2011年3月3日木曜日

商標:【商標法4条1項15号】「基準」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))






商標:【商標法4条1項15号】「基準」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10338 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
平成23年03月03日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))

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【商標法4条1項15号】「基準」(最高裁判決引用)




判示


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))

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第2



事案の概要


本件は,原告が,原告の下記1のとおりの本件商標に係る商標登録を無効にすることを求める被告の下記2の本件審判請求について,特許庁が同請求を認めた別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。


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取消事由


商標法4条1項15号該当性の判断の誤り

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当裁判所の判断


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商標法4条1項15号について


(1)

商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定役務に使用したときに,当該指定役務が他人の役務に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該指定役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信される,広義の混同を生ずるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定役務と他人の業務に係る役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。

(2)

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本件商標と引用商標との類似性の程度


引用商標1は,「MIZUHO」の欧文字を標準文字により横書きしたものであるところ,同商標からは,「ミズホ」の称呼,「瑞々しい稲の穂」の観念を生じるとともに,後記(3)のとおり,被告グループに属する企業が統一して使用する商標として周知著名なものとなっていることから,「みずほフィナンシャルグループ」の観念も生じる。

引用商標2は,「MIZUHO」の欧文字を図案化したものであり,引用商標1と同様に,「ミズホ」の称呼,「瑞々しい稲の穂」の観念を生じるとともに,著名な「みずほフィナンシャルグループ」の観念も生じる。

引用商標3は,「みずほ」の平仮名文字からなるところ,「ミズホ」の称呼,「瑞々しい稲の穂」の観念を生じるとともに,著名な「みずほフィナンシャルグループ」の観念も生じる。

本件商標は,「みずほ」の平仮名文字からなる商標であり,引用商標1及び2に極めて類似する商標であって,引用商標3とは,称呼,外観及び観念ともに同一の商標である。

(3)

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引用商標の周知著名性及び独創性の程度



引用商標に係る「みずほ」は,もともと「瑞々しい稲の穂」の意味を有する普通名詞である。


平成12年9月29日,第一勧業銀行,富士銀行及び日本興業銀行の3行が株式移転により経営統合し,株式会社みずほホールディングスが設立された(甲6の4,甲7,甲9の2∼13)。

平成14年4月に上記3行が会社分割及び合併により,みずほ銀行及びみずほコーポレート銀行に統合,再編され,みずほ証券及びみずほ信託銀行がみずほホールディングスの100%子会社となり,さらに,持株会社となったみずほホールディングスの資産を引き継いで,平成15年1月8日に被告が設立された(甲10の2,甲11,弁論の全趣旨)。


被告グループには,本件商標登録出願前の平成17年3月末時点で,国内78社,海外70社が属し,それらの企業が提供する役務には,銀行業務,信託業務,証券業務,保険業務,シンクタンク,コンサルティング業務,ベンチャーキャピタル業務,貸金業務,不動産仲介業務,事務受託業務,事務代行,人材派遣業務,システム管理業務,企業財務アドバイザリー業務,信用保証業務,年金及び資産運用の研究等が含まれる(甲6の2)。

そして,平成16年の時点において,被告グループに属するみずほ銀行及びみずほコーポレート銀行の総資産合計は,世界第2位の137兆円に上り,日本国内においては,上場企業の4割が主要取引銀行として,7割が取引銀行として被告グループに属する銀行を利用しており,被告グループは,貸出金平均残高,居住用住宅ローン残高,預金平均残高及び遺言信託受託件数のいずれにおいても邦銀中1位であった(甲6の1,甲12の1・14)。


被告及び被告グループは,引用商標1ないし3を,全国各地の本支店の店頭,新聞・雑誌・テレビコマーシャル等各種の媒体を通じた広告やホームページにおいて大々的に使用してきた(甲13の2∼23)。

なお,平成11年12月22日の3行統合のプレスリリース以降,新聞,雑誌等やテレビ,ラジオ,インターネット等のニュースにおいて被告グループに関するニュースが頻繁に登場し,引用商標が使用された(甲8の1∼10,甲9の1∼16,甲10の1∼20,甲12の1∼50)。


以上によれば,「みずほ」,「MIZUHO」は,いずれも原告の本件商標の出願前には著名となっていて,今日に至るまで,被告及び被告グループに属する企業を表示するものとして著名なものである。

(4)

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本件指定役務と引用商標に係る役務との間の関連性の程度



本件指定役務は,①工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務及びこれに関する情報の提供,工業所有権に関する情報の提供,②訴訟事件その他に関する法律事務及びこれに関する情報の提供,訴訟に関する情報の提供,③登記又は供託に関する手続きの代理及びこれに関する情報の提供,登記又は供託に関する情報の提供,④社会保険に関する手続の代理及びこれに関する情報の提供,社会保険に関する情報の提供である。


他方,被告グループには,銀行や証券会社を含む金融機関が属しているところ,みずほ信託銀行は,テレビアニメの著作権信託を行い(甲14の19),著作権投資スキームを紹介し(甲6の2),音楽著作権キャッシュフローをベースにした事業資金の融資を行ったりして(甲15の1),知的財産権を活用した資金調達への取組を強化している(甲15の2)。


また,メガバンクグループが,特許権など知的財産分野で新たなビジネスを展開し,金融機関が,大学等と連携して「技術相談,知的財産相談」を提供しているほか,信託業法改正により知的財産信託には大きな注目と期待の目が向けられている(甲14の11・12・17・18・20・21)。


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さらに,金融機関においては,弁護士紹介サービス・法律相談・法律に関する情報の提供等が行われている(甲14の3・16・17・21・22・25,甲16)。みずほ信託銀行では,遅くとも前身の安田信託銀行時代の昭和54年以来,遺言執行引受予諾業務を行っており,遺言書作成の相談,遺言書作成の援助,遺言書の保管,遺言の執行に関わる法律業務を提供しており,遺言信託の受託件数においては各金融機関中第1位である。他の大手金融機関においても,同様に遺言の管理及び執行に関わる法律業務を提供することが一般的に行われている(甲12の5,甲17の1・2)。


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また,金融機関は,年金推進班や社会保険労務士や年金アドバイザーを配属した「お客様営業部」を設置したり,年金無料相談会を開催したり,年金受給手続の代行をしている(甲14の1・2・5∼8・13∼15・23・24・27∼42,甲18の1∼12)。


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以上のとおり,金融機関においては,法人顧客を対象として特許権や著作権等の知的財産権を対象とする信託業務を行ったり,大学の持つ特許などの知的財産に関する情報を取引先に提供したり,事業の開始に必要な資金を調達・融資するなどの事業を行い,知的財産信託において,特許料の納付,実施権の付与,侵害などへの対応の役務を提供している。

また,金融機関は,様々な経営リスクを抱える法人や個人の顧客を対象として法律相談・コンサルティング,法律に関する情報の提供や弁護士紹介サービスを行っている。信託銀行においては,遺言執行引受予諾業務の一環として遺言に関わる一連の法律業務を提供することが一般的に行われており,現に被告グループは,遺言信託受託件数において金融機関中第1位の実績を誇っている。

さらに,金融機関においては,顧客や潜在的顧客を対象とした年金相談等,社会保険に関する相談会を行うことが広く一般的に行われている。

金融機関の行うこれらの役務は,本件指定役務と関連性を有し,同一の者によって提供されることの多い役務であって,取引者,需要者も共通するものであり,密接な関連性を有するものということができる。

(5)

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出所の混同のおそれ


以上のとおり,①本件商標が引用商標と同一ないし極めて類似する商標であること,②引用商標は,もとは普通名詞であるが,被告及び被告グループにより使用された結果,全国的に極めて高い著名性を有する商標であること,③本件指定役務と被告又は被告グループが使用する役務とが密接な関連性を有するものであることを総合勘案すれば,原告が,被告及び被告グループを表示するものとして著名な引用商標と同一ないし極めて類似する本件商標を,被告又は被告グループが使用する役務と密接な関連性を有する本件指定役務について使用した場合,その需要者及び取引者において,本件商標の下で提供される原告の役務が,例えば,被告グループに属する者,被告から引用商標の使用許諾を受けた者によるなど,被告又は被告と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であると誤認し,役務の出所につきいわゆる広義の混同を生ずるおそれは極めて高いといわなければならない。

したがって,本件商標は,被告及び被告グループの業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標であるから,商標法4条1項15号に該当する。





縮小版【商標法4条1項15号】「基準」(最高裁判決引用)


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))



基準

「商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定役務に使用したときに,当該指定役務が他人の役務に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該指定役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信される,広義の混同を生ずるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定役務と他人の業務に係る役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。」(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))



本件商標と引用商標との類似性の程度



引用商標の周知著名性及び独創性の程度



本件指定役務と引用商標に係る役務との間の関連性の程度



出所の混同のおそれ




H230307現在のコメント


(知財高裁平成23年3月3日判決(平成22年(行ケ)第10338号審決取消請求事件))

最高裁判決の引用をした重要判決です。

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Last Update: 2011-03-07 09:47:50 JST

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