2011年2月8日火曜日

特許:【容易想到性】「判断基準」:(知財高裁平成23年2月8日判決(平成22年(行ケ)第10056号審決取消請求事件))






特許:【容易想到性】「判断基準」:(知財高裁平成23年2月8日判決(平成22年(行ケ)第10056号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第2部「塩月秀平コート」



H230210現在のコメント


容易想到性に関する判断方法を示しました。

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縮小版


(知財高裁平成23年2月8日判決(平成22年(行ケ)第10056号審決取消請求事件))

「一般的抽象的な周知技術を根拠の一つとして,相違点に関する容易想到性判断に至ったのは,本件発明3の技術的課題と動機付け,そして引用発明との間の相違点1ないし3で表される本件発明3の構成の特徴について触れることなく,甲第3号証等に記載された事項を過度に抽象化した事項を引用発明に適用して具体的な本件発明3の構成に想到しようとするものであって相当でない。その余の自明課題,設計事項及び周知技術にしても,甲第3号証等における抽象的技術事項に基づくものであり,同様の理由で引用発明との相違点における本件発明3の構成に至ることを理由付ける根拠とするには不足というほかない。」(知財高裁平成23年2月8日判決(平成22年(行ケ)第10056号審決取消請求事件))

という知財高裁の容易想到性に関する判断がされている。

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判決原文(引用)


(知財高裁平成23年2月8日判決(平成22年(行ケ)第10056号審決取消請求事件))

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1 本件発明3について



(1)ア訂正明細書(甲25)中には,次のとおりの記載がある。

・「このようなプリンタでは,特に信号線の数が増すことはコストを増すなどの要因となる。一方で,配線数を削減するためにはバス接続といった所謂共通の信号線の構成が有効であるが,単にバス接続のような共通の信号線を用いる構成では,インクタンクもしくはその搭載位置を特定することができないことは明らかである。」

(段落【0009】)

・「本発明はこのような問題を解消するためになされたものであり,その目的とするところは,複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い,この場合でもインクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をすることを可能とすることにある。」

(段落【0010】)

・「以上の構成によれば,記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接続する液体インク収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を介して入力される信号と,そのインクタンクの色情報とに基づいて発光部の発光を制御するので,先ず,搭載される複数のインクタンクが共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取ったとしても,色情報に合致するインクタンクのみがその発光制御を行うことができ,これにより,インクタンクを特定した発光部の点灯など発光制御が可能となる。次に,このようなインクタンクを特定した発光制御が可能な場合,例えば,キャリッジに搭載された複数のインクタンクについて,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させるとともに,上記所定の位置での発光を検出するようにすることにより,発光が検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識できる。これにより,例えば,ユーザに対してインクタンクを正しい位置に再装着することを促す処理をすることができ,結果として,インクタンクごとにその搭載位置を特定することができる。」(段落【0019】)

・「この結果,複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い,この場合でもインクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発行ママ制御をすることが可能となる。」(段落【0020】)

イ上記アの記載によれば,本件各発明の課題は,キャリッジに複数の液体インク収納容器を搭載して使用する記録装置において,コストを低減するため,記録装置と液体インク収納容器との間の配線の方式に,全液体インク収納容器に共通の信号線を用いる共通バス接続の方式を採用した場合でも,各液体インク収納容器がインク色に従ってキャリッジの所定の位置に正しく装着されているか否かを検出することにあるものである。

すなわち,共通バス接続の方式を採用した場合に,記録装置側からの要求に応じて,単純に液体インク収納容器が保持するインク色の情報と合致する場合に当該液体インク収納容器から応答の信号が返るようにしても,例えば黄色の液体インク収納容器とマゼンタ(明るい赤紫色)の液体インク収納容器の搭載位置を逆にして装着した場合には,それぞれの液体インク収納容器がキャリッジ内にあることだけが検出されるだけで,それ以上にどの搭載位置につき誤装着があるかを検出できないので,その余の構成を加えて上記のような場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにするというものである。

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(2) 審決は,本件発明3と甲第1号証に記載された発明(引用発明)の相違点に係る容易想到性につき,次のとおり説示する(49~51頁,①以下の符号は当裁判所が付した。)。

「a.甲第1号証段落【0046】に『インクカートリッジCAの交換要求を検出すると』と記載されているように,引用発明の液体インク収納容器(印刷記録材容器)は,必要に応じて交換されるものである。①複数の液体インク収納容器がキャリッジの所定位置に搭載された記録装置において,交換されるべき液体インク収納容器が誤りなく選択されることは自明の課題であり,②交換すべき液体インク収納容器をユーザにわかりやすく表示するべく液体インク収納容器に発光部を設けることは,周知技術(甲第3号証段落【0086】,甲第10号証参照。)であるから,③該周知技術を引用発明に適用して,液体インク収納容器に発光部を設けることは当業者が容易になし得る程度のことである。

b.甲第1号証段落【0060】に『インク交換に際して,1つのインクカートリッジCAが交換される場合はもちろん,2以上のインクカートリッジCAが交換される場合にも有用である。』と記載されているから,引用発明は,2つ以上の液体インク収納容器が取り外されることを想定している。液体インク供給システムにおいて,複数の液体インク収納容器が取り外された場合,誤った位置に液体インク収納容器が装着される可能性がある。

c.④搭載位置を検出すべく,検出対象である液体インク収納容器を受光部に対向させ,検出対象である液体インク収納容器からの色情報で誤装着を検出する検出手段を設けることが周知技術(甲第3号証,先行技術文献1(特開2003-291364号公報),先行技術文献2(特開平11-263025号公報)参照)であり,⑤受光部の数をいくつにするかは設計事項にすぎず,⑥受光部を記録装置側に一つ設けることも周知技術(先行技術文献1,先行技術文献2参照)であるから,⑦引用発明に周知技術を適用し,検出対象である液体インク収納容器に対向させ,受光部を記録装置側に一つ設け,検出対象である液体インク収納容器からの色情報で誤装着を検出する検出手段を設けるようとすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。

d.引用発明は『接点から入力される印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報に係る信号と,記憶素子の保持する印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報とが一致した場合に,応答信号を前記配線を通じて印刷装置側の制御回路に対して送り返す動作』をするもの,即ち,検出対象である液体インク収納容器の色情報を発するものであるから,⑧上記aで検討した発光部を利用し,cで検討した受光部に受光させるべく,引用発明の液体インク収納容器の制御部(記憶装置)を接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に発光部を発光させるような制御部とすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。

e.引用発明は,『複数の印刷記録材容器』が『キャリッジ移動方向に並ぶ互いに異なる位置に装着』されるもの,即ち,記録装置の特定の一点に対し,キャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わることが可能なものであるから,⑨cで検討した一つの受光部でdで検討した発光部からの光を受光するべく,一つ設けられる受光部をキャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わる位置に配置(特開2003-291364号公報,特開平11-263025号公報の受光部もキャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わる位置に配置されている。)することは当業者が容易になし得る程度のことであり,前記受光部を本件発明3に倣って,『位置検出用の受光部』と称することができるから,引用発明は,相違点1の構成を有することになる。

f.上記dで検討したように,接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する色情報とが一致した場合に発光部を発光させる制御部を有することが想到容易であり,上記eで検討したように,受光部は,キャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わる位置に配置されることが想到容易であるから,⑩前記発光部を液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部ということができる。その結果,引用発明は,相違点2の構成を有することになる。

g.上記a,c,dで検討したように,受光部を記録装置側に一つ設け,検出対象である液体インク収納容器からの色情報で誤装着を検出する検出手段を設け,液体インク収納容器の制御部(記憶装置)を接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に発光部を発光させるような制御部とすることが想到容易であり,引用発明のキャリッジは,複数の印刷記録材容器をキャリッジ移動方向に並ぶ互いに異なる位置に装着して移動するものであるから,⑪受光部で検出できるように,受光部に対向した位置で特定されたインク色の液体インク収納容器の発光部を光らせることは当然のことであり,その結果,引用発明は,相違点3の構成を有することになる。

以上のことから,引用発明において,本件発明3の相違点1~3に係る構成を備えることは,周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に想到し得ることである。また,該構成を備えることによる効果も当業者が予測し得る程度のものである。したがって,本件発明3は,引用発明及び周知の技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」

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(3) しかし,この審決の判断の流れは,②,④,⑥の周知技術を前提とし,①,⑤の自明課題,設計事項を踏まえ,bの甲第1号証から読み取れる事項も認定したうえ,③,⑦,⑧の判断を経て,⑨,⑩,⑪のとおり相違点1ないし3の容易想到性を導いているものであって,甲第3,10,21,22号証は周知技術の裏付けとして援用したものである。このうち,④の周知技術の認定で審決が説示する「液体インク収納容器からの色情報」が単に液体インク収納容器のインク色に関する情報でありさえすればよいとすると,前記周知技術は,液体インク収納容器と記録装置側とが発光部と受光部との間の光による情報のやり取りを通じて当該液体インク収納容器のインク色に関する情報を記録装置側が取得することを意味するものにすぎない。このような一般的抽象的な周知技術を根拠の一つとして,相違点に関する容易想到性判断に至ったのは,本件発明3の技術的課題と動機付け,そして引用発明との間の相違点1ないし3で表される本件発明3の構成の特徴について触れることなく,甲第3号証等に記載された事項を過度に抽象化した事項を引用発明に適用して具体的な本件発明3の構成に想到しようとするものであって相当でない。その余の自明課題,設計事項及び周知技術にしても,甲第3号証等における抽象的技術事項に基づくものであり,同様の理由で引用発明との相違点における本件発明3の構成に至ることを理由付ける根拠とするには不足というほかない。

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(4) 上記のとおり,周知技術等に基づいてする審決の判断は是認できないが,甲第3号証等が開示する技術的事項も踏まえて念のため判断するに,甲第3,21,22号証の液体インク収納容器において,記録装置と液体インク収納容器の間の接続方式につき共通バス接続方式が採用されているかは不明であって,少なくとも甲第3,21,22号証においては,共通バス接続方式を採用した場合における液体インク収納容器の誤装着の検出という本件発明3の技術的課題は開示も示唆もされていないというべきである。

そして,上記技術的課題に着目してその解決手段を模索する必要がないのに,記録装置側がする色情報に係る要求に対して,わざわざ本件発明3のような光による応答を行う新たな装置(部位)を設けて対応する必要はなく,このような装置を設ける動機付けに欠けるものというべきである。

そうすると,甲第3,21,22号証に記載された事項は,解決すべき技術的課題の点においても既に本件発明3と異なるものであって,共通バス接続方式を採用する引用発明に適用するという見地を考慮しても,本件発明3と引用発明との相違点,とりわけ相違点2,3に係る構成を想到する動機付けに欠けるものというべきである。

なお,本件発明3における液体インク収納容器が保持する色情報の技術的意義が前記のとおりであることに照らすと,液体インク収納容器から記録装置側に伝達される情報自体に「色情報」が含まれるか否かは,本件発明3と引用発明の実質的な相違点であるというべきである(相違点2)。

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(5) よって,その余の点について検討するまでもなく,本件発明3と引用発明との相違点に係る構成に容易に想到できるとした審決の前記判断は誤りであるというべきである。

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(6)ア被告ら及び補助参加人(以下「被告ら」というときは,補助参加人も含む。)は,甲第21,22号証の記録装置と液体インク収納容器の構成から,記録装置に受光素子を1つ設け,キャリッジの移動により受光素子と対向する位置に来た液体インク収納容器に対し,誤装着検出を行う等の基本的な技術の構成が分離して把握できないものではなく,上記基本的な技術構成が本件発明3の優先日前に周知の技術であると主張する。

しかしながら,前記のとおり,甲第21,22号証の記録装置と液体インク収納容器の構成及び誤装着の検出原理は,本件発明3のそれらと大きく異なるのであって,仮に甲第21,22号証の構成から,キャリッジを移動させることにより特定の位置に来る液体インク収納容器を交替させ,発光部と受光部の間の光のやり取りによって順次液体インク収納容器の検出を行うという,具体的な動作機構や検出原理を捨象し,相当程度抽象化した事項を持ち出してみても,本件発明3との相違点にかかる構成の容易想到性が肯定できるものではないから,被告らの上記主張は採用できない。

また,甲第3号証の記録装置において,受光手段が一つだけ設けられているかは不明であるから,上記記録装置において,受光手段を一つだけ設け,キャリッジの移動により順次液体インク収納容器からの光の受光を行う構成が採用されているとはいうことができない。


また,被告らは,特開平10-230616号公報(甲11)の記載も根拠として,甲第3,21,22号証の構成から,受光部側の構成のみを利用することができないわけではないなどと主張する。

確かに,甲第11号証には,複数の液体インク収納容器をキャリッジに装着して使用する記録装置において,記録装置側に発光部及び受光部を有する検知器を一つ設け,キャリッジで移動する液体インク収納容器の残量検知部が上記検知器に対向する位置に来たときに,上記検知器から発光する光を液体インク収納容器の残量検知部に照射(投光)し,返ってくる光を上記検知器で受光し,解析することにより,当該液体インク収納容器のインク残量を順次検出する構成が記載されている(段落【0016】,図2等)。また,訂正明細書の段落【0043】及び図9には,甲第11号証と同様のインク残量検知器及び液体インク収納容器のインク残量検知部の構成が開示されている。

しかしながら,上記のインク残量検知器等の構成は,記録装置と液体インク収納容器との間の接続の方式のいかんにかかわらず適用し得る性格のものであって,本件発明3が,共通バス接続方式下で液体インク収納容器の誤装着の問題解決を技術的課題としていることに対する適用可能性はないというべきである(とりわけ相違点1)。したがって,甲第11号証等の記載をもって,甲第3,21,22号証の構成から,受光部側の構成のみを取り出して容易想到であるとすることの裏付けとすることはできず,被告らの上記主張は採用することができない。

イ被告らは,引用発明において応答信号を電気配線を通じて記録装置に伝送している点を,甲第3号証の発光部の発光による伝達に置き換えることは当業者が容易に想到し得ることであるなどと主張する。

しかしながら,甲第3号証中には,「このような構成ではインクタンク内に検出用の電極を配置する必要がある。また,電極間の導通状態によりインク残量を検知するため,インク成分に金属イオンを用いることができない等,使用するインクに制約が生じてしまう。」(段落【0006】)と液体インク収納容器内の発光素子に液体インク収納容器外から有線で電力を供給することに難点がある旨の記載があるし,段落【0008】では外部から非接触で発光素子を起動する必要がある旨が,段落【0012】,【0013】では立体形半導体素子が外部からのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換する手段を有し,変換されたエネルギーによって駆動する必要がある旨が,図6や段落【0018】,【0040】では立体形半導体素子のエネルギー変換手段として共振回路を用い,電磁誘導によって必要な電力を外部から得る構成がそれぞれ記載されているから,甲第3号証の立体形半導体素子が,専ら無線方式でプリンタと接続されることは明らかである。

そして,甲第3号証の段落【0017】には,「前記エネルギー変換手段が変換する外部エネルギーは非接触で供給される構成とすることにより,素子の起動のためのエネルギー源をインクタンクに持たせたり,エネルギー供給用の配線を素子に接続する必要がなく,外部との直接的な配線を施すことが困難な箇所に使用することができる。」との記載は,立体形半導体素子を無線方式(非接触方式)で設けることのメリットに係るものであることが明らかで,上記記載は有線方式を排除した趣旨のものであるというべきである。

そうすると,甲第3号証には立体形半導体素子を有線の電気配線で記録装置側と接続する構成は記載されていないというべきであるし,前記のとおりの本件発明3の構成等との相違に照らせば,引用発明において応答信号を電気配線を通じて記録装置に伝送している点を,甲第3号証の発光部の発光による伝達に置き換える動機付けは存しないというべきである(とりわけ相違点2)。

したがって,被告らの上記主張は採用できない。

ウ被告らは,インクを使い切ったときに,同色の液体インク収納容器を複数キャリッジに誤って装着する,同色の液体インク収納容器による誤装着の場合には,


本件発明3の液体インク収納容器は正しく誤装着を報知することができないから,本件発明3が格別の効果を奏するとは到底いうことができない等と主張する。

しかしながら,ある液体インク収納容器について,「インクがなくなった可能性がある」ことを示すエラーランプが点滅した場合でも,直ちに当該液体インク収納容器を交換せず,リセットボタンを押して印刷を継続することとし,その後に,他の液体インク収納容器のインクが少量又は0になったときに,複数の液体インク収納容器を同時に交換する事態が生じることもあり得るものである。また,仮に実際の記録装置で試験した結果,上記の場合に記録装置が誤装着がされている搭載位置を判別できなかったことがあったとしても,本件発明3の構成とは必ずしも関係がない記録装置側の仕様による可能性があり,上記試験の結果直ちに本件発明3が作用効果を奏しないことになるものではない。そして,同色の液体インク収納容器を複数キャリッジに誤って装着した場合であっても,例えば誤った装着がされた液体インク収納容器が記録装置側の受光手段と対向する所定の位置に来たときにキャリッジの移動を止めて何らかの報知手段でユーザーに異常を知らせたり,あるいはそもそも液体インク収納容器の検出動作自体を止めてユーザにキャリッジの確認を要求する構成を付加して対処することも容易に考えられるのであって,上記の場合に本件発明3がその作用効果を奏することを,訂正明細書の記載から排除することはできない。

他方で,本件発明3は,共通バス接続方式下において,液体インク収納容器の誤装着を検出できるという作用効果を奏し得るものである。

したがって,被告らの上記主張は失当であり,採用することができない。

エ(ア) 被告らは,周知技術1,2-1,2-2がいずれも本件発明3の優先日当時に周知であり,引用発明にこれらの周知技術を適用することで,当業者において,本件発明3と引用発明との間の相違点に係る構成に容易に想到できたと主張する。この主張についても,前記(3)の冒頭で説示したことが当てはまり,相違点に関する本件発明3の構成に想到する理由とすることはできないが,念のため,これらの周知技術が記載されていると被告らが援用する公報の記載に照らして以下判断する。

(イ) 甲第4号証(特開平4-275156号公報)では,記録装置において,印字ヘッドの通電回数をカウントし,累積通電回数が一定値に達するとインク残量が少なくなった旨を液体インク収納容器に設けたLEDで報知する構成が開示されている(請求項1,3,段落【0007】,【0015】,図1)。

確かに,発光素子である上記LEDは,インク残量が少なくなった液体インク収納容器をユーザが交換する際に,上記液体インク収納容器を誤りなく選択することを助力するものではあるが,本件発明3のように,液体インク収納容器からの光を記録装置側で受光して液体インク収納容器の識別をしたり,あるいは甲第21,22号証のように,液体インク収納容器に対して記録装置側から光を照射して,反射光から液体インク収納容器の識別をする構成とは,発光素子(発光部)を設ける技術的意義ないし役割が大きく異なるものである。また,甲第10号証(特開2002-301829号公報)では,複数の液体インク収納容器をキャリッジに装着する記録装置において,キャリッジ又は液体インク収納容器にインク残量がなくなった旨を警告するランプを設ける構成が開示されている(特許請求の範囲,段落【0006】等)。

確かに,上記ランプは,インク残量がなくなった液体インク収納容器をユーザが交換する際に,上記液体インク収納容器を誤りなく選択することを助力するものではあるが,本件発明3のように,液体インク収納容器からの光を記録装置側で受光して液体インク収納容器の識別をしたり,あるいは甲第21,22号証のように,液体インク収納容器に対して記録装置側から光を照射して,反射光から液体インク収納容器の識別をする構成とは,発光部を設ける技術的意義ないし役割が大きく異なるものである。

したがって,甲第3,4,10号証で,交換すべき液体インク収納容器をユーザが誤りなく交換できるように,液体インク収納容器に発光部を設けるという相当程度抽象的な構成が開示されているとしても,引用発明に適用することにより,本件発明3との相違点,とりわけ相違点2,3に係る構成に想到することは容易ではないというべきである。

(ウ) そして,甲第5号証(WO 02/40275号公報)では,複数の液体インク収納容器をキャリッジに搭載する記録装置において,各液体インク収納容器と記録装置の間の接続に共通バス接続方式を用いるとともに,各液体インク収納容器の記憶装置にインク色に係る情報を保持させ,記録装置に設けられた識別装置との間の応答動作において液体インク収納容器の上記情報との照合作業を行うことで,液体インク収納容器の誤装着を検出する構成が開示されている(2~12,23~44頁,第4図等)。

確かに,甲第5号証の記録装置及び液体インク収納容器は,共通バス接続方式の下で,液体インク収納容器が誤りなく装着されているか否かを検出するための機構を備えているものであるが,記録装置の識別装置は電気配線を通じて液体インク収納容器からインク色等に係る情報(信号)を取得するだけで,本件発明3のような,光を利用して液体インク収納容器の識別を行う構成(とりわけ相違点3)は開示も示唆もされていないというべきである(なお,甲第5号証の記録装置の液体インク収納容器に設けられているLED(41頁17~22行)は,液体インク収納容器を交換する際に,交換すべき液体インク収納容器の搭載位置をユーザに視覚を通じて指し示すものにすぎず,その機能はあくまで受動的なものである。上記LEDは本件発明3の発光部のように,能動的に液体インク収納容器の異同を検出・識別するために動作するものではない。)。

また,乙第1号証(米国特許第6151041号公報)でも,液体インク収納容器の記憶装置に保持されている情報を照合することによって液体インク収納容器を識別する構成が開示されているが,甲第5号証と同様に,光を利用して液体インク収納容器の識別を行う構成は開示も示唆もされていない。

したがって,甲第5号証,乙第1号証で,記録装置側から入力される液体インク収納容器の色情報に係る信号と,液体インク収納容器の記憶装置で保持されているインク色に関する情報とを照合することによって,液体インク収納容器の識別処理を行い,液体インク収納容器が処理結果を電気信号で応答する構成が開示されているとしても,引用発明に適用することにより,本件発明3との相違点,とりわけ相違点2,3に係る構成に想到することは,その動機付けがなく容易ではないというべきである。

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(エ) 結局,前記周知技術1,2-1,2-2が本件発明3の優先日当時の周知技術であるかはともかくとして,引用発明にこれらを適用することで,当業者において,本件発明3と引用発明との間の相違点に係る構成に容易に想到できたということはできず,被告らの前記主張は採用できない。

以上のとおり,本件発明3の容易想到性に係る審決の判断は誤りである。


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判決原文(全文)




平成22(行ケ)10056 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成23年02月08日 知的財産高等裁判所



  • 1 -




平成23年2月8日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官平成22年(行ケ)第10056号審決取消請求事件


口頭弁論終結日平成22年12月22日
判決



主文


特許庁が無効2009-800101号事件について平成22年1月26日にした審決を取り消す。


  • 2 -


訴訟費用は被告らの負担とし,参加によって生じた費用は補助参加人の負担とする。



事実及び理由




第1 原告が求めた判決


主文同旨



第2 事案の概要


本件は,被告らからの無効審判請求に基づき原告の特許を無効とする審決の取消
訴訟である。争点は,訂正後の請求項に係る発明の進歩性(容易想到性)の有無で
ある。
1 特許庁における手続の経緯等
原告は,平成16年11月15日,名称を「液体収納容器,該容器を備える液体
供給システム,前記容器の製造方法,前記容器用回路基板および液体収納カートリ
ッジ」とする発明につき,優先日を平成15年12月26日及び平成16年10月
22日とし(なお,以下,単に「優先日」とあるのは,これら優先日のうち先行す
る優先日を指す。),優先権主張国を日本国として,特許出願をし(特願2004-
330952号),平成18年4月14日,本件特許登録を受けた(特許第3793
216号,請求項の数は16)。
被告は,平成21年5月19日,本件特許につき無効審判請求をしたところ,原
告は,平成21年8月3日,請求項1,2の特許請求の範囲の記載の一部を改め,
請求項3,4,6ないし10,14,15を削り,請求項5を請求項3,請求項1
1を請求項4,請求項12を請求項5,請求項13を請求項6,請求項16を請求
項7とそれぞれするとともにそれらの特許請求の範囲の記載の一部を改め,かつ明
細書の発明の名称及び発明の詳細な説明欄の各記載を改める本件訂正請求をした
(以下「本件訂正」という。)。


  • 3 -


特許庁は,これを無効2009-800101号事件として審理した上で,平成
22年1月26日,「訂正を認める。特許第3793216号の請求項1ないし7に
係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は平成22年2月
5日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨
本件発明はインクジェットプリンタに用いる液体収納容器すなわちインクカート
リッジ等に関するもので,本件訂正後の請求項1ないし7の特許請求の範囲は下記
のとおりである(以下,各請求項の番号に従って,「本件発明1」などといい,また
一括して「本件各発明」という。この表記は審決に倣ったものであり,本件特許権
に関し当裁判所が本判決と同日に言い渡す平成22年(ネ)第10063号及び同第
10064号の判決における表記とは異なっている。)。
【請求項1】
「複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと,
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるよう
に配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光
手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容
器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と,
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路とを有し,前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク
収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容
器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置の前記キ
ャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部


  • 4 -


と,
前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と,
を有することを特徴とする液体インク収納容器。」
【請求項2】
「複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジ
と,
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるよう
に配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光
部を一つ備え,該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の
搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と,
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路とを有し,前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク
収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容
器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置の前記キ
ャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持する情報保持部と,
前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光す
る前記発光部と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部と,
を有することを特徴とする液体インク収納容器。」


  • 5 -


【請求項3】
「複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジ
と,
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え,該受
光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する
液体インク収納容器位置検出手段と,
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路とを有する記録装置と,
前記記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器と,を備
える液体インク供給システムにおいて,
前記液体インク収納容器は,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持する情報保持部と,
前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光す
る発光部と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部と,を有し,
前記受光部は,前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が
入れ替わるように配置され,
前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の
前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出
手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出することを特徴とする液体インク
供給システム。」
【請求項4】


  • 6 -


「複数の液体インク収納カートリッジを互いに異なる位置に搭載して移動するキ
ャリッジと,
該液体インク収納カートリッジに備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接
点と,
前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納カートリッジが入れ替
わるように配置され前記液体インク収納カートリッジの発光部からの光を受光する
位置検出用の受光部を一つ備え,該受光部で該光を受光することによって前記液体
インク収納カートリッジの搭載位置を検出する液体インク収納カートリッジ位置検
出手段と,
搭載される液体インク収納カートリッジそれぞれの前記接点と接続する前記装置
側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有し
た電気回路とを有し,前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液
体インク収納カートリッジの前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記
液体インク収納カートリッジ位置検出手段は前記液体インク収納カートリッジの搭
載位置を検出する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納カ
ートリッジにおいて,
液体インクを吐出することで記録を行う記録ヘッドと,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
少なくとも液体インク収納カートリッジのインク色を示す色情報を保持する情報
保持部と,
前記液体インク収納カートリッジ位置検出手段の前記受光部に投光するための光
を発光する前記発光部と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部と,
を有することを特徴とする液体インク収納カートリッジ。」
【請求項5】


  • 7 -


「複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジ
と,
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるよう
に配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光
部を一つ備え,該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の
搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と,
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路とを有し,前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク
収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容
器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置の前記キ
ャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において,
前記液体インク収納容器内に収納される液体インクと,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
収納される液体インクのインク色を示す色情報を保持する情報保持部と,
前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光す
る前記発光部と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とが対応した場合に前記発光部を発光させる制御部と,
を有することを特徴とする液体インク収納容器。」
【請求項6】
「複数の液体インク収納容器が装着可能な装着部を備えて移動するキャリッジと,
共通の信号線に接続される複数の装置側接点と,
前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるよう
に配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光


  • 8 -


手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容
器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と,
前記共通の信号線に接続され色情報に係る信号を発生するための電気回路と,
を備え,前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収
納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器
位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置の前記キャ
リッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において,
前記装着部に装着されることにより,前記複数の装置側接点に接続可能な接点と,
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部
と,
液体の収納空間を介さずに前記受光手段に対し投光可能位置に固定して配置され
た前記発光部と,
前記電気回路から前記共通の信号線,前記装置側接点および前記接点を介して入
力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報と,に応
じて前記発光部の発光を制御する制御部と,
を具えたことを特徴とする液体インク収納容器。」
【請求項7】
「複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと,
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるよう
に配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光
手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容
器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と,
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路とを有し,前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク


  • 9 -


収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容
器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置の前記キ
ャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部
と,
前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と前記情報保持部の保持する前記
色情報とが一致した場合に,前記接点から前記色情報と共に入力される前記発光部
の制御に係る信号に基づいて前記発光部の発光を制御する制御部と,
を有することを特徴とする液体インク収納容器。」
3 審決の理由の要点
本件各発明は甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者にお
いて容易に発明することができたものであるから,進歩性を欠く。(なお審判で原告
らが主張した無効理由には,進歩性欠如のほか,特許法123条1項4号の無効理
由(同法36条4項1号,6項1号,2号違反)もあったが,進歩性欠如の無効理
由を容れたこともあって,審決は同法123条1項4号の無効理由の有無について
は判断していない。)
【甲第1号証】特開2002-370378号公報
なお,審決が認定した甲第1号証に記載された引用発明等,本件各発明と引用発
明等の一致点及び相違点はそれぞれ下記のとおりである。
ア本件発明3関係
【甲第1号証に記載された発明(引用発明)】
「複数の印刷記録材容器をキャリッジ移動方向に並ぶ互いに異なる位置に装着し
て移動するキャリッジと,
印刷記録材容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,


  • 10 -


各印刷記録材容器に対応して設けられ,装着されていない印刷記録材容器を発光
で表示する表示ランプと,
装着される印刷記録材容器それぞれの接点と接続する装置側接点に対して共通に
電気的接続し印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報を送信するため
の配線を有した電気回路とを有する記録装置と,
記録装置のキャリッジに対して着脱可能な印刷記録材容器と,
を備える印刷記録材供給システムにおいて,
印刷記録材容器は,
装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報を保持する記憶素子と,
前記接点から入力される印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報に
係る信号と,記憶素子の保持する印刷記録材容器のインク色を識別するための識別
情報とが一致した場合に,応答信号を前記配線を通じて印刷装置側の制御回路に対
して送り返す動作を制御する記憶装置と,を有し,
前記制御回路は,応答信号の有無により装着されていない印刷記録材容器を検出
して表示ランプの発光で表示する印刷記録材供給システム」
【本件発明3と引用発明の一致点】
「複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジ
と,
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路とを有する記録装置と,
前記記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器と,を備
える液体インク供給システムにおいて,
前記液体インク収納容器は,


  • 11 -


前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持する情報保持部と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とが一致した場合に応答する制御を行う制御部と,を有する液体インク供
給システム」である点。
【本件発明3と引用発明の相違点】
・相違点1
「記録装置に関して,本件発明3は,『該液体インク収納容器からの光を受光する
位置検出用の受光部を一つ備え,該受光部で該光を受光することによって前記液体
インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と・・・を
有する』,『前記受光部は,前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収
納容器が入れ替わるように配置され』と特定されているのに対し,引用発明は,受
光部及び液体インク収納容器位置検出手段について明示がない点。」
・相違点2
「液体インク収納容器に関して,本件発明3は,『前記液体インク収納容器位置検
出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部と,前記接点から入力さ
れる前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した
場合に前記発光部を発光させる制御部と,を有し,』と特定されるのに対して,引用
発明の液体インク収納容器(液体インク収納容器)の制御部(記憶装置)は,接点
から入力される色情報(識別情報)に係る信号と,情報保持部(記憶素子)の保持
する前記色情報とが一致した場合に応答信号を配線を通じて印刷装置側の制御回路
に対して送り返す動作を制御するものの,引用発明の液体インク収納容器は,発光
部を有しておらず,制御部は,発光部を発光させるものでない点。」
・相違点3
「液体インク供給システム(印刷記録材供給システム)が実行する検出内容に関
して,本件発明3は,『前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液


  • 12 -


体インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体イン
ク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する』と特定
されるのに対して,引用発明は,応答信号の有無により装着されていない印刷記録
材容器を検出するものの,本件発明3のような検出内容でない点。」
イ本件発明1,2,4,5,7関係
【甲第1号証に記載された発明(対比上,ここでは審決に倣い,「引用容器発明」
と称する。下線部が前記の引用発明と異なる部分)】
「複数の印刷記録材容器をキャリッジ移動方向に並ぶ互いに異なる位置に装着し
て移動するキャリッジと,
印刷記録材容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
各印刷記録材容器に対応して設けられ,装着されていない印刷記録材容器を発光
で表示する表示ランプと,
装着される印刷記録材容器それぞれの接点と接続する装置側接点に対して共通に
電気的接続し印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報を送信するため
の配線を有した電気回路とを有する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な
印刷記録材容器において,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報を保持する記憶素子と,
前記接点から入力される印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報に
係る信号と,記憶素子の保持する印刷記録材容器のインク色を識別するための識別
情報とが一致した場合に,応答信号を前記配線を通じて印刷装置側の制御回路に対
して送り返す動作を制御する記憶装置と,
を有する印刷記録材容器。」
【本件発明1と引用容器発明の一致点】
「複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと,
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,


  • 13 -


搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路とを有し,記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器に
おいて,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部
と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とに応じて応答する制御を行う制御部と,
を有する液体インク収納容器。」である点。
【本件発明1と引用容器発明の相違点】
・相違点1
「本件発明1は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が搭載される側の記
録装置が,『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替
わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出
用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによって前記液体イン
ク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』を有し『前記
キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発
光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は
前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する』記録装置,と特定されるのに対し
て,引用容器発明は該特定を有しない点。」
・相違点2
「本件発明1は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が,『前記受光手段に
投光するための光を発光する前記発光部と,・・・を有する』,と特定されるのに対
して,引用容器発明は該特定を有しない点。」
・相違点3


  • 14 -


「本件発明1は,『制御部』が,『前記接点から入力される前記色情報に係る信号
と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する
制御部』,と特定されるのに対して,引用容器発明は該特定を有しない点。」
【本件発明2と引用容器発明の一致点】
「複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジ
と,
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路とを有し,記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器に
おいて,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部
と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とが一致した場合に応答する制御を行う制御部と,
を有する液体インク収納容器」である点。
【本件発明2と引用容器発明の相違点】
・相違点1
「本件発明2は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が搭載される側の記
録装置が,『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替
わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出
用の受光部を一つ備え,該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収
納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』を有し『前記キャ
リッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部
を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記


  • 15 -


液体インク収納容器の搭載位置を検出する』記録装置,と特定されるのに対して,
引用容器発明は該特定を有しない点。」
・相違点2
「本件発明2は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が,『前記受光部に投
光するための光を発光する前記発光部と,・・・を有する』,と特定されるのに対し
て,引用容器発明は該特定を有しない点。」
・相違点3
「本件発明2は,『制御部』が,『前記接点から入力される前記色情報に係る信号
と,前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部の発光を
制御する制御部』,と特定されるのに対して,引用容器発明は該特定を有しない点。」
【本件発明4と引用容器発明の一致点】
「複数の液体インク収納手段を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジ
と,
該液体インク収納手段に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
搭載される液体インク収納手段それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路とを有し,
記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納手段において,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
少なくとも液体インク収納手段のインク色を示す色情報を保持する情報保持部と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とが一致した場合に応答する制御を行う制御部と,
を有する液体インク収納手段」である点。
【本件発明4と引用容器発明の相違点】
・相違点1
「本件発明4は『液体インク収納手段』である『液体インク収納カートリッジ』


  • 16 -


が,『液体インクを吐出することで記録を行う記録ヘッドと,・・・を有する』,と特
定されるのに対して,引用容器発明は該特定を有しない点。」
・相違点2
「本件発明4は,『液体インク収納手段』である『液体インク収納カートリッジ』
が搭載される側の記録装置が,『前記キャリッジの移動により対向する前記液体イン
ク収納カートリッジが入れ替わるように配置され前記液体インク収納カートリッジ
の発光部からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え,該受光部で該光を受
光することによって前記液体インク収納カートリッジの搭載位置を検出する液体イ
ンク収納カートリッジ位置検出手段』を有し『前記キャリッジの位置に応じて特定
されたインク色の前記液体インク収納カートリッジの前記発光部を光らせ,その光
の受光結果に基づき前記液体インク収納カートリッジ位置検出手段は前記液体イン
ク収納カートリッジの搭載位置を検出する』記録装置,と特定されるのに対して,
引用容器発明は該特定を有しない点。」
・相違点3
「本件発明4は,『液体インク収納手段』である『液体インク収納カートリッジ』
が,『前記受光部に投光するための光を発光する前記発光部と,・・・を有する』,と
特定されるのに対して,引用容器発明は該特定を有しない点。」
・相違点4
「本件発明4は,『制御部』が,『前記接点から入力される前記色情報に係る信号
と,前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部の発光を
制御する制御部』,と特定されるのに対して,引用容器発明は該特定を有しない点。」
【本件発明5と引用容器発明の一致点】
「複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジ
と,
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に


  • 17 -


対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路とを有し,記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器に
おいて,
前記液体インク収納容器内に収納される液体インクと,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
収納される液体インクのインク色を示す色情報を保持する情報保持部と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とが対応した場合に応答する制御を行う制御部と,
を有する液体インク収納容器」である点。
【本件発明5と引用容器発明の相違点】
・相違点1
「本件発明5は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が搭載される側の記
録装置が,『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替
わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出
用の受光部を一つ備え,該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収
納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』を有し『前記キャ
リッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部
を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記
液体インク収納容器の搭載位置を検出する』記録装置,と特定されるのに対して,
引用容器発明は該特定を有しない点。」
・相違点2
「本件発明5は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が,『前記受光部に投
光するための光を発光する前記発光部と,・・・を有する』,と特定されるのに対し
て,引用容器発明は該特定を有しない点。」
・相違点3
「本件発明5は,『制御部』が,『前記接点から入力される前記色情報に係る信号


  • 18 -


と,前記情報保持部の保持する前記色情報とが対応した場合に前記発光部の発光を
制御する制御部』,と特定されるのに対して,引用容器発明は該特定を有しない点。」
【本件発明7と引用容器発明の一致点】
「複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと,
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路とを有し,記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器に
おいて,
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部
と,
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とが一致した場合に応答する制御を行う制御部と,
を有する液体インク収納容器」である点。
【本件発明7と引用容器発明の相違点】
・相違点1
「本件発明7は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が搭載される側の記
録装置が,『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替
わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出
用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによって前記液体イン
ク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』を有し『前記
キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発
光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は
前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する』記録装置,と特定されるのに対し
て,引用容器発明は該特定を有しない点。」


  • 19 -


・相違点2
「本件発明7は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が,『前記受光手段に
投光するための光を発光する前記発光部と,・・・を有する』と特定されるのに対し
て,引用容器発明は該特定を有しない点。」
・相違点3
「本件発明7は,『制御部』が,『前記接点から入力される前記色情報に係る信号
と前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に,前記接点から前記色
情報と共に入力される前記発光部の制御に係る信号に基づいて前記発光部の発光を
制御する制御部』と特定されるのに対して,引用容器発明は該特定を有しない点。」
ウ本件発明6関係
【甲第1号証に記載された発明(対比上,ここでは審決に倣い,「引用容器発明2」
と称する。1行目及び下線部が前記の引用発明と異なる部分)】
「複数の印刷記録材容器を装着して移動するキャリッジと,
共通の信号線に接続される複数の装置側接点と,
共通の信号線に接続され印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報を
発生するための電気回路と,
を有する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な印刷記録材容器において,
前記複数の装置側接点に接続可能な接点と,
印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報を保持する記憶素子と,
前記電気回路から前記共通の信号線,前記装置側接点及び前記接点を介して入力
される前記印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報に係る信号と,前
記記憶素子の保持する前記印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報と
が一致した場合に,応答信号を前記配線を通じて印刷装置側の制御回路に対して送
り返す動作を制御する記憶装置と,
を具えた印刷記録材容器。」
【本件発明6と引用容器発明2の一致点】


  • 20 -


「複数の液体インク収納容器を装着して移動するキャリッジと,
共通の信号線に接続される複数の装置側接点と,
前記共通の信号線に接続され色情報に係る信号を発生するための電気回路と,
を備えた記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器にお
いて,
前記複数の装置側接点に接続可能な接点と,
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部
と,
前記電気回路から前記共通の信号線,前記装置側接点および前記接点を介して入
力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報と,に応
じて応答する制御を行う制御部と,
を具えた液体インク収納容器」である点。
【本件発明6と引用容器発明2の相違点】
・相違点1
「本件発明6は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が搭載される側の記
録装置が『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替
わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出
用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによって前記液体イン
ク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』を有し『前記
キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発
光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は
前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する』記録装置と特定されるのに対して,
引用容器発明2は該特定を有しない点。」
・相違点2
「本件発明6は『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)側の接点が『前記装着
部に装着されることにより,前記複数の装置側接点に接続可能な接点』と特定され


  • 21 -


るのに対して,引用容器発明2は該特定を有しない点。」
・相違点3
「本件発明6は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が『液体の収納空間
を介さずに前記受光手段に対し投光可能位置に固定して配置された前記発光部
と,・・・を具えた』と特定されるのに対して,引用容器発明2は該特定を有しない
点。」
・相違点4
「本件発明6は,『制御部』が『前記電気回路から前記共通の信号線,前記装置側
接点および前記接点を介して入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部
の保持する前記色情報と,に応じて前記発光部の発光を制御する制御部』と特定さ
れるのに対して,引用容器発明2は該特定を有しない点。」

top



第3 原告主張の審決取消事由(本件各発明の容易想到性の判断の誤り)


1 本件発明3について
(1)ア審決は,相違点1について,次のとおり判断した(50頁)。
「引用発明は,『複数の印刷記録材容器』が『キャリッジ移動方向に並ぶ互いに異
なる位置に装着』されるもの,即ち,記録装置の特定の一点に対し,キャリッジの
移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わることが可能なものであるか
ら,・・・一つの受光部で・・・発光部からの光を受光するべく,一つ設けられる受
光部をキャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わる位置に配
置(特開2003-291364号公報(甲21),特開平11-263025号公
報(甲22)の受光部もキャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入
れ替わる位置に配置されている。)することは当業者が容易になし得る程度のことで
あり,前記受光部を本件発明3に倣って,『位置検出用の受光部』と称することがで
きるから,引用発明は,相違点1の構成を有することになる。」
イ(ア) しかし,審決がその前提とする周知技術の裏付けとして挙げる特開20


  • 22 -


02-5818号公報(甲3),特開2003-291364号公報(甲21),特
開平11-263025号公報(甲22)の液体インク収納容器(インクタンク)
の検出機構は,発光部側の構成に従って異なる検出機構を採用するものであって,
互いに対応する発光部と受光部とを一組で備えることではじめて特定の検出機構が
成立するものであり,発光部の構成と受光部の構成とは一体不可分である。このよ
うな発光部と受光部の構成の組合せのうち,受光部側の構成のみを取り出しても検
出機構としての技術的な意義が成り立たない。
審決は,上記各刊行物に記載された事項の都合のよいところだけを抜き出して,
周知技術を認定したものであって,誤りである。
(イ) 記録装置(本件においては,印刷装置,プリンタ,インクジェットプリン
タ,インクジェット記録装置も同義である。)の受光部の数をいくつにするかは,単
なる設計事項ではなく,「受光部」を有する検出機構がどのような原理で液体インク
収納容器(本件においては,本件発明4以外の発明との関係では,インクタンク,
インクカートリッジも概ね同義である。)を検出するかに依存する。甲第21,22
号証で受光部を一つだけ設けた構成が採用されているのは,液体インク収納容器の
バーコード等を読み取る都合からであり,液体インク収納容器の検出機構における
「受光部」の技術的意義の違いを無視し,引用発明に甲第21,22号証の受光部
のみを取り出して適用することはできない。
本件発明3では,複数の液体インク収納容器が記録装置に搭載されることから発
光部は複数存在し,複数の「発光部」のそれぞれと,「受光部」との相対位置関係が
変化することを利用して搭載位置検出を行うのであって,甲第21,22号証とは
受光部を一つにした理由が異なる。
ウ甲第3,21,22号証の液体インク収納容器の検出機構では,受光部が受
光したときに液体インク収納容器の「色情報」を取得することができるが,本件発
明3の液体インク収納容器の検出機構では,受光部が受光する光は液体インク収納
容器の「色情報」を有しておらず,検出原理が異なる。


  • 23 -


のみならず,相違点1に係る構成は「色情報」で誤装着を検出することを規定し
ていない。
エ甲第3,21,22号証においては,共通バス接続方式を採用した場合に生
じる液体インク収納容器の搭載位置間違いの課題,すなわち全色の液体インク収納
容器が揃って装着されているが,搭載位置を間違って装着されている場合に,間違
った液体インク収納容器を検出する課題を解決する必要が生じることが認識されて
いない。甲第3号証では液体インク収納容器と記録装置との間の接続につき無線接
続の方法が採用されているし,甲第21,22号証では液体インク収納容器の搭載
位置検出機構に関わる電気回路が記録装置側のみで完結する構成が採用されている
のであって,本件発明3の構成とは大きく異なるものである。
なお,引用発明の記録装置にキャリッジの移動により対向する液体インク収納容
器が入れ替わる部位があるとしても,甲第1号証ではこの部位に受光部を設けるこ
とを開示も示唆もしておらず,この部位に直ちに受光部を設けることができるよう
になるわけではない。
オ以上のとおり,審決の周知技術の認定は誤りであり,誤った周知技術の認定
を前提とする相違点1に係る構成の容易想到性の判断も誤りである。
(2)ア審決は,相違点2について次のとおり判断した(50頁)。
「・・・接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する色情報
とが一致した場合に発光部を発光させる制御部を有することが想到容易であり,相
違点1についての判断のとおり,受光部は,キャリッジの移動により対向する液体
インク収納容器が入れ替わる位置に配置されることが想到容易であるから,前記発
光部を液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光す
る発光部ということができる。その結果,引用発明は,相違点2の構成を有するこ
とになる。」
イしかし,甲第1号証の液体インク収納容器も,甲第3,21,22号証,そ
して審決が周知技術の裏付けとして引用し,被告ら及び補助参加人も援用する甲第


  • 24 -


10号証(特開2002-301829号公報)の液体インク収納容器も,記録装
置側から送信される色情報と,液体インク収納容器自身が有する色情報を照合して,
これらが一致する場合に,液体インク収納容器の発光部を発光させる機能を有しな
い。
また,液体インク収納容器の搭載位置検出用の発光部を液体インク収納容器自体
に設けることは本件発明3の優先日当時の周知技術ではない。仮に,本件発明3の
優先日当時,「交換すべき液体インク収納容器をユーザに分かりやすく表示するべく
液体インク収納容器に発光部を設けること」や液体インク収納容器の「搭載位置を
検出すべく,検出対象である液体インク収納容器からの色情報で誤装着を検出する
検出手段を設けること」が周知技術であるとしても,発光の制御に関わる事項では
ない。
そうすると,引用発明に甲第3,10,21,22号証に記載された事項ないし
周知技術を適用したとしても,引用発明における,記録機器本体に対する応答とし
て共通信号線上に出力される電気信号が,発光部を発光させる信号に置き換わるも
のではない。
したがって,前記(1)の相違点1に係る各点にも照らせば,本件発明3の優先日当
時,当業者において,引用発明に甲第3,10,21,22号証に記載された事項
ないし周知技術を適用することにより,相違点2に係る構成に容易に想到すること
ができたものではない。
なお,「交換すべき液体インク収納容器をユーザに分かりやすく表示するべく液
体インク収納容器に発光部を設けること」と,液体インク収納容器の搭載位置検出
機構の一部として発光部を設けることとは,技術的意義が異なり,前者から後者を
単純に想到できるものではない。
よって,前記(1)と同様に,審決の周知技術の認定は誤りであり,誤った周知技術
の認定を前提とする相違点2に係る構成の容易想到性の判断も誤りである。
(3)ア審決は,相違点3について次のとおり判断した(50,51頁)。


  • 25 -


「受光部を記録装置側に一つ設け,検出対象である液体インク収納容器からの色
情報で誤装着を検出する検出手段を設け,液体インク収納容器の制御部(記憶装置)
を接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する前記色情報とが
一致した場合に発光部を発光させるような制御部とすることが想到容易であり,引
用発明のキャリッジは,複数の印刷記録材容器をキャリッジ移動方向に並ぶ互いに
異なる位置に装着して移動するものであるから,受光部で検出できるように,受光
部に対向した位置で特定されたインク色の液体インク収納容器の発光部を光らせる
ことは当然のことであり,その結果,引用発明は,相違点3の構成を有することに
なる。」
イしかし,記録装置のキャリッジの異なる位置にそれぞれ複数の液体インク収
納容器を装着して移動させるとしても,受光部で液体インク収納容器の発光部から
の光を受光できるよう,受光部に対向した位置で特定されたインク色の液体インク
収納容器の発光部を発光させることは,当然の結論になるものではない。
また,前記(1)と同様に,甲第3,21,22号証の記載事項ないしこれらから認
定し得る周知技術を考慮しても,引用発明の特定のインク色の液体インク収納容器
に発光部を設け,記録装置の受光部に対向した位置で発光させることには想到でき
ない。
よって,前記(1)と同様に,相違点3に係る構成の容易想到性についての審決の判
断も誤りである。
(4) 前記のとおり,甲第3,10,21,22号証では,本件発明3によって解
決すべき技術的課題である,記録装置と複数の液体インク収納容器とを共通の信号
線で接続する方式である共通バス接続方式下における液体インク収納容器の誤装着
の防止は認識されておらず,本件発明3の課題解決原理は開示も示唆もされていな
い。また,甲第3号証等の技術的課題及び課題解決手段は,引用発明の技術的課題
及び課題解決手段と何ら共通しない。
したがって,甲第3号証等に記載された事項ないしこれらから認定できる周知技


  • 26 -


術を引用発明に適用する動機付けがないし,適用したとしても,本件発明3の出願
日当時,当業者において,本件発明3と引用発明の相違点1ないし3に係る構成に
容易に想到できるものではない。
他方,共通バス接続方式下において液体インク収納容器の発光部を個別に制御で
きることは,本件発明3の格別の効果であって,発光部を有しない引用発明等では
奏し得ないものである。
よって,審決は解決すべき技術的課題の相違を看過し,動機付けのない発明等の
組合せを行い,本件発明3が奏する格別の効果を看過して,本件発明3と引用発明
の相違点に係る構成の容易想到性を判断したものであって,この判断は誤りである。
2 本件発明1について
(1) 本件発明1にいう「前記受光手段に投光する光を発光する」との要件は,液
体インク収納容器の発光部が発する光が伝達される宛先を規定したものであって,
他面,当該宛先(伝達先)に光が伝達されるように発光部の配置等が特定され,し
たがって発光部が所要の機能を果たすようにその具体的構造が特定されることは明
らかである。
そうすると,上記の「前記受光手段に投光する光を発光する」との要件は,液体
インク収納容器(の発光部)の構造を限定するものである。
しかるに,審決は,上記要件が液体インク収納容器の発光部の構成を限定するも
のではないとしているが,誤りである。
(2) 本件発明1は着脱可能な液体インク収納容器の発明であって,本件発明1と
引用容器発明との相違点1は,本件発明1の構成を特定するものであるから(サブ
コンビネーション方式),実質的な相違点であって,これに反する審決の判断は誤り
である。
(3) 本件発明3と同様に,審決が前提とする周知技術の認定等には誤りがあり,
また解決すべき技術的課題の相違を看過し,動機付けのない発明の組合せを行い,
本件発明1が奏する格別の効果を看過して,本件発明1と引用容器発明の相違点に


  • 27 -


係る構成に容易に想到し得ると判断したものであって,この判断は誤りである。
3 本件発明2,4,5,7について
本件発明1と同様に,審決が前提とする周知技術の認定等には誤りがあり,また
解決すべき技術的課題の相違を看過し,動機付けのない発明の組合せを行い,本件
発明2,4,5,7が奏する格別の効果を看過して,本件発明2,4,5,7と引
用容器発明の相違点に係る構成に容易に想到し得ると判断したものであって,この
判断は誤りである。
4 本件発明6について
(1) 引用容器発明2の液体インク収納容器に発光部を設ける際,液体の収納空間
を介すると,発光部からの光が液体に吸収されて,受光手段に至る光が弱くなると
いう技術的課題は,引用容器発明2に所要の発光部を設ける構成に想到することが
できて初めて直面し得る事項であって,上記のとおりに容易に想到することができ
ない以上,本件発明6にいう「液体の収納空間を介さずに前記受光手段に対し投光
可能位置に固定して配置された前記発光部」との構成に想到できるものではない。
また,特開平10-230616号公報(甲11)の記録装置の発光部(警告ラ
ンプ)は対向する「受光手段」に光を投光するものではないし,また発光部を液体
インク収納容器(インクタンク)の外部に設けたとしても,発光部と受光手段との
間にインク収納空間が介在することがあるから,液体インク収納容器の内部ではな
く外部に発光部を設けることは,「液体の収納空間を介さずに前記受光手段に対し投
光可能位置」に発光部を配置することと同義でも,かかる発光部の配置を示唆する
ものでもない。
(2) 甲第3号証においては,発光部(立体型半導体素子)からの光をインクに透
過させ,透過光からインク色を判別するものであって,「液体の収納空間を介する」
ことが不可欠である。また,甲第3号証においては,エネルギーが有線方式で供給
される構成は開示されておらず,発光素子を無線接続することを骨子とするもので
ある。


  • 28 -


したがって,引用容器発明2に甲第3号証に記載された事項ないし周知技術を適
用することには阻害事由があるし,適用したとしても相違点3に係る構成に想到す
ることができない。
(3) 本件発明1と同様に,審決が前提とする周知技術の認定等には誤りがあり,
また解決すべき技術的課題の相違を看過し,動機付けがなく,組合せの阻害事由が
ある発明の組合せを行い,本件発明6が奏する格別の効果を看過して,本件発明6
と引用容器発明2の相違点に係る構成に容易に想到し得ると判断したものであって,
この判断は誤りである。

top



第4 取消事由に関する被告ら及び補助参加人の反論


1 本件発明3について
(1)ア(ア) 甲第21号証では,記録装置の特定の位置に受光素子32を一つ設け,
キャリッジの移動により受光素子32と対向する位置に来た液体インク収納容器に
対し,対向位置となるタイミングで点光源から光を投光し,その反射光を受光素子
32で受光する構成が開示されている。液体インク収納容器には反射体を構成する
例えばルーフ状ミラーが設けられており,液体インク収納容器ごとにルーフの数,
幅などを変更して反射光のパターンを異ならせることにより,液体インク収納容器
のインク色を識別し,ユーザが誤ってインク色と異なる位置に液体インク収納容器
を装着した場合は,誤装着を検出できるようになっている。
このような技術に接したとき,①記録装置の特定の位置に受光素子32を1つ設
け,キャリッジの移動により受光素子32と対向する位置に来た液体インク収納容
器に対し,対向位置となるタイミングで誤装着検出を行い,キャリッジを移動させ
ながら順次入れ替るように液体インク収納容器からの光を受光素子32で受光する
ことで,全ての液体インク収納容器に対し誤装着検出を行う基本的な技術の構成と,
②ルーフの数,幅などを異ならせたルーフ状ミラーを液体インク収納容器に設け,
点光源から光を投光したときの反射光のパターンを異ならせることにより液体イン


  • 29 -


ク収納容器のインク色を識別する具体的な技術の構成とに,技術を分けて捉えるこ
とが可能であることは,当業者であれば極めて当然である。したがって,前者の構
成と後者の構成とを必ずしも不可分一体のものとして把握しなければならないわけ
ではない。
甲第22号証でも,記録装置の特定の位置に検出器26を1つ設け,キャリッジ
の移動により検出器26と対向する位置に来た液体インク収納容器に対し,対向位
置となるタイミングでエミッタから光を投光し,その反射光を検出器26で受光す
る構成が開示されている。液体インク収納容器上の指標位置には,液体インク収納
容器のインク色に対応させた光学的に読み取り可能なバーコードが取り付けられて
おり,液体インク収納容器の誤装着を検出できるようになっている。
甲第22号証においても,甲第21号証と同様に,当業者であれば,①'記録装置
の特定の位置に検出器26を1つ設け,キャリッジの移動により検出器26と対向
する位置に来た液体インク収納容器に対し,対向位置となるタイミングで誤装着検
出を行い,キャリッジを移動させながら液体インク収納容器からの光を検出器26
で順次入れ替るように受光することで,全ての液体インク収納容器に対し誤装着検
出を行う基本的な技術の構成と,②'液体インク収納容器上の指標位置に液体インク
収納容器のインク色に対応させたバーコードを設け,エミッタから光を投光したと
きの反射光を検出器26で読み取って液体インク収納容器のインク色を識別する具
体的な技術の構成とに,分けて捉えることができる。
上記の①及び①'は,本件発明3の優先日前に周知の技術であるから,審決の周知
技術の認定に誤りはない。
(イ) 甲第3号証でも,液体インク収納容器内のインクを透過した光を受光した
光センサ550によって,液体インク収納容器が不適切な位置に装着されたことが
検知されたときに,ユーザーにランプ等で警告を発する構成が開示されている。
そして,受光手段である光センサ550を液体インク収納容器ごとに設けること
はコストがかかる点で不合理であるから,移動するキャリッジを有する記録装置に


  • 30 -


おいて,受光手段は一つのみを設けて,キャリッジの移動により順次液体インク収
納容器からの光の受光を行う構成をとることは常識である。
そうすると,本件発明3の優先日における技術常識をも斟酌すれば,甲第3号証
においても,受光手段たる光センサ550を一つ設け,キャリッジの移動により順
次液体インク収納容器からの光の受光を行う構成が採用されているというべきであ
る。
そして,キャリッジの動きを利用して1つの受光部で順次液体インク収納容器の
誤装着検出を行う周知技術に対し,誤装着検出の具体的手段として,液体インク収
納容器側から発光する構成を組み合わせることは容易に想到できる。
(ウ) 特開平10-230616号公報(甲11)の記載や,本件の訂正明細書
(甲25)の段落【0043】及び図9の記載に照らせば,液体インク収納容器の
特定の部位から反射してきた光を受光する受光部が,本件発明3の受光部を兼用で
きることは明らかである。
そうすると,甲第21,22号証の場合も同様に,受光部側の構成のみを利用す
ることができないものではなく,甲第3,21,22号証の発光部と受光部も一体
不可分であり,分離して適用できないものではない。
イ前記アのとおり,発光部の構成と受光部の構成を切り離して適用することが
できないものではないし,プリンタの特定の位置に受光部を一つ設け,キャリッジ
の移動により受光部と対向する位置に来た液体インク収納容器に対し,対向位置の
タイミングで誤装着検出を行い,キャリッジを移動させながら順次入れ替るように
液体インク収納容器からの光を受光部で受光して,全ての液体インク収納容器に対
し誤装着検出を行うことは周知技術であり,当業者であれば,この周知技術を引用
発明に適用することは想到容易である。
また,甲第3,21,22号証において受光部を一つにするのは,キャリッジの
動きを利用することで受光素子や配線の数を最小にし,コストダウンや効率化を図
るためにすぎない。


  • 31 -


したがって,受光部の数を一つにすることは,単なる設計事項にすぎず,この旨
をいう審決の認定に誤りはない。
ウまた,本件発明3と引用発明とは,審決が説示するとおり,液体インク収納
容器側に,液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持した情報保持部と,
接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する色情報とが一致し
た場合に「応答する制御」を行う制御部を有している点で共通している(48頁)。
本件発明3及び引用発明においては,液体インク収納容器側から記録装置側に伝達
される情報自体に色情報は含まれないが,記録装置側から送られてきた特定のイン
ク色の色情報と,情報保持部で保持している色情報が一致している場合にのみ「応
答する制御」が実行されるのであって,記録装置は,記録装置側から送った色情報
に一致していたという応答信号を液体インク収納容器側から受け取ることで,液体
インク収納容器の色情報を得ることになる。液体インク収納容器により「応答する
制御」が実行されるときに液体インク収納容器から記録装置側に伝達される情報自
体には色情報は含まれないという点は,本件発明3と引用発明の相違点ではない。
なお,審決は,引用発明において,キャリッジの移動により対向する液体インク
収納容器が入れ替わる「部位」が存するとか,この「部位」に受光部を設けることがで
きる等としているわけではない。
エよって,相違点1に係る構成は,周知技術に全て表れているのであるから,
引用発明に周知技術を適用すれば,相違点1は容易に想到できたことである。
(2)ア甲第3号証には,液体インク収納容器の色情報を記録装置側に伝達するた
め,記録装置からの指令に応答して,液体インク収納容器側の発光部を発光させる
構成が開示されているところ,引用発明の電気配線を通じた伝送も,甲第3号証の
発光部の発光による記録装置への伝達も,液体インク収納容器の色情報を記録装置
側に伝達するため,所要のタイミングで記録装置から送られてくる指令に対して応
答する点で共通している。
引用発明において応答信号を電気配線を通じて記録装置に伝送している点を,甲


  • 32 -


第3号証の発光部の発光による記録装置への伝達に置き換え,本件発明3の相違点
2に係る構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
また,そのことによって得られる効果は,ユーザが視覚によって交換すべき液体
インク収納容器を認識できる等の,いずれも当業者が予測し得る程度のものであっ
て,格別のものではない。
なお,甲第10号証にも照らせば,警告ランプを点灯させて,インクの残量がな
くなったか,残量が少なくなった液体インク収納容器を視覚的に示して,ユーザが
この液体インク収納容器を容易かつ正確に判別できるようにすることは,本件発明
3の優先日当時の周知技術にすぎない。
イ引用発明においても,同色のインクの液体インク収納容器がキャリッジに複
数装着された場合には,通信異常が生じて液体インク収納容器の誤装着を検出でき
るし,甲第1号証の記載にも照らせば,引用発明においても共通バス接続方式下に
おける液体インク収納容器の誤装着の検出を技術的課題として認識していることは
明らかである。
また,引用発明と甲第3,21,22号証に記載された周知技術とは技術的課題
が共通である。
ウよって,相違点1と同様に,引用発明に甲第3,21,22号証に記載され
た周知技術を適用すれば,相違点2は容易に想到できたことである。
(3)ア甲第21,22号証に記載された周知技術においても,インク色に応じて
液体インク収納容器が装着されるべき位置は予め決められており,記録装置側は,
次に来るべき液体インク収納容器のインク色は予め分かっているのであり,受光部
の検出結果が予想されるインク色と同じであれば,正しい液体インク収納容器が装
着されていると判定し,検出結果が予想されるインク色と異なっていれば,液体イ
ンク収納容器が誤装着されていると判定する。この点において,本件発明3と何ら
変わるところはない。
したがって,甲第21,22号証に記載された周知技術を引用発明に適用する場


  • 33 -


合,受光部に対向した位置で液体インク収納容器の発光部を光らせるように構成す
ることは当業者が容易になし得たことである。
この結論は,甲第3号証に記載された周知技術に関しても何ら異なるものではな
い。
イよって,相違点1と同様に,引用発明に甲第3,21,22号証に記載され
た周知技術を適用すれば,相違点3は容易に想到できたことである。
(4) 甲第3号証の発光素子に対しては,記録装置側から接触又は非接触の方法で
エネルギーが供給されるものであって,記録装置側と接続する電気配線が設けられ
る態様が排除されていない。したがって,甲第3号証が無線接続方式の採用を前提
としたものであるとはいえない。
インクを使い切ったときに,同色の液体インク収納容器を複数キャリッジに誤っ
て装着する,同色の液体インク収納容器による誤装着の場合には,本件発明3の液
体インク収納容器は正しく誤装着を報知することができない。他方,引用発明の液
体インク収納容器においては,このような場合にも正しく誤装着を報知することが
できるものである。このとおり,同色の液体インク収納容器による誤装着のケース
に対しては作用効果を奏することのない本件発明3が格別の効果を奏するとは到底
いうことができない。
これらのほかに,審決の判断に,技術的課題の把握の誤り,論理付けの誤りや作
用効果の看過等は存しない。
(5) 結局,本件発明3の優先日当時,引用発明に甲第3,21,22号証記載の
周知技術を適用することで,当業者において,本件発明3と引用発明との間の相違
点に係る構成に容易に想到できたということができる。
あるいは,甲第21,22号証には「液体インク収納容器が搭載される記録装置
が,『キャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わるように配置
され液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え,該
受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出


  • 34 -


する液体インク収納容器位置検出手段』を有する点」及び「『キャリッジの位置に応
じて特定されたインク色の液体インク収納容器からの光の受光結果に基づき前記液
体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する』
記録装置とする点」との周知技術1が,甲第3,10号証及び甲第4号証(特開平
4-275156号公報)には「液体インク収納容器に,交換されるべき液体イン
ク収納容器が誤りなく選択されるようにすべく,あるいは記録装置側の受光手段に
投光するための光を投光すべく,発光部を設ける点」との周知技術2-1が,甲第
5号証(WO 02/40275号公報)には(又はさらに乙第1号証(米国特許
第6151041号公報)にも照らせば)「液体インク収納容器の制御部が,記録装
置との接点から入力される液体インク収納容器を識別する色情報に係る信号と,液
体インク収納容器側の情報保持部で保持している前記色情報とに応じて液体インク
収納容器に設けた発光部(LED)を発光させる点」との周知技術2-2がそれぞ
れ記載されているところ,これらの周知技術は本件発明3の優先日当時の当業者の
周知技術である。そして,本件発明3の優先日当時,引用発明に上記周知技術1,
2-1,2-2を適用することで,当業者において,本件発明3と引用発明との間
の相違点に係る構成に容易に想到できたということができる。
以上と同旨の本件発明3の容易想到性に係る審決の判断に誤りはない。
2 本件発明1について
(1) 本件発明1は液体インク収納容器に係る発明であり,液体インク収納容器が
搭載される記録装置側の構成は液体インク収納容器の構成を限定するものではない
から,発光部から投光された光が向かった先の構成も液体インク収納容器の構成を
限定するものではない。まして,「前記受光手段に投光するための」と光の目的のみ
特許請求の範囲に記載したところで,それによって液体インク収納容器に設ける発
光部の構成が格別の構成のものに特定されるわけでもない。
そうすると,相違点2における「前記受光手段に投光するための」との限定は,
液体インク収納容器の発光部の構成を限定するものではない。


  • 35 -


なお,訂正明細書の段落【0035】,【0036】,【0040】ないし【004
7】の記載によっても,本件発明1の特許請求の範囲において,原告が引用した実
施例の構成にまで限定されているとは認められない。
審決は上記と同旨をいうもので,その判断に誤りはない。
(2) 前記(1)のとおり,本件発明1は液体インク収納容器に係る発明であり,液体
インク収納容器が搭載される記録装置側の構成は液体インク収納容器の構成を限定
するものではない。
本件発明1の液体インク収納容器は記録装置と1対1の関係にあるわけではな
く,液体インク収納容器の構成を仔細に確認したところで,記録装置側の構成を判
断できるものではない。
したがって,相違点1が本件発明1の構成を特定するものではなく,これが実質
的な相違点でないとした審決の認定判断に誤りはない。
(3) 本件発明3と同様に,本件発明1の優先日当時,当業者において,引用容器
発明に周知技術を適用して,本件発明1との相違点に係る構成に容易に想到できる
とした審決の判断に誤りはない。
3 本件発明2,4,5,7について
本件発明1と同様に,本件発明2,4,5,7の優先日当時,当業者において,
引用容器発明に周知技術を適用して,本件発明2,4,5,7との相違点に係る構
成に容易に想到できるとした審決の判断に誤りはない。
4 本件発明6について
(1) 審決が説示するとおり(69頁),引用容器発明2の液体インク収納容器に
発光部を設ける際に,液体の収納空間を介すると光が液体に吸収されて発光部から
受光手段に至る光が弱くなるから,発光部を液体の収納空間を介さないよう液体イ
ンク収納容器の外部に設けることは,むしろ当然のことであり,技術常識に基づい
て,当業者が容易に想到し得たことである。
例えば,甲第10号証においても,発光部は液体インク収納容器の内部ではなく,


  • 36 -


外部に設ける構成が開示されている。
このように,受光手段(人の目も含む)との間に,液体の収納空間が介在しない
ように構成することで,液体インク収納容器の内部に設ける場合と比較して光がよ
り確実に届くように構成しているのである。
液体の収納空間を介さない方が適していることは自明のことであるから,本件発
明6の発光部のように構成することは,当業者であれば容易想到である。
(2) 甲第3号証に透過光からインク色を判別する構成が記載されているとして
も,発光部を液体の収納空間を介さないように液体インク収納容器の外部に設ける
ことの方がむしろ当然であって,甲第3号証に記載されている周知技術を適用する
上で阻害事由となるものではない。
(3) 本件発明1と同様に,本件発明6の優先日当時,当業者において,引用容器
発明2に周知技術を適用して,本件発明6との相違点に係る構成に容易に想到でき
るとした審決の判断に誤りはない。

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第5 当裁判所の判断


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1 本件発明3について



(1)ア訂正明細書(甲25)中には,次のとおりの記載がある。

・「このようなプリンタでは,特に信号線の数が増すことはコストを増すなどの要因となる。一方で,配線数を削減するためにはバス接続といった所謂共通の信号線の構成が有効であるが,単にバス接続のような共通の信号線を用いる構成では,インクタンクもしくはその搭載位置を特定することができないことは明らかである。」

(段落【0009】)

・「本発明はこのような問題を解消するためになされたものであり,その目的とするところは,複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い,この場合でもインクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をすることを可能とすることにある。」

(段落【0010】)

・「以上の構成によれば,記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接続する液体インク収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を介して入力される信号と,そのインクタンクの色情報とに基づいて発光部の発光を制御するので,先ず,搭載される複数のインクタンクが共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取ったとしても,色情報に合致するインクタンクのみがその発光制御を行うことができ,これにより,インクタンクを特定した発光部の点灯など発光制御が可能となる。次に,このようなインクタンクを特定した発光制御が可能な場合,例えば,キャリッジに搭載された複数のインクタンクについて,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させるとともに,上記所定の位置での発光を検出するようにすることにより,発光が検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識できる。これにより,例えば,ユーザに対してインクタンクを正しい位置に再装着することを促す処理をすることができ,結果として,インクタンクごとにその搭載位置を特定することができる。」(段落【0019】)

・「この結果,複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い,この場合でもインクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発行ママ制御をすることが可能となる。」(段落【0020】)

イ上記アの記載によれば,本件各発明の課題は,キャリッジに複数の液体インク収納容器を搭載して使用する記録装置において,コストを低減するため,記録装置と液体インク収納容器との間の配線の方式に,全液体インク収納容器に共通の信号線を用いる共通バス接続の方式を採用した場合でも,各液体インク収納容器がインク色に従ってキャリッジの所定の位置に正しく装着されているか否かを検出することにあるものである。

すなわち,共通バス接続の方式を採用した場合に,記録装置側からの要求に応じて,単純に液体インク収納容器が保持するインク色の情報と合致する場合に当該液- 38 -体インク収納容器から応答の信号が返るようにしても,例えば黄色の液体インク収納容器とマゼンタ(明るい赤紫色)の液体インク収納容器の搭載位置を逆にして装着した場合には,それぞれの液体インク収納容器がキャリッジ内にあることだけが検出されるだけで,それ以上にどの搭載位置につき誤装着があるかを検出できないので,その余の構成を加えて上記のような場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにするというものである。

(2) 審決は,本件発明3と甲第1号証に記載された発明(引用発明)の相違点に係る容易想到性につき,次のとおり説示する(49~51頁,①以下の符号は当裁判所が付した。)。

「a.甲第1号証段落【0046】に『インクカートリッジCAの交換要求を検出すると』と記載されているように,引用発明の液体インク収納容器(印刷記録材容器)は,必要に応じて交換されるものである。①複数の液体インク収納容器がキャリッジの所定位置に搭載された記録装置において,交換されるべき液体インク収納容器が誤りなく選択されることは自明の課題であり,②交換すべき液体インク収納容器をユーザにわかりやすく表示するべく液体インク収納容器に発光部を設けることは,周知技術(甲第3号証段落【0086】,甲第10号証参照。)であるから,③該周知技術を引用発明に適用して,液体インク収納容器に発光部を設けることは当業者が容易になし得る程度のことである。

b.甲第1号証段落【0060】に『インク交換に際して,1つのインクカートリッジCAが交換される場合はもちろん,2以上のインクカートリッジCAが交換される場合にも有用である。』と記載されているから,引用発明は,2つ以上の液体インク収納容器が取り外されることを想定している。液体インク供給システムにおいて,複数の液体インク収納容器が取り外された場合,誤った位置に液体インク収納容器が装着される可能性がある。

c.④搭載位置を検出すべく,検出対象である液体インク収納容器を受光部に対向させ,検出対象である液体インク収納容器からの色情報で誤装着を検出する検出手段を設けることが周知技術(甲第3号証,先行技術文献1(特開2003-291364号公報),先行技術文献2(特開平11-263025号公報)参照)であり,⑤受光部の数をいくつにするかは設計事項にすぎず,⑥受光部を記録装置側に一つ設けることも周知技術(先行技術文献1,先行技術文献2参照)であるから,⑦引用発明に周知技術を適用し,検出対象である液体インク収納容器に対向させ,受光部を記録装置側に一つ設け,検出対象である液体インク収納容器からの色情報で誤装着を検出する検出手段を設けるようとすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。

d.引用発明は『接点から入力される印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報に係る信号と,記憶素子の保持する印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報とが一致した場合に,応答信号を前記配線を通じて印刷装置側の制御回路に対して送り返す動作』をするもの,即ち,検出対象である液体インク収納容器の色情報を発するものであるから,⑧上記aで検討した発光部を利用し,cで検討した受光部に受光させるべく,引用発明の液体インク収納容器の制御部(記憶装置)を接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に発光部を発光させるような制御部とすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。

e.引用発明は,『複数の印刷記録材容器』が『キャリッジ移動方向に並ぶ互いに異なる位置に装着』されるもの,即ち,記録装置の特定の一点に対し,キャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わることが可能なものであるから,⑨cで検討した一つの受光部でdで検討した発光部からの光を受光するべく,一つ設けられる受光部をキャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わる位置に配置(特開2003-291364号公報,特開平11-263025号公報の受光部もキャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わる位置に配置されている。)することは当業者が容易になし得る程度のことであり,前記受光部を本件発明3に倣って,『位置検出用の受光部』と称することができるから,引用発明は,相違点1の構成を有することになる。

f.上記dで検討したように,接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する色情報とが一致した場合に発光部を発光させる制御部を有することが想到容易であり,上記eで検討したように,受光部は,キャリッジの移動により対向する液体インク収納容器が入れ替わる位置に配置されることが想到容易であるから,⑩前記発光部を液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部ということができる。その結果,引用発明は,相違点2の構成を有することになる。

g.上記a,c,dで検討したように,受光部を記録装置側に一つ設け,検出対象である液体インク収納容器からの色情報で誤装着を検出する検出手段を設け,液体インク収納容器の制御部(記憶装置)を接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に発光部を発光させるような制御部とすることが想到容易であり,引用発明のキャリッジは,複数の印刷記録材容器をキャリッジ移動方向に並ぶ互いに異なる位置に装着して移動するものであるから,⑪受光部で検出できるように,受光部に対向した位置で特定されたインク色の液体インク収納容器の発光部を光らせることは当然のことであり,その結果,引用発明は,相違点3の構成を有することになる。

以上のことから,引用発明において,本件発明3の相違点1~3に係る構成を備えることは,周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に想到し得ることである。また,該構成を備えることによる効果も当業者が予測し得る程度のものである。したがって,本件発明3は,引用発明及び周知の技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」

(3) しかし,この審決の判断の流れは,②,④,⑥の周知技術を前提とし,①,⑤の自明課題,設計事項を踏まえ,bの甲第1号証から読み取れる事項も認定したうえ,③,⑦,⑧の判断を経て,⑨,⑩,⑪のとおり相違点1ないし3の容易想到性を導いているものであって,甲第3,10,21,22号証は周知技術の裏付けとして援用したものである。このうち,④の周知技術の認定で審決が説示する「液体インク収納容器からの色情報」が単に液体インク収納容器のインク色に関する情報でありさえすればよいとすると,前記周知技術は,液体インク収納容器と記録装置側とが発光部と受光部との間の光による情報のやり取りを通じて当該液体インク収納容器のインク色に関する情報を記録装置側が取得することを意味するものにすぎない。このような一般的抽象的な周知技術を根拠の一つとして,相違点に関する容易想到性判断に至ったのは,本件発明3の技術的課題と動機付け,そして引用発明との間の相違点1ないし3で表される本件発明3の構成の特徴について触れることなく,甲第3号証等に記載された事項を過度に抽象化した事項を引用発明に適用して具体的な本件発明3の構成に想到しようとするものであって相当でない。その余の自明課題,設計事項及び周知技術にしても,甲第3号証等における抽象的技術事項に基づくものであり,同様の理由で引用発明との相違点における本件発明3の構成に至ることを理由付ける根拠とするには不足というほかない。

(4) 上記のとおり,周知技術等に基づいてする審決の判断は是認できないが,甲第3号証等が開示する技術的事項も踏まえて念のため判断するに,甲第3,21,22号証の液体インク収納容器において,記録装置と液体インク収納容器の間の接続方式につき共通バス接続方式が採用されているかは不明であって,少なくとも甲第3,21,22号証においては,共通バス接続方式を採用した場合における液体インク収納容器の誤装着の検出という本件発明3の技術的課題は開示も示唆もされていないというべきである。

そして,上記技術的課題に着目してその解決手段を模索する必要がないのに,記録装置側がする色情報に係る要求に対して,わざわざ本件発明3のような光による応答を行う新たな装置(部位)を設けて対応する必要はなく,このような装置を設ける動機付けに欠けるものというべきである。

そうすると,甲第3,21,22号証に記載された事項は,解決すべき技術的課題の点においても既に本件発明3と異なるものであって,共通バス接続方式を採用する引用発明に適用するという見地を考慮しても,本件発明3と引用発明との相違点,とりわけ相違点2,3に係る構成を想到する動機付けに欠けるものというべきである。

なお,本件発明3における液体インク収納容器が保持する色情報の技術的意義が前記のとおりであることに照らすと,液体インク収納容器から記録装置側に伝達される情報自体に「色情報」が含まれるか否かは,本件発明3と引用発明の実質的な相違点であるというべきである(相違点2)。

(5) よって,その余の点について検討するまでもなく,本件発明3と引用発明との相違点に係る構成に容易に想到できるとした審決の前記判断は誤りであるというべきである。

(6)ア被告ら及び補助参加人(以下「被告ら」というときは,補助参加人も含む。)は,甲第21,22号証の記録装置と液体インク収納容器の構成から,記録装置に受光素子を1つ設け,キャリッジの移動により受光素子と対向する位置に来た液体インク収納容器に対し,誤装着検出を行う等の基本的な技術の構成が分離して把握できないものではなく,上記基本的な技術構成が本件発明3の優先日前に周知の技術であると主張する。

しかしながら,前記のとおり,甲第21,22号証の記録装置と液体インク収納容器の構成及び誤装着の検出原理は,本件発明3のそれらと大きく異なるのであって,仮に甲第21,22号証の構成から,キャリッジを移動させることにより特定の位置に来る液体インク収納容器を交替させ,発光部と受光部の間の光のやり取りによって順次液体インク収納容器の検出を行うという,具体的な動作機構や検出原理を捨象し,相当程度抽象化した事項を持ち出してみても,本件発明3との相違点にかかる構成の容易想到性が肯定できるものではないから,被告らの上記主張は採用できない。

また,甲第3号証の記録装置において,受光手段が一つだけ設けられているかは不明であるから,上記記録装置において,受光手段を一つだけ設け,キャリッジの移動により順次液体インク収納容器からの光の受光を行う構成が採用されているとはいうことができない。


また,被告らは,特開平10-230616号公報(甲11)の記載も根拠として,甲第3,21,22号証の構成から,受光部側の構成のみを利用することができないわけではないなどと主張する。

確かに,甲第11号証には,複数の液体インク収納容器をキャリッジに装着して使用する記録装置において,記録装置側に発光部及び受光部を有する検知器を一つ設け,キャリッジで移動する液体インク収納容器の残量検知部が上記検知器に対向する位置に来たときに,上記検知器から発光する光を液体インク収納容器の残量検知部に照射(投光)し,返ってくる光を上記検知器で受光し,解析することにより,当該液体インク収納容器のインク残量を順次検出する構成が記載されている(段落【0016】,図2等)。また,訂正明細書の段落【0043】及び図9には,甲第11号証と同様のインク残量検知器及び液体インク収納容器のインク残量検知部の構成が開示されている。

しかしながら,上記のインク残量検知器等の構成は,記録装置と液体インク収納容器との間の接続の方式のいかんにかかわらず適用し得る性格のものであって,本件発明3が,共通バス接続方式下で液体インク収納容器の誤装着の問題解決を技術的課題としていることに対する適用可能性はないというべきである(とりわけ相違点1)。したがって,甲第11号証等の記載をもって,甲第3,21,22号証の構成から,受光部側の構成のみを取り出して容易想到であるとすることの裏付けとすることはできず,被告らの上記主張は採用することができない。

イ被告らは,引用発明において応答信号を電気配線を通じて記録装置に伝送している点を,甲第3号証の発光部の発光による伝達に置き換えることは当業者が容易に想到し得ることであるなどと主張する。

しかしながら,甲第3号証中には,「このような構成ではインクタンク内に検出用の電極を配置する必要がある。また,電極間の導通状態によりインク残量を検知するため,インク成分に金属イオンを用いることができない等,使用するインクに制約が生じてしまう。」(段落【0006】)と液体インク収納容器内の発光素子に液体インク収納容器外から有線で電力を供給することに難点がある旨の記載があるし,段落【0008】では外部から非接触で発光素子を起動する必要がある旨が,段落【0012】,【0013】では立体形半導体素子が外部からのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換する手段を有し,変換されたエネルギーによって駆動する必要がある旨が,図6や段落【0018】,【0040】では立体形半導体素子のエネルギー変換手段として共振回路を用い,電磁誘導によって必要な電力を外部から得る構成がそれぞれ記載されているから,甲第3号証の立体形半導体素子が,専ら無線方式でプリンタと接続されることは明らかである。

そして,甲第3号証の段落【0017】には,「前記エネルギー変換手段が変換する外部エネルギーは非接触で供給される構成とすることにより,素子の起動のためのエネルギー源をインクタンクに持たせたり,エネルギー供給用の配線を素子に接続する必要がなく,外部との直接的な配線を施すことが困難な箇所に使用することができる。」との記載は,立体形半導体素子を無線方式(非接触方式)で設けることのメリットに係るものであることが明らかで,上記記載は有線方式を排除した趣旨のものであるというべきである。

そうすると,甲第3号証には立体形半導体素子を有線の電気配線で記録装置側と接続する構成は記載されていないというべきであるし,前記のとおりの本件発明3の構成等との相違に照らせば,引用発明において応答信号を電気配線を通じて記録装置に伝送している点を,甲第3号証の発光部の発光による伝達に置き換える動機付けは存しないというべきである(とりわけ相違点2)。

したがって,被告らの上記主張は採用できない。

ウ被告らは,インクを使い切ったときに,同色の液体インク収納容器を複数キャリッジに誤って装着する,同色の液体インク収納容器による誤装着の場合には,


本件発明3の液体インク収納容器は正しく誤装着を報知することができないから,本件発明3が格別の効果を奏するとは到底いうことができない等と主張する。

しかしながら,ある液体インク収納容器について,「インクがなくなった可能性がある」ことを示すエラーランプが点滅した場合でも,直ちに当該液体インク収納容器を交換せず,リセットボタンを押して印刷を継続することとし,その後に,他の液体インク収納容器のインクが少量又は0になったときに,複数の液体インク収納容器を同時に交換する事態が生じることもあり得るものである。また,仮に実際の記録装置で試験した結果,上記の場合に記録装置が誤装着がされている搭載位置を判別できなかったことがあったとしても,本件発明3の構成とは必ずしも関係がない記録装置側の仕様による可能性があり,上記試験の結果直ちに本件発明3が作用効果を奏しないことになるものではない。そして,同色の液体インク収納容器を複数キャリッジに誤って装着した場合であっても,例えば誤った装着がされた液体インク収納容器が記録装置側の受光手段と対向する所定の位置に来たときにキャリッジの移動を止めて何らかの報知手段でユーザーに異常を知らせたり,あるいはそもそも液体インク収納容器の検出動作自体を止めてユーザにキャリッジの確認を要求する構成を付加して対処することも容易に考えられるのであって,上記の場合に本件発明3がその作用効果を奏することを,訂正明細書の記載から排除することはできない。

他方で,本件発明3は,共通バス接続方式下において,液体インク収納容器の誤装着を検出できるという作用効果を奏し得るものである。

したがって,被告らの上記主張は失当であり,採用することができない。

エ(ア) 被告らは,周知技術1,2-1,2-2がいずれも本件発明3の優先日当時に周知であり,引用発明にこれらの周知技術を適用することで,当業者において,本件発明3と引用発明との間の相違点に係る構成に容易に想到できたと主張する。この主張についても,前記(3)の冒頭で説示したことが当てはまり,相違点に関する本件発明3の構成に想到する理由とすることはできないが,念のため,これらの周知技術が記載されていると被告らが援用する公報の記載に照らして以下判断する。

(イ) 甲第4号証(特開平4-275156号公報)では,記録装置において,印字ヘッドの通電回数をカウントし,累積通電回数が一定値に達するとインク残量が少なくなった旨を液体インク収納容器に設けたLEDで報知する構成が開示されている(請求項1,3,段落【0007】,【0015】,図1)。

確かに,発光素子である上記LEDは,インク残量が少なくなった液体インク収納容器をユーザが交換する際に,上記液体インク収納容器を誤りなく選択することを助力するものではあるが,本件発明3のように,液体インク収納容器からの光を記録装置側で受光して液体インク収納容器の識別をしたり,あるいは甲第21,22号証のように,液体インク収納容器に対して記録装置側から光を照射して,反射光から液体インク収納容器の識別をする構成とは,発光素子(発光部)を設ける技術的意義ないし役割が大きく異なるものである。また,甲第10号証(特開2002-301829号公報)では,複数の液体インク収納容器をキャリッジに装着する記録装置において,キャリッジ又は液体インク収納容器にインク残量がなくなった旨を警告するランプを設ける構成が開示されている(特許請求の範囲,段落【0006】等)。

確かに,上記ランプは,インク残量がなくなった液体インク収納容器をユーザが交換する際に,上記液体インク収納容器を誤りなく選択することを助力するものではあるが,本件発明3のように,液体インク収納容器からの光を記録装置側で受光して液体インク収納容器の識別をしたり,あるいは甲第21,22号証のように,液体インク収納容器に対して記録装置側から光を照射して,反射光から液体インク収納容器の識別をする構成とは,発光部を設ける技術的意義ないし役割が大きく異なるものである。

したがって,甲第3,4,10号証で,交換すべき液体インク収納容器をユーザが誤りなく交換できるように,液体インク収納容器に発光部を設けるという相当程度抽象的な構成が開示されているとしても,引用発明に適用することにより,本件発明3との相違点,とりわけ相違点2,3に係る構成に想到することは容易ではないというべきである。

(ウ) そして,甲第5号証(WO 02/40275号公報)では,複数の液体インク収納容器をキャリッジに搭載する記録装置において,各液体インク収納容器と記録装置の間の接続に共通バス接続方式を用いるとともに,各液体インク収納容器の記憶装置にインク色に係る情報を保持させ,記録装置に設けられた識別装置との間の応答動作において液体インク収納容器の上記情報との照合作業を行うことで,液体インク収納容器の誤装着を検出する構成が開示されている(2~12,23~44頁,第4図等)。

確かに,甲第5号証の記録装置及び液体インク収納容器は,共通バス接続方式の下で,液体インク収納容器が誤りなく装着されているか否かを検出するための機構を備えているものであるが,記録装置の識別装置は電気配線を通じて液体インク収納容器からインク色等に係る情報(信号)を取得するだけで,本件発明3のような,光を利用して液体インク収納容器の識別を行う構成(とりわけ相違点3)は開示も示唆もされていないというべきである(なお,甲第5号証の記録装置の液体インク収納容器に設けられているLED(41頁17~22行)は,液体インク収納容器を交換する際に,交換すべき液体インク収納容器の搭載位置をユーザに視覚を通じて指し示すものにすぎず,その機能はあくまで受動的なものである。上記LEDは本件発明3の発光部のように,能動的に液体インク収納容器の異同を検出・識別するために動作するものではない。)。

また,乙第1号証(米国特許第6151041号公報)でも,液体インク収納容器の記憶装置に保持されている情報を照合することによって液体インク収納容器を識別する構成が開示されているが,甲第5号証と同様に,光を利用して液体インク収納容器の識別を行う構成は開示も示唆もされていない。

したがって,甲第5号証,乙第1号証で,記録装置側から入力される液体インク収納容器の色情報に係る信号と,液体インク収納容器の記憶装置で保持されているインク色に関する情報とを照合することによって,液体インク収納容器の識別処理を行い,液体インク収納容器が処理結果を電気信号で応答する構成が開示されているとしても,引用発明に適用することにより,本件発明3との相違点,とりわけ相違点2,3に係る構成に想到することは,その動機付けがなく容易ではないというべきである。(エ) 結局,前記周知技術1,2-1,2-2が本件発明3の優先日当時の周知技術であるかはともかくとして,引用発明にこれらを適用することで,当業者において,本件発明3と引用発明との間の相違点に係る構成に容易に想到できたということはできず,被告らの前記主張は採用できない。

以上のとおり,本件発明3の容易想到性に係る審決の判断は誤りである。



2 本件発明1について



(1) 審決は,本件発明1と引用容器発明の相違点に係る容易想到性につき,次のとおり説示する(55~57頁)。

・「相違点2について

上記『第7 本件発明3についての当審の判断』のa.で述べたとおり,複数の液体インク収納容器が記録装置のキャリッジの所定位置に搭載される場合において,交換されるべき液体インク収納容器が誤りなく選択されるように,交換すべき液体インク収納容器をユーザにわかりやすく表示するべく引用容器発明の液体インク収納容器に発光部を設けることは,周知技術に基づいて,当業者が容易になし得る程度のことである。

本件発明1は液体インク収納容器の発明であり,液体インク収納容器の発光部からの光を受光する受光手段を記録装置が備えるか否かは記録装置側の構成に依存するから,相違点2における『前記受光手段に投光するための』との限定は,液体インク収納容器の発光部の構成を限定するものではない。

また,液体インク収納容器の発光部からの光を受光する受光手段を記録装置に設けることは,上記『第7 本件発明3についての当審の判断』のc.で述べたとおり,周知技術を適用して当業者が容易になし得ることであり,そうした場合,液体インク収納容器の発光部は『受光手段に投光するための光を発光する発光部』となる。

以上のことから,引用容器発明において,本件発明1の相違点2に係る構成を備えることは,周知技術に基づいて,当業者が容易になし得たことである。」

・「相違点3について

引用容器発明の制御部(記憶装置)は,上記『第7 本件発明3についての当審の判断』のd.で述べたと同様に,検出対象である液体インク収納容器の色情報を発するものであるから,引用容器発明の液体インク収納容器に発光部を設ける際に,該発光部を利用して受光部が受光できるよう,引用発明の液体インク収納容器の制御部(記憶装置)を,接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する前記色情報とに応じて発光部を発光させるような制御部とし,引用容器発明が,本件発明1の相違点3に係る構成を備えるようにすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。」

・「相違点1について

本件発明1は液体インク収納容器の発明である。これに対して,本件発明1の相違点1に係る構成は,液体インク収納容器が搭載される側の記録装置の構成であるから,相違点1は実質的な相違点ではない。

なお,本件発明1の液体インク収納容器が搭載される側の記録装置の構成を,本件発明1の相違点1に係る構成を備えた記録装置とすることが,周知技術に基づいて,当業者が容易になし得た点については,上記『第7 本件発明3についての当審の判断』のc.~e.で述べたのと同様である。」

・「まとめ

上記相違点1~3についての検討結果より,本件発明1は,引用容器発明及び周知の技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」

(2) 本件発明1の特許請求の範囲は前記のとおりであるところ,それによれば,本件発明1の構成が,液体インク収納容器とそれを搭載する記録装置を組み合わせたシステムを前提にして,そのうち液体インク収納容器に関するものであって,上記システムに専用される特定の液体インク収納容器がこれに対応する記録装置の構成と一組のものとして発明を構成していることは明らかである。

したがって,本件発明1の容易想到性を検討するに当たり,記録装置の存在を除外して検討するのは誤りであり,相違点2における「前記受光手段に投光するための」との限定は,液体インク収納容器の発光部の構成を限定するものであるということができ,これに反する相違点2についての審決の判断には誤りがある。

そして,本件発明3と同様に,引用容器発明に甲3,21,22号証等で開示された周知技術ないし事項を適用しても,本件発明1の優先日当時,当業者において,本件発明1と引用容器発明の相違点に係る構成を容易に想到し得るものではない。

したがって,本件発明1の容易想到性に係る審決の判断は誤りである。


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3 本件発明2,4,5,7について



(1) 本件発明2は,本件発明1とは,①液体インク収納容器の搭載位置につき「互いに異なる位置に」との限定が付されている点,②本件発明1の「受光手段」が「受光部」に置き換えられている点,③液体インク収納容器の情報保持部が色情報を「保持可能」とされているのではなく「保持する」と限定されている点,④液体インク収納容器からの光の宛先が「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に」とより限定されている点,⑤本件発明1において制御部の動作につき「前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する」とされているのを,「前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる」と,より動作を特定している点がそれぞれ異なるものである。

しかしながら,発明の進歩性に係る判断の当否についての事情は本件発明1と異なるものではなく,本件発明1と同様に,引用容器発明に甲第3,21,22号証等で開示された周知技術ないし事項を適用しても,本件発明2の優先日当時,当業者において,本件発明2と引用容器発明の相違点に係る構成を容易に想到し得るものではない。

したがって,本件発明2の容易想到性に係る審決の判断は誤りである。

(2) 本件発明4は,本件発明1と,①本件発明1の「液体インク収納容器」が「液体インク収納カートリッジ」に置き換えられている点,②液体インクカートリッジの搭載位置につき「互いに異なる位置に」との限定が付されている点,③本件発明1の「受光手段」が「受光部」に置き換えられている点,④液体インク収納カートリッジの構成要素として「液体インクを吐出することで記録を行う記録ヘッド」が加えられている点,⑤液体インク収納カートリッジの情報保持部が色情報を「保持可能」とされているのではなく「保持する」と限定されている点,⑥液体インク収納カートリッジの発光部からの光の宛先が「前記液体インク収納カートリッジ位置検出手段の前記受光部に」とより限定されている点,⑦本件発明1において制御部の動作につき「前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する」とされているのを,「前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる」と,より動作を特定している点がそれぞれ異なるものである。

しかしながら,発明の進歩性に係る判断の当否についての事情は本件発明1と異なるものではなく,本件発明1と同様に,引用容器発明に甲第3,21,22号証等で開示された周知技術ないし事項を適用しても,本件発明4の優先日当時,当業者において,本件発明4と引用容器発明の相違点に係る構成を容易に想到し得るものではない。

したがって,本件発明4の容易想到性に係る審決の判断は誤りである。

(3) 本件発明5は,本件発明1とは,①液体インク収納容器の搭載位置につき「互いに異なる位置に」との限定が付されている点,②本件発明1の「受光手段」が「受光部」に置き換えられている点,③液体インク収納容器の構成要素として「液体インク収納容器内に収容される液体インク」が加えられている点,④液体インク収納容器の情報保持部が色情報を「保持可能」とされているのではなく「保持する」と限定されている点,⑤液体インク収納容器の発光部からの光の宛先が「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に」とより限定されている点,⑥本件発明1において制御部の動作につき「前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する」とされているのを,「前記 色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とが対応した場合に前記発光部を発光させる」と,より動作を特定している点がそれぞれ異なるものである。

しかしながら,発明の進歩性に係る判断の当否についての事情は本件発明1と異なるものではなく,本件発明1と同様に,引用容器発明に甲第3,21,22号証等で開示された周知技術ないし事項を適用しても,本件発明5の優先日当時,当業者において,本件発明5と引用容器発明の相違点に係る構成を容易に想到し得るものではない。

したがって,本件発明5の容易想到性に係る審決の判断は誤りである。

(4) 本件発明7は,本件発明1とは,①液体インク収納容器(インクタンク)と記録装置(プリンタ)側との接点から発光制御信号が入力される構成が加えられている点,②本件発明1において制御部の動作につき「前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する」とされているのを,「前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に,前記接点からの前記色情報と共に入力される前記発光部の制御に係る信号に基づいて前記発光部の発光を制御する」と,より動作を特定している点がそれぞれ異なるものである。

しかしながら,発明の進歩性に係る判断の当否についての事情は本件発明1と異なるものではなく,本件発明1と同様に,引用容器発明に甲第3,21,22号証等で開示された周知技術ないし事項を適用しても,本件発明7の優先日当時,当業者において,本件発明7と引用容器発明の相違点に係る構成を容易に想到し得るものではない。

したがって,本件発明7の容易想到性に係る審決の判断は誤りである。

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4 本件発明6について



(1) 本件発明6は液体インク収納容器に関する発明であるところ,審決は,本件発明6と引用容器発明2の相違点に係る構成の容易想到性につき,次のとおり説示する(69,70頁)。

・「相違点2について

液体インク収納容器がキャリッジに装着されたときに,液体インク収納容器の接点と記録装置の接点が接続することは,接点の機能からして自明である。

よって,本件発明6の相違点2に係る構成は,接点の当然の作用を表現したものにすぎないから,相違点2は実質的には存在しない。」

・「相違点3について

上記『第7 本件発明3についての当審の判断』のa.で述べたとおり,複数の液体インク収納容器が記録装置のキャリッジの所定位置に搭載される場合において,交換されるべき液体インク収納容器が誤りなく選択されるように,交換すべき液体インク収納容器をユーザにわかりやすく表示するべく引用容器発明2の液体インク収納容器に発光部を設けることは,周知技術に基づいて,当業者が容易になし得る程度のことである。」

・「引用容器発明2の液体インク収納容器に発光部を設ける際に,液体の収納空間を介すると光が液体に吸収されて発光部から受光手段に至る光が弱くなるから,発光部を液体の収納空間を介さないよう液体インク収納容器の外部に設けることは,技術常識に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

甲第10号証に,発光部を液体インク収納容器の内部ではなく外部に固定して配置した構成が記載されていることもこのことを裏付ける。

また,液体インク収納容器2に設けた発光部からの光を受光する受光手段を記録装置に設けることは,上記『第7 本件発明3についての当審の判断』のc.で述べたとおり,周知技術を適用して当業者が容易になし得ることである。

そうした場合,発光部の光が受光手段に投光されるよう発光部を受光手段に対し投光可能位置に固定して配置することは,技術常識に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

以上のことから,引用容器発明2において,本件発明6の相違点3に係る構成を備えることは,周知技術に基づいて,当業者が容易になし得たことである。」

・「相違点4について

引用容器発明2の制御部(記憶装置)は,上記『第7 本件発明3についての当審の判断』のd.で述べたと同様に,検出対象である液体インク収納容器の色情報を発するものであるから,引用容器発明2の液体インク収納容器に発光部を設ける際に,該発光部を利用して受光部が受光できるよう,引用容器発明2の液体インク収納容器の制御部(記憶装置)を,接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する前記色情報と,に応じて発光部を発光させるような制御部とし,引用容器発明2が,本件発明6の相違点4に係る構成を備えるようにすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。」

・「相違点1について

本件発明6は液体インク収納容器の発明である。これに対して,本件発明6の相違点1に係る構成は,液体インク収納容器が搭載される側の記録装置の構成であるから,相違点2は実質的な相違点ではない。

なお,本件発明6の液体インク収納容器が搭載される側の記録装置の構成を,本件発明6の相違点1に係る構成を備えた記録装置とすることが,周知技術に基づいて,当業者が容易になし得た点については,上記『第7 本件発明3についての当審の判断』のc.~e.で述べたのと同様である。」

・「まとめ上記相違点1~4についての検討結果より,本件発明6は,引用容器発明2及び周知の技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」

(2) 本件発明1,3と同様に,本件発明6の液体インク収納容器と甲第3,21,22号証の液体インク収納容器とは,その具体的構成も,液体インク収納容器のインク色を検出ないし判別する原理も大きく異なっており,かつ解決すべき技術的課題の点においても異なっているものである。

そうすると,共通バス接続方式を採用する引用容器発明2に適用するという見地を考慮しても,少なくとも,引用容器発明2に甲第3,21,22号証に記載されている事項ないし周知技術を適用したときに,本件発明6と引用容器発明2との相違点に係る構成を想到する動機付けに欠けるものというべきである。

したがって,その余の点について判断するまでもなく,引用容器発明2に甲第3,21,22号証等で開示された周知技術ないし事項を適用しても,本件発明6の優先日当時,当業者において,本件発明6と引用容器発明の相違点に係る構成を容易に想到し得るものではない。

結局,本件発明6の容易想到性に係る審決の判断は誤りである。

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第6 結論



以上によれば,原告が主張する取消事由は,いずれの本件各発明に関しても理由があるから,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官塩月秀平- 56 -裁判官真辺朋子裁判官田邉実

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Last Update: 2011-02-10 01:00:08 JST

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