2011年3月10日木曜日

特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10170号 審決取消請求事件))






特許:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10170号 審決取消請求事件))






知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10170 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月10日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10170号 審決取消請求事件))

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【容易想到性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10170号 審決取消請求事件))

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縮小版なし・判示


(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10170号 審決取消請求事件))
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第4 当裁判所の判断

1 本件補正発明について
(1) 本願明細書の記載


4 引用発明1に引用発明2及び3を組み合わせることについて
(1) 本件優先日当時,遺伝子治療は,遺伝病に対する原因療法として有力な手
段であり,かつ,成功治験例が存在することは周知であったところ,引用例1には,
遺伝病の一種であるLPL欠損による家族性高カイロミクロン血症症候群について,
遺伝子治療の可能性が示唆されているのであるから,引用例1に接した当業者は,
当然,かかる疾患について遺伝子治療を試みるものということができる。
そして,家族性高カイロミクロン血症症候群の原因であるLPLをコードする核
酸配列も,本件審決が指摘するとおり,引用例1において参照文献として記載され
た甲20文献や,昭和62年(1987年)登録のデータベース(甲21)に収録
されていること,引用例2には,ADA欠損症の遺伝子治療のために,欠陥レトロ
ウイルスベクターを使用する方法に関する知見が,引用例3には,遺伝子を体内に
送達する方法における遺伝子治療のために,複製欠陥アデノウイルスを使用し,目
的とする遺伝子(β−gal)を体細胞に導入する方法に関する知見がそれぞれ開
示されていること,欠陥レトロウイルスや欠陥アデノウイルスを使用して,目的と
する遺伝子を体細胞に導入する方法も公知技術であったことからすると,引用例1
に接した当業者が,家族性高カイロミクロン血症症候群の遺伝子治療の実現のため
に,引用例2及び3により開示された知見を組み合わせて,相違点の構成,すなわ
ち「リポタンパク質リパーゼ(LPL)をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組
換えウイルス」の創製を着想し,具体化に向けた努力を行うことは,当業者におけ
る通常の創作能力の発現というべきである。
したがって,本件補正発明は,引用例1ないし3に基づいて,当業者が容易に想
到し得るものということができる。
(2) この点について,原告は,引用例1は,遺伝子治療に関する将来の可能性
を示唆するにとどまり,本件優先日当時,LPL欠損症の遺伝子治療は時期尚早と

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されていたのであるから,引用例1の記載からは,LPL遺伝子を遺伝子治療に用
いようとすることを動機付けられるものではない,本件優先日当時,遺伝子治療は
予測できない分野であり,いかなる遺伝子治療による処置が有効であるのか等につ
いては予測困難であった,本件優先日当時,種々の疾患の遺伝子治療が仮定されて
はいたが,本件補正発明を基礎として開発された本件製品のように実際に成功する
ことは画期的であった,本願明細書の実施例7は,本件補正発明の遺伝子治療の効
果が実際に確認されたことを実質的に示すものであるところ,従来技術からは,本
件補正発明に係る欠陥組換えウイルスを使用した遺伝子治療が成功するという効果
は予測できないなどと主張する。
しかしながら,確かに引用例1の文言自体は,「未来の遺伝子治療の可能性の基
礎を与えるであろう」とするにとどまるもので,短期間において遺伝子治療に係る
技術が確立することが期待できないかのように解する余地はあるものの,先に指摘
したとおり,本件優先日当時,欠陥組換えウイルスを用いた遺伝子治療の研究が進
められており,一部の遺伝病(血友病B,家族性高コレステロール血症,ADA欠
損症)においては,人間を対象にした成功治験例が報告されていたのであるから,
かかる技術水準を前提とすると,引用例1に接した当業者が,上記文言から,将来
における実現に係るLPL遺伝子を使用した遺伝子治療の実現可能性を期待するも
のということができるから,引用例1の上記文言自体は,LPL遺伝子を遺伝子治
療に用いることの阻害要因となるものではない。
同様に,本件優先日当時,遺伝子治療による有力な対象として遺伝病が指摘され
ており,人間に対する成功治験例が複数報告されていた以上,引用例1において治
療の可能性が指摘されているLPL欠損による家族性高カイロミクロン血症症候群
は遺伝病の一種であることから,いかなる遺伝子治療による処置が有効であるのか
等については予測困難であったものということはできない。
また,本件補正発明は,欠陥組換えウイルスに係る発明であるところ,本願明細
書の実施例7においては,同ウイルスの使用例として,同ウイルスをマウスに注射

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する方法が記載されてはいるが,実施例7には,LPLの活性型の発現については,
実施例5に記載の条件において確認することができる旨が記載されているにすぎず,
マウスの体内で目的とする遺伝子が発現したか否かすら,明らかではない。したが
って,同ウイルスを人間に用いた場合に治療効果が発揮されるか否かについても,
当然不明であるから,同実施例において,本件補正発明の遺伝子治療の効果が実際
に確認されたことを実質的に示すものであるということもできない。本件補正発明
に係る欠陥組換えウイルスは,先に述べたとおり,本願明細書において,その製造
方法及び使用方法については開示されているものの,当該ウイルスを具体的に製造
できたこと及び当該ウイルスが遺伝子治療に使用するウイルスベクターとして有用
であることを示す具体的な結果も記載されていない以上,本件補正発明は,LPL
が関与する疾患の遺伝子治療のウイルスベクターとして使用するために,自己複製
できないように改変されたウイルスにLPLをコードする核酸配列を導入するとい
う着想を示したにすぎないものであって,同発明が,従来技術からは予測不可能な
効果を有するものであるということもできない。
なお,本件製品については,その詳細が明らかではなく,本件補正発明の実施品
であるか否か自体,不明であるし,本件各文献についても,本件補正発明との関連
性は不明である。しかも,本願明細書には,特定の有効な効果を発揮する欠陥組換
えウイルスが具体的に製造されたことに関する記載がない以上,本件製品は,本件
優先日後に判明した特定の欠陥組換えウイルスが存在する可能性をうかがわせるも
のにすぎない。したがって,本件優先日後の研究開発によって製品化が実現し,ま
た,本件優先日後の文献に,欠陥組換えウイルスに関連する記載があったとしても,
そのことをもって,直ちに本件補正発明が顕著な効果を有していることが裏付けら
れるものではない。原告の主張は採用できない。
5 本件審決の当否について
(1) 以上のとおり,本件補正発明は,引用発明1ないし3に基づいて,当業者
が容易に想到し得るものというべきである。




H230315現在のコメント



(知財高裁平成23年3月10日判決(平成22年(行ケ)第10170号 審決取消請求事件))

容易想到性に関する事実認定判決です。

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Last Update: 2011-03-15 10:28:01 JST

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