2011年3月17日木曜日

商標:【登録出願経緯と「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号,46条1項1号)該当性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10342号審決取消請求事件))






商標:【登録出願経緯と「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号,46条1項1号)該当性】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10342号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10342 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
平成23年03月17日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10342号審決取消請求事件))


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【登録出願経緯と「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号,46条1項1号)該当性】「事実認定」


(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10342号審決取消請求事件))

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判示・縮小版なし


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第2 事案の概要

本件は,原告が,被告の下記1の本件商標に係る商標登録を無効にすることを求める原告の下記2の本件審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

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第4 当裁判所の判断


認定事実

SPC工法について

SPC工法は,工場において製作されたプレキャストコンクリート版(パネ
ル)をPC鋼棒により順次積み上げて,気泡混合軽量材の自立型枠を形成する工法
である(甲3の1)。SPC工法は,平成16年2月時点で,SPC研究会の集計
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によると,合計60件の施工実績があった(甲3の2)。

原告とA及び基礎地盤コンサルタンツ株式会社(Bが在籍していた。以下
「基礎地盤コンサルタンツ」という。)は,平成11年10月1日,SPC工法に
係る権利及びノウハウに関する専用実施権を原告に対して設定する旨の契約を締結
した(乙3)。同契約には,SPC工法について,「SPC工法」という名称を原
告が使用する旨の条項がある。また,平成16年1月1日,同様の契約が締結され
たが,同契約には,SPC工法について,「SPC工法」「SPCウォール工法
(覆工工法)」等の名称を原告が使用する旨の条項がある(乙4)。
SPC研究会について
SPC研究会は,平成11年11月7日,SPC工法の公共事業採択の拡大,研
究会の開催,基礎実験の計画・実行等の事業計画を前提として設立されたようであ
り,平成12年4月13日,熊本市において平成12年度第1回研究会を開催して
おり,原告及び被告は,いずれも同研究会に所属していた(甲4の1,乙18)。
同研究会は,熊本SPC工法研究会と称したこともあったようである(甲4の2及
び3)。
また,平成16年9月3日,九州各地において,県単位でSPC工法に係る複数
の研究会が活動していたことを踏まえ,これを統合してSPC研究会九州本部が設
立された。当時,正会員が36社など,会員数は合計52社であり,原告及び被告
も正会員であった(乙2)。

N−SPC工法の開発及びN−SPC研究会について

SPC研究会九州本部は,平成13年以降,九州で2件,四国で1件,SP
C工法に係る工事が施工された現場においてパネルの転倒事故が発生したため,パ
ネルの改良などを行い,N−SPC工法を開発した。N−SPC工法は,平成16
年11月ないし17年3月までの間に施工された,熊本県内における国道工事にお
いて採用された(乙5,7)。また,N−SPC工法(覆工方式・道路構築方式・
気泡混合軽量盛土)は,平成16年7月16日,NETIS登録されているが,その際
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の担当窓口は被告であり,N−SPC研究会と同一の名称(代表者A)が使用され
ていることからすると,SPC研究会九州本部は,そのころから当該名称の使用を
開始していたようである(乙9)。被告及びN−SPC研究会は,平成17年2月,
N−SPC工法に係るパネルの実物大強度試験を行うなどした(乙8)。

被告は,平成18年10月13日付けで,味岡建設株式会社及び丸昭建設株
式会社に対し,原告が,SPC工法に関して大きな事故を3件発生させたが,事故
対応については,研究会として被告が行っていることなどから,今後,SPC工法
に係る専用実施権は放棄し,原告とは別個に活動すること,原告とは別個に道路橋
梁工法等を統一した研究会としてN−SPC研究会を発足させ,N−SPC工法に
ついて新NETIS登録を行ったことなどを通知した。また,被告は,同年11月22
日及び24日,タチバナ工業株式会社に対しても,同様の通知をした(甲5)。

平成19年9月28日開催のN−SPC研究会の平成19年度第3回総会に
おいて,「N−S.P.Cウォール工法」及び「N−S.P.C.合成橋工法」を統合
して1つの研究会として発足させ,SPC研究会を廃止し,「N−S.P.C.工法
構造研究会」と名称変更した上で,新研究会として再出発する旨が定められた。な
お,同総会の議題には,平成19年度(第3期)役員改選に関する件(九州N−S.
P.C.工法構造研究会会則による)があり,平成18年度(第2期)役員(副会
長)として,原告の代表取締役専務(C)の名前が記載されていることからすると,
原告は,それまで「九州N−S.P.C.工法構造研究会」に関与していたようであ
る。また,N−SPC研究会の事務局は,被告が担当するものとされた(乙10)。

N−SPC研究会は,平成19年10月4日,原告に対し,以下の内容の通
知をした(乙11)。なお,同通知には,原告がN−SPC研究会への入会を希望
する場合の相談先が付記されていた。
基礎地盤コンサルタンツ及びAは,平成17年度まで,原告と専用実施権設
定契約を締結し,SPC工法を拡大することで合意をしてきたが,施工ミスなどが
続き,信用が低下し,事故処理対策費用が必要となったことなどから,平成18年
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度以降は,同契約を破棄し,別途に事業を行うこととした。
今般,被告,基礎地盤コンサルタンツ及び黒沢建設株式会社は,工法に係る
構造や橋梁関係の工事についても重要視することとしてSPC研究会を廃止し,N
−SPC研究会を発足させ,SPC工法に係るNETIS登録を廃止し,N−SPC工
法について新たにNETIS登録した。
被告及び基礎地盤コンサルタンツは,原告がN−SPC研究会に入会するこ
とを希望している。

平成20年5月現在のN−SPC研究会の会員数は,61社である。会員の
中には,平成12年度第1回SPC工法研究会(甲4の1)開催時や,平成16年
9月のSPC研究会九州本部設立時において,SPC研究会の会員であり,平成1
9年9月28日開催のN−SPC研究会の平成19年度第3回総会(乙10)にお
けるN−SPC研究会会員を経て,継続して会員として参加している会社が複数存
在する(乙15)。
本件警告について

被告は,平成21年11月2日,原告に対し,本件警告を発し,原告がウェ
ブページの会社概要及び工法一覧において,土木工事の軽量盛土工法として「S.
P.C.ウォール工法」の名称を使用しているが,これは,本件商標に類似するも
のであり,当該名称の使用を直ちに中止するよう求めた。原告は,同月20日付け
で,被告に対し,使用停止等を拒否する回答を送付したため,被告は,平成22年
1月21日,再度の警告を発した(甲2)。
なお,被告は,原告のほか,SPC研究会島根県支部に所属する2社に対し,同
様の警告を行ったようである(甲7)。

原告は,現在においても,SPC工法を施工している(甲6)。また,原告
は,ウェブページにおいて,「軽量盛土工法 SPCウォール工法
表面材をPC
鋼棒で緊張して斜面の前面に組み立て,表面材と斜面地山間に軽量盛土を充 して
擁壁を構築する工法です」との表示をするとともに,SPC工法及びN−SPC工
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法のNETIS登録番号を表示していたことがあった(乙14)。
なお,原告も所属する「S.P.C工法研究会島根県支部」が,平成19年ない
し22年において,定期総会又は臨時総会を開催している(甲4の4∼8)。また,
原告は,平成22年4月2日,特許庁審判長に対し,上申書を提出し,本件警告は,
SPC工法を施工していた複数の企業の死活問題にまで直結する,著しく社会正義
に反する行為であるなどと述べた(甲7)。

2検討
原告は,①SPC工法研究会に関する経緯及び本件商標の登録出願の経緯,②被告による本件警告,③SPC工法の開発者がAではないこと,④本件商標が公益を侵害することを前提に,本件商標は,その登録出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠くものであって,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号,46条1項1号)に該当すると主張するので,まず,各事情について検討する。

SPC工法研究会に関する経緯及び本件商標の登録出願の経緯について
本件において,原告及び被告は,いずれもSPC研究会に参加し,SPC工法を
採用して工事を行っていたところ,パネルの倒壊事故などを契機として,被告の積
極的関与によってN−SPC工法が開発されるとともに,SPC研究会が廃止され,
N−SPC研究会が設立されるに至っているものであり,N−SPC研究会の事務
局を担当する被告が,N−SPC工法の名称について,本件商標の登録出願をして,
登録を得たものである。
そして,N−SPC研究会が,SPC研究会九州本部を名称変更したものであり,
N−SPC工法を採用して活動していることは,N−SPC研究会の第3回総会議
事録の各記載や,新研究会の複数の会員が,SPC研究会発足当時からSPC研究
会九州本部を経て,継続して会員として参加していることからも明らかである。
以上からすると,原告と被告との間において,原告が関係したSPC工法に係る
工事において生じた倒壊事故などを契機として,次第に従前の協力関係が解消され,
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被告が本件警告を発するに至ったことを考慮しても,本件商標については,その登
録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが到底容
認し得ないような事情があるとは認められない。
この点について,原告は,SPC研究会島根県支部が実在しており,被告は,自
らSPC研究会を離脱し,独立し,SPC研究会を勝手に廃止したと宣言し,その
顧客を収奪しようと企てたものである,SPC工法は,少なくとも平成11年以来
多数の工事実績があり,その名称は,多数の企業が使用していたのであって,被告
は,同工法を中心に営業活動を行っていたにもかかわらず,同工法の名称と類似す
る本件商標について,SPC研究会の会員企業の営業を妨害することを意図して出
願し,登録を受けたものであるなどと主張する。
しかしながら,SPC研究会は,県単位の支部を有していたようであり(乙2),
N−SPC研究会は,九州地区を中心として活動していたSPC研究会九州本部を
中心として設立されたものであるから,N−SPC工法を採用せず,SPC工法を
中心に活動するSPC研究会島根県支部が九州地区以外において実在することをも
ってしても,被告がSPC研究会を無断で廃止したものということはできない。原
告の主張は,その前提自体が欠けるものというほかない。
被告による本件警告について
被告は,N−SPC研究会が新たに開発し,採用したN−SPC工法について,
同研究会の事務局として商標登録した上で,N−SPC研究会に参加せず,N−S
PC工法のNETIS登録番号までウェブページに表示していた原告やそのほかの業者
に対し,本件警告を行ったのであるから,本件警告が,著しく不当であるというこ
とはできない。しかも,原告は,SPC研究会島根県支部について主張するが,同
支部は,N−SPC研究会を脱退した8社を中心として構成されており,同支部の
総会にも原告を含め8社程度が参加しているにすぎず(甲4,7,乙15),その
ほか,現時点において同支部以外にSPC研究会会員が存在するかは不明である。
したがって,被告が本件警告を行ったことをもって,被告による本件商標の登録
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出願が,SPC研究会会員企業の営業を不当に妨害することを意図したものであり,
出願経緯が著しく社会的妥当性を欠くものであるということもできない。
SPC工法の開発者について
原告は,SPC工法の解説書(甲3の1)の記載を根拠に,SPC工法は日本道
路公団により研究開発が進められたものであり,A及びBが開発したとする乙1の
記載は虚偽であるなどと主張するが,原告が指摘する同解説書の記載は,「軽量盛
土工法を利用した方法」に関するものであって,SPC工法に係る記載ではない。
また,原告は,SPC工法に係る技術等について,A及び基礎地盤コンサルタンツ
から専用実施権の設定を受けており,その際,SPC工法については,「SPC工
法」「SPCウォール工法」等の名称を用いることが定められていたのであるから,
A及びBが,SPC工法の開発について,少なくとも中心的な地位を占めていたも
のと推認されるものということができる。したがって,被告が,N−SPC研究会
の事務局として,本件商標について登録出願したことは,このような開発経緯に照
らしても,著しく社会的妥当性を欠くものということはできない。
本件商標が公益性を侵害するかについて
原告は,被告による本件警告によって,SPC工法を採用する多数の企業の死活
問題に発展していることなどをもって,本件商標は公益性を害するものであるなど
と主張するが,本件警告が,公益性を害するものとは認められないことは,先に述
べたとおりである。したがって,原告の主張は,その前提を欠くものである。

小括
以上からすると,本件商標につき,その登録出願の経緯に係る前記各事情から商
標法4条1項7号,46条1項1号に該当するという原告の主張は,当該各事情を
認めることができないから,本件商標は,その登録出願の経緯が著しく社会的妥当
性を欠くものではなく,また,その構成それ自体が公の秩序又は善良の風俗を害す
るおそれがあるとはいえないことは明らかであるから,商標法4条1項7号に掲げ
る商標に該当するものとは認められないとした本件審決の判断に誤りはない。
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結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣


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H230322現在のコメント


(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10342号審決取消請求事件))

「本件商標は,その登録出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠くものであって,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号,46条1項1号)に該当すると主張」に対する判断です。

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Last Update: 2011-03-22 13:54:17 JST

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