目 次
商標:【不使用取消,「使用」(商標法2条3項1号)】「事実認定」:(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10359号審決取消請求事件))
知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」
平成22(行ケ)10359 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
平成23年03月17日 知的財産高等裁判所
(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10359号審決取消請求事件))
【不使用取消,「使用」(商標法2条3項1号)】「事実認定」
判示・縮小版なし
第2 事案の概要
本件は,原告が,原告の下記1の本件商標に係る商標登録に対する不使用を理由とする当該登録の取消しを求める被告の下記2の本件審判請求について,特許庁が同請求を認めた別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
第4 当裁判所の判断
1
取消事由1(本件商標を使用していると認められないとした判断の誤り)に
ついて
(1)
本件使用商標について
証拠(以下の括弧内に掲記するもの)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認
めることができる。
ア
原告は,昭和17年に創立され,昭和50年に法人設立認可を受けた照明器
具の製造・販売を行う我が国の主要な事業者及び団体を会員として構成する社団法
人であって,照明器具及びその支持・制御装置に関する調査及び研究,情報の収集
及び提供,普及及び啓発,規格等の立案及び推進等を行うことにより,照明器具工
業及び関連産業の健全な発展を図り,もって産業の振興に資するとともに,国民生
活における安全性の確保と生活文化の向上に寄与することを目的とし,エネルギー
の有効利用の促進等の活動を行うとともに,特別事業として,非常用照明器具自主
評定事業や埋込み形照明器具の自主認証等を行っている(甲1,2,20,2
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13 -
1)。
イ
上記アのうち,非常用照明器具自主評定事業とは,建築基準法で規定されて
いる非常用照明器具の照明設備のうち,非常用照明器具につき,非常用照明器具自
主評定委員会を組織して,基準の制定,事業者登録,型式評定,事業者立入調査,
買上試験の実施等を行うものであって,原告は,非常用照明器具の自主評定を受け
ようとする製造事業者からの申請を受けると,自主評定委員会において,申請書類
の審査及び実地調査を経た上,登録可とされると事業者登録を行い,さらに,当該
照明器具が原告の非常用照明器具についての規格である「非常用照明器具技術基準
(JIL5501)」(以下「JIL5501」という。)に適合しているかどうかを審議し,評
定可となった場合には,当該製造事業者に対し,評定証を交付するとともに,当該
照明器具が JIL5501 に適合していることを証する標章である本件使用商標1を当該
器具に貼付することを許可し,登録事業者は,本件使用商標1を作成し,その使用
料を原告に支払った上で,当該器具に本件使用商標1を貼付して販売する(甲2,
3,4,50,52,55,56,60,62,63)。
ウ
上記アのうち,埋込み形照明器具の自主認証とは,S形ダウンライトを含む
埋込み形照明器具につき,埋込み形照明器具管理委員会を組織して,基準の制定,
事業者登録,型式評定,工場立入調査,製品登録,買上試験等の業務を行うもので
あって,原告は,埋込み形照明器具の製品登録を受けようとする製造事業者からの
申請を受けると,埋込み形照明器具管理委員会において,申請書類の審査及び実地
調査を経た上,登録可とされると事業者登録を行い,さらに,当該照明器具が原告
の埋込み形照明器具についての規格である「埋込み形照明器具(JIL5002)」(以
下「JIL5002」という。)に適合しているかどうかを審議し,登録可となった場合
には,当該製造事業者に対し,製品登録証を交付するとともに,当該照明器具が
JIL5002 に適合していることを証する標章である本件使用商標2ないし4(なお,
本件使用商標2ないし4の区別は,施工方法の違いによる。)を当該器具に貼付す
ることを許可し,登録事業者は,本件使用商標2ないし4を作成し,その使用料を
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原告に支払った上で,当該器具に本件使用商標2ないし4のいずれかを貼付して販
売する(甲2,5,6,51,53,57,61,64,65)。
エ
我が国の主要な照明器具製造販売会社は,原告の会員となっており(甲2
0),原告の非常用照明器具自主評定又は埋込み形照明器具登録を受け,上記イ又
はウの手続によって,その製造販売するこれらの照明器具に本件使用商標1ないし
4のいずれかを貼付している。
例えば,原告の会員である東芝ライテック株式会社は,平成20年製造の非常用
照明器具に本件使用商標1を(甲14),同21年製造の埋込み形照明器具に本件
使用商標2(甲16)をそれぞれ貼付し,そのころ販売していた。原告の会員であ
る岩崎電気株式会社は,平成13年8月から同22年12月まで,製造販売する非
常用照明器具に本件商標1を貼付してきた(甲72)。原告の会員であるオーデリ
ック株式会社は,昭和62年から平成22年12月まで,製造販売する埋込み形照
明器具に本件使用商標2を貼付してきた(甲73)。原告の会員である三菱電機照
明株式会社は,昭和62年11月から平成22年12月まで製造販売する埋込み形
照明器具に本件使用商標3を,同13年8月から同22年12月まで製造販売する
非常用照明器具に本件使用商標1を貼付してきた(甲71)。
(2)
本件使用商標の構成中の「JIL」部分について
ア
上記(1)のとおり,本件使用商標1は原告の規格である JIL5501 に適合して
いる旨の評定を受けた非常用照明器具等に,本件使用商標2ないし4は原告の規格
である JIL5002 に適合している製品登録を受けた埋込み形照明器具に,それぞれ貼
付されるものである。
イ
そして,本件使用商標1についてみると,上部から順に,二重円間に
「(社)日本照明器具工業会」と,二重円の一番内側に「適合」と,二重円間に
「JIL5501」との記載をするものである。
そして,これらのうちの上段の「(社)日本照明器具工業会」は,照明器具の製
造・販売を行う我が国の主要な事業者及び団体を会員として構成する社団法人であ
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って,非常用照明器具自主評定事業や埋込み形照明器具の自主認証等を行っている
原告の名称を示すものと,また,中段の「適合」とは照明器具の何らかの規格等に
適合したことを示すものとみることができるところ,下段の「JIL5501」
は,原告の規格である JIL5501 に係る記載であるが,一般的には必ずしもその意味
が明らかなものとみることができない。また,これらの上,中,下段の各記載は明
瞭に分けられており,かつ,それぞれが関連性を有するものと解することもできな
いから,それぞれが独立したものとしてもみることができる。その上で,下段の
「JIL5501」について改めてみると,何らかの記号であると推測されるとし
ても,上記のとおりの原告の規格である JIL5501 に係る記載であると一見して認識
されるものではなく,必ずしも特定の観念を生ずるものではないところ,これは,
欧文字の「JIL」と算用数字である「5501」とからなるものであるから,こ
れを一体のものとしてみるほかに,「JIL」と「5501」とを区切ってみるこ
とが可能であって,「JIL」との独立した表示も抽出して認識されるものという
ことができる。
ウ
また,本件使用商標2ないし4についてみると,いずれも,上部から順に,
二重円間に「(社)日本照明器具工業会」と,二重円の一番内側に太く「S」と,
二重円間に「JIL5002」との記載をし,これらに加え,外側円の右横に太
く,本件使用商標2は「B」を,本件使用商標3は「GI」を,本件使用商標4は
「G」を記載するものである。
そして,これらのうちの上段の「(社)日本照明器具工業会」は,原告の名称を
示すものとみることができるが,中段の「S」との欧文字からは特段の意味を読み
取ることができない。下段の「JIL5002」は,原告の規格である JIL5002 に
係る記載であるが,一般的には必ずしもその意味が明らかなものとみることができ
ない。外側円の右横の「B」,「GI」又は「G」との欧文字からも特段の意味を
読み取ることができない。また,これらの上,中,下段及び外側円右横の各記載は
明瞭に分けられており,かつ,それぞれが関連性を有するものと解することもでき
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16 -
ないから,それぞれが独立したものとしてもみることができる。その上で,下段の
「JIL5002」について改めてみると,何らかの記号であると推測されるとし
ても,上記のとおりの原告の規格である JIL5002 に係る記載であると一見して認識
されるものではなく,必ずしも特定の観念を生ずるものではないところ,これは,
欧文字の「JIL」と算用数字である「5002」とからなるものであるから,こ
れを一体のものとしてみるほかに,「JIL」と「5002」とを区切ってみるこ
とが可能であって,「JIL」との独立した表示も抽出して認識されるものという
ことができる。
エ
そして,以上のように本件使用商標の構成中から独立した表示として抽出さ
れる「JIL」の欧文字についてみると,それは,本件商標の指定商品である「電
気機械器具,電気通信機械器具,電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを
除く)電気材料」との関係で何らかの性状等を示すものと認めることもできないか
ら,同部分は,本件商標との関係において,自他商品識別標識としての機能を果た
し得るものということができ,当該部分のみが独立して自他商品識別標識としての
機能を果たし得るとはいい難いとした本件審決の判断は首肯することができない。
また,仮に,取引者・需要者において,「JIL5501」や「JIL500
2」が照明器具の認証に係る標章であることを知っていたとしても,「JIL」部
分が照明器具の認証の部類に係るものであることを,これに続く算用数字部分が具
体的な認証の種類を表すものと理解し得るものであって,「JIL」部分も,独立
して自他商品識別標識としての機能をも有しているものということができる。
(3)
本件商標の使用について
ア
前記(1)によると,本件使用商標は,原告による評定又は認証がされた原告
の規格に適合する照明器具であることを証する標章であって,その上段に原告の名
称が記載されていることが示すように,本件使用商標によってその旨を証している
者は原告ということができる。
もっとも,前記(1)のとおり,実際に本件使用商標を作成し,当該器具に同商標
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17 -
を貼付するのは各登録事業者であるが,これは,原告の了承の下,原告に使用料を
支払った上で,原告の名称で行っているものであるから,原告が,各登録事業者を
介して,照明器具に本件使用商標を貼付して使用しているというべきものであっ
て,本件使用商標の構成中に存在する本件商標についても,原告が,各登録事業者
を介して,照明器具に本件商標を貼付して使用しているものであるということがで
きる。
そして,上記(1)エのとおり,少なくとも,原告は,平成20年及び同21年に
おいて原告の会員である東芝ライテック株式会社を介して,同13年8月から同2
2年12月において原告の会員である岩崎電気株式会社を介して,昭和62年から
平成22年12月まで原告の会員であるオーデリック株式会社を介して,昭和62
年11月から平成22年12月まで原告の会員である三菱電機照明株式会社を介し
て,照明器具に本件使用商標を貼付することにより,本件商標の構成である「JI
L」のみでそのまま使用されていないものであったものの,本件商標の指定商品に
本件商標を付していたということができるから,これらは本件商標の使用(商標法
2条3項1号)に該当するものであって,商標権者が,本件に係る審判の請求の登
録(平成22年3月5日)前3年以内に,本件商標を使用していたものと認めるこ
とができる。
イ
また,前記(1)によると,原告は,製造事業者からの申請に基づき,原告の
規格である JIL5501 又は JIL5002 に基づいて審議し,評定可又は登録可となった場
合に,製造事業者から使用料の支払を受けた上で,本件使用商標を照明器具に貼付
して使用することを認めることにより,本件使用商標の構成中に存在する原告が商
標権を有する本件商標についても,照明器具に貼付して使用させているものであっ
て,このようにして使用許可を得た製造事業者は,本件商標の使用についての通常
使用権者ということができる。
そして,上記(1)エのとおり,少なくとも,原告の会員である東芝ライテック株
式会社は平成20年及び同21年において,原告の会員である岩崎電気株式会社は
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18 -
同13年8月から同22年12月まで,原告の会員であるオーデリック株式会社は
昭和62年から平成22年12月まで,原告の会員である三菱電機照明株式会社は
昭和62年11月から平成22年12月まで,照明器具に本件使用商標を貼付する
ことにより,本件商標の構成である「JIL」のみでそのまま使用されていないも
のであったものの,本件商標の指定商品に本件商標を付していたということができ
るから,これらは本件商標の使用(商標法2条3項1号)に該当するものであっ
て,通常使用権者が,本件に係る審判の請求の登録(平成22年3月5日)前3年
以内に,本件商標を使用していたものと認めることができる。
2
結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由1は理由があり,取消事由2につい
て検討するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣
H230322現在のコメント
(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10359号審決取消請求事件))
不使用取消の事実認定判決です。審決取消しを認めています。「使用」(商標法2条3項1号)を認めた判決です。
いつもの基準です。基準自体は,固まっています。事実認定が重要です。
Last Update: 2011-03-22 13:39:30 JST
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