無効審判において,平成19年8月6日,本件明細書につき訂正請求を行い,前記イ(イ)の訂正審判請求は取り下げられたものとみなされた(特許法134条の3第4項)。上記訂正請求は,無効審判請求されている請求項1の訂正を請求するとともに,無効審判請求されていない訂正前の請求項2及びその他の請求項の訂正をも請求するものであった。


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エ第2次審決と審決取消訴訟



(ア) 特許庁は,平成20年2月5日,請求項1に係る発明についての特許の無効審判(無効2006-80141号)について,同特許を無効とする旨の審決をした。

(イ) 原告は,平成20年3月13日,上記審決中,請求項1に係る部分についての取消のみを求め,知財高裁に審決取消訴訟を提起した(知財高裁平成20年(行ケ)第10094号)。

(ウ) 知財高裁は,平成20年11月27日,前記(ア)の審決を取り消す旨の判決をした。その判決の理由の要旨は,次のとおりである,

すなわち,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。そうすると,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの一つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない。そして,この理は,特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立特許要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない。前記(ア)の審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項2についての訂正請求が独立特許要件を欠くことのみを理由として,前記ウの平成19年8月6日付け訂正請求は認められないとした上で,請求項1に係る発明についての特許を無効と判断したのであるから,前記(ア)の審決には,上記説示した点に反する違法がある。

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オ 無効審判と訂正請求



(ア) 前記エ(ウ)の審決取消後の無効審判において,平成21年6月9日付け無効理由通知(甲35)がされ,原告は,同年7月13日付け訂正請求書(甲34)により,特許請求の範囲につき訂正(以下「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書を「訂正明細書」という。)を請求した。請求項1,2に係る本件訂正の内容は,請求項1,2を次のとおりに訂正するというものであった(以下,本件訂正後の請求項1記載の発明を「本件発明」といい,本件訂正後の請求項2記載の発明を「本件訂正発明2」という。)。

a 本件発明

「それぞれ半導体素子を搭載するための,複数個の半導体素子実装基板部と,

上記半導体素子実装基板部間を連結するための連結部と,

位置合わせマーク部とを備えるBGA用の半導体素子実装用フレキシブル基板において,

半導体素子搭載領域,上記半導体素子搭載領域の外側の樹脂封止用半導体パッケージ領域,及び上記樹脂封止用半導体パッケージ領域に設けられるワイヤボンディング端子と,上記半導体素子搭載領域に設けられる外部接続端子とを含む配線並びに絶縁性支持体を備え,上記配線は銅箔から形成される配線であって,上記絶縁性支持体の半導体素子を搭載する面側のみに1層あり,上記配線は,ワイヤボンディング端子と,外部接続端子とを上記絶縁性支持体上に形成される配線の一部として備え,

上記外部接続端子は上記配線の上記絶縁性支持体側の面に備えられ,

上記ワイヤボンディング端子はその反対側の面に備えられ,

上記外部接続端子の形成される箇所の上記絶縁性支持体に,上記外部接続端子に達する開口部が設けられ,上記開口部の半導体素子を搭載する面側は,上記外部接続端子で覆われており,

上記開口部形成後,上記配線の露出している面がニッケル金めっきされてなり,

上記絶縁性支持体はポリイミドフィルムであって,上記開口部の側壁に上記絶縁性支持体が露出しており,

上記連結部は導電層を有することを特徴とするBGA用の半導体素子実装用フレキシブル基板。」

b 本件訂正発明2

「上部導電層と上記配線とが同一材料からなることを特徴とする請求項1記載のBGA用の半導体素子実装用フレキシブル基板。」

(イ) 特許庁は,平成22年4月5日,「請求項1,3,4及び5についての訂正を認める。特許第3413191号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下,単に「審決」という場合は,この審決を指す。)をし,その謄本は,同年4月15日,原告に送達された。

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判決原文(全文)




平成22(行ケ)10155 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成23年02月28日 知的財産高等裁判所



  • 1 -




平成23年2月28日判決言渡平成22年(行ケ)第10155号審決取消請求事件


平成22年12月28日口頭弁論終結



判 決


原 告 日立化成工業株式会社
訴訟代理人弁理士 長谷川 芳 樹
同 阿 部 寛
同 池 田 正 人
同 城 戸 博 兒
同 清 水 義 憲
訴訟代理人弁護士 尾 関 孝 彰
被 告 住友金属鉱山株式会社
訴訟代理人弁理士 伊 東 忠 彦
同 佐々木 定 雄
同 大 貫 進 介
同 山 口 昭 則
訴訟代理人弁護士 中 川 康 生
同 山 川 博 光



主 文



1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。



事実及び理由



  • 2 -




第1 請求



特許庁が無効2006-80141号事件について平成22年4月5日にした審決を取り消す。

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第2 争いのない事実等



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1 事案の概要


本訴は,特許第3413191号(発明の名称:半導体パッケージの製造方
法及び半導体パッケージ。以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許の
無効審判(無効2006-80141号)において特許庁が平成22年4月5
日にした「請求項1,3,4及び5についての訂正を認める。特許第3413
191号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決
の取消しを求めるものである。

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2 本訴に至る経緯




(1) 特許庁における手続の経緯等



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ア出願等の経緯



(ア) 親出願等

a 原告は,平成7年3月17日,特許出願をした(特願平7-524537号)。この特許出願については,特許査定及び設定登録がされた(特許第3247384号)。原告は,上記特許出願について,次の優先権主張を行っている。

(a) 優先権主張番号 特願平6-48760号

優 先 日 平成6年3月18日

優先権主張国 日本

(b) 優先権主張番号 特願平6-273469号

優 先 日 平成6年11月8日

優先権主張国 日本

(c) 優先権主張番号 特願平7-7683号

優 先 日 平成7年1月20日

優先権主張国 日本

(d) 優先権主張番号 特願平7-56202号

優 先 日 平成7年3月15日

優先権主張国 日本

b 原告は,前記aの特許出願(特願平7-524537号)の分割出願として,平成13年8月6日,新たな特許出願をした(特願2001-237791号。後記(イ)のとおり,この出願の再度の分割出願として,本件特許の出願が行われた。)。この特許出願については,特許査定がされ,平成14年8月9日,設定登録がされた(特許第3337467号)。

(イ) 本件特許出願と手続補正

a 原告は,前記(ア)bの特許出願(特願2001-237791号)の分割出願として,平成14年5月13日,四つの新たな特許出願をした(特願2002-137359号,特願2002-137360号,特願2002-137361号,特願2002-137362号)。これらの特許出願については,次のとおり,特許査定及び設定登録がされた。

(a) 特願2002-137359号

特許第3413413号

平成15年3月28日設定登録

(b) 特願2002-137360号

特許第3352083号

平成14年9月20日設定登録

(c) 特願2002-137361号

特許第3413191号(本件特許)

平成15年3月28日設定登録

(d) 特願2002-137362号

特許第3352084号

平成14年9月20日設定登録

b 本件特許については,平成14年10月28日付け手続補正書による手続補正が行われた(同補正後の請求項の数は8であった。)。

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イ新規性,進歩性の判断の基準日



本件特許に係る発明の構成要件の記載事項及び後記の訂正請求により訂正が行われたと仮定した場合の訂正後の発明の構成要件の記載事項は,前記ア(ア)a(d)の特願平7-56202号の願書に添付した明細書及び図面において初めて開示された事項であるから,本件特許に係る発明,及び訂正請求により訂正が行われたと仮定した場合の訂正後の発明の新規性,進歩性の判断の基準日は,前記ア(ア)a(d)の特願平7-56202号の出願日である平成7年3月15日(以下「優先権基準日」という。)となる。

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(2) 訂正請求に至る経緯





ア第1次審決と取消訴訟



住友金属鉱山パッケージマテリアルズ株式会社(平成20年11月1日,被告に吸収合併され,同月14日,その旨の登記がされた。)は,平成18年7月31日,本件特許の請求項1に係る発明についての特許の無効審判(無効2006-80141号)を請求した。

特許庁は,平成19年1月22日,上記無効審判請求に係る特許を無効とする旨の審決をした。

原告は,平成19年2月28日,上記審決につき知的財産高等裁判所(以下「知財高裁」という。)に審決取消訴訟を提起した(知財高裁平成19年(行ケ)第10086号)。

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イ訂正審判請求と差戻決定



(ア) 原告は,平成19年4月2日,本件明細書につき訂正審判請求を行ったが,同年6月12日,この訂正審判請求を取り下げた。

(イ) 原告は,平成19年5月28日,本件明細書につき再度の訂正審判請求(訂正2007-390067号)を行った。

(ウ) 知財高裁は,平成19年7月20日,事件を審判官に差し戻すため,前記アの審決を取り消す旨の決定(特許法181条2項)をした。

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ウ訂正請求と訂正審判のみなし取下げ



原告は,差戻し後の無効審判において,平成19年8月6日,本件明細書につき訂正請求を行い,前記イ(イ)の訂正審判請求は取り下げられたものとみなされた(特許法134条の3第4項)。上記訂正請求は,無効審判請求されている請求項1の訂正を請求するとともに,無効審判請求されていない訂正前の請求項2及びその他の請求項の訂正をも請求するものであった。


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エ第2次審決と審決取消訴訟



(ア) 特許庁は,平成20年2月5日,請求項1に係る発明についての特許の無効審判(無効2006-80141号)について,同特許を無効とする旨の審決をした。

(イ) 原告は,平成20年3月13日,上記審決中,請求項1に係る部分についての取消のみを求め,知財高裁に審決取消訴訟を提起した(知財高裁平成20年(行ケ)第10094号)。

(ウ) 知財高裁は,平成20年11月27日,前記(ア)の審決を取り消す旨の判決をした。その判決の理由の要旨は,次のとおりである,

すなわち,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。そうすると,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの一つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない。そして,この理は,特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立特許要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない。前記(ア)の審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項2についての訂正請求が独立特許要件を欠くことのみを理由として,前記ウの平成19年8月6日付け訂正請求は認められないとした上で,請求項1に係る発明についての特許を無効と判断したのであるから,前記(ア)の審決には,上記説示した点に反する違法がある。

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オ 無効審判と訂正請求



(ア) 前記エ(ウ)の審決取消後の無効審判において,平成21年6月9日付け無効理由通知(甲35)がされ,原告は,同年7月13日付け訂正請求書(甲34)により,特許請求の範囲につき訂正(以下「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書を「訂正明細書」という。)を請求した。請求項1,2に係る本件訂正の内容は,請求項1,2を次のとおりに訂正するというものであった(以下,本件訂正後の請求項1記載の発明を「本件発明」といい,本件訂正後の請求項2記載の発明を「本件訂正発明2」という。)。

a 本件発明

「それぞれ半導体素子を搭載するための,複数個の半導体素子実装基板部と,

上記半導体素子実装基板部間を連結するための連結部と,

位置合わせマーク部とを備えるBGA用の半導体素子実装用フレキシブル基板において,

半導体素子搭載領域,上記半導体素子搭載領域の外側の樹脂封止用半導体パッケージ領域,及び上記樹脂封止用半導体パッケージ領域に設けられるワイヤボンディング端子と,上記半導体素子搭載領域に設けられる外部接続端子とを含む配線並びに絶縁性支持体を備え,上記配線は銅箔から形成される配線であって,上記絶縁性支持体の半導体素子を搭載する面側のみに1層あり,上記配線は,ワイヤボンディング端子と,外部接続端子とを上記絶縁性支持体上に形成される配線の一部として備え,

上記外部接続端子は上記配線の上記絶縁性支持体側の面に備えられ,

上記ワイヤボンディング端子はその反対側の面に備えられ,

上記外部接続端子の形成される箇所の上記絶縁性支持体に,上記外部接続端子に達する開口部が設けられ,上記開口部の半導体素子を搭載する面側は,上記外部接続端子で覆われており,

上記開口部形成後,上記配線の露出している面がニッケル金めっきされてなり,

上記絶縁性支持体はポリイミドフィルムであって,上記開口部の側壁に上記絶縁性支持体が露出しており,

上記連結部は導電層を有することを特徴とするBGA用の半導体素子実装用フレキシブル基板。」

b 本件訂正発明2

「上部導電層と上記配線とが同一材料からなることを特徴とする請求項1記載のBGA用の半導体素子実装用フレキシブル基板。」

(イ) 特許庁は,平成22年4月5日,「請求項1,3,4及び5についての訂正を認める。特許第3413191号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下,単に「審決」という場合は,この審決を指す。)をし,その謄本は,同年4月15日,原告に送達された。

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3 特許請求の範囲



訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載(本件発明)は,前記2(2)オ(ア)aのとおりである。

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4 審決の理由



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(1) 別紙審決書写しのとおりであり,請求項1に係る部分の要旨は,次のとおりである。



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ア訂正の適否について



請求項1に係る本件訂正は,平成6年改正前特許法134条2項ただし書に適合し,特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法126条2項の規定に適合するので,訂正を認める。

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イ本件発明についての特許の無効について



本件発明は,本件訂正発明2において「上記導電層と上記配線とが同一材料からなる」旨の限定がないものである。そして,本件訂正発明2は,引用刊行物1(特開昭61-177759号公報,甲1〔審判甲25〕)記載の発明(以下「引用刊行物1発明」という。)及び周知又は公知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明についても,引用刊行物1発明及び周知又は公知の技術に基づいて,

当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,特許法123条1項2号に該当する。



(2) 審決が,本件発明に進歩性がないとの結論を導く過程において認定した引用刊行物1発明の内容,本件訂正発明2と引用刊行物1発明の一致点,相違点は,次のとおりである。



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ア引用刊行物1発明の内容



「ガラスエポキシ基板により構成されるベース1に,半導体素子3の搭載される領域と,その外側にSi系ゲル9により被覆される領域を有し,ベース1の半導体素子3を搭載する面側のみに,メタライズ層6からなる複数の配線が設けられ,メタライズ層6はコネクタワイヤボンディング部とアウターリード4に接続する端子とを配線の一部とした配線パターンを備え,コネクタワイヤボンディング部はSi系ゲル9により被覆される領域のメタライズ層6の上面に設けられ,アウターリード4に接続する端子は半導体素子3の搭載領域のメタライズ層6の下面に設けられ,アウターリード4に接続する端子の形成される箇所のベース1にこの端子に達するスルホールが穿設され,スルホールの半導体素子3を搭載する面側がメタライズ層6で覆われている半導体素子搭載用基板。」の発明。

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イ本件訂正発明2と引用刊行物1発明の一致点



「半導体素子実装基板部は,半導体素子搭載領域,上記半導体素子搭載領域の外側の樹脂封止用半導体パッケージ領域,及び上記樹脂封止用半導体パッケージ領域に設けられるワイヤボンディング端子と,上記半導体素子搭載領域に設けられる外部接続端子とを含む配線並びに絶縁性支持体を備え,

上記配線は,上記絶縁性支持体の半導体素子を搭載する面側のみにあり,

上記配線は,ワイヤボンディング端子と,外部接続端子とを上記絶縁性

支持体上に形成される配線の一部として備え,

上記ワイヤボンディング端子はその反対側の面に備えられ,

上記外部接続端子の形成される箇所の上記絶縁性支持体に,上記外部接続端子に達する開口部が設けられ,上記開口部の半導体素子を搭載する面側は,上記外部接続端子で覆われている

ことを特徴とする半導体素子実装用基板」である点。

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ウ本件訂正発明2と引用刊行物1発明の相違点



(ア) 相違点(ア)

本件訂正発明2では,1層の銅箔から形成された配線を用いているのに対し,引用刊行物1発明では,めっきや蒸着などにより形成されたメタライズ層を用いている点。

(イ) 相違点(イ)

本件訂正発明2では,絶縁性支持体がポリイミドフィルムで構成され,絶縁性支持体の開口部の側壁に上記絶縁性支持体が露出したフレキシブル基板であるのに対し,引用刊行物1発明では,ベース(絶縁性支持体)がガラスエポキシで構成され,スルホール(開口部)の側壁にベースが露出しているか否か明記していない点。

(ウ) 相違点(ウ)

本件訂正発明2では,複数個の半導体素子実装基板部を備えているのに対し,引用刊行物1発明では,これらを複数個備えていることを明記していない点。

(エ) 相違点(エ)

本件訂正発明2では,半導体素子実装基板部間を連結するための連結部,位置合わせマーク部を備えているのに対し,引用刊行物1発明では,それらを備えているか否かを明記していない点。

(オ) 相違点(オ)

本件訂正発明2では,連結部が導電層を有するのに対し,引用刊行物1発明では,連結部に関する記載がない点。

(カ) 相違点(カ)

本件訂正発明2では,BGA用の基板であるのに対し,引用刊行物1発明では,PGA用の基板である点。

(キ) 相違点(キ)

本件訂正発明2では,開口部形成後,上記ワイヤボンディング端子の表面にニッケル金めっきされるのに対し,引用刊行物1発明では,それが明記されていない点。

(ク) 相違点(ク)

本件訂正発明2では,導電層と配線層とが同一材料からなるのに対し,引用刊行物1発明では,それが明記されていない点。

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第3 取消事由に関する原告の主張


審決には,引用刊行物1発明の認定の誤り及びそれに伴う一致点の認定の誤
り(取消事由1),一致点の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由2),相違
点(イ)(絶縁性支持体の構成,開口部側壁への絶縁性支持体の露出)に係る容易
想到性の判断の誤り(取消事由3),相違点(カ)(BGA用の基板とPGA用の
基板の相違)に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由4)があるから,違法
として取り消されるべきである。
1 引用刊行物1発明の認定の誤り及びそれに伴う一致点の認定の誤り(取消事
由1)
審決が,引用刊行物1発明について,「・・・メタライズ層6は・・・アウタ
ーリード4に接続する端子とを配線の一部とした配線パターンを備え,・・・ア
ウターリード4に接続する端子の形成される箇所のベース1にこの端子に達す
るスルホールが穿設され,スルホールの半導体素子3を搭載する面側がメタラ
イズ層6で覆われている半導体素子搭載用基板」とした認定は誤りであり,そ
の認定を前提とした一致点の認定も誤りである。その理由は,以下のとおりで
ある。


  • 12 -


(1) アウターリード4に接続する端子の存否
引用刊行物1発明に係る基板において,メタライズ層6は,アウターリー
ド4に接続する端子を備えていない。
すなわち,引用刊行物1には,「上記メタライズ層6と,アウターリード4
とを,ベース1に穿設されたスルホールを介して電気的に接続している。」と
記載されており(甲1,2頁右下欄1ないし3行),この記載からすると,メ
タライズ層6とアウターリード4とは,ベース1に穿設されたスルホールを
介して,すなわち,スルホールを間において,間接的に電気的に接続されて
いるものと解される。
ガラスエポキシ基板を用いたPGA半導体素子搭載用基板の技術分野にお
いて,スルホール表面(「スルホール表面」とは,「スルホールの側壁の表面」
との意味である。)にめっき等の導電層が形成され,ガラスエポキシ基板の表
面に設けられた配線(メタライズ層)とリードピン(アウターリード)が,
スルホール表面に形成された導電層を介して電気的に接続されることは,周
知の技術である(甲44ないし47)。
そうすると,アウターリード4が挿入されていない基板において,スルホ
ール表面に形成されためっき等の導電層が,アウターリード4が挿入されて
外部と接続する端子に該当する。したがって,メタライズ層6は,アウター
リード4に接続する端子を備えていない。
なお,被告は,乙13ないし16には,絶縁性支持体(ベース)の開口部
(スルホール)にピン状のアウターリードを固定する際に,開口部(スルホ
ール)の側面にめっきがされていないことが開示されていると主張するが,
以下のとおり,このような被告の主張に理由はない。
すなわち,乙13は,ピンを貫通孔内で金ろうにより固定し,乙14は,
ピンを貫通孔内で銀ろうにより固定するという特殊な手段を用いたものであ
るところ,甲52の図5.1によれば,金ろうの溶融温度は650℃以上,


  • 13 -


銀ろうの溶融温度は600℃以上であるから,耐熱性の点から,乙13,1
4記載の技術事項をガラスエポキシ基板やポリイミドフィルムのような有機
基板に適用することはできない。また,乙15記載の半導体装置のパッケー
ジは,TBAフィルムのスルーホール内に樹脂により導電ピンを固定すると
いう特殊な手段(複数の製造工程を経る構成)を用いたものであり,乙16
記載のピングリッドアレイは,合成樹脂の基板1を成形する際にピンの基部
を基板内に埋入させるものであり,基板1を貫通するスルホールがないもの
である。さらに,乙13ないし16は,引用刊行物1に記載されたような,
リジッドなガラスエポキシ基板のスルホールに,スルホール内径と同じ太さ
のリードピン(アウターリード)を挿入したPGA半導体素子搭載用基板と
は異なるものである。したがって,乙13ないし16が存在するからといっ
て,引用刊行物1発明に適用可能な,開口部(スルホール)の側面にめっき
のない構成が公知であったとはいえず,引用刊行物1の「上記メタライズ層
6と,アウターリード4とを,ベース1に穿設されたスルホールを介して電
気的に接続している。」(甲1,2頁右下欄1ないし3行)との記載に接した
当業者が,アウターリード4が,スルホール表面に形成された導電層を介さ
ず,メタライズ層6と直接電気的に接続していると理解することはない。
(2) 外部接続端子によるスルホールの被覆の有無
引用刊行物1発明に係る基板は,その製造工程に照らし,スルホールの半
導体素子3が搭載される面側がアウターリード4に接続する端子で覆われる
ことはないし,引用刊行物1の第1図に基づいて,スルホールの半導体素子
3が搭載される面側がメタライズ層6で覆われると認定することはできない。
その理由は,以下のとおりである。
ア製造工程について
(ア)a 引用刊行物1には,「ベース1は例えばガラスエポキシ基板により
構成される」(甲1,2頁右上欄15ないし16行),「ベース1には,


  • 14 -


第1図にはメタライズ層(配線層)6がメッキ,蒸着などにより設け
られており」(甲1,2頁左下欄16ないし17行),「上記メタライ
ズ層6は,例えばAlより構成される」(甲1,2頁右下欄6ないし
7行)と記載されている。これらの記載によれば,引用刊行物1発明
のメタライズ層6は,ガラスエポキシ基板により構成されるベース1
に,Alをメッキ,蒸着などして設けるものである。
また,引用刊行物1には,「アウターリード4は,ベース1に融点の
高い半田により,半田付される」(甲1,2頁右下欄4ないし5行)と
記載されているが,引用刊行物1発明はベース1がガラスエポキシ基
板であるので,アウターリード4をベース1に直接はんだ(以下,引
用部分以外は,原則として「はんだ」と表記する。)付けすることはで
きない。ベースとしてガラスエポキシ基板を用いたPGA基板の場合,
通常は導電層をガラスエポキシ基板下部表面にも形成し,この導電層
にアウターリードがはんだ付けされる(甲44,49)から,引用刊
行物1発明においても,導電層をガラスエポキシ基板下部表面にも形
成し,この導電層にアウターリードがはんだ付けされる。
そうすると,引用刊行物1発明に係るPGA基板は,ベース1に穴
加工を施し,更にベース1表面にレジストを形成した後,穴内面及び
ベース1の露出した部分にメッキ,蒸着等で導電層,メタライズ層6
を形成する工程で製造されると解され,この場合,穴の開口部上面を
覆うようにメタライズ層6を形成することはできない。
b 一般的なPGA基板は,両面銅箔付き積層板に穴加工を施した後,
穴内面及び銅箔表面にメッキ等で導電層を形成し,最後にエッチング
により配線を形成する工程で製造されるところ(例えば甲50),この
工程によっても,穴の開口部上面を覆うようにメタライズ層6を形成
することはできない。


  • 15 -


c 仮に,審決の認定どおりであるとすれば,引用刊行物1に記載され
た基板は,ベース1の一面にAlをメッキ又は蒸着してメタライズ層
を形成し,メタライズ層を貫通することなくベース1のみに穴加工を
施し,このメタライズ層に当接するように,アウターリード4を,形
成された穴に打ち込んで製造することになるが,メタライズ層は数μ
mの薄さであって脆弱なものであるから,このような方法で基板を製
造することは,通常はあり得ない。
d そうすると,引用刊行物1発明は,その製造工程に照らすと,アウ
ターリード4に接続する端子の形成される箇所のベース1に,この端
子に達するスルーホールが穿設されることはなく,また,スルホール
の半導体素子3を搭載する面側がメタライズ層6で覆われることはな
い。
(イ) 有機基板にアルミニウムのメッキを施すことは難しく,蒸着でアルミ
ニウムのメタライズ層を設けた場合,厚みが薄くなるところ,アルミニ
ウムは,その融点が銅などに比べて低く,レーザーの熱に耐えられない
から,メタライズ層形成後に穴加工を行って穴の開口部上面を覆うよう
にメタライズ層を形成することは不可能である。
イ引用刊行物1の第1図について
特許出願に際して願書に添付された図面は,特許を受けようとする発明
の内容を明らかにするための説明図にとどまるから,明細書の記載及び技
術常識に反する発明を図面のみから認定することは許されない。
引用刊行物1の第1図は,図面の簡単な説明において,「本発明の実施例
を示す断面図」とされているが,第1図は,どの部分の断面図であるか明
確でない。
また,コネクタワイヤ7をメタライズ層6に接続する位置と,アウター
リード4をメタライズ層6に取り付ける位置の関係をみると,第1図(第


  • 16 -


1図のうち,左右両端の,コネクタワイヤ7 がメタライズ層6の上部に接
続され,アウターリード4がメタライズ層6の下部に取り付けられている
部分)では,両者の位置がほぼ同じであるのに対し,第3図では,両者の
位置がずれており,第1図は,その部材の位置関係を明確に図示していな
い。
さらに,引用刊行物1には,アウターリード4をはんだ付けすることに
ついて明記されているが,そのことは,第1図には図示されていない。
引用刊行物1発明は,アウターリード4の上部にチップを搭載する構成
としたことに特徴があり,第1図は,その構成のみを明確に図示する断面
図であり,その他の部材の位置関係を明確に図示しているとはいえない。
そうすると,引用刊行物1の第1図には,アウターリード4とメタライ
ズ層6の位置関係(接続関係)が明確に図示されているとはいえないから,
引用刊行物1の第1図に基づいて,スルホール上端部がメタライズ層6で
覆われた状態が示されていると認定することはできない。審決が,引用刊
行物1の第1図,第2図のみから,「スルホールの半導体素子3を搭載する
面側がメタライズ層6で覆われている半導体素子搭載用基板」とした認定
は誤りである。
(3) 小括
したがって,審決が,引用刊行物1発明について,「・・・メタライズ層6
は・・・アウターリード4に接続する端子とを配線の一部とした配線パター
ンを備え,・・・アウターリード4に接続する端子の形成される箇所のベース
1にこの端子に達するスルホールが穿設され,スルホールの半導体素子3を
搭載する面側がメタライズ層6で覆われている半導体素子搭載用基板」とし
た認定は誤りである。
また,上記認定を前提として,本件訂正発明2と引用刊行物1発明は,「上
記配線は,・・・外部接続端子とを上記絶縁性支持体上に形成される配線の一


  • 17 -


部として備え,・・・上記外部接続端子の形成される箇所の上記絶縁性支持体
に,上記外部接続端子に達する開口部が設けられ,上記開口部の半導体素子
を搭載する面側は,上記外部接続端子で覆われている」で一致するとした審
決の認定は誤りである。
2 一致点の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由2)
審決が,引用刊行物1発明の「アウターリード4に接続する端子」,「スルホ
ール」が,それぞれ本件訂正発明2の「外部接続端子」,「開口部」に該当する
として,本件訂正発明2と引用刊行物1発明が,外部接続端子,開口部を備え
る点で一致するとした認定は誤りであり,審決は,本件訂正発明2が外部接続
端子,開口部を備えるのに対し,引用刊行物1発明が外部接続端子,開口部を
備えないとの相違点を看過したものである。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,本件訂正発明2は,BGA用の半導体素子搭載用フレキシブル基
板であるから,本件訂正発明2の「外部接続端子」は,はんだボールに接続す
るものである。これに対し,引用刊行物1発明の「アウターリード4に接続す
る端子」は,はんだボールに接続するものではない。そのため,引用刊行物1
発明の「アウターリード4に接続する端子」は,本件訂正発明2の「外部接続
端子」に該当しない。
また,本件訂正発明2は,BGA用の半導体素子搭載用フレキシブル基板で
あるから,本件訂正発明2の「開口部」は,はんだボールが配置され,溶融さ
れるものであり,かつ,外部接続端子で覆われていて,ポリイミドフィルムに
設けられたものであるから,アウターリードを挿入する使い方はできない。こ
れに対し,引用刊行物1発明の「スルホール」は,アウターリードを挿入する
ものである。そのため,引用刊行物1発明の「スルホール」は,本件訂正発明
2の「開口部」に該当しない。
3 相違点(イ)(絶縁性支持体の構成,開口部側壁への絶縁性支持体の露出)に係
る容易想到性の判断の誤り(取消事由3)


  • 18 -


審決が,相違点(イ)に係る本件訂正発明2の構成は容易に想到し得るとした判
断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。
(1) 絶縁性支持体の構成について
審決は,絶縁性支持体の構成について,甲2〔審判甲7〕,甲3〔審判甲8〕,
甲5〔審判甲28〕,甲6〔審判甲35〕,甲7〔審判甲36〕,甲8〔審判甲
6〕,甲9〔審判甲29〕の記載によれば,半導体素子搭載用基板において,
絶縁性支持体をポリイミド(フィルム)で構成されるフレキシブル基板とす
ることは,周知又は公知であったものと認められ,当事者が適宜選択し得る
設計的事項であったといえると判断した。この審決の判断は,アウターリー
ドを挿入する半導体素子搭載用基板(いわゆるPGA基板)において,絶縁
性支持体をポリイミドフィルムで構成することは,当業者が適宜選択し得る
設計的事項であるとするものである。
しかし,審決が周知例として例示した刊行物(甲2,3,5ないし9)に
は,アウターリード(リードピン)を挿入する半導体素子搭載用基板(いわ
ゆるPGA基板)において,①絶縁性支持体をポリイミドフィルムで構成す
ること,又は②絶縁性支持体をポリイミドフィルムで構成してもアウターリ
ード(リードピン)を支持できることは,何ら記載されていない。
したがって,上記刊行物(甲2,3,5ないし9)の記載に基づき,アウ
ターリードを挿入する半導体素子搭載用基板(いわゆるPGA基板)におい
て,絶縁性支持体をポリイミドフィルムで構成することは当業者が適宜選択
し得る設計的事項であるとする審決の判断は,誤りである。
(2) 開口部側壁への絶縁性支持体の露出について
審決は,本件訂正発明2では,絶縁性支持体の開口部の側壁に絶縁性支持
体が露出しているのに対し,引用刊行物1発明では,スルホール(開口部)
の側壁にベースが露出しているか否かを明記していない点について,引用刊
行物1の第1図には,スルホールの側壁にベースが露出した状態でアウター


  • 19 -


リードが設けられた様子が示されており,また,スルホールの半導体素子を
搭載する面側にメタライズ層があれば,電気的導通のためにスルホールの側
壁を(めっき等で)メタライズする必要もないことから,実質的な相違点と
はいえないと判断した。
しかし,前記1(1)のとおり,引用刊行物1発明においては,スルホールの
側壁の表面に導電層が形成されていることは明らかである。そうすると,本
件訂正発明2では絶縁性支持体の開口部の側壁に絶縁性支持体が露出してい
るのに対し,引用刊行物1発明ではスルホールの側壁の表面に導電層が形成
されている点は,本件訂正発明2と引用刊行物1発明の相違点である。した
がって,本件訂正発明2では絶縁性支持体の開口部の側壁に絶縁性支持体が
露出しているのに対し,引用刊行物1発明ではスルホールの側壁にベースが
露出しているか否かを明記していない点は実質的な相違点とはいえないとし
た審決の判断は,誤りである。
4 相違点(カ)(BGA用の基板とPGA用の基板の相違)に係る容易想到性の判
断の誤り(取消事由4)
審決が,相違点(カ)に係る本件訂正発明2の構成は容易に想到し得るとした判
断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。
(1) 審決は,甲17,甲18〔審判周知資料1〕,甲19〔審判周知資料2〕,
甲20〔審判周知資料3〕,甲21〔審判周知資料4〕,甲22〔審判参考資
料12〕,甲23〔審判周知資料5〕,甲24〔審判周知資料6〕,甲25〔審
判周知資料7〕の記載によれば,半導体素子搭載用基板において,引用刊行
物1発明に使用されているようなピンと,はんだボールとが,相互に置換可
能であることは周知又は公知の技術であったものと認められるところ,引用
刊行物1の4頁右上欄20行に,「他のパッケージなどにも適用できる。」と
記載されているのであるから,引用刊行物1発明をBGA用の基板に適用す
ることは,当業者が容易に想到し得たものといえると判断した。また,審決


  • 20 -


は,「被請求人は,・・・引用刊行物1発明をBGA用の基板に適用すること
は当業者が容易に想到し得たものではない旨を主張しているが,・・・絶縁性
支持体としてポリイミド(フィルム)で構成されるフレキシブル基板を選択
することが,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるから,それに伴って,
引用刊行物1発明に使用されているようなピンをはんだボールに置換するこ
とも,上記周知または公知の技術に基づいて当業者が適宜なし得る設計的事
項の範囲にすぎない。」と判断した。
審決の上記判断は,本件訂正発明2の相違点(イ)に係る構成を容易に想到し
得たことを理由として,本件訂正発明2の相違点(カ)に係る構成を容易に想到
し得たと判断するものである。
しかし,前記3のとおり,本件訂正発明2の相違点(イ)に係る構成を容易に
想到し得たとの判断は誤りである。また,相違点(カ)という一つの相違点につ
いて,二段階の容易想到性の判断を経て容易想到と判断している点も誤りで
ある。
(2) 引用刊行物1発明のメタライズ層6は,アルミニウムをベース1にメッキ,
蒸着して形成されているところ,はんだはアルミニウムに付着しないとされ
ているし(甲53,【0004】参照),有機のフラックスを内蔵する特殊な
アルミニウム用はんだを使用すると煩雑な処理が必要となり,簡便に小型・
高密度の半導体パッケージを製造するとの本件訂正発明2の目的に反するこ
ととなる。そのため,引用刊行物1発明において,アウターリード4がメタ
ライズ層6に直接はんだ付けされることはなく,引用刊行物1発明のアウタ
ーリード4に代えてはんだボールを使用することには阻害要因がある。

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第4 被告の反論


審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は,いずれも理由がな
い。
1 引用刊行物1発明の認定の誤り及びそれに伴う一致点の認定の誤り(取消事


  • 21 -


由1)に対し
審決が,引用刊行物1発明について,「・・・メタライズ層6は・・・アウタ
ーリード4に接続する端子とを配線の一部とした配線パターンを備え,・・・ア
ウターリード4に接続する端子の形成される箇所のベース1にこの端子に達す
るスルホールが穿設され,スルホールの半導体素子3を搭載する面側がメタラ
イズ層6で覆われている半導体素子搭載用基板」とした認定に誤りはなく,そ
の認定を前提とした一致点の認定にも誤りはない。その理由は,以下のとおり
である。
(1) アウターリード4に接続する端子の存否
引用刊行物1発明においては,スルホール表面をめっきすることなく,ア
ウターリード4がメタライズ層6に直接接続しており,メタライズ層6は,
アウターリード4に接続する端子を備えている。
引用刊行物1には,メタライズ層6とアウターリード4とが,スルホール
を間において間接的に電気的に接続されているという記載も,スルホール表
面にめっき等で導電層が形成されているという記載もなく,第1図には,ア
ウターリード4の上端がメタライズ層6に直接電気的に接続されている様子
が描かれており,スルホール表面にめっき等がされていることは示されてい
ない。したがって,引用刊行物1の「スルホールを介して」との記載は,第
1図に示されているように,「アウターリード4がスルホールの中を通って」
という意味に解すべきである。
甲44ないし47の図面には,スルホール表面にめっき等があることが図
示されているが,甲44ないし47に記載された基板は,いずれも基板の両
面に配線を設けた両面配線型基板であり,片面配線型の引用刊行物1発明と
は異なる。乙13ないし16には,引用刊行物1発明と同様の片面配線型基
板の場合に,絶縁性支持体(ベース)の開口部(スルホール)にピン状のア
ウターリードを固定する際に,開口部(スルホール)の側面にめっきをする


  • 22 -


ことなく,ピン状のアウターリードが開口部の中を通って,開口部を覆う配
線に結合することが示されている。乙13,14では,ピンを固着する材料
が,金ろう,銀ろうとされているが,基板が有機基板の場合に,貫通孔内に
金属製のピンを挿入し,ろう材のうちでも低温で溶融するはんだを用いて固
定することは,優先権基準日以前から周知であったから,乙13,14には,
引用刊行物1発明と同様の構造の基板において,スルホール表面にめっき等
のない構成が示されているといえる。
引用刊行物1の「アウターリード4は,ベース1に融点の高い半田により,
半田付される。」(2頁右下欄4ないし5行)という記載は,アウターリード
4がガラスエポキシ基板にはんだ付けされるという意味ではなく,アウター
リード4がベース1に設けられたメタライズ層6にはんだ付けされ,その結
果,ベース1に固定されるという意味と考えるのが自然である。
(2) 外部接続端子によるスルホールの被覆の有無
引用刊行物1発明に係る基板においては,メタライズ層6を貫通すること
なくスルホールが形成され,スルホールの半導体素子3が搭載される面側が,
アウターリード4に接続する端子(メタライズ層6のアウターリード4に接
続される部位)により覆われている。
ア製造工程について
(ア) 引用刊行物1発明に係る基板の製造に当たり,メタライズ層6の形成
より穴加工の方を必ず先に行うとは限らず,メタライズ層6の形成と穴
加工のいずれを先に行うかは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であ
る。したがって,引用刊行物1発明に係るPGA基板が,原告が主張す
るように,ベース1に穴加工を施し,穴内面及びベース1の露出した部
分にめっき,蒸着で導電層,メタライズ層6を形成するとの工程で必ず
製造されるとは限らない。
メタライズ層6が数μmの薄さであるという限定は,引用刊行物1に


  • 23 -


はなく,ある程度の厚さがあれば,メタライズ層6を貫通することなく
スルホールを形成することができ,そのことは,乙15,17ないし1
9にも示されている。
(イ) 乙23,24によれば,優先権基準日以前から,ガラスエポキシ基板
やポリイミドフィルム基板にアルミニウムの蒸着等を行った後に,数値
制御切削加工機,レーザーエッチング又は湿式エッチング法を用いて基
板に開孔を形成し得ることは,当業者に周知であった。
イ引用刊行物1の第1図について
引用刊行物1の第1図は,中央にアウターリード4が示されていないこ
とから,第2図の中心を通り,かつアウターリード4を通る面で切った断
面図であることが分かり,アウターリード4の上端がメタライズ層6に接
続している様子を明瞭に示している。
審決は,引用刊行物1の第1図,第2図のみではなく,引用刊行物1の
その他の記載も総合して,引用刊行物1発明につき,「スルホールの半導体
素子3を搭載する面側がメタライズ層6で覆われている半導体素子搭載用
基板」と認定したものであり,その認定に誤りはない。
2 一致点の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由2)に対し
審決が,引用刊行物1発明の「アウターリード4に接続する端子」,「スルホ
ール」が,それぞれ本件訂正発明2の「外部接続端子」,「開口部」に該当する
として,本件訂正発明2と引用刊行物1発明が,外部接続端子,開口部を備え
る点で一致するとした認定に誤りはなく,審決に,相違点を看過した誤りもな
い。
引用刊行物1発明において,PGA基板とBGA基板とを相互に置換する際
に,ピン用の開口部をはんだボール用の開口部へと変更し,またその逆へ変更
することは,当業者が適宜なし得た設計的事項である。ポリイミド等の基板に
もアウターリード4を挿入できることを考慮すると,はんだボール用の開口部


  • 24 -


にアウターリードを挿入できないことなどを理由として本件訂正発明2に進歩
性があるとする原告の主張は,失当である。また,電気信号を外部へ伝えるた
めに外部の部材に接続するものは,それがアウターリードに接続されようと,
はんだボールに接続されようと,外部接続端子であることに変わりはない。
3 相違点(イ)(絶縁性支持体の構成,開口部側壁への絶縁性支持体の露出)に係
る容易想到性の判断の誤り(取消事由3)に対し
審決が,相違点(イ)に係る本件訂正発明2の構成は容易に想到し得るとした判
断に誤りはない。
(1) 絶縁性支持体の構成について
絶縁性支持体としてポリイミドフィルムを用いることは周知又は公知であ
り,引用刊行物1に「他のパッケージなどにも適用できる」(4頁右上欄20
行)と記載されているから,ピンに代えてはんだボールを用いることは,当
業者が容易に想到し得た。したがって,引用刊行物1発明において,ガラス
エポキシPGA基板をポリイミドフィルムBGA基板に置換することは容易
であった。
アウターリードをポリイミドフィルムに挿入するという,引用刊行物1発
明の一部のみを置換した構造が実現できなければ本件訂正発明2は容易想到
でなかったとする原告の主張は理由がないし,仮にそのような構造の実現性
を問題とするとしても,甲13,乙15,16,20,21によれば,半導
体素子搭載用基板において,ポリイミドフィルムである絶縁性支持体にピン
状のアウターリードを固定することは周知であった。
(2) 開口部側壁への絶縁性支持体の露出について
前記1(1)のとおり,引用刊行物1発明においては,スルホール表面をめっ
きすることなく,アウターリード4がメタライズ層6に直接接続しており,
開口部側壁に絶縁性支持体が露出している。したがって,本件訂正発明2で
は絶縁性支持体の開口部の側壁に絶縁性支持体が露出しているのに対し,引


  • 25 -


用刊行物1発明ではスルホールの側壁にベースが露出しているか否かを明記
していない点は実質的な相違点とはいえないとした審決の判断に,誤りはな
い。
4 相違点(カ)(BGA用の基板とPGA用の基板の相違)に係る容易想到性の判
断の誤り(取消事由4)に対し
審決が,相違点(カ)に係る本件訂正発明2の構成は容易に想到し得るとした判
断に誤りはない
(1) 審決は,相違点(カ)について,9件の公知文献を引用し,ピンとはんだボ
ールとが相互に置換可能であることは周知又は公知の技術であると認定し,
引用刊行物1の「他のパッケージなどにも適用できる。」(4頁右上欄20行)
との記載も引用して,引用刊行物1発明をBGA用の基板に適用することは
当業者が容易に想到し得たものであると判断したものであり,二段階の容易
想到性の判断を経て容易想到であると判断したものではない。
審決の「絶縁性支持体としてポリイミド(フィルム)で構成されるフレキ
シブル基板を選択することが,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるか
ら,それに伴って,引用刊行物1発明に使用されているようなピンをはんだ
ボールに置換することも,上記周知または公知の技術に基づいて当業者が適
宜なし得る設計的事項の範囲にすぎない。」との説示は,ポリイミドフィルム
の選択も設計的事項であるし,それとともに,はんだボールに置換すること
も設計的事項であるとの趣旨と解される。
(2) 優先権基準日前から,アルミニウム用はんだが使用されていることは周知
であったから(乙22),はんだがアルミニウムに付着しないとの原告の主張
は誤りであり,したがって,アウターリード4がメタライズ層6に直接はん
だ付けされることはないとの原告の主張も誤りである。

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第5 当裁判所の判断


当裁判所は,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,審決の認定,判


  • 26 -


断に誤りはないと判断する。


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1 引用刊行物1発明の認定の誤り及びそれに伴う一致点の認定の誤り(取消事由1)について



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(1) 引用刊行物1発明の技術的意義


ア引用刊行物1の記載
引用刊行物(甲1)には次の記載がある。
(ア) 「特許請求の範囲
1.パッケージより,アウターリードを垂直に出した半導体装置であっ
て,前記パッケージ本体内の半導体素子の下部にも前記アウターリード
を有して成ることを特徴とする半導体装置。」(1頁左下欄3ないし7行)
(イ) 「従来のプラグインパッケージは,一般に,セラミック基板に,半導
体素子(チップ)を搭載できる溝部を溝設し,該溝部内にチップを搭載
し,セラミック基板の裏面に,多数の金属ピンをろう付けし,パッケー
ジ本体から,垂直方向に,多数の当該金属ピンよりなるアウターリード
を引き出しており,前記チップは当該ピン(アウターリード)の内周よ
りも内側に搭載してなる。すなわち,チップの下部にはアウターリード
は設けられていず,チップの周辺に,アウターリードを配設する構造が
とられている。」(「背景技術」の欄,1頁左下欄14行ないし右下欄4行)
(ウ) 「本発明の目的は,大チップ搭載可能としたプラグインパッケージを
提供することを目的とする。
本発明の他の目的はピン数の増加したプラグインパッケージを提供す
ることを目的とする。
本発明のさらに他の目的は配線の引き回しが容易なプラグインパッケ
ージを提供することを目的とする。
本発明のさらに他の目的はパッケージサイズの小型化を目的とする。」
(「発明の目的」の欄,2頁左上欄7ないし15行)


  • 27 -


(エ) 「本発明では,チップの下部にもアウターリードを垂直に出した構成,
換言すれば,アウターリードを全面に設け,その上部にチップを搭載す
る構成としたので,チップは大なるサイズのものが搭載でき,ピン数も
増加でき,配線引きまわしも容易となり,かつ,パッケージサイズも小
型化可能となる。」(「発明の概要」の欄,2頁右上欄3ないし9行)
(オ) 「第1図に示すように,ベース(基板)1の上に接着材料2により半
導体素子(チップ)3を固着する。
ベース1は例えばガラスエポキシ基板により構成される。」(「実施例」
の欄,2頁右上欄12ないし16行)
(カ) 「基板1には第1図および第2図に示すようにその垂直方向に多数の
アウターリード4が立設されている。
本発明では,これら図に示すように,アウターリード4は半導体素子
3の下部にも立設されている。パッケージ本体5の基板1の裏面から基
盤目状に一定のピッチで,金属ピンよりなるアウターリード4が全面に
わたって突出しており」(「実施例」の欄,2頁左下欄5ないし12行。
なお,「基盤目状」は,「碁盤目状」の誤記と認められる。)
(キ) 「ベース1には,第1図にはメタライズ層(配線層)6がメッキ,蒸
着などにより設けられており,このメタライズ層6と半導体素子3のパ
ッド(図示せず)とを,コネクタワイヤ7により,第1図に示すように,
超音波ボンディングなどの方法によりボンディングし,上記メタライズ
層6と,アウターリード4とを,ベース1に穿設されたスルホールを介
して電気的に接続している。
アウターリード4は,ベース1に融点の高い半田により,半田付され
る。」(「実施例」の欄,2頁左下欄16行ないし右下欄5行)
(ク) 「ベース1上に,ダム8を・・・接合し,このダム8により区画され
たエリア内にSi系ゲル材料をポッティングし,加熱硬化させ,得られ


  • 28 -


たSi系ゲル9により,半導体素子3とコネクタワイヤボンディング部
などを被覆する。」(「実施例」の欄,2頁右下欄9ないし14行)
(ケ) 「第3図は,本発明におけるワイヤボンディングおよびピン間の配線
の要部平面図で,第3図に示すように,半導体素子3のボンディングパ
ッド11とメタライズ層9とをコネクタワイヤ7によりボンディングす
るが,本発明では配線基板1のメタライズ層(配線)9をボンディング
リードとして利用すると,ピン間に引きまわすコネクタワイヤの本数が
少なくでき,その配線が楽になる。」(「実施例」の欄,3頁右下欄1ない
し8行。なお,「メタライズ層9」,「メタライズ層(配線)9」は,「メ
タライズ層6」,「メタライズ層(配線)6」の誤記と認められる。)
(コ) 「アウターリードを,従来のごとく,チップの周辺下部に垂設すると
いう制限を取り払い,全面に一定のピッチで基盤目状に配列し,それら
アウターリードの上部にチップを搭載するようにしたので,チップは大
きなサイズであっても搭載可能である。」(「効果」の欄,3頁右下欄10
ないし15行。なお,「基盤目状」は,「碁盤目状」の誤記と認められる。)
(サ) 「上記のようにアウターリードをベース全面にわたり多数垂設してい
るので,多ピン化が可能である。」(「効果」の欄,4頁左上欄3ないし5
行)
(シ) 「以上の説明では主として本発明者によってなされた発明をプラグイ
ンパッケージに適用した例を示したが,他のパッケージなどにも適用で
きる。」(「産業上の利用分野」の欄,4頁右上欄18ないし20行)
(ス) 引用刊行物1には,図面(第1図,第2図,第3図)が示されている。
イ引用刊行物1発明の技術的意義
前記アの引用刊行物1の記載によれば,引用刊行物1に記載された発明
は,半導体素子を搭載するベース(基板)1にアウターリード4(リード
ピン)を立設した半導体装置(プラグインパッケージ)において,大チッ


  • 29 -


プ搭載可能とし,ピン数の増加(多ピン化)を可能とし,配線の引き回し
を容易にし,パッケージサイズを小型化するという課題を解決するために,
アウターリード4を基板全面に設け,搭載される半導体素子の下部にもア
ウターリード4が立設された構成とした発明であり,アウターリード4の
配置に技術的な特徴を有するものである。そして,引用刊行物1の記載に
基づいて,アウターリード4が立設される前の状態の半導体素子搭載用基
板を認定することができるものと認められ,審決は,引用刊行物1発明と
して,アウターリード4が立設される前の状態の半導体素子搭載用基板を
認定したものと認められる。

top



(2) アウターリード4に接続する端子の存否について


引用刊行物1発明において,メタライズ層6は,アウターリード4に接続
する端子を備えているものと認められる。その理由は,以下のとおりである。
ア引用刊行物1に基づく認定
引用刊行物1には,スルホールに関連して,「上記メタライズ層6と,ア
ウターリード4とを,ベース1に穿設されたスルホールを介して電気的に
接続している。」(2頁右下欄1ないし3行)と記載されており,第1図に
は,ベース(基板)1にメタライズ層(配線層)6が設けられるとともに,
ベース1を貫通するスルホールにアウターリード4(リードピン)が立設
された状態が図示されていることから,少なくとも,スルホールにはアウ
ターリード4が立設され,メタライズ層6とアウターリード4とが電気的
に接続されることが理解できる。しかし,引用刊行物1(図面を含む)に
は,メタライズ層6とアウターリード4との電気的接続の態様やスルホー
ルの構造は,具体的には明示されていない。
前記(1)イのとおり,引用刊行物1の特許請求の範囲に記載された発明は,
半導体装置(プラグインパッケージ)におけるピン数の増加や小型化等の
課題を解決するために,アウターリード4(リードピン)を基板全面に設


  • 30 -


け,搭載される半導体素子の下部にもアウターリード4が立設された構成
としたものであり,アウターリード4の配置に技術的な特徴を有するもの
であって,その技術的意義に照らすと,メタライズ層6とアウターリード
4との電気的接続の態様やスルホールの構造は,発明の構成や作用効果に
直接影響するものではないから,引用刊行物1においてそれらは特に限定
されていないものと解される。
そうすると,引用刊行物1発明は,原告主張のようにスルホール表面に
めっき等で導電層が形成されているものと特定することはできず,メタラ
イズ層6とアウターリード4との電気的接続の態様やスルホールの構造は,
限定されていないものと解される。そして,メタライズ層6とアウターリ
ード4との電気的接続の態様が間接的か直接的かにかかわらず,メタライ
ズ層6は,アウターリード4に電気的に接続されるから,メタライズ層6
は,アウターリード4に電気的に接続される部位として,端子を備えるも
のと認められる。
したがって,引用刊行物1発明に係る基板において,メタライズ層6は,
アウターリード4に接続する端子を備えているものと認められる。
イ原告の主張に対し
原告は,①引用刊行物1の「上記メタライズ層6と,アウターリード4
とを,ベース1に穿設されたスルーホールを介して電気的に接続してい
る。」(甲1,2頁右下欄1ないし3行)との記載からすると,メタライズ
層6とアウターリード4とは,ベース1に穿設されたスルホールを介して,
すなわち,スルホールを間において,間接的に電気的に接続されているも
のと解されること,②ガラスエポキシ基板を用いたPGA半導体素子搭載
用基板の技術分野において,スルホール表面にめっき等の導電層が形成さ
れ,ガラスエポキシ基板の表面に設けられた配線(メタライズ層)とリー
ドピン(アウターリード)が,スルホール表面に形成された導電層を介し


  • 31 -


て電気的に接続することは,周知の技術であること(甲44ないし47)
から,アウターリード4が挿入されていない基板において,スルホール表
面に形成されためっき等の導電層が,アウターリード4が挿入されて外部
と接続する端子に該当するとした上,メタライズ層6は,アウターリード
4に接続する端子を備えていないと主張する。しかし,原告の上記主張は,
以下のとおり,採用することができない。
(ア) 引用刊行物1には,メタライズ層6とアウターリード4とが,スルホ
ールを間において間接的に電気的に接続されているという記載はなく,
スルホール表面にめっき等で導電層が形成されているという記載もない。
引用刊行物1には,「上記メタライズ層6と,アウターリード4とを,
ベース1に穿設されたスルーホールを介して電気的に接続している。」
(甲1,2頁右下欄1ないし3行)との記載があるが,その記載の文言,
引用刊行物1のその余の部分の記載,及び引用刊行物1発明の技術的意
義に照らすならば,上記の記載(甲1,2頁右下欄1ないし3行)によ
り,メタライズ層6とアウターリード4の接続について,スルホールが
導電性を有することにより電気的に接続されているものと限定して解す
ることはできない。
(イ)a また,リードピンが立設される半導体素子搭載用基板として,スル
ホールにあらかじめめっき等で導電層が形成された基板を用いること
は,以下の優先権基準日前に発行された複数の公開公報の記載によれ
ば,周知であったものと認められる。
① 特開平5-21621号公報(発明の名称:半導体装置のパツケ
ージ基板,甲45)
「本発明は,PGAなど,ICチップ等を実装する半導体装置の
パッケージ基板に関するものである。」(【0001】)
「・・・また基板1の数カ所には表裏に貫通するスルーホール1


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2を設けてその内周にスルーホールメッキ12aが形成してある。」
(【0008】)
② 特開平5-21634号公報(発明の名称:半導体装置,甲46)
「本発明は,PGAやQFPなど,ICチップ等を実装した半導
体装置に関するものである。」(【0001】)
「・・・図3の例では,基板1にスルーホール11を設けてスル
ーホール11内のスルーホールメッキ11aを回路3に導通させ,
スルーホール11内に端子ピン12を差し込んで取り付けてあ
る。・・・」(【0002】)
③ 特開平5-21646号公報(発明の名称:半導体装置,甲47)
「本発明は,PGAなど,ICチップ等を実装するパッケージと
して用いられる半導体装置に関するものである。」(【0001】)
「・・・また基板1の数カ所に表裏に貫通するスルーホール11
を設けてその内周にスルーホールメッキ11aが形成してある。」
(【0008】)
b 他方,リードピンが立設される半導体素子搭載用基板として,スル
ホールにあらかじめめっき等で導電層が形成されていない基板を用い
ることも,以下の優先権基準日前に発行された複数の公開公報の記載
によれば,周知であったものと認められる。
① 特開昭63-253657号公報(発明の名称:半導体装置,乙
13)
「本発明は,安価で気密封止が可能な半導体装置に関する。」(1
頁左下欄14ないし15行)
「この気密封止型半導体装置はピングリツドアレイ(PGA)と
呼ばれるもので・・・」(1頁左下欄20行ないし右下欄1行)
「本発明においては,穴開き絶縁基板を使用し,配線層と外部と


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を連絡する導電媒体として,表面に金めつき層を有する金属製のピ
ンを穴開き絶縁基板の貫通孔内に挿入し,その内部で金ロウにより
固着してある。・・・」(2頁右下欄2ないし6行)
② 特開昭63-253658号公報(発明の名称:半導体装置,乙
14)
「本発明は,安価で気密封止が可能な半導体装置に関する。」(1
頁左下欄14ないし15行)
「この気密封止型半導体装置はピングリッドアレイ(PGA)と
呼ばれるもので・・・」(1頁左下欄20行ないし右下欄1行)
「本発明においては,穴開き絶縁基板を使用し,配線層と外部と
を連絡する導電媒体として,金属製のピンを穴開き絶縁基板の貫通
孔内に挿入し,その内部で銀ロウにより固着してある。・・・」(2
頁右下欄2ないし5行)
③ 特開平6-140462号公報(発明の名称:半導体装置のパッ
ケージ,甲17,乙15)
「本発明は,半導体装置のパッケージに関し,特に絶縁フィルム
上に半導体チップを搭載するTAB(Tape Automate
d Bonding)型パッケージに関する。」(【0001】)
「次に,スルーホール3を形成したTABフィルム1の裏面から
露出した配線の部分に,金等の導電ピンを熱圧着等の手段例えば,
予備半田された導電ピン5aを熱圧で接合する方法で接続し,TA
Bフィルム1と垂直方向に立てて接続し,TABフィルム1より1
mm程度の長さで突出させ切断する。次に,スルーホール3に樹脂
6aをポッティングし,導電ピン5aを固定し,これを外部端子と
する。」(【0020】)
c 上記a,bのとおり,スルホールにめっき等で導電層が形成された


  • 34 -


基板を用いることも,導電層が形成されていない基板を用いることも
周知であった。そうすると,スルホールにめっき等で導電層が形成さ
れた基板を用いることが周知であったことから,直ちに,引用刊行物
1発明においても,スルホールにめっき等で導電層が形成されていた
ということはできない。
(ウ) なお,乙13,14には,金ろう,銀ろうを用いることが記載されて
おり,甲52(「電子材料のはんだ付技術」大澤直,昭和63年(198
8年)10月1日第4版発行)の図5.1には,金ろうの溶融温度は6
50℃以上,銀ろうの溶融温度は600℃以上であることが記載されて
いるところ,原告は,乙13,14に記載された技術事項は,耐熱性の
問題から,有機基板には適用不能であると主張する。
しかし,乙22(「エレクトロニクスのはんだ付け」はんだ付技術編集
委員会編,昭和51年1月20日第1版発行)には,(融点が)「通常4
50℃以上になると,硬ろうといい,それ以下の温度のものを,はんだ
とよんでいる」(177頁5ないし6行)と記載され,甲52には,「融
点が450℃以下のろうを『はんだ』(solder)と呼んでいる。」と記載
され,その図5.1には,はんだに属する複数のろう材の構成金属と溶
融温度が示されていることから,ろう材の中で,融点が450℃以下の
ものは「はんだ」と呼ばれており,その構成金属や溶融温度も優先権基
準日前に周知であったものと認められる。そうすると,貫通孔内に金属
製のピンを挿入し,ろう材を用いて固定することが知られていれば,基
板の耐熱性を考慮してろう材を選択し,基板が有機基板の場合に,融点
の低いろう材であるはんだを用いることは,単なる設計的事項であり,
当業者であれば容易に行い得たものと推認される。したがって,乙13,
14も参酌して,スルホールにめっき等で導電層が形成されていない基
板を用いることが公知であったと認定することに誤りはないと解される。


  • 35 -




(3) 外部接続端子によるスルホールの被覆の有無について


引用刊行物1発明において,スルホールの半導体素子3を搭載する面側は,
アウターリード4に接続する端子(メタライズ層6のアウターリード4に電
気的に接続される部位)により覆われているものと認められる。その理由は,
以下のとおりである。
ア引用刊行物1に基づく認定
引用刊行物1には,「基板1には第1図および第2図に示すようにその垂
直方向に多数のアウターリード4が立設されている。本発明では,これら
図に示すように,アウターリード4は半導体素子3の下部にも立設されて
いる。パッケージ本体5の基板1の裏面から基盤目状に一定のピッチで,
金属ピンよりなるアウターリード4が全面にわたって突出しており」(2頁
左下欄5ないし12行。なお,「基盤目状」は,「碁盤目状」の誤記と認め
られる。)と記載されており,第1図及び第2図を参照すると,アウターリ
ード4は,半導体素子3の搭載領域及びその外側のSi系ゲル9により被
覆される領域に立設されていることが認識できる。
また,引用刊行物1には,「ベース1には,第1図にはメタライズ層(配
線層)6がメッキ,蒸着などにより設けられており,・・・上記メタライズ
層6と,アウターリード4とを,ベース1に穿設されたスルホールを介し
て電気的に接続している。」(2頁左下欄16行ないし右下欄3行)と記載
されていることから,メタライズ層6は,ベース1上に形成され,アウタ
ーリード4と電気的に接続されていることが認められ,更に第1図及び第
3図を参照すると,メタライズ層6のアウターリード4との接続部,すな
わち端子は,半導体素子3の搭載領域及びその外側のSi系ゲル9により
被覆される領域のメタライズ層6の下面側にあり,スルホールに立設され
たアウターリード4に接続されていることが認められる。そうすると,ア
ウターリード4が立設される前の状態において,スルホールの半導体素子


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3が搭載される面側は,アウターリード4に接続する端子(メタライズ層
6のアウターリード4に電気的に接続される部位)により覆われているも
のと認められる。
したがって,スルホールは,半導体素子3を搭載する面側が,アウター
リード4に接続する端子(メタライズ層6のアウターリード4に電気的に
接続される部位)によって覆われていると認められる。
イ原告の主張に対し
(ア) 製造工程について
a 原告は,引用刊行物1には,「アウターリード4は,ベース1に融点
の高い半田により,半田付される。」(甲1,2頁右下欄4ないし5行)
と記載されているが,引用刊行物1はベース1がガラスエポキシ基板
であるので,アウターリード4をベース1に直接はんだ付けすること
はできず,そのため,引用刊行物1発明において,導電層をガラスエ
ポキシ基板下部表面にも形成し,この導電層にアウターリードがはん
だ付けされると主張する。しかし,以下のとおり,原告の上記主張は,
採用することができない。
すなわち,引用刊行物1には,アウターリード4をベース1に電気
的に接続することや,ガラスエポキシ基板下部表面に導電層を形成す
ることは,記載されていない。他方,前記(2)イ(イ)b,(ウ)のとおり,
乙13ないし15によれば,基板に設けた穴にリードピンをはんだ等
により固定することは公知であったことが認められる。そうすると,
引用刊行物1の上記記載(甲1,2頁右下欄4ないし5行)は,アウ
ターリード4をベース1に固定することを主な目的とするものと解す
るのが自然であり,導電層をガラスエポキシ基板下部表面にも形成す
ることが記載されているとはいえない。
b また,原告は,「引用刊行物1発明に係るPGA基板は,ベース1に


  • 37 -


穴加工を施し,更にベース1表面にレジストを形成した後,穴内面及
びベース1の露出した部分にメッキ,蒸着等で導電層,メタライズ層
6を形成する工程で製造されると解され,この場合,穴の開口部上面
を覆うようにメタライズ層6を形成することはできない。」,「仮に,審
決の認定どおりであるとすれば,引用刊行物1に記載された基板は,
ベース1の一面にAlをメッキ又は蒸着してメタライズ層を形成し,
メタライズ層を貫通することなくベース1のみに穴加工を施し,この
メタライズ層に当接するようにアウターリード4を,形成された穴に
打ち込んで製造することになるが,メタライズ層は数μmの薄さであ
って脆弱なものであるから,このような方法で基板を製造することは,
通常はあり得ない。」などと主張する。しかし,以下のとおり,原告の
上記主張は,採用することができない。
すなわち,引用刊行物1には,メタライズ層6やスルホールの製造
方法は特定されておらず,特定の製造方法や工程を前提とした原告の
主張は,採用することができない。また,基板に導電層を形成した後,
導電層に達する穴を形成する技術は,以下の優先権主張日前に発行さ
れた複数の公開公報の記載によれば周知であったと認められるから,
穴の開口部上面を覆うようにメタライズ層6を形成することは可能と
解される。メタライズ層が数μmの薄さであるという限定は,引用刊
行物1にはないし,以下の②,③には,導電層の厚さが10μm,1
8μmでも導電層に達する穴の加工が可能である旨の記載があり,導
電層が相当程度に薄くても,導電層を貫通することなく導電層に達す
る穴を形成できることは,周知であったものと認められる。
① 特開平6-140462号公報(発明の名称:半導体装置のパッ
ケージ,甲17,乙15)
「まず,TABフィルム1の面に金属膜を被着し,選択的にエッ


  • 38 -


チングして,例えば,図1(a)に示すようなパターンで配線2a
を形成する。次に,TABフィルム1に形成された配線2aの部分
がTABフィルム1より露呈するように,配線形成面の反対面から
フォトリソグラフィ技術で選択的にエッチングし,スルーホール3
を形成する。・・・」(【0014】)
② 特開昭64-89596号公報(発明の名称:フレキシブル配線
板の製造法,乙17)
「まず,厚さ0.05mmのポリイミドフィルム1・・・を洗浄・
乾燥後,スパツタリング装置・・・を用いて銅層(厚さ0.5μm)
2を設け,電気めつき法で全体の銅厚さを10μmとした(第1図
(a))。」(2頁右上欄1ないし6行)
「次に,炭酸ガスレーザ・・・を照射し,銅層2に達する凹部・・・
3を形成した(第1図(b))。他の穴加工法としては,YAGレー
ザやエキシマレーザといったレーザ法に加え,RIE法やイオンミ
リング法のようなドライエツチング法の適用も可能である。」(2頁
左下欄6ないし13行)
③ 特開平7-58165号公報(発明の名称:探針付き回路検査素
子及びその製造方法,乙18)
「・・・ポリイミド薄膜10の裏面10bに,銅からなる導電性
薄膜15(膜厚18μm)を形成した(図3(a)参照)。この導電性
薄膜15は以下の手順で形成した。最初に・・・スパッタリングに
より,・・・その後,・・・電気めっき処理により銅薄膜の膜厚が1
8μmになるまで銅薄膜上に銅を析出させて導電性薄膜15を得
た。」(【0018】)
「・・・導電性薄膜15をエッチングした。その後,残存レジス
トパターン16をアセトン等の有機溶剤で除去し,導電性パターン


  • 39 -


13を得た。」(【0020】)
「次に,導電性パターン13の図中下方に位置する,ポリイミド
薄膜10及びフォトレジスト層17の各部分に後述する微小探針1
1を埋設する貫通孔18(内径:30μm)を形成した(図3(e)
参照)。この貫通孔18の形成はXeclエキマレーザ光(波長30
8mm,ビーム径約30μm)を,各導電性パターン13の図中下
方に位置するフォトレジスト層17の部分に照射し,これによりフ
ォトレジスト層17及びポリイミド膜10を順次,穿孔することに
より行なった。尚,このエキシマレーザ光による穿孔の際,エキシ
マレーザ光の出力条件を下記の通り選定することにより,導電性パ
ターン13のポリイミド膜10側の端面13aの損傷を防止し
た。・・・」(【0022】)
④ 特開平5-251512号公報(発明の名称:エリアテープ上へ
の金属バンプの形成方法,乙19)
「本実施例のエリアテープ上への金属バンプの形成方法は,先ず
図1に示す工程でエリアテープを作成する。この工程は,先ず図1
(a) の如くポリイミド等の誘電体フィルムよりなる基材10の一方
の面にフラッシュメッキ11を施す。・・・」(【0009】)
「次いで図1(e) の如くフラッシュメッキ11が露出している部
分に銅メッキして金属配線14を形成し,他方の面は基体10をエ
ッチングしてビアホール15を形成する。・・・」(【0010】)
c 原告は,有機基板にアルミニウムのめっきを施すことは難しく,蒸
着でアルミニウムのメタライズ層を設けた場合,厚みが薄くなるとこ
ろ,アルミニウムは,その融点が銅などに比べて低く,レーザーの熱
に耐えられないから,メタライズ層形成後に穴加工を行って穴の開口
部上面を覆うようにメタライズ層を形成することは不可能であると主


  • 40 -


張する。
しかし,引用刊行物1には,メタライズ層6の材質に関連して,「上
記メタライズ層6は,例えばAlより構成される。」(2頁右下欄6な
いし7行)と記載されているだけなので,メタライズ層6がアルミニ
ウムに限定されることはなく,また,仮にメタライズ層6がアルミニ
ウムであったとしても,以下の公開公報の記載によれば,優先権基準
日以前においても,ガラスエポキシ基板やポリイミドフィルム基板に
アルミニウム膜が蒸着により形成され,又はアルミニウム箔膜の回路
配線パターンが設けられている場合に,数値制御切削加工機,レーザ
ーエッチング又は湿式エッチング法を用いて,基板への開孔を形成す
ることができ,そのことは公知であったことが認められるから,原告
の上記主張は,採用することができない。
① 特開平4-25039号公報(発明の名称:キャリアーテープお
よび半導体装置の組立法,乙23)
「有機絶縁フィルム(A)は,厚さ10~130μmのポリイミド,
PET,ガラスエポキシのフィルムが好ましく,特にポリイミドフィル
ムは,・・・回路基盤として最適である。
導電性箔(B)としては,厚さ10~80μmの電解銅または圧延
銅箔が好ましいが,蒸着,無電解メッキ等の方法で形成された銅,
アルミニュウム,金薄膜であってもよい。」(3頁左上欄9ないし1
8行)
「または有機絶縁フィルム(A)に蒸着,無電解メッキ等の方法で
形成された導電性箔(B)構造の第6 図(イ)に示すテープを」(3
頁右上欄8ないし11行)
「デバイスホール(8)の開孔及び固定支持体(5)の形成法と
しては例えば数値制御切削加工機,レーザーエッチング又は湿式エ


  • 41 -


ッチング法等が挙げられる。数値制御切削加工機を用いる場合に
は・・・目的を達することができる。レーザーエッチングの場合に
は例えば照射時間を変える等の手法により同様に目的を達すること
ができる。又湿式エッチング法の場合には・・・目的を達すること
ができる。」(3頁右上欄17行ないし3頁左下欄11行)
② 特開平4-139735号公報(発明の名称:IC搭載用可撓性
回路基板及びその製造法,乙24)
「第1図に於いて,11は,ポリイミド,ポリエステル,ガラス
エポキシ等の絶縁シート材からなる絶縁基材で,その一面に銅箔,
アルミ箔等の金属箔膜からなる回路配線パターン12が設けてあ
る。」(2頁左下欄11ないし15行)
「絶縁基材11のマスクメタルパターン16側にエキシマレーザ
A によるフォトアブレーション加工が施され」(2頁右下欄12ない
し14行)
「次にエキシマレーザB によるフォトアブレーションにより前記
中間孔18の部位に穿孔15と,その周囲に中間孔18の深さに相
当するIC搭載用陥部10とを穿設する。」(3頁左上欄1ないし4
行)
(イ) 引用刊行物1の第1図について
原告は,引用刊行物1の第1図に基づいて,スルホール上端部がメタ
ライズ層6で覆われた状態が示されていると認定することはできず,審
決が,引用刊行物1の第1図,第2図のみから,「スルホールの半導体素
子3を搭載する面側がメタライズ層6で覆われている半導体素子搭載用
基板」とした認定は誤りであると主張する。しかし,以下の理由により,
原告の上記主張は,採用することができない。
すなわち,これまで述べたとおり,引用刊行物1の第1図,第2図の


  • 42 -


みではなく,その余の記載と図面も併せて参照することにより,引用刊
行物1発明において,メタライズ層6は,アウターリード4に接続する
端子を備えていること,スルホールの半導体素子3が搭載される面側が
アウターリード4に接続する端子(メタライズ層6のアウターリード4
に電気的に接続される部位)で覆われていることが認められるものであ
り,審決も,引用刊行物1の第1図,第2図のみではなく,その余の記
載と図面を総合することにより,引用刊行物1発明を認定したものであ
る(審決第5.[2](3)(3-1)2.,3.)。

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(4) 小括


したがって,審決が,引用刊行物1発明について,「・・・メタライズ層6
は・・・アウターリード4に接続する端子とを配線の一部とした配線パター
ンを備え,・・・アウターリード4に接続する端子の形成される箇所のベース
1にこの端子に達するスルホールが穿設され,スルホールの半導体素子3を
搭載する面側がメタライズ層6で覆われている半導体素子搭載用基板」とし
た認定に誤りはない。また,上記認定を前提として,本件訂正発明2と引用
刊行物1発明は「上記配線は,・・・外部接続端子とを上記絶縁性支持体上に
形成される配線の一部として備え,・・・上記外部接続端子の形成される箇所
の上記絶縁性支持体に,上記外部接続端子に達する開口部が設けられ,上記
開口部の半導体素子を搭載する面側は,上記外部接続端子で覆われている」
で一致するとした審決の認定に誤りはない。

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2 一致点の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由2)について


審決が,引用刊行物1発明の「アウターリード4に接続する端子」,「スルホ
ール」が,それぞれ本件訂正発明2の「外部接続端子」,「開口部」に該当する
として,本件訂正発明2と引用刊行物1発明が,外部接続端子,開口部を備え
る点で一致するとした認定に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

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(1) 本件訂正発明2の外部接続端子及び開口部の構成・機能



  • 43 -


ア構成
(ア) 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2により引用される請求項1
には,外部接続端子及び開口部について,次のとおりの記載がある。
a 「上記半導体素子搭載領域に設けられる外部接続端子とを含む配線」
b 「上記配線は,ワイヤボンディング端子と,外部接続端子とを上記
絶縁性支持体上に形成される配線の一部として備え」
c 「上記外部接続端子は上記配線の上記絶縁性支持体側の面に備えら
れ」
d 「上記外部接続端子の形成される箇所の上記絶縁性支持体に,上記
外部接続端子に達する開口部が設けられ,上記開口部の半導体素子を
搭載する面側は,上記外部接続端子で覆われており」
e 「上記開口部の側壁に上記絶縁性支持体が露出しており」
(イ) 前記(ア) の請求項2により引用される請求項1の記載から,本件訂正
発明2の外部接続端子は,次の構成を備えたものであると認められる。
① 外部接続端子は,絶縁性支持体上に形成される配線の一部であり,
配線の絶縁性支持体側の面に設けられている(前記(ア)a,b,c)
② 外部接続端子は,半導体素子搭載領域に設けられている(前記(ア)
a)
③ 外部接続端子は,絶縁性支持体に設けられた開口部の半導体素子を
搭載する面側を覆う(前記(ア)d)
また,開口部は,絶縁性支持体に設けられており,開口部の半導体素
子を搭載する面側は,上記外部接続端子で覆われているから(前記(ア)
d),開口部は絶縁性支持体を貫通しているものと認められる。そうする
と,前記(ア)の請求項2により引用される請求項1の記載から,本件訂正
発明2の開口部は,次の構成を備えたものであると認められる。
④ 開口部は,絶縁性支持体を貫通し,半導体素子を搭載する面側は,


  • 44 -


外部接続端子で覆われている(前記(ア)d)
⑤ 開口部の側壁には,絶縁性支持体が露出している(前記(ア)e)
イ外部接続端子の機能
訂正明細書の発明の詳細な説明の「発明の開示」の欄には,「本発明の半
導体パッケージにおいては,配線は1層の配線においてその配線の片面が
半導体チップと接続する第1の接続機能を持ち,その配線の反対面が外部
の配線と接続する第2の接続機能をもつように構成されている。」(【003
5】),「外部の配線と接続する外部接続端子は,例えばはんだバンプ,金バ
ンプ等が好的に使用できる。」(【0036】)と記載されていることから,
本件訂正発明2の外部接続端子は,半導体素子と外部の配線とを接続する
接続機能を有するものであり,開口部に,はんだボール,はんだバンプ等
(以下,「はんだボール」という。)が配置されることにより,外部の配線
と接続されるものであることが認められる。そして,前記ア(イ)⑤のとおり,
開口部の側壁に絶縁性支持体が露出していることからすると,本件訂正発
明2は,開口部にはんだボールを配置する前の状態の半導体素子搭載用基
板を特定したものと認められる。


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(2) 引用刊行物1発明のアウターリード4に接続する端子及びスルホールの構成・機能



ア構成
(ア) 前記1のとおり,審決による引用刊行物1発明の認定に誤りはない。
引用刊行物1発明は,次の構成を備える。
a 「ベース1の半導体素子3を搭載する面側のみに,メタライズ層6
からなる複数の配線が設けられ,メタライズ層6は・・・アウターリ
ード4に接続する端子・・・を配線の一部とした配線パターンを備え」
b 「アウターリード4に接続する端子は半導体素子3の搭載領域のメ
タライズ層6の下面に複数設けられ」


  • 45 -


c 「アウターリード4に接続する端子の形成される箇所のベース1に
この端子に達するスルホールが穿設され,スルホールの半導体素子3
を搭載する面側がメタライズ層6で覆われている」
(イ) 前記(ア)bのとおり,アウターリード4に接続する端子はメタライズ
層6の下面に設けられ,前記(ア)cのとおり,アウターリード4に接続す
る端子の形成される箇所のベース1にこの端子に達するスルホールが穿
設され,スルホールの半導体素子3を搭載する面側がメタライズ層6で
覆われているから,メタライズ層6の下面に設けられた,アウターリー
ド4に接続する端子は,ベース1に穿設されたスルホールの半導体素子
3を搭載する面側を覆うものと認められる。そうすると,前記(ア)の引用
刊行物1発明の構成から,アウターリード4に接続する端子及びスルホ
ールは,次の構成を備えたものであると認められる。
① アウターリード4に接続する端子は,ベース1上に形成されるメタ
ライズ層6からなる配線の一部であり,メタライズ層6の下面に設け
られている(前記(ア)a,b)
② アウターリード4に接続する端子は,半導体素子3の搭載領域に設
けられている(前記(ア)b)
③ アウターリード4に接続する端子は,ベース1に穿設されたスルホ
ールの半導体素子3を搭載する面側を覆う(前記(ア)b,c)
また,スルホールは,ベース1に穿設されており,スルホールの半導
体素子3を搭載する面側は,アウターリード4に接続する端子で覆われ
ているから(上記③),スルホールはベース1を貫通しているものと認め
られる。そうすると,前記(ア)の引用刊行物1発明の構成から,引用刊行
物1発明のスルホールは,次の構成を備えたものであると認められる。
④ スルホールは,ベース1を貫通し,半導体素子3を搭載する面側は,
アウターリード4に接続する端子で覆われている。


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イアウターリード4に接続する端子の機能
引用刊行物1には,「ベース1には,第1図にはメタライズ層(配線層)
6がメッキ,蒸着などにより設けられており,このメタライズ層6と半導
体素子3のパッド(図示せず)とを,コネクタワイヤ7により,第1図に
示すように,超音波ボンディングなどの方法によりボンディングし,上記
メタライズ層6と,アウターリード4とを,ベース1に穿設されたスルホ
ールを介して電気的に接続している。」(「実施例」の欄,2頁左下欄16行
ないし右下欄3行)との記載があり,引用刊行物1のその余の記載も考慮
すると,引用刊行物1発明のアウターリード4に接続する端子は,半導体
素子と外部の配線とを接続する接続機能を有するものであり,スルホール
にアウターリード4を立設することにより,外部の配線と接続されるもの
であることが認められる。

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(3) 本件訂正発明2の外部接続端子及び開口部と引用刊行物1発明のアウターリード4に接続する端子及びスルホールの対比



ア本件訂正発明2と引用刊行物1発明を対比すると,本件訂正発明2の「ベ
ース」,「メタライズ層」は,引用刊行物1発明の「絶縁性支持体」,「配線」
に該当し,また,本件訂正発明2では,配線は絶縁性支持体上に形成され
るから(前記(1)ア(ア)b),配線の絶縁性支持体側の面(前記(1)ア(イ)①)
とは,配線の下部を意味すると認められる。このような認定を前提として,
本件訂正発明2の外部接続端子及び開口部と引用刊行物1発明のアウター
リード4に接続する端子及びスルホールの構成を対比すると,前記(2)ア
(イ)①ないし③の引用刊行物1発明のアウターリード4に接続する端子の
構成は,前記(1)ア(イ)①ないし③の本件訂正発明2の外部接続端子の構成
と一致し,前記(2)ア(イ)④の引用刊行物1発明のスルホールの構成は,前
記(1)ア(イ)④の本件訂正発明2の開口部の構成と一致する。
さらに,本件訂正発明2の外部接続端子と引用刊行物1発明のアウター


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リード4に接続する端子は,半導体素子と外部の配線とを接続する接続機
能を有する点で,一致する(前記(1)イ,(2)イ)。
イそうすると,審決が,引用刊行物1発明のアウターリード4に接続する
端子,スルホールが,それぞれ本件訂正発明2の外部接続端子,開口部に
該当するとして,本件訂正発明2と引用刊行物1発明が,外部接続端子,
開口部を備える点で一致するとした認定に誤りはない。

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(4) 原告の主張に対し


原告は,「本件訂正発明2は,BGA用の半導体素子搭載用フレキシブル基
板であり,本件訂正発明2の外部接続端子は,はんだボールに接続するもの
であるのに対し,引用刊行物1発明のアウターリード4に接続する端子は,
はんだボールに接続するものではないから,引用刊行物1発明のアウターリ
ード4に接続する端子は,本件訂正発明2の外部接続端子に該当しない」旨
主張し,また,「本件訂正発明2の開口部は,はんだボールが配置され,溶融
されるものであり,外部接続端子で覆われていて,ポリイミドフィルムに設
けられたものであるから,アウターリードを挿入する使い方はできないのに
対し,引用刊行物1発明のスルホールは,アウターリードを挿入するもので
あるから,引用刊行物1発明のスルホールは本件訂正発明2の開口部に該当
しない」旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,いずれも採用することが
できない。
すなわち,訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2により引用される請求
項1の記載に基づいて認められる本件訂正発明2の外部接続端子,開口部の
構成は,前記(1)アのとおりである。それらの構成は,開口部の側壁に絶縁性
支持体が露出していることからすると,開口部にはんだボールを配置する前
の状態の半導体素子搭載用基板を特定したものと認められ,その内容に照ら
し,BGA基板でない場合(PGA基板等である場合),フレキシブル基板で


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ない場合,又ははんだボールを用いない場合(アウターリード等を用いる場
合)にも採用され得る構成を特定したにとどまるものと認められ,BGA用
の半導体素子搭載用フレキシブル基板であること,開口部にはんだボールを
配置することを前提としてそれらに特有の構成が採用されているとは認めら
れない。
そして,本件訂正発明2では,絶縁性支持体がポリイミドフィルムで構成
され,絶縁性支持体の開口部の側壁に上記絶縁性支持体が露出しているのに
対し,引用刊行物1発明では,ベース(絶縁性支持体)がガラスエポキシで
構成され,スルホール(開口部)の側壁にベースが露出しているか否かを明
記していない点(相違点(イ)),本件訂正発明2は,BGA用の基板であるの
に対して,引用刊行物1発明は,PGA用の基板である点(相違点(カ))は,
相違点として挙げられている。
したがって,審決が,引用刊行物1発明のアウターリード4に接続する端
子,スルホールが,それぞれ本件訂正発明2の外部接続端子,開口部に該当
するとして,本件訂正発明2と引用刊行物1発明が,外部接続端子,開口部
を備える点で一致するとした認定に誤りはなく,相違点の看過もない。
上記のとおり,本件訂正発明2は,開口部にはんだボールを配置する前の
状態の半導体素子搭載用基板を特定したものと認められ,BGA基板でない
場合(PGA基板等である場合),フレキシブル基板でない場合,又ははんだ
ボールを用いない場合(アウターリード等を用いる場合)にも採用され得る
構成を特定したにとどまり,BGA用の半導体素子搭載用フレキシブル基板
であること,開口部にはんだボールを配置することを前提としてそれらに特
有の構成が採用されているものではないから,原告の主張は,その主張自体
失当であり,採用することができない。

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3 相違点(イ)(絶縁性支持体の構成,開口部側壁への絶縁性支持体の露出)に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由3)について




  • 49 -


審決が,相違点(イ)に係る本件訂正発明2の構成は容易に想到し得るとした判
断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

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(1) 絶縁性支持体の構成


甲2,3,5ないし9の記載によれば,半導体素子搭載用基板において,
絶縁性支持体をポリイミド(フィルム)で構成されるフレキシブル基板とす
ることは,周知又は公知であったものと認められる。
他方,前記1(1)イのとおり,引用刊行物1に記載された発明は,半導体素
子を搭載するベース(基板)1にアウターリード4(リードピン)を立設し
た半導体装置(プラグインパッケージ)において,大チップ搭載可能とし,
ピン数の増加(多ピン化)を可能とし,配線の引き回しを容易にし,パッケ
ージサイズを小型化するという課題を解決するために,アウターリード4を
基板全面に設け,搭載される半導体素子の下部にもアウターリード4が立設
された構成とした発明であり,アウターリード4の配置に技術的な特徴を有
するものである。そして,引用刊行物1に記載された発明の技術的特徴であ
るアウターリード4の配置は,その技術的内容に照らして,特定の材質の絶
縁性支持体(ベース)と関連性を有するわけではなく,絶縁性支持体(ベー
ス)の材質を問うものではない。
さらに,引用刊行物1には,「以上の説明では主として本発明者によってな
された発明をプラグインパッケージに適用した例を示したが,他のパッケー
ジなどにも適用できる。」(4頁右上欄18ないし20行)と記載されており,
PGA用の基板だけでなく,他の基板に適用できることが記載されているか
ら,引用刊行物1には,そこに記載された発明を,PGA用の基板以外の,
はんだボールにより外部と接続するBGA用の基板等に適用することについ
て示唆があると解することができる。
したがって,引用刊行物1発明において,絶縁性支持体をポリイミドフィ
ルムで構成することは,容易に想到し得たといえる。


  • 50 -


top



(2) 開口部側壁への絶縁性支持体の露出について


前記2(4)のとおり,本件訂正発明2は,開口部にはんだボールを配置する
前の状態の半導体素子搭載用基板を特定したものであり,開口部の側壁に絶
縁性支持体が露出している。
他方,前記1(2)のとおり,引用刊行物1発明は,原告主張のようにスルホ
ールの表面にめっき等で導電層が形成されているものと特定することはでき
ず,メタライズ層6とアウターリード4との電気的接続の態様やスルホール
の構造は,限定されていないものと解される。そして,引用刊行物1に記載
された発明は,半導体素子搭載用基板の発明であるところ,この半導体素子
搭載用基板とは,半導体素子の搭載に使うための基板という意味と解され,
引用刊行物1の記載に照らしても,半導体素子を直ちに搭載できる状態の基
板に限る根拠はなく,製造工程のある時点のものも含まれると解される。そ
うすると,仮に,引用刊行物1の半導体素子搭載用基板において,最終的に
スルホールの側壁に導電層が形成されるとしても,その製造過程においては,
スルホールにベースが露出した状態の半導体素子搭載用基板が存在し,それ
をもって,引用刊行物1に記載された半導体素子搭載用基板の発明というこ
とができる。
したがって,相違点(イ)のうち,本件訂正発明2では,絶縁性支持体の開口
部の側壁に絶縁性支持体が露出しているのに対し,引用刊行物1発明ではス
ルホールの側壁にベースが露出しているか否かを明記していない点は,実質
的な相違点でないということができ,審決は,同旨の結論を採る点において
誤りがあるとはいえない。



(3) 小括


以上によれば,審決が,相違点(イ)に係る本件訂正発明2の構成が容易に想
到し得るとした判断に誤りはない。

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4 相違点(カ)(BGA用の基板とPGA用の基板の相違)に係る容易想到性の判



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断の誤り(取消事由4)について
審決が,相違点(カ)に係る本件訂正発明2の構成は容易に想到し得るとした判
断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。



(1) 引用刊行物1発明をBGA用の基板に適用することの容易想到性の有無


ア引用刊行物1発明に使用されているようなピン(アウターリード)を,
本件訂正発明2に使用されているようなはんだボールと置き換えることは,
以下の優先権基準日前に発行された複数の文献の記載によれば,周知であ
ったものと認められる。
① 特開平6-140462号公報(発明の名称:半導体装置のパッケー
ジ,甲17,乙15)
「図3は図1のTAB型パッケージを適用した他の例を示す半導体装置
の部分破断側面図である。この実施例のパッケージでは,・・・外部端
子を形成するバンプの代わりに・・・導電ピン・・・を用いている。」
(【0018】)
② 特開平6-21173号公報(発明の名称:試験専用接点を有する半
導体デバイスの製造方法,甲18〔審判周知資料1〕)
「・・・外部接点は,導電ピン,ハンダボール・・・などいくつかある
形態の内の1つをとることができる。・・・」(【0002】)
③ 特開平6-252286号公報(発明の名称:チップキャリア,甲1
9〔審判周知資料2〕)
「・・・近年は端子ピンに替えて,・・・半田バンプ(2)を用い,半
導体装置とマザーボードに間隔を保持する方法が多用されている。」(【0
003】)
④ 特開平6-326211号公報(発明の名称:半導体パッケージと回
路基板およびそれを用いた電子機器,甲20〔審判周知資料3〕)
「・・・半導体パッケージの接続端子として・・・はんだボールの代わ


  • 52 -


りに,バッド接続用ピン9をはんだで接続した点である。・・・」(【0
013】)
⑤ 特開平4-62865号公報(発明の名称:半導体装置及びその製造
方法,甲21〔審判周知資料4〕)
「リードを球形状のように転動可能な形状とすることで,高さ調整が容
易でモールド後の変形もなく,良好なリード平坦性が得られる。すなわ
ち,PGA型の半導体装置を安価,かつリードを高密度に製造すること
が可能となる。」(3頁左上欄9ないし13行)
⑥ 「日経エレクトロニクス」平成6年(1994年)2月14日号,日
経BP社刊(甲22〔審判参考資料12〕)
「プラスチックBGAの基板は樹脂製であり,プリント配線基板と基
本的に同じ材料である。これにLSIチップを載せ,基板の上面をモー
ルド樹脂で覆っている。プラスチックPGAに近い組み立て技術であ
る。」(65頁6ないし11行)
⑦ 「日経エレクトロニクス」平成6年(1994年)1月3日号,日経
BP社刊(甲23〔審判周知資料5〕)
「BGA(ball grid array)が米国を中心に普及し始めている・・・
PGA(pin grid array)のピンがハンダボールに変更されたような形
態のパッケージである。」(132頁中欄30ないし34行)
⑧ 「日経マイクロデバイス」平成5年(1993年)9月1日号,日経
BP社刊(甲24〔審判周知資料6〕)
「BGA(ball grid array)パッケージ・・・は本質的にはPGAパ
ッケージと同じだが,挿入ピンの代わりに半田ボールが使われている点
が違う。・・・QFPのように周りにリードを配置する代わりにボール
を平面的に並べるので,リード・ピッチの微細化を強硬に推し進めなく
ても多ピンに対応できる」(84頁右欄23ないし31行)


  • 53 -


⑨ 「電子材料」平成6年(1994年)5月号,株式会社工業調査会刊
(甲25〔審判周知資料7〕)
「P-BGAパッケージ技術と表面実装」と題する論文に,「P-PG
Aのピンをハンダボールに変えることにより,表面実装形パッケージと
なり,かつ実装技術も容易になるとの提案であった。」(22頁左欄下
から4行目ないし2行目)と記載されている。

そして,引用刊行物1には,「他のパッケージにも適用できる」(4頁右上欄20行)と記載されており,前記3(1)のとおり,引用刊行物1には,そこに記載された発明を,PGA用の基板以外の,はんだボールにより外部と接続するBGA用の基板等に適用することについて示唆があると解することができる。



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イ原告は,メタライズ層6がアルミニウムであることを前提として,アルミニウムにはんだは付着しないとされていること,特殊なアルミニウム用はんだを使用すると煩雑な処理が必要となり,簡便に小型・高密度の半導体パッケージを製造するとの本件訂正発明2の目的に反することから,引用刊行物1発明において,アウターリード4がメタライズ層6に直接はんだ付けされることはなく,引用刊行物1発明のアウターリード4に代えてはんだボールを使用することには阻害要因があると主張する。

しかし,前記1(3)イ(ア)cのとおり,引用刊行物1発明のメタライズ層6は,アルミニウムに限定されるものではないから,原告の上記主張の前提及びその前提に基づくその余の主張は,いずれも採用することができない。

ウそうすると,引用刊行物1発明をBGA用の基板に適用することは,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

したがって,審決が,相違点(カ)に係る本件訂正発明2の構成は容易に想到し得るとした判断に誤りはない。

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(2) 審決の説示について



審決は,「被請求人は,・・・引用刊行物1発明をBGA用の基板に適用することは当業者が容易に想到し得たものではない旨を主張しているが,・・・絶縁性支持体としてポリイミド(フィルム)で構成されるフレキシブル基板を選択することが,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるから,それに伴って,引用刊行物1発明に使用されているようなピンをはんだボールに置換することも,上記周知または公知の技術に基づいて当業者が適宜なし得る設計的事項の範囲にすぎない。」と述べる。

ポリイミドフィルムで構成されたフレキシブル基板を採用するとの相違点

(イ)に係る本件訂正発明2の構成の容易想到性と,ピンに換えてはんだボールを採用するとの相違点(カ)に係る本件訂正発明2の構成の容易想到性は,特段の関連がないことから,審決の上記説示は,相違点(イ)と相違点(カ)の双方について容易想到性を要するとしても,なお双方の相違点につき容易想到性が認められ,本件訂正発明2が容易に想到し得たことを確認的に述べたものと解される。

原告は,審決の上記説示は,本件訂正発明2の相違点(イ)に係る構成が容易に想到し得たことを理由として,本件訂正発明2の相違点(カ)に係る構成は容易に想到し得たと判断するものであると主張し,相違点(カ)という一つの相違点について,二段階の容易想到性の判断を経て容易想到と判断している点で誤りがあると主張する。しかし,審決の上記説示は,相違点(カ)という一つの相違点について,二段階の容易想到性の判断を経て容易想到と判断しているとは解されないから,原告の上記主張は,採用することができない。

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5 結論



以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。

よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。


  • 55 -



知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官飯 村 敏 明裁判官中 平 健裁判官知 野 明
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Last Update: 2011-03-03 11:21:20 JST

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……………………………………………………判決末尾top
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