2011年1月25日火曜日

特許:容易想到性,構成と顕著な効果「事実認定」:(知財高裁平成23年1月25日判決(平成22年(行ケ)第10179号審決取消請求事件))





目 次


特許:容易想到性,構成と顕著な効果「事実認定」:(知財高裁平成23年1月25日判決(平成22年(行ケ)第10179号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第2部「塩月秀平コート」


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縮小版「事実認定」



原告は,審決が本件発明1の効果として認定した,外箱の形状に追従して動きにくい,自立性が優れる,破れにくく柔軟で取扱いが容易といった効果は,甲1,甲2,甲3及び周知技術に関して主張した文献に記載されており,これらを寄せ集めたものであって,当業者が予測できる効果にすぎない旨主張する。

しかしながら,甲1~3記載の発明に基づき,本件発明1の特徴点aの構成を想到することが容易とはいえないことは,上記(1)~(3)で説示したとおりであり,審決の結論に誤りはない。


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h230126現在のコメント


構成想到が容易でない→寄せ集めの効果とはいえない

はっきり言い切ってしまえば,こういうことになるかとおもいます。

関係ないですが,特許庁における手続の経過を,●●は,とするのは,塩月コートの特色と言えます。


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判決原文(引用)




(4) 構成と顕著な効果について



原告は,審決が本件発明1の効果として認定した,外箱の形状に追従して動きにくい,自立性が優れる,破れにくく柔軟で取扱いが容易といった効果は,甲1,甲2,甲3及び周知技術に関して主張した文献に記載されており,これらを寄せ集めたものであって,当業者が予測できる効果にすぎない旨主張する。

しかしながら,甲1~3記載の発明に基づき,本件発明1の特徴点aの構成を想到することが容易とはいえないことは,上記(1)~(3)で説示したとおりであり,審決の結論に誤りはない。

また,本件発明1はバッグインボックス用袋体としての課題を解決してこれを最適化しようとするものであり,広く包装容器一般の技術文献において,上記効果に類した効果の記載が見受けられるとしても,バッグインボックス用袋体として同時に奏されるこのような効果が,格別なものではないと評価することはできず,原告の主張は理由がない。


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判決原文(全文)




平成22(行ケ)10179 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成23年01月25日 知的財産高等裁判所 




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平成23年1月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(行ケ)第10179号審決取消請求事件



口頭弁論終結日平成23年1月18日



判決





主文



原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。



事実及び理由





第1 原告の求めた判決



特許庁が無効2008-800104号事件について平成22年4月28日にした審決を取り消す。

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第2 事案の概要



原告は,被告の有する本件特許について無効審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の第2次審決を受けた。本件はその取消訴訟であり,主たる争点は,容易推考性の存否である。


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1 特許庁における手続の経緯



被告は,平成7年11月14日,名称を「バッグインボックス用袋体およびバッグインボックス」とする発明について,平成6年11月18日の優先日を主張して特許出願(特願平7-295733号,原出願)をし,平成13年8月13日,原出願について分割出願をし(特願2001-245400号),平成17年8月12日,上記分割出願について特許権の設定登録を受けた(特許第3709155号,請求項の数は11,本件特許,甲4)。

原告は,平成20年6月10日に,本件特許について無効審判請求をした。

特許庁は,この請求を無効2008-800104号事件として審理し,平成21年7月15日,「特許第3709155号の請求項1ないし11に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした(第1次審決)。

被告は,平成21年8月21日に審決取消訴訟を提起し(平成21年(行ケ)第10251号),平成21年10月15日に訂正審判請求をしたところ,知的財産高等裁判所は,平成21年10月30日,特許法181条2項に基づき第1次審決を取り消す旨の決定をした。

これにより,上記無効審判請求事件は再び特許庁において審理されることとなり,平成21年10月15日付けの訂正審判請求は特許法134条の3第5項の規定により平成21年11月20日になされた訂正請求とみなされたところ(本件訂正),特許庁は,平成22年4月28日,「特許請求の範囲についてする訂正のうち,請求項1,9及び10の訂正並びに明細書についてする訂正のうち,段落【0013】の訂正を認める。請求項4の訂正を認めない。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(第2次審決。以下,単に「審決」というときは,第2次審決を指す。),その謄本は平成22年5月11日原告に送達された。


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2 本件発明の要旨



本件訂正(請求項4に係る訂正事項以外のもの)後の本件特許の請求項1~11(本件発明1~11)は次のとおりである(下線部が訂正箇所。原告は,本件訴訟において訂正の適否を争っていない。)。

「【請求項1】

接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部および谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールの袋本体の各隅部に,袋本体を一対の平面部が重なり合い且つ重なり合った平面部の間に前記谷折り線を備えた2つの側面部が介在するように折り畳んだ状態下で対向する袋本体の内面同士を,頂部および底部の各シール部と側面シール部とを前記各隅部を斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成された閉鎖シール部を有する,内容物である液体の充填時には直方体又は立方体に近い形状となるバッグインボックス用袋体であって,

前記側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ,少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとり,内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり,自立性に優れる袋体となり,

その頂部側と底部側に関し,頂部シール部,側面シール部及び閉鎖シール部,又は底部シール部,側面シール部及び閉鎖シール部にて,その両側部分に三角形状のフィン部が形成され,

これらフィン部は,2枚の前記平面部が前記側面部と別々にシールされて,それぞれ独立して形成され,各フィン部のうち,少なくとも頂部側のフィン部には,前記平面部と前記側面部の内面同士が部分的乃至断続的に接着され,

さらに,部分的乃至断続的に接着されたフィン部は,このバッグインボックス用袋体の前後に対向する頂部シール部及び底部シール部双方が,隅部の頂点の位置で接着され,かつ,頂部シール部上,または,頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所,頂点の位置と不連続的に接着されることによって,袋体の頂部側,または,頂部側及び底部側に左右一対の吊り下げ部を形成することを特徴とするバッグインボックス用袋体。

【請求項2】閉鎖シール部が,頂部側を底部側より深い位置になるように形成されていることを特徴とする,請求項1に記載のバッグインボックス用袋体。

【請求項3】閉鎖シール部が,頂部シール部と閉鎖シール部とに挟まれた狭角は46~55°で,底部シール部と閉鎖シール部とに挟まれた狭角は40~50°となるように形成されたことを特徴とする,請求項1に記載のバッグインボックス用袋体。

【請求項4】前記フィン部の頂部シール部又は底部シール部は,このバッグインボックス用袋体の左右の双方が少なくとも部分的に接着されていることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体。

【請求項5】一対の平面部および2つの側面部のそれぞれに少なくとも1つずつ,袋本体の上下方向に延在するように帯状のフィルム片が接着されているかまたは帯 状の気体充填層が設けられていることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体。

【請求項6】少なくとも1つの三角形状の前記フィン部にパンチ穴が形成されていることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体。

【請求項7】合成樹脂製フィルム中の少なくとも1層が金属箔の層であることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体。

【請求項8】シール部の幅を除いた実寸法で,上記平面部の横寸法が260~340mm,上記側面部の横寸法が180~260mm,および上記平面部と上記側面部の縦寸法が490~660mmであることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体。

【請求項9】内部に,注出口を備えた請求項1乃至請求項8に記載のバッグインボックス用袋体が内袋として収納された外箱の一面に,内袋の注出口の周囲の袋本体を50mm以上引出し可能な径を有する開口部を形成するための開封補助手段が備えられていることを特徴とするバッグインボックス。

【請求項10】開封補助手段は,外箱の一面を,前記開口部の中心点となるべき位置から放射状に引き裂くことができ,開封後には,前記開口部の周囲に扇状の断片が残る開封補助手段であることを特徴とする請求項9に記載のバッグインボックス。

【請求項11】内袋の容量が5~25リットルであり,外箱が立方体又は直方体であることを特徴とする請求項9に記載のバッグインボックス。」

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3 審判で審理された無効理由



審判において審理された無効理由は,本件発明1~11について,次のとおりの文献と周知技術との組合せ等によって当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定に反するというものである。無効理由1~3は請求人(原告)が主張し,無効理由4は審判官が職権により通知したものである。



無効理由1:本件発明1について,特開昭49-110469号公報(甲1)に記載された発明と,周知技術又は実願昭58-105524号(実開昭60-13370号)のマイクロフィルム(甲2)に記載された発明との組合せ。





無効理由2:本件発明1について,実願昭58-105524号(実開昭60-13370号)のマイクロフィルム(甲2)に記載された発明と,周知技術又は特開昭49-110469号公報(甲1),実願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム(甲3)に記載された発明との組合せ。





無効理由3:本件発明2~11について,特開昭49-110469号公報(甲1),実願昭58-105524号(実開昭60-13370号)のマイクロフィルム(甲2),実願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム(甲3)記載の発明及び周知技術の適宜の組合せ。





無効理由4:本件発明1~11について,実願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム(甲3)記載の発明及び周知技術



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4 審決の理由の要点



特開昭49-110469号公報(甲1),実願昭58-105524号(実開昭60-13370号)のマイクロフィルム(甲2)及び実願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム(甲3)には,本件発明1の特定事項のうち,以下の特徴点aは記載されていない。

「【特徴点a】

接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成され,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ,少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとる側面シール部を有する袋体である点。」

本件明細書の記載によれば,本件発明1の袋体は,柱構造によって立方体又は直方体に近い形状をとるので,外箱の内部形状に対して追従して外箱内で動きにくく,袋体だけの状態で使用しても自立性に優れているとともに,平面部及び側面部は接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成されていて破れにくく柔軟性に富んでいるので,外箱内に収納する際の取扱いが容易である。すなわち,上記特徴点aの構成によって,硬い外形を保ちながら同時に柔らかく変形するという特性を備えた,バッグインボックス用の袋体としての格別な効果を奏するものと認める。

本件発明1は,バッグインボックス用として用いることを前提にした上記効果を奏することを目的として上記特徴点aの構成を採用したものというべきであり,バッグインボックス用袋体において2枚以上のフィルムを重ね合わせた多重袋を使用することが周知であり,ガゼット状の袋を多重化することは種々の分野において用いられている一般的な技術であるとしても,バッグインボックス用袋体をその使用形態に着目して,破れにくく,硬い外形を保ちながら同時に柔らかく変形するという特性を備えるものとするために,多重化に際して,上記特徴点aの構成を採用することが当業者にとって容易に想到し得たこととは認められない。

そうすると,本件発明1は,特開昭49-110469号公報(甲1),実願昭58-105524号(実開昭60-13370号)のマイクロフィルム(甲2)及び実願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム(甲3)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

本件発明2~11は,いずれも,本件発明1の発明特定事項のすべてを有するものである。

したがって,本件発明2~11も,上記理由と同様の理由によって,当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。


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第3 原告主張の審決取消事由




1 取消事由1(理由不備)


審決は,特開昭49-110469号公報(甲1),実願昭58-105524
号(実開昭60-13370号)のマイクロフィルム(甲2)及び実願昭63-8
5694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム(甲3)記載の発明及び
周知技術に基づいても,「特徴点aの構成を採用することが当業者にとって容易に
想到し得たこととは認められない」と認定判断している。
他方,第1次審決では,本件訂正前の請求項1に係る発明(訂正前発明1)と実
願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム(甲3)記
載の発明とを対比し,相違点1として「訂正前発明1では,接着されない状態で重
ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一
対の平面部および谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールの袋本体から
なるのに対し,実願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフ
ィルム(甲3)記載の発明では,袋本体が側面の山折り部によって側面部が形成さ
れる単層の筒状フィルムであって,袋本端の端部がシールされるものである点」を
認定した上,相違点1に係る構成は「液体や粉体を入れるガゼット袋を4方シール
すること」,「バッグインボックス用袋体において2枚以上のフィルムを重ね合わせ
た多重袋を使用すること」及び「ガゼット状の袋を多重化すること」という周知技


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術から容易に想到できると判断した。
ところで,特徴点aと相違点1は実質的に同一の構成である。すなわち,特徴点
aと相違点1は,「接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂
製フィルムによって形成され」という記載については同一であり,「平面部」及び
「側面部」を有する点で共通している。また,訂正前発明1の相違点1に係る4方
シールの袋本体は,平面部の側縁部の内面と側面部の側縁部の内面がシールされた
「側面シール部」を有しており,このような側面シール部は,少なくとも2枚の合
成樹脂製フィルムによって形成された平面部及び側面部がシールされるため,「少
なくとも4枚のフィルムが重なり合った構造」=「柱構造」をとるものである。し
たがって,本件発明1の特徴点aは,「柱構造」という,本件訂正により新たに加
わった文言を形式的に含むものの,実質的には,本件訂正により新たに加わった構
成ではなく,訂正前発明1の相違点1に係る構成と同一のものである。
しかるに,特徴点aに関する審決の判断は,前記のとおりであり,「液体や粉体
を入れるガゼット袋を4方シールすること」,「バッグインボックス用袋体において
2枚以上のフィルムを重ね合わせた多重袋を使用すること」及び「ガゼット状の袋
を多重化すること」という周知技術を,特開昭49-110469号公報(甲1),
実願昭58-105524号(実開昭60-13370号)のマイクロフィルム(甲
2)及び実願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム
(甲3)記載の発明において採用できない具体的な理由付けが一切示されていない。
以上のとおり,審決は,第1次審決と矛盾する判断をしながら,そのように異な
る認定判断に至った具体的な理由が一切示されていない。また,第1次審決では,
周知技術を表す文献を職権で多数引用した上で進歩性を否定したのに対し,審決は,
これらの周知技術に関する文献すら一切考慮しないまま,具体的な理由を述べるこ
となく,第1次審決と相反する認定判断を行っている。
よって,審決には理由不備の違法がある。

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2 取消事由2(容易推考性に関する認定・判断の誤り)



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(1) 実願昭58-105524号(実開昭60-13370号)のマイクロフィ
ルム(甲2)記載の発明に関する認定・判断の誤り
審決は,特徴点aは,甲2には記載されていないとしている。
しかし,甲2記載の発明では,袋本体は,樹脂フィルム等からなる最外層,中間
層,最内層を有する積層フィルムから構成されるため,表面フィルム又は裏面フィ
ルムと側面フィルムとがそれぞれシールされた周縁シール部2,2'においては,
6枚のフィルムが重なり合った柱構造をとることになる。したがって,特徴点aの
うち,「平面部と側面部の側縁部同士がシールされ,少なくとも4枚のフィルムが
重なり合った柱構造をとる側面シール部を有する袋体」は開示されている。そうす
ると,特徴点aに係る本件発明1の構成と甲2記載の発明との相違点は,甲2記載
の発明には,平面部と側面部が「接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2
枚の合成樹脂製フィルムによって形成されている」ことが明記されていない点のみ
である。
バッグインボックス用袋体において,内容物の漏洩を防ぐために,2枚以上のフ
ィルムを重ね合わせた多重袋を使用することは周知であり(例えば特開昭59-3
1151号公報(甲15),実願昭58-99296号(実開昭60-8257号)
のマイクロフィルム(甲16),実願平2-111665号(実開平4-6886
4号)のマイクロフィルム(甲17),実願平4-64558号(実開平6-27
624号)のCD-ROM(甲18)等参照),ガゼット状の袋を多重化すること
は種々の分野において用いられている一般的な技術である(例えば特開平3-65
333号公報(甲9),特開平7-137750号公報(甲10),特開昭61-2
63740号公報(甲11),実願昭52-15929号(実開昭53-1103
16号)のマイクロフィルム(甲12),実願昭61-105703号(実開昭6
3-13840号)のマイクロフィルム(甲13),特開昭62-53829号公
報(甲14)参照)。そして,実願平4-64558号(実開平6-27624号)
のCD-ROM(甲18)には,バッグインボックス用の多重袋にガゼット袋を適


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用できることも開示されている。さらに,ガゼット袋を多重袋とすることによって,
層の間に設けられる空間又は空気層が緩衝材として機能し,袋の強度を高めること
ができることも特開平3-65333号公報(甲9),特開平7-137750号
公報(甲10),特開昭61-263740号公報(甲11),実願昭52-159
29号(実開昭53-110316号)のマイクロフィルム(甲12),実願昭6
1-105703号(実開昭63-13840号)のマイクロフィルム(甲13),
特開昭62-53829号公報(甲14)に開示されている。
以上によれば,甲2記載の発明において,周知技術及び一般的な技術を参酌して,
内容物の漏洩を防ぐため,又は袋の強度を高めるために,バッグインボックス用袋
体において一般的に採用されていた多重袋を採用することは,当業者にとって容易
に想到できる。また,この発明において多重袋を採用することについては,「内容
物の漏洩を防ぐ又は袋の強度を高める」という動機付けが存在する。
したがって,審決の「上記特徴点aの構成を採用することが当業者にとって容易
に想到し得たこととは認められない。」との判断は誤りである。
(2) 特開昭49-110469号公報(甲1)及び実願昭58-105524
号(実開昭60-13370号)のマイクロフィルム(甲2)に記載された発明に
関する認定・判断の誤り
審決は,「多重化に際して,上記特徴点aの構成を採用することが当業者にとっ
て容易に想到し得たこととは認められない」と判断したが,「多重化に際して」と
いう記載から明らかなように,甲1及び甲2記載の袋体を多重化できること自体は
認めている。
甲1のFIG.7及び甲2の第1図に示されているとおり,これらの文献に記載
の発明には,4方シール構造のガゼット袋が開示されている。4方シール構造のガ
ゼット袋を多重化すれば,平面部と側面部は,接着されない状態で重ね合わされた
少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成され,その4方のシール部では
平面部と側面部とがシールされるため,少なくとも4枚のフィルムが重なり合った


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柱構造をとるのであるから,特徴点aに係る構成は必然的に得られる。
したがって,これらの文献に記載の発明について,多重化できることを認めた以
上,審決の上記理由付けは誤りである。
(3) 実願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム
(甲3)記載の発明に関する判断の誤り
本件特許の出願当時,「液体や粉体を入れるガゼット袋を4方シールすること」(実
願昭58-46182号(実開昭59-153838号)のマイクロフィルム(甲
6),実願昭58-105524号(実開昭60-13370号)のマイクロフィル
ム(甲2),特開昭49-110469号公報(甲1),実願昭62-150652
号(実開昭64-55248号)のマイクロフィルム(甲7),特開平6-1794
54号公報(甲8)参照),「ガゼット状の袋を多重化すること」(上記(2)の甲9~
14参照)及び「バッグインボックス用袋体において2枚以上のフィルムを重ね合
わせた多重袋を使用すること」(上記(2)の甲15~18参照)は周知技術であった。
したがって,これらの周知技術に基づいて,甲3の第7図に記載されたガゼット状
のバッグインボックス用袋体を,「側面シール部を設けた,4方シールのガゼット
袋とすること」及び「接着されない状態で重ね合された4方シールの袋本体からな
るものとすること」は当業者が適宜なし得たことにすぎない。
審決は,上記周知技術を採用できない理由付けについては一切明らかにしておら
ず,誤りがある。

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(4) 顕著な効果の不存在


審決は,本件発明1について,特徴点aの構成により格別の効果を奏するとして
いる。
審決が認定する上記効果についても,甲1,甲2及び甲3記載の袋体又は周知技
術が記載された文献に開示された袋体,すなわち,合成樹脂フィルムによって形成
される4方シールの袋体が本来的に備えている特性に過ぎず,当業者が当然に予測
し得る効果であって,「格別の効果」と認められるものではない。


  • 12 -


審決が認定した「本件発明1の袋体は,柱構造によって立方体または直方体に近
い形状をとるので,外箱の内部形状に対して追従して外箱内で動きにくく,袋体だ
けの状態で使用しても自立性に優れている」という効果は,バッグインボックス用
の4方シールのガゼット袋が有する基本的な効果にすぎず,少なくとも甲2記載の
発明において開示されている。
また,袋体のシール部分は,合成樹脂フィルムの重なり合い及び熱融着により,
樹脂フィルムそのものである袋体の壁面に比較して硬くなることは当然であり,そ
れにより,袋体の自立性,成形性が向上する。つまり,審決が認定する「硬い外形
を保ちながら同時に柔らかく変形するという特性」は,合成樹脂フィルムによって
形成される4方シールの袋体が本来的に備えている特性にすぎず,本件発明の格別
の効果などではない。
さらに,審決は,「平面部および側面部は接着されない状態で重ね合わされた少
なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成されていて破れにくく柔軟性に富
んでいるので,外箱内に収納する際の取扱いが容易である。」と認定したが,「破れ
にくく柔軟性に富んでいる」という特性は,合成樹脂製フィルムの特性や条件によ
る影響が大きく,平面部および側面部を接着されない状態で重ね合わされた少なく
とも2枚の合成樹脂製フィルムとしたことによって初めてなされた格別なものでは
ない。


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第4 被告の主張




1 取消事由1に対し


仮に,審決について,先にした第1次審決の認定判断との間で理由に矛盾がある
としても,審決中にその旨を記載しなければならないものではない。
特許法181条2項の規定に基づく取消決定によって第1次審決は取り消され,
審判手続はそれ以前の状態に戻った。このように,第1次審決は取り消されている
から,審決が第1次審決と矛盾するということは,そもそもあり得ない。


  • 13 -


本件特許の請求項1については,訂正が認められており,訂正後の発明の要旨に
ついて,改めて審判をすることになる。したがって,第1次審決と審決との認定判
断が異なることは当然である。
審決は,進歩性ありと判断するまでの論理経過を述べており,その論理に何らの
矛盾は存在していないのであって,あえて第1次審決と審決との認定判断の違いま
で説明しなければならないものではない。

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2 取消事由2に対し


(1) 取消事由2(1)につき
原告は,実願昭58-105524号(実開昭60-13370号)のマイクロ
フィルム(甲2)には,特徴点aのうち「平面部と側面部の側線部同士がシ-ルさ
れ少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとる側面シール部を有する袋
体」が開示されていると主張する。
アしかし,一般に,バッグインコンテナの容量範囲は500~1000リット
ルであるのに対して,バッグインボックスの容量範囲は3~25リットルとされて
いる。本件発明1はバッグインボックスに関する発明であるのに対し,甲2記載の
発明は,バッグインコンテナに関する発明であるから,その袋体はバッグインボッ
クス用袋体とはその技術において全く異なるものというべきである。
イ甲2記載の袋体は,200リットル以上の内容物を蓄える大型容器であり,
また,容量が大きいために金属性の枠体の中に袋体が収容されるものであり,袋体
と金属枠体とは一体的に扱われ,袋体は金属枠体に収納して使用され,金属枠内の
袋体に内容物が充填されて使用されるものである。そして,金属製の箱型枠によっ
て直方体又は立方体に近い形状を維持することができ,金属製の箱型枠によって見
かけ上では自立するものである。さらに,バッグインボックス用袋体のように内容
物入り袋のみで取り扱われることはなく,「柱構造」も不要である。したがって,
甲2記載の発明には特徴点aにおける「柱構造」は存在しない。
ウ甲2記載の袋本体は,「接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚


  • 14 -


の合成樹脂製フィルム」ではなく,複数フィルムが接着され一体的に積層されたも
のである。一般に,「積層」とは,「幾層にも層を重ねること」(大辞林3版)をい
うとされており,甲2記載の発明の「積層フィルム」も,複数フィルムを重ね合わ
せて接着したものと認められる(大辞林3版の「ラミネート」や「積層材」の項参
照)。そして,甲2の記載全体を精査してみても,「積層フィルム」の語が接着され
ない状態で重ね合わされた2枚の合成樹脂フィルムと解釈するに足りる理由を見出
すことができず,むしろ,複数フィルムが一体的に積層されたもの(本件明細書の
外側フィルムと同一のもの)であると理解することが合理的である。
エ原告は,「バッグインボックス用袋体において2枚以上のフィルムを重ね合
わせた多重袋を使用すること」を周知技術と主張するが,原告が指摘する文献(甲
15~18)は,いずれも明らかに平袋を対象としたものであって,本件発明のよ
うなガゼットのあるバッグインボックス用袋体ではない。また,原告は,「ガゼッ
ト状の袋を多重化すること」は周知技術であると主張するが,原告が指摘する文献
(甲9~14)記載の袋体はいずれも,特殊な材質を用い,特殊な用途に用いられ
るものであって(特殊用途の多重袋),自立するための柱構造はなく,「内容物の漏
洩を防止するために,又は袋強度を高めるために,合成樹脂フィルムを多重に重ね
る」技術を開示するものではなく,本件発明のようなバッグインボックス用袋体で
もない。そうすると,引用発明2において,周知技術及び一般的な技術を参酌して,
内容物の漏洩を防ぐため,又は袋の強度を高めるために,バッグインボックス用袋
体において一般的に採用されていた多重袋を採用することは,当業者にとって容易
に想到できるとはいえない。
(2) 取消事由2(2)につき
審決は,本件発明1がバッグインボックス用であることを前提として,「多重化
に際して,上記特徴点aの構成を採用することが当業者にとって容易に想到し得た
こととは認められない」という判断をしたものである。
特開昭49-110469号公報(甲1)記載の発明は,本件発明1の「接着さ


  • 15 -


れない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成さ
れた対向する一対の平面部および谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シー
ルの袋本体」という構成を有していないのみならず,「この容器は底部から項部に
向って均一な断面形のもので,頑丈な比較的に可撓性のない板材料で作られ得るの
で,そのためにこの容器は比較的に重い荷重を収容することができる。」もので,「牛
乳,自動車のオイル,その他の液体の貯蔵…」のための袋体である。また,甲2記
載の発明は,「バッグインコンテナ用袋体」である。このように,これらの文献に
記載された発明は,いずれもバッグインボックス用とは異なる袋体である。
したがって,原告の主張は,前提を欠くものである。
(3) 取消事由2(3)につき
ア原告は,「液体等を入れるガゼット袋を4方シールすること」は周知技術で
あると主張するが,原告が指摘する文献は,ガゼット状であっても2重袋ではない
か,4方シールしたものではなく,内容物を充填した後,シールするものである。
また,原告は,「ガゼット状の袋を多重化すること」は周知技術であると主張す
るが,原告が指摘する文献は,すべてバッグインボックス用袋体ではなく,特殊用
途のガゼット状多重袋である。
原告は,「バッグインボックス用袋体において2枚以上のフィルムを重ね合わせ
た多重袋を使用すること」も周知技術であると主張するが,原告が指摘する文献は,
すべて,多重袋を使用した平袋である。
上記の文献は,いずれも特殊用途,平袋という特殊なもので,実願昭63-85
694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム(甲3)の第7図のバッグ
インボックス用袋体との組合せについての記載も示唆もなく,技術常識的に見ても
組合せを着想させるものではない。
イ原告は,本件発明1と甲3記載の発明との対比における相違点を,「液体等
を入れるガゼット袋を4方シールすること」,「ガゼット状の袋を多重化すること,
「バッグインボックス用袋体において2枚以上のフィルムを重ね合わせた多重袋を


  • 16 -


使用すること」に分解して主張している。しかし,これらの相違点は細分化できる
ものではなく,相違点にかかる構成が不可分一体となって格別の作用効果を奏する
ものである。すなわち,本件発明1は,「接着されない状態で重ね合わされた少な
くとも2枚の合成樹脂製フィルムフィルム」が「一対の平面部」と「2つの側面部」
を有し,「4方シール」されることにより,その相乗効果によって格別の作用効果
を奏するのであるから,原告の主張する構成を単純に組み合わせればよいというも
のではない。
このように,本件発明1は,特徴点aの構成要素が不可分一体に結合するバッグ
インボックス用袋体である。本件発明1は,バッグインボックス用袋体についての
新規な課題を解決し,格別な作用効果を奏するものである。このような新たな課題,
新たな作用効果は,原告の挙げる全証拠を検討しても存在しないものであるから,
根拠もなく「液体等を入れるガゼット袋を4方シールすること」,「ガゼット状の袋
を多重化すること」,「バッグインボックス用袋体において2枚以上のフィルムを重
ね合わせた多重袋を使用すること」を組み合わせることが容易想到であるとする原
告の主張は,単なる後知恵にすぎない。
なお,本件出願当時,「液体等を入れるガゼット袋を4方シールすること」の構
成に関して,平袋を2重にする場合,2枚のフィルムを単純に重ね合わせ,簡単に
4方をシールすることができるが,ガゼット状袋を2重にする場合,2枚の平面部
フィルムと2枚の側面部フィルムは位置ずれを起こしやすく,簡単に重ね合わせ4
方をシールすることはできないことは当業者の常識であり,その意味で,容易想到
を阻害する事由が存在した。全証拠から見ても,ガゼット袋を2重にして4方シー
ルをしたものが存在しなかったことは明白である。
(4) 取消事由2(4)につき
本件発明は,特徴点aの構成要素が不可分一体に結合するバッグインボックス用
袋体であり,「接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フ
ィルムフィルム」が「一対の平面部」と「2つの側面部」を有し,「4方シール」


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されることにより,その相乗効果によって格別の作用効果を奏するものである。そ
れを「液体等を入れるガゼット袋を4方シールすること」,「ガゼット状の袋を多重
化すること」,「バッグインボックス用袋体において2枚以上のフィルムを重ね合わ
せた多重袋を使用すること」に分解しても,それぞれについての作用効果があるに
すぎない。そして,これらの構成に係る個別的な作用効果を寄せ集めても,本件発
明に係る作用効果に至ることはない。


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第5 当裁判所の判断






1 本件発明1




本件明細書の記載によれば,本件発明1は,段ボール箱等の外箱にプラスチック製の内袋を入れ,内袋に各種の液体を充填して,その貯蔵・運搬に用いるバッグインボックスの内袋に関する発明であって(段落【0001】,【0002】,【0005】),従来技術では,合成樹脂製の平袋等が用いられているが,外箱の内部形状に対する追従性が悪く無駄な空間が生じ易い,振動などの小さい衝撃が加えられた場合に内袋がこすれて傷付き破れやすい,自立性を有しないので外箱内に収納する際や内袋だけで使用したい場合に取扱いが不便である等の問題があったことから(段落【0006】~【0008】),このような問題を解決するために,上記第2,2の【請求項1】で特定された構成を有するものであるが,特に,袋本体が,接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールとされ,その側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ,少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとり,内容物である液体の充填時には直方体又は立方体に近い形状になり,自立性に優れる袋体となる構成をとることにより(【0012】,【0013】),液体の充填時には立方体又は直方体に近い形状となることで,自立性に優れ,取扱いが容易であり,立方体又は直方体である外箱の内部形状に対して追従性に優れ,袋体が外箱内で動きにくく,衝撃による破裂やこすれによる破れが起こりにくいという利点を有するとともに,平面部および側面部が,接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成されているので,外側の合成樹脂製フィルムのみが外箱との摩擦で摩耗し,内側の合成樹脂製フィルムは外側の合成樹脂製フィルムに対する滑りによって破れにくい上に柔軟性に富んでいるので取扱いが容易であるという作用効果を奏するものと認められる(段落【0024】~【0027】)。

すなわち,上記構成により,バッグインボックスに用いる袋体として求められる,自立性,柔軟性,耐久性という,相反する要望に応えることが出来るという意義を有するものと認められる。

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2 取消事由1(理由不備か否か)について



原告は,審決が第1次審決と矛盾する判断をしているなどと主張する。しかし,第1次審決は取消訴訟の決定により取り消され,しかも,本件訂正により本件発明1の要旨が変更されているのであるから,第1次審決の理由と対比して審決の理由を示す必要はないし,これと異なる判断をしたとしてもそこに違法はない。また,審決は,周知技術についても言及した上,格別の効果の観点を加味して判断したものであって,そこに理由不備の違法はない。

取消事由1には理由がない。

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3 取消事由2(容易推考性の存否)について






(1) 実願昭58-105524号(実開昭60-13370号)のマイクロフィルム(甲2)記載の発明に関する認定・判断について




ア(ア) 甲2によれば,そこに記載された発明は,外枠と内袋の組合せ容器に関するものであって,従来の容器は容量が20リットル以下の小型のものであり,そのまま大容量化することは取扱いや強度上困難であることから(明細書2頁5行~9行),外枠と内袋の構成に特別な配慮をすることにより200リットル以上の大型容器を得ることを目的とするものであり(明細書2頁16行~19行),金属製等の箱形枠の内部にバリヤー性を有する積層フィルムからなる内袋を入れた構成をとるが(明細書2頁20行~3頁1行),積層フィルムだけで内容品を保持することが困難であるため,内袋の内寸を少なくとも金属枠と同等にし,金属枠で内袋に係る重量を保持するようにすることが好ましく,このため,外枠の腰板は金属製のしっかりとした構造が必要となるなどというものである(明細書3頁17行~4頁9行)ことが認められる。

また,そこには,袋の形状がガゼット状のものが示され(明細書4頁14行~16行,第1図~第3図),袋に用いる積層フィルムの構成として,最外層,中間層,最内層から成る樹脂フィルムが例示され(明細書5頁7行~6頁2行),積層フィルム同士が周縁部で接着されている様子が記載されている(第3図)。

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(イ) 上記の大型容器においては,内袋が箱形枠に内部から密着し,この箱形枠で圧力を受けることから,内袋の自立性は考慮されていないものと認められる。


イ原告は,甲2記載の発明にバッグインボックス用袋体を多重化する周知技術(甲15~18等)等を適用して,本件発明1の特徴点aの構成とすることは容易である旨主張する。

しかし,上記アで認定したとおり,甲2記載の内袋は,それ自体では内容物の圧力を受けることができず,金属製等の箱形枠内に収容されることを前提とした技術であるから,バッグインボックスとは異なるいわゆるバッグインコンテナ用の内袋というべきものであり,本件発明1が対象としたバッグインボックス用の内袋における自立性等に関する技術とは技術的思想が異なるものというべきである。このようなバッグインコンテナ用の内袋に関する甲2記載の発明に,技術分野が同一とはいえないバッグインボックス用袋体に関する周知技術(甲15~18等)を適用する動機はないというべきであり,また,これにガゼット袋を多重化し,強度を高める周知技術を適用して,バッグインボックス用の内袋の自立性等に関する発明である本件発明1の特徴点aを想到することが容易であるともいえない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

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(2) 特開昭49-110469号公報(甲1)及び実願昭58-105524号(実開昭60-13370号)のマイクロフィルム(甲2)に記載された発明に関する認定・判断について




原告は,甲1及び甲2に記載された発明の4方シール構造のガゼット袋を多重化すれば,少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとるのであるから,特徴点aに係る構成は必然的に得られると主張する。

しかし,甲1によれば,そこに記載された発明は,自由に直立する容器に関するものであって(1頁右下欄19行),その容器は,液体等による比較的に重い荷重を収容するため,頑丈な比較的可撓性のない板材料で作られるものであり(2頁左下欄3行~10行),バッグインボックス用袋体とは異なるものであると認められる。

また,甲2に記載された発明も,上記(1)で説示したとおり,バッグインコンテナ用内袋に関する発明というべきであり,バッグインボックス用袋体とは異なるものである。

したがって,これらを多重化しても,必然的にバッグインボックス用袋体に関する本件発明1の特徴点aの構成になるものではなく,原告の上記主張は採用することができない。



(3) 実願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム



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(甲3)記載の発明に関する判断について



原告は,甲3記載の発明に周知技術を適用することにより,本件発明1の特徴点aの構成とすることは容易である旨主張する。

上記1で認定したとおり,本件発明1は,バッグインボックスに用いる袋体として求められる,自立性,柔軟性,耐久性という相反する要請を充足するために,「接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成され,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ,少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとる側面シール部を有する袋体である点。」という特徴点aの構成を採用したものである。

これに対し,甲3によれば,そこに記載された発明は,バッグインボックス用袋体に関する発明であるが(明細書1頁13行~15行),従来の袋体は内容物を充填した場合に形が固定されておらず取り扱いにくいという問題があったため(明細書3頁14行~17行),この問題を解決するために,外面適宜位置に把手を形成するようにしたことを特徴とするものであり(明細書1頁5行~10行,3頁18行~20行),また,袋体は,筒状フィルムの両開口端をヒートシーラ等で加熱溶着してガゼット形状の袋体に形成されており,4方の側縁部にシール部は形成されていないものである(明細書4頁16行~5頁12行,第7図)。

このように,甲3記載の発明は,外面位置に把手を設けることが主目的とされており,本件発明1のような課題は意識されておらず,また筒状フィルムから製造されるため,側面シール部は有していない。

そうすると,原告が主張するように,ガゼット袋を4方シールして自立性を持たせること,ガゼット袋を多重化して強度を向上させること,及びバッグインボックス用袋体において多重袋とすることがそれぞれ周知であったとしても,甲3記載の発明における袋の製造方法を変更した上で,本件発明1の特徴点aの構成に至ることが容易であるとはいえない。

したがって,原告の上記主張も採用することができない。



(4) 顕著な効果について



原告は,審決が本件発明1の効果として認定した,外箱の形状に追従して動きにくい,自立性が優れる,破れにくく柔軟で取扱いが容易といった効果は,甲1,甲2,甲3及び周知技術に関して主張した文献に記載されており,これらを寄せ集めたものであって,当業者が予測できる効果にすぎない旨主張する。

しかしながら,甲1~3記載の発明に基づき,本件発明1の特徴点aの構成を想到することが容易とはいえないことは,上記(1)~(3)で説示したとおりであり,審決の結論に誤りはない。

また,本件発明1はバッグインボックス用袋体としての課題を解決してこれを最適化しようとするものであり,広く包装容器一般の技術文献において,上記効果に類した効果の記載が見受けられるとしても,バッグインボックス用袋体として同時に奏されるこのような効果が,格別なものではないと評価することはできず,原告の主張は理由がない。

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(5) 小括



以上のとおり,本件発明1について,容易に発明することができたとはいえないとした審決の判断に誤りはない。また,本件発明2~11についても,直接又は間接に本件発明1の構成を引用するものであり,本件発明1の特定事項をすべて有するものであるから,本件発明1と同様の理由により容易に発明することができたとはいえないとした審決の判断に誤りはない。

したがって,取消事由2は理由がない。

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第6 結論



以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官塩月秀平裁判官清水節- 23 -裁判官古谷健二郎

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Last Update: 2011-01-26 21:12:08 JST


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