2011年1月31日月曜日

特許:【部分の特許,全体としての特許侵害(差止,損害賠償)】「事実認定」,【物件目録】「記載方法」:(知財高裁平成23年1月31日判決(平成22年(ネ)第10031号特許権侵害差止等請求控訴事件))





目 次


特許:【部分の特許,全体としての特許侵害(差止,損害賠償)】「事実認定」,【物件目録】「記載方法」:(知財高裁平成23年1月31日判決(平成22年(ネ)第10031号特許権侵害差止等請求控訴事件))




知的財産高等裁判所第3部「飯村敏明コート」



縮小版[記載方法,物件目録]


(知財高裁平成23年1月31日判決(平成22年(ネ)第10031号特許権侵害差止等請求控訴事件))


(別紙) 物件目録



別紙図面(図1ないし図4)及び構成の説明に記載したシンクを有するシステム

キッチン

1 図面の説明

図1は,シンク部分を上から見た平面図である。

図2は,シンク部分のA-A’断面図である。

図3は,シンク部分のB-B’断面図である。

図4は,シンク部分のB-B’断面図の部分拡大図である。

なお,図中の数値は,各部の寸法(mm)を表し,概算である。

2 構成の説明

(1) 図1ないし4に示すように,シンク内部の前後の壁面の上部に上側段部が,深さ方向の中程に中側段部が形成されている。

(2) 前記構成において,前記上側段部及び前記中側段部のいずれにも同一のプレートを掛け渡すようにして載置できるように,前記上側段部の前後の間隔と前記中側段部の前後の間隔とがほぼ同一に形成されている。

また,前記後の壁面である後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面を形成するシンク構造を有している。
(3)さらに,中側段部は,その中側段部に載置される前記プレートが左右にスライド可能となるよう,前記前後の壁面の左右方向のほぼ全域にわたって形成されている。



H230201現在のコメント


(知財高裁平成23年1月31日判決(平成22年(ネ)第10031号特許権侵害差止等請求控訴事件))

物件目録の記載方法を,縮小版として取り上げました。

シンクの特許,全体としてのシステムキッチンの特許侵害(差止,損害賠償)が問題となった事案です。参考になりそうな事実認定を判決原文(引用)に書きました。



判決原文(引用)


(知財高裁平成23年1月31日判決(平成22年(ネ)第10031号特許権侵害差止等請求控訴事件))


1 原審の経緯



控訴人(原審原告,以下「原告」という。)は,被控訴人(原審被告,以下「被告」という。)に対して,別紙物件目録記載のシンク(システムキッチンにおけるシンク・商品名「3StepSink」。以下「被告製品のシンク」という。)を製造,販売する行為,及び別紙図面記載のシステムキッチン(本件侵害品)1台を製造,販売した被告の行為が,原告の有する,発明の名称を「流し台のシンク」とする特許権(本件特許権)を侵害すると主張して,被告製品のシンクの製造,販売,販売のための展示の差止め及び廃棄を求めるとともに,損害賠償を請求した。これに対し,被告は,被告製品のシンクは本件発明の技術的範囲に属さず,また,本件侵害品は本件発明の技術的範囲に属するものの,被告がこれを製造,販売することにより得た利益は,1万8000円にすぎないなどと主張して,これを争った。

原判決は,被告製品のシンクは本件発明の技術的範囲に属さないとして,被告製品に係る原告の請求をいずれも棄却し,本件侵害品に係る原告の請求については(上記のとおり,本件侵害品が本件発明の技術的範囲に属することについては,当事者間において争いがない。),損害金1万8000円及びこれに対する平成21年2月13日(不法行為の後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を認め,その余の請求を棄却した。これに対し,原告は,原判決中原告敗訴部分の取消しを求めて,本件控訴を提起した。
(原審において用いられた略語は,当審においてもそのま用いる。)





2争点(2)損害論ア(被告製品の製造,販売による損害額)について



原告は,被告製品を製造,販売したことによる損害として,民法709条,特許法102条1項に基づき,2925万円の支払を求め,その請求原因として,平成17年11月から平成21年2月までの間の被告による被告製品の販売台数が39台であり,原告のシステムキッチンを販売した場合の利益は75万円を下らないと主張する。


しかし,本件全証拠によっても,上記被告による被告製品の販売台数や原告のシステムキッチンを販売した場合の利益額を認めることはできない(なお,弁論の全趣旨によれば,原告は,主として,被告製品のシンクの製造,販売,販売のための展示の差止め及び廃棄を求め,同請求が認容されることで目的を達成できると認識した上で訴訟活動を遂行しているものと推認される。)。

したがって,原告の被告に対する被告製品の製造,販売に係る損害賠償請求は認めることができない。

top



3争点(2)損害論イ(本件侵害品の製造,販売による損害額)について



次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」,「2争点(2)イ(本件侵害品の製造,販売による損害額)について」(原判決25頁1行目ないし27頁9行目)記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決27頁4行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「なお,原告は,甲32の1ないし4によれば,被告が現在販売している被告製品の価格は,58万3000円ではなく,147万2000円(税抜き価格)であると主張する。この点,確かに,甲32の1ないし4によれば,被告が展示会においてアイランドキッチンのキッチン本体部分の価格を147万2000円(税抜き価格)と表示していたことが認められるものの,上記キッチン本体部分が何を指すか,シンク部分の製造原価や利益率等について,何ら明らかにされていない実情に照らして,原告の主張を採用することはできない。」



第4 結論


以上の次第であるから,原判決のうち,被告製品のシンクの製造,販売,販売のための展示の差止め及び廃棄請求を棄却した部分は相当でないから,これを変更することとし,主文のとおり判決する。
12



(別紙) 物件目録



別紙図面(図1ないし図4)及び構成の説明に記載したシンクを有するシステム

キッチン

1 図面の説明

図1は,シンク部分を上から見た平面図である。

図2は,シンク部分のA-A’断面図である。

図3は,シンク部分のB-B’断面図である。

図4は,シンク部分のB-B’断面図の部分拡大図である。

なお,図中の数値は,各部の寸法(mm)を表し,概算である。

2 構成の説明

(1) 図1ないし4に示すように,シンク内部の前後の壁面の上部に上側段部が,深さ方向の中程に中側段部が形成されている。

(2) 前記構成において,前記上側段部及び前記中側段部のいずれにも同一のプレートを掛け渡すようにして載置できるように,前記上側段部の前後の間隔と前記中側段部の前後の間隔とがほぼ同一に形成されている。

また,前記後の壁面である後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面を形成するシンク構造を有している。
(3)さらに,中側段部は,その中側段部に載置される前記プレートが左右にスライド可能となるよう,前記前後の壁面の左右方向のほぼ全域にわたって形成されている。

top





判決原文(全文)




平成22(ネ)10031 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟平成23年01月31日 知的財産高等裁判所 


1 top



平成23年1月31日判決言渡平成22年(ネ)第10031号特許権侵害差止等請求控訴事件


(原審東京地方裁判所平成21年(ワ)第5610号)
平成22年11月30日口頭弁論終結



判 決





主 文





1 原判決を次のとおり変更する。



(1) 被控訴人は,別紙物件目録記載のシンク(システムキッチンにおけるシンク・商品名「3StepSink」)を製造し,販売し,販売のために展示してはならない。

(2) 被控訴人は,前項のシステムキッチンにおけるシンクを廃棄せよ。

(3) 被控訴人は,控訴人に対し,1万8000円及びこれに対する平成21年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4) 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを4分し,その3を控訴人の負担とし,その余は被控訴人の負担とする。

3この判決は,第1項の(1)ないし(3)に限り,仮に執行することができる。

top



事実及び理由





第1 当事者の求めた裁判



1控訴人

(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(2) 被控訴人は,別紙物件目録記載のシンク(システムキッチンにおけるシンク・商品名「3StepSink」)を製造し,販売し,販売のために展示してはならない。

(3) 被控訴人は,前項のシステムキッチンにおけるシンクを廃棄せよ。

(4) 被控訴人は,控訴人に対し,2998万2000円及びこれに対する平成21年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(5) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

(6) 仮執行宣言

2 被控訴人

(1) 本件控訴を棄却する。

(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。

top



第2 原審の経緯,事案の概要及び当事者の主張等




1 原審の経緯


控訴人(原審原告,以下「原告」という。)は,被控訴人(原審被告,以下「被告」という。)に対して,別紙物
件目録記載のシンク(システムキッチンにおけるシンク・商品名「3StepSink」。以下「被
告製品のシンク」という。)を製造,販売する行為,及び別紙図面記載のシステムキッチン(本件侵
害品)1台を製造,販売した被告の行為が,原告の有する,発明の名称を「流し台のシンク」とする特許権(本
件特許権)を侵害すると主張して,被告製品のシンクの製造,販売,販売のための展示の差止め及び廃棄
を求めるとともに,損害賠償を請求した。これに対し,被告は,被告製品のシンクは本件発明の技術的範囲に属さ
ず,また,本件侵害品は本件発明の技術的範囲に属するものの,被告がこれを製造,販売することにより得た利益は,
1万8000円にすぎないなどと主張して,これを争った。
原判決は,被告製品のシンクは本件発明の技術的範囲に属さないとして,被告製品に係る原告の請求をいずれも
棄却し,本件侵害品に係る原告の請求については(上記のとおり,本件侵害品が本件発明の技術的範囲に属することについては,
3
当事者間において争いがない。),損害金1万8000円及びこれに対する平成21年2月13日(不法行為の
後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を認め,その余の請求を棄
却した。これに対し,原告は,原判決中原告敗訴部分の取消しを求めて,本件控訴を提起した。
(原審において用いられた略語は,当審においてもそのま用いる。)



2事案の概要及び当事者の主張等


次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に対する当事者の主張」(原
判決2頁11行目ないし13頁21行目)記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決5頁12行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「本件発明は,上側段部と中側段部とに,選択的に同一のプレートを掛け渡すようにして載置することを可能にするという目的
を達成するための手段として,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とが,ほぼ同一に形成されてなるという構成(B1)
とし,これを実現するための具体的手段として,後方側の壁面を,上側段部と中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥
方に向かって延びる傾斜面とする構成(C1)としたものである。そうすると,本件発明1では,常に奥方の壁面の中側段部の上方
付近が,上側段部よりも奥方に大きくえぐれた断面形状とされなければならない必要性はない(このような断面形状は,本件明細
書に記載された一実施形態にすぎず,本件発明1は,かかる実施形態に限定されるものではない。また,上記実施形態の効果であ
る,シンクの内部空間を,開口部を広げることなく広くすることができ,シンク内で大きな調理器具や食材を洗うなどの作業
を行うことが容易になるとともに,当該作業を行う者が,開口部を通して,その空間を容易に見ることができるとの効果は,上記実
施形態の付随的効果にすぎない。)。構成要件C1を充足するか否かは,「傾斜面」が「上側段部の前後の間隔と中側段部の
前後の間隔とがほぼ同一になる」という構成を実現するための手段として機能しているか否かで判断すべきである。」
原判決6頁3行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「この点,被告製品のシンクにおける上側段部の下面の傾斜面は,棚受けを形成するに当たり,棚受けの下面が傾斜したにすぎない
ものではなく,上側段部が形成されて一旦シンク中央側に突出した壁面を戻しつつ,下方に形成される中側段部の前後
の間隔が上側段部の間隔とほぼ同一となるように調整する手段として機能している。また,被告製品のシンクにおける傾斜面は,比較
的短く(小さく),その下方に垂直面が形成されているとしても,これは前後の壁面に対称的に傾斜面が形成され,段部の間隔
を調整する機能を前後の壁面で分担していることによるものであって,段部の間隔を調整する機能を果たしていることに変わりはない。さらに,
被告製品のシンクは,壁面そのものが加工されて傾斜面が形成されているのであって,垂直面を設けるか否か,傾斜面の長さをどの
程度にするかは,前後の段部の間隔を考慮して定められるものである。」
4
原判決8頁3行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「さらに,原告は,本件特許の出願審査の過程において,拒絶理由通知において拒絶の対象とならなかった出願当初の請求項2
記載の発明を更に限定するため,構成要件C1を含むように補正しているところ,構成要件C1は,構成要
件B1とともに同一のプレートを掛け渡すように載置できるという目的を達成するために採用した構成であり,構成要件B1
の更なる具体的手段として組み合わされたものであって,これにより本件発明を本件明細書の【発明の実施の態様】に記載された
実施例に限定したものではない。また,原告の主張が構成要件C1を意図的に曲解するものであるともいえない。なお,上記補正により,「傾
斜面」について,「前記前後の壁面の少なくとも一方は」との文言が削除され,「前記後の壁面である後方側の壁面は」とされたところ,「傾斜面」は
後方側壁面又は両方に形成されることが要件とされたが,前方側壁面に「傾斜面」が形成されることが要件とされているわけではない。」
原判決8頁14行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「本件発明は,上側段部と中側段部に同じプレートを設置できるようにするために,中側段部の後壁が上側段部の
後壁より更に奥側に向かって削り取った様に窪んだ形状とすることが必須であると解すべきである。これに対して,被告製品のシンクは,上段の
棚受と中段の棚受の間隔について,一方を中心として,プレートを半径とした円弧が描けるように一定の高さ以上の間隔としたものであ
り,本件発明の上記要件を充足しない。
また,本件発明は,上側段部と中側段部で同一プレートを使用するためには,上側段部と中側段部との間におい
て,構成要件C1記載の形状とする必然性がある。これに対して,被告製品のシンクは,上側段部と中側段部との
間がほとんど垂直であって,何ら手段を講じていない。
さらに,本件発明では,シンクの後方側の壁面が下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となる以上,上側段
部の前後の間隔と中側段部の間隔がほぼ同一に形成されるためには,必然的に前方側壁面がシンク内に向かってせり出した傾斜
面で形成しなければならない。これに対して,被告製品のシンクでは,前方側壁面をシンク内に向かってせり出した傾斜面としていない。」
原判決10頁25行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「なお,上記補正において,『前記前後の壁面の少なくとも一方の壁面』は,『前記後の壁面である後方側の壁面』に補正されており,傾
斜面となるのは,後方側の壁面に限定されることとなる。」
原判決11頁23行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「システムキッチンは,製品上の要素(価格,タイプ,機能,形状,サイズ,収納方法,
デザイン,材質,色調,機器の種類等)及びサービスの要素(地域性,人的つながり,接客態度,
商品説明,アフターサービスの質等)が満たされなければ販売に結びつかないのであるから,原告において,被告製品のシステム
5
キッチンないしシンクの販売数と同数のシステムキッチンを販売できたとはいえない。また,損害額の算定に当たり,原告の主張する利益額から,更に人件費,図面等製作に係る諸経費を控除すべきである。」

top



第3 当裁判所の判断



top



1争点(1)(侵害論-構成要件C1の充足性)について



本件の侵害論における争点は,被告製品のシンクが,構成要件C1を充足するか否かについてのみである(被告製品のシンクが,本件発明1の構成要件A1,B1,D1を充足することについては,当事者間において争いがない。)。

(1) 構成要件C1「(前記)後の壁面である後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている」の意義について

被告は,構成要件C1について,①「後方側の壁面が,・・・下方に向かうにつれて,奧方に向かって延びる傾斜面」との意義は,後方側の壁面のすべてが,上側段部と中側段部との間において,下方に行くに従って徐々に奥方に向かって延びる傾斜面となっていることを要し,垂直面を含んでいる場合は,同要件に該当しないこと,また,②たとえ,「下方に向かうにつれて,奧方に向かって延びる傾斜面である」を呈する形状部分が存在したとしても,それが「棚受の突起の下方」部分である場合には,「後方側の壁面」には該当しないなどと主張する。

そこで,以下,この点を検討する。

top



ア本件明細書の記載



本件明細書の【発明の詳細な説明】には,次の記載がある(甲2)。

「【0003】【発明が解決しようとする課題】ところで,上記従来の流し台21のシンク22にあっては,・・・第1の調プレート25は,上側段部23,23にのみ載置でき,中側段部24,24には載置できず,また同様に,第2の調理プレート26は,中側段部24,24にのみ載置でき,上側段部23,23には載置できなかった。その結果,上側段部用と中側段部用との,両方の専用の調理プレートを用意する必要があった。」

「【0004】この発明は,上記した従来の欠点を解決するためになされたものであり,その目的とするところは,上側段部と中側段部とのそれぞれに,上側あるいは中側専用の調理プレート等のプレートを用意する必要のない,流し台のシンクを提供することにある。」

「【0005】【課題を解決するための手段】この発明に係る流し台のシンクは,前記目的を達成するために,次の構成からなる。すなわち,請求項1に記載の発明は,前後の壁面の,上部に上側段部が,深さ方向の中程に中側段部が形成されている。そして,前記上側段部および前記中側段部のいずれにも同一のプレートを,掛け渡すようにして載置できるように,前記上側段部の前後の間隔と前記中側段部の前後の間隔とがほぼ同一に形成されてなり,かつ,前記後の壁面である後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている。こうして,後の壁面である後方側の壁面は,上側段部と中側段部との間が,下方に向かうにつれて奥方に向かってのびる傾斜面でつながって,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とがほぼ同一に形成されており,それら上側段部と中側段部とに,選択的に同一のプレートを掛け渡すようにして載置することができる。」「【0007】【発明の実施の形態】以下,この発明に係る流し台のシンクの,実施の形態を図面に基づいて説明する。」


「【0010】シンク8gは,図4にて明示するように,その後方側の壁面8iが,シンク8gの開口部8jよりも下部が奥方に延びるように形成されている。具体的には,後方側の壁面8iは,第2の段部8bから下が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている。シンク8gの手前側の壁面8hは,第2の段部8bから下が,鉛直に下りる鉛直面となっている。そして,シンクの左右の壁面8k,8mは,鉛直に下りる鉛直面となっている。さらに,シンクの前後の壁面8h,8iの,深さ方向の中程に,その前後の壁面の左右方向のほぼ全域にわたって,中側段部8n,8nが形成されている。これら上側段部8f,8f(第1の段部8a,8a)と中側段部8n,8nとは,そのいずれにも同一の調理プレート等のプレートを,掛け渡すようにして載置できるように,上側段部8f,8f(第1の段部8a,8a)の前後の間隔と中側段部8n,8nの前後の間隔とが,ほぼ同一に形成されている。こうして,シンクの後方側の壁面8iの傾斜面は,中側段部8nにより,上部傾斜面8pと下部傾斜面8qとに分断されている。同様にして,シンク8gの手前側の壁面8hの鉛直面は,中側段部8nによって,上部鉛直面8rと下部鉛直面8sとに分断されている。また,シンク8gの底面8tには,第1の排水口8uが設けられている。」

「【0018】次に,以上の構成からなる流し台の作用効果について説明する。

まず,シンク8gによっては,そのシンク8gは,後方側の壁面8iが,開口部8jよりも下部が奥方に延びるように形成されおり,シンク8gの内部空間は,その開口部8jから奥方に広がっている。したがって,開口部8jを広げることなく,内部空間を広くすることができ,この内部空間が広くなったシンク8gで,大きな調理器具や食材を洗う等することが楽にできる。また,シンク8gの内部空間は,後方側に広がっているので,その内部空間を,開口部8jを通して,シンク8gで調理器具や食材を洗う等の作業をする者は,容易に見ることができる。したがって,作業をする者は,シンク8gでの調理器具や食材を洗う等の作業を支障なく行うことができる。また,後方側の壁面8iは,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面(上部傾斜面8pおよび下部傾斜面8q)となっていており,その壁面8iは,徐々に奥方に向かうので,その壁面8iの清掃を容易に行うことができる。」


「【0027】なお,本発明は,上述した実施の形態に限定されるわけではなく,その他種々の変更が可能である。・・・また,シンク8gの後方側の壁面8iは,上側段部8fと中側段部8nとの間が,第2の段部8bを経由して,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる上部傾斜面8pとなっていなくとも,上側段部8fと中側段部8nとに同一のプレートが掛け渡すことができるよう,奥方に延びるように形成されているものであればよく,その形状は任意である。」

「【0028】【発明の効果】以上,詳述したところから明らかなように,この発明に係る流し台のシンクによれば,次の効果がある。」

「【0029】請求項1に記載された流し台のシンクによれば,上側段部と中側段部とに,選択的に同一のプレートを掛け渡すようにして載置することができるので,それら上側段部と中側段部とのそれぞれに,上側あるいは中側専用のプレートを用意する必要がない。また,後の壁面である後方側の壁面につき,上側段部と中側段部との間を,下方に向かうにつれて奥方に向かってのびる傾斜面でつなぐことにより,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とを容易にほぼ同一にすることができる。」

top



イ判断



上記記載によれば,構成要件C1の「・・・後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている」は,従来技術においては,前後の壁面の上部に上側段部が,深さ方向の中程に中側段部が形成されている流し台のシンクでは,上側段部と中側段部のそれぞれに,上側あるいは中側専用の調理プレートを各別に用意しなければならないという課題があったのに対して,同課題を解決するため,後方側の壁面について,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とをほぼ同一の長さに形成して,それら上側段部と中側段部とに,選択的に同一のプレートを掛け渡すことができることを図ったものである。


ところで,上記記載における「発明の実施形態」では,後方側の壁面は,上側段部から中側段部に至るすべてが,奧方に向かって延びる傾斜面であり,垂直部は存在するわけではない。しかし,本件明細書中には,「本発明は,上述した実施の形態に限定されるわけではなく,その他種々の変更が可能である。・・・また,シンク8gの後方側の壁面8iは,上側段部8fと中側段部8nとの間が,第2の段部8bを経由して,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる上部傾斜面8pとなっていなくとも,上側段部8fと中側段部8nとに同一のプレートが掛け渡すことができるよう,奥方に延びるように形成されているものであればよく,その形状は任意である。」と記載されていることを考慮するならば,後方側の壁面の形状は,上側段部と中側段部との間において,下方に向かうにつれて奥方に向かってのびる傾斜面を用いることによって,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とを容易に同一にすることができるものであれば足りるというべきである。

そうすると,構成要件C1の「前記後の壁面である後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている」とは,後方側の壁面の形状について,上側段部と中側段部との間のすべての面が例外なく,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面で構成されている必要はなく,上側段部と中側段部との間の壁面の一部について,下方に向かうにつれて奥行き方向に傾斜する斜面とすることによって,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とを容易に同一にするものを含むと解するのが相当である。

top



(2) 対比



証拠(甲11,12)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品のシンクの形状は,別紙物件目録添付の図1ないし4のとおりである。これによれば,被告製品のシンクは,リブ(段部)が,壁面を構成する金属板を折り曲げて加工し,一体的に形成されたものであり,かつ,後方側壁面の上段リブ(段部)の下部に,下方に向かうにつれて奥行き方向に傾斜する斜面が存在する。そして,上記リブ(段部)の下部の傾斜面により,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とがほぼ同一となっていることが認められるから,構成要件C1を充足する。

top



(3) 被告の主張について




被告は,被告製品のリブの下面は傾斜しているが,それは「棚受け」の機能を有する部分であって,壁面ではないと主張する。しかし,本件発明の構成要件C1における壁面も,プレートを掛け渡すように載置する目的で設けられた「棚受け」の機能を有する部分の下方部分の形状を特定するための構成である。したがって,前記被告の主張,すなわち,「被告製品のリブの下面は,棚受けの機能を有する部分の下方部分に相当するものであるから,本件発明の構成要件C1を充足しない」との被告の主張は,採用の限りでない。

その他,被告は,①上段の棚受と中段の棚受の間隔について,一方を中心として,プレートを半径とした円弧が描けるように一定の高さ以上の間隔としたこと,②上側段部と中側段部との間のほとんどを垂直壁面にしたこと,③前方側壁面をシンク内に向かってせり出した傾斜面としていないこと等を根拠として,本件発明の構成要件C1を充足していない旨を主張する。

しかし,前示のとおり,被告製品は,上側段部と中側段部との間において,後方側の壁面の一部を,下方に向かうにつれて奥行き方向に傾斜する斜面としているとの構成を充足するものである以上,被告製品に,被告主張のとおり事実が存在したとしても,構成要件C1を充足していない根拠とならないから,結局のところ,被告主張は,主張自体失当というべきである。

top



(4) 小括



以上によれば,被告製品のシンクは,構成要件A1ないしD1を充足するものであり,本件発明1の技術的範囲に含まれており,本件発明2の技術的範囲に含まれるか否かを検討するまでもなく,本件特許権を侵害する。したがって,原告の請求のうち,被告製品のシンク(別紙物件目録記載のシンク(システムキッチンにおけるシンク・商品名「3StepSink」))の製造,販売,販売のための展示の差止め及び廃棄を求める部分には理由がある。

top



2争点(2)損害論ア(被告製品の製造,販売による損害額)について



原告は,被告製品を製造,販売したことによる損害として,民法709条,特許法102条1項に基づき,2925万円の支払を求め,その請求原因として,平成17年11月から平成21年2月までの間の被告による被告製品の販売台数が39台であり,原告のシステムキッチンを販売した場合の利益は75万円を下らないと主張する。


しかし,本件全証拠によっても,上記被告による被告製品の販売台数や原告のシステムキッチンを販売した場合の利益額を認めることはできない(なお,弁論の全趣旨によれば,原告は,主として,被告製品のシンクの製造,販売,販売のための展示の差止め及び廃棄を求め,同請求が認容されることで目的を達成できると認識した上で訴訟活動を遂行しているものと推認される。)。

したがって,原告の被告に対する被告製品の製造,販売に係る損害賠償請求は認めることができない。

top



3争点(2)損害論イ(本件侵害品の製造,販売による損害額)について



次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」,「2争点(2)イ(本件侵害品の製造,販売による損害額)について」(原判決25頁1行目ないし27頁9行目)記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決27頁4行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「なお,原告は,甲32の1ないし4によれば,被告が現在販売している被告製品の価格は,58万3000円ではなく,147万2000円(税抜き価格)であると主張する。この点,確かに,甲32の1ないし4によれば,被告が展示会においてアイランドキッチンのキッチン本体部分の価格を147万2000円(税抜き価格)と表示していたことが認められるものの,上記キッチン本体部分が何を指すか,シンク部分の製造原価や利益率等について,何ら明らかにされていない実情に照らして,原告の主張を採用することはできない。」



第4 結論


以上の次第であるから,原判決のうち,被告製品のシンクの製造,販売,販売のための展示の差止め及び廃棄請求を棄却した部分は相当でないから,これを変更することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官11飯 村 敏 明裁判官中 平 健裁判官知 野 明
12



(別紙) 物件目録



別紙図面(図1ないし図4)及び構成の説明に記載したシンクを有するシステム

キッチン

1 図面の説明

図1は,シンク部分を上から見た平面図である。

図2は,シンク部分のA-A’断面図である。

図3は,シンク部分のB-B’断面図である。

図4は,シンク部分のB-B’断面図の部分拡大図である。

なお,図中の数値は,各部の寸法(mm)を表し,概算である。

2 構成の説明

(1) 図1ないし4に示すように,シンク内部の前後の壁面の上部に上側段部が,深さ方向の中程に中側段部が形成されている。

(2) 前記構成において,前記上側段部及び前記中側段部のいずれにも同一のプレートを掛け渡すようにして載置できるように,前記上側段部の前後の間隔と前記中側段部の前後の間隔とがほぼ同一に形成されている。

また,前記後の壁面である後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面を形成するシンク構造を有している。
(3)さらに,中側段部は,その中側段部に載置される前記プレートが左右にスライド可能となるよう,前記前後の壁面の左右方向のほぼ全域にわたって形成されている。

top

Last Update: 2011-02-01 16:15:11 JST

top
……………………………………………………判決末尾top
メインサイト(Sphinx利用)GAE利用サイト知財高裁のまとめjimdoサイト携帯サイト

0 件のコメント:

コメントを投稿