2011年3月10日木曜日

特許:【一致点・相違点】【容易想到性】【複数請求ある場合の審理】「解釈」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))





目 次


特許:【一致点・相違点】【容易想到性】【複数請求ある場合の審理】「解釈」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))




知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10121 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月10日 知的財産高等裁判所 

(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))


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【一致点・相違点】【容易想到性】【複数請求ある場合の審理】「解釈」(最高裁判決引用)


(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))





判示


(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))
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第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,本願発明の要旨を下記2とする原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

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3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,要するに,本願発明1は,下記の引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許を受けることができない,というものである。

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4 取消事由

(1) 本願発明の認定の誤り(取消事由1)

(2) 引用発明の認定の誤り(取消事由2)

(3) 本願発明の進歩性に係る判断の誤り(取消事由3)

(4) 審判における審理不尽(取消事由4)

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第4 当裁判所の判断

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1 取消事由1(本願発明の認定の誤り)について



(1) 本願発明を一体的に認定しなかった誤りについて


ア 特許法36条は,特許出願をする者が提出すべき書類の記載事項等について定めるものであるところ,同条2項は,「願書には,明細書,特許請求の範囲,必要な図面及び要約書を添付しなければならない。」と規定し,さらに,同5項は,特許請求の範囲について,「各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」と規定している。


したがって,各請求項には,特許出願人自身が自らの決定に基づいて選択した事項が当該出願により保護を求める発明を特定するための事項として記載されているものであって,各請求項に記載された発明は,それぞれ個別に特定された発明として,審査の対象となることが予定されているのである。

そうすると,特許要件の審査において,そのように各請求項ごとに個別に特定された発明を複数の請求項を一体とした発明として把握し,これを審査の対象とすることは,上記特許法36条の文理に反するものであって,もとより特許法にそのような審査を義務付ける規定もない。しかも,出願人において,そもそも複数の請求項を一体とした発明として審査の対象としたいのであれば,同条5項の規定に従い,複数の請求項に記載していた各構成を一体として,1つの請求項にまとめて記載すれば足りたものである。

以上からすると,本願発明1ないし4は,いずれも納豆製品に係る発明を特定したものであるが,原告が保護を求めようとする発明を「各請求項ごとに」特定したものであるから,技術的にみて相互に関係するものであったとしても,審査に当たり,これらを一体不可分のものとして取り扱うことは許されず,本願発明1について審査を行った手続に誤りはない。

イ なお,本件審決は,別紙審決書において,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の発明について「本願発明1」と,また,同請求項1ないし4の発明を総称して「本願発明」とそれぞれ略称しているが,かかる方法は,その判断内容を正確に伝達する方法として慣用されているところであって,「本願発明1」という用語自体が原告提出の出願書類に記載されていなかったからといって,そのような慣用が否定されるべき理由はない。

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(2) 補正指導を行わなかった点について

ア 特許出願においては,出願人が自らの決定に基づいて,特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを,各請求項ごとに記載しなければならないのであるから,自ら定めた請求項の記載が本来の意図と異なったとしても,それは,出願人の責任によるものというほかはない。

特許法50条は,審査官に対し,特許出願について拒絶理由があれば,出願人に通知し,意見を述べる機会を与えるように求めているから,特許出願について,特許性に係る不備,すなわち拒絶理由がある場合には,これを指摘する義務を負うものというべきであるが,出願人の本来の意図と,請求項の記載との間に齟齬がないことは予定されているものであって,仮に,その間に齟齬があったとしても,それは,前記のとおり,本来,出願人の自己責任において処置されるべき問題であるから,審査官がその間に齟齬があるか否かを調査し,齟齬がある場合に,そのような出願の不備・欠陥を指摘する義務まで負うものではない。

イ 本件出願について,審査官は,拒絶理由通知を発し,本願発明の特許性に係る不備については,これを指摘しているから,特許法により定められた義務を果たしているところ,原告は,その通知に対して意見を述べ,通知された拒絶理由や拒絶査定を解消するため,自らの自由意思及び責任により,補正を行う機会を有していたのである。しかも,本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし4の各記載それ自体は,いずれも特許法及び同法施行規則の定める形式的要件を充足するものであった。

以上からすると,本件出願について,審査官が適切な補正指導を行わなかったとして,その対応を非難する原告の主張は失当というほかない。

なお,原告は,本願明細書の各記載(【0002】【0006】【0010】【0011】【0017】)から,審査官は,発明者の意図と各請求項の記載が合致していないことが理解できたはずであると主張するが,【0002】は,現在の納豆の販売形態について,【0006】は,本願発明の課題解決手段について,【0010】は,本願発明の納豆は,包装形態や原料等に制約がないことについて,【0011】は,納豆と生麹の混ぜ方について,【0017】は,干し昆布の包装について,それぞれ記載したものにすぎず,上記各記載をもって,審査官が「発明者の意図」に気付いたはずであるという原告の主張それ自体が採用し得ないところであって,これをもって,審査官が補正指導を行うべきであったという余地はない。

(3) 小括

以上からすると,本件審決の本願発明の認定には誤りはなく,原告主張の取消事由1は,理由がない。

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2 取消事由2(引用発明の認定の誤り)について

(1) 新聞記事の一部を恣意的に引用している点について
特許法29条2項における進歩性に係る判断において,同条1項3号に定める特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」というためには,特許出願当時の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それをもって足りる。

引用例には,4通りの新ショウガの食べ方が紹介されているところ,その中に,本件審決が認定した「栄養納豆」それ自体が記載されており,また,引用例には,納豆,塩昆布,甘酒コウジとその他の食材を混ぜ合わせることによって「栄養納豆」が完成することが開示されているのであるから,引用例の記載から,引用発明を認定した本件審決の判断に誤りはない。

この点について,原告は,引用例の新聞記事を執筆した記者の意図や,その他の記載を無視して恣意的な引用をすることは,読者に誤解を与えるおそれがあるなどと主張する。

しかしながら,引用発明の認定は,進歩性の有無という特許要件の審査を目的と して,特許発明等の内容との対比に必要な限度においてされるものであるから,原告指摘の執筆記者の意図(ショウガ料理の新しい作り方の紹介,新ショウガの消費拡大という願い)が,引用例により開示されている技術思想とは関係を有さない以上,これを考慮する必要はないし,本願発明とは無関係のショウガ料理に関する記載が存することをもって,引用発明を認定する障害とはならないことも明らかである。また,本件審決においては,進歩性の有無に関する判断に係る本願発明との対比において,引用例の記載から引用発明を認定しているのであるから,記事の一部を引用したことをもって「読者」に誤解を与える余地もない。

原告の主張は採用できない。

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(2) 引用発明は未完成であることについて


先に述べたとおり,進歩性の判断に係る引用発明については,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りるのである。


原告が指摘する最高裁判決は,旧特許法1条の定める工業的発明というためには,当業者が反覆実施してその目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体化され,客観化されたものでなければ,発明としては未完成であると判示するものであり,進歩性の判断に係る引用発明について,判示したものではない。また,「塩昆布」に各種商品が存在し,また,料理の味付けが作り手によって異なることは,引用例の記載から,「昆布」の一種である「塩昆布」をその構成に有する引用発明を認定する障害となるものでもない。

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(3) 発明に係る二重の基準を用いる誤りについて


進歩性の判断に係る引用発明における「発明」の認定が,特許出願当時の技術水準を基礎として,特許出願に係る発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りるというのに対し,特許性の判断における当該出願に係る「発明」の認定が,当業者が反復継続して目的とする技術効果を上げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要するというべきところ,両者における「発明」の認定について,同一の判断基準に拠っていないとしても,認定の目的及び対象が異なる以上,当然というべきであって,これを不合理であるということはできない。

したがって,被告が,同種事案について,特定の出願人に対して異なる基準を適用した場合に平等原則違反となることは格別,原告の主張をもって,被告が二重の基準に基づく不平等な取扱いをしているとはいえないことは明らかである。



(4) 小括


以上からすると,引用例から引用発明を認定した本件審決に,誤りはなく,原告主張の取消事由2は,理由がない。

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3 取消事由3(本願発明の進歩性に係る判断の誤り)について

(1) 一致点の認定の誤りについて

ア 引用例について

引用例(甲4)は,ショウガ料理を紹介する新聞記事であるところ,「栄養納豆」に関する記載を要約すると,以下のとおりである。

(ア) 栄養納豆は,ごはんが進む一品。千切りにした新ショウガとニンジンを甘酒コウジ,納豆,塩昆布と混ぜ合わせる。焼酎,薄口しょうゆ,みりん,白ゴマ,はちみつを加え,さらに混ぜる。一晩置いて,コウジが水分を吸って軟らかくなったら出来上がりである。


(イ) 栄養納豆の材料は,ショウガ60g,甘酒コウジ150g,納豆3パック, ニンジン(中)1本,焼酎1/2カップ,薄口しょうゆ1/2カップ,みりん1/2カップ,塩昆布1袋(120ないし150g),白ゴマ15g,はちみつ少々である。

(ウ) 以上の引用例の記載からすると,引用例には,ショウガ,甘酒コウジ,納豆,ニンジン,焼酎,薄口しょうゆ,みりん,塩昆布,白ゴマ,はちみつを混ぜ合わせることによって得られる栄養納豆に係る技術的知見(引用発明)が開示されているということができる。

イ 「生麹」と「甘酒コウジ」について

本願発明1は,「生麹」をその構成に含んでいるところ,引用発明においては,「甘酒コウジ」が用いられている。

もっとも,本願明細書【0004】において,麹は,米,麦,大豆等にコウジカビ等のカビを生やしたもので,そのカビの作り出す酵素がデンプン,タンパク質をそれぞれ糠やアミノ酸に分解するという特性を利用して,酒類,みそ,しょうゆ等の醸造や漬物,菓子等の製造に用いられるとされており,「生麹」と「甘酒コウジ」は,いずれも「麹」であることは明らか(甲19,乙2)であるから,「麹」を本願発明1と引用発明との一致点とした本件審決の認定に,誤りはない。

この点について,原告は,「生麹」と違い,「甘酒コウジ」は,製造工程の相違により表面が一面のカビ状態となるものであり,しかも,「袋詰めにされた生麹」と「袋詰めにされた甘酒コウジ」とでは,開封時における麹菌の周辺への飛散性という観点から大きく異なるものであるから,本件審決が,「生麹」と「甘酒コウジ」がともに麹の一種であることを一致点と認定したことは誤りであると主張する。しかしながら,本願発明1は,袋詰めにされた状態を構成に含むものではないから,袋詰め状態を前提とする飛散性に係る原告主張は,本願発明1の構成に基づかない主張であるし,本件審決は,本願発明1が「生麹」を,引用発明が「甘酒コウジ」を用いている点について,相違点2として認定しているのであるから,仮に,「生麹」と「甘酒コウジ」に,原告指摘の相違が存するとしても,上記結論を左右するものではない。原告の主張は採用できない。

ウ 「干し昆布」と「塩昆布」について

本願発明1は,「干し昆布」をその構成に含んでいるところ,引用発明においては,「塩昆布」が用いられている。

もっとも,昆布の原藻を素干しした製品を「干し昆布」と,マコンブの肉厚の部分を正方形又は短冊形に切り,しょうゆ,たまり,砂糖,みりんなどを合わせた調味液の中で長時間煮詰め,汁を切って乾燥機にかけ,グルタミン酸ナトリウム,リンゴ酸ナトリウム,食塩などを調合した粉末調味料をまぶしたものを「塩昆布」というところ(乙5),「干し昆布」と「塩昆布」とは,いずれも「昆布」からなるものであることは明らかであるから,「昆布」を本願発明1と引用発明との一致点とした本件審決の認定に,誤りはない。

この点について,原告は,塩昆布は「佃煮」商品であり,原材料状態の「干し昆布」と字面だけを取り上げて同一視することは許されない,塩昆布においては,加工により昆布に染み込ませた味や風味,外観,手触りなどが多種多様に存在することこそ,重視されなければならないなどと主張する。

しかしながら,塩昆布に多種多様な商品が存在し,塩昆布にとって,味や風味が 大切であるからといって,塩昆布が昆布を原料としている事実それ自体はこれに左右されるものではない。原告の主張は,昆布には,干して原材料状態とされた「干し昆布」や,佃煮としての「塩昆布」という複数の状態が存在することを強調するものにすぎず,そのことをもって一致点の認定が誤りということはできない。原告の主張は採用できない。

エ 納豆をベースとする納豆食品である点について

引用例は,ショウガに関する4通りの料理を紹介する新聞記事であるところ,同記事は,引用発明について,「栄養納豆」として紹介しており,本件審決が,「納豆をベースとする納豆食品」を一致点として認定したことに,誤りはない。


この点について,原告は,引用例は,新ショウガを紹介する記事であり,「栄養」とは,「塩昆布」を意味するものである,引用発明は,甘粕コウジ150g,納豆3パック132ないし168g,塩昆布120ないし150g の主材料に,ショウガ,ニンジンのほか,多量の調味料が加えられるのであるから,納豆ベースの料理と解することはできない,引用発明は,納豆に麹と塩昆布を混合させた一体不可分状態の「納豆に麹と昆布を混合させてある納豆食品」というべきであるところ,本願発明は,「袋詰めされた生麹」と「袋詰めされた干し昆布」を,「一つの包装容器である納豆パックに詰め合わせた状態」で,製造・販売する商品であるから,「混合」と「混在」とでは,その意味が全く異なるなどと主張する。

しかしながら,一致点の認定においては,引用例に開示された技術思想として,いかなる発明を認定できるかが重要であって,引用例が「ショウガ」を紹介する意図を有していることや,紹介されている料理の各材料の重量比を過度に重視することは相当ではないし,「栄養」が塩昆布を意味するとの主張の当否はともかくとして,かかる文言によって,一致点の認定が左右されるものではない。納豆の用量が,他の材料と比較して,極端に少ないなどの事情があるのであれば格別,引用発明においては,相当量の納豆が使用されているのであるから,「栄養納豆」との標題どおり,一致点を認定した本件審決の判断に誤りはない。

また,本願発明を,「一つの包装容器である納豆パックに詰め合わせた状態」の製品をいうとする原告の主張は,取消事由1において指摘したとおり,その前提自体が誤りである。原告の主張は採用できない。



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(2) 相違点2に係る判断の誤りについて


ア 本願発明1の「生麹」について

本願明細書(甲2)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。

(ア) 本願発明は,納豆が従来から有する健康維持あるいは促進の効能を一層増強,向上させることができる納豆食品に係る発明である。納豆は,血流をさらさらとさせることが認証されており,優良なタンパク源としても知られている。


他方,麹は,米,麦,大豆等にコウジカビ等のカビを生やしたもので,そのカビの作り出す酵素がデンプン,タンパク質をそれぞれ糠やアミノ酸に分解する特性を利用して,酒類,みそ,しょうゆ等の醸造や漬物,菓子等の製造に用いられている。


本願発明は,納豆の有する健康維持あるいは促進の効能を一層増強,向上させ,納豆をさらに食べやすく,従来にない食感を出す付随効果を得ることができる。

(イ) 本願発明に係る納豆食品は,納豆をベースとし,その納豆に生麹と刻んだ干し昆布を混合させてあることを特徴とする。干し昆布は塩をまぶしたものとし,ほぼ5mm四方に刻んであり,混合の割合は,納豆1に対して生麹をほぼ重量%で3分の1,干し昆布は10枚前後とする。生麹と干し昆布は各々袋詰めされ,納豆パックに添付されており,使用時に開封し,納豆に混合させることを特徴としている。

(ウ) 本願発明に係る納豆食品は,納豆に混合される生麹が作用して,納豆に含有されるデンプン,タンパク質を分解して糖やアミノ酸も生成することになり,単なる納豆よりも吸収力が高められ,血行を増進するうえ,血圧降下にも良好な効果を得ることができる。また,単に生麹を混合するのみでは,生麹特有の臭いが強く,食に適さないが,干し昆布も同時に混合することで,臭いを消すことができるのみならず,独特の昆布の香りが得られ,しょうゆの吸収効果を有するほか,今までにない食感をも得ることができる。塩をまぶした干し昆布を使用すると,食感として非常に好ましい。

(エ) 本願発明に係る納豆食品は,従来の単体の納豆と比較して,一層血行を良好なものとし,その血行の良好性が肌の老化を抑え,美肌を得ることができ,加えて,高血圧の人に対して血圧降下の効果も発揮し,発明者自らは数値として10ないし15の血圧降下を得ることができた。生麹や刻んだ干し昆布は,現在市販されている納豆の包装に対して,ビニール等の袋に適量を詰め,添付した状態で販売されることが望ましく,使用に際しての至便性が向上することとなり,商品としての納豆に大きな付加価値がつけられることともなる。生麹や干し昆布の混合割合は記載した数値に限定されるものではなく,各自の好みに応じて採択でき,また,その他の一般的な刻みネギやシラス干し等の混合を同時に行なうことも可能である。

以上の(ア)ないし(エ)の本願明細書の記載からすると,本願発明1において,生麹は,納豆に含有されるデンプン,タンパク質を分解して糖やアミノ酸を生成することにより,単なる納豆よりも吸収力が高められ,血行を増進し,血圧降下にも良好な効果を及ぼす目的で添加されるものということができる。

イ 麹に関する知見について

また,麹に関する知見として,以下のようなものがある。

(ア) 昭和51年3月発行の総合食品事典第三版(乙2)には,麹の使用目的として,デンプン糖化や大豆のタンパク質分解があること,我が国で一般に用いられているのは黄麹であることが指摘されている。

(イ) 平成10年2月発行の雑誌「食品と開発」に掲載された紅麹の食品素材としての機能と利用と題する論文(乙3)には,紅麹ほどではないが,黄麹に血圧降下作用があることが指摘されている。

(ウ) 平成12年6月発行の雑誌「ニューフードインダストリー」に掲載された紅麹とその効用についてと題する論文(乙4)には,中国から伝来した紅麹には,我が国において,みそ,しょうゆ,清酒等の麹として使用されている黄麹と比較して,強い血圧降下作用が存することが指摘されている。

以上の(ア)ないし(ウ)の各文献の記載からすると,本件出願当時,麹が血圧降下作用を有することは,周知事項であったものということができる。

ウ 「甘酒コウジ」に代えて「生麹」を用いることについて

生麹と,甘酒コウジとは,原告の主張を前提とすると,乾燥状態であるか否かについて相違するにすぎず,原告は,生麹と甘酒コウジが,麹として有する血圧降下作用について,両者に差が存すると主張するものではない。

本件出願当時,麹が血圧降下作用を有することが周知事項であったことからすると,生麹を使用するか,甘酒コウジを使用するかについては,麹を使用する者の要望に応じて適宜選択できる事項にすぎず,引用発明の甘酒コウジを生麹に代えて適用することは,当業者にとって容易に想到し得るものというべきである。

この点について,原告は,カビが表面に目立たず,ぬめりけのない生麹に代えて,表面にカビが覆われている甘酒コウジを使用することはできない,当業者ではない一般消費者である発明者だからこそ,「納豆と麹は決して,一緒に取り扱ってはならない。」というタブーを破り,本願発明を想到することができたものである,本願発明と同様,納豆を主材料とする塩納豆が山形県に存在し,社会的にも認められており,本願発明のように,「1つの包装容器である発泡スチロールなどの納豆パック」に「袋詰めされた生麹」と「袋詰めされた干し昆布」を一緒に入れた商品は, 当業者が容易に想到し得るものではない,机上の空論によって,「誰でも容易に発明できる」などと批判することは容易であるが,本願発明まで,同様の商品は存在していなかったという事実は否定できないなどと主張する。しかしながら,本願明細書には,生麹が「初めからカビが表面に目立たない」状態であることについて記載されておらず,甘酒コウジの表面にカビが目立ち,生麹と比較して食用に適さないことを認めるに足りる証拠もない。また,麹に関する知見(乙2)によると,生麹の形態として「初めからカビが表面に目立たない」ものであることは,本願明細書の記載から自明の事項ということもできず,原告の主張は,本願明細書の記載に基づくものではない。

また,原告が提出したタブーに関する書証は,麹菌及び酵母菌を使用する日本酒の製造において,雑菌である納豆菌の混入を防止することが求められていること(甲30),納豆の製造において,納豆菌以外の菌は,麹菌を含めて雑菌として排除されるべきであること(甲31,32)が開示されているにすぎず,特定の発酵 食品の製造工程において,有用菌のみを取り入れ,他の菌は可能な限り雑菌として製造工程から除外するという,食品製造における当然の管理手法を示したものにすぎない。したがって,食品業界一般において,原告指摘のタブーが存在するわけではなく,実際,引用発明のほか,五斗納豆(粒納豆又はひきわり納豆を麹と食塩を加えて漬け込んだもの。乙11),塩納豆(納豆に米麹,塩,昆布などを加えて製造したもの。甲24∼26)など,納豆と麹とが一緒に取り扱われる例が他に存在するものである。

さらに,進歩性に係る判断においては,当業者が容易に発明をすることができたか否かが検討されるものであって,本願発明の発明者が当業者であるか否かは,進歩性の判断において考慮されるべき事項ではないから,発明者が一般消費者であることを強調し,本件審決の判断の当否を非難することは相当ではない。

なお,本願発明のような一体化した製品は存在しなかった旨の原告主張は,本願発明1の構成を前提としない主張であるし,塩納豆が社会的に認められていたからといって,本願発明1の進歩性を肯定する事情とすることはできない(塩納豆は,納豆に米麹,昆布などを加えて製造するものであるから,むしろ,引用発明と同様,本願発明1の進歩性を否定する事情として指摘されるべきものである。)。原告の主張は採用できない。

エ したがって,乾燥麹である甘酒コウジに代えて,生麹を適用することは,当業者が容易に想到し得ることであるとした本件審決の判断に誤りはない。

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(3) 相違点3に係る判断の誤りについて


ア 本願発明1の「干し昆布」について

前記(2)アの本願明細書の各記載によると,本願発明1において,干し昆布は,生麹特有の臭いを消し,さらに,独特の昆布の香りと今までにない食感を得るために加えられるものということができる。

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イ 昆布に関する知見について

また,昆布に関する知見として,以下のようなものがある。

(ア) 平成4年1月発行の新・食品事典5 野菜・藻類(乙5)には,昆布には血圧降下物質であるラミニンが含まれるほか,アルギン酸,カリウム,ヨウ素,食物繊維などの様々な作用によって,血圧降下作用が発揮されることが記載されている。

(イ) 特開平11−276109号公報(乙6)は,昆布納豆の製造方法及び装置に係る発明に関する文献であるところ,同文献には,昆布片を混合させた納豆は,いわゆる納豆臭が格段に減少すること,健康に良いことなどが指摘されている。

(ウ) 特開昭61−43977号公報(乙7)は,野菜ジュースの消臭方法に係る発明に関する文献であるところ,同文献には,昆布を野菜ジュース中に浸漬させることにより,野菜ジュース特有の臭気を顕著に低下させるのみならず,昆布中に含まれる種々の成分が付加されることにより,栄養学的にも大きな効果が得られることができることなどが記載されている。


(エ) 特開昭61−43963号公報(乙8)は,酵素含有複合製剤の消臭方法に係る発明に関する文献であるところ,同文献には,各種酵素及び水を含む液状の複合酵素製剤中に昆布を浸漬することにより,酵素含有複合製剤の臭気を顕著に低下させるのみならず,昆布中に含まれる種々の成分が付加されることにより,栄養学的にも大きな効果が得られることなどが記載されている。

(オ) 特開平10−165114号公報(乙9)は,フコイダンを添加した食品に係る発明に関する文献であるところ,同文献には,褐藻類(昆布等)の藻体中に存在する特有の成分であるフコイダンには,芳香を損なうことなくいやな臭いを除去する特性や,食味向上活性を有することなどが記載されている。


以上の(ア)ないし(オ)の各文献の記載からすると,本件出願当時,昆布が消臭作用を有することは周知事項であったものということができる。

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ウ 「塩昆布」に代えて「干し昆布」を用いることについて

塩昆布と,干し昆布とは,原告の主張を前提とすると,原材料の状態であるか,佃煮等として加工された状態であるかについて相違する(乙5)にすぎず,原告は,塩昆布と干し昆布が昆布として有する消臭作用について,両者に差が存すると主張するものではない。

本件出願当時,昆布が消臭作用を有することが周知事項であったことからすると,干し昆布を使用するか,塩昆布を使用するかについては,昆布を使用する者の要望に応じて適宜選択できる事項にすぎず,引用発明の塩昆布を干し昆布に代えて適用することは,当業者にとって容易に想到し得るものというべきである。

この点について,原告は,「塩昆布」は,多種多様な商品が存在するものであるし,塩昆布は加工昆布であり,干し昆布は未加工の原材料であるから,干し昆布も塩昆布もともに昆布を主成分とするものであることを理由に,同列に扱う本件審決の判断は不当である,引用発明においては,塩昆布自体を食べることを目的として塩昆布が加えられているが,本願発明においては,干し昆布の有する消臭作用に期待して干し昆布が加えられたものであり,両者には価格差もあるから,かかる使用目的や価格の相違を考慮することなく,塩昆布を干し昆布に換えることが容易であるとすることはできないなどと主張する。

しかしながら,昆布それ自体の有する消臭効果を前提として,昆布の各種形態である塩昆布か干し昆布のいずれかを選択することが,当業者にとって容易である以上,塩昆布について多種多様な商品が存在することは,塩昆布を選択した場合の選択肢が多数存在することを意味するにすぎず,相違点3の構成が容易に想到し得るものであるとの判断を左右するものではない。

また,引用発明において,塩昆布自体を食べることを目的として加えられたものであるか否かは不明であるが,仮に原告主張のとおりであったとしても,引用発明の塩昆布に代えて,干し昆布を選択すること自体が阻害されるものということもできない。価格差についても同様である。原告の主張は採用できない。

エ したがって,塩昆布に代えて,干し昆布を適用することは,当業者が容易に想到し得ることであるとした本件審決の判断に誤りはない。


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(4) 格別顕著な効果を要求した誤りについて

ア 本件審決は,相違点1は実質的な相違点とはならず,相違点2及び3についても,当業者が容易に想到し得るものということができるから,本願発明1の構成自体は,当業者が容易に想到し得るものであるとした上で,引き続き,本願発明1に,格別顕著な効果を認めることができるかについて検討しているものである。


したがって,本件審決は,本願発明1について,進歩性を肯定する要件として,その構成が容易に想到し得るものであるか否かに関わらず,格別顕著な効果を奏することを求めているものではない。

イ 本願明細書には,本願発明1の効果として,従来の単体の納豆と比較して,一層血行を良好なものとし,その血行の良好性が肌の老化を抑え,美肌を得ることができ,加えて,高血圧の人に対して血圧降下の効果も発揮し,発明者自らは数値として10ないし15の血圧降下を得ることができたなどと記載している。

もっとも,本願明細書には,血圧降下作用について,いかなる条件で測定し,効果を特定したかについて全く開示されておらず,その他の作用についても,抽象的な記載がされるのみで,それを裏付けるに足りる記載はない。発明者の陳述書(甲27)には,自宅において食事の内容を同一に設定し,さらに,生活リズム,生活荷重を極力近い環境にして,納豆を全く食べない場合,市販の納豆のみを食事に加えた場合,本願発明に係る納豆を加えた場合の血圧値測定を1年間実施した旨の記載があるが,かかる測定方法により,血圧降下作用が客観的に裏付けられるものではないことは明らかである。

しかも,本願明細書に記載されたその他の各作用については,納豆,麹,昆布自体,血圧降下作用,健康増進作用,血栓溶解作用や,血行促進作用に伴う美肌作用(甲24,26,乙2ないし13)を有するものであって,本願発明1が,それ以上の格別な相乗効果を奏していること等については,これを認めるに足りる証拠はない。したがって,本願明細書記載の本願発明1の効果をもって,本願発明1に格別顕著な効果が存在するものとして,進歩性を認めることもできない。

ウ なお,原告は,市販の商品(甲29)の血圧降下作用と比較して,本願発明の血圧降下作用はさらに優れたものであるなどとも主張するが,本願発明の血圧降下作用が実際に発現したことについて,本願明細書にこれを裏付ける記載がない以上,原告の主張は採用することができない。

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(5) 小括

以上からすると,本願発明1は,当業者が引用発明に基づいて容易に想到し得るものとした本件審決の判断に,誤りはなく,原告主張の取消事由3は,理由がない。

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4 取消事由4(審判における審理不尽)について


(1) 取消事由1において先に述べたとおり,本件出願の特許請求の範囲には4個の請求項が記載されており,これらの請求項1ないし4は,個別に記載されたものであるから,本件出願については,請求項1に係る発明の特許性の存否についてまず検討したことについて,本件審決に誤りはない。

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(2) 特許法は,1つの特許出願に対し,1つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて1つの特許が付与され,1つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。そして,このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成19年(行ヒ)第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)ということができる。

本件においては,前記3のとおり,請求項1に係る本願発明1が特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである以上,特許庁がその余の請求項に係る発明について検討しなかったとしても,本件出願全体として拒絶を免れないものであったといわざるを得ないから,本件審決が,審判請求不成立の判断をした点に,結論に影響を及ぼすべき違法はない。

この点について,原告は,本願発明を一体的に把握せず,本願発明1のみを審理した本件審決は,少なくとも本願発明2ないし4について全く審理をしていない,特許出願する対象が大掛かりなものである場合,請求項の数字が大きくなるに従い,全体の実態が明確になる説明がされることが通常であるから,特許にすることができない請求項が1個でも存在するときは,その特許出願について拒絶査定をするという取扱いによると,あたかも新聞記事に掲載された土蔵の発明に基づいて姫路城を造る工法全体が拒絶されるという不当な結果となるなどと主張する。

しかしながら,取消事由1において先に述べたとおり,本願発明の請求項1ないし3は,請求項4と一体であるとする原告主張は,その前提自体が誤りである。

また,特許出願においては,出願人自らの責任と選択に基づいて,特許請求の範囲の請求項について記載することができ,また,特許出願の分割や補正等によって,出願全体を拒絶されることによる不利益を免れる手段を有しているのであるから,上記取扱いが,格別不当であるということもできない。

(3) 小括

以上からすると,本件審決が,本願発明2ないし4について審理をすることなく,審判請求不成立の判断をした点に,結論に影響を及ぼすべき違法はなく,原告主張の取消事由4も,理由がない。

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5 結論

以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣



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(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

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【「複数の請求項を一体とした発明として把握し,これを審査の対象とすること」の可否】「解釈」


「特許法36条は,特許出願をする者が提出すべき書類の記載事項等について定めるものであるところ,同条2項は,「願書には,明細書,特許請求の範囲,必要な図面及び要約書を添付しなければならない。」と規定し,さらに,同5項は,特許請求の範囲について,「各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」と規定している。

 したがって,各請求項には,特許出願人自身が自らの決定に基づいて選択した事項が当該出願により保護を求める発明を特定するための事項として記載されているものであって,各請求項に記載された発明は,それぞれ個別に特定された発明として,審査の対象となることが予定されているのである。

 そうすると,特許要件の審査において,そのように各請求項ごとに個別に特定された発明を複数の請求項を一体とした発明として把握し,これを審査の対象とすることは,上記特許法36条の文理に反するものであって,もとより特許法にそのような審査を義務付ける規定もない。しかも,出願人において,そもそも複数の請求項を一体とした発明として審査の対象としたいのであれば,同条5項の規定に従い,複数の請求項に記載していた各構成を一体として,1つの請求項にまとめて記載すれば足りたものである。」 (知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

【あてはめ】

以上からすると,本願発明1ないし4は,いずれも納豆製品に係る発明を特定したものであるが,原告が保護を求めようとする発明を「各請求項ごとに」特定したものであるから,技術的にみて相互に関係するものであったとしても,審査に当たり,これらを一体不可分のものとして取り扱うことは許されず,本願発明1について審査を行った手続に誤りはない。


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【審査官の補正指導の義務】「解釈」

「特許出願においては,出願人が自らの決定に基づいて,特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを,各請求項ごとに記載しなければならないのであるから,自ら定めた請求項の記載が本来の意図と異なったとしても,それは,出願人の責任によるものというほかはない。

 特許法50条は,審査官に対し,特許出願について拒絶理由があれば,出願人に通知し,意見を述べる機会を与えるように求めているから,特許出願について,特許性に係る不備,すなわち拒絶理由がある場合には,これを指摘する義務を負うものというべきであるが,出願人の本来の意図と,請求項の記載との間に齟齬がないことは予定されているものであって,仮に,その間に齟齬があったとしても,それは,前記のとおり,本来,出願人の自己責任において処置されるべき問題であるから,審査官がその間に齟齬があるか否かを調査し,齟齬がある場合に,そのような出願の不備・欠陥を指摘する義務まで負うものではない。」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

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【「特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」」】「解釈」

「特許法29条2項における進歩性に係る判断において,同条1項3号に定める特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」というためには,特許出願当時の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それをもって足りる。」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

【あてはめ】

引用例には,4通りの新ショウガの食べ方が紹介されているところ,その中に,本件審決が認定した「栄養納豆」それ自体が記載されており,また,引用例には,納豆,塩昆布,甘酒コウジとその他の食材を混ぜ合わせることによって「栄養納豆」が完成することが開示されているのであるから,引用例の記載から,引用発明を認定した本件審決の判断に誤りはない。

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【進歩性判断にかかる引用発明の記載の程度】「解釈」

「進歩性の判断に係る引用発明については,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りるのである。」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

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【「発明に係る二重の基準を用いる」ことの可否「解釈」

「進歩性の判断に係る引用発明における「発明」の認定が,特許出願当時の技術水準を基礎として,特許出願に係る発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りるというのに対し,特許性の判断における当該出願に係る「発明」の認定が,当業者が反復継続して目的とする技術効果を上げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要するというべきところ,両者における「発明」の認定について,同一の判断基準に拠っていないとしても,認定の目的及び対象が異なる以上,当然というべきであって,これを不合理であるということはできない。 」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

【あてはめ】

したがって,被告が,同種事案について,特定の出願人に対して異なる基準を適用した場合に平等原則違反となることは格別,原告の主張をもって,被告が二重の基準に基づく不平等な取扱いをしているとはいえないことは明らかである。

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【一致点の認定】「解釈」


「一致点の認定においては,引用例に開示された技術思想として,いかなる発明を認定できるかが重要」である(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))。


【あてはめ】
引用例が「ショウガ」を紹介する意図を有していることや,紹介されている料理の各材料の重量比を過度に重視することは相当ではない

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【「発明者が当業者であるか否か」の進歩性判断の影響「解釈」

「さらに,進歩性に係る判断においては,当業者が容易に発明をすることができたか否かが検討されるものであって,本願発明の発明者が当業者であるか否かは,進歩性の判断において考慮されるべき事項ではないから,発明者が一般消費者であることを強調し,本件審決の判断の当否を非難することは相当ではない。」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

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【複数請求項あるばあいの審理】「解釈」(最高裁判決引用)


「特許法は,1つの特許出願に対し,1つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて1つの特許が付与され,1つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。そして,このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成19年(行ヒ)第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)ということができる。」 (知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

「本件においては,前記3のとおり,請求項1に係る本願発明1が特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである以上,特許庁がその余の請求項に係る発明について検討しなかったとしても,本件出願全体として拒絶を免れないものであったといわざるを得ないから,本件審決が,審判請求不成立の判断をした点に,結論に影響を及ぼすべき違法はない。 」(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10121号審決取消請求事件))

【あてはめ】

したがって,「本件出願の特許請求の範囲には4個の請求項が記載されており,これらの請求項1ないし4は,個別に記載されたものであるから,本件出願については,請求項1に係る発明の特許性の存否についてまず検討したことについて,本件審決に誤りはない。」とした前記知財高裁と同じく,その判断に何ら誤りはない。
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H230315現在のコメント


「容易想到性」に関して,かなり細かく基本の要件論,解釈を述べています。

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Last Update: 2011-03-15 10:04:55 JST

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