2011年3月17日木曜日

特許権:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10209号審決取消請求事件))






特許権:【容易想到性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10209号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10209 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成23年03月17日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10209号審決取消請求事件))

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【容易想到性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10209号審決取消請求事件))




判示・縮小版なし


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第2 事案の概要


本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,本願発明の要旨を下記2のとおり認定した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。



第4 当裁判所の判断


取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1)

本願発明について
本願発明の要旨は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,その技術的意義
等を明らかにするために本件明細書の発明の詳細な説明欄を参酌すると,同欄には
概要次の記載がある。

一般のコンピュータシステムにおいては,電源が印加されると,中央処理装
置(CPU)は,BIOS(BASIC INPUT OUTPUT SYSTEM)を利用してPOST
(POWER ON SELF TEST)過程等を行ってから(【0002】),メインメモリーにロ
ーディングされたHDD(HARD DISK DRIVE)の起動領域に保存された起動プログ
ラムを読み出してシステムを起動させる(【0003】)。しかし,BIOSがHD
Dの起動領域を読み出すためには,HDDのディスク駆動モーターが所定の回転速
度に達する必要があるが(【0004】),そのためには時間が長くかかるのに加え
て,BIOSがHDDの起動領域を読み出すのにも時間がかかるので,システムの
起動に長時間を要するという問題がある(【0005】)。

OSを始めとする全てのプログラムは,メインメモリーにローディングされ
なければCPUがこれを解読して実行することができないが(【0013】),本願
発明は,前記第2の2に記載の構成を採用し,HDDが所定の回転速度に達する前
に,起動プログラムを本体に転送することができる非揮発性メモリ(フラッシュメ
モリー)を設けることで,電源の印加後,HDDの駆動モーターが定常速度になる
時まで待つ必要がなく,HDDの起動時間を短縮することが可能なコンピュータシ
ステムを提供する目的を達成するものである(【0006】∼【0008】【001
0】【0011】【0027】)。
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本願発明のHDDは,HDDを全体的に制御する制御部として機能するマイ
コンを備えている(【0014】【0020】)。マイコンは,OS(オペレーティン
グシステム)をインストールする時に起動プログラムをディスクの起動領域に保存
してから,これをフラッシュメモリーに保存させ(【0020】【0024】【00
25】),システムが起動される時には,駆動モーターが定常速度になったか否かを
判断して,定常速度にならないと判断すると,フラッシュメモリーに保存された起
動プログラムをシステムバスを通じてシステム本体に伝送してメインメモリーにロ
ーディングさせる(【0021】【0026】【0027】)。そして,マイコンは,
駆動モーターが定常速度になれば,ディスクから必要なプログラム及びデータを読
み出してシステム本体に伝送する。このようにして,本願発明では,電源が印加さ
れてから起動プログラムを読み出すのにかかる時間を短縮することができる(【0
028】)。
(2)
引用発明について
他方,引用発明は,前記第2の3(2)アに記載のとおりであるが,引用例1には,
引用発明について概要次の記載がある。

従来の不揮発性記憶装置では,ハードディスクドライブなどの磁気記憶装置
を使うと速度が遅いなどの問題がある一方,フラッシュメモリーなどの不揮発性半
導体装置を使うと書換え回数に限度があるなどの問題があり,また,これらの各装
置が別々のドライブユニットとして実現されているので,別々のデータ管理が必要
となり,これらのドライブユニットにまたがって1つのソフトを記憶することが実
際上困難であった(【0011】)。なお,フラッシュメモリーでは,1つのメモリ
セルあたりの書換え可能な回数は,100万回程度である(【0005】)。また,
従来のコンピュータでは,不揮発性記憶装置として,フロッピーディスクドライブ,
ハードディスクドライブ及びフラッシュメモリードライブが用いられている(【0
006】【0007】【図9】)。

そこで,引用発明は,単一のドライブ番号で割り当てられる1つのドライブ
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ユニットの中にフラッシュメモリーなどの半導体ディスク装置と磁気ディスク装置
とを設け,両者に選択的にアクセスできるようにすることで,各装置の互いの欠点
を補えるようになると共に,1つのディスクドライブと同様に両者のデータ管理を
行うことが可能とするものである(【0013】∼【0015】)。例えば,あるプ
ログラムを構成するファイル群の中でそのプログラム起動時に使用されるファイル
が書き込み対象ファイルであれば,それを半導体ディスク装置に格納することで,
高速アクセスが可能となる(【0019】)。

引用発明の実施形態としては,ハードディスクとフラッシュメモリーが1つ
のドライブ番号が割り当てられた統合ドライブユニットとして実現され(【002
0】),フロッピーディスクドライブとは別に名付けられるが(【0021】【図
1】),例えば1つのソフトウェアをハードディスクドライブとフラッシュメモリー
とにまたがって格納する場合には,データ読み出し速度の早いフラッシュメモリー
にはそのプログラム起動時に使用されるファイルが格納され,それ以外のファイル
については記憶容量の大きいハードディスクドライブに格納される。これにより,
そのプログラムの起動を高速に行うことが可能となる(【0025】【0035】)。

引用発明のフラッシュメモリーコントローラは,フラッシュメモリーを制御
してそれを半導体ディスク装置として動作させるためのエミュレーションを行うも
のであり,ハイブリッドコントローラを介してCPUから受け取ったディスクアド
レスやディスクコマンドのアドレス変換やコマンド変換等を行う(【0029】)。
また,引用発明のハードディスクコントローラは,ハードディスクドライブに設け
られているディスク,モータ及びヘッドなどの機械的な機構を制御するためのもの
であり,通常,ハードディスクドライブの一部として設けられている(【003
0】)。そして,引用発明のハイブリッドコントローラは,CPUにより指定される
単一のドライブ番号に応答してハードディスクコントローラとフラッシュメモリー
コントローラの双方を統合制御するものであり,CPUから発行されるディスクア
ドレス及びディスクコマンドを選択的にハードディスクコントローラとフラッシュ
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メモリーコントローラに渡すほか,ハードディスクドライブとフラッシュメモリー
のそれぞれの記憶領域の管理や記憶領域間のファイルの移動などの機能が設けられ
ている(【0031】)。
(3)
一致点の認定について

本件審決が認定した本願発明と引用発明との一致点は,前記第2の3(2)イ
に記載のとおりであるところ,原告は,まず,引用発明の「不揮発性記憶装置」が
フロッピーディスクドライブも含んでいることから,これと本願発明の「ハードデ
ィスクドライブ」とが対応していない旨を主張する。
しかしながら,前記(2)に認定のとおり,引用発明は,単一のドライブ番号で割
り当てられる1つのドライブユニットの中に,いずれも不揮発性記憶装置である半
導体ディスク装置(フラッシュメモリー)と磁気ディスク装置(ハードディスク)
とを設け,両者に選択的にアクセスできるようにすることで,各装置の互いの欠点
を補えるようにするなどしたものであって,引用例1に記載の実施例において磁気
ディスク装置の一種であるフロッピーディスクドライブを統合ドライブユニットと
別に設けたからといって,フラッシュメモリー及びハードディスクが不揮発性記憶
装置ではなくなるというものではない。したがって,統合ドライブユニットを構成
するフラッシュメモリーとハードディスクの総体を「不揮発性記憶装置」と認定し,
これが,磁気記憶装置であるハードディスクと半導体記憶装置であるフラッシュメ
モリーとを備える本願発明の「ハードディスクドライブ」に対応するとした本件審
決の認定に誤りはない。
よって,原告の上記主張は,採用できない。

原告は,プログラムとOSとは一致しないから,引用発明の「あるプログラ
ムを構成するファイル群」と本願発明の「OS」とが対応しておらず,また,保存
される対象を異にするから,引用発明の「フラッシュメモリ」と本願発明の「フラ
ッシュメモリー」とが対応していない旨を主張する。
しかしながら,前記(2)イに認定のとおり,引用例1には,あるプログラムを構
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成するファイル群の中でそのプログラム起動時に使用されるファイルが半導体ディ
スク装置に格納される旨の記載がある(【0019】)ことに照らすと,引用発明の
「あるプログラムを構成するファイル群」は,所定のプログラムを構成するファイ
ルの集合を意味する一方,前記(1)イに認定のとおり,本件明細書には,OSを始
めとする全てのプログラムは,メインメモリーにローディングされなければCPU
がこれを解読して実行することができない旨の記載がある(【0013】)ことに照
らすと,本願発明の「OS」もまた,プログラムであることが明らかである。また,
引用発明の「フラッシュメモリ」と本願発明の「フラッシュメモリー」とでは,そ
の格納する対象が,いずれも所定のプログラムを起動させるものであるという点で
機能が共通しているばかりか,本件審決は,相違点1において,本願発明において
格納されるプログラム(ソフトウェア)が「OS」である旨を別途認定しているか
ら,一致点の認定に当たって,上記機能の共通性に基づき,引用発明の「あるプロ
グラムを構成するファイル群」が本願発明の「OS」に,引用発明の「フラッシュ
メモリ」が本願発明の「フラッシュメモリー」に,それぞれ対応するとした本件審
決に誤りはない。
よって,原告の上記主張は,採用できない。

原告は,引用発明の「ハードディスクコントローラ」,「フラッシュメモリコ
ントローラ」及び「ハイブリッドコントローラ」には本願発明の「制御部」のよう
な記載や示唆がないから,これらが本願発明の「制御部」に対応していない旨を主
張する。
しかしながら,前記(2)イ及びエに認定のとおり,引用発明の「ハードディスク
コントローラ」等は,いずれも,CPUにより単一のドライブ番号でハードディス
クドライブの記憶領域とフラッシュメモリーの記憶領域を選択的にアクセスするこ
とができるようにするものである一方,本願発明の特許請求の範囲に記載のとおり,
本願発明の「制御部」は,「前記駆動モーターが定常速度になる前は,前記フラッ
シュメモリーから前記OSの起動プログラムを読み出して前記メインメモリにロー
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ディングし,前記駆動モーターが定常速度になったか否かを判断し,前記駆動モー
ターが定常速度になった後は,前記ディスクから必要なプログラムを読み出して前
記メインメモリにローディングする」機能を備えたものであるから,両者は,いず
れもディスク及びフラッシュメモリーに記憶されたプログラムを読み出すための制
御に関するものであるという点で機能が共通しているばかりか,本件審決は,駆動
モーターが定常速度になる前はフラッシュメモリーからOSの起動プログラムを読
み出している点及び駆動モーターが定常速度になったか否かを判断し,駆動モータ
ーが定常速度になった後はディスクから必要なプログラムを読み出している点を,
それぞれ別途相違点2及び3として認定している。したがって,一致点の認定に当
たって,上記機能の共通性に基づき,引用発明の「ハードディスクコントローラ」
等が本願発明の「制御部」に対応するとした本件審決に誤りはない。
よって,原告の上記主張は,採用できない。

取消事由2(相違点を看過した誤り)について
(1)
原告は,本願発明のディスクに保存される「OS」にはOSの起動プログ
ラムが含まれることが自明である一方,引用発明のフラッシュメモリーに保存され
るプログラム起動時に使用されるファイルがハードディスクには保存されず,この
点で本願発明と引用発明とが相違する旨を主張する。
(2)
そこで検討すると,本願発明の特許請求の範囲の記載には,ディスクに保
存される対象としては「OS」と記載されるにとどまり,OSのうちの起動プログ
ラムを積極的に排除する記載がないばかりか,前記1(1)ウに認定のとおり,本件
明細書には,本願発明のマイコンが,OS起動プログラムをディスクの起動領域に
保存してからこれをフラッシュメモリーに保存させる旨を記載している(【002
0】【0024】【0025】)ことに照らすと,本願発明の特許請求の範囲の記載
及び本件明細書の発明の詳細な説明欄は,いずれも,HDDのディスクに保存され
る「OS」にその起動プログラムが含まれる実施形態を開示しているということが
できる。
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(3)
しかしながら,原告は,本件の分割出願以来,本願発明の請求項の記載に
おいてフラッシュメモリーの保存対象としてコンピュータシステム又はOSの起動
プログラムを特定している一方,分割出願当時の本願発明の請求項の記載ではディ
スクの保存対象について特定をしていなかったところ(甲1【請求項3】),その後,
ディスクの保存対象を「コンピュータシステムのOS」と特定し(甲9【請求項
4】),更に「コンピュータシステムのOSと前記OSの起動プログラム」と特定し
直したものであって(甲12【請求項3】),以後,これを踏襲していたものである
が(甲15【請求項2】,甲18【請求項2】,甲22【請求項2】),拒絶理由通知
書において,起動プログラムが不揮発性保存部(フラッシュメモリー)に保存され
るのであれば技術常識から見れば起動プログラムをディスクに保存する必要はない
と考えられるし,本件明細書には「OSの起動プログラムを保存するディスク」と
の発明特定事項の必要性やその作用効果についての説明が見当たらない旨を指摘さ
れるや(甲23),本願発明の特許請求の範囲から,「OSの起動プログラムを保存
するディスク」との発明特定事項を自ら削除したものである(甲25【請求項2】)。
(4)
また,原告は,本件の原出願以来,本願発明の特許請求の範囲の記載にお
いて,駆動モーターが定常速度になった後に制御部がディスクから読み出される対
象について何ら触れておらず,当初明細書の発明の詳細な説明欄では,「必要なプ
ログラム及びデータを読み出してシステム本体に伝送する」旨の記載があるにとど
まっていた(乙1【0027】)。そして,原告は,本件の分割出願後,本願発明の
特許請求の範囲の記載として,「前記駆動モーターが定常速度になった後に,前記
ディスクに保存された前記起動プログラムが前記メインメモリにローディングされ
るようにする」旨の付加したものの(甲12【請求項3】),拒絶理由通知書におい
て,明細書には上記の記載があるだけで当該付加部分に係る事項が記載されておら
ず,当該事項を読み出すことを導き出すことができないから,分割の要件を満たさ
ず,出願日の遡及を認めない旨の指摘を受けるや(甲16),当該付加部分のうち
「起動プログラム」との文言を「必要なプログラム」に自ら変更したものである
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(甲18【請求項2】)。なお,被告は,これを受けて,同年3月5日の拒絶査定の
備考欄において,出願日の遡及を認める旨を記載している(甲19)。
(5)
以上の手続経過に鑑みると,原告は,拒絶査定を避けるべく,本願発明の
特定に当たりディスクに保存される対象からOSの起動プログラムを排除した(前
記(3))ほか,分割出願の要件を満たして出願日を遡及させるべく,駆動モーター
が定常速度になった後に制御部がディスクから読み出す対象からOSの起動プログ
ラムを除外した(前記(4))ものと認められる。
そして,他に本願発明の特許請求の範囲の記載中にはディスクの保存対象として
OSの起動プログラムが含まれると解するに足りる記載が見当たらないことも併せ
考えると,本願発明の解釈に当たり,ディスクにOSの起動プログラムが保存され
ていないものと認定し,引用発明との関係で相違点を認定しなかった本件審決に誤
りがあるとまではいえない。
(6)
また,本願発明は,前記1(1)イに認定のとおり,OSの起動プログラムを
フラッシュメモリーに格納して読み出すことで,駆動モーターが定常速度になる時
まで待たずに,HDDの起動時間を短縮するものである(本件明細書【0006】
∼【0008】【0010】【0011】【0027】)一方,引用発明も,前記1
(2)ウに認定のとおり,データ読み出し速度の速いフラッシュメモリーにプログラ
ム起動時に使用されるファイルを格納することで,そのプログラムの起動を高速に
行うものである(引用例1【0025】【0035】)。したがって,本願発明及び
引用発明は,いずれもプログラム起動時に使用される実行ファイルがフラッシュメ
モリーに保存されていることで起動時間を短縮するという効果が得られる点で共通
するから,仮に本願発明においてOSの起動プログラムが,フラッシュメモリーの
ほか,ハードディスクに保存されていたからといって,このことが引用発明との相
違点となり,更には容易想到性の判断に影響するものではない。
したがって,原告の前記主張は,採用できない。
(7)
なお,原告は,本願発明の「マイコンは,フラッシュメモリーに起動プロ
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グラムが保存されたか否かを確認してフラッシュメモリーに起動プログラムが保存
されない場合,ディスクに保存された起動プログラムをフラッシュメモリーに保存
する」(本件明細書【0025】)ものであるのに,本件審決がこの点を相違点とし
て認定していない誤りがある旨も主張する。
しかしながら,この点は,本願発明の特許請求の範囲に記載されていないから,
原告の上記主張は,それ自体失当である。

取消事由3(相違点2及び3についての判断の誤り)について
(1)
原告は,本願発明ではフラッシュメモリーには消去・書き込み可能回数に
制限があることを前提として,駆動モーターが定常速度になればディスクに保存さ
れているOSの起動プログラムを「必要なプログラム」として読み出すことにより,
フラッシュメモリーの不具合に対応できるものであり,引用例1ないし5に記載の
発明とは全く異なるものであり,本件審決がこの点についての判断を誤っている旨
を主張する。
(2)
しかしながら,前記2(4)に認定のとおり,原告は,分割出願の要件を満た
して出願日を遡及させるべく,駆動モーターが定常速度になった後に制御部がディ
スクから読み出される対象からOSの起動プログラムを除外したものであって,現
に,本件明細書にも,「必要なプログラム」にOSの起動プログラムが含まれると
認めるに足りる具体的な記述はない。
次に,前記1(2)アに認定のとおり,フラッシュメモリーの書換え可能な回数に
は制限があることが技術常識である(引用例1【0005】)としても,本件明細
書には,本願発明の作用効果としてこのようなフラッシュメモリーの不具合に対応
する旨に関する記載がない。
なお,原告は,本件明細書【0007】には,この点についての示唆がある旨を
主張するが,本件明細書の当該箇所は,本願発明(前記第2の2)の記載それ自体
を上回るものではなく,原告の主張するような示唆は,見当たらない。
したがって,原告の前記主張は,その前提を欠く。
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(3)
むしろ,引用例1は,前記1イ及びウに認定のとおり,データ読み出し速
度の速いフラッシュメモリーにあるプログラム起動時に使用されるファイルを格納
することで,当該プログラムの起動を高速化するものであるばかりか,引用例2は,
「データ記憶システム及び同システムに適用するキャッシュ制御方法」という名称
の発明に関する公開特許公報であるが,そこには,磁気ディスク装置(HDD)と
半導体ディスク装置(フラッシュメモリー)とからなるコンピュータシステムのデ
ータ記憶システムにおいて(【0001】),OSの起動に必要な起動情報を半導体
ディスク装置の恒久的保存領域に保存し(【0009】),OSの起動時に当該起動
情報にアクセスすることにより,OSの起動が高速化できることが開示されている。
そして,駆動モーターが定常速度になる前には,HDDからプログラムを読み出す
ことができないことは,技術常識であるから,引用例1及び2には,フラッシュメ
モリーにOSの起動プログラムを保存することで,駆動モーターが定常速度になる
前からその読み出しを行い,もってOSの起動を高速化することについて示唆があ
るといえる。
したがって,当業者は,引用発明に基づき,引用例2の記載を参照することで,
本願発明の相違点2に係る構成を採用することを容易に想到することができたもの
といえる。
(4)
また,引用例3は,「ディスク記憶装置の起動およびデータ読み書き方法」
という名称の発明に関する公開特許公報であるが,そこには,計算機の起動方法に
おいて,電源投入後,ディスク記憶装置は,ディスクの回転数が正規の値に整定し
たことを確かめ,ディスクに記憶された設定データを読み取った上で,計算機に準
備完了を報告し,計算機は,報告を受けた後,ディスク記憶装置にアクセスしてO
S等の基本プログラムを読み取ること(【0003】【0005】)及びディスク記
憶装置に不揮発性メモリを組み込み,そこに設定データをあらかじめ格納しておき
(【0012】【0019】),ディスクの起動完了を待つ動作と平行して設定データ
を読み込むことにより,計算機の起動時間を大幅に減少させること(【0012】
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【0021】【0022】)が記載されている。そして,引用例5は,「ディスク装
置」という名称の発明に関する公開特許公報であるが,そこには,ハードディスク
装置(HDD)において,電源が立ち上げられた後,HDDが記録再生可能な回転
速度に立ち上がったか否かを判断し,回転速度が定常の回転速度に立ち上がるのを
待ってデータの読み出しを開始すること(【0043】【0044】)が記載されて
いる。
このように,ディスクからのプログラム等の読み出しは,駆動モーターが定常速
度になった後でなければならないことは,技術常識であって,そのために駆動モー
ターの回転速度が定常速度になったか否かを判断することについては,複数の公開
特許公報に記載があるように,当業者の周知技術であるといえる。
したがって,当業者は,引用発明に基づき,引用例3及び5の記載を参照するこ
とで,本願発明の相違点3に係る構成を採用することを容易に想到することができ
たものといえる。
(5)
さらに,引用発明について本願発明の相違点2及び3に係る構成を採用し
たことによる効果が格別に顕著であると認めるに足りる証拠はない。
(6)
よって,相違点2及び3について当業者が容易に想到できるとした本件審
決の判断に誤りはない。

結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求
は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣



H230322現在のコメント


(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10209号審決取消請求事件))

「容易想到性」に関する事実認定判決です。
判断(事実認定の妥当性をいうのではない)自体は,オーソドックスな対応です。

相違点認定について分割経緯を重視しているとはいえます。


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Last Update: 2011-03-22 12:27:15 JST

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