2011年2月28日月曜日

商標:【類否判断】「事実認定」:(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10127号審決取消請求事件))





目 次


商標:【類否判断】「事実認定」:(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10127号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第3部「飯村敏明コート」



H230303現在のコメント


(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10127号審決取消請求事件))

商標の類否判断に関する事実認定判決です。



縮小版なし・判決原文(引用)


(知財高裁平成23年2月28日判決(平成22年(行ケ)第10127号審決取消請求事件))



第5 当裁判所の判断



当裁判所は,「補助参加人の使用標章1及び2は,本件商標と同一又はこれと類似する商標とはいえない」との審決の判断に誤りはなく,したがって,「補助参加人による使用標章1及び2の使用は商標法53条1項の要件を欠くので本件商標の登録は取り消すことはできない」との審決の判断にも誤りはないと判断する。

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1 商標の類否判断の誤り(取消事由2)について



事案にかんがみ,取消事由2の当否について検討する。当裁判所は,補助参加人の使用標章1及び2は,本件商標と同一又はこれと類似する商標とはいえないとした審決の判断に誤りはないと解するものであり,その理由は,以下のとおりである。




(1) 使用標章1について






ア本件商標の外観,称呼及び観念




本件商標の外観は,別紙1のとおりであり,「セキスイ」の文字を横書きしてなるものである。本件商標は,「せきすい」との称呼を生ずる。本件商標は,これに相当する普通名詞はなく,特定の観念は生じない。


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イ使用標章1の外観,称呼及び観念



使用標章1の外観は,別紙2のとおりである。すなわち,「株式会社」と「NTTデータセキスイシステムズ」の文字を二段に横書きしてなるものであり,使用標章1に用いられた各文字は,いずれもゴシック体で,ほぼ同じ大きさである。

使用標章1は,その全体から「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」,又は株式会社を除いた部分から「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」とのいずれかの称呼を生じる。

使用標章1は,「株式会社」,「データ」,「システム」との文字を含むことから,電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生ずる余地があるが,一方で,使用標章1の全体又は「NTTデータセキスイシステムズ」の部分のいずれに相当する普通名詞も存在しないことに照らせば,特定の観念を生じないというべきである。

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ウ本件商標と使用標章1との類否



本件商標は,「セキスイ」(4文字)の文字を横書きしたものであるのに対し,使用標章1は,「株式会社」(4文字)と「NTTデータセキスイシステムズ」(15文字)の文字を二段に横書きしてなるものであるから,本件商標と使用標章1は,外観において異なる。

本件商標は,「せきすい」との称呼を生ずるのに対し,使用標章1は,「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」又は「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」との称呼を生ずるから,本件商標と使用標章1は,称呼において異なる。

本件商標は,格別の観念を生じない。また,使用標章1も,電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生ずる余地があるものの,むしろ,格別の観念は生じないというべきである。したがって,本件商標と使用標章1とは,観念において同一とはいえない。

上記のとおり,本件商標と使用標章1は,外観,称呼において異なり,観念において同一とはいえない。また,その取引の実情を考慮した場合に,本件商標と使用標章1の類似性を肯定すべき格別の事情があることを認めるに足りる証拠はない。

そうすると,本件商標と使用標章1は,類似しないというべきである。

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エ原告の主張に対し



原告は,使用標章1の「NTTデータセキスイシステムズ」との文字のうち,「データ」の部分と「システムズ」の部分は,補助参加人が提供する役務を示すから識別力が弱く,他方,「NTT」,「セキスイ」の部分は,いずれも著名表示であり,取引者・需要者には,「NTT」,「セキスイ」の部分が強く印象づけられるとした上で,使用標章1のうち強く印象づけられる「セキスイ」の部分と本件商標は,外観,称呼及び観念において共通するから,本件商標と使用標章1は類似すると主張する。

確かに,使用標章1のうち「データ」の部分と「システムズ」の部分は,補助参加人の提供する役務に関連する普通名称であり,使用標章1が電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生じさせるものである。また,「NTT」は,日本電信電話株式会社を示す著名表示であり,「セキスイ」は被告又は被告を中心とした企業グループを示す著名表示である。しかし,使用標章1のうち「株式会社」の部分は会社の種類を示すにとどまり,自他役務の識別機能が弱いとしても,「NTTデータセキスイシステムズ」の部分は,より強い自他役務の識別機能を有しており,さらに,「NTTデータセキスイシステムズ」の部分は,各文字がいずれもゴシック体でほぼ同じ大きさであり,まとまりよく一連に記載されているから,これに接した取引者・需要者は,この部分全体を一体として把握するものと認められる。そして,「セキスイ」の部分は,15文字からなる「NTTデータセキスイシステムズ」の部分に包含されており,4文字を占めるにとどまるから,殊更に他の構成部分と切り離し,「セキスイ」の部分のみを取り出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできない。したがって,使用標章1のうち「セキスイ」の部分だけを本件商標と比較して本件商標と使用標章1が類似するとする原告の主張は,採用することができない。

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(2) 使用標章2について



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ア使用標章2の外観,称呼及び観念



使用標章2の外観は,別紙3のとおりである。すなわち,「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」の文字を横書きしてなるものであり,使用標章2に用いられた各文字は,いずれもゴシック体で,ほぼ同じ大きさである。

使用標章2は,使用標章1と同様に,「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」又は「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」のいずれかの称呼を生じ,特定の観念を生じない。

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イ本件商標と使用標章2との類否



本件商標は,「セキスイ」(4文字)の文字を横書きしたものであるのに対し,使用標章2は,「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」の文字を横書きしてなるものであるから,本件商標と使用標章2は,外観において異なる。

本件商標は,「せきすい」との称呼を生ずるのに対し,使用標章2は,「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」又は「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」のいずれかの称呼を生ずるから,本件商標と使用標章2は,称呼において異なる。

本件商標は,格別の観念を生じない。また,使用標章2も,電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生ずる余地があるものの,格別の観念は生じないというべきである。したがって,本件商標と使用標章2とは,観念において同一とはいえない。

上記のとおり,本件商標と使用標章2は,外観,称呼において異なり,観念において同一とはいえない。また,その取引の実情を考慮した場合に,本件商標と使用標章2の類似性を肯定すべき格別の事情があることを認めるに足りる証拠はない。

そうすると,本件商標と使用標章2は,類似しないというべきである。

そして,使用標章2のうち「セキスイ」の部分だけを本件商標と比較して本件商標と使用標章2が類似するとの原告の主張を採用することができない点は,前記(1)エで述べたとおりである。

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2 審決の結論の当否



以上によれば,補助参加人の使用標章1及び2は,本件商標と同一又はこれと類似する商標とはいえないとした審決の判断に誤りはない。

本件商標と使用標章1及び2はいずれも類似しないとの審決の判断に誤りはないから,補助参加人による使用標章1及び2の使用は,「登録商標又はこれに類似する商標の使用」という商標法53条1項の要件を欠く。そうすると,取消事由1について判断するまでもなく,「補助参加人による使用標章1及び2の使用は商標法53条1項の要件を欠くので本件商標の登録は取り消すことはできない」との審決の判断に誤りはないというべきである。

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判決原文(全文)




平成22(行ケ)10127 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟平成23年02月28日 知的財産高等裁判所



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平成23年2月28日判決言渡平成22年(行ケ)第10127号審決取消請求事件


平成23年1月19日口頭弁論終結



判 決





主 文



1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は,補助参加によって生じた費用を含め,原告の負担とする。



事実及び理由



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第1 請求



特許庁が取消2009-300523号事件について平成22年3月24日にした審決を取り消す。


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第2 事案の概要



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1 被告の商標権



被告は,別紙1のとおり,「セキスイ」の文字を横書きしてなり,指定役務を第42類「宿泊施設の提供,飲食物の提供,オフセット印刷,グラビア印刷,スクリ-ン印刷,石版印刷,凸版印刷,求人情報の提供,一般廃棄物の収集及び処分,産業廃棄物の収集及び処分,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),測量,地質の調査,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,施設の警備,身辺の警備,医業,健康診断,調剤,植木の貸与,計測器の貸与,自動販売機の貸与,消火器の貸与,超音波診断装置の貸与,展示施設の貸与,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テ-プその他の周辺機器を含む。)の貸与,ルームクーラーの貸与」とする登録第3114802号商標(平成4年4月1日登録出願・商願平4-101040号,平成6年9月6日出願公告・商標出願公告平6-60767号,平成8年1月31日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

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2 審判請求に至る経緯



(1) 原告は,工業所有権,映像,文芸,美術,音楽に関する著作権などの財産権の取得,譲渡並びに貸与等を目的とする株式会社であり,正林国際特許商標事務所の業務を受託している(弁論の全趣旨)。

(2) 被告は,合成樹脂製品の製造及び売買,コンピュータソフトウェア,情報処理システム,システムエンジニアリングの開発及び売買,情報の処理,提供,通信等情報サービス業及び市場調査業並びに電気通信事業等を目的とする株式会社である。本件商標は,被告又は被告のグループ企業の略称又は名称として著名である(甲4,甲5の1,2,弁論の全趣旨)。

被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)は,情報システムの受託開発,運用保守の販売ならびに賃貸等を目的とする株式会社であり,株式会社エヌ・ティ・ティ・データが60%,被告が40%を出資しており,各種会社の業務支援システム(コンピュータプログラム)の開発などを行っている。補助参加人は,被告を中心とする企業グループに属している(甲4)。

(3) 原告は,原告及び正林国際特許商標事務所における工業所有権の出願手続等を支援するコンピュータシステムの作成業務を補助参加人に委託することとし,そのために,補助参加人との間で,平成18年11月1日,取引基本契約を締結し,平成19年6月1日,同日付け個別契約により,「国内出願業務支援システム開発第1段階(サーバ開発)」に関する業務を補助参加人に委託し(甲6),同年9月1日,同日付け個別契約により,「国内出願業務支援システム開発第2段階(クライアント開発)」に関する業務を補助参加人に委託した(甲21)。

補助参加人は,上記コンピュータシステムを開発し,平成20年(2008年)5月,原告に納入し,原告は,「国内出願業務支援システム開発第1段階(サーバ開発)」,「国内出願業務支援システム開発第2段階(クライアント開発)」について検収書を作成し,補助参加人に交付した(甲23の1,2)。

しかし,原告は,納入されたシステムには不備があると主張している。

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3 特許庁における手続の経緯



原告は,平成21年5月1日,以下の理由により,被告を被請求人として,商標法53条1項の規定により本件商標の登録の取消しを求めて審判を請求した(取消2009-300523号)。

すなわち,原告は,補助参加人が,本件商標の通常使用権者であり,本件商標に類似する使用標章1(別紙2)及び2(別紙3)を使用するものであるとした上,補助参加人は,広告等により,本件商標の指定役務である「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」について,高質な役務を提供するという印象を需要者に与えていたにもかかわらず,補助参加人が原告に提供した役務の質は,極めて低質であったから,補助参加人は,本件商標に類似する商標の使用であって役務の質の誤認を生ずるものをしたと主張して,商標法53条1項の規定により本件商標の取消しを求めた。

特許庁は,平成22年3月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年4月5日,原告に送達された。

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4 審決の理由



別紙審決書写しのとおりであり,要するに,補助参加人は,本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるとはいえず,また,補助参加人の使用標章1及び2は,本件商標と同一又はこれと類似する商標とはいえないから,補助参加人による使用標章1及び2の使用は,商標法53条1項の要件を欠き,したがって,本件商標の登録は取り消すことができないというものである。

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第3 取消事由に関する原告の主張


審決には,通常使用権者等への該当性に関する判断の誤り(取消事由1),商
標の類否判断の誤り(取消事由2)があり,これらの判断の誤りは,審決の結
論に影響を及ぼすから,審決は取り消されるべきである。
1 通常使用権者等への該当性に関する判断の誤り(取消事由1)
補助参加人は,本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるとはい
えないとした審決の判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,①被告は,補助参加人に資本参加していること,②補助参加人の
商号中に本件商標と同じ「セキスイ」との文字が含まれていること,③被告と
補助参加人が同一の企業グループに属すること,④補助参加人が「セキスイ」
との文字を含む標章を使用しているにもかかわらず,商標権者である被告が何
らの権利行使もしていないことから,補助参加人は,本件商標の通常使用権者


  • 5 -


であると推認される。
2 商標の類否判断の誤り(取消事由2)
補助参加人の使用標章1及び2は,本件商標と同一又はこれと類似する商標
とはいえないとした審決の判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりで
ある。
(1) 使用標章1について
使用標章1は,以下のとおり,本件商標と類似する。
ア使用標章1は,「株式会社」との文字が上段に,「NTTデータセキスイ
システムズ」との文字が下段に記載され,二段に分離して表示されている
から,会社の略称としてのみ認識されるものではない。また,会社の略称
として認識されたとしても,そのことから直ちに,商標であることが否定
されるわけではない。
「NTTデータセキスイシステムズ」との文字のうち,「データ」の部分
と「システムズ」の部分は,補助参加人が提供する役務を示すから識別力
が弱い。他方,「NTT」,「セキスイ」の部分は,いずれも著名表示であり,
取引者・需要者には,「NTT」,「セキスイ」の部分が強く印象づけられる。
そして,使用標章1のうち強く印象づけられる「セキスイ」の部分と本件
商標は,外観,称呼及び観念において共通する。
したがって,本件商標と使用標章1は類似する。
イなお,使用標章1を表示した名刺は,電子計算機のプログラムの設計・
作成又は保守の役務の提供に際して交付されたものであるから,使用標章
1は,役務との具体的関係において使用されたものであり,商標的使用態
様において使用されたといえる。
(2) 使用標章2について
使用標章2は,以下のとおり,本件商標と類似する。
ア使用標章2は,「株式会社」との文字と「NTTデータセキスイシステム


  • 6 -


ズ」との文字の間にスペースがあり,前者が後者よりやや小さく表されて
いるから,「NTTデータセキスイシステムズ」との文字が「株式会社」と
の文字と分離して認識される。そして,使用標章1の場合(前記(1)ア)と
同様に,使用標章2においても,取引者・需要者には,「セキスイ」の部分
が強く印象づけられ,「セキスイ」の部分は,本件商標と外観,観念及び称
呼において共通する。
したがって,本件商標と使用標章2は類似する。
なお,甲13(補助参加人作成の原告宛ての提案書)に付された「株式
会社NTTデータセキスイシステムズ」との表示(「株式会社」と「NT
Tデータセキスイシステムズ」の間隔が使用標章2よりも大きい。)も,使
用標章2と同様に本件商標と類似する。
イ使用標章2は,補助参加人のウェブサイトに使用されており,商標的使
用態様において使用されたといえる。
(3) 小括
以上のとおり,使用標章1及び2は本件商標と類似する。したがって,補
助参加人の使用標章1及び2は,本件商標と同一又はこれと類似する商標と
はいえないとした審決の判断は誤りである。
3 審決の結論への影響
前記1のとおり,補助参加人は,本件商標の通常使用権者であり,前記2の
とおり,使用標章1及び2は本件商標と類似するから,補助参加人による使用
標章1及び2の使用は,商標法53条1項の要件を充たしている。したがって,
「補助参加人による使用標章1及び2の使用は商標法53条1項の要件を欠く
ので本件商標の登録は取り消すことはできない」との審決の判断は誤りである。

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第4 被告及び補助参加人の反論


審決は,その判断に誤りはなく,取り消されるべき違法はない。
1 通常使用権者等への該当性に関する判断の誤り(取消事由1)に対し


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補助参加人は,本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるとはい
えないとした審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,原告が主張する①被告が補助参加人に資本参加していること,②
補助参加人の商号中に本件商標と同じ「セキスイ」との文字が含まれているこ
と,③被告と補助参加人が同一の企業グループに属すること,④補助参加人が
「セキスイ」との文字を含む標章を使用しているにもかかわらず,商標権者で
ある被告が何らの権利行使もしていないこととの事実から,補助参加人が通常
使用権者であると認定することはできない。
また,使用標章1及び2,並びに補助参加人の商号である「株式会社エヌ・
ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」との表示は,後記2のとおり,い
ずれも本件商標と類似しないから,これらの表示を使用していることを根拠と
して,本件商標の通常使用権が許諾されているとはいえない。
したがって,補助参加人は,本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者
であるとはいえない。
2 商標の類否判断の誤り(取消事由2)に対し
補助参加人の使用標章1及び2は,本件商標と同一又はこれらと類似する商
標とはいえないとした審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりで
ある。
(1) 使用標章1について
使用標章1は,以下のとおり,本件商標と類似しない。
本件商標と使用標章1を対比すると,本件商標が「セキスイ」の4文字か
らなるのに対し,使用標章1は,識別力のない「株式会社」との文字部分を
除いても,「NTTデータセキスイシステムズ」との15文字からなるもので
あり,本件商標と使用標章1とは,外観において異なる。また,本件商標は
「せきすい」との称呼が生ずるのに対し,使用標章1は「株式会社」との文
字部分を除いても「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」との称呼が生


  • 8 -


ずるものであり,本件商標と使用標章1とは,称呼において異なる。さらに,
本件商標からは,被告の名称との観念が生じるのに対し,使用標章1からは
補助参加人の名称との観念を生じ,本件商標と使用標章1とは,観念におい
て異なる。
使用標章1は,「セキスイ」との文字を含む点で,本件商標と共通するが,
その故に使用標章1と本件商標が類似するとはいえない。すなわち,使用標
章1のうちの「NTTデータセキスイシステムズ」の部分は,各文字の書体,
大きさ,間隔,配置等が等しく,全体としてまとまりよく一連一体として表
記されており,「セキスイ」との文字は,語頭でも語尾でもなく中間に位置し
ており,「セキスイ」の部分のみが殊更強調して表示されていることはない。
そのため,「セキスイ」の部分のみが取引者・需要者に強く支配的な印象を与
えることはなく,補助参加人が,「セキスイ」との略称によって特定されるこ
ともない。実際上も,補助参加人の略称は「NDiS」であり,「セキスイ」では
ない。このように,使用標章1のうち「セキスイ」の部分は,取引者・需要
者に強く支配的な印象を与えるものではないから,使用標章1が「セキスイ」
との文字を含む点で本件商標と共通するとしても,そのことの故に使用標章
1と本件商標が類似するとはいえない。
したがって,本件商標と使用標章1は類似しない。
(2) 使用標章2について
使用標章2は,以下のとおり,本件商標と類似しない。
本件商標と使用標章2を対比すると,両者の構成は基本的に異なり,本件
商標と使用標章2の外観は異なる。そして,使用標章1の場合(前記(1))と
同様に,使用標章2においても,称呼,観念は本件商標と異なる。
したがって,本件商標と使用標章2は類似しない。
なお,補助参加人の商号である「株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セ
キスイシステムズ」との表示,及び甲13に付された「株式会社NTTデー


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タセキスイシステムズ」との表示も,使用標章2と同様に本件商標とは類似
しない。
(3) 小括
以上のとおり,使用標章1及び2は本件商標と類似しない。したがって,
補助参加人の使用標章1及び2は,本件商標と同一又はこれと類似する商標
とはいえないとした審決の判断に誤りはない。
3 審決の結論への影響に対し
前記1のとおり,補助参加人は,本件商標に係る専用使用権者又は通常使用
権者であるとはいえず,前記2のとおり,使用標章1及び2は本件商標と類似
しないから,補助参加人による使用標章1及び2の使用は,商標法53条1項
の要件を欠く。したがって,「補助参加人による使用標章1及び2の使用は商標
法53条1項の要件を欠くので本件商標の登録は取り消すことはできない」と
の審決の判断に誤りはない。

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第5 当裁判所の判断



当裁判所は,「補助参加人の使用標章1及び2は,本件商標と同一又はこれと類似する商標とはいえない」との審決の判断に誤りはなく,したがって,「補助参加人による使用標章1及び2の使用は商標法53条1項の要件を欠くので本件商標の登録は取り消すことはできない」との審決の判断にも誤りはないと判断する。

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1 商標の類否判断の誤り(取消事由2)について



事案にかんがみ,取消事由2の当否について検討する。当裁判所は,補助参加人の使用標章1及び2は,本件商標と同一又はこれと類似する商標とはいえないとした審決の判断に誤りはないと解するものであり,その理由は,以下のとおりである。




(1) 使用標章1について






ア本件商標の外観,称呼及び観念




本件商標の外観は,別紙1のとおりであり,「セキスイ」の文字を横書きしてなるものである。本件商標は,「せきすい」との称呼を生ずる。本件商標は,これに相当する普通名詞はなく,特定の観念は生じない。


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イ使用標章1の外観,称呼及び観念



使用標章1の外観は,別紙2のとおりである。すなわち,「株式会社」と「NTTデータセキスイシステムズ」の文字を二段に横書きしてなるものであり,使用標章1に用いられた各文字は,いずれもゴシック体で,ほぼ同じ大きさである。

使用標章1は,その全体から「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」,又は株式会社を除いた部分から「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」とのいずれかの称呼を生じる。

使用標章1は,「株式会社」,「データ」,「システム」との文字を含むことから,電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生ずる余地があるが,一方で,使用標章1の全体又は「NTTデータセキスイシステムズ」の部分のいずれに相当する普通名詞も存在しないことに照らせば,特定の観念を生じないというべきである。

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ウ本件商標と使用標章1との類否



本件商標は,「セキスイ」(4文字)の文字を横書きしたものであるのに対し,使用標章1は,「株式会社」(4文字)と「NTTデータセキスイシステムズ」(15文字)の文字を二段に横書きしてなるものであるから,本件商標と使用標章1は,外観において異なる。

本件商標は,「せきすい」との称呼を生ずるのに対し,使用標章1は,「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」又は「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」との称呼を生ずるから,本件商標と使用標章1は,称呼において異なる。

本件商標は,格別の観念を生じない。また,使用標章1も,電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生ずる余地があるものの,むしろ,格別の観念は生じないというべきである。したがって,本件商標と使用標章1とは,観念において同一とはいえない。

上記のとおり,本件商標と使用標章1は,外観,称呼において異なり,観念において同一とはいえない。また,その取引の実情を考慮した場合に,本件商標と使用標章1の類似性を肯定すべき格別の事情があることを認めるに足りる証拠はない。

そうすると,本件商標と使用標章1は,類似しないというべきである。

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エ原告の主張に対し



原告は,使用標章1の「NTTデータセキスイシステムズ」との文字のうち,「データ」の部分と「システムズ」の部分は,補助参加人が提供する役務を示すから識別力が弱く,他方,「NTT」,「セキスイ」の部分は,いずれも著名表示であり,取引者・需要者には,「NTT」,「セキスイ」の部分が強く印象づけられるとした上で,使用標章1のうち強く印象づけられる「セキスイ」の部分と本件商標は,外観,称呼及び観念において共通するから,本件商標と使用標章1は類似すると主張する。

確かに,使用標章1のうち「データ」の部分と「システムズ」の部分は,補助参加人の提供する役務に関連する普通名称であり,使用標章1が電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生じさせるものである。また,「NTT」は,日本電信電話株式会社を示す著名表示であり,「セキスイ」は被告又は被告を中心とした企業グループを示す著名表示である。しかし,使用標章1のうち「株式会社」の部分は会社の種類を示すにとどまり,自他役務の識別機能が弱いとしても,「NTTデータセキスイシステムズ」の部分は,より強い自他役務の識別機能を有しており,さらに,「NTTデータセキスイシステムズ」の部分は,各文字がいずれもゴシック体でほぼ同じ大きさであり,まとまりよく一連に記載されているから,これに接した取引者・需要者は,この部分全体を一体として把握するものと認められる。そして,「セキスイ」の部分は,15文字からなる「NTTデータセキスイシステムズ」の部分に包含されており,4文字を占めるにとどまるから,殊更に他の構成部分と切り離し,「セキスイ」の部分のみを取り出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできない。したがって,使用標章1のうち「セキスイ」の部分だけを本件商標と比較して本件商標と使用標章1が類似するとする原告の主張は,採用することができない。

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(2) 使用標章2について



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ア使用標章2の外観,称呼及び観念



使用標章2の外観は,別紙3のとおりである。すなわち,「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」の文字を横書きしてなるものであり,使用標章2に用いられた各文字は,いずれもゴシック体で,ほぼ同じ大きさである。

使用標章2は,使用標章1と同様に,「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」又は「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」のいずれかの称呼を生じ,特定の観念を生じない。

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イ本件商標と使用標章2との類否



本件商標は,「セキスイ」(4文字)の文字を横書きしたものであるのに対し,使用標章2は,「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」の文字を横書きしてなるものであるから,本件商標と使用標章2は,外観において異なる。

本件商標は,「せきすい」との称呼を生ずるのに対し,使用標章2は,「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」又は「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」のいずれかの称呼を生ずるから,本件商標と使用標章2は,称呼において異なる。

本件商標は,格別の観念を生じない。また,使用標章2も,電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生ずる余地があるものの,格別の観念は生じないというべきである。したがって,本件商標と使用標章2とは,観念において同一とはいえない。

上記のとおり,本件商標と使用標章2は,外観,称呼において異なり,観念において同一とはいえない。また,その取引の実情を考慮した場合に,本件商標と使用標章2の類似性を肯定すべき格別の事情があることを認めるに足りる証拠はない。

そうすると,本件商標と使用標章2は,類似しないというべきである。

そして,使用標章2のうち「セキスイ」の部分だけを本件商標と比較して本件商標と使用標章2が類似するとの原告の主張を採用することができない点は,前記(1)エで述べたとおりである。

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2 審決の結論の当否



以上によれば,補助参加人の使用標章1及び2は,本件商標と同一又はこれと類似する商標とはいえないとした審決の判断に誤りはない。

本件商標と使用標章1及び2はいずれも類似しないとの審決の判断に誤りはないから,補助参加人による使用標章1及び2の使用は,「登録商標又はこれに類似する商標の使用」という商標法53条1項の要件を欠く。そうすると,取消事由1について判断するまでもなく,「補助参加人による使用標章1及び2の使用は商標法53条1項の要件を欠くので本件商標の登録は取り消すことはできない」との審決の判断に誤りはないというべきである。

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3 結論



以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。

よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。


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知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官飯 村 敏 明裁判官中 平 健裁判官知 野 明


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別紙1 (本件商標)


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別紙2 (使用標章1)


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別紙3 (使用標章2)

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Last Update: 2011-03-02 11:58:35 JST

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