2011年3月17日木曜日

商標:【商標の類否判断の対象】「基準」「事実認定」(最高裁判決引用),【商標の類否判断】「基準」,「事実認定」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10335号審決取消請求事件))






商標:【商標の類否判断の対象】「基準」「事実認定」(最高裁判決引用),【商標の類否判断】「基準」,「事実認定」(最高裁判決引用):(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10335号審決取消請求事件))





知的財産高等裁判所第4部「滝澤孝臣コート」


平成22(行ケ)10335 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
平成23年03月17日 知的財産高等裁判所

(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10335号審決取消請求事件))


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【商標の類否判断の対象】「基準」「事実認定」(最高裁判決引用),【商標の類否判断】「基準」,「事実認定」(最高裁判決引用)


(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10335号審決取消請求事件))



判示


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第2 事案の概要

本件は,原告が,原告の下記1の本件商標に係る商標登録を無効にすることを求める被告の下記2の本件審判請求について,特許庁が同請求を認めた別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

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第4 当裁判所の判断



1 取消事由1(本件商標の構成に係る判断の誤り)について

(1)
商標の類否判断の対象

本件商標は,「天使のチョコリング」の文字を標準文字で横書きにし,指定
商品を第30類「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」とするも
のであって,漢字による「天使」と片仮名による「チョコリング」とが格助詞
「の」で結び付けられている結合商標である。

ところで,商標法4条1項11号に係る商標の類否判断に当たり,複数の構
成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観
察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認
められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標
と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されないが,他
方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識と
して強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所


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識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部
分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許さ
れるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法
廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年
9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行
ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参
照)。
(2)
本件商標に係る語句の意味
そこで,本件商標の構成についてみると,その構成のうち「天使」の語は,「天
使の使。勅使」,「神の使者として派遣され,神意を人間に伝え,人間を守護する
というもの。セラピム(熾天使)・ケルビム(智天使)など。エンゼル。エンジェ
ル」,「比喩的に,やさしく清らかな人」との意味(乙11。「広辞苑第6版」平
成20年1月株式会社岩波書店発行),「ユダヤ教・キリスト教・イスラム教など
で,神の使者として神と人との仲介をつとめるもの。ペルシャに由来する思想とさ
れる。エンジェル」,「やさしい心で,人をいたわる人。女性についていうことが
多い」,「天子の使者。勅使」との意味(「大辞林第3版」平成18年10月株式
会社三省堂発行)とされている。
また,本件商標の構成のうち「チョコ」の語は,「チョコレートの略」との意味
(上記「広辞苑第6版」及び「大辞林第3版」)とされている。
さらに,本件商標の構成のうち「リング」の語は,「輪。環」,「指輪」,「ボ
クシングやプロレスの試合を行う方形の台」との意味(上記「広辞苑第6版」),
「輪。輪状のもの」,「指輪」,「ボクシングやプロレスなどの試合場」の意味
(上記「大辞林第3版」)とされている。
さらにまた,上記によると,「チョコリング」の語は,「チョコレートの輪,
環」の意味となる。
(3)
本件商標から生ずる観念及び称呼


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本件商標の指定商品は「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパ
ン」であるところ,上記(2)に照らすと,「チョコリング」については,チョコレ
ート成分含有又はチョコレート味という原材料や品質で,かつ,輪状という形状の
菓子又はパンであることを普通に用いられる方法で一般的に表示したものというこ
とができるのであって,このような菓子又はパンの品質,原材料及び形状を普通に
用いられる方法で一般的な文字で表示した本件商標中の「チョコリング」の部分か
らは,商品の出所識別標識としての称呼,観念は生じない。
他方,「天使」との語は,上記(2)のとおりの意味を有するものであって,本件
商標の指定商品である「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」に
ついての性状等を表すものではなく,本件商標の指定商品との関係では商品の出所
識別標識としての機能を発揮し得るものである。また,本件商標の「天使」との部
分は,「チョコリング」との部分と何ら観念的な結び付きも有しないものである。
以上によると,本件商標については,「天使のチョコリング」全体のほかに,
「天使」の部分についての観念及び称呼が生じるものということができる。

したがって,本件商標からは,「天使のチョコレート製又はチョコレート味
の環状の菓子又はパン」,「天使のようなチョコレート製又はチョコレート味の環
状の菓子又はパン」のほかに「天使」という観念が生じ,また,「テンシノチョコ
リング」のほかに「テンシ」との称呼も生じる。
(4)
原告の主張の当否
原告は,「天使」という名称は一般名詞化しており,「天使」との文字が出所識
別標識として強く支配的な印象が与えられるものではないこと,原告は,「天使の
チョコリング」という名称を一体として使用していることから,「天使のチョコリ
ング」を一体のものとして判断すべきであることなどを主張する。
しかしながら,上記説示のとおり,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対
し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる
場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認めら


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れる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのも
のの類否を判断することも,許されるところ,これを本件商標についてみると,
「天使」との語は,本件商標の指定商品である「チョコレートを加味してなるリン
グ状の菓子及びパン」についての性状等を表すものではなく,本件商標の指定商品
との関係では自他商品の識別標識としての機能を十分に発揮し得るものであるのに
対し,「チョコリング」との語は,本願商品の指定商品の品質,原材料及び形状を
普通に用いられる方法で一般的な文字で表示したものにすぎず,自他商品の識別力
を有しないものであるから,本件商標は,「天使のチョコリング」という一連の称
呼及び観念が生じるとしても,さらにまた,その構成中の「天使」の部分としての
称呼及び観念が生じることも否定することができない。そして,このことは,原告
が,製造販売する商品に「天使のチョコリング」との名称を使用しているというこ
とのみをもって影響されるものではない。
(5)
小括
以上によると,本件商標と本件引用商標との類否判断の前提として,本件商標の
うち「天使」の文字部分のみを抽出することができ,これと同旨の本件審決の判断
に誤りはない。
したがって,取消事由1は理由がない。

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2 取消事由2(出所の混同を生ずるおそれがあるとした判断の誤り)について

(1)
商標の類否判断
商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商
品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,
それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取
引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商
品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断する
のが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小
法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


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(2)
本件商標と本件引用商標との類否

前記1のとおり,本件商標のうち「天使」の文字部分を取り出すことがで
き,本件商標からは,「天使」との観念及び「テンシ」との称呼が生ずるものであ
る。

引用商標1は,別紙引用商標目録記載1の商標の構成のとおりのものであっ
て,漢字による「天使」の文字を横書きした構成からなるものであり,引用商標1
からは,「天使」との観念及び「テンシ」との称呼が生ずるものであって,本件商
標と引用商標1とは,同一の観念及び称呼を有するものである。

引用商標2は,同目録記載2の商標の構成のとおりのものであって,平仮名
による「てんし」の文字,漢字による「天使」の文字及び片仮名による「テンシ」
の文字を上下3段に横書きした構成からなるものである。そして,その中段の「天
使」の文字部分は,その上下の「てんし」及び「テンシ」の各文字部分と比較して
格段に大きく書かれていることからすると,上下の「てんし」及び「テンシ」の記
載は,中段の「天使」の記載の読みを記載したものであって,引用商標2の構成中
の「天使」の文字部分が商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるもの
ということができ,引用商標2からは,「天使」との観念及び「テンシ」との称呼
が生ずるものであって,本件商標と引用商標2とは,同一の観念及び称呼を有する
ものである。

また,本件引用商標は,いずれも,その指定商品に第30類「菓子及びパ
ン」を含むものであって,その指定商品は,本件商標の「チョコレートを加味して
なるリング状の菓子及びパン」との指定商品を含むものである。
オ そして,本件引用商標の商標権者である被告は,日本有数の菓子・食品の製
造・販売等の会社であるところ,被告の商品には,「エンゼルパイ」との菓子があ
る(甲1,乙178∼180)ほか,これまでにも,「エンゼルスイーツ」(平成
13年ころ。乙199),「エンゼルレリーフ」(平成8年ころ。乙200),
「エンゼルパティシエ」(平成7年ころ。乙201)などの菓子類を販売してきた


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こと,被告は,明治38年以降,被告の商品に天使(エンゼル)の図柄を採用して
付記し始め,時代の変遷とともに態様を少しずつ変遷させながら,本件商標の登録
査定時に至るまで,同社のロゴマークに「エンゼルマーク」と呼ぶ天使(エンゼ
ル)を象形化した図柄を採用するとともに,多くの自社商品のパッケージに同図柄
を付記し続けてきたこと(甲1,乙62,63,65∼69),被告は,この「エ
ンゼルマーク」に係る多数の商標出願を行って,その保護に努めてきたこと(乙7
3∼153),以上の事実が認められるところ,前記1(2)のとおり,「天使」に
は「エンゼル」の意味があり,「エンゼル」が「天使」の意味を有することは,我
が国における一般的な外来語や英語の理解能力を前提にすると,指定商品の取引者
や需要者のみならず,一般人においても容易に認識し得る程度のものである。

そうすると,本件商標と本件引用商標とは,いずれも同一の称呼及び観念を
生じるものであって,さらに,日本有数の菓子・食品の製造・販売等の会社である
本件引用商標の商標権者である被告が,上記のとおり,本件商標の登録査定時に至
るまで,長年にわたり,自社のロゴマークに「天使(エンゼル)」を使用し,自社
の商品のパッケージに「エンゼルマーク」を付記してきたことなどの実情をも加
え,取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すると,本件商標
を,本件引用商標が指定商品として含む「チョコレートを加味してなるリング状の
菓子及びパン」に使用した場合に,商品の出所につき誤認混同されるおそれがある
ということができる。
(3)
小括
以上によると,本件商標は,商標法4条1項11号に該当するものということが
でき,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
したがって,取消事由2は理由がない。

結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部


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    裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣



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【商標の類否判断の対象】「基準」「事実認定」(最高裁判決引用)


「商標法4条1項11号に係る商標の類否判断に当たり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されないが,他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。」(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10335号審決取消請求事件))

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【商標の類否判断】「基準」,「事実認定」(最高裁判決引用)


「商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。」(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10335号審決取消請求事件))

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H230322現在のコメント


(知財高裁平成23年3月17日判決(平成22年(行ケ)第10335号審決取消請求事件))

いつもの基準です。基準自体は,固まっています。事実認定が重要です。

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Last Update: 2011-03-22 12:46:38 JST

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……………………………………………………判決末尾top
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