2011年3月15日火曜日

著作権:【職務著作性】「事実認定」,【「プログラム言語のちがい」による著作物性】「判断」:(知財高裁平成23年3月15日判決(平成20年(ネ)第10064号著作権確認等請求控訴事件))






著作権:【職務著作性】「事実認定」,【「プログラム言語のちがい」による著作物性】「判断」:(知財高裁平成23年3月15日判決(平成20年(ネ)第10064号著作権確認等請求控訴事件))





知的財産高等裁判所第2部「塩月秀平コート」


平成20(ネ)10064 著作権確認等請求控訴事件 実用新案権 民事訴訟
平成23年03月15日 知的財産高等裁判所 

(知財高裁平成23年3月15日判決(平成20年(ネ)第10064号著作権確認等請求控訴事件))

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【職務著作性】「事実認定」,【「プログラム言語のちがい」による著作物性】「判断」


(知財高裁平成23年3月15日判決(平成20年(ネ)第10064号著作権確認等請求控訴事件))



判示


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第2 事案の概要


原判決別紙著作権目録記載の「船舶情報管理システム (本」件システム)を開発作成し,その著作権を有すると主張する控訴人(原告)は,元の勤務先である被控訴人(被告)が同システムを使用しているとして,被控訴人に対し,①本件システムについて,控訴人が著作権を有することの確認を求めるとともに,②控訴人による開発寄与分の確認を求めた。


原判決は,本件システムはプログラムの著作物であるが,仮に同システムが控訴人の著作に係るものと認めるとしても,著作権法15条2項の職務著作に該当するとして,その著作権を有することの確認請求を棄却するとともに,本件システムについての開発寄与分がどれほどの割合かの確認を求める請求については,訴えの利益がないとして,その訴えを却下した。

控訴審では,①の請求については,控訴人が単独で著作権を有することの確認を主位的請求とし,予備的に,被控訴人又は信友株式会社(信友)及び中国塗料技研株式会社(中国塗料技研)と共同で著作権を有することの確認を請求した。

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第4 当裁判所の判断


控訴人が本件システムについてその著作権の確認を求める請求に関する判断は,次のとおり加えるほかは,原判決28頁22行目以下の「2本件システムの著作物性について」及び30頁9行目以下の「3 本件システムは職務著作に係る著作物であるかについて」記載のと(おり ただし,原判決30頁15行目「冒頭の の」は 「ある,」と訂正する )であり。,本件システムは,職務著作(著作権法15条2項)に該当し,その著作者は信友又は中国塗料技研であると認められるから,控訴人が作成した部分があるとしても,その著作権を有するものではない。

(1)

控訴人は,昭和60年から控訴人が退職する平成5年1月末まで,被控訴人が控訴人に対して,本件システムについて何らの開発指示・命令を行うことなく,同システムは,控訴人が一人で考えてアイデアを具現化して作られたものであるから 「法人等の発意」はなかった旨主張する。

そこで検討するに,証拠(甲135,136,153,乙4∼6。枝番号の書証を含む。証人A,控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア被控訴人においては,昭和61年2月に,信友に出向中の控訴人が起案した「海運をとりまく環境が悪化しておりますが,限られた船舶用塗料を1隻でも多く獲注するため,就航中の船舶を徹底的にフォローし,船舶情報をコンピューターに入力して,当社及び他社の使用状況,塗装仕様及び実績,次回入渠成績予定などを把握して営業戦略の一助とすべく情報管理システムを計画しております。本システム業務を下記要領にて信友(株)に一括委託いたしたく稟請申しあげます 」と。の稟議書に基づいて稟議がなされ,信友との間で5年間にわたる総額4575万円のリース契約を締結し,信友に対して当該リース物件購入のための金員3500万円を貸し付けることを含めて,代表取締役Bの決裁により,上記船舶情報管理システム業務を信友に委託することが承認された。


その後,信友では,昭和61年8月 に「新,造船受注情報システム計画案」が策定され,昭和61年9月には,プログラム作成の外注先として選定された田中電機の見積りに基づいて,上記船舶情報管理システムのプログラムの追加が同様に稟議され,信友との間で5年間にわたる総額165万6000円のリース契約の締結が決裁された。さらに,昭和63年6月に,上記田中電機の見積りに基づいて,上記船舶情報管理システムの端末機1台及びソフトの追加が同様に稟議され,信友との間で5年間にわたる総額146万1000円のリース契約の締結が決裁された。


田中電機に対する本件システムのプログラム作成等の費用は,昭和60年以降,控訴人の信友在職中は同社から,平成4年6月に控訴人が中国塗料技研に代表取締役として出向してからは同社から,それぞれ支払われており,田中電機ではそれに基づいて本件システムに係るプログラム作成等が進められた。

(2)

以上の認定事実及び原判決の認定事実(原判決30頁14行目∼32頁6行目)によれば,船舶情報管理システムである本件システムは,被控訴人の社内稟議を経ての代表者の決裁という明確な発意に基づいて開発が開始され,被控訴人が全額出資する完全子会社である信友に対して,当該開発業務の委託と必要に応じての資金援助が行われるとともに,追加のプログラムのリース契約等も締結されたものであり,信友においても 「新,造船受注情報システム」が会社としての事業計画とされていたのであるから,本件システムの作成は,法人としての信友の発意に基づくものであると認められる。また,信友と同様に被控訴人が全額出資する完全子会社である中国塗料技研についても,被控訴人と業務運営上一体的な立場に立つ法人であって,平成4年6月に本件システムの開発に従事していた控訴人が同社に代表取締役として出向した際も,船舶情報管理システムの開発業務が同社に移管され,田中電機に対して本件システムのプログラム作成のための支払を行っているのであるから,その後の本件システムの作成は,法人としての中国塗料技研の発意に基づくものと認められる。

以上のとおり,本件システムの開発が,控訴人が在籍中の出向元である被控訴人の指示により開始され,被控訴人の完全子会社である信友及び中国塗料技研がその意向を受けて法人として本件システムの開発を発意しているのであるから,両社において当該開発業務に従事する控訴人が,その職務上作成した本件システムのプログラムの著作者は,その作成時における契約や勤務規則等の別段の定めがない限り,法人である信友又は中国塗料技研となるものと認められ(著作権法15条2項 ,)上記別段の定めについての主張立証はないのであるから,結局,本件システムのプログラムの著作者は,信友又は中国塗料技研,あるいはその双方であると認めるべきである。

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(3)

控訴人は,本件システムを一人で考えてアイデアを具現化して作成したから著作者であると主張し,田中電機に外注を行うに当たり,コンピュータ画面設計やカーソル操作,ファンクションキーらの設定,入力方法などについて,詳細な指示を行っていた旨を強調する。

しかし,そのような事実が認められるとしても,控訴人による上記の指示が,信友又は中国塗料技研の業務に従事する者の立場で(控訴人が,本件システムのプログラムの開発中,被控訴人から出向して信友又は中国塗料技研の業務に従事し,給与の支払を受けていたことは,当事者間に争いがない。),職務上行われたものである以上,控訴人が個人として当該システムのプログラムの著作物の著作者となるものでないことは,条文上明らかであるから,控訴人の上記主張を採用することはできない。

また,控訴人は 「, 法人等の発意」というためには,雇用者の被雇用者に対する命令でなければならず,雇用者は命令が忠実に実行されているか確認を常に怠っていてはならないにもかかわらず,被控訴人は,本件システムについて一切の命令もせず,控訴人に任せきりにしていたから,被控訴人の「法人等の発意」が存在したとはいえないと主張する。


しかし,前示のとおり,本件システムの開発が被控訴人の指示により開始され,被控訴人の完全子会社である信友及び中国塗料技研がその意向を受けて同システムの開発を発意している以上,その後の開発過程において,被控訴人や信友又は中国塗料技研からプログラム作成についての具体的な指示等がなされなかったとしても,また,控訴人主張の確認が継続していなかったとしても,当該各法人による発意の存在が左右されるものではない(なお,被控訴人から信友に対して,本件システムのプログラム作成のための資金援助がなされたこと,信友及び中国塗料技研が田中電機に本件システムのプログラム作成のための支払を行い,これに基づいて本件システムのプログラム開発が進められたことは,前記認定び原判決認定(31頁12行目∼15行目)のとおりである。。したが)って,控訴人の上記主張を採用することはできない。

(4)

以上のとおり,本件システムについては,控訴人が作成した部分があるとしても職務著作が成立し,控訴人が共同著作権も含め著作権を有するものではないから,その著作権の確認を求める請求は,主位的請求及び予備的請求のいずれについても理由がないものといわなければならない。


  • 11 -




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なお,本件システムと,被控訴人において稼動していた「船舶情報管理システム」との関係について判断する。

(1)

控訴人は,現在,被控訴人において稼働している船舶情報を管理する船舶情報管理システムについての判断を求める。その趣旨は,同システムが,本件システムを移植したものであって,実質的に同一のものであるから,控訴人の著作物であるというものである。

そこで検討するに,証拠(甲16,23∼37,132,133,136,138,143∼145,153,乙5∼34。枝番号の書証を含む。証人A)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


船舶情報管理のための本件システムは,昭和60年から平成5年にかけて,控訴人が作成したシステム仕様書や画面仕様書などの発注仕様書に基づいて,IBMの代理店である田中電機においてそのプログラムの開発作業が進められて作成されたものであり,一応完成された部分についても,被控訴人に納品されて稼働確認等がなされ,その結果に応じてプログラムの修正が行われた。本件システムは,控訴人の退職後に完成され,信友からのリースを受ける形態により被控訴人において使用され,その間,新造船又は修繕船の履歴に関するデータが集積された。

本件システムのプログラムは,その構成内容が明らかでなく,サーバ側のプログラムと端末側のプログラムの切り分けやプログラム言語もほとんど不明であるが,IBM社のオフィスコンピュータ S/36 又は AS/400 専用に開発されたものであり,同社製のコンピュータ上で動作するデータベース管理プログラムである Query/36が用いられている。

イ被控訴人は,営業規模の拡大などに対応するため,新たな船舶情報管理システムの開発を企画し,平成8年9月,NECに1982万6985円で同システムの開発を発注し,平成9年3月と6月に同社又はNECソフトウェア中国により船舶情報管理システム(NECシステム)が納品され,それ以降,NECシステムを使用していた。NECシステムの作成に際しては,本件システムが参考とされ,集積された新造船又は修繕船の履歴に関するデータが移管された。また,被控訴人は,平成10年7月,田中電機との間で締結していた本件システムの稼働のためのIBM機器の保守点検契約を終了した。

NECシステムのプログラムは,オペレーティングシステム(OS)であるマイクロソフトの Windows95 及びその上で動作するデータベース管理プログラムであるマイクロソフトの Access を用いることを前提として,Visual Basic 又は VisualBasic for Application を用いて作成されたものである。


NECシステムは,OS 等が旧式化して使用上の不都合が増大したため,被控訴人の内部においても徐々に利用されなくなり,被控訴人は,新たにウェブ配下で稼働する船舶情報管理システムの作成を富士通株式会社に依頼し,そのシステムが完成,稼働したことから,平成22年8月に,NECシステムを廃棄した。

(2)

以上の認定事実及び原判決の認定事実(原判決28頁24行目∼30頁8行目)によれば,本件システムとNECシステムとは,ともに新造船又は修繕船の履歴に関する情報管理システムであり,当該情報の入力及び出力の機能等に共通する点があるとしても 例えば ,NEC,システムが Visual,Basic 又は Visual Basicfor Application により,表示された船舶画面上でマウスによるカーソル移動によって指示を受けて塗装部位等に関する情報を入力させるような画面を提供するのに対し,本件システムで用いられるデータベース管理プログラムである Query/36 に対してそのような画面入力を行うことは困難であるから,プログラムの表現において両者が異なることは当然であり,両者がプログラム著作物として同一又は実質的に同一といえないことは明らかである(なお,控訴人は,NECシステムが本件システムを翻案(著作権法27条)した著作物である旨を主張立証するものでないことを明言している。。)

(3) 控訴人は,本件システムのうち,マスター類,船舶基本情報,塗装実績,塗装仕様発行システム,新造船受注システムなどは,控訴人が退職する平成5年1月末までには膨大なデータ量になっていた上,同期日までに控訴人が開発した成績管理システム,修繕船管理システム,店所別,造船所別入渠予定,建造予定線表などにも,毎日膨大な船舶塗料に関するデータが入力・出力されたはずであり,蓄積されたデータを被控訴人が廃棄することはあり得ないことを根拠に,NECシステムが本件システムと実質的に同一であると主張する。

確かに,前記認定のとおり,本件システムは,被控訴人において使用され,その間,新造船又は修繕船の履歴に関するデータが集積されており,当該データはNECシステムの作成に際して同システムに移管されたものと認められる。また,NECシステムの作成に際して,本件システムの機能や構成等が参考とされたものと推測するのが自然である。しかし,新造船又は修繕船の履歴に関して集積されたデータが移管されたり,システムの機能や構成等が参考とされたことと,プログラム著作物としての表現自体の同一性とは別問題であり,プログラム著作物としての表現が同一又は実質的に同一といえないことは,前記説示のとおりであるから,控訴人の主張を採用することはできない(なお,控訴人は,本件システムがデータベースの著作物(著作権法12条の2)である旨を主張立証するものではない。。)

(4)
以上のとおりであるから,被控訴人において使用されていたNECシス
テムについて,本件システムと著作物として同一又は実質的に同一であることを根
拠に,本件システムと一体のものとしてその著作権を有することの確認を求める請
求は,その前提において理由がないものといわなければならない。

控訴人が本件システムに対する開発寄与分がどれほどの割合かの確認を求める訴えについて判断するに,この割合自体が現在の権利又は法律関係となるものではなく,単なる事実関係の範疇に属するものであり,その事実関係から直截に現在の権利又は法律関係が導かれ,紛争を抜本的に解決するような事実関係ということもできないので,この訴えは,確認の利益を欠くものといわなければならない。

よって,上記訴えは,不適法であって却下を免れない。

第5

結論


  • 14 -



以上によれば,控訴人の著作権の確認を求める主位的請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当であり,また,本件システムについての開発寄与分の割合の確認を求める請求は訴えの利益がなく,これを却下した原判決は相当であるから,本件控訴は理由がないのでこれを棄却する。併せて,当審における予備的請求も理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平



縮小版


(知財高裁平成23年3月15日判決(平成20年(ネ)第10064号著作権確認等請求控訴事件))



【プログラム言語のちがい】「判断」


「あてはめ」例

控訴人は,現在,被控訴人において稼働している船舶情報を管理する船舶情報管理システムについての判断を求める。その趣旨は,同システムが,本件システムを移植したものであって,実質的に同一のものであるから,控訴人の著作物であるというものである。

そこで検討するに,証拠(甲16,23∼37,132,133,136,138,143∼145,153,乙5∼34。枝番号の書証を含む。証人A)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


船舶情報管理のための本件システムは,昭和60年から平成5年にかけて,控訴人が作成したシステム仕様書や画面仕様書などの発注仕様書に基づいて,IBMの代理店である田中電機においてそのプログラムの開発作業が進められて作成されたものであり,一応完成された部分についても,被控訴人に納品されて稼働確認等がなされ,その結果に応じてプログラムの修正が行われた。本件システムは,控訴人の退職後に完成され,信友からのリースを受ける形態により被控訴人において使用され,その間,新造船又は修繕船の履歴に関するデータが集積された。

本件システムのプログラムは,その構成内容が明らかでなく,サーバ側のプログラムと端末側のプログラムの切り分けやプログラム言語もほとんど不明であるが,IBM社のオフィスコンピュータ S/36 又は AS/400 専用に開発されたものであり,同社製のコンピュータ上で動作するデータベース管理プログラムである Query/36が用いられている。

イ被控訴人は,営業規模の拡大などに対応するため,新たな船舶情報管理システムの開発を企画し,平成8年9月,NECに1982万6985円で同システムの開発を発注し,平成9年3月と6月に同社又はNECソフトウェア中国により船舶情報管理システム(NECシステム)が納品され,それ以降,NECシステムを使用していた。NECシステムの作成に際しては,本件システムが参考とされ,集積された新造船又は修繕船の履歴に関するデータが移管された。また,被控訴人は,平成10年7月,田中電機との間で締結していた本件システムの稼働のためのIBM機器の保守点検契約を終了した。

NECシステムのプログラムは,オペレーティングシステム(OS)であるマイクロソフトの Windows95 及びその上で動作するデータベース管理プログラムであるマイクロソフトの Access を用いることを前提として,Visual Basic 又は VisualBasic for Application を用いて作成されたものである。


NECシステムは,OS 等が旧式化して使用上の不都合が増大したため,被控訴人の内部においても徐々に利用されなくなり,被控訴人は,新たにウェブ配下で稼働する船舶情報管理システムの作成を富士通株式会社に依頼し,そのシステムが完成,稼働したことから,平成22年8月に,NECシステムを廃棄した。

(2)

以上の認定事実及び原判決の認定事実(原判決28頁24行目∼30頁8行目)によれば,本件システムとNECシステムとは,ともに新造船又は修繕船の履歴に関する情報管理システムであり,当該情報の入力及び出力の機能等に共通する点があるとしても 例えば ,NEC,システムが Visual,Basic 又は Visual Basicfor Application により,表示された船舶画面上でマウスによるカーソル移動によって指示を受けて塗装部位等に関する情報を入力させるような画面を提供するのに対し,本件システムで用いられるデータベース管理プログラムである Query/36 に対してそのような画面入力を行うことは困難であるから,プログラムの表現において両者が異なることは当然であり,両者がプログラム著作物として同一又は実質的に同一といえないことは明らかである(なお,控訴人は,NECシステムが本件システムを翻案(著作権法27条)した著作物である旨を主張立証するものでないことを明言している。。)

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H230316現在のコメント


(知財高裁平成23年3月15日判決(平成20年(ネ)第10064号著作権確認等請求控訴事件))

プログラム言語が異なれば,実質的に同一とはいい難いというのは,そのとおりとおもいます。


NECシステムのプログラム言語は,
「Visual Basic 又は VisualBasic for Application」とはっきり出ていますが,

本件システムは,IBM専用機ということになれば,少なくとも「Visual Basic 又は VisualBasic for Application」ではないとは判断できるでしょう。



ただ,あまり知財高裁には意見を言わないようにしていますが,この縮小版として挙げていない「法人の発意」についての判断は,おかしいとおもいます。

「法人の発意」は,著作物に対する発意ですが,「本件システム」=プログラムと,必ずしもならないはずです。

「以上のとおり,本件システムの開発が,控訴人が在籍中の出向元である被控訴人の指示により開始され,被控訴人の完全子会社である信友及び中国塗料技研がその意向を受けて法人として本件システムの開発を発意しているのであるから,両社において当該開発業務に従事する控訴人が,その職務上作成した本件システムのプログラムの著作者は,その作成時における契約や勤務規則等の別段の定めがない限り,法人である信友又は中国塗料技研となるものと認められ(著作権法15条2項 ,)上記別段の定めについての主張立証はないのであるから,結局,本件システムのプログラムの著作者は,信友又は中国塗料技研,あるいはその双方であると認めるべきである。」

という判示だけをみれば,システム発注すれば,そのプログラムの中身を見る必要もないということになります。本件システムという結論を得るプログラムは,色々な道があるはずです。その結論を得るために,創作性があれば,そのプログラムについて,著作物性が論じられることになるはずです。

ただ,この事案

「本件システムのプログラムは,その構成内容が明らかでなく,サーバ側のプログラムと端末側のプログラムの切り分けやプログラム言語もほとんど不明であるが,IBM社のオフィスコンピュータ S/36 又は AS/400 専用に開発されたものであり,同社製のコンピュータ上で動作するデータベース管理プログラムである Query/36が用いられている。」

となっているところが,大きく結論を左右したともいえます。

ソースが明らかになっていないばかりか,職務著作性を主張した側において,自分の創作したとされるプログラムソースを示すことができなかった事例といえましょうか(判示からしかみていないので,わかりませんが)。

いずれにしても,この「法人の発意」に関する判断は,

「控訴人は,業務内容を信友及び中国塗料技研に頻繁に報告し,指示を仰いでいた。したがって,信友及び中国塗料技研には,黙示の「法人等の発意」があった。したがって,本件システムは,職務著作物であり,その著作権は信友ないし中国塗料技研にある 」

という原判決の判断を,飛び越えた判断とかんがえます。この知財高裁の判断については留保しておきます。

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Last Update: 2011-03-16 19:20:27 JST

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